(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】弾性波装置
(51)【国際特許分類】
H03H 9/25 20060101AFI20241106BHJP
【FI】
H03H9/25 C
(21)【出願番号】P 2022546332
(86)(22)【出願日】2021-08-31
(86)【国際出願番号】 JP2021031896
(87)【国際公開番号】W WO2022050260
(87)【国際公開日】2022-03-10
【審査請求日】2023-02-02
(31)【優先権主張番号】P 2020148279
(32)【優先日】2020-09-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】弁理士法人大阪フロント特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大門 克也
【審査官】石田 昌敏
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-048379(JP,A)
【文献】特開2002-026687(JP,A)
【文献】特開2019-220794(JP,A)
【文献】特表2012-530388(JP,A)
【文献】特開2013-214954(JP,A)
【文献】特開平05-090889(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H 9/145-9/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持基板と、
前記支持基板上に設けられた圧電膜と、
前記圧電膜上に設けられたIDT電極と、
を備え、
前記圧電膜の膜厚が、前記IDT電極の電極指の周期で定まる弾性波の波長をλとしたときに、1λ以下とされており、
前記圧電膜が、前記圧電膜の厚み方向において、第1の領域と、第2の領域とを有し、
前記第1の領域における密度を第1の密度、前記第2の領域における密度を第2の密度とした場合、前記第1の密度と前記第2の密度とが異なっており、
前記圧電膜が、タンタル酸リチウムからなる、弾性波装置。
【請求項2】
支持基板と、
前記支持基板上に設けられた圧電膜と、
前記圧電膜上に設けられたIDT電極と、
を備え、
前記圧電膜の膜厚が、前記IDT電極の電極指の周期で定まる弾性波の波長をλとしたときに、1λ以下とされており、
前記圧電膜が、前記圧電膜の厚み方向において、第1の領域と、第2の領域とを有し、
前記第1の領域における密度を第1の密度、前記第2の領域における密度を第2の密度とした場合、前記第1の密度と前記第2の密度とが異なっており、
前記第1の密度及び前記第2の密度の一方が、7.454×10
3(kg/m
3)よりも高い、弾性波装置。
【請求項3】
支持基板と、
前記支持基板上に設けられた圧電膜と、
前記圧電膜上に設けられたIDT電極と、
を備え、
前記圧電膜の膜厚が、前記IDT電極の電極指の周期で定まる弾性波の波長をλとしたときに、1λ以下とされており、
前記圧電膜が、前記圧電膜の厚み方向において、第1の領域と、第2の領域とを有し、
前記第1の領域における密度を第1の密度、前記第2の領域における密度を第2の密度とした場合、前記第1の密度と前記第2の密度とが異なっており、
前記圧電膜が、ニオブ酸リチウムからなる、弾性波装置。
【請求項4】
支持基板と、
前記支持基板上に設けられた圧電膜と、
前記圧電膜上に設けられたIDT電極と、
を備え、
前記圧電膜の膜厚が、前記IDT電極の電極指の周期で定まる弾性波の波長をλとしたときに、1λ以下とされており、
前記圧電膜が、第1の圧電膜と、前記第1の圧電膜と直接または間接に積層された第2の圧電膜と、
を有し、
前記第1の圧電膜と前記第2の圧電膜とが、同じ系の圧電材料からなり、
前記第1の圧電膜の密度を第1の密度、前記第2の圧電膜の密度を第2の密度とした場合、前記第1の密度と前記第2の密度とが異なっており、
前記第1または前記第2の圧電膜が、相対的に密度が高い高密度領域と、相対的に密度が低い低密度領域とを有し、前記高密度領域と前記低密度領域とが前記第1または前記第2の圧電膜の厚み方向に沿って位置している、弾性波装置。
【請求項5】
支持基板と、
前記支持基板上に設けられた圧電膜と、
前記圧電膜上に設けられたIDT電極と、
を備え、
前記圧電膜の膜厚が、前記IDT電極の電極指の周期で定まる弾性波の波長をλとしたときに、1λ以下とされており、
前記圧電膜が、第1の圧電膜と、前記第1の圧電膜と直接または間接に積層された第2の圧電膜と、
を有し、
前記第1の圧電膜と前記第2の圧電膜とが、同じ系の圧電材料からなり、
前記第1の圧電膜の密度を第1の密度、前記第2の圧電膜の密度を第2の密度とした場合、前記第1の密度と前記第2の密度とが異なっており、
前記圧電膜が、タンタル酸リチウムからなる、弾性波装置。
【請求項6】
支持基板と、
前記支持基板上に設けられた圧電膜と、
前記圧電膜上に設けられたIDT電極と、
を備え、
前記圧電膜の膜厚が、前記IDT電極の電極指の周期で定まる弾性波の波長をλとしたときに、1λ以下とされており、
前記圧電膜が、第1の圧電膜と、前記第1の圧電膜と直接または間接に積層された第2の圧電膜と、
を有し、
前記第1の圧電膜と前記第2の圧電膜とが、同じ系の圧電材料からなり、
前記第1の圧電膜の密度を第1の密度、前記第2の圧電膜の密度を第2の密度とした場合、前記第1の密度と前記第2の密度とが異なっており、
前記第1の密度及び前記第2の密度の一方が、7.454×10
3(kg/m
3)よりも高い、弾性波装置。
【請求項7】
支持基板と、
前記支持基板上に設けられた圧電膜と、
前記圧電膜上に設けられたIDT電極と、
を備え、
前記圧電膜の膜厚が、前記IDT電極の電極指の周期で定まる弾性波の波長をλとしたときに、1λ以下とされており、
前記圧電膜が、第1の圧電膜と、前記第1の圧電膜と直接または間接に積層された第2の圧電膜と、
を有し、
前記第1の圧電膜と前記第2の圧電膜とが、同じ系の圧電材料からなり、
前記第1の圧電膜の密度を第1の密度、前記第2の圧電膜の密度を第2の密度とした場合、前記第1の密度と前記第2の密度とが異なっており、
前記圧電膜が、ニオブ酸リチウムからなる、弾性波装置。
【請求項8】
前記第2の領域が前記第1の領域よりも前記IDT電極側に位置しており
、
前記第1の密度が、前記第2の密度よりも低い、請求項1~
3のいずれか1項に記載の弾性波装置。
【請求項9】
前記第2の圧電膜は、前記第1の圧電膜よりも前記IDT電極側に位置しており、
前記第1の密度が、前記第2の密度よりも低い、請求項4~7のいずれか1項に記載の弾性波装置。
【請求項10】
前記第2の領域が前記第1の領域よりも前記IDT電極側に位置しており
、
前記第2の密度が、前記第1の密度よりも低い、請求項1~
3のいずれか1項に記載の弾性波装置。
【請求項11】
前記第2の圧電膜は、前記第1の圧電膜よりも前記IDT電極側に位置しており、
前記第2の密度が、前記第1の密度よりも低い、請求項4~7のいずれか1項に記載の弾性波装置。
【請求項12】
前記第2の圧電膜は、前記第1の圧電膜よりも前記IDT電極側に位置しており、
前記第1の圧電膜の膜厚が、前記第2の圧電膜の膜厚よりも厚い、請求項4~7のいずれか1項に記載の弾性波装置。
【請求項13】
前記第1または前記第2の圧電膜が、相対的に密度が高い高密度領域と、相対的に密度が低い低密度領域とを有し、前記高密度領域と前記低密度領域とが前記第1または前記第2の圧電膜の厚み方向に沿って位置している、請求項5~7のいずれか1項に記載の弾性波装置。
【請求項14】
前記第2の圧電膜は、前記第1の圧電膜よりも前記IDT電極側に位置しており、
前記第1の圧電膜の膜厚が、前記第2の圧電膜の膜厚よりも厚く、
前記第1または前記第2の圧電膜が、相対的に密度が高い高密度領域と、相対的に密度が低い低密度領域とを有し、前記高密度領域と前記低密度領域とが前記第1または前記第2の圧電膜の厚み方向に沿って位置している、請求項5~
7のいずれか1項に記載の弾性波装置。
【請求項15】
前記圧電膜が、タンタル酸リチウムからなる、請求項2,4及び6のいずれか1項に記載の弾性波装置。
【請求項16】
前記第1の密度及び前記第2の密度の一方が、7.454×10
3(kg/m
3)よりも低い、請求項1,3~5及び7のいずれか1項に記載の弾性波装置。
【請求項17】
前記第1の密度及び前記第2の密度の一方が、7.454×10
3(kg/m
3)よりも高い、請求項1,3~5及び7のいずれか1項に記載の弾性波装置。
【請求項18】
前記圧電膜が、ニオブ酸リチウムからなる、請求項2,4及び6のいずれか1項に記載の弾性波装置。
【請求項19】
前記支持基板と、前記圧電膜との間に積層されており、前記圧電膜を伝搬する弾性波の音速よりも、伝搬するバルク波の音速が高い高音速材料からなる高音速材料層と、
前記高音速材料層と、前記圧電膜との間に積層されており、前記圧電膜を伝搬するバルク波の音速よりも、伝搬するバルク波の音速が低い低音速材料からなる低音速材料層と、をさらに備える、請求項1~
18のいずれか1項に記載の弾性波装置。
【請求項20】
前記高音速材料が、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、窒化ケイ素及びDLCからなる群から選択された少なくとも一種の材料であり、
前記低音速材料が酸化ケイ素である、請求項
19に記載の弾性波装置。
【請求項21】
前記支持基板と、前記高音速材料層とが、前記高音速材料からなる一体の高音速支持基板である、請求項
19または
20に記載の弾性波装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性波共振子や弾性波フィルタに用いられる、弾性波装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下記の特許文献1には、LiTaO3からなる圧電膜を有する弾性波装置が開示されている。この弾性波装置では、高音速支持基板上に、低音速膜及び圧電膜が積層されている。圧電膜上にIDT電極が設けられている。上記構造において、IDT電極の電極周期で定まる波長をλとしたときに、圧電膜の膜厚が、0.05λ~0.5λの範囲とされている。それによって、Q値を高めることができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の弾性波装置のように、弾性表面波を利用しており、かつ圧電膜の膜厚が比較的薄い場合、帯域外にスプリアスが生じることがあった。この弾性波装置を帯域通過型の弾性波フィルタに用いた場合、フィルタ特性が劣化することがあった。
【0005】
本発明の目的は、帯域外スプリアスを抑制し得る弾性波装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願の第1の発明は、支持基板と、前記支持基板上に設けられた圧電膜と、前記圧電膜上に設けられたIDT電極と、を備え、前記圧電膜の膜厚が、前記IDT電極の電極指の周期で定まる弾性波の波長をλとしたときに、1λ以下とされており、前記圧電膜が、前記圧電膜の厚み方向において、第1の領域と、第2の領域とを有し、前記第1の領域における密度を第1の密度、前記第2の領域における密度を第2の密度とした場合、前記第1の密度と前記第2の密度とが異なっている、弾性波装置である。
【0007】
本願の第2の発明は、支持基板と、前記支持基板上に設けられた圧電膜と、前記圧電膜上に設けられたIDT電極と、を備え、前記圧電膜の膜厚が、前記IDT電極の電極指の周期で定まる弾性波の波長をλとしたときに、1λ以下とされており、前記圧電膜が、第1の圧電膜と、前記第1の圧電膜と直接または間接に積層された第2の圧電膜と、を有し、前記第1の圧電膜と前記第2の圧電膜とが、同じ系の圧電材料からなり、前記第1の圧電膜の密度を第1の密度、前記第2の圧電膜の密度を第2の密度とした場合、前記第1の密度と前記第2の密度とが異なっている、弾性波装置である。
【発明の効果】
【0008】
第1,第2の発明(以下、本発明と総称する)によれば、帯域外スプリアスを抑制し得る弾性波装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1(a)及び
図1(b)は、本発明の第1の実施形態に係る弾性波装置の正面断面図及び電極構造を示す模式的平面図である。
【
図2】
図2は、第1の実施形態に係る弾性波装置における、IDT電極の電極指ピッチPと、波長λを説明するための平面図である。
【
図3】
図3は、第1の実施形態に係る弾性波装置の圧電膜の構造を説明するための正面断面図である。
【
図4】
図4は、実施例1及び比較例1の位相-周波数特性を示す図である。
【
図5】
図5は、実施例2及び比較例1の位相-周波数特性を示す図である。
【
図6】
図6は、実施例3及び比較例1の位相-周波数特性を示す図である。
【
図7】
図7は、
図6の楕円Aで示された部分を拡大して示す位相-周波数特性を示す図である。
【
図8】
図8は、実施例4及び比較例1の位相-周波数特性を示す図である。
【
図9】
図9は、
図8の楕円Bで示された部分を拡大して示す位相-周波数特性を示す図である。
【
図10】
図10は、第1の領域の厚みと、高次モードの位相との関係を示す図である。
【
図11】
図11は、第2の実施形態に係る弾性波装置における圧電膜の正面断面図である。
【
図12】
図12は、第3の実施形態に係る弾性波装置における圧電膜の正面断面図である。
【
図13】
図13は、本発明の弾性波装置の変形例を説明するための正面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しつつ、本発明の具体的な実施形態を説明することにより、本発明を明らかにする。
【0011】
なお、本明細書に記載の各実施形態は、例示的なものであり、異なる実施形態間において、構成の部分的な置換または組み合わせが可能であることを指摘しておく。
【0012】
図1(a)は、本発明の第1の実施形態に係る弾性波装置の正面断面図であり、
図1(b)はその電極構造を示す模式的平面図である。
【0013】
弾性波装置1は、支持基板2を有する。支持基板2上に、高音速材料層3、低音速材料層4及び圧電膜5がこの順序で積層されている。すなわち、支持基板2上に間接的に圧電膜5が設けられている。圧電膜5上に、IDT電極6及び反射器7,8が設けられている。なお、圧電膜5、IDT電極6及び反射器7,8を覆うように、酸化ケイ素などからなる保護膜が設けられてもよい。
【0014】
図1(b)に示すように、反射器7,8が、IDT電極6の弾性波伝搬方向両側に設けられている。それによって、1ポート型の弾性波共振子である弾性表面波装置が構成されている。IDT電極6では、複数本の第1の電極指6aと、複数本の第2の電極指6bとが間挿し合っている。
図2に示すように、第1の電極指6aと第2の電極指6bとの中心間距離が、電極指ピッチPである。そして、この第1,第2の電極指6a,6bの配置周期により定まる弾性波の波長λは、λ=2Pとなる。
【0015】
支持基板2は、シリコンやアルミナ、水晶などの適宜の絶縁性材料あるいは半導体材料からなる。
【0016】
高音速材料層3は、伝搬するバルク波の音速が、圧電膜5を伝搬する弾性波の音速よりも高い高音速材料からなる。高音速材料としては、特に限定されないが、シリコン、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素、サファイア、タンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウム、水晶、アルミナ、ジルコニア、コ-ジライト、ムライト、ステアタイト、フォルステライト、マグネシア、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)膜またはダイヤモンド、上記材料を主成分とする材料が挙げられる。また、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、窒化ケイ素及びDLCからなる群から選択された少なくとも一種が好適に用いられる。
【0017】
低音速材料層4は、伝搬するバルク波の音速が、圧電膜5を伝搬するバルク波の音速よりも低い低音速材料からなる。低音速材料としては、特に限定されないが、酸化ケイ素、酸窒化ケイ素、酸化タンタルもしくはガラス、または酸化ケイ素にフッ素、炭素もしくはホウ素を加えた化合物などが挙げられる。また、上記低音速材料は、上記各材料を主成分とするものであってもよい。
【0018】
本実施形態では、高音速材料層3は窒化ケイ素からなり、低音速材料層4は酸化ケイ素からなる。
【0019】
圧電膜5は、LiTaO3からなる。もっとも、圧電膜5は、タンタル酸リチウム以外の圧電材料、例えばニオブ酸リチウムからなるものであってもよい。
【0020】
IDT電極6及び反射器7,8は適宜の金属もしくは合金からなる。IDT電極6及び反射器7,8は、複数の金属膜の積層体により構成されていてもよい。
【0021】
弾性波装置1の特徴は、
図1(a)及び
図3に示すように、圧電膜5が、厚み方向において、第1の領域5aと、第2の領域5bとを有することにある。第2の領域5bがIDT電極6側に位置している。
【0022】
第1の領域5aと第2の領域5bとは、密度が異なる。すなわち、第1の領域5aの密度を第1の密度、第2の領域5bの密度を第2の密度とした場合、第1の密度と第2の密度とが異なっている。密度が異なる第1の領域5a及び第2の領域5bは、例えば、圧電膜5に水素イオンなどをイオン注入することにより、イオン注入された領域の密度を調整することにより形成することができる。あるいは、第1の領域5aを成膜した後に、第2の領域5bを成膜してもよい。この成膜条件を異ならせることにより、第1の密度と第2の密度とを異ならせることができる。本実施形態では、第1の密度が第2の密度よりも高くされている。
【0023】
なお、圧電膜5の第1,第2の領域5a,5bの密度は、X線を利用して得られる格子間マップから、格子間の距離の変化により得る方法や、圧電膜5の断面の写真から、色が薄いすなわち密度が低い部分の割合を求め、単結晶の写真と対比することにより求めることができる。
【0024】
弾性波装置1では、上記密度の異なる第1,第2の領域5a,5bを有するため、帯域外スプリアスを低減することができる。これは、相対的に密度が低い第2の領域5bによって、高次モードが漏洩モードとなり、帯域外スプリアスを低減することによると考えられる。なお、相対的に密度が高い第1の領域5aの存在により、共振周波数の2.2倍付近に生じるスプリアスが分割される。そのため、スプリアスの個々の強度を弱めることができ、それによっても、帯域外スプリアスを低減することができる。
【0025】
また、第1の領域5a及び第2の領域5bの一方が、例えば、圧電単結晶の理論密度であることが好ましい。例えば、LiTaO3単結晶の場合、理論密度は7.454×103(kg/m3)である。この場合、IDT電極6が設けられる第2の領域5bが、この理論密度であることが望ましい。その場合には、良好な圧電特性が得られる。
【0026】
もっとも、第1の領域5aの密度及び第2の領域5bの密度は、いずれもが、理論密度よりも高くてもよく、低くてもよい。
【0027】
上記弾性波装置1の効果を、以下の実施例1~4を説明することにより明らかにする。
【0028】
実施例1を以下の設計パラメータにより構成した。
【0029】
支持基板2:(111)面のシリコン基板、ψ=46°
高音速材料層3:SiN膜、膜厚は300nm
低音速材料層4:SiO2膜、膜厚は300nm
圧電膜5:55°YカットのLiTaO3。第1の領域5aの膜厚=200nm、第2の領域5bの膜厚=200nm
第1の領域5aの密度=7.454×103(kg/m3)、なお、この値は、LiTaO3の理論密度に等しい。
第2の領域5bの密度=第1の領域5aの密度の0.8倍とした。従って、第1の密度>第2の密度である。
IDT電極6及び反射器7,8:圧電膜5側から厚み12nmのTi膜、100nm膜のAlCu膜及び厚み4nmのTi膜の積層体。
保護膜として、厚み35nmの酸化ケイ素膜を、IDT電極6及び反射器7,8を覆うように設けた。
IDT電極6の電極指ピッチPで定まる波長λ=2μm、デューティは0.5とした。
【0030】
比較のために、厚み400nmの密度7.454×103(kg/m3)のLiTaO3膜を用いたことを除いては、実施例1と同様にして比較例1の弾性波装置を構成した。
【0031】
図4は、上記実施例1及び比較例1の弾性波装置の位相-周波数特性を示す。実線が実施例1の結果を示し、破線が比較例1の結果を示す。
【0032】
上記実施例1及び比較例1の弾性波装置では、共振周波数と反共振周波数との間の帯域が2000MHz付近に存在する。そして、比較例1では、高次モードに起因すると思われる帯域外スプリアスが、4600MHz付近において大きく現れている。一方、実施例1では、この大きなスプリアスが抑圧されていることがわかる。これは、圧電膜5が、上記密度の異なる第1,第2の領域5a,5bを有することにより、高次モードが漏洩モードとして逃がされたためと考えられる。
【0033】
(実施例2)
実施例2として、以下の設計パラメータの弾性波装置を構成した。
【0034】
支持基板2:(111)面のシリコン基板、ψ=46°
高音速材料層3:SiN膜、膜厚は300nm
低音速材料層4:SiO2膜、膜厚は300nm
圧電膜5:55°YカットのLiTaO3。第1の領域5aの膜厚=200nm、第2の領域5bの膜厚=200nm
第1の領域5aの密度=第2の領域5bの密度の0.8倍とした。
第2の領域5bの密度=7.454×103(kg/m3)
IDT電極6及び反射器7,8:圧電膜5側から厚み12nmのTi膜、100nm膜のAlCu膜及び厚み4nmのTi膜の積層体。
保護膜として、厚み35nmの酸化ケイ素膜を、IDT電極6及び反射器7,8を覆うように設けた。
IDT電極6の電極指ピッチPで定まる波長λ=2μm、デューティは0.5とした。
【0035】
実施例2では、第2の領域5bの密度を7.454×103(kg/m3)とし、第1の領域5aの密度を、第2の領域5bの密度の0.8倍とした。従って、第1の密度<第2の密度である。その他の構成は、実施例2は実施例1と同様とした。
【0036】
図5は、実施例2及び比較例1の位相-周波数特性を示す。破線が比較例1の結果を、実線が実施例2の結果を示す。
【0037】
図5から明らかなように、実施例2においても、4600MHz付近における高次モードによると考えられるスプリアスを効果的に抑圧することが可能とされている。
【0038】
(実施例3)
圧電膜5において、第2の領域5bの第2の密度を第1の領域5aの第1の密度の1.1倍とした。その他の構成は実施例1と同様として実施例3の弾性波装置を構成した。従って、実施例3では、第1の密度<第2の密度となる。
【0039】
図6は、実施例3及び比較例1の位相-周波数特性を示す図である。また、
図7は、
図6の楕円Aで示す部分を拡大して示す位相-周波数特性図である。破線が比較例1の結果を、実線が実施例3の結果を示す。
【0040】
図6及び
図7から明らかなように、4500MHz~4600MHz付近において、比較例1では大きなスプリアスが現れているのに対し、実施例3では2つのスプリアスに分割されているため、最も大きなスプリアスの強度が比較例1に比べて小さくなっていることがわかる。従って、実施例3においても、比較例1に比べて帯域外スプリアスを抑制し得ることがわかる。
【0041】
(実施例4)
第2の領域5bの密度を7.454×103(kg/m3)とし、第1の領域5aの密度を、第2の領域5bの密度の1.1倍とした。すなわち、第1の密度>第2の密度である。
【0042】
その他の構造は、実施例1と同様として、実施例4の弾性波装置を構成した。
【0043】
図8は、実施例4及び比較例1の位相-周波数特性を示し、
図9は、
図8の楕円Bで示す部分を拡大して示す位相-周波数特性図である。
【0044】
図8及び
図9から明らかなように、実施例4においても、4400MHz~4600MHz付近に現れる高次モードによるとみられるスプリアスが、2つに分割し、その強度が小さくなっている。従って、比較例1に比べ、高次モードによる帯域外スプリアスを効果的に抑制し得ることがわかる。
【0045】
上記実施例1~実施例4の結果から明らかなように、弾性波装置1では、圧電膜5が、密度が異なる第1の領域5aと、第2の領域5bとを有することにより、高次モードによるとみられる帯域外スプリアスを抑制することができる。
【0046】
(実施例5)
実施例5においては、第1の領域5aの密度である第1の密度を7.454×103(kg/m3)とし、第2の領域5bの密度である第2の密度を、第1の密度の0.8倍とした。そして、第1の領域5aと第2の領域5bの合計厚みを0.2λ=0.4μmとし、第1の領域5aの厚みを0.05μm~0.35μmの範囲で、0.05μm刻みで変化させた。その他の構成は、実施例1と同様にして、上記第1の領域5aの厚みが異なる複数の弾性波装置を構成した。
【0047】
図10は、上記実施例5において、第1の領域5aの厚みと、得られた弾性波装置における高次モードの位相との関係を示す図である。
【0048】
図10から明らかなように、第1の領域5aの厚みが厚くなると、高次モードのスプリアスが小さくなっていくことがわかる。好ましくは第1の領域5aの厚みが0.2μm以上すなわち、0.1λ以上であり、その場合、高次モードをより効果的に抑制することができる。
【0049】
図11は、第2の実施形態に係る弾性波装置における圧電膜5を示す正面断面図である。第2の実施形態では、圧電膜5は、第1の圧電膜5Aと第2の圧電膜5Bとを有する。このように、本発明においては、圧電膜5は、密度が異なる第1,第2の領域5a,5bを有するものに限らず、第1の圧電膜5A及び第2の圧電膜5Bが積層されている構造を有していてもよい。この場合においても、第1の圧電膜5Aの密度が第1の密度であり、第2の圧電膜5Bの密度が第2の密度である。そして、第2の圧電膜5Bは、IDT電極側に位置する。
【0050】
なお、第1の圧電膜5A及び第2の圧電膜5Bにおいては、両者は同じ系の圧電材料からなる。ここで、同じ系の圧電材料とは、例えば圧電単結晶と、該圧電単結晶に不純物を添加もしくはドープした材料などの組み合わせが考えられる。より具体的に一例を挙げると、タンタル酸リチウムに不純物をドープした材料により第1の圧電膜5Aを構成し、第2の圧電膜5Bとしてタンタル酸リチウムを用いた例が挙げられる。
【0051】
図12は、第3の実施形態に係る弾性波装置における圧電膜5を説明するための正面断面図である。第3の実施形態では、圧電膜5は、第1の圧電膜5Aと、第2の圧電膜5Bとを有する。そして、第1の圧電膜5Aは、第1の部分5A1と、第1の部分5A1上に積層された第2の部分5A2とを有する。第1の部分5A1が、相対的に密度が低い低密度領域であり、第2の部分5A2が相対的に第1の部分5A1よりも密度が高い高密度領域である。すなわち、高密度領域である第2の部分5A2と、低密度領域である第1の部分5A1とが第1の圧電膜5Aの厚み方向に沿って配置されている。このように、第1の圧電膜5Aが、密度が異なる複数の領域を有するものであってもよい。このような構造は、例えば、第1の部分5A1を成膜した後に、一方面からイオン注入することにより第2の部分5A2を設けることにより得ることができる。もっとも、このような密度が異なる第1,第2の部分5A1,5A2の形成方法は特に限定されない。
【0052】
さらに、
図12では、第1の圧電膜5Aが、密度が異なる部分5A1,5A2を有していたが、第2の圧電膜5B側を密度が異なる複数の部分を有するように設けてもよい。さらに、第1の圧電膜5A及び第2の圧電膜5Bの双方に、密度が異なる複数の部分を設けてもよい。さらに、密度が異なる部分の数は3以上であってもよい。
【0053】
また、圧電膜5は、第1の圧電膜と第2の圧電膜との積層体に限らず、第1の圧電膜と第2の圧電膜以外に、第3の圧電膜が積層されている構造を有していてもよい。
【0054】
図1では、支持基板2と圧電膜5との間に、高音速材料層3及び低音速材料層4が積層されていたが、
図13に示す変形例のように、高音速支持基板2Aと圧電膜5との間に低音速材料層4が積層されている構造であってもよい。高音速支持基板2Aは、前述した高音速材料からなる。すなわち、
図1に示す支持基板2と、高音速材料層3を高音速材料により一体化してもよい。
【符号の説明】
【0055】
1…弾性波装置
2…支持基板
2A…高音速支持基板
3…高音速材料層
4…低音速材料層
5…圧電膜
5a,5b…第1,第2の領域
5A,5B…第1,第2の圧電膜
5A1,5A2…第1,第2の部分
6…IDT電極
6a,6b…第1,第2の電極指
7,8…反射器