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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】外接ギヤポンプのギヤ軸受構造
(51)【国際特許分類】
   F04C 2/18 20060101AFI20241106BHJP
   F04C 15/00 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
F04C2/18 311D
F04C15/00 G
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2022571064
(86)(22)【出願日】2021-09-30
(86)【国際出願番号】 JP2021036031
(87)【国際公開番号】W WO2022137706
(87)【国際公開日】2022-06-30
【審査請求日】2023-02-03
(31)【優先権主張番号】P 2020211215
(32)【優先日】2020-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100170575
【弁理士】
【氏名又は名称】森 太士
(72)【発明者】
【氏名】谷田 真裕
(72)【発明者】
【氏名】高宮 健治
(72)【発明者】
【氏名】梅木 康由
(72)【発明者】
【氏名】嶋村 亮宏
【審査官】森 秀太
(56)【参考文献】
【文献】特開昭55-066682(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106050647(CN,A)
【文献】特開2000-130358(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 2/18
F04C 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外接ギヤポンプのギヤ軸受構造であって、
前記外接ギヤポンプのポンプボディの内部に回転可能に収納された駆動ギヤ及び従動ギヤと、
前記駆動ギヤ及び前記従動ギヤの噛み合い部の一側に形成された吸入室と、
前記噛み合い部の他側に形成された吐出室と、
前記駆動ギヤ又は前記従動ギヤの少なくとも一方の回転軸との間に潤滑液膜を形成して前記回転軸を支持する円筒状のブッシュと、
前記ポンプボディと前記ブッシュとの間に配置され、前記駆動ギヤ又は前記従動ギヤの少なくとも一方の側面と摺動接触するように前記ブッシュを付勢する環状板バネと、を備えている、外接ギヤポンプのギヤ軸受構造。
【請求項2】
請求項1に記載の外接ギヤポンプのギヤ軸受構造であって、
前記環状板バネが、周方向に波打つ形態のウェーブワッシャである、外接ギヤポンプのギヤ軸受構造。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の外接ギヤポンプのギヤ軸受構造であって、
前記環状板バネが配置された位置に前記吐出室から流体を導入する流路をさらに備えている、外接ギヤポンプのギヤ軸受構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一対のギヤにより流体を送り出す外接ギヤポンプのギヤ軸受構造[a structure a bearing for a gear in an external gear pump]に関する。
【背景技術】
【0002】
日本国特開2000-145661号公報は、外接ギヤポンプを開示している。外接ギヤポンプは、ポンプボディ内に一対の駆動ギヤ[driving gear]及び従動ギヤ[driven gear]を備える。駆動ギヤ及び従動ギヤの各外周にはギヤ歯が形成されている。駆動ギヤ及び従動ギヤは、互いに噛み合った状態で、それらの軸方向両側からサイドプレートで挟持される。駆動ギヤ及び従動ギヤの噛み合い部[mesh portion]の一側には流体を吸入する吸入室[inlet chamber]が形成され、噛み合い部の他側には流体を吐出する吐出室[outlet chamber]が形成される。
【0003】
駆動ギヤ及び従動ギヤは、吐出室側で噛み合い始め、吸入室側で噛み合いが外れる。噛み合いが外れたギヤ歯の間に流体が入り込み、流体はギヤ歯の回転に伴ってギヤ歯とポンプボディの内面との間に保持されて周方向に沿って吐出室へと送られる[delivered]。駆動ギヤ及び従動ギヤの各回転軸は、流体軸受[fluid bearing]によって支持される。流体軸受では、回転軸を支持する各ブッシュ[bushing]の内周面と回転軸の外周面との間に、ギヤポンプで送られる流体によって潤滑液膜[lubricating liquid film]が形成される。また、ギヤの側面はブッシュの端面と摺接する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2000-145661号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ブッシュとギヤとの摺接面から流体が漏れると、ギヤポンプの効率が低下する。また、ポンプの吐出量に精度が求められる場合は、摺接面から流体が漏れると吐出量の精度が低下してしまう。本開示の目的は、流体の漏れを抑制して安定した精度で流体を吐出することのできる外接ギヤポンプのギヤ軸受構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る外接ギヤポンプのギヤ軸受構造は、前記外接ギヤポンプのポンプボディの内部に回転可能に収納された駆動ギヤ及び従動ギヤと、前記駆動ギヤ及び前記従動ギヤの噛み合い部の一側に形成された吸入室と、前記噛み合い部の他側に形成された吐出室と、前記駆動ギヤ又は前記従動ギヤの少なくとも一方の回転軸との間に潤滑液膜を形成して前記回転軸を支持する円筒状のブッシュと、前記ポンプボディと前記ブッシュとの間に配置され、前記駆動ギヤ又は前記従動ギヤの少なくとも一方の側面に向けて前記ブッシュを付勢する環状板バネと、を備えている。
【0007】
前記環状板バネは、周方向に波打つ形態のウェーブワッシャであってもよい。
【0008】
前記ギヤ軸受構造は、前記環状板バネが配置された位置に前記吐出室から流体を導入する流路をさらに備えていてもよい。
【発明の効果】
【0009】
本開示に係る外接ギヤポンプのギヤ軸受構造によれば、流体の漏れを抑制して安定した吐出量精度で流体を吐出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第一実施形態に係るギヤ軸受構造を備えた外接ギヤポンプの断面図である。
図2図1中のII-II線断面図である。
図3図1中のIII-III線断面図である。
図4】第一実施形態におけるブッシュ及び環状板バネを示す分解斜視図である。
図5】前記ブッシュの他端を示す斜視図である。
図6】前記外接ギヤポンプのミッドプレートの円形凸部を示す斜視図である。
図7】前記外接ギヤポンプのポンプボディ内に形成される高圧供給路を示す斜視図である。
図8】第二実施形態に係るギヤ軸受構造を備えた外接ギヤポンプの断面図である(図1相当図)。
図9】第二実施形態におけるブッシュ及び環状板バネを示す分解斜視図である(図4相当図)。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、いくつかの例示的な実施形態について、図面を参照して説明する。まず、図1図7を参照しつつ第一実施形態に係るギヤ軸受構造を説明する。
【0012】
第一実施形態に係るギヤ軸受構造を備える外接ギヤポンプPは、エンジンに液体燃料を送るポンプとして用いられている。以下、外接ギヤポンプPを単にギヤポンプPともいい、液体燃料を単に燃料ともいう。ギヤポンプPでは、この燃料がギヤポンプPの各部を潤滑する潤滑液体[lubricating liquid]としても利用される。以下、潤滑液体を潤滑油[lubricating oil]ともいう。即ち、本実施形態において燃料と潤滑油とは同じものである。以下、説明内容に応じて、燃料及び潤滑油の両方の語を用いる。
【0013】
図1及び図2に示されるように、ギヤポンプPは、ポンプボディB内に一対のギヤGを備えている。ポンプボディBは、本実施形態では、メインボディB1、サイドプレートB2、ミッドプレートB3及びエンドプレートB4によって構成されている。メインボディB1の内部には、噛み合った状態の一対のギヤGを収納するギヤ収納室1が形成されている。ギヤ収納室1は、ギヤGの回転軸心[rotational axes]Oに直角な断面において8字形を有している。
【0014】
ギヤGについては追って詳しく説明するが、各ギヤGの外周上には複数のギヤ歯が形成されている。ギヤ歯の先端は、ギヤ収納室1の内周面と潤滑液膜を介して摺動接触する。ギヤ収納室1のくびれ部[constriction portion]、即ち、ギヤGの噛み合い部の一側には、外部から燃料を吸入する吸入室2Iが形成され、他側には、燃料を吐出する吐出室2Oが形成されている。ギヤポンプPは容積型ポンプ[positive displacement pump]であり、吐出室2O側の流路抵抗などによって、吐出室2O内の圧力PHは、吸入室2I内の圧力PLよりも高い(PL<PH)。
【0015】
メインボディB1には、上述した回転軸心Oの方向の両側から、サイドプレートB2及びミッドプレートB3がボルト3などによって固定される。なお、サイドプレートB2側のボルトは図示されていない。ギヤGの各回転軸[rotational shaft]GSの両端は、後述する円筒形のブッシュFを介して、サイドプレートB2及びミッドプレートB3によってそれぞれ回転可能に保持される。ブッシュFについては追って詳しく説明するが、各ブッシュFは、その内周面100(図4及び図5参照)と回転軸GSの外周面との間に形成される潤滑液膜を利用する流体軸受を構成する。この流体軸受は滑り軸受[plain bearing]でもある。ミッドプレートB3の外側面には、リング状のエンドプレートB4が固定されている。エンドプレートB4の中央からは、一対のギヤGの一方の回転軸GS、即ち、第一ギヤG1の回転軸GS1が外部に延出されている。
【0016】
一対のギヤGの一方である第一ギヤG1は、外部動力によって回転される駆動ギヤである。第一ギヤG1の回転軸GS1の端部にはスプラインが形成されており(図7参照)、第一ギヤG1はスプラインを介して駆動源と接続される。一対のギヤGの他方である第二ギヤG2は、第一ギヤG1の回転に伴って回転される従動ギヤである。第一ギヤG1及び第二ギヤG2は、図2中の矢印に示されるように、互いに反対方向に回転する。ギヤ歯の形状及び数などの第一ギヤG1及び第二ギヤG2のギヤプロフィールは同じである。吸入室2I内の燃料は、第一ギヤG1及び第二ギヤG2それぞれのギヤ歯の間に保持された状態で、周方向に沿って、即ち、ギヤ収納室1の内周面に沿って運ばれて、吐出室2Oへと送られる。
【0017】
第一ギヤG1の回転軸GS1は、中実円柱で、第一ギヤG1を貫通するように第一ギヤG1と一体的に[monolithically]形成されている。回転軸GS1とサイドプレートB2との間には、回転軸GS1の回転を許容しつつ潤滑油の漏出を防止するオイルシールSが設けられている。回転軸GS1とミッドプレートB3との間にも、回転軸GS1の回転を許容しつつ潤滑油の漏出を防止するオイルシールSが設けられている。一方、第二ギヤG2の回転軸GS2は、中空円筒で、第二ギヤG2を貫通するように第二ギヤG2と一体的に形成されている。回転軸GS2の両端は、ブッシュFを介してサイドプレートB2及びミッドプレートB3によってそれぞれ保持される。潤滑油は、回転軸GS2の内部を通って流通し得る。
【0018】
第一ギヤG1の回転軸GS1のミッドプレートB3側の部分は第一ブッシュF11によって保持され、そのサイドプレートB2側の部分は第二ブッシュF12によって保持されている。同様に、第二ギヤG2の回転軸GS2のミッドプレートB3側の部分は第一ブッシュF21によって保持され、そのサイドプレートB2側の部分は第二ブッシュF22によって保持されている。本実施形態の第一ギヤG1の第一ブッシュF11と第二ギヤG2の第一ブッシュF21とは、図3に示されるように、第一ギヤG1と第二ギヤG2との中央における、回転軸GSの回転軸心Oに平行な対称面に対して対称に構成されている。ただし、第一ギヤG1の第一ブッシュF11と第二ギヤG2の第一ブッシュF21とは、後述する低圧側凹部[low-pressure depressed portion]101及び高圧側凹部[high-pressure depressed portion]102aの形状が若干異なる。
【0019】
対称に構成された第一ブッシュF11及びF21について、図4及び図5に示される第一ブッシュF11を参照しつつ以下に説明する。第一ブッシュF11は、円筒形を有しており、その外周面上に段部が形成されている。当該段部には、リング状の第二面P2が形成されている。即ち、第一ブッシュF11には第二面P2を境にして大径部と小径部とが形成されており、大径部の外径は、第一ギヤG1のギヤ外径に等しい(図2参照)。大径部の外周面上には、回転軸GSの軸方向への摺動を容易にするための潤滑溝103が形成されている。
【0020】
第一ブッシュF11の大径部の外周面上の一部は接触平面104として形成されている。この接触平面104が第二ギヤG2の第一ブッシュF21の接触平面104と面接された状態で、第一ブッシュF11及びF21がギヤ収納室1内のミッドプレートB3側に配置されている。従って、第一ブッシュF11及びF21は、回転不能にギヤ収納室1に収納されている。接触平面104を含む平面が、第一ブッシュF11及びF21の上述した対称面である。第一ブッシュF11の内周面100の内径は、第一ギヤG1の回転軸GS1の外径にほぼ等しく、内周面100と回転軸GS1との間に潤滑液膜が形成される。即ち、内周面100は、回転軸GS1の外周面と潤滑液膜を介して摺動接触する。
【0021】
第二面P2は、回転軸GS1の回転軸心O1に対して垂直な平面であり、ミッドプレートB3の円形凸部[circular protrusion]6(図1参照)の第一面P1(図6参照)と対向する。そして、この第二面P2と第一面P1との間に、環状板バネ[ring plate spring]4が介装されている(図4参照)。本実施形態の環状板バネ4は、バネ性を有する金属によって形成されたウェーブワッシャ[wave washer]である。環状板バネ4は、圧縮状態で第二面P2と第一面P1との間、即ち、ポンプボディBと第一ブッシュF11との間に配置され、第一ブッシュF11を第一ギヤG1の側面に向けて付勢している。環状板バネ4の中央の孔には、回転軸GS1が挿通される。
【0022】
本実施形態の環状板バネ4は、周方向に四周期で波打つ形態のウェーブワッシャであり、第一面P1及び第二面P2のそれぞれと四箇所で接触する。第一ブッシュF11を第一ギヤG1の側面に向けて回転軸GS1の回転軸心O1方向に正確に付勢するには、第一面P1及び第二面P2のそれぞれと三箇所以上で接触するのが望ましい。また、第一面P1及び第二面P2のそれぞれとの接触位置は周方向に均等に配置されるのが望ましい。本実施形態の場合、環状板バネ4の幅は、第二面P2の幅が最も狭くなる位置に合わせて設定されている。具体的には、第二面P2の幅は、上述した接触平面104の中央で最も狭くなるので、この幅とほぼ同じ、より具体的にはやや狭くなるように環状板バネ4の幅が設定されている。
【0023】
第一ブッシュF11は、第一ギヤG1に面する第三面P3を有している。第三面P3も、回転軸GS1の回転軸心O1に対して垂直な平面であり、第一ギヤG1の側面と潤滑液膜を介して摺動接触する。第三面P3から外周面及び接触平面104の吸入室2I側の部分にかけて、低圧側凹部101が形成されている。低圧側凹部101の湾曲凹内面[concave inner surface]は、吸入室2Iの一部である。第三面P3から外周面及び接触平面104の吐出室2O側の部分にかけて、高圧側凹部102aが形成されている。高圧側凹部102aの湾曲凹内面は、吐出室2Oの内面となる。高圧側凹部102aからは、周方向に沿ってテーパ部102bが延長されている。テーパ部102bは、第三面P3と外周面との間にテーパ面を形成する。第一ブッシュF11は、ミッドプレートB3に面する第四面P4を有している。第四面P4も、回転軸GS1の回転軸心O1に対して垂直な平面である。
【0024】
ここで、一対のギヤGの周方向に形成される圧力領域[pressure ranges]について図3を参照しつつ説明する。上述したように、吐出室2O内の圧力PHは、吸入室2I内の圧力PLよりも高い(PL<PH)。従って、第一ギヤG1及び第二ギヤG2の外周に対応するギヤ収納室1の内周に沿って、吸入室2Iに面して低圧領域[low-pressure range]Lが形成される。この低圧領域Lは、上述した低圧側凹部101に対応する。一方、第一ギヤG1及び第二ギヤG2の外周に対応するギヤ収納室1の内周に沿って、吐出室2Oに面して高圧領域[high-pressure range]Hが形成される。この高圧領域Hは、上述した高圧側凹部102aに対応する。ここで、高圧側凹部102aはテーパ部102bによって周方向に拡大されている。このため、高圧領域Hは、テーパ部102bまで拡大されている。
【0025】
上述したように、燃料は、ギヤGのギヤ歯の間に溜められて、周方向に運ばれる。この間、ギヤ歯間の燃料の圧力は、低圧領域Lにあれば低圧であり、高圧領域Hにあれば高圧である。低圧領域Lと高圧領域Hとの間には、摺動部の潤滑液膜を介して燃料の圧力が低圧から高圧へと徐々に移行する圧力移行領域[pressure transition range]Tが形成される。圧力移行領域Tは、昇圧領域[pressure rising range]とも呼べる。このように、ギヤGの外周に対応して、低圧領域L、圧力移行領域T及び高圧領域Hが区画される。
【0026】
第一ブッシュF11の内周面100上には、貫通溝[pass through groove]107が形成されている。貫通溝107は、上述した高圧領域H(図3参照)内に位置している。貫通溝107は、回転軸GS1の回転軸心O1に平行に、内周面100の一端から他端までの全長に亘って形成されている。貫通溝107の内面は、凹曲面として形成されている。貫通溝107の第四面P4側の一端は、ミッドプレートB3の内部を通して吸入室2Iの低圧の潤滑油に連通している。貫通溝107内の潤滑油は、第一ブッシュF11の内周面100と回転軸GS1の外周面との間に潤滑液膜を形成する。潤滑液膜を形成する潤滑油は貫通溝107によって第四面P4側の低圧側の端部から排出され、潤滑油が循環することで摺動面[sliding surfaces]が冷却される。
【0027】
上述したように、第一ブッシュF11又はF21の第二面P2は、ミッドプレートB3の第一面P1と対向する。第一面P1も、回転軸GSの回転軸心Oに対して垂直な平面である。図6に示されるように、第一面P1は、ミッドプレートB3の円形凸部6の端面として形成されている。円形凸部6は、ミッドプレートB3のメインボディB1に面する表面から突出されている。円形凸部6の第一面P1上には、第一ブッシュF11の端部を収納する第一収納穴H1と第一ブッシュF21の端部を収納する第二収納穴H2とが形成されている。第一収納穴H1は、内周面上に段差を有する貫通孔であり、第一ギヤG1の回転軸GS1が当該貫通孔を貫通する。第二収納穴H2[bottomed hole]は、有底穴である。
【0028】
第一収納穴H1は、第一ブッシュF11の小径部を収納する。従って、第一ブッシュF11の小径部と大径部との境界である第二面P2が第一面P1と対向する。同様に、第二収納穴H2は、第一ブッシュF21の小径部を収納する。従って、第一ブッシュF21の小径部と大径部との境界である第二面P2も第一面P1と対向する。上述した圧縮状態の環状板バネ4は、第一面P1及び第二面P2と当接して第一ブッシュF11及びF21を第一面P1から離間させる方向に付勢する。
【0029】
円形凸部6の外周面上、並びに、第一収納穴H1及び第二収納穴H2の内周面上には、潤滑油の漏出を防止するOリングを収納するシール溝7がそれぞれ形成されている。図6には、第二面P2と第一面P1との間に高圧の潤滑油を供給する高圧供給路[high-pressure supply passage]5も示されている。高圧供給路5については追って詳しく説明するが、本実施形態の高圧供給路5の出口端[outlet end]である開口端[open end]5cは、T字状に分岐され、一方の先端は第一ブッシュF11の第二面P2と対向し、他方の先端は第一ブッシュF21の第二面P2と対向する。即ち、開口端5cは、第一ブッシュF11及び第一ブッシュF21の両方の第二面P2と対向する。第一面P1と第二面P2との間に供給された高圧の潤滑油は、環状板バネ4と共に、第一ブッシュF11及びF21を付勢する。
【0030】
以上、ミッドプレートB3側に配置される第一ブッシュF11又はF21について説明した。本実施形態では、サイドプレートB2側に配置される第二ブッシュF12又はF22は、第一ブッシュF11又はF21と一部異なっている。第二ブッシュF12又はF22の第二面P2の位置には環状板バネ4は配置されない。また、第二ブッシュF12は第一ギヤG1に対して第一ブッシュF11とほぼ対称な形状を有しており、第二ブッシュF22は第二ギヤG2に対して第一ブッシュF21とほぼ対称な形状を有している。貫通溝107内の潤滑油は、第一ブッシュF21の内周面100と回転軸GS1の外周面との間に潤滑液膜を形成する。潤滑液膜を形成する潤滑油は貫通溝107によって第四面P4側の低圧側の端部から排出され、潤滑油が循環することで潤滑摺動面が冷却される。サイドプレートB2に面する第二ブッシュF22の第四面P4とミッドプレートB3に面する第一ブッシュF21の第四面P4とは、第二ギヤG2の回転軸GS2の内部を介して連通している。
【0031】
第二ブッシュF12及びF22は、ギヤ収納室1のサイドプレートB2側に収納されている。ここで、上述したように、第一ブッシュF11及びF21は第一面P1から離間する方向[in a direction away from the first surface P1](図1中左方)付勢されている。即ち、第一ブッシュF11及びF21は、一対のギヤGに向けて付勢されている。第二ブッシュF12及びF22は、それらの第二面P2がメインボディB1の段部と当接するので、それらの回転軸GSの回転軸心O方向の位置が決まる。一対のギヤGは、付勢された第一ブッシュF11及びF21に押されて、それらの側面で第二ブッシュF12及びF22の第三面P3と潤滑液膜を介して摺動接触する。なお、上述したように、一対のギヤGは、それらの反対側の側面で付勢された第一ブッシュF11及びF21の第三面P3とも潤滑液膜を介して摺動接触する。このようにして、ギヤG、第一ブッシュF11及びF21、並びに、第二ブッシュF12及びF22の摺動状態が安定化される。
【0032】
図7を参照しつつ、高圧供給路5について説明する。なお、図を見やすくするために、図7には環状板バネ4は図示されていない。ミッドプレートB3の外面には、高圧供給路5に高圧の潤滑油を供給するための供給ポート[supply port]8が設けられている。供給ポート8は、吐出室2O内の高圧の燃料を吐出する吐出ポート[discharge port]9と配管(図示せず)によって接続されている。供給ポート8から円形凸部6のやや外側に向けて直線的に高圧供給路5の主路5aが形成されている。主路5aは、回転軸GSの回転軸心Oに対して直角に形成されている。主路5aの先端には、高圧供給路5の副路5bが接続されている(図6も参照)。副路5bは、回転軸GSの回転軸心Oに対して平行に、即ち、第一面P1に対して直角に形成されている。そして、副路5bの先端に上述したT字状に分岐された開口端5cが形成されている。
【0033】
なお、高圧供給路5は、ポンプボディBの内部のみで開口端5cと吐出室2Oとを連通してもよい。高圧供給路5は、環状板バネ4が配置された位置、即ち、第二面P2と第一面P1との間の位置に吐出室2Oから流体を導入する流路の一部である。なお、本実施形態では、第一面P1と第二面P2との間の微小隙間は、摺動面に面していないため、全周に亘って潤滑油を高圧に維持することができる。さらに、本実施形態では、第一面P1と第二面P2との間には環状板バネ4も介装されており、第一面P1と第二面P2との間の微小隙間は高圧の潤滑油の貯留部として機能する。その結果、開口端5cから第一面P1と第二面P2との間へと高圧の潤滑油を安定して供給できる。
【0034】
上述した構成を備えたギヤポンプPにおいて、潤滑油は、ギヤG周面とポンプボディBとの間、ギヤG側面と第三面P3との間、及び、回転軸GSの外周面とブッシュFの内周面100との間に形成される上述した摺動部の潤滑液膜を介して移動し得る。しかし、本実施形態では、第一ブッシュF11及びF21の第二面P2とミッドプレートB3の第一面P1との間に高圧の潤滑油が供給されると共に、この第二面P2と第一面P1との間に環状板バネ4も介装される。従って、潤滑油圧力と環状板バネ4とで第一ブッシュF11及びF21をギヤGの側面に向けて付勢して、ギヤG側面と第三面P3との間での潤滑油の漏れを抑制する。この結果、ギヤポンプの効率低下が抑制される。また、ギヤG側面と第三面P3との間での潤滑油の漏れが抑制されるので、燃料の吐出量の精度低下も抑制できる。
【0035】
また、上述したように、本実施形態では、ギヤGを付勢する潤滑油圧力には吐出室2O内の潤滑油の圧力PHが利用される。本実施形態では吐出室2O内の圧力PHが低くても環状板バネ4が第一ブッシュF11及びF21をギヤGの側面に向けて付勢しているため、ギヤG側面と第三面P3との間での潤滑油の漏れは抑制され得る。一方、吐出室2O内の圧力PHが上昇すると、上述した高圧領域H(図3参照)におけるギヤG側面と第三面P3との間での潤滑油の漏れが増えそうに思われる。しかし、本実施形態では、圧力PHが第二面P2と第一面P1との間に作用するので潤滑油圧力及び環状板バネ4による第一ブッシュF11及びF21の付勢力も増加する。従って、ギヤG側面と第三面P3との間での潤滑油の漏れはそのまま抑制され得る。
【0036】
ここで、環状板バネ4を備えた上述した付勢機構を次のような付勢機構と比較する。比較例となる付勢機構では、第二面P2上に周方向に沿って圧縮状態のコイルスプリングを収納する複数の収納穴[accommodation holes]を設けて、複数のコイルスプリングで第一ブッシュF11及びF21をギヤG側面に向けて付勢する。しかし、この比較例では、コイルスプリングのせいで部品点数が増加する。また、収納穴の加工工程及び収納穴へのコイルスプリングの収納工程など製造工程も増加する。さらに、収納穴にコイルスプリングを収納させた状態で組み立てなければならないため製造工程が複雑になる。従って、ギヤポンプPの製造は複雑化する。これに対して、本開示の環状板バネ4を用いたギヤ軸受構造であれば、環状板バネ4は第一ブッシュF11及びF21の小径部に挿通されると自ずと位置決めされるのでこれらの問題は生じない。
【0037】
また、比較例の場合は、収納穴を加工するために第二面P2の径方向の幅を広く、即ち、第二面P2の面積を広くせざるを得ない。第一ブッシュF11及びF21の付勢には吐出室2O内の圧力PHが利用されるので、これは圧力PHを受ける面積が広くなることを意味する。このため、ギヤGの回転数が高くなって圧力PHが高くなると第一ブッシュF11及びF21の付勢力が高くなりすぎることが懸念される。第一ブッシュF11及びF21の過剰な付勢力はギヤGの回転抵抗を増加させ、ポンプ効率の低下やギヤG及びブッシュFの摩耗の原因となる。従って、この比較例の構成はギヤポンプPの設計自由度を制限することがある。これに対して、本実施形態では、環状板バネ4を用いるので第二面P2の径方向の幅の設計自由度が高く、ギヤポンプPの設計自由度を向上させることができる。より具体的には、高圧側の第二面P2の面積と低圧側の第四面P4の面積の比率を任意に設定しやすく、潤滑油圧力による付勢力の設計自由度を高くできる。
【0038】
次に、図8及び図9を参照しつつ第二実施形態に係るギヤ軸受構造を説明する。本実施形態は、環状板バネ4を設ける位置が第一実施形態と異なる。以下には、第一実施形態と異なる構成のみを説明する。第一実施形態と同一又は同等の構成には同一の符号を付してそれらの詳しい説明は省略する。
【0039】
本実施形態では、環状板バネ4は、第一ブッシュF11の第四面P4と第一収納穴H1の底面との間、及び、第一ブッシュF21の第四面P4と第二収納穴H2の底面との間に設けられている(図6も参照)。第一収納穴H1及び第二収納穴H2は、上述したように、ミッドプレートB3の円形凸部6に形成されている。図9は、第一ブッシュF11及びF21のうちの第一ブッシュF11のみを示しているが、第一実施形態と同様に、第一ブッシュF21側の部分も対称に構成されている。図9に示される第一ブッシュF11を参照しつつ以下に説明する。
【0040】
本実施形態の環状板バネ4も、バネ性を有する金属によって形成されたウェーブワッシャである。環状板バネ4は、圧縮状態で第四面P4と第一収納穴H1の底面との間、即ち、ポンプボディBと第一ブッシュF11との間に配置され、第一ブッシュF11を第一ギヤG1の側面に向けて付勢している。環状板バネ4の中央の孔には、回転軸GS1が挿通される。本実施形態の環状板バネ4も、周方向に四周期で波打つ形態のウェーブワッシャである。環状板バネ4の幅は、第四面P4の幅とほぼ等しい。
【0041】
第四面P4と第一収納穴H1の底面との間、即ち、環状板バネ4が配置された位置には、上述したように吸入室2I内の圧力PLが導入されているが、本実施形態においても第一面P1及び第二面P2の間には吐出室2O内の圧力PHが導入されている。従って、環状板バネ4及び圧力PHによって第一ブッシュF11を第一ギヤG1の側面に向けて付勢している。なお、ギヤポンプPの組立時には、環状板バネ4は、回転軸GS1に挿通されると位置決めされる。
【0042】
本実施形態によっても、上述した第一実施形態と同様に、潤滑油圧力と環状板バネ4とで第一ブッシュF11及びF21をギヤGの側面に向けて付勢して、ギヤG側面と第三面P3との間での潤滑油の漏れを抑制できる。この結果、ギヤポンプの効率低下が抑制される。また、ギヤG側面と第三面P3との間での潤滑油の漏れが抑制されるので、燃料の吐出量の精度低下も抑制できる。さらに、本実施形態では、第二面P2の面積の設計自由度、即ち、潤滑油圧力による第一ブッシュF11及びF21の付勢力の設計自由度は第一実施形態よりも高い。
【0043】
第一及び第二実施形態について説明したが、本開示に係るギヤ軸受構造は、回転軸GSを支持する円筒状のブッシュFを備えている。ブッシュFは、駆動ギヤG1又は従動ギヤG2の少なくとも一方の回転軸GSとの間に潤滑液膜を形成する。また、本開示に係るギヤ軸受構造は、ポンプボディBとブッシュFとの間に配置され、駆動ギヤG1又は従動ギヤG2の少なくとも一方の側面に向けてブッシュFを付勢する環状板バネ4も備えている。従って、環状板バネ4によってブッシュFと駆動ギヤG1又は従動ギヤG2の側面との間での流体の漏れが抑制される。この結果、流体の漏れを抑制して安定した吐出量精度で流体を吐出することができる。
【0044】
ここで、環状板バネ4が、周方向に波打つ形態のウェーブワッシャであると、ブッシュFを駆動ギヤG1又は従動ギヤG2の側面に向けて安定して付勢することができる。ウェーブワッシャは周方向に波打つ形態を有しているので、ブッシュFをより全周にわたって均一に付勢してブッシュFをギヤGの回転軸GSの方向に正確に付勢できる。従って、ブッシュFの第三面P3が均一にギヤGの側面に摺動接触されるので、流体の漏れを安定して抑制できる。この結果、より安定した吐出量精度で流体を吐出することができる。
【0045】
また、本開示(第一実施形態)では、環状板バネ4が配置された位置、即ち、第一面P1と第二面P2との間の位置に吐出室2Oから流体を導入する流路である高圧供給路5がさらに設けられている。このため、吐出室2O内の高い圧力PHと環状板バネ4とでブッシュFを駆動ギヤG1又は従動ギヤG2の側面に向けて安定して付勢することができる。環状板バネ4が配置された位置、即ち、第一面P1と第二面P2との間の位置が供給された流体の貯留部となるので、安定して圧力をブッシュFに作用させることができる。そして、ギヤGの回転数が低い場合は環状板バネ4によりブッシュFの付勢が担保される。一方、回転数が上昇して圧力PHが上昇してもその圧力PHでブッシュFを付勢するので回転数が上昇しても流体の漏れを安定して抑制できる。この結果、より安定した吐出量精度で流体を吐出することができる。
【0046】
いくつかの実施形態を説明したが、上記開示内容に基づいて実施形態の修正または変形をすることが可能である。上記実施形態のすべての構成要素、及び請求の範囲に記載されたすべての特徴は、それらが互いに矛盾しない限り、個々に組み合わされてもよい。
【0047】
例えば、上述した実施形態では、環状板バネ4は継ぎ目のない完全な環状形状を有するウェーブワッシャであった。しかし、環状板バネ4は、径方向に切断された単巻型ウェーブスプリングでもよい。この場合、単巻型ウェーブスプリングの場合、切断端部が離間されたC字状でもよいし、切断端部が重なっている環状であってもよい。また、環状板バネ4は、皿ばね[disc spring]でもよい。また、皿ばねでも、内周縁及び外周縁の一方又は両方から多数の切れ目[slots]が形成された皿ばねでもよい。また、環状板バネ4は、駆動ギヤ及び従動ギヤの両方に対して設けられるのが望ましいが、いずれか一方のみに設けられてもよい。環状板バネ4が設けられたギヤにおいては上述した効果が得られる。
【0048】
本出願は、2020年12月21日に出願された日本国特許願第2020-211215号に基づく優先権を主張しており、この出願の全内容が参照により本明細書に組み込まれる。
【符号の説明】
【0049】
2I 吸入室
2O 吐出室
4 環状板バネ(ウェーブワッシャ)
5 高圧供給路(吐出室2Oから流体を導入する流路)
B ポンプボディ
F ブッシュ
F11,F21 第一ブッシュ
G ギヤ
G1 第一ギヤ(駆動ギヤ)
G2 第二ギヤ(従動ギヤ)
GS(GS1,GS2) 回転軸
P 外接ギヤポンプ
B ポンプボディ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9