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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】リチウム二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0585 20100101AFI20241106BHJP
   H01M 4/134 20100101ALI20241106BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20241106BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20241106BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20241106BHJP
【FI】
H01M10/0585
H01M4/134
H01M4/62 Z
H01M10/052
H01M10/0562
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2023511076
(86)(22)【出願日】2022-03-23
(86)【国際出願番号】 JP2022013655
(87)【国際公開番号】W WO2022210191
(87)【国際公開日】2022-10-06
【審査請求日】2023-09-20
(31)【優先権主張番号】P 2021055645
(32)【優先日】2021-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2022032266
(32)【優先日】2022-03-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】高田 晴美
(72)【発明者】
【氏名】松野 智久
(72)【発明者】
【氏名】上田 直毅
(72)【発明者】
【氏名】坂本 和幸
【審査官】松嶋 秀忠
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/137389(WO,A1)
【文献】特開2016-012495(JP,A)
【文献】特開2006-179241(JP,A)
【文献】特開2020-009619(JP,A)
【文献】特開2014-120265(JP,A)
【文献】国際公開第2015/098551(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/040533(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05-0587
H01M 4/13-62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオンを吸蔵放出可能な正極活物質を含有する正極活物質層が正極集電体の表面に配置されてなる正極と、
負極集電体を有し、充電時に前記負極集電体上にリチウム金属が析出する負極と、
前記正極および前記負極の間に介在し、硫化物固体電解質を含有する固体電解質層と、
を有する発電要素、ならびに前記発電要素を積層方向に所定の圧力で加圧する加圧部材を備え、
前記発電要素を平面視した際に、前記正極活物質層の外周端の少なくとも一部が前記固体電解質層の外周端より内側に位置し、前記負極集電体の外周端が前記固体電解質層の外周端より内側に位置し、かつ、前記正極活物質層の外周端より外側に位置し、
前記固体電解質層が前記負極集電体と対向する主面の少なくとも一部、ならびに前記固体電解質層の側面の少なくとも一部に、電子絶縁性およびリチウムイオン伝導性を有し、前記リチウム金属と接触することによる還元分解について前記固体電解質よりも安定である第1の機能層が設けられている、リチウム二次電池。
【請求項2】
前記固体電解質層の外周縁部の少なくとも一部が、前記正極活物質層の側面の少なくとも一部まで延在している、請求項1に記載のリチウム二次電池。
【請求項3】
記第1の機能層が、フッ化リチウム(LiF)、塩化リチウム(LiCl)、臭化リチウム(LiBr)、ヨウ化リチウム(LiI)、リチウムイオン伝導性ポリマー、Li-M-O(Mは、Mg、Au、Al、SnおよびZnからなる群より選ばれる1種または2種以上の金属元素である)で表される複合金属酸化物、ならびにLi-Ba-TiO複合酸化物からなる群から選択される1種または2種以上の材料を含む、請求項1または2に記載のリチウム二次電池。
【請求項4】
前記第1の機能層が、フッ化リチウム(LiF)、塩化リチウム(LiCl)、臭化リチウム(LiBr)、またはヨウ化リチウム(LiI)を含む、請求項に記載のリチウム二次電池。
【請求項5】
前記第1の機能層の平均厚さが、0.5nm~20μmである、請求項1~のいずれか1項に記載のリチウム二次電池。
【請求項6】
前記第1の機能層の平均厚さが、5nm~10μmである、請求項に記載のリチウム二次電池。
【請求項7】
前記第1の機能層の、前記負極集電体と対向する主面の算術平均粗さ(Ra)が1μm未満である、請求項1~のいずれか1項に記載のリチウム二次電池。
【請求項8】
前記発電要素を平面視した際に、前記正極活物質層の外周端の少なくとも一部が前記正極集電体の外周端より内側に位置し、
前記正極活物質層が配置されていない前記正極集電体の前記固体電解質層側の表面に、電子絶縁性の材料から構成される絶縁層が配置されている、請求項1~のいずれか1項に記載のリチウム二次電池。
【請求項9】
前記固体電解質層の外周縁部の少なくとも一部が、前記正極活物質層の側面の少なくとも一部まで延在しており、かつ、前記正極活物質層の外周の少なくとも一部が、前記固体電解質層、前記第1の機能層および前記絶縁層のいずれか1つ以上によって被覆されている、請求項に記載のリチウム二次電池。
【請求項10】
前記第1の機能層が、ヤング率が100MPa未満である材料を含む、請求項に記載のリチウム二次電池。
【請求項11】
前記第1の機能層が、リチウムイオン伝導性ポリマーを含む、請求項10に記載のリチウム二次電池。
【請求項12】
前記第1の機能層が前記負極集電体と対向する主面の少なくとも一部に、リチウムと合金化可能な元素の単体または前記元素を含有する化合物を含む第2の機能層がさらに設けられている、請求項1~11のいずれか1項に記載のリチウム二次電池。
【請求項13】
前記リチウムと合金化可能な元素が、金、銀、亜鉛、マグネシウム、アルミニウム、白金、ケイ素、スズ、ビスマス、インジウムおよびパラジウムからなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項12に記載のリチウム二次電池。
【請求項14】
前記固体電解質層に含まれる前記固体電解質がLi2-P、LiPSX(ここで、XはCl、BrまたはIである)、Li11、Li3.20.96SおよびLiPSからなる群から選択される、請求項1~13のいずれか1項に記載のリチウム二次電池。
【請求項15】
前記正極活物質層が、硫化物固体電解質をさらに含有する、請求項1~14のいずれか1項に記載のリチウム二次電池。
【請求項16】
前記第1の機能層の平均厚さが、前記固体電解質層の平均厚さよりも小さい、請求項15に記載のリチウム二次電池。
【請求項17】
前記固体電解質層における前記硫化物固体電解質の含有量が90~100質量%である、請求項1~16のいずれか1項に記載のリチウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化に対処するため、二酸化炭素排出量の低減が切に望まれている。自動車業界では、電気自動車(EV)やハイブリッド電気自動車(HEV)の導入による二酸化炭素排出量の低減に期待が集まっており、これらの実用化の鍵を握るモータ駆動用二次電池などの非水電解質二次電池の開発が盛んに行われている。
【0003】
モータ駆動用二次電池としては、携帯電話やノートパソコン等に使用される民生用リチウムイオン二次電池と比較して極めて高い出力特性、および高いエネルギーを有することが求められている。したがって、現実的な全ての電池の中で最も高い理論エネルギーを有するリチウムイオン二次電池が注目を集めており、現在急速に開発が進められている。
【0004】
ここで、現在一般に普及しているリチウムイオン二次電池は、電解質に可燃性の有機電解液を用いている。このような液系リチウムイオン二次電池では、液漏れ、短絡、過充電などに対する安全対策が他の電池よりも厳しく求められる。
【0005】
そこで近年、電解質に酸化物系や硫化物系の固体電解質を用いた全固体リチウム二次電池に関する研究開発が盛んに行われている。固体電解質は、固体中でイオン伝導が可能なイオン伝導体を主体として構成される材料である。このため、全固体リチウム二次電池においては、従来の液系リチウムイオン二次電池のように可燃性の有機電解液に起因する各種問題が原理的に発生しない。また一般に、高電位・大容量の正極材料、大容量の負極材料を用いると電池の出力密度およびエネルギー密度の大幅な向上が図れる。
【0006】
従来、全固体リチウム二次電池の1種として、充電過程において負極集電体上にリチウム金属を析出させる、いわゆるリチウム析出型のものが知られている(例えば、特開2019-61867号公報を参照)。このようなリチウム析出型の全固体リチウム二次電池の充電過程においては、固体電解質層と負極集電体との間にリチウム金属が析出する。特開2019-61867号公報に記載のリチウム二次電池においては、リチウムを含む正極とリチウムを含む負極との間に介在させる電解質層を、第1電解質からなる電解質層と、前記電解質層と前記負極との間に設けられたヨウ素を含む第2電解質とから構成し、第1電解質のイオン伝導度よりも第2電解質のイオン伝導度のほうが小さくなるように構成されている。特開2019-61867号公報によれば、このような構成とすることにより、電解質層と負極との界面がたとえ平坦でなくとも、リチウムの不均一な析出が解消され、デンドライトの生成が抑制されるとされている。その結果、リチウムのデンドライトの成長に起因する内部抵抗のバラツキや放電容量の低下が改善され、優れた充放電特性を有するリチウム電池を提供することができるとされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、本発明者らの検討によれば、特開2019-61867号公報に記載された技術を用いたとしても、依然として十分な充放電効率が達成できない場合があることが判明した。
【0008】
そこで、本発明は、リチウム析出型のリチウム二次電池において、充放電効率をよりいっそう向上させうる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、リチウム析出型の発電要素および前記発電要素を積層方向に加圧する加圧部材を備えた二次電池において、正極活物質層を固体電解質層よりも一回り小さくするとともに、固体電解質層が負極集電体と対向する主面の少なくとも一部、および固体電解質層の側面の少なくとも一部に所定の機能層を設けることで上記課題が解決されうることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明の一形態は、リチウムイオンを吸蔵放出可能な正極活物質を含有する正極活物質層が正極集電体の表面に配置されてなる正極と、負極集電体を有し、充電時に前記負極集電体上にリチウム金属が析出する負極と、前記正極および前記負極の間に介在し、固体電解質を含有する固体電解質層とを有する発電要素、ならびに前記発電要素を積層方向に所定の圧力で加圧する加圧部材を備えるリチウム二次電池に関する。そして、当該リチウム二次電池においては、前記発電要素を平面視した際に、前記正極活物質層の外周端の少なくとも一部が前記固体電解質層の外周端より内側に位置している。そして、前記固体電解質層が前記負極集電体と対向する主面の少なくとも一部、ならびに前記固体電解質層の側面の少なくとも一部に、電子絶縁性およびリチウムイオン伝導性を有し、前記リチウム金属と接触することによる還元分解について前記固体電解質よりも安定である第1の機能層が設けられている点にも特徴がある。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、リチウム析出型のリチウム二次電池において、充放電効率をよりいっそう向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態である積層型(内部並列接続タイプ)の全固体リチウム二次電池(積層型二次電池)の全体構造を模式的に表した断面図である。
図2】本発明の一実施形態に係る積層型二次電池の単電池層の拡大断面図である。図2は、後述する実施例1において作製した評価用セルの構成に対応している。
図3】本発明に係る積層型二次電池の変形例を示す単電池層の拡大断面図である。図3は、後述する実施例5において作製した評価用セルの構成に対応している。
図4】本発明の一実施形態に係る積層型二次電池の斜視図である。
図5図4に示すA方向から見た側面図である。
図6】本発明に係る積層型二次電池の変形例を示す単電池層の拡大断面図である。図6は、後述する実施例2において作製した評価用セルの構成に対応している。
図7】本発明に係る積層型二次電池の変形例を示す単電池層の拡大断面図である。図7は、後述する実施例3において作製した評価用セルの構成に対応している。
図8】本発明の一実施形態に係る積層型二次電池の外観を表した斜視図である。
図9】本発明に係る積層型二次電池の変形例を示す単電池層の拡大断面図である。図9は、後述する実施例4において作製した評価用セルの構成に対応している。
図10】本発明ではない積層型二次電池の一例を示す単電池層の拡大断面図である。図10は、後述する比較例1において作製した評価用セルの構成に対応している。
図11】本発明ではない積層型二次電池の一例を示す単電池層の拡大断面図である。図11は、後述する比較例2において作製した評価用セルの構成に対応している。
図12】本発明ではない積層型二次電池の一例を示す単電池層の拡大断面図である。図12は、後述する比較例3において作製した評価用セルの構成に対応している。
図13】本発明ではない積層型二次電池の一例を示す単電池層の拡大断面図である。図13は、後述する比較例4において作製した評価用セルの構成に対応している。
図14】本発明に係る積層型二次電池の変形例を示す単電池層の拡大断面図である。図14は、後述する実施例14において作製した評価用セルの構成に対応している。
図15】本発明に係る積層型二次電池の変形例を示す単電池層の拡大断面図である。図15は、後述する実施例18において作製した評価用セルの構成に対応している。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一形態は、リチウムイオンを吸蔵放出可能な正極活物質を含有する正極活物質層が正極集電体の表面に配置されてなる正極と、負極集電体を有し、充電時に前記負極集電体上にリチウム金属が析出する負極と、前記正極および前記負極の間に介在し、固体電解質を含有する固体電解質層とを有する発電要素、ならびに前記発電要素を積層方向に所定の圧力で加圧する加圧部材を備え、前記発電要素を平面視した際に、前記正極活物質層の外周端の少なくとも一部が前記固体電解質層の外周端より内側に位置し、前記固体電解質層が前記負極集電体と対向する主面の少なくとも一部、ならびに前記固体電解質層の側面の少なくとも一部に、電子絶縁性およびリチウムイオン伝導性を有し、前記リチウム金属と接触することによる還元分解について前記固体電解質よりも安定である第1の機能層が設けられている、リチウム二次電池である。本形態に係るリチウム二次電池によれば、リチウム析出型のリチウム二次電池において、充放電効率をよりいっそう向上させることができる。
【0014】
以下、図面を参照しながら、本形態を説明するが、本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて定められるべきであり、以下の形態のみに制限されない。なお、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0015】
図1は、本発明の一実施形態である積層型(内部並列接続タイプ)の全固体リチウム二次電池(以下、単に「積層型二次電池」とも称する)の全体構造を模式的に表した断面図である。図1に示す積層型二次電池10aは、実際に充放電反応が進行する略矩形の発電要素21が、電池外装体であるラミネートフィルム29の内部に封止された構造を有する。なお、図1は充電時の積層型二次電池の断面を示しており、よって、負極集電体11’と固体電解質層17との間にはリチウム金属からなる負極活物質層13が存在している。また、積層型二次電池10aには、加圧部材によって発電要素21の積層方向に拘束圧力が付与されている(図示せず)。そのため、発電要素21の体積は、一定に保たれている。
【0016】
図1に示すように、本形態の積層型二次電池10aの発電要素21は、負極集電体11’の両面にリチウム金属を含む負極活物質層13が配置された負極と、固体電解質層17と、正極集電体11”の両面にリチウム遷移金属複合酸化物を含む正極活物質層15が配置された正極とを積層した構成を有している。具体的には、1つの負極活物質層13とこれに隣接する正極活物質層15とが、固体電解質層17を介して対向するようにして、負極、固体電解質層および正極がこの順に積層されている。これにより、隣接する負極、固体電解質層、および正極は、1つの単電池層19を構成する。したがって、図1に示す積層型二次電池10aは、単電池層19が複数積層されることで、電気的に並列接続されてなる構成を有するともいえる。
【0017】
負極集電体11’および正極集電体11”には、各電極(負極および正極)と導通される負極集電板25および正極集電板27がそれぞれ取り付けられ、ラミネートフィルム29の端部に挟まれるようにしてラミネートフィルム29の外部に導出される構造を有している。負極集電板25および正極集電板27は、それぞれ必要に応じて負極端子リードおよび正極端子リード(図示せず)を介して、各電極の負極集電体11’および正極集電体11”に超音波溶接や抵抗溶接等により取り付けられていてもよい。
【0018】
図2は、本発明の一実施形態に係る積層型二次電池の単電池層19の拡大断面図である。図2に示すように、本形態に係る積層型二次電池10aを構成する単電池層19は、正極集電体11”およびその表面に配置された正極活物質層15から構成される正極を有している。また、正極活物質層15の正極集電体11”とは反対側の面には、固体電解質を含む固体電解質層17が配置されている。ここで、図2に示す実施形態において、固体電解質層17の外周縁部は、その全周にわたって正極活物質層15の側面まで延在している。これにより結果的に、正極活物質層15は固体電解質層17よりも一回り小さく構成されている。すなわち、発電要素21を平面視した際には、正極活物質層15の外周端の全周が、固体電解質層17の外周端より内側に位置するように構成されている。このような構成とすることで、加圧部材による拘束圧力によって負極活物質層13を構成するリチウム金属が固体電解質層17の外周端から正極活物質層15側へと押し出されたとしても、正極活物質層15の側面にリチウム金属が接触しにくくなる。その結果、短絡を防止する効果がよりいっそう高いものとなる。なお、「正極活物質層の側面」とは、正極活物質層が正極集電体と接していない面のうち、負極集電体と対向しない面を意味する。ここで、図3に示すように、固体電解質層17の外周縁部は正極活物質層15の側面まで延在していなくともよい。ただし、この場合であっても、図3に示すように、発電要素21を平面視した際には、正極活物質層15の外周端の少なくとも一部が、固体電解質層17の外周端より内側に位置するように構成されている必要がある。これは、加圧部材による拘束圧力によって負極活物質層13を構成するリチウム金属が固体電解質層17の外周端から正極活物質層15側へと押し出されたとしても、正極活物質層15の側面にリチウム金属が接触しにくくなり、短絡が防止されうるためである。
【0019】
また、図2に示す実施形態において、固体電解質層17が負極集電体11’と対向する主面の全面、および固体電解質層17の側面の全面には、第1の機能層18が設けられている。なお、「固体電解質層の側面」とは、リチウム金属からなる負極活物質層13が存在しない放電時において、固体電解質層が正極活物質層および負極集電体のいずれとも対向しない面を意味する。この第1の機能層18は、電子絶縁性およびリチウムイオン伝導性を有する層である。また、第1の機能層18は、リチウム金属と接触することによる還元分解について、固体電解質層17を構成する固体電解質よりも安定である点に特徴がある。なお、図2に示す実施形態において、第1の機能層18は、フッ化リチウム(LiF)から構成されている。このような第1の機能層が固体電解質層の側面にも配置されていることで、充電時に負極集電体の表面に析出したリチウム金属が、加圧部材の拘束圧力によって固体電解質層の外周端から押し出されたときにも、固体電解質層と負極活物質層との接触が防止されて固体電解質層の還元分解による劣化が抑制される。また、第1の機能層および固体電解質層を介して正極活物質層と対向するリチウム金属の実効面積がより大きくなることから、充放電効率のよりいっそうの向上も図られるという利点がある。
【0020】
さらに、図2に示す実施形態において、負極集電体11’は、固体電解質層17よりも一回り小さく構成されている。また、負極集電体11’は、正極活物質層15よりも一回り大きく構成されている。すなわち、発電要素21を平面視した際には、負極集電体11’の外周端の全周が固体電解質層17の外周端より内側に位置し、かつ、正極活物質層15の外周端より外側に位置するように構成されている。このような構成とすることで、負極の端部におけるリチウム金属からなるデンドライトの発生を抑制しつつ、リチウム金属からなる負極活物質層13が固体電解質層17の外周端を超えて正極活物質層15側へ回り込むことによる短絡の発生を防止することができる。ただし、場合により、負極集電体11’は、固体電解質層17と同サイズまたはこれよりも一回り大きく構成されていてもよいし、正極活物質層15と同サイズまたはこれよりも一回り小さく構成されていてもよい。
【0021】
図4は、本発明の一実施形態に係る積層型二次電池の斜視図である。図5は、図4に示すA方向から見た側面図である。
【0022】
図4および図5に示すように、本実施形態に係る積層型二次電池100は、図1に示すラミネートフィルム29に封止された発電要素21と、ラミネートフィルム29に封止された発電要素21を挟持する2枚の金属板200と、締結部材としてのボルト300およびナット400と、を有している。この締結部材(ボルト300およびナット400)は金属板200がラミネートフィルム29に封止された発電要素21を挟持した状態で固定する機能を有している。これにより、金属板200および締結部材(ボルト300およびナット400)は発電要素21をその積層方向に加圧(拘束)する加圧部材として機能する。なお、加圧部材は発電要素21をその積層方向に加圧することができる部材であれば特に制限されない。加圧部材として、典型的には、金属板200のように剛性を有する材料から形成された板と上述した締結部材との組み合わせが用いられる。また、締結部材についても、ボルト300およびナット400のみならず、発電要素21をその積層方向に拘束するように金属板200の端部を固定するテンションプレートなどが用いられてもよい。
【0023】
なお、発電要素21に印加される荷重(発電要素の積層方向における拘束圧力)の下限は、例えば0.1MPa以上であり、好ましくは1MPa以上であり、より好ましくは3MPa以上であり、さらに好ましくは5MPa以上である。発電要素の積層方向における拘束圧力の上限は、例えば100MPa以下であり、好ましくは70MPa以下であり、より好ましくは40MPa以下であり、さらに好ましくは10MPa以下である。
【0024】
以下、上述した積層型二次電池10aの主な構成要素について説明する。
【0025】
[正極集電体]
正極集電体は、電池反応(充放電反応)の進行に伴って正極から外部負荷に向かって放出され、または電源から正極に向かって流入する電子の流路として機能する導電性の部材である。正極集電体を構成する材料に特に制限はない。正極集電体の構成材料としては、例えば、金属や、導電性を有する樹脂が採用されうる。正極集電体の厚さについて特に制限はないが、一例としては10~100μmである。
【0026】
[正極活物質層]
本形態に係るリチウム二次電池を構成する正極は、リチウムイオンを吸蔵放出可能な正極活物質を含有する正極活物質層を有する。正極活物質層15は、図1に示すように正極集電体11”の表面に配置されたものである。
【0027】
正極活物質としては、二次電池の充電過程においてリチウムイオンを放出し、放電過程においてリチウムイオンを吸蔵しうる物質であれば特に制限されない。このような正極活物質の一例として、M1元素およびO元素を含有し、前記M1元素はLi、Mn、Ni、Co、Cr、FeおよびPからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含有するものが挙げられる。このような正極活物質としては、例えば、LiCoO、LiMnO、LiNiO、Li(Ni-Mn-Co)O等の層状岩塩型活物質、LiMn、LiNi0.5Mn1.5等のスピネル型活物質、LiFePO、LiMnPO等のオリビン型活物質、LiFeSiO、LiMnSiO等のSi含有活物質等が挙げられる。また上記以外の酸化物活物質としては、例えば、LiTi12、LiVOが挙げられる。場合によっては、2種以上の正極活物質が併用されてもよい。なお、上記以外の正極活物質が用いられてもよいことは勿論である。好ましい実施形態において、本形態に係るリチウム二次電池を構成する正極活物質層15は、出力特性の観点から、正極活物質としてリチウムとコバルトとを含有する層状岩塩型活物質(例えば、Li(Ni-Mn-Co)O)を含む。
【0028】
正極活物質層における正極活物質の含有量は、特に限定されるものではないが、例えば、30~99質量%の範囲内であることが好ましく、40~90質量%の範囲内であることがより好ましく、45~80質量%の範囲内であることがさらに好ましい。
【0029】
本形態に係るリチウム二次電池において、正極活物質層15は、固体電解質をさらに含むことが好ましい。固体電解質としては、硫化物固体電解質、樹脂固体電解質および酸化物固体電解質が挙げられる。なお、固体電解質としては、使用する電極活物質の充放電に伴う体積膨張の程度に応じて、所望の体積弾性率を有する材料を適宜選択することができる。
【0030】
本形態に係る二次電池の好ましい一実施形態において、固体電解質は、充放電に伴う電極活物質の体積変化に対してより追従できるとの観点から、好ましくは樹脂固体電解質を含む。このような樹脂固体電解質としては、フッ素樹脂、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリロニトリル、ポリアクリレートおよびこれらの誘導体ならびにこれらの共重合体などが挙げられる。フッ素樹脂の例としては、フッ化ビニリデン(VdF)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、テトラフルオロエチレン(TFE)およびこれらの誘導体などを構成単位として含むフッ素樹脂が挙げられる。具体的には、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリヘキサフルオロプロピレン(PHFP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのホモポリマー、VdFとHFPとの共重合体のような2元共重合体などが挙げられる。
【0031】
本形態に係る二次電池の他の好ましい実施形態において、固体電解質は、優れたリチウムイオン伝導性を示すとともに、充放電に伴う電極活物質の体積変化に対してより追従できるとの観点から、好ましくはS元素を含む硫化物固体電解質であり、より好ましくはLi元素、M元素およびS元素を含み、前記M元素はP、Si、Ge、Sn、Ti、Zr、Nb、Al、Sb、Br、ClおよびIからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含有する硫化物固体電解質であり、さらに好ましくはS元素、Li元素およびP元素を含む硫化物固体電解質である。硫化物固体電解質は、LiPS骨格を有していてもよく、Li骨格を有していてもよく、Li骨格を有していてもよい。LiPS骨格を有する硫化物固体電解質としては、例えば、LiI-LiPS、LiI-LiBr-LiPS、LiPSが挙げられる。また、Li骨格を有する硫化物固体電解質としては、例えば、LPSと称されるLi-P-S系固体電解質が挙げられる。また、硫化物固体電解質として、例えば、Li(4-x)Ge(1- x)(xは、0<x<1を満たす)で表されるLGPS等を用いてもよい。より詳細には、例えば、LPS(LiS-P)、Li11、Li3.2 .96S、Li3.25Ge0.250.75、Li10GeP12、またはLiPSX(ここで、XはCl、BrもしくはIである)等が挙げられる。なお、「LiS-P」の記載は、LiSおよびPを含む原料組成物を用いてなる硫化物固体電解質を意味し、他の記載についても同様である。中でも、硫化物固体電解質は、高イオン伝導度であり、かつ低体積弾性率であるため充放電に伴う電極活物質の体積変化により追従できるとの観点から、好ましくはLPS(LiS-P)、LiPSX(ここで、XはCl、BrもしくはIである)、Li11、Li3.20.96SおよびLiPSからなる群から選択される。
【0032】
正極活物質層における固体電解質の含有量は、特に限定されるものではないが、例えば、1~70質量%の範囲内であることが好ましく、10~60質量%の範囲内であることがより好ましく、20~55質量%の範囲内であることがさらに好ましい。
【0033】
正極活物質層は、正極活物質および固体電解質に加えて、導電助剤およびバインダの少なくとも1つをさらに含有していてもよい。正極活物質層の厚さは、目的とするリチウム二次電池の構成によっても異なるが、例えば、0.1~1000μmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは40~100μmである。
【0034】
[固体電解質層]
固体電解質層は、放電時には正極活物質層と負極集電体との間に介在する層であり、固体電解質を(通常は主成分として)含有する。固体電解質層に含有される固体電解質の具体的な形態については上述したものと同様であるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0035】
固体電解質層における固体電解質の含有量は、固体電解質層の合計質量に対して、例えば、10~100質量%の範囲内であることが好ましく、50~100質量%の範囲内であることがより好ましく、90~100質量%の範囲内であることがさらに好ましい。固体電解質層は、上述した固体電解質に加えて、バインダをさらに含有していてもよい。固体電解質層の厚さは、目的とするリチウム二次電池の構成によっても異なるが、例えば、0.1~1000μmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは10~40μmである。
【0036】
なお、図2を参照しつつ上述したように、負極活物質層と正極活物質層とが接触することによる短絡を防止するという観点から、固体電解質層の外周縁部の少なくとも一部(好ましくは全周)は、正極活物質層の側面まで延在していることが好ましい。また、より好ましい実施形態では、固体電解質層の外周縁部は、正極集電体まで延在することにより、正極活物質層の側面の全体を覆うように配置されると、特に短絡の防止効果が高いものとなる。また、この際、正極活物質層の側面を覆う固体電解質層の外周端は、正極活物質層の側面と略平行になるように配置されてもよいし、これに対して一定の角度をもって傾斜するようにテーパー形状に配置されてもよい(例えば、図9を参照)。
【0037】
[負極集電体]
負極集電体は、電池反応(充放電反応)の進行に伴って負極から電源に向かって放出され、または外部負荷から負極に向かって流入する電子の流路として機能する導電性の部材である。負極集電体を構成する材料に特に制限はない。負極集電体の構成材料としては、例えば、金属や、導電性を有する樹脂が採用されうる。負極集電体の厚さについて特に制限はないが、一例としては10~100μmである。
【0038】
[負極活物質層]
本形態に係るリチウム二次電池は、充電過程において負極集電体上にリチウム金属を析出させる、いわゆるリチウム析出型のものである。この充電過程において負極集電体上に析出するリチウム金属からなる層が、本形態に係るリチウム二次電池の負極活物質層である。したがって、充電過程の進行に伴って負極活物質層の厚さは大きくなり、放電過程の進行に伴って負極活物質層の厚さは小さくなる。完全放電時には負極活物質層は存在していなくともよいが、場合によってはある程度のリチウム金属からなる負極活物質層を完全放電時において配置しておいてもよい。また、完全充電時における負極活物質層(リチウム金属層)の厚さは特に制限されないが、通常は0.1~1000μmである。
【0039】
[第1の機能層]
本形態に係るリチウム二次電池においては、固体電解質層が負極集電体と対向する主面の少なくとも一部(好ましくは当該主面の全体)、ならびに固体電解質層の側面の少なくとも一部(好ましくは当該側面の全体)に、第1の機能層が設けられている。この第1の機能層は、電子絶縁性およびリチウムイオン伝導性を有する層である。また、第1の機能層は、リチウム金属と接触することによる還元分解について、固体電解質よりも安定であることが必要である。ここで、「リチウム金属と接触することによる還元分解について、固体電解質よりも安定である」とは、固体電解質層を構成する固体電解質がリチウム金属と接触することによって還元分解を受ける傾向と、第1の機能層の構成材料がリチウム金属と接触することによって還元分解を受ける傾向とを比較したときに、後者の傾向の方が小さいことを意味する。なお、第1の機能層の構成材料がこの条件を満たしているか否かは、作用極として固体電解質層および第1の機能層のそれぞれを用い、対極としてリチウム金属を用いたサイクリックボルタンメトリー法により、0V[vs.Li/Li+]付近において電圧を掃引したときに、第1の機能層を流れる電流が固体電解質層を流れる電流よりも小さいか否かによって判定することができる。
【0040】
このような第1の機能層が固体電解質層の側面にも配置されていることで、充電時に負極集電体の表面に析出したリチウム金属が、加圧部材の拘束圧力によって固体電解質層の外周端から押し出されたときにも、固体電解質層と負極活物質層との接触が防止されて固体電解質層の還元分解による劣化が抑制される。また、第1の機能層および固体電解質層を介して正極活物質層と対向するリチウム金属の実効面積がより大きくなることから、充放電効率のよりいっそうの向上も図られるという利点がある。ここで、本形態に係るリチウム二次電池の第1の機能層が配置されているか否かについては、例えば、リチウム二次電池の断面についてのSEM-EDX観察により固体電解質層の主面および側面に第1の機能層に相当する層が存在するか否かを確認した後、元素分析等によってその組成を解析することにより判定することができる。また、第1の機能層が薄いなどの理由により上記の手法での判定が困難である場合には、XPS法によりエッチングを行いながら第1の機能層に相当する層を分析することによっても判定することが可能である。
【0041】
なお、上述したような第1の機能層の構成材料について特に制限はなく、上述の条件を満たす材料であればいずれも好適に用いられうる。例えば、第1の機能層は、ハロゲン化リチウム(フッ化リチウム(LiF)、塩化リチウム(LiCl)、臭化リチウム(LiBr)、ヨウ化リチウム(LiI))、リチウムイオン伝導性ポリマー、Li-M-O(Mは、Mg、Au、Al、SnおよびZnからなる群より選ばれる1種または2種以上の金属元素である)で表される複合金属酸化物、ならびにLi-Ba-TiO複合酸化物からなる群から選択される1種または2種以上の材料を含むことが好ましい。これらの材料はいずれも、リチウム金属との接触による還元分解について特に安定であることから、第1の機能層の構成材料として好適である。なかでも、第1の機能層がハロゲン化リチウムを含むと、電池のレート特性が向上しうる。これは、充放電時にリチウムイオンが固体電解質層および第1の機能層を拡散する際の活性化障壁が低下することでリチウムイオンの界面拡散速度が向上し、第1の機能層と負極活物質層(金属リチウム層)との接触面積が十分に確保されることによるものと考えられる。
【0042】
第1の機能層の平均厚さについて特に制限はなく、上述した機能を発現可能な厚さで配置されていればよい。ただし、第1の機能層の平均厚さが大きすぎると内部抵抗を上昇させることで充放電効率を低下させる要因となる。このため、第1の機能層の平均厚さは、固体電解質層の平均厚さよりも小さいことが好ましい。また、第1の機能層の平均厚さが小さすぎると、第1の機能層を設けることによる保護効果が十分に得られない可能性がある。これらの観点から、第1の機能層の平均厚さは、好ましくは0.5nm~20μmであり、より好ましくは5nm~10μmである。なお、第1の機能層の「平均厚さ」とは、リチウム二次電池を構成する第1の機能層について異なる数~数十か所についてそれぞれ厚さを測定し、それらの算術平均値として算出される値を意味するものとする。また、電池のレート特性をよりいっそう向上させるという観点から、第1の機能層の、負極集電体と対向する主面の算術平均粗さ(Ra;JIS B 0601:2013に準拠して測定される)は、好ましくは1μm未満であり、より好ましくは100nm以下であり、さらに好ましくは50nm以下であり、特に好ましくは20nm以下であり、最も好ましくは10nm以下である。一方、Raの下限値について特に制限はないが、実際上は1nm以上である。
【0043】
[絶縁層]
本形態に係るリチウム二次電池においては、図6に示すように、発電要素21を平面視した際に、正極活物質層15の外周端の少なくとも一部が正極集電体11”の外周端より内側に位置し、正極活物質層15が配置されていない正極集電体11”の固体電解質層17側の表面に、電子絶縁性の材料から構成される絶縁層20が配置されていることが好ましい。このような構成とすることにより、充電時に負極集電体の表面に析出したリチウム金属が、加圧部材の拘束圧力によって固体電解質層の外周端から押し出されたときにも、正極活物質層15と負極活物質層13との接触が防止されて短絡の発生が抑制されるという利点がある。なお、図6に示す実施形態では、正極活物質層15の側面の全体が絶縁層20によって覆われるように絶縁層20が配置されている。このように、固体電解質層17の外周縁部の少なくとも一部が正極活物質層15の側面の少なくとも一部まで延在しており、かつ、正極活物質層15の外周の少なくとも一部が、固体電解質層17、第1の機能層18および絶縁層20のいずれか1つ以上によって被覆されていると、電池のサイクル耐久性が著しく向上するため、好ましい。このような構成において、第1の機能層は、ヤング率が100MPa未満である材料(例えば、リチウムイオン伝導性ポリマー)を含むことがより好ましい。このような構成とすることで、充放電時の正極活物質層の膨張収縮に第1の機能層が十分に追従することができ、正極活物質層の側面の露出とそれによる短絡の発生が防止される。その結果、電池のサイクル耐久性が向上しうる。ただし、図7に示す実施形態のように、正極活物質層15の側面の一部が露出するように絶縁層20が配置されていてもよい。
【0044】
なお、上述したような絶縁層の構成材料について特に制限はなく、上述の条件を満たす材料であればいずれも好適に用いられうる。絶縁層の構成材料の一例としては、例えば、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化ケイ素、S-B-Na系のガラスフリット等の無機粉末を、固体電解質層を構成する固体電解質に分散させた材料が挙げられる。ただし、絶縁層の構成材料は樹脂材料またはゴム材料であることが好ましい。これらの材料は耐久性が高く、弾性を有することから、例えば絶縁層が形成されている領域において内部応力が発生したとしても、絶縁層が破断することなく伸びることによって短絡の発生を効果的に防止することが可能となる。このような樹脂材料としては、ポリエチレン(例えば、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレンなど)、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂、酢酸ビニル樹脂、エチレン-酢酸ビニル樹脂、スチレン-ブタジエン樹脂等の熱可塑性樹脂;シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、熱硬化型アクリル樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、レゾルシン樹脂、アルキルレゾルシン樹脂、エポキシ樹脂、熱硬化型ポリエステル等の熱硬化性樹脂が挙げられる。また、ゴム材料の例としては、ラテックスゴム、クロロプレンゴム(CR)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、エチレン・プロピレン・ジエンゴム(EPDM)、アクリロニトリル・ブタジエンゴム(NBR)等が挙げられる。
【0045】
[第2の機能層]
本形態に係るリチウム二次電池においては、図15に示すように、第1の機能層18が負極集電体11’と対向する主面の少なくとも一部に、リチウムと合金化可能な元素の単体または前記元素を含有する化合物を含む第2の機能層23がさらに設けられていることが好ましい。このような構成によれば、電池のサイクル耐久性がよりいっそう向上しうる。これは、第1の機能層18と負極集電体11’との間に上記第2の機能層23が介在することで、充電過程においてリチウムイオンが金属リチウムとして析出する際のエネルギーを低減させることができ、その結果、より高い電流密度での充放電が可能となるためであると考えられる。ここで、第2の機能層に含まれるリチウムと合金化可能な元素としては、金、銀、亜鉛、マグネシウム、アルミニウム、白金、ケイ素、スズ、ビスマス、インジウムおよびパラジウムからなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。第2の機能層は、これらの元素の単体のほか、これらの元素を含む化合物から構成されうる。当該化合物としては、SiOxやSnOxなどの酸化物、Ni-Si合金、Ti-Si合金、Mg-Sn合金、Fe-Sn合金等の遷移金属元素を含む合金などが挙げられる。なかでも、上記元素の単体を含むことが好ましく、銀、亜鉛またはマグネシウムの単体を含むことがより好ましい。
【0046】
以上、本形態に係る二次電池が全固体リチウム二次電池である場合を例に挙げて説明したが、本形態に係るリチウム二次電池は、全固体型でなくてもよい。すなわち、固体電解質層は、従来公知の液体電解質(電解液)をさらに含有していてもよい。固体電解質層に含まれうる液体電解質(電解液)の量について特に制限はないが、固体電解質により形成された固体電解質層の形状が保持され、液体電解質(電解液)の液漏れが生じない程度の量であることが好ましい。なお、液体電解質(電解液)としては、従来公知の有機溶媒に従来公知のリチウム塩が溶解した形態を有する溶液が用いられる。液体電解質(電解液)は、有機溶媒およびリチウム塩以外の添加剤をさらに含有してもよい。これらの添加剤は、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。また、添加剤を電解液に使用する場合の使用量は、適宜調整することができる。
【実施例
【0047】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、以下において、操作はグローブボックス内で行った。また、グローブボックス内で用いた器具および装置等は、事前に十分に乾燥処理を行った。
【0048】
<実施例1>
[評価用セルの作製]
(正極の作製)
まず、正極活物質としてのLiNi0.8Mn0.1Co0.1、導電助剤としてのアセチレンブラック、および硫化物固体電解質(LPS(LiS-P))を、50:30:20の質量比となるように秤量し、グローブボックス内でメノウ乳鉢を用いて混合した後、遊星ボールミルでさらに混合撹拌した。得られた混合粉体100質量部に対してスチレン-ブタジエンゴム(SBR)を2質量部加え、メシチレンを溶媒として加えて正極活物質スラリーを調製した。次いで、上記で調製した正極活物質スラリーを正極集電体としてのアルミニウム箔の表面に塗工し、乾燥し、プレス処理を施すことにより正極活物質層(厚さ50μm)を形成して、正極を作製した。
【0049】
(固体電解質層および第1の機能層の作製)
硫化物固体電解質(LPS(LiS-P))100質量部に対してスチレン-ブタジエンゴム(SBR)を2質量部加え、メシチレンを溶媒として加えて固体電解質スラリーを調製した。次いで、上記で調製した固体電解質スラリーを支持体としてのステンレス箔の表面に塗工し、乾燥して、自立膜としての固体電解質層(厚さ30μm)を得た。その後、得られた固体電解質層の一方の主面および側面の全体に、スパッタリングによりフッ化リチウム(LiF)からなる第1の機能層(厚さ20nm)を形成した。
【0050】
(評価用セルの作製)
上記で作製した正極の正極活物質層側に、同様に上記で作製した第1の機能層が形成された固体電解質層を、固体電解質層の露出表面が正極活物質層と向き合うように冷間等方圧プレス(CIP)により転写した。この際、固体電解質層の外周縁部が全周にわたって正極活物質層の側面の途中まで延在するように、CIP処理の際のプレス圧を制御した。最後に、負極集電体としてのステンレス箔を第1の機能層の露出表面に積層して、負極活物質層が存在しないこと以外は図2に示す形態の評価用セル(リチウム析出型の全固体リチウム二次電池)を作製した。
【0051】
[評価用セルの評価(充放電効率の測定)]
上記で作製した評価用セルの正極集電体および負極集電体のそれぞれに正極リードおよび負極リードを接続し、以下の充放電試験条件に従って2サイクルの充放電を行った。この際、加圧部材を用いて評価用セルの積層方向に5[MPa]の拘束圧力を印加しながら以下の充放電試験を行った。
【0052】
(充放電試験条件)
1)充放電条件
[電圧範囲]3.0~4.3V
[充電過程]CCCV(0.01Cカットオフ)
[放電過程]CC
[充放電レート]0.2C
(充放電後、それぞれ30分休止)
2)評価温度:298K(25℃)。
【0053】
評価用セルは、充放電試験機を使用して、上記評価温度に設定された恒温槽中にて、充電過程(負極集電体上へリチウム金属が析出する)では、定電流・定電圧(CCCV)モードとし、0.2Cにて3.0Vから4.3Vまで充電した(0.01Cカットオフ)。その後、放電過程(負極集電体上のリチウム金属が溶解する)では、定電流(CC)モードとし、0.2Cにて4.3Vから3.0Vまで放電した。ここで、1Cとは、その電流値で1時間充電すると、ちょうどその電池が満充電(100%充電)状態になる電流値のことである。ここで、評価用セルの充放電処理の際に、充電容量(充電時の電池容量)および放電容量(放電時の電池容量)をそれぞれ測定した。そして、2サイクル目の充電時の電池容量に対する放電時の電池容量の割合として、充放電効率(クーロン効率)を算出した。
【0054】
その結果、本実施例における充放電効率は99%であった。
【0055】
<実施例2>
正極活物質層の外周(露出した側面の全体)を取り囲むように、ポリエチレンテレフタレート(PET)からなる樹脂層(絶縁層)を正極集電体の外周縁部の表面に配置したこと以外は上述した実施例1と同様の手法により、負極活物質層が存在しないこと以外は図6に示す形態の評価用セルを作製した。そして、上記と同様の手法により充放電効率(クーロン効率)を算出したところ、本実施例における充放電効率は99%であった。
【0056】
<実施例3>
正極活物質層の外周(露出した側面の一部)を取り囲むように、ポリエチレンテレフタレート(PET)からなる樹脂層を正極集電体の外周縁部の表面に配置したこと、および、第1の機能層の外周縁部が全周にわたって固体電解質層の側面の途中まで延在するようにスパッタリングの条件を制御したこと以外は上述した実施例2と同様の手法により、負極活物質層が存在しないこと以外は図7に示す形態の評価用セルを作製した。そして、上記と同様の手法により充放電効率(クーロン効率)を算出したところ、本実施例における充放電効率は99%であった。
【0057】
<実施例4>
第1の機能層を形成する前の固体電解質層を、冷間等方圧プレス(CIP)により正極の正極活物質層側に転写した。この際、図9に示すように固体電解質層が正極活物質層の露出表面および側面の全体を覆いつつ、正極活物質層の側面に配置される固体電解質層の幅が正極集電体側に向かうに従って広がるように、転写の条件を制御した。その後、得られた固体電解質層の一方の主面および側面の全体に、スパッタリングによりフッ化リチウム(LiF)からなる第1の機能層(厚さ20nm)を形成したこと以外は上述した実施例1と同様の手法により、負極活物質層が存在しないこと以外は図9に示す形態の評価用セルそして、上記と同様の手法により充放電効率(クーロン効率)を算出したところ、本実施例における充放電効率は99%であった。
【0058】
<実施例5>
固体電解質層の外周縁部が全周にわたって正極活物質層の側面まで延在しないようにCIP処理の際のプレス圧を制御したこと、および、第1の機能層の外周縁部が全周にわたって固体電解質層の側面の途中まで延在するようにスパッタリングの条件を制御したこと以外は上述した実施例1と同様の手法により、負極活物質層が存在しないこと以外は図3に示す形態の評価用セルを作製した。そして、上記と同様の手法により充放電効率(クーロン効率)を算出したところ、本実施例における充放電効率は99%であった。
【0059】
なお、上述した実施例1~実施例5のそれぞれについて、第1の機能層の厚さを20nmから、5nm、100nm、250nm、1μm、5μmまたは15μmに変更して同様の評価用セルを作製し、充放電効率の測定を行った。その結果、すべて上記と同様の結果が得られることが確認された。
【0060】
<比較例1>
第1の機能層の外周縁部が全周にわたって固体電解質層の側面まで延在しないようにスパッタリングの条件を制御したこと以外は上述した実施例5と同様の手法により、負極活物質層が存在しないこと以外は図10に示す形態の評価用セルを作製した。そして、上記と同様の手法により充放電効率(クーロン効率)を算出したところ、本比較例における充放電効率は83%であった。なお、充放電試験後の評価用セルを分解して観察したところ、固体電解質層の側面が劣化して変色していることが確認された。本比較例では、固体電解質層の側面まで延在するように第1の機能層が配置されていない。このため、充電時に負極集電体の表面に析出したリチウム金属が加圧部材による拘束圧力によって固体電解質層の外周端から押し出されて図10に示すように固体電解質層の側面と接触することで、固体電解質層を構成する固体電解質が還元分解を受けて劣化し、内部抵抗が増大して充放電効率が低下したものと考えられる。
【0061】
<比較例2>
ポリエチレンテレフタレート(PET)からなる樹脂層(絶縁層)を、正極活物質層の外周(露出した側面の全体)を取り囲むように、かつ、絶縁層の高さが正極活物質層の厚さよりも大きくなるように、正極集電体の外周縁部の表面に配置したこと以外は上述した比較例1と同様の手法により、負極活物質層が存在しないこと以外は図11に示す形態の評価用セルを作製した。そして、上記と同様の手法により充放電試験を行ったところ、短絡が発生してしまい充放電効率を測定することができなかった。なお、充放電試験後の評価用セルを分解して観察したところ、固体電解質層の外周縁部に割れが生じていることが確認された。本比較例では、正極活物質層の厚さよりも高い絶縁層が設けられている。このため、拘束圧力によって絶縁層と固体電解質層との界面に内部応力が発生し、それによって固体電解質層の外周縁部において割れが発生し、それが原因となって短絡が生じたものと考えられる。
【0062】
<比較例3>
第1の機能層の外周縁部が全周にわたって固体電解質層の側面まで延在しないようにスパッタリングの条件を制御したこと、および、正極活物質層のサイズを固体電解質層のサイズと同じにしたこと以外は上述した実施例3と同様の手法により、負極活物質層が存在しないこと以外は図12に示す形態の評価用セルを作製した。そして、上記と同様の手法により充放電試験を行ったところ、短絡が発生してしまい充放電効率を測定することができなかった。本比較例では、正極活物質層のサイズが固体電解質層のサイズと同じとされている。このため、充電時に負極集電体の表面に析出したリチウム金属が加圧部材による拘束圧力によって固体電解質層の外周端から押し出されたときに、正極活物質層の側面にリチウム金属が容易に接触する。その結果、短絡が生じたものと考えられる。
【0063】
<比較例4>
固体電解質層の外周縁部が全周にわたって正極活物質層の側面の途中まで延在するようにCIP処理の際のプレス圧を制御したこと、および、発電要素の負極集電体以外の構成部材を、封止材(エポキシ樹脂)を用いて封止したこと以外は上述した比較例1と同様の手法により、負極活物質層が存在しないこと以外は図13に示す形態の評価用セルを作製した。そして、上記と同様の手法により充放電試験を行ったところ、短絡が発生してしまい充放電効率を測定することができなかった。本比較例では、エポキシ樹脂で封止されていたとしても、充電時に負極集電体の表面に析出したリチウム金属は加圧部材による拘束圧力によって固体電解質層の外周端から押し出され、エポキシ樹脂と固体電解質層との隙間から正極活物質層の側面へと到達する。その結果、短絡が生じたものと考えられる。
【0064】
<実施例6>
第1の機能層の厚さを40nmに変更したこと以外は、上述した実施例1と同様の手法により、評価用セルを作製した。
【0065】
<実施例7>
第1の機能層の構成材料を、フッ化リチウムから臭化リチウム(LiBr)に変更したこと以外は、上述した実施例6と同様の手法により、評価用セルを作製した。
【0066】
<実施例8>
第1の機能層の構成材料を、フッ化リチウムから塩化リチウム(LiCl)に変更したこと以外は、上述した実施例6と同様の手法により、評価用セルを作製した。
【0067】
<実施例9>
第1の機能層の構成材料を、フッ化リチウムからヨウ化リチウム(LiI)に変更したこと以外は、上述した実施例6と同様の手法により、評価用セルを作製した。
【0068】
<実施例10>
第1の機能層の構成材料を、フッ化リチウムから炭酸リチウム(LiCO)に変更したこと以外は、上述した実施例6と同様の手法により、評価用セルを作製した。
【0069】
<実施例11>
第1の機能層の構成材料を、フッ化リチウムから酸化リチウム(LiO)に変更したこと以外は、上述した実施例6と同様の手法により、評価用セルを作製した。
【0070】
<実施例12>
第1の機能層の厚さを10μmに変更したこと以外は、上述した実施例8と同様の手法により、評価用セルを作製した。
【0071】
<実施例13>
塩化リチウムの粉末を適量のメシチレンに分散させ、SBRを塩化リチウムに対して1質量%添して混合することによりスラリーを調製した。このスラリーを塗布し、乾燥することにより第1の機能層(厚さ2μm)を形成したこと以外は、上述した実施例8と同様の手法により、評価用セルを作製した。
【0072】
[第1の機能層の表面の算術平均粗さ(Ra)の測定]
JIS B 0601:2013に準拠して、第1の機能層の負極集電体と対向する主面の算術平均粗さ(Ra)を測定した。結果を下記の表1に示す。
【0073】
[評価用セルの評価(充電レート特性の測定)]
上記の実施例6~実施例13で作製した評価用セルの正極集電体および負極集電体のそれぞれに正極リードおよび負極リードを接続し、評価温度を333K(60℃)に変更したこと以外は上記と同様の充放電試験条件に従って1.0Cまたは0.2Cでの充放電処理をそれぞれ3サイクル行った。そして、3サイクル目の充電容量(0.2C)に対する3サイクル目の充電容量(1.0C)の百分率[%]を算出して充電レート特性とした。結果を下記の表1に示す。
【0074】
【表1】
【0075】
表1に示す結果から、第1の機能層がハロゲン化リチウムを含む実施例6~実施例9では、第1の機能層がそれ以外の材料から構成されている実施例10および実施例11と比較して、優れた充電レート特性を示すことがわかる。なかでも、第1の機能層がLiBr、LiClまたはLiIから構成されることがより好ましいこともわかる。また、実施例8、実施例12および実施例13の比較から、第1の機能層の負極集電体と対向する主面の算術平均粗さ(Ra)が1μm未満(好ましくは20nm以下、より好ましくは10nm以下)であると、より充電レート特性に優れたリチウム二次電池が得られることがわかる。
【0076】
<実施例14>
ポリエチレングリコール(PEG(ポリエチレンオキシド;PEO);数平均分子量200,000)を適量の水に溶解させた溶液を塗布し、乾燥することにより第1の機能層(厚さ2μm)を形成した。この際、第1の機能層の外周縁部が全周にわたって固体電解質層の側面および正極活物質層の側面の全体を被覆するように第1の機能層のサイズを制御した。これらのこと以外は上述した実施例3と同様の手法により、負極活物質層が存在しないこと以外は図14に示す形態の評価用セルを作製した。なお、球形圧子押し込み試験により第1の機能層のヤング率を測定したところ、70MPaであった。
【0077】
<比較例5>
第1の機能層を形成しなかったこと以外は、上述した実施例14と同様の手法により、評価用セルを作製した。
【0078】
<実施例15>
絶縁層を形成しなかったこと以外は、上述した実施例14と同様の手法により、評価用セルを作製した。
【0079】
<実施例16>
ポリエチレングリコール(PEG(ポリエチレンオキシド;PEO);数平均分子量200,000)を適量の水に溶解させた溶液を塗布し、乾燥することにより第1の機能層(厚さ2μm)を形成した。この際、第1の機能層が図7に示す位置に配置されるように第1の機能層のサイズを制御した。これらのこと以外は、上述した実施例3と同様の手法により、評価用セルを作製した。
【0080】
<実施例17>
第1の機能層の構成材料を、ポリエチレングリコールからアルミニウム金属膜(厚さ20nm)に変更した。この際、アルミニウム金属膜からなる第1の機能層は、固体電解質層の露出表面が正極活物質層と向き合うように固体電解質層を転写した後、負極集電体を配置する前にスパッタリングにより形成した。これらのこと以外は、上述した実施例14と同様の手法により、評価用セルを作製した。なお、球形圧子押し込み試験により第1の機能層のヤング率を測定したところ、70GPaであった。
【0081】
[評価用セルの評価(充放電サイクル特性の測定)]
上記の実施例14~実施例17および比較例5で作製した評価用セルの正極集電体および負極集電体のそれぞれに正極リードおよび負極リードを接続し、評価温度を333K(60℃)に変更し、電圧範囲を2.5~4.3Vに変更したこと以外は上記で充放電効率を測定したのと同様の充放電試験条件に従って充放電処理を繰り返し行い、短絡が生じるまでに充放電が可能なサイクル数を測定した。結果を下記の表2に示す。
【0082】
【表2】
【0083】
表2に示す結果から、正極活物質層が配置されていない正極集電体の固体電解質層側の表面に絶縁層が配置され、固体電解質層の外周縁部が、正極活物質層の側面まで延在するとともに、正極活物質層の外周が固体電解質層、第1の機能層または絶縁層によって被覆されていると、充放電サイクル特性が向上することがわかる。また、第1の機能層が、ヤング率が小さい(具体的には、100MPa未満である)、リチウムイオン伝導性ポリマー(例えば、ポリエチレングリコールなど)等から構成されると、充放電サイクル特性が向上することもわかる。
【0084】
<実施例18>
第1の機能層の構成材料を、フッ化リチウムから塩化リチウムに変更し、第1の機能層の厚さを100nmに変更した。また、負極集電体としてのステンレス箔を第1の機能層の露出表面に積層する前に、銀からなる第2の機能層を、負極集電体の第1の機能層側の表面の全面にスパッタリングにより形成した。これらのこと以外は、上述した実施例1と同様の手法により、負極活物質層が存在しないこと以外は図15に示す形態の評価用セルを作製した。
【0085】
<実施例19>
銀の粉末を適量のメシチレンに分散させた分散液を、負極集電体の第1の機能層側の表面の全面にスプレーコーティングし、乾燥することにより第2の機能層を形成したこと以外は、上述した実施例18と同様の手法により、評価用セルを作製した。
【0086】
<実施例20>
銀の粉末を適量のメシチレンに分散させた分散液を、第1の機能層の負極集電体側の表面の負極集電体と対向する領域にスプレーコーティングし、乾燥することにより第2の機能層を形成したこと以外は、上述した実施例18と同様の手法により、評価用セルを作製した。なお、得られた評価セルにおいて、第2の機能層を構成する銀粒子は、第1の機能層と負極集電体との間だけでなく第1の機能層の内部にも存在していた。
【0087】
<実施例21>
第1の機能層が形成された固体電解質層を正極の正極活物質層側に転写する前に、銀からなる第2の機能層を第1の機能層の負極集電体側の表面の全面にスパッタリングにより形成したこと以外は、上述した実施例18と同様の手法により、評価用セルを作製した。
【0088】
<実施例22>
第2の機能層の作製において、銀の粉末をマグネシウムの粉末に変更したこと以外は、上述した実施例19と同様の手法により、評価用セルを作製した。
【0089】
<実施例23>
第2の機能層の作製において、銀の粉末を亜鉛の粉末に変更したこと以外は、上述した実施例19と同様の手法により、評価用セルを作製した。
【0090】
<実施例24>
第1の機能層が形成された固体電解質層を正極の正極活物質層側に転写する前に、銀の粉末を適量のメシチレンに分散させた分散液を第1の機能層の負極集電体側の表面の全面にスプレーコーティングし、乾燥することにより銀からなる第2の機能層を第1の機能層の負極集電体側の表面の全面に形成したこと以外は、上述した実施例4と同様の手法により、評価用セルを作製した。
【0091】
[評価用セルの評価(充放電サイクル特性の測定)]
上記の実施例18~実施例24、並びに上述した実施例1で作製した評価用セルの正極集電体および負極集電体のそれぞれに正極リードおよび負極リードを接続し、評価温度を333K(60℃)に変更し、充放電レートを1.0Cに変更したこと以外は上記で充放電効率を測定したのと同様の充放電試験条件に従って30サイクルの充放電処理を行った。そして、1サイクル目の放電容量に対する30サイクル目の放電容量の百分率[%]を算出して充放電サイクル容量維持率とした。結果を下記の表3に示す。
【0092】
【表3】
【0093】
表3に示す結果から、第1の機能層が負極集電体と対向する主面に、リチウムと合金化可能な元素の単体または当該元素を含有する化合物を含む第2の機能層がさらに設けられていると、充放電サイクル特性が向上することがわかる。
【0094】
この出願は、2021年3年29日に出願された日本国特許出願第2021-055645号、および、2022年3月3日に出願された日本国特許出願第2022-032266号に基づくものであり、それらの内容は参照により全体として本明細書に引用されている。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15