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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】脈波測定装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/02 20060101AFI20241106BHJP
【FI】
A61B5/02 310B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023523417
(86)(22)【出願日】2022-05-13
(86)【国際出願番号】 JP2022020288
(87)【国際公開番号】W WO2022249907
(87)【国際公開日】2022-12-01
【審査請求日】2023-07-31
(31)【優先権主張番号】P 2021089650
(32)【優先日】2021-05-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】志牟田 亨
【審査官】藤原 伸二
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/162000(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/068465(WO,A1)
【文献】特開2015-066160(JP,A)
【文献】実開平05-007203(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/02-5/03
A61B 5/1455
A61B 5/117-5/1172
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脈波を測定する脈波センサと、
前記脈波センサを内蔵する筐体と、
前記脈波センサを挟む前記脈波センサの周辺における前記筐体の表面に、前記脈波センサのセンシング部の幅および前記脈波センサにかざす指の幅よりも小さい幅、前記脈波センサにかざす指の腹における皮膚の触覚点の間隔より大きい外形、並びに、前記指の腹における皮膚の表皮層の厚さより高く、前記指の腹における皮膚の表皮層と真皮層との和の厚さと同じもしくは低い高さをそれぞれ有して、前記指の末節の長さより小さく、前記指の腹における皮膚の2点弁別閾よりも大きい間隔で突起状に突出し、前記指の長手方向に沿った方向に配置されて設けられ、触れる前記指の指先の感覚でその指先の腹が前記脈波センサを覆う前記筐体の表面に密着しているか否かを認識させる突出部と
を備える脈波測定装置。
【請求項2】
前記突出部は略半球形状をしていることを特徴とする請求項1に記載の脈波測定装置。
【請求項3】
前記脈波センサは光電脈波センサであり、前記突出部は前記光電脈波センサの指向角外に配置されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の脈波測定装置。
【請求項4】
前記間隔で設けられる前記突出部の両側を、前記指の前記筐体の表面との接触幅より広い間隔で挟んで、前記突出部の配置方向に沿って突出して設けられ、前記突出部の配置方向と直交する方向における前記指の動きを規制する指規制部を備えることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の脈波測定装置。
【請求項5】
前記筐体は、内蔵する前記脈波センサを覆う前記筐体の表面に透明の保護カバーを備え、前記突出部は前記保護カバーの表面に設けられることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の脈波測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脈波センサを内蔵して人の脈波を測定する脈波測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の脈波測定装置としては、例えば、特許文献1に開示された腕装着型測定装置がある。
【0003】
この腕装着型測定装置は、脈拍検出部と、この脈拍検出部に載せた指先が接触する心電波検出用の電極と、脈拍検出部および電極に対する指先の向きを規制する指規制部とを備える。指規制部は、指先の先端側が接触することにより指先の先端側を位置規制する先端側突起部と、指先の両側部分が接触することにより指先の両側を位置規制するサイド突起部とからなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2002-165768号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の特許文献1に開示された腕装着型測定装置では、図1(a)に示すように、脈拍検出部1を内蔵する筐体2の表面に設けられるサイド突起部3,3間の間隔に対して指先4の幅が細い人に対しては、指先4がサイド突起部3,3間で遊んでしまい、サイド突起部3,3間の幅方向において、指先4がその幅方向のいずれか一方側に寄ってしまう。したがって、脈拍検出部1の保護ガラス5が指先4の腹で覆い尽くされず、保護ガラス5が一部露出してしまう可能性がある。この場合、保護ガラス5の露出部分に形成される隙間の大きさが振動などで変動すると、この隙間を介して脈拍検出部1の受光素子に入射する光量が変動して光電脈波測定のノイズになり、脈拍検出部1で測定される光電脈波の波形が歪む原因となる。
【0006】
また、逆に、図1(b)に示すように、サイド突起部3,3間の間隔に対して指先4の幅が太い人に対しては、サイド突起部3,3間に指先4が完全に入り込まずに、指先4が保護ガラス5に接触しないで浮いてしまう可能性がある。また、図1(c)に示すように、指先4の先端側を位置規制する先端側突起部6の高さが高いと、先端側突起部6の側方Aから先端側突起部6に指先を当て決めした場合にも、指先4が保護ガラス5に接触しないで浮いてしまう可能性がある。このように指先4が保護ガラス5からわずかでも浮いてしまうと、脈拍検出部1で脈波を正確に測定できない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明はこのような課題を解決するためになされたもので、
脈波を測定する脈波センサと、
脈波センサを内蔵する筐体と、
脈波センサを挟む脈波センサの周辺における筐体の表面に、脈波センサのセンシング部の幅および脈波センサにかざす指の幅よりも小さい幅、脈波センサにかざす指の腹における皮膚の触覚点の間隔より大きい外形、並びに、指の腹における皮膚の表皮層の厚さより高く、指の腹における皮膚の表皮層と真皮層との和の厚さと同じもしくは低い高さをそれぞれ有して、指の末節の長さより小さく、指の腹における皮膚の2点弁別閾よりも大きい間隔で突起状に突出し、指の長手方向に沿った方向に配置されて設けられ、触れる指の指先の感覚でその指先の腹が脈波センサを覆う筐体の表面に密着しているか否かを認識させる突出部と
を備えて、脈波測定装置を構成した。
【0008】
脈波の安定測定のためには脈波センサを覆う筐体の表面に指先の腹が密着していることが必要であるが、従来の脈波測定装置では、指規制部によって指先をセンサ位置に単に誘導・規制するだけで、脈波測定者が自身で、指先がセンサ位置に触れて、指先の腹が脈波センサを覆う筐体の表面に密着しているか否かを認識させる構成ではなかった。しかし、本構成によれば、脈波センサにかざす指の末節の長さより小さい間隔で設けられた突出部の間に脈波センサがあり、突出部に触れる指先の感覚で指先の位置を認識する構成になっているため、脈波測定者は自身で、指先がセンサ位置にあって指先の腹が脈波センサを覆う筐体の表面に密着しているか否かを確認・認識するようになる。したがって、従来のように、指先が脈波センサを覆う筐体の表面に接触しないで、浮いてしまう可能性が低減される。
【0009】
また、本構成によれば、指先の位置決めは、指の外形で行うのではなく、突出部間に指先の腹を配置することで行うので、指先の太さに関係なく行うことができる。したがって、従来のように、細い指先がセンサ位置に対して偏って脈波センサを覆う筐体の表面に触れることで、指先が脈波センサを覆いきれずに一部が露出して隙間が生じたり、太い指先が脈波センサを覆う筐体の表面に密着しないで、浮いてしまうこともなくなる。
【0010】
また、脈波測定者は、突出部の外郭で突出部を認識するため、突出部の幅が大きいとそれだけ突出部の認識位置がセンサ位置からずれる可能性が発生するが、本構成では突出部の幅は脈波センサのセンシング部の幅よりも小さいため、その位置ずれの影響は小さい。また、突出部間の間隔は脈波センサにかざす指の末節の長さより小さいため、離れた各突出部を触覚の敏感な末節の指の腹で同時に触って、各突出部の位置を明瞭に認識することができる。
【発明の効果】
【0011】
このため、本発明によれば、従来のように指先が脈波センサを覆いきれなかったり、脈波センサから浮いてしまう可能性が低減されて、脈波測定者が自身で指先をセンサ位置に密着させて、脈波を歪みなく正確に測定することが可能な脈波測定装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】従来の脈波測定装置の課題を説明する図である。
図2】本発明の第1の実施形態による脈波測定装置を示す図である。
図3】第1の実施形態による脈波測定装置と指との密着状態を説明する図である。
図4】第1の実施形態による脈波測定装置を構成する脈波センサにおける発光素子および受光素子の指向角を説明する図である。
図5】各実施形態による脈波測定装置を構成する突出部等についての寸法決定に参照される指寸法の測定箇所を説明する図である。
図6】本発明の第2の実施形態による脈波測定装置を示す図である。
図7】第2の実施形態による脈波測定装置と指との密着状態を説明する図である。
図8】本発明の第3の実施形態による脈波測定装置を示す図である。
図9】第3の実施形態による脈波測定装置と指との密着状態を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明の脈波測定装置を実施するための形態について、説明する。
【0014】
図2(a)は、本発明の第1の実施形態による脈波測定装置11Aの平面図、図2(b)は、図2(a)におけるI-I線で脈波測定装置11Aを破断して矢視方向から見た脈波測定装置11Aの横断面図である。本実施形態では、脈波測定装置11Aはスマートフォンに組み込まれる場合について説明するが、携帯電話や、スマートウォッチ、携帯型もしくは据え置き型(設置型)のゲーム機、パルスオキシメータ、脈波を測定する血圧推定装置、血糖値推定装置、疲労ストレス測定装置にも同様に組み込むことができる。
【0015】
脈波測定装置11Aは、脈波センサ12、筐体13、保護カバー14および突起状の突出部15,15を備えて構成される。筐体13は脈波測定装置11Aが組み込まれるスマートフォンの筐体であり、脈波センサ12を内蔵する。脈波センサ12は、発光部に発光素子としてLED(発光ダイオード)12a、受光部に受光素子としてPD(フォトダイオード)12bを備える光電脈波センサから構成され、脈波を測定する。
【0016】
本実施形態では、脈波センサ12として光電脈波センサを例として説明するが、圧電脈波センサでも同様に用いることができる。ただし、脈波センサ12が圧電脈波センサの場合、脈波センサ12を覆う保護カバーがなくて、脈波センサ12が露出する場合もある。保護カバーが樹脂フィルムのような軟らかいものであれば、脈波センサ12を保護カバーで覆ってもよいが、保護カバーが硬い場合は、脈波を検出できないため、脈波センサ12は露出させる必要がある。また、脈波測定装置11Aのセンシング部を構成する発光部の発光素子および受光部の受光素子もLED12aおよびPD12bに限られるものでなく、発光素子としてVCSEL(ヴィクセル)等の半導体レーザー、受光素子としてフォトトラ
ンジスタなどを用いてもよい。また、スマートフォンに内蔵されるカメラとフラッシュをそれぞれ光電脈波センサの受光素子と発光素子とみなして、脈波センサ12を構成してもよい。
【0017】
発光部はLED12aによって光が出射される領域であり、受光部はPD12bによって光を受光できる領域であって、それぞれ遮光壁12cによって囲まれて形成される。発光素子は通常10~1000Hz程度でパルス発光を行う。脈波センサ12は、受光素子で受光した光を電気信号へと変換し、増幅、フィルタリング、AD変換を行う。AD変換を行ったディジタル信号のサンプリングは発光素子の発光タイミングに合わせて行われる。サンプリングされたディジタル信号は、脈波センサ12が組み込まれたスマートフォンのMCUなどに送られる。
【0018】
MCUは、入力されるディジタル信号を基に脈波波形(PPG波形)を得、得られたPPG波形から、脈拍数、自律神経機能、酸素飽和度、血圧、血糖値などの情報を得る。酸素飽和度を算出するためには、赤色光と近赤外光のように複数の波長の発光素子で測定したPPG波形が必要である。また、自律神経機能や血圧、血糖値の算出にはきれいなPPG波形が必要である。特に血圧や血糖値の算出は、血圧や血糖値の変化によってPPG波形が微小に変化する現象を用いて行うため、S/N比がよく、歪のないPPG波形が求められる。
【0019】
なお、LED12aおよびPD12bはそれぞれ1個が図示されているが、それぞれ複数個で発光素子および受光素子を構成するようにしてもよい。また、発光素子は発光波長の異なる複数のLEDによって構成してもよい。発光波長としては、生体吸収の強い緑色、パルスオキシメータでよく使用される赤色と近赤外の波長が一般的である。
【0020】
LED12aおよびPD12bは通常は透明樹脂によって樹脂封止される。また、LED12aから皮膚を通過せずに直接PD12bに入射する光は受光感度を著しく低下させるため、LED12aとPD12bの間には遮光壁12cが形成される。また、脈波センサ12は指で触れるため、汚れ付着抑制、防水、摩耗抑制のために、ガラスやアクリル、ポリカーボネート等の透明の保護カバー14で、発光部および受光部が覆われる。保護カバー14は、内蔵する脈波センサ12を覆う筐体13の表面に設けられるが、無くてもよい。
【0021】
突出部15,15は、脈波センサ12を挟む脈波センサ12の周辺における筐体13の表面に一対設けられ、脈波センサ12のセンシング部の幅W1と同等もしくは小さい幅wをそれぞれ有する略半球形状をしている。また、突出部15,15は、図3(a)および図3(b)に示すように、脈波センサ12にかざす指16の幅W2より小さい幅wを有し、図3(c)に示すように、指16の末節の長さL1より小さい間隔L2で突出する。この間隔L2は、各突出部15,15の最も高い点間の距離とする。また、突出部15,15は、測定対象の指16の長手方向に沿って図2(a)に示すように配置される。また、発光部と受光部とは、図2では突出部15,15の並ぶ方向に沿って並んでいるが、突出部15,15の並ぶ方向に直交する方向に並べてもよい。
【0022】
なお、図3(a)および図3(b)は、指16の指先側から見た、指16が載置された脈波測定装置11Aの横断面図、図3(c)は指16が載置された脈波測定装置11Aの縦断面図である。図3において図2と同一または相当する部分には同一符号を付してその説明は省略する。
【0023】
また、本実施形態では、指16を人差し指として説明するが、指16は人差し指に限定されるものでなく、他の指であってもよい。また、突出部15,15の形状は、円錐、三角錐のような形状でもよいが、指16で押さえて痛くないように、突出端の角を丸くすることが望ましい。また、円柱、直方体のような形状でもよいが、側面が垂直に近く角張っていると指先がひっかかって指16の腹が脈波センサ12から浮いてしまう恐れがあるため、突出部15,15の側面は垂直ではなく、傾斜していることが望ましい。
【0024】
また、突出部15,15は、指16の腹における皮膚の表皮層の厚さより高く、しかも、指16の腹における皮膚の表皮層と真皮層との和の厚さと同じもしくは低い高さhを有する。また、突出部15,15は、指16の腹における皮膚の触覚点の間隔より大きい幅wもしくは長さL(図2(a)参照)の外形を有し、指16の腹における皮膚の2点弁別閾よりも大きい間隔L2で設けられる。また、突出部15,15は、図4に示すように、光電脈波センサ12の指向角θの外に配置される。図4は、指向角θを示す脈波測定装置11Aの縦断面図である。発光部のLED12aから出射される光の強度が最大(通常は発光中心)に対して半分になる角度は、一般的に指向角と呼ばれる。また、受光部のPD12bに入射される光の感度が最大(通常は受光中心)に対して半分になる角度も、指向角と呼ばれる。
【0025】
指向角θの内に突出部15,15があると、突出部15,15で反射・散乱された光が指16の皮膚を通過せずに直接PD12bに入射してしまい、光電脈波センサ12の感度を低下させる。そのため突出部15,15は指向角θの内に入らないように配置する。ただし、指向角θでは光の強度は半分までしか低下していないため、光の強度が0付近になる角度まで入らないように、発光部および受光部の縁から離して、突出部15,15を配置することが望ましい。指向角θが大きくなると、LED12aから指16の皮膚を通過せずに直接PD12bに入射する光である迷光や、外乱光のPD12bへの入射が発生しやすくなり、脈波測定信号のS/N比が低下する恐れがある。迷光や外乱光のPD12bへの入射を小さくするには、発光部・受光部の開口面積を小さくすることや、発光部・受光部の開口部にレンズを形成することが有効であるが、それぞれ発光素子の発光量の低下や、脈波センサ12の厚さの増大を招いてしまう。
【0026】
発光部、受光部の大きさは、人差し指16の指先で脈波を測定する場合、幅および長さがそれぞれ1~10mmの範囲内が適しており、2~6mmの範囲内が望ましい。発光部、受光部の大きさがこれより大きいと指16の腹で覆えなくなり、発光部のLED12aからの光が漏れたり、外乱光が受光部のPD12bに入射したりして、脈波測定信号にS/N比の低下を引き起こす。逆に、発光部、受光部の大きさがこれより小さいと、LED12aの発光量低下、PD12bの受光量低下が起こり、やはり脈波測定信号にS/N比の低下を引き起こす。
【0027】
また、突出部15,15の各幅wは、本実施形態では上記のように指16の幅W2よりも小さく設定されるが、日本人の人差し指16の末節の幅W2の最小は、日本人女性の人差し指16の末節の幅W2が最小となる。AIST(産業技術総合研究所)の人体寸法・形状データベース(参照URL;https://www.airc.aist.go.jp/dhrt/hand/data/list.html
)から、日本人女性の第2指(人差し指)の遠位関節の図5(a)に示される幅Waの平均値は、13.8mmである。この第2指遠位関節幅Waの最小値は、統計データの標準偏差0.7の3倍の散らばりを見込むと、11.7mm(=13.8-3×0.7)になる。したがって、この第2指遠位関節幅Waを人差し指16の末節の幅W2とすると、日本人女性の約99.7%の人差し指16の末節の幅W2は、11.7mm以上である。また、脈波センサ12のセンシング部の幅W1としては、人差し指16の腹が脈波センサ12と接触する幅W3(図3(a),(b)参照)が上記の末節の幅W2よりは小さくなるため、6mm以下が望ましい。したがって、突出部15,15の各幅wは、人差し指16の末節の幅W2の最小値の11.7mmよりも小さく設定されるが、センシング部の幅W1と同等もしくは小さくするために、6mm以下に設定される。
【0028】
ただし、突出部15,15の各サイズは、小さければ小さいほどよいわけではなく、上記のように、長さL、幅wのいずれかは、指16の皮膚における触覚点の間隔より大きく設定される。触覚受容器であるメルケル盤やマイスナー小体の皮膚密度は約30個/cmであり、その間隔の平均は2mm前後となるので、突出部15,15の長さL、幅wのいずれかは、2mmより大きく設定される。したがって、突出部15,15の各幅wは2~6mmが望ましい。
【0029】
また、突出部15,15の各高さhは、上記のように、測定部位となる指16の皮膚の表皮層の厚さより高く設定され、表皮層の厚さは0.2~0.3mm程度なので、0.2mm以上に設定される。また、突出部15,15の各高さhは、上記のように、測定部位となる指16の皮膚の表皮層と真皮層との和の厚さと同じか低く設定され、その和の厚さは部位によって異なるが約2mmほどである。したがって、突出部15,15の各高さhは0.2~2mmが望ましい。
【0030】
また、突出部15,15間の間隔L2は、上記のように、人差し指16の末節の長さL1より小さく設定されるが、AISTの人体寸法・形状データベースには人差し指の末節の長さの統計量はないので、長さの統計量がある人差し指16の長さの1/3を末節長さとみなす。日本人の最小の人差し指16の長さは日本人女性のものが最小となる。日本人女性の第2指(人差し指)の図5(b)に示される長さLaの平均値は、AISTの人体寸法・形状データベースから、66.5mmである。この第2指長Laの最小値は、統計データの標準偏差3.5の3倍の散らばりを見込むと、56.0mm(=66.5-3×3.5)になる。この第2指長Laの1/3を人差し指16の末節の長さL1とすると、人差し指16の末節の長さL1は、18.7mm(≒56.0÷3)である。
【0031】
したがって、突出部15,15間の間隔L2は、18.7mmよりも小さく設定されるが、実際には指先は突出部15,15のような突起に接触しにくいため、15mm以下が適している。また、突出部15,15間の間隔L2は、上記のように、皮膚において2点と感じられる最小距離である2点弁別閾より大きく設定されるが、この2点弁別閾は人差し指16の先端で2~3mmである。したがって、突出部15,15間の間隔L2は3~15mmが適している。
【0032】
また、光電脈波センサ12における発光部および受光部の各指向角θは、発光部および受光部の構造によって変わるが、30°~60°ぐらいが適している。したがって、発光部および受光部の各縁から突出部15,15を離して配置する距離L3(図4参照)は、指向角θを60°、突出部15の高さhを0.2mmとすると、0.35mm(=0.2×tan60°)以上が望ましい。
【0033】
脈波の安定測定のためには、脈波センサ12を覆う筐体13の表面に指16の指先の腹が密着し、接触圧が変動しないことが必要である。特に、指16と脈波センサ12を覆う筐体13の表面との間に隙間が生じると、脈波測定信号に重畳するノイズが増加し、脈波波形が歪む原因となる。従来の脈波測定装置では、指規制部によって指先をセンサ位置に単に誘導・規制するだけで、脈波測定者が自身で、指先がセンサ位置に触れて、指先の腹が脈波センサを覆う筐体の表面に密着しているか否かを認識させる構成ではなかった。
【0034】
しかし、本実施形態による脈波測定装置11Aによれば、脈波センサ12にかざす指16の末節の長さL1より小さい間隔L2で設けられた突出部15,15の間に脈波センサ12があり、突出部15,15に触れる指16の指先の感覚で指先の位置を認識する構成になっている。このため、脈波測定者は自身で、指先がセンサ位置にあって指先の腹が脈波センサ12を覆う筐体13の表面に密着しているか否かを確認・認識するようになる。したがって、従来のように指16の指先が脈波センサ12を覆う筐体13の表面に接触しないで浮いてしまう可能性が低減される。
【0035】
また、本実施形態による脈波測定装置11Aによれば、指先の位置決めは、指16の外形で行うのではなく、突出部15,15間に指先の腹を配置することで行うので、指先の太さに関係なく行うことができる。したがって、図1(a)に示す従来のように、細い指先4がセンサ位置に対して偏って脈波センサ1に触れることで、指先4が脈波センサ1を覆いきれずに一部が露出して隙間が生じたりすることがなくなり、図3(a)に示すように、細い指16の指先は脈波センサ12を覆い尽くすようになる。また、図1(b)に示す従来のように、太い指先4が脈波センサ1を覆う筐体2の表面に密着しないで浮いてしまうこともなくなり、図3(b)に示すように、太い指16の指先は筐体13の表面に密着するようになる。
【0036】
また、脈波測定者は、突出部15,15の各外郭で突出部15,15を認識するため、突出部15,15の各幅wが大きいとそれだけ突出部15,15の認識位置がセンサ位置からずれる可能性が発生する。しかし、本実施形態による脈波測定装置11Aでは、突出部15,15の各幅wは脈波センサ12のセンシング部の幅W1と同等か小さいため、その位置ずれの影響は小さい。また、突出部15,15間の間隔L2は脈波センサ12にかざす指16の末節の長さL1より小さいため、離れた各突出部15,15を触覚の敏感な末節の指16の腹で同時に触って、各突出部15,15の位置を明瞭に認識することができる。
【0037】
このため、本実施形態による脈波測定装置11Aによれば、従来のように指先4が脈波センサ1を覆いきれなかったり、脈波センサ1を覆う筐体2の表面から浮いてしまう可能性が低減されて、脈波測定者が自身で指16の指先をセンサ位置に密着させて、脈波を歪みなく正確に測定することが可能な脈波測定装置11Aを提供することができる。
【0038】
また、指16の腹が脈波センサ12を覆う筐体13の表面に接触するとき、突出部15,15の各幅wが大きく、突出部15,15に対する指16の押圧力が強い場合、突出部15,15の外郭に沿って指16の血流が阻害されてしまう。突出部15,15の幅wが指の幅W2より大きいと、血流が指16の幅全体で阻害されてしまうことになり、突出部15,15から指先側で脈波が検出できなくなってしまう。しかし、本実施形態による脈波測定装置11Aによれば、各突出部15,15は指16の幅W2より小さい幅wをそれぞれ有し、各突出部15,15のそれぞれの両側で血流が阻害されない領域があるため、指16の指先で脈波を検出することが可能である。
【0039】
また、皮膚は表面側から表皮層と真皮層とが存在し、触覚受容器を含む感覚受容器は真皮層にあって表皮層にはない。したがって、本実施形態による脈波測定装置11Aにより、突出部15,15が、指16の腹における皮膚の表皮層の厚さより高い高さhをそれぞれ有することで、指先の皮膚が脈波センサ12を覆う筐体13の表面に接触すると、突出部15,15が真皮層の深さに達するため、指先が突出部15,15に触れていることを確実に指先の皮膚の真皮層にある感覚受容器で検知することができる。
【0040】
また、突出部15,15の高さhが高くなると突出部15,15から指先にかかる圧力が強くなって指先の血流に阻害が生じ易くなり、脈波センサ12による脈波の検出がし難くなる。また、突出部15,15に阻害されて指先の腹が脈波センサ12から浮いてしまう恐れが出てくる。突出部15,15の高さhがさらに高くなると指先の腹に突出部15,15が埋もれなくなって、指先の腹が脈波センサ12を覆う筐体13の表面から浮いてしまう。本実施形態による脈波測定装置11Aによれば、突出部15,15が、指16の腹における皮膚の表皮層と真皮層との和の厚さと同じもしくは低い高さを有することで、上記の悪影響を抑制することができる。さらに、突出部15,15が、指16の腹における皮膚の表皮層と真皮層との和の厚さと同じもしくは低い高さを有し、しかも、表皮層の厚さより高い高さhを有することで、上記の悪影響を抑制しつつ、確実に指16の指先で突出部15,15との接触を検知することができる。
【0041】
また、突出部15,15の各外形が指16の腹における皮膚の触覚点の間隔より小さいと、突出部15,15が指16の腹に当たる位置によっては、その接触を触覚点によって検知できない恐れがある。しかし、本実施形態による脈波測定装置11Aによれば、突出部15,15が、指16の腹における皮膚の触覚点の間隔より大きい各外形を有するため、突出部15,15の指16との接触を皮膚の触覚点によって確実に検知することができる。
【0042】
また、突出部15,15間の距離L2が、指16の腹における皮膚の2点弁別閾よりも小さいと、脈波測定者は突出部15,15が間隔L2をあけて設けられているのを感じることができないため、脈波センサ12の位置を正確に認識できない恐れがある。しかし、本実施形態による脈波測定装置11Aによれば、突出部15,15が、指16の腹における皮膚の2点弁別閾よりも大きい間隔L2で設けられるため、突出部15,15間に設けられた間隔L2を感じて、突出部15,15間に設けられた脈波センサ12の位置を正しく認識することができる。
【0043】
また、本実施形態による脈波測定装置11Aによれば、突出部15,15がそれぞれ略半球形状をして、突出部15,15の各突出端における縁が角張っていないため、突出部15,15が指に刺さって痛く感じるようなことはない。また、突出部15,15の側面が垂直に近く立ち上がっていると、指先が突出部15,15に引っ掛かって指16の腹が脈波センサ12を覆う筐体13の表面から浮いてしまう恐れがあるが、そのようなこともない。また、突出部15,15がそれぞれ略半球形状をしているため、指先を突出部15,15の横方向から押し当てても、指先が突出部15,15に引っ掛かることなく、指先から突出部15,15に力がかかり難い。さらに、突出部15,15は触る頻度が高いため、突出部15,15に角があると摩耗しやすいが、本実施形態による脈波測定装置11Aでは突出部15,15がそれぞれ略半球状で角が無い。このため、突出部15,15は、力がかかり難いうえに角がそれぞれ無いので、その摩耗を効果的に抑えることができる。
【0044】
また、本実施形態による脈波測定装置11Aでは、脈波センサ12が光電脈波センサである。光電脈波センサは圧電脈波センサ等に比べて測定装置の小型化に有利であるが、その指向角θの内に突出部15,15があると、突出部15,15で散乱した光が脈波センサ12に戻って迷光となり、脈波測定信号にS/N比の低下を引き起こす。しかし、本実施形態による脈波測定装置11Aによれば、突出部15,15が脈波センサ12の指向角θの外に配置されるため、突出部15,15で光が散乱することがなく、迷光は発生しない。このため、脈波測定信号にS/N比の低下を引き起こすことなく、脈波測定装置11Aの小型化を図ることができる。
【0045】
図6(a)は、本発明の第2の実施形態による脈波測定装置11Bの平面図、図6(b)は、図6(a)におけるII-II線で脈波測定装置11Bを破断して矢視方向から見た脈波測定装置11Bの横断面図である。図7は、指16が載置された脈波測定装置11Bの縦断面図である。図6および図7において図2および図3(c)と同一または相当する部分には同一符号を付してその説明は省略する。
【0046】
本実施形態では、脈波測定装置11Bが組み込まれる筐体13は、内蔵する脈波センサ12を覆う筐体13の表面に、脈波測定装置11Aにおける保護カバー14よりも長手方向に長い保護カバー14’を備え、脈波測定装置11Bにおける突出部15,15は、透明なこの保護カバー14’の表面に設けられる。脈波測定装置11Bのその他の構成は、第1の実施形態による脈波測定装置11Aと同様である。
【0047】
この第2の実施形態による脈波測定装置11Bによれば、脈波センサ12を覆う保護カバー14’と突出部15,15との間に、脈波測定装置11Aにおける保護カバー14と筐体13との間の境界17,17(図2(a)参照)が無く、僅かな段差および隙間も無い。このため、第2の実施形態による脈波測定装置11Bによれば、脈波測定者はその境界17,17に惑わされずに突出部15,15の位置を明確に認識し易くなると共に、第1の実施形態による脈波測定装置11Aと同様な作用効果が奏される。
【0048】
なお、本実施形態では、脈波センサ12の上部に保護カバー14’を設けることで、筐体13の表面に保護カバー14’を設けているが、保護カバー14’は筐体13に取り付けられる構造であってもよい。
【0049】
図8(a)は、本発明の第3の実施形態による脈波測定装置11Cの平面図、図8(b)は、図8(a)におけるIII-III線で脈波測定装置11Cを破断して矢視方向から見た脈波測定装置11Cの横断面図である。図9(a)および図9(b)は、指16の指先側から見た、指16が載置された脈波測定装置11Cの横断面図、図9(c)は、指16が載置された脈波測定装置11Cの縦断面図である。図8および図9において図2および図3と同一または相当する部分には同一符号を付してその説明は省略する。
【0050】
本実施形態では、突出部15’,15’の配置方向と直交する方向における指16の動きを規制する指規制部18,18を備える。指規制部18,18は、間隔L2で設けられる突出部15’,15’の両側を、指16の筐体13の表面との接触幅W3より広い間隔で挟んで、突出部15’,15’の配置方向に沿って突出して設けられる。上記の第1および第2の各実施形態における突出部15,15間の間隔L2は、各突出部15,15の最高点間の距離であったが、本実施形態では、突出部15’,15’間の間隔L2は、各突出部15’,15’の最高点が1点でないため、脈波センサ12寄りの中央にある最高点間の距離とする。
【0051】
突出部15’,15’は突出部15,15と異なり略半球形状ではなく、略半円筒形状となっている。本実施形態では、突出部15’,15’と指規制部18,18との間に連結部19,19が設けられ、突出部15’,15’、指規制部18,18および連結部19,19は、同じ高さhで一体に、筐体13の表面上に形成されている。脈波測定装置11Cのその他の構成は、第1の実施形態による脈波測定装置11Aと同様である。
【0052】
指規制部18,18間の間隔L4は、指16が図9(b)に示すように太くても、指16が指規制部18,18上に乗り上げないように、広く設定される。したがって、指規制部18,18間には、指16の形状に沿って窪んだ形状の窪みが形成され、脈波センサ12にかざす指16の位置はこの窪みによって大まかに規制される。
【0053】
日本人の人差し指16の末節の幅W2の最大は、日本人男性の人差し指16の末節の幅W2が最大となる。AISTの人体寸法・形状データベースから、日本人男性の第2指(人差し指)の遠位関節の図5(a)に示される幅Waの平均値は、15.6mmである。この第2指遠位関節幅Waの最大値は、統計データの標準偏差0.9の3倍の散らばりを見込むと、18.3mm(=15.6+3×0.9)になる。したがって、この第2指遠位関節幅Waを人差し指16の末節の幅W2とすると、日本人男性の約99.7%の人差し指16の末節の幅W2は、18.3mm以上である。
【0054】
したがって、指16の両側が指規制部18,18に乗り上げて、指16の腹が脈波センサ12を覆う筐体13の表面から浮かないようにするため、指規制部18,18間の間隔L4は、例えば10mmに設定される。指規制部18,18の高さhが高くなると、指規制部18,18間の間隔L4は広げていく必要があるが、本実施形態では指規制部18,18を突出部15’,15’と同じ高さhで一体化している。このため、指規制部18,18の高さhも、突出部15,15に等しい突出部15’,15’と同じ0.2~2mmとし、指規制部18,18間の間隔L4を上記のように例えば10mmに設定する。
【0055】
本実施形態の脈波測定装置11Cによれば、突出部15’,15’の配置方向と直交する方向における指16の動きは指規制部18,18によって大まかに規制され、また、指規制部18,18で挟まれる箇所に突出部15’,15’が間隔L2をもって配置される。このため、脈波測定者は、指規制部18,18で指16の指先の大まかな位置を認識してから、突出部15’,15’によって脈波センサ12の正確な位置を認識できるため、脈波センサ12の位置の認識を迅速に行えると共に、第1の実施形態による脈波測定装置11Aと同様な作用効果が奏される。
【0056】
なお、上記の第3の実施形態では、突出部15’,15’の形状を略半円筒形状とした場合について説明したが、第1および第2の各実施形態の突出部15,15と同様に略半球形状としてもよい。この場合、突出部15’,15’は連結部19,19から分離した構成となる。
【0057】
また、上記の各実施形態では、突出部15,15、15’,15’が脈波センサ12を挟む各側に1個ずつ配置される場合について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、脈波センサ12を挟む各側に複数個ずつ、例えば2個ずつ、合計4個、配置されるように構成してもよい。この場合、脈波センサ12を挟む各側に複数個ずつ配置される複数個の突出部の塊を1個とみて、上記の各実施形態を適用することで、上記の各実施形態と同様な作用効果が奏される。
【符号の説明】
【0058】
11A,11B,11C…脈波測定装置
12…脈波センサ
12a…LED(発光素子)
12b…PD(受光素子)
12c…遮光壁
13…筐体
14…保護カバー
15,15’…突出部
16…指(人差し指)
17…境界
18…指規制部
19…連結部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9