IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社村田製作所の特許一覧

<>
  • 特許-積層セラミックコンデンサ 図1
  • 特許-積層セラミックコンデンサ 図2
  • 特許-積層セラミックコンデンサ 図3
  • 特許-積層セラミックコンデンサ 図4
  • 特許-積層セラミックコンデンサ 図5
  • 特許-積層セラミックコンデンサ 図6
  • 特許-積層セラミックコンデンサ 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】積層セラミックコンデンサ
(51)【国際特許分類】
   H01G 4/30 20060101AFI20241106BHJP
【FI】
H01G4/30 201L
H01G4/30 201N
H01G4/30 201M
H01G4/30 201K
H01G4/30 515
H01G4/30 512
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023551540
(86)(22)【出願日】2022-09-27
(86)【国際出願番号】 JP2022035979
(87)【国際公開番号】W WO2023054379
(87)【国際公開日】2023-04-06
【審査請求日】2024-01-26
(31)【優先権主張番号】P 2021161111
(32)【優先日】2021-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 竜太
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(72)【発明者】
【氏名】大嶋 優汰
(72)【発明者】
【氏名】磯田 信弥
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 翔
【審査官】ゆずりは 広行
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-184279(JP,A)
【文献】特開2002-080276(JP,A)
【文献】特開2001-015374(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 4/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さ方向に相対する第1主面及び第2主面、幅方向に相対する第1側面及び第2側面、並びに長さ方向に相対する第1端面及び第2端面を有し、前記厚さ方向に交互に積層された複数の誘電体層及び複数の内部電極層を含む素体部と、前記第1端面及び第2端面のそれぞれに設けられ、前記複数の内部電極層と接続された一対の外部電極と、を備える積層セラミックコンデンサであって、
前記素体部は、
前記第1側面に沿って延在し、内部電極層を内包しない誘電体で構成される第1サイドマージン部、
前記第2側面に沿って延在し、内部電極層を内包しない誘電体で構成される第2サイドマージン部、
前記第1サイドマージン部と前記第2サイドマージン部とで挟まれるとともに、前記第1主面に最近接する内部電極層と前記第1主面とで挟まれる誘電体で構成される第1外層部、
前記第1サイドマージン部と前記第2サイドマージン部とで挟まれるとともに、前記第2主面に最近接する内部電極層と前記第2主面とで挟まれる誘電体で構成される第2外層部、並びに
前記第1サイドマージン部と前記第2サイドマージン部とで挟まれるとともに、前記第1外層部と前記第2外層部とで挟まれ、前記誘電体層及び前記内部電極層の積層体で構成される内層部を備え、
前記第1サイドマージン部、前記第2サイドマージン部、前記第1外層部及び前記第2外層部を構成する誘電体、並びに前記内層部に含まれる誘電体層のそれぞれは、バリウム(Ba)及びチタン(Ti)を含む誘電体粒子を含み、さらに希土類元素(Re)と、マンガン(Mn)、バナジウム(V)、鉄(Fe)、銅(Cu)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、及びクロム(Cr)からなる群から選択される一種以上の第1添加元素(Me)と、を副成分として含み、
前記積層セラミックコンデンサの長さ方向中央を横切る断面において、前記内層部に含まれる誘電体層は、コアシェル粒子及び均一固溶粒子の両方を誘電体粒子として含み、前記コアシェル粒子が占める平均面積(A)の前記均一固溶粒子が占める平均面積(B)に対する比(A/B)が0.8以上1.5以下であり、前記均一固溶粒子に含まれる第1添加元素濃度の粒子間バラツキを表す変動係数が20%以下である、積層セラミックコンデンサ。
【請求項2】
前記断面において、前記第1外層部及び第2外層部を構成する誘電体は、前記均一固溶粒子を誘電体粒子として含む、請求項1に記載の積層セラミックコンデンサ。
【請求項3】
前記断面において、前記第1サイドマージン部及び第2サイドマージン部を構成する誘電体は、前記コアシェル粒子を誘電体粒子として含む、請求項1に記載の積層セラミックコンデンサ。
【請求項4】
前記断面において、前記第1サイドマージン部及び第2サイドマージン部を構成する誘電体は、前記コアシェル粒子を誘電体粒子として含む、請求項2に記載の積層セラミックコンデンサ。
【請求項5】
前記希土類元素(Re)がジスプロシウム(Dy)を含む、請求項1~のいずれか一項に記載の積層セラミックコンデンサ。
【請求項6】
前記断面において、隣接する内部電極層の幅方向での端部位置のずれが5μm以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載の積層セラミックコンデンサ。
【請求項7】
前記誘電体層の厚さが0.40μm以上0.50μm以下である、請求項1~のいずれか一項に記載の積層セラミックコンデンサ。
【請求項8】
前記誘電体層の厚さが0.40μm以上0.45μm以下である、請求項1~のいずれか一項に記載の積層セラミックコンデンサ。
【請求項9】
前記内部電極層の厚さが0.30μm以上0.40μm以下である、請求項1~のいずれか一項に記載の積層セラミックコンデンサ。
【請求項10】
前記内部電極層の厚さが0.30μm以上0.35μm以下である、請求項1~のいずれか一項に記載の積層セラミックコンデンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層セラミックコンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話を始めとする電子機器の小型化やCPUの高速化に伴い、積層セラミックコンデンサ(MLCC)への需要がますます高くなっている。積層セラミックコンデンサは、誘電体層と内部電極層とが交互に積層された構造を有しており、薄層化された高誘電率誘電体層に起因して、小型でありながら大きな静電容量をもつ。種々の材料を用いた積層セラミックコンデンサが知られているが、誘電体層にチタン酸バリウム(BaTiO)系化合物を用い、内部電極層にニッケル(Ni)などの卑金属を用いたものが、安価で且つ高特性を示すため、広く利用されている。
【0003】
積層セラミックコンデンサの小型化及び大容量化を図る上で、誘電体層の誘電率を高めるとともに、誘電体層の薄層化及び多層化を進めることが有効である。しかしながら、誘電体層の薄層化が進むと、1層あたりに印加される電界強度が高くなるとともに、誘電体層中の微細欠陥の影響が大きくなる。そのため絶縁抵抗(IR)の低下、あるいは絶縁破壊が起こり、それにより信頼性が損なわれる恐れがある。絶縁抵抗が不十分であると、漏れ電流(リーク電流)が発生して誘電損失が大きくなる。また実動作中に絶縁抵抗低下や絶縁破壊が起こると、寿命が短くなる問題が発生する。したがって、誘電体層の薄層化を進める上で、積層セラミックコンデンサの信頼性を確保することが重要である。
【0004】
積層セラミックコンデンサの信頼性を高めるために、誘電体層に含まれる誘電体粒子にコアシェル構造をもたせることが提案されている。コアシェル粒子は、コア部と、このコア部の表面に設けられたシェル部とから構成されている。シェル部には希土類元素などの副成分が高濃度に固溶しているのに対し、コア部では副成分濃度が低い。このような構造を粒子にもたせることで、寿命劣化が抑えられ、信頼性が向上する。
【0005】
例えば、特許文献1には、複数の誘電体層と複数の内部電極とを一体的に積層してなり、該誘電体層はセラミック粒子の焼結体からなり、該セラミック粒子は、結晶性のコア部と、該コア部を囲繞するシェル部とからなり、該コア部には添加物元素が濃度勾配を有して含まれていることを特徴とするセラミックコンデンサが開示されている(特許文献1の請求項1)。また引用文献1には、添加物元素濃度がコア部の中心からシェル部に向かって高くなること、シェル部にHo等の希土類元素及びMgが含まれていること、誘電体層を薄層化させた時の寿命特性が向上し、薄層化・多層化が可能になり、積層セラミックコンデンサの小型大容量化が可能になることが記載されている(特許文献1の請求項2,6及び[0033])。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2001-230150号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、誘電体層に含まれる誘電体粒子にコアシェル構造をもたせ、それにより積層セラミックコンデンサの信頼性向上を図ることが従来から提案されている。しかしながら、近年、積層セラミックコンデンサの小型化及び大容量化の要望は益々高くなり、この要望に応える上で、従来の技術では不十分である。そのため、誘電率が高く、小型化及び大容量化が可能であるとともに、信頼性に優れたセラミックコンデンサへの期待が高まっている。
【0008】
本発明者らは、このような従来の問題点に鑑みて鋭意検討を行った。その結果、誘電体層中の誘電体粒子に含まれる特定の元素に着目し、この元素の粒子内濃度分布及び粒子間バラツキを制御することで、誘電率(ε)及び絶縁抵抗(IR)が高くなるとともに、長寿命化し、その結果、小型化及び大容量化が可能であり、且つ優れた信頼性を有する積層セラミックコンデンサを得ることができるとの知見を得た。
【0009】
本発明は、このような知見に基づき完成されたものであり、小型化及び大容量化が可能であるとともに、優れた信頼性を有する積層セラミックコンデンサの提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下の態様を包含する。なお本明細書において「~」なる表現は、その両端の数値を含む。すなわち「X~Y」は「X以上Y以下」と同義である。
【0011】
本発明の一態様によれば、厚さ方向に相対する第1主面及び第2主面、幅方向に相対する第1側面及び第2側面、並びに長さ方向に相対する第1端面及び第2端面を有し、前記厚さ方向に交互に積層された複数の誘電体層及び複数の内部電極層を含む素体部と、前記第1端面及び第2端面のそれぞれに設けられ、前記複数の内部電極層と接続された一対の外部電極と、を備える積層セラミックコンデンサであって、
前記素体部は、
前記第1側面に沿って延在し、内部電極層を内包しない誘電体で構成される第1サイドマージン部、
前記第2側面に沿って延在し、内部電極層を内包しない誘電体で構成される第2サイドマージン部、
前記第1サイドマージン部と前記第2サイドマージン部とで挟まれるとともに、前記第1主面に最近接する内部電極層と前記第1主面とで挟まれる誘電体で構成される第1外層部、
前記第1サイドマージン部と前記第2サイドマージン部とで挟まれるとともに、前記第2主面に最近接する内部電極層と前記第2主面とで挟まれる誘電体で構成される第2外層部、並びに
前記第1サイドマージン部と前記第2サイドマージン部とで挟まれるとともに、前記第1外層部と前記第2外層部とで挟まれ、前記誘電体層及び前記内部電極層の積層体で構成される内層部を備え、
前記第1サイドマージン部、前記第2サイドマージン部、前記第1外層部及び前記第2外層部を構成する誘電体、並びに前記内層部に含まれる誘電体層のそれぞれは、バリウム(Ba)及びチタン(Ti)を含む誘電体粒子を含み、さらに希土類元素(Re)と、マンガン(Mn)、バナジウム(V)、鉄(Fe)、銅(Cu)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、及びクロム(Cr)からなる群から選択される一種以上の第1添加元素(Me)と、を副成分として含み、
前記積層セラミックコンデンサの長さ方向中央を横切る断面において、前記内層部に含まれる誘電体層は、コアシェル粒子及び均一固溶粒子の両方を誘電体粒子として含み、前記コアシェル粒子が占める平均面積(A)の前記均一固溶粒子が占める平均面積(B)に対する比(A/B)が0.8以上1.5以下であり、前記均一固溶粒子に含まれる第1添加元素濃度の粒子間バラツキを表す変動係数が20%以下である、積層セラミックコンデンサが提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、小型化及び大容量化が可能であるとともに、優れた信頼性を有する積層セラミックコンデンサが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】積層セラミックコンデンサの外形を示す斜視図である。
図2】積層セラミックコンデンサの内部構造を示す断面模式図である。
図3】積層セラミックコンデンサの内部構造を示す断面模式図である。
図4】素体部の内部構造を示す断面模式図である。
図5】コアシェル粒子の内部構造を示す断面模式図である。
図6】TEM観察用サンプルの採取位置を示す図面である。
図7】内部電極層及び誘電体層の厚さ測定の説明に供する図面である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施形態」という)について説明する。なお本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において種々の変更が可能である。
【0015】
<<1.積層セラミックコンデンサ>>
本実施形態の積層セラミックコンデンサの一態様を、図1図3を用いて説明する。図1は積層セラミックコンデンサの外形を示す斜視図である。図2は、図1に示す積層セラミックコンデンサのII-II線に沿って切断した断面図であり、図3は、図1に示す積層セラミックコンデンサのIII-III線に沿って切断した断面図である。
【0016】
積層セラミックコンデンサ(22)は、交互に積層された複数の誘電体層(2)及び複数の内部電極層(4)を含む素体部(6)と、この素体部(6)の両端面(14a、14b)に設けられた一対の外部電極(8a、8b)と、を備える。積層セラミックコンデンサ(22)及び素体部(6)は、略直方体の形状を有する。略直方体とは、直方体のみならず、角部及び/又は稜線部が丸められた直方体を包含する。ここで、角部とは、素体部(6)の3面が交わる部分であり、また稜線部は、素体部の2面が交わる部分である。好ましくは、積層セラミックコンデンサ(22)及び素体部(6)は、角部及び/又は稜線部が丸められた直方体の形状を有する。
【0017】
積層セラミックコンデンサ(22)及び素体部(6)は、厚さ方向Tに相対する第1主面(10a)及び第2主面(10b)、幅方向Wに相対する第1側面(12a)及び第2側面(12b)、並びに長さ方向Lに相対する第1端面(14a)及び第2端面(14b)を有する。ここで厚さ方向Tとは、誘電体層(2)及び内部電極層(4)が積層された方向を指す。厚さ方向Tは、誘電体層(2)及び内部電極層(4)の層面に直交する方向と言うこともできる。長さ方向Lは、厚さ方向Tに直交するとともに、端面(14a、14b)が対向する方向を指す。すなわち端面(14a、14b)に直交し、端面(14a、14b)間を結ぶ方向である。幅方向Wは、厚さ方向T及び長さ方向Lに直交する方向である。厚さ方向T及び幅方向Wを含む面をWT面と定義し、幅方向W及び長さ方向Lを含む面をLW面と定義し、長さ方向L及び厚さ方向Tを含む面をLT面と定義する。
【0018】
外部電極(8a、8b)は、第1端面(14a)に設けられた第1外部電極(8a)と、第2端面(14b)に設けられた第2外部電極(8b)と、を備える。第1外部電極(8a)は、第1端面(14a)のみならず、第1主面(10a)、第2主面(10b)、第1側面(12a)及び第2側面(12b)の一部に回り込んでもよい。また第2外部電極(8b)は、第2端面(14b)のみならず、第1主面(10a)、第2主面(10b)、第1側面(12a)及び第2側面(12b)の一部に回り込んでもよい。しかしながら、第1外部電極(8a)と第2外部電極(8b)は接触しておらず、電気的に離間している。
【0019】
内部電極層(4)は、複数の第1内部電極層(4a)と複数の第2内部電極層(4b)とで構成される。第1内部電極層(4a)及び第2内部電極層(4b)のそれぞれは、互いに対向する略矩形状の対向電極部と、端面(14a、14b)に延在して外部電極(8a、8b)と接続する引出電極部と、で構成される。すなわち複数の第1内部電極層(4a)は引出電極部を介して第1端面(14a)に延在し、そこで第1外部電極(8a)と電気的に接続されている。また複数の第2内部電極層(4b)は引出電極部を介して第2端面(14b)に延在し、そこで第2外部電極(8b)と電気的に接続されている。第1内部電極層(4a)と第2内部電極層(4b)とは、厚さ方向Tにおいて誘電体層(2)を挟み込んで対向するように交互に積層されている。誘電体層(2)を挟んで対向する第1内部電極層(4a)と第2内部電極層(4b)は、電気的に接続されていない。そのため外部電極(8a、8b)及び引出電極部を介して電圧が印加されると、第1内部電極層(4a)の対向電極部と第2内部電極層(4b)の対向電極部との間に電荷が蓄積される。蓄積した電荷により静電容量が生じ、それにより容量素子(コンデンサ)としての機能が発現する。
【0020】
素体部(6)の断面(WT面)模式図を図4に示す。素体部(6)は、内層部(16)、第1外層部(18a)、第2外層部(18b)、第1サイドマージン部(20a)、及び第2サイドマージン部(20b)で構成される。第1サイドマージン部(20a)は、第1側面(12a)に沿って延在し、内部電極層(4a、4b)を内包しない誘電体で構成される。第2サイドマージン部(20b)は、第2側面(12b)に沿って延在し、内部電極層(4a、4b)を内包しない誘電体で構成される。換言するに、第1サイドマージン部(20a)は、内部電極層(4a、4b)の第1側面(12a)側端部と第1側面(12a)とで挟まれた領域であり、また第2サイドマージン部(20b)は、内部電極層(4a、4b)の第2側面(12b)側端部と第2側面(12b)とで挟まれた領域である。
【0021】
第1外層部(18a)は、第1サイドマージン部(20a)と第2サイドマージン部(20b)とで挟まれるとともに、複数の内部電極層(4a、4b)のうち第1主面(10a)に最近接する内部電極層と第1主面(10a)とで挟まれる誘電体で構成される。第2外層部(18b)は、第1サイドマージン部(20a)と第2サイドマージン部(20b)とで挟まれるとともに、複数の内部電極層(4a、4b)のうち第2主面(10b)に最近接する内部電極層と第2主面(10b)とで挟まれる誘電体で構成される。内層部(16)は、第1サイドマージン部(20a)と第2サイドマージン部(20b)とで挟まれるとともに、第1外層部(18a)と第2外層部(18b)とで挟まれ、誘電体層(2)及び内部電極層(4a、4b)の積層体で構成される。内層部(16)は、第1主面(10a)に最近接する内部電極層と第2主面(10b)に最近接する内部電極層とで挟まれる領域と言うこともできる。この内層部(16)は、容量素子としての機能を担う。要するに、誘電体層(2)と内部電極層(4a、4b)の積層体からなる内層部(16)が、第1外層部(18a)と第2外層部(18b)とで積層方向(厚さ方向)に挟み込まれ、これら全体が第1サイドマージン部(20a)と第2サイドマージン部(20b)とで幅方向に挟み込まれると言うことができる。
【0022】
積層セラミックコンデンサ(22)や素体部(6)のサイズは、特に限定されない。例えば、長さ方向L寸法が0.2mm以上3.2mm以下、幅方向W寸法が0.1mm以上2.5mm以下、積層方向T寸法が0.1mm以上2.5mm以下である。なお、図1及び2では長さ方向L寸法が幅方向W寸法より大きくなるよう示されているが、本実施形態の積層セラミックコンデンサは、このような寸法を有するものに限定されない。長さ方向L寸法が幅方向W寸法より小さくてもよい。
【0023】
<内層部‐誘電体層>
誘電体層は、内部電極層とともに積層セラミックコンデンサの内層部を構成する。誘電体層は誘電体粒子(誘電体グレイン)を含む。すなわち、誘電体層は、多数の誘電体粒子が粒界及び三重点を介して結合した焼結多結晶体(セラミック)である。誘電体粒子はペロブスカイト型酸化物で構成され、誘電体層の主成分となる。誘電体層は、ペロブスカイト型酸化物を主成分とする誘電体セラミックスと言うこともできる。ペロブスカイト型酸化物は、一般式:ABOで表される組成を有しており、室温で立方晶、正方晶、斜方晶、及び菱面体晶などの立方晶類似の結晶構造をもつ。またAサイト元素の原子(以下、「Aサイト原子」)及びBサイト元素の原子(以下、「Bサイト原子」)のそれぞれは、イオン化してペロブスカイト構造のAサイト及びBサイトを占める。なお主成分とは誘電体層中の含有割合が最も大きい成分のことである。主成分たる誘電体粒子(ペロブスカイト型酸化物)の誘電体層中での含有割合は、50質量%以上であってよく、60質量%以上であってよく、70質量%以上であってよく、80質量%以上であってよく、90質量%以上であってもよい。
【0024】
誘電体粒子は、バリウム(Ba)及びチタン(Ti)を含む。すなわち誘電体粒子を構成するペロブスカイト型酸化物は、チタン酸バリウム(BaTiO)系化合物である。BaTiOは室温で大きな自発分極をもつ。そのため高い誘電率を示す強誘電体である。BaTiO系化合物を主成分にすることで、コンデンサのより一層の大容量化を図ることが可能になる。なおBaTiO系化合物は、BaTiOのみならず、BaTiOのBaの一部をSr及び/又はCaなどの他のAサイト元素で置換したもの、あるいはTiの一部をZr及び/又はHfなどの他のBサイト元素で置換したものを包含する。ただし、Aサイト元素中のBaの割合は、モル比で70%以上が好ましく、80%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましい。またBサイト元素中のTiの割合は、モル比で70%以上が好ましく、80%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましい。
【0025】
誘電体層は、希土類元素(Re)を副成分として含む。希土類元素(Re)は、周期律表において原子番号21のスカンジウム(Sc)、原子番号39のイットリウム(Y)、及び原子番号57のランタン(La)~原子番号71のルテチウム(Lu)からなる群を構成する元素の総称である。希土類元素(Re)は、好適には、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジウム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、及びルテチウム(Lu)からなる群から選択される一種以上の元素であり、特に好適にはジスプロシウム(Dy)を含む。
【0026】
希土類元素(Re)には、誘電体層の寿命を改善し、信頼性向上を可能にする効果がある。BaTiOでは、イオン半径の大きいBaイオン(Ba2+)がAサイトを占め、イオン半径の小さいTiイオン(Ti4+)がBサイトを占める。希土類元素(Re)は通常は正3価イオン(Re3+)になり、そのイオン半径はBa2+とTi4+の中間程度の大きさである。そのため希土類元素はBaTiOに固溶して、Ba及びTiのいずれか一方又は両方を置換する。Baサイト(Aサイト)を占める希土類元素はドナーとして働き、またTiサイト(Bサイト)を占める希土類元素はアクセプターとして働く。
【0027】
BaTiO系誘電体セラミックは、焼成工程で生じた酸素空孔を誘電体粒子中に多く含む。特に、積層セラミックコンデンサは、その製造時に内部電極層の酸化を抑えるため、弱還元性雰囲気下で焼成が行われる。そのためBaTiOが還元されて、酸素空孔が生じやすい。酸素空孔は正電荷を有しており、この酸素空孔が電荷の通り道になる。酸素空孔が多いと、移動する電荷が多くなり、絶縁抵抗劣化が生じやすい、特に高温環境下では酸素空孔が負極近傍にまで移動しやすい。そのため負荷が加わると、負極側での酸素空孔量が局所的に多くなり、絶縁抵抗が劣化する。これに対して、BaTiOにドナー及び/又はアクセプターとして働く希土類元素を加えると、これが酸素空孔の生成及びその移動を抑制する。そのため、絶縁抵抗劣化や絶縁破壊が抑制され、その結果、高温負荷寿命が長くなる。
【0028】
誘電体層は、さらに第1添加元素(Me)を副成分として含む。第1添加元素(Me)は、マンガン(Mn)、バナジウム(V)、鉄(Fe)、銅(Cu)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、及びクロム(Cr)からなる群から選択される一種以上の元素であり、好適にはニッケル(Ni)を含む。
【0029】
第1添加元素(Me)には、誘電体層の絶縁抵抗(IR)を高める効果ある。先述したように、積層セラミックコンデンサ製造時に弱還元性雰囲気下で焼成が行われるため、誘電体層に含まれるBaTiOが還元されやすい。BaTiOは還元されると半導体化し、その絶縁抵抗が低くなる。絶縁抵抗が低いと、誘電損失増大をもたらす漏れ電流(リーク電流)が流れやすくなるとともに、寿命劣化につながりやすい。第1添加元素(Me)は、主としてBaTiOのTiサイトに固溶するアクセプター元素であり、耐還元性向上の効果がある。そのため、第1添加元素を加えることで、焼成後の誘電体層の絶縁抵抗が高くなり、その結果、漏れ電流が抑制されるとともに、高温負荷寿命が長くなる。
【0030】
希土類元素(Re)及び第1添加元素(Me)のそれぞれは、1種のみの元素であってもよく、あるいは複数種の元素の組み合わせであってもよい。また希土類元素及び第1添加元素は、その少なくとも一部が誘電体粒子に含まれていればよい。誘電体粒子に含まれない元素は、粒界や三重点に存在することができる。
【0031】
誘電体層は、希土類元素(Re)及び第1添加元素(Me)以外の副成分を含んでもよい。このような副成分として、限定される訳ではないが、ケイ素(Si)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、及び/又はこれらの化合物などが挙げられる。これらの副成分は、誘電体粒子中に含まれてもよく、あるいは粒界や三重点に存在してもよい。
【0032】
本実施形態の積層セラミックコンデンサは、その長さ方向中央を横切る断面において、内層部に含まれる誘電体層は、コアシェル粒子及び均一固溶粒子の両方を誘電体粒子として含む。すなわち内層部の誘電体層は、コアシェル粒子と均一固溶粒子を混合状態で含む。コアシェル粒子と均一固溶粒子の両方を所定割合で含むことで、誘電体層の誘電率及び絶縁抵抗が高くなるとともに、信頼性が顕著に改善される。その理由を以下に説明する。
【0033】
コアシェル粒子の断面模式図を図5に示す。コアシェル粒子(30)は、希土類元素等の副成分濃度が低いコア部(32)と、このコア部の表面に設けられた副成分濃度が高いシェル部(34)と、を備えた粒子である。具体的には、コアシェル粒子(30)は、粒子外面から10nmの距離で内側に入った部位(粒子外周部)での希土類元素(Re)のチタン(Ti)に対するモル比が、粒子中心部での希土類元素(Re)のチタン(Ti)に対するモル比の1.5倍以上の誘電体粒子である。コアシェル粒子(30)は、Re濃度分布比が1.5以上の粒子と言うこともできる。ここでRe濃度分布比は、粒子外周部での希土類元素(Re)のチタン(Ti)に対するモル比(シェルRe/Ti比)と、粒子中心部での希土類元素(Re)のチタン(Ti)に対するモル比(コアRe/Ti比)と、の比率((シェルRe/Ti比)/(コアRe/Ti比))である。
【0034】
誘電体粒子にコアシェル構造をもたせることで高温負荷寿命が顕著に向上する。シェル部に、ドナーやアクセプターとして働く希土類元素などの副成分を固溶させることで、絶縁劣化をもたらす酸素空孔の移動が抑制されるからである。
【0035】
コアシェル粒子内での第1添加元素(Me)の濃度分布は特に限定されない。またコアシェル粒子の平均粒径は、好適には100nm以上150nm未満である。なお、平均粒径は、1000nm×1000nmの視野で複数の粒子の断面積を測定し、その面積の円相当径の平均値として求めることができる。
【0036】
均一固溶粒子は、副成分が粒子内部で均一に固溶している粒子、または副成分が固溶していない粒子である。具体的には、均一固溶粒子は、粒子外面から10nmの距離で内側に入った部位(外周部)での希土類元素(Re)のチタン(Ti)に対するモル比が、粒子中心部での希土類元素(Re)のチタン(Ti)に対するモル比の1.5倍未満の誘電体粒子である。均一固溶粒子は、Re濃度分布比((シェルRe/Ti比)/(コアRe/Ti比))が1.5未満の粒子と言うこともできる。
【0037】
均一固溶粒子は非コアシェル粒子とも呼ばれる。副成分を均一固溶させることで、誘電率をより一層高めることが可能である。すなわち、コアシェル粒子は信頼性向上を図ることが可能というメリットがある一方で、誘電率自体を高める上で限界がある。これに対して、均一固溶粒子を用いることで、誘電率を高めることが可能である。なお、均一固溶粒子の平均粒径は、好適には150nm以上400nm以下である。
【0038】
本実施形態の積層セラミックコンデンサでは、誘電体層がコアシェル粒子と均一固溶粒子を所定の割合で含む。具体的には、内層部に含まれる誘電体層では、積層セラミックコンデンサの長さ方向中央を横切る断面において、コアシェル粒子が占める平均面積(A)の均一固溶粒子が占める平均面積(B)に対する比(A/B)が0.8以上1.5以下である。A/Bを所定範囲内に限定することで、誘電体層の誘電率及び絶縁抵抗が高くなるとともに信頼性が高くなる。これに対して、A/Bが0.8未満であると、均一固溶粒子の割合が大きく過ぎて、信頼性が低下する恐れがある。またA/Bが1.5超であると、コアシェル粒子の割合が大きすぎて、誘電率が低下する恐れがある。A/Bは、好ましくは0.8以上1.5以下、より好ましくは1.0以上1.3以下である。
【0039】
次に、コアシェル粒子と均一固溶粒子の判別手法、及びA/Bの算出手法を説明する。図6は、積層セラミックコンデンサの長さ方向中央を横切る断面(WT面)を示す断面模式図である。まず積層セラミックコンデンサを加工して、長さ方向中央を横切り且つ幅方向及び厚さ方向を含む面(WT面)を露出させる。次いで、WT面を観察面とする薄片試料を取り出す。薄片試料は、内層部の幅方向中央且つ厚さ方向中央の位置、すなわち図6中で示されるP1の位置から採取する。ただし、内層部の幅方向中央且つ厚さ方向中央に内部電極層のみが存在し、誘電体層が観察できない場合には、この内部電極層に隣接する誘電体層から薄片試料を採取する。そして採取した薄片試料を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察する。観察は1000nm×1000nmの視野について行う。
【0040】
そして、この視野に含まれる誘電体層中の誘電体粒子のそれぞれについて、TEM-EDXを用いて元素分析を行う。元素分析は、各粒子の中心部(粒子中心)と、粒子外面から10nmの距離で内側に入った部位(粒子外周部)と、のそれぞれについて行う。ただし、中心部を判定できないほど形状がいびつな粒子は、分析から除外するか、あるいは20nmの距離で内側に入った部位で分析する。そしてRe濃度分布比が1.5以上の粒子をコアシェル粒子と判断し、Re濃度分布比が1.5未満の粒子を均一固溶粒子と判断する。
【0041】
次に、TEM像に基づき、断面におけるコアシェル粒子のそれぞれが占める面積を測定する。そしてこの面積を合算してコアシェル粒子の合計面積を求め、この合計面積をコアシェル粒子の個数で除して、平均面積(A)を算出する。同様にして、均一固溶粒子の合計面積を均一固溶粒子の個数で除して、平均面積(B)を算出する。そして、コアシェル粒子の平均面積(A)を均一固溶粒子の平均面積(B)で除することで、面積比(A/B)を求める。
【0042】
このように、本実施形態の積層セラミックコンデンサでは、コアシェル粒子と均一固溶粒子の面積比(A/B)を内層部の幅方向中央及び厚さ方向中央で求めている。またこの部位でのA/B比が所定範囲内に限定されている。しかしながら、内層部の全ての領域でA/Bが前記範囲内に限定される訳ではない。場合によっては、外層部(第1外層部、第2外層部)との界面に近い内層部内の領域では、均一固溶粒子割合が大きくなることがある。例えば、内層部内の誘電体層であって、外層部に最近接する誘電体層は、均一固溶粒子の割合が大きいことがある。その場合には、外層部に最近接する誘電体層において、A/Bが0.8以上1.0以下であることが好ましい。
【0043】
本実施形態の積層セラミックコンデンサでは、内層部に含まれる誘電体層において、均一固溶粒子の第1添加元素濃度の粒子間バラツキが小さい。具体的には、内層部に含まれる誘電体層では、積層セラミックコンデンサの長さ方向中央を横切る断面において、均一固溶粒子の第1添加元素濃度の変動係数が20%以下である。ここで変動係数とは、第1添加元素濃度の粒子間バラツキを表す指標であり、粒子間バラツキ値(標準偏差)の平均値に対する比(バラツキ値/平均値)である。第1添加元素濃度のバラツキを小さくすることで、絶縁抵抗(IR)を大きくすることが可能になる。
【0044】
第1添加元素は、誘電体セラミックの絶縁特性を高め、漏れ電流発生を抑制する効果がある。しかしながら、第1添加元素濃度の粒子間バラツキが大きいと、局所的に濃度が小さい箇所が生じることがある。その場合には、第1添加元素濃度の低い箇所で絶縁抵抗が小さくなり、漏れ電流が流れてしまう。第1添加元素濃度の粒子間バラツキを小さくすることで、漏れ電流発生が抑えられ、絶縁特性が向上する。第1添加元素濃度の変動係数は8%以上20%以下、9%以上18%以下、または10%以上15%以下であってもよい。
【0045】
変動係数は次のようにして求めることができる。すなわち、上述したTEM観察の際に、1000nm×1000nmの視野で断面像を撮像し、各辺を255に分割して、視野をマトリックス状に構成された複数のセルに分割する。次いで、各セルでの誘電体粒子ごとに第1添加元素の濃度を測定し、その平均値及びバラツキ値(標準偏差)を求める。そしてバラツキ値/平均値を変動係数として算出する。
【0046】
<内層部‐内部電極層>
内部電極層(第1内部電極層、第2内部電極層)は、誘電体層とともに内層部を構成する。また内部電極層は、対向電極部と引出電極部とで構成される、対向電極部は誘電体層を挟み込み、容量素子としての機能を発現させる働きがある。引出電極部は、対向電極部と外部電極とを電気的につなぐ働きがある。内部電極層は導電性金属を含む。導電性金属として、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、銀(Ag)、パラジウム(Pd)、銀(Ag)-パラジウム(Pd)合金及び/又は金(Au)などの公知の電極材料を用いればよい。しかしながら、低コスト化の観点から卑金属たるNiやCuが好適であり、Niが特に好適である。
【0047】
内部電極層は、導電性金属以外の成分を含んでもよい。このような成分として、共材として働くセラミック粒子を挙げることができる。共材を加えることで、積層セラミックコンデンサ製造時の焼成工程で内部電極層の収縮挙動が誘電体層と整合され、その結果、内部電極層剥がれなどの欠陥の発生を抑制することができる。セラミック粒子として、誘電体層に含まれるBaTiO系化合物などの誘電体粒子が好適である。また内部電極層の厚さは、好適には0.30μm以上0.40μm以下であり、より好適には0.30μm以上0.35μm以下である。内部電極厚さを所定値以上に設定ことで、電極途切れなどの問題の発生を防ぐことができる。また所定値以下に設定することで、コンデンサ中で誘電体層が占める割合の低下を防ぐことができ、大容量化に寄与する。さらに内部電極層の層数は、好適には10枚以上1000枚以下である。
【0048】
内部電極層の厚さの測定は、例えば以下のように行う。まず、積層セラミックコンデンサの中心を通るLT断面を研磨して内層部を露出させる。必要に応じて、露出させた断面をエッチング処理し、研磨で引き伸ばされた導電体層を除去してもよい。図7は、露出された内層部断面の拡大像の例である。図示する拡大像において、例えば、積層方向Tに延びる複数の直線La,Lb,Lc,Ld,Leを略等ピッチ間隔Sで引く。ピッチSは、測定しようとする内部電極層の厚さの5倍~10倍程度が好ましく、例えば、厚さが約1μm程度の内部電極層を測定する場合には、ピッチSを5μmとする。
【0049】
次に、5本の直線La,Lb,Lc,Ld,Leの各直線上において、それぞれの内部電極層の厚さda,db,dc,dd,deを測定する。ただし、直線La,Lb,Lc,Ld,Le上において、内部電極層が欠損して、この内部電極層を挟む内部誘電体層同士が繋がっている場合、または、測定位置の拡大図が不明瞭である場合は、新たな直線を引き、内部電極層の厚さを測定する。なお、内部電極層の積層数が5層未満である場合には、全ての内部電極層について厚さを測定し、その平均値を複数の内部電極層の平均厚さとする。誘電体層の厚さも、内部電極層と同様の手法で測定可能である。
【0050】
好適には、積層セラミックコンデンサの長さ方向中央を横切る断面において、隣接する内部電極層の幅方向での端部位置のずれが5μm以下である。すなわち、隣接する上下一組の内部電極層は、その幅方向端部位置が揃っていることが好ましい。
【0051】
誘電体層と内部電極層との界面にスズ(Sn)が存在してもよい。Snが存在する場合には、Snは、内部電極層と平行な層状の形態で存在してもよく、あるいは点在してもよい。またSnは、内部電極層内部に固溶してもよく、あるいは誘電体層中に存在してもよい。
【0052】
<外層部>
外層部(第1外層部、第2外層部)は、第1サイドマージン部と第2サイドマージン部とで挟まれるとともに、主面(第1主面、第2主面)に最近接する内部電極層と主面とで挟まれる誘電体で構成される。すなわち内層部の上部及び下部に設けられる。外層部は誘電体セラミックで構成され、その内部に内部電極層を含まない領域である。外層部を設けることで、容量素子として機能する内層部を上下から保護することができる。
【0053】
外層部を構成する誘電体は、バリウム(Ba)及びチタン(Ti)を含む誘電体粒子を含み、さらに希土類元素(Re)と、マンガン(Mn)、バナジウム(V)、鉄(Fe)、銅(Cu)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、及びクロム(Cr)からなる群から選択される一種以上の第1添加元素(Me)と、を副成分として含む。すなわち、誘電体層は、BaTiO系化合物からなる誘電体粒子を含み、さらに副成分として希土類元素(Re)と第1添加元素(Me)を含む。また誘電体は、ケイ素(Si)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、及び/又はこれらの化合物などを副成分として含んでもよい。BaTiO系化合物及び副成分の詳細は、内層部について説明したとおりである。
【0054】
外層部の組成や微細構造は、内層部に含まれる誘電体層と同じであってよく、あるいは異なっていてもよい。外層部の組成が内層部と同じである場合には、積層セラミックコンデンサ製造時に、内層部形成に用いる誘電体グリーンシートを外層部形成に適用すればよい。
【0055】
好適には、積層セラミックコンデンサの長さ方向中央を横切る断面において、外層部(第1外層部及び第2外層部)を構成する誘電体は、均一固溶粒子を誘電体粒子として含む。外層部に均一固溶粒子を含ませることで、信頼性のより一層の向上を図ることができる。コアシェル粒子とは異なり、均一固溶粒子は、粒子の内部構造を破壊することなく粒成長させることが可能である。そのため、積層セラミックコンデンサ製造時の焼成工程で粒成長を十分に進めることができ、その結果、外層部を構成する誘電体の緻密化を図ることが可能になる。外層部の緻密化が進むと、水分等の不純物の上面側からの侵入を阻止することができ、それ故、耐湿信頼性が向上する。
【0056】
外層部に含まれる均一固溶粒子の詳細は、内層部について説明したとおりである。すなわち均一固溶粒子は、Re濃度分布比((シェルRe/Ti比)/(コアRe/Ti比))が1.5未満の誘電体粒子である。より好適には外層部を構成する誘電体は均一固溶粒子を主として含み、特に好適には均一固溶粒子のみを含む。またRe濃度分布比は、好適には1.0以上1.5未満である。
【0057】
外層部に含まれる誘電体粒子の観察は、次のようにして行う。ます、積層セラミックコンデンサを加工して、そのWT面を露出させ、図6中で示されるP2の位置から薄片試料を採取する。そして採取した試料についてTEM観察を行う。積層セラミックコンデンサの加工及びTEM観察は、内層部の場合と同様にして行えばよい。
【0058】
<サイドマージン部>
サイドマージン部(第1サイドマージン部、第2サイドマージン部)は、側面(第1側面、第2側面)に沿って延在し、内部電極層を内包しない誘電体で構成される。すなわち内層部及び外層部を挟み込むように積層セラミックコンデンサの側面に沿って設けられる。サイドマージン部はサイドギャップとも呼ばれる。サイドマージン部(サイドギャップ)は誘電体セラミックで構成される。サイドマージン部を設けることで、水分等の不純物の側面側からの侵入を防ぐことができる。サイドマージン部は、単層であってもよく、あるいは複数層を含む積層体で構成されてもよい。
【0059】
サイドマージン部を構成する誘電体は、バリウム(Ba)及びチタン(Ti)を含む誘電体粒子を含み、さらに希土類元素(Re)と、マンガン(Mn)、バナジウム(V)、鉄(Fe)、銅(Cu)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、及びクロム(Cr)からなる群から選択される一種以上の第1添加元素(Me)と、を副成分として含む。すなわち、誘電層は、BaTiO系化合物からなり、さらに副成分として希土類元素(Re)と第1添加元素(Me)を含む。また誘電体は、ケイ素(Si)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、及び/又はこれらの化合物などを副成分として含んでもよい。BaTiO系化合物及び副成分の詳細は、内層部について説明したとおりである。
【0060】
サイドマージン部の組成や微細構造は、内層部に含まれる誘電体層と同じであってよく、あるいは異なっていてもよい。サイドマージン部は、積層セラミックコンデンサ製造時に、内層部及び外層部とともに一体的に形成してもよい。この場合には、サイドマージン部を構成する誘電体層は、その組成及び微細構造が、内層部及び/又は外層部を構成する誘電体層と連続している。一方でサイドマージン部を内層部及び外層部とは別個に形成してもよい。具体的には、内層部及び外層部となる積層チップ側面にサイドマージングリーン体を貼り付けてグリーン素体部を作製し、このグリーン素体部を焼成して製造すればよい。この場合には、サイドマージン部を構成する誘電体層は、その組成及び/又は微細構造が、内層部及び/又は外層部を構成する誘電体層とは連続していない。そのためサイドマージン部と内層部及び/又は外層部との間には、物理的・化学的な境界が存在する。
【0061】
好適には、積層セラミックコンデンサの長さ方向中央を横切る断面において、サイドマージン部(第1サイドマージン部及び第2サイドマージン部)を構成する誘電体は、コアシェル粒子を誘電体粒子として含む。サイドマージン部にコアシェル粒子を含ませることで、信頼性をより一層高めることが可能になる。すなわち、印加電圧が十分に高いと、内部電極層間の電界強度が高くなるとともに電界分布が幅方向に拡がり、その結果、内層部内のみならずサイドマージン部にも電界が加わる。サイドマージン部に、粒径が小さく信頼性の高いコアシェル粒子を配することで、サイドマージン部での絶縁特性劣化が抑制され、その結果、積層セラミックコンデンサ全体としての信頼性が向上する。特に内層部との界面に近いサイドマージン部内の領域では、電界強度が比較的高いので、この領域における誘電体粒子を小粒径化することが好ましい。
【0062】
サイドマージン部に含まれるコアシェル粒子の詳細は、内層部について説明したとおりである。すなわち、コアシェル粒子は、Re濃度分布比((シェルRe/Ti比)/(コアRe/Ti比))が1.5以上の誘電体粒子である。より好適にはサイドマージン部を構成する誘電体はコアシェル粒子を主として含み、特に好適にはコアシェル粒子のみを含む。また誘電体に含まれる誘電体粒子は、そのRe濃度分布比が、1.0以上2.0以下、1.5以上2.0以下、または1.2以上1.8以下であってもよい。
【0063】
サイドマージン部に含まれる誘電体粒子の観察は、次のようにして行う。すなわち、積層セラミックコンデンサを加工して、そのWT面を露出させ、図6中で示されるP3の位置から薄片試料を採取する。そして採取した試料についてTEM観察を行う。積層セラミックコンデンサの加工及びTEM観察は、内層部の場合と同様にして行えばよい。
【0064】
<外部電極>
外部電極(第1外部電極、第2外部電極)は、積層セラミックコンデンサの入出力端子として働く。外部電極として、公知の構成を採用できる。例えば、下地電極層と下地電極層上に配置されためっき層を備えてもよい。
【0065】
下地電極層は、焼付け層、樹脂層、及び薄膜層などの層から選ばれる少なくとも一つを備える。焼付け層は、ガラス及び金属を含む導電性ペーストを積層体に塗布した後に焼き付けて形成する。焼き付けは、積層体の焼成と同時に行ってもよく、あるいは積層体の焼成後に行ってもよい。焼付け層は単層であってもよく、あるいは複数層から構成されてもよい。焼付け層に含まれる金属は、好適には、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、銀(Ag)、パラジウム(Pd)、銀(Ag)-パラジウム(Pd)合金、及び/又は金(Au)である。樹脂層は、導電性粒子と熱硬化性樹脂とを含む。樹脂層は単層であってもよく、あるいは複数層から構成されてもよい。薄膜層は、スパッタ法及び蒸着法などの薄膜形成法で形成され、金属粒子が堆積した厚さ1μm以下の層である。
【0066】
めっき層は、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、スズ(Sn)、銀(Ag)、パラジウム(Pd)、銀(Ag)-パラジウム(Pd)、及び/又は金(Au)等の金属を含む。めっき層は、単層であってもよく、あるいは複数層から構成されてもよい。好適なめっき層は、NiめっきとSnめっきの2層構造を有している。Niめっき層は、積層セラミックコンデンサを実装する際に、はんだによる下地層の侵食を防ぐことができる。またSnめっき層は、はんだの濡れ性を高めるため、積層セラミックコンデンサの実装を容易にする効果がある。
【0067】
下地電極層を設けずに、めっき層で外部電極層を構成してもよい。この場合には、めっき層は積層体の上に直接設けられ、内部電極層の引出電極部と直接接続される。ただし、前処理として、素体部上に触媒を設けてもよい。好適には、めっき層は、第1めっき層と、第1めっき層の上に設けられた第2めっき層とを含む。第1めっき層及び第2めっき層は、例えば、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、スズ(Sn)、鉛(Pd)、金(Au)、銀(Ag)、パラジウム(Pd)、ビスマス(Bi)、及び亜鉛(Zn)からなる群から選ばれる1種の金属、又は当該金属を含む合金を含む。内部電極層がNiを含む場合には、Niと接合性のよいCuを第1めっき層が含むことが好ましい。また第1めっき層は、良好なはんだバリア性能をもつNiを含むことも好ましい。第2めっき層は、はんだ濡れ性のよいSnやAuを含むことが好ましい。
【0068】
ただし、めっき層は、第1めっき層と第2めっき層とで構成されたものに限定される訳ではない。第2めっき層を設けず、第1めっき層のみでめっき層を構成してもよい。第2めっき層の上に他のめっき層を設けてもよい。いずれの場合であっても、めっき層はガラスを含まないことが好ましい。まためっき層の金属割合は99体積%以上であることが好ましい。めっき層は、厚み方向に沿って粒成長しており、柱状である。
【0069】
<<2.積層セラミックコンデンサの製造方法>>
本実施形態の積層セラミックコンデンサは、上述した要件を満足する限り、その製造方法は限定されない。しかしながら好適な製造方法は、以下の工程:主成分原料を準備する工程(準備工程)、主成分原料に副成分原料を混合して誘電体原料にする工程(混合工程)、誘電体原料にバインダ―及び溶媒を添加及び混合してスラリー化し、得られたスラリーから誘電体グリーンシートを成形する工程(成形工程)、内部電極用導電性ペーストを用いて、誘電体グリーンシートの表面にパターン化されたペースト層を印刷する工程(印刷工程)、複数枚の誘電体グリーンシートを積層及び圧着して、積層ブロックを作製する工程(積層工程)、得られた積層ブロックを切断して積層チップにする工程(切断工程)、サイドマージングリーン体を作製し、その後、得られたサイドマージングリーン体を積層チップ側面に付着させて、グリーン素体部を作製する工程(サイドマージン部形成工程)、得られたグリーン素体部に脱バインダ処理及び焼成処理を施して、素体部にする工程(焼成工程)、並びに得られた素体部に外部電極を形成して、積層セラミックコンデンサを作製する工程(外部電極形成工程)を備える。各工程の詳細を以下に説明する。
【0070】
<準備工程>
準備工程では主成分原料を準備する。主成分原料は、内層部に含まれる誘電体層及び外層部を構成する誘電体の主成分となるものである。主成分原料として、ペロブスカイト型構造(ABO)を有するBaTiO系化合物粉末を用いることができる。BaTiO系化合物は、固相反応法、水熱合成法、シュウ酸塩法、アルコキシド法などの公知の手法で合成すればよい。
【0071】
好適には、主成分原料を合成する際に第1添加元素(Me)を加える。これにより、製造後の積層セラミックコンデンサにおいて、第1添加元素が均一固溶した誘電体粒子を容易に得ることが可能である。例えば、Mnを含むBaTiOを固相反応法で合成する場合には、BaCO及びTiOに、MnなどのMn源を加え、得られた混合物を仮焼及び解砕することで、Mnが均一固溶したBaTiOを得ることができる。
【0072】
<混合工程>
混合工程では、主成分原料に、残りの副成分(Re等)原料を混合して誘電体原料にする。副成分原料として、酸化物、炭酸塩、水酸化物、硝酸塩、有機酸塩、アルコキシド及び/又はキレート化合物など公知のセラミック原料を用いればよい。混合手法は特に限定されない。例えば、秤量した主成分原料と副成分原料を粉砕媒体及び純水とともにボールミルを用いて湿式で混合及び粉砕する手法が挙げられる。湿式で混合を行った場合には、混合物を乾燥すればよい。
【0073】
<成形工程>
成形工程では、誘電体原料にバインダ及び溶媒を添加及び混合してスラリー化し、得られたスラリーから誘電体グリーンシートを成形する。誘電体グリーンシートは、焼成後に積層セラミックコンデンサの内層部に含まれる誘電体層や外層部を構成する誘電体になる。バインダとして、ポリビニルブチラール系バインダなど公知の有機バインダを用いればよい。また溶媒として、トルエンやエタノールなどの公知の有機溶媒を用いればよい。必要に応じて可塑剤などの添加剤を加えてもよい。成形は、リップ法などの公知の手法で行えばよい。成形後のシート厚は、例えば1μm以下である。
【0074】
<印刷工程>
印刷工程では、導電性ペーストを用いて、誘電体グリーンシートの表面に、パターン化されたペースト層を形成する。ペースト層は、焼成後に内部電極層になる。導電性ペーストに含まれる導電性金属としてニッケル(Ni)、銅(Cu)、銀(Ag)、パラジウム(Pd)、及びこれらを含む合金などの導電材料を用いればよい。しかしながらニッケル(Ni)が好適である。また導電性ペーストには共材として働くセラミック粒子を加えてもよい。セラミック粒子として、誘電体層の主成分原料を用いることができる。ペースト層の形成手法は特に限定されない。例えばスクリーン印刷、グラビア印刷などの手法が挙げられる。
【0075】
<積層工程>
積層工程では、複数枚の誘電体グリーンシートを積層及び圧着して、積層ブロックを作製する。この際、ペースト層を形成していない誘電体グリーンシートで上下から挟み込むように、ペースト層を形成した複数枚の誘電体グリーンシートを積層する。ペースト層を形成していないグリーンシートは、焼成工程を経て、積層セラミックコンデンサの外層部になる。一方で、ペースト層を形成したグリーンシートは、積層セラミックコンデンサの内層部になる。積層するグリーンシートの枚数は、必要とされる容量を得るように調整すればよい。
【0076】
<切断工程>
切断工程では、得られた積層ブロックを切断して積層チップにする。切断は、所定のサイズのチップが得られ、且つペースト層の少なくとも一部が積層チップの端面に露出するように行えばよい。
【0077】
<サイドマージン部形成工程>
サイドマージン部形成工程では、サイドマージングリーン体を作製し、その後、得られたサイドマージングリーン体を積層チップ側面に付着させて、グリーン素体部にする。サイドマージングリーン体は、焼成後に積層セラミックコンデンサのサイドマージン部になる。サイドマージングリーン体の原料(サイドマージン原料)として、内層部の誘電体層作製に用いた主成分原料や副成分原料を用いることができる。しかしながらサイドマージン部の組成を内層部と同一にする必要はなく、異なる組成としてもよい。
【0078】
サイドマージングリーン体の作製及び付着は公知の手法で行えばよい。例えば、サイドマージン原料粉末からグリーンシートを作製し、このグリーンシートを積層チップの側面に接着する手法が挙げられる。その際、グリーンシートの接着を確実にするため、予め積層チップ側面に有機溶剤などの接着補助剤を塗布してもよい。あるいはサイドマージン原料粉末からペーストを作製し、このペーストを積層チップ側面に塗布及び乾燥する手法が挙げられる。またサイドマージングリーン体は単層であってもよく、あるいは複数層を含む積層体であってもよい。積層体からなるサイドマージングリーン体は、積層チップの側面に複数のグリーンシートを積層する手法や、ペーストの塗布及び乾燥を繰り返す手法で得ることができる。サイドマージングリーン体により、積層チップ側面に露出するペースト層が覆われる。
【0079】
必要に応じて、グリーン素体部にバレル研磨処理を施す。この処理により、素体部の角部及び/又は稜線部に丸みをもたせることが可能になる。
【0080】
<焼成工程>
焼成工程では、グリーン素体部に脱バインダ処理及び焼成処理を施して、素体部を作製する。焼成処理によりペースト層と誘電体グリーンシートとが共焼結されて、それぞれ内部電極層と誘電体層とになる。脱バインダ処理の条件はグリーンシート及びペースト層に含まれる有機バインダの種類に応じて決めればよい。また焼成処理は、積層チップが十分に緻密化する温度で行えばよい。例えば1200℃以上1300℃以下の温度で0分以上10分以下保持する条件で行えばよい。また焼成は、主成分たるBaTiO系化合物が還元されることなく、且つ導電性材料の酸化が抑制される雰囲気で行う。例えば酸素分圧1.8×10-9~8.7×10-10MPaのN-H-HO気流中で行えばよい。さらに焼成後にアニール処理を施してもよい。このようにして積層セラミックコンデンサを作製することができる。
【0081】
本実施形態の製造方法では、外層部及び内層部となる誘電体原料や、サイドマージン部となるサイドマージン原料に、希土類元素(Re)とともに、ケイ素(Si)、マグネシウム(Mg)、及びアルミニウム(Al)からなる一種以上の元素を含む副成分を加えることが好ましい。ここで、Siは粒成長促進剤として働き、Mgは粒成長抑制剤として働く。
【0082】
焼成工程時に誘電体粒子の粒成長が促進されると、周囲の副成分元素を表層に取り込みながら粒子が大きくなる。そのため均一固溶粒子が形成される傾向にある。一方で、粒成長が抑制されると、副成分元素の取り込みが抑えられるため、コアシェル粒子が形成されやすい。したがって、粒成長促進や抑制の効果のあるSi及び/又はMgを添加し、その添加量を調整すれば、内層、外層、及び第1サイドマージン部におけるコアシェル粒子及び均一固溶粒子のそれぞれの割合を制御することができる。
【0083】
特に、外層部となる誘電体原料にSiを多く含ませることが好ましい。これにより外層部での粒成長を促進し、均一固溶粒子を多く含ませることが可能になる。また焼成時に外層部から内層部へSiが拡散するため、外層部との界面近傍の内層部内領域で均一固溶粒子の割合が大きくなる。一方で、サイドマージン部となる誘電体原料ではSi量を減らし、Mgを多く配合することが好ましい。これによりサイドマージン部での粒成長を抑え、コアシェル粒子の割合を高めることが可能になる。
【0084】
<外部電極形成工程>
外部電極形成工程では、素体部に外部電極を形成して、積層セラミックコンデンサにする。外部電極の形成は公知の手法で行えばよい。例えば、素体部の内部電極が引き出されて露出した端面に、CuやNiなどの導電成分を主成分とする導電性ペーストを塗布及び焼き付けて下地層を形成する。下地層は、焼成前のグリーン素体部の両端面に導電性ペーストを塗布した後に焼成処理を施す手法で形成してもよい。下地層を形成した後、電解めっきを施して下地層の表面にNi、Snなどのめっき皮膜を形成すればよい。これにより積層セラミックコンデンサが作製される。
【実施例
【0085】
本実施形態を以下の例によってさらに具体的に説明する。しかしながら本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0086】
(1)積層セラミックコンデンサの作製
[実施例1~12及び比較例1~5]
内層部、外層部、及びサイドマージン部の主成分としてBaTiO系化合物を含む積層セラミックコンデンサを作製し、その評価を行った。副成分として、希土類元素(Re)であるジスプロシウム(Dy)と第1添加元素(Me)であるマンガン(Mn)、バナジウム(V)及びニッケル(Ni)を用い、さらにケイ素(Si)、マグネシウム(Mg)、及びアルミニウム(Al)を用いた。
【0087】
<準備工程>
主成分原料粉末としてBaCOとTiOとNiOを混ぜた後に熱処理してNi固溶BaTiO粉末を準備した。得られた粉末は、その粒径が100~150nmであった。
【0088】
主成分原料とは別に、ニッケル(Ni)以外の副成分原料を準備した。副成分原料として、ジスプロシウム(Dy)、ケイ素(Si)、マグネシウム(Mg)、マンガン(Mn)、アルミニウム(Al)、及びバナジウム(V)の化合物を用いた。また製造後の積層セラミックコンデンサにおいて、内層部に含まれる誘電体層のSi量に比べて外層部に含まれる誘電体層のSi量が多くなるようになるように主成分原料及び副成分原料の配合量を調整した。
【0089】
次に、主成分原料に副成分原料を添加し、ボールミルを用いて湿式混合した後に乾燥して誘電体原料とした。得られた誘電体原料に、ポリビニルブチラール系バインダ、及び有機溶媒たるエタノールを加えて、所定時間ボールミルにより湿式混合して、スラリーを作製した。このスラリーをシート成形して、誘電体グリーンシートを作製した。
【0090】
次に、得られた誘電体グリーンシート表面に、Niを主体とする導電性ペーストをスクリーン印刷し、内部電極層になるペースト層をパターン形成した。その後、ペースト層が形成された複数枚のグリーンシートを積層するとともに、その上下にペースト層が形成されていないグリーンシートを配置し、全体を圧着して積層ブロックを作製した。そして、得られた積層ブロックをダイシングソーにて切断して積層チップにした。積層は、ペースト層が引き出されている端部が互い違いになるように行った。また切断は、ペースト層が側面に露出するように行った。
【0091】
積層チップとは別に、サイドマージン部用グリーンシートを作製し、これをサイドマージングリーン体とした。サイドマージン部用グリーンシートの作製は、主成分原料及び副成分原料の配合量を変えた以外は、誘電体グリーンシートと同様にして行った。この際、製造後の積層セラミックコンデンサにおけるサイドマージン部に含まれる誘電体のSiが、内層部に含まれる誘電体のSiに比べて多くなり、かつ、サイドマージ部に含まれる誘電体のMgが、内層部に含まれる誘電体のMgより多くなるように配合量を調整した。次いで、切断した積層チップの、ペースト層が露出した両側面に、サイドマージン部用グリーンシートを貼り付けて、グリーン素体部を作製した。
【0092】
得られたグリーン素体部を、N気流中、最高温度270℃の条件で熱処理し、さらにN-HO-H気流中、最高温度800℃の条件で熱処理した。その後、N-HO-H気流中で、酸素分圧1.8×10-9~8.7×10-10MPaで焼成した。なお、焼成の際は、最高温度に到達後すぐに室温近傍まで冷却した。続いて、N-HO-H気流中、酸素分圧2.3×10-12~1.5×10-11MPa、最高温度より低い温度の条件で熱処理を施した。これにより積層セラミックコンデンサの素体部を得た。
【0093】
焼成により得られた素体部の、内部電極層が引き出された端面に、銅(Cu)を主成分とする導電性ペーストを塗布した。その後、塗布した導電性ペーストを900℃で焼き付けて、外部電極の下地層を形成した。さらに、下地層の表層に、湿式メッキによってNiめっきとSnめっきをこの順で行った。このようにして、積層セラミックコンデンサを作製した。
【0094】
作製された積層セラミックコンデンサは、長さL寸法が1.0mm、幅方向W寸法が0.5mm、厚さ方向T寸法が0.2mmであった。また内層部における誘電体層の厚さが0.48μm、内部電極層の厚さ0.38μm、誘電体層の層数が50であった。
【0095】
(2)評価
作製した積層セラミックコンデンサにつき、各種特性の評価を以下のとおり行った。
【0096】
<SEM観察>
走査電子顕微鏡(SEM)を用いて、積層セラミックコンデンサのWT面を観察して、誘電体層及び内部電極層の厚さを調べた。具体的には、積層セラミックコンデンサを、その長さ(L)方向中央まで研磨して断面(WT面)を露出させた。次に、露出させた断面において、幅方向Wでの中心線、及びこの中心線から幅方向Wに向かって両側に等間隔に引いた2本の線の合計5本の線上で、厚さ方向中央近傍に位置する内層部の内部電極層の厚さを測定し、その平均値を内部電極層の厚さとした。誘電体層の厚さも同様にして求めた。
【0097】
<TEM観察>
透過電子顕微鏡(TEM)を用いて、積層セラミックコンデンサの断面(WT面)を観察して、内層部、外層部、及びサイドマージン部に含まれる誘電体粒子を調べた。具体的には、積層セラミックコンデンサを、その長さ(L)方向中央まで研磨してWT面を露出させ、さらに加工して、WT面を観察面とする薄片試料を採取した。薄片試料は、図6中で示されるP1、P2及びP3の位置から採取し、それぞれを内層部サンプル、外層部サンプル及びサイドマージン部サンプルとした。観察は1000nm×1000nmの視野で行った。
【0098】
そして、それぞれのサンプルについて、視野内の各誘電体粒子について、TEM-EDXを用いて元素分析を行った。元素分析は、各粒子の中心部、及び粒子外面から10nmの距離で内側に入った部位(粒子外周部)のそれぞれについて行った。ただし、中心部を判定できないほど形状がいびつな粒子は、分析から除外した。そして各粒子の粒子外周部と粒子中心部のそれぞれについて、希土類元素(Re)、及びチタン(Ti)の濃度を調べ、Re濃度分布比((シェルRe/Ti比)/(コアRe/Ti比))を求めた。そしてRe濃度分布比が1.5以上の粒子をコアシェル粒子と判断し、Re濃度分布比が1.5未満の粒子を均一固溶粒子と判断した。
【0099】
また、内層部断面における各コアシェル粒子の面積を測定し、この面積を合算してコアシェル粒子の合計面積を求めた。その後、合計面積をコアシェル粒子の個数で除して、平均面積(A)を算出した。同様にして、均一固溶粒子の合計面積を均一固溶粒子の個数で除して、平均面積(B)を算出した。そして、コアシェル粒子の平均面積(A)を均一固溶粒子の平均面積(B)で除して、面積比(A/B)を求めた。
【0100】
さらに、内層部断面において、1000nm×1000nmの視野でTEM断面像を撮像した後に、各辺を255に分割して、マトリックス状に構成された複数のセルに視野を分割した。次いで、各セルでの誘電体粒子ごとに第1添加元素の濃度を測定し、その平均値及びバラツキ(標準偏差)を求めた。そしてバラツキ/平均値を、第1添加元素(Me)の変動係数として算出した。
【0101】
<比誘電率>
誘電体層の静電容量を、自動ブリッジ式測定機を用いて室温下で測定した。測定は、実効電圧0.5V、周波数1kHzの条件で行った。得られた静電容量から、誘電体層の厚さ及び対向電極面積を用いて、比誘電率(ε)を算出し、その平均値を求めた。そして得られた比誘電率の値に基づき、以下の基準にしたがってサンプルを格付けした。
【0102】
A:比誘電率が3500以上4000未満
B:比誘電率が3300以上3500未満、または4000以上4500未満
C:比誘電率が3300未満、または4500以上
【0103】
<絶縁抵抗>
絶縁抵抗計を用いて、室温下で積層セラミックコンデンサに4Vの電圧を60秒間予備印加し、その後、絶縁抵抗(IR)の初期値を測定した。そして絶縁抵抗の常用対数(LogIR)を求めた。得られた値に基づき、以下の基準にしたがってサンプルを格付けした。
【0104】
A:LogIRが8以上9未満
B:LogIRが7以上8未満
C:LogIRが7未満
【0105】
<信頼性>
10個のサンプルについて、温度150℃、印可電圧5Vの条件で高温負荷試験(HALT)を行った。時間経過に伴い絶縁抵抗(IR)が低下した。10個中5個のサンプルのLogIRが4以下となるまでの時間を平均故障時間(MTTF)として測定し、これを高温負荷寿命の指標とした。得られた値に基づき、以下の基準にしたがってサンプルを格付けした。
【0106】
A:MTTFが80時間以上
B:MTTFが60時間以上80時間未満
C:MTTFが60時間未満
【0107】
(3)評価結果
実施例1~12及び比較例1~5につき、得られた評価結果を表1にまとめて示す。
【0108】
内層部におけるMe変動係数及び面積比(A/B)が本実施形態で特定される範囲を満足する実施例1~12は、いずれも絶縁抵抗(IR)及び比誘電率(ε)が高く、且つ高温負荷寿命(MTTF)が長かった。特に、実施例3及び10~12は、絶縁抵抗、比誘電率及び高温負荷寿命のいずれの点においても顕著に優れていた。
【0109】
これに対して、Me変動係数が本実施形態で特定される範囲を満足しない比較例1、2、4及び5は、特に絶縁抵抗が劣っていた。また面積比(A/B)が本実施形態で特定される範囲を満足しない比較例2~5は、絶縁抵抗、比誘電率及び高温負荷寿命のいずれかが劣っていた。
【0110】
【表1】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7