IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本電気株式会社の特許一覧

特許7582318推定装置、推定システム、推定方法、およびプログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】推定装置、推定システム、推定方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/11 20060101AFI20241106BHJP
   A61B 5/107 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
A61B5/11 230
A61B5/107 130
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022553405
(86)(22)【出願日】2020-10-02
(86)【国際出願番号】 JP2020037607
(87)【国際公開番号】W WO2022070416
(87)【国際公開日】2022-04-07
【審査請求日】2023-03-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109313
【弁理士】
【氏名又は名称】机 昌彦
(74)【代理人】
【識別番号】100149618
【弁理士】
【氏名又は名称】北嶋 啓至
(72)【発明者】
【氏名】黄 晨暉
(72)【発明者】
【氏名】福司 謙一郎
(72)【発明者】
【氏名】オウ シンイ
(72)【発明者】
【氏名】梶谷 浩司
(72)【発明者】
【氏名】二瓶 史行
(72)【発明者】
【氏名】中原 謙太郎
【審査官】▲高▼木 尚哉
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0100801(US,A1)
【文献】特開2018-011890(JP,A)
【文献】国際公開第2018/164157(WO,A1)
【文献】MACWILLIAMS Bruce A. et al.,"A simple expression of supination and pronation",Conference: Gait and Clinical Movement Analysis Society,2012年01月31日,インターネット<URL: https://www.researchgate.net/profile/Bruce_MacWilliams/publication/281274184_Poster_A_simple_expression_of_supination_and_pronation/links/55ddf7e608aeaa26af0f1f90/Poster-A-simple-expression-of-supination-and-pronation.pdf>
【文献】MENZ Hylton B. et al.,"Association of Planus Foot Posture and Pronated Foot Function With Foot Pain: The Framingham Foot S,Arthritis Care & Research,2013年12月31日,Vol. 65, No. 12,pp. 1991-1999
【文献】BROWN Larry P. et al.,"Locomotor Biomechanics and Pathomechanics: A Review",Journal of orthopaedic and sports physical therapy,1987年07月01日,Vol. 9, No. 1,pp. 3-10
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/06-5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
足弓の裏側に設置されたセンサによって計測された足の動きに関する物理量に基づくセンサデータの時系列データから立脚終期の期間を検出する検出手段と、
前記立脚終期の期間における冠状面内の角度波形から特徴量を抽出する特徴量抽出手段と、
前記冠状面内の角度波形から抽出された前記特徴量を用いて、足の回内/回外の度合を推定する推測手段と、を備える推定装置。
【請求項2】
前記推測手段は、
前記冠状面内の角度波形から抽出された前記特徴量を入力した際に足の回内/回外の度合に関する推定結果を出力する推測モデルに、前記冠状面内の角度波形から抽出された前記特徴量を入力して、足の回内/回外の度合に関する前記推定結果を出力する請求項1に記載の推定装置。
【請求項3】
前記推測手段は、
前記冠状面内の角度波形から抽出された前記特徴量を説明変数とし、圧力センサによって計測された足圧分布から求められた足圧中心軌跡指標とを目的変数とするデータセットを学習させた前記推測モデルを用いて、足の回内/回外の度合に関する前記推定結果を推定する請求項2に記載の推定装置。
【請求項4】
前記推測手段は、
前記足圧中心軌跡指標の値に応じて、足の回内/回外、および正常のうちいずれかであることを示す前記推定結果を出力する請求項3に記載の推定装置。
【請求項5】
前記推測手段は、
前記足圧中心軌跡指標の値が20以上ならば、回外であるという前記推定結果を出力し、
前記足圧中心軌跡指標の値が9以上20未満ならば、正常であるという前記推定結果を出力し、
前記足圧中心軌跡指標の値が9未満ならば、回内であるという前記推定結果を出力する請求項4に記載の推定装置。
【請求項6】
前記検出手段は、
前記センサデータの時系列データから、踵接地を起点とする一歩行周期分の歩行波形を抽出し、抽出した前記歩行波形の30~50パーセントの期間を前記立脚終期の期間として検出する請求項1乃至5のいずれか一項に記載の推定装置。
【請求項7】
前記検出手段は、
前記センサデータの時系列データから、踵持ち上がりおよび反対足踵接地のタイミングを検出し、前記踵持ち上がりのタイミングから前記反対足踵接地のタイミングまでの期間を前記立脚終期の期間として検出する請求項1乃至5のいずれか一項に記載の推定装置。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか一項に記載の推定装置と、
空間加速度および空間角速度を計測し、計測した前記空間加速度および前記空間角速度に基づくセンサデータを生成し、生成した前記センサデータを前記推定装置に送信するデータ取得装置と、を備える推定システム。
【請求項9】
コンピュータが、
足弓の裏側に設置されたセンサによって計測された足の動きに関する物理量に基づくセンサデータの時系列データから立脚終期の期間を検出し、
前記立脚終期の期間における冠状面内の角度波形から特徴量を抽出し、
前記冠状面内の角度波形から抽出された前記特徴量を用いて、足の回内/回外の度合を推定する推定方法。
【請求項10】
足弓の裏側に設置されたセンサによって計測された足の動きに関する物理量に基づくセンサデータの時系列データから立脚終期の期間を検出する処理と、
前記立脚終期の期間における冠状面内の角度波形から特徴量を抽出する処理と、
前記冠状面内の角度波形から抽出された前記特徴量を用いて、足の回内/回外の度合を推定する処理と、をコンピュータに実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、足の状態を推定する推定装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
体調管理を行うヘルスケアへの関心の高まりから、歩行の特徴を含む歩容を計測し、その歩容に応じた情報をユーザに提供するサービスが注目されている。例えば、靴等の履物に荷重計測装置や慣性計測装置を実装し、ユーザの歩容を解析する装置が開発されている。歩容に基づいて足の状態を推定できれば、足に異常がみられた際に適切な対策を講じることができる。例えば、足の回内や回外の度合を推定できれば、症状の進行を軽減するための対策を行うことができる。
【0003】
特許文献1には、足の裏が接触する部材と、当該部材の所定位置に作用する力を計測するセンサと、センサからの出力に基づいて異常の有無を判定する制御装置とを有する足部異常解析装置について開示されている。特許文献1の装置は、足の重心点、重心線、アーチ、足の骨軸を決定し、決定された足の重心点、重心線、アーチ、足の骨軸を正常なデータと比較して異常の有無を判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-094305号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の手法では、足の回内/回外の度合を計測するために、重心点、重心線、アーチ、足の骨軸を決定する複数の圧力センサによって計測されたデータを用いる。そのため、特許文献1の手法には、足の異常の有無を判定するために多くのセンサが必要であり、構成が複雑になるという問題点があった。
【0006】
本開示の目的は、簡易な構成で足の回内/回外の度合を推定できる推定装置等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様の推定装置は、足部に設置されたセンサによって計測された足の動きに関する物理量に基づくセンサデータの時系列データから立脚終期の期間を検出する検出部と、立脚終期の期間における冠状面内の角度波形から特徴量を抽出する特徴量抽出部と、冠状面内の角度波形から抽出された特徴量を用いて、足の回内/回外の度合を推定する推測部と、を備える。
【0008】
本開示の一態様の推定方法においては、コンピュータが、足部に設置されたセンサによって計測された足の動きに関する物理量に基づくセンサデータの時系列データから立脚終期の期間を検出し、立脚終期の期間における冠状面内の角度波形から特徴量を抽出し、冠状面内の角度波形から抽出された特徴量を用いて、足の回内/回外の度合を推定する。
【0009】
本開示の一態様のプログラムは、足部に設置されたセンサによって計測された足の動きに関する物理量に基づくセンサデータの時系列データから立脚終期の期間を検出する処理と、立脚終期の期間における冠状面内の角度波形から特徴量を抽出する処理と、冠状面内の角度波形から抽出された特徴量を用いて、足の回内/回外の度合を推定する処理と、をコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、簡易な構成で足の回内/回外の度合を推定できる推定装置等を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第1の実施形態に係る推定システムの構成の一例を示すブロック図である。
図2】第1の実施形態に係る推定システムのデータ取得装置を履物の中に配置する一例を示す概念図である。
図3】第1の実施形態に係る推定システムのデータ取得装置に設定されるローカル座標系と世界座標系の関係について説明するための概念図である。
図4】第1の実施形態に係る推定システムの推定装置が検出する歩行イベントについて説明するための概念図である。
図5】足の回内/回外について説明するための概念図である。
図6】足圧分布から導出される足圧中心軌跡指標(CPEI:Center of Pressure Excursion Index)について説明するための概念図である。
図7】足の回内/回外の進行に応じたCPEIの違いについて説明するための概念図である。
図8】第1の実施形態に係る推定システムの推定装置が足の回内/回外の度合を推定するために用いる特徴量が抽出される、右足の一歩行周期分のピッチ角の時系列データのグラフの一例である。
図9】足圧中心軌跡と歩行周期の対応関係について説明するための概念図である。
図10】第1の実施形態に係る推定システムの推定装置が用いる推測モデルの学習の一例を示す概念図である。
図11】第1の実施形態に係る推定システムの推定装置による足の回内/回外の度合の推定の一例を示す概念図である。
図12】第1の実施形態に係る推定システムのデータ取得装置の構成の一例を示すブロック図である。
図13】第1の実施形態に係る推定システムの推定装置の構成の一例を示すブロック図である。
図14】第1の実施形態に係る推定システムの推定装置の動作の一例について説明するためのフローチャートである。
図15】第1の実施形態に係る推定システムのデータ取得装置と感圧シートを履物の中に配置する一例を示す概念図である。
図16】第1の実施形態に係る推定システムのデータ取得装置によって計測されたセンサデータに基づくピッチ角の歩行波形から抽出された特徴量と、感圧センサによって計測された圧力分布に基づいて算出されたCPEI(真値)とを対応付けたグラフである。
図17】第1の実施形態の推定システムの推定装置によって推定されたCPEI(推定値)と、感圧センサによって計測された圧力分布に基づいて算出されたCPEI(真値)とを対応付けたグラフである。
図18】第1の実施形態に係る推定システムの推定装置によって推測された足の回内/回外の度合に関する推定結果に基づく情報を携帯端末の表示部に表示させる一例を示す概念図である。
図19】第1の実施形態に係る推定システムの推定装置によって推測された足の回内/回外の度合に関する推定結果に基づく情報を携帯端末の表示部に表示させる別の一例を示す概念図である。
図20】第1の実施形態に係る推定システムの推定装置によって推測された足の回内/回外の度合に関する推定結果に基づくデータをデータセンターに送信する一例を示す概念図である。
図21】第1の実施形態に係る推定システムの推定装置によって推測された足の回内/回外の度合に関する推定結果に基づくデータがデータベース化されたテーブルの一例を示す概念図である。
図22】第2の実施形態に係る推定装置の構成の一例を示すブロック図である。
図23】各実施形態に係る推定装置を実現するハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明を実施するための形態について図面を用いて説明する。ただし、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい限定がされているが、発明の範囲を以下に限定するものではない。なお、以下の実施形態の説明に用いる全図においては、特に理由がない限り、同様箇所には同一符号を付す。また、以下の実施形態において、同様の構成・動作に関しては繰り返しの説明を省略する場合がある。
【0013】
(第1の実施形態)
本開示に係る第1の実施形態の推定システムについて図面を参照しながら説明する。本実施形態の推定システムは、ユーザの歩行パターンに含まれる特徴(歩容とも呼ぶ)を計測し、計測された歩容を解析することによって、足の状態を推定する。具体的には、本実施形態の推定システムは、足の動きに関するセンサデータに基づいて、足の回内/回外の度合を推定する。本実施形態においては、右足を基準の足とし、左足を反対足とする系について説明する。本実施形態の手法は、左足を基準の足とし、右足を反対足とする系についても適用できる。
【0014】
(構成)
図1は、本実施形態の推定システム1の構成を示すブロック図である。推定システム1は、データ取得装置11および推定装置12を備える。データ取得装置11と推定装置12は、有線で接続されてもよいし、無線で接続されてもよい。また、データ取得装置11と推定装置12は、単一の装置で構成してもよい。また、推定システム1の構成からデータ取得装置11を除き、推定装置12だけで推定システム1を構成してもよい。
【0015】
データ取得装置11は、足部に設置される。例えば、データ取得装置11は、靴等の履物に設置される。本実施形態では、足弓の裏側の位置にデータ取得装置11を配置する例について説明する。データ取得装置11は、加速度センサおよび角速度センサを含む。データ取得装置11は、履物を履くユーザの足の動きに関する物理量として、加速度センサによって計測される加速度(空間加速度とも呼ぶ)や、角速度センサによって計測される角速度(空間角速度とも呼ぶ)などの物理量を計測する。データ取得装置11が計測する足の動きに関する物理量には、加速度や角速度に加えて、加速度や角速度を積分することによって計算される速度や角度も含まれる。データ取得装置11は、計測された物理量をデジタルデータ(センサデータとも呼ぶ)に変換する。データ取得装置11は、変換後のセンサデータを推定装置12に送信する。例えば、データ取得装置11は、ユーザが携帯する携帯端末(図示しない)を介して、推定装置12に接続される。
【0016】
携帯端末(図示しない)は、ユーザによって携帯可能な通信機器である。例えば、携帯端末は、スマートフォンや、スマートウォッチ、携帯電話等の通信機能を有する携帯型の通信機器である。携帯端末は、ユーザの足の動きに関するセンサデータをデータ取得装置11から受信する。携帯端末は、受信されたセンサデータを、推定装置12が実装されたサーバ等に送信する。なお、推定装置12の機能は、携帯端末にインストールされたアプリケーションソフトウェア等によって実現されていてもよい。その場合、携帯端末は、受信されたセンサデータを、自身にインストールされたアプリケーションソフトウェア等によって処理する。
【0017】
データ取得装置11は、例えば、加速度センサと角速度センサを含む慣性計測装置によって実現される。慣性計測装置の一例として、IMU(Inertial Measurement Unit)があげられる。IMUは、3軸の加速度センサと、3軸の角速度センサを含む。また、慣性計測装置の一例として、VG(Vertical Gyro)や、AHRS(Attitude Heading)、GPS/INS(Global Positioning System/Inertial Navigation System)があげられる。
【0018】
図2は、データ取得装置11を靴100の中に配置する一例を示す概念図である。図2の例では、データ取得装置11は、足弓の裏側に当たる配置に設置される。例えば、データ取得装置11は、靴100の中に挿入されるインソールに配置される。例えば、データ取得装置11は、靴100の底面に配置される。例えば、データ取得装置11は、靴100の本体に埋設される。データ取得装置11は、靴100から着脱できてもよいし、靴100から着脱できなくてもよい。なお、データ取得装置11は、足の動きに関するセンサデータを取得できさえすれば、足弓の裏側ではない位置に設置されてもよい。また、データ取得装置11は、ユーザが履いている靴下や、ユーザが装着しているアンクレット等の装飾品に設置されてもよい。また、データ取得装置11は、足に直に貼り付けられたり、足に埋め込まれたりしてもよい。図2においては、右足側の靴100にデータ取得装置11を設置する例を示すが、両足分の靴100にデータ取得装置11を設置してもよい。両足分の靴100にデータ取得装置11を設置すれば、両足分の足の動きに基づいて足の状態を推定できる。
【0019】
図3は、データ取得装置11を足弓の裏側に設置する場合に、データ取得装置11に設定されるローカル座標系(x軸、y軸、z軸)と、地面に対して設定される世界座標系(X軸、Y軸、Z軸)について説明するための概念図である。世界座標系(X軸、Y軸、Z軸)では、ユーザが直立した状態で、ユーザの横方向がX軸方向(右向きが正)、ユーザの正面の方向(進行方向)がY軸方向(前向きが正)、重力方向がZ軸方向(鉛直上向きが正)に設定される。本実施形態においては、データ取得装置11を基準とするx方向、y方向、およびz方向からなるローカル座標系を設定する。本実施形態においては、x軸を回転軸とする回転をロール、y軸を回転軸とする回転をピッチ、z軸を回転軸とする回転をヨーと定義する。
【0020】
図4は、右足を基準とする一歩行周期について説明するための概念図である。図4の横軸は、右足の踵が地面に着地した時点を起点とし、次に右足の踵が地面に着地した時点を終点とする右足の一歩行周期を100%として正規化された歩行周期である。片足の一歩行周期は、足の裏側の少なくとも一部が地面に接している立脚相と、足の裏側が地面から離れている遊脚相とに大別される。立脚相は、さらに、立脚初期T1、立脚中期T2、立脚終期T3、遊脚前期T4に細分される。遊脚相は、さらに、遊脚初期T5、遊脚中期T6、遊脚終期T7に細分される。なお、一歩行周期分の歩行波形は、立脚終期の期間を特定できれば、踵接地を起点としなくてもよい。
【0021】
図4(a)は、右足の踵が接地する事象(踵接地)を表す(HS:Heel Strike)。図4(b)は、右足の足裏の接地面が接地した状態で、左足の爪先が地面から離れる事象(反対足爪先離地)を表す(OTO:Opposite Toe Off)。図4(c)は、右足の足裏の接地面が接地した状態で、右足の踵が持ち上がる事象(踵持ち上がり)を表す(HR:Heel Rise)。図4(d)は、左足の踵が接地した事象(反対足踵接地)である(OHS:Opposite Heel Strike)。図4(e)は、左足の足裏の接地面が接地した状態で、右足の爪先が地面から離れる事象(爪先離地)を表す(TO:Toe Off)。図4(f)は、左足の足裏の接地面が接地した状態で、左足と右足が交差する事象(足交差)を表す(FA:Foot Adjacent)。図4(g)は、左足の足裏が接地した状態で、右足の脛骨が地面に対してほぼ垂直になる事象(脛骨垂直)を表す(TV:Tibia Vertical)。図4(h)は、右足の踵が接地する事象(踵接地)を表す(HS:Heel Strike)。図4(h)は、図4(a)から始まる歩行周期の終点に相当するとともに、次の歩行周期の起点に相当する。本実施形態においては、後述するように、歩行周期の30~50%(立脚終期T3)のピッチ角の時系列データから抽出される特徴量を用いて、足の回内/回外の度合を推定する。
【0022】
ここで、足の回内/回外について図面を参照しながら説明する。図5は、足の回内/回外について説明するための概念図である。足の回内/回外は、冠状面、矢状面、水平面での運動を同時に含む三平面運動である。本実施形態では、足の回内/回外は、距骨下関節の冠状面運動として捉える。本実施形態では、人が直立しているときの冠状面内の角度を用いるため、ピッチ角を計算する際には、ローカル座標系のセンサデータを世界座標系に変換する。回外は、足部が内転・底屈・内反で構成される動きである。回内は、外転・背屈・外反で構成される動きである。例えば、回内の度合が大きく、その状態で固定されている足を回内足と呼ぶ。同様に、回外の度合が大きく、その状態で固定されている足を回外足と呼ぶ。
【0023】
足の回内/回外の度合は、足圧中心軌跡指標(CPEI:Center of Pressure Excursion Index)によって評価できる。図6は、CPEIについて説明するための概念図である。図6には、足圧中心(CoP:Center of Pressure)軌跡を足圧分布に重ねて図示する。足圧中心軌跡は、床面内(XY面内)における足圧分布を冠状面(ZX面)で切断した線上における、足圧の最大点(最大荷重中心)を、Y軸方向に沿って踵接地点(始点)から爪先離地点(終点)まで結んだ軌跡である。始点と終点を結ぶ直線を中心軸(Construction Lineとも呼ぶ)と呼ぶ。中心軸に対して底辺が垂直な台形で足の輪郭を囲み、足の前方向の三分の一の部分を台形の底辺に平行な切断線で切断する。台形と切断線の交点のうち、足の内側の点をA、足の外側の点をDとする。中心軸と切断線の交点をBとし、足圧中心軌跡と切断線の交点をCとする。線分BCは、CPE(Center of Pressure Excursion)と呼ばれる。線分ADは、足幅に相当する。CPE(線分BCの長さ)と足幅(線分ADの長さ)の比が、足圧中心軌跡指標CPEIに相当する(式1)。
CPEI=CPE/足幅×100・・・(1)
ただし、上記の始点や終点、台形の囲み方、台形の切断の仕方等は、一例であって、上記の定義に限定されない。
【0024】
図7は、回外、正常、および回内の傾向がある足に関するCPEIを比較するための概念図である。回外の場合、正常な状態と比べると、CPE(線分BCの長さ)が長く、足幅(線分ADの長さ)が小さい傾向がみられる。一方、回内の場合、正常な状態と比べると、CPE(線分BCの長さ)が短く、足幅(線分ADの長さ)が大きい傾向がみられる。すなわち、CPEIが過大の状態が回外であり、CPEIが過小の状態が回内であると判定できる。本実施形態では、CPEIが20以上ならば回外に分類され、CPEIが9~20ならば正常に分類され、CPEIが9以下ならば回内に分類される。なお、上記のCPEIの値に基づく判定基準は、足の回内/回外の度合の一例であって、足の回内/回外の度合の判定基準を上記の通りに限定するものではない。
【0025】
推定装置12は、ユーザの足の動きに関するセンサデータを取得する。推定装置12は、取得されたセンサデータの時系列データに基づく波形(歩行波形とも呼ぶ)のうち、冠状面内(zx面内)における足の回転角(ピッチ角とも呼ぶ)の歩行波形を用いて、足の回内/回外の度合を推定する。言い換えると、推定装置12は、Y軸周りの足の回転角であるピッチ角の時系列データを用いて、足の回内/回外の度合を推定する。具体的には、推定装置12は、ピッチ角の時系列データにおける立脚終期T3から抽出される特徴量を用いて、足の回内/回外の度合を推定する。
【0026】
例えば、推定装置12は、図示しないサーバ等に実装される。例えば、推定装置12は、アプリケーションサーバによって実現されてもよい。例えば、推定装置12は、携帯端末(図示しない)にインストールされたアプリケーションソフトウェア等によって実現されてもよい。
【0027】
図8は、三人の被験者について計測された右足の一歩行周期分のピッチ角の時系列データの一例のグラフである。図8には、CPEIが13.3の被験者(実線)、CPEIが5.3の被験者(破線)、CPEIが-0.6の被験者(一転鎖線)のピッチ角の波形を示す。CPEIが大きいほど回外の傾向が大きく、CPEIが小さいほど回内の傾向が大きい。ピッチ角は、外転方向の回転(Y軸を中心とする反時計回りの回転)をプラスとし、内転方向の回転(Y軸を中心とする時計回りの回転)をマイナスとする。
【0028】
図8のように、回内と回外の特徴の違いは、立脚終期の期間に表れる。立脚終期において、ピッチ角は、回外だとマイナス側に傾き、回内だとプラス側に傾く傾向がある。すなわち、立脚終期におけるピッチ角の特徴量を用いれば、足の回内/回外の度合を推定できる。例えば、推定装置12は、立脚終期におけるピッチ角の積分値を特徴量として用いて、足の回内/回外の立脚度合を推定する。例えば、推定装置12は、立脚終期におけるピッチ角の算術平均や加重平均といった平均値を特徴量として用いて、足の回内/回外の度合を推定する。なお、上記の特徴量は、一例であって、推定装置12が足の回内/回外の度合の推定に用いる特徴量を限定するものではない。
【0029】
図9は、足圧中心軌跡と歩行周期の対応関係について説明するための概念図である。図9には、ある被験者について計測された足圧分布と、その足圧分布における中心軸および足圧中心軌跡を示す。足圧分布の左側には、足圧中心軌跡に対応する歩行周期を示す。
【0030】
歩行周期の15~25%は、右足の足裏全面接地の状態(Foot flat)である。足裏全面接地とは、足裏の接地面の全面が接地することを意味する。足裏全面接地の状態(Foot flat)では、ピッチ角は0度である。歩行周期の30%は、踵持ち上がりのタイミングに相当する。歩行周期の30~50%にかけて、右足の踵側から爪先側に向かう体重移動に伴って、足裏の地面に接地する面積が次第に小さくなっていく。歩行周期の60%は、右足の爪先が地面から離れる爪先離地のタイミングである。
【0031】
足に回外の傾向がある場合、足裏と地面の接触部分は足の外側に偏るため、CPEIのカーブが急になる。この場合、内転の傾向がみられ、歩行周期の30~50%の立脚終期において、ピッチ角が小さくなる。回外の度合が過大の場合は、ピッチ角が負になることもある。一方、回内の傾向がある場合、足裏と地面の接触部分は足の内側に偏るため、CPEIのカーブが緩くなる。この場合、外転の傾向がみられ、歩行周期の30~50%の立脚終期において、ピッチ角が大きくなる。
【0032】
本実施形態においては、データ取得装置11によって計測されたピッチ角の時系列データから抽出される特徴量と、圧力センサによって計測された足圧分布から求められるCPEIとのデータセットを学習させた推測モデルを予め生成しておく。例えば、立脚終期におけるピッチ角の時系列データから抽出される特徴量と、CPEIとを入力することで、足の回内/回外の度合を出力する推測モデルを予め生成しておく。例えば、本実施形態においては、立脚終期におけるピッチ角の時系列データから抽出される、立脚終期の期間におけるピッチ角の算術平均や加重平均等の平均値、積分値等を特徴量として用いる。例えば、本実施形態においては、複数の被験者に関して、ピッチ角を説明変数とし、CPEIを目的変数とするデータを大量に計測し、それらのデータを教師データとして学習させた推測モデルを生成しておく。例えば、本実施形態においては、CPEIの値に応じて、足の状態を回内、回外、および正常のいずれかに分類し、足の回内/回外の度合として出力する推測モデルを生成しておく。
【0033】
図10は、説明変数である立脚終期におけるピッチ角の特徴量と、目的変数であるCPEIのデータセットを教師データとして、学習装置15に学習させる一例を示す概念図である。本実施形態においては、複数の被験者に関する教師データを学習装置15に学習させ、立脚終期におけるピッチ角の特徴量の入力に応じて足の回内/回外の度合に関する推定結果を出力する推測モデルを予め生成しておく。推測モデルによって出力される推定結果については後述する。
【0034】
予め生成しておいた推測モデルは、推定装置12に記憶させておく。例えば、推測モデルは、製品の工場出荷時や、ユーザが推定装置12を使用する前のキャリブレーション時等のタイミングで推定装置12に記憶させておけばよい。推定装置12は、データ取得装置11によって計測された、立脚終期におけるピッチ角の時系列データから抽出される特徴量を、その推測モデルに入力することによって、足の回内/回外の度合を推定する。例えば、推定装置12は、足の回内/回外の度合として、回外、正常、回内の3分類のいずれかに分類した推定結果を出力する。例えば、推定装置12は、足の回内/回外の度合として、CPEIの推定値や、立脚終期におけるピッチ角の特徴量を出力してもよい。
【0035】
図11は、予め生成しておいた推測モデル150に、立脚終期におけるピッチ角の特徴量を入力することで、足の回内/回外の度合に関する推定結果が出力される一例を示す概念図である。例えば、足の回内/回外の度合に関する推定結果は、足の回内/回外/正常の判定結果を含む。例えば、足の回内/回外の度合に関する推定結果は、足の回内/回外/正常の判定結果に応じて、診察に適した病院を進める推薦情報を含む。例えば、足の回内/回外の度合に関する推定結果は、ピッチ角の値や、CPEIであってもよい。なお、上記の推定結果は、一例であって、立脚終期におけるピッチ角の特徴量を入力することで推測モデル150から出力される推定結果を限定するものではない。
【0036】
〔データ取得装置〕
次に、データ取得装置11の詳細構成について図面を参照しながら説明する。図12は、データ取得装置11の詳細構成の一例を示すブロック図である。データ取得装置11は、加速度センサ111、角速度センサ112、制御部113、およびデータ送信部115を有する。また、データ取得装置11は、図示しない電源を含む。
【0037】
加速度センサ111は、3軸方向の加速度(空間加速度とも呼ぶ)を計測するセンサである。加速度センサ111は、計測した加速度を制御部113に出力する。例えば、加速度センサ111には、圧電型や、ピエゾ抵抗型、静電容量型等の方式のセンサを用いることができる。なお、加速度センサ111に用いられるセンサは、加速度を計測できれば、その計測方式に限定を加えない。
【0038】
角速度センサ112は、3軸方向の角速度(空間角速度とも呼ぶ)を計測するセンサである。角速度センサ112は、計測した角速度を制御部113に出力する。例えば、角速度センサ112には、振動型や静電容量型等の方式のセンサを用いることができる。なお、角速度センサ112に用いられるセンサは、角速度を計測できれば、その計測方式に限定を加えない。
【0039】
制御部113は、加速度センサ111および角速度センサ112の各々から、3軸方向の加速度および角速度の各々を取得する。制御部113は、取得した加速度および角速度をデジタルデータに変換し、変換後のデジタルデータ(センサデータとも呼ぶ)をデータ送信部115に出力する。センサデータには、アナログデータの加速度をデジタルデータに変換した加速度データ(3軸方向の加速度ベクトルを含む)と、アナログデータの角速度をデジタルデータに変換した角速度データ(3軸方向の角速度ベクトルを含む)とが少なくとも含まれる。なお、加速度データおよび角速度データには、それらのデータの取得時間が紐付けられる。また、制御部113は、取得した加速度データおよび角速度データに対して、実装誤差や温度補正、直線性補正などの補正を加えたセンサデータを出力するように構成してもよい。また、制御部113は、取得した加速度データおよび角速度データを用いて、3軸方向の角度データを生成してもよい。
【0040】
例えば、制御部113は、データ取得装置11の全体制御やデータ処理を行うマイクロコンピュータまたはマイクロコントローラである。例えば、制御部113は、CPU(Central Processing Unit)やRAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ等を有する。制御部113は、加速度センサ111および角速度センサ112を制御して角速度や加速度を計測する。例えば、制御部113は、計測された角速度および加速度等の物理量(アナログデータ)をAD変換(Analog-to-Digital Conversion)し、変換後のデジタルデータをフラッシュメモリに記憶させる。なお、加速度センサ111および角速度センサ112によって計測された物理量(アナログデータ)は、加速度センサ111および角速度センサ112の各々においてデジタルデータに変換されてもよい。フラッシュメモリに記憶されたデジタルデータは、所定のタイミングでデータ送信部115に出力される。
【0041】
データ送信部115は、制御部113からセンサデータを取得する。データ送信部115は、取得したセンサデータを推定装置12に送信する。データ送信部115は、ケーブルなどの有線を介してセンサデータを推定装置12に送信してもよいし、無線通信を介してセンサデータを推定装置12に送信してもよい。例えば、データ送信部115は、Bluetooth(登録商標)やWiFi(登録商標)などの規格に則した無線通信機能(図示しない)を介して、センサデータを推定装置12に送信するように構成される。なお、データ送信部115の通信機能は、Bluetooth(登録商標)やWiFi(登録商標)以外の規格に則していてもよい。
【0042】
〔推定装置〕
次に、推定システム1が備える推定装置12の詳細構成について図面を参照しながら説明する。図13は、推定装置12の構成の一例を示すブロック図である。推定装置12は、検出部121、特徴量抽出部123、記憶部125、および推測部127を有する。
【0043】
検出部121は、履物に設置されたデータ取得装置11からセンサデータを取得する。検出部121は、センサデータを用いて、データ取得装置11が設置された履物を履いた歩行者の歩行に伴う時系列データを生成する。検出部121は、生成した時系列データから、一歩行周期分の歩行波形データを抽出する。例えば、検出部121は、踵接地を起点とする一歩行周期分のピッチ角度の歩行波形において、30~50%の期間を立脚終期として検出する。例えば、検出部121は、抽出された歩行波形データから踵持ち上がりのタイミング(始点)と反対足踵接地のタイミング(終点)を検出し、それらのタイミングの間の期間を立脚終期として検出する。例えば、検出部121は、ロール角加速度の歩行波形に含まれる加速変曲点に基づいて、踵持ち上がりや反対足踵接地のタイミングを検出する。
【0044】
例えば、検出部121は、データ取得装置11からセンサデータを取得する。検出部121は、取得されたセンサデータの座標系を、ローカル座標系から世界座標系に変換する。ユーザが直立した状態では、ローカル座標系(x軸、y軸、z軸)と世界座標系(X軸、Y軸、Z軸)は一致する。ユーザが歩行している間、データ取得装置11の空間的な姿勢が変化するため、ローカル座標系(x軸、y軸、z軸)と世界座標系(X軸、Y軸、Z軸)は一致しない。そのため、検出部121は、データ取得装置11によって取得されたセンサデータを、データ取得装置11のローカル座標系(x軸、y軸、z軸)から世界座標系(X軸、Y軸、Z軸)に変換する。
【0045】
例えば、検出部121は、空間加速度や空間角速度などの時系列データを生成する。また、検出部121は、空間加速度や空間角速度を積分し、空間速度や空間角度(足底角)、空間軌跡などの時系列データを生成する。これらの時系列データが歩行波形に相当する。検出部121は、一般的な歩行周期や、ユーザに固有の歩行周期に合わせて設定された所定のタイミングや時間間隔で時系列データを生成する。検出部121が時系列データを生成するタイミングは、任意に設定できる。例えば、検出部121は、ユーザの歩行が継続されている期間、時系列データを生成し続けるように構成される。また、検出部121は、特定のタイミングにおいて、時系列データを生成するように構成されてもよい。
【0046】
特徴量抽出部123は、検出部121によって検出された踵持ち上がりのタイミングを始点とし、反対足踵接地のタイミングを終点とする期間(立脚終期)において、ピッチ角の歩行波形(冠状面内の角度波形とも呼ぶ)から特徴量を抽出する。例えば、特徴量抽出部123は、ピッチ角の歩行波形(冠状面内の角度波形)から、立脚終期におけるピッチ角の積分値や平均値等を特徴量として抽出する。
【0047】
記憶部125には、予め生成された推測モデル150が記憶される。推測モデル150は、立脚終期におけるピッチ角の特徴量の入力に応じて、足の回内/回外の度合に関する推定結果を出力する。例えば、推測モデル150は、立脚終期におけるピッチ角の特徴量の入力に応じて、足の回内/回外の度合に関する推定結果として、足の回内/回外/正常の判定結果を出力する。
【0048】
例えば、推測モデル150は、立脚終期におけるピッチ角の特徴量の入力に応じて、足の回内/回外の度合に関する推定結果として、足の回内/回外/正常の判定結果に応じて、診察に適した病院を進める推薦情報を出力する。例えば、推測モデル150は、立脚終期におけるピッチ角の特徴量の入力に応じて、足の回内/回外の度合に関する推定結果として、ピッチ角の値や、CPEIを出力する。なお、上記の推測モデル150の推定結果は、一例であって、立脚終期におけるピッチ角の特徴量を入力することで推測モデル150から出力される推定結果を限定するものではない。
【0049】
推測部127は、特徴量抽出部123によって抽出される、立脚終期におけるピッチ角の歩行波形(冠状面内の角度波形と)の特徴量を推測モデル150に入力し、足の回内/回外の度合に関する推定結果を推定する。推測部127は、推定結果を出力する。推測部127による推定結果は、上位システムやデータベースが構築されたサーバ、歩行波形の取得元のユーザの携帯端末等に出力される。推測部127による推定結果の出力先には、特に限定を加えない。
【0050】
(動作)
次に、本実施形態の推定システム1の推定装置12の動作について図面を参照しながら説明する。図14は、推定装置12の動作の概略について説明するためのフローチャートである。推定装置12の動作の詳細は、上述の構成に関する説明の通りである。
【0051】
図14において、まず、推定装置12は、足の動きに関する物理量に関するセンサデータをデータ取得装置11から取得する(ステップS11)。
【0052】
次に、推定装置12は、取得したセンサデータの座標系を、データ取得装置11に設定されたローカル座標系から世界座標系に変換する(ステップS12)。
【0053】
次に、推定装置12は、世界座標系に変換後のセンサデータの時系列データを用いて歩行波形を生成する(ステップS13)。
【0054】
次に、推定装置12は、立脚終期の期間を歩行波形から検出する(ステップS14)。
【0055】
次に、推定装置12は、踵持ち上がりのタイミングを始点とし、反対足爪先離地のタイミングを終点とする立脚終期において、冠状面の角度波形(ピッチ角の歩行波形)から特徴量を抽出する(ステップS15)。
【0056】
次に、推定装置12は、抽出された特徴量を予測モデルに入力し、足の回内/回外の度合を推定する(ステップS16)。
【0057】
次に、推定装置12は、足の回内/回外の度合に関する推定結果を出力する(ステップS17)。
【0058】
〔検証例〕
次に、データ取得装置11によって計測されたセンサデータに基づくピッチ角の歩行波形から抽出された特徴量と、CPEIの実測値との関係について検証した検証例について説明する。図15は、本検証例で用いる感圧センサ110とデータ取得装置11の配置例を示す概念図である。本検証例においては、足圧分布を計測できる感圧センサ110を靴100の中敷きとして挿入し、足弓の裏側の位置にデータ取得装置11を搭載した。本検証例においては、7人の被験者に対し、合計14足分のデータを収集した。収集したデータについては、10歩分のデータの移動平均値を検証に用いた。本検証例においては、ピッチ角の時系列データから抽出された特徴量と、CPEIの実測値(真値)との関係について検証した。
【0059】
図16は、感圧センサ110によって計測された圧力分布に基づいて算出されたCPEI(真値)と、データ取得装置11によって計測されたセンサデータに基づくピッチ角の歩行波形から抽出された特徴量とを対応付けたグラフである。図16においては、立脚終期におけるピッチ角の平均値を特徴量としてCPEI(真値)と対応付けた。CPEI(真値)と、立脚終期におけるピッチ角の平均値とを関係付けた回帰直線は、傾きが-0.1052、切片が1.9696、相関係数rが-0.6657であった。また、Leave one subject out交差検証を用いて、立脚終期におけるピッチ角の平均値とCPEI(真値)の関係について、二乗平均平方根(RMSE:Root Mean Square Error)を計算した。その結果、立脚終期におけるピッチ角の平均値とCPEI(真値)に関して、RMSEは3.542であった。
【0060】
図17は、図16のグラフから導出された回帰直線を推測モデルとし、立脚終期におけるピッチ角の平均値をその推測モデルに入力した際の出力であるCPEI(推定値)と、CPEI(真値)とを対応付けたグラフである。Leave one subject out交差検証を用いて、CPEI(推定値)とCPEI(真値)の関係について、RMSEを計算した。その結果、CPEI(推定値)とCPEI(真値)に関して、RMSEは3.647であった。また、図17の検証に関する級内相関係数(ICC:Intraclass Correlation Coefficient)は0.7612であり、高い信頼性が得られた。
【0061】
以上のように、本検証例では、データ取得装置11の計測結果に基づくピッチ角の歩行波形から抽出された特徴量を用いて推定されたCPEI(推定値)と、感圧センサ110の計測結果に基づくCPEI(真値)との間に信頼性のある相関関係が得られた。
【0062】
〔適用例〕
次に、本実施形態の推定システム1の適用例について図面を参照しながら説明する。本適用例では、推定装置12によって出力された足の回内/回外の度合に関する推定結果を、表示装置に表示したり、ビックデータとして活用したりする例である。以下の例においては、歩行者の靴の中にデータ取得装置11が設置され、そのデータ取得装置11によって計測された足の動きに関する物理量に基づくセンサデータが、歩行者の所持する携帯端末に送信されるものとする。携帯端末に送信されたセンサデータは、携帯端末にインストールされたアプリケーションソフトウェア等によってデータ処理されるものとする。
【0063】
図18は、データ取得装置(図示しない)が設置された靴100を履いた歩行者の携帯端末160の画面に、その歩行者の足の回内/回外の度合に関する推定結果を表示させる例である。図18の例では、携帯端末160の画面に、「CPEI=+8.5」という数値と、「回内の傾向があります」という通知を、足の回内/回外の度合に関する推定結果として表示させる。携帯端末160の画面に表示された足の回内/回外の度合に関する推定結果を閲覧した歩行者は、その推定結果に応じた行動をとることができる。例えば、携帯端末160の画面に表示された足の回内/回外の度合に関する推定結果を閲覧した歩行者は、その推定結果に応じて、医療機関等に自身の状況について連絡できる。例えば、携帯端末160の画面に表示された足の回内/回外の度合に関する推定結果を閲覧した歩行者は、その推定結果に応じて、自身に適した運動や歩き方を実践できる。
【0064】
図19は、データ取得装置(図示しない)が設置された靴100を履いた歩行者の携帯端末160の画面に、その歩行者の足の回内/回外の度合に関する推定結果に応じた情報を表示させる例である。例えば、足の回内/回外の進行状況に応じて、歩行者が病院で診察を受けることを薦める情報を携帯端末160の画面に表示させる。例えば、足の回内/回外の進行状況に応じて、受診可能な病院のサイトへのリンク先や電話番号を携帯端末160の画面に表示させてもよい。例えば、携帯端末160の画面に表示された足の回内/回外の度合に関する推定結果に応じた情報を閲覧した歩行者は、その情報に応じて行動できる。
【0065】
図20は、データ取得装置(図示しない)が設置された靴100を履いた複数の歩行者の携帯端末160から、データ取得装置によって計測されたセンサデータに基づく情報をデータセンター170に送信する例である。例えば、携帯端末160は、データ取得装置によって計測されたセンサデータや、CPEIの推定値、それらの歩行者の足の回内/回外の度合に関する推定結果を、データセンター170に送信する。例えば、データセンター170に送信されたデータは、データベースに蓄積される。
【0066】
図21は、データセンター170に送信され、データベースに蓄積された情報の一例(テーブル171)である。例えば、テーブル171には、ユーザごとに推定されたCPEIの推定値が、靴100のメーカや、靴100の種類、計測日時、などの情報に対応付けて格納される。テーブル171に格納されたデータは、ビックデータとして活用できる。例えば、テーブル171に格納されたデータは、履物の種類ごとの統計データとして用いられる。例えば、データベースに蓄積されたデータは、靴の設計に用いられる。例えば、靴ごとのCPEIの推定値を蓄積していき、靴ごとのCPEIの推定値の経時変化を検証すれば、靴の経時変化をモニターできる可能性がある。例えば、ユーザAのデータに関して、X社の履物X1を1年程度履き続けると、CPEIの推定値が+8.2から+9.5に増加したものとする。他のユーザに関しても同様の傾向がみられた場合、X社では、CPEIの推定値の経時変化がマイナス側に推移するように靴を設計すればよい。同様に、他社の靴に関しても、複数のユーザのCPEIの推定値を蓄積して検証すれば、靴に特有な経時変化の傾向をモニターできる。また、テーブル171に格納されたデータは、ユーザごとの足の回内/回外の進行状況をモニターするために用いられてもよい。例えば、CPEIの推定値の経時変化が平均的な傾向からずれているユーザに関しては、足の回内/回外が進行している可能性がある。このような場合、CPEIの推定値の経時変化の傾向に応じて、ユーザに対して通院を薦める通知を送信してもよい。テーブル171に格納されるデータや、それらのデータの使い方は、上記の例に限定されない。
【0067】
以上のように、本実施形態の推定システムは、データ取得装置と推測装置を備える。データ取得装置は、空間加速度および空間角速度を計測し、計測した空間加速度および空間角速度に基づくセンサデータを生成し、生成したセンサデータを推定装置に送信する。推定装置は、検出部、特徴量抽出部、および推測部を備える。検出部は、足部に設置されたデータ取得装置によって計測された足の動きに関する物理量に基づくセンサデータの時系列データから立脚終期の期間を検出する。特徴量抽出部は、立脚終期の期間における冠状面内の角度波形から特徴量を抽出する。推測部は、冠状面内の角度波形から抽出された特徴量を用いて、足の回内/回外の度合を推測する。
【0068】
本実施形態の推定システムは、足部に設置されたデータ取得装置によって計測された足の動きに関する物理量に基づいて、足の回内/回外の度合を推定できる。すなわち、本実施形態の推定システムによれば、簡易な構成で足の回内/回外の度合を推定できる。
【0069】
本実施形態の一態様において、推測部は、冠状面内の角度波形から抽出された特徴量を推測モデルに入力して、足の回内/回外の度合に関する推定結果を出力する。その推測モデルは、冠状面内の角度波形から抽出された特徴量を入力した際に、足の回内/回外の度合に関する推定結果を出力する。例えば、推測部は、冠状面内の角度波形から抽出された特徴量を説明変数とし、圧力センサによって計測された足圧分布から求められた足圧中心軌跡指標を目的変数とするデータセットを学習させた推測モデルを用いる。
【0070】
本実施形態の一態様において、推測部は、足圧中心軌跡指標の値に応じて、足の回内/回外、および正常のうちいずれかであることを示す推定結果を出力する。例えば、推測部は、足圧中心軌跡指標の値が20以上ならば回外であるという推定結果を出力し、足圧中心軌跡指標の値が9以上20未満ならば正常であるという推定結果を出力し、足圧中心軌跡指標の値が9未満ならば回内であるという推定結果を出力する。
【0071】
例えば、検出部は、センサデータの時系列データから、踵接地を起点とする一歩行周期分の歩行波形を抽出し、抽出した歩行波形の30~50パーセントの期間を立脚終期の期間として検出する。例えば、検出部は、センサデータの時系列データから、踵持ち上がりおよび反対足踵接地のタイミングを検出し、踵持ち上がりのタイミングから反対足踵接地のタイミングまでの期間を立脚終期の期間として検出する。
【0072】
例えば、本実施形態の検出システムは、靴のオーダーメードに適用できる。例えば、本実施形態の検出システムは、データ取得装置が設置されたゲストシューズをユーザに履かせて歩行させ、そのユーザの足の回内/回外の度合を検証する用途に適用できる。ユーザの足の回内/回外の度合の検証結果に関するデータを、靴を設計するメーカに提供すれば、ユーザの足の回内/回外の度合に応じた靴の設計が可能になる。
【0073】
例えば、本実施形態の検出システムは、ユーザの日常生活をモニターする用途にも適用できる。例えば、ユーザの歩行における足の回内/回外の進行状況に応じて、歩行の癖を抽出したり、靴を変えることを薦めたりできれば、そのユーザの足の回内/回外の進行を抑えることができる可能性がある。例えば、足の回内/回外の矯正器具をユーザが用いている場合、足の回内/回外の度合に応じた情報をそのユーザに提供することによって、症状の進行を軽減したり、怪我を防いだりすることができる可能性がある。
【0074】
例えば、本実施形態の検出システムによれば、多数のユーザの推定結果を収集し、足の回内/回外の度合に関する推定結果をデータベース化することで、足の回内/回外の度合に関する情報をビックデータとして活用できる可能性がある。例えば、多数のユーザの足の回内/回外の度合やCPEIを靴に対応付けてデータベース化すれば、靴の設計やメンテナンス等に活用できるデータを蓄積できる。
【0075】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態に係る推定装置について図面を参照しながら説明する。本実施形態の推定装置は、第1の実施形態の推定装置を簡略化した構成である。図23は、本実施形態の推定装置22の構成の一例を示すブロック図である。推定装置22は、検出部221、特徴量抽出部223、および推測部227を備える。
【0076】
検出部221は、足部に設置されたセンサによって計測された足の動きに関する物理量に基づくセンサデータの時系列データから立脚終期の期間を検出する。特徴量抽出部223は、立脚終期の期間における冠状面内の角度波形から特徴量を抽出する。推測部227は、冠状面内の角度波形から抽出された特徴量を用いて、足の回内/回外の度合を推測する。
【0077】
本実施形態の推定装置は、足部に設置されたセンサによって計測された足の動きに関する物理量に基づいて、足の回内/回外の度合を推定できる。すなわち、本実施形態の推定装置によれば、簡易な構成で足の回内/回外の度合を推定できる。
【0078】
(ハードウェア)
ここで、本発明の各実施形態に係る推定装置の処理を実行するハードウェア構成について、図23の情報処理装置90を一例として挙げて説明する。なお、図23の情報処理装置90は、各実施形態の推定装置の処理を実行するための構成例であって、本発明の範囲を限定するものではない。
【0079】
図23のように、情報処理装置90は、プロセッサ91、主記憶装置92、補助記憶装置93、入出力インターフェース95、および通信インターフェース96を備える。図23においては、インターフェースをI/F(Interface)と略して表記する。プロセッサ91、主記憶装置92、補助記憶装置93、入出力インターフェース95、および通信インターフェース96は、バス98を介して互いにデータ通信可能に接続される。また、プロセッサ91、主記憶装置92、補助記憶装置93および入出力インターフェース95は、通信インターフェース96を介して、インターネットやイントラネットなどのネットワークに接続される。
【0080】
プロセッサ91は、補助記憶装置93等に格納されたプログラムを主記憶装置92に展開し、展開されたプログラムを実行する。本実施形態においては、情報処理装置90にインストールされたソフトウェアプログラムを用いる構成とすればよい。プロセッサ91は、本実施形態に係る推定装置による処理を実行する。
【0081】
主記憶装置92は、プログラムが展開される領域を有する。主記憶装置92は、例えばDRAM(Dynamic Random Access Memory)などの揮発性メモリとすればよい。また、MRAM(Magnetoresistive Random Access Memory)などの不揮発性メモリを主記憶装置92として構成・追加してもよい。
【0082】
補助記憶装置93は、種々のデータを記憶する。補助記憶装置93は、ハードディスクやフラッシュメモリなどのローカルディスクによって構成される。なお、種々のデータを主記憶装置92に記憶させる構成とし、補助記憶装置93を省略することも可能である。
【0083】
入出力インターフェース95は、情報処理装置90と周辺機器とを接続するためのインターフェースである。通信インターフェース96は、規格や仕様に基づいて、インターネットやイントラネットなどのネットワークを通じて、外部のシステムや装置に接続するためのインターフェースである。入出力インターフェース95および通信インターフェース96は、外部機器と接続するインターフェースとして共通化してもよい。
【0084】
情報処理装置90には、必要に応じて、キーボードやマウス、タッチパネルなどの入力機器を接続するように構成してもよい。それらの入力機器は、情報や設定の入力に使用される。なお、タッチパネルを入力機器として用いる場合は、表示機器の表示画面が入力機器のインターフェースを兼ねる構成とすればよい。プロセッサ91と入力機器との間のデータ通信は、入出力インターフェース95に仲介させればよい。
【0085】
また、情報処理装置90には、情報を表示するための表示機器を備え付けてもよい。表示機器を備え付ける場合、情報処理装置90には、表示機器の表示を制御するための表示制御装置(図示しない)が備えられていることが好ましい。表示機器は、入出力インターフェース95を介して情報処理装置90に接続すればよい。
【0086】
以上が、本発明の各実施形態に係る推定装置を可能とするためのハードウェア構成の一例である。なお、図23のハードウェア構成は、各実施形態に係る推定装置の演算処理を実行するためのハードウェア構成の一例であって、本発明の範囲を限定するものではない。また、各実施形態に係る推定装置に関する処理をコンピュータに実行させるプログラムも本発明の範囲に含まれる。さらに、各実施形態に係るプログラムを記録した記録媒体も本発明の範囲に含まれる。記録媒体は、例えば、CD(Compact Disc)やDVD(Digital Versatile Disc)などの光学記録媒体で実現できる。また、記録媒体は、USB(Universal Serial Bus)メモリやSD(Secure Digital)カードなどの半導体記録媒体や、フレキシブルディスクなどの磁気記録媒体、その他の記録媒体によって実現してもよい。プロセッサが実行するプログラムが記録媒体に記録されている場合、その記録媒体はプログラム記録媒体に相当する。
【0087】
各実施形態の推定装置の構成要素は、任意に組み合わせることができる。また、各実施形態の推定装置の構成要素は、ソフトウェアによって実現してもよいし、回路によって実現してもよい。
【0088】
以上、実施形態を参照して本発明を説明してきたが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
【符号の説明】
【0089】
1 推定システム
11 データ取得装置
12、22 推定装置
111 加速度センサ
112 角速度センサ
113 制御部
115 データ送信部
121、221 検出部
123、223 特徴量抽出部
125 記憶部
127、227 推測部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23