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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】中空糸膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D01F 2/28 20060101AFI20241106BHJP
   C12N 1/04 20060101ALN20241106BHJP
   C12N 5/073 20100101ALN20241106BHJP
   C12N 5/075 20100101ALN20241106BHJP
   B01D 71/14 20060101ALN20241106BHJP
   C12M 1/00 20060101ALN20241106BHJP
【FI】
D01F2/28 A
C12N1/04
C12N5/073
C12N5/075
B01D71/14
C12M1/00 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022559146
(86)(22)【出願日】2021-10-26
(86)【国際出願番号】 JP2021039439
(87)【国際公開番号】W WO2022092067
(87)【国際公開日】2022-05-05
【審査請求日】2023-03-31
(31)【優先権主張番号】P 2020182627
(32)【優先日】2020-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田島 崇嗣
(72)【発明者】
【氏名】滝井 由典
【審査官】坂崎 恵美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-306937(JP,A)
【文献】特開2008-178814(JP,A)
【文献】Cryobiology,2020年10月07日,Vol.97,p.66-70,doi:10.1016/j.cryobiol.2020.10.007
【文献】第106回 日本繁殖生物学会大会 講演要旨集,2013年,OR2-26,doi:10.14882/jrds.106.0.OR2-26.0
【文献】Reproduction , Fertility and Development,2018年,Vol.31, No.1,p.142, 32,doi:10.1071/RDv31n1Ab32
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00
D01F 2/28
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空糸膜の製造方法であって、
紡糸原液および内液を二重管状のノズルから空中走行部を経て凝固液中に吐出して、前記紡糸原液を前記凝固液中で凝固させ、前記紡糸原液の凝固物を前記凝固液中から曳き出すことにより、中空糸膜を得る、紡糸工程を含み、
前記紡糸原液は、セルロースエステルを含む樹脂原料、溶剤および非溶剤を含み、
前記凝固液は、前記溶剤および前記非溶剤を含み、
前記内液は、水を含み、
前記ノズルでの前記紡糸原液の温度は、70~110℃であり、
前記ノズルでの前記内液の温度は、40~70℃であり、
前記紡糸原液中の前記非溶剤に対する前記溶剤の量の比率は、60/40~80/20であり、
ノズルドラフト比は、0.4~0.9であり、
前記中空糸膜は、セルロースエステルを含む細胞凍結保存用であり、
前記中空糸膜は、ガラス化凍結法によって凍結された後に融解されたときの破断強度が、凍結前の湿潤時の破断強度の80%以上であり、
前記中空糸膜は、厚み方向断面の平均面積率が40%以上70%以下である、中空糸膜の製造方法。
【請求項2】
前記紡糸原液中のセルロースエステルの濃度は、10~30質量%である、請求項1に記載の中空糸膜の製造方法。
【請求項3】
前記凝固液中の前記溶剤および前記非溶剤の総量の比率は、60~90質量%である、請求項1または2に記載の中空糸膜の製造方法。
【請求項4】
前記溶剤は、非プロトン性極性溶剤であり、
前記非溶剤は、グリコールエステルである、請求項1~3のいずれか1項に記載の中空糸膜の製造方法。
【請求項5】
前記ノズルでの前記内液の温度は、前記ノズルでの前記紡糸原液の温度よりも10℃以上低い、請求項1~4のいずれか1項に記載の中空糸膜の製造方法。
【請求項6】
前記空中走行部の直線距離は、10~50mmである、請求項1~5のいずれか1項に記載の中空糸膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞凍結保存用の中空糸膜に関する。
【背景技術】
【0002】
卵細胞、胚細胞等の細胞の凍結保存方法として、ガラス化凍結法が知られている。ガラス化凍結法では、クライオトップ(登録商標)と呼ばれる器具が用いられる。クライオトップは、柄の先端に非常に薄い短冊状のシートが取り付けられた専用器具である。細胞は、クライオトップの先端のシート上にガラス化液などの凍結用の液と共に載置された状態で、液体窒素等により凍結保存される。
【0003】
近年、このような細胞の凍結保存において、中空糸膜を用いる方法(中空糸凍結保存法)も検討されている。中空糸凍結保存法では、細胞は酢酸セルロースから構成される中空糸膜の内部に収容された状態で凍結して保存される。この方法では、凍結後の細胞の生存率が向上すると期待される。
【0004】
しかし、中空糸膜は比較的もろい素材であり、凍結保存に用いたときに破損するおそれがあり、取扱い性に問題があった。例えば、特許文献1(特許第5252556号公報)、特許文献2(特許第5051716号公報)および特許文献3(特許第6667903号公報)には、凍結保存の際の中空糸の取扱い性を向上させるための中空糸の支持器具等が開示されている。
【0005】
なお、従来の中空糸膜としては、例えば、特許文献4(特許第5440332号公報)および特許文献5(特許第5212837号公報)に開示されるような、血液透析、血液透析ろ過などに用いられる酢酸セルロースからなる中空糸膜が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5252556号公報
【文献】特許第5051716号公報
【文献】特許第6667903号公報
【文献】特許第5440332号公報
【文献】特許第5212837号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように、酢酸セルロースなどのセルロースエステル製の中空糸膜は、細胞の凍結保存に用いられるような極めて低い温度にさらされることや、凍結およびその後の融解の際の体積変化などによって、強度が低下し、破損する虞があった。
【0008】
したがって、本発明は、細胞凍結保存用のセルロースエステル製の中空糸膜において、細胞の凍結保存に用いられた際の強度の低下を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1) セルロースエステルを含む細胞凍結保存用の中空糸膜であって、
ガラス化凍結法によって凍結された後に融解されたときの破断強度が、凍結前の湿潤時の破断強度の80%以上である、中空糸膜。
【0010】
(2) 厚み方向に不均一な構造を有する、(1)に記載の中空糸膜。
【0011】
(3)前記中空糸膜の外表面の平均孔径は、内表面の平均孔径の1.1倍以上である、(1)または(2)に記載の中空糸膜。
【0012】
(4)厚み方向断面の平均面積率が40%以上70%以下である、(1)~(3)のいずれか1項に記載の中空糸膜。
【0013】
(5)厚み方向断面の面積率の厚み方向における変動が5%未満である、(1)~(4)のいずれか1項に記載の中空糸膜。
【0014】
(6)前記中空糸膜の内表面を原子間力顕微鏡により測定したときの算術平均粗さが20nm以下である、(1)~(3)のいずれか1項に記載の中空糸膜。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、細胞凍結保存用のセルロースエステル製の中空糸膜において、細胞の凍結保存に用いられた際の強度の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】中空糸膜の内径の測定結果を示すグラフである。
図2】中空糸膜の膜厚の測定結果を示すグラフである。
図3】中空糸膜の破断強度の測定結果を示すグラフである。
図4】中空糸膜の破断伸度の測定結果を示すグラフである。
図5】中空糸膜の降伏強度の測定結果を示すグラフである。
図6】中空糸膜の製造方法の一例を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、本明細書において「A~B」という形式の表記は、範囲の上限下限(すなわちA以上B以下)を意味し、Aにおいて単位の記載がなく、Bにおいてのみ単位が記載されている場合、Aの単位はBの単位と同じである。
【0018】
<中空糸膜>
本実施形態の中空糸膜は、細胞の凍結保存に好適に用いることができる。
対象となる細胞としては、卵細胞(受精卵等)、胚細胞、iPS細胞およびES細胞等を含む多能性幹細胞、多能性幹細胞由来のオルガノイド等の人工的組織(細胞集塊)などが挙げられる。細胞集塊は、複数の細胞種から構成されていてもよい。なお、細胞は、中空糸膜の内部に配置された状態で凍結保存される。バラバラの細胞を含む細胞懸濁液が中空糸膜の内部で凍結保存されてもよい。
【0019】
(セルロースエステル)
本実施形態の中空糸膜は、セルロースエステルを含む。中空糸膜を構成する材料中のセルロースエステルの比率は好ましくは90質量%以上であり、より好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは98質量%以上である。中空糸膜は、セルロースエステルのみから構成されていてもよい。
中空糸膜は、その内部に収容された細胞が見える程度の透明性を有することが好ましい。セルロースエステルは透明性が高い材料であるため、中空糸膜を構成する材料中のセルロースエステルの比率が高いことが好ましい。
また、中空糸膜はガラス化液に溶解せず、ガラス化液中に樹脂成分が溶出しないことが好ましい。この観点からも、中空糸膜を構成する材料中のセルロースエステルの比率が高いことが好ましい。
【0020】
セルロースエステルとしては、例えば、酢酸セルロース、フタル酸セルロース、コハク酸セルロースなどが挙げられる。セルロースエステルは、好ましくは酢酸セルロースである。酢酸セルロースは、殺菌剤である塩素に対する耐性があり、塩素による殺菌が可能である。
【0021】
酢酸セルロースとしては、例えば、三酢酸セルロース、一酢酸セルロース、二酢酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、酢酸プロピオン酸セルロースなどが挙げられる。耐久性等の観点から、酢酸セルロースは、好ましくは三酢酸セルロースである。
【0022】
酢酸セルロースとしては、例えば、ダイセル化学工業社より酢化度、重合度等の異なる種々の酢酸セルロース(L-20、30、40、50、70、LT-35、55、105など)が市販されている。6%粘度が140mPa・s超200mPa・s未満という比較的低粘度の酢酸セルロース(比較的低粘度のポリマー)を用いることが好ましい。
【0023】
酢酸セルロースの酢化度は、好ましくは53~62%であり、より好ましくは55~61.5%であり、さらに好ましくは58~61.5%である。なお、酢化度は、セルロース中の水酸基の酢酸基置換度を表す。なお、酢化度の理論上限は62.5%であるが、酢化度が高すぎると溶解性や成型性が低下する可能性がある。
【0024】
(破断強度等の強伸度)
本実施形態の中空糸膜は、ガラス化凍結法によって凍結された後に融解されたときの破断強度が凍結前の湿潤時の破断強度の80%以上であり、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上である。
【0025】
また、本実施形態の中空糸膜は、ガラス化凍結法によって凍結された後に融解されたときの破断伸度が凍結前の湿潤時の破断伸度に対して、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上である。
【0026】
また、本実施形態の中空糸膜は、ガラス化凍結法によって凍結された後に融解されたときの降伏強度が凍結前の湿潤時の降伏強度に対して、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上である。
【0027】
このように、本実施形態のセルロースエステルを含む中空糸膜は、細胞の凍結保存に用いられた際の強度の低下が抑制されたものである。
【0028】
なお、破断強度、破断伸度および降伏強度は、後述する実施例での強伸度(破断強度、破断伸度および降伏強度)の測定方法により、測定される。
【0029】
ガラス化凍結法は、細胞を液体窒素に浸漬するなどして急速に温度を下げることにより-60℃~-15℃で生じやすいと言われる水の結晶化を防ぎ、非晶質のガラス状態で、細胞を凍結する方法である。この方法は、氷晶の形成による細胞の損傷が生じない、処理にかかる時間が短い、特別な機器が不要である、細胞の長期保存が良好であるなどの点で、緩慢凍結法より優れている。細胞のガラス化凍結の具体的方法は多数開発されており、一例として、細胞を耐凍性の保存液に浸して液体窒素中や超低温の冷凍庫内で-80℃以下、より好ましくは-190℃以下にて急速に凍結させる方法が挙げられる。
【0030】
なお、上記強伸度(破断強度、破断伸度および降伏強度)を凍結および融解の前後で比較する際のガラス化凍結法の条件は、以下のとおりである。
【0031】
〔ガラス化凍結法の条件〕
(平衡液)
組成:エチレングリコール(7.5質量%)、ジメチルスルホキシド(7.5質量%)および水
浸漬時間:4分
(ガラス化液)
組成:エチレングリコール(15質量%)、ジメチルスルホキシド(15質量%)、ショ糖(ガラス化液中0.5M)および水
浸漬時間:30秒
(凍結保存条件)
凍結方法:液体窒素(LN)中への浸漬
保存方法:液体窒素(LN)中への浸漬したままで1週間保存
(融解方法)
融解液(1Mショ糖水溶液)に1分間浸漬
希釈液(0.5Mショ糖水溶液)に3分間浸漬
洗浄液(市販のTCM199培地(GIBCO社))に5分間浸漬し、さらに同じ組成の別の洗浄液に5分間浸漬
【0032】
(中空糸膜の形状等)
中空糸膜の内径は、好ましくは30μm以上300μm以下であり、より好ましくは35μm以上260μm以下である。
中空糸膜の厚みは、好ましくは20~200μmであり、より好ましくは30~150μmである。なお、膜厚は「(外径-内径)/2」より算出できる。
【0033】
中空糸膜(中空糸型の膜)は、半透膜から構成されることが好ましい。中空糸膜内に収容され凍結保存される細胞に対して、細胞は通過させないが、培養液や凍結保存液、前記保存液に含まれる凍害保護物質などを通過させるので、中空糸膜内の内部空間に細胞が内包された状態を維持できる。すなわち、中空糸膜の内部空間の培養液や細胞内液などを凍結保存溶液に置換することが容易にできるという利点があるからである。
【0034】
中空糸膜の中空率は、好ましくは10~65%であり、より好ましくは12~55%である。なお、中空率は、中空糸膜の横断面における中空部の面積の割合であり、「中空部断面積/(膜部断面積+中空部断面積)×100(%)」で表される。
【0035】
中空糸膜の平均孔径(膜全体の微細孔の平均孔径)は、10μm以下であることが好ましい。平均孔径の測定方法としては、例えば、バブルポイント法や水銀圧入法が挙げられる。
【0036】
本実施形態の中空糸膜は、厚み方向に不均一な構造(非対称構造)を有する膜であることが好ましい。中空糸膜は非対称構造を有する場合、細胞の凍結保存に用いられるような極めて低い温度、凍結およびその後の融解の際の体積変化などによる中空糸膜の強度低下を抑制する効果が高いと考えられる。その理由は明らかではないが、不均一な構造の方が均一な構造よりもポリマー鎖の緩衝能力が高くなり、中空糸膜の体積変化等の影響を受けにくくなることが一つの理由として考えられる。
【0037】
非対称構造を有する中空糸膜としては、例えば、厚み方向で密度(空孔率、断面開孔率)などが異なる中空糸膜が挙げられる。このような中空糸膜としては、例えば、一方の表面側に緻密層を有し、この緻密層が実質的に中空糸膜の孔径を規定する分離活性層となっており、他方の表面側は緻密層よりも密度が低いような膜が挙げられる。
【0038】
非対称構造を有する中空糸膜では、一方の表面の開孔率と他方の表面の開孔率とが異なることが好ましい。開孔率が大きい方の一方の表面の開孔率は、他方の表面の開孔率の1.1倍以上であることが好ましく、1.3倍以上であることがより好ましい。このような非対称構造を有することにより、ガラス化凍結において中空糸膜の外側の溶液から中空糸膜内部の溶液への伝熱が速やかに生じるために氷晶の生成を抑制でき、膜構造や細胞へのダメージを抑えているものと考えられる。
なお、膜表面の開孔率の測定においては、まず、中空糸膜を10,000倍の走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて撮像する。得られた画像より、縦762pixel×横620pixelの領域を切り出した後、画像解析ソフト(例えば、WinROOF2013)を使用し、白/黒に画像を二値化し、中空糸膜の内表面および外表面の開孔率を求める。これを10視野実施してその平均を求め、表面開孔率とする。
【0039】
中空糸膜の面積率は、中空糸膜の厚み方向断面(横断面)における空孔部以外の実部(膜が存在する部分)の面積比率である。面積率は、中空糸膜の断面をSEMで撮影した画像を解析することにより決定される。具体的には、膜断面を膜厚方向に後述するような3つの領域に分割し、それぞれについて面積率を測定する。3つの領域は、外表面を含む領域A、内表面を含む領域B、および、領域Aと領域Bの間の領域(中心領域C)である。SEMの倍率は、空孔部と実部が認識できる倍率であればよく、本発明の中空糸膜の測定のためには例えば5000倍~20000倍が適当である。面積率は、画像解析を用いた方法で算出される。具体的には、画像解析ソフト(例えば、WinROOF2013)を用いて空孔部と実部(ポリマー部)の二値化処理を行う。二値化処理の後、空孔部の総面積とポリマー部の総面積の比率から面積率を算出する。
【0040】
本実施形態において中空糸膜は、上記非対称構造を有しながら、膜の厚み方向においてかさ密度(厚み方向断面における面積率)の変動が小さい(好ましくはほぼ一定である)という特徴を有する。理由は明らかでないが、上記構造的特徴を有することにより急激な温度変化やガラス化液の体積変化に耐えることができるものと思われる。そのため、凍結、融解による中空糸膜構造の脆化や破壊を抑えることができ、膜強度を保つことができると考えられる。
なお、厚み方向断面における面積率の変動が小さいとは、例えば、厚み方向断面のうち、外表面を含む領域A、内表面を含む領域B、および、中心領域C(領域Aと領域Bの間の領域)について面積率(%)の差が小さいことを意味する。具体的には、領域A、BおよびCの面積率を測定したときに、a(領域Aの面積率)、b(領域Bの面積率)およびc(領域Cの面積率)から選択される2つの面積率の組み合わせの全てにおいて、2つの面積率の差の絶対値が5%未満であることが好ましく、3%未満であることがより好ましい(下記式参照)。なお、例えば、領域Aは、外表面から膜厚の30%の深さまでの領域であり、領域Bは、内表面から膜厚の30%の深さまでの領域である。
好ましくは、
|a-b|<5%、かつ、|b-c|<5%、かつ、|c-a|<5%
より好ましくは、
|a-b|<3%、かつ、|b-c|<3%、かつ、|c-a|<3%
【0041】
厚み方向断面の平均面積率(例えば、「(a+b+c)/3」)は、好ましくは40%以上70%以下である(下式参照)。
40%≦(a+b+c)/3≦70%
【0042】
また、本発明において、中空糸膜は内表面の平滑性が高いことが好ましい。内表面の平滑性が高いことにより中空糸膜の内表面に卵細胞や胚細胞が接触しても、細胞表面に傷などを与えるリスクを最小限に抑えることができる。ここで、平滑性が高いとは、算術平均粗さRa値が20nm以下であることを意味する。平滑性が高い方が細胞に与えるダメージは小さくなるので、Ra値は10nm以下がより好ましく、1nm以上8nm未満がさらに好ましい。算術平均粗さRa値は、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定することができる。
【0043】
<中空糸膜の製造方法>
本発明は、上記のセルロースエステルを含む中空糸膜の製造方法にも関する。
【0044】
本実施形態の中空糸膜の製造方法は、例えば、以下の方法である。
上記の中空糸膜の製造方法であって、
紡糸原液および内液を二重管状のノズルから空中走行部を経て凝固液中に吐出して、前記紡糸原液を前記凝固液中で凝固させ、前記紡糸原液の凝固物を前記凝固液中から曳き出すことにより、中空糸膜を得る、紡糸工程を含み、
前記紡糸原液は、セルロースエステルを含む樹脂原料、溶剤および非溶剤を含み、
前記内液は水を含み、
前記ノズルでの紡糸原液の温度が70~110℃であり、内液の温度が40~70℃であり、
前記紡糸原液中の前記非溶剤に対する前記溶剤の量の比率が60/40~80/20であり、
ノズルドラフト比が0.4~0.9である、製造方法。
【0045】
前記紡糸原液中のセルロースエステルの濃度は、10~30質量%であることが好ましい。
前記紡糸原液において、前記溶剤および前記非溶剤の総量に対する前記溶剤の量の比率は、60~80質量%であることが好ましい。
前記溶剤は、非プロトン性極性溶剤であることが好ましい。
前記非溶剤は、グリコールエステルであることが好ましい。
前記空中走行部の直線距離は、10~50mmであることが好ましい。
【0046】
〔紡糸工程〕
図6を参照して、紡糸工程では、紡糸原液(spinning dope)10aおよび内液10bを二重管状のノズル11から空中走行部(エアギャップ)20を経て凝固液21中に吐出して、紡糸原液を凝固液21中で凝固させ、紡糸原液の凝固物を凝固液21中から曳き出すことにより、中空糸膜16が得られる。中空糸膜の曳き出し等は、例えば、液中ガイド12およびローラー13,14,15により行われる。
【0047】
ノズル11は、二重管状であり、外管と、外管の内部に設けられた内管と、を備える。外管と内管との間の空隙(スリット)から紡糸原液が吐出され、内管の内部から内液が吐出される。内管の直径(スリットの内径)に対する外管の直径(スリットの外径)の比率は、好ましくは110~300%であり、より好ましくは110~200%である。外管の直径は、好ましくは220~400μmであり、より好ましくは220~330μmである。内管の直径は、好ましくは150~330μmであり、より好ましくは150~270μmである。なお、内管の直径は、中空糸膜の直径と同程度であることが好ましい。
スリットの断面積に対する内管の断面積の比率は、80~120%であることが好ましい。このようなノズルを採用することによって、製膜原液の吐出線速度と引取り速度を同程度にできるため、吐出された製膜原液と内液との界面摩擦を低減することが可能となり、中空糸膜内面の荒れを防ぐことが可能となる。
なお、製膜原液の吐出線速度は、製膜原液の吐出量をノズルスリット外径(a)とノズルスリット内径(b)から求められるスリット断面積〔π(a/2)-π(b/2)〕で除して求められる(下記式参照)。
製膜原液の吐出線速度[m/分]=製膜原液の吐出量/スリット断面積
引取り速度は、凝固浴の出口に設けられたローラー13の回転速度(表面速度)である(図6参照)。
吐出線速度に対する引き取り速度の比率(引取り速度/吐出線速度)であるノズルドラフト比は、0.4~0.9であり、好ましくは0.5~0.9である。このように、製膜原液の引き取り速度に対して吐出線速度を早くすることにより、本発明の中空糸の特徴的な膜構造を得ることができる。
【0048】
前記空中走行部20の直線距離(ノズル11の先端と凝固液21の液面との間の距離)は、好ましくは10~50mmであり、より好ましくは10~40mmである。
【0049】
なお、紡糸工程によって得られた中空糸膜は、さらに純水による洗浄工程(水洗工程)に付されてもよい。水洗工程での、水の流れは中空糸膜の移動方向と反対方向の流れ(向流)であることが好ましいが、中空糸膜の移動方向と同じ方向の流れ(並流)であってもよい。
【0050】
(紡糸原液)
紡糸原液10aは、上記セルロースエステルを含む樹脂原料、溶剤および非溶剤を含む。
【0051】
ノズル11での紡糸原液の温度(設定温度)は、70~110℃であり、好ましくは70~100℃である。
【0052】
前記紡糸原液中のセルロースエステルの濃度は、好ましくは10~30質量%であり、より好ましくは10~25質量%である。セルロースエステルの濃度が低すぎると、中空糸膜の強度が低くなる。一方、セルロースエステルの濃度が高すぎると、紡糸原液の粘度が高くなり過ぎて、紡糸の実施が困難になる場合がある。
【0053】
溶剤は、セルロースエステルを溶解可能な液体である。溶剤は、極性溶剤であることが好ましく、水に可溶であることが好ましい。極性溶剤は、プロトン性極性溶剤であることが好ましい。非プロトン性極性溶剤としては、例えば、N-メチルピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMA)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、アセトニトリル等が挙げられる。
【0054】
非溶剤は、セルロースエステルを溶解しない液体(水を除く)である。非溶剤としては、例えば、グリコールエステル、グリセリン、アルコール類などが挙げられるが、好ましくはグリコールエステルである。グリコールエステルとしては、例えば、エチレングリコール、トリエチレングリコール(TEG)、ポリエチレングリコール(ポリエチレングリコール200、ポリエチレングリコール400など)、プロピレングリコールなどが挙げられる。
【0055】
前記紡糸原液において、非溶剤(NS)に対する溶剤(S)の量の比率(S/NS比)は、60/40~80/20であり、より好ましくは65/35~75/25である。紡糸原液中のS/NS比が小さくなりすぎると、セルロースエステルの溶解が不安定になるため、紡糸安定性が低下するとか、本発明の用途に適した非対称構造を得られないことがある。S/NS比が大きくなると、非対称構造の中空糸膜が得られないとか、紡糸安定性が低下することがある。
なお、紡糸原液は、溶剤と非溶剤に加えて、さらに水を含んでいてもよい。
【0056】
中空糸膜の構成材料となるセルロースエステルを含む樹脂原料、溶剤および非溶剤を混合する際の材料の添加順序や混合方法は、特に限定されない。
【0057】
(内液)
内液は、水を含む。内液中の水の含有率は、95~100質量%であり、好ましくは98~100質量%である。
中空糸膜の内表面は平滑性が高いことが好ましい。凍結保存する細胞との接触によるダメージを少なく出来るからである。
中空糸膜の内表面の平滑性を高めるためには、紡糸原液をノズルより吐出した後、外乱の影響を受ける前に内表面を素早く凝固(固定)させ、過剰に相分離を進行させないことが好ましい。また、凝固中および凝固した後の内表面に延伸を掛けるなどの外力を与えず、中空糸膜構造が固定した後の内径変動などを極力抑制することが好ましい。
【0058】
内表面を素早く凝固させるためには、紡糸原液10aに対して凝固性の高い内液10bを用いたり、凝固しやすい紡糸原液組成や温度条件を採用したりすることが好ましい。
このため、本実施形態の製造方法では、セルロースエステルを含む紡糸原液に対して凝固性の高い水を含む内液が用いられる。
水のほか、一般的にセルロースエステルの非溶剤として用いられるエチレングリコールやトリエチレングリコール、ポリエチレングリコール200または400、グリセリン、プロピレングリコールなどもそれぞれ単独または混合して用いることができる。水を主体とした内液を用いる場合は、水以外の成分として、前記非溶剤やセルローストリアセテート系ポリマーの溶剤であるN-メチルピロリドンやジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどを5重量%を上限として添加することができる。
【0059】
ノズル11での内液の温度(設定温度)は、40~70℃であり、好ましくは45~65℃である。上述のとおり、ノズル11での紡糸原液の温度(設定温度)は70~110℃であるが、内液はこれよりも低い温度に設定されることが好ましい。ノズル11での内液の温度は、ノズル11での紡糸原液の温度に比べて、10℃以上低いことが好ましく、20℃以上低いことがより好ましく、30℃以上低いことが更に好ましい。
紡糸原液10aと内液10bを二重管状のノズル11より吐出する際、紡糸原液と内液との間に温度差を設けることが、紡糸原液(中空糸膜)の内表面の凝固性(凝固速度)を高めるうえで好ましい。内表面の凝固速度を高めることで、非対称構造(厚み方向に不均一な構造)を有する中空糸膜を得ることができる。また、内液の温度を特定の範囲に設定したうえで、後述する凝固液の組成を特定の範囲に調整したり、ノズルドラフトを調整することが、中空糸膜内表面の平滑性を高め、非対称構造でありながら膜断面において膜の厚み方向におけるかさ密度(面積率)の変化を少なくすることができる一因となっている。なお、紡糸原液と内液との間に温度差を設けるために、吐出直前まで紡糸原液と内液とを別々に温度コントロールできる構造を有するノズルを用いることが好ましい。
【0060】
(凝固液)
凝固液は、好ましくは溶剤と非溶剤(水を除く)とを含む。なお、この場合、凝固液は、溶剤と非溶剤に加えて、さらに水を含んでいてもよい。
凝固液中の溶剤および非溶剤の総量の比率(凝固液の濃度)は、60~90質量%であり、好ましくは65~90質量%である。これにより、本発明の中空糸膜の特徴的な構造を得ることできる。
【0061】
また、凝固液の温度は、好ましくは20~60℃であり、より好ましくは30~50℃である。
【実施例
【0062】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0063】
〔実施例1〕
実施形態で説明した中空糸膜の製造方法により、以下の条件で実施例1の中空糸膜が製造された。
【0064】
(紡糸原液の組成)
原料樹脂(セルロースエステル):三酢酸セルロース(CTA)(LT75、ダイセル化学工業製)
原料樹脂濃度(ポリマー濃度):17.5質量%(紡糸原液中)
溶剤:N-メチルピロリドン(NMP)
非溶剤:トリエチレングリコール(TEG)
〔溶剤/非溶剤(S/NS)比=7/3〕
内液:水
【0065】
(紡糸原液の調製)
上記の原料樹脂の粉末を他の材料と共に混合することで、紡糸工程で用いる紡糸原液を調製した。
【0066】
(凝固液の組成)
溶剤(S):NMP
非溶剤(NS):TEG

凝固液の濃度〔(Sの質量+NSの質量)/凝固液の質量〕:78質量%
S/NS比は、紡糸原液と同じ。
【0067】
(紡糸工程の条件)
紡糸原液の吐出温度(設定温度):93℃
内液(水)の吐出温度(設定温度):55℃
ノズル:二重管状ノズル(外管の直径:270μm、内管の直径:200μm)
空中走行部の距離(エアギャップ長):25m
空中走行部の滞留時間:0.025秒
凝固液の温度:43℃
曳き出し速度:60m/分
ノズルドラフト比:0.78
【0068】
〔水洗工程の条件〕
水洗槽の流れ:向流
温度 98℃
【0069】
〔実施例2,3〕
表1に示されるように、ノズルドラフト比が変更された。それ以外の点は実施例1と同様にして、実施例2および実施例3の中空糸膜が製造された。得られた中空糸膜の内表面の算術平均粗さ、面積率を測定した結果を表2に示した。
【0070】
〔比較例1,2〕
表1に示されるように、紡糸原液、内液および凝固液の各々の組成、並びに各製造条件が変更された。なお、内液として流動パラフィンを用い、内液の設定温度は、特に制御されず、紡糸原液温度と同程度である。それ以外の点は実施例1と同様にして、比較例1および比較例2の中空糸膜が製造された。
【0071】
【表1】
【0072】
〔面積率の測定〕
湿潤状態の中空糸膜を液体窒素中に浸漬して凍結させた後、液体窒素から取り出し、直ぐに折り曲げて割断することにより、平滑な断面(厚み方向断面)を有するサンプルを得た。断面を観察できるようにサンプルを試料台に固定し、サンプルの断面に対しカーボン蒸着を行った。蒸着後のサンプルの断面を走査型電子顕微鏡(日立製S-2500)を用いて加速電圧5kV、倍率10000倍にて撮像した。得られた画像のうち上述の領域A~C(外表面を含む領域A、内表面を含む領域B、および、領域Aと領域Bの間の中心領域C)の各々に相当する領域の中心部付近について、画像解析ソフトWinROOF2013を用いて空孔部とポリマー部の二値化処理を行った。二値化処理の後、空孔部とポリマー部の比率から面積率を算出した。ここで、領域Aは、外表面から膜厚の30%の深さまでの領域であり、領域Bは、内表面から膜厚の30%の深さまでの領域である。
なお、割断や電子線により断面の一部が溶解するなどして構造が不鮮明になることがあるので、その場合は構造が鮮明な部分を用いて測定を行うか、サンプルを変更して写真を撮り直した。
面積率の測定結果を表2に示す。
【0073】
〔算術平均粗さの測定〕
中空糸膜の内表面を観察できるように開腹した(中空糸膜の長手方向に斜めにカットした)中空糸膜を試料として準備した。原子間力顕微鏡E-Sweep(日立ハイテクノロジーズ社)を用いてDFMモードで大気中で観察を行った。カンチレバーとしてはSi-DF3、スキャナとしては20μmスキャナを用いた。観測視野を2μm四方とし、256×256pixelで中空糸膜の内表面の算術平均粗さ(Ra)を測定した。算術平均粗さ(Ra)の測定結果を表2に示す。
【0074】
【表2】
【0075】
<凍結保存試験>
実施例1~3および比較例1,2の中空糸膜について、ガラス化凍結法を用いた凍結保存試験を行った。ガラス化凍結法の条件は、上述の破断強度(ガラス化凍結法によって凍結された後に融解されたときの破断強度)を測定する際の条件と同様である。
凍結保存試験における実施例1~3および比較例1,2の各々の中空糸膜について、最初の乾燥状態(「乾燥状態」)、水により湿潤した状態(「湿潤状態」)、平衡液が浸潤した状態(「平衡液」)、ガラス化液が浸潤した状態(「ガラス化液」)、および、凍結後に融解された状態(「融解後」)において、以下の測定を実施した。
【0076】
〔中空糸膜の内径、外径および膜厚の測定〕
内径、外径および膜厚を以下の方法で測定した。
【0077】
中空糸膜をスライドグラスの中央に開けられた直径3mmの孔に中空糸膜が抜け落ちない程度に適当本数通し、スライドグラスの上下面に沿ってカミソリにより中空糸膜をカットし、中空糸膜断面サンプルを得る。得られた中空糸膜断面サンプルについて、投影機(Nikon PROFILE PROJECTOR V-12)を用いて中空糸膜の内径および外径を測定する。
具体的には、中空糸膜断面1個につき中空糸膜外表面のX-X方向とY-Y方向(断面上の直交する2方向)の寸法を測定し、それらの値の算術平均値を中空糸膜断面1個の外径とした。また、中空糸膜断面1個につき中空部のX-X方向とY-Y方向(断面上の直交する2方向)の寸法を測定し、算術平均値を中空糸膜断面1個の内径とした。なお、10断面について同様に測定を行い、平均値を内径および外径とした。
膜厚(平均値)は、中空糸膜の内径および内径の測定結果(平均値)に基づいて、「(外径-内径)/2」の式により算出される。
【0078】
中空糸膜の内径の測定結果(平均値)が表3(図1)に示され、膜厚の測定結果(平均値)が表4(図2)に示される。なお、比較例については、融解後は中空糸膜の強度が低く中空糸膜断面サンプルを作製することができなかったため、内径および膜厚を測定できなかった。
【0079】
【表3】
【0080】
【表4】
【0081】
〔強伸度の測定〕
実施例1~3および比較例1,2の中空糸膜について、以下の方法で強伸度(破断強度、破断伸度および降伏強度)を測定した。
【0082】
中空糸膜の強伸度は、引っ張り試験機(東洋ボールドウィン社製UTMII)を用い、中空糸膜1本を約15cmの長さに切断してチャック間(距離約10cm)に弛みがないように取り付け、20±5℃、60±10%Rhの温湿度環境下、クロスヘッドスピード10cm/minで中空糸膜を引張り、測定を行った。
得られたS-Sカーブから、中空糸膜の破断点の単糸あたりの荷重(破断強度)、伸度(破断伸度)および降伏点の単糸あたりの荷重(降伏強度)、伸度(降伏伸度)を読み取った。具体的には、特開2011-212638号公報の[0061]に示される方法を用いて荷重および伸度を得た。
破断強度、破断伸度および降伏強度の各々の測定結果が表5~表7(図3図5)に示される。なお、実施例および比較例の各々について、5回ずつ測定を実施し、その平均値が測定値として示される。
【0083】
【表5】
【0084】
【表6】
【0085】
【表7】
【0086】
表5(図3)に示されるように、比較例の中空糸膜では、凍結前(表および図中の「乾燥状態」、「湿潤状態」、「平衡液」および「ガラス化液」)の値に比べて、凍結を経た融解後の状態では破断強度が顕著に低下している。これに対して、実施例の中空糸膜の場合は、凍結前の値に比べて、融解後の状態でも破断強度がほとんど低下していない。なお、実施例の中空糸膜では、ガラス化凍結法による凍結後の融解された状態での破断強度が凍結前の湿潤時(「湿潤状態」)の破断強度の95%以上である。
【0087】
また、表6および表7(図4および図5)に示されるように、比較例の中空糸膜では、凍結前の値に比べて、凍結を経た融解後の状態では破断伸度および降伏強度が顕著に低下している。これに対して、実施例の中空糸膜の場合は、凍結前の値に比べて、融解後の状態でも破断伸度および降伏強度がほとんど低下していない。なお、実施例の中空糸膜では、ガラス化凍結法による凍結後の融解された状態での破断伸度または降伏強度が凍結前の湿潤時(「湿潤状態」)の破断伸度または降伏強度の95%以上である。
【0088】
これらの結果から、実施例の中空糸膜が細胞の凍結保存に用いられた際の強度の低下を抑制できることが分かる。
【0089】
<細胞生存率の評価>
実施例1~3および比較例1の中空糸膜を用いて、ガラス化凍結法(中空糸凍結保存法)により、細胞(ブタ由来胚細胞)を凍結し、融解した後に、生存細胞数を測定し、生存率(供試細胞数に対する生存細胞数の比率)を算出した。
【0090】
また、細胞凍結保存器具の市販品であるクライオトップ(Cryotop:登録商標、株式会社北里コーポレーション製)を用いて、ガラス化凍結法(クライオトップ法)により、細胞を凍結し、融解した後に、生存細胞数を測定し、生存率を算出した。
【0091】
以上の生存率の評価結果が、供試細胞数(試験に供された細胞の数)および生存細胞数と共に、表8に示される。なお、ガラス化凍結法の条件は、上述の強伸度を測定した際と同様の条件であり、中空糸膜凍結保存法では、細胞が中空糸膜の内部に収容された状態で凍結保存を行った。
【0092】
【表8】
【0093】
表8に示されるように、実施例1~3の中空糸膜を用いて細胞の凍結保存を行った場合、融解後の生存細胞の比率(生存率)が市販品や比較例よりも高かった。この結果から、実施例1~3の中空糸膜は、細胞凍結保存の用途に好適に使用できることが分かる。
【符号の説明】
【0094】
10a 紡糸原液、10b 内液、11 ノズル、12 液中ガイド、13,14,15 ローラー、16 中空糸膜、20 空中走行部、21 凝固液。
図1
図2
図3
図4
図5
図6