(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】射出成形用樹脂組成物、当該組成物の射出成形方法
(51)【国際特許分類】
C08L 63/00 20060101AFI20241106BHJP
C08L 91/06 20060101ALI20241106BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20241106BHJP
B29C 45/18 20060101ALI20241106BHJP
B29C 45/47 20060101ALI20241106BHJP
B29C 45/26 20060101ALI20241106BHJP
B29C 45/78 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
C08L63/00 C
C08L91/06
C08K3/013
B29C45/18
B29C45/47
B29C45/26
B29C45/78
(21)【出願番号】P 2023549634
(86)(22)【出願日】2023-01-19
(86)【国際出願番号】 JP2023001546
(87)【国際公開番号】W WO2023149221
(87)【国際公開日】2023-08-10
【審査請求日】2023-08-16
(31)【優先権主張番号】P 2022017406
(32)【優先日】2022-02-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】望月 俊佑
【審査官】横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】特許第6919954(JP,B1)
【文献】特開平08-113668(JP,A)
【文献】特開2014-047320(JP,A)
【文献】特開平08-170009(JP,A)
【文献】特表2010-536967(JP,A)
【文献】特開2009-120714(JP,A)
【文献】特開2020-132647(JP,A)
【文献】特開2021-134366(JP,A)
【文献】特開2014-051537(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C08G 59/00-59/72
B29C 45/00-45/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
融点80℃未満のワックス(a
)と、
前記ワックス(a)の融点以上の融点を有するワックス(b
)と、
軟化点80℃未満のエポキシ樹脂(c)と、
硬化剤(d)と、
無機充填剤(e)と、
を含
み、
前記エポキシ樹脂(c)がクレゾールノボラック型エポキシ樹脂およびビスフェノールA型エポキシ樹脂から選択される少なくも1種であり、
前記硬化剤(d)がノボラック型フェノール樹脂である、射出成形用樹脂組成物(ただし、LASERDIRECTSTRUCTURING(LDS)に用いる射出成形用熱硬化性樹脂成形材料、焼結可能な金属粉末の射出成形並びに3Dプリンタ用の成形用組成物、固形描画材、および発泡剤を含む場合を除く)。
【請求項2】
融点80℃未満のワックス(a
)と、
軟化点80℃未満のエポキシ樹脂(c)と、
硬化剤
(d)と、
無機充填剤(e)と、
を含
み、
前記エポキシ樹脂(c)がクレゾールノボラック型エポキシ樹脂およびビスフェノールA型エポキシ樹脂から選択される少なくも1種であり、
前記硬化剤(d)がノボラック型フェノール樹脂である、射出成形用樹脂組成物(ただし、LASERDIRECTSTRUCTURING(LDS)に用いる射出成形用熱硬化性樹脂成形材料、焼結可能な金属粉末の射出成形並びに3Dプリンタ用の成形用組成物、および固形描画材を除く)。
【請求項3】
前記ワックス(a)を0.05質量%以上1質量%以下、
前記エポキシ樹脂(c)を4質量%以上15質量%以下、
前記硬化剤(d)を2質量%以上10質量%以下、
前記無機充填剤(e)を60質量%以上90質量%以下、となる量で含み、
前記ワックス(a)と前記ワックス(b)との重量比a:bは、30:70~70:30である、請求項1に記載の射出成形用樹脂組成物。
【請求項4】
前記ワックス(a)を0.05質量%以上1質量%以下、
前記エポキシ樹脂(c)を4質量%以上15質量%以下、
前記硬化剤(d)を2質量%以上10質量%以下、
前記無機充填剤(e)を60質量%以上90質量%以下、となる量で含む、請求項2に記載の射出成形用樹脂組成物。
【請求項5】
前記ワックス(a)
の融点は65℃以下である、請求項1または2に記載の射出成形用樹脂組成物
【請求項6】
シリンダーおよび前記シリンダーに挿入されたスクリューからなる射出ユニットと、
当該射出ユニットから溶融組成物が充填されるキャビティを有する金型と、
を備える射出成形装置に用いられる射出成形用樹脂組成物であって、
前記シリンダー内の前記スクリュー先端の温度Tは60~100℃であり、
前記射出成形用樹脂組成物は、前記スクリュー先端の温度T未満の融点であり、かつ融点80℃未満のワックス(a
)と、前記スクリュー先端の温度Tを超える融点であり、かつ前記ワックス(a)の融点以上の融点を有するワックス(b
)と、を含む、請求項1に記載の射出成形用樹脂組成物。
【請求項7】
前記キャビティ内の温度は150~160℃である、請求項
6に記載の射出成形用樹脂組成物。
【請求項8】
シリンダーおよび前記シリンダーに挿入されたスクリューからなる射出ユニットと、
キャビティを有する金型と、
を備える、射出成形装置を用いた射出成形方法であって、
前記シリンダー内で、請求項1または2に記載の射出成形用樹脂組成物を溶融する工程と、
前記スクリューを用いて溶融樹脂組成物を射出し、前記キャビティ内に充填する工程と、
を含む、射出成形方法。
【請求項9】
前記シリンダー内の前記スクリュー先端の温度Tは60~100℃である、請求項8に記載の射出成形方法。
【請求項10】
前記キャビティ内の温度は150~160℃である、請求項9に記載の射出成形方法。
【請求項11】
融点80℃未満のワックス(a
)と、
前記ワックス(a)の融点以上の融点を有するワックス(b
)と、
軟化点80℃未満のエポキシ樹脂(c)と、
硬化剤(d)と、
無機充填剤(e)と、
を含
み、
前記エポキシ樹脂(c)がクレゾールノボラック型エポキシ樹脂およびビスフェノールA型エポキシ樹脂から選択される少なくも1種であり、
前記硬化剤(d)がノボラック型フェノール樹脂である、射出成形用封止樹脂組成物(ただし、LASERDIRECTSTRUCTURING(LDS)に用いる射出成形用熱硬化性樹脂成形材料、焼結可能な金属粉末の射出成形並びに3Dプリンタ用の成形用組成物、および固形描画材を除く)。
【請求項12】
前記ワックス(a)を0.05質量%以上1質量%以下、
前記エポキシ樹脂(c)を4質量%以上15質量%以下、
前記硬化剤(d)を2質量%以上10質量%以下、
前記無機充填剤(e)を60質量%以上90質量%以下、となる量で含み、
前記ワックス(a)と前記ワックス(b)との重量比a:bは、30:70~70:30である、請求項11に記載の射出成形用封止樹脂組成物。
【請求項13】
前記ワックス(a)
の融点は65℃以下である、請求項11に記載の射出成形用樹脂組成物
【請求項14】
シリンダーおよび前記シリンダーに挿入されたスクリューからなる射出ユニットと、
当該射出ユニットから溶融組成物が充填されるキャビティを有する金型と、
を備える射出成形装置に用いられる射出成形用封止樹脂組成物であって、
前記シリンダー内の前記スクリュー先端の温度Tは60~100℃であり、
前記射出成形用
封止樹脂組成物は、前記スクリュー先端の温度T未満の融点であり、かつ融点80℃未満のワックス(a
)と、前記スクリュー先端の温度Tを超える融点であり、かつ前記ワックス(a)の融点以上の融点を有するワックス(b
)と、を含む、請求項11に記載の射出成形用封止樹脂組成物。
【請求項15】
前記キャビティ内の温度は150~160℃である、請求項
14に記載の射出成形用封止樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形用樹脂組成物、当該組成物の射出成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体封止材料の射出成形に関する開発が進められている。射出成形は、封止材料をそのまま供給することから生産性の向上を図ることができる。
【0003】
特許文献1には、エポキシ樹脂、フェノール化合物硬化剤、硬化促進剤及び無機質充填材を必須成分とするエポキシ樹脂組成物が開示されている。同文献には、エポキシ樹脂組成物中にワックスを含んでもよいことが記載されている。
【0004】
特許文献2には、多官能性エポキシ樹脂、2官能性エポキシ樹脂、エポキシ樹脂硬化剤、硬化促進剤、無機フィラー、シランカップリング剤、離型剤のみを含有し、常温で固形であり、所定の物性値を満たすエポキシ樹脂射出成型材料が開示されている。離型剤としてカルナバワックスが記載されている。同文献には、当該エポキシ樹脂射出成型材料は成形性に優れると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平8-67741号公報
【文献】特開2013-127042号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1~2に記載の射出成形用樹脂組成物は、射出時にシリンダー内の樹脂がホッパー内へ逆流(以下、バックフローとも記載する)したり、スクリュー等に固着し正確に計量できないなど、成形性に改善の余地があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、特定のワックスを含有することにより上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、以下に示すことができる。
【0008】
[1] 融点80℃未満のワックス(a)を少なくとも1種含む、射出成形用樹脂組成物。
[2] 前記ワックス(a)は、融点65℃以下のワックスを含む、[1]に記載の射出成形用樹脂組成物。
[3] さらに、前記ワックス(a)の融点以上の融点を有するワックス(b)を少なくとも1種含む、[1]または[2]に記載の射出成形用樹脂組成物。
[4] シリンダーおよび前記シリンダーに挿入されたスクリューからなる射出ユニットと、
当該射出ユニットから溶融組成物が充填されるキャビティを有する金型と、
を備える射出成形装置に用いられる射出成形用樹脂組成物であって、
前記シリンダー内の前記スクリュー先端の温度Tは60~100℃であり、
前記ワックスは、前記スクリュー先端の温度Tを超える融点を有するワックス(b)と、前記スクリュー先端の温度T未満の融点を有するワックス(a)とを含む、[1]~[3]のいずれかに記載の射出成形用樹脂組成物。
[5] 前記キャビティ内の温度は150~160℃である、[4]に記載の射出成形用樹脂組成物。
[6] 軟化点80℃未満のエポキシ樹脂、または軟化点80℃未満の硬化剤を含む、[1]~[5]のいずれかに記載の射出成形用樹脂組成物。
[7] シリンダーおよび前記シリンダーに挿入されたスクリューからなる射出ユニットと、
キャビティを有する金型と、
を備える、射出成形装置を用いた射出成形方法であって、
前記シリンダー内で、[1]~[6]のいずれかに記載の射出成形用樹脂組成物を溶融する工程と、
前記スクリューを用いて溶融樹脂組成物を射出し、前記キャビティ内に充填する工程と、
を含む、射出成形方法。
[8] 前記シリンダー内の前記スクリュー先端の温度Tは60~100℃である、[7]に記載の射出成形方法。
[9] 前記キャビティ内の温度は150~160℃である、[7]または[8]に記載の射出成形方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、バックフローが抑制されるとともに計量の正確性に優れ、成形性に優れた射出成形用樹脂組成物および当該組成物を用いた射出成形方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施形態に係る射出成形装置の一例を示す断面模式図である。
【
図2】実施形態に係る車載用電子制御ユニットの一例を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。また、例えば「1~10」は特に断りがなければ「1以上」から「10以下」を表す。
【0012】
本実施形態の射出成形用樹脂組成物は、ワックスを含む。
【0013】
[ワックス]
本実施形態の射出成形用樹脂組成物に含まれるワックスは、融点80℃未満のワックス(a)を少なくとも1種含む。
【0014】
融点80℃未満のワックス(a)は、本発明の効果の観点から、融点65℃以下のワックスを含むことが好ましい。
ワックスaとしては、ステアリン酸(融点59~61℃)等が挙げられる。
【0015】
本実施形態においては、本発明の効果の観点から、射出成形用樹脂組成物100質量部に対して、ワックス(a)を、好ましくは0.01質量部以上10質量部以下、より好ましくは0.02質量部以上5質量部以下、さらに好ましくは0.05質量部以上1質量部以下、特に好ましくは0.1質量部以上0.5質量部以下、含むことができる。
【0016】
本実施形態において、ワックスは、さらに、ワックス(a)の融点以上の融点を有するワックス(b)を少なくとも1種含むことが好ましい。ワックス(b)の融点は、ワックス(a)の融点より高い80℃以上、好ましくは80℃以上140℃以下、より好ましくは80℃以上100℃以下、さらに好ましくは80℃以上90℃以下とすることができる。
ワックス(a)とともにワックス(b)を含むことにより、バックフローが抑制されるとともに計量の正確性に優れ、さらに射出成形後の硬化物の金型からの離型性により優れる。
【0017】
ワックス(b)としては、カルナバワックス(融点80~86℃)、酸化ポリエチレンワックス(融点120~125℃)、ステアリン酸亜鉛(融点120~130℃)等が挙げられ、1種または2種以上を用いることができる。
【0018】
ワックス(b)を含む場合、ワックス(a)とワックス(b)との重量比a:bは、好ましくは10:90~90:10、より好ましくは20:80~80:20、さらに好ましくは30:70~70:30とすることができる。
【0019】
本実施形態の射出成形用樹脂組成物は、
図1に示される射出成形装置1を用いて射出成形することができる。射出成形装置1は、シリンダー21およびシリンダー21に挿入されたスクリュー22からなる射出ユニット20と、キャビティ12を有する金型10と、を備える。射出成形装置1の詳細については後述する。
【0020】
シリンダー21内のスクリュー22先端の温度Tは60~100℃である。
本実施形態において、前記ワックスは、前記スクリュー先端の温度Tを超え、かつ80℃以上の融点を有するワックス(b)と、前記スクリュー先端の温度T未満であり、かつ80℃未満の融点を有するワックス(a)とを含む。これにより、バックフローが抑制されるとともに計量の正確性に優れ、さらに射出成形用樹脂組成物の硬化物が金型からの離型性に優れることから連続射出成型が可能となり生産性に優れる。
【0021】
[熱硬化性樹脂]
本実施形態の射出成形用樹脂組成物は熱硬化性樹脂を含むことができる。
熱硬化性樹脂としては、たとえばエポキシ樹脂、フェノール樹脂、オキセタン樹脂、(メタ)アクリレート樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、およびマレイミド樹脂からなる群から選択される一種類または二種類以上を含む。これらの中でも、硬化性、保存性、耐熱性、耐湿性、および耐薬品性を向上させる観点から、エポキシ樹脂を含むことがとくに好ましい。
【0022】
熱硬化性樹脂に含まれるエポキシ樹脂としては、1分子内にエポキシ基を2個以上有するモノマー、オリゴマー、ポリマー全般を用いることができ、その分子量や分子構造は特に限定されない。本実施形態において、エポキシ樹脂は、たとえばビフェニル型エポキシ樹脂;ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、テトラメチルビスフェノールF型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂;スチルベン型エポキシ樹脂;フェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂;トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、アルキル変性トリフェノールメタン型エポキシ樹脂等に例示されるトリスフェノール型エポキシ樹脂等の多官能エポキシ樹脂;フェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂、フェニレン骨格を有するナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、ビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ビフェニレン骨格を有するナフトールアラルキル型エポキシ樹脂等のフェノールアラルキル型エポキシ樹脂;ジヒドロキシナフタレン型エポキシ樹脂、ジヒドロキシナフタレンの2量体をグリシジルエーテル化して得られるエポキシ樹脂等のナフトール型エポキシ樹脂;トリグリシジルイソシアヌレート、モノアリルジグリシジルイソシアヌレート等のトリアジン核含有エポキシ樹脂;ジシクロペンタジエン変性フェノール型エポキシ樹脂等の有橋環状炭化水素化合物変性フェノール型エポキシ樹脂からなる群から選択される一種類または二種類以上を含む。
【0023】
これらのうち、本発明の効果の観点から、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、およびビスフェノールA型エポキシ樹脂から選択される1種または2種以上を含むことが好ましい。
【0024】
前記エポキシ樹脂は、エポキシ樹脂骨格の繰り返し構造に3つ以上のエポキシ基を有する多官能エポキシ樹脂を含むことも好ましい。多官能エポキシ樹脂を用いることにより、硬化物のガラス転移温度を向上させることができる。
【0025】
多官能エポキシ樹脂としては、特に限定されないが、例えば、テトラフェニルエタン型エポキシ樹脂、2-[4-(2,3-エポキシプロポキシ)フェニル]-2-[4-[1,1-ビス[4-(2,3-エポキシプロポキシ)フェニル]エチル]フェニル]プロパン、テトラキス(グリシジルオキシフェニル)エタン、α-2,3-エポキシプロポキシフェニル-ω-ヒドロポリ(n=1~7){2-(2,3-エポキシプロポキシ)ベンジリデン-2,3-エポキシプロポキシフェニレン}等が挙げられる。これらは単独で用いても複数組み合わせて用いてもよい。
【0026】
熱硬化性樹脂として軟化点80℃未満のエポキシ樹脂を含むことがより好ましい。軟化点が80℃未満であるエポキシ樹脂を用いることにより、低粘度の射出成形用樹脂組成物が得られ、連続射出成形が可能になることから生産性により優れる。
【0027】
射出成形用樹脂組成物中における熱硬化性樹脂の含有量は、射出成形用樹脂組成物全体に対して2質量%以上であることが好ましく、3質量%以上であることがより好ましく、4質量%以上であることがとくに好ましい。熱硬化性樹脂の含有量を上記下限値以上とすることにより、成形時における流動性を向上させることができる。このため、常温保管性により優れ、さらに充填性や成形安定性の向上も図ることができる。一方で、射出成形用樹脂組成物中における熱硬化性樹脂の含有量は、射出成形用樹脂組成物全体に対して50質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましく、15質量%以下であることがとくに好ましい。熱硬化性樹脂の含有量を上記上限値以下とすることにより、射出成形の押出機における熱処理に対して安定であるとともに、成形サイクルを短くすることができる。
【0028】
[硬化剤]
本実施形態の射出成形用樹脂組成物は硬化剤を含むことができる。
硬化剤としては、たとえば重付加型の硬化剤、触媒型の硬化剤、および縮合型の硬化剤の3タイプに大別することができる。
【0029】
硬化剤として用いられる重付加型の硬化剤は、たとえばジエチレントリアミン(DETA)、トリエチレンテトラミン(TETA)、メタキシレリレンジアミン(MXDA)などの脂肪族ポリアミン、ジアミノジフェニルメタン(DDM)、m-フェニレンジアミン(MPDA)、ジアミノジフェニルスルホン(DDS)などの芳香族ポリアミンのほか、ジシアンジアミド(DICY)、有機酸ジヒドララジドなどを含むポリアミン化合物;ヘキサヒドロ無水フタル酸(HHPA)、メチルテトラヒドロ無水フタル酸(MTHPA)などの脂環族酸無水物、無水トリメリット酸(TMA)、無水ピロメリット酸(PMDA)、ベンゾフェノンテトラカルボン酸(BTDA)などの芳香族酸無水物などを含む酸無水物;ノボラック型フェノール樹脂、ポリビニルフェノール、アラルキル型フェノール樹脂などのフェノール樹脂系硬化剤;ポリサルファイド、チオエステル、チオエーテルなどのポリメルカプタン化合物;イソシアネートプレポリマー、ブロック化イソシアネートなどのイソシアネート化合物;カルボン酸含有ポリエステル樹脂などの有機酸類からなる群から選択される一種類または二種類以上を含む。
【0030】
硬化剤として用いられる触媒型の硬化剤は、たとえばベンジルジメチルアミン(BDMA)、2,4,6-トリスジメチルアミノメチルフェノール(DMP-30)などの3級アミン化合物;BF3錯体などのルイス酸からなる群から選択される一種類または二種類以上を含む。
【0031】
硬化剤として用いられる縮合型の硬化剤は、たとえばレゾール型フェノール樹脂;メチロール基含有尿素樹脂などの尿素樹脂;メチロール基含有メラミン樹脂などのメラミン樹脂からなる群から選択される一種類または二種類以上を含む。
【0032】
これらの中でも、耐燃性、耐湿性、電気特性、硬化性、および保存安定性等についてのバランスを向上させる観点から、フェノール樹脂系硬化剤を含むことがより好ましい。フェノール樹脂系硬化剤としては、一分子内にフェノール性水酸基を2個以上有するモノマー、オリゴマー、ポリマー全般を用いることができ、その分子量、分子構造は特に限定されない。硬化剤として用いられるフェノール樹脂系硬化剤は、たとえばフェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ビスフェノールノボラック等のノボラック型フェノール樹脂;ポリビニルフェノール;トリフェノールメタン型フェノール樹脂等の多官能型フェノール樹脂;テルペン変性フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン変性フェノール樹脂等の変性フェノール樹脂;フェニレン骨格及び/又はビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル樹脂、フェニレン及び/又はビフェニレン骨格を有するナフトールアラルキル樹脂等のフェノールアラルキル型フェノール樹脂;ビスフェノールA、ビスフェノールF等のビスフェノール化合物からなる群から選択される一種類または二種類以上を含む。これらの中でも、射出成形用樹脂組成物の硬化性を向上させる観点からは、ノボラック型フェノール樹脂、およびフェノールアラルキル型フェノール樹脂のうちの少なくとも一方を含むことがより好ましい。
【0033】
射出成形用樹脂組成物中における硬化剤の含有量は、射出成形用樹脂組成物全体に対して1質量%以上であることが好ましく、2質量%以上であることがより好ましく、3質量%以上であることがとくに好ましい。硬化剤の含有量を上記下限値以上とすることにより、常温保管性により優れるとともに、成形時において、優れた流動性を実現し、充填性や成形性の向上を図ることができる。一方で、射出成形用樹脂組成物中における硬化剤の含有量は、射出成形用樹脂組成物全体に対して40質量%以下であることが好ましく、25質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることがとくに好ましい。硬化剤の含有量を上記上限値以下とすることにより、射出成形の押出機における熱処理に対して安定であるとともに、成形サイクルを短くすることができる。
【0034】
本実施形態の射出成形用樹脂組成物は、熱硬化性樹脂として軟化点80℃未満のエポキシ樹脂、または硬化剤として軟化点80℃未満の硬化剤を含むことがより好ましく、エポキシ樹脂および硬化剤のいずれも軟化点が80℃未満であることがより好ましい。軟化点が80℃未満であるエポキシ樹脂および/または軟化点が80℃未満である硬化剤を用いることにより、低粘度の射出成形用樹脂組成物が得られ、連続射出成形が可能になることから生産性により優れる。
【0035】
[無機充填剤]
本実施形態の射出成形用樹脂組成物は、無機充填剤を含むことができる。
無機充填剤としては、たとえば、ガラス繊維、溶融破砕シリカ、球状シリカ、結晶シリカ等のシリカ、アルミナ、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、窒化珪素、および窒化アルミからなる群から選択される一種類または二種類以上を含むことができる。これらの中でも、汎用性に優れている観点から、ガラス繊維、球状シリカ、溶融破砕シリカ、炭酸カルシウムを含むことが好ましく、球状シリカ、溶融破砕シリカを含むことがより好ましい。
【0036】
無機充填剤がシリカを含む場合、たとえば平均粒径D50が1μm以上50μm以下であるシリカを含むことが好ましい。これにより、充填性や、密着性、耐湿性、耐熱性等のバランスをより効果的に向上させることができる。なお、シリカの平均粒径D50は、たとえば市販のレーザー式粒度分布計(たとえば、(株)島津製作所製、SALD-7000等)を用いて測定することができる。
【0037】
射出成形用樹脂組成物中における無機充填剤の含有量は、当該樹脂組成物全体に対して50重量%以上であることが好ましく、60重量%以上であることがより好ましい。無機充填剤の含有量を上記下限値以上とすることにより、低吸湿性および低熱膨張性を向上させ、封止材の耐湿信頼性をより効果的に向上させることができる。一方で、射出成形用樹脂組成物中における無機充填剤の含有量は、射出成形用樹脂組成物全体に対して90重量%以下であることが好ましく、85重量%以下であることがより好ましい。無機充填剤の含有量を上記上限値以下とすることにより、射出成形用樹脂組成物の成形時における流動性や充填性をより効果的に向上させることが可能となる。
【0038】
[硬化促進剤]
本実施形態の射出成形用樹脂組成物は、硬化促進剤(硬化触媒)を含むことができる。硬化促進剤は、熱硬化性樹脂と、硬化剤と、の架橋反応を促進させるものであればよく、公知のものを用いることができる。
【0039】
硬化促進剤としては、例えば、イミダゾール、2-ウンデシルイミダゾール、2-ヘプタデシルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール(EMI24)、2-フェニルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール(2P4MZ)、1-ベンジル-2-フェニルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾール、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾリウムトリメリテイト、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾリウムトリメリテイト、2,4-ジアミノ-6-[2’-メチルイミダゾリル(1’)]-エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2’-ウンデシルイミダゾリル(1’)]-エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2’-エチル-4-メチルイミダゾリル(1’)]-エチル-s-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-[2’-メチルイミダゾリル(1’)]-エチル-s-トリアジンのイソシアヌル酸付加物、2-フェニルイミダゾールのイソシアヌル酸付加物、2-メチルイミダゾールのイソシアヌル酸付加物、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシジメチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチル-5-ヒドロキシメチルイミダゾール、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾールや2,4-ジアミノ-6-[2-(2-メチル-1-イミダゾリル)エチル]-1,3,5-トリアジン等のイミダゾール触媒;
1,1’-(4-メチル-m-フェニレン)ビス(3,3-ジメチル尿素)、N,N’-ジメチル尿素等の尿素系触媒などが挙げられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
この中でも、低温硬化性と充填性の向上の観点から、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール、1,1’-(4-メチル-m-フェニレン)ビス(3,3-ジメチル尿素)、およびN,N’-ジメチル尿素からなる群から選択される一種以上を含むことが好ましい。
また、低温硬化性と充填性のバランスの観点から、硬化促進剤の官能基は、例えば、3個以下が好ましく、2個以下がより好ましい。
【0041】
本実施形態において、硬化促進剤の含有量の下限値は、例えば、射出成形用樹脂組成物の全固形分に対して0.02質量%以上であることが好ましく、0.05質量%以上であることがより好ましく、0.1質量%以上であることがとくに好ましい。硬化促進剤の含有量を上記下限値以上とすることにより、成形時における硬化性を効果的に向上させることができる。一方で、硬化促進剤の含有量の上限値は、例えば、射出成形用樹脂組成物の全固形分に対して3.0質量%以下であることが好ましく、2.0質量%以下であることがより好ましく、1.0質量%以下であることがさらに好ましく、0.5質量%以下であることがとくに好ましい。硬化促進剤の含有量を上記上限値以下とすることにより、成形時における流動性の向上を図ることができる。
【0042】
また、上記硬化促進剤の含有量の下限値は、例えば、エポキシ樹脂の全固形分に対して、0.3質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましく、0.8質量%以上であることがとくに好ましい。硬化促進剤の含有量を上記下限値以上とすることにより、成形時における低温硬化性を効果的に向上させることができる。一方で、硬化促進剤の含有量の上限値は、例えば、エポキシ樹脂の全固形分に対して5.0質量%以下であることが好ましく、3.0質量%以下であることがより好ましく、2.0質量%以下であることがとくに好ましい。硬化促進剤の含有量を上記上限値以下とすることにより、成形時における流動性の向上を図ることができる。
【0043】
(その他の成分)
本実施形態の射出成形用樹脂組成物には、必要に応じて、たとえばシランカップリング剤、着色剤、イオン捕捉剤、オイル、低応力剤、および難燃剤等の各種添加剤のうち1種以上を適宜配合することができる。
【0044】
<射出成形用樹脂組成物>
本実施形態の射出成形用樹脂組成物は、上記成分を従来公知の方法により混合することにより得ることができる。本実施形態の射出成形用樹脂組成物は、ホッパー内へ逆流が抑制されるとともに計量の正確性に優れることから、成形性に優れる。
本実施形態の射出成形用樹脂組成物は、40MPa以下での低圧成形が可能であり、射出速度10mm/secで連続成形が可能である。
【0045】
<射出成形方法>
本実施形態の射出成形方法は、
図1に示される射出成形装置1を用いて行うことができる。射出成形装置1は、シリンダー21およびシリンダー21に挿入されたスクリュー22からなる射出ユニット20と、キャビティ12を有する金型10と、を備える。
【0046】
本実施形態の射出成形方法は、
シリンダー21内で、本実施形態の射出成形用樹脂組成物を溶融する工程と、
スクリュー22を用いて溶融樹脂組成物を射出し、キャビティ12内に充填する工程と、を含む。
【0047】
射出成形装置1、ゲート、ランナー、ゲートなどの成形空間(キャビティ12)を備える金型10と、射出成形をする射出成形機20とを備える。射出成形機20は、例えば、シリンダー21と、シリンダー21内で回転可能なスクリュー22と、シリンダー21内に射出成形用樹脂組成物を投入可能なホッパー23と、シリンダー21を介してフェノール樹脂組成物を加熱するヒーター24と、シリンダー21内で混練した成形材料を金型10に送り出すノズル25とを備える。スクリュー22は、先端に逆流弁26を備える。
【0048】
本実施形態の射出成形方法は、まず、加熱している射出成形機20に射出成形用樹脂組成物を投入する。これにより、射出成形用樹脂組成物は、シリンダー21内で、ヒーター24によって加熱され溶融されながら、スクリュー22によって混練される。シリンダー21内のスクリュー22先端の温度Tは60~100℃である。
本実施形態において、前記ワックスは、前記スクリュー先端の温度Tを超え、かつ80℃以上の融点を有するワックス(b)と、前記スクリュー先端の温度T未満であり、かつ80℃未満の融点を有するワックス(a)とを含む。これにより、バックフローが抑制されるとともに計量の正確性に優れ、さらに射出成形用樹脂組成物の硬化物が金型からの離型性に優れることから連続射出成型が可能となり生産性に優れる。
【0049】
スクリュー22によって溶融した射出成形用樹脂組成物は、ノズル25の方向に圧縮混練されながら送られるとともにスクリュー22は後方(ノズル25とは逆方向)へ下がる。この際、スクリュー22を後方から押す背圧をかけ、ノズル25に集まった射出成形用樹脂組成物に圧力をかけることができる。そして、スクリュー21先端のノズル25に集まった射出成形用樹脂組成物を設定された位置まで計量される。本実施形態の射出成形用樹脂組成物は、スクリュー等への固着が抑制されており、正確に計量することができる。
【0050】
そして、計量された射出成形用樹脂組成物を、後方に下がったスクリュー21を前進させることによって、スクリュー22による圧力によりノズル25を介して金型10のキャビティ12内に射出される。本実施形態の射出成形用樹脂組成物は成形性に優れており、射出時においてシリンダー内の射出成形用樹脂組成物がホッパー内へ逆流(バックフロー)することが抑制されている。
本実施形態の射出成形用樹脂組成物は低温成形性に優れており、キャビティ12内の温度を150~160℃とすることができる。
【0051】
キャビティ12内で射出成形用樹脂組成物を硬化し、次いで、金型10を開きキャビティ12内から成形体を取り出す。本実施形態のワックス(a)とワックス(b)とを含む射出成形用樹脂組成物は離型性により優れる。
【0052】
本実施形態においては、射出成形用樹脂組成物で封止された車載用電子制御ユニット等を提供することができる。
以下、車載用電子制御ユニットを例に説明する。
【0053】
[車載用電子制御ユニット]
車載用電子制御ユニット30は、エンジンや各種車載機器等を制御するために用いられる。
図1に示すように、車載用電子制御ユニット30は、たとえば配線基板32と、配線基板32の少なくとも一面に搭載された複数の電子部品36と、電子部品36を封止する、本実施形態の射出成形用樹脂組成物からなる封止樹脂34と、を備えている。配線基板32は、少なくとも一辺において、外部と接続するための接続端子38を有している。本実施形態の一例に係る車載用電子制御ユニット30は、接続端子38と相手方コネクタを嵌合することによって、接続端子38を介して上記相手方コネクタに電気的に接続されることとなる。
【0054】
配線基板32は、たとえば一面および当該一面とは反対の他面のうちの一方または双方に回路配線が設けられた配線基板である。
図1に示すように、配線基板32は、たとえば平板状の形状を有している。本実施形態においては、たとえばポリイミド等の有機材料により形成された有機基板を配線基板32として採用することができる。配線基板32は、たとえば配線基板32を貫通して一面と他面を接続するスルーホール40を有していてもよい。この場合、配線基板32のうちの一面に設けられた配線と、他面に設けられた配線と、がスルーホール40内に設けられた導体パターンを介して電気的に接続される。
【0055】
配線基板32は、たとえば電子部品36を搭載する一面においてソルダーレジスト層を有している。上記ソルダーレジスト層は、半導体装置の分野において通常使用されるソルダーレジスト形成用樹脂組成物を用いて形成することができる。本実施形態においては、たとえば配線基板32の一面および他面にソルダーレジスト層を設けることができる。
【0056】
配線基板32の一面に、または一面および他面の双方に設けられた上記ソルダーレジスト層は、たとえばシリコーン化合物を含む樹脂組成物により形成される。これにより、表面平滑性に優れたソルダーレジスト層を実現することができる。
複数の電子部品36は、
図2に示すように、たとえば配線基板32の一面と他面のそれぞれに搭載される。一方で、電子部品36は、配線基板32の一面のみに設けられ、配線基板32の他面には設けられていなくともよい。電子部品36としては、車載用電子制御ユニットに搭載され得るものであればとくに限定されないが、たとえばマイクロコンピュータが挙げられる。
【0057】
封止樹脂34は、電子部品36を封止するように本実施形態の射出成形用樹脂組成物を成形し、硬化することにより形成される。本実施形態において、封止樹脂34は、たとえば電子部品36とともに配線基板32を封止するように形成される。
図2に示す例では、配線基板32の一面および他面、ならびに配線基板32に搭載された電子部品36を封止するように封止樹脂34が設けられている。また、封止樹脂34は、たとえば配線基板32の一部または全部を封止するように形成される。
図2においては、接続端子38が露出するように、配線基板32のうちの接続端子38を封止せずに他の部分全体を封止するように封止樹脂34が設けられる場合が例示されている。
【0058】
本実施形態の車載用電子制御ユニット30において、配線基板32は、たとえば金属ベース上に搭載されていてもよい。金属ベースは、たとえば電子部品36から発生する熱を放熱するためのヒートシンクとして機能することができる。本実施形態においては、たとえば金属ベースと、金属ベース上に搭載された配線基板32と、を射出成形用樹脂組成物により一体的に封止成形することにより車載用電子制御ユニット30を形成することができる。金属ベースを構成する金属材料としては、とくに限定されないが、たとえば鉄、銅、およびアルミ、ならびにこれらの一種または二種以上を含む合金等を含むことができる。なお、車載用電子制御ユニット30は、金属ベースを有していなくともよい。
【0059】
図1に例示される車載用電子制御ユニット30は、射出成形により、複数の電子部品36を本実施形態の射出成形用樹脂組成物で封止成形する。
【0060】
具体的には、まず金型10のキャビティ12内に、複数の電子部品36が搭載された配線基板32を配置する。キャビティ12の形状は、車載用電子制御ユニット30の形状となるように適宜変更される。そして、内部にスクリュー22を備えるシリンダー21内に、ホッパー23を介して本実施形態の射出成形用樹脂組成物を投入し、押出機温度80℃以上100℃で射出成形用樹脂組成物を溶融させる。溶融樹脂をスクリューで押出機内を移動させ、ゲートを介して金型のキャビティ12内に射出注入し、複数の電子部品36を封止する。
【0061】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、本発明の効果を損なわない範囲で、上記以外の様々な構成を採用することができる。
【実施例】
【0062】
以下に、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0063】
[比較例1~4、実施例1~4]
実施例1~4および比較例1~4のそれぞれについて、以下のように射出成形用樹脂組成物を調製した。
まず、表1に示す配合に従って、各成分を、室温状態に設定したヘンシェルミキサー(容量200リットル、回転数900rpm)で20分間予備混合した。次いで、得られた混合物を、連続式回転ボールミル(日本コークス工業(株)製ダイナミックミルMYD25、スクリュー回転数500rpm、アルミナ製ボール径10mm、装置容積に対するボールの体積充填率50%)を用いて、材料供給量200kg/hrで材料温度を30℃以下に保ちながら微粉砕した。次いで、微粉砕された混合物を、10インチの2本ロールを用いて混錬した。ロール温度は105℃と15℃に設定されて混錬した。混錬時間は5分間とした。次いで、混練後の混合物を冷却し、粉砕して射出成形用樹脂組成物を得た。なお、ヘンシェルミキサーによる予備混合から、射出成形用樹脂組成物を得るまでの各工程は、連続的に行った。なお、表1中における各成分の詳細は下記のとおりである。また、表1中の単位は、重量%である。
なお、実施例においては以下の成分を用いた。
【0064】
無機充填剤
・シリカ1:溶融球状シリカ(FB-105、デンカ社製、平均粒径10.6μm、比表面積5.1m2/g、上限カット71μm)
・シリカ2:溶融球状シリカ(SC-2500-SQ、アドマテックス社製、平均粒径0.6μm)
・シリカ3:破砕シリカ(RD-8、龍森社製、平均粒径15μm)
【0065】
カップリング剤
・カップリング剤1:N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン(KBM-573、信越化学工業社製)
・カップリング剤2:3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン(S810、チッソ社製)
・カップリング剤3:3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(S510、チッソ社製)
【0066】
熱硬化性樹脂
・エポキシ樹脂1:クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(EOCN-1020-55、日本化薬社製、軟化点55℃、当量196g/eq、数平均分子量490)
・エポキシ樹脂2:クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(EOCN-1020-65、日本化薬社製、軟化点65℃、当量199g/eq、数平均分子量614)
・エポキシ樹脂3:クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(EPICRON N680、DIC社製、軟化点85℃、当量211g/eq)
・エポキシ樹脂4:ビスフェノールA型エポキシ樹脂(JER1001、三菱ケミカル社製、軟化点64℃、当量450-500g/eq、数平均分子量900)
【0067】
硬化剤
・硬化剤1:ノボラック型フェノール樹脂(PR-HF-3、住友ベークライト社製、軟化点80℃、当量105g/eq、数平均分子量392、重量平均分子量667)
・硬化剤2:ノボラック型フェノール樹脂(PR-51470、住友ベークライト社製、軟化点110℃、当量103g/eq、数平均分子量617、重量平均分子量2201)
【0068】
硬化触媒
・硬化触媒1:2-フェニルイミダゾール(2PZ-PW、四国化成社製)
【0069】
ワックス
・ワックス1:酸化ポリエチレンワックス(リコワックス PED191、クラリアント・ジャパン社製、融点120~125℃)
・ワックス2:カルナバワックス(ニッコウカルナバ、日興ファイン社製、融点80~86℃)
・ワックス3:ステアリン酸(SR-サクラ、日本油脂社製、融点59~61℃)
【0070】
着色剤
・着色剤1:カーボンブラック(#5、三菱化学社製)
【0071】
(バックフロー/計量トルク安定性)
100tの電動横型射出成型機を用い、以下の条件で20回計量と射出を繰り返し、バックフローが発生しなかったものを〇、バックフローが発生したものを×と評価した。
・条件
スクリュー温調(先端から順に80℃/20℃/20℃)
背圧:1MPa
スクリュー回転数:10rpm
射出速度:10mm/sec
計量を62mm、VP切り替え位置5mm、保圧10MPa
また、この時計量トルクの曲線が、20shot同じ挙動、値であったものを〇、挙動が各Shotばらばらであり、値もばらついたものを×として計量トルク安定性を評価した。
【0072】
(離型性(金型内の樹脂残渣))
上記条件を用い、金型にISO試験片を用いて20shot成形を行った。20shot成形可能であったものを〇、固定側の金型に貼り付いたり、未充填が起きたものを×とした。
この時金型温度は160℃に設定し、硬化時間を80秒とした。
【0073】
(スパイラルフロー)
低圧トランスファー成形機(コータキ精機社製、KTS-15)を用いて、ANSI/ASTM D 3123-72に準じたスパイラルフロー測定用金型に、金型温度175℃、注入圧力6.9MPa、保圧時間120秒の条件にて、射出成形用樹脂組成物を注入し、流動長を測定した。
スパイラルフローは、流動性のパラメータであり、数値が大きい方が、流動性が良好である。
【0074】
(NGFP)
各例で得られた射出成形用樹脂組成物の矩形流路圧(矩形圧)を次のように測定した。
まず、射出成形用樹脂組成物(粉砕物)を、プランジャー(プランジャーサイズφ18mm)内で、175℃で3秒間加熱して予備加熱して軟化させた。
低圧トランスファー成形機(NEC社製、40tマニュアルプレス)を用いて、金型温度175℃、注入速度24.7mm/secの条件にて、幅13mm、厚さ0.5mm、長さ175mmの矩形状の流路に、上記で得られた、軟化した射出成形用樹脂組成物を注入した。このとき、流路の上流先端から25mmの位置に埋設した圧力センサーにて圧力の経時変化を測定し、射出成形用樹脂組成物の流動時における最低圧力(kgf/cm2)を測定し、これを矩形圧とした。矩形圧は、溶融粘度のパラメータであり、数値が小さい方が、溶融粘度が低いことを示す。
【0075】
(ガラス転移温度(Tg))
JIS6911曲げ試験片を175℃3分で成形し、流動方向のTMA測定を実施し、屈曲点をTgとした。昇温5℃/分で実施した。成形後(硬化なし)のTgが高いほど、成形サイクルを短くできると考えられる。
【0076】
【0077】
表1に記載のように、融点80℃未満のワックスを含む実施例の射出成形用樹脂組成物は、バックフローが抑制されるとともに計量の正確性に優れることから、成形性に優れていた。さらに、実施例1,3,4のように、融点80℃未満のワックスと当該ワックスより融点の高いワックスを併用することにより離型性により優れていた。
また、実施例2~4のように、軟化点80℃未満のエポキシ樹脂または硬化剤を含むことにより、矩形圧が小さく、溶融粘度が低いことから、低粘度の射出成形用樹脂組成物が得られ、連続射出成形が可能になることから生産性により優れていた。
【0078】
この出願は、2022年2月7日に出願された日本出願特願2022-017406号を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【符号の説明】
【0079】
1 射出成形装置
10 金型
12 キャビティ
20 射出成形機
21 シリンダー
22 スクリュー
23 ホッパー
24 ヒーター
25 ノズル
26 逆流弁
30 車載用電子制御ユニット
32 配線基板
34 封止樹脂
36 電子部品
38 接続端子
40 スルーホール