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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】変化検知装置および変化検知方法
(51)【国際特許分類】
   G01S 13/90 20060101AFI20241106BHJP
【FI】
G01S13/90
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023504909
(86)(22)【出願日】2021-03-09
(86)【国際出願番号】 JP2021009209
(87)【国際公開番号】W WO2022190196
(87)【国際公開日】2022-09-15
【審査請求日】2023-08-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103090
【弁理士】
【氏名又は名称】岩壁 冬樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124501
【弁理士】
【氏名又は名称】塩川 誠人
(72)【発明者】
【氏名】山口 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】田中 大地
【審査官】佐藤 宙子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/087673(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0285741(US,A1)
【文献】特開2021-21703(JP,A)
【文献】国際公開第2015/151134(WO,A1)
【文献】国際公開第2008/125929(WO,A2)
【文献】国際公開第2015/008310(WO,A1)
【文献】PINCUS,P. ,PREISS,M.,3D SAR coherent change detection for monitoring the ground under a forest canopy,IET RADAR SONAR & NAVIGATION,THE INSTITUTION OF ENGINEERING AND TECHNOLOGY,2019年09月01日,vol.13,no.9,1488-1500,DOI: 10.1049/IET-RSN.2018.5641
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00- 7/42
G01S 13/00-13/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
観測領域における所定領域の3次元構造を再構成する3次元構造再構成手段と、
前記3次元構造を利用して、前記観測領域が撮影されている複数のSAR画像における前記所定領域の位相情報を除去する位相除去手段と、
前記所定領域の位相情報が除去されたSAR画像ペアからコヒーレンス画像を生成し、該コヒーレンス画像を構成する画素のコヒーレンス値に基づいて前記観測領域の変化を検知する変化検知手段と
を備える変化検知装置。
【請求項2】
前記3次元構造再構成手段は、3次元構造として、SARトモグラフィを用いて反射強度および位相報を有する3次元点群データを推定する3次元点群データ推定手段を含む
請求項1に記載の変化検知装置。
【請求項3】
前記位相除去手段は、飛翔体に搭載されているレーダによって取得されたSAR画像群における各々のSAR画像における前記所定領域の位相報を除去し、
前記変化検知手段は、前記SAR画像群から選択された複数のSAR画像ペアからコヒーレンス画像を生成し、コヒーレンス画像のうちに典型的なコヒーレンス値との差が所定値よりも大きいコヒーレンス値が含まれるコヒーレンス画像が存在するか否かに基づいて、前記観測領域の変化を検知する
請求項1または請求項2に記載の変化検知装置。
【請求項4】
前記位相除去手段は、SAR画像における画素の強度が所定強度値よりも大きい画素の位相報を除去する
請求項1から請求項3のうちのいずれか1項に記載の変化検知装置。
【請求項5】
前記3次元構造再構成手段は、3次元情報を含むデータを用いて、SAR画像における反射強度および位相報を有する3次元点群データを推定する3次元点群データ変換手段を含む
請求項1に記載の変化検知装置。
【請求項6】
観測領域における所定領域の3次元構造を再構成し、
前記3次元構造を利用して、前記観測領域が撮影されている複数のSAR画像における前記所定領域の位相報を除去し、
前記所定領域の位相情報が除去されたSAR画像ペアからコヒーレンス画像を生成し、該コヒーレンス画像を構成する画素のコヒーレンス値に基づいて前記観測領域の変化を検知する
変化検知方法。
【請求項7】
3次元構造として、SARトモグラフィを用いて反射強度および位相報を有する3次元点群データを推定する
請求項6に記載の変化検知方法。
【請求項8】
飛翔体に搭載されているレーダによって取得されたSAR画像群における各々のSAR画像における前記所定領域の位相情報を除去し、
前記SAR画像群から選択された複数のSAR画像ペアからコヒーレンス画像を生成し、コヒーレンス画像のうちに典型的なコヒーレンス値との差が所定値よりも大きいコヒーレンス値が含まれるコヒーレンス画像が存在するか否かに基づいて、前記観測領域の変化を検知する
請求項6または請求項7に記載の変化検知方法。
【請求項9】
コンピュータに、
観測領域における所定領域の3次元構造を再構成する処理と、
前記3次元構造を利用して、前記観測領域が撮影されている複数のSAR画像における前記所定領域の位相情報を除去する処理と、
前記所定領域の位相情報が除去されたSAR画像ペアからコヒーレンス画像を生成し、該コヒーレンス画像を構成する画素のコヒーレンス値に基づいて前記観測領域の変化を検知する処理と
を実行させるための変化検知プログラム。
【請求項10】
コンピュータに、3次元構造として、SARトモグラフィを用いて反射強度および位相報を有する3次元点群データを推定する処理
を実行させる請求項9に記載の変化検知プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SAR画像に基づいて変化検知を行う変化検知装置および変化検知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人工衛星で撮影された画像などの高所から撮影された画像を基に地表の状態が変化した領域を検出する変化検出技術がある。
【0003】
合成開口レーダ(SAR:Synthetic Aperture Radar)技術は、人工衛星や航空機などの飛翔体が移動しながら、飛翔体に搭載されているレーダが電磁波を送受信し、大きな開口を持つアンテナによる画像と等価な画像(以下、SAR画像という。)を得るための技術である。合成開口レーダは、例えば、地表からの反射波を信号処理して、地表変位を解析する等のために利用される。
【0004】
人工衛星などの飛翔体で撮影された画像を観測画像という。本明細書では、観測画像は、SAR画像に相当する。以下、電磁波を送受信する飛翔体は人工衛星であるとするが、飛翔体は、人工衛星に限定されない。
【0005】
例えば、特許文献1に、コヒーレンスを利用する変化検知技術(コヒーレント変化検知:Coherent Change Detection)が記載されている。コヒーレンスは、K(K≧2)枚のSAR画像における複数のSAR画像の同じ位置にあたる画素の複素相関で計算される。SAR画像のペアを(p,q)とし、コヒーレンス行列の成分をcp,qとする。p,qは、それぞれ、K以下の値であり、K枚のSAR画像のいずれかを示す。SAR画像のペアについて、位相θp,q(具体的には、位相差)が算出される。そして、コヒーレンス算出対象の画素を含む所定領域内の複数の画素についてexp(-jθp,q)が平均化された値の絶対値が、コヒーレンス行列の成分cp,qとなる。また、SAR画像pにおける強度をA、SAR画像qにおける強度をAとして、Ap・q・exp(-jθp,q)を平均化してもよい。
【0006】
コヒーレンス行列の成分で表される値をコヒーレンス値とする。また、コヒーレンス値を画素値とするコヒーレンス画像を想定する。
【0007】
コヒーレンスを利用する変化検知技術を用いる変化検知装置は、コヒーレンス画像に基づいて変化検知を行う。変化検知装置は、コヒーレンス画像においてコヒーレンス値が低い領域を検出すると変化が生じたと判定する。例えば、変化検知装置は、既に取得されているSAR画像と、そのSAR画像が取得されたときの観測領域と同じ領域を対象とした新たなSAR画像とから、コヒーレンス画像を生成する。なお、一例として、新規建造物が現れたり、既存の建造物が消滅したりすることによって、領域において変化が生ずる。
【0008】
以下、既に取得されているSAR画像を、蓄積されたSAR画像ということがある。新たに取得されたSAR画像を、比較対象のSAR画像ということがある。また、複数のSAR画像をSAR画像群ということがある。例えば、既に取得されているSAR画像群は、既に取得されている複数のSAR画像から成る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】欧州特許出願公開第3540462号明細書
【文献】特開2008-185375号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
SAR画像は、レイオーバの影響を受けることがある。例えば、観測領域に建造物が存在する都市部等では、人工衛星に搭載されたレーダにおいて、高い建造物からの反射波と低い建造物からの反射波と地表からの反射波とが混ざってしまう。その結果、人工衛星に搭載されたレーダの受信波の波形が不安定になる。具体的には、SAR画像において、高い建造物の情報が低い建造物の情報に被さってしまうといったレイオーバが生ずることがある。レイオーバが生ずる状況では、実際には観測領域において変化が生じていなくても、複数のSAR画像間で変化が生ずる可能性がある。
【0011】
複数のSAR画像間で変化が生ずると、SAR画像間の類似度が低下するので、コヒーレンス画像においてコヒーレンス値が低下する。そのような場合には、コヒーレンスを利用する変化検知の感度が低下する。例えば、実際には観測領域に変化が生じていなくても、変化が生じたと誤認されるおそれがある。
【0012】
SAR画像へのレイオーバの影響を低減することを目的として、SAR画像から推定される観測領域の3次元構造を利用する技術がある(例えば、特許文献2参照)。特許文献2に記載された装置は、複数のSAR画像を入力する。当該装置は、複数のSAR画像間の歪みの差を高さに変換する。さらに、当該装置は、高さの情報を用いて観測領域の3次元形状データ(3次元情報)を生成する。
【0013】
変化検知技術を用いる変化検知装置に対して、複数のSAR画像から推定される3次元構造を利用する技術を適用することを想定する。当該技術が適用された変化検知装置を適用装置ということにする。
【0014】
適用装置は、変化前(観測領域において変化が生ずる前)の複数のSAR画像から、レイオーバの影響を低減するための3次元情報を生成する。また、適用装置は、新たに取得された複数のSAR画像から、レイオーバの影響を低減するための3次元情報を生成する。そして、適用装置は、双方の3次元情報を参照して変化検知を行う。
【0015】
上述した変化検知を実行するために、変化前の複数のSAR画像が必要である上に、変化後に新たに取得された複数のSAR画像が必要である。すなわち、レイオーバの影響を低減するために、多数のSAR画像が必要である。また、適用装置は、変化前の複数のSAR画像を使用して3次元情報を生成するための処理を行い、かつ、変化後に新たに取得された複数のSAR画像を使用して3次元情報を生成するための処理を行う。したがって、変化前後で3次元構造を再構成するために多くの画像取得を必要とする。そのため、画像取得に非常に手間と時間がかかる。
【0016】
本発明は、変化後の3次元構造を再現することなく、レイオーバの影響が低減された状態での変化検知を行うことができる変化検知装置および変化検知方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明による変化検知装置は、観測領域における所定領域の3次元構造を再構成する3次元構造再構成手段と、3次元構造を利用して、観測領域が撮影されている複数のSAR画像における所定領域の位相情報を除去する位相除去手段と、所定領域の位相情報が除去されたSAR画像ペアからコヒーレンス画像を生成し、該コヒーレンス画像を構成する画素のコヒーレンス値に基づいて観測領域の変化を検知する変化検知手段とを含む。
【0018】
本発明による変化検知方法は、観測領域における所定領域の3次元構造を再構成し、3次元構造を利用して、観測領域が撮影されている複数のSAR画像における所定領域の位相報を除去し、所定領域の位相情報が除去されたSAR画像ペアからコヒーレンス画像を生成し、該コヒーレンス画像を構成する画素のコヒーレンス値に基づいて観測領域の変化を検知する。
【0019】
本発明による変化検知プログラムは、コンピュータに、観測領域における所定領域の3次元構造を再構成する処理と、3次元構造を利用して、観測領域が撮影されている複数のSAR画像における所定領域の位相情報を除去する処理と、所定領域の位相情報が除去されたSAR画像ペアからコヒーレンス画像を生成し、該コヒーレンス画像を構成する画素のコヒーレンス値に基づいて観測領域の変化を検知する処理とを実行させる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、変化後の3次元構造を再現することなく、レイオーバの影響が低減された状態での変化検知を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】第1の実施形態の変化検知装置の構成例を示すブロック図である。
図2】第1の実施形態の変化検知装置の動作を示すフローチャートである。
図3】SARトモグラフィを説明するための説明図である。
図4】第1の実施形態における3次元構造再構成処理を示すフローチャートである。
図5】位相信号除去処理を示すフローチャートである。
図6】コヒーレント変化検知処理を示すフローチャートである。
図7】第2の実施形態の変化検知装置の構成例を示すブロック図である。
図8】第2の実施形態の変化検知装置の動作を示すフローチャートである。
図9】第2の実施形態における3次元構造再構成処理を示すフローチャートである。
図10】第3の実施形態の変化検知装置の構成例を示すブロック図である。
図11】第3の実施形態の変化検知装置の動作を示すフローチャートである。
図12】第3の実施形態の変化検知装置の変形例を示すブロック図である。
図13】第3の実施形態の変化検知装置の変形例の動作を示すフローチャートである。
図14】第4の実施形態の変化検知装置の構成例を示すブロック図である。
図15】CPUを有するコンピュータの一例を示すブロック図である。
図16】変化検知装置の主要部を示すブロック図である。
図17】他の態様の変化検知装置の主要部を示すブロック図である。
図18】さらに他の態様の変化検知装置の主要部を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
【0023】
実施形態1.
図1は、第1の実施形態の変化検知装置の構成例を示すブロック図である。図1に示す変化検知装置100は、3次元構造再構成部110、位相除去部120およびコヒーレント変化検知部130を備える。
【0024】
3次元構造再構成部110は、SAR画像記憶部700に蓄積されている複数のSAR画像から、観測領域の3次元構造を再構成する。
【0025】
位相除去部120は、位相信号推定部121と位相信号除去部122とを含む。位相信号推定部121は、SAR画像ペアから、観測領域における所定領域の位相信号を推定する。所定領域は、レイオーバが生ずる可能性がある領域(レイオーバ領域)である。位相除去部120は、レイオーバ領域の位相信号を除去する。
【0026】
上述したように、例えば、観測領域に高い建造物が存在するような場合にレイオーバが生ずる可能性がある。レイオーバ領域からの受信信号は様々な反射体由来の信号が混ざり合っている。そのため、地表で変化が生じていなくてもSAR画像間での受信信号の類似性が低下し,コヒーレンスが低下する。本実施形態では、位相除去部120は、観測領域の3次元構造を参照して、レイオーバを生じさせる高さ(建造物の高さ)に起因する位相信号を除去する。例えば、位相除去部120は、SARトモグラフィによって再現された反射強度と位相の情報を持つ3次元点群データを利用して、レイオーバ領域における信号の混ざり具合を模擬する。すなわち、位相除去部120は、地表の変化とは関係がない位相(すなわち、建造物の高さに起因する位相)を再現する。そして、位相除去部120は、そのような位相の信号を、観測信号から除去する。
【0027】
付言すると、高さに起因する位相信号は、複数のSAR画像間において変化が大きいと考えられる。したがって、高さに起因する位相信号が除去されることによって、実際には変化が生じていない場合の複数のSAR画像間の変化が小さくなる。その結果、レイオーバ領域についても、より正確なコヒーレント変化検知が実行可能になる。
【0028】
コヒーレント変化検知部130は、SAR画像記憶部700に蓄積されているSAR画像のうちの1枚のSAR画像と比較対象のSAR画像とからコヒーレンス画像を生成する。コヒーレント変化検知部130は、コヒーレンス画像を用いて、観測領域において変化が生じたか否か判定する。なお、比較対象のSAR画像は、新たに取得されたSAR画像でもよいし、SAR画像記憶部700に蓄積されている複数のSAR画像から選択されたSAR画像でもよい。
【0029】
次に、図2のフローチャートを参照して第1の実施形態の変化検知装置100の全体的な動作を説明する。
【0030】
3次元構造再構成部110は、SAR画像記憶部700から既存のSAR画像群を読み出す。そして、3次元構造再構成部110は、SARトモグラフィの手法を用いて、観測領域における所定領域の3次元構造を再構成する(ステップS101)。
【0031】
位相除去部120において、位相信号推定部121は、SAR画像記憶部700から1枚のSAR画像を読み出す。また、位相信号推定部121は、比較対象のSAR画像を入力する。位相信号推定部121は、3次元構造を利用して、SAR画像記憶部700から読み出されたSAR画像と比較対象のSAR画像とのSAR画像ペアのレイオーバ領域の位相信号を推定する(ステップS102)。
【0032】
位相信号除去部122は、SAR画像ペアの位相信号推定部121が推定した位相信号を除去する(ステップS103)。
【0033】
コヒーレント変化検知部130は、SAR画像ペアのSAR画像間のコヒーレンス値を算出する。コヒーレント変化検知部130は、コヒーレンス値を画素値とするコヒーレンス画像を生成する。コヒーレント変化検知部130は、コヒーレント変化検知処理を実行する(ステップS104)。すなわち、コヒーレント変化検知部130は、観測領域において変化が生じた部分があるか否か判定する。
【0034】
上述したように、3次元構造再構成部110は、SARトモグラフィの手法を用いる3次元構造再構成処理で、所定領域の3次元構造を再構成する。図3は、SARトモグラフィを説明するための説明図である。図3に示す例では、人工衛星が紙面垂直の方向に進行する。すなわち、アジマス方向は、紙面垂直の方向である。そして、n(n=1~N)の軌道において、人工衛星が所定の観測領域のSAR画像を取得する。なお、図3において、rはレンジ方向を示す。sは、エレベーション方向を示す。また、Nは、SAR画像記憶部700に蓄積されているSAR画像の数に対応する。
【0035】
あるアジマス-レンジ位置における観測値(受信信号)を、g=(g,…,gとする。Tは転置を示す。
複素反射分布(複素反射率の3次元分布)を、γ=[γ(s),…,γ(s)]とする。s(l=1~L)は、エレベーション方向の位置(点)を示す。
ステアリング行列の要素を、Rnl=exp(-4jπk)とする。kは、位相-高度変換係数である。
【0036】
アジマス-レンジ位置における観測値gと複素反射分布γとステアリング行列Rとは、以下の(1)式で示される関係にある。
【0037】
g=Rγ ・・・(1)
【0038】
3次元構造再構成部110は、観測値gとステアリング行列Rとから、エレベーション方向の各位置における複素反射分布γを推定(算出)することができる。複素反射分布γは、強度情報と位相情報とを含む。したがって、3次元構造再構成部110は、複素反射分布γを各画素で推定することによって、3次元構造を表す3次元点群データを得ることができる。3次元点群データは、3次元座標における各点のデータである。
【0039】
図3における下段には、反射強度分布の一例が示されている。図3に示される例では、地表(地面)からの反射波の強度に比べて、低層家屋からの反射波の強度は高い。地面からの反射波の強度に比べて、高層建造物からの反射波の強度はより高い。
【0040】
図4は、3次元構造再構成部110が実行する3次元構造再構成処理を示すフローチャートである。
【0041】
3次元構造再構成部110は、SAR画像記憶部700から既存のSAR画像群(複数のSAR画像:この場合には、SARトモグラフィのための10枚程度またはそれ以上)を読み出す。そして、3次元構造再構成部110は、SAR画像の観測値gからステアリング行列Rを推定(算出)する(ステップS111)。また、3次元構造再構成部110は、(1)式(この場合には、g=Rγ)を用いて、複素反射分布γを算出する(ステップS112)。
【0042】
図5は、位相除去部120が実行する位相信号除去処理を示すフローチャートである。
【0043】
位相除去部120における位相信号推定部121は、SAR画像記憶部700から既存のSAR画像を読み出す。また、位相信号推定部121は、比較対象のSAR画像を入力する。位相信号推定部121は、SAR画像の画素ごとに、既存のSAR画像と比較対象のSAR画像とを干渉させ、干渉後の各々の画素に含まれる位相を高さに変換するための位相―高度変換係数を推定(算出)する(ステップS121)。
【0044】
位相信号推定部121は、画素ごとの位相―高度変換係数を基に、ステアリング行列Rallを推定(算出)する(ステップS122)。Rallは、全ての既存のSAR画像および比較対象のSAR画像データに基づく各点のステアリング行列であることを示す。さらに、位相信号推定部121は、複素反射分布γとステアリング行列Rallとから、SAR画像の画素ごとに、受信信号モデルgmodelを推定(算出)する(ステップS123)。受信信号モデルgmodelは、3次元構造から推察されるモデル、すなわちレイオーバ領域の予測される観測値である。
【0045】
位相除去部120における位相信号除去部122は、観測信号(観測値、すなわちSAR画像の画素値)gobsを生成する(ステップS124)。観測値gobsは、既存のSAR画像の観測信号と比較対象のSAR画像の観測信号との各々である。
【0046】
位相信号除去部122は、(2)式で表されるように、SAR画像の画素ごとに、受信信号モデルgmodelから予測される位相信号を、観測値gobsから除去する(ステップS125)。
【0047】
obsexp(-j∠gmodel) ・・・(2)
【0048】
位相除去部120は、所定領域の位相が除去されたSAR画像のペアをコヒーレント変化検知部130に渡す。
【0049】
図6は、コヒーレント変化検知部130が実行するコヒーレント変化検知処理を示すフローチャートである。
【0050】
コヒーレント変化検知部130は、位相除去部120からのSAR画像ペアのSAR画像間のコヒーレンス値を算出する(ステップS131)。換言すれば、コヒーレント変化検知部130は、コヒーレンス値を画素値とするコヒーレンス画像を生成する。コヒーレント変化検知部130は、観測領域において、コヒーレンス値が例えば所定のしきい値よりも小さい部分があるか否か判定する(ステップS132)。そのような部分が存在する場合には、コヒーレント変化検知部130は、観測領域において、変化が生じたと判定する(ステップS133)。そのような部分が存在しない場合には、コヒーレント変化検知部130は、観測領域中に変化は生じていないと判定する(ステップS134)。
【0051】
なお、コヒーレント変化検知部130は、例えば、コヒーレンス画像において、あらかじめ決められている所定サイズの領域(部分)中の全ての画素の値(コヒーレンス値)が所定のしきい値よりも小さい場合に、観測領域において、変化が生じたと判定する。コヒーレント変化検知部130は、所定サイズの領域においてコヒーレンス値が所定のしきい値よりも小さい画素が所定の割合以上ある場合に、観測領域において、変化が生じたと判定してもよい。
【0052】
以上に説明したように、本実施形態では、3次元構造再構成部110は、SARトモグラフィの手法を用いて、レイオーバ領域の3次元構造を再構成する。位相除去部120は、3次元構造から受信信号モデルgmodelを推定する。そして、位相除去部120は、観測信号から、受信信号モデルgmodelから予測される位相を除去する。除去される位相は、例えば、建造物の高さに起因する位相である。建造物の高さはレイオーバの原因になるので、位相が除去された観測信号は、レイオーバの影響が排除された信号である。
【0053】
したがって、コヒーレント変化検知部130は、建造物の高さに起因する位相が除去された観測信号に基づいてコヒーレント変化検知処理を実行できる。すなわち、コヒーレント変化検知部130は、レイオーバの影響が排除されたコヒーレント変化検知処理を実行できる。また、コヒーレント変化検知部130は、レイオーバ領域についても、精度のよいコヒーレント変化検知処理を実行できる。
【0054】
また、変化検知装置100は、変化前の複数のSAR画像を使用して3次元情報を生成する処理を行い、かつ、変化後に新たに取得された複数のSAR画像を使用して3次元情報を生成する処理を行う場合に比べて、変化後に3次元構造を再構成するのに十分な枚数のSAR画像を取得する手間がなくなる。本実施形態の変化検知装置100では、比較対象の複数のSAR画像を使用して3次元情報を生成する処理は不要だからである。
【0055】
なお、DEM(Digital Elevation Model)を用いて3次元構造を再構成し、その3次元構造を参照してレイオーバ領域の位相信号を除去することも考えられる。しかし、SARトモグラフィを利用する場合には、DEMを用いる場合に比べて、より精密な位相信号除去を行える。DEMを用いて3次元構造が再構成される場合には、大きな構造物に関する位相情報のみが3次元構造に反映されるのに対して、SARトモグラフィを利用して3次元構造が再構成される場合には、建造物などの構造物のそれぞれについて位相信号が推定可能であるからである。また、SARトモグラフィを利用して3次元構造が再構成される場合には、観測領域において構造物が複雑に分布していても、正確な位相信号の推定が実行可能である。
【0056】
また、SARトモグラフィを利用して3次元構造が再構成される場合には、DEMを用いて3次元構造が再構成される場合に比べて、実際の3次元構造により近い受信信号モデルが作成される。SARトモグラフィを利用する場合には、反射強度と位相の情報を有する3次元点群データが生成されるからである。また、SARトモグラフィを利用して3次元構造が再構成される場合には、後述するようにLiDAR(Light Detection and Ranging)によって取得されたデータを用いて3次元構造が再構成される場合に比べて、実際の3次元構造により近い受信信号モデルが作成されるという利点がある。
【0057】
実施形態2.
図7は、第2の実施形態の変化検知装置の構成例を示すブロック図である。図7に示す変化検知装置200は、3次元構造再構成部110、位相除去部220およびコヒーレント変化検知部230を備える。3次元構造再構成部110の構成および動作は、第1の実施形態におけるそれらと同じである。
【0058】
本実施形態では、SAR画像記憶部700には、例えば、人工衛星の互いにずれた複数の軌道(マルチパス)のうちのそれぞれの軌道(パス)で得られた、1つの観測領域を対象としたそれぞれのSAR画像が蓄積されている。位相除去部220は、複数の軌道で得られた複数のSAR画像を入力する。
【0059】
なお、飛翔体として航空機が使用される場合には、人工衛星を使用する場合に比べて、パスの選択の自由度が上がる。
【0060】
位相除去部220は、位相信号推定部221と位相信号除去部222とを含む。本実施形態では、位相信号推定部221は、SAR画像記憶部700に蓄積されている複数のSAR画像と1枚以上の比較対象のSAR画像とを含むSAR画像群を入力する。なお、1枚以上の比較対象のSAR画像は、全て新たに取得されたSAR画像でもよいし、SAR画像記憶部700に蓄積されている複数のSAR画像から選択されたSAR画像と新たに取得されたSAR画像との双方を含んでもよい。位相信号推定部221は、SAR画像群を構成する全てのSAR画像の所定領域(レイオーバ領域)の位相信号を推定する。位相除去部220は、全てのSAR画像のレイオーバ領域の位相信号を除去する。
【0061】
コヒーレント変化検知部230は、全てのSAR画像ペアを対象としてコヒーレンス画像を生成する。コヒーレント変化検知部230は、生成される複数のコヒーレンス画像を用いて、観測領域において変化が生じたか否か判定する。全てのSAR画像ペアは、SAR画像群を構成する全てのSAR画像の各々の組合せである。一例として、SAR画像群に4枚のSAR画像が含まれている場合には、6つ(=)のSAR画像ペアがある。
【0062】
次に、図8のフローチャートを参照して第2の実施形態の変化検知装置の全体的な動作を説明する。
【0063】
3次元構造再構成部110は、第1の実施形態と同様に動作して、観測領域における所定領域の3次元構造を再構成する(ステップS101)。
【0064】
位相除去部220において、位相信号推定部221は、3次元構造を参照して、全てのSAR画像の所定領域(レイオーバ領域)の位相信号を推定する(ステップS202)。
【0065】
位相信号除去部222は、全てのSAR画像について位相信号推定部221が推定した位相信号を除去する(ステップS203)。なお、位相信号の推定および除去の具体的方法は、第1の実施形態における方法と同じである(図5等参照)。
【0066】
位相除去部220は、所定領域の位相が除去された全てのSAR画像をコヒーレント変化検知部230に渡す。コヒーレント変化検知部230は、コヒーレント変化検知処理を実行する(ステップS204)。すなわち、コヒーレント変化検知部130は、観測領域において変化が生じたか否か判定する。
【0067】
図9は、コヒーレント変化検知部230が実行するコヒーレント変化検知処理を示すフローチャートである。
【0068】
コヒーレント変化検知部230は、SAR画像群(SAR画像記憶部700に蓄積されている複数のSAR画像と1枚または複数の比較対象のSAR画像とを含む。)におけるSAR画像の全ての組合せ(ペア)のコヒーレンス値を算出する(ステップS230)。
【0069】
また、コヒーレント変化検知部230は、観測領域に変化が生じたか否か判定するための典型的なコヒーレンス値を算出する(ステップS231)。典型的なコヒーレンス値は、変化がない、または変化が所定の許容値よりも小さいSAR画像ペアのSAR画像間のコヒーレンス値に相当する。
【0070】
コヒーレント変化検知部230は、典型的なコヒーレンス値を得るために、例えば、全てのSAR画像ペアについて算出されたコヒーレンス値を2次元的に配列する。すなわち、コヒーレント変化検知部230は、算出されたコヒーレンス値を要素とするコヒーレンス行列を生成する。なお、SAR画像に画像番号を付した場合、2次元的な配列の横軸は、全てのSAR画像ペアにおける一方のSAR画像の画像番号に対応する。2次元的な配列の縦軸は、全てのSAR画像ペアにおける他方のSAR画像の画像番号に対応する。
【0071】
コヒーレント変化検知部230は、例えば、2次元的な配列における最も大きいコヒーレンス値を典型的なコヒーレンス値とする。
【0072】
コヒーレント変化検知部230は、全てのSAR画像ペアのSAR画像間のコヒーレンス値を典型的なコヒーレンス値と比較する。コヒーレント変化検知部230は、典型的なコヒーレンス値との差が大きいコヒーレンス値を呈したSAR画像ペアが複数ある場合に、観測領域において、変化が生じたと判定する(ステップS233)。そのようなSAR画像ペアが存在しない場合には、コヒーレント変化検知部230は、観測領域中に変化は生じていないと判定する(ステップS234)。
【0073】
なお、典型的なコヒーレンス値との差が大きいコヒーレンス値における「差」は、あらかじめ設定されている値である。また、差が大きいコヒーレンス値を呈したSAR画像が複数ある場合における「複数」は、あらかじめ設定されている値である。
【0074】
本実施形態では、コヒーレント変化検知においてマルチパスで得られた複数のSAR画像が使用されることによって、第1の実施形態の効果に加えて、コヒーレント変化検知の頑健性が向上するという効果が得られる。
【0075】
一般に、マルチパスにおける各々のパスで取得されたSAR画像の取得時刻は異なる。したがって、SAR画像群に複数の比較対象のSAR画像が含まれる場合には、典型的なコヒーレンス値との差が大きいコヒーレンス値を呈したSAR画像ペアにおける比較対象のSAR画像の所得時刻から、観測領域において変化が生じた時期を認識することができる。
【0076】
実施形態3.
図10は、第3の実施形態の変化検知装置の構成例を示すブロック図である。図10に示す変化検知装置300は、3次元構造再構成部110、位相除去部320およびコヒーレント変化検知部230を備える。3次元構造再構成部110の構成および動作は、第1の実施形態および第2の実施形態におけるそれらと同じである。コヒーレント変化検知部230の構成および動作は、第2の実施形態におけるそれらと同じである。
【0077】
位相除去部320は、位相信号推定部221と画素指定部321と位相信号除去部223とを含む。位相信号推定部221の構成および動作は、第2の実施形態におけるそれらと同じである。すなわち、位相信号推定部221は、SAR画像記憶部700に蓄積されている複数のSAR画像と1枚以上の比較対象のSAR画像とを含むSAR画像群を入力する。位相信号推定部221は、SAR画像群を構成する全てのSAR画像について所定領域(レイオーバ領域)の位相信号を推定する。
【0078】
位相信号除去部223は、全てのSAR画像について、画素指定部321が特定した画素の位相信号を除去する。
【0079】
画素指定部321は、各々のSAR画像の画素から、位相信号が除去されるべき画素を特定する。
【0080】
次に、図11のフローチャートを参照して第3の実施形態の変化検知装置の動作を説明する。
【0081】
3次元構造再構成部110は、第1の実施形態および第2の実施形態の場合と同様に動作して、観測領域における所定領域の3次元構造を再構成する(ステップS101)。位相除去部220において、位相信号推定部221は、第1の実施形態および第2の実施形態の場合と同様に動作して、全てのSAR画像について所定領域の位相信号を推定する(ステップS202)。
【0082】
画素指定部321は、SAR画像の各画素の全てのSAR画像に亘る平均強度(複数のSAR画像における同一位置の画素の平均強度の各々)を算出する(ステップS301)。
【0083】
画素の平均強度があらかじめ決められている所定値(画素選択のフィルタリングのためのしきい値)よりも大きい場合には、画素指定部321は、当該画素を、位相信号が除去されるべき画素と特定する(ステップS302)。その場合には、ステップS203Aに移行する。画素の平均強度が所定値以下である場合には、ステップS204に移行する。なお、ステップS302では、画素指定部321は、全てのSAR画像を対象とし、それぞれのSAR画像における各々の画素の強度を当該画素の平均強度と比較する。そして、画素指定部321は、画素の強度が当該画素の平均強度よりも大きい場合に、当該SAR画像(全てのSAR画像のうち、画素が平均強度との比較処理の対象になっているSAR画像)における当該画素を、位相信号が除去されるべき画素と特定する。
【0084】
ステップS203Aでは、位相信号除去部222は、全てのSAR画像について、画素指定部321が特定した画素の位相信号を除去する。なお、位相信号の推定および除去の具体的方法は、第1の実施形態における方法と同じである(図5等参照)。ただし、本実施形態では、位相信号除去部222は、観測信号における画素指定部321が特定した画素から、受信信号モデルgmodelから予測される位相を除去する。そして、ステップS204に移行する。
【0085】
ステップS204では、コヒーレント変化検知部230は、第2の実施形態の場合と同様に、コヒーレント変化検知処理を実行する。
【0086】
本実施形態では、画素の平均強度があらかじめ決められている所定値よりも大きい場合に、SAR画像における当該画素の位相信号が除去される。すなわち、強度が低い画素については、位相信号の除外対象にならない。強度が低い画素の位相情報の信頼度は低い可能性がある。そのような画素に対して位相信号除去処理が施された後、コヒーレント変化検知処理が実行されると、却って、コヒーレント変化の誤検出が生ずるおそれがある。本実施形態のように、強度が低い画素については位相信号除去処理を施さないようにする場合には、コヒーレント変化の誤検出の可能性が低減することが期待される。
【0087】
[変形例]
図12は、第3の実施形態の変化検知装置の変形例を示すブロック図である。図12に示す変化検知装置310は、3次元構造再構成部110、位相除去部330およびコヒーレント変化検知部230を備える。位相除去部330は、画素指定部321と位相信号推定部221と位相信号除去部222とを含む。第3の実施形態とは異なり、本変形例では、画素指定部321は、位相信号が推定される前に動作する。
【0088】
3次元構造再構成部110の構成および動作は、第1の実施形態~第3の実施形態におけるそれらと同じである。コヒーレント変化検知部230の構成および動作は、第2の実施形態および第3の実施形態におけるそれらと同じである。
【0089】
次に、図13のフローチャートを参照して第3の実施形態の変形例の変化検知装置310の動作を説明する。
【0090】
画素指定部321は、SAR画像の各画素の全てのSAR画像に亘る平均強度(複数のSAR画像における同一位置の画素の平均強度の各々)を算出する(ステップS301)。
【0091】
画素の平均強度があらかじめ決められている所定値(画素選択のフィルタリングのためのしきい値)よりも大きい場合には、ステップS101に移行する(ステップS302)。画素の平均強度が所定値以下である場合には、ステップS204に移行する。ステップS302では、画素指定部321は、全てのSAR画像を対象とし、それぞれのSAR画像における各々の画素の強度を当該画素の平均強度と比較する。そして、画素指定部321が、画素の強度が当該画素の平均強度よりも大きいと判断した場合に、ステップS101に移行する。そうでない場合には、ステップS101,S202,S203の処理はスキップされる。
【0092】
ステップS101,S202,S203の処理は、第2の実施形態における処理と同じである。すなわち、3次元構造再構成部110は、第2の実施形態の場合と同様に動作して、観測領域における所定領域の3次元構造を再構成する(ステップS101)。位相除去部220において、位相信号推定部221は、第2の実施形態と同様に、3次元構造を参照して、全てのSAR画像の所定領域の位相信号を推定する(ステップS202)。位相除去部330において、位相信号除去部222は、第2の実施形態と同様に、全てのSAR画像について位相信号推定部221が推定した位相信号を除去する(ステップS203)。
【0093】
そして、コヒーレント変化検知部230は、第2の実施形態の場合と同様に、コヒーレント変化検知処理を実行する(ステップS204)。
【0094】
本実施形態では、画素の平均強度があらかじめ決められている所定値よりも大きい場合に、3次元構造を利用して位相信号を推定する処理(ステップS202)および位相信号を除去する処理(ステップS203)が実行される。すなわち、強度が低い画素については、位相信号を推定する処理および位相信号除去処理は実行されない。上述したように、強度が低い画素の位相情報の信頼度は低い可能性がある。そのような画素に対して位相信号除去処理が施された後、コヒーレント変化検知処理が実行されると、却って、コヒーレント変化の誤検出が生ずるおそれがある。本実施形態のように、強度が低い画素については位相信号を推定する処理および位相信号除去処理を施さないようにする場合には、コヒーレント変化の誤検出の可能性が低減することが期待される。
【0095】
なお、上記の第3の実施形態およびその変形例の変化検知装置300,310は、第2の実施形態の変化検知装置200に対して画素指定部321が適用されて構成されている。しかし、第1の実施形態の変化検知装置100に対して画素指定部321が適用されてもよい。
【0096】
実施形態4.
第1~第3の実施形態では、3次元構造再構成部110は、観測領域における所定領域の3次元構造を再構成するために、SAR画像記憶部700に蓄積されている複数のSAR画像を用いるSARトモグラフィの手法を用いて3次元構造を表す3次元点群データを取得する。しかし、SARトモグラフィの手法を用いずに3次元点群データを取得してもよい。
【0097】
第4の実施形態では、変化検知装置は、所定領域の3次元構造を再構成するために、SAR画像による3次元点群データではなく、他の類いの3次元データを使用する。そのような3次元データとして、例えば、LiDARによって取得される3次元点群データ、数値表層モデル(DSM:Digital Surface Mode)、光学衛星等で取得された画像から生成される3次元情報を含むデータ(建造物等のポリゴンデータなど)がある。以下、変化検知装置がLiDARによって取得されたデータを用いる場合を例にするが、LiDAR以外の3D撮像装置も使用可能である。
【0098】
図14は、第4の実施形態の変化検知装置の構成例を示すブロック図である。図14に示す変化検知装置400は、3次元構造再構成部111、位相除去部120およびコヒーレント変化検知部130を備える。
【0099】
LiDARデータ記憶部800には、あらかじめ、観測領域における各点の反射強度を含む3次元点群情報(3次元点群データ)が格納される。反射強度を含む情報(データ)は、一般的な3D(dimension)LiDARによって受信された観測領域からの反射光の解析結果に基づく3次元点群データである。
【0100】
3次元構造再構成部111は、LiDARデータ記憶部800に格納されている3次元点群データからSAR画像における3次元点群データを推定する。3次元構造再構成部111は、例えば、SAR画像を取得する人工衛星のシミュレーションに基づいて、SAR画像における3次元点群データを推定する。SAR画像を取得する人工衛星のシミュレーション手順として、例えば、LiDARデータ記憶部800に格納されている3次元点群データから作成したDSMを入力として、SAR座標系(アジマス-レンジ座標)へ座標変換し、DSMの形状とSAR衛星の位置情報とから1回散乱、2回散乱、3回散乱およびレーダーシャドウとなる位置を推定し、反射係数や反射表面の粗さを考慮して反射強度・位相を推定するという手法が挙げられる。3次元構造再構成部111によって、実質的に、LiDARデータ記憶部800に格納されている3次元点群データは、SAR画像における3次元点群データに変換される。
【0101】
位相除去部120およびコヒーレント変化検知部130は、第1の実施形態におけるそれらと同様に動作する。
【0102】
本実施形態では、変化検知装置400は、SARトモグラフィによって3次元構造を再構成する処理を実行しない。したがって、変化検知装置400は、第1の実施形態の変化検知装置100に比べて、処理時間を短縮することができる。
【0103】
なお、本実施形態の変化検知装置400は、第1の実施形態の変化検知装置100に対して、LiDARによる3次元点群データを用いる3次元構造再構成部111が適用されて構成されている。しかし、第2の実施形態の変化検知装置200、第3の実施形態の変化検知装置300、および変形例の変化検知装置310に対して3次元構造再構成部111が適用されてもよい。
【0104】
以上に説明したように、上記の各実施形態の変化検知装置は、SARトモグラフィなどによって3次元点群データを生成し、3次元点群データを利用して、観測信号から所定領域(レイオーバ領域)の位相成分を除去する。そのような変化検知装置による変化検知の感度は、観測領域においてレイオーバが生ずるような場合でも、低下しない。また、変化検知装置は、レイオーバ領域についても、精度よくコヒーレント変化検知を行うことができる。
【0105】
また、変化検知装置は、比較対象のSAR画像に関する3次元点群データを生成する処理を実行する必要がない。すなわち、変化検知装置は、比較対象のSAR画像が1枚であっても、感度がよい変化検知を実行できる。そのため、比較対象のSAR画像を収集する手間がかからず、かつ、変化検知装置の処理負担はさほど増えない。その結果、コヒーレント変化検知処理が短時間で遂行される。
【0106】
また、変化検知装置は、コヒーレント変化検知を短時間で実行できるので、例えば、定期的に観測領域を監視するような用途に用いられるときに、素早く変化を検知することができる。
【0107】
また、上記の各実施形態を、ハードウェアで構成することも可能であるが、コンピュータプログラムにより実現することも可能である。また、上記の各実施形態における各構成要素のうちの一部をハードウェアで構成し、他部をソフトウェアで構成することもできる。
【0108】
図15は、CPUを有するコンピュータの一例を示すブロック図である。コンピュータは、上記の各実施形態の変化検知装置に実装される。CPU1000は、記憶装置1001に格納された変化検知プログラム(ソフトウェア要素:コード)に従って処理を実行することによって、上記の実施形態における各機能を実現する。すなわち、図1図7図10図12図14に示された変化検知装置100,200,300,310,400における、3次元構造再構成部110,111、位相除去部120,220,320,330およびコヒーレント変化検知部130,230の機能を実現する。
【0109】
記憶装置1001は、例えば、非一時的なコンピュータ可読媒体(non-transitory computer readable medium)である。非一時的なコンピュータ可読媒体は、様々なタイプの実体のある記録媒体(tangible storage medium)を含む。非一時的なコンピュータ可読媒体の具体例として、磁気記録媒体(例えば、ハードディスク)、光磁気記録媒体(例えば、光磁気ディスク)、CD-ROM(Compact Disc-Read Only Memory)、CD-R(Compact Disc-Recordable)、CD-R/W(Compact Disc-ReWritable)、半導体メモリ(例えば、マスクROM、PROM(Programmable ROM)、EPROM(Erasable PROM)、フラッシュROM)がある。
【0110】
また、プログラムは、様々なタイプの一時的なコンピュータ可読媒体(transitory computer readable medium )に格納されてもよい。一時的なコンピュータ可読媒体には、例えば、有線通信路または無線通信路を介して、すなわち、電気信号、光信号または電磁波を介して、プログラムが供給される。
【0111】
メモリ1002は、例えばRAM(Random Access Memory)で実現され、CPU1000が処理を実行するときに一時的にデータを格納する記憶手段である。メモリ1002に、記憶装置1001または一時的なコンピュータ可読媒体が保持するプログラムが転送され、CPU1000がメモリ1002内のプログラムに基づいて処理を実行するような形態も想定しうる。
【0112】
図16は、変化検知装置の主要部を示すブロック図である。図16に示す変化検知装置10は、観測領域における所定領域(例えば、レイオーバ領域)の3次元構造を再構成する3次元構造再構成部(3次元構造再構成手段)11(実施形態では、3次元構造再構成部110,111で実現される。)と、3次元構造を利用して、観測領域が撮影されている複数のSAR画像における所定領域の位相信号を除去する位相除去部(位相除去手段)12(実施形態では、位相除去部120,220,320,330で実現される。)と、位相が除去されたSAR画像ペアからコヒーレンス画像を生成し、該コヒーレンス画像を構成する画素のコヒーレンス値に基づいて観測領域の変化を検知する変化検知部(変化検知手段)13(実施形態では、コヒーレント変化検知部130,230で実現される。)とを備えている。
【0113】
図17は、他の態様の変化検知装置の主要部を示すブロック図である。図17に示す変化検知装置10において、3次元構造再構成部11は、3次元構造として、SARトモグラフィを用いて反射強度および位相の情報を有する3次元点群データを推定する3次元点群データ推定部11A(実施形態では、3次元構造再構成部110で実現される。)を含む。
【0114】
図18は、さらに他の態様の変化検知装置の主要部を示すブロック図である。図18に示す変化検知装置10において、3次元構造再構成部11は、3次元情報を含むデータ(一例として、LiDARによる3次元点群データ)を用いて、SAR画像における反射強度および位相の情報を有する3次元点群データを推定する3次元点群データ変換部11B(実施形態では、SARに関するシミュレーションを行う3次元構造再構成部111で実現される。)を含む。
【0115】
上記の実施形態の一部または全部は、以下の付記のようにも記載され得るが、以下に限定されるわけではない。
【0116】
(付記1)観測領域における所定領域の3次元構造を再構成する3次元構造再構成手段と、
前記3次元構造を利用して、前記観測領域が撮影されている複数のSAR画像における前記所定領域の位相信号を除去する位相除去手段と、
位相が除去されたSAR画像ペアからコヒーレンス画像を生成し、該コヒーレンス画像を構成する画素のコヒーレンス値に基づいて前記観測領域の変化を検知する変化検知手段と
を備える変化検知装置。
【0117】
(付記2)前記3次元構造再構成手段は、3次元構造として、SARトモグラフィを用いて反射強度および位相の情報を有する3次元点群データを推定する3次元点群データ推定手段を含む
付記1の変化検知装置。
【0118】
(付記3)前記位相除去手段は、飛翔体に搭載されているレーダによって取得されたSAR画像群における各々のSAR画像における前記所定領域の位相信号を除去し、
前記変化検知手段は、前記SAR画像群から選択された複数のSAR画像ペアからコヒーレンス画像を生成し、コヒーレンス画像のうちに典型的なコヒーレンス値との差が所定値よりも大きいコヒーレンス値が含まれるコヒーレンス画像が存在するか否かに基づいて、前記観測領域の変化を検知する
付記1または付記2の変化検知装置。
【0119】
(付記4)前記位相除去手段は、SAR画像における画素の強度が所定強度値よりも大きい画素の位相信号を除去する
付記1から付記3のうちのいずれかの変化検知装置。
【0120】
(付記5)前記3次元構造再構成手段は、3次元情報を含むデータを用いて、SAR画像における反射強度および位相の情報を有する3次元点群データを推定する3次元点群データ変換手段を含む
付記1の変化検知装置。
【0121】
(付記6)観測領域における所定領域の3次元構造を再構成し、
前記3次元構造を利用して、前記観測領域が撮影されている複数のSAR画像における前記所定領域の位相信号を除去し、
位相が除去されたSAR画像ペアからコヒーレンス画像を生成し、該コヒーレンス画像を構成する画素のコヒーレンス値に基づいて前記観測領域の変化を検知する
変化検知方法。
【0122】
(付記7)3次元構造として、SARトモグラフィを用いて反射強度および位相の情報を有する3次元点群データを推定する
付記6の変化検知方法。
【0123】
(付記8)飛翔体に搭載されているレーダによって取得されたSAR画像群における各々のSAR画像における前記所定領域の位相信号を除去し、
前記SAR画像群から選択された複数のSAR画像ペアからコヒーレンス画像を生成し、コヒーレンス画像のうちに典型的なコヒーレンス値との差が所定値よりも大きいコヒーレンス値が含まれるコヒーレンス画像が存在するか否かに基づいて、前記観測領域の変化を検知する
付記6または付記7の変化検知方法。
【0124】
(付記9)SAR画像における画素の強度が所定強度値よりも大きい画素の位相信号を除去する
付記6から付記8のうちのいずれかの変化検知方法。
【0125】
(付記10)3次元情報を含むデータを用いて、SAR画像における反射強度および位相の情報を有する3次元点群データを推定する
付記6の変化検知方法。
【0126】
(付記11)コンピュータに、
観測領域における所定領域の3次元構造を再構成する処理と、
前記3次元構造を利用して、前記観測領域が撮影されている複数のSAR画像における前記所定領域の位相信号を除去する処理と、
位相が除去されたSAR画像ペアからコヒーレンス画像を生成し、該コヒーレンス画像を構成する画素のコヒーレンス値に基づいて前記観測領域の変化を検知する処理と
を実行させるための変化検知プログラムが格納されたコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【0127】
(付記12)コンピュータに、3次元構造として、SARトモグラフィを用いて反射強度および位相の情報を有する3次元点群データを推定する処理
を実行させる変化検知プログラムが格納された付記11のコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【0128】
(付記13)コンピュータに、
観測領域における所定領域の3次元構造を再構成する処理と、
前記3次元構造を利用して、前記観測領域が撮影されている複数のSAR画像における前記所定領域の位相信号を除去する処理と、
位相が除去されたSAR画像ペアからコヒーレンス画像を生成し、該コヒーレンス画像を構成する画素のコヒーレンス値に基づいて前記観測領域の変化を検知する処理と
を実行させるための変化検知プログラム。
【0129】
(付記14)コンピュータに、3次元構造として、SARトモグラフィを用いて反射強度および位相の情報を有する3次元点群データを推定する処理
を実行させる付記13の変化検知プログラム。
【0130】
以上、実施形態を参照して本願発明を説明したが、本願発明は上記の実施形態に限定されるものではない。本願発明の構成や詳細には、本願発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
【符号の説明】
【0131】
10 変化検知装置
11 3次元構造再構成部
11A 3次元点群データ推定部
11B 3次元点群データ変換部
12 位相除去部
13 変化検知部
100,200,300,310,400 変化検知装置
110,111 3次元構造再構成部
120,220,320,330 位相除去部
121,221 位相信号推定部
122,222,223 位相信号除去部
130,230 コヒーレント変化検知部
321 画素指定部
700 SAR画像記憶部
800 LiDARデータ記憶部
1000 CPU
1001 記憶装置
1002 メモリ
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