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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】誘電体フィルタ
(51)【国際特許分類】
   H01P 1/205 20060101AFI20241106BHJP
   H01P 7/04 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
H01P1/205 B
H01P7/04
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2023510569
(86)(22)【出願日】2022-02-03
(86)【国際出願番号】 JP2022004292
(87)【国際公開番号】W WO2022209277
(87)【国際公開日】2022-10-06
【審査請求日】2023-09-19
(31)【優先権主張番号】P 2021055344
(32)【優先日】2021-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】荒井 雅司
(72)【発明者】
【氏名】多田 斉
【審査官】岸田 伸太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-196817(JP,A)
【文献】特開2001-237619(JP,A)
【文献】特開2020-510326(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01P 1/205
H01P 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の誘電体層を備え、直方体の形状を有する積層体と、
前記積層体の内部において積層方向に離間して配置された第1平板電極および第2平板電極と、
前記第1平板電極と前記第2平板電極との間に配置され、前記積層方向に直交する第1方向に延在する複数の共振器と、
前記積層体において、前記第1方向に垂直な第1側面および第2側面にそれぞれ配置され、前記第1平板電極および前記第2平板電極に接続された第1シールド導体および第2シールド導体とを備え、
前記複数の共振器は、前記積層体の内部において、前記積層方向および前記第1方向の双方に直交する第2方向に並んで配置されており、
前記複数の共振器の各々の第1端部は前記第1シールド導体に接続されており、第2端部は前記第2シールド導体から離間しており、
前記複数の共振器の各々は、前記積層方向に積層された複数の導体によって構成されており、
前記複数の共振器を前記第1方向から平面視した場合に、前記複数の導体の端部を含む第1領域の厚みは、前記第1領域以外の部分の厚みよりも厚い、誘電体フィルタ。
【請求項2】
前記第1方向から平面視した場合に、前記複数の導体の一部の前記第1領域は、前記積層方向にジグザグに配置される、請求項1に記載の誘電体フィルタ。
【請求項3】
前記複数の導体の一部において、前記第1領域以外の部分に開口部が設けられている、請求項1または2に記載の誘電体フィルタ。
【請求項4】
前記複数の共振器の各々において、前記第1端部側に配置され、かつ、前記複数の共振器の各々を前記第1平板電極および前記第2平板電極に接続する第1接続導体をさらに備え、
前記複数の導体において、前記第1接続導体との接続部分を含む第2領域の厚みは、前記第1領域および前記第2領域以外の部分の厚みよりも厚い、請求項1~3のいずれか1項に記載の誘電体フィルタ。
【請求項5】
前記複数の共振器の各々において、前記第2端部側に配置され、かつ、前記複数の導体を互いに電気的に接続する第2接続導体をさらに備え、
前記複数の導体において、前記第2接続導体との接続部分を含む第3領域の厚みは、前記第1領域、前記第2領域および前記第3領域以外の部分の厚みよりも厚い、請求項4に記載の誘電体フィルタ。
【請求項6】
前記複数の共振器の各々において、前記第2端部側に配置され、かつ、前記複数の導体を互いに電気的に接続する第2接続導体をさらに備え、
前記複数の導体において、前記第2接続導体との接続部分を含む第3領域の厚みは、前記第1領域および前記第3領域以外の部分の厚みよりも厚い、請求項1~3のいずれか1項に記載の誘電体フィルタ。
【請求項7】
前記複数の導体において、前記第1端部を含む第4領域の厚みは、前記第1領域、前記第3領域および前記第4領域以外の部分の厚みよりも厚い、請求項6に記載の誘電体フィルタ。
【請求項8】
前記複数の導体において、前記第1端部を含む第4領域の厚みは、前記第1領域および前記第4領域以外の部分の厚みよりも厚い、請求項1~3のいずれか1項に記載の誘電体フィルタ。
【請求項9】
前記第4領域の前記第1方向の長さは、前記複数の導体の前記第1方向の長さの1/2以下である、請求項7または8に記載の誘電体フィルタ。
【請求項10】
前記複数の導体において、前記積層方向における中央領域の導体間隔は、前記積層方向における端部領域の導体間隔よりも広い、請求項1~9のいずれか1項に記載の誘電体フィルタ。
【請求項11】
複数の誘電体層を備え、直方体の形状を有する積層体と、
前記積層体の内部において積層方向に離間して配置された第1平板電極および第2平板電極と、
前記第1平板電極と前記第2平板電極との間に配置され、前記積層方向に直交する第1方向に延在する複数の共振器と、
前記積層体において、前記第1方向に垂直な第1側面および第2側面にそれぞれ配置され、前記第1平板電極および前記第2平板電極に接続された第1シールド導体および第2シールド導体とを備え、
前記複数の共振器は、前記積層体の内部において、前記積層方向および前記第1方向の双方に直交する第2方向に並んで配置されており、
前記複数の共振器の各々の第1端部は前記第1シールド導体に接続されており、第2端部は前記第2シールド導体から離間しており、
前記複数の共振器の各々は、前記積層方向に積層された複数の導体によって構成されており、
前記複数の導体において、前記積層方向における中央領域の導体間隔は、前記積層方向における端部領域の導体間隔よりも広い、誘電体フィルタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、誘電体フィルタに関し、より特定的には、誘電体フィルタにおけるフィルタ特性を向上するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2007-235465号公報(特許文献1)には、誘電体内に複数の内部電極層が積層された積層型誘電体共振器を用いたバンドパスフィルタが開示されている。特開2007-235465号公報(特許文献1)に開示されたバンドパスフィルタにおいては、内部電極層のインダクタ部が長手パターンで構成されており、当該長手パターンの一部の幅が徐々に狭くなる形状を有している。このような構成とすることによって、Q値を低下させることなく共振周波数を低下させることができるので、共振器の小型化を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-235465号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特開2007-235465号公報(特許文献1)に開示されたような誘電体フィルタは、たとえば、携帯電話あるいはスマートフォンに代表される小型携帯端末において、高周波信号をフィルタリングするために用いられる。
【0005】
誘電体フィルタは、一般的には、複数の平板導体が配置された誘電体を圧着あるいは焼結することによって製造される。このような工程で製造された誘電体フィルタにおいては、外部から加えられる圧力あるいは熱収縮による応力によって、平板導体の先端が当該平板導体の他の部分に比べて細くなる場合がある。
【0006】
一般的に、高周波電流は、表皮効果のために、主に信号伝達部材である導体の表面付近に流れることが知られている。そのため、誘電体フィルタにおいて平板導体の先端が細くなっていると、高周波電流の通過経路における抵抗値が大きくなってしまい、電流通過に伴う損失が増加してQ値が低下し、フィルタ特性が低下する可能性がある。
【0007】
本開示は、このような課題を解決するためになされたものであって、その目的は、誘電体フィルタにおけるQ値の低下を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示に係る誘電体フィルタは、直方体の形状を有する積層体と、第1平板電極および第2平板電極と、複数の共振器と、第1シールド導体および第2シールド導体とを備える。積層体は、複数の誘電体層を備える。第1平板電極および第2平板電極は、積層体の内部において積層方向に離間して配置される。複数の共振器は、第1平板電極と第2平板電極との間に配置され、積層方向に直交する第1方向に延在している。第1シールド導体および第2シールド導体は、積層体において、第1方向に垂直な第1側面および第2側面にそれぞれ配置され、第1平板電極および第2平板電極に接続されている。複数の共振器は、積層体の内部において、積層方向および第1方向の双方に直交する第2方向に並んで配置されている。複数の共振器の各々の第1端部は第1シールド導体に接続されており、第2端部は第2シールド導体から離間している。複数の共振器の各々は、積層方向に積層された複数の導体によって形成されている。複数の共振器を第1方向から平面視した場合に、複数の導体の端部を含む第1領域の厚みは、第1領域以外の部分の厚みよりも厚い。
【発明の効果】
【0009】
本開示に係る誘電体フィルタによれば、誘電体共振器を構成する複数の電極の端部を含む第1領域の厚みが、当該第1領域以外の部分の厚みよりも厚い。このような形状とすることによって、各電極に高周波電流が流れた場合の電流の通過経路における抵抗値を低減できるので、誘電体フィルタにおけるQ値の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施の形態1のフィルタ装置が適用される高周波フロントエンド回路を有する通信装置のブロック図である。
図2】実施の形態1のフィルタ装置の外観斜視図である。
図3】実施の形態1のフィルタ装置の内部構造を示す透過斜視図である。
図4】実施の形態1のフィルタ装置の断面図である。
図5】実施の形態1のフィルタ装置の断面図である。
図6】変形例1のフィルタ装置の断面図である。
図7】変形例2のフィルタ装置の断面図である。
図8】変形例2のフィルタ装置における、積層方向の中央部の導体の平面図の一例である。
図9】変形例3のフィルタ装置の断面図である。
図10】実施の形態2のフィルタ装置の内部構造を示す透過斜視図である。
図11】共振器における導体が間引かれた場合のQ値の変化を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0012】
[実施の形態1]
(通信装置の基本構成)
図1は、実施の形態1のフィルタ装置が適用される高周波フロントエンド回路20を有する通信装置10のブロック図である。通信装置10は、たとえば、スマートフォンに代表される携帯端末、あるいは、携帯電話基地局である。
【0013】
図1を参照して、通信装置10は、アンテナ12と、高周波フロントエンド回路20と、ミキサ30と、局部発振器32と、D/Aコンバータ(DAC)40と、RF回路50とを備える。また、高周波フロントエンド回路20は、バンドパスフィルタ22,28と、増幅器24と、減衰器26とを含む。なお、図1においては、高周波フロントエンド回路20が、アンテナ12から高周波信号を送信する送信回路を含む場合について説明するが、高周波フロントエンド回路20はアンテナ12を介して高周波信号を受信する受信回路を含んでいてもよい。
【0014】
通信装置10は、RF回路50から伝達された信号を高周波信号にアップコンバートしてアンテナ12から放射する。RF回路50から出力された変調済みのデジタル信号は、D/Aコンバータ40によってアナログ信号に変換される。ミキサ30は、D/Aコンバータ40によってアナログ信号に変換された信号を、局部発振器32からの発振信号と混合して高周波信号へとアップコンバートする。バンドパスフィルタ28は、アップコンバートによって生じた不要波を除去して、所望の周波数帯域の信号のみを抽出する。減衰器26は、信号の強度を調整する。増幅器24は、減衰器26を通過した信号を、所定のレベルまで電力増幅する。バンドパスフィルタ22は、増幅過程で生じた不要波を除去するとともに、通信規格で定められた周波数帯域の信号成分のみを通過させる。バンドパスフィルタ22を通過した信号は、送信信号としてアンテナ12から放射される。
【0015】
上記のような通信装置10におけるバンドパスフィルタ22,28として、本開示に対応したフィルタ装置を採用することができる。
【0016】
(フィルタ装置の構成)
次に図2図5を用いて、実施の形態1のフィルタ装置100の詳細な構成について説明する。フィルタ装置100は、分布定数素子である複数の共振器により構成される誘電体フィルタである。
【0017】
図2は、フィルタ装置100の外観斜視図である。図2においては、フィルタ装置100の外表面から見ることができる構成についてのみ示されており、内部の構成については省略されている。図3は、フィルタ装置100の内部構造を示す透過斜視図である。図4は、フィルタ装置100の断面図である。図4は、フィルタ装置100を構成する共振器をY軸方向から見た断面図である。また、図5は、フィルタ装置100の断面図である。図5は、フィルタ装置100のY軸方向に沿った断面図である。
【0018】
図2を参照して、フィルタ装置100は、複数の誘電体層が積層方向に積層された、直方体または略直方体の積層体110を備えている。積層体110は、上面111と、下面112と、側面113と、側面114と、側面115と、側面116とを有している。側面113は、X軸の正方向の側面であり、側面114はX軸の負方向の側面である。側面115,116はY軸方向に垂直な側面である。
【0019】
積層体110の各誘電体層は、たとえば低温同時焼成セラミックス(LTCC:Low Temperature Co-fired Ceramics)などのセラミックス、あるいは樹脂により形成されている。積層体110の内部において、各誘電体層に形成された複数の平板導体、および、誘電体層間に形成された複数のビアによって、共振器を構成する分布定数素子、ならびに、当該分布定数素子間を結合するためのキャパシタおよびインダクタが構成される。本明細書において「ビア」とは、異なる誘電体層に設けられた導体同士を接続し、積層方向に延在する導体を示す。ビアは、たとえば、導電ペースト、めっき、および/または金属ピンなどによって形成される。
【0020】
なお、以降の説明においては、積層体110の積層方向を「Z軸方向」とし、Z軸方向に垂直であって積層体110の長辺に沿った方向を「X軸方向」(第2方向)とし、積層体110の短辺に沿った方向を「Y軸方向」(第1方向)とする。また、以下では、各図におけるZ軸の正方向を上側、負方向を下側と称する場合がある。
【0021】
図2に示されるように、フィルタ装置100は、積層体110の側面115,116を覆う、シールド導体121,122を備えている。シールド導体121,122は、積層体110のX軸方向から見たときに略C字形状を有している。すなわち、シールド導体121,122は、積層体110の上面111および下面112の一部を覆っている。シールド導体121,122において、積層体110の下面112に配置された部分は、図示しない実装基板上の接地電極に、はんだバンプなどの接続部材によって接続される。すなわち、シールド導体121,122は接地端子としても機能する。
【0022】
また、フィルタ装置100は、積層体110の下面112に配置されている、入力端子T1および出力端子T2を備えている。入力端子T1は、下面112において、X軸の正方向の側面113に近い位置に配置されている。一方で、出力端子T2は、下面112において、X軸の負方向の側面114に近い位置に配置されている。入力端子T1および出力端子T2は、実装基板上の対応する電極に、はんだバンプなどの接続部材によって接続される。
【0023】
次に図3を参照して、フィルタ装置100の内部構造について説明する。フィルタ装置100は、図2に示した構成に加えて、平板電極130,135と、複数の共振器141~145と、接続導体151~155,171~175と、キャパシタ電極161~165とをさらに備える。なお、以降の説明において、共振器141~145、接続導体151~155,171~175、およびキャパシタ電極161~165を、それぞれ包括的に「共振器140」、「接続導体150」、「接続導体170」、および「キャパシタ電極160」と称する場合がある。
【0024】
平板電極130,135は、積層体110の内部において積層方向(Z軸方向)に離間した位置に、互いに対向して配置されている。平板電極130は、上面111に近い誘電体層に設けられており、X軸に沿った端部においてシールド導体121,122に接続されている。平板電極130は、積層方向から平面視した場合に、誘電体層をほぼ覆うような形状を有している。
【0025】
平板電極135は、下面112に近い誘電体層に設けられている。平板電極135は、積層方向から平面視した場合に、入力端子T1および出力端子T2に対向する部分に切り欠き部が形成された、略H型形状を有している。平板電極135は、X軸に沿った端部においてシールド導体121,122に接続されている。
【0026】
積層体110において、平板電極130と平板電極135との間に、共振器141~145が配置されている。共振器141~145の各々はY軸方向に延在している。共振器141~145の各々におけるY軸の正方向の端部(第1端部)は、シールド導体121に接続されている。一方、共振器141~145の各々におけるY軸の負方向の端部(第2端部)は、シールド導体122から離間している。
【0027】
フィルタ装置100においては、共振器141~145は、積層体110の内部においてX軸方向に並んで配置されている。より具体的には、X軸の正方向から負方向に向かって、共振器141,142,143,144,145の順に配置されている。
【0028】
共振器141~145の各々は、積層方向に沿って配置された複数の導体によって構成されている。図4に示されるように、各共振器140のZX平面に平行な断面(すなわち、Y軸方向から平面視した断面)において、複数の導体は全体として略楕円形状を有している。言い換えれば、複数の導体において最上層および最下層に配置される導体のX軸方向の寸法(第1幅)は、中央付近の層に配置される導体のX軸方向の寸法(第2幅)よりも狭い。また、本実施の形態1のフィルタ装置100においては、各導体におけるY軸に沿った端部を含む第1領域AR1(図4の破線部)の導体の厚みは、当該第1領域以外の部分の導体の厚みよりも厚くされている。
【0029】
図5を参照して、共振器140は、シールド導体121に接続されている第1端部に近い位置において、接続導体150を介して、平板電極130,135に接続されている。フィルタ装置100においては、接続導体150は、平板電極130から、対応する共振器140の複数の導体を貫通して平板電極135まで延在している。各接続導体は、対応する共振器を形成する複数の導体と電気的に接続されている。
【0030】
また、共振器140において、各共振器を構成する複数の導体は、シールド導体122側の第2端部に近い位置において、接続導体170によって電気的に接続されている。各共振器において、伝達される高周波信号の波長をλとすると、各共振器の第2端部と接続導体150との間の距離は約λ/4となるように設計される。
【0031】
図5に示されるように、共振器140の複数の導体において、接続導体150との接続部分を含む第2領域AR2の導体の厚み、および、接続導体170との接続部分を含む第3領域AR3の導体の厚みは、それ以外の部分の導体の厚みよりも厚くされている。
【0032】
共振器140は、複数の導体を中心導体とし、平板電極130,135を外導体とする、分布定数型のTEMモード共振器として機能する。
【0033】
共振器141は、ビアV10,V11および平板電極PL1を介して、入力端子T1に接続されている。なお、図3においては、共振器によって隠れて見えなくなっているが、共振器145は、ビアおよび平板電極を介して出力端子T2に接続されている。共振器141~145は、互いに磁気結合しており、入力端子T1に入力された高周波信号は、共振器141~145の順に伝達されて、出力端子T2から出力される。このとき、各共振器間の結合度合いによって、フィルタ装置100はバンドパスフィルタとして機能する。
【0034】
共振器140の第2端部側には、隣接する共振器との間に突出したキャパシタ電極が設けられている。キャパシタ電極は、共振器を構成する複数の導体の一部が張り出した構造となっている。キャパシタ電極のY軸方向の長さ、隣接する共振器との距離、および/または、キャパシタ電極を構成する導体の数によって、共振器間の容量結合の度合いを調整することができる。
【0035】
フィルタ装置100においては、図3に示されるように、共振器141から共振器142に向かってキャパシタ電極C10が突出して設けられており、共振器142から共振器141に向かってキャパシタ電極C20が突出して設けられている。また、共振器143から共振器142に向かってキャパシタ電極C30が突出して設けられており、共振器144から共振器143に向かってキャパシタ電極C40が突出して設けられている。さらに、共振器145から共振器144に向かってキャパシタ電極C50が突出して設けられている。
【0036】
なお、キャパシタ電極C10~C50は必須の構成ではなく、共振器間の所望の結合度合いが実現できれば、一部または全部のキャパシタ電極は設けられなくてもよい。また、図3の構成に加えて、フィルタ装置は、共振器142から共振器143に向かって突出して設けられたキャパシタ電極、共振器143から共振器144に向かって突出して設けられたキャパシタ電極、共振器144から共振器145に向かって突出して設けられたキャパシタ電極を備えていてもよい。
【0037】
また、フィルタ装置100においては、共振器140の第2端部に対向して、キャパシタ電極160が配置されている。キャパシタ電極160のZX平面に平行な断面は、共振器140と同様の断面を有している。キャパシタ電極160は、シールド導体122に接続されている。これにより、共振器140と、対応するキャパシタ電極160とによってキャパシタが構成される。図5における共振器とキャパシタ電極との間のギャップ(Y軸方向の距離)GPを調整することによって、共振器140と対応するキャパシタ電極160とによって構成されるキャパシタのキャパシタンスを調整することができる。
【0038】
フィルタ装置100において、入力端子T1から出力端子T2に高周波信号が伝達される場合、各共振器には高周波信号の共振に伴って、共振器を構成する導体に高周波電流が流れる。
【0039】
一般的に、高周波電流は、表皮効果のために、主に導体の表面付近を流れることが知られている。そのため、複数の導体の全体の断面形状が矩形形状の場合、角部分(すなわち、最上層および最下層の電極の端部)に電流が集中することになる。図3に示されるように、複数の導体の断面を略楕円形状とすることによって、電流の集中を緩和することができる。
【0040】
また、フィルタ装置100の共振器においては、共振器を形成する導体の長手方向(Y軸方向)にも電流が流れるとともに、接続導体150,170を介して導体間および平板電極130,135にも電流が流れる。図3および図4において説明したように、フィルタ装置100においては、各導体におけるY軸に沿った端部を含む第1領域AR1における導体の厚み、ならびに、平板電極130,135との接続部分を含む第2領域AR2および第3領域AR3における導体の厚みが、導体の他の部分よりも厚くされている。このような構成によって、各導体における電流経路の抵抗値が低減されるので、電流通過に伴う損失を低減することができ、結果としてフィルタ装置100のQ値の低下を抑制することができる。
【0041】
なお、共振器を構成する導体の抵抗値を低くする際に、上記のような特定の領域のみの導体の厚みを厚くするのではなく、導体の全体の厚みを厚くすることも考えられる。しかしながら、積層方向の導体密度が増加すると、製造工程において、導体の少ない部分との熱膨張係数の差により、導体と誘電体との間のクラック、層間の剥がれ、および/または、積層体110の表面の平坦性の悪化などの構造欠陥が生じる可能性がある。そのため、実施の形態1のフィルタ装置100のように、導体における電流経路に対応する領域の導体の厚みを相対的に厚くし、電流経路への寄与の少ない領域の導体の厚みを相対的に薄くすることによって、Q値の低下を抑制するとともに、構造欠陥の発生を抑制することができる。
【0042】
また、導体の端部の厚みを厚くすることによって、隣接する共振器間の容量結合を強めることができるので、フィルタ装置100を小型化することにも寄与する。
【0043】
なお、実施の形態1における「平板電極130」および「平板電極135」は、本開示における「第1平板電極」および「第2平板電極」にそれぞれ対応する。実施の形態1における「側面115」および「側面116」は、本開示における「第1側面」および「第2側面」にそれぞれ対応する。実施の形態1における「シールド導体121」および「シールド導体122」は、本開示における「第1シールド導体」および「第2シールド導体」にそれぞれ対応する。実施の形態1における「Y軸方向」および「X軸方向」は、本開示における「第1方向」および「第2方向」にそれぞれ対応する。実施の形態1における「接続導体150(151~155)」は、本開示における「第1接続導体」に対応する。実施の形態1における「接続導体170(171~175)」は、本開示における「第2接続導体」に対応する。
【0044】
(変形例1)
変形例1においては、共振器を形成する導体の形状の第1変形例について説明する。図6は、変形例1のフィルタ装置100Aの断面図である。図6は、フィルタ装置100Aにおける共振器140AをY軸方向から見た断面図である。図6においては、共振器140Aのうち、共振器141A,142A,143Aが例示されている。
【0045】
図6を参照して、変形例1のフィルタ装置100Aにおいては、実施の形態1と同様に、共振器140Aの断面は、全体として略楕円形状となっている。そして、フィルタ装置100Aの各共振器においては、隣接する導体における端部の第1領域AR1同士が積層方向に重ならずに、複数の導体が配置されている。より具体的には、積層方向の中央付近の導体における第1領域が、積層方向にジグザグに配置されている。
【0046】
導体の厚みを厚くした第1領域が積層方向に重なり合っていると、当該部分における導体密度が他の部分と比べて増加してしまうため、上述したような構造欠陥の要因になり得る。しかしながら、変形例1のフィルタ装置100Aにおいては、積層方向に隣接する導体の端部が重ならないように、複数の導体が配置されている。これにより、導体の端部の位置が分散化され、積層方向の導体密度を低下することができるので、構造欠陥の発生を抑制することができる。
【0047】
(変形例2)
変形例2においては、共振器を形成する導体の形状の第2変形例について説明する。図7は、変形例2のフィルタ装置100Bの断面図である。図7は、フィルタ装置100Bにおける共振器140BをY軸方向から見た断面図である。図7においても、共振器140Bのうち、共振器141B,142B,143Bが例示されている。
【0048】
図7を参照して、変形例2のフィルタ装置100Bにおいては、実施の形態1と同様に、共振器140Bの断面は、全体として略楕円形状となっている。そして、フィルタ装置100Bにおいては、共振器140Bの中心付近の導体の厚みが薄い部分(すなわち、第1領域AR1以外の部分)に開口部が設けられている。具体的には、共振器141B,142B,143Bには、開口部191,192,193がそれぞれ設けられている。なお、導体における共振器140Bの中心付近に開口部が設けられ、導体が第1領域AR1の部分のみを有する構成であってもよい。
【0049】
図8は、変形例2のフィルタ装置100Bにおける、積層方向の中央部の導体の平面図の一例である。図8に示されるように、接続導体150,170との接続部分を含む第2領域AR2および第3領域AR3の部分には、開口部は設けられていない。
【0050】
以上のように、共振器を構成する複数の導体において、電流経路への寄与の少ない領域の導体の一部を除いた構成とすることによって、積層体における導体密度差を低減できるので、構造欠陥の発生をさらに抑制することができる。
【0051】
なお、変形例1の構成について、変形例2の構成をさらに適用してもよい。
(変形例3)
変形例3においては、接続導体150との接続部分の第2領域AR2をさらに大きくした構成について説明する。
【0052】
図9は、変形例3のフィルタ装置100Cの断面図である。図9は、フィルタ装置100Cにおける共振器140CのY軸方向に沿った断面図である。フィルタ装置100Cの共振器140Cを構成する複数の導体においては、シールド導体121に接続された第1端部から第2端部方向に、L1の長さまでの第4領域AR4の導体の厚みが厚くされている。なお、共振器140Cについては、各導体のX軸方向の端部の第1領域AR1、および、接続導体170との接続部分を含む第3領域AR3についても、導体の厚みが厚くされている。なお、上記のL1の長さは、共振器を形成する導体の1/2までの長さとすることが好ましい。
【0053】
TEM共振器においては、開放端(第2端部)の電流密度が低く、短絡端(第1端部)側に行くほど電流密度が高くなるので、第1端部付近の導体厚みを厚くすることによって、挿入損失を改善することができる。
【0054】
[実施の形態2]
複数の導体が積層された共振器を有する誘電体フィルタにおいては、上述のように、積層体において当該共振器が設けられる領域と、共振器が設けられずに誘電体のみの領域との導体密度の違いから、製造工程において導体と誘電体との間でクラックなどの構造欠陥が生じる場合がある。
【0055】
実施の形態2においては、共振器における導体の数および配置を調整することによって、フィルタ特性の劣化を抑制しつつ、構造欠陥の発生を防止する構成について説明する。
【0056】
図10は、実施の形態2のフィルタ装置100Dの内部構造を示す透過斜視図である。フィルタ装置100Dは、図3で示した実施の形態1のフィルタ装置100における共振器140(141~145)が共振器140D(141D~145D)に置き換えられており、キャパシタ電極160(161~165)がキャパシタ電極160D(161D~165D)に置き換えられた構成となっている。また、フィルタ装置100Dにおいては、共振器におけるシールド導体121側の第1端部付近において、接続導体180,181によって各共振器が互いに接続されている。なお、図10において、図3と重複する要素の構成は繰り返さない。
【0057】
実施の形態1のフィルタ装置100においては、共振器140およびキャパシタ電極160を構成する複数の導体は、積層方向において等間隔で配置されている。一方で、実施の形態2のフィルタ装置100Dにおける共振器140Dおよびキャパシタ電極160Dにおいては、積層方向の中央領域における導体間隔が、積層方向における端部領域の導体間隔よりも広くされた構成となっている。
【0058】
そして、各共振器における上面111側の端部領域の導体が、接続導体180によって互いに接続されている。また、各共振器における下面112側の端部領域の導体が、接続導体181によって互いに接続されている。接続導体180,181が設けられていることにより、共振器間の誘導結合の度合いを強くすることができる。なお、所望の特性によっては、接続導体180,181は設けられなくてもよい。
【0059】
実施の形態1において説明したように、高周波電流は、表皮効果によって共振器の断面における端部に流れる傾向がある。そのため、共振器およびキャパシタ電極の断面について考えると、積層方向においては、上面111および下面112に近い端部領域に電流が集中して流れやすい。そのため、実施の形態2においては、共振器およびキャパシタ電極を形成する複数の導体について、上面側および下面側の端部領域の導体間隔が、中央領域の導体間隔よりも狭くなるように配置することによって、電流通過に伴う損失を低減している。
【0060】
言い換えれば、フィルタ装置100Dにおいては、共振器およびキャパシタ電極の導体のすべてが端部領域と同じ導体間隔で配置された状態から、中央領域における導体の一部が間引かれた構成となっている。したがって、すべての導体が端部領域と同じ導体間隔で配置された場合に比べると、中央領域における導体の数が低減されており、積層方向における導体密度が低減されている。したがって、電流損失を抑制してQ値の低下を抑制しながら、導体密度差に伴う構造欠陥を抑制することができる。
【0061】
図11は、共振器における導体が間引かれた場合のQ値の変化を説明する図である。図11は、共振器において、一部の導体が間引かれる際の、導体が間引かれる位置と数によるQ値への影響を示している。図11においては、25層の導体を等間隔で配置した状態を初期状態とし、図10のように中央領域の導体が間引かれた場合(上段)、および端部領域の導体が間引かれた場合(中段)のQ値のシミュレーション値が下段のグラフに示されている。導体数については、23層、21層、19層、および17層の4ケースについてシミュレーションを行なっている。下段のグラフにおいては、実線LN10が中央領域が間引かれた場合におけるQ値を示しており、破線LN11が端部領域が間引かれた場合におけるQ値を示している。
【0062】
図11を参照して、中央領域の導体が間引かれた場合、および端部領域の導体が間引かれた場合のいずれの場合においても、導体数が減少するにつれてQ値は低下する傾向にある。しかしながら、図10の実施の形態2のように中央領域の導体が間引かれた場合のQ値の方が、端部領域の導体が間引かれた場合のQ値よりも大きくなっていることがわかる。
【0063】
以上のように、共振器およびキャパシタ電極を形成する複数の導体について、中央領域の導体間隔を端部領域の導体間隔よりも広くすることによって、損失を抑制しつつ、導体の総数を低減することができる。したがって、Q値の低下を抑制しながら、導体密度差に起因する構造欠陥を抑制することができる。
【0064】
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0065】
10 通信装置、12 アンテナ、20 高周波フロントエンド回路、22,28 バンドパスフィルタ、24 増幅器、26 減衰器、30 ミキサ、32 局部発振器、40 D/Aコンバータ、50 RF回路、100,100A~100D フィルタ装置、110 積層体、111 上面、112 下面、113~116 側面、121,122 シールド導体、130,135,PL1 平板電極、140~145,140A~143A,140B~143B,140C,140D~145D 共振器、150,151,155,170,171,175,180,181 接続導体、160,160D~165D,161,165,C10~C50 キャパシタ電極、191~193 開口部、AR1~AR4 領域、T1 入力端子、T2 出力端子、V10,V11 ビア。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11