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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】検体前処理装置及び検体プール検査方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 35/04 20060101AFI20241106BHJP
   G01N 35/10 20060101ALI20241106BHJP
   C12Q 1/6806 20180101ALI20241106BHJP
【FI】
G01N35/04 H
G01N35/10 A
C12Q1/6806 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2023538284
(86)(22)【出願日】2022-04-21
(86)【国際出願番号】 JP2022018422
(87)【国際公開番号】W WO2023007883
(87)【国際公開日】2023-02-02
【審査請求日】2023-09-22
(31)【優先権主張番号】P 2021122945
(32)【優先日】2021-07-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】弁理士法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】篠山 智生
(72)【発明者】
【氏名】宮▲崎▼ 弘貴
【審査官】北条 弥作子
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-504095(JP,A)
【文献】特表2017-529098(JP,A)
【文献】特開2014-224749(JP,A)
【文献】特開2020-134381(JP,A)
【文献】国際公開第2010/067633(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/012571(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 35/00~35/10
C12Q 1/00~ 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査装置による検査又は分析の対象であるプール検体を複数の個別検体を混合して調製する検体前処理装置であって、
それぞれが、一つのプール検体として混合される個別検体が収容され得る複数の個別検体容器を保持する、複数の個別検体ラックと、
プール検体が調製される複数のプール検体容器を保持するものであり、前記検査装置に装填可能であるプール検体ラックと、
前記複数の個別検体ラックと前記プール検体ラックとがそれぞれ着脱自在に収納され、作業テーブル上の所定箇所に着脱自在に装填されるコンテナと、
前記作業テーブル上で、前記個別検体ラックに保持されている個別検体容器中の個別検体を前記プール検体ラックに保持されているプール検体容器に分注する分注部と、
を備える検体前処理装置。
【請求項2】
前記複数の個別検体ラックと前記コンテナのいずれか一方又は両方は、該複数の個別検体ラックがそれぞれ該コンテナの規定の位置に且つ規定の向きにのみ収納されることを許容する位置規制部、を備える、請求項1に記載の検体前処理装置。
【請求項3】
前記位置規制部は、前記複数の個別検体ラックと前記コンテナのいずれか一方に設けられた凹部と、該複数の個別検体ラック又は該コンテナの他方に設けられ、前記凹部に対応する凸部である、請求項2に記載の検体前処理装置。
【請求項4】
前記個別検体ラックは、そのまま又は所定の部材を装着することによって前記検査装置の所定位置に装填可能である、請求項1に記載の検体前処理装置。
【請求項5】
前記所定の部材として、前記個別検体ラックに装着可能である把持構造体、をさらに備え、該把持構造体を前記個別検体ラックに装着した状態で前記検査装置に装填可能である、請求項4に記載の検体前処理装置。
【請求項6】
前記複数の個別検体ラックは、それ自体が互いに異なる色である、又は互いに異なる色の標識が付加されており、前記コンテナにあって、前記複数の個別検体ラックを収納するそれぞれの収納位置には、収納すべき個別検体ラックの色と同色の標識が付加されている、請求項1に記載の検体前処理装置。
【請求項7】
前記プール検体ラックにおいて前記複数のプール検体容器を保持するそれぞれの保持位置には、そのプール検体容器に調製されるプール検体の元となる個別検体が収容される個別検体ラックの色と同色の標識が付加されている、請求項6に記載の検体前処理装置。
【請求項8】
前記コンテナと前記作業テーブルにおけるコンテナ装填部のいずれか一方又は両方は、該コンテナが規定の向きにのみ収納されることを許容する位置規制部、を備える、請求項1に記載の検体前処理装置。
【請求項9】
請求項1に記載の検体前処理装置を用いた検体プール検査方法であって、
それぞれ個別検体が収容された複数の個別検体容器を収容した前記個別検体ラックと、空のプール検体容器が収納された前記プール検体ラックと、を前記コンテナに収納して前記作業テーブルに装填する、又は、前記作業テーブルに装填された前記コンテナに前記個別検体ラック及び前記プール検体ラックを収納する準備工程と、
前記分注部により、前記作業テーブル上で、前記個別検体ラックに保持されている複数の個別検体容器中の個別検体をそれぞれ前記プール検体ラックに保持されているプール検体容器に分注してプール検体を調製する分注工程と、
調製されたプール検体が収容されているプール検体容器を保持する前記プール検体ラックを前記コンテナから取り出して前記検査装置まで搬送し、該検査装置に装填する搬送工程と、
前記検査装置において装填された前記プール検体ラックに保持されているプール検体容器中のプール検体に対し所定の検査を実施する検査工程と、
を有する検体プール検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検査又は分析の対象である検体を調製するための検体前処理装置、及び、その検体前処理装置を用いた検体プール検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大は世界的に深刻になっており、その拡大の抑止が喫緊の課題となっている。また、新型コロナウイルス感染症の拡大以前にも、重症急性呼吸器症候群(SARS)、中東呼吸器症候群(MERS)等、重篤な症状をもたらす様々なウイルス感染症がしばしば発生しており、新たなウイルス感染症に対する備えも重要な課題となっている。
【0003】
こうしたウイルスを検出する装置として、そのウイルスに特異的なプライマーを使用したポリメラーゼ連鎖反応(Polymerase Chain Reaction:PCR)又は逆転写PCR(Reverse Transcription PCR:RT-PCR)等の核酸増幅法を用い、目的とする遺伝子配列(DNA)の有無の判定と定量とを行う装置が知られている。例えば非特許文献1に記載の検査装置では、検査担当者が検体や試薬などを当該装置にセットし、測定開始の指示を行うと、検体への試薬の投入等の前処理から測定までの一連の処理が自動的に実施される。
【0004】
特にウイルス感染症の急速な拡大期においては、比較的小規模な医療機関や医療関係部署において、迅速で簡便に且つ低廉なコストで感染の有無の検査が行えることが望ましい。そうした検査方法の一つとして、非特許文献2等に記載の検体プール検査法(以下、単に「プール検査法」という場合がある)が知られている。
【0005】
プール検査法では、複数(一般には5人以下)の被検者からそれぞれ採取された検体(以下、これを「個別検体」という場合がある)を混合してプール検体を調製し、そのプール検体を上述したような検査装置を用いて検査する。そのプール検体が陰性であると判定された場合、そのプール検体の元である複数の個別検体は全て陰性であると判定される。一方、そのプール検体が陽性であると判定された場合には、そのプール検体の元である複数の個別検体について個々に検査を実施し、その複数の個別検体のうちの陽性である個別検体を特定する。こうしたプール検査法は、特に陽性を示す検体が比較的少ない状況下では、検査の作業効率の向上とコスト削減の両面において有効である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】「AutoAmpTM 遺伝子解析装置」、[Online]、[2021年6月28日検索]、株式会社島津製作所、インターネット<URL: https://www.shimadzu.co.jp/cl/products/autoamp/index.html>
【文献】「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)検体プール検査法の指針」、[Online]、[2021年6月28日検索]、厚生労働省、インターネット<URL: https://www.mhlw.go.jp/content/000725922.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
プール検査法では、検査装置における検査自体の効率化を図ることは可能であるものの、複数の個別検体を分注し撹拌することでプール検体を調製するという、一般的な個別検体毎の検査にはない追加的な前処理作業が必要になる。検査すべき個別検体の数が増えるのに伴って、プール検体を調製するための前処理作業はかなり煩雑になる。検査作業全体を効率化するには、この煩雑なプール検体の調製作業を、検体に対する検査作業と並行して行えるようにする必要がある。また、プール検体の調製作業では感染リスクが高くなりがちであるから、作業の効率改善とリスク低減の両面から、プール検体の調製作業を含む検査の自動化がより一層重要である。
【0008】
非特許文献1に記載の既存の検査装置においても検査の自動化はかなり図られているものの、そうした装置ではプール検査法に対応した前処理はなされない。こうしたことから、プール検査法を広く且つ簡便に実施するために、プール検体の調製作業を効率的に且つ感染リスクを抑えながら行える検体前処理装置の実用化が強く要望されている。
【0009】
上述したようにプール検査法では、プール検体の元となった個別検体を全て冷蔵庫等に保管しておき、そのプール検体が陽性であった場合には、保管しておいた個別検体を速やかに検査する必要がある。そのため、プール検体を調製するための前処理装置への個別検体の装填、調製が終了したプール検体の前処理装置からの取出し及び検査装置への装填、前処理装置からの個別検体の取出し及び保管、保管場所からの個別検体の取出し及び検査装置への装填などの各作業を、検査担当者が行う必要があり、そうした各作業段階において、プール検体とその元である個別検体との対応付けを間違える、或いは、検体を取り違える、といった作業上のミスが生じ易い。こうしたミスは誤った検査結果をもたらし、感染者の見逃し等に繋がるおそれがある。
【0010】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、その目的の一つは、検体プール検査法においてプール検体を調製しそれを検査するという作業の過程において、特に検査担当者による検体の取違いやプール検体と個別検体との対応付けの誤りなどのミスの防止を図ることができる検体前処理装置及び検体プール検査方法を提供することである。
【0011】
また、本発明の他の目的は、プール検体を調製するための一連の作業の効率を改善するとともに、検査担当者等に対するウイルス感染などのリスクを低減することができる検体前処理装置及び検体プール検査方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するためになされた本発明に係る検体前処理装置の一態様は、検査装置による検査又は分析の対象であるプール検体を複数の個別検体を混合して調製する検体前処理装置であって、
それぞれが、一つのプール検体として混合される個別検体が収容され得る複数の個別検体容器を保持する、複数の個別検体ラックと、
プール検体が調製される複数のプール検体容器を保持するものであり、前記検査装置に装填可能であるプール検体ラックと、
前記複数の個別検体ラックと前記プール検体ラックとがそれぞれ着脱自在に収納され、作業テーブル上の所定箇所に着脱自在に装填されるコンテナと、
前記作業テーブル上で、前記個別検体ラックに保持されている個別検体容器中の個別検体を前記プール検体ラックに保持されているプール検体容器に分注する分注部と、
を備える。
【0013】
また上記課題を解決するためになされた本発明に係る検体プール検査方法の一態様は、本発明に係る検体前処理装置の上記態様を用いた検体プール検査方法であって、
それぞれ個別検体が収容された複数の個別検体容器を収容した前記個別検体ラックと、空のプール検体容器が収納された前記プール検体ラックと、を前記コンテナに収納して前記作業テーブルに装填する、又は、前記作業テーブルに装填された前記コンテナに前記個別検体ラック及び前記プール検体ラックを収納する準備工程と、
前記分注部により、前記作業テーブル上で、前記個別検体ラックに保持されている複数の個別検体容器中の個別検体をそれぞれ前記プール検体ラックに保持されているプール検体容器に分注してプール検体を調製する分注工程と、
調製されたプール検体が収容されているプール検体容器を保持する前記プール検体ラックを前記コンテナから取り出して前記検査装置まで搬送し、該検査装置に装填する搬送工程と、
前記検査装置において装填された前記プール検体ラックに保持されているプール検体容器中のプール検体に対し所定の検査を実施する検査工程と、
を有する。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る検体前処理装置及び検体プール検査方法の上記態様によれば、調製された複数のプール検体をばらばらにすることなく、まとめて検査装置まで搬送し検査に供することができる。また、一つのプール検体の調製の元である複数の個別検体が個別検体ラックにまとまっているので、そのプール検体が陽性を示した場合に、検査担当者は迅速にそのプール検体に対応する複数の個別検体を取り出して個別の検査に供することができる。
【0015】
このように、本発明の上記態様では、プール検体と個別検体との対応が明確であり、プール検体、個別検体ともにラック単位で取り扱うことができるため、作業途中での検体の取違いが起こりにくく、検査の正確性を確保することができる。また、検査装置への検体の着脱や検体の運搬などの作業性も良好であり、作業の効率化にも資する。さらにまた、プール検体の調製は実質的に自動的に行われるので、検査担当者に対するウイルス感染などのリスクを低減するのにも有効である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に係る検体前処理装置の一実施形態を使用した検査システムの概略ブロック構成図。
図2】本実施形態の検体前処理装置の内部構成の概略図。
図3】本実施形態の検体前処理装置において前処理に使用される各種部材が装着された状態である作業テーブルの概略上面図。
図4】作業テーブルに装着される各部材を取り外した状態の概略上面図。
図5】本実施形態の検体前処理装置を使用した検体前処理作業及び検査作業の手順の一例を示すフローチャート。
図6】検体前処理作業の過程で表示される検体管理画面の一例を示す図。
図7】個別検体ラックの装着方法を説明するための概略図。
図8】個別検体ラックへのハンドルの取付方法を説明するための概略図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る検体前処理装置及び検体プール検査方法の一実施形態について、添付図面を参照して説明する。
【0018】
[検査システムの構成]
図1は、本発明の一実施形態である検体前処理装置を使用した検査システムの概略ブロック構成図である。この検査システムは、例えば、COVID-19の原因である新型コロナウイルスの感染の有無を、検体プール検査法によって検査することが可能なシステムである。
【0019】
図1に示すように、この検査システムは、検体前処理装置1と、PCR検査装置2と、制御・処理装置3と、操作部4と、表示部5と、を含む。制御・処理装置3は汎用的なパーソナルコンピューターであり、専用の制御・処理ソフトウェアが該コンピューターにインストールされている。操作部4及び表示部5は、パーソナルコンピューターに付設されているキーボードやマウス等の入力装置及びディスプレイモニターである。
【0020】
検体前処理装置1は、プール検査法に特化された前処理装置であり、被検者から採取された個別検体に対する検査の際には使用されない。一方、PCR検査装置2は、個別検体とプール検体の両方の検査が可能な装置である。PCR検査装置2と制御・処理装置3とを組み合わせた装置は、例えば非特許文献1などに記載の装置であり、PCR(又はRT-PCR)による遺伝子の増幅を経時的(リアルタイム)に測定して解析する処理を自動的に行うことができる装置である。
【0021】
図1の上側に示すように、検体前処理装置1は、複数の個別検体を混合することで一つのプール検体を調製する装置である。個別検体はそれぞれ、被検者から採取された唾液、鼻咽腔拭い液、血液、尿などの生体試料由来の検体である。プール検査法の場合、個別検査と同程度の検査精度を確保するには、混合される個別検体の数は5以下が望ましいとされている。この検体前処理装置1では、標準的な使用方法では、4個(又はそれ以下)の個別検体から1個のプール検体を調製する。また、オプション的な使用方法として、5個の個別検体から1個のプール検体を調製するように変更することが可能である。但し、こうした個別検体の種類やプール検体を調製するための個別検体数などは単に一例であり、後述するように適宜に変形が可能である。
【0022】
プール検査の場合、検体前処理装置1で調製されたプール検体がPCR検査装置2に装填され検査に供される。なお、以下に述べる例では、検査担当者自身が検体前処理装置1からPCR検査装置2までプール検体を搬送することを想定しているが、この搬送作業やPCR検査装置2への検体の装填作業などを、ロボット等を用いて自動化することが可能であることは当然である。
【0023】
[検体前処理装置の構成]
次に、検体前処理装置1について詳述する。図2は、検体前処理装置1の内部構成の概略図である。図3は、検体前処理装置1において前処理に使用される各種部材が装着された状態である作業テーブルの概略上面図である。図4は、作業テーブルに装着される各部材を取り外した状態の概略上面図である。
【0024】
図2図4には、説明の便宜上、互いに直交するX軸、Y軸、Z軸の3軸を示している。検体前処理装置1の設置面はX-Y平面に平行であり、Z軸方向は検体前処理装置1の高さ(上下)方向である。
【0025】
図2は、検体前処理装置1の内部構成を側面から見た状態の概略図である。図2に示すように、本装置1は、分注ユニット10と、第1移動部11と、作業テーブル12と、第2移動部13と、制御部14と、を含む。第1移動部11は、分注ユニット10を水平方向(X軸方向及びY軸方向)に移動させるアクチュエーター(図示せず)を含む。第2移動部13は、作業テーブル12を水平方向(X軸-Y軸方向)に移動させるアクチュエーター(図示せず)を含む。第1、第2移動部11、13にそれぞれ含まれるアクチュエーターは、制御部14からの指示により動作する。なお、第1、第2移動部11、13の一方は省略することができる。
【0026】
分注ユニット10は、Z軸方向に延伸するノズル101が先端に取り付けられたシリンジ100を含む。ノズル101の内部には、Z軸方向に沿って移動自在であるプランジャー(図示せず)が備えられている。シリンジ100は、プランジャーのZ軸方向のストローク長に応じた量の液体を吸引し、プランジャーのZ軸方向のストローク長に応じた量の液体を吐出するように構成される。分注ユニット10は、シリンジ100をZ軸方向に移動させるためのアクチュエーター(図示せず)と、ノズル101内のプランジャーをZ軸方向に移動させるためのアクチュエーター(図示せず)とを含む。これらアクチュエーターはいずれも、制御部14からの指示により動作する。
【0027】
図3及び図4に示すように、作業テーブル12の上面はX-Y平面に平行に延展しており、該上面には、コンテナ収納部120と、分注チップ保持部121と、チップ廃棄部122と、が設けられている。
【0028】
コンテナ収納部120には、コンテナ20が着脱自在に装填される。コンテナ20は外形が略直方体形状であって、吊り下げ持ち可能な把手(図示せず)を備える。分注チップ保持部121には、上面視で円形状である保持穴が複数(この例では20個)設けられている。その保持穴にはそれぞれ、図2に示すように、ロングチップである分注チップ26が起立した状態で保持されるように構成されている。この分注チップ26は、シリンジ100のノズル101に取り付けて使用される。
【0029】
分注チップ保持部121に保持可能である分注チップ26の数は、コンテナ20に収納可能である個別検体容器24の最大数(この例では20)と同数である。チップ廃棄部122は、使用済みの分注チップ26が廃棄される、上面が開口した取り外し可能な箱である。
【0030】
コンテナ20は、5個の個別検体ラック21(21A~21E)がそれぞれ収納され得る個別検体ラック収納部200、201と、1個のプール検体ラック22が収納され得るプール検体ラック収納部202と、を備える。5個の個別検体ラック21(21A~21E)は、外形が略直方体形状でほぼ同じである。このうち、4個の個別検体ラック21A~21Dが収納される個別検体ラック収納部200は、それぞれY軸方向に延伸し、X軸方向に並んで配列されている。残りの1個の個別検体ラック21Eが収納される個別検体ラック収納部201は、X軸方向に延伸し、上記4個の個別検体ラック21A~21Dの配列に対しY軸方向に隣接して配置されている。
【0031】
個別検体ラック21Eは、5個の個別検体からプール検体を調製したい場合に限って、つまり本実施形態の検体前処理装置1でのオプション的な使用法においてのみ使用されるものである。従って、この例における標準的な使用法、即ち、4個(又はそれ以下)の個別検体からプール検体を調製したい場合、個別検体ラック21Eは使用されない。標準的な使用法では、Y軸方向に延伸しX軸方向に4列に並ぶ個別検体ラック収納部200にのみ、それぞれ個別検体ラック21A~21Dが収納される。標準的な使用法では使用されないことを示すために、図2では、個別検体ラック21Eを点線で示している。
【0032】
プール検体ラック収納部202は、個別検体ラック収納部201と同様に、X軸方向に延伸し、上記4個の個別検体ラック21A~21Dの配列を挟んで、Y軸方向に個別検体ラック収納部201と反対側に配置されている。
【0033】
4列の個別検体ラック収納部200とプール検体ラック収納部202との間には、個別検体ラック21A~21Dにそれぞれ付与されている(ここでは、後述するように容器保持部が彩色されている)色と同色のラベルが貼付された色標識部203が設けられている。
【0034】
個別検体ラック21A~21Dは、一つのプール検体を調製するために一つのグループとして扱われる4個の個別検体容器24を、一列に所定間隔離して並べた状態で収容可能である容器保持部210を備える。4個の個別検体ラック21A~21Dにおいて、容器保持部210はその個別検体ラック21A~21D毎に異なる色で標識されている。本例では具体的には、個別検体ラック21Aは赤色、個別検体ラック21Bは青色、個別検体ラック21Cは緑色、個別検体ラック21Dは紫色で標識されている。この標識の色は、上述したコンテナ20上の色標識部203のラベルの色と対応している。もちろん、色は一例であってこれに限らない。
【0035】
個別検体ラック収納部201に収納され得る個別検体ラック21Eの4個の容器保持部210はそれぞれ、図3に示した状態においてY軸方向に並ぶ4個の個別検体ラック21A~21Dにおける容器保持部210と同じ色に標識されている。従って、この例では、図3に示すように配置された個別検体ラック21Eにおける4個の容器保持部210の色は、左から順に、赤色、青色、緑色、紫色である。即ち、個別検体ラック21A~21Dに加えて個別検体ラックEが使用される場合であっても、Y軸方向に直線的に並ぶ5個の容器保持部210の色は同じであり、X軸方向に並ぶ5列の容器保持部210同士の色は互いに異なる。
【0036】
プール検体ラック収納部202には1個のプール検体ラック22が収納され得る。プール検体ラック22には、図2に示すように、測方から見た状態で逆L字形状のハンドル23が設けられている。検査担当者はこのハンドル23を把持することでプール検体ラック22を確実に掴み、該プール検体ラック22をプール検体ラック収納部202に出し入れしたり持ち運んだりすることができる。なお、ハンドル23は、例えば後述する図8に示すハンドル30と同様の形状及び構造を有するような、プール検体ラック22に着脱自在な部材であってもよい。
【0037】
個別検体ラック21と同様に、プール検体ラック22にも、4個の容器保持部220が設けられる。その4個の容器保持部220は、それぞれ、個別検体ラック21Eにおける容器保持部210と同じ色に標識されている。即ち、この例では、図3に示すように配置されたプール検体ラック22における4個の容器保持部220の色は、左から順に、赤色、青色、緑色、紫色である。また、ハンドル23の上面には、4個の容器保持部220に対応して左からP1、P2、P3、P4と番号が記載されており、その番号の表示色も各容器保持部220に付された色と同じ色となっている。
【0038】
上述したように、5個の個別検体ラック21A~21Eは基本的に外形形状が同一であり、個別検体ラック収納部200、201の形状も基本的には同じである。しかしながら、個別検体ラック21A~21Eがそれぞれ収納され得る個別検体ラック収納部200、201は、次のようにして一意に決められており、且つその取付けの向きも一意に決められている。
【0039】
図7は、個別検体ラック21A~21Eの装着方法を説明するための概略図である。図3及び図4において、最も左側に位置する個別検体ラック収納部200Aには、その内側面から内側に突出する位置規制片200aが設けられている。一方、個別検体ラック21Aには、上記位置規制片200aに対応する位置に切欠き21aが形成されている(図7(A)参照)。
【0040】
個別検体ラック21Aを適切な向きで個別検体ラック収納部200Aに収納すると、位置規制片200aがちょうど切欠き21aに嵌るため、その個別検体ラック21Aは正規の位置(深さ)まで収納され得る(図7(B)参照)。これに対し、例えば、個別検体ラック21Aの向きを逆にして個別検体ラック収納部200Aに収納しようとすると、個別検体ラック21Aの底部は位置規制片200aに当接し、個別検体ラック収納部200Aに完全には収納されない。これにより、検査担当者は、向きを間違えて個別検体ラック21Aを収納しようとしたことを容易に認識することができる。
【0041】
一方、図3及び図4において、左から二番目に位置する個別検体ラック収納部200Bにも、その内側面から内方に突出する位置規制片200bが設けられているが、その位置規制片200bの形成位置は上記の位置規制片200aとはY軸方向にずれている。個別検体ラック21Bには、位置規制片200bに対応する位置に切欠き21bが形成されている(図7(C)参照)。そのため、個別検体ラック21Bを適切な向きで個別検体ラック収納部200Bに収納すると、位置規制片200bが切欠き21bに嵌るため、個別検体ラック21Bは正規の位置(深さ)まで収納され得る(図7(D)参照)。
【0042】
これに対し、例えば、誤って個別検体ラック21Aを個別検体ラック収納部200Bに収納しようとすると、位置規制片200bと切欠き21aの位置とが合わないため、個別検体ラック21Aの底部が位置規制片200bに当接する。その結果、個別検体ラック21Aは個別検体ラック収納部200Bに完全には収納されない。これにより、検査担当者は、個別検体ラック収納部200Bに対応しない個別検体ラック21Aを収納しようとしたことを容易に認識することができる。これは、全ての個別検体ラック21A~21E及び個別検体ラック収納部200、201について同様である。
【0043】
即ち、この検体前処理装置1では、個別検体ラック21と個別検体ラック収納部200、201とが物理的(又は構造的)に一対一に対応しており、誤った位置へのラックの装着ができないように構成されている。また、個別検体ラック21の取付けの向きについても同様であり、誤った向きでのラックの装着ができないように構成されている。さらにまた、プール検体ラック22についても同様であり、プール検体ラック22もプール検体ラック収納部202のみに、且つ決まった向きでのみ装着可能となっている。
【0044】
上述したように、個別検体ラック21A~21Dはそれぞれ異なる色で標識されており、それらをそれぞれ収納する位置も色標識部203で視覚的に明確に示されている。それにより、検査担当者は、その色を参照して、個別検体ラック21A~21Dをそれぞれ適切な位置に収納することができる。但し、これは検査担当者の判断に頼る作業ミス防止策であり、検査担当者の注意不足等によるミスは起こり得る。それに対し、この検体前処理装置1では、上述したような位置規制構造によって、個別検体ラック21A~21E及びプール検体ラック22をそれぞれ装着すべき位置及びその向きが物理的に一意に決められている。このため、ラック21A~21E、22の装着ミスに起因する検体の取違いを確実に防止することができる。
【0045】
[プール検査における作業手順]
次に、この検査システムにおけるプール検査の手順を説明する。図5は、検体前処理装置1における検体前処理作業を含むプール検査法での検査手順を示すフローチャートである。なお、ここでは、このシステムの標準的な使用法である、4個の個別検体からプール検体を調製する場合を例に挙げて説明する。
【0046】
まず、検査担当者は、プール検査法での検査に必要な以下のものが揃っているか否かを確認する(ステップS1)。
・それぞれ個別検体(被検者から採取された検体)が収容されている個別検体容器24(最大16個)。
・空のプール検体容器25(最大で4個)。
・分注チップ26(最大16個)。これは個別検体容器24の数と同数。
・プール検体ラック22(1個)。
・個別検体ラック21A~21D(最大4個)。
・コンテナ20(1個)。
【0047】
検査担当者は、検体前処理装置1の分注チップ保持部121に分注チップ26をセットする(ステップS2)。
【0048】
また、検査担当者は、空のプール検体容器25をプール検体ラック22にセットする(ステップS3)。
【0049】
また、検査担当者は、個別検体が収容された個別検体容器24を、それぞれ対応するプールグループ用の個別検体ラック21A~21Dにセットする(ステップS4)。なお、ステップS2~S4の順序は適宜入れ替え可能である。
【0050】
検査担当者は、制御・処理装置3において検体前処理装置1用の管理ソフトウェアを起動し、操作部4から所定の操作を行う。この操作によって表示部5には、図6に一例として示すような検体管理画面50が表示される。検査担当者は、この検体管理画面50上で、ステップS4においてセットした全ての個別検体についてのID情報を入力する(ステップS5)。この入力は検査担当者の手入力でもよいし、個別検体容器24に貼付されたバーコードなどをバーコードリーダーで読み取ることによる自動入力でもよい。
【0051】
図6に示す例では、検体管理画面50には、左側に検体マップ51、右側に管理テーブル52が表示されている。
検体マップ51は、図3に示したようなコンテナ20の上面図に対応する模式的な図であり、4個の個別検体ラックと1個のプール検体ラックに対応するオブジェクトが示される。
【0052】
管理テーブル52は、検体マップ51中の4個の個別検体ラックにそれぞれ対応する四つのタブを有し、各タブの表示色と、それに対応する検体マップ51中の個別検体容器を示す記号とは同じ色である。従って、検査担当者は、その時点で作業中であるタブが、いずれの個別検体ラックに対応するタブであるのかを、視覚的に容易に把握することができる。
【0053】
管理テーブル52の一つのタブには、そのタブに対応するプール検体の番号P1~P4と、そのプール検体に対応する個別検体ラックにセットされる4個の個別検体容器の番号1~4とが示され、それぞれにチェックボックス521とテキストボックス522、524とが対応して設けられている。
【0054】
例えば、検査担当者が「自動生成」ボタン523をクリック操作すると、そのタブに対応するプール検体についてのID情報が自動的に生成されてテキストボックス534に入力される。自動生成されるID情報は例えば、その時点の年月日時分などの時間情報とすることができる。このID情報も手入力又はバーコード等を利用したに自動入力が可能である。
【0055】
ID情報を入力しているときには、検体マップ51上でその入力に対応する容器(又はラック)の表示の輝度が高くなる。これにより、検査担当者は、いずれの部分の入力作業を実施中であるのかを検体マップ51上で、一目で確認することができる。或る1行分のID情報の入力が終了すると、それに対応するチェックボックス521に自動的にチェックマークが表示され、検体マップ51上でそれに対応する容器(又はラック)の表示の態様も変化する(例えば輝度が下がる)。
【0056】
検査担当者が、検体マップ51上でID情報を入力したい個別検体をクリック操作すると、管理テーブル52において、その個別検体に対応するテキストボックス522への入力が可能となる。また、管理テーブル52においてテキストボックス522をクリック操作することによっても、そのテキストボックス522への入力が可能となる。いずれの場合でも、ID情報の入力中には、検体マップ51上でそれに対応する容器が矢印マーク511で示される。
【0057】
或る一つの個別検体についてのID情報の入力が終了すると、対応するチェックボックス521に自動的にチェックマークが表示され、検体マップ51上でそれに対応する容器の表示の態様も変化する。こうして検査担当者は、全ての個別検体ラックに対応するタブにおいて、全ての個別検体についてのID情報を入力する。入力が終了したか否かは、チェックボックス521にチェックマークが入っているか否かで確認できるほか、検体マップ51の表示でも容易に確認することができる。
【0058】
上述したように検体管理画面50において入力された情報は、制御・処理装置3に備えられる記憶装置に保存され、個別検体及びプール検体の管理、並びに、あとで述べるように各検体に対して取得される検査結果を管理するために利用される。
【0059】
ID情報の入力が終了すると、検査担当者は、プール検体ラック22をコンテナ20の所定位置にセットする(ステップS6)。上述したように、プール検体ラック22は決まった向きでのみコンテナ20にセット可能である。検査担当者は、4個の個別検体ラック21A~21Dをそれぞれコンテナ20の所定位置にセットする(ステップS7)。
【0060】
上述したように、個別検体ラック21A~21Dをそれぞれセットすべき個別検体ラック収納部200の位置は、該ラック21A~21Dにそれぞれ付与されている色と色標識部203のラベルの色とを合わせることで一意に決まる。それにより、検査担当者は判断に迷うことなく、個別検体ラック21A~21Dと個別検体ラック収納部200とを対応付けることができる。
【0061】
また、仮に、検査担当者が個別検体ラック21A~21Dを対応しない個別検体ラック収納部200に装着しようとした場合であっても、上述した位置規制構造のために装着することができない。装着しようとしている個別検体ラック21A~21Dの向きが逆である場合も同様に、位置規制構造のために装着することができない。結果的に、4個の個別検体ラック21A~21Dはそれぞれ対応する個別検体ラック収納部200にしか装着され得ず、その対応は一意に決まる。そのため、ステップS5において検査担当者が入力したID情報と、実際にコンテナ20に収納されている個別検体との食い違いが生じることを確実に防止することができる。
【0062】
そのあと、検査担当者は、コンテナ20を検体前処理装置1のコンテナ収納部120にセットする(ステップS8)。図4に示すように、コンテナ収納部120にはその内側面から内方に突出する位置規制片120aが設けられている。一方、コンテナ20には、位置規制片120aに対応する位置に切欠き20aが形成されている。そのため、コンテナ20についても個別検体ラック21と同様に、逆向きの装着が物理的に阻止される。これにより、検査担当者は、コンテナ20をコンテナ収納部120に適切に装着することができる。
【0063】
検査担当者は、操作部4において前処理の実行を指示する(ステップS9)。この指示を受けて制御・処理装置3は、検体前処理装置1の制御部14に指示を送る。制御部14は分注ユニット10、移動部11、13等をそれぞれ制御することで、プール検体の調製処理を実施する。
【0064】
検体前処理装置1では、具体的に次のような処理を実施する。
制御部14は、まず、シリンジ100のノズル101に1個の分注チップ26を装着し、個別検体ラック21Aに保持されている一番目(図3中では最も下側)の個別検体容器24中から所定量の個別検体を吸引してY軸方向に同じ位置にあるプール検体容器25へ分注するように、分注ユニット10、移動部11、13をそれぞれ制御する。そのあと、制御部14は、使用済みの分注チップ26をチップ廃棄部122に廃棄するように、分注ユニット10、移動部11、13をそれぞれ制御する。
【0065】
次いで、制御部14は、シリンジ100のノズル101に新しい分注チップ26を装着し、個別検体ラック21Aに保持されている二番目の個別検体容器24中から所定量の個別検体を吸引して先のプール検体容器25へ分注するように、分注ユニット10、移動部11、13をそれぞれ制御する。そのあと、使用済みの分注チップ26をチップ廃棄部122に廃棄する。
【0066】
同様の動作を、個別検体ラック21Aに保持されている三番目、四番目の個別検体容器24についても実施することで、4個の個別検体を1個のプール検体容器25に分注する。そのあと、制御部14は、最後に使用した分注チップ26がノズル101に装着されている状態で、シリンジ100を上下に所定回数往復動させることによって分注された検体を撹拌するように、分注ユニット10及び移動部11、13を制御する。
こうして、1個の個別検体ラック21Aに保持されている4個の個別検体容器24中の検体を混合した一つのプール検体が調製される。
【0067】
次に、同様にして、個別検体ラック21Aの隣にある個別検体ラック21Bに保持されている4個の個別検体容器24中の検体を混合したプール検体が、プール検体ラック22中の左から二番目のプール検体容器25に調製される。個別検体ラック21C、21Dについても全く同様である。一個の個別検体の吸引には一個の分注チップ26が使用されるため、4個のプール検体の調製がなされることで、用意された全ての分注チップ26が使用される。
【0068】
検体前処理装置1において全ての処理が終了すると、終了した旨が表示部5に表示される。または、ブザーなどの警告音によって検査担当者の注意を喚起するようにしてもよい。これを受けて検査担当者は、コンテナ20をそのまま検体前処理装置1から取り出す(ステップS10)。
【0069】
次いで、検査担当者は、取り出したコンテナ20からプール検体ラック22を取り出す。取り出されたプール検体ラック22には、それぞれプール検体が収容されたプール検体容器25が保持されている。検査担当者は、プール検体ラック22をPCR検査装置2まで搬送し、PCR検査装置2にそのままセットする(ステップS11)。このようにして、検体前処理装置1において調製されたプール検体がそれぞれ収容されている4個のプール検体容器25を、プール検体ラック22から出すことなくPCR検査装置2にセットすることができる。これにより、複数のプール検体をPCR検査装置2にセットする過程でのプール検体の取違いも回避することができる。
【0070】
そのあと、PCR検査装置2は、セットされた4個のプール検体容器25中のプール検体に対する所定の分析を実施し、制御・処理装置3はその分析により得られたデータを解析することでプール検体毎の検査結果を導出する(ステップS12)。PCR検査装置2で実施される分析やそれにより得られるデータの解析処理は、例えば非特許文献1に記載の既存の装置と同じであるので説明を省略する。
【0071】
上記ステップS11においてコンテナ20からプール検体ラック22が取り出されたあと、検査担当者は、個別検体ラック21A~21Dが収納されたままのコンテナ20を冷蔵庫等の保管設備に一時保管する。原則として、検査結果が完全に出るまでは、コンテナ20からの個別検体ラック21A~21Dの取出しは行わないものとする。
【0072】
上記ステップS12による検査の終了後、検査担当者は4個のプール検体に対する検査結果を確認し、全てが陰性であれば、その4個のプール検体に対応する16個の個別検体が全て陰性であるとの検査結果を出す。これ以降、冷蔵庫等に一時保管されていたコンテナ20内の全ての個別検体は廃棄可能である。
【0073】
一方、4個のプール検体のうち1個以上のプール検体について陽性であるとの検査結果が出た場合には、検査担当者は、冷蔵庫からコンテナ20を取り出す。そして、陽性と判定されたプール検体に対応付けられている個別検体ラック21A~21Dをコンテナ20から取り出す。プール検体ラック22において、陽性であったプール検体が収容されていたプール検体容器25の容器保持部220の色は判明しているので、検査担当者は、それと同じ色が付与されている個別検体ラック21A~21Dを取り出せばよい。これにより、検査結果が陽性ではないプール検体に対応する個別検体ラック21A~21Dを取り出してしまうミスを低減することができる。
【0074】
検査担当者は、コンテナ20から取り出した個別検体ラック21に、アダプターとしてのハンドル30を装着する。検査担当者は、そのハンドル30を把持して個別検体ラック21をPCR検査装置2まで搬送し、ハンドル30が装着された状態の個別検体ラック21をPCR検査装置2にセットする。そのあと、プール検体に対する検査と同様の手順で、個別検体ラック21に保持されている4個の個別検体容器24中の検体をそれぞれ検査する。それによって、いずれの個別検体が陽性であるのかを調べる。これにより、陽性である個別検体を特定することができる。
【0075】
図8は、個別検体ラック21へのハンドル30の取付方法を説明するための概略図である。
図8に示すように、ハンドル30は、個別検体ラック21の底面を支え受ける底板部30aと、個別検体ラック21の一方の側面を覆いつつ個別検体ラック21に保持されている個別検体容器24の上面よりも高い位置まで延伸する側板部30bと、該側板部30bの上縁部から水平に延展する把持部30cと、が一体となった構造である。側板部30bには掛止部30dが設けられている。
【0076】
図8に示すように、個別検体ラック21の一方の側面を側板部30bに当接させつつ、個別検体ラック21の底面が底板部30aに当たる位置まで個別検体ラック21を下降させると、掛止部30dが個別検体ラック21側の掛止受部(図示せず)に掛合し、ハンドル30が個別検体ラック21に装着される。なお、個別検体ラック21からハンドル30が外れにくいように、板ばね等による付勢力によって、個別検体ラック21とハンドル30とを互いに押し付け合うようにしてもよい。
【0077】
個別検体ラック21とハンドル30との着脱構造は、図8に記載のものに限らない。例えば、個別検体ラック21にダルマ溝を設ける一方、ハンドル30の側板部30bにはそのダルマ溝に嵌る突起部と、その突起部の裏側にあって該突起部又は側板部30b自体を個別検体ラック21に押し付けるばね構造と、を設けるようにしてもよい。
【0078】
上述したいずれの構造でも、個別検体ラック21とハンドル30とが確実に接続されるため、個別検体ラック21の搬送中に、ハンドル30から個別検体ラック21が外れる事故を回避できる。またハンドル30側にばね構造を設けることで、ハンドル30を個別検体ラック21に接続する際に両者が確実に接続されたことを検査担当者が物理的に認識することができる。それにより、ハンドル30と個別検体ラック21との接続が不十分であることによる事故をさらに起こりにくくすることができる。
【0079】
上述したように、本実施形態の検体前処理装置1を用いた検査システムでは、原則として、一旦、個別検体容器24が個別検体ラック21にセットされた後は、プール検査の後の個別検査を含め、検査工程が全て完了するまで、個別検体容器24が個別検体ラック21から抜き取られない。そのため、プール検体とその調製元である個別検体との対応付けが担保され、或るプール検体に対応する複数の個別検体を個々に検査する必要がある場合であっても、検体を取り違えるリスクを低減することができる。
【0080】
また、入力されたID情報と実際の個別検体ラック21中の個別検体容器との対応付けも確実に行え、検体の入違いのリスクを低減することができる。また、調製後のプール検体についても、プール検体が収容されたプール検体容器25をプール検体ラック22から取り出すことなく、複数まとめたままで、検体前処理装置1からPCR検査装置2まで搬送し装填することができる。それにより、複数のプール検体を扱いながら、プール検体の取違いのリスクも低減することができる。
【0081】
なお、上記実施形態は本発明の一例にすぎず、本発明の趣旨の範囲で適宜変形、追加、修正を行っても本願特許請求の範囲に包含されることは当然である。
【0082】
例えば、個別検体ラック21やプール検体ラック22をコンテナ20に装着する際の位置や向きを規制する構造は、上記記載のものに限らない。コンテナ20を検体前処理装置1に装着する際にその向きを規制する構造も、同様に上記記載のものに限らない。
【0083】
また、コンテナ20、個別検体ラック21、プール検体ラック22等の各部材の形状は、上述したような機能を実現し得る範囲で適宜に変更可能であることも当然である。
【0084】
また、プール検体を調製するために各検体を分注したり撹拌したりするための構成は、上記記載のものに限らない。
【0085】
また、上記実施形態における検体前処理装置1では、標準的には、1個の個別検体ラックに保持され得る4個以下の個別検体から1個のプール検体が調製されるように構成されていたが、1個の個別検体ラックに保持可能である個別検体の個数を5以上であるnに増やし、その1個の個別検体ラックに保持されているn個の個別検体から1個のプール検体が調製されるようにしてもよい。即ち、或る1個のプール検体を調製するために使用された複数の個別検体が、1個の個別検体ラックにまとめて保管され得る(言い換えれば、複数の個別検体ラックに分散して保管せずに済む)ことが、一つの重要な要素である。
【0086】
また、上記実施形態では、着脱可能であるハンドル30を個別検体ラック21に取り付けてPCR検査装置2にセットするようにしていたが、検体前処理装置1の作業テーブル12上で、複数の個別検体ラック21(21A~21E)同士の互いの間隔を十分に確保できる構成であれば、プール検体ラック22と同様に、ハンドルがラックと一体化された構成であってもよい。
【0087】
[種々の態様]
上述した例示的な実施形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0088】
(第1項)本発明に係る検体前処理装置の一態様は、検査装置による検査又は分析の対象であるプール検体を複数の個別検体を混合して調製する検体前処理装置であって、
それぞれが、一つのプール検体として混合される個別検体が収容され得る複数の個別検体容器を保持する、複数の個別検体ラックと、
プール検体が調製される複数のプール検体容器を保持するものであり、前記検査装置に装填可能であるプール検体ラックと、
前記複数の個別検体ラックと前記プール検体ラックとがそれぞれ着脱自在に収納され、作業テーブル上の所定箇所に着脱自在に装填されるコンテナと、
前記作業テーブル上で、前記個別検体ラックに保持されている個別検体容器中の個別検体を前記プール検体ラックに保持されているプール検体容器に分注する分注部と、
を備える。
【0089】
第1項に記載の検体前処理装置は、検体プール検査法における検査対象であるプール検体を調製する装置である。第1項に記載の検体前処理装置では、複数の個別検体ラックと少なくとも一つのプール検体ラックをコンテナに載せたまま、そのコンテナを当該検体前処理装置に装填したり取り外したりすることができる。例えば、複数のプール検体が調製されたあと、検査担当者は、コンテナを検体前処理装置から取り外し、プール検体ラックのみをコンテナから取り出して検査装置まで搬送し、検査装置に装着して検査を実施する。一方、複数の個別検体ラックが収納されているコンテナをそのまま冷蔵庫に一時保管することができる。
【0090】
これにより、調製された複数のプール検体をばらばらにすることなく、まとめて検査装置まで搬送して検査に供することができる。また、プール検体の調製の元になった複数の個別検体が個別検体ラックにまとまっているので、プール検体が陽性を示した場合に、検査担当者は、迅速にそのプール検体に対応する複数の個別検体を取り出して個別の検査に供することができる。このようにプール検体と個別検体との対応が明確であり、プール検体、個別検体ともにラック単位で取り扱うことができるため、作業途中での検体の取違いが起こりにくく、検査の正確性を確保することができる。また、検査装置への着脱や検体前処理装置から検査装置までの運搬などの作業性も良好であり、作業の効率化に資する。さらにまた、プール検体の調製は実質的に自動的に行われるので、検査担当者に対するウイルス感染などのリスクを低減するのにも有効である。
【0091】
(第2項)第1項に記載の検体前処理装置において、前記複数の個別検体ラックと前記コンテナのいずれか一方又は両方は、該複数の個別検体ラックがそれぞれ該コンテナの規定の位置に且つ規定の向きにのみ収納されることを許容する位置規制部、を備え得る。
【0092】
複数の個別検体ラックの外形形状が全く同一であって、コンテナにおいて個別検体ラックの収納箇所の形状も全く同一であるとすると、個別検体ラックを収納する際にラックの取違いが生じる可能性があり、結果的に、個別検体容器の取違いが生じるおそれがある。また、コンテナにおける個別検体ラックの収納箇所に個別検体ラックを収納する際の向きが一意に決まっていない場合にも同様に、個別検体容器の取違いが生じるおそれがある。
【0093】
これに対し、第2項に記載の検体前処理装置によれば、個別検体ラックをコンテナに収納する際に、その収納位置と向きとが一意に決まるので、検査担当者の不注意等に起因する検体の取違いをより一層確実に回避することができる。
【0094】
(第3項)第2項に記載の検体前処理装置において、前記位置規制部は、前記複数の個別検体ラックと前記コンテナのいずれか一方に設けられた凹部と、該複数の個別検体ラック又は該コンテナの他方に設けられ、前記凹部に対応する凸部であるものとし得る。
【0095】
第3項に記載の検体前処理装置では、検査担当者が、コンテナにおける或る一つの個別検体ラックの収納箇所に、それに対応しない個別検体ラックを収納しようとすると、例えば個別検体ラックに設けられている凸部が収納箇所の部材に当接し、個別検体ラックが正規の位置まで収納されない。それにより、検査担当者は、個別検体ラックと収納箇所とが対応していないことを認識し得る。このようにして第3項の記載の検体前処理装置によれば、簡単な構造によって個別検体ラックの入れ間違いを確実に防止することができる。
【0096】
(第4項)第1項~第3項のいずれか1項に記載の検体前処理装置において、前記複数の個別検体ラックは、そのまま又は所定の部材を装着することによって前記検査装置の所定位置に装填可能である。
【0097】
第4項に記載の検体前処理装置によれば、プール検体の調製元である複数の個別検体を個々に検査する必要がある場合に、その複数の個別検体が収容された個別検体容器を個別検体ラックから取り出すことなく、そのラックのまま検査に供することができる。これにより、プール検査後の個別検体に対する個々の検査の際の作業効率を向上させることができる。また、検体を取り出すことによる感染リスクも回避することもできる。
【0098】
(第5項)第4項に記載の検体前処理装置は、前記所定の部材として、前記個別検体ラックに装着可能である把持構造体、をさらに備え、該把持構造体を前記個別検体ラックに装着した状態で前記検査装置に装填可能である。
【0099】
第5項に記載の検体前処理装置によれば、個別検体ラックが持ち易くなり、搬送中にラックや検体容器を落下させる事故を防止することができる。それにより、検査担当者の作業負担及び感染リスクをより一層軽減することができる。
【0100】
(第6項)第1項~第5項のいずれか1項に記載の検体前処理装置において、前記複数の個別検体ラックは、それ自体が互いに異なる色である、又は互いに異なる色の標識が付加されており、前記コンテナにあって、前記複数の個別検体ラックを収納するそれぞれの収納位置には、収納すべき個別検体ラックの色と同色の標識が付加されているものとし得る。
【0101】
第6項に記載の検体前処理装置によれば、個別検体ラックとコンテナにおけるその収納位置とを、色によって対応付けることができる。それにより、検査担当者が個別検体ラックをコンテナに収納する際に、適切でない収納位置に個別検体ラックを入れようとする行為自体を防止することができる。その結果、無駄な作業を行うことがなくなり、作業効率の改善を図ることができる。また、例えば上記位置規制部が適切に機能しない(例えば物理的に破損している)場合であっても、検査担当者は間違いを容易に認識できるので、不適切な検査を避けることができる。
【0102】
(第7項)第6項に記載の検体前処理装置において、前記プール検体ラックにおいて前記複数のプール検体容器を保持するそれぞれの保持位置には、そのプール検体容器に調製されるプール検体の元となる個別検体が収容される個別検体ラックの色と同色の標識が付加されているものとし得る。
【0103】
第7項に記載の検体前処理装置によれば、個別検体ラック(及びそのラック内の個別検体)と、プール検体ラック内のプール検体とを、色によって対応付けることができる。それにより、個別の検査を行うために、担当者が、目的のプール検体に対応する個別検体ラックを取り出す際に、誤った個別検体ラックを選択してしまうことを回避することができる。
【0104】
(第8項)第1項~第7項のいずれか1項に記載の検体前処理装置は、前記コンテナと前記作業テーブルにおけるコンテナ装填部のいずれか一方又は両方は、該コンテナが規定の向きにのみ収納されることを許容する位置規制部、をさらに備えることができる。
【0105】
第8項に記載の検体前処理装置によれば、コンテナを作業テーブルのコンテナ装填箇所に装填する際に、その向きが一意に決まるので、検査担当者の不注意等に起因するコンテナの装填ミスを回避することができる。
【0106】
(第9項)本発明に係る検体プール検査方法の一態様は、第1項~第8項に記載の検体前処理装置を用いた検体プール検査方法であって、
それぞれ個別検体が収容された複数の個別検体容器を収容した前記個別検体ラックと、空のプール検体容器が収納された前記プール検体ラックと、を前記コンテナに収納して前記作業テーブルに装填する、又は、前記作業テーブルに装填された前記コンテナに前記個別検体ラック及び前記プール検体ラックを収納する準備工程と、
前記分注部により、前記作業テーブル上で、前記個別検体ラックに保持されている複数の個別検体容器中の個別検体をそれぞれ前記プール検体ラックに保持されているプール検体容器に分注してプール検体を調製する分注工程と、
調製されたプール検体が収容されているプール検体容器を保持する前記プール検体ラックを前記コンテナから取り出して前記検査装置まで搬送し、該検査装置に装填する搬送工程と、
前記検査装置において装填された前記プール検体ラックに保持されているプール検体容器中のプール検体に対し所定の検査を実施する検査工程と、
を有する。
【0107】
第9項に記載の検体プール検査方法によれば、複数のプール検体をばらばらにすることなく、まとめて検査装置まで搬送して検査に供することができる。また、プール検体の調製の元になった個別検体が個別検体ラックにまとまっているので、プール検体が陽性を示した場合に、担当者は迅速にそのプール検体に対応する複数の個別検体を取り出して個別の検査に供することができる。このようにプール検体と個別検体との対応が明確であり、プール検体、個別検体ともにラック単位で取り扱うことができるため、作業途中での検体の取違いが起こりにくく、検査の正確性を確保することができる。また、装置への着脱や運搬などの作業性も良好であり、作業の効率化に資する。さらにまた、プール検体の調製は実質的に自動的に行われるので、ウイルス感染などのリスクを低減するのにも有効である。
【符号の説明】
【0108】
1…検体前処理装置
10…分注ユニット
100…シリンジ
101…ノズル
11、13…移動部
12…作業テーブル
120…コンテナ収納部
120a…位置規制片
121…分注チップ保持部
122…チップ廃棄部
14…制御部
2…PCR検査装置
20…コンテナ
200(200A、200B)、201…個別検体ラック収納部
200a、200b…位置規制片
202…プール検体ラック収納部
203…色標識部
21(21A、21B、21C、21D、21E)…個別検体ラック
210、220…容器保持部
22…プール検体ラック
23、30…ハンドル
24…個別検体容器
25…プール検体容器
26…分注チップ
3…制御・処理装置
4…操作部
5…表示部
図1
図2
図3
図4
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図8