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特許7582491フェノール、イソプロピルリン酸(3:1)を含む試料のスクリーニング方法及び装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】フェノール、イソプロピルリン酸(3:1)を含む試料のスクリーニング方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/00 20060101AFI20241106BHJP
   G01N 27/62 20210101ALI20241106BHJP
   G01N 30/88 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
G01N33/00 D
G01N27/62 C
G01N27/62 V
G01N30/88 C
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023543515
(86)(22)【出願日】2021-08-24
(86)【国際出願番号】 JP2021030949
(87)【国際公開番号】W WO2023026354
(87)【国際公開日】2023-03-02
【審査請求日】2023-10-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】弁理士法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】工藤 恭彦
(72)【発明者】
【氏名】大林 賢一
(72)【発明者】
【氏名】石井 寿成
(72)【発明者】
【氏名】初 雪
(72)【発明者】
【氏名】近藤 友明
(72)【発明者】
【氏名】中川 勝博
【審査官】大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】石井寿成 他,熱分解(熱脱着)-GC-MSを用いた樹脂中PIP(3 : 1)の分析,SHIMADZU Application News,2021年06月18日,https://www.an.shimadzu.co.jp/aplnotes/gcms/an_01-00191-jp.pdf
【文献】DU, Bibai et al.,Development and validation of a liquid chromatography-tandemmass spectrometry method for the simultaneous determination of 17traditional and emerging aryl organophosphate esters in indoor dust,Journal of Chromatography A,2019年,Vol.1603,pp.199-207
【文献】Kriz, J. et al.,Capillary Gas Chromatography of lsopropyl Phenyl Phosphates on Quartz Columns,Journal of High Resolution Chromatography & Chromatography Communications,1985年,Vol.8, No.4,pp.195-197
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/00
G01N 27/62
G01N 30/72
G01N 30/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中の、下記の化学式で表される化合物(x, y, zはそれぞれのフェニル基が置換基として有するイソプロピル基の数)であって、x, y, zの合計が1である化合物群、2である化合物群、及び3である化合物群のうちの複数の化合物群のそれぞれについて当該化合物群の含有量又は該含有量を反映する値を測定値として取得するステップと、
【化1】

前記測定値を前記化合物群毎に予め決められた閾値と比較するステップと、
前記比較した結果に基づいて、前記試料にフェノール、イソプロピルリン酸(3:1)が含まれていると判定するステップと
を有する、フェノール、イソプロピルリン酸(3:1)を含む試料のスクリーニング方法。
【請求項2】
前記測定値を取得するステップにおいて、さらに、前記試料中の、リン酸トリフェニル、及び/又は上記の化学式で表される化合物であって、x, y, zの合計が4以上である化合物群の含有量又は該含有量を反映する値を測定値として取得する、請求項1に記載のフェノール、イソプロピルリン酸(3:1)を含む試料のスクリーニング方法。
【請求項3】
前記閾値と比較するステップにおいて、前記複数の化合物群の測定値の合計を、予め決められた閾値と比較する、請求項1に記載のフェノール、イソプロピルリン酸(3:1)を含む試料のスクリーニング方法。
【請求項4】
前記測定値を取得するステップにおいて、前記複数の化合物群のそれぞれに対応する測定ピークのデータを取得し、該測定ピークの高さ又は面積を前記含有量を反映する値として前記測定値を取得する、請求項1に記載のフェノール、イソプロピルリン酸(3:1)を含む試料のスクリーニング方法。
【請求項5】
前記複数の化合物群のうちの一部の測定値のみが前記予め決められた閾値を超えている場合に、当該試料の確認を促す情報を出力する、請求項1に記載のフェノール、イソプロピルリン酸(3:1)を含む試料のスクリーニング方法。
【請求項6】
試料中の、下記の化学式で表される化合物(x, y, zはそれぞれのフェニル基が置換基として有するイソプロピル基の数)であって、x, y, zの合計が1である化合物群、2である化合物群、及び3である化合物群のうちの複数の化合物群のそれぞれについて当該化合物群の含有量又は該含有量を反映する値を測定値として取得する測定値取得部と、
【化1】

前記複数の化合物群の前記測定値を前記化合物群毎に予め決められた閾値と比較する測定値比較部と、
前記測定値比較部による比較の結果に基づいて、前記試料にフェノール、イソプロピルリン酸(3:1)が含まれていると判定する判定部と
を備える、フェノール、イソプロピルリン酸(3:1)を含む試料のスクリーニング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェノール、イソプロピルリン酸(3:1)を含む試料をスクリーニングする方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
フェノール、イソプロピルリン酸(3:1)(Phenol, isopropylated phosphate: PIP (3:1), CAS: 68937-41-7)は、ポリ塩化ビニル(Poly Vinyl Chloride: PVC)などの樹脂製品に難燃性や可塑性を付与するための添加剤として広く用いられている。また、PIP (3:1)は耐摩耗性や耐圧縮性も有することから、油圧作動油、接着剤等の添加剤としても広く用いられている。米国の環境保護庁(Environmental Protection Agency: EPA)が発行した非特許文献1では、PIP (3:1)は、リン酸トリフェニルを基本構造とし、3つのフェニル基がいずれも1つ以上のイソプロピル基を置換基として有する分子構造を持つ化合物群であると定義されている。
【0003】
EPAでは、同国の有害物質規制法(Toxic Substances Control Act: TSCA)に基づき、難分解性、生物蓄積性、及び毒性を有する(Persistent, Bioaccumulative and Toxic: PBT)物質の1つとしてPIP (3:1)を認定した(非特許文献2)。これを受け、PIP (3:1)を含有する製品を米国に輸出することが制限されることとなっている。この規制に対応するためには、米国に輸出しようとする製品にPIP (3:1)が含まれていないことを事前に確認する必要がある。
【0004】
非特許文献3及び4には、試料を溶解させた試料溶液をLC/MSやGC/MSを用いて分析し、該試料に含まれるPIP (3:1)の量を測定できることが記載されている。また、非特許文献5には、試料をそのまま加熱するパイロライザー(Py)により該試料に含まれるPIP (3:1)等の成分を熱脱着(TD)させる手法とガスクロマトグラフ質量分析を組み合わせたPy/TD-GC/MSを用いることにより、該試料に含まれるPIP (3:1)を測定できることが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Office of Chemical Safety and Pollution Prevention U.S. EPA, “Preliminary Information on Manufacturing, Processing, Distribution, Use, and Disposal: Phenol, isopropylated, phosphate (3:1)”, Support document for Docket EPA-HQ-OPPT-2016-073 (2017)
【文献】News Releases from Headquarters, "EPA Finalizes Action Protecting Americans from PBT Chemicals", United States Environmental Protection Agency, December 22, 2020, [2021年8月20日検索], インターネット<URL: https://www.epa.gov/newsreleases/epa-finalizes-action-protecting-americans-pbt-chemicals>
【文献】Martin Schlummera et al., "Analysis of flame retardant additives in polymer fractions of waste of electric and electronic equipment (WEEE) by means of HPLC-UV/MS and GPC-HPLC-UV", Journal of Chromatography A, Volume 1064, Issue 1, 28 January 2005, Pages 39-51
【文献】Thomas Roth et al., "Gas chromatographic determination of phosphate-based flame retardants in styrene-based polymers from waste electrical and electronic equipment", Volume 1262, 2 November 2012, Pages 188-195
【文献】石井寿成、工藤恭彦、大林賢一, "Application news 熱分解(熱脱着)-GC/MSを用いた樹脂中PIP (3:1)の分析", [online], 2021年6月, 株式会社島津製作所,[2021年8月13日検索], インターネット<URL:https://www.an.shimadzu.co.jp/aplnotes/gcms/an_01-00191-jp.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
PIP (3:1)には、フェニル基が有するイソプロピル基の置換数又は置換位置が異なる多数の化合物が含まれるが、非特許文献3~5のように質量分析法を用いれば、イソプロピル基の置換数が同じである化合物群については1つの共通の質量電荷比のイオンを検出することで、該化合物群を一度に測定することができる。しかし、製造条件の違いなどによって各置換数の化合物群の構成比率には差異が生じるため、構成比率の低い置換数の化合物群を検出することが困難な場合がある。あるいは、構成比率が同じあっても、各置換数の化合物群の測定感度も異なるため、ある程度の構成比率を有する置換数の化合物群であっても検出が困難な場合がある。そのため、PIP (3:1)に該当する全ての化合物群が検出されたことを基に、試料にPIP (3:1)が含有されていることを判定することは難しい。
【0007】
測定を簡便にするために、置換基の数が異なる全ての化合物群のうちの一部のみを測定することが考えられる。しかし、前記のように、製品中の各化合物群の構成比(含有濃度)は製造条件によって異なり、また各化合物群の測定感度も異なるため、PIP (3:1)を含む製品等の試料のスクリーニングを行う際に、どの化合物群を測定対象とすればよいかを決めることは難しい。例えば、測定対象とした化合物群の含有量が少なかったり、測定感度が低かったりすると、試料にPIP (3:1)が含まれていることを見逃してしまう可能性があった。また、1種類の化合物群のみを測定対象とした場合には、該化合物群と同じ質量電荷比を有する夾雑物のイオンが存在すると、夾雑物の含有量を誤って当該化合物群の含有量と誤認し、実際にはPIP (3:1)が含まれていないにもかかわらず試料にPIP (3:1)が含まれていると誤判定してしまう可能性があった。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、分析対象の試料にフェノール、イソプロピルリン酸(3:1)が含まれているか否かを簡便に正しく判定することができるスクリーニング技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために成された本発明に係るフェノール、イソプロピルリン酸(3:1)を含む試料のスクリーニング方法は、
試料中の、下記の化学式で表される化合物(x, y, zはそれぞれのフェニル基が置換基として有するイソプロピル基の数)であって、x, y, zの合計が1である化合物群、2である化合物群、及び3である化合物群のうちの複数の化合物群のそれぞれについて当該化合物群の含有量又は該含有量を反映する値を測定値として取得するステップと、
【化1】

前記測定値を前記化合物群毎に予め決められた閾値と比較した結果に基づいて、前記試料にフェノール、イソプロピルリン酸(3:1)が含まれていると判定するステップと
を有する。
【0010】
また、上記課題を解決するために成された本発明に係るフェノール、イソプロピルリン酸(3:1)を含む試料のスクリーニング装置は、
試料中の、下記の化学式で表される化合物(x, y, zはそれぞれのフェニル基が置換基として有するイソプロピル基の数)であって、x, y, zの合計が1である化合物群、2である化合物群、及び3である化合物群のうちの複数の化合物群のそれぞれについて当該化合物群の含有量又は該含有量を反映する値を測定値として取得する測定値取得部と、
【化1】

前記複数の化合物群の前記測定値を前記化合物群毎に予め決められた閾値と比較した結果に基づいて、前記試料にフェノール、イソプロピルリン酸(3:1)が含まれていると判定する判定部と
を備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明におけるスクリーニングの対象化合物であるフェノール、イソプロピルリン酸(3:1)(PIP (3:1))は、上記化学式におけるx, y, zがいずれも1以上である化合物である。上記化学式で表される化合物には、x, y, zはそれぞれ0から5までの値を有するものが含まれる。PIP (3:1)を含む製品の製造時には、PIP (3:1)だけでなく、いずれかのフェニル基がイソプロピル基(上記化学式におけるR)を有しない化合物も副産物として同時に生成される。また、PIP (3:1)を含む製品には、多くの場合、イソプロピル基の置換数が少ない化合物ほど多く含まれる。本発明は、発明者が得たこれらの知見に基づいてなされたものである。
【0012】
本発明では、PIP (3:1)と同様にリン酸トリフェニルを基本構造として有し、3つのフェニル基が置換基として有するイソプロピル基の合計数が1である化合物群、2である化合物群、及び3である化合物群のうちの複数の化合物群の含有量又は該含有量を反映する値を測定値として取得する。本発明において目的化合物とする、イソプロピル基の置換数が少ない化合物群はPIP (3:1)を含む製品等の試料に多く含まれることから、正しい測定値を取得することができる。従って、各目的化合物の測定値を予め決められた閾値と比較することにより分析対象の試料にPIP (3:1)が含まれているか否かが正しく判定される。なお、前記閾値は、化合物群毎に異なる値であってもよく、同じ値であってもよい。また、複数の目的化合物について同じ質量電荷比を有する夾雑物が1つの試料に同時に存在することは稀であるため、本発明のように複数の化合物群を測定することにより誤判定も防ぐことができる。さらに、置換基の数が異なる化合物群を全て測定するのに比べて簡便にスクリーニングを行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に係るフェノール、イソプロピルリン酸(3:1)を含む試料のスクリーニング装置の一実施例であるPy/TD-GC/MS装置の要部構成図。
図2】本実施例において用いられる測定条件の一例。
図3】本実施例における化合物群のモニタリングm/zと閾値。
図4】本実施例において用いられる検量線。
図5】本発明に係るフェノール、イソプロピルリン酸(3:1)を含む試料のスクリーニング方法の一実施例であるフローチャート。
図6】本実施例における判定結果を説明する図。
図7】標準試料である樹脂試料に含まれる、置換基の数が異なる化合物群の測定により取得したマスクロマトグラム。
図8】工業製品である樹脂試料に含まれる、置換基の数が異なる化合物群の測定により取得したマスクロマトグラム。
図9】変形例1における判定方法を説明する図。
図10】変形例2における判定方法を説明する図。
図11】変形例3における判定方法を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係る、フェノール、イソプロピルリン酸(3:1)(Phenol, isopropylated phosphate: PIP (3:1), CAS: 68937-41-7)を含む試料のスクリーニング方法及び装置の実施例について、以下、図面を参照して説明する。
【0015】
本実施例では、パイロライザー/熱脱着装置-ガスクロマトグラフ質量分析装置(Py/TD-GC/MS)1を用いて、PIP (3:1)を含む可能性がある分析対象試料のスクリーニングを行う。本実施例における分析対象試料は、例えば樹脂製品、油圧作動油、接着剤である。PIP (3:1)は、下記の化学式で表される化合物(x, y, zはそれぞれのフェニル基が置換基として有するイソプロピル基の数)のうち、x, y, zがいずれも1以上である化合物群と非特許文献1において定義されている。
【化1】
【0016】
Py/TD-GC/MS1は、大別して、ガスクロマトグラフ(GC)部10、質量分析(MS)部20、及び制御・処理部30で構成される。ガスクロマトグラフ部10は、試料気化室11と、パイロライザー(Py)12と、試料気化室11に接続されたキャリアガス流路13と、試料気化室11の出口に接続されたカラム14を備えている。パイロライザー12は、その加熱温度を変更することにより熱脱着装置(TD)としても使用可能である。カラム14はカラムオーブン15の内部に収容されている。パイロライザー12とカラムオーブン15内のカラム14はそれぞれ、図示しない加熱機構により所定の温度に加熱される。
【0017】
質量分析部20は、真空チャンバ21内に、電子イオン化源22、イオンレンズ23、四重極マスフィルタ24、及びイオン検出器25を備えている。電子イオン化源22にはカラム14の内部で時間的に分離された試料成分が順次導入され、フィラメント(図示略)から放出される熱電子の照射によってイオン化される。
【0018】
制御・処理部30は、記憶部31を有している。記憶部31には、試料の測定条件が記載されたメソッドファイルが保存されている。メソッドファイルに記載される測定条件には、パイロライザー12の温度、カラム14の温度、キャリアガスの種類と流量、スキャン測定において測定対象とする質量電荷比の範囲、複数の化合物群(化合物群1~3)に含まれる各化合物の保持時間や、各化合物群について測定対象とするイオン(ターゲットイオン)の質量電荷比(モニタリングm/z)の情報などが含まれる。図2及び3は、本実施例のPy/TD-GC/MS1において用いるメソッドファイルに記載される測定条件の一例である(各化合物の保持時間の記載を省略)。また、記憶部31には、後述する測定値との比較に使用する閾値(L1~L3)の情報や、後述する標準試料の測定結果に基づいて作成される検量線の情報(図4)も保存される。本実施例では、閾値L1~L3の値を検出下限値又はそれに近い値に設定してPIP (3:1)の有無を判定するように構成してもよい。
【0019】
制御・処理部30は、機能ブロックとして、標準試料測定部32、検量線作成部33、実試料測定部34、測定値取得部35、判定部36、及び情報出力部37を備えている。制御・処理部30の実体は一般的なパーソナルコンピュータであり、予めインストールされているスクリーニング用プログラムをプロセッサで実行することによりこれらの機能ブロックが具現化される。また、制御・処理部30には、使用者が入力操作を行うための入力部4と、種々の情報を表示するための表示部5が接続されている。
【0020】
次に、図5のフローチャートを参照して、本実施例のPy/TD-GC/MS1を用いたスクリーニングの手順を説明する。
【0021】
本実施例では、実試料のスクリーニングを行う前に、標準試料を測定する(ステップ1)。本実施例で用いる標準試料は、上記化学式で表される複数の化合物(x, y, zはそれぞれフェニル基が置換基として有するイソプロピル基の数。x, y, zの合計が1~3である化合物群を含む)を既知量含む樹脂試料である。なお、標準試料の測定は1度行えばよく、その結果に基づいて作成された検量線を記憶部31に保存しておくことにより、標準試料の測定を省略することができる。また、本実施例では標準試料として樹脂試料を用いたが、標準試料の種類は、測定対象の試料の種類に応じて適宜に選択(通常は測定対象の試料と同種の試料を選択)すればよい。
【0022】
使用者が標準試料をパイロライザー12内にセットして標準試料の測定を指示すると、標準試料測定部32は、記憶部31に保存されているメソッドファイル(図2及び3参照)を読み出し、そのメソッドファイルに記載された内容に基づいて測定を実行する。具体的には、まず、パイロライザー12を徐々に昇温して標準試料に含まれるPIP (3:1)を含む各種化合物を脱離させ、キャリアガス流に乗せてカラム14に導入する。カラム14に導入された化合物は該カラム14の内部で液相との相互作用の大きさに応じて時間的に分離されて流出する。カラム14から流出した各化合物は順に電子イオン化源22に導入される。
【0023】
電子イオン化源22で生成されたイオンは、イオンレンズ23で飛行方向の中心軸(イオン光軸C)の近傍に収束されたあと、四重極マスフィルタ24に入射し、質量電荷比に応じて分離されイオン検出器25で検出される。イオン検出器25からの出力信号は順次、記憶部31に送信され保存される。
【0024】
標準試料の測定中、質量分析部20ではスキャン測定と選択イオンモニタリング(SIM)測定を繰り返し実行する。具体的には、四重極マスフィルタ24を通過させるイオンの質量電荷比を所定の範囲(本実施例ではm/zが50~1000の範囲)で走査するスキャン測定と、四重極マスフィルタ24を通過させるイオンの質量電荷比を、各化合物群のターゲットイオンの質量電荷比に所定時間固定するSIM測定とを1セットとし、これを繰り返し行う。本実施例では置換基の数が1である化合物群(化合物群1)、2である化合物群(化合物群2)、及び3である化合物群(化合物群3)についてそれぞれターゲットイオン(モニタリングm/zを有するイオン)をSIM測定する。従って、本実施例では1回のスキャン測定と3種類のSIM測定が1セットとなる。
【0025】
標準試料の測定が完了すると、検量線作成部33は、記憶部31に保存された、イオン検出器25の出力信号を読み出す。そして、スキャン測定時に得られた出力信号を用いてトータルイオンカレントクロマトグラムを作成する。また、3つのSIM測定時に得られた出力信号を用いて化合物群1~3のそれぞれのマスクロマトグラムを作成する。化合物群1~3には、イソプロピル基の置換位置が異なる複数の化合物が含まれるため、通常、それぞれのマスクロマトグラムには複数のマスピークが現れる。本実施例では、1つの化合物群のマスクロマトグラム上に現れる、これら複数のマスピークのピーク面積(又はピーク高さ)の合計と、標準試料に含まれている化合物群1~3の量に基づいて化合物群1~3のそれぞれの検量線を作成する(図4。ステップ2)。ここでは原点と1つの測定点を結んだ1点検量線を作成するが、化合物群1~3の含有量が異なる複数の標準試料を測定した結果を用いて検量線を作成してもよい。また、ここでは化合物群1~3のそれぞれに含まれる複数の化合物(置換基の位置が異なる化合物)のピーク面積又はピーク高さを合計する処理を行っているが、それら複数の化合物のうちの1乃至複数の化合物(例えば測定感度が高い化合物)を選択して検量線を作成してもよい。ここで作成された化合物群1~3の検量線は記憶部31に保存される。
【0026】
本実施例では、記憶部31に保存されているメソッドファイルに化合物群1~3のそれぞれに含まれる化合物の保持時間の情報が予め記載されている(保持時間が既知である)が、保持時間が不明である場合には保持指標を用いてもよい。保持指標を用いる場合には、標準試料の測定とは別に、n-アルカン試料を測定しておく。n-アルカン試料とは、炭化水素鎖の長さが互いに異なる複数の化合物を含む標準試料であり、各化合物の保持時間を基準とする保持指標を得るために用いられる。化合物xの保持指標Ixは次式(1)で表される。
Ix=100(Cn+i-Cn){(tx-tn)/(tn+i-tn)}+100Cn …(1)
ここで、Cn, Cn+iはそれぞれ当該化合物の保持時間を挟んで保持時間が前後に位置するn-アルカンの炭素数、txは化合物xの保持時間、tn, tn+iは当該化合物の保持時間を挟んで保持時間が前後に位置するn-アルカンの保持時間である。
【0027】
その後、使用者が分析対象の試料の情報(試料名や試料数)を入力し、最初の試料をパイロライザー12にセットして測定開始を指示すると、実試料測定部34は、標準試料測定部32と同様に、記憶部31に保存されているメソッドファイル(図2及び3参照)を読み出し、そのメソッドファイルに記載された内容に基づいて測定を実行する(ステップ3)。イオン検出器25からの出力信号も標準試料の測定時と同様に、順次、記憶部31に送られて保存される。
【0028】
実試料の測定を終了すると、測定値取得部35は、記憶部31に保存された、イオン検出器25の出力信号を読み出し、標準試料の測定時と同様に、トータルイオンカレントクロマトグラムと、化合物群1~3のそれぞれに対応するマスクロマトグラムを作成する。そして、化合物群1~3のそれぞれのマスクロマトグラム上の、当該化合物群に属する各化合物のマスピークの面積(又はピーク高さ)を求め、それらの合計を算出する。そして、記憶部31に保存されている検量線に基づいて、各化合物群1~3の含有量を求める(ステップ4)。
【0029】
化合物群1~3の含有量が取得されると、判定部36は、分析対象の試料の重量(パイロライザー12にセットした試料の重量)と含有量から各化合物群1~3の濃度を算出する。続いて、各化合物群1~3に対応付けられた閾値L1~L3を読み出して、両者を比較する(ステップ5。図6参照)。そして、化合物群1~3のうちの複数の化合物群の濃度が閾値を超えているか否かを判定する(ステップ6)。
【0030】
閾値を超える濃度の化合物群の数が0又は1である場合には(ステップ6でNO)、判定部36は、当該試料にPIP (3:1)は含まれていない可能性が高いと判定する。一方、複数の化合物群の濃度が閾値を超えている場合には(ステップ6でYES。図6参照)、判定部36は、当該試料にPIP (3:1)が含まれている可能性が高いと判定する。PIP (3:1)が含まれている可能性が高いと判定されると、情報出力部37は、表示部5に、当該試料にPIP (3:1)が含まれている可能性が高いことを表示する(ステップ7)。また、測定した化合物群の数と、濃度が閾値を超えている化合物群の数を同時に表示(例えば、(濃度≧閾値であった化合物群の数)/測定対象の化合物群の数(2/3、3/3など)と表示)する。これにより、PIP (3:1)が含まれている可能性の高低がより分かりやすくなる。あるいは、全ての化合物群の濃度が閾値を超えている場合にはPIP (3:1)が含まれていることが分かる色(例えば赤色)で表示し、一部の化合物群の濃度が閾値を超えている場合にはPIP (3:1)が含まれている可能性があることが分かる色(例えば黄色)で表示して、より詳細な分析を行うことを使用者に促すようにしてもよい。
【0031】
判定部36及び情報出力部37による上記処理が終わると、実試料測定部34は、未測定の試料の有無を確認し、未測定の試料がある場合には(ステップ8でYES)、ステップ3に戻って上記同様の処理を繰り返す。未測定の試料がない場合には(ステップ8でNO)、一連の処理を終了する。
【0032】
上記のように、本実施例では、分析対象の試料にPIP (3:1)が含まれているか否かを判定するために、PIP (3:1)と共通する基本構造を有し、イソプロピル基の置換数が1~3である化合物群を測定する。これは、本発明者が、PIP (3:1)を含有する様々な試料を測定した結果、PIP (3:1)を含有する試料には、PIP (3:1)だけでなく、いずれかのフェニル基がイソプロピル基Rを有しない化合物が副産物として含まれており、多くの場合、それらの含有量がPIP (3:1)よりも多いという知見を得たことに基づく。
【0033】
図7に標準試薬として販売されているPIP(3:1)から調製した標準溶液およびPVC溶液をそれぞれPy/TD-GC/MS分析用の試料カップに添加して樹脂中のPIP (3:1)を濃度1%とした試料(樹脂重量 0.5 mg相当)を測定することにより取得したトータルイオンカレントクロマトグラム(TIC)及び置換基の数が異なる化合物群0~6のマスクロマトグラムを示す。また、図8に工業製品として販売されているPIP (3:1)から調製した溶液およびPVC溶液をそれぞれPy/TD-GC/MS分析用の試料カップに添加して樹脂中のPIP (3:1)を濃度1%とした試料(樹脂重量 0.5 mg相当)を測定することにより取得したTIC及び置換基の数が異なる化合物群0~6のマスクロマトグラムを示す。図中のiPr:xという標記は、イソプロピル基の置換数がx個の化合物群であることを表す。また、m/zの数値は当該化合物群のターゲットイオンの質量電荷比(モニタリングm/z)、括弧内の値はクロマトグラムの拡大率を表す。これらは測定の一例であるが、いずれの試料でも置換数が0~3の試料が検出されていることが分かる。
【0034】
また、置換基の数が異なる化合物群を質量分析した結果、置換基の数が少ないほど測定感度が高い傾向にあることも分かった。従って、本実施例のように、PIP (3:1)を含む試料に多く含まれ、かつ測定感度が高い化合物群1~3の濃度を判定の基準とすることにより、PIP (3:1)が含まれている試料を見逃すことなくスクリーニングすることができる。
【0035】
PIP (3:1)を含む製品の製造時には、PIP (3:1)だけでなく、いずれかのフェニル基がイソプロピル基(上記化学式におけるR)を有しない化合物も副産物として同時に生成される。これらの副産物を選択的に取り除く、あるいはPIP(3:1)のみを選択的に抽出する、あるいは副産物が生じないようPIP(3:1)のみを製造することは容易ではないため、PIP(3:1)を含む製品には高い確率でこれらの副産物が含有している。従って、PIP (3:1)を直接測定する代わりに、PIP (3:1)の副産物として生成される化合物群0~3が含まれていることに基づいてPIP (3:1)が含まれていると判定することは判定の手法として妥当であるといえる。
【0036】
上記実施例では化合物群1~3の濃度を閾値と比較したが、化合物群1~3のうちの2つのみを測定するようにしてもよい。化合物群を1つ測定するのみでは、当該化合物群に設定したモニタリングm/zを有するイオンを生成する夾雑物が存在する場合に、夾雑物が検出されているにもかかわらず化合物群が測定されたと誤認し、スクリーニングの誤判定を生じる可能性がある。従って、複数の化合物群の濃度を閾値と比較することが好ましい。また、上記実施例では各化合物群の濃度を求めて閾値と比較したが、測定する試料の重量が一定である場合には、含有量の閾値を設定してもよい。
【0037】
上記実施例は一例であって、本発明の趣旨に沿って適宜に変更することができる。以下にいくつかの変形例を説明する。
【0038】
<変形例1>
上記実施例では、化合物群1~3のうちの複数の化合物群について、分析対象の試料中の濃度を閾値と比較したが、図7及び8に示したように、PIP (3:1)を含む試料には、リン酸トリフェニル(置換基の数が0)や、イソプロピル基を4つ有する化合物も多く含まれており、これらも高感度で測定可能である。従って、化合物群0~4(置換基の数が0~4)に対象を広げ、そのうちの複数の化合物群の濃度を閾値と比較するようにしてもよい。図9に、化合物群0~4の濃度を閾値と比較した例(化合物群0~3の濃度は閾値以上、化合物群4の濃度のみ閾値未満である例)を示す。このように、測定の対象とする化合物群を拡げることで、より多くの化合物群の測定値に基づく判定を行うことができるため、判定の精度がより高くなる。
【0039】
<変形例2>
上記実施例では、化合物群1~3のそれぞれに対して閾値を設定し、分析対象の試料に含まれる化合物群1~3の濃度をそれぞれの閾値と比較した結果に基づいて試料をスクリーニングしたが、これに加えて、測定の対象である化合物群(例えば化合物群1~3)の合計濃度に対して閾値(合計閾値)を設定し、測定により得られた複数の化合物群の合計濃度と閾値を比較した結果も考慮して試料をスクリーニングしてもよい。図10に、化合物群1~3の合計濃度を合計閾値と比較した例(化合物群1~3の合計濃度が合計閾値を超えている例)を示す。
【0040】
PIP (3:1)は、製造条件等によってイソプロピル基の置換数ごとの化合物群の含有量の比率が変わり得るため、特定の化合物群の濃度が低くなることがある。また、試料に含まれる他の成分の影響により特定の化合物群のイオン化が抑制されて(イオンサプレッション)、測定感度が低下することがある。変形例2ではこれらの場合でも、他の化合物群の測定値との合計を閾値と比較することによって、PIP (3:1)が含まれている試料を見逃してしまう可能性を低減することができる。
【0041】
<変形例3>
上記実施例では、マスクロマトグラムのピーク面積(あるいはピーク高さ)から各化合物群の含有量を求め、さらに、該含有量と試料の重量に基づいて各化合物群の濃度を求めたが、上記実施例のように、標準試料を測定する装置と分析対象試料を測定する装置が同一又は同種であり、測定条件も実質的に同一であると見なせる場合には、ピーク面積又はピーク高さを閾値と比較するように構成してもよい。図11に、化合物群1~3のそれぞれについてピーク高さを閾値と比較した例(化合物群1~3のピーク高さが全て閾値以上である例)を示す。これにより、測定により得られたピーク面積やピーク高さを検量線と照合して含有量を求める処理を行う必要がなくなり、より簡便に判定を行うことができる。
【0042】
PIP (3:1)は多数の化合物の集合であるため、標準試料であっても各化合物の含有量や濃度が正確には分からないことがある。変形例3では、そのような場合であっても、標準試料等の測定結果を基準とし、そのピーク面積やピーク高さを閾値として用いることにより、標準試料よりも高濃度で測定対象化合物群が含まれているか否かに基づくスクリーニング判定を行うことができる。
【0043】
上記実施例及び変形例ではPy/TD-GC/MSを用いた測定によりPIP (3:1)を含む試料をスクリーニングする構成を説明したが、上記実施例又は変形例と同様に化合物群を測定可能なものであれば他の測定手法を用いることができる。例えばクロマトグラフ装置のみを用いたクロマトグラフィ(ガスクロマトグラフィ、液体クロマトグラフィ等であって、分光測定等により各化合物を検出するものなど)を行い、カラム内で分離した各化合物をそれぞれ測定する構成を採ることができる。ただし、上記のように質量分析法を用いることにより、置換数が同一である複数の化合物を共通する1つのモニタリングm/zで測定することができることから、質量分析法を用いることが好ましい。また、Py/TDを用いると、試料を溶媒に溶解させる等の前処理が不要であることから、Py/TDを用いることが好ましい。また、クロマトグラフィ分離を用いない質量分析法(TD-MS)等を用いてもよい。
【0044】
[態様]
上述した複数の例示的な実施例は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0045】
(第1項)
本発明の一態様に係るフェノール、イソプロピルリン酸(3:1)を含む試料のスクリーニング方法は、
試料中の、下記の化学式で表される化合物(x, y, zはそれぞれのフェニル基が置換基として有するイソプロピル基の数)であって、x, y, zの合計が1である化合物群、2である化合物群、及び3である化合物群のうちの複数の化合物群のそれぞれについて当該化合物群の含有量又は該含有量を反映する値を測定値として取得するステップと、
【化1】

前記測定値を前記化合物群毎に予め決められた閾値と比較した結果に基づいて、前記試料にフェノール、イソプロピルリン酸(3:1)が含まれていると判定するステップと
を有する。
【0046】
(第6項)
また、本発明の別の一態様に係るフェノール、イソプロピルリン酸(3:1)を含む試料のスクリーニング装置は、
試料中の、下記の化学式で表される化合物(x, y, zはそれぞれのフェニル基が置換基として有するイソプロピル基の数)であって、x, y, zの合計が1である化合物群、2である化合物群、及び3である化合物群のうちの複数の化合物群のそれぞれについて当該化合物群の含有量又は該含有量を反映する値を測定値として取得する測定値取得部と、
【化1】

前記複数の化合物群の前記測定値を前記化合物群毎に予め決められた閾値と比較した結果に基づいて、前記試料にフェノール、イソプロピルリン酸(3:1)が含まれていると判定する判定部と
を備える。
【0047】
第1項のスクリーニング方法及び第6項のスクリーニング装置におけるスクリーニングの対象化合物であるフェノール、イソプロピルリン酸(3:1)(PIP (3:1))は、上記化学式におけるx, y, zがいずれも1以上である化合物である。PIP (3:1)を含む製品の製造時には、PIP (3:1)だけでなく、いずれかのフェニル基がイソプロピル基(上記化学式におけるR)を有しない化合物も副産物として同時に生成される。また、PIP (3:1)を含む製品には、多くの場合、イソプロピル基の置換数が少ない化合物ほど多く含まれる。
【0048】
第1項のスクリーニング方法及び第6項のスクリーニング装置では、PIP (3:1)と同様にリン酸トリフェニルを基本構造として有し、3つのフェニル基が置換基として有するイソプロピル基の合計数が1である化合物群、2である化合物群、及び3である化合物群のうちの複数の化合物群の含有量又は該含有量を反映する値を測定値として取得する。第1項のスクリーニング方法及び第6項のスクリーニング装置において目的化合物とする、イソプロピル基の置換数が少ない化合物群はPIP (3:1)を含む製品等の試料に多く含まれることから、見逃しなくPIP (3:1)の含有を判定することができる。そして、各目的化合物の測定値を予め決められた閾値と比較することにより分析対象の試料にPIP (3:1)が含まれているか否かを正しく判定することができる。なお、前記閾値は、化合物群毎に異なる値であってもよく、同じ値であってもよい。また、複数の目的化合物について同じ質量電荷比を有する夾雑物が1つの試料に同時に存在することは稀であるため、第1項のスクリーニング方法及び第6項のスクリーニング装置のように複数の化合物群を測定することにより誤判定も防ぐことができる。さらに、置換基の数が異なる化合物群を全て測定するのに比べて簡便にスクリーニングを行うことができる。
【0049】
(第2項)
第1項に記載のフェノール、イソプロピルリン酸(3:1)を含む試料のスクリーニング方法において、
前記測定値を取得するステップにおいて、さらに、前記試料中の、リン酸トリフェニル、及び/又は上記の化学式で表される化合物であって、x, y, zの合計が4以上である化合物群の含有量又は該含有量を反映する値を測定値として取得する。
【0050】
第2項のスクリーニング方法では、リン酸トリフェニル(置換基の数が0である化合物)、及び置換基の数が4以上である化合物群をさらに測定の対象として、より多くの化合物群の測定値を閾値と比較するため、より高い精度でフェノール、イソプロピルリン酸(3:1)を含む試料のスクリーニングを行うことができる。
【0051】
(第3項)
第1項又は第2項に記載のフェノール、イソプロピルリン酸(3:1)を含む試料のスクリーニング方法において、
前記閾値と比較するステップにおいて、さらに、前記複数の化合物群の測定値の合計を、予め決められた閾値と比較する。
【0052】
第3項のスクリーニング方法では、化合物群毎の測定値だけでなく、複数の化合物群の測定値の合計を、予め決められた閾値と比較した結果に基づいて、フェノール、イソプロピルリン酸(3:1)を含む試料のスクリーニングを行う。PIP (3:1)を含む製品等の製造時には製造条件によって各化合物群の含有量の割合が変化し、閾値を設定する際に想定した割合と異なる分布で各化合物群が含まれている可能性がある。また、想定通りの割合で各化合物群が含まれている場合であっても、試料に含まれる他の成分によって特定の化合物群のイオン化が抑制される(イオンサプレッション)場合がある。第3項のスクリーニング方法では、化合物群毎に閾値と比較するだけでなく、他の化合物群の測定値との合計と閾値も比較した結果に基づいてPIP (3:1)が含まれているか否かを判定するため、PIP (3:1)が含まれていることを見逃してしまう可能性を低減することができる。
【0053】
(第4項)
第1項から第3項のいずれかに記載のフェノール、イソプロピルリン酸(3:1)を含む試料のスクリーニング方法において、
前記測定値を取得するステップにおいて、前記複数の化合物群のそれぞれに対応する測定ピークのデータを取得し、該測定ピークの高さ又は面積を前記含有量を反映する値として前記測定値を取得する
【0054】
第4項のスクリーニング方法では、化合物群の含有量そのものを求める工程を経ることなく、フェノール、イソプロピルリン酸(3:1)を含む試料のスクリーニングをより簡便に行うことができる。
【0055】
(第5項)
第1項から第4項のいずれかに記載のフェノール、イソプロピルリン酸(3:1)を含む試料のスクリーニング方法において、さらに、
前記複数の化合物群のうちの一部の測定値のみが前記予め決められた閾値を超えている場合に、当該試料の確認を促す情報を出力する。
【0056】
第5項のスクリーニング方法では、一部の化合物群の測定値のみが閾値を超えている場合に当該試料の確認を促す情報を出力するため、より高い精度でフェノール、イソプロピルリン酸(3:1)を含む試料を見逃してしまう可能性を低減することができる。
【符号の説明】
【0057】
1…パイロライザー/熱脱着-ガスクロマトグラフ質量分析装置
10…ガスクロマトグラフ部
11…試料気化室
12…パイロライザー
13…キャリアガス流路
14…カラム
15…カラムオーブン
20…質量分析部
21…真空チャンバ
22…電子イオン化源
23…イオンレンズ
24…四重極マスフィルタ
25…イオン検出器
30…制御・処理部
31…記憶部
32…標準試料測定部
33…検量線作成部
34…実試料測定部
35…測定値取得部
36…判定部
37…情報出力部
4…入力部
5…表示部
図1
図2
図3
図4
図5
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図7
図8
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図10
図11