(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】放音装置
(51)【国際特許分類】
H04R 9/02 20060101AFI20241106BHJP
【FI】
H04R9/02 102C
(21)【出願番号】P 2023539393
(86)(22)【出願日】2021-08-02
(86)【国際出願番号】 JP2021028625
(87)【国際公開番号】W WO2023012868
(87)【国際公開日】2023-02-09
【審査請求日】2023-07-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000004075
【氏名又は名称】ヤマハ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003177
【氏名又は名称】弁理士法人旺知国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】土橋 優
【審査官】齊田 寛史
(56)【参考文献】
【文献】特開平9-130889(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0057531(US,A1)
【文献】特開平8-47072(JP,A)
【文献】実開昭55-150573(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動板と、
前記振動板に対向し前記振動板との間に第1空間を形成する第1面と、前記第1面とは反対方向を向く第2面と、前記第1面から前記第2面に延びる内周面で形成される孔と、を有する磁気回路と、
前記磁気回路に取り付けられることにより共鳴器を構成する音響部材と、を備え、
前記音響部材は、
前記孔に挿入される筒部と、
前記孔の外部で前記筒部の外周面から前記第2面に沿って延びるフランジ部と、
前記フランジ部から前記第2面に向けて突出する壁部と、を有し、
前記筒部の外周面と前記孔の内周面との間には、前記第1空間に連通する第2空間が形成され、
前記フランジ部と前記第2面との間には、前記筒部と前記壁部とで囲まれ、かつ、前記第2空間を介して前記第1空間に連通する第3空間が形成され、
前記共鳴器が前記第2空間および前記第3空間で構成される、
放音装置。
【請求項2】
前記共鳴器は、少なくとも1つのヘルムホルツ共鳴器で構成されており、
前記第2空間は、前記少なくとも1つのヘルムホルツ共鳴器のネック部であり、
前記第3空間は、前記少なくとも1つのヘルムホルツ共鳴器のキャビティである、
請求項1に記載の放音装置。
【請求項3】
前記共鳴器は、少なくとも1つの片側閉管型共鳴器で構成されており、
前記第3空間は、管状をなす、
請求項1に記載の放音装置。
【請求項4】
前記孔および前記第1空間で構成されるヘルムホルツ共鳴の共振周波数をF0[Hz]とし、前記共鳴器の共振周波数をF[Hz]としたとき、
|F0-F|≦500の関係を満たす、
請求項1に記載の放音装置。
【請求項5】
前記音響部材は、前記壁部から前記筒部に向かう方向に延びる板部を有し、
前記第3空間は、前記筒部と前記フランジ部と前記壁部と前記板部とで囲まれる空間である、
請求項1から4のいずれか1項に記載の放音装置。
【請求項6】
前記板部には、前記孔に対する前記筒部の位置決めのための突起が設けられる、
請求項5に記載の放音装置。
【請求項7】
前記筒部の内部には、通気性を有する多孔質材が配置される、
請求項1から6のいずれか1項に記載の放音装置。
【請求項8】
前記多孔質材は、不織布である、
請求項7に記載の放音装置。
【請求項9】
前記筒部、前記フランジ部および前記壁部は、樹脂材料または金属材料で一体に構成される、
請求項1から8のいずれか1項に記載の放音装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、放音装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイナミック型のヘッドホンまたはスピーカー等の放音装置は、一般に、振動板とボイスコイルと磁気回路とを備える。例えば、特許文献1では、振動板とボイスコイルと磁気回路とがユニット化されており、磁気回路には、振動板と磁気回路との間の空間を開放するための孔が設けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の構成では、前述の空間および孔によりヘルムホルツ共鳴が生じることにより、周波数特性等の放音特性が変化してしまうという問題がある。当該ヘルムホルツ共鳴の共振周波数は、当該空間の容積と当該孔の寸法とに応じて決まる。そこで、前述の問題を解決すべく、磁気回路の孔の寸法を調整することが考えられる。しかし、磁気回路の孔の寸法を調整すると、その調整に伴って磁気回路の駆動力が変化してしまうので、当該ヘルムホルツ共鳴とは別の要因による音質の低下を回避することが難しい。
【0005】
以上の事情を考慮して、本開示のひとつの態様は、放音装置の放音特性を簡便に向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以上の課題を解決するために、本開示の好適な態様に係る放音装置は、振動板と、前記振動板に対向し前記振動板との間に第1空間を形成する第1面と、前記第1面とは反対方向を向く第2面と、前記第1面から前記第2面に延びる内周面で形成される孔と、を有する磁気回路と、前記磁気回路に取り付けられることにより共鳴器を構成する音響部材と、を備え、前記音響部材は、前記孔に挿入される筒部と、前記孔の外部で前記筒部の外周面から前記第2面に沿って延びるフランジ部と、前記フランジ部から前記第2面に向けて突出する壁部と、を有し、前記筒部の外周面と前記孔の内周面との間には、前記第1空間に連通する第2空間が形成され、前記フランジ部と前記第2面との間には、前記筒部と前記壁部とで囲まれ、かつ、前記第2空間を介して前記第1空間に連通する第3空間が形成され、前記共鳴器が前記第2空間および前記第3空間で構成される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】第1実施形態に係る放音装置の斜視断面図である。
【
図2】第1実施形態に係る放音装置のドライバーユニットおよび音響部材の断面図である。
【
図3】第1実施形態に係る放音装置の音響部材の斜視断面図である。
【
図5】音響部材の有無による放音特性の違いを示す図である。
【
図6】第2実施形態に係る放音装置の音響部材を説明するための図である。
【
図7】第3実施形態に係る放音装置のドライバーユニットおよび音響部材の断面図である。
【
図8】変形例1に係る放音装置の音響部材を説明するための図である。
【
図9】変形例2に係る放音装置のドライバーユニットおよび音響部材の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、添付図面を参照しながら本開示の好適な実施形態を説明する。なお、図面において各部の寸法および縮尺は実際のものと適宜に異ならせてある。また、以下に記載する実施形態は、本開示の好適な具体例である。このため、本実施形態には、技術的に好ましい種々の限定が付されている。しかし、本開示の範囲は、以下の説明において特に本開示を限定する旨の記載がない限り、これらの形態に限られるものではない。
【0009】
1.第1実施形態
1-1.放音装置の概要
図1は、第1実施形態に係る放音装置100の斜視断面図である。放音装置100は、ダイナミック型の駆動方式により、図示しないアンプ等の外部装置から入力される音声信号に基づく音声を放音する装置である。
図1に示す例では、放音装置100は、オンイヤー型またはオーバーイヤー型のヘッドホンに用いられる放音ユニットである。なお、
図1では、片方の耳に用いる1個の放音ユニットが代表的に示される。
【0010】
図1に示すように、放音装置100は、ハウジング110とドライバーユニット120と音響部材130とグリル140とイヤーパッド150とを備える。
【0011】
以下、まず、
図1に基づいて、放音装置100の各部を順次簡単に説明する。なお、以下の説明では、ドライバーユニット120の中心軸が軸線AXであり、軸線AXに沿う一方向がX1方向であり、X1方向とは反対方向がX2方向である。また、以下では、軸線AXを中心とする仮想円に沿う一方向またはその反対方向を周方向といい、軸線AXに直交して軸線AXから遠ざかる方向またはその反対方向を径方向という場合がある。
【0012】
ハウジング110は、ドライバーユニット120を支持する箱体である。ハウジング110は、スピーカーエンクロージャーとして機能する空間S0を有する。ハウジング110は、例えば、樹脂材料または金属材料等で構成される。
【0013】
図1に示す例では、ハウジング110は、側壁111と底板112と天板113とを有し、これらで囲まれる空間S0を形成する。側壁111は、軸線AXを中心軸とする円筒状をなす。底板112は、側壁111のX2方向での端に全周にわたり接続されており、当該端の内側を塞ぐように、軸線AXに直交する板状をなす。天板113は、側壁111のX1方向での端に全周にわたり接続されており、軸線AXに直交する板状をなす。天板113には、空間S0に連通する開口113aが設けられる。開口113aは、軸線AXに沿う方向にみて軸線AXを中心とする円形をなす。なお、ハウジング110の形状等は、
図1に示す例に限定されず、任意である。また、空間S0には、繊維材等で構成される吸音材が配置されてもよい。
【0014】
ドライバーユニット120は、振動板121とボイスコイル122と磁気回路123とを含むダイナミック型のドライバーユニットである。ドライバーユニット120は、ハウジング110の開口113aを塞ぐように配置され、天板113に接着剤等により固定される。なお、ドライバーユニット120の詳細については、後に
図2に基づいて説明する。
【0015】
音響部材130は、ドライバーユニット120の磁気回路123に取り付けられることにより共鳴器を構成する部材である。当該共鳴器は、ドライバーユニット120からの音の周波数特性等の放音特性を向上させる。なお、音響部材130の詳細については、後に
図2から
図4に基づいて説明する。
【0016】
グリル140は、ドライバーユニット120からの音の通過を許容しつつ、ドライバーユニット120を外部から保護するための部材である。
図1に示す例では、グリル140は、ドライバーユニット120に対してX1方向の位置でドライバーユニット120を覆うように配置されるドーム状の網部材である。グリル140は、ドライバーユニット120にその外周縁に沿って接着剤等により固定される。グリル140は、例えば、樹脂材料または金属材料で構成される。なお、グリル140の形状等は、
図1に示す例に限定されず、任意である。例えば、グリル140は、天板113に接着剤等により固定されてもよい。また、グリル140は、必要に応じて用いられ、省略されてもよい。
【0017】
イヤーパッド150は、軸線AXに沿う方向にみてドライバーユニット120を囲む環状のクッション材であり、ユーザーの耳またはその近傍部位に押し当てられる。イヤーパッド150は、天板113に接着剤または嵌め合わせ等により固定される。イヤーパッド150は、例えば、ゴム材料またはエラストマー材料を用いた発泡体で構成される。なお、イヤーパッド150の形状等は、
図1に示す例に限定されず、任意である。なお、イヤーパッド150は、必要に応じて用いられ、省略されてもよい。
【0018】
以上の概要の放音装置100では、音響部材130が磁気回路123に取り付けられることにより、音響部材130を省略した構成に比べて、放音特性が向上する。以下、ドライバーユニット120および音響部材130について詳述する。
【0019】
1-2.ドライバーユニットおよび音響部材
図2は、第1実施形態に係る放音装置100のドライバーユニット120および音響部材130の断面図である。
図2では、軸線AXを含む平面に沿ってドライバーユニット120および音響部材130を切断した断面が示される。
【0020】
図2に示すように、ドライバーユニット120は、振動板121とボイスコイル122と磁気回路123とフレーム124とを有する。
【0021】
振動板121は、シート材で構成される振動体であり、振動により放音する。振動板121を構成するシート材は、例えば、PET(polyethylene terephthalate)等のポリエステル樹脂等の樹脂材料で構成される。当該シート材の表面には、例えば、アルミニウム等の金属またはDLC(Diamond-like Carbon)等の無機材料で構成されるコーティング膜が設けられてもよい。樹脂材料で構成されるシート材を用いた振動板121は、樹脂材料および繊維基材による複合材料を用いる構成に比べて、軽量であることから、ヘッドホンまたはイヤホンのような小型な放音装置100に用いても、ドライバーユニット120から効率的に放音させることができる。
【0022】
なお、振動板121は、樹脂材料で構成されるシート材を用いる構成に限定されず、例えば、樹脂材料を繊維基材に含浸させた状態で硬化または固化することにより得られるシート材で構成されてもよい。この場合、樹脂材料としては、ポリエステル樹脂のほか、例えば、アクリル樹脂、ポリウレタン、メラミン樹脂、変性ゴム樹脂およびフェノール樹脂等が挙げられる。繊維基材としては、例えば、炭素繊維、アラミド繊維、ガラス繊維、セラミック繊維、シリカ繊維、金属繊維、チタン酸カリウム繊維、ジルコニア繊維、ポリアクリレート繊維、ポリフェニレンサルファイド繊維、ビニロン繊維、レーヨン繊維、ナイロン繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、綿繊維、麻繊維およびセルロース繊維等が挙げられる。
【0023】
振動板121は、X1方向を向く面と、X2方向を向く面と、を有し、軸線AXに沿う方向に振動することにより放音する。これらの面のうち、X1方向を向く面が放音面である。
図2に示す例では、振動板121は、ドーム型である。なお、振動板121の形状は、
図2に示す例に限定されず、任意である。
【0024】
ボイスコイル122は、振動板121のX2方向を向く面に固定され、軸線AXまわりに巻かれた導線で構成される部材である。ボイスコイル122には、図示しないアンプ等の外部装置から電気的な音声信号が入力される。この入力により、当該音声信号に応じた磁界がボイスコイル122から発生する。なお、ボイスコイル122は、振動板121に固定されるボビンに巻かれた導線で構成されてもよい。この場合、ボイスコイル122は、当該ボビンを介して振動板121に固定される。
【0025】
磁気回路123は、ボイスコイル122からの磁界に作用する磁界を発生させる構造体である。磁気回路123は、例えば、永久磁石およびヨークを含んでおり、永久磁石からの磁束をヨークによりボイスコイル122に導く。このような磁気回路123からの磁界に対して音声信号によるボイスコイル122からの磁界が作用することにより、振動板121が当該音声信号に応じて振動する。
【0026】
磁気回路123は、第1面F1と第2面F2とを有する形状をなしており、磁気回路123には、孔123aおよび溝123bが設けられる。第1面F1は、X1方向を向く面である。第2面F2は、X2方向を向く面、すなわち、第1面F1とは反対方向を向く面である。
図2に示す例では、第1面F1および第2面F2のそれぞれが軸線AXに直交する平面である。
【0027】
孔123aは、第1面F1から第2面F2に延びる内周面で形成される貫通孔である。
図2に示す例では、孔123aは、軸線AXに沿って磁気回路123を貫通する。孔123aは、軸線AXに直交する断面でみて軸線AXを中心とする円形をなす。溝123bは、孔123aの外側でその全周にわたって第1面F1に設けられる環状の窪みであり、磁気ギャップを形成する。溝123bには、ボイスコイル122が磁気回路123に接触しない状態で、ボイスコイル122の少なくとも一部が配置される。なお、孔123aの横断面形状は、円形に限定されず、例えば、四角形または五角形等の多角形でもよいし、楕円形でもよい。
【0028】
以上の磁気回路123では、第1面F1が振動板121に対向する。第1面F1と振動板121との間には、第1空間S1が形成される。第1空間S1は、前述の
図1に示す空間S0に孔123aを介して連通する。このため、振動板121に対する第1空間S1の空気バネの影響を低減することができる。
【0029】
フレーム124は、振動板121を振動可能に支持するとともに磁気回路123に固定される環状の部材である。フレーム124には、振動板121および磁気回路123のそれぞれが接着剤等により適宜に接合される。フレーム124は、例えば、金属材料または樹脂材料で構成される。フレーム124は、前述の
図1に示す天板113に接着剤等により固定される。なお、フレーム124は、磁気回路123および天板113のうちの一方または両方と一体で構成されてもよい。
【0030】
図2に示す例では、フレーム124は、軸線AXまわりの周方向に沿って互いに間隔を隔てて配置される複数の孔124bを有する。各孔124bは、フレーム124を軸線AXに沿う方向に貫通する。したがって、第1空間S1は、前述の
図1に示す空間S0に対して、前述の孔123aを介して連通するだけでなく、孔124bを介して連通する。このため、この点でも、振動板121に対する第1空間S1の空気バネの影響を低減することができる。なお、孔124bの形状または大きさ等は、特に限定されず、任意である。また、孔124bは、必要に応じて設ければよく、省略されてもよい。
【0031】
以上のドライバーユニット120では、第1空間S1および孔123aによりヘルムホルツ共鳴器が構成される。従来では、当該ヘルムホルツ共鳴器の共振周波数またはその近傍周波数において、孔123a内の空気の摩擦損失が急激に高まるので、周波数特性等の放音特性の低下を招くという問題があった。
【0032】
そこで、放音装置100では、ドライバーユニット120に音響部材130が取り付けられる。音響部材130は、ドライバーユニット120に取り付けられることにより共鳴器REを構成する。共鳴器REは、第1空間S1および孔123aによるヘルムホルツ共鳴器の共鳴現象を低減する。以下、音響部材130について詳述する。
【0033】
音響部材130は、音響部材130と孔123aの内周面との間に第2空間S2を形成するとともに、第2空間S2を介して第1空間S1に連通する第3空間S3を形成する。第2空間S2および第3空間S3は、共鳴器REを構成する。本実施形態では、共鳴器REがヘルムホルト共鳴器であり、第2空間S2が当該ヘルムホルツ共鳴器のネック部として機能し、第3空間S3が当該ヘルムホルツ共鳴器のキャビティとして機能する。
【0034】
音響部材130は、筒部131とフランジ部132と壁部133と板部134とを有する。これらは、一体に構成される。このため、プレス成形または射出成形等により音響部材130を効率的に製造することができる。
【0035】
音響部材130の構成材料としては、特に限定されないが、例えば、樹脂材料、金属材料、セラミックス材料または炭素繊維複合材料等が挙げられる。音響部材130は、例えば、インサート成形等により筒部131とフランジ部132と壁部133とを一括成形するとともに、別途にインサート成形等により板部134を成形した後、これらの成形体を接着剤または溶着等により接合することにより得られる。
【0036】
図3は、第1実施形態に係る放音装置100の音響部材130の斜視断面図である。以下、
図2および
図3に基づいて、音響部材130の各部を順に説明する。
【0037】
筒部131は、第1端E1および第2端E2を有する筒状をなしており、磁気回路123の孔123aに挿入される。第1端E1は、第2端E2よりもX1方向に位置する。
図2に示す例では、第1端E1が孔123a内に位置し、第2端E2が磁気回路123の第2面F2よりもX2方向に突出するように孔123a外に位置する。
【0038】
筒部131の外周面と孔123aの内周面との間には、第2空間S2が形成される。
図2に示す例では、筒部131は、軸線AXと同軸的に配置される。すなわち、筒部131の中心軸が軸線AXに一致する。筒部131の肉厚は、一定である。筒部131は、軸線AXに沿う方向にみて円環状をなす。
【0039】
なお、筒部131の中心軸は、軸線AXに一致しなくてもよいし、軸線AXに対して傾斜してもよい。ただし、筒部131の中心軸が軸線AXに一致することにより、第2空間S2の径方向での厚さを筒部131の全周にわたり均一化しやすいので、共鳴器REの設計が容易であるという利点がある。また、筒部131の肉厚は、一定でなくともよい。筒部131の横断面形状は、円の外周に沿う形状に限定されず、例えば、多角形の外周に沿う形状でもよい。
【0040】
フランジ部132は、孔123aの外部で筒部131の外周面から第2面F2に沿って延びる。
図2に示す例では、フランジ部132は、筒部131の第2端E2から径方向での外方に向けて、軸線AXに直交する方向に広がる板状をなす。フランジ部132は、筒部131の全周にわたり設けられる。軸線AXに沿う方向にみたフランジ部132の外形は、軸線AXを中心とする円形である。フランジ部132の厚さは、一定である。
【0041】
なお、軸線AXに沿う方向にみたフランジ部132の外形は、円形に限定されず、例えば、四角形または五角形等の多角形でもよいし、楕円形でもよい。また、軸線AXに沿う方向にみてフランジ部132の中心が軸線AXからずれてもよい。また、フランジ部132の厚さは、一定でなくともよい。
【0042】
壁部133は、フランジ部132から第2面F2に向けて突出する。フランジ部132と第2面F2との間には、筒部131と壁部133とで囲まれる第3空間S3が形成される。
図2に示す例では、壁部133は、フランジ部132の外周縁から全周にわたりX1方向に突出する。壁部133のX1方向での端は、第2面F2に接触する。壁部133の厚さは、周方向での全域にわたり一定である。なお、壁部133は、筒部131から離れた位置にあればよく、フランジ部132の外周縁よりも径方向での内側の部分から突出する部分を有してもよい。また、壁部133の厚さは、一定でなくともよい。
【0043】
板部134は、板部134とフランジ部132との間に第3空間S3を形成するように、壁部133から筒部131に向かう方向に延びる板状をなす。フランジ部132と板部134との間には、第3空間S3が形成される。すなわち、第3空間S3は、筒部131とフランジ部132と壁部133と板部134とで囲まれる空間である。このように、音響部材130が筒部131、フランジ部132および壁部133のほかに板部134を有することにより、磁気回路123の第2面F2の形状によらずに、第3空間S3を形成することができる。
【0044】
板部134と筒部131との間には、隙間dが形成される。この隙間dを介して、第2空間S2および第3空間S3が互いに連通する。
図2に示す例では、板部134は、壁部133のX1方向での端から径方向での内方に向けて、軸線AXに直交する方向に広がる板状をなす。板部134は、壁部133の全周にわたり設けられる。軸線AXに沿う方向にみた板部134の外形は、軸線AXを中心とする円形である。板部134の厚さは、一定である。隙間dは、周方向での全域にわたり一定である。
【0045】
なお、軸線AXに沿う方向にみた板部134の外形は、円形に限定されず、例えば、四角形または五角形等の多角形でもよいし、楕円形でもよい。また、軸線AXに沿う方向にみて板部134の中心が軸線AXからずれてもよい。また、板部134の厚さは、一定でなくともよい。隙間dは、一定でなくともよい。
【0046】
図4に示すように、板部134には、前述の孔123aに対する筒部131の位置決めのための突起134aが設けられる。このため、突起134aを有しない構成に比べて、磁気回路123への音響部材130の取り付けを容易にすることができる。
【0047】
突起134aは、板部134の内周縁からX1方向に突出する。突起134aは、板部134の内周縁の全周にわたり設けられてもよいし、板部134の内周縁にその周方向に互いに間隔を隔てて配置される複数の部分で構成されてもよい。突起134aは、孔123aの内周面に嵌め合わされることにより、孔123aに対する筒部131の径方向での位置決めを行う。また、板部134は、必要に応じて、接着剤等により磁気回路123に接合される。なお、突起134aは、必要に応じて設ければよく、省略されてもよい。
【0048】
1-3.音響部材の作用
図4は、音響部材130の作用を説明するための図である。
図4に示すように、共鳴器REは、第1空間S1および孔123aによるヘルムホルツ共鳴器と向かい合うように配置されるヘルムホルツ共鳴器である。このため、共鳴器REは、第1空間S1および孔123aによるヘルムホルツ共鳴を制振対象とする動吸振器として機能する。この機能により、第1空間S1および孔123aによるヘルムホルツ共鳴による共振現象を低減することができる。ここで、前述のように筒部131の第1端E1が孔123a内に位置するので、第1端E1がドライバーユニット120からの音圧の腹に位置しなくても、当該ヘルムホルツ共鳴による共振現象が共鳴器REにより効果的に低減される。
【0049】
ここで、共鳴器REの共振周波数は、孔123aおよび第1空間S1で構成されるヘルムホルツ共鳴の共振周波数に一致するかまたは近い。具体的には、孔123aおよび第1空間S1で構成されるヘルムホルツ共鳴の共振周波数をF0[Hz]とし、共鳴器REの共振周波数をF[Hz]としたとき、|F0-F|≦500の関係を満たす。このため、第1空間S1および孔123aによるヘルムホルツ共鳴による共振現象を共鳴器REにより低減することができる。
【0050】
共鳴器REの共振周波数Fは、孔123aの内径をRとし、筒部131の外径をrとし、第2空間S2の長さをLとし、第3空間S3の容積をVとしたとき、以下の式(1)で概略的に表される。
【数1】
【0051】
この式(1)において、cは、空気中の音速である。ここで、π(R2-r2)は、第2空間S2の断面積である。この式(1)から明らかなように、内径R、外径r、長さLおよび容積Vのうちの少なくとも1つを変更することにより、共振周波数Fを調整することができる。なお、第1空間S1および孔123aによるヘルムホルツ共鳴器の共振周波数F0は、共鳴器REの共振周波数Fと同様、第1空間S1の容積、孔123aの長さおよび断面積に基づいて算出される。
【0052】
図5は、音響部材130の有無による放音特性の違いを示す図である。
図5中の一点鎖線で示すように、音響部材130を用いない場合、周波数特性のディップDPが生じる。このディップDPは、前述の第1空間S1および孔123aによるヘルムホルツ共鳴の共振周波数付近に生じる。
【0053】
これに対し、
図5中の実線で示すように、音響部材130を用いる場合、ディップDPが低減されることにより、放音特性を向上させることができる。
【0054】
以上の放音装置100は、前述のように、振動板121と磁気回路123と音響部材130とを備える。ここで、磁気回路123は、振動板121に対向し振動板121との間に第1空間S1を形成する第1面F1と、第1面F1とは反対方向を向く第2面F2と、第1面F1から第2面F2に延びる内周面で形成される孔123aと、を有する。音響部材130は、磁気回路123に取り付けられることにより共鳴器REを構成する。音響部材130は、孔123aに挿入される筒部131と、孔123aの外部で筒部131の外周面から第2面F2に沿って延びるフランジ部132と、フランジ部132から第2面F2に向けて突出する壁部133と、を有する。筒部131の外周面と孔123aの内周面との間には、第1空間S1に連通する第2空間S2が形成される。フランジ部132と第2面F2との間には、筒部131と壁部133とで囲まれ、かつ、第2空間S2を介して第1空間S1に連通する第3空間S3が形成される。共鳴器REは、第2空間S2および第3空間S3で構成される。
【0055】
以上の放音装置100では、第2空間S2および第3空間S3で構成される共鳴器REにより、第1空間S1および孔123aによるヘルムホルツ共鳴による共振現象を低減することができる。このため、当該ヘルムホルツ共鳴による共振現象による放音特性の低下を低減することができる。また、音響部材130が磁気回路123に取り付けられることにより共鳴器REを構成するので、磁気回路123の孔123aの寸法を変更する必要がない。このため、当該ヘルムホルツ共鳴とは別の要因による音質の低下を考慮することなく簡便に、放音特性を向上させることができる。
【0056】
本実施形態では、前述のように、共鳴器REがヘルムホルツ共鳴器で構成される。このため、第1空間S1および孔123aによるヘルムホルツ共鳴を制振対象とする動吸振器として音響部材130による共鳴器REを機能させることができる。この結果、第1空間S1および孔123aによるヘルムホルツ共鳴による共振現象を低減することができる。なお、後述の変形例1のように共鳴器REが複数のヘルムホルツ共鳴器で構成されてもよい。
【0057】
2.第2実施形態
以下、本開示の第2実施形態について説明する。以下に例示する形態において作用や機能が第1実施形態と同様である要素については、第1実施形態の説明で使用した符号を流用して各々の詳細な説明を適宜に省略する。
【0058】
図6は、第2実施形態に係る放音装置の音響部材130Aを説明するための図である。本実施形態は、音響部材130に代えて音響部材130Aを用いる以外は、前述の第1実施形態と同様である。音響部材130Aは、壁部133に代えて壁部133Aを有する以外は、音響部材130と同様に構成される。すなわち、音響部材130Aは、筒部131とフランジ部132と壁部133Aと板部134とを有する。壁部133Aは、軸線AXに沿う方向にみた形状が異なる以外は、壁部133と同様に構成される。なお、
図6は、軸線AXに直交する平面で壁部133Aを切断した断面をX1方向にみた図である。
【0059】
図6に示す音響部材130Aは、磁気回路123に取り付けられることにより4個の共鳴器RE1を構成する。各共鳴器RE1は、片側閉管型共鳴器である。
【0060】
具体的に説明すると、壁部133Aは、外壁133aと4個の隔壁133bと4組の内壁133c、133d、133e、133fとを有する。これらは、それぞれ、フランジ部132からX1方向に突出する。
【0061】
外壁133aは、軸線AXに沿う方向にみて前述の第1実施形態の壁部133と同様の形状をなす。外壁133aの内側には、4個の隔壁133bと4組の内壁133c、133d、133e、133fとが配置される。
【0062】
4個の隔壁133bは、外壁133aから軸線AXに向かう方向に延びており、筒部131と外壁133aとの間の空間を4分割するように外壁133aの内側に配置される。
図6に示す例では、4個の隔壁133bは、周方向で等間隔に配置される。すなわち、4個の隔壁133bは、軸線AXに沿う方向にみて、軸線AXから等角度間隔で互いに異なる方向に延びる直線上に配置される。また、各隔壁133bの最も内側に位置する端と筒部131の外周面との間には、隙間dが形成される。なお、各隔壁133bの最も内側に位置する端が筒部131の外周面に接続されてもよい。
【0063】
4個の隔壁133bのそれぞれには、互いに異なる半径の同心円に沿って延びる内壁133c、133d、133e、133fが接続される。各隔壁133bに接続される内壁133c、133d、133e、133fは、この順で、内側から外側に向けて配置される。また、各隔壁133bに接続される内壁133c、133d、133e、133fのうち、内壁133c、133eが隔壁133bの一方の側面に接続されるのに対し、内壁133d、133fが隔壁133bの他方の側面に接続される。このため、各隔壁133bとこれに対応する内壁133c、133d、133e、133fとで櫛歯状の壁が構成される。すなわち、4個の隔壁133bと4組の内壁133c、133d、133e、133fとで4個の櫛歯状の壁が構成される。当該4個の櫛歯状の壁のうち、周方向で隣り合う2個の壁が互いに間隔を隔てて噛み合う。
【0064】
以上の壁部133Aを音響部材130Aに設けることにより、音響部材130Aの内側から外側に向けて蛇行しながら延びる管状の4個の第3空間S3Aが形成される。各第3空間S3Aは、片側閉管型の共鳴器RE1を構成する。ここで、各第3空間S3Aの両端のうち、一端が位置P1で第2空間S2に開放され、他端が位置P2で閉塞される。各共鳴器RE1は、第1空間S1および孔123aによるヘルムホルツ共鳴とは逆位相の共鳴を生じさせることにより、当該ヘルムホルツ共鳴による共振現象を低減する。
【0065】
ここで、共鳴器RE1の共振周波数は、孔123aおよび第1空間S1で構成されるヘルムホルツ共鳴の共振周波数に一致するかまたは近い。具体的には、孔123aおよび第1空間S1で構成されるヘルムホルツ共鳴の共振周波数をF0[Hz]とし、共鳴器RE1の共振周波数をF[Hz]としたとき、|F0-F|≦500の関係を満たす。このため、第1空間S1および孔123aによるヘルムホルツ共鳴による共振現象を共鳴器REにより低減することができる。
【0066】
共鳴器RE1の共振周波数Fは、第3空間S3Aの位置P1から位置P2までの長さをLとしたとき、以下の式(2)で概略的に表される。
【数2】
【0067】
この式(2)において、cは、空気中の音速である。nは、1以上の自然数である。この式(2)から明らかなように、長さLを変更することにより、共振周波数Fを調整することができる。
【0068】
図6に示す例では、4個の共鳴器RE1の共振周波数Fが互いに等しい構成が例示される。当該構成では、特定の周波数について、第1空間S1および孔123aによるヘルムホルツ共鳴による共振現象を効率的に低減することができる。なお、4個の共鳴器RE1の共振周波数Fが互いに異なってもよい。この場合、第1空間S1および孔123aによるヘルムホルツ共鳴による共振現象を適宜に低減することにより、フラットな周波数特性を得やすいという利点がある。
【0069】
以上の第2実施形態によっても、放音装置の放音特性を簡便に向上させることができる。本実施形態では、前述のように、共鳴器RE1が4個の片側閉管型の共鳴器RE1で構成されており、第3空間S3が管状をなす。このため、第1空間S1および孔123aによるヘルムホルツ共鳴とは逆位相の共鳴を音響部材130Aによる共鳴器RE1により生じさせることができる。この結果、第1空間S1および孔123aによるヘルムホルツ共鳴による共振現象を低減することができる。なお、音響部材130Aにより構成される共鳴器の数は、4個に限定されず、3個以下または5個以上でもよい。
【0070】
3.第3実施形態
以下、本開示の第3実施形態について説明する。以下に例示する形態において作用や機能が第1実施形態と同様である要素については、第1実施形態の説明で使用した符号を流用して各々の詳細な説明を適宜に省略する。
【0071】
図7は、第3実施形態に係る放音装置のドライバーユニット120Bおよび音響部材130Bの断面図である。
ドライバーユニット120Bは、多孔質材125を追加した以外は、前述の第1実施形態のドライバーユニット120と同様に構成される。音響部材130Bは、多孔質材135を追加した以外は、前述の第1実施形態の音響部材130と同様に構成される。
【0072】
多孔質材125は、通気性を有し、ドライバーユニット120Bの孔124aを塞ぐように配置される板状またはシート状の多孔質体である。典型的には、多孔質材125は、不織布である。多孔質材125は、接着剤等によりフレーム124に接合される。なお、多孔質材125は、不織布に限定されず、例えば、織布、フェルトまたはウレタンフォーム等でもよい。
【0073】
多孔質材135は、通気性を有し、音響部材130Bの筒部131内を塞ぐように配置される板状またはシート状の多孔質体である。典型的には、多孔質材125は、不織布である。多孔質材135は、接着剤等により筒部131に接合される。
図8に示す例では、多孔質材135は、筒部131の第1端E1と第2端E2との間に配置される。なお、多孔質材125は、不織布に限定されず、例えば、織布、フェルトまたはウレタンフォーム等でもよい。なお、多孔質材135の配置は、
図8に示す例に限定されず、例えば、第1端E1または第2端E2に配置されてもよい。ただし、多孔質材135が不織布であることにより、既存の不織布を用いて、良好な通気性を有する多孔質材135を容易に製造することができる。
【0074】
以上の第3実施形態によっても、放音装置の放音特性を簡便に向上させることができる。本実施形態では、前述のように、筒部131の内部には、通気性を有する多孔質材135が配置される。このため、多孔質材135により、第1空間S1および孔123aによるヘルムホルツ共鳴による共振現象を低減することができる。
【0075】
4.変形例
本開示は前述の各実施形態に限定されるものではなく、以下に述べる各種の変形が可能である。また、各実施形態及び各変形例を適宜組み合わせてもよい。
【0076】
4-1.変形例1
図8は、変形例1に係る放音装置の音響部材130Cを説明するための図である。変形例1は、音響部材130に代えて音響部材130Cを用いる以外は、前述の第1実施形態と同様である。音響部材130Cは、壁部133に代えて壁部133Cを有する以外は、音響部材130と同様に構成される。壁部133Cは、軸線AXに沿う方向にみた形状が異なる以外は、壁部133と同様に構成される。なお、
図8は、軸線AXに直交する平面で壁部133Cを切断した断面をX1方向にみた図である。
【0077】
図8に示す音響部材130Cは、磁気回路123に取り付けられることにより4個の共鳴器RE2を構成する。各共鳴器RE2は、ヘルムホルツ共鳴器である。
【0078】
具体的に説明すると、壁部133Cは、外壁133aと4個の隔壁133gとを有する。これらは、それぞれ、フランジ部132から突出する。
【0079】
外壁133aは、軸線AXに沿う方向にみて前述の第1実施形態の壁部133と同様の形状をなす。外壁133aの内側には、4個の隔壁133gが配置される。
【0080】
4個の隔壁133gは、外壁133aから軸線AXに向かう方向に延びており、筒部131と外壁133aとの間の空間を4分割するように外壁133aの内側に配置される。
図8に示す例では、4個の隔壁133gは、周方向で等間隔に配置される。すなわち、4個の隔壁133gは、軸線AXに沿う方向にみて、軸線AXから等角度間隔で互いに異なる方向に延びる直線上に配置される。また、各隔壁133gの最も内側に位置する端は、筒部131の外周面に接続される。
【0081】
以上の壁部133Cを音響部材130Cに設けることにより、4個の第3空間S3Bが形成される。各第3空間S3Bは、ヘルムホルツ共鳴器である共鳴器RE2のキャビティを構成する。ここで、第2空間S2は、ヘルムホルツ共鳴器である共鳴器RE2のネック部として4個の第3空間S3Bに共用される。
【0082】
図8に示す例では、4個の共鳴器RE2の共振周波数Fが互いに等しい構成が例示される。当該構成では、特定の周波数について、第1空間S1および孔123aによるヘルムホルツ共鳴による共振現象を効率的に低減することができる。なお、4個の共鳴器RE2の共振周波数Fが互いに異なってもよい。この場合、第1空間S1および孔123aによるヘルムホルツ共鳴による共振現象を適宜に低減することにより、フラットな周波数特性を得やすいという利点がある。
【0083】
以上の変形例1によっても、放音装置の放音特性を簡便に向上させることができる。なお、音響部材130Cにより構成される共鳴器の数は、4個に限定されず、3個以下または5個以上でもよい。
【0084】
4-2.変形例2
図9は、変形例2に係る放音装置のドライバーユニット120および音響部材130Dの断面図である。変形例2は、音響部材130に代えて音響部材130Dを用いる以外は、前述の第1実施形態と同様である。音響部材130Cは、筒部131に代えて筒部131Cを有する以外は、音響部材130と同様に構成される。筒部131Cは、第2端E2の位置が異なる以外は、筒部131と同様に構成される。
【0085】
筒部131Cの第2端E2は、フランジ部132よりもX2方向に位置する。以上の変形例2によっても、放音装置の放音特性を簡便に向上させることができる。変形例2では、筒部131Cの長さに応じて、放音特性を調整しやすいという利点がある。
【0086】
4-3.変形例3
前述の形態では、本開示をオンイヤー型またはオーバーイヤー型のヘッドホンに適用した構成が例示されるが、本開示の放音装置は、当該構成に限定されない。例えば、本開示は、インイヤー型またはカナル型のヘッドホンまたはイヤホンに適用してもよいし、据置型または車載用等のスピーカーに適用してもよい。
【0087】
5.付記
以上に例示する形態または変形例から、例えば以下の態様が把握される。
【0088】
本開示の好適な態様である第1態様に係る放音装置は、振動板と、前記振動板に対向し前記振動板との間に第1空間を形成する第1面と、前記第1面とは反対方向を向く第2面と、前記第1面から前記第2面に延びる内周面で形成される孔と、を有する磁気回路と、前記磁気回路に取り付けられることにより共鳴器を構成する音響部材と、を備え、前記音響部材は、前記孔に挿入される筒部と、前記孔の外部で前記筒部の外周面から前記第2面に沿って延びるフランジ部と、前記フランジ部から前記第2面に向けて突出する壁部と、を有し、前記筒部の外周面と前記孔の内周面との間には、前記第1空間に連通する第2空間が形成され、前記フランジ部と前記第2面との間には、前記筒部と前記壁部とで囲まれ、かつ、前記第2空間を介して前記第1空間に連通する第3空間が形成され、前記共鳴器が前記第2空間および前記第3空間で構成される。
【0089】
以上の第1態様によれば、第2空間および第3空間で構成される共鳴器により、第1空間および孔によるヘルムホルツ共鳴による共振現象を低減することができる。このため、当該ヘルムホルツ共鳴による共振現象による放音特性の低下を低減することができる。また、音響部材が磁気回路に取り付けられることにより当該共鳴器を構成するので、磁気回路の孔の寸法を変更する必要がない。このため、当該ヘルムホルツ共鳴とは別の要因による音質の低下を考慮することなく簡便に、放音特性を向上させることができる。
【0090】
第1態様の好適例である第2態様において、前記共鳴器は、少なくとも1つのヘルムホルツ共鳴器で構成されており、前記第2空間は、前記少なくとも1つのヘルムホルツ共鳴器のネック部であり、前記第3空間は、前記少なくとも1つのヘルムホルツ共鳴器のキャビティである。以上の第2態様では、第1空間および孔によるヘルムホルツ共鳴を制振対象とする動吸振器として音響部材による共鳴器を機能させることができる。この結果、第1空間および孔によるヘルムホルツ共鳴による共振現象を低減することができる。
【0091】
第1態様の好適例である第3態様において、前記共鳴器は、少なくとも1つの片側閉管型共鳴器で構成されており、前記第3空間は、管状をなす。以上の第3態様では、第1空間および孔によるヘルムホルツ共鳴とは逆位相の共鳴を音響部材による共鳴器により生じさせることができる。この結果、第1空間および孔によるヘルムホルツ共鳴による共振現象を低減することができる。
【0092】
第1態様から第3態様のいずれかの好適例である第4態様において、前記孔および前記第1空間で構成されるヘルムホルツ共鳴の共振周波数をF0[Hz]とし、前記共鳴器の共振周波数をF[Hz]としたとき、|F0-F|≦500の関係を満たす。以上の第5態様では、第1空間および孔によるヘルムホルツ共鳴による共振現象を音響部材による共鳴器により低減することができる。
【0093】
第1態様から第4態様のいずれかの好適例である第5態様において、前記音響部材は、前記壁部から前記筒部に向かう方向に延びる板部を有し、前記第3空間は、前記筒部と前記フランジ部と前記壁部と前記板部とで囲まれる空間である。以上の第5態様では、磁気回路の第2面の形状によらずに、第3空間を形成することができる。
【0094】
第5態様の好適例である第6態様において、前記板部には、前記孔に対する前記筒部の位置決めのための突起が設けられる。以上の態様では、当該突起を有しない構成に比べて、磁気回路への音響部材の取り付けを容易にすることができる。
【0095】
第1態様から第6態様のいずれかの好適例である第7態様において、前記筒部の内部には、通気性を有する多孔質材が配置される。以上の第7態様によれば、多孔質材により、第1空間および孔によるヘルムホルツ共鳴による共振現象を低減することができる。
【0096】
第7態様の好適例である第8態様において、前記多孔質材は、不織布である。以上の第8態様によれば、既存の不織布を用いて、良好な通気性を有する多孔質材を容易に製造することができる。
【0097】
第1態様から第8態様のいずれかの好適例である第9態様において、前記筒部、前記フランジ部および前記壁部は、樹脂材料または金属材料で一体に構成される。以上の第9態様によれば、プレス成形または射出成形等により音響部材を効率的に製造することができる。
【符号の説明】
【0098】
100…放音装置、110…ハウジング、111…側壁、112…底板、113…天板、113a…開口、120…ドライバーユニット、120B…ドライバーユニット、121…振動板、122…ボイスコイル、123…磁気回路、123a…孔、123b…溝、124…フレーム、124a…孔、125…多孔質材、130…音響部材、130A…音響部材、130B…音響部材、130C…音響部材、130D…音響部材、131…筒部、131C…筒部、132…フランジ部、133…壁部、133A…壁部、133C…壁部、133a…外壁、133b…隔壁、133c…内壁、133d…内壁、133e…内壁、133f…内壁、133g…隔壁、134…板部、134a…突起、135…多孔質材、140…グリル、150…イヤーパッド、AX…軸線、DP…ディップ、E1…第1端、E2…第2端、F1…第1面、F2…第2面、R…内径、RE…共鳴器、RE1…共鳴器、RE2…共鳴器、S0…空間、S1…第1空間、S2…第2空間、S3…第3空間、S3A…第3空間、S3B…第3空間、d…隙間、r…外径。