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特許7582426熱可塑性樹脂組成物及びその製造方法、成形体及びその製造方法、並びに改質剤及び改質方法
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  • 特許-熱可塑性樹脂組成物及びその製造方法、成形体及びその製造方法、並びに改質剤及び改質方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂組成物及びその製造方法、成形体及びその製造方法、並びに改質剤及び改質方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/02 20060101AFI20241106BHJP
   C08L 77/00 20060101ALI20241106BHJP
   C08L 23/26 20060101ALI20241106BHJP
   C08J 3/20 20060101ALI20241106BHJP
   C08J 5/00 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
C08L23/02
C08L77/00
C08L23/26
C08J3/20 Z CES
C08J3/20 CFG
C08J5/00 CET
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2023185718
(22)【出願日】2023-10-30
(62)【分割の表示】P 2020567383の分割
【原出願日】2019-11-20
(65)【公開番号】P2024023203
(43)【公開日】2024-02-21
【審査請求日】2023-10-30
(31)【優先権主張番号】P 2019010642
(32)【優先日】2019-01-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100151127
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 勝雅
(74)【代理人】
【識別番号】100094190
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 清路
(74)【代理人】
【氏名又は名称】平岩 康幸
(72)【発明者】
【氏名】加藤 恵介
【審査官】仁科 努
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/139378(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/139379(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/021569(WO,A1)
【文献】特開2018-154843(JP,A)
【文献】特開2018-123457(JP,A)
【文献】国際公開第2017/111100(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 23/02
C08L 77/00
C08L 23/26
C08J 3/20
C08J 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形体の引張伸び率を400%以上に向上させる改質剤の使用方法であって、
数平均分子量が350,000未満である第1のポリオレフィン樹脂(A)のペレットと、改質剤のペレットと、をドライブレンドしてペレット混合物を得る工程、及び、
前記ペレット混合物を成形して前記成形体を得る工程、を備え、
前記改質剤は、数平均分子量が350,000以上である第2のポリオレフィン樹脂(B)と、
主鎖中の隣り合ったアミド結合同士に挟まれた炭化水素基の直鎖炭素数が5以下である構造を有したポリアミド樹脂(C)と、
前記ポリアミド樹脂(C)に対する反応性基を有した変性エラストマー(D)である炭素数が3~8のα-オレフィンに由来する構造単位を含むα-オレフィン系共重合体の酸変性物と、を含有し、
前記成分(A)及び前記成分(B)は、前記成分(C)に対する反応性基を有さない成分であり、
前記ペレット混合物を得る工程では、前記成分(A)、前記成分(B)、前記成分(C)及び前記成分(D)の合計を100質量%とした場合に、前記成分(A)が35~70質量%、前記成分(B)が2045質量%、前記成分(C)が~12質量%、前記成分(D)が10~25質量%、前記成分(A)及び前記成分(B)の合計が70質量%以上90質量%以下となり、且つ、前記成分(A)及び前記成分(B)の合計を100質量%とした場合に、前記成分(A)が50質量%以上87質量%以下となるように、前記ペレット混合物を得ることを特徴とする改質剤の使用方法。
【請求項2】
前記改質剤は、前記成分(C)及び前記成分(D)の合計を100質量%とした場合に、前記成分(D)が50質量%以上である請求項に記載の改質剤の使用方法。
【請求項3】
前記改質剤は、前記成分(B)、前記成分(C)及び前記成分(D)の合計を100質量%とした場合に、前記成分(B)が45質量%以上65質量%以下である請求項又はに記載の改質剤の使用方法。
【請求項4】
成形体の引張伸び率を400%以上に向上させる改質方法であって、
数平均分子量が350,000未満である第1のポリオレフィン樹脂(A)のペレットと、改質剤のペレットと、をドライブレンドしてペレット混合物を得る工程、及び、
前記ペレット混合物を成形して前記成形体を得る工程、を備え、
前記改質剤は、数平均分子量が350,000以上である第2のポリオレフィン樹脂(B)と、
主鎖中の隣り合ったアミド結合同士に挟まれた炭化水素基の直鎖炭素数が5以下である構造を有したポリアミド樹脂(C)と、
前記ポリアミド樹脂(C)に対する反応性基を有した変性エラストマー(D)である炭素数が3~8のα-オレフィンに由来する構造単位を含むα-オレフィン系共重合体の酸変性物と、を含有し、
前記成分(A)及び前記成分(B)は、前記成分(C)に対する反応性基を有さない成分であり、
前記ペレット混合物を得る工程では、前記成分(A)、前記成分(B)、前記成分(C)及び前記成分(D)の合計を100質量%とした場合に、前記成分(A)が35~70質量%、前記成分(B)が2045質量%、前記成分(C)が~12質量%、前記成分(D)が10~25質量%、前記成分(A)及び前記成分(B)の合計が70質量%以上90質量%以下となり、且つ、前記成分(A)及び前記成分(B)の合計を100質量%とした場合に、前記成分(A)が50質量%以上87質量%以下となるように、前記ペレット混合物を得ることを特徴とする改質方法。
【請求項5】
前記改質剤は、前記成分(C)及び前記成分(D)の合計を100質量%とした場合に、前記成分(D)が50質量%以上である請求項に記載の改質方法。
【請求項6】
前記改質剤は、前記成分(B)、前記成分(C)及び前記成分(D)の合計を100質量%とした場合に、前記成分(B)が45質量%以上65質量%以下である請求項又はに記載の改質方法。
【請求項7】
前記成分(A)と前記改質剤との合計を100質量%とした場合に、前記改質剤を20質量%超75質量%未満添加する請求項乃至のうちのいずれかに記載の改質方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂組成物及びその製造方法、成形体及びその製造方法、並びに改質剤及び改質方法に関する。更に詳しくは、本発明は、ポリオレフィンとポリアミドと変性エラストマーとを含有する熱可塑性樹脂組成物及びその製造方法、成形体及びその製造方法、並びに改質剤及び改質方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明者は、特許文献1において、ポリオレフィン樹脂とポリアミド樹脂と変性エラストマーとを含んだ熱可塑性樹脂組成物において、数平均分子量が350,000以上であるポリオレフィン樹脂と、アミド結合間の直鎖炭素数が5以下である短鎖構造を有するポリアミド樹脂と、を併用した場合に優れた耐衝撃性を有した熱可塑性樹脂組成物が得られることを開示した。更に、特許文献2及び3において、特許文献1の熱可塑性樹脂組成物を用いて得られる成形体の耐衝撃性を向上させられることを開示した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2018/021569号パンフレット
【文献】国際公開第2018/139378号パンフレット
【文献】国際公開第2018/139379号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1~3には、引張伸びに関する着眼及び開示はない。
本発明は、引張伸びが向上された熱可塑性樹脂組成物及びその製造方法、並びに成形体及びその製造方法、ポリオレフィン樹脂の引張伸びを向上させる改質剤及び改質方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記特許文献1に開示されているように、本発明者は、成分(B)~成分(D)を含んだ熱可塑性樹脂組成物において、成分(B)として数平均分子量が350,000以上であるポリオレフィン樹脂を選択し、更に、成分(C)としてアミド結合間の直鎖炭素数が5以下である短鎖構造を有するポリアミド樹脂を選択した場合に優れた耐衝撃性を有する熱可塑性樹脂組成物が得られることを知見した。
【0006】
そして、当該技術に関して更に検討を進めた結果、上記特許文献1の組成物を、他のポリオレフィン樹脂に対して添加した場合に耐衝撃性を向上させられることを見出し、上記特許文献2~3にその技術を開示した。
その後、更に検討を進めた結果、上述の耐衝撃性は、改質剤そのものが有する耐衝撃性が最も高い値であり、他のポリオレフィンに対して添加すると、改質剤そのものが本来備えている耐衝撃性を超えることはないものの、改質剤の添加量に応じて大きくなる挙動を示すものであるのに対して、引張伸び率においては、全く異なる特異な挙動を示すことを見出した。即ち、引張伸び率においては、他のポリオレフィンに対して改質剤を添加すると、改質剤そのものが本来備えている引張伸び率を超える極めて高い引張伸びを示す場合があることを知見し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
即ち、本発明は以下の通りである。
[1]本発明の熱可塑性樹脂組成物は、数平均分子量が350,000未満である第1のポリオレフィン樹脂(A)と、
数平均分子量が350,000以上である第2のポリオレフィン樹脂(B)と、
主鎖中の隣り合ったアミド結合同士に挟まれた炭化水素基の直鎖炭素数が5以下である構造を有したポリアミド樹脂(C)と、
前記ポリアミド樹脂(C)に対する反応性基を有した変性エラストマー(D)と、を含有し、
前記成分(A)、前記成分(B)、前記成分(C)及び前記成分(D)の合計を100質量%とした場合に、前記成分(A)及び前記成分(B)が合計で70質量%以上であり、
更に、前記成分(A)及び前記成分(B)の合計を100質量%とした場合に、前記成分(A)が50質量%以上87質量%以下であり、
引張伸び率が50%以上であることを要旨とする。
[2]本発明の熱可塑性樹脂組成物では、前記成分(C)及び前記成分(D)の合計を100質量%とした場合に、前記成分(D)を50質量%以上とすることができる。
[3]本発明の熱可塑性樹脂組成物では、前記成分(C)を、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46、ナイロン6T、ナイロン6I、ナイロンM5T、ナイロンM5I及びこれら共重合体からなる群から選択できる。
[4]本発明の熱可塑性樹脂組成物では、前記成分(D)を、エチレン若しくはプロピレンと炭素数3~8のα-オレフィンとの共重合体を骨格としたオレフィン系熱可塑性エラストマー、又は、スチレン骨格を有するスチレン系熱可塑性エラストマーとすることができる。
【0008】
[5]本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法は、前記成分(C)と前記成分(D)とを溶融混練してなる第1組成物と、前記成分(B)とを溶融混練して第2組成物を得る第2組成物調製工程と、
前記成分(A)と、前記第2組成物と、を溶融混練して第3組成物を得る第3組成物調製工程と、を備えることを要旨とする。
【0009】
[6]本発明の成形体は、本発明の熱可塑性樹脂組成物を樹脂分とすることを要旨とする。
【0010】
[7]本発明の成形体の製造方法(1)は、前記成分(B)、前記成分(C)及び前記成分(D)を含む第2組成物と、前記成分(A)と、を溶融混練して第3組成物を得る第3組成物調製工程と、
前記第3組成物を成形して前記成形体を得る成形工程と、を備えることを要旨とする。
[8]本発明の成形体の製造方法(2)は、前記成分(B)、前記成分(C)及び前記成分(D)を含む第2組成物と、前記成分(A)と、の溶融混錬物を成形して前記成形体を得る成形工程を備えることを要旨とする。
[9]本発明の成形体の製造方法では、前記第2組成物を、前記成分(C)と前記成分(D)とを溶融混練してなる第1組成物と、前記成分(B)とを溶融混練して得られた組成物とすることができる。
【0011】
[10]本発明の改質剤は、数平均分子量が350,000未満である第1のポリオレフィン樹脂(A)に対する添加により、得られる熱可塑性樹脂組成物の引張伸び率を50%以上に向上させる改質剤であって、
数平均分子量が350,000以上である第2のポリオレフィン樹脂(B)と、
主鎖中の隣り合ったアミド結合同士に挟まれた炭化水素基の直鎖炭素数が5以下である構造を有したポリアミド樹脂(C)と、
前記ポリアミド樹脂(C)に対する反応性基を有した変性エラストマー(D)と、を含有することを要旨とする。
[11]本発明の改質剤では、前記成分(C)及び前記成分(D)の合計を100質量%とした場合に、前記成分(D)を50質量%以上とすることができる。
[12]本発明の改質剤では、前記成分(B)、前記成分(C)及び前記成分(D)の合計を100質量%とした場合に、前記成分(B)を45質量%以上65質量%以下にすることができる。
【0012】
[13]本発明の改質方法は、数平均分子量が350,000未満である第1のポリオレフィン樹脂(A)に対する添加により、得られる熱可塑性樹脂組成物の引張伸び率を50%以上に向上させる改質方法であって、
数平均分子量が350,000以上である第2のポリオレフィン樹脂(B)と、
主鎖中の隣り合ったアミド結合同士に挟まれた炭化水素基の直鎖炭素数が5以下である構造を有したポリアミド樹脂(C)と、
前記ポリアミド樹脂(C)に対する反応性基を有した変性エラストマー(D)と、を含有する改質剤を、前記第1のポリオレフィン樹脂(A)に対して添加することを要旨とする。
[14]本発明の改質方法では、前記成分(A)、前記成分(B)、前記成分(C)及び前記成分(D)の合計を100質量%とした場合に、前記成分(A)及び前記成分(B)が合計で70質量%以上であり、且つ、
前記成分(A)及び前記成分(B)の合計を100質量%とした場合に、前記成分(A)を50質量%以上87質量%以下となるように前記改質剤を添加することができる。
[15]本発明の改質方法では、前記成分(A)と前記改質剤との合計を100質量%とした場合に、前記改質剤を20質量%超75質量%未満添加することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の熱可塑性樹脂組成物及び成形体によれば、高い引張伸びを得ることができる。
本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法及び成形体の製造方法によれば、高い引張伸びを有する熱可塑性樹脂組成物及び成形体を得ることができる。
本発明の改質剤及び改質方法によれば、得られる熱可塑性樹脂組成物の引張伸びを向上させることができる。即ち、得られるポリオレフィン系樹脂組成物の引張伸びを向上させるように改質することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】相構造の一例を説明する説明図である。
図2】相構造の他例を説明する説明図である。
図3】相構造の他例を説明する説明図である。
図4】実験例1~8についてポリオレフィン含有量と、引張伸び率、引張強度又は衝撃強度の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
ここで示される事項は例示的なもの及び本発明の実施形態を例示的に説明するためのものであり、本発明の原理と概念的な特徴とを最も有効に且つ難なく理解できる説明であると思われるものを提供する目的で述べたものである。この点で、本発明の根本的な理解のために必要である程度以上に本発明の構造的な詳細を示すことを意図してはおらず、図面と合わせた説明によって本発明の幾つかの形態が実際にどのように具現化されるかを当業者に明らかにするものである。
【0016】
[1]熱可塑性樹脂組成物
本発明の熱可塑性樹脂組成物(単に「本組成物」ともいう)は、数平均分子量が350,000未満である第1のポリオレフィン樹脂(A)と、
数平均分子量が350,000以上である第2のポリオレフィン樹脂(B)と、
主鎖中の隣り合ったアミド結合同士に挟まれた炭化水素基の直鎖炭素数が5以下である構造を有したポリアミド樹脂(C)と、
前記ポリアミド樹脂(C)に対する反応性基を有した変性エラストマー(D)と、を含有し、
成分(A)~成分(D)の合計を100質量%とした場合に、成分(A)及び成分(B)が合計で70質量%以上であり、
更に、成分(A)及び成分(B)の合計を100質量%とした場合に、成分(A)が50質量%以上87質量%以下であり、
引張伸び率が50%以上であることを特徴とする。
【0017】
〈1〉各成分について
(1)第1のポリオレフィン樹脂(A)
第1のポリオレフィン樹脂(A)(単に「成分(A)」ともいう)は、数平均分子量が350,000未満のポリオレフィン樹脂である。この成分(A)は、オレフィンの単独重合体(ホモポリマー)であってもよく、オレフィンの共重合体(コポリマー)であってもよく、これらの混合物であってもよい。
成分(A)を構成するオレフィンは特に限定されないが、エチレン、プロピレン、1-ブテン、3-メチル-1-ブテン、1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
即ち、成分(A)としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ1-ブテン樹脂、ポリ1-ヘキセン樹脂、ポリ4-メチル-1-ペンテン樹脂等が挙げられる。これら重合体は1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。即ち、成分(A)は上記重合体の混合物であってもよい。
【0018】
上記ポリエチレン樹脂としては、エチレン単独重合体、及び、エチレンと他のオレフィンとの共重合体が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。このうち、エチレン共重合体を構成する他のオレフィンとしては、プロピレン、1-ブテン、3-メチル-1-ブテン、1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン等が挙げられる。エチレン共重合体は、これらの他のオレフィンのうちの1種又は2種以上を共重合モノマーとすることができる。即ち、エチレン共重合体としては、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・1-ブテン共重合体、エチレン・1-へキセン共重合体、エチレン・1-オクテン共重合体、エチレン・4-メチル-1-ペンテン共重合体等が挙げられる(但し、全構成単位数のうちの50%以上がエチレンに由来する単位である)。これらのエチレン共重合体は、ランダム共重合体であってもよく、ブロック共重合体であってもよい。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0019】
また、ポリプロピレン樹脂としては、プロピレン単独重合体、及び、プロピレンと他のオレフィンとの共重合体が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。このうち、プロピレン共重合体を構成する他のオレフィンとしては、エチレン、1-ブテン、3-メチル-1-ブテン、1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン等が挙げられる。プロピレン共重合体は、これらの他のオレフィンのうちの1種又は2種以上を共重合モノマーとすることができる。即ち、プロピレン共重合体としては、プロピレン・エチレン共重合体、プロピレン・1-ブテン共重合体、プロピレン・1-へキセン共重合体、プロピレン・1-オクテン共重合体、プロピレン・4-メチル-1-ペンテン共重合体等が挙げられる(但し、全構成単位数のうちの50%以上がプロピレンに由来する単位である)。これらのプロピレン共重合体は、ランダム共重合体であってもよく、ブロック共重合体であってもよい。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0020】
本組成物では、上述のように成分(A)として、どのようなポリオレフィン樹脂を用いてもよく、更には、それはホモポリマーであってもよくコポリマーであってもよいが、例えば、プロピレン単独重合体(ポリプロピレンのホモポリマー)を主成分(成分(A)全体に対して70質量%以上、100質量%であってもよい)とすることができる。また、プロピレン共重合体(ポリプロピレンのコポリマー)を主成分(成分(A)全体に対し、通常70質量%以上であり、100質量%であってもよい)とすることができる。
このうちプロピレン共重合体は、ランダム共重合体(ランダム共重合ポリプロピレン)であってもよく、ブロック共重合体(ブロック共重合ポリプロピレン)であってもよいが、これらのうちでは、耐衝撃性に優れるという観点からブロック共重合体が好ましい。とりわけ、他のオレフィンがエチレンであるプロピレン・エチレンブロック共重合体が好ましい。このプロピレン・エチレンブロック共重合体は、エチレンブロックを分散相として有するブロック共重合ポリプロピレンである。即ち、ホモポリプロピレンを連続相として、この連続相内にポリエチレンを含んだ分散相が存在するポリプロピレン樹脂である。このようなエチレンブロックを分散相として有するブロック共重合ポリプロピレンは、例えば、インパクトコポリマー、ポリプロピレンインパクトコポリマー、ヘテロファジックポリプロピレン、ヘテロファジックブロックポリプロピレン等とも称される。
【0021】
尚、成分(A)は、成分(C)に対して親和性を示さない成分であり、且つ、成分(C)に対して反応し得る反応性基を有さない成分である点において、変性エラストマーと異なっている。
【0022】
本組成物において、成分(A)の数平均分子量は350,000未満である。成分(A)の数平均分子量が350,000未満であることにより、本組成物の引張伸びを顕著に大きくすることができる。成分(A)の数平均分子量は、更に330,000以下とすることができ、300,000以下とすることができる。また、成分(A)の数平均分子量は、10,000以上とすることができ、100,000以上とすることができ、更には150,000以上とすることができる。この成分(A)は1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
尚、成分(A)の数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)によるポリスチレン換算の数平均分子量である。また、成分(A)がホモポリマーである場合、上記の数平均分子量の各数値範囲は、各々重量平均分子量の数値範囲へ読み換えることもできる。
【0023】
成分(A)のMFR(メルトフローレート)は限定されないが、成分(A)の分子量(数平均分子量を含む)とMFRとは比例関係を示す傾向にあるため、通常、成分(A)のMFRは、成分(B)のMFRよりも大きくなる。
具体的には、成分(A)のMFRは、10g/10min以上にすることができる。このMFRは、更に、12g/10min以上が好ましく、14g/10min以上がより好ましい。また、成分(A)のMFRは、1500g/10min以下とすることができ、1000g/10min以下が好ましく、500g/10min以下がより好ましい。
尚、ポリオレフィン樹脂のMFRは、JIS K7210に準拠し、温度230℃且つ荷重21.18N(2.16kgf)の条件で測定される。
【0024】
(2)第2のポリオレフィン樹脂(B)
第2のポリオレフィン樹脂(B)(単に「成分(B)」ともいう)は、数平均分子量が350,000以上のポリオレフィン樹脂である。この成分(B)は、オレフィンの単独重合体(ホモポリマー)であってもよく、オレフィンの共重合体(コポリマー)であってもよく、これらの混合物であってもよい。
成分(B)を構成するオレフィンは特に限定されず、成分(A)を構成するオレフィンとして例示したものを同様に用いることができ、更には、成分(A)として例示したポリオレフィンを同様に用いることができる。
【0025】
本組成物では、上述のように成分(B)として、どのようなポリオレフィン樹脂を用いてもよく、更には、それはホモポリマーであってもよくコポリマーであってもよいが、例えば、プロピレン単独重合体(ポリプロピレンのホモポリマー)を主成分(成分(B)全体に対して70質量%以上、100質量%であってもよい)とすることができる。また、プロピレン共重合体(ポリプロピレンのコポリマー)を主成分(成分(B)全体に対し、通常70質量%以上であり、100質量%であってもよい)とすることができる。
このプロピレン共重合体は、ランダム共重合体(ランダム共重合ポリプロピレン)であってもよく、ブロック共重合体(ブロック共重合ポリプロピレン)であってもよいが、これらのうちでは、耐衝撃性に優れるという観点からブロック共重合体が好ましいことは成分(A)と同様である。
【0026】
尚、成分(B)は、成分(C)に対して親和性を示さない成分であり、且つ、成分(C)に対して反応し得る反応性基を有さない成分である点において、変性エラストマーと異なっている。
【0027】
本組成物において、成分(B)の数平均分子量は350,000以上である。成分(B)の数平均分子量が350,000以上であることにより、成分(B)同士の界面を少なくすることができるために、本発明において有利であると考えられる。また、本組成物が所定の相構造(後述する)を有する場合に、そのうちの分散相の分散径が比較的大きいままであっても、耐衝撃性を顕著に向上させることができるものと考えられる。尚、この作用は、主鎖中の隣り合ったアミド結合同士に挟まれた炭化水素基の直鎖炭素数が6以上である構造を有したポリアミド樹脂を用いた場合には発現されず、直鎖炭素数が5以下である構造を有したポリアミド樹脂を用いた場合にのみ特有に発現される。
【0028】
上述の数平均分子量は、370,000以上が好ましく、400,000以上がより好ましく、430,000以上が更に好ましく、450,000以上がより更に好ましく、470,000以上が特に好ましく、490,000以上がより特に好ましく、500,000以上がとりわけ好ましく、更に505,000以上、更には510,000以上が好ましい。一方、その上限は限定されないが、例えば、700,000以下とすることができる。
尚、ポリオレフィン樹脂の数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)によるポリスチレン換算の数平均分子量である。また、成分(B)がホモポリマーである場合、上述の数平均分子量の各数値範囲は、各々重量平均分子量の数値範囲へ読み換えることができる。
【0029】
成分(B)のMFR(メルトフローレート)は限定されないが、成分(B)の分子量(数平均分子量を含む)とMFRとは比例関係を示す傾向にあるため、通常、成分(A)のMFRは、成分(B)のMFRよりも大きくなる。
具体的には、成分(A)のMFRは、25g/10min以下にすることができる。このMFRは、22g/10min以下が好ましく、19g/10min以下がより好ましく、16g/10min以下が更に好ましく、13g/10min以下がより更に好ましく、10g/10min以下が特に好ましく、9g/10min以下がより特に好ましく、8g/10min以下がとりわけ好ましい。また、成分(B)のMFRは、1g/10min以上とすることができ、1.5g/10minが好ましく、2g/10min以上がより好ましい。
尚、ポリオレフィン樹脂のMFRは、JIS K7210に準拠し、温度230℃且つ荷重21.18N(2.16kgf)の条件で測定される。
【0030】
(3)ポリアミド樹脂(C)
ポリアミド樹脂(C)(単に「成分(C)」ともいう)は、アミド結合(-NH-CO-)を介して複数の単量体が重合されてなる鎖状骨格を有する重合体である。
本組成物において、成分(C)は、主鎖中の隣り合ったアミド結合同士に挟まれた炭化水素基の直鎖炭素数が5以下である構造(本発明では、単に「短鎖構造」という)を有する。即ち、成分(C)を構成するポリアミド分子が短鎖構造を有している。
【0031】
上述の直鎖炭素数が5である構造としては、例えば、下記(1)~(6)が例示される。
(1)-NHCO-CH-CH-CH-CH-CH-NHCO-
(2)-CONH-CH-CH-CH-CH-CH-NHCO-
(3)-NHOC-CH-CH-CH-CH-CH-CONH-
(4)-NHCO-CH-CH-CH-CH(CH)-CH-NHCO-
(5)-CONH-CH-CH-CH-CH(CH)-CH-NHCO-
(6)-NHOC-CH-CH-CH-CH(CH)-CH-CONH-
【0032】
また、上述の直鎖炭素数が4である構造としては下記(7)~(12)が例示される。
(7)-NHCO-CH-CH-CH-CH-NHCO-
(8)-CONH-CH-CH-CH-CH-NHCO-
(9)-NHOC-CH-CH-CH-CH-CONH-
(10)-NHCO-CH-CH-CH(CH)-CH-NHCO-
(11)-CONH-CH-CH-CH(CH)-CH-NHCO-
(12)-NHOC-CH-CH-CH(CH)-CH-CONH-
【0033】
本組成物において、成分(C)として、短鎖構造のみを有するポリアミド樹脂を用いることができる。具体的には、ナイロン6(PA6、ポリアミド6)、ナイロン66(PA66、ポリアミド66)、ナイロン46(PA46、ポリアミド46)、及び、これら共重合体等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
また、上述の共重合体としては、ナイロン6/66(PA6/66、ナイロン6/66)等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0034】
また、本組成物における成分(C)は、上述の短鎖構造に加えて、同時に、主鎖中の隣り合ったアミド結合同士に挟まれた炭化水素基がフェニレン基又はその置換基である構造(以下、単に「フェニレン構造」という)を有してもよい。フェニレン基(-C-)は、ベンゼン(C)から水素原子2つを除いた残基であり、1,2-フェニレン基、1,3-フェニレン基、及び、1,4-フェニレン基のいずれであってもよい。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。また、フェニレン基の置換基(-C(R)-)は、通常、主鎖中の隣り合ったアミド結合同士に挟まれた炭化水素基の主鎖炭素数が6以上10以下である。即ち、置換フェニレン基としては、メチレンフェニレン基、ジメチレンフェニレン基、エチレンフェニレン基等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0035】
即ち、本組成物における成分(C)は、短鎖構造とフェニレン構造とのみを有したポリアミド樹脂を用いることができる。
具体的には、ナイロン6T(PA6T、ポリアミド6T)、ナイロン6I(PA6I、ポリアミド6I)、ナイロンM5T(PAM5T、ポリアミドM5T)、ナイロンM5I(PAM5I、ポリアミドM5I)、及び、これら共重合体等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
また、上述の共重合体としては、ナイロン6T/66(PA6T/66、ナイロン6T/66)、ナイロン6T/6I(PA6T/6I、ポリアミド6T/6I)、ナイロン6T/6I/66(PA6T/6I/66、ポリアミド6T/6I/66)、ナイロン6T/2M-5T(PA6T/2M-5T、ポリアミド6T/2M-5T)等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0036】
更に、本組成物における成分(C)は、上述の短鎖構造に加えて、同時に、上述の直鎖炭素数が5を超える構造(本発明では、単に「長鎖構造」という)を含んだポリアミド樹脂を用いることができる。即ち、ポリアミド分子が、短鎖構造と長鎖構造との両方の構造にみを有するポリアミド樹脂を用いることができる。このような、短鎖構造と長鎖構造との両方の構造を有するポリアミド樹脂としては、ナイロン610(PA610、ポリアミド610)、ナイロン611(PA611、ポリアミド611)、ナイロン612(PA612、ポリアミド612)、ポリアミド614(PA614、ポリアミド614)、ポリアミドMXD6(PAMXD6、ポリアミドMXD6)等が挙げられる。これらのポリアミドは、1種のみを用いてもよいし2種以上を併用してもよい。
尚、本組成物において、短鎖構造と長鎖構造との両方の構造を有するポリアミド樹脂を用いる場合、このポリアミド樹脂は、短鎖構造と長鎖構造との合計中に、短鎖構造が50%を超えて(より好ましくは60%以上99%以下)含まれるものであることが好ましい。
【0037】
本発明において成分(C)は、短鎖構造をより多く含んだポリアミド樹脂である方が好ましい。従って、成分(C)として、実質的に短鎖構造のみを有するポリアミド樹脂を用いることができる。この場合には、本発明の効果をより強く得ることができる。
また、成分(C)として、短鎖構造とフェニレン構造との両方の構造を有するポリアミド樹脂や、短鎖構造と長鎖構造との両方の構造を有するポリアミド樹脂を用いる場合には、短鎖構造の割合が多い成分(C)を用いる場合に、本発明による効果をより強く得ることができる。
具体的には、短鎖構造(即ち、短鎖ユニットといえる)、フェニレン構造(即ち、フェニレンユニットといえる)、及び、長鎖構造(即ち、長鎖ユニットといえる)のすべての構造の合計(ユニットの合計)に対して、短鎖構造の割合(数割合)が50%を超えることが好ましく、70%以上99%以下であることがより好ましい。
【0038】
本組成物における成分(C)の数平均分子量は限定されないが、例えば、5,000以上100,000以下とすることができ、7,500以上50,000以下が好ましく、10,000以上50,000以下がより好ましい。
尚、成分(C)の数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)によるポリスチレン換算の数平均分子量である。
【0039】
成分(C)を構成する単量体は特に限定されず、上述の短鎖構造、フェニレン構造、長鎖構造等を適宜、必要に応じて形成できる単量体を用いることができる。
具体的には、例えば、6-アミノカプロン酸、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸、パラアミノメチル安息香酸などのアミノ酸、ε-カプロラクタム、ウンデカンラクタム、ω-ラウリルラクタムなどのラクタムなどが挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0040】
更に、成分(C)は、ジアミンとジカルボン酸との共重合により得ることもできる。この場合、単量体としてのジアミンには、エチレンジアミン、1,3-ジアミノプロパン、1,4-ジアミノブタン、1,6-ジアミノヘキサン、1,7-ジアミノヘプタン、1,8-ジアミノオクタン、1,9-ジアミノノナン、1,10-ジアミノデカン、1,11-ジアミノウンデカン、1,12-ジアミノドデカン、1,13-ジアミノトリデカン、1,14-ジアミノテトラデカン、1,15-ジアミノペンタデカン、1,16-ジアミノヘキサデカン、1,17-ジアミノヘプタデカン、1,18-ジアミノオクタデカン、1,19-ジアミノノナデカン、1,20-ジアミノエイコサン、2-メチル-1,5-ジアミノペンタン、2-メチル-1,8-ジアミノオクタン等の脂肪族ジアミン、シクロヘキサンジアミン、ビス-(4-アミノシクロヘキシル)メタン等の脂環式ジアミン、キシリレンジアミン(p-フェニレンジアミン及びm-フェニレンジアミンなど)等の芳香族ジアミンなどが挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0041】
更に、単量体としてのジカルボン酸には、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、ブラシリン酸、テトラデカン二酸、ペンタデカン二酸、オクタデカン二酸のような脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸のような脂環式ジカルボン酸、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸のような芳香族ジカルボン酸などが挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0042】
(4)変性エラストマー(D)
変性エラストマー(D)は、(単に「成分(D)」ともいう)は、成分(C)に対する反応性基を有したエラストマーである。この変性エラストマーは、更に、成分(C)に対しては、上述の反応性基を利用して親和性を示すと同時に、別途、成分(B)に対しても親和性を示すエラストマーであることが好ましい。即ち、成分(D)は、成分(C)に対する反応性基を有し、成分(B)及び成分(C)の双方に対して相容性を有する相容化剤であることが好ましい。
尚、成分(D)は、本組成物内において、未反応の変性エラストマーとして含まれてもよく、成分(C)との反応物として含まれてもよく、これらの両方の形態で含まれてもよい。
【0043】
上述の反応性基としては、酸無水物基(-CO-O-OC-)、カルボキシル基(-COOH)、エポキシ基{-CO(2つの炭素原子と1つの酸素原子とからなる三員環構造)}、オキサゾリン基(-CNO)及びイソシアネート基(-NCO)等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
これらの反応性基は、変性前のエラストマー(未変性エラストマー)に対して、変性により導入することができる。具体的には、エラストマーの酸変性物、エラストマーのエポキシ変性物、及び、エラストマーのオキサゾリン変性物等が挙げられる。これらのなかでも、エラストマーの酸変性物が好ましく、更には、酸無水物又はカルボン酸によるエラストマーの変性物であることがより好ましい。
この成分(D)は、分子の側鎖又は末端に、酸無水物基又はカルボキシル基を有することが特に好ましい。酸変性量は特に限定されず、例えば、1分子の変性エラストマーに含まれる酸無水物基又はカルボキシル基の数は、1以上であることが好ましく、より好ましくは2以上50以下、更に好ましくは3以上30以下、特に好ましくは5以上20以下である。これらの変性エラストマーは、単独で、又は、2種以上の組合せで用いることができる。
【0044】
変性前のエラストマーとしては、例えば、オレフィン系エラストマーやスチレン系エラストマー等が挙げられる。成分(B)に対する相容性の観点から、特に、オレフィン系エラストマーが好ましい。
上記オレフィン系エラストマーとしては、炭素数が3~8のα-オレフィンに由来する構造単位を含むα-オレフィン系共重合体であることが好ましく、エチレン・α-オレフィン共重合体、α-オレフィン共重合体、α-オレフィン・非共役ジエン共重合体、又は、エチレン・α-オレフィン・非共役ジエン共重合体とすることができる。これらのうち、エチレン・α-オレフィン共重合体、α-オレフィン共重合体、及びエチレン・α-オレフィン・非共役ジエン共重合体が特に好ましい。
尚、非共役ジエンとしては、1,4-ペンタジエン、1,4-ヘキサジエン、1,5-ヘキサジエン、1,6-ヘキサジエン等の直鎖の非環状ジエン化合物;5-メチル-1,4-ヘキサジエン、3,7-ジメチル-1,6-オクタジエン、5,7-ジメチルオクタ-1,6-ジエン、3,7-ジメチル-1,7-オクタジエン、7-メチルオクタ-1,6-ジエン、ジヒドロミルセン等の分岐連鎖の非環状ジエン化合物;テトラヒドロインデン、メチルテトラヒドロインデン、ジシクロペンタジエン、ビシクロ[2.2.1]-ヘプタ-2,5-ジエン、5-メチレン-2-ノルボルネン、5-エチリデン-2-ノルボルネン、5-プロペニル-2-ノルボルネン、5-イソプロピリデン-2-ノルボルネン、5-シクロヘキシリデン-2-ノルボルネン、5-ビニル-2-ノルボルネン等の脂環式ジエン化合物等が挙げられる。
【0045】
具体的なオレフィンエラストマーとしては、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・1-ブテン共重合体、エチレン・1-ペンテン共重合体、エチレン・1-ヘキセン共重合体、エチレン・1-オクテン共重合体、プロピレン・1-ブテン共重合体、プロピレン・1-ペンテン共重合体、プロピレン・1-ヘキセン共重合体、プロピレン・1-オクテン共重合体等が挙げられる。これらのうち、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・1-ブテン共重合体及びエチレン・1-オクテン共重合体が好ましい。
【0046】
また、上記スチレン系エラストマーとしては、芳香族ビニル化合物と、共役ジエン化合物とのブロック共重合体及びその水素添加物が挙げられる。
上記芳香族ビニル化合物としては、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン等のアルキルスチレン;p-メトキシスチレン、ビニルナフタレン等が挙げられる。
また、上記共役ジエン化合物としては、ブタジエン、イソプレン、1,3-ペンタジエン、メチルペンタジエン、フェニルブタジエン、3,4-ジメチル-1,3-ヘキサジエン、4,5-ジエチル-1,3-オクタジエン等が挙げられる。
【0047】
具体的なスチレン系エラストマーとしては、スチレン・ブタジエン・スチレン共重合体(SBS)、スチレン・イソプレン・スチレン共重合体(SIS)、スチレン・エチレン/ブチレン・スチレン共重合体(SEBS)、スチレン・エチレン/プロピレン・スチレン共重合体(SEPS)等が挙げられる。
【0048】
また、酸変性用の酸無水物としては、無水マレイン酸、無水フタル酸、無水イタコン酸、無水コハク酸、無水グルタル酸、無水アジピン酸、無水シトラコン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ブテニル無水コハク酸等が挙げられる。これらのうち、無水マレイン酸、無水フタル酸及び無水イタコン酸が好ましい。
また、カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸等が挙げられる。
【0049】
本組成物における成分(D)としては、上述の各種変性エラストマーのなかでも、酸無水物変性されたエラストマーが好ましく、特に無水マレイン酸変性されたエラストマーが好ましく、更には、炭素数が3~8のα-オレフィンに由来する構造単位を含むα-オレフィン系共重合体の酸変性物が好ましい。具体的には、無水マレイン酸変性エチレン・プロピレン共重合体、無水マレイン酸変性エチレン・1-ブテン共重合体、無水マレイン酸変性エチレン・1-ヘキセン共重合体及び無水マレイン酸変性エチレン・1-オクテン共重合体等の、無水マレイン酸により変性されたエラストマーが好ましい。具体的には、三井化学株式会社製のα-オレフィンコポリマー「タフマーシリーズ」(商品名)やダウケミカル社製の「AMPLIFYシリーズ」(商品名)等を用いることができる。
【0050】
本組成物における成分(D)の重量平均分子量は特に限定されないが、例えば、10,000以上500,000以下とすることができ、20,000以上500,000以下が好ましく、30,000以上300,000以下がより好ましい。
尚、変性エラストマーの重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)によるポリスチレン換算の重量平均分子量である。
【0051】
(4)他の成分
本組成物は、前述した成分(A)~(D)のみからなってもよいが、これら以外に、他成分を含有できる。他成分は1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
他成分としては、他の熱可塑性樹脂が挙げられる。具体的には、ポリエステル系樹脂(ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、ポリ乳酸)等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
他の熱可塑性樹脂を含む場合、成分(A)~(D)と他の熱可塑性樹脂との合計を100質量%とした場合に、他の熱可塑性樹脂は25質量%以下(更に20質量%以下、更に15質量%以下、更に10質量%以下、更に5質量%以下、1質量%以上)であることが好ましい。
【0052】
また、配合可能な添加剤としては、造核剤、酸化防止剤、熱安定剤、耐候剤、光安定剤、可塑剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、難燃剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、防曇剤、滑剤、顔料、染料、分散剤、銅害防止剤、中和剤、気泡防止剤、ウェルド強度改良剤、天然油、合成油、ワックス等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0053】
〈2〉相構造について
本組成物の相構造は限定されないが、通常、連続相Xと分散相Yとを有する(図1参照)。このうち、連続相Xは、成分(A)及び成分(B)により構成される。また、分散相Yは、連続相X内に分散された相であり、成分(C)及び成分(D)から構成される。
【0054】
更に、分散相Yは、分散相内連続相Yと分散相内分散相Y(以下、「微分散相」ともいう)とを有することができる(図2参照)。分散相内連続相Y及び微分散相Yは、通常、成分(C)及び/又は成分(D)から構成される。具体的には、例えば、下記〈1〉~〈4〉の相構造が挙げられる。〈1〉分散相内連続相Yが成分(C)から構成され、且つ、微分散相Yが成分(D)から構成された相構造。〈2〉分散相内連続相Yが成分(C)から構成され、且つ、微分散相Yが成分(C)及び成分(D)の両方から構成された相構造。〈3〉分散相内連続相Yが成分(D)から構成され、且つ、微分散相Yが成分(C)から構成された相構造。〈4〉分散相内連続相Yが成分(D)から構成され、且つ、微分散相Yが成分(C)及び成分(D)の両方から構成された相構造。尚、分散相内連続相Y及び微分散相Yを有さない分散相Y(複相化されていない分散相Y)と、分散相内連続相Y及び微分散相Yを有する分散相Y(複相化された分散相Y)とは共存してもよい。
また、成分(D)は、未反応の変性エラストマーとして存在してもよいし、成分(C)との反応物(ポリアミド樹脂と変性エラストマーとの反応物)として存在してもよいし、これらの混合物として存在してもよい。
【0055】
更に、分散相Yは、その周囲に境界相Zを備えることができる(図3参照)。境界層Zは、連続相Xと分散相Yとの境界に位置される相である。この境界相Zは、成分(A)及び/又は成分(B)としてプロピレン・エチレンブロック共重合体を用いた場合に形成され易い傾向にある。そして、成分(A)及び成分(B)の合計成分全体に対してプロピレン・エチレンブロック共重合体が占める割合が多い程、境界相Zの厚み(幅)は大きくなる傾向にある。このことから、境界相Zの全部又は一部が、プロピレン・エチレンブロック共重合体を構成していたエチレンブロックによって形成されているものと考えられる。尚、境界相Zは、様々な厚さ(境界層Zの厚み)のものが混在することができる。更に、境界相Zを有する分散相Yと境界相Zを有さない分散相Yとは共存してもよい。
【0056】
本組成物の相構造は、酸素プラズマエッチング処理した後、更に、オスミウムコート処理を施した試験片(本組成物からなる試験片)の処理面を電界放出形走査型電子顕微鏡(FE-SEM)で観察できる。特に、分散相及び微分散相は、この方法において1000倍以上(通常10,000倍以下)に拡大した画像で観察できる。また、各相を構成する成分は、電界放射型走査電子顕微鏡(FE-SEM)を用いた観察時にエネルギー分散型X線分析(EDS)を行うことで特定できる。
【0057】
本組成物が分散相Yを有する場合、その大きさは特に限定されないが、分散相Yの分散径(平均分散径)は、10000nm以下とすることができ、50nm以上8000nm以下とすることができ、更には100nm以上4000nm以下とすることができる。
この分散相Yの分散径は、電子顕微鏡を用いて得られる1000倍以上の拡大画像において測定される。即ち、画像内の所定の領域内から無作為に選択された20個の分散相Yの各々の最長径を測定し、得られた最長径の平均値を第1平均値とする。そして、画像内の異なる5つの領域において測定された第1平均値の更なる平均値を分散相Yの平均分散径(長軸平均分散径)とする。
【0058】
本組成物が微分散相Yを有する場合、その大きさは特に限定されないが、微分散相Yの分散径(平均分散径)は、5nm以上1000nm以下とすることができ、5nm以上600nm以下とすることができ、更には10nm以上400nm以下とすることができ、特に15nm以上350nm以下とすることができる。
この微分散相Yの分散径は、電子顕微鏡を用いて得られる1000倍以上の拡大画像において測定される。即ち、画像内の所定の領域内から無作為に選択された20個の微分散相Yの各々の最長径を測定し、得られた最長径の平均値を第1平均値とする。そして、画像内の異なる5つの領域において測定された第1平均値の更なる平均値を微分散相Yの平均分散径(長軸平均分散径)とする。
【0059】
〈3〉配合について
本組成物において、成分(A)~(D)の4成分の合計を100質量%とした場合に、成分(A)及び成分(B)は合計で70質量%以上である。即ち、ポリオレフィンの含有割合が70質量%以上と多い組成物である。このため、本組成物は、ポリオレフィン系熱可塑性組成物であるといえる。このようにポリオレフィンの割合が多い組成物では、ポリオレフィンの性質が強く出るのが、本来ポリオレフィン(ポリオレフィン100%)が有する引張伸び率は50%に満たない。これに対し、本組成物は、70質量%以上のポリオレフィンを含有しながら50%以上の引張伸び率を有することができる。換言すれば、本組成物は、成分(C)及び成分(D)が合計で30質量%未満含有されることで、ポリオレフィンの引張伸び率が大幅に改質された組成物であるといえる。
【0060】
上述した成分(A)~(D)の4成分の合計を100質量%とした場合の成分(A)及び成分(B)の合計割合は、70質量%以上であればよく、その上限は、95質量%以下とすることができる。この範囲では特に高い引張伸び率を得ることができる。この割合は、更に71質量%以上とすることができ、更に72質量%以上とすることができる。一方、この割合は、更に90質量%以下とすることができ、更に87質量%以下とすることができる。これらの範囲ではより高い引張伸び率を得ることができる。
【0061】
更に、本組成物では、上述のように合計で70質量%以上含有される成分(A)及び成分(B)は、その合計を100質量%とした場合に、成分(A)が50質量%以上87質量%以下含まれる。即ち、本組成物に含有される成分(A)と成分(B)とを比較すると、成分(A)の方が多く含まれている。
この成分(A)と成分(B)の2成分の合計を100質量%とした場合の成分(A)の割合は、更に52質量%以上とすることができ、更に55質量%以上とすることができ、更に58質量%以上とすることができ、更に60質量%以上とすることができる。一方、この割合は、更に85質量%以下とすることができ、更に83質量%以下とすることができ、更に81質量%以下とすることができ、更に80質量%以下とすることができる。これらの範囲ではより高い引張伸び率を得ることができる。
【0062】
より具体的には、本組成物において、成分(A)~(D)の4成分の合計を100質量%とした場合の成分(A)の割合は25質量%超とすることができ、27質量%以上とすることができ、更に32質量%以上とすることができ、更に37質量%以上とすることができる。一方、この割合は、80質量%未満とすることができ、79質量%以下とすることができ、更に78質量%以下とすることができ、更に77質量%以下とすることができる。これらの範囲ではより高い引張伸び率を得ることができる。
【0063】
本組成物において、成分(B)~(D)の3成分の合計を100質量%とした場合に、成分(B)の割合は、2質量%以上90質量%以下とすることができる。この割合は、5質量%以上85質量%以下が好ましく、更に10質量%以上83質量%以下が好ましく、更に15質量%以上80質量%以下が好ましく、更に20質量%以上78質量%以下が好ましく、更に25質量%以上75質量%以下が好ましく、更に30質量%以上73質量%以下が好ましく、更に35質量%以上70質量%以下が好ましく、更に45質量%以上65質量%以下が好ましい。上記範囲では、高い引張伸び率を得ることができる。
【0064】
本組成物において、成分(B)~(D)の3成分の合計を100質量%とした場合に、成分(C)及び成分(D)(これらの一部又は全部は互いに反応されていてもよい。以下同様。)の割合は、10質量%以上98質量%以下とすることができる。この割合は、15質量%以上95質量%以下が好ましく、更に17質量%以上90質量%以下が好ましく、更に20質量%以上85質量%以下が好ましく、更に22質量%以上80質量%以下が好ましく、更に25質量%以上75質量%以下が好ましく、更に27質量%以上70質量%以下が好ましく、更に30質量%以上65質量%以下が好ましく、更に35質量%以上65質量%以下が好ましい。上記範囲では、高い引張伸び率を得ることができる。
【0065】
本組成物において、成分(B)~(D)の3成分の合計を100質量%とした場合に、成分(C)の割合は、1質量%以上50質量%以下とすることができる。この割合は、3質量%以上45質量%以下が好ましく、更に5質量%以上40質量%以下が好ましく、更に6質量%以上35質量%以下が好ましく、更に7質量%以上30質量%以下が好ましく、更に8質量%以上28質量%以下が好ましく、更に9質量%以上20質量%以下が好ましく、更に10質量%以上18質量%以下が好ましい。上記範囲では、高い引張伸び率を得ることができる。
【0066】
本組成物において、成分(B)~(D)の3成分の合計を100質量%とした場合に、成分(D)の割合は、1質量%以上60質量%以下とすることができる。この割合は、5質量%以上53質量%以下が好ましく、更に10質量%以上45質量%以下が好ましく、更に15質量%以上40質量%以下が好ましく、更に17質量%以上38質量%以下が好ましく、更に20質量%以上37質量%以下が好ましく、更に23質量%以上36質量%以下が好ましく、更に26質量%以上35質量%以下が好ましい。上記範囲では、高い引張伸び率を得ることができる。
【0067】
本組成物において、成分(B)及び成分(C)の2成分の合計を100質量%とした場合に、成分(C)の割合は、1質量%以上90質量%以下とすることができる。この割合は、3質量%以上80質量%以下が好ましく、更に5質量%以上70質量%以下が好ましく、更に6質量%以上55質量%以下が好ましく、更に7質量%以上45質量%以下が好ましく、更に8質量%以上40質量%以下が好ましく、更に9質量%以上35質量%以下が好ましく、更に10質量%以上30質量%以下が好ましい。上記範囲では、高い引張伸び率を得ることができる。
【0068】
本組成物において、成分(C)及び成分(D)の2成分の合計を100質量%とした場合に、成分(D)の割合は、1質量%以上99質量%以下とすることができる。この割合は、5質量%以上80質量%以下が好ましく、更に10質量%以上60質量%以下が好ましく、更に15質量%以上55質量%以下が好ましく、更に20質量%以上50質量%以下が好ましく、更に23質量%以上45質量%以下が好ましく、更に25質量%以上40質量%以下が好ましい。上記範囲では、高い引張伸び率を得ることができる。
【0069】
尚、本組成物が、前述したような所定の相構造を有する場合、各相を構成する成分の種類と、各相の面積比率とから、本組成物の各成分の含有割合を近似的に算出できる。即ち、前述したFE-SEM画像(但し、倍率は1000倍以下であってもよい)の解析から各相の面積比率を算出できる。この面積比率は、近似的な体積比率である。そして、各成分の密度から、各相を構成する成分の含有割合に換算できる。例えば、成分(A)がプロピレン・エチレンブロック共重合体(例えば0.90~0.91g/cm)であり、成分(B)ホモポリプロピレン(例えば0.90~0.91g/cm)であり、成分(C)がPA6(例えば1.12~1.13g/cm)であり、成分(D)がマレイン酸変性EBR(例えば0.86~0.88g/cm)であり、連続相X及び凝集相Zと分散相Yとの面積比率が5:5であり、分散相Y内の分散相内連続相Yと微分散相Yとの面積比率が5:5である場合、成分(A)~(D)の4成分の合計を100質量%とした場合の成分(A)及び成分(B)の合計含有割合は47.6質量%と近似的に算出することができる。
【0070】
本組成物によれば、高い引張伸び率を得ることができる。具体的には、後述する実施例に示す方法によって測定した場合の引張伸び率を50%以上1000%以下にでき、更に100%以上850%以下にでき、更に150%以上700%以下にでき、更に200%以上650%以下にでき、更に230%以上600%以下にでき、更に250%以上550%以下にできる。
特に成分(A)~(D)の合計100質量%に対し、成分(A)が35~80質量%、成分(B)が10~40質量%、成分(C)が2~12質量%、成分(D)が5~25質量%の範囲において、引張伸び率を200%以上(通常1000%以下)にすることができる。更に成分(A)~(D)の合計100質量%に対し、成分(A)が35~70質量%、成分(B)が20~45質量%、成分(C)が5~12質量%、成分(D)が10~25質量%の範囲において、引張伸び率を400%以上(通常1000%以下)にすることができる。
【0071】
[2]熱可塑性樹脂組成物の製造方法
本組成物の製造方法は、第2組成物調製工程及び第3組成物調製工程を備えることを特徴とする。本製造方法は、通常、第3組成物調製工程により得らえた第3組成物が、本組成物となる。尚、成分(A)~(D)の4成分の各々及び含有割合等については、前述した通りである。また、通常、前述した本組成物内における各成分の含有割合及び含有量等は、本製造方法における配合割合及び配合量と同じである。即ち、製造過程における成分(A)~(D)の4成分の揮散や消滅は考慮する必要がない。
【0072】
上記「第2組成物調製工程」は、第1組成物と、成分(B)とを溶融混練して第2組成物を得る工程である。
第1組成物は、成分(C)と成分(D)とを溶融混練してなる組成物である。即ち、第1組成物は、成分(C)と成分(D)との溶融混練物である。
第2組成物は、第1組成物と成分(B)とを溶融混練してなる組成物である。即ち、第2組成物は、第1組成物と成分(B)との溶融混練物である。
上記「第3組成物調製工程」は、成分(A)と第2組成物とを溶融混練して第3組成物を得る工程である。
第3組成物は、第2組成物と成分(A)とを溶融混練してなる組成物である。即ち、第3組成物は、第2組成物と成分(A)との溶融混練物である。
【0073】
これらの工程における溶融混錬は、溶融又は軟化された状態で混錬することをいう。具体的な温度は限定されないが、第1組成物を得るための溶融混錬も、第2組成物を得るための溶融混錬(第2組成物調製工程における溶融混錬)も、第3組成物を得るための溶融混錬(第3組成物調製工程における溶融混錬)も、例えば、190℃以上350℃以下において溶融混錬することができる。特に第1組成物を得るという観点では、この範囲の溶融混錬により、成分(D)が有している反応性基と成分(C)との反応を促すことができる。これらの溶融混錬は、更に200℃以上300℃以下で行うことができ、特に205℃以上260℃以下が好ましい。
【0074】
また、各溶融混錬は、どのような混練装置(溶融混錬装置)を用いて行ってもよい。例えば、押出機(一軸スクリュー押出機、二軸混練押出機等)、ニーダー、ミキサー(高速流動式ミキサー、バドルミキサー、リボンミキサー等)等を用いることができる。これらの装置は1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。また、2種以上を用いる場合には連続的に運転してもよく、回分的に(バッチ式で)運転してもよい。更に、各原料は一括して混合してもよいし、複数回に分けて添加投入(多段配合)してもよい。
【0075】
本製造方法では、予め第1組成物を形成することにより、成分(C)と成分(D)との反応が促され、成分(C)と成分(D)とが良好に反応された粒子(以下、単に「反応粒子」という)が形成されると考えられる。即ち、実質的に成分(C)と成分(D)とのみで反応させることにより、良質な反応粒子が形成され得ると考えられる。その機構を予測的に記載すると、溶融混練を開始すると、変性エラストマーの反応性基がポリアミド樹脂粒子の表面に反応された粒子が形成されると考えられるが、溶融混錬中にせん断力が加わることにより、この粒子がせん断され、粒子内の未反応な状態のポリアミド樹脂が粒子の表面に露出されると考えられる。すると、この露出された未反応な状態のポリアミド樹脂に対して、未反応な成分(C)が反応するものと考えられる。この状況が繰り返されることにより、上述のような良質な反応粒子が形成されると考えられる。更には、より小さい粒径の反応粒子を高いシェアに頼らず安定して形成できると考えらえる。
そして、上述の過程で供給され得る成分(D)が少ないと、反応が進行し難く、反応粒子が小さくなり難くなるものと考えられる。従って、供給され得る成分(D)は必要十分であることが好ましいものと考えられる。
【0076】
尚、前述の通り、各工程は連続的に行ってもよいし、バッチ式で行ってもよい。例えば、バッチ式で行う場合としては、第1組成物を得るための溶融混錬工程は、第2組成物調製工程と連続させないものとすることができる。この場合、第1組成物は、一度、固形化(ペレット化等)することができる。即ち、固形の第1組成物とすることができる。従ってこの場合は、第2組成物調製工程では、固形の第1組成物と固形の成分(B)とを溶融混錬することになる。この際には、固形の第1組成物及び固形の成分(B)は、ペレット形状であってもよいし、塊状であってもよいし、粉末状であってもよいし、それ以外の形状であってもよい。いずれにしても、混合し易いように細分化されている方が好ましい。
同様に、第2組成物調製工程により得られた第2組成物は、固化することなく連続的に第3組成物調製工程で利用することもできるが、一度、固化することもできる。この場合は、第3組成物調製工程では、固形の第2組成物と固形の成分(A)とを溶融混錬することになる。この際には、固形の第2組成物及び固形の成分(A)は、ペレット形状であってもよいし、塊状であってもよいし、粉末状であってもよいし、それ以外の形状であってもよい。いずれにしても、混合し易いように細分化されている方が好ましい。
【0077】
[3]成形体
本発明の成形体は、本組成物を樹脂分とすることを特徴とする。
本成形体を構成する本組成物については前述通りである。本成形体は、ソリッド成形体(中実成形体)であってもよいし、発泡成形体であってもよい。本成形体はどのようにして成形してもよく、その方法は限定されない。例えば、射出成形、押出成形(シート押出、異形押出)、Tダイ成形、ブロー成形、射出ブロー成形、インフレーション成形、中空成形、真空成形、圧縮成形、プレス成形、スタンピングモールド成形、トランスファ成形等に供することができる。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0078】
また、本成形体は本組成物のみからなってもよいが、本組成物以外の構成を備えてもよい。本組成物以外の構成としては、骨材が挙げられる。より具体的には、本組成物以外の樹脂から形成された骨材や、金属等の樹脂以外の材料から形成された骨材等を有することができる。これらの骨材は、例えば、インサート成形によって導入され得る。
【0079】
更に、成形体の形状、大きさ及び厚さ等の寸法も特に限定されず、その用途も特に限定されない。この成形体は、例えば、自動車、鉄道車両、船舶及び飛行機等の外装材、内装材、構造材及び衝撃吸収材等として用いることができる。これらのうち自動車用品としては、自動車用外装材、自動車用内装材、自動車用構造材、自動車用衝撃吸収材、エンジンルーム内部品等が挙げられる。具体的には、バンパー、スポイラー、カウリング、フロントグリル、ガーニッシュ、ボンネット、トランクリッド、カウルルーバー、フェンダーパネル、ロッカーモール、ドアパネル、ルーフパネル、インストルメントパネル、センタークラスター、ドアトリム、クオータートリム、ルーフライニング、ピラーガーニッシュ、デッキトリム、トノボード、パッケージトレイ、ダッシュボード、コンソールボックス、キッキングプレート、スイッチベース、シートバックボード、シートフレーム、アームレスト、サンバイザ、インテークマニホールド、エンジンヘッドカバー、エンジンアンダーカバー、オイルフィルターハウジング、車載用電子部品(ECU、TVモニター等)のハウジング、エアフィルターボックスなどが挙げられる。
【0080】
また、例えば、建築物及び家具等の内装材、外装材及び構造材等が挙げられる。即ち、ドア表装材、ドア構造材、各種家具(机、椅子、棚、箪笥等)の表装材、構造材などとすることができる。その他、包装体、収容体(トレイ等)、保護用部材及びパーティション部材等として用いることもできる。また、家電製品(薄型TV、冷蔵庫、洗濯機、掃除機、携帯電話、携帯ゲーム機、ノート型パソコン等)の筐体及び構造体などの成形体とすることもできる。
【0081】
[4]成形体の製造方法
本成形体の製造方法は下記(1)第1の方法及び(2)第2の方法の方法を含む。
(1)第1の方法は、第3組成物調製工程と成形工程とを備えることを特徴とする。
このうち第3組成物調製工程は、成分(B)~(D)の3成分を含む第2組成物と、成分(A)と、を溶融混練して第3組成物を得る工程である。
また、成形工程は、第3組成物を成形して成形体を得る工程である。
一方、(2)第2の方法は、成形工程を備える。この成形工程は、成分(B)~(D)の3成分を含む第2組成物と、成分(A)と、の溶融混錬物を成形して成形体を得る工程である。
【0082】
上記の第1の方法と第2の方法との違いは、成形するにあたって第3組成物を調製するか否かの点で異なる。即ち、第1の方法は、第3組成物を形成した後、第3組成物を成形する。従って、第2組成物と成分(A)との溶融混錬物である第3組成物を固化させて、成形に適したマスターバッチとして第3組成物(例えば、ペレット形状等)を得ることができる。そしてこの第3組成物を成形機に投入して成形を行う。
一方、第2の方法は、第2組成物と成分(A)との溶融混錬物(固化されていない溶融混錬されたままの状態にある組成物)をそのまま成形する。即ち、第2の方法では、成形に適したマスターバッチを形成することなく、第2組成物と成分(A)との溶融混錬物を直接成形することができる(例えば、固形の第2組成物と、固形の成分(A)とをドライブレンドしたのち、これらの固形物混合物を溶融混錬して成形する)。
【0083】
一般的には、第1の方法を採用することにより、得られる成形体内における第2組成物及び成分(A)の偏在を防止できる。この点、本成形体を製造する場合には、積極的に第2の方法を選択することができる。即ち、第2の方法により成形したとしても、成形体内での第2組成物及び成分(A)の偏在を十分に防止できる。このように成形用のマスターバッチ(第3組成物)を調製せずとも、優れた成形体が得られるのは、成分(A)~(D)の4成分の合計を100質量%とした場合に、成分(A)及び成分(B)の合計が70質量%以上と多いからであると考えられる。即ち、逆にいえば、成分(C)及び成分(D)の合計が30質量%未満と少ないからであると考えられる。
このように、第2の方法を利用することにより、溶融混錬工程を1工程分削減して引張伸び率に優れた成形体を得ることができる。
【0084】
尚、これらの方法において、第2組成物が、成分(C)と成分(D)とを溶融混練して得られた第1組成物と、成分(B)とを溶融混練して得られた組成物であることは、本組成物の製造方法の場合と同様である。
【0085】
[5]改質剤
本発明の改質剤(以下、単に「本改質剤」ともいう)は、成分(A)に対する添加により、得られる熱可塑性樹脂組成物の引張伸び率を向上させる改質剤である。具体的には、引張伸び率が50%以上となるように成分(A)を改質できる改質剤である。そして、本改質剤は、成分(B)と成分(C)と成分(D)を含有することを特徴とする。
これら成分(A)~(D)の4成分については、前述した本組成物における各々と同様である。また、各成分の含有割合及び含有量等は、前述した本組成物における各々と同様である。更に、この改質剤は、前述した本組成物の製造方法や、前述した本成形体の製造方法における第2組成物として得ることができる。
【0086】
従って、本改質剤において、成分(B)~(D)の3成分の合計を100質量%とした場合に、成分(B)の割合は、2質量%以上90質量%以下とすることができる。この割合は、5質量%以上85質量%以下が好ましく、更に10質量%以上83質量%以下が好ましく、更に15質量%以上80質量%以下が好ましく、更に20質量%以上78質量%以下が好ましく、更に25質量%以上75質量%以下が好ましく、更に30質量%以上73質量%以下が好ましく、更に35質量%以上70質量%以下が好ましく、更に45質量%以上65質量%以下が好ましい。上記範囲では、改質により得られる熱可塑性樹脂組成物及び成形体に高い引張伸び率を付与することができる。
【0087】
本改質剤において、成分(B)~(D)の3成分の合計を100質量%とした場合に、成分(C)及び成分(D)(これらの一部又は全部は互いに反応されていてもよい。以下同様。)の割合は、10質量%以上98質量%以下とすることができる。この割合は、15質量%以上95質量%以下が好ましく、更に17質量%以上90質量%以下が好ましく、更に20質量%以上85質量%以下が好ましく、更に22質量%以上80質量%以下が好ましく、更に25質量%以上75質量%以下が好ましく、更に27質量%以上70質量%以下が好ましく、更に30質量%以上65質量%以下が好ましく、更に35質量%以上65質量%以下が好ましい。上記範囲では、改質により得られる熱可塑性樹脂組成物及び成形体に高い引張伸び率を付与することができる。
【0088】
本改質剤において、成分(B)~(D)の3成分の合計を100質量%とした場合に、成分(C)の割合は、1質量%以上50質量%以下とすることができる。この割合は、3質量%以上45質量%以下が好ましく、更に5質量%以上40質量%以下が好ましく、更に6質量%以上35質量%以下が好ましく、更に7質量%以上30質量%以下が好ましく、更に8質量%以上28質量%以下が好ましく、更に9質量%以上20質量%以下が好ましく、更に10質量%以上18質量%以下が好ましい。上記範囲では、改質により得られる熱可塑性樹脂組成物及び成形体に高い引張伸び率を付与することができる。
【0089】
本改質剤において、成分(B)~(D)の3成分の合計を100質量%とした場合に、成分(D)の割合は、1質量%以上60質量%以下とすることができる。この割合は、5質量%以上53質量%以下が好ましく、更に10質量%以上45質量%以下が好ましく、更に15質量%以上40質量%以下が好ましく、更に17質量%以上38質量%以下が好ましく、更に20質量%以上37質量%以下が好ましく、更に23質量%以上36質量%以下が好ましく、更に26質量%以上35質量%以下が好ましい。上記範囲では、改質により得られる熱可塑性樹脂組成物及び成形体に高い引張伸び率を付与することができる。
【0090】
本改質剤において、成分(B)及び成分(C)の2成分の合計を100質量%とした場合に、成分(C)の割合は、1質量%以上90質量%以下とすることができる。この割合は、3質量%以上80質量%以下が好ましく、更に5質量%以上70質量%以下が好ましく、更に6質量%以上55質量%以下が好ましく、更に7質量%以上45質量%以下が好ましく、更に8質量%以上40質量%以下が好ましく、更に9質量%以上35質量%以下が好ましく、更に10質量%以上30質量%以下が好ましい。上記範囲では、改質により得られる熱可塑性樹脂組成物及び成形体に高い引張伸び率を付与することができる。
【0091】
本改質剤において、成分(C)及び成分(D)の2成分の合計を100質量%とした場合に、成分(D)の割合は、1質量%以上99質量%以下とすることができる。この割合は、5質量%以上80質量%以下が好ましく、更に10質量%以上60質量%以下が好ましく、更に15質量%以上55質量%以下が好ましく、更に20質量%以上50質量%以下が好ましく、更に23質量%以上45質量%以下が好ましく、更に25質量%以上40質量%以下が好ましい。上記範囲では、改質により得られる熱可塑性樹脂組成物及び成形体に高い引張伸び率を付与することができる。
【0092】
[6]改質方法
本発明の改質方法(以下、単に「本改質方法」ともいう)は、成分(A)に対して特定の改質剤を添加することにより、得られる熱可塑性樹脂組成物の引張伸び率を向上させる改質方法である。具体的には、引張伸び率が50%以上となるように成分(A)を改質することができる改質方法である。そして、本改質方法で利用する改質剤は、成分(B)と成分(C)と成分(D)を含有する。
これら成分(A)~(D)の4成分については、前述した本組成物における各々と同様である。また、各成分の含有割合及び含有量等は、前述した本組成物における各々と同様である。更に、この改質剤は、前述した本組成物の製造方法や、前述した本成形体の製造方法における第2組成物として得ることができる。
【0093】
本改質方法は、前述した本成形体の製造方法と同様に、(1)第1の方法及び(2)第2の方法の方法を含むことができる。即ち、
(1)第1の方法は、改質剤と、成分(A)と、を溶融混練して第3組成物を得る第3組成物調製工程と、
第3組成物を成形して成形体(改質された成形体)を得る成形工程と、を備える。
(2)第2の方法は、改質剤と、成分(A)と、の溶融混錬物を成形して成形体(改質された成形体)を得る成形工程を備える。
【0094】
上記の第1の方法と第2の方法との違いは、改質を行うにあたって第3組成物を調製するか否かの点で異なる。即ち、第1の方法は、第3組成物を形成した後、第3組成物を成形する。従って、改質剤と成分(A)との溶融混錬物である第3組成物を固化させて、成形に適したマスターバッチとして第3組成物(例えば、ペレット形状等)を得ることができる。そしてこの第3組成物を成形機に投入して成形を行う。
一方、第2の方法は、改質剤と成分(A)との溶融混錬物(固化されていない溶融混錬されたままの状態にある組成物)をそのまま成形する。即ち、第2の方法では、成形に適したマスターバッチを形成することなく、改質剤と成分(A)との溶融混錬物を直接成形することができる(例えば、固形の改質剤と、固形の成分(A)とをドライブレンドしたのち、これらの固形物混合物を溶融混錬して成形する)。
【0095】
一般的には、第1の方法を採用することにより、得られる成形体内における改質剤及び成分(A)の偏在を防止できる。この点、本改質方法では、積極的に第2の方法を選択することができる。即ち、第2の方法により成形したとしても、成形体内での改質剤及び成分(A)の偏在を十分に防止できる。このように成形用のマスターバッチ(第3組成物)を調製せずとも、優れた成形体が得られるのは、成分(A)~(D)の4成分の合計を100質量%とした場合に、成分(A)及び成分(B)の合計が70質量%以上と多いからであると考えられる。即ち、逆にいえば、成分(C)及び成分(D)の合計が30質量%未満と少ないからであると考えられる。
このように、第2の方法を利用することにより、溶融混錬工程を1工程分削減して引張伸び率に優れた改質成形体を得ることができる。
【0096】
尚、これらの方法において、改質剤が、成分(C)と成分(D)とを溶融混練して得られた第1組成物と、成分(B)とを溶融混練して得られた組成物であることは、本組成物の製造方法の場合と同様である。
【実施例
【0097】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
[1]熱可塑性樹脂組成物の調製及び試験片の作製
(1)熱可塑性樹脂組成物の調製
下記成分(C)ポリアミド樹脂のペレットと、下記成分(D)変性エラストマーのペレットと、をドライブレンドした後、得られたペレット混合物を二軸溶融混練押出機(Coperion社製、スクリュー径50mm、L/D=48)に投入し、混練温度210℃、押出速度150kg/時間、スクリュー回転数500回転/分の条件で溶融混練を行い、ペレタイザーを介して、成分(C)及び成分(D)の溶融混練物からなるペレット(第1組成物)を得た(第1組成物調製工程)。
更に、得られたペレット(第1組成物)と、下記成分(B)ポリオレフィン樹脂のペレットと、をドライブレンドした後、得られたペレット混合物を二軸溶融混練押出機(Coperion社製、スクリュー径50mm、L/D=48)に投入し、混練温度210℃、押出速度150kg/時間、スクリュー回転数500回転/分の条件で溶融混練を行い、ペレタイザーを介して、第2組成物(改質剤)からなるペレット(ペレット状の改質剤、改質剤ペレット)を得た(第2組成物調製工程)。
【0098】
(2)評価用試験片の成形(実験例1~
上記(1)で得られたペレット(ペレット状の改質剤、改質剤ペレット)と、下記成分(A)ポリオレフィン樹脂のペレットと、を下記表1の実験例2~の配合割合となるようにドライブレンドした後、得られたペレット混合物を射出成形機(日精樹脂工業株式会社製、40トン射出成形機)に投入し、設定温度210℃、金型温度40℃の射出条件で射出成形し、実験例2~の評価用試験片を得た(成形工程)。
尚、成分(A)ポリオレフィン樹脂のペレットのみを同様に射出成形し、実験例1の評価用試験片を得た。
更に、第1組成物のペレットと、成分(B)ポリオレフィン樹脂のペレットと、をドライブレンドした後、得られたペレット混合物を射出成形機(日精樹脂工業株式会社製、40トン射出成形機)に投入し、設定温度210℃、金型温度40℃の射出条件で射出成形し、実験例の評価用試験片を得た。
【0099】
【表1】
【0100】
(3)成分(A)~(D)の詳細
・成分(A)/ポリオレフィン樹脂:プロピレン・エチレンブロック共重合体、コポリマー、数平均分子量350,000未満、MFR60g/10min
・成分(B)/ポリオレフィン樹脂:ポリプロピレン樹脂、ホモポリマー、数平均分子量520,000、MFR3g/10min
・成分(C)/ポリアミド樹脂:ナイロン6樹脂(短鎖構造のみを有するポリアミド樹脂)、数平均分子量18,000
・成分(D)/変性エラストマー:無水マレイン酸変性エチレン・ブテン共重合体(変性EBR)、三井化学株式会社製、品名「タフマー MH7020」、MFR(230℃)=1.5g/10分
【0101】
[2]評価用試験片の評価
(1)引張伸びの測定
上記[1]を経て得たJIS K7139に規定されたタイプA1(ダンベル形)の試験片を用い、JIS K7161に準拠して引張速度50mm/分にて引張伸び率と引張強度を測定した。その結果を表1に示した。尚、実験例の引張伸び(表1に「>500」と表記)は、測定上限である500%を超えるものであったことを示している。
更に、各実験例の評価用試験片中に含まれるポリオレフィンの合計含有割合と引張伸び率との相関(グラフ内の-〇-)、ポリオレフィンの合計含有割合と引張強度との相関(グラフ内の-▲-)をグラフとして図4に示した。
【0102】
(2)シャルピー衝撃強度の測定
上記[1]を経て得た実験例1~の試験片を用いて、JIS K7111-1に準拠してシャルピー衝撃強度の測定を行った。その結果を表1に示した。尚、このシャルピー衝撃強度の測定では、ノッチ(タイプA)を有する試験片を用い、温度23℃において、エッジワイズ試験法による衝撃の測定を行った。
更に、各実験例の評価用試験片中に含まれるポリオレフィンの合計含有割合とシャルピー衝撃強度との相関(グラフ内の-■-)をグラフとして図4に示した。
【0103】
[3]実施例の効果
表1及び図4から、成分(B)~(D)を含んだ熱可塑性組成物(第2組成物、即ち、改質剤)を、成分(A)に対する改質剤として利用することで、得られる成形体の引張伸びを顕著に向上させられることが分かる。即ち、成分(A)~(D)を含んだ熱可塑性組成物(第3組成物)は、顕著に優れた引張伸びを有することが分かる。
とりわけ、引張強度(グラフ内の-■-)はポリオレフィン合計含有割合に依存して変化することはなく、実験例1~においてほとんど一定である。一方、シャルピー衝撃強度(グラフ内の-▲-)は、第2組成物の添加量が5質量%を超える範囲から顕著な向上が認められるものの、添加量が15質量%以上の範囲からは比較的緩やかな向上となっている。他方、引張伸び率(グラフ内の-〇-)は、添加量が0質量%を超えて50質量%まで極めて顕著に劇的に引張伸び率が大きくなっていることが分かる。添加量が10質量%を超えて40質量%までは特に顕著な引張伸び率の向上が認められる。更に、添加量が約24質量%を超える範囲では、成分(B)~(D)を含んだ熱可塑性組成物(第2組成物、即ち、改質剤)が本来有している引張伸び374%を超える高い引張伸びを示していることが分かる。
【0104】
尚、下記試験法により観察されるモルフォルジーは、これまでの種々の測定結果から、実験例2~7のいずれにおいて図3に示す相構造を呈すると考えられる。更に、連続相Xは成分(A)(又は成分(A)のうちのポリプロピレン成分)及び成分(B)から構成され、分散相Yは成分(C)及び成分(D)の一部から構成され、境界層Zは成分(A)のうちのポリエチレン成分及び成分(D)の一部から構成されると考えられる。更に、分散相Yは、分散相内連続相Yと微分散相Yとを有し、分散相内連続相Yは成分(D)の他部から構成され、微分散相Yは成分(C)から構成されると考えられる。
上述の試験法は以下の通りである。即ち、実施例2~7の各試験片の破断面を100Wで1分間の酸素プラズマエッチング処理した後にオスミウムコート処理し、電界放出形走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製、形式「JSM-7100F TTL LV」)により観察して画像(FE-SEM像)を得る。また、各相を構成する成分は、上記FE-SEM観察時にエネルギー分散型X線分析(EDS)を行って特定する。これらの結果から、相構造を特定する。
【0105】
前述の例は単に説明を目的とするものでしかなく、本発明を限定するものと解釈されるものではない。本発明を典型的な実施形態の例を挙げて説明したが、本発明の記述及び図示において使用された文言は、限定的な文言ではなく説明的及び例示的なものであると理解される。ここで詳述したように、その形態において本発明の範囲又は精神から逸脱することなく、添付の特許請求の範囲内で変更が可能である。ここでは、本発明の詳述に特定の構造、材料及び実施例を参照したが、本発明をここに掲げる開示事項に限定することを意図するものではなく、むしろ、本発明は添付の特許請求の範囲内における、機能的に同等の構造、方法、使用の全てに及ぶものとする。
【符号の説明】
【0106】
X;連続相、
Y;分散相、Y;分散相内連続相、Y;微分散相(分散相内分散相)、
Z;境界相。
図1
図2
図3
図4