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特許7582312質量分析で得られたデータの解析装置、質量分析装置、質量分析で得られたデータの解析方法および解析プログラム
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  • 特許-質量分析で得られたデータの解析装置、質量分析装置、質量分析で得られたデータの解析方法および解析プログラム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】質量分析で得られたデータの解析装置、質量分析装置、質量分析で得られたデータの解析方法および解析プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/62 20210101AFI20241106BHJP
【FI】
G01N27/62 V
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022544893
(86)(22)【出願日】2020-08-24
(86)【国際出願番号】 JP2020031815
(87)【国際公開番号】W WO2022044072
(87)【国際公開日】2022-03-03
【審査請求日】2023-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100108523
【弁理士】
【氏名又は名称】中川 雅博
(74)【代理人】
【識別番号】100125704
【弁理士】
【氏名又は名称】坂根 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100187931
【弁理士】
【氏名又は名称】澤村 英幸
(72)【発明者】
【氏名】小倉 泰郎
【審査官】吉田 将志
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-020809(JP,A)
【文献】特開2019-088213(JP,A)
【文献】Mascot Server 2.5 取扱説明書,第11版,マトリックスサイエンス株式会社,2014年12月,PP.1-48,http://www.matrixscience.jp/pdf/jap_2.5_mserver_manual.pdf
【文献】高橋享子 他,農林61号小麦全粒粉の主要アレルゲンの同定とその低減化,日本醸造会誌,2016年,第111号第8号,PP.507-515
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/62
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質を含む試料に酵素を加えることによりアレルギー原因分子を切断処理に供した後に質量分析に供することにより検出されたペプチドを示す検出情報を取得する情報取得部と、
前記検出情報、および、各アレルゲンを前記切断処理に供した際に生成されるペプチドを示すデータに基づいて、前記試料に含まれるアレルゲンについてのアレルゲン情報を生成する情報生成部とを備え、
前記情報生成部は、前記データの1つのアレルゲンから生成される複数のペプチドが検出された場合に、前記複数のペプチドの組合せに基づいて、前記アレルゲン情報を生成し、
前記データは、ペプチドおよびアレルゲンに対応づけられた値を含み、
前記情報生成部は、前記データの前記1つのアレルゲンから生成される前記複数のペプチドが検出された場合に、前記複数のペプチドおよび前記1つのアレルゲンについての複数の前記値に基づいて、前記アレルゲン情報を生成し、
前記値は、数値であり、
前記情報生成部は、前記データの前記1つのアレルゲンから生成される前記複数のペプチドが検出された場合に、複数の前記数値から算出された算出値が、閾値に基づく条件を満たすか否かに基づいて、前記アレルゲン情報を生成し、
前記算出値は、複数の前記数値の和または重みつき和であり、
前記算出値は前記重み付き和であり、
前記重み付き和の重みは、前記複数の数値のそれぞれに対応する前記複数のペプチドの検出強度である、質量分析で得られたデータの解析装置。
【請求項2】
請求項に記載の質量分析で得られたデータの解析装置において、
前記値は、前記データにおいてペプチドが由来するアレルゲンの数に基づいて設定される、質量分析で得られたデータの解析装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の質量分析で得られたデータの解析装置において、
前記データに含まれるアレルゲンは、牛乳、鶏卵、小麦、大麦、ライ麦、カラスムギ、カラシナ、ゴマ、マカデミアナッツ、ピスタチオナッツ、ブラジルナッツ、クルミ、ラッカセイ、ヘーゼルナッツ、ソバ、エビ、カニ、オボアルブミン、リゾチーム、カゼイン、ラクトグロブリン、高分子量グルテニン、低分子量グルテニンら選択される少なくとも一つのアレルゲンである、質量分析で得られたデータの解析装置。
【請求項4】
請求項1または2に記載の質量分析で得られたデータの解析装置において、
前記データは、各アレルゲンをトリプシンおよびLys-Cの少なくとも一つによる切断処理に供した際に生成されるペプチドを示す、質量分析で得られたデータの解析装置。
【請求項5】
請求項1または2に記載の質量分析で得られたデータの解析装置において、
前記質量分析は、タンデム質量分析または液体クロマトグラフィ/タンデム質量分析である、質量分析で得られたデータの解析装置。
【請求項6】
請求項1からまでのいずれか一項に記載の質量分析で得られたデータの解析装置を備える質量分析装置。
【請求項7】
タンパク質を含む試料に酵素を加えることによりアレルギー原因分子を切断処理に供した後に質量分析に供することにより検出されたペプチドを示す検出情報を取得することと、
前記検出情報と、各アレルゲンを前記切断処理に供した際に生成されるペプチドを示すデータとに基づいて、前記試料に含まれるアレルゲンについてのアレルゲン情報を生成することとを備え、
前記データの1つのアレルゲンから生成される複数のペプチドが検出された場合に、前記複数のペプチドの組合せに基づいて、前記アレルゲン情報が生成され、
前記データは、ペプチドおよびアレルゲンに対応づけられた値を含み、
前記アレルゲン情報を生成することは、前記データの前記1つのアレルゲンから生成される前記複数のペプチドが検出された場合に、前記複数のペプチドおよび前記1つのアレルゲンについての複数の前記値に基づいて、前記アレルゲン情報を生成し、
前記値は、数値であり、
前記アレルゲン情報を生成することは、前記データの前記1つのアレルゲンから生成される前記複数のペプチドが検出された場合に、複数の前記数値から算出された算出値が、閾値に基づく条件を満たすか否かに基づいて、前記アレルゲン情報を生成し、
前記算出値は、複数の前記数値の和または重みつき和であり、
前記算出値は前記重み付き和であり、
前記重み付き和の重みは、前記複数の数値のそれぞれに対応する前記複数のペプチドの検出強度である、質量分析で得られたデータの解析方法。
【請求項8】
タンパク質を含む試料に酵素を加えることによりアレルギー原因分子を切断処理に供した後に質量分析に供することにより検出されたペプチドを示す検出情報を取得する情報取得処理と、
前記検出情報と、各アレルゲンを前記切断処理に供した際に生成されるペプチドを示すデータとに基づいて、前記試料に含まれるアレルゲンについてのアレルゲン情報を生成する情報生成処理とをコンピュータに行わせるための解析プログラムであって、
前記情報生成処理では、前記データの1つのアレルゲンから生成される複数のペプチドが検出された場合に、前記複数のペプチドの組合せに基づいて、前記アレルゲン情報が生成され、
前記データは、ペプチドおよびアレルゲンに対応づけられた値を含み、
前記情報生成処理は、前記データの前記1つのアレルゲンから生成される前記複数のペプチドが検出された場合に、前記複数のペプチドおよび前記1つのアレルゲンについての複数の前記値に基づいて、前記アレルゲン情報を生成し、
前記値は、数値であり、
前記情報生成処理は、前記データの前記1つのアレルゲンから生成される前記複数のペプチドが検出された場合に、複数の前記数値から算出された算出値が、閾値に基づく条件を満たすか否かに基づいて、前記アレルゲン情報を生成し、
前記算出値は、複数の前記数値の和または重みつき和であり、
前記算出値は前記重み付き和であり、
前記重み付き和の重みは、前記複数の数値のそれぞれに対応する前記複数のペプチドの検出強度である、解析プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、質量分析で得られたデータの解析装置、質量分析装置、質量分析で得られたデータの解析方法および解析プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
アレルギー発症の予防または、アレルギーが発症した際の原因となる物質の同定等を目的として、飲食料品または環境等からアレルゲンを検出することが行われている。特許文献1では、アレルゲンをトリプシンにより分解し、生成されたアレルゲン由来ペプチドを液体クロマトグラフィ/質量分析(Liquid Chromatography/Mass Spectrometry; LC/MS)に供することで、試料に含まれるアレルゲンを検出することが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2013/033713号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
検出されたアレルゲン由来ペプチドから、試料に含まれるアレルゲンを正確に導出することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1の態様は、試料を切断処理に供した後に質量分析に供することにより検出されたペプチドを示す検出情報を取得する情報取得部と、前記検出情報と、各アレルゲンを前記切断処理に供した際に生成されるペプチドを示すデータとに基づいて、前記試料に含まれるアレルゲンについてのアレルゲン情報を生成する情報生成部とを備え、前記情報生成部は、前記データの1つのアレルゲンから生成される複数のペプチドが検出された場合に、前記複数のペプチドの組合せに基づいて、前記アレルゲン情報を生成する、質量分析で得られたデータの解析装置に関する。
本発明の第2の態様は、第1の態様の質量分析で得られたデータの解析装置を備える質量分析装置に関する。
本発明の第3の態様は、試料を切断処理に供した後に質量分析に供することにより検出されたペプチドを示す検出情報を取得することと、前記検出情報と、各アレルゲンを前記切断処理に供した際に生成されるペプチドを示すデータとに基づいて、前記試料に含まれるアレルゲンについてのアレルゲン情報を生成することとを備え、前記データの1つのアレルゲンから生成される複数のペプチドが検出された場合に、前記複数のペプチドの組合せに基づいて、前記アレルゲン情報が生成される、質量分析で得られたデータの解析方法に関する。
本発明の第4の態様は、試料を切断処理に供した後に質量分析に供することにより検出されたペプチドを示す検出情報を取得する情報取得処理と、前記検出情報と、各アレルゲンを前記切断処理に供した際に生成されるペプチドを示すデータとに基づいて、前記試料に含まれるアレルゲンについてのアレルゲン情報を生成する情報生成処理とをコンピュータに行わせるための解析プログラムであって、前記情報生成処理では、前記データの1つのアレルゲンから生成される複数のペプチドが検出された場合に、前記複数のペプチドの組合せに基づいて、前記アレルゲン情報が生成される、解析プログラムに関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、検出されたアレルゲン由来ペプチドから、試料に含まれるアレルゲンを正確に導出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、一実施形態に係る質量分析装置の構成を示す概念図である。
図2図2は、質量分析装置の情報処理部を示す概念図である。
図3図3は、参照データを示す表である。
図4図4は、一実施形態に係る質量分析で得られたデータの解析方法の流れを示すフローチャートである。
図5図5は、プログラムの提供を説明するための概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図を参照して本発明を実施するための形態について説明する。
【0009】
-実施形態-
本実施形態では、試料を切断処理に供した後に質量分析に供し、この質量分析で検出されたペプチドから、この試料に含まれるアレルゲンについての情報を生成する。以下では、この情報をアレルゲン情報と呼ぶ。
【0010】
以下において、アレルギーの原因となる分子をアレルギー原因分子と呼び、アレルギー原因分子を含む飲食料品等の物質をアレルギー物質と呼び、アレルギー原因分子およびアレルギー物質をアレルゲンと呼ぶ。例えば、アレルギー物質である牛乳は、アレルギー原因分子としてカゼインおよびラクトグロブリンを含む。アレルギー物質である鶏卵は、アレルギー原因分子としてオボアルブミンおよびリゾチームを含む。また、ペプチドは、ペプチド結合により結合された複数のアミノ酸からなるペプチド主鎖を含み、質量分析で検出可能であれば、修飾基等を含んでいてもよい。
【0011】
(試料について)
試料は、アレルゲンを含むか、含む可能性があれば特に限定されない。試料は、例えば、アレルゲンを含むか否かが未知の飲食料品とすることができる。この場合、本実施形態に係る質量分析方法により、当該飲食料品にどのアレルゲンが含まれるかを同定することができる。アレルギーを発症した患者が摂取した飲食料品または当該患者の吐しゃ物等を試料とすれば、当該アレルギーの原因となるアレルゲンについての情報を得ることができ、治療方針の決定または研究に役立つ。あるいは、試料は、アレルゲンを含むことが既知の飲食料品とし、当該飲食料品に含まれるアレルゲンの確認等をしてもよい。質量分析によりアレルギー原因分子を検出可能であれば、試料は飲食料品以外にも、花粉、ハウスダストまたはダニ等の任意の物質を含むことができる。以下では、対象アレルゲンにタンパク質のアレルギー原因分子が含まれるものとする。
【0012】
(分析用試料の調製)
用意された試料に、タンパク質を分解する酵素が加えられ、アレルゲンが切断処理に供される。当該酵素によるアレルギー原因分子の切断により、アレルゲンに由来する複数のペプチドが生成される。切断処理に用いられる酵素は、タンパク質の切断について切断位置の特異性を有するものであれば特に限定されないが、トリプシンまたはLys-Cが好ましい。トリプシンによる切断位置はLys-Cによる切断位置を包含する。このため、トリプシンおよびLys-Cの両方を試料に加えることで、トリプシンによる切断の配列特異性でより確実にアレルゲンの分解を行うことができる。酵素的切断ではなく化学的切断により試料に含まれるアレルギー原因分子を切断してもよい。以下では、アレルゲンの切断処理により生成されるペプチドを、アレルゲン由来ペプチドと呼ぶ。
【0013】
試料を切断処理に供したら、アレルゲン由来ペプチドを含む試料から、分析用試料が調製される。分析用試料は、タンパク質の抽出等の、試料に対して行われる分析の種類に応じた前処理を行い調製することができる。
【0014】
(質量分析装置について)
図1は、本実施形態に係る質量分析装置1の構成を示す概念図である。質量分析装置1は、測定部100と、情報処理部40とを備える。測定部100は、液体クロマトグラフ(Liquid Chromatograph; LC)10と、質量分析計20とを備える。質量分析装置1は、LC/MSを行うことができる液体クロマトグラフ-質量分析計(Liquid Chromatograph-Mass Spectrometer; LC-MS)である。
なお、試料に含まれる分子の種類が多くない場合には、質量分析装置1は、LC-MSではなく、LCを含まない質量分析計としタンデム質量分析を行ってもよい。以下において、タンデム質量分析とは、2段階以上の質量分析とする。
【0015】
質量分析計20は、イオン源211を備えるイオン化部21と、真空容器200と、イオン化部21から真空容器200へイオンを導入する管212とを備える。真空容器200は、イオンガイド部22と、第1質量分離部23と、コリジョンセル24と、第2質量分離部25と、検出部30とを備える。第1質量分離部23は、第1四重極230を備える。コリジョンセル24は、イオンガイド240とガス導入口241とを備える。第質量分離部25は、第2四重極250を備える。
【0016】
調製された分析用試料はLC10に導入される。LC10は、導入された分析用試料に含まれる各成分を液体クロマトグラフィにより分離し、異なる保持時間で溶出させる。LC10は、質量分析において所望の精度でアレルゲン由来ペプチドを検出できるように、各アレルゲン由来ペプチドを分離することができれば特に種類は限定されない。LC10として、ナノLC、マイクロLC、高速液体クロマトグラフ(High Performance Liquid Chromatograph; HPLC)または超高速液体クロマトグラフ(Ultra High Performance Liquid Chromatograph; UHPLC)等を用いることができる。LC10から溶出されたアレルゲン由来ペプチドを含む溶出試料は、質量分析計20のイオン化部21に導入される(矢印A1)。
【0017】
質量分析計20は、LC10から導入されたアレルゲン由来ペプチドを含む溶出試料に対してタンデム質量分析を行う。本実施形態では質量分析計20はトリプル四重極質量分析計であり、多重反応モニタリング(Multiple Reaction Monitoring; MRM)により試料由来イオンSの検出を行う。質量分析計20は、溶出試料をイオン化して試料由来イオンSを生成し、試料由来イオンSを質量分離し、質量分離された試料由来イオンSを解離してプロダクトイオンを生成し、生成されたプロダクトイオンを質量分離して検出する。以下では、試料由来イオンSの解離により生成されたプロダクトイオンも試料由来イオンSに含まれるものとする。
【0018】
質量分析計20のイオン化部21は、イオン化部21に導入されたアレルゲン由来ペプチドを含む溶出試料をイオン化する。イオン化の方法は、所望の精度でプロダクトイオンが検出される程度にイオン化が起きれば特に限定されないが、エレクトロスプレー法(Electrospray Ionization; ESI)が好ましく、以下の実施形態でもESIを行うものとして説明する。イオン源211はESI用のイオン源である。イオン化部21により生成された試料由来イオンSは、イオン化部21と真空容器200の圧力差または不図示の電極に印加された電圧の作用等により移動し、管212を通過してイオンガイド部22に入射する。図1では、試料由来イオンSの経路を、一点鎖線の矢印A2により模式的に示した。
【0019】
イオンガイド部22は、段階的に圧力を低下させた不図示の真空室に適宜配置された四重極またはリング状電極等を備える。圧力は、第1質量分離部23の配置される真空室において10-2Pa程度とすることができる。イオンガイド部22は、試料由来イオンSの流れを電磁気学的作用により収束させて第1質量分離部23へ出射する。
【0020】
第1質量分離部23は、第1四重極230に印加される電圧に基づく電磁気学的作用により、設定されたm/zを有するイオンをプリカーサイオンとして選択的に通過させてコリジョンセル24に向けて出射する。以下では、質量電荷比としてm/zを適宜用いるが、イオンの質量と電荷との比を示す値であれば特に限定されない。第1質量分離部23は、イオン化されたアレルゲン由来ペプチドに対応するm/zを有するプリカーサイオンを選択的に通過させる。
【0021】
コリジョンセル24は、四重極を含むイオンガイド240により試料由来イオンSの移動を制御しながら、衝突誘起解離(Collision-Induced Dissociation; CID)によりプリカーサイオンを解離させ、プロダクトイオンを生成する。CIDの際にプリカーサイオンが衝突させられる分子を含むガス(以下、CIDガスと呼ぶ)は、コリジョンセル内で所定の圧力になるようにガス導入口241から導入される(矢印A3)。CIDガスの種類は、所望の効率でCIDを起こすことができれば特に限定されないが、アルゴンまたは窒素等の不活性ガスが好ましい。生成されたプロダクトイオンは、第2質量分離部25に向けて出射される。
なお、解離の方法はCIDに特に限定されず、電子捕獲解離または電子移動解離等の任意の方法により解離を行うことができる。
【0022】
第2質量分離部25は、第2四重極250に印加される電圧に基づく電磁気学的作用により、設定されたm/zを有するプロダクトイオンを選択的に通過させて検出部30に向けて出射する。
なお、第2質量分離部25は適宜第2四重極250を含むリニアイオントラップとして構成されていてもよい。
【0023】
検出部30は、二次電子増倍管または光電子増倍管等のイオン検出器を備え、入射したプロダクトイオンを検出する。プロダクトイオンを検出して得た検出信号は不図示のアナログ/デジタル(Analog/Digital; A/D)変換器によりA/D変換され、デジタル信号となって情報処理部40に入力され、記憶部43に記憶される(矢印A4)。以下では、検出部30が試料由来イオンSを検出して得た検出信号に基づくデータを測定データと呼ぶ。
【0024】
情報処理部40は、電子計算機等の情報処理装置を備える。情報処理部40は、適宜質量分析装置1のユーザー(以下、単にユーザーと呼ぶ)とのインターフェースとなる他、測定部100の制御および、様々なデータに関する通信、記憶、演算等の処理を行う。情報処理部40は、質量分析計20の質量分析で得られたデータの解析装置となる。
なお、情報処理部40は、LC10または質量分析計20と一体になった一つの装置として構成してもよい。また、参照データ等の本実施形態に用いるデータの一部は遠隔のサーバ等に保存してもよい。
【0025】
図2は、情報処理部40の構成を示す概念図である。情報処理部40は、入力部41と、通信部42と、記憶部43と、出力部44と、制御部50とを備える。制御部50は、装置制御部51と、データ処理部52と、出力制御部53とを備える。データ処理部52は、設定部521と、情報取得部522と、情報生成部523とを備える。
【0026】
情報処理部40の入力部41は、マウス、キーボード、各種ボタンまたはタッチパネル等の入力装置を含んで構成される。入力部41は、測定部100の動作の制御に必要な情報、および制御部50の行う処理に必要な情報等を、ユーザーから受け付ける。
【0027】
情報処理部40の通信部42は、インターネット等のネットワークを介して無線または有線の接続により通信可能な通信装置を含んで構成される。通信部42は、適宜必要なデータを送受信する。
【0028】
情報処理部40の記憶部43は、不揮発性の記憶媒体を含んで構成される。記憶部43は、分析条件、測定データ、および制御部50が処理を実行するためのプログラム等を記憶する。記憶部43には、参照データが記憶されている。
【0029】
図3は、参照データを模式的に示す表Aを示す図である。参照データでは、アレルゲン由来ペプチドおよびアレルゲンに対応付けられた数値が示されている。表Aでは、この対応を、各アレルゲン項目P1に対応する列と、各ペプチド項目P2に対応する行とで示される要素に当該数値を記載することで示した。この数値をスコアと呼ぶ。スコアは、検出されたアレルゲン由来ペプチドから、試料に各アレルゲンが含まれるか否かを導出するための計算に用いられる。表Aの例では、スコアが高い程、アレルゲン由来ペプチドを検出した際に、当該アレルゲン由来ペプチドが由来するアレルゲンが試料に含まれる可能性が高くなるように、スコアは設定されている。
【0030】
表Aのアレルゲン項目P1はアレルゲンを示す項目であり、アレルゲン項目P1には「小麦」、「大麦」および「ライ麦」等の各アレルゲンの名称が示されている。ペプチド項目P2はアレルゲン由来ペプチドを示す項目であり、ペプチド項目P2には「MRM1」、「MRM2」および「MRM3」等の各アレルゲン由来ペプチドに対応するラベルが示されている。スコア項目P3には、数値によりスコアが示されている。
【0031】
参照データは、各アレルゲンを切断処理に供した際に生成されるアレルゲン由来ペプチドを示すデータである。参照データは、トリプシンまたはLys-C等、切断処理の種類ごとに用意される。表Aの例では、スコアは0~50までの値をとるものとする。空欄はスコアが0であり、アレルゲンの切断処理によりアレルゲン由来ペプチドが生成されないことに対応する。この場合、アレルゲン由来ペプチドの検出が試料におけるアレルゲンの有無と無関係となる。0を超えるスコアは、アレルゲンの切断処理によりアレルゲン由来ペプチドが生成されることに対応する。言い換えれば、0を超えるスコアは、当該アレルゲン由来ペプチドが当該アレルゲンに由来することに対応する。この場合、分析用試料の質量分析において当該アレルゲン由来ペプチドが検出されると、当該アレルゲンが試料に含まれる可能性がある。
【0032】
例えば、表Aをトリプシンにより切断処理を行う場合の参照データとする。また、表AのMRM4に対応するアレルゲン由来ペプチドが、トリプシン処理に供した試料の質量分析で検出されたとする。この場合、MRM4に対応するアレルゲン由来ペプチドは、大麦またはライ麦のトリプシン処理により生成されるため、試料には大麦またはライ麦が含まれている可能性がある。一方、MRM4に対応するアレルゲン由来ペプチドの検出は、試料に小麦が含まれている可能性に影響を与えるものではない。なぜなら、小麦のトリプシン処理ではMRM4に対応するアレルゲン由来ペプチドは生成されないため、試料における小麦の有無は、MRM4に対応するアレルゲン由来ペプチドの検出に影響を与えないからである。
【0033】
参照データにおけるスコアは、参照データにおいてアレルゲン由来ペプチドが由来するアレルゲンの数等に基づいて適宜設定することができる。例えば、MRM2に対応するアレルゲン由来ペプチドが小麦、大麦またはライ麦以外のアレルゲンに由来しないとする。MRM2に対応するアレルゲン由来ペプチドが検出された場合、小麦、大麦またはライ麦の少なくともいずれかが試料に含まれていることは確定できる。しかし、MRM2に対応するアレルゲン由来ペプチドが検出されても、検出されたアレルゲン由来ペプチドは全て大麦またはライ麦由来かもしれず、試料に小麦が含まれていることは確定できない。試料に大麦またはライ麦が含まれていることも同様に確定できない。
【0034】
一方、MRM3に対応するアレルゲン由来ペプチドが小麦以外のアレルゲンに由来しないとする。MRM3に対応するアレルゲン由来ペプチドは、切断処理により小麦から特異的に生成されるため、MRM3に対応するアレルゲン由来ペプチドが検出されたら、MRM2が検出された場合よりも高い確率で、試料に小麦が含まれていると推定できる。参照データにおける1種類のアレルゲンに由来するアレルゲン由来ペプチドについてのスコアを第1スコアとする。参照データにおける複数のアレルゲンに由来するアレルゲン由来ペプチドについてのスコアを第2スコアとする。このとき、第1スコアの方が、第2スコアよりも、当該アレルゲン由来ペプチドが検出された場合の試料にアレルゲンが含まれる可能性への寄与が高くなるように設定することができる。
【0035】
参照データのスコアは、アレルゲン由来ペプチドの、切断処理における各アレルゲンからの生成しやすさに基づいて設定することもできる。例えば、あるアレルゲン由来ペプチドがアミノ酸配列によると大麦またはライ麦から生成され得る場合でも、大麦では切断処理において生成される可能性がきわめて低いとする。この場合、当該アレルゲン由来ペプチドが検出されたら、ライ麦が試料に含まれる可能性が、大麦が試料に含まれる可能性よりも高くなるようにスコアを設定することができる。
【0036】
なお、スコアに設定される数値は特に限定されず、後述するアレルゲン情報の生成のアルゴリズムに基づいて適宜設定することができる。例えば、スコアの数値範囲は0~1、0~100等、任意に設定することができる。また、検出されたアレルゲン由来ペプチドを示す情報から、各アレルゲンについての値を参照することができれば、参照データの形式等は特に限定されない。例えば図3に対応する二次元配列等の形式で参照データを格納することができる。ペプチド項目P2は、アレルゲン由来ペプチドを質量分離するためのトランジション(後述)の名称または識別番号としてもよい。アレルゲン由来ペプチドとトランジションが対応するため、トランジションによりアレルゲン由来ペプチドを特定して示すことができるからである。
【0037】
本実施形態における参照データに含まれるアレルゲンは、アレルギー物質でもアレルギー原因分子でもよい。アレルギー物質としては、牛乳、鶏卵、小麦、大麦、ライ麦、カラスムギ、カラシナ、ゴマ、マカデミアナッツ、ピスタチオナッツ、ブラジルナッツ、クルミ、ラッカセイおよびヘーゼルナッツを参照データに含むことができる。これらに含まれるアレルギー原因分子として、オボアルブミン、リゾチーム、カゼイン、ラクトグロブリン、高分子量グルテニン、低分子量グルテニン、コムギタンパク質、ライムギタンパク質、カラスムギタンパク質、オオムギタンパク質、カラシナタンパク質、ゴマタンパク質、マカダミアナッツタンパク質、ピスタチオナッツタンパク質、ブラジルナッツタンパク質、クルミタンパク質、ラッカセイタンパク質およびヘーゼルナッツタンパク質を参照データに含むことができる。これらのアレルギー原因分子は、特許文献1に記載のトランジションにより測定することができる。この他にも、特定の切断処理により生成されるペプチドを検出するためのトランジション等に応じて、ソバ、エビまたはカニ等、参照データには様々なアレルゲンを含めることができる。
【0038】
図2に戻って、情報処理部40の出力部44は、液晶モニタ等の表示装置またはプリンター等を含んで構成され、測定部100の測定に関する情報または、データ処理部52の処理により得られた情報等を、表示装置に表示したり、紙媒体に印刷したりする。
【0039】
情報処理部40の制御部50は、中央処理装置(Central Processing Unit; CPU)等のプロセッサ、およびメモリ等の記憶媒体を含んで構成され、質量分析装置1を制御する動作の主体として機能する。制御部50は、試料に含まれるアレルゲンについての情報(アレルゲン情報)を生成する処理等を行う処理装置となる。制御部50は、記憶部43等に記憶されたプログラムをメモリに保持し、プロセッサがそのプログラムを実行することにより各種処理を行う。
なお、本実施形態に係る制御部50による処理が可能であれば、制御部50の物理的な構成等は特に限定されない。
【0040】
制御部50の装置制御部51は、ユーザーの入力等により設定された分析条件を満たすように、測定部100の各部の動作を制御する。装置制御部51は、検出するアレルゲン由来ペプチドを設定する。装置制御部51は、参照データに示される全てのアレルゲン由来ペプチドの質量分析を実行するように設定してもよいし、ユーザーの選択等により、一部のアレルゲン由来ペプチドの質量分析を実行するように設定してもよい。試料に含まれるアレルゲンのスクリーニング検査を行う場合には、参照データに含まれる各アレルゲン由来ペプチドを網羅的に検出することが好ましい。
【0041】
装置制御部51は、予め記憶部43等に記憶された情報に基づいて、検出するアレルゲン由来ペプチドを設定してもよい。例えば、記憶部43には、国若しくは地域ごとのアレルゲンの違い、国若しくは地域ごとのアレルゲンを摂取するまたはアレルゲンに接触する人間等の反応性の違い、または、国若しくは地域ごとの規制の違い等により、検出するアレルゲン由来ペプチドの複数のセットが記憶される。装置制御部51は、ユーザーの入力により選択されたセットに含まれるアレルゲン由来ペプチド、または、ユーザーの登録した国若しくは地域等に対応するセットに含まれるアレルゲン由来ペプチドを、検出するアレルゲン由来ペプチドとして設定することができる。
【0042】
装置制御部51は、参照データで示されるアレルゲン由来ペプチドに対応付けられた、当該アレルゲン由来ペプチドを検出するためのトランジションを取得する。トランジションとは、タンデム質量分析で特定のイオンを検出する際の、プリカーサイオンのm/zとプロダクトイオンのm/zの組を指す。トランジションは参照データのアレルゲン項目P1に紐づけられて記憶部43等に予め記憶されていることが好ましい。装置制御部51は、各トランジションに含まれるm/zを有するイオンを通過させるように第1質量分離部23および第2質量分離部25を制御する。
【0043】
制御部50のデータ処理部52は、質量分析で得られた測定データの解析処理を行う。
【0044】
データ処理部52の設定部521は、アレルゲン情報を生成する対象となるアレルゲンを設定する。アレルゲン情報は、試料に含まれるアレルゲンについての情報であり、試料に各アレルゲンが含まれるか否かについての情報とすることができる。アレルゲン情報を生成する対象のアレルゲンは、検出対象のアレルゲンである。例えば、アレルゲン情報は、試料に各アレルゲンが含まれるか否かを二値、文字若しくは文章等により示す情報または、試料に各アレルゲンが含まれる可能性を数値、文字若しくは文章等により示す情報等を含むことができる。以下では、アレルゲン情報を生成する対象となるアレルゲンを対象アレルゲンと呼ぶ。
【0045】
設定部521は、参照データに示される全てのアレルゲンを対象アレルゲンとして設定してもよいし、ユーザーの選択等により、一部のアレルゲンを対象アレルゲンとして設定してもよい。例えば、試料に含まれるアレルゲンのスクリーニング検査を行う場合には、参照データに含まれる各アレルゲンを網羅的に対象アレルゲンとして設定することが好ましい。
【0046】
設定部521は、予め記憶部43等に記憶された情報に基づいて、対象アレルゲンを設定してもよい。例えば、記憶部43には、上述したような国または地域ごとの違い等により、対象アレルゲンの複数のセットが記憶される。設定部521は、ユーザーの入力により選択されたセットに含まれるアレルゲン、または、ユーザーの登録した国若しくは地域等に対応するセットに含まれるアレルゲンを、対象アレルゲンとして設定することができる。
【0047】
データ処理部52の情報取得部522は、検出情報を取得する。検出情報は、試料を上述の切断処理に供した後に質量分析に供することにより検出されたアレルゲン由来ペプチドを示す情報である。検出情報は、検出されたアレルゲン由来ペプチドが示されれば、その表現方法は特に限定されない。例えば、参照データのアレルゲン由来ペプチドに紐づけられた識別番号等により検出されたアレルゲン由来ペプチドを示すことができる。
【0048】
情報取得部522は、測定データから、各アレルゲン由来ペプチドの検出信号の大きさを示す値である検出強度を取得する。検出強度は、各アレルゲン由来ペプチドのトランジションによる質量分離を行っている間の検出信号の強度の積算値とすることができる。情報取得部522は、各アレルゲン由来ペプチドの検出強度が所定の閾値に基づく条件を満たすか否かにより、各アレルゲン由来ペプチドが検出されたか否かを判定する。この閾値を、第1閾値と呼ぶ。第1閾値は、例えばノイズの大きさ等に基づいて設定されてもよいし、予め記憶部43に記憶された値を用いてもよい。例えば、アレルゲン由来ペプチドの検出強度が第1閾値以上である場合、情報取得部522は、当該アレルゲン由来ペプチドが質量分析により検出されたと判定する。
【0049】
情報取得部522は、質量分析の対象とした全てのアレルゲン由来ペプチドについて、当該アレルゲン由来ペプチドが検出されたか否かの判定を行う。情報取得部522は、検出されたアレルゲン由来ペプチドを示す検出情報を生成する。
なお、情報処理部40を質量分析装置1に含まれないデータ処理装置として構成してもよい。この場合、情報取得部522は、通信部42等を介して取得した測定データを解析して検出情報を生成して取得してもよいし、通信部42等を介して検出情報を取得してもよい。
【0050】
データ処理部52の情報生成部523は、検出情報と、参照データとに基づいてアレルゲン情報を生成する。情報生成部523は、対象アレルゲンについて、当該対象アレルゲンに由来する検出された複数のアレルゲン由来ペプチドのスコアの総和を算出する。この総和を総スコアと呼ぶ。情報生成部523は、この総スコアが所定の閾値に基づく条件を満たすか否かより、各対象アレルゲンが試料に含まれるか否かを判定する。この所定の閾値を、第2閾値と呼ぶ。第2閾値は、参照データのスコアに基づいて適宜設定され、予め記憶部43等に記憶されている。
なお、対象アレルゲンについて、検出されたアレルゲン由来ペプチドが1つの場合は、当該アレルゲン由来ペプチドのスコアを総スコアとすればよい。
【0051】
例えば、対象アレルゲンの総スコアが第2閾値以上である場合、情報取得部522は、当該対象アレルゲンが試料に含まれると判定する。より具体的な例として、図3の参照データにおけるMRM2、MRM10およびMRM12に対応するアレルゲン由来ペプチドを質量分析により測定し、これらの3つのアレルゲン由来ペプチドが検出されたとする。第2閾値を50とする。対象アレルゲンを小麦とすると、小麦についての総スコアは、15+14+24=53であり、第2閾値以上の値となる。この場合、情報取得部522は、試料に小麦が含まれると判定する。他の例として、MRM1およびMRM2に対応するアレルゲン由来ペプチドを質量分析により測定し、これらの2つのアレルゲン由来ペプチドが検出されたとする。第2閾値を50とする。対象アレルゲンを小麦とすると、小麦についての総スコアは、40+15=55であり、第2閾値以上の値となる。この場合、情報取得部522は、試料に小麦が含まれると判定する。
なお、スコアは、数値の代わりに、A、BおよびC等の記号で示してもよく、その場合はAが2つ以上、Aが1つでBが2つ以上といったような条件を第2閾値の代わりに用いることができる。以下では、「値」は、スコアを示す数値および記号等の文字を含む。
【0052】
これらの例では、小麦に特異的に検出されるペプチドではないMRM2、MRM10およびMRM12のアレルゲン由来ペプチドを検出して得られた情報も用いて判定を行っている。このように、本実施形態の解析方法では、複数のアレルゲンに由来するアレルゲン由来ペプチドの検出を、対象アレルゲンが試料に含まれるか否かの判定に反映させ、より正確な試料に含まれるアレルゲンの解析を行うことができる。また、情報生成部523は、参照データの1つのアレルゲンから生成される複数のアレルゲン由来ペプチドが検出された場合に、検出された複数のアレルゲン由来ペプチドの組合せに基づいて、アレルゲン情報を生成する。これは複数のアレルゲン由来ペプチドおよび対象アレルゲンについての複数のスコアを用いて、複数のアレルゲン由来ペプチドの検出による情報を統合して対象アレルゲンが試料に含まれるか否かを判定する構成によりなされる。
【0053】
情報生成部523は、設定された各対象アレルゲンについて、総スコアを算出して総スコアと第2閾値との比較により、各対象アレルゲンが試料に含まれるか否かの判定を行う。情報生成部523は、試料に含まれると判定されたアレルゲンを示すアレルゲン情報を生成する。
【0054】
アレルゲン情報は、各アレルゲンが試料に含まれているか否かについての情報が示されていれば、その態様は特に限定されない。例えば、アレルゲン情報では、対象アレルゲンごとに、二値により試料に含まれるか否かを示すことができる。アレルゲン情報では、試料に含まれる対象アレルゲンを識別番号により示してもよい。あるいは、アレルゲン情報では、文章または図形により試料に含まれる対象アレルゲンを示してもよい。アレルゲン情報では、試料に対象アレルゲンが含まれる可能性または確率を示してもよい。例えば、アレルゲン情報では、総スコアに基づいて試料に含まれる可能性が高い順にリスト等で複数の対象アレルゲンを示したり、総スコアまたは総スコアに基づく数値若しくは記号により試料に含まれる可能性を示すことができる。この数値または記号は、ユーザーに分かりやすいよう、上記可能性の程度に基づいて高、中、低で示す等、任意に設定することができる。
【0055】
出力制御部53は、出力部44を制御し、分析条件またはデータ処理部52の解析で得られた情報を表示装置に表示したりして出力する。出力制御部53は、アレルゲン情報を示す画像を出力することによりアレルゲン情報をユーザーに提示する。
【0056】
図4は、本実施形態に係る質量分析で得られたデータの解析方法を含む質量分析方法の流れを示すフローチャートである。図4の各ステップは、質量分析装置1の制御部50により好適に実行される。ステップS1001において、装置制御部51は、切断処理に供された後の試料を質量分析する。ステップS1001が終了したら、ステップS1003が開始される。
【0057】
ステップS1003において、情報取得部522は、検出情報を生成して取得する。ステップS1003が終了したら、ステップS1005が開始される。ステップS1005において、情報生成部523は、アレルゲン情報を生成する。ステップS1005が終了したら、ステップS1007が開始される。ステップS1007において、出力制御部53は、出力部44を制御して、アレルゲン情報を出力する。ステップS1007が終了したら、処理が終了される。
【0058】
次のような変形も本発明の範囲内であり、上述の実施形態と組み合わせることが可能である。以下の変形例において、上述の実施形態と同様の構造、機能を示す部位に関しては、同一の符号で参照し、適宜説明を省略する。
【0059】
(変形例1)
上述の実施形態では、検出されたアレルゲン由来ペプチドのスコアの和を用いて対象アレルゲンが試料に含まれるか否かを判定した。しかし、情報生成部523は、検出されたアレルゲン由来ペプチドのスコアの重み付き和を用いて対象アレルゲンのアレルゲン情報を生成してもよい。情報生成部523は、重み付き和が第2閾値以上か否かにより、対象アレルゲンが試料に含まれるか否かを判定することができる。重み付き和を用いる場合、検出されたアレルゲン由来ペプチドの検出強度を重みとすることが好ましい。検出強度が高いアレルゲン由来ぺプチドほど、より確実に検出されたと考えられるため、検出強度が高いアレルゲン由来ペプチドの重みを大きくすることにより、さらに正確に試料に含まれるアレルゲンを導出することができる。
【0060】
(変形例2)
質量分析装置1の情報処理機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録された、上述したデータ処理部52の処理およびそれに関連する処理の制御に関するプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行させてもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OS(Operating System)や周辺機器のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、光ディスク、メモリカード等の可搬型記録媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスクまたはソリッドステートドライブ(Solid State Drive; SSD)等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持するものを含んでもよい。また上記のプログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよく、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせにより実現するものであってもよい。
【0061】
また、パーソナルコンピュータ(以下、PCと記載)等に適用する場合、上述した制御に関するプログラムは、CD-ROM等の記録媒体やインターネット等のデータ信号を通じて提供することができる。図5はその様子を示す図である。PC950は、CD-ROM953を介してプログラムの提供を受ける。また、PC950は通信回線951との接続機能を有する。コンピュータ952は上記プログラムを提供するサーバーコンピュータであり、ハードディスク等の記録媒体にプログラムを格納する。通信回線951は、インターネット、パソコン通信などの通信回線、あるいは専用通信回線などである。コンピュータ952はハードディスクを使用してプログラムを読み出し、通信回線951を介してプログラムをPC950に送信する。すなわち、プログラムをデータ信号として搬送波により搬送して、通信回線951を介して送信する。このように、プログラムは、記録媒体や搬送波などの種々の形態のコンピュータ読み込み可能なコンピュータプログラム製品として供給できる。
【0062】
(態様)
上述した複数の例示的な実施形態またはその変形は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0063】
(第1項)一態様に係る質量分析で得られたデータの解析装置は、試料を切断処理に供した後に質量分析に供することにより検出されたペプチドを示す検出情報を取得する情報取得部と、前記検出情報、および各アレルゲンを前記切断処理に供した際に生成されるペプチドを示すデータ(参照データ)に基づいて、前記試料に含まれるアレルゲンについてのアレルゲン情報を生成する情報生成部とを備え、前記情報生成部は、前記データの1つのアレルゲンから生成される複数のペプチドが検出された場合に、前記複数のペプチドの組合せに基づいて、前記アレルゲン情報を生成する。これにより、検出されたアレルゲン由来ペプチドから、試料に含まれるアレルゲンを正確に導出することができる。
【0064】
(第2項)他の一態様に係る質量分析で得られたデータの解析装置では、第1項の態様の質量分析で得られたデータの解析装置において、前記データは、ペプチドおよびアレルゲンに対応づけられた値を含み、前記情報生成部は、前記データの前記1つのアレルゲンから生成される前記複数のペプチドが検出された場合に、前記複数のペプチドおよび前記1つのアレルゲンについての複数の前記値に基づいて、前記アレルゲン情報を生成する。これにより、値を適宜設定することにより、試料に含まれるアレルゲンをより正確に導出することができる。
【0065】
(第3項)他の一態様に係る質量分析で得られたデータの解析装置では、第2項の態様の質量分析で得られたデータの解析装置において、前記値は、前記データにおいてペプチドが由来するアレルゲンの数に基づいて設定される。これにより、複数のアレルゲンに由来するアレルゲン由来ペプチドについての情報を反映し、試料に含まれるアレルゲンをより正確に導出することができる。
【0066】
(第4項)他の一態様に係る質量分析で得られたデータの解析装置では、第2項または第3項の態様の質量分析で得られたデータの解析装置において、前記値は、数値であり、前記情報生成部は、前記データの前記1つのアレルゲンから生成される前記複数のペプチドが検出された場合に、複数の前記数値から算出された算出値が、閾値に基づく条件を満たすか否かに基づいて、前記アレルゲン情報を生成する。これにより、数値と閾値を適宜設定することにより、試料に含まれるアレルゲンをより正確に導出することができる。
【0067】
(第5項)他の一態様に係る質量分析で得られたデータの解析装置では、第4項の態様の質量分析で得られたデータの解析装置において、前記算出値は、複数の前記数値の和または重み付き和である。これにより、1つの対象アレルゲンに由来する複数のアレルゲン由来ペプチドの検出の情報を統合することができ、試料に含まれるアレルゲンをより正確に導出することができる。
【0068】
(第6項)他の一態様に係る質量分析で得られたデータの解析装置では、第5項の態様の質量分析で得られたデータの解析装置において、前記算出値は前記重み付き和であり、前記重み付き和の重みは、前記複数の数値のそれぞれに対応する前記複数のペプチドの検出強度である。これにより、検出強度に基づいて、試料に含まれるアレルゲンをさらに正確に導出することができる。
【0069】
(第7項)他の一態様に係る質量分析で得られたデータの解析装置では、第1項から第6項までのいずれかの態様の質量分析で得られたデータの解析装置において、前記データに含まれるアレルゲンは、牛乳、鶏卵、小麦、大麦、ライ麦、カラスムギ、カラシナ、ゴマ、マカデミアナッツ、ピスタチオナッツ、ブラジルナッツ、クルミ、ラッカセイ、ヘーゼルナッツ、ソバ、エビ、カニ、オボアルブミン、リゾチーム、カゼイン、ラクトグロブリン、高分子量グルテニン、低分子量グルテニンら選択される少なくとも一つのアレルゲンである。これにより、試料に含まれるこれらのアレルゲンを正確に導出することができる。
【0070】
(第8項)他の一態様に係る質量分析で得られたデータの解析装置では、第1項から第7項までのいずれかの態様の質量分析で得られたデータの解析装置において、前記データは、各アレルゲンをトリプシンおよびLys-Cの少なくとも一つによる切断処理に供した際に生成されるペプチドを示す。これにより、過去に行われたトリプシンまたはLys-Cによる切断処理の結果を参考にする等して、試料に含まれるアレルゲンをより正確に導出することができる。
【0071】
(第9項)他の一態様に係る質量分析で得られたデータの解析装置では、第1項から第8項までのいずれかの態様の質量分析で得られたデータの解析装置において、前記質量分析は、タンデム質量分析または液体クロマトグラフィ/タンデム質量分析である。これにより、2段階以上の分離により、精度よくアレルゲン由来ペプチドを検出することができる。
【0072】
(第10項)一態様に係る質量分析装置は、第1項から第9項までのいずれかの態様の質量分析で得られたデータの解析装置を備える。これにより、アレルゲン由来ペプチドを検出し、試料に含まれるアレルゲンを正確に導出することができる。
【0073】
(第11項)一態様に係る質量分析方法は、試料を切断処理に供した後に質量分析に供することにより検出されたペプチドを示す検出情報を取得することと、前記検出情報と、各アレルゲンを前記切断処理に供した際に生成されるペプチドを示すデータ(参照データ)とに基づいて、前記試料に含まれるアレルゲンについてのアレルゲン情報を生成することとを備え、前記データの1つのアレルゲンから生成される複数のペプチドが検出された場合に、前記複数のペプチドの組合せに基づいて、前記アレルゲン情報が生成される。これにより、検出されたアレルゲン由来ペプチドから、試料に含まれるアレルゲンを正確に導出することができる。
【0074】
(第12項)一態様に係る解析プログラムは、試料を切断処理に供した後に質量分析に供することにより検出されたペプチドを示す検出情報を取得する情報取得処理(図4のフローチャートのステップS1003に対応)と、前記検出情報と、各アレルゲンを前記切断処理に供した際に生成されるペプチドを示すデータ(参照データ)とに基づいて、前記試料に含まれるアレルゲンについてのアレルゲン情報を生成する情報生成処理(ステップS1005に対応)とをコンピュータに行わせるための解析プログラムであって、前記情報生成処理では、前記データの1つのアレルゲンから生成される複数のペプチドが検出された場合に、前記複数のペプチドの組合せに基づいて、前記アレルゲン情報が生成される、解析プログラムである。これにより、検出されたアレルゲン由来ペプチドから、試料に含まれるアレルゲンを正確に導出することができる。
【0075】
本発明は上記実施形態の内容に限定されるものではない。本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も本発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0076】
1…質量分析装置、10…LC、20…質量分析計、21…イオン化部、22…イオンガイド部、23…第1質量分離部、24…コリジョンセル、25…第2質量分離部、30…検出部、40…情報処理部、43…記憶部、44…出力部、50…制御部、51…装置制御部、52…データ処理部、53…出力制御部、100…測定部、521…設定部、522…情報取得部、523…情報生成部、P1…アレルゲン項目、P2…ペプチド項目、P3…スコア項目、S…試料由来イオン。
図1
図2
図3
図4
図5