(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】顕微ラマン分光装置
(51)【国際特許分類】
G01N 21/65 20060101AFI20241106BHJP
G01J 3/06 20060101ALI20241106BHJP
G01J 3/44 20060101ALI20241106BHJP
G02B 21/00 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
G01N21/65
G01J3/06
G01J3/44
G02B21/00
(21)【出願番号】P 2023539715
(86)(22)【出願日】2022-06-30
(86)【国際出願番号】 JP2022026204
(87)【国際公開番号】W WO2023013325
(87)【国際公開日】2023-02-09
【審査請求日】2023-10-17
(31)【優先権主張番号】P 2021127928
(32)【優先日】2021-08-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100179969
【氏名又は名称】駒井 慎二
(72)【発明者】
【氏名】篠山智生
【審査官】井上 徹
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-003198(JP,A)
【文献】特開2021-096359(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2021/0215537(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-21/74
G01J 3/00- 3/52
G02B 21/00-21/36
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長の異なる励起光をそれぞれ出射する複数の励起光源と、
選択された1つの前記励起光源からの励起光の照射によって試料から放射されるラマン散乱光を回折格子によって分光する分光器と、
前記分光器によって分光されたラマン散乱光を検出して光電変換する検出器と、
を備え、前記複数の励起光源は、試料から発せられる蛍光の波長とラマン散乱光の波長とが重ならないような励起光を出射するものが選択的に駆動される顕微ラマン分光装置であって、
前記分光器は、
前記選択的に駆動される励起光源の励起光に応じて放射されるラマン散乱光がそれぞれ入射する複数の入射開口と、
前記入射開口から入射するラマン散乱光を前記回折格子へと導く光学系と、
前記回折格子によって分光された複数のラマン散乱光の光束を前記検出器に結像する結像レンズと、を備え、
前記光学系は、前記入射開口の数だけ備えられ、
前記結像レンズは、前記回折格子によって分光された複数の光束が入射され、前記検出器に結像することを特徴とする顕微ラマン分光装置。
【請求項2】
前記入射開口と前記光学系及び前記回折格子は、前記励起光源と同数設けられていることを特徴とする請求項1に記載の顕微ラマン分光装置。
【請求項3】
前記結像レンズによって集光した光束を共通の前記検出器の検出面に結像させることを特徴とする請求項1~2に記載の顕微ラマン分光装置。
【請求項4】
前記各光学系は、前記入射開口から入射するラマン散乱光を反射させる反射ミラーと、該反射ミラーによって反射した光を平行化させて前記各回折格子にそれぞれ導くコリメータレンズを備えることを特徴とする請求項1~3の何れかに記載の顕微ラマン分光装置。
【請求項5】
前記反射ミラーを1つとして複数の前記光学系に共用したことを特徴とする請求項4に記載の顕微ラマン分光装置。
【請求項6】
前記励起光源として、波長532nmの励起レーザ光を出射するレーザ発振器と、波長785nmの励起レーザ光を出射するレーザ発振器を備えることを特徴とする請求項1~5の何れかに記載の顕微ラマン分光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顕微鏡の対物レンズを用いて励起光を集光させることによってμmオーダの高い空間分解能を得ることができる顕微ラマン分光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
物質(試料)に特定の波長の光(単色光やレーザ光など)を照射すると、その照射光が散乱され、その一部は、分子振動によって照射光の波長とは異なる微弱なラマン散乱光となる。このラマン散乱光の振動数は、分子の固有振動数に一致するため、試料を構成する分子の振動や回転に基づいた或る決まった波数(ラマンシフト)にラマン散乱光が現れる。このラマン散乱光を分光して得られるラマンスペクトルを検出することによって、試料の分子レベルの構造を解析する装置がラマン分光装置であって、このラマン分光装置は、励起光源と分光器及び検出器から構成されており、これについては今までに種々の提案がなされている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、ラマン分光装置の光学系に顕微鏡の対物レンズを用いて照射光(励起光)を集光させることによって、μmオーダの高い空間分解能を得ることができる顕微ラマン分光装置についての提案もなされている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
ところで、試料は、紫外線や可視光に対する大小様々な蛍光特性を有しているため、試料からは照射光に応じた蛍光が発せられる。ラマン分光法においては、試料の自家蛍光が強い場合には、ラマン散乱光と蛍光の波長同士が重なってしまい、ラマンスペクトルの非常に微弱なラマンピークが蛍光スペクトルに埋もれてしまうために試料の解析を高精度に行うことができないという問題が発生する。
【0005】
そこで、特許文献3には、試料に対する予備測定として蛍光観察を実行し、試料がどの励起波長のレーザ光に対してどんな波長の蛍光を発するのかを予測し、蛍光の波長とラマン散乱光の波長とが重ならないような励起レーザ光を選択することによって、試料の分析を高精度に行うことができる顕微ラマン分光装置が提案されている。具体的には、この顕微ラマン分光装置は、複数の励起レーザ光源と、これらの励起レーザ光源を切り替えるためのレーザ自動切替機を備え、分光器には、複数のアパーチャの中から最適なものに選択するアパーチャ切替手段、複数の回折格子の中から励起レーザ光に応じた適切なものに切り替える回折格子切替手段、複数のCCD検出器の中から励起レーザ光に応じた適切なものに切り替える検出器切替手段などが設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2006-113021号公報
【文献】特開2017-207522号公報
【文献】特許第6788298号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献3において提案された顕微ラマン分光装置においては、分光器に複数(励起レーザ光源の数と同数)のアパーチャ(入射開口)と回折格子及びCCD検出器を設け、これらを波長の異なる励起レーザ光に応じて切り替えるためのアパーチャ切替手段と回折格子切替手段及び検出器切替手段によって切り替える構成を採用しているため、分光器の構造が複雑化して大型化及び高コスト化を招くという問題がある。
【0008】
また、アパーチャや回折格子、検出器をそれぞれ物理的に切り替えるための各切替手段には可動部位がそれぞれ設けられているが、これらの可動部位の位置再現性などの問題が試料の解析結果に悪影響を及ぼす可能性もある。
【0009】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたもので、その目的は、分光器の構造単純化によって小型化と低コスト化を実現することができるとともに、試料を常に高精度で分析することができる顕微ラマン分光装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る顕微ラマン分光装置は、波長の異なる励起光をそれぞれ出射する複数の励起光源と、選択された1つの前記励起光源からの励起光の照射によって試料から放射されるラマン散乱光を回折格子によって分光する分光器と、前記分光器によって分光されたラマン散乱光を検出して光電変換する検出器と、を備えるものであって、前記分光器は、複数の入射開口と、前記入射開口から入射するラマン散乱光を前記回折格子へと導く光学系と、前記回折格子によって分光された複数のラマン散乱光の光束を前記検出器に結像する結像レンズと、を備え、前記光学系は、前記入射開口の数だけ備えられ、前記結像レンズは、前記回折格子によって分光された複数の光束が入射され、前記検出器に結像することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、分光器は、波長の異なる励起光を出射する複数の励起光源に対応して、これらの励起光源と同数の入射開口と、これらの入射開口の1つから入射するラマン光を回折格子へと導く複数(励起光源と同数)の光学系を備えているため、入射開口(アパーチャ)や回折格子を切り替えるための切替手段が不要となり、また、複数の光束を1つの結像レンズで検出器に結像できるため、分光器の構造が単純化して当該分光器の小型化と低コスト化を実現することができる。
【0012】
また、試料から発せられる蛍光の波長と重ならない波長の励起光を出射する励起光源を選択し、分光器においては、選択された励起光源に対応する光学系を用いてラマン散乱光をこれに対応する回折格子に導くことができる。このため、ラマン散乱光と蛍光の波長同士が重なってしまい、ラマンスペクトルの非常に微弱なラマンピークが蛍光スペクトルに埋もれてしまうという不具合の発生が防がれ、試料の解析を常に高精度に行うことができる。
【0013】
さらに、従来必要であったアパーチャや回折格子、検出器をそれぞれ物理的に切り替えるための各切替手段が不要となるため、該切替手段の可動部位の位置再現性などの問題によって試料の解析結果に悪影響が及ぶことがなく、このことによっても試料の解析を常に高精度に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明に係る顕微ラマン分光装置の全体構成を示す図である。
【
図2】本発明に係る顕微ラマン分光装置の分光器の内部構成を示す断面図である。
【
図3】シクロヘキサンのラマンスペクトルを示す図であって、(a)は励起波長532nmで励起した場合の図、(b)は励起波長785nmで励起した場合の図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0016】
図1は本発明に係る顕微ラマン分光装置の全体構成を示す図であり、図示の顕微ラマン分光装置1は、励起レーザ光L1又はL2が照射された試料Sから放射される微弱なラマン散乱光R1又はR2を分光して得られるラマンスペクトルによって試料Sの分子構造や物性などを分析するものであって、特に顕微鏡の対物レンズ6によって励起レーザ光L1又はL2を集光させることによって数μmオーダの局所的な分析が可能なものであり、以下のように構成されている。
【0017】
すなわち、
図1に示す顕微ラマン分光装置1は、励起光源としての2つのレーザ発振器2,3と、選択された一方のレーザ発振器2または3からの励起レーザ光L1またはL2の照射によって試料Sから放射されるラマン散乱光R1またはR2を分光する分光器10と、該分光器10によって分光されたラマン散乱光を波長(波数)ごとに検出して光電変換するCCD検出器20と、該CCD検出器20によって得られた信号をラマンシフト値(波数シフト値)に変換してラマンスペクトルとして表示するパーソナルコンピュータ(PC)30を基本的に備えている。また、この顕微ラマン分光装置1には、選択された一方のレーザ発振器2または3から出射する励起レーザ光L1またはL2を試料Sに照射するとともに、試料Sから放射される微弱なラマン散乱光R1またはR2を分光器10へと導く光学系Xが設けられている。
【0018】
前記2つのレーザ発振器2,3は、波長の異なる励起レーザ光L1,L2をそれぞれ出射するものであって、一方のレーザ発振器2は、波長532nmの励起レーザ光L1を出射し、他方のレーザ発振器3は、波長785nmの励起レーザ光L2を出射するものである。そして、これら2つのレーザ発振器2,3からそれぞれ出射する励起レーザ光L1またはL2を試料Sに照射するとともに、試料Sから放射されるラマン散乱光R1またはR2を分光器10へと導く光学系Xは、複数(7つ)の反射ミラー(平面ミラー)M1,M2,M3,M4,M5,M6,M7と、2つのロングパスフィルタLPF1,LPF2と、1つのダイクロイックミラーDMと、2つの集光レンズ4,5及び1つの顕微鏡用の対物レンズ6を含んで構成されている。
【0019】
次に、分光器10の内部構造の詳細を
図2に基づいて以下に説明する。
【0020】
図2は分光器の内部構成を示す断面図であり、図示の分光器10は、矩形ボックス状のケース11内に、2つ(レーザ発振器2,3と同数)の回折格子(グレーティング)12,13と、1つの結像レンズ14と、該ケース11の天面に形成された2つ(レーザ発振器2,3と同数)の入射開口11a,11bの一方から入射するラマン散乱光R1またはR2を一方の回折格子12または13へと導く2つの光学系I,IIを収容して構成されている。
【0021】
ここで、一方の光学系Iは、反射ミラー15と、コリメータレンズ16と、回折格子17を含んで構成されており、他方の光学系IIは、反射ミラー15とコリメータレンズ18を含んで構成されており、1つの反射ミラー15は、光学系I,IIに共用されている。このように1つの反射ミラー15を2つの光学系I,IIに共用することによって、分光器10の構成を単純化して該分光器10の小型・コンパクト化と低コスト化を図ることができる。また、結像レンズ14は、1つだけ設けられており、後述のように、光学系IまたはIIによって回折格子12または13へと導かれて分光されたラマン散乱光R1またはR2を共通の1つの結像レンズ14によって集光してCCD検出器20の検出面20aに結像させる構成を採用することによっても分光器10の構造を単純化して該分光器10の小型・コンパクト化と低コスト化を図ることができる。
【0022】
次に、以上のように構成された顕微ラマン分光装置1の作用について説明する。
【0023】
図1において、例えば、短波長側の一方のレーザ発振器2が選択され、このレーザ発振器2が駆動(点灯)された場合、このレーザ発振器2からは
図1に破線にて示す波長532nmの励起レーザ光L1が出射する。そして、この励起レーザ光L1は、反射ミラーM1,M2,M3によって順次反射してロングパスフィルタLPF1へと導かれ、このロングパスフィルタLPF1で反射して反射ミラーM4へと導かれ、この反射ミラーM4で反射した後にダイクロックミラーDMと反射ミラーM5,M6によって反射して試料Sに向けて照射される。ここで、試料Sに向かう波長532nmの励起レーザ光L1は、対物レンズ6によって集光され、これによってμmオーダの高い空間分解能を得ることができる。
【0024】
上述のように、一方のレーザ発振器2から出射する波長532nmの励起レーザ光L1が試料Sに照射されると、試料Sからは微弱なラマン散乱光R1が放射され、このラマン散乱光R1は、
図1に実線にて示すように、反射ミラー
M6、M5、ダイクロイックミラーDM、反射ミラーM4によって順次反射してロングパスフィルタLPF1に至る。そして、このラマン散乱光R1は、ロングパスフィルタLPF1
を透過して反射ミラーM7で反射した後に集光レンズ4によって集光され、分光器10のケース11に開口する一方の入射開口11aから当該分光器10の内部へと導入される。
【0025】
他方、長波長側の他方のレーザ発振器3が選択され、このレーザ発振器3が駆動(点灯)された場合、このレーザ発振器3からは
図1に破線にて示す波長785nmの励起レーザ光L2が出射する。そして、この励起レーザ光L2は、反射ミラーM2,M3によって順次反射してロングパスフィルタLPF2へと導かれる。その後、励起レーザ光L2は、ロングパスフィルタLPF2で反射し、ダイクロイックミラーDMを透過して反射ミラーM5へと至り、この反射ミラーM5と反射ミラーM6で順次反射して試料Sに向けて照射される。ここで、試料Sに向かう波長785nmの励起レーザ光L2は、対物レンズ6によって絞られ、これによってμmオーダの高い空間分解能(本実施の形態では、直径5μm)を得ることができる。
【0026】
上述のように、他方のレーザ発振器3から出射する波長785nmの励起レーザ光L2が試料Sに照射されると、該試料Sからは微弱なラマン散乱光R2が放射され、このラマン散乱光R2は、
図1に実線にて示すように、反射ミラーM6,M5で順次反射した後、ダイクロイックミラーDMとロングパスフィルタLPF2を順次透過して反射ミラーM7へと至る。そして、このラマン散乱光R2は、反射ミラーM7で反射した後に集光レンズ5によって集光され、分光器10のケース11に開口する他方の入射開口11bから分光器10の内部へと導入される。なお、波長が異なる励起レーザ光L1,L2をそれぞれ出射する2つのレーザ発振器2,3は、試料Sから発せられる蛍光の波長とラマン散乱光R1またはR2の波長とが重ならないような励起レーザ光L1またはL2を出射するものが選択され、選択された一方のレーザ発振器2または3が選択的に駆動(点灯)される。
【0027】
以上のようにしてラマン散乱光R1またはR2が入射開口11aまたは11bによって集光されて分光器10内へと導入されると、ラマン散乱光R1またはR2は、分光器10に設けられた
図2に示す光学系IまたはIIによって回折格子12または13に導かれて波長ごとに分光される。
【0028】
すなわち、
図2に示すように、一方の
入射開口11aを通過した一方のラマン散乱光R1が分光器10のケース11内へと導入されると、このラマン散乱光
R1は、光学系Iを構成する反射ミラー15によって反射した後、コリメータレンズ16を透過することによって平行化されて平行光束とされる。そして、この平行光束は、
回折格子17によって方向を変えられて回折格子12へと導かれ、この回折格子12を透過することによって波長ごとに分光される。
【0029】
他方、他方の入射開口11bを通過することによって集光された他方のラマン散乱光R2が分光器10のケース11内へと導入されると、このラマン散乱光R2は、光学系IIを構成する共通の反射ミラー15によって反射した後、コリメータレンズ18を透過することによって平行化されて平行光束とされる。そして、この平行光束は、回折格子13へと導かれ、この回折格子13を透過することによって波長ごとに分光される。
【0030】
ところで、本実施の形態では、試料S上に直径5μmの空間分解能を達成する一方で、分光器10の波長分解能は、最低限必要な値と得たいエネルギとの兼ね合いで0.3μm程度を選択している。この0.3μmの波長分解能に相当する入射開口11a,11bの直径は、本実施の形態では、約30μmとなるため、試料Sの直径5μmの領域からのラマン散乱光R1,R2を入射開口11a,11bにそれぞれ入射させるためには、試料Sから放射されるラマン散乱光R1,R2の直径を約6倍に拡大して入射開口11a,11bに結像させれば良い。このため、分光器10に入射するラマン散乱光R1,R2のF値はさほど小さくなくても良い(明るい光束を入射させる必要がない)。
【0031】
以上のように、ラマン散乱光R1またはR2が回折格子12又は13によって分光されると、分光されたラマン散乱光R1又はR2は、結像レンズ14によってCCD検出器20の検出面20aに結像される。すると、CCD検出器20は、分光されたラマン散乱光R1又はR2を波長(波数)ごとに検出して光電変換し、このCCD検出器20によって得られた信号がパーソナルコンピュータ(PC)30によってラマンシフト値(波数シフト値)に変換されてラマンスペクトルとして表示される。
【0032】
ところで、本実施の形態では、分光器10に入射するラマン散乱光R1,R2のF値は、約6であって、一般的な明るいラマン分光装置におけるF値2.3の6/2.3=2.6倍であることを考慮すると、ラマン散乱光R1,R2の平行光束は、1/2.6≒0.38と約40%弱程度と小さくて済む。このため、1つの結像レンズ14にラマン散乱光R1,R2をタンデムに入射させることができ、結像レンズ14の径を小さく抑えて該結像レンズ14の小型・コンパクト化を図ることができ、延いては分光器10全体の小型・コンパクト化を実現することができる。
【0033】
【0034】
図3はシクロヘキサンのラマンスペクトルを示す図であって、(a)は励起波長532nmで励起した場合の図、(b)は励起波長785nmで励起した場合の図である。なお、
図3(a),(b)に示すラマンスペクトルの横軸はラマンシフト(cm
-1)、縦軸はラマン強度である。
【0035】
図3(a),(b)から明らかなように、励起波長532nmで励起した場合と励起波長785nmで励起した場合の何れにおいても、同ラマンシフト(波数)においてラマン強度のピークが現れるが、励起波長によって強度比が異なり、励起波長785nmで励起した方が励起波長532nmで励起したよりも高い強度ピーク値を示す。
【0036】
以上の説明で明らかなように、本実施の形態に係る顕微ラマン分光装置1によれば、分光器10は、波長の異なる励起レーザ光を出射する2つのレーザ発振器2,3に対応して、これらのレーザ発振器2,3と同数の2つの入射開口11a,11bと、これらの入射開口11a、11bの1つから入射するラマン散乱光R1又はR2を回折格子12又は13へと導く複数(レーザ発振器2,3と同数)の2つ光学系I,IIを備えているため、入射開口11a,11bや回折格子12,13を切り替えるための切替手段が不要となり、結果的に分光器10の構造が単純化して当該分光器10の小型化と低コスト化が実現される。
【0037】
また、試料Sから発せられる蛍光の波長と重ならない波長の励起レーザ光L1,L2を出射するレーザ発振器2,3を選択し、分光器10においては、選択されたレーザ発振器2又は3に対応するは光学系IまたはIIを用いてラマン散乱光R1又はR2をこれに対応する回折格子12又は13に導くことができる。このため、ラマン散乱光R1,R2と蛍光の波長同士が重なってしまい、ラマンスペクトルの非常に微弱なラマンピークが蛍光スペクトルに埋もれてしまうという不具合の発生が防がれ、試料Sの解析を常に高精度に行うことができる。
【0038】
さらに、従来必要であった入射開口11a,11bや回折格子12,13、CCD検出器20をそれぞれ物理的に切り替えるための各切替手段が不要となるため、該切替手段の可動部位の位置再現性などの問題によって試料Sの解析結果に悪影響が及ぶことがなく、このことによっても試料Sの解析を常に高精度に行うことができる。
【0039】
なお、以上の実施の形態においては、波長の異なる励起レーザ光L1,L2をそれぞれ出射する2つのレーザ発振器2,3を備える顕微ラマン分光装置1に対して本発明を適用した形態について説明したが、本発明は、波長の異なる励起レーザ光を出射する3つ以上のレーザ発振器を備える顕微ラマン分光装置に対しても同様に適用可能である。
【0040】
また、以上の実施の形態では、波長の異なる励起レーザ光として、波長532nmの励起レーザ光L1と波長785nmのレーザ光L2を例として説明したが、レーザ光の波長としては他の任意の波長(例えば、488nm、633nmなど)を選択することができる。
【0041】
さらに、励起光源としては、励起レーザ光を出射するレーザ発振器の他、レーザ光以外の単色光を出射する他の任意の励起光源を用いることができる。
【0042】
その他、本発明は、以上説明した実施の形態に適用が限定されるものではなく、特許請求の範囲及び明細書と図面に記載された技術的思想の範囲内で種々の変形が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0043】
1 顕微ラマン分光装置
2,3 レーザ発振器(励起光源)
4,5 集光レンズ
6 対物レンズ
10 分光器
11 分光器のケース
11a,11b 入射開口
12,13,17 回折格子
14 結像レンズ
15 反射ミラー
16,18 コリメータレンズ
20 CCD検出器(検出器)
20a CCD検出器の検出面
30 パーソナルコンピュータ(PC)
I,II 光学系
DM ダイクロイックミラー
L1,L2 励起レーザ光(励起光)
M1~M7 反射ミラー
R1,R2 ラマン散乱光
S 試料
X 光学系