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特許7582344複合構造体、積層セラミック電子部品前駆体、積層セラミック電子部品前駆体の製造方法、及び積層セラミック電子部品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】複合構造体、積層セラミック電子部品前駆体、積層セラミック電子部品前駆体の製造方法、及び積層セラミック電子部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/36 20060101AFI20241106BHJP
   B32B 27/20 20060101ALI20241106BHJP
   B32B 23/08 20060101ALI20241106BHJP
   B32B 23/18 20060101ALI20241106BHJP
   H01G 4/30 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
B32B27/36 102
B32B27/20 Z
B32B23/08
B32B23/18
H01G4/30 515
H01G4/30 516
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2022579371
(86)(22)【出願日】2021-12-13
(86)【国際出願番号】 JP2021045876
(87)【国際公開番号】W WO2022168445
(87)【国際公開日】2022-08-11
【審査請求日】2023-07-31
(31)【優先権主張番号】P 2021015275
(32)【優先日】2021-02-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 竜太
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(72)【発明者】
【氏名】吾郷 友樹
(72)【発明者】
【氏名】鶴 明大
(72)【発明者】
【氏名】塩田 準
(72)【発明者】
【氏名】木南 信之
【審査官】深谷 陽子
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-209923(JP,A)
【文献】特開2020-168869(JP,A)
【文献】特開平10-025439(JP,A)
【文献】特開平05-179016(JP,A)
【文献】国際公開第2021/029336(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
H01G 4/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の構造体と、第2の構造体とを含む複合構造体であって、
前記第1の構造体と、前記第2の構造体とが接しており、
前記第1の構造体が、脂肪族ポリカーボネート、及び第1の無機粒子を含み、
前記第2の構造体が、分岐型ポリマー、及び第2の無機粒子を含み、
前記分岐型ポリマーの分子鎖が、セルロース系ポリマーからなる主鎖と、脂肪族ポリカーボネート、又は脂肪族ポリエステルからなる枝鎖とを有し、
前記枝鎖は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよく、
前記枝鎖は、2以上の前記主鎖に結合して2以上の前記主鎖を架橋してもよく、
前記第1の構造体の形状と、前記第2の構造体の形状とが、ともにシート状であり、
前記第1の構造体と、前記第2の構造体とが積層されており、
前記第1の構造体と、前記第2の構造体とが繰り返し交互に積層されており、
前記第1の構造体が、前記第1の無機粒子として、金属粒子とセラミック粒子とを含み、
前記第2の構造体が、前記第2の無機粒子として、セラミック粒子を含み、金属粒子を含んでいてもよく、
前記第1の構造体において、前記金属粒子の占める体積が、前記セラミック粒子の占める体積よりも大きく、
前記第2の構造体において、前記セラミック粒子の占める体積が、前記金属粒子の占める体積よりも大きい、複合構造体。
【請求項2】
第1の構造体と、第2の構造体とを含む複合構造体であって、
前記第1の構造体と、前記第2の構造体とが接しており、
前記第1の構造体が、脂肪族ポリカーボネート、及び第1の無機粒子を含み、
前記第2の構造体が、分岐型ポリマー、及び第2の無機粒子を含み、
前記分岐型ポリマーの分子鎖が、セルロース系ポリマーからなる主鎖と、脂肪族ポリカーボネート、又は脂肪族ポリエステルからなる枝鎖とを有し、
前記枝鎖は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよく、
前記枝鎖は、2以上の前記主鎖に結合して2以上の前記主鎖を架橋してもよく、
前記第1の構造体の形状と、前記第2の構造体の形状とが、ともにシート状であり、
前記第1の構造体と、前記第2の構造体とが積層されており、
前記第1の構造体と、前記第2の構造体とが繰り返し交互に積層されており、
前記第1の構造体が、前記第1の無機粒子として、セラミック粒子を含み、金属粒子を含んでいてもよく、
前記第2の構造体が、前記第2の無機粒子として、金属粒子とセラミック粒子とを含み、
前記第1の構造体において、前記セラミック粒子の占める体積が、前記金属粒子の占める体積よりも大きく、
前記第2の構造体において、前記金属粒子の占める体積が、前記セラミック粒子の占める体積よりも大きい、複合構造体。
【請求項3】
前記金属粒子を構成する金属が、Ni、Cu、Ag、Pt、及びAuからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1、又は2に記載の複合構造体。
【請求項4】
前記セラミック粒子を構成する材料が、Ba、Ti、Sr、Ca、及びZrからなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の複合構造体。
【請求項5】
前記セルロース系ポリマーが、メチルセルロース、エチルセルロース、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、及びセルロースアセテートからなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の複合構造体。
【請求項6】
前記分岐型ポリマーの分子鎖が、前記脂肪族ポリエステルからなる前記枝鎖を有し、
前記脂肪族ポリエステルが、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸、ポリ(3-ヒドロキシ酪酸)、及びポリブチレンサクシネートからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1~5のいずれか1項に記載の複合構造体。
【請求項7】
前記第1の構造体と、前記第2の構造体とが、それぞれ独立に、分散剤、可塑剤、及び帯電防止剤からなる群より選択される少なくとも1種の添加剤を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の複合構造体。
【請求項8】
前記第2の構造体が、分散剤、可塑剤、及び帯電防止剤からなる群より選択される少なくとも1種の添加剤を含むか、又は含まず、
前記第2の構造体における前記セラミック粒子の含有量が、前記第2の構造体に含まれる前記分岐型ポリマーの体積と、前記第2の無機粒子の体積と、前記添加剤の体積との合計に対して、45体積%以上70体積%以下である、請求項1に記載の複合構造体。
【請求項9】
前記第1の構造体が、分散剤、可塑剤、及び帯電防止剤からなる群より選択される少なくとも1種の添加剤を含むか、又は含まず、
前記第1の構造体における前記金属粒子の含有量が、前記第1の構造体に含まれる前記脂肪族ポリカーボネートの体積と、前記第1の無機粒子の体積と、前記添加剤の体積との合計に対して、50体積%以上75体積%以下である、請求項1に記載の複合構造体。
【請求項10】
前記第1の構造体が、分散剤、可塑剤、及び帯電防止剤からなる群より選択される少なくとも1種の添加剤を含むか、又は含まず、
前記第1の構造体における前記セラミック粒子の含有量が、前記第1の構造体に含まれる前記脂肪族ポリカーボネートの体積と、前記第の無機粒子の体積と、前記添加剤の体積との合計に対して、45体積%以上70体積%以下である、請求項2に記載の複合構造体。
【請求項11】
前記第2の構造体が、分散剤、可塑剤、及び帯電防止剤からなる群より選択される少なくとも1種の添加剤を含むか、又は含まず、
前記第2の構造体における前記金属粒子の含有量が、前記第2の構造体に含まれる前記分岐型ポリマーの体積と、前記第2の無機粒子の体積と、前記添加剤の体積との合計に対して、50体積%以上75体積%以下である、請求項2に記載の複合構造体。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載の前記複合構造体を含む、積層セラミック電子部品前駆体。
【請求項13】
請求項1~11のいずれか1項に記載の前記複合構造体を、前記複合構造体の面方向に対して垂直又は略垂直な方向に切断することを含む、積層セラミック電子部品前駆体の製造方法。
【請求項14】
請求項13に記載の方法により前記積層セラミック電子部品前駆体を製造することと、
前記積層セラミック電子部品前駆体を焼成することと、を含む、積層セラミック電子部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪族ポリカーボネートと無機粒子とを含む構造体を含む複合構造体と、前述の複合構造体を含む積層セラミック電子部品前駆体と、前述の積層セラミック電子部品前駆体の製造方法と、前述の積層セラミック電子部品前駆体の製造方法を含む、積層セラミック電子部品の製造方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、脂肪族ポリカーボネート中に無機粒子が分散された構造体が種々の目的で使用されている。このような構造体は、様々な目的で、脂肪族ポリカーボネート以外の樹脂と無機粒子とを含む構造体と複合化され、複合構造体として使用される。
【0003】
例えば、特許文献1には、焼結セラミック成形用組成物において、セラミック粒子を分散させるためのバインダーとして、熱分解性に優れる脂肪族ポリカーボネートを用いることが提案されている。
また、特許文献2には、積層セラミックコンデンサ中の焼結セラミックである誘電体層上に形成される内部電極層形成用の導電性ペーストにおいて、金属粒子のような導電性粉末を分散させる成分としてのエチルセルロースの使用が提案さている。エチルセルロースは、特許文献2に記載の導電性ペーストに、良好な印刷特性と、導電性粉末の優れた分散性安定性を与える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-020916号公報
【文献】特開2018-168238号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、特許文献1に記載されるような焼結セラミック成形用組成物からなるシート状の層と、特許文献2に記載されるような導電性ペーストからなるシート状の層とを積層して複合化すると、焼成することにより積層セラミック電子部品を与える積層体が得られる。
かかる積層体は、製造される積層セラミック電子部品のサイズに合わせて、押切りのような方法により切断して、小さく分割された状態でしばしば焼成に供される。
【0006】
しかしながら、焼結セラミック成形用組成物に含まれる脂肪族ポリエステルは、必ずしも、他の種類の樹脂との密着性が良好でない。このため、特許文献1に記載されるような焼結セラミック成形用組成物からなるシート状の層と、特許文献2に記載されるような導電性ペーストからなるシート状の層とが積層された積層体に押切りのような方法で外力を加えて切断すると、層間の密着性の不足により層間の剥離が生じやすい問題がある。
【0007】
本発明は、上記の課題に鑑みなされたものであって、脂肪族ポリカーボネートと無機粒子とを含む構造体を含む複合構造体であって、脂肪族ポリカーボネートと無機粒子とを含む構造体と接触する他の構造体とが両者の界面において外力により剥離しにくい複合構造体と、前述の複合構造体を含む積層セラミック電子部品前駆体と、前述の積層セラミック電子部品前駆体の製造方法と、前述の積層セラミック電子部品前駆体の製造方法を含む、積層セラミック電子部品の製造方法とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、脂肪族ポリカーボネートと無機粒子とを含む構造体を含む複合構造体において、脂肪族ポリカーボネート、及び第1の無機粒子を含む第1の構造体と、分岐型ポリマー、及び第2の無機粒子を含む第2の構造体とを複合化し、分岐型ポリマーとして、その分子鎖が、セルロース系ポリマーからなる主鎖と、脂肪族ポリカーボネート、又は脂肪族ポリエステルからなる枝鎖とを有するポリマーを用いることによって、上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下の(1)~(6)を提供する。
【0009】
(1)第1の構造体と、第2の構造体とを含む複合構造体であって、
第1の構造体と、第2の構造体とが接しており、
第1の構造体が、脂肪族ポリカーボネート、及び第1の無機粒子を含み、
第2の構造体が、分岐型ポリマー、及び第2の無機粒子を含み、
分岐型ポリマーの分子鎖が、セルロース系ポリマーからなる主鎖と、脂肪族ポリカーボネート、又は脂肪族ポリエステルからなる枝鎖とを有し、
枝鎖は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよく、
枝鎖は、2以上の主鎖に結合して2以上の主鎖を架橋してもよい、複合構造体。
(2)シート状の第1の構造体と、シート状の第2の構造体とが繰り返し交互に積層されており、
第1の構造体が、第1の無機粒子として、金属粒子とセラミック粒子とを含み、
第2の構造体が、第2の無機粒子として、セラミック粒子を含み、金属粒子を含んでいてもよく、
第1の構造体において、金属粒子の体積が、セラミック粒子の体積よりも大きく、
第2の構造体において、セラミック粒子の体積が、金属粒子の体積よりも大きい、(1)に記載の複合構造体。
(3)シート状の第1の構造体と、シート状の第2の構造体とが繰り返し交互に積層されており、
第1の構造体が、第1の無機粒子として、セラミック粒子を含み、金属粒子を含んでいてもよく、
第2の構造体が、第2の無機粒子として、金属粒子とセラミック粒子とを含み、
第1の構造体において、セラミック粒子の体積が、金属粒子の体積よりも大きく、
第2の構造体において、金属粒子の体積が、セラミック粒子の体積よりも大きい、(1)に記載の複合構造体。
(4)(2)又は(3)に記載の複合構造体を含む、積層セラミック電子部品前駆体。
(5)(2)又は(3)に記載の複合構造体を、複合構造体の面方向に対して垂直又は略垂直な方向に切断することを含む、積層セラミック電子部品前駆体の製造方法。
(6)(5)に記載の方法により積層セラミック電子部品前駆体を製造することと、
積層セラミック電子部品前駆体を焼成することと、を含む、積層セラミック電子部品の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、脂肪族ポリカーボネートと無機粒子とを含む構造体を含む複合構造体であって、脂肪族ポリカーボネートと無機粒子とを含む構造体と接触する他の構造体とが両者の界面において外力により剥離しにくい複合構造体と、前述の複合構造体を含む積層セラミック電子部品前駆体と、前述の積層セラミック電子部品前駆体の製造方法と、前述の積層セラミック電子部品前駆体の製造方法を含む、積層セラミック電子部品の製造方法とを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
≪複合構造体≫
複合構造体は、第1の構造体と、第2の構造体とを含む。複合構造体において、第1の構造体と、第2の構造体とが接する。
第1の構造体は、脂肪族ポリカーボネート、及び第1の無機粒子を含む。
第2の構造体は、分岐型ポリマー、及び第2の無機粒子を含む。
分岐型ポリマーの分子鎖は、セルロース系ポリマーからなる主鎖と、脂肪族ポリカーボネート、又は脂肪族ポリエステルからなる枝鎖とを有する。枝鎖は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。枝鎖は、2以上の前記主鎖に結合して2以上の前記主鎖を架橋してもよい。
【0012】
第1の構造体が、脂肪族ポリカーボネートを含み、第2の構造体が、脂肪族ポリカーボネート、又は脂肪族ポリエステルからなる主鎖を有する分岐型ポリマーを含むことによって、第1の構造体と第2の構造体とが良好に密着する。これは、脂肪族ポリカーボネートと、上記の分岐型ポリマーとが、両者の化学構造の類似性に基づいて高い親和性を示すためである。
このため、複合構造体に外力が加わった場合に、第1の構造体と第2の構造体とが接触する界面における剥離が生じにくい。
【0013】
複合構造体を構成する構成する第1の構造体と、第2の構造体とについて、第1の構造体と、第2の構造体とが接触した状態で複合化され得る限りにおいて、形状、構造、サイズは特に限定されない。
第1の構造体と、第2の構造体との形状としては、シート状、角柱形状、円柱形状等が挙げられる。角柱形状には、直方体形状、立方体形状、三角形状、五角柱形状等が含まれる。
第1の構造体と、第2の構造体との形状は、互いに接触面が密着するように篏合可能な立体形状であってもよい。
【0014】
複合構造体が、シート状の第1の構造体と、シート状の第2の構造体からなる場合、複合構造体が、第1の構造体と、第2の構造体とが積層された積層体であるのが好ましい。
前述の通り、第1の構造体と第2の構造体とが良好に密着する。このため、かかる積層体では、積層体に外力が加わっても、層間剥離が生じにくい。
【0015】
積層体である複合構造体の好ましい例としては、
シート状の第1の構造体と、シートの状の第2の構造体とが繰り返し交互に積層されており、
第1の構造体が、第1の無機粒子として、金属粒子とセラミック粒子とを含み、
第2の構造体が、第2の無機粒子として、セラミック粒子を含み、金属粒子を含んでいてもよく、
第1の構造体において、金属粒子の体積が、セラミック粒子の体積よりも大きく、
第2の構造体において、セラミック粒子の体積が、金属粒子の体積よりも大きい、複合構造体が挙げられる。
【0016】
積層体である複合構造体の他の好ましい例としては、
シート状の第1の構造体と、シート状の第2の構造体とが繰り返し交互に積層されており、
第1の構造体が、第1の無機粒子として、セラミック粒子を含み、金属粒子を含んでいてもよく、
第2の構造体が、第2の無機粒子として、金属粒子とセラミック粒子とを含み、
第1の構造体において、セラミック粒子の体積が、金属粒子の体積よりも大きく、
第2の構造体において、金属粒子の体積が、セラミック粒子の体積よりも大きい、複合構造体が挙げられる。
【0017】
積層体である上記の複合構造体において、第1の構造体、及び第2の構造体に含まれる、無機粒子としてのセラミック粒子、及び金属粒子については、第1の構造体、及び第2の構造体の成分として後述する。
【0018】
上記の複合構造体は、積層セラミック電子部品の製造に好適に使用され得る。積層セラミック電子部品として、積層セラミックコンデンサ、インダクタ、圧電素子、サーミスタ等が挙げられる。積層セラミックコンデンサ等の積層セラミック電子部品において、典型的には、誘電体層と内部電極層とが繰り返し交互に積層されている。
【0019】
例えば、積層セラミック電子部品が、積層セラミックコンデンサである場合、積層される誘電体層の厚さは、1.0μm以下が好ましく、0.4μm以下がより好ましい。積層される誘電体層の厚さは、0.15μm以上が好ましい。積層される誘電体層の厚さは、0.15μm以上1.0μm以下が好ましく、0.15μm以上0.4μm以下がより好ましい。
積層セラミック電子部品の製造に好適に用いられる、積層体としての複合構造体において、誘電体層の合計層数は、15枚以上700枚以下が好ましい。
【0020】
上記の複合構造体において、第2の無機粒子として、セラミック粒子を含み、金属粒子を含んでいてもよいシート状の第2の構造体、又は第1の無機粒子として、セラミック粒子を含み、金属粒子を含んでいてもよいシート状の第1の構造体は、誘電体であるセラミック粒子リッチであり、焼成されることにより誘電体層を与える。
【0021】
誘電体層を与える第2の構造体、及び第1の構造体は、後述するように、添加剤を含んでいてもよい。
誘電体層を与える第2の構造体におけるセラミック粒子の含有量は、第2の構造体に含まれる分岐型ポリマーの体積と、第2の無機粒子の体積と、添加剤の体積との合計に対して、45体積%以上70体積%以下が好ましく、55体積%以上65体積%以下がより好ましい。
誘電体層を与える第1の構造体におけるセラミック粒子の含有量は、第1の構造体に含まれる脂肪族ポリカーボネートの体積と、第1の無機粒子の体積と、添加剤の体積との合計に対して、45体積%以上70体積%以下が好ましく、55体積%以上65体積%以下がより好ましい。
体積は構造体の中央部の断面を観察し、各粒子の面積から換算してもよい。
【0022】
誘電体層を与えるシート状の第2の構造体、又はシート状の第1の構造体は、所謂グリーンシートである。シート状の第2の構造体、又はシート状の第1の構造体は、典型的には、後述する第2の構造体形成用のペースト、又は後述する第1の構造体形成用のペーストを用いて、ダイコータシート法やドクターブレード法等の公知の方法により形成される。成形されたペーストからなる膜は、好ましくは乾燥される。所謂グリーンシートであるシート状の第2の構造体、又はシート状の第1の構造体の成形及び乾燥後の厚さは、4μm以下が好ましく、3μm以下がより好ましい。
【0023】
積層セラミック電子部品が、積層セラミックコンデンサである場合、積層される内部電極層の厚さは、0.20μm以上1.0μm以下が好ましく、0.20μm以上0.80μm以下がより好ましい。
積層セラミック電子部品の製造に好適に用いられる、積層体としての複合構造体において、内部電極層の合計層数は、15枚以上700枚以下が好ましい。
【0024】
上記の複合構造体において、第1の無機粒子として、金属粒子とセラミック粒子とを含むシート状の第1の構造体、又は第2の無機粒子として、金属粒子とセラミック粒子とを含むシート状の第2の構造体は、金属粒子リッチであり、焼成されることにより内部電極層を与える。
金属粒子の分散性、及び分散安定性の観点から、内部電極層を与える構造体は、後述する分岐型ポリマーを含む第2の構造体が好ましい。
【0025】
内部電極層を与える第1の構造体、及び第2の構造体は、後述するように、添加剤を含んでいてもよい。
内部電極層を与える第1の構造体における金属粒子の含有量は、第1の構造体に含まれる脂肪族ポリカーボネートの体積と、第1の無機粒子の体積と、添加剤の体積との合計に対して、50体積%以上75体積%以下が好ましく、60体積%以上70体積%以下がより好ましい。
内部電極層を与える第2の構造体における金属粒子の含有量は、第2の構造体に含まれる分岐型ポリマーの体積と、第2の無機粒子の体積と、添加剤の体積との合計に対して、50体積%以上75体積%以下が好ましく、60体積%以上70体積%以下がより好ましい。
体積は構造体の中央部の断面を観察し、各粒子の面積から換算してもよい。
【0026】
内部電極層を与える第1の構造体におけるセラミック粒子の含有量は、第1の構造体に含まれる脂肪族ポリカーボネートの体積と、第1の無機粒子の体積と、添加剤の体積との合計に対して、3体積%以上15体積%以下が好ましく、5体積%以上10.5体積%以下がより好ましい。
内部電極層を与える第2の構造体におけるセラミック粒子の含有量は、第2の構造体に含まれる分岐型ポリマーの体積と、第2の無機粒子の体積と、添加剤の体積との合計に対して、3体積%以上15体積%以下が好ましく、5体積%以上10.5体積%以下がより好ましい。
【0027】
内部電極層を与えるシート状の第1の構造体、又はシート状の第2の構造体は、典型的には、誘電体層を与えるグリーンシートとしての第2の構造体、又は第1の構造体上に、後述する第2の構造体形成用のペースト、又は後述する第1の構造体形成用のペーストを用いて、グラビア印刷法やスクリーン印刷法等の印刷法により形成される。内部電極層を与えるシート状の第1の構造体、又はシート状の第2の構造体の印刷、及び乾燥後の厚さは、例えば、1.5μm以下が好ましい。
【0028】
内部電極層の形状は特に限定されない。内部電極層の形状は、内部電極層の面方向に対して垂直な方向から内部電極層を観察した場合の形状として、矩形が好ましく、コイル形状等の形状であってもよい。内部電極層を与えるシート状の第1の構造体、又はシート状の第2の構造体の形状は、形成される内部電極層の形状に対応する形状が採用される。
【0029】
このようにして形成される、第1の構造体、又は第2の構造体であるグリーンシート上に、第2の構造体、又は第1の構造体としての内部電極層を与える層を備える2層構造の積層体を、多数、積層及び圧着させることにより、積層セラミック電子部品前駆体として好適に使用され得る積層体が得られる。圧着は、静水圧プレスのような方法で行われてもよい。
【0030】
積層セラミック電子部品は、積層体である上記の複合構造体そのものを焼成した後に、焼成された積層体に、積層セラミック電子部品の種類に応じた構成を付加するか、積層体である上記の複合構造体に対して積層セラミック電子部品の種類に応じた構成を付加された積層体を焼成することによって製造され得る。
つまり、積層体である上記の複合構造体を含む積層セラミック電子部品前駆体を、積層セラミック電子部品の製造に好適に用い得る。
【0031】
積層セラミック電子部品は、好ましくは、以下の方法により製造される。まず、誘電体層を与えるシート状の構造体と内部電極層を与えるシート状の構造体とが積層された積層体を形成する。次いで、得られた積層体を、押切りのような方法により、積層体の面方向に対して垂直又は略垂直方向に切断して所望するサイズの積層ブロックを形成する。その後、得られた積層ブロックに対して、焼成等を含む周知の加工を施すことにより、積層セラミック電子部品が製造される。かかる積層ブロック、又は周知の加工を施された積層ブロックも、積層セラミック電子部品前駆体に相当する。
【0032】
積層体である複合構造体を切断する際、切断面にかかるせん断力等によって、層間剥離が生じやすい。しかし、脂肪族ポリカーボネートを含む第1の構造体と、特定の構造を有する分岐型ポリマーを含む第2の構造体とが積層された積層構造体は、押切りのような方法で切断されても、切断面近傍での層間剥離が生じにくい。
【0033】
以下、第1の構造体、及び第2の構造体について説明する。
【0034】
<第1の構造体>
前述の通り、第1の構造体は、脂肪族ポリカーボネート、及び第1の無機粒子を含む。第1の構造体は、所望する効果が損なわれない範囲で、脂肪族ポリカーボネート、及び第1の無機粒子以外のその他の成分を含んでいてもよい。
以下、第1の構造体が含み得る成分と、第1の構造体の形成方法とについて説明する。
【0035】
〔脂肪族ポリカーボネート〕
脂肪族ポリカーボネートとしては、第1の構造体を形成可能であれば特に限定されない。従来公知の脂肪族ポリカーボネートが、第1の構造体の成分として採用され得る。
脂肪族ポリカーボネートとしては、例えば、下記式(1):
-(-O-CO-O-CR-CR-)-・・・(1)
で表される構成単位からなる樹脂が挙げられる。
【0036】
式(1)中、R、R、R、及びRは、それぞれ独立に、水素原子、又は置換基を有してもよい炭素原子数1以上10以下のアルキル基である。R、R、R、及びRの少なくとも2つが結合して環構成原子数が3以上10以下である脂肪族環を形成してもよい。)
【0037】
、R、R、及びRとしての置換基を有してもよいアルキル基の構造は、直鎖状であっても、分岐鎖状であってもよい。R、R、R、及びRとしての置換基を有してもよいアルキル基の炭素原子数は、1以上4以下が好ましく、1又は2がより好ましい。なお、置換基の炭素原子数は、アルキル基の炭素原子数に含まれない。
【0038】
、R、R、及びRとしてのアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル気、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-へプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、及びn-デシル基が挙げられる。
【0039】
、R、R、及びRとしてのアルキル基が置換基を有する場合、アルキル基に結合する置換基の数は、所望する効果が損なわれない範囲で特に限定されない。アルキル基に結合する置換基の数は、1又は2が好ましい。
【0040】
、R、R、及びRとしての置換基を有してもよいアルキル基が有していてもよい置換基の具体例としては、水酸基、アルコキシ基、エステル基、シリル基、スルファニル基、シアノ基、ニトロ基、スルホ基、ホルミル基、カルボキシ基、及びハロゲン原子等が挙げられる。
【0041】
置換基としてのアルコキシ基の炭素原子数は特に限定されないが、例えば、1以上4以下が好ましく、1又は2がより好ましい。置換基としてのアルコキシ基の好適な具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、n-プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、n-ブチルオキシ基、イソブチルオキシ基、sec-ブチルオキシ基、及びtert-ブチルオキシ基が挙げられる。
【0042】
置換基としてのハロゲン原子の好適な具体例としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、及びヨウ素原子が挙げられる。
【0043】
、R、R、及びRは、1種又は2種以上の基を含んでいてもよい。例えば、R、R、R、及びRが同一の基であってよい。R、R、及びRが同一の基であり、Rが、R、R、及びRと異なる基であってよい。R、R、及びRが同一の基であり、Rが、R、R、及びRと異なる基であってよい。R、R、R、及びRが、互いに異なる4種の基であってよい。
【0044】
、R、R、及びRの少なくとも2つが結合して環構成原子数が3以上10以下である脂肪族環を形成してもよい。脂肪族環は、飽和脂肪族環であっても、不飽和脂肪族環であってもよい。脂肪族環は置換基を有していてもよい。脂肪族環が有していてもよい置換基の数は、所望する効果が損なわれない範囲で特に限定されない。脂肪族環が置換基を有する場合、置換基の数は1又は2が好ましい。
【0045】
脂肪族環の具体例としては、シクロペンタン環、シクロペンテン環、シクロヘキサン環、シクロヘキセン環、シクロヘプタン環等が挙げられる。
【0046】
脂肪族環は、アルキル基、アルコキシ基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニル基、シリル基、スルファニル基、シアノ基、ニトロ基、スルホ基、ホルミル基、及びハロゲン原子等の置換基を有してもよい。
置換基としてのアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、及びtert-ブチル基が挙げられる。
置換基としてのアルコキシ基の具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、n-プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、n-ブチルオキシ基、イソブチルオキシ基、sec-ブチルオキシ基、及びtert-ブチルオキシ基が挙げられる。
置換基としてのアシルオキシ基の具体例としては、アセトキシ基、プロピオニルオキシ基、ブタノイルオキシ基、イソブタノイルオキシ基、及びピバロイルオキシ基が挙げられる。
置換基としてのアルコキシカルボニル基の具体例としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、及びtert-ブトキシカルボニル基が挙げられる。
置換基としてのハロゲン原子の具体例としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、及びヨウ素原子が挙げられる。
【0047】
上記式(1)で表される構成単位からなる脂肪族ポリカーボネート以外に、ポリトリメチレンカーボネート、ポリテトラメチレンカーボネート、ポリヘキサメチレンカーボネート、ポリ-2,2-ジメチルトリメチレンカーボネート、及びポリ1,4-シクロヘキサンジメチレンカーボネート、等を脂肪族ポリカーボネートとして好適に用いることができる。
【0048】
以上説明した脂肪族ポリカーボネートの中では、ポリエチレンカーボネート、ポリプロピレンカーボネート、ポリトリエチレンカーボネート、及びポリテトラメチレンカーボネートが好ましく、ポリプロピレンカーボネート、及びポリテトラメチレンカーボネートがより好ましく、ポリプロピレンカーボネートがさらに好ましい。
【0049】
上記の複合構造体は、焼成される場合がある。上記の好ましい脂肪族ポリカーボネートを用いる場合、焼成による熱分解後の残渣が少なく、所望する形状の第1の構造体の形成が容易である。また、これらの脂肪族ポリカーボネートは、第1の無機粒子との親和性に優れる。
【0050】
脂肪族ポリカーボネートは、1種単独で使用されてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0051】
所望する効果が損なわれない範囲で、脂肪族ポリカーボネートの末端基が修飾されていてもよい。末端基の修飾としては、酸無水物、環状酸無水物、酸ハロゲン化物、及びイソシアネート化合物等による修飾が挙げられる。
【0052】
所望する効果が損なわれない範囲で、脂肪族ポリカーボネートは、部分的に、ポリエーテル構成単位、ポリエステル構成単位、ポリアミド構成単位、及びポリアクリレート構成単位等のポリカーボネート構成単位以外の他の構成単位を含んでいてもよい。脂肪族ポリカーボネートにおける、他の構成単位の含有量は、脂肪族ポリカーボネートの全構成単位のモル数に対して、10モル%以下が好ましく、5モル%以下がより好ましく、3モル%以下がさらに好ましく、1モル%以下が特に好ましい。
【0053】
〔第1の無機粒子〕
第1の構造体は、第1の無機粒子を含む。第1の無機粒子としては、従来から種々の樹脂組成物に添加されている無機粒子を特に制限なく用いることができる。
第1の無機粒子としては、典型的には、セラミック粒子、及び/又は金属粒子が好ましい。
【0054】
前述したように、複合構造体の好適な例としては、積層セラミック電子部品の前駆体として有用な積層体が挙げられる。第1の構造体が、積層セラミック電子部品における誘電体層を与えるグリーンシートである場合や、第1の構造体が積層セラミック電子部品における内部電極層を与える導電性ペーストからなる導電性シートである場合に、セラミック粒子が、第1の構造体の構成成分として有用である。
セラミック粒子について、その構成材料が、Ba、Ti、Sr、Ca、及びZrからなる群より選択される少なくとも1種を含むのが好ましい。
セラミック粒子の好ましい具体例としては、チタン酸バリウム粒子、チタン酸カルシウム粒子、チタン酸ストロンチウム粒子、及びジルコン酸チタン酸鉛粒子等が挙げられる。
セラミック粒子としては、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0055】
第1の構造体が積層セラミック電子部品における内部電極層を与える導電性ペーストからなる導電性シートである場合、第1の無機粒子としての金属粒子が、第1の構造体の構成成分として有用である。
金属粒子を構成する金属としては、Ni、Cu、Ag、Pt、及びAuからなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
金属粒子は、2種以上の金属粒子を含んでいてもよい。金属粒子は、2種以上の金属を含む合金の粒子であってもよい。
【0056】
第1の構造体における第1の無機粒子の含有量は特に限定されない。第1の構造体における第1の無機粒子の含有量は、複合構造体の用途や、第2の構造体の組成を勘案して適宜定められる。第1の無機粒子の含有量は、典型的には、第1の構造体の体積に対して5体積%以上95体積%以下が好ましく、10体積%以上90体積%以下がより好ましい。
【0057】
〔可塑剤〕
第1の構造体は、複合構造体の加工性を向上させるために、脂肪族ポリカーボネート、及び第1の無機粒子以外に可塑剤を含んでいてもよい。
可塑剤の好適な具体例としては、ジメチルフタレート、ジエチルフタレート、n-ジブチルフタレート、ジブチルベンジルフタレート、及びアルキルブチルベンジルフタレート等のフタル酸系可塑剤;ジエチレングリコールジベンゾエート、ジプロピレングリコールジベンゾエート、及びポリエチレングリコール等のグリコール系可塑剤;トリクレジルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、2-エチルヘキシルジフェニルホスフェート、及びイソデシルジフェニルホスフェート等のリン酸系可塑剤;トリエチルO-アセチルシトレート、及びトリブチルO-アセチルシトレート等のクエン酸系可塑剤;ジブチルアジペート、及びジヘキシルアジペート等のアジピン酸系可塑剤;エチレンカーボネート、及びプロピレンカーボネート等のカーボネート系可塑剤;エポキシ化大豆油、及びエポキシ化亜麻仁油等のエポキシ系可塑剤が挙げられる。
【0058】
〔その他の添加剤〕
第1の構造体は、複合構造体の用途に応じて、脂肪族ポリカーボネート、第1の無機粒子、及び可塑剤以外のその他の添加剤を含んでいてもよい。
その他の添加剤としては、例えば、分散剤、及び帯電防止剤からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。
その他の添加剤の使用量は、所望する効果が損なわれない限り特に限定されない。その他の添加剤の使用量は、添加剤の種類に応じた通常使用され得る量を考慮して適宜決定される。
【0059】
〔第1の構造体の形成方法〕
第1の構造体を形成する方法は特に限定されない。第1の構造体中の脂肪族ポリカーボネートの比率が十分に高い場合、第1の構造体を形成する方法として、射出成形や押出成形のような溶融成形方法を適用できる。
また、脂肪族ポリカーボネートは、種々の溶剤に可溶である。このため、脂肪族ポリカーボネートと、有機溶媒と、第1の無機粒子と、必要に応じてその他の添加剤とを加えて第1の構造体形成用のペーストを調製した後、得られたペーストを、ダイコータシート法やドクターブレード法のような塗布法や、注型法等の方法により所望する形状に成形し、次いで、成形されたペーストを乾燥させることにより、第1の構造体が得られる。
第1の無機粒子の粒子径や、第1の構造体形成用のペーストの粘度によっては、ペーストをシート状に成形する方法として、グラビア印刷法やスクリーン印刷法を適用することもできる。
さらに、脂肪族ポリカーボネートと、第1の無機粒子と、必要に応じてその他の添加剤とを、固体状態で均一に混合させた後、得られた混合物を型内に充填した後、必要に応じて加熱しつつ圧縮することにより第1の構造体を成形することができる。
【0060】
ペーストを用いて第1の構造体を形成する場合、ペーストに加える有機溶媒の好適な例としては、イソプロパノール等のアルカノール類;トルエン、キシレン、及びイソホロン等の炭化水溶系溶媒;ターピネオール、及びジヒドロターピネオール等のターピネオール系溶媒;酢酸エチル、酢酸n-プロピル、酢酸n-ブチル、ターピネオールアセテート、及びジヒドロターピネオールアセテート等のエステル系溶媒;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、メチルカルビトール、エチルカルビトール、ブチルカルビトール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、及びジエチレングリコールジメチルエーテル等のグリコールエーテル系溶媒;エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート及び、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のグリコールエステル系溶媒;ジメチルカーボネート、及びプロピレンカーボネート等のカーボネート系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、及びシクロヘキサノン等のケトン系溶媒;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、及びN-メチル-2-ピロリドン等の含窒素極性有機溶媒等が挙げられる。
【0061】
有機溶媒を用いてペーストを調製する際の、有機溶媒の使用量は特に限定されない。有機溶媒の使用量は、ペーストの粘度が、ペーストを用いて実施される印刷法やコート法に適した粘度であるように適宜調整される。
【0062】
<第2の構造体>
第2の構造体は、分岐型ポリマー、及び第2の無機粒子を含む。第2の構造体は、所望する効果が損なわれない範囲で、分岐型ポリマー、及び第2の無機粒子以外のその他の成分を含んでいてもよい。
以下、第2の構造体が含み得る成分について説明する。
【0063】
〔分岐型ポリマー〕
分岐型ポリマーの分子鎖は、主鎖と枝鎖とを有する。主鎖は、セルロース系ポリマーからなる。枝鎖は、脂肪族ポリカーボネート、又は脂肪族ポリエステルからなる。
枝鎖は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。枝鎖は、2以上の主鎖に結合して2以上の主鎖を架橋してもよい。
上記の分岐型ポリマーを含む第2の構造体は、脂肪族ポリカーボネートを含む第1の構造体と良好に密着する。また、分岐型ポリマーは、第2の無機粒子を良好に分散させる。
【0064】
分岐型ポリマーにおいて、主鎖の質量に対する、枝鎖の質量の比率であるグラフト率は、所望する効果が損なわれない範囲で特に限定されない。分岐型ポリマーと、第1の構造体に含まれる脂肪族ポリカーボネートとの親和性が特に良好である点から、グラフト率は、10質量%以上400質量%以下が好ましく、50質量%以上250質量%以下がより好ましい。
グラフト率は、核磁気共鳴分光分析(NMR分析)により求めることができる。
【0065】
分岐型ポリマーの質量平均分子量は特に限定されない。分岐型ポリマーの質量平均分子量は、例えば、50,000以上1,000,000以下が好ましく、100,000以上600,000以下がより好ましい。分岐型ポリマーの質量平均分子量がかかる範囲内であると、分岐型ポリマーの、強度、伸び、及び靭性等の機械的特性や成形性が良好である。
【0066】
以下、主鎖、枝鎖、及び分岐型ポリマーの製造方法について説明する。
【0067】
(主鎖)
分岐型ポリマーは、セルロース系ポリマーからなる主鎖を有する。セルロース系ポリマーの種類は、セルロース系ポリマーの主鎖が、枝鎖が結合し得る官能基を有する限り特に限定されない。
セルロース系ポリマーの好適な具体例としては、セルロース;メチルセルロース、エチルセルロース、n-プロピルセルロース、イソプロピルセルロース、n-ブチルセルロース、tert-ブチルセルロース、及びn-ヘキシルセルロース等のアルキルセルロース;ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、及びヒドロキシブチルセルロース等のヒドロキシアルキルセルロース;セルロースアセテート、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、及びセルロースアセテートブチレート等のセルロースエステル;カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、及びカルボキシプロピルセルロース等のカルボキシアルキルセルロース;ニトロセルロース、アルデヒドセルロース、ジアルデヒドセルロース、及びスルホン化セルロース等のセルロース誘導体等が挙げられる。
分岐型ポリマーは、異なる種類のセルロース系ポリマーを主鎖として有する2種以上の分岐型ポリマー分子を含んでいてもよい。
【0068】
分岐型ポリマーの製造が容易で、第1の構造体に含まれる脂肪族ポリカーボネートとの相溶性に優れる分岐型ポリマーを得やすい点で、セルロース系ポリマーは、アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、及びセルロースエステルからなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
上記の好ましいセルロース系ポリマーの中では、メチルセルロース、エチルセルロース、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネート、及びセルロースアセテートからなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
セルロース系ポリマーの質量平均分子量は特に限定されない。セルロース系ポリマーの質量平均分子量は、例えば、5,000以上が好ましく、10,000以上がより好ましく、100,000以上が特に好ましい。セルロース系ポリマーの質量平均分子量は、1,000,000以下が好ましく、750,000以下がより好ましく、500,000以下がさらに好ましい。
より具体的には、セルロース系ポリマーの分子量は、5,000以上1,000,000以下が好ましく、10,000以上750,000以下がより好ましく、10,000以上750,000以下がより好ましい。
【0069】
セルロース系ポリマーの置換度は、所望する効果が損なわれない範囲で特に限定されない。セルロース系ポリマーの置換度は、2以上3以下が好ましく、典型的には2.5である。
セルロース系ポリマーの置換度は、セルロース系ポリマーの構成単位中の全水酸基のうち、枝鎖以外の基によって置換されている水酸基の総数である。
【0070】
(枝鎖)
分岐型ポリマーは、セルロース系ポリマーからなる主鎖に結合する枝鎖を有する。枝鎖は、脂肪族ポリカーボネート、又は脂肪族ポリエステルからなる。枝鎖は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。
典型的には、枝鎖は、1つの主鎖のみに結合する。枝鎖は、2以上の主鎖に結合して、2以上の主鎖を架橋してもよい。
【0071】
枝鎖が、主鎖に結合した状態で形成され得るか、主鎖に結合し得る限り、枝鎖を構成する脂肪族ポリカーボネート、又は脂肪族ポリエステルはそれぞれ特に限定されない。
枝鎖を構成する脂肪族ポリカーボネート、又は脂肪族ポリエステルの典型例については、以下の分岐型ポリマーの製造方法の説明において示す。
【0072】
(分岐型ポリマーの製造方法)
分岐型ポリマーの製造方法は特に制限されない。典型的には、グラフト重合法が採用される。グラフト重合法は、枝鎖の種類に応じて、公知の種々の方法から適宜選択され得る。
【0073】
グラフト重合法としては、例えば、開環重合法を採用できる。環状カーボネート化合物や、ラクトンのような環状エステル化合物を、セルロース系ポリマーの存在下に開環重合させることにより、脂肪族ポリカーボネート、又は脂肪族ポリエステルが、セルロース系ポリマーの分子鎖上に、グラフト鎖として生成する。
【0074】
例えば、環状化合物としてのプロピレンカーボネートは、ポリプロピレンカーボネートからなる枝鎖を与える。環状化合物としてのブチレンカーボネートは、ポリブチレンカーボネートからなる枝鎖を与える。環状化合物としてのシクロヘキセンカーボネートは、ポリシクロヘキセンカーボネートからなる枝鎖を与える。環状化合物としてのトリメチレンカーボネートは、ポリトリメチレンカーボネートからなる枝鎖を与える。環状化合物としての2,2-ジメチルトリメチレンカーボネートは、ポリ(2,2-ジメチルトリメチレンカーボネート)からなる枝鎖を与える。
【0075】
環状化合物としてのε-カプロラクトンは、脂肪族ポリエステルであるポリカプロラクトンからなる枝鎖を与える。環状化合物としてのL-ラクチドは、脂肪族ポリエステルであるL体のポリ乳酸を枝鎖として与える。環状化合物としてのD-ラクチドは、脂肪族ポリエステルであるD体のポリ乳酸を枝鎖として与える。環状化合物としてのメソ-ラクチドは、脂肪族ポリエステルであるシンジオタクチック体のポリ乳酸を枝鎖として与える。環状化合物としてのβ-プロピオラクトンは、脂肪族ポリエステルであるD体のポリ(3-ヒドロキシプロピオン酸)を枝鎖として与える。環状化合物としてのβ-ブチロラクトンは、脂肪族ポリエステルであるポリ(3-ヒドロキシ酪酸)を枝鎖として与える。環状化合物としてのγ-ブチロラクトンは、脂肪族ポリエステルであるポリ(4-ヒドロキシ酪酸)を枝鎖として与える。環状化合物としてのδ-バレロラクトンは、脂肪族ポリエステルであるポリ(3-ヒドロキシ吉草酸)を枝鎖として与える。環状化合物としてのp-ジオキサノンは、脂肪族ポリエステルであるポリ(p-ジオキサノン)を枝鎖として与える。
【0076】
典型的には開環重合は触媒の存在下に行われる。開環重合に用いることができる触媒の具体例としては、ナトリウム、及びカリウム等のアルカリ金属;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、トリエチルアルミニウム、アルミニウムトリイソプロポキシド、n-ブチルリチウム、チタンテトライソプロポキシド、四塩化チタン、ジルコニウムテトライソプロポキシド、四塩化スズ、スズ酸ナトリウム、オクタン酸スズ、及びジブチルスズジラウレートジエチル亜鉛等の含金属触媒;ピリジン、4-N,N-ジメチルアミノピリジン、1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エン(TBD)、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エン(DBT)等の塩基性有機化合物;塩酸、酢酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、ジフェニルリン酸、及びフェノール等の酸触媒;1,3-ビス(2-プロピル)-4,5-ジメチルイミダゾール-2-イリデン、及び1,3-ジイソプロピルイミダゾール-2-イリデン等のN-ヘテロ環状カルベンが挙げられる。
触媒は、1種単独で使用されても2種以上を組み合わせて使用されてもよい。
【0077】
環状カーボネートを用いて開環重合を行う場合、触媒とともに助触媒を用いるのも好ましい。助触媒の具体例としては、N-シクロヘキシル-N’-フェニルチオ尿素、N,N’-ビス[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]チオ尿素、N-[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]-N’-シクロヘキシルチオ尿素、及び(-)-スパルテイン等が挙げられる。
【0078】
開環重合に用いることができる触媒の使用量は、従来知られる開環重合反応における触媒の使用量を勘案して適宜定められる。典型的には、触媒の使用量は、環状化合物1モルに対して0.001モル以上が好ましく、0.005モル以上がより好ましい。触媒の使用量は、環状化合物1モルに対して0.2モル以下が好ましく、0.1モル以下がより好ましい。
より具体的には、触媒の使用量は、環状化合物1モルに対して0.001モル以上0.2モル以下が好ましく、0.005モル以上0.1モル以下がより好ましい。
助触媒の使用量は、触媒の使用量と同様である。
【0079】
開環重合は、溶媒の存在下に行われるのが好ましい。溶媒の種類としては、開環重合反応を阻害しない限り特に限定されない。
溶媒の好適な具体例としては、ペンタン、ヘキサン、オクタン、デカン、及びシクロヘキサン等の脂肪族炭化水素溶媒;ベンゼン、トルエン、及びキシレン等の芳香族炭化水素溶媒;塩化メチレン、クロロホルム、1,1-ジクロロエタン、1,2-ジクロロエタン、クロロベンゼン、及びブロモベンゼン等のハロゲン化炭化水素溶媒;エチレングリコールジメチルエーテル(モノグライム)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグライム)、トリエチレングリコールジメチルエーテル(トリグライム)、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、1,3-ジオキソラン、及びアニソール等のエーテル系溶媒;酢酸エチル、酢酸n-プロピル、及び酢酸イソプロピル等のエステル系溶媒;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、及びN-メチル-2-ピロリドン等のアミド系溶媒が挙げられる。
【0080】
溶媒の使用量は、開環重合反応が良好に進行する限り特に限定されない。溶媒の使用量は、例えば、環状化合物100質量部に対して100質量部以上1000質量部以下が好ましい。
【0081】
典型的には、セルロース系樹脂、環状化合物、及び触媒と、必要に応じて助触媒、及び/又は溶媒等とを反応容器に仕込んだ後、反応容器内の混合物を撹拌することにより開環重合が行われる。
【0082】
開環重合を行う際の好ましい反応温度は、環状化合物、触媒の種類、触媒の使用量等によって異なる。典型的には、開環重合の反応温度は、-80℃以上が好ましく、-40℃以上がより好ましく、0℃以上がさらに好ましい。良好な収率と副反応の抑制との両立の点で、開環重合の反応温度は、250℃以下が好ましく、200℃以下がより好ましく、150℃以下がさらに好ましい。
より具体的には、反応温度は、-80℃以上250℃以下が好ましく、-40℃以上200℃以下がより好ましく、0℃以上150℃以下がさらに好ましい。
【0083】
開環重合の反応時間は、環状化合物の種類、触媒の種類、触媒の使用量等によって異なる。典型的には、開環重合の反応時間は1時間以上40時間以下が好ましい。
【0084】
開環重合における環状化合物の使用量は、前述のグラフト率を勘案したうえで適宜定められる。
【0085】
分岐型ポリマーの製造方法の他の好ましい例としては、セルロース系樹脂の存在下に、環状エーテルと二酸化炭素との共重合を行う方法が挙げられる。かかる共重合反応によれば、脂肪族ポリカーボネートからなる枝鎖が生成する。セルロース系樹脂については前述の通りである。
【0086】
環状エーテルとしては、枝鎖としての脂肪族ポリカーボネートの対応する環状エーテルが適宜選択される。
環状エーテルの好ましい例としては、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、トリメチレンオキシド(オキセタン)、3,3-ジメチルトリメチレンオキシド(3,3-ジメチルオキセタン)、1,2-ブチレンオキシド、2,3-ブチレンオキシド、イソブチレンオキシド、1-ペンテンオキシド、2-ペンテンオキシド、1-ヘキセンオキシド、1-オクテンオキシド、1-ドデセンオキシド、シクロペンテンオキシド、シクロヘキセンオキシド、ビニルシクロヘキサンオキシド、3-フェニルプロピレンオキシド、3,3,3-トリフルオロプロピレンオキシド、2-フェノキシプロピレンオキシド、3-ナフトキシプロピレンオキシド、ブタジエンモノオキシド、3-ビニルオキシプロピレンオキシド、及び3-トリメチルシリルオキシプロピレンオキシドが挙げられる。
【0087】
上記の環状エーテルの中では、重合反応性や、分岐型ポリマーの、第1の構造体に含まれる脂肪族ポリカーボネートとの親和性が優れることから、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、トリメチレンオキシド、及び1,2-ブチレンオキシドが好ましく、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、及びトリメチレンオキシドがより好ましい。
【0088】
環状エーテルと二酸化炭素との共重合により生成する脂肪族ポリカーボネートの一例を以下に示す。エチレンオキシドは、ポリエチレンカーボネートを与える。プロピレンオキシドはポリプロピレンカーボネートを与える。トリメチレンオキシドは、ポリトリメチレンカーボネートを与える。
【0089】
環状エーテルと二酸化炭素との共重合は、金属触媒の存在下に行われる。金属触媒の好ましい例としては、亜鉛系触媒、アルミニウム系触媒、クロム系触媒、及びコバルト系触媒等が挙げられる。これらの中では、重合活性の高さから亜鉛系触媒、及びコバルト系触媒が好ましい。
【0090】
亜鉛系触媒の好適な具体例としては、例えば、ジエチル亜鉛-水系触媒、ジエチル亜鉛-ピロガロール系触媒、ビス((2,6-ジフェニル)フェノキシ)亜鉛、N-(2,6-ジイソプロピルフェニル)-3,5-ジ-tert-ブチルサリチルアルドイミナト亜鉛、2-((2,6-ジイソプロピルフェニル)アミド)-4-((2,6-ジイソプロピルフェニル)イミノ)-2-ペンテン酸アセテート、アジピン酸亜鉛、及びグルタル酸亜鉛等が挙げられる。
【0091】
コバルト系触媒の好適な具体例としては、酢酸コバルト-酢酸系触媒、N,N’-ビス(3,5-ジ-tert-ブチルサリチリデン)-1,2-シクロヘキサンジアミノコバルトアセテート、N,N’-ビス-(3,5-ジ-tert-ブチルサリチリデン)-1,2-シクロヘキサンジアミノコバルトペンタフルオロベンゾエート、N,N’-ビス-(3,5-ジ-tert-ブチルサリチリデン)-1,2-シクロヘキサンジアミノコバルトクロリド、N,N’-ビス-(3,5-ジ-tert-ブチルサリチリデン)-1,2-シクロヘキサンジアミノコバルトナイトレート、N,N’-ビス-(3,5-ジ-tert-ブチルサリチリデン)-1,2-シクロヘキサンジアミノコバルト2,4-ジニトロフェノキシド、テトラフェニルポルフィリンコバルトクロリド、テトラフェニルポルフィリンコバルトアセテート、N,N’-ビス[2-(エトキシカルボニル)-3-オキソブチリデン]-1,2-シクロヘキサンジアミナトコバルトクロリド、及びN,N’-ビス[2-(エトキシカルボニル)-3-オキソブチリデン]-1,2-シクロヘキサンジアミナトコバルトペンタフルオロベンゾエートが挙げられる。
【0092】
コバルト系触媒は、助触媒とともに使用されるのが好ましい。助触媒の具体例としては、ピリジン,4-N,N-ジメチルアミノピリジン、N-メチルイミダゾール、テトラブチルアンモニウムクロリド、テトラブチルアンモニウムアセテート、トリフェニルホスフィン、ビス(トリフェニルホスホラニリデン)アンモニウムクロリド、及びビス(トリフェニルホスホラニリデン)アンモニウムアセテート等が挙げられる。
【0093】
環状エーテルと二酸化炭素との共重合に用いることができる触媒の使用量は、かかる共重合反応について従来知られている触媒の使用量を勘案して適宜定められる。典型的には、触媒の使用量は、環状エーテル1モルに対して0.001モル以上が好ましく、0.005モル以上がより好ましい。触媒の使用量は、環状エーテル1モルに対して0.2モル以下が好ましく、0.1モル以下がより好ましい。
より具体的には、触媒の使用量は、環状エーテル1モルに対して、0.001モル以上0.2モル以下が好ましく、0.005モル以上0.1モル以下がより好ましい。
助触媒の使用量は、触媒の使用量と同様である。
【0094】
環状エーテルと二酸化炭素との共重合は、溶媒の存在下に行われるのが好ましい。溶媒の種類としては、共重合反応を阻害しない限り特に限定されない。
溶媒の好適な具体例としては、ペンタン、ヘキサン、オクタン、デカン、及びシクロヘキサン等の脂肪族炭化水素溶媒;ベンゼン、トルエン、及びキシレン等の芳香族炭化水素溶媒;塩化メチレン、クロロホルム、1,1-ジクロロエタン、1,2-ジクロロエタン、クロロベンゼン、及びブロモベンゼン等のハロゲン化炭化水素溶媒;エチレングリコールジメチルエーテル(モノグライム)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグライム)、トリエチレングリコールジメチルエーテル(トリグライム)、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、1,3-ジオキソラン、及びアニソール等のエーテル系溶媒;酢酸エチル、酢酸n-プロピル、及び酢酸イソプロピル等のエステル系溶媒;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、及びN-メチル-2-ピロリドン等のアミド系溶媒が挙げられる。
【0095】
溶媒の使用量は、共重合反応が良好に進行する限り特に限定されない。溶媒の使用量は、例えば、環状エーテル100質量部に対して100質量部以上1000質量部以下が好ましい。
【0096】
典型的には、セルロース系樹脂、環状エーテル、及び触媒と、必要に応じて助触媒、及び/又は溶媒等とを反応容器に仕込んだ後、反応容器内に二酸化炭素を圧入した後、反応容器内の混合物を撹拌することにより共重合が行われる。
【0097】
共重合を行う際の、環状エーテル、及び二酸化炭素の使用量は、前述のグラフト率を勘案したうえで適宜定められる。
共重合を行う際の、反応容器内の二酸化炭素の圧力は、良好な反応の進行の点から、反応温度におけるゲージ圧として0.1MPa以上が好ましく、0.2MPa以上がより好ましく、0.5MPa以上がさらに好ましい。耐圧性能が高い高価な耐圧容器を用いる必要性が無い点や、作業の安全性の点から、反応容器内の二酸化炭素の圧力は、20MPa以下が好ましく、10MPa以下がより好ましく、5MPa以下であってもよい。
より具体的には、反応溶液内の二酸化炭素の圧力は、ゲージ圧として、0.1MPa以上20MPa以下が好ましく、0.2MPa以上10MPa以下がより好ましく、0.5MPa以上5MPa以下がさらに好ましい。
共重合反応は、二酸化炭素の超臨界条件で行われてもよい。
【0098】
共重合を行う際の好ましい反応温度は、環状エーテルの種類、触媒の種類、触媒の使用量等によって異なる。典型的には、共重合の反応温度は、0℃以上が好ましく、20℃以上がより好ましく、30℃以上がさらに好ましい。良好な収率と副反応の抑制との両立の点で、共重合の反応温度は、100℃以下が好ましく、80℃以下がより好ましく、60℃以下がさらに好ましい。
上記の点で、共重合の反応温度は、0℃以上100℃以下が好ましく、20℃以上80℃以下がより好ましく、30℃以上60℃以下がさらに好ましい。
【0099】
共重合の反応時間は、環状エーテルの種類、触媒の種類、触媒の使用量等によって異なる。典型的には、開環重合の反応時間は1時間以上40時間以下が好ましい。
【0100】
開環重合における環状化合物の使用量は、前述のグラフト率を勘案したうえで適宜定められる。
【0101】
枝鎖が、ポリエチレンサクシネート、ポリエチレンアジペート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンアジペート等の、脂肪族ジカルボン酸とグリコール類とが重縮合した脂肪族ポリエステルからなる場合、セルロール系樹脂の存在下に、脂肪族ポリエステルの構造に応じた脂肪族ジカルボン酸とグリコール類とを、常法に従って共重縮合することによっても、分岐型ポリマーを製造することができる。
【0102】
〔第2の無機粒子〕
第2の無機粒子としては、第1の無機粒子と同様の無機粒子を特に制限なく用いることができる。第2の無機粒子は、第1の無機粒子と同種の無機粒子であっても、異種の無機粒子であってもよい。
第2の無機粒子の種類は、複合構造体の用途を勘案しつつ、第1の無機粒子の種類を考慮して通常選択される。
第2の構造体は、2種以上の無機粒子を第2の無機粒子として含んでいてもよい。
【0103】
〔その他の添加剤〕
第2の構造体は、複合構造体の用途に応じて、分岐型ポリマー、及び第2の無機粒子以外のその他の添加剤を含んでいてもよい。
その他の添加剤としては、例えば、分散剤、可塑剤、及び帯電防止剤からなる群より選択される少なくとも1種が挙げられる。
その他の添加剤の使用量は、所望する効果が損なわれない限り特に限定されない。その他の添加剤の使用量は、添加剤の種類に応じた通常使用され得る量を考慮して適宜決定される。
【0104】
〔第2の構造体の形成方法〕
第2の構造体を形成する方法は特に限定されない。第2の構造体は、第1の構造体と同様の方法により形成され得る。第2の構造体中の分岐型ポリマーの比率が十分に高い場合、第2の構造体を形成する方法として、射出成形や押出成形のような溶融成形方法を適用できる。
また、第2の構造体は、種々の溶剤に可溶である。このため、分岐型ポリマーと、有機溶媒と、第2の無機粒子と、必要に応じてその他の添加剤とを加えて第2の構造体形成用のペーストを調製した後、得られたペーストを、ダイコータシート法やドクターブレード法のような塗布法や、注型法等の方法により所望する形状に成形し、次いで、成形されたペーストを乾燥させることにより、第2の構造体が得られる。
第2の無機粒子の粒子径や、第2の構造体形成用のペーストの粘度によっては、ペーストをシート状に成形する方法として、グラビア印刷法やスクリーン印刷法を適用することもできる。
さらに、分岐型ポリマーと、第2の無機粒子と、必要に応じてその他の添加剤とを、固体状態で均一に混合させた後、得られた混合物を型内に充填した後、必要に応じて加熱しつつ圧縮することにより第2の構造体を成形することができる。
【0105】
ペーストを用いて第2の構造体を形成する場合、ペーストに加える有機溶媒の好適な例としては、第1の構造体について説明したペーストを調製する場合に使用され得る有機溶媒の好適な例と同様である。
【0106】
有機溶媒を用いてペーストを調製する際の、有機溶媒の使用量は特に限定されない。有機溶媒の使用量は、ペーストの粘度が、ペーストを用いて実施される印刷法やコート法に適した粘度であるように適宜調整される。
【0107】
以上説明した、第1の構造体と、第2の構造体とを複合化させる方法は特に限定されない。例えば、射出成形により第1の構造体と第2の構造体とを形成可能である場合、所謂2色成形法等の多色成形法により第1の構造体と第2の構造体とを同時に形成して両者を複合化することができる。
押出成形により第1の構造体と第2の構造体とを形成可能である場合、共押出成形法により第1の構造体と第2の構造体とを同時に形成して両者を複合化することができる。
さらに、別々に形成された第1の構造体と第2の構造体とを、熱圧着等の方法により複合化させてもよい。
【実施例
【0108】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0109】
〔実施例1〕
(誘電体ペーストの調製)
脂肪族ポリカーボネートであるポリプロピレンカーボネート7.2質量部を、26質量部の酢酸n-ブチルと、26質量部のジメチルカーボネートに溶解させた。ポリプロピレンカーボネートは、繰り返し構造中にカルボン酸変性部位を有する。カルボン酸変性部位の割合は、全体構造中の0.8モル%である。得られた溶液に、40質量部のセラミック粒子としてのチタン酸バリウム粒子(BET換算径0.2μm)と、可塑剤として0.7質量部のポリエチレングリコールと、帯電防止剤0.1質量部を加えた。次いで、得られた懸濁液を、ボールミル中で所定の時間分散させて、誘電体ペーストを得た。
【0110】
(グリーンシートの調製)
得られた誘電体ペーストを用いて、ドクターブレード法を用いて、焼成後厚みが1.4μmになるようなシートを成形した。成形されたシートを乾燥させてグリーンシートを得た。得られたグリーンシートが第1の構造体に相当する。
【0111】
(導電性ペーストの調製)
分岐型ポリマーとして、エチルセルロースからなる主鎖と、ポリプロピレンカーボネートからなる枝鎖とを有する樹脂を用いた。かかる分岐型ポリマーは、エチルセルロースの存在下に、プロピレンカーボネートを開環重合させることにより調製した。分岐型ポリマーのグラフト率は50質量%であった。
【0112】
(導電性ペーストの塗布)
得られた導電性ペーストを、前述のグリーンシート上にスクリーン印刷法により塗布した。その後、塗布膜を乾燥させて、焼成により内部電極層を与える塗布膜を形成した。塗布膜の厚さは0.4μmであった。形成された塗布膜が第2の構造体に該当する。
【0113】
(積層)
焼成により内部電極層を与える塗布膜を備えるグリーンシートを218枚積層するとともに、最上層と最下層とに塗布膜を備えないグリーンシートを重ねて全体を圧着し、計220枚のグリーンシートを含む積層体を得た。
【0114】
(切断)
得られた積層体を、積層体の面方向に対して垂直な方向にダイシングソーにより押し切って分割した。分割された積層体のサイズは、分割された積層体を焼成した際に、厚さ方向に対して垂直な面のサイズが1.0mm×0.5mmとなるように調整された。
【0115】
(焼成)
100個以上の分割された積層体を、N気流中、最高温度270℃の条件で熱処理し、さらにN-HO-H気流中、最高温度800℃の条件で熱処理した。その後、N-HO-H気流中で、酸素分圧1.8×10-9~8.7×10-10MPa、昇温速度100℃/min、最高温度1260℃の条件で焼成した。なお、焼成の際は、最高温度1260℃に到達後、同温度を10分間保持した後、すぐに室温近傍まで冷却した。
グリーンシートが焼成されることにより生成した誘電体層の厚さは1.4μmであった。
【0116】
以上の工程において、積層体における、押切カット時の層間剥離と、焼成後の構造欠陥の発生とを、下記の方法に従い評価した。これらの評価結果を表1に記す。
【0117】
<押切りカット時の層間剥離評価>
ダイシングソーによる押切られた後の積層体100個について、それぞれ切断面を光学顕微鏡で観察し、切断面における、グリーンシートと、導電性ペーストを用いて形成された塗布膜との層間剥離の有無を確認した。層間剥離が認められた積層体の個数を、層間剥離発生率(%)として表1に記す。
【0118】
<焼成後の構造欠陥の発生評価>
焼成された、分割された積層体100個について、光学顕微鏡による観察を行い、樹脂の分解によるガスの発生に起因すると思われるクラックやデラミネーション等の構造欠陥の発生の有無を確認した。構造欠陥の発生が認められた積層体の個数を、構造欠陥発生率として表1に記す。
【0119】
〔実施例2〕
分岐型ポリマーとして、エチルセルロースからなる主鎖と、脂肪族ポリエステルであるポリカプロラクトンからなる枝鎖とを有する樹脂を用いた。かかる分岐型ポリマーは、エチルセルロースの存在下に、カプロラクトンを開環重合させることにより調製した。分岐型ポリマーのグラフト率は100質量%であった。
上記の分岐型ポリマーを用いることの他は、実施例1と同様の操作を行い、押切りカット時の層間剥離評価と、焼成後の構造欠陥の発生評価とを行った。これらの評価結果を表1に記す。
【0120】
〔比較例1〕
誘電体ペーストの調製に用いた樹脂を、ポリビニルブチラールに変えることと、導電性ペーストの調製に用いた樹脂を、エチルセルロースに変えることとの他は、実施例1と同様の操作を行い、押切りカット時の層間剥離評価と、焼成後の構造欠陥の発生評価とを行った。これらの評価結果を表1に記す。
【0121】
〔比較例1〕
導電性ペーストの調製に用いた樹脂を、エチルセルロースに変えることとの他は、実施例1と同様の操作を行い、押切りカット時の層間剥離評価と、焼成後の構造欠陥の発生評価とを行った。これらの評価結果を表1に記す。
【0122】
【表1】
【0123】
表1によれば、脂肪族ポリカーボネートと、セラミック粒子等の無機粒子とを含む第1の構造体に相当するグリーンシートを、セルロース系ポリマーからなる主鎖と、脂肪族ポリカーボネート、又は脂肪族ポリエステルからなる枝鎖とを有する分岐型ポリマーと、金属粒子等の無機粒子を含む第2の構造体に相当する塗布膜と複合化した積層体は、切断時のせん断力や、焼成時に発生するガスの圧力等の外力によって剥離しにくいことが分かる。