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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】スイッチング電源装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 3/28 20060101AFI20241106BHJP
   H02M 3/155 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
H02M3/28 Y
H02M3/28 E
H02M3/155 Y
H02M3/155 E
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2023539720
(86)(22)【出願日】2022-07-05
(86)【国際出願番号】 JP2022026657
(87)【国際公開番号】W WO2023013343
(87)【国際公開日】2023-02-09
【審査請求日】2024-01-18
(31)【優先権主張番号】P 2021126369
(32)【優先日】2021-08-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000970
【氏名又は名称】弁理士法人 楓国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】細谷 達也
(72)【発明者】
【氏名】高辻 寛之
(72)【発明者】
【氏名】石倉 祐樹
【審査官】武内 大志
(56)【参考文献】
【文献】特許第6851554(JP,B1)
【文献】特開2017-184328(JP,A)
【文献】国際公開第2020/202797(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/147492(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/130874(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 3/28
H02M 3/155
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流入力電源の入力部と、直流電力の出力部と、DC-DCコンバータと、ノイズ低減回路と、が設けられた回路基板を備えるスイッチング電源装置において、
前記DC-DCコンバータは、入力キャパシタと、スイッチング回路と、出力平滑キャパシタと、を備え、
前記ノイズ低減回路は、前記回路基板に実装され、2つの入力端子及び2つの出力端子を有する表面実装型のコモンモードチョークコイルを備え、
前記コモンモードチョークコイルの前記2つの入力端子は、第1回路パターンを通して前記入力部の正極と負極とにそれぞれ電気的に接続され、
前記コモンモードチョークコイルの前記2つの出力端子は、第2回路パターンを通して前記入力キャパシタの2つの端子にそれぞれ電気的に接続され、
前記入力キャパシタの2つの端子は第3回路パターンを通して前記スイッチング回路の2つの入力端にそれぞれ接続され、
前記回路基板は、前記スイッチング回路のスイッチング動作によりスイッチング電流が流れる複数の電流経路として前記第1回路パターン、前記第2回路パターンおよび前記第3回路パターンを含み、
前記第2回路パターンの経路長は前記第3回路パターンの経路長よりも長く、
前記複数の電流経路のうち、前記第3回路パターンの経路長は、他の電流経路の経路長に比べて最も短く、
前記第1回路パターンが互いに並行に対面することで形成される第1寄生容量と、
前記第2回路パターンが互いに並行に対面することで形成される第2寄生容量と、
前記第1寄生容量、前記コモンモードチョークコイル及び前記第2寄生容量によるフィルタを有するノイズ平衡回路と、を備えることを特徴とする、スイッチング電源装置。
【請求項2】
前記第2寄生容量は、前記コモンモードチョークコイルの前記2つの出力端子と前記入力キャパシタとの間に位置して、前記2つの出力端子とフレームグランドとにそれぞれ接続された、
請求項1に記載のスイッチング電源装置。
【請求項3】
前記第2寄生容量と前記フレームグランドとは容量性素子又はインピーダンス素子を通して電気的に接続されている、
請求項2に記載のスイッチング電源装置。
【請求項4】
前記スイッチング回路は前記回路基板の一方主面に配置され、
前記入力キャパシタは前記回路基板の他方主面に配置され、
前記入力キャパシタ及び前記スイッチング回路に流れる電流ループの面は前記回路基板の他方主面に形成された回路部を流れる電流経路に対して非並行であり、
前記入力キャパシタは、前記回路基板上において前記スイッチング回路の一端の接続部と他端の接続部とに直接的に接続された、
請求項1に記載のスイッチング電源装置。
【請求項5】
前記DC-DCコンバータは、昇圧型、降圧型又は昇降圧型の非絶縁形コンバータである、
請求項1に記載のスイッチング電源装置。
【請求項6】
前記DC-DCコンバータは絶縁形コンバータである、
請求項1に記載のスイッチング電源装置。
【請求項7】
前記回路基板を収納する金属筐体を備え、
前記出力部の負極は前記金属筐体に接続された、
請求項1に記載のスイッチング電源装置。
【請求項8】
前記回路基板は前記金属筐体に導通するグランド電極層を備える、
請求項7に記載のスイッチング電源装置。
【請求項9】
前記金属筐体はフレームグランドに接続される、
請求項7又は8に記載のスイッチング電源装置。
【請求項10】
前記ノイズ低減回路は前記入力部と前記入力キャパシタとの間に位置し、前記回路基板において前記入力部と前記DC-DCコンバータとの間に直線的に配置された、
請求項1に記載のスイッチング電源装置。
【請求項11】
前記ノイズ低減回路は、前記入力部の正極及び前記入力部の負極を対とする対称形である、
請求項1に記載のスイッチング電源装置。
【請求項12】
前記入力部の正極、負極及び前記入力キャパシタの正極、負極の導体パターンは前記コモンモードチョークコイルの実装ランドに比べて大きい、
請求項1に記載のスイッチング電源装置。
【請求項13】
前記入力部の正極及び前記入力キャパシタの正極の面積に対して前記入力部の負極及び前記入力キャパシタの負極の面積が大きい、
請求項1に記載のスイッチング電源装置。
【請求項14】
前記入力部の正極、前記入力キャパシタの正極、前記入力部の負極及び前記入力キャパシタの負極は、複数のスルーホール導体を通して前記回路基板の複数の導体層にそれぞれ接続されている、
請求項1に記載のスイッチング電源装置。
【請求項15】
前記コモンモードチョークコイルを複数備える、
請求項1に記載のスイッチング電源装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直流入力電源の入力部、DC-DCコンバータ及びノイズ低減回路が設けられた回路基板を備えるスイッチング電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、スイッチング回路、絶縁トランス、整流部、フィルタ部を有するスイッチング電源装置が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-212623号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、絶縁トランスを備えたDC-DCコンバータでは、絶縁トランスの1次巻線と2次巻線との間に形成される寄生容量により、スイッチング素子がターンオンまたはターンオフした際に急峻な電圧変化が発生するので、直流電圧の出力ラインにコモンモードのノイズ電流が流れる。このノイズ電流は、出力部に接続される低電圧バッテリなどに到達すると、この低電圧バッテリに接続されている他の電子機器に対して電磁干渉を引き起こす。
【0005】
上記ノイズ電流は出力部の負極を通して金属筐体およびフレームグランドを流れる。また、スイッチング素子と金属筐体との間に形成される浮遊容量により、スイッチング素子がターンオンまたはターンオフした際に、急峻な電圧変化が発生し、金属筐体およびフレームグランドにコモンモードのノイズ電流が流れる。これらのノイズ電流が、フレームグランドとワイヤーハーネスとの間などに形成される浮遊容量を通して、入力部に接続されている高電圧バッテリなどに到達すると、この高電圧バッテリに接続されている他の電子機器に対して電磁干渉を引き起こす。
【0006】
特許文献1に記載のスイッチング電源装置では、入力部側の電磁干渉対策のため、直流入力ラインにコモンモードチョークコイルが設けられ、出力部側の電磁干渉対策のために、直流出力ラインにチョークコイルとキャパシタによるフィルタ回路が設けられている。
【0007】
一方、ノイズの周波数帯においてコモンモードチョークコイルやチョークコイルのインピーダンスを大きくするには、コイルの巻数を増やす必要がある。しかし、そのことによりコイルの巻線に起因する銅損による電力損失は大きくなり、電力変換効率の低下を招く。また、コモンモードチョークコイルの電力損失が大きくなると、コモンモードチョークコイルを構成するコアがキュリー温度に近づくことによって、コモンモードチョークコイルのインピーダンスが低下すると、EMIノイズが大きくなる場合がある。
【0008】
そこで、本発明の目的は、DC-DCコンバータとノイズ低減回路とを備えたスイッチング電源装置において、スイッチング素子のスイッチング動作により発生するコモンモードノイズを抑制させたスイッチング電源装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の一例としてのスイッチング電源装置は、
直流入力電源の入力部と、直流電力の出力部と、DC-DCコンバータと、ノイズ低減回路と、が設けられた回路基板を備える、
前記DC-DCコンバータは、入力キャパシタと、スイッチング回路と、出力平滑キャパシタと、を備え、
前記ノイズ低減回路は、前記回路基板に実装され、2つの入力端子及び2つの出力端子を有する表面実装型のコモンモードチョークコイルを備え、
前記コモンモードチョークコイルの前記2つの入力端子は、第1回路パターンを通して前記入力部の正極と負極とにそれぞれ電気的に接続され、
前記コモンモードチョークコイルの前記2つの出力端子は、第2回路パターンを通して前記入力キャパシタの2つの端子にそれぞれ電気的に接続され、
前記入力キャパシタの2つの端子は第3回路パターンを通して前記スイッチング回路の2つの入力端にそれぞれ接続され、
前記回路基板は、前記スイッチング回路のスイッチング動作によりスイッチング電流が流れる複数の電流経路として前記第1回路パターン、前記第2回路パターンおよび前記第3回路パターンを含み、
前記第2回路パターンの経路長は前記第3回路パターンの経路長よりも長く、
前記複数の電流経路のうち、前記第3回路パターンの経路長は、他の電流経路の経路長に比べて最も短く、
前記第1回路パターンが互いに並行に対面することで形成される第1寄生容量と、
前記第2回路パターンが互いに並行に対面することで形成される第2寄生容量と、
前記第1寄生容量、前記コモンモードチョークコイル及び前記第2寄生容量によるフィルタを有するノイズ平衡回路と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、多層回路基板の構造を用いて形成する寄生容量を用いてノイズ平衡回路が形成されることで、寄生容量による等価キャパシタンスにより部品数が削減され、ノイズ平衡回路において、スイッチング素子のスイッチング動作により発生するノイズを相殺して平衡化し、コモンモードノイズの発生を抑制したスイッチング電源装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は第1の実施形態に係るスイッチング電源装置101の回路図である。
図2図2は第1の実施形態に係るスイッチング電源装置101に流れるノイズ電流の経路を示す図である。
図3図3はコモンモードチョークコイルの斜視図である。
図4図4はスイッチング電源装置の回路基板上の構成を示す斜視図である。
図5図5(A)、図5(B)、図5(C)は、第2の実施形態に係るスイッチング電源装置の、特に基板に対するスイッチング素子Q1,Q2及び入力キャパシタCiの実装構造を示す図である。
図6図6は、第3の実施形態に係るスイッチング電源装置103Aの回路図である。
図7図7は第3の実施形態に係る別のスイッチング電源装置103Bの回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以降、図を参照して幾つかの具体的な例を挙げて、本発明を実施するための複数の形態を示す。各図中には同一箇所に同一符号を付している。要点の説明又は理解の容易性を考慮して、実施形態を説明の便宜上、複数の実施形態に分けて示すが、異なる実施形態で示した構成の部分的な置換又は組み合わせは可能である。第2の実施形態以降では第1の実施形態と共通の事柄についての記述を省略し、異なる点についてのみ説明する。特に、同様の構成による同様の作用効果については実施形態毎には逐次言及しない。
【0013】
《第1の実施形態》
図1は第1の実施形態に係るスイッチング電源装置101の回路図である。スイッチング電源装置101は、直流入力電源の入力部Pin1,Pin2と、直流電力の出力部Pout1,Pout2と、DC-DCコンバータ2と、ノイズ低減回路1と、が設けられた回路基板を備える。
【0014】
DC-DCコンバータ2は、入力キャパシタCi、スイッチング素子Q1,Q2によるスイッチング回路、キャパシタC1,C2、平滑コイルSC、絶縁トランスTR、ダイオードD1,D2、出力平滑キャパシタCo及びチョークコイルCCを含んで構成されている。
【0015】
ノイズ低減回路1は、上記回路基板に実装され、2つの入力端子Ti1,Ti2及び2つの出力端子To1,To2を有する表面実装型のコモンモードチョークコイルCMCCを備える。
【0016】
コモンモードチョークコイルCMCCの2つの入力端子Ti1,Ti2は、第1回路パターンPP11,PP12を通して入力部の正極(Pin1)と負極(Pin2)とにそれぞれ電気的に接続されている。第1回路パターンPP11,PP12の間にはXキャパシタCxが設けられている。また、入力キャパシタCiの両端とフレームグランドFGとの間にはYキャパシタCy1,Cy2が設けられている。
【0017】
コモンモードチョークコイルCMCCの2つの出力端子To1,To2は、第2回路パターンPP21,PP22を通して入力キャパシタCiの2つの端子にそれぞれ電気的に接続されている。
【0018】
入力キャパシタCiの2つの端子は第3回路パターンCP1,CP2を通して、スイッチング素子Q1,Q2によるスイッチング回路の2つの入力端にそれぞれ接続されている。
【0019】
スイッチング素子Q1,Q2の接続点と絶縁トランスTRの1次巻線の一端との間に平滑コイルSCが接続されていて、絶縁トランスTRの1次巻線の他端はキャパシタC1,C2を通して第2回路パターンPP21,PP22に接続されている。
【0020】
絶縁トランスTRの2次巻線にはダイオードD1,D2及び出力平滑キャパシタCo及びチョークコイルCCが接続されている。
【0021】
以下、スイッチング電源装置101の動作について示す。直流入力電源PSは例えばリチウムイオン電池であり、例えば数百V程度(200Vから600V程度)の高電圧バッテリであり、その直流電圧が入力部Pin1,Pin2に入力される。スイッチング素子Q1,Q2はスイッチング制御回路からの制御信号によって制御され、スイッチング素子Q1とスイッチング素子Q2は交互にオン/オフされる。このスイッチング素子Q1,Q2によるスイッチング回路の出力電圧は絶縁トランスTRの一次巻線に印加され、スイッチング回路の出力電流は絶縁トランスTRの一次巻線に流れる。ダイオードD1,D2は絶縁トランスTRの二次巻線の出力電流を整流する。ダイオードD1,D2は本発明に係る整流素子の一例である。出力平滑キャパシタCoはダイオードD1,D2による整流電圧を平滑する。チョークコイルCCは出力平滑キャパシタCoと出力部Pout1,Pout2との間に流れる電流を平滑化する。負荷Loは例えば鉛蓄電池であり、例えば12V程度の低電圧バッテリである。
【0022】
上記回路基板はスイッチング回路のスイッチング動作によりスイッチング電流が流れる複数の電流経路を備える。スイッチング素子Q1,Q2及び入力キャパシタCiは、第3回路パターンCP1,CP2を含む電流ループを形成する。そして、第2回路パターンPP21,PP22の経路長は第3回路パターンCP1,CP2の経路長よりも長い。また、上記複数の電流経路のうち、第3回路パターンCP1,CP2の経路長は、他の電流経路の経路長に比べて最も短い。
【0023】
上記XキャパシタCxは、第1回路パターンPP11,PP12が互いに並行に対面して生じる寄生容量であり、本発明に係る「第1寄生容量」に対応する。また、上記YキャパシタCy1,Cy2は、第2回路パターンPP21,PP22が互いに並行に対面して生じる寄生容量であり、本発明に係る「第2寄生容量」に対応する。
【0024】
上記XキャパシタCx、コモンモードチョークコイルCMCC及びYキャパシタCy1、Cy2により、C-L-Cのπ型ローパスフィルタが形成される、このローパスフィルタによりノイズが低減される。特に、第2寄生容量はコモンモードノイズを低減する。
【0025】
図1に示す例では、YキャパシタCy1,Cy2とフレームグランドFGとを直接接続しているが、このYキャパシタCy1,Cy2とフレームグランドFGとは容量性素子又はインピーダンス素子を通して電気的に接続してもよい。そのことにより、フレームグランドFGの材質や構造に適用した効果的なノイズ低減効果が得られる。
【0026】
直流入力電源PSには、この直流入力電源PSから電力供給を受けて高電圧で動作する他の電子機器が接続されている。この他の電子機器は例えばインバータやモータである。また、負荷Loは低電圧バッテリであり、この低電圧バッテリから又はスイッチング電源装置101から電力供給を受ける。この他の電子機器は、上記低電圧で動作する例えばカーナビゲーションシステムや無線通信装置である。
【0027】
本実施形態のスイッチング電源装置101では、図1に示したように、回路基板はスイッチング回路のスイッチング動作によりスイッチング電流が流れる複数の電流経路を備える。そして、第2回路パターンPP21,PP22の経路長は第3回路パターンCP1,CP2の経路長よりも長い。また、上記複数の電流経路のうち、第3回路パターンCP1,CP2の経路長は、他の電流経路の経路長に比べて最も短い。このことにより、ノイズ発生源であるスイッチング素子Q1,Q2のスイッチングにより発生するコモンモードノイズ電流は、スイッチング素子Q1,Q2及び入力キャパシタCiによる電流ループを流れる。この電流ループの一部である第3回路パターンCP1,CP2の経路長は、他の電流経路の経路長に比べて最も短い。したがって、この電流ループから生じるコモンモードノイズは充分に抑制される。
【0028】
次に、ノイズ低減回路1の作用について説明する。図2は第1の実施形態に係るスイッチング電源装置101に流れるノイズ電流の経路を示す図である。
【0029】
図2において、直流入力電源PSには、この直流入力電源PSから電力供給を受ける他の電子機器201が接続されている。この他の電子機器201は高電圧で動作する、例えばインバータやモータである。また、この例では、負荷Loは低電圧バッテリであり、この低電圧バッテリから又はスイッチング電源装置101から電力供給を受ける他の電子機器202が接続されている。この他の電子機器202は上記低電圧で動作する、例えばカーナビゲーションシステムや無線通信装置である。
【0030】
スイッチング電源装置101は、フレームグランドFGに導通する金属筐体内に設けられている。スイッチング電源装置101を構成する回路基板のグランドパターンは金属筐体を通してフレームグランドFGに導通している。すなわち、スイッチング電源装置101の出力部の負極Pout2は金属筐体に接続されている。このことにより、フィードバック制御回路の動作が安定し、ノイズ低減効果が高い。
【0031】
他の電子機器201とフレームグランドFGとの間に寄生容量Cs1、スイッチング素子Q1,Q2と金属筐体との間に寄生容量Cs2がそれぞれ形成されている。
【0032】
上述のとおり、他の電子機器201はインバータやモータであり、絶縁体シートを通して電気的に絶縁状態且つ熱的に伝導状態でフレームグランドFGに搭載されている。この絶縁体シートを介在する部分に寄生容量Cs1が生じる。
【0033】
スイッチング素子Q1,Q2は、発生する熱を金属筐体及びフレームグランドFGに放熱するため絶縁体シートを通して金属筐体に対して熱的に結合している。この絶縁体シートを介在する部分に上記寄生容量Cs2が生じる。
【0034】
従来の回路構成では、ノイズ発生源であるスイッチング素子Q1,Q2からのコモンモードノイズ電流は寄生容量Cs2,Cs1及びフレームグランドFGを経由して他の電子機器201に流れる。このことにより、他の電子機器201に電磁干渉を引き起こす。また、フレームグランドFGに流れるコモンモードノイズ電流により高周波磁界が発生し、移動体から外部へ電磁ノイズが放射される。そのことにより、外部の移動体や外部の電子機器に電磁干渉を引き起こす。
【0035】
また、コモンモードノイズ電流の経路において、コモンモードノイズ電流が流れることによるジュール損失が生じる。したがって、この損失分による電力変換効率の低下も生じる。
【0036】
一方、本実施形態のスイッチング電源装置101では、図2に示すように、ノイズ発生源であるスイッチング素子Q1,Q2からのコモンモードノイズ電流は寄生容量Cs2及びフレームグランドFGを経由してYキャパシタCy1,Cy2を経由して還流する。このことにより、ノイズ電流が入力部Pin1,Pin2に到達せず、他の電子機器201に対する電磁干渉が防止される。
【0037】
XキャパシタCxとYキャパシタCy1,Cy2との間にコモンモードチョークコイルCMCCが設けられているので、XキャパシタCx、コモンモードチョークコイルCMCC及びYキャパシタCy1,Cy2により、コモンモードノイズに対するローパスフィルタが形成され、このローパスフィルタによって、電子機器201に対するノイズ電流が抑制される。
【0038】
本実施形態のスイッチング電源装置の他の特徴的な作用効果について次に述べる。
【0039】
(a)図1で表現したとおり、コモンモードチョークコイルCMCCと入力キャパシタCiとの間に、YキャパシタCy1,Cy2が電気的に接続されている。このことにより、コモンモードチョークコイルCMCCとYキャパシタCy1,Cy2とで2つのローパスフィルタが構成されて、ノイズ低減効果が大きい。
【0040】
(b)スイッチング素子Q1,Q2によるスイッチング回路は多層回路基板の一方主面に配置され、入力キャパシタCiは多層回路基板の他方主面に配置される(第2の実施形態、図5(A)、図5(B)、図5(C)を参照)。入力キャパシタCi及びスイッチング回路に流れる電流ループの面は多層回路の他の回路部を流れる電流経路に対して非並行であって、入力キャパシタCiは、多層回路基板上のスイッチング回路の一端の接続部と他端の接続部とに最短となるように、例えば、1または複数のスルーホール導体を通して直接的に接続されている。このことにより、スイッチング回路と入力キャパシタCiとに流れる電流経路の経路長を他の電流経路の経路長に比べて最も短くできる。
【0041】
(c)YキャパシタCy1,Cy2の接続点は、フレームグランドFGに電気的に接続されているので、YキャパシタCy1,Cy2はコモンモードノイズを効率的に低減する。
【0042】
(d)YキャパシタCy1,Cy2の接続点は、フレームグランドFGに電気的に接続されている。このことによりコモンモードノイズ電流の低減効果が高い。なお、容量性素子又はインピーダンス素子を通して、電気的にフレームグランドに接続してもよい。
【0043】
(e)直流電力の出力部Pout1,Pout2のうちの負極(Pout2)は、スイッチング電源装置101の筐体のフレームグランドFGと同電位である。このことにより、出力電圧を検出して、スイッチング素子Q1、Q2のスイッチング動作を制御することで出力電圧を所定値に安定化させる「フィードバック制御回路(図示を省略する。)」の動作が安定し、ノイズ低減効果が高い。
【0044】
(f)ノイズ低減回路1は直流入力電源PSと入力キャパシタCiとの間に位置して、回路基板において入力部Pin1,Pin2とDC-DCコンバータ2との間に直線的に配置されている(第2の実施形態、図4を参照)。この構成では、回路を構成する複数の電子部品などにおいて、電磁干渉によるノイズの飛びつきを低減できるといった作用によりノイズ低減効果が大きい。
【0045】
(g)ノイズ低減回路1は、正極と負極に対して対称となる構成であるので、コモンモードノイズの打ち消し効果が大きく、コモンモードノイズの発生が抑制される。
【0046】
(h)ノイズ低減回路1は、その正極及び負極のパターンがコモンモードチョークコイルを実装するための部品実装ランドに比べて十分に大きい。このことにより、コモンモードチョークコイルにおける発熱の放熱性が高い。
【0047】
(i)回路基板は、フレームグランド層を備えるので、ノイズ低減効果が高く、また、電力変換動作が安定化する。
【0048】
(j)入力部Pin1,Pin2の正極及び入力キャパシタCiの正極の面積に対して入力部Pin1,Pin2の負極及び入力キャパシタCiの負極の面積が大きいので、スイッチング制御回路のノイズ耐量が高まり、スイッチング電源装置の動作上の安定性が高い。
【0049】
(k)フレームグランドFGをDC-DCコンバータの出力部の負極と同電位とすることにより、シンプルな構造でノイズ平衡回路を構成することができ、ノイズ低減効果が高い。
【0050】
(l)金属筐体を備え、それがフレームグランドFGと同電位となるように接続されているので、ノイズ低減効果が高い。
【0051】
(m)回路基板を用いたノイズ低減回路1により形成されるノイズ平衡回路により、スイッチング素子Q1,Q2におけるスイッチング動作により発生するコモンモードノイズが相殺されて平衡化され、ノイズ低減効果を高めることができる。
【0052】
(n)コモンモードノイズが相殺されて平衡化され、ノイズ低減効果を高めることができるとともに高い放熱特性が得られる。つまり、ノイズ低減効果と放熱効果を同時に実現できる。
【0053】
(o)回路基板における正極と負極のパターンによる寄生容量を利用するので、実装部品としてのキャパシタの数を削減し、小型軽量化が可能となる。
【0054】
(p)回路基板を用いた寄生容量をローパスフィルタのキャパシタとして用いるので、ノイズ低減効果が高い。
【0055】
《第2の実施形態》
第2の実施形態では、特にスイッチング電源装置の回路基板の構造について例示する。
【0056】
図3はコモンモードチョークコイルの斜視図である。図4はスイッチング電源装置の回路基板上の構成を示す斜視図である。
【0057】
図3に示すように、コモンモードチョークコイルCMCCは直方体状であり、下面に4つの端子Ti1,Ti2,To1,To2を形成している。このコモンモードチョークコイルCMCCは、樹脂ケースの内部に、リング状の磁性体コアと、その磁性体コアを巻回する導電体によるトロイダルコイルとを備える。
【0058】
図4に示すように、回路基板PWBには、直流入力電源の入力部Pin1,Pin2のコネクタ、XキャパシタCx、コモンモードチョークコイルCMCC、YキャパシタCy1,Cy2及びDC-DCコンバータ2を設けている。入力部の正極(Pin1)、入力キャパシタCiの正極、入力部の負極(Pin2)及び入力キャパシタCiの負極は、複数のスルーホール導体を通して回路基板PWBの複数の導体層にそれぞれ接続されている。このスイッチング電源装置の回路構成は第1の実施形態で示したとおりである。この構成により、放熱性が高く、また、導体損失が低減できる。
【0059】
図5(A)、図5(B)、図5(C)は、第2の実施形態に係るスイッチング電源装置の、特に基板に対するスイッチング素子Q1,Q2及び入力キャパシタCiの実装構造を示す図である。図5(A)は、入力キャパシタCi、スイッチング素子Q1,Q2が実装された回路基板PWBの側方から視た斜視図である。図5(B)は、回路基板PWBの平面図、図5(C)は回路基板PWBの下面図である。
【0060】
入力キャパシタCiは、並列接続された3つのチップキャパシタで構成され、それぞれ回路基板PWBの下面に実装されている。スイッチング素子Q1,Q2は回路基板PWBの上面に実装されている。入力キャパシタCiと、スイッチング素子Q1,Q2とは、回路基板PWBの平面視で重なる位置関係にある。
【0061】
図5(A)、図5(B)、図5(C)において、矢印は、入力キャパシタCi、スイッチング素子Q1,Q2からなる接続ループに流れる電流の経路を概念的に示している。
【0062】
このように、スイッチング素子Q1,Q2が回路基板PWBの一方主面に実装され、入力キャパシタCiが回路基板PWBの他方主面に実装されることにより、また、入力キャパシタCiと、スイッチング素子Q1,Q2とは、回路基板PWBの平面視で少なくとも一部で重なることにより、入力キャパシタCi及びスイッチング回路に流れる電流ループの面は回路基板PWBの他方主面に形成された回路部を流れる電流経路に対して非並行となる。また、入力キャパシタCiは、回路基板PWB上においてスイッチング回路の一端の接続部と他端の接続部とに最短となるように直接的に接続されるので、入力キャパシタCi、スイッチング素子Q1,Q2からなる接続ループに流れる電流の経路は極めて短くなる。
【0063】
また、本実施形態によれば、入力キャパシタCi、スイッチング素子Q1,Q2からなる接続ループのループ面が回路基板PWBの面方向(側方)を向くので、回路基板PWBに実装されている他の部品とは磁界結合し難い。そのため、不要な結合によるノイズの伝搬や輻射が殆ど無い。
【0064】
なお、入力キャパシタCiは必ずしも回路基板の表面に実装されていなくてもよく、例えば、回路基板PWBを多層基板で構成し、この多層基板内に入力キャパシタCiを形成してもよい。
【0065】
《第3の実施形態》
第3の実施形態では、入力部とスイッチング回路との間の構成が第1の実施形態で示した例とは異なるスイッチング電源装置について例示する。
【0066】
図6は、第3の実施形態に係るスイッチング電源装置103Aの回路図である。スイッチング電源装置103Aは、直流入力電源の入力部Pin1,Pin2と、直流電力の出力部Pout1,Pout2と、DC-DCコンバータ2と、ノイズ低減回路1と、が設けられた回路基板を備える。
【0067】
スイッチング電源装置103Aは、図1に示したスイッチング電源装置101に比べて、YキャパシタCy1,Cy2と入力キャパシタCiとの間に第2コモンモードチョークコイルCMCC2を備える点で異なる。この第2コモンモードチョークコイルCMCC2はノイズ低減回路の一部である。
【0068】
例えば、第1コモンモードチョークコイルCMCC1及び第2コモンモードチョークコイルCMCC2の一方の自己共振周波数は0.53MHz以上1.8MHz以下であり、他方の自己共振周波数は76MHz以上108MHz以下である。このような構成によれば、AMラジオ放送周波数帯(0.53MHz~1.8MHz)およびFMラジオ放送周波数帯(76MHz~108MHz)において、直流入力電源PSに接続されている他の電子機器201へのノイズ電流の伝搬を効果的に抑制して、他の電子機器201との電磁干渉を低減できる。
【0069】
図7は第3の実施形態に係る別のスイッチング電源装置103Bの回路図である。
【0070】
スイッチング電源装置103Bも、図6に示したスイッチング電源装置103Aと同様に、入力部Pin1,Pin2と入力キャパシタCiとの間で、入力部Pin1,Pin2の正極と負極との間に接続したXキャパシタCxと、XキャパシタCxと入力キャパシタCiとの間で、入力部Pin1,Pin2の正極と金属筐体及びフレームグランドFGとの間、入力部Pin1,Pin2の負極と金属筐体及びフレームグランドFGとの間にそれぞれ接続したYキャパシタCy1,Cy2を備える。
【0071】
図7に示すスイッチング電源装置103Bでは、YキャパシタCy1,Cy2と第1コモンモードチョークコイルCMCC1との間に第2コモンモードチョークコイルCMCC2を備える。例えば、第1コモンモードチョークコイルCMCC1及び第2コモンモードチョークコイルCMCC2の一方の自己共振周波数は0.53MHz以上1.8MHz以下であり、他方の自己共振周波数は76MHz以上108MHz以下である。このような構成でも、直流入力電源PSに接続されている他の電子機器201へのノイズ電流の伝搬を効果的に抑制して、他の電子機器201との電磁干渉を低減できる。
【0072】
このように、面実装型のコモンモードチョークコイルCMCCを複数備えることにより、複数のπ型フィルタが構成され、高いノイズ低減効果が得られる。また、複数の特定周波数のノイズを低減できる。
【0073】
以上に示した実施形態以外に次のような構成のスイッチング電源装置を構成することもできる。
【0074】
図1図2に示した例では、絶縁トランスTRの出力を整流する整流素子をダイオードD1,D2で構成したが、スイッチング素子Q1,Q2と同期してスイッチングされる同期整流素子で構成してもよい。このことにより、整流素子での損失を低減できる。例えば、スイッチング電源装置101が電動車両に搭載されたDC-DCコンバータであるような場合に、DC-DCコンバータでの損失を低減できる。
【0075】
また、図1図2では、降圧型のDC-DCコンバータ2を備えるスイッチング電源装置について例示したが、昇圧型のDC-DCコンバータや昇降圧型のDC-DCコンバータを備えるスイッチング電源装置についても本発明は同様に適用できる。また、図1図2等では、絶縁トランスTRを備える絶縁型のDC-DCコンバータ2を備えるスイッチング電源装置について例示したが、非絶縁型のDC-DCコンバータを備えるスイッチング電源装置についても本発明は同様に適用できる。
【0076】
最後に、本発明は上述した各実施形態に限られるものではない。当業者によって適宜変形及び変更が可能である。本発明の範囲は、上述の実施形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。さらに、本発明の範囲には、特許請求の範囲内と均等の範囲内での実施形態からの変形及び変更が含まれる。
【符号の説明】
【0077】
C1,C2…キャパシタ
CC…チョークコイル
Ci…入力キャパシタ
CMCC…コモンモードチョークコイル
CMCC1…第1コモンモードチョークコイル
CMCC2…第2コモンモードチョークコイル
Co…出力平滑キャパシタ
CP1,CP2…第3回路パターン
Cs2,Cs1…寄生容量
Cx…Xキャパシタ
Cy1,Cy2…Yキャパシタ
D1,D2…ダイオード
FG…フレームグランド
Lo…負荷
Pin1,Pin2…直流入力電源の入力部
Pout1,Pout2…直流電力の出力部
PP11,PP12…第1回路パターン
PP21,PP22…第2回路パターン
PS…直流入力電源
PWB…回路基板
Q1,Q2…スイッチング素子
SC…平滑コイル
Ti1,Ti2…入力端子
To1,To2…出力端子
TR…絶縁トランス
1…ノイズ低減回路
2…DC-DCコンバータ
101,103A,103B…スイッチング電源装置
201,202…電子機器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7