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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】制御装置及び制御方法
(51)【国際特許分類】
   B60W 20/10 20160101AFI20241106BHJP
   F02M 21/02 20060101ALI20241106BHJP
   B60K 6/24 20071001ALI20241106BHJP
   B60W 10/06 20060101ALI20241106BHJP
   B60W 10/08 20060101ALI20241106BHJP
   B60L 50/16 20190101ALI20241106BHJP
【FI】
B60W20/10
F02M21/02 L
B60K6/24 ZHV
B60W10/06 900
B60W10/08 900
B60L50/16
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023143651
(22)【出願日】2023-09-05
【審査請求日】2023-09-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004222
【氏名又は名称】弁理士法人創光国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡本 毅
【審査官】中川 隆司
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-140006(JP,A)
【文献】特開2021-076052(JP,A)
【文献】特開2014-213633(JP,A)
【文献】特開平10-023609(JP,A)
【文献】特開2007-162649(JP,A)
【文献】国際公開第2023/068267(WO,A1)
【文献】特開2022-133972(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0066265(US,A1)
【文献】特開2022-079028(JP,A)
【文献】国際公開第2022/264795(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 20/10
F02M 21/02
B60K 6/24
B60W 10/06
B60W 10/08
B60L 50/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスエンジンと、前記ガスエンジンが発生するエンジントルクを補助する電動トルクを発生するモータによる車両の走行を制御する制御装置であって、
前記車両に収容された液化天然ガスのメタン価を特定する特定部と、
前記特定部が特定したメタン価に基づいて、前記ガスエンジンの点火タイミングを基準タイミングから遅延させるタイミング制御部と、
前記特定部が特定した前記メタン価が閾値より低く、かつ、前記ガスエンジンのエンジン負荷が所定値より高い場合に、前記タイミング制御部が前記点火タイミングを遅延させる遅延量に基づいて、前記モータにより発生させる前記電動トルクを決定する決定部と、
前記決定部が決定した前記電動トルクを前記モータに出力させる駆動制御部と、
を備える制御装置。
【請求項2】
運転者によるアクセル操作を検出するアクセル開度センサの検出結果を取得する取得部をさらに備え、
前記特定部は、前記アクセル開度センサの検出結果に基づいて、前記ガスエンジンが発生させるトルクの目標値を特定し、
前記決定部は、前記タイミング制御部が前記点火タイミングを遅延させた遅延量と、前記特定部が特定した前記トルクの目標値とに基づいて、前記電動トルクを決定する、
請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
点火タイミングを遅延させる遅延量と、エンジントルクの減少量とを関連付けて記憶する記憶部をさらに備え、
前記決定部は、前記タイミング制御部が前記点火タイミングを前記基準タイミングから遅延させる遅延量に関連付けて前記記憶部に記憶されている前記エンジントルクの減少量と同じ量の前記電動トルクを決定する、
請求項1又は2に記載の制御装置。
【請求項4】
前記タイミング制御部が前記点火タイミングを前記基準タイミングから遅延させた場合に前記エンジントルクが減少する減少量を算出する算出部をさらに備え、
前記決定部は、前記算出部が算出した前記減少量に基づいて、前記電動トルクを決定する、
請求項1又は2に記載の制御装置。
【請求項5】
ガスエンジンと、前記ガスエンジンが発生するエンジントルクを補助する電動トルクを発生するモータによる車両の走行を制御する制御方法であって、
前記車両に収容された液化天然ガスのメタン価を特定するステップと、
特定したメタン価に基づいて、前記ガスエンジンの点火タイミングを基準タイミングから遅延させるステップと、
特定した前記メタン価が閾値より低く、かつ、前記ガスエンジンのエンジン負荷が所定値より高い場合に、前記点火タイミングを遅延させる遅延量に基づいて、前記モータにより発生させる前記電動トルクを決定するステップと、
決定した前記電動トルクを前記モータに出力させるステップと、
を備える制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両が走行するためのトルクの発生を制御する制御装置及び制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
LNG(Liquefied Natural Gas:液化天然ガス)を燃料として走行する車両が知られている。LNGの主成分であるメタンが気化することによりLNGが重質化した場合、ガスエンジンのノッキングが発生しやすくなる。特許文献1では、ノッキングを抑制するために点火タイミングを遅めに設定することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2021-148052号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された発明では、点火タイミングを遅めに設定することにより、ノッキングを抑制することが可能である。しかしながら、特許文献1に記載された発明では、点火タイミングを遅めに設定した場合に、エンジントルクが低下するという問題があった。
【0005】
本発明はこの点に鑑みてなされたものであり、ノッキングを抑制しつつ、エンジントルクの低下を軽減することができる車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様の制御装置は、ガスエンジンと、前記ガスエンジンが発生するエンジントルクを補助する電動トルクを発生するモータによる車両の走行を制御する制御装置であって、前記車両に収容された液化天然ガスのメタン価を特定する特定部と、前記特定部が特定したメタン価に基づいて、前記ガスエンジンの点火タイミングを基準タイミングから遅延させるタイミング制御部と、前記タイミング制御部が前記点火タイミングを遅延させる遅延量に基づいて、前記モータにより発生させる前記電動トルクを決定する決定部と、前記決定部が決定した前記電動トルクを前記モータに出力させる駆動制御部と、を備える。
【0007】
前記制御装置は、運転者によるアクセル操作を検出するアクセル開度センサの検出結果を取得する取得部をさらに備え、前記特定部は、前記アクセル開度センサの検出結果に基づいて、前記ガスエンジンが発生させるトルクの目標値を特定し、前記決定部は、前記タイミング制御部が前記点火タイミングを遅延させた遅延量と、前記特定部が特定した前記トルクの目標値とに基づいて、前記電動トルクを決定してもよい。
【0008】
前記制御装置は、点火タイミングを遅延させる遅延量と、エンジントルクの減少量とを関連付けて記憶する記憶部をさらに備え、前記決定部は、前記タイミング制御部が前記点火タイミングを前記基準タイミングから遅延させる遅延量に関連付けて前記記憶部に記憶されている前記エンジントルクの減少量と同じ量の前記電動トルクを決定してもよい。
【0009】
前記制御装置は、前記タイミング制御部が前記点火タイミングを前記基準タイミングから遅延させた場合に前記エンジントルクが減少する減少量を算出する算出部をさらに備え、前記決定部は、前記算出部が算出した前記減少量に基づいて、前記電動トルクを決定してもよい。
【0010】
本発明の第2の態様の制御方法は、ガスエンジンと、前記ガスエンジンが発生するエンジントルクを補助する電動トルクを発生するモータによる車両の走行を制御する制御方法であって、前記車両に収容された液化天然ガスのメタン価を特定するステップと、特定したメタン価に基づいて、前記ガスエンジンの点火タイミングを基準タイミングから遅延させるステップと、前記点火タイミングを遅延させる遅延量に基づいて、前記モータにより発生させる前記電動トルクを決定するステップと、決定した前記電動トルクを前記モータに出力させるステップと、を備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ノッキングを抑制しつつ、エンジントルクの低下を軽減するという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施形態の制御装置が搭載された車両の概要を示す。
図2】実施形態の制御装置が搭載された車両の概要を示す。
図3】車両の構成を示す。
図4】決定部による電動トルクの決定方法の例を示す。
図5】制御装置により車両の走行を制御する処理手順の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[車両の概要]
図1及び図2は、本実施形態の制御装置8が搭載された車両100の概要を示す。図1は、車両100の要部の構成を示す。図2は、車両100に搭載された燃料タンク1内の液化天然ガス(Liquefied Natural Gas、LNG)の重質化の原理を説明するための図である。図1に示す車両100は、例えば、トラック又はバス等の商用車である。車両100は、燃料タンク1、ガスエンジン2、熱交換器3、安全弁4、ベントスタック5、モータ6、回転センサ7及び制御装置8を備える。
【0014】
燃料タンク1は、液化天然ガスを貯蔵する。液化天然ガスは、天然ガスが液体状態を維持可能な温度(例えば天然ガスが液化するマイナス162度以下)で燃料タンク1に貯蔵されている。燃料タンク1の内側には断熱材が設けられている。
【0015】
ガスエンジン2は、天然ガスを燃焼させることにより、車両100を推進するためのエンジントルクを発生させる。燃料タンク1とガスエンジン2とは、第1管路T1を介して接続されている。燃料タンク1とガスエンジン2の間には、液化天然ガスを気化させる熱交換器3が設けられている。熱交換器3には、ガスエンジン2の冷却液が循環する配管が設けられている。熱交換器3は、ガスエンジン2の冷却液等の熱を利用して液化天然ガスを気化し、気化後の天然ガスをガスエンジン2へ供給する。
【0016】
図2に示すように、車両100の運行時(図2中の(1))には、ガスエンジン2により発生した熱が燃料タンク1に流入する(図2中の(2))。燃料タンク1に熱が流入すると液化天然ガスの温度が上昇することにより液化天然ガスが気化して、メタンを主成分とするボイルオフガスが発生する(図2中の(3))。ボイルオフガスが発生すると燃料タンク1の内圧が上昇する(図2中の(4))。燃料タンク1の内圧が上昇して燃料タンク1が耐えられる圧力を超える前に、ボイルオフガスを燃料タンク1から排出して燃料タンク1の内圧を下げる必要がある。
【0017】
燃料タンク1には、ボイルオフガスを大気に排出するための第2管路T2、安全弁4及びベントスタック5が、さらに接続されている。安全弁4は、燃料タンク1の圧力が許容値以上になった場合に自動的に開弁してボイルオフガスを排出させるベントを行う(図2中の(5))。安全弁4から排出されたボイルオフガスは、ベントスタック5から大気へ排出される。このベントが繰り返された場合、燃料タンク1内の液化天然ガスに含まれるメタンの割合(すなわちメタン価)が低下する重質化が進む(図2中の(6))。
【0018】
重質化が進むと、ガスエンジン2を駆動させる際にノッキングが生じやすくなる。そこで、車両100は、ガスエンジン2の点火タイミングを遅延させることで、ノッキングが生じにくくする。しかしながら、ガスエンジン2の点火タイミングを遅延させることによりトルクが減少するので、減少するトルクを補うために、モータ6が、ガスエンジン2が発生するエンジントルクを補助するための電動トルクを発生させる。
【0019】
図1中の回転センサ7は、ガスエンジン2の回転数を測定する。回転センサ7は、測定した回転数を制御装置8へ入力する。図1の制御装置8は、例えば、ECU(Electronic Control Unit)である。制御装置8は、例えばガスエンジン2の回転数に基づいてメタン価を推定し、推定したメタン価に基づいて、ガスエンジン2の点火タイミングとモータ6の動作を制御することにより、ノッキングの発生とトルクの減少を抑制する。以下、制御装置8の動作を説明する。
【0020】
制御装置8は、ガスエンジン2とモータ6とにより車両100の走行を制御する。制御装置8は、燃料タンク1に収容された液化天然ガスのメタン価を特定する。メタン価は、液化天然ガスを燃料としてガスエンジン2を駆動させる場合のノッキングのしにくさと相関する。制御装置8は、例えば、回転センサ7が測定したガスエンジン2の回転数及びエンジン負荷に基づいて、メタン価を推定する。
【0021】
液化天然ガスのメタン価が所定の閾値より低い場合、ガスエンジン2を駆動させる際にノッキングが生じやすくなる。そこで、液化天然ガスのメタン価が所定の閾値より低い場合、制御装置8は、ガスエンジン2の点火タイミングを基準タイミングから遅延させる。閾値は、例えば、ノッキングが生じ得るメタン価の最大値に基づいて定められた値である。基準タイミングは、液化天然ガスのメタン価が閾値以上である場合にガスエンジン2内の天然ガスを点火させるタイミングである。
【0022】
制御装置8は、点火タイミングを遅延させることにより、ノッキングの発生を抑制する。一方、この点火タイミングの遅延に起因して、ガスエンジン2が発生させるエンジントルクが低下する。このため、制御装置8は、モータ6が発生する電動トルクによりエンジントルクの低下分を補う。
【0023】
このとき、制御装置8は、点火タイミングを基準タイミングから遅延させる遅延量に基づいて、電動トルクによりエンジントルクを補う量を決定する。制御装置8は、決定した電動トルクをモータ6に発生させる。このようにして、制御装置8は、点火タイミングを遅延させることによりノッキングを抑制しつつ、エンジントルクの低下をモータ6の電動トルクによって補うことができる。
【0024】
[車両100の構成]
図3は、車両100の構成を示す。車両100は、ガスエンジン2、モータ6、回転センサ7、制御装置8及びアクセル開度センサ9を備える。制御装置8は、記憶部81及び制御部82を備える。制御部82は、取得部821、特定部822、タイミング制御部823、算出部824、決定部825及び駆動制御部826を備える。
【0025】
アクセル開度センサ9は、運転者によるアクセル操作を検出する。アクセル開度センサ9は、運転者がアクセルペダルを踏みこんだ角度量を検出する。アクセル開度センサ9は、検出した角度量を取得部821に入力する。
【0026】
記憶部81は、例えば、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等により構成される。記憶部81には、制御部82が実行するためのプログラムが記憶されている。記憶部81には、例えば、点火タイミングを遅延させる遅延量と、エンジントルクの減少量とを関連付けた遅延データが記憶されている。遅延データは、点火タイミングの遅延量をタイミング制御部823が決定する際に参照される。
【0027】
記憶部81には、点火タイミングの遅延量に基づいて、エンジントルクの減少量を算出するための算出モデルが記憶されている。この算出モデルは、点火タイミングの遅延に起因するエンジントルクの減少量を算出部824が算出する際に参照される。
【0028】
制御部82は、例えば、ECUに搭載されたプロセッサである。制御部82は、記憶部81に記憶されたプログラムを実行することにより、取得部821、特定部822、タイミング制御部823、算出部824、決定部825及び駆動制御部826として機能する。
【0029】
取得部821は、各種センサの検出結果を取得する。例えば、取得部821は、運転者によるアクセル操作を検出するアクセル開度センサ9の検出結果を取得する。取得部821は、回転センサ7が測定したガスエンジン2の回転数を取得する。取得部821は、取得したアクセル開度センサ9の検出結果及びガスエンジン2の回転数を特定部822へ出力する。
【0030】
特定部822は、ガスエンジン2を制御するための情報を特定する。例えば、特定部822は、取得部821が取得したアクセル開度センサ9の検出結果に基づいて、ガスエンジン2が発生させるトルクの目標値を特定する。特定部822は、アクセル開度センサ9が検出した角度量に対応するトルクをトルクの目標値として特定する。特定部822は、車両100が自動走行中である場合には、車両100の自動走行のための走行計画のとおりに走行するために必要なトルクの目標値を特定してもよい。
【0031】
特定部822は、車両100に収容された液化天然ガスのメタン価を特定する。特定部822は、例えば回転センサ7が測定したガスエンジン2の回転数及びエンジン負荷に基づいて、メタン価を特定する。具体的には、特定部822は、記憶部81に記憶された、ガスエンジン2の回転数及びエンジン負荷とメタン価との関係を示すデータテーブルを参照することにより、メタン価を特定する。特定部822は、ガスエンジン2の回転数によらず、メタン価を測定する測定ユニットによる測定値に基づいてメタン価を特定してもよい。特定部822は、特定したトルクの目標値及びメタン価をタイミング制御部823へ出力する。
【0032】
タイミング制御部823は、特定部822が特定したメタン価に基づいて、ガスエンジン2の点火タイミングを基準タイミングから遅延させる。タイミング制御部823は、メタン価が小さいほど、点火タイミングを基準タイミングからの遅延量を大きくする。タイミング制御部823は、ガスエンジン2の点火タイミングを基準タイミングから遅延させた遅延量を決定部825及び算出部824へ出力する。
【0033】
[エンジントルクの減少量の算出]
算出部824は、タイミング制御部823が点火タイミングを基準タイミングから遅延させた場合に、点火タイミングを基準タイミングとした場合に比べてエンジントルクが減少する減少量を算出する。算出部824は、タイミング制御部823が点火タイミングを基準タイミングから遅延させた遅延量から、エンジントルクが減少する減少量を算出するための算出モデルを記憶部81から読み出す。算出部824は、この算出モデルを参照して、タイミング制御部823が点火タイミングを基準タイミングから遅延させた遅延量に対応するエンジントルクの減少量を算出する。算出部824は、算出したエンジントルクの減少量を決定部825へ出力する。
【0034】
[電動駆動力の決定]
決定部825は、タイミング制御部823が点火タイミングを遅延させる遅延量に基づいて、モータ6により発生させる電動トルクを決定する。図4は、決定部825による電動トルクの決定方法の例を示す。図4の縦軸は、トルクを示す。図4の左側の斜線の長方形は、液化天然ガスのメタン価が閾値以上である通常の場合におけるエンジントルクを示している。図4の中央の斜線の長方形は、メタン価が閾値より低い場合のエンジントルクを示している。図4の右側の網点の長方形は、液化天然ガスのメタン価が閾値より低い場合に発生する電動トルクを示している。メタン価が閾値より低い場合のエンジントルクと電動トルクとの合計値は、液化天然ガスのメタン価が閾値以上である通常の場合におけるエンジントルクに等しい。
【0035】
タイミング制御部823は、液化天然ガスのメタン価が閾値以上である通常の状態では、点火タイミングを基準タイミングから遅延させない。このとき、点火タイミングの遅延に起因するエンジントルクの低下は発生しない。したがって、タイミング制御部823は、図4の左側のグラフに示すように、特定部822が特定したトルクの目標値と同じ量のエンジントルクをガスエンジン2に発生させ、電動駆動力をモータ6に発生させない。
【0036】
タイミング制御部823は、液化天然ガスのメタン価が閾値より低い場合に、点火タイミングを基準タイミングから遅延させる。タイミング制御部823は、図4の中央のグラフで示すように、タイミング制御部823がガスエンジン2により発生させるエンジントルクは、点火タイミングを遅延させない場合(図4の左側)に比べて減少する。タイミング制御部823は、特定部822が特定したエンジントルクの目標値と同じ量のエンジントルクをガスエンジン2に発生させることができない場合に、トルクの目標値とエンジントルクとの差分と同じ量の電動駆動力をモータ6により発生させることを決定する。
【0037】
決定部825は、タイミング制御部823が点火タイミングを遅延させる遅延量と、特定部822が特定したトルクの目標値とに基づいて、電動トルクを決定する。決定部825は、算出部824が算出した減少量に基づいて、電動トルクを決定する。このとき、決定部825は、遅延量が大きいほど、より大きな量の電動トルクを発生させるように電動トルクを決定する。
【0038】
図4に示す例では、タイミング制御部823が点火タイミングを基準タイミングから遅延させない場合のエンジントルクは、エンジントルクの目標値と同じである(図4中の破線)。一方、図4の中央及び右側の例においてトルクの目標値とエンジントルクとの差分は、タイミング制御部823が点火タイミングを遅延させた遅延量に対応するエンジントルクの減少量として算出部824により算出される値に相当する。したがって、決定部825は、算出部824が算出したエンジントルクの減少量と同じ量の電動トルクをモータ6により発生させるように電動トルクを決定してもよい。このようにして、決定部825は、エンジントルクと電動トルクとの合計値をトルクの目標値と一致させることができる。
【0039】
決定部825は、点火タイミングを遅延させる遅延量と、エンジントルクの減少量とを関連付けた遅延データを用いて、タイミング制御部823が点火タイミングを遅延させる遅延量に対応する電動トルクを決定してもよい。この場合、まず、決定部825は、この遅延データを記憶部81から読み出す。決定部825は、読み出した遅延データを参照して、タイミング制御部823が点火タイミングを基準タイミングから遅延させた遅延量に関連付けられているエンジントルクの減少量を特定する。決定部825は、特定したエンジントルクの減少量と同じ量の電動トルクをモータ6により発生させることを決定する。
【0040】
タイミング制御部823は、特定部822が特定したメタン価が閾値より低い場合であっても、エンジン負荷が比較的低ければ、モータ6により電動トルクを発生させることなく、エンジントルクをトルクの目標値と一致させることが可能である。そこで、決定部825は、特定部822が特定したメタン価が閾値より低く、かつ、エンジン負荷が所定値より高い場合に、電動トルクを決定してもよい。所定値は、例えば、エンジンの最大出力等の性能に応じて定められた値である。
【0041】
一方、決定部825は、特定部822が特定したメタン価が閾値以上である場合、又は、エンジン負荷が所定値以下である場合に、電動トルクを決定しなくてもよい。このようにして、タイミング制御部823は、モータ6により電動トルクを発生させる頻度を低下させることができるので、モータ6へ電力を供給するバッテリ(不図示)の電力消費を低減することができる。決定部825は、決定した電動トルクを駆動制御部826へ出力する。
【0042】
駆動制御部826は、モータ6により電動駆動力を発生させる。駆動制御部826は、決定部825が決定した電動トルクをモータ6に出力させる。
【0043】
[制御装置8における処理手順]
図5は、制御装置8により車両100の走行を制御する処理手順の一例を示すフローチャートである。この処理手順は、例えば、車両100の走行中に開始する。まず、特定部822は、ガスエンジン2が発生させるトルクの目標値を特定する(S101)。タイミング制御部823は、燃料タンク1内の液化天然ガスのメタン価が閾値より小さいか否かを判定する(S102)。
【0044】
タイミング制御部823は、燃料タンク1内の液化天然ガスのメタン価が閾値より小さい場合に(S102のYES)、ガスエンジン2の点火タイミングを基準タイミングから遅延させる遅延量を決定する(S103)。タイミング制御部823は、S102の判定において燃料タンク1内の液化天然ガスのメタン価が閾値以上である場合に(S102のNO)、S107の判定に移る。決定部825は、タイミング制御部823が遅延量を決定した場合、決定された遅延量に基づいて、モータ6により発生させる電動トルクを決定する(S104)。
【0045】
タイミング制御部823は、決定した遅延量だけガスエンジン2の点火タイミングを遅延させる(S105)。駆動制御部826は、決定部825が決定した電動トルクをモータ6により出力させる(S106)。特定部822は、車両100の走行が終了したか否かを判定する(S107)。特定部822は、車両100の走行が終了していない場合(S107のNO)、S101からS107までの処理を繰り返す。特定部822は、車両100の走行が終了したと判定した場合に(S107のYES)、処理を終了する。
【0046】
[本開示の制御装置8による効果]
駆動制御部826は、タイミング制御部823が決定した遅延量に対応する電動駆動力をモータ6に発生させるので、発火タイミングを遅延させたことに起因してトルクが不足することを抑制することができる。このようにして、タイミング制御部823が点火タイミングを遅延させることによりノッキングを抑制しつつ、駆動制御部826がエンジントルクの低下をモータ6の電動トルクによって補うことができる。
【0047】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。例えば、装置の全部又は一部は、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。また、複数の実施の形態の任意の組み合わせによって生じる新たな実施の形態も、本発明の実施の形態に含まれる。組み合わせによって生じる新たな実施の形態の効果は、もとの実施の形態の効果を併せ持つ。
【符号の説明】
【0048】
1 燃料タンク
2 ガスエンジン
3 熱交換器
4 安全弁
5 ベントスタック
6 モータ
7 回転センサ
8 制御装置
9 アクセル開度センサ
81 記憶部
82 制御部
100 車両
821 取得部
822 特定部
823 タイミング制御部
824 算出部
825 決定部
826 駆動制御部
【要約】
【課題】ノッキングを抑制しつつ、エンジントルクの低下を軽減する。
【解決手段】ガスエンジンと、ガスエンジンが発生するエンジントルクを補助する電動トルクを発生するモータによる車両の走行を制御する制御装置8であって、車両に収容された液化天然ガスのメタン価を特定する特定部822と、特定部822が特定したメタン価に基づいて、ガスエンジンの点火タイミングを基準タイミングから遅延させるタイミング制御部823と、タイミング制御部823が点火タイミングを遅延させる遅延量に基づいて、モータにより発生させる電動トルクを決定する決定部825と、決定部825が決定した電動トルクをモータに出力させる駆動制御部826と、を備える。
【選択図】図3


図1
図2
図3
図4
図5