(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】配線基板
(51)【国際特許分類】
H05K 3/40 20060101AFI20241106BHJP
H05K 3/46 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
H05K3/40 K
H05K3/46 N
H05K3/46 G
(21)【出願番号】P 2023561499
(86)(22)【出願日】2022-10-27
(86)【国際出願番号】 JP2022040179
(87)【国際公開番号】W WO2023090115
(87)【国際公開日】2023-05-25
【審査請求日】2024-01-16
(31)【優先権主張番号】P 2021188136
(32)【優先日】2021-11-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】小泉 夏織
(72)【発明者】
【氏名】山本 祐樹
【審査官】齊藤 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-165508(JP,A)
【文献】国際公開第01/39561(WO,A1)
【文献】特開2004-221433(JP,A)
【文献】特開2004-273575(JP,A)
【文献】特開2005-353387(JP,A)
【文献】特開2005-353781(JP,A)
【文献】特開2005-353783(JP,A)
【文献】特開2007-305576(JP,A)
【文献】特開2013-74169(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0380199(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 1/00―3/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁層と、
前記絶縁層に積層された導体層と、
前記絶縁層および前記導体層の積層方向に前記絶縁層を貫通して設けられ、前記導体層に接続された層間接続導体と、を備え、
前記積層方向における前記絶縁層の熱膨張係数をα
Z10、前記積層方向における前記層間接続導体の熱膨張係数をα
Z30、前記絶縁層の貯蔵弾性率をE’
10、前記層間接続導体の貯蔵弾性率をE’
30としたとき、-40℃以上85℃以下の温度範囲において、α
Z10>α
Z30かつE’
10>E’
30の関係が成り立つ、配線基板。
【請求項2】
前記層間接続導体に含有される一部の導電性フィラーと前記導体層とが金属結合しているか、または、前記層間接続導体に含有される一部の導電性フィラー同士が金属結合している、請求項1に記載の配線基板。
【請求項3】
前記導電性フィラーは、表面の少なくとも一部が金属で被覆された銅または銅合金の粉末からなる、請求項2に記載の配線基板。
【請求項4】
前記導電性フィラーは、表面の少なくとも一部が銀で被覆された銅または銅合金の粉末からなる、請求項2に記載の配線基板。
【請求項5】
前記層間接続導体と前記導体層との界面において、前記導体層の凹みに前記層間接続導体が配置されている、請求項1~4のいずれか1項に記載の配線基板。
【請求項6】
前記導体層は、前記絶縁層の一方の主面に設けられた第1導体層と、前記絶縁層の他方の主面に設けられた第2導体層と、を含み、
前記層間接続導体は、前記第1導体層側の端部に、前記第1導体層に向かって導体幅が広がる傾斜面を有し、
前記層間接続導体の前記第1導体層側の端部が、前記第1導体層と前記絶縁層とで挟まれている、請求項1~4のいずれか1項に記載の配線基板。
【請求項7】
前記層間接続導体と前記第2導体層との界面において、前記第2導体層の凹みに前記層間接続導体が配置されている、請求項6に記載の配線基板。
【請求項8】
前記層間接続導体と前記導体層との界面の少なくとも一部に防錆層が設けられていない、請求項1~
4のいずれか1項に記載の配線基板。
【請求項9】
前記絶縁層が液晶ポリマーからなる、請求項1~
4のいずれか1項に記載の配線基板。
【請求項10】
前記配線基板は、曲げ部を有するフレキシブル基板である、請求項1~
4のいずれか1項に記載の配線基板。
【請求項11】
前記層間接続導体は、エポキシ樹脂を主成分とする樹脂を含有する、請求項1~
4のいずれか1項に記載の配線基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配線基板に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、多層配線基板の製造工程において形成されるビアホール等に充填され、回路間(層間)の電気的接続をする導電性ペーストが開示されている。特許文献1に記載の導電性ペーストは、全樹脂成分中の分子量10,000以上のエポキシ樹脂の含量が30~90重量%であり、かつ硬化後の85℃での弾性率が2GPa以下である樹脂混合物、および導電粒子を含有し、該導電粒子の含有率が30~75体積%であることを特徴としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1によれば、導電性ペーストを構成する樹脂として、分子量10,000以上のエポキシ樹脂を所定割合含む混合樹脂を用いることにより、ビアホールへの充填性が向上すること、およびこの樹脂を含有する樹脂混合物を硬化させた後の弾性率を、所定の値以下とすることにより、この導電性ペーストを使用して形成された接続部分の、高温高湿の環境下での電気抵抗の経時的変化を減少させることができるとされている。
【0005】
しかしながら、本発明者らは、多層配線基板等の配線基板においては、高温高湿の環境よりも、-40℃の低温から85℃の高温までの使用によって繰り返し熱衝撃が加わる環境の方が抵抗値の変動に大きな影響を及ぼすことを突き止めた。したがって、特許文献1に記載されているように85℃での弾性率を低くするだけでは、抵抗値の変動を抑制するには不充分であることが判明した。
【0006】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたものであり、繰り返し熱衝撃が加わる環境下でも抵抗値の変動を抑制することが可能な配線基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の配線基板は、絶縁層と、上記絶縁層に積層された導体層と、上記絶縁層および上記導体層の積層方向に上記絶縁層を貫通して設けられ、上記導体層に接続された層間接続導体と、を備える。上記積層方向における上記絶縁層の熱膨張係数をαZ10、上記積層方向における上記層間接続導体の熱膨張係数をαZ30、上記絶縁層の貯蔵弾性率をE’10、上記層間接続導体の貯蔵弾性率をE’30としたとき、-40℃以上85℃以下の温度範囲において、αZ10>αZ30かつE’10>E’30の関係が成り立つ。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、繰り返し熱衝撃が加わる環境下でも抵抗値の変動を抑制することが可能な配線基板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本発明の配線基板の一例を模式的に示す断面図である。
【
図2-1】
図2-1は、α
Z10>α
Z30かつE’
10>E’
30の条件下において、室温から-40℃に降温したときの熱応力シミュレーションから計算される応力分布図である。
【
図2-2】
図2-2は、α
Z10>α
Z30かつE’
10>E’
30の条件下において、室温から85℃に昇温したときの熱応力シミュレーションから計算される応力分布図である。
【
図3-1】
図3-1は、α
Z10>α
Z30かつE’
10<E’
30の条件下において、室温から-40℃に降温したときの熱応力シミュレーションから計算される応力分布図である。
【
図3-2】
図3-2は、α
Z10>α
Z30かつE’
10<E’
30の条件下において、室温から85℃に昇温したときの熱応力シミュレーションから計算される応力分布図である。
【
図4】
図4は、銅張積層板の構成を模式的に示す断面図である。
【
図5】
図5A、
図5Bおよび
図5Cは、銅張積層板のビアホールに導電性ペーストを充填する方法を模式的に示す断面図である。
【
図6】
図6は、試験用基板の構成の一部を模式的に示す断面図である。
【
図7】
図7は、実施例1、実施例2、比較例1および比較例2における層間接続導体ならびに絶縁層の貯蔵弾性率E’を示すグラフである。
【
図8】
図8は、実施例1および比較例3における層間接続導体ならびに絶縁層の積層方向の熱膨張係数αを示すグラフである。
【
図9】
図9は、実施例1における層間接続導体と導体層との界面付近を示すSEM写真である。
【
図10】
図10は、実施例1における層間接続導体に含有される導電性フィラーを示すSEM写真である。
【
図11】
図11は、実施例1における層間接続導体の形状を示すSEM写真である。
【
図12】
図12は、実施例1における別の層間接続導体の形状を示すSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の配線基板について説明する。
しかしながら、本発明は、以下の構成に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。なお、以下において記載する本発明の個々の好ましい構成を2つ以上組み合わせたものもまた本発明である。
【0011】
図1は、本発明の配線基板の一例を模式的に示す断面図である。
【0012】
図1には全体的な構成が示されていないが、配線基板1は、絶縁層10と、絶縁層10に積層された導体層20と、絶縁層10および導体層20の積層方向(
図1では上下方向)に絶縁層10を貫通して設けられ、導体層20に接続された層間接続導体30と、を備える。
【0013】
配線基板1は、1層の絶縁層10を備えてもよく、2層以上の絶縁層10を備えてもよい。すなわち、配線基板1は、単層配線基板でもよく、多層配線基板でもよい。配線基板1が2層以上の絶縁層10を備える場合、絶縁層10の構成は同じでもよく、異なってもよい。
【0014】
絶縁層10は、例えば、電気絶縁性を有する板状またはシート状の樹脂シートからなる。樹脂シートを構成する樹脂は、熱可塑性樹脂でも熱硬化性樹脂でもよいが、熱可塑性樹脂であることが好ましい。配線基板1が2層以上の絶縁層10を備える場合、熱可塑性樹脂からなる樹脂シートを用いると、導体層20が形成された樹脂シートを複数枚積層し、熱処理によって一括圧着することができる。
【0015】
熱可塑性樹脂としては、例えば、液晶ポリマー(LCP)、熱可塑性ポリイミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)、ポリフェニレンスルフィド樹脂(PPS)等が挙げられる。
【0016】
絶縁層10は、液晶ポリマー(LCP)からなることが好ましい。液晶ポリマーは他の熱可塑性樹脂に比べて吸水率が低い。したがって、絶縁層10が液晶ポリマーからなる場合、絶縁層10に残存する水分を少なくすることができる。
【0017】
絶縁層10の厚みは、好ましくは10μm以上、200μm以下であり、より好ましくは20μm以上、100μm以下である。配線基板1が2層以上の絶縁層10を備える場合、絶縁層10の厚みは、互いに同じでもよく、異なってもよい。
【0018】
導体層20は、絶縁層10の少なくとも一方の主面に設けられていればよい。
図1に示す例では、導体層20は、絶縁層10の一方の主面に設けられた第1導体層21と、絶縁層10の他方の主面に設けられた第2導体層22と、を含む。
【0019】
導体層20は、配線等にパターン化されたパターン形状であってもよいし、一面に広がった面状であってもよい。
【0020】
導体層20は、例えば、銅、銀、アルミニウム、ステンレス、ニッケル、金、これらの金属の少なくとも1種を含有する合金等からなる金属層である。導体層20は、金属箔からなることが好ましく、銅箔からなることがより好ましい。
【0021】
導体層20は、一方の主面にマット面を有し、他方の主面にシャイニー面を有してもよい。
【0022】
導体層20の厚みは、好ましくは1μm以上、35μm以下であり、より好ましくは6μm以上、18μm以下である。
【0023】
層間接続導体30は、積層方向に絶縁層10を貫通するが導体層20を貫通せずに、導体層20に接続されるように設けられている。層間接続導体30は、2層以上の絶縁層10を積層方向に貫通してもよい。
【0024】
図1に示す例では、層間接続導体30は、積層方向に絶縁層10を貫通しつつ、絶縁層10の一方の主面側で第1導体層21に接続され、絶縁層10の他方の主面側で第2導体層22に接続されている。つまり、第1導体層21と第2導体層22とは、層間接続導体30を介して電気的に接続されている。
【0025】
層間接続導体30は、例えば、絶縁層10を厚み方向に貫通するが導体層20を厚み方向に貫通せずに導体層20に達するように設けられたビアホールに対して、導電性ペーストを充填した後に熱処理を行うことにより形成される。
【0026】
層間接続導体30が導電性ペーストの熱処理で形成される場合、層間接続導体30に含有される導電性フィラーとしては、例えば、導電率の高い銅または銅合金の粉末等が挙げられる。表面酸化を防止する観点から、銅または銅合金の粉末の表面の少なくとも一部が金属で被覆されていてもよく、好ましくは、比抵抗の低い銀で被覆されていてもよい。
【0027】
層間接続導体30が導電性ペーストの熱処理で形成される場合、層間接続導体30は、樹脂を含有してもよい。層間接続導体30に含有される樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂またはその変性樹脂等の熱硬化性樹脂、あるいはアクリル樹脂、ウレタン樹脂等の熱可塑性樹脂等が挙げられる。中でも、層間接続導体30は、エポキシ樹脂を主成分とする樹脂を含有することが好ましい。エポキシ樹脂を用いることにより、耐熱性および接着性を両立させることができる。
【0028】
本明細書中、主成分とは、含有量(重量百分率)が最も多い成分を意味する。層間接続導体30に含有される樹脂の種類は、例えば、赤外分光(IR)分析、核磁気共鳴(NMR)分析等により同定することができる。上記の分析を実施するための試料は、例えば、後述の
図6と同様の方向に沿った断面が見えるように配線基板1を研磨し、得られた断面から層間接続導体30を掘り出すことにより作製することができる。
【0029】
配線基板1では、積層方向における絶縁層10の熱膨張係数をαZ10、積層方向における層間接続導体30の熱膨張係数をαZ30、絶縁層10の貯蔵弾性率をE’10、層間接続導体30の貯蔵弾性率をE’30としたとき、-40℃以上85℃以下の温度範囲において、αZ10>αZ30かつE’10>E’30の関係が成り立つことを特徴とする。
【0030】
-40℃以上85℃以下の温度範囲において、αZ10>αZ30かつE’10>E’30の関係が成り立つことにより、85℃への加熱または-40℃への冷却によって絶縁層10が膨張または収縮しても、回路間の電気的接続が維持されやすくなる。その結果、繰り返し熱衝撃が加わる環境下でも抵抗値の変動を抑制することができる。
【0031】
αZ10>αZ30かつE’10>E’30の関係が成り立つことによる作用および効果については、以下のように考えられる。
【0032】
図2-1は、α
Z10>α
Z30かつE’
10>E’
30の条件下において、室温から-40℃に降温したときの熱応力シミュレーションから計算される応力分布図である。
図2-2は、α
Z10>α
Z30かつE’
10>E’
30の条件下において、室温から85℃に昇温したときの熱応力シミュレーションから計算される応力分布図である。なお、
図2-1および
図2-2は、
図1中のSで示す領域における応力分布図であり、後述の実施例2に相当する。
【0033】
図2-1に示すように、-40℃の低温下では、絶縁層10および層間接続導体30の貯蔵弾性率が増大するため、特に導体層20と層間接続導体30との界面に比較的大きな剪断応力が発生する。この剪断応力は、絶縁層10および層間接続導体30の貯蔵弾性率が低いほど低下する。絶縁層10は一定の強度を確保する必要があるため、層間接続導体30の貯蔵弾性率を低くすること、すなわち、E’
10>E’
30とすることにより、抵抗値の増大の要因になり得る剪断応力を抑制することができる。
【0034】
一方で、
図2-2に示すように、85℃の高温下では、導体層20と層間接続導体30との界面に発生する応力(ここでは、剥離方向である厚み方向の応力)は低温時と比較してごく小さいため、導体層20と層間接続導体30との界面での剥離を引き起こす要因とはならない。したがって、85℃の高温下ではなく-40℃の低温下で導体層20と層間接続導体30との界面に発生する応力を調整することが重要である。
【0035】
図3-1は、α
Z10>α
Z30かつE’
10<E’
30の条件下において、室温から-40℃に降温したときの熱応力シミュレーションから計算される応力分布図である。
図3-2は、α
Z10>α
Z30かつE’
10<E’
30の条件下において、室温から85℃に昇温したときの熱応力シミュレーションから計算される応力分布図である。なお、
図3-1および
図3-2は、
図1中のSで示す領域における応力分布図であり、後述の比較例2に相当する。
【0036】
図3-1においては、
図2-1と比較して、導体層20と層間接続導体30との界面での応力が高くなっていることがわかる。一方で、
図3-2においては、
図2-2と同様、応力が緩和されていることがわかる。
【0037】
図2-2および
図3-2に示すように、85℃の高温下では、絶縁層10および層間接続導体30の貯蔵弾性率が低下することにより、導体層20と層間接続導体30との界面での応力は小さくなる。したがって、
図2-2に示す条件および
図3-2に示す条件のいずれにおいても、導体層20と層間接続導体30との界面での剥離が生じにくい状態となっている。
【0038】
これに対し、
図2-1および
図3-1に示すように、-40℃の低温下では、絶縁層10および層間接続導体30の貯蔵弾性率が増大することにより、導体層20と層間接続導体30との界面に応力が集中している。しかし、
図2-1に示す条件では、
図3-1に示す条件に比べて層間接続導体30の貯蔵弾性率が低いため、導体層20と層間接続導体30との界面にかかる応力を緩和することができる。
【0039】
また、α
Z10<α
Z30かつE’
10>E’
30の条件下においては、室温から降温する過程で積層方向における層間接続導体30の収縮量が絶縁層10の収縮量よりも大きくなる。そのため、導体層20と層間接続導体30との界面に発生する応力の方向が、
図2-1および
図2-2と異なり、上記の剪断方向ではなく剥離方向となる。そして、低温下では絶縁層10、層間接続導体30ともに貯蔵弾性率が高くなるため、その応力が大きくなる結果、抵抗値の顕著な増大の要因となる。
【0040】
積層方向における絶縁層10の熱膨張係数α
Z10および層間接続導体30の熱膨張係数α
Z30は、例えば、後述の
図6と同様の方向に沿った断面が見えるように配線基板1を研磨し、得られた断面から絶縁層10または層間接続導体30を個別にくり抜くことにより測定用試料をそれぞれ作製した後、高温SEM(走査型電子顕微鏡)を用いて測定用試料の積層方向(厚み方向、Z軸方向)の変位を測定することによって算出することができる。
【0041】
あるいは、積層方向における絶縁層10の熱膨張係数αZ10および層間接続導体30の熱膨張係数αZ30は、絶縁層10または層間接続導体30と同じ材料を用いて測定用試料をそれぞれ作製し、熱機械分析(TMA)装置を用いて積層方向(厚み方向、Z軸方向)の線膨張係数を測定することによって求めてもよい。測定条件は、例えば、温度範囲:-60℃~250℃、昇温速度:5℃/min、荷重:2gf(0.02N)、測定モード:引張モードである。測定用試料の厚みは特に限定されないが、例えば約200μmである。TMA装置としては、特に限定されないが、例えばNETZSCH製、TMA4000Sを用いることができる。
【0042】
絶縁層10の貯蔵弾性率E’
10および層間接続導体30の貯蔵弾性率E’
30は、例えば、後述の
図6と同様の方向に沿った断面が見えるように配線基板1を研磨し、得られた断面から、ナノインデンターを用いて絶縁層10または層間接続導体30に圧子(探針)をそれぞれ押し当てることによって測定することができる。絶縁層10または層間接続導体30のそれぞれにおいてナノインデンターを用いた測定を数箇所で実施し、その平均値を算出することが好ましい。
【0043】
あるいは、絶縁層10の貯蔵弾性率E’10および層間接続導体30の貯蔵弾性率E’30は、絶縁層10または層間接続導体30と同じ材料を用いて測定用試料をそれぞれ作製し、動的粘弾性測定(DMA)装置を用いて動的粘弾性試験を行うことにより得られる測定結果から算出してもよい。動的粘弾性試験の条件は、例えば、周波数:1Hz、昇温速度:5℃/minである。DMA装置としては、特に限定されないが、例えば日立ハイテクサイエンス製、DMA7100を用いることができる。
【0044】
配線基板1は、リジッド基板であってもよく、フレキシブル基板であってもよい。配線基板1がフレキシブル基板である場合、フレキシブル基板は曲げ部を有してもよい。-40℃以上85℃以下の温度範囲において、αZ10>αZ30かつE’10>E’30の関係が成り立つことにより、配線基板1が割れやすいフレキシブル基板であっても、抵抗値の変動を抑制することができる。
【実施例】
【0045】
以下、本発明の配線基板をより具体的に開示した実施例を示す。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0046】
(実施例1)
エポキシ樹脂として、硬質エポキシ樹脂(三菱ケミカル製:jER 1009)10重量部および柔軟エポキシ樹脂(三菱ケミカル製:jER YX7400N)90重量部に、導電性フィラーとして、平均粒径が3μmの球形AgコートCu粉末(三井金属製:1300Y)を、硬化後の導電性ペースト中の割合が55体積%となる量を加えた。さらに、溶剤としてブチルカルビトールを添加し、イミダゾール系の潜在性硬化剤(キュアゾール2P4MHZ-PW)を添加した後、3本ロールミルにて混合し、導電性ペーストを作製した。なお、硬質エポキシ樹脂であるjER 1009は、予めブチルカルビトールに溶解したワニスとして調合した。
【0047】
別途、
図4に示すように、回路が形成された銅張積層板100を用意した。
図4は、銅張積層板の構成を模式的に示す断面図である。
【0048】
図4に示す銅張積層板100は、3層のシートから構成されており、具体的には、樹脂層110と、樹脂層110の一方の主面に配置された金属箔120と、樹脂層110の他方の主面に貼り付けられた樹脂シート130と、を備える。本実施例では、樹脂層110として液晶ポリマー(LCP)、金属箔120として銅箔、樹脂シート130としてポリエチレンテレフタレート(PET)を用いた。
【0049】
図5A、
図5Bおよび
図5Cに示すように、銅張積層板100にビアホール140を形成した後、上記の方法で作製した導電性ペースト150をビアホールに充填した。
図5A、
図5Bおよび
図5Cは、銅張積層板のビアホールに導電性ペーストを充填する方法を模式的に示す断面図である。
【0050】
図4に示す銅張積層板100に対して、樹脂シート130側からレーザを照射することによって、
図5Aに示すように、樹脂シート130および樹脂層110を貫通するビアホール140を形成した。その後、デスミア処理を実施することにより、穴あけ時の残渣を除去した。
【0051】
次に、
図5Bに示すように、ビアホール140内に、スキージを用いて導電性ペースト150を直接充填した。
【0052】
その後、樹脂層110の片側に貼り付けられた樹脂シート130を剥離した。これにより、
図5Cに示すように、樹脂層110から導電性ペースト150が盛り上がった状態の導電性ペースト付きシート160を作製した。
【0053】
導電性ペースト付きシート160同士を重ね合わせて、減圧下における加熱(270℃)および加圧(最大10MPa)を行うことによって、
図6に示す試験用基板1Aを作製した。
図6は、試験用基板の構成の一部を模式的に示す断面図である。
【0054】
図6に示す試験用基板1Aは、樹脂層110に由来する絶縁層10と、金属箔120に由来する導体層20と、導電性ペースト150が硬化された層間接続導体30と、を備える。
【0055】
後述するように、試験用基板1Aの上面に位置する導体層20を抵抗値の測定箇所MPとして使用した。
図6には、1個の測定点が示されている。試験用基板1Aには、複数個の測定点が設けられている。
図6に示すように、各測定点には合計16個の層間接続導体30が接続されている。
【0056】
(実施例2)
硬質エポキシ樹脂であるjER 1009を20重量部、柔軟エポキシ樹脂であるjER YX7400Nを80重量部に変更した以外は実施例1と同じ方法により試験用基板1Aを作製した。実施例2では、導電性ペーストの硬化物である層間接続導体30の貯蔵弾性率E’30が実施例1よりも高くなる。
【0057】
(実施例3)
イミダゾール系の潜在性硬化剤であるキュアゾール2P4MHZ-PWの代わりに、より硬化開始温度の高い潜在性硬化剤であるキュアゾール2PHZ-PWを使用した以外は実施例1と同じ方法により試験用基板1Aを作製した。
【0058】
実施例3では、導電性ペーストを充填した後のシートを乾燥する工程で導電性ペーストの硬化が進まず、加圧を行う段階で硬化が始まる。そのため、実施例1に比べて、導体層20と層間接続導体30との接着力を高めることができる。
【0059】
(実施例4)
溶剤によってワニス化したエポキシ樹脂jER 1009の代わりに、常温で液体のエポキシ樹脂jER 828を使用した以外は実施例1と同じ方法により試験用基板1Aを作製した。
【0060】
実施例4では、導電性ペースト中に溶剤が含まれないため、導電性ペーストを充填した後のシートを乾燥する工程および加圧を行う工程において脱ガス量が抑制される。その結果、デラミネーション、ボイド等による信頼性不良を低減することができる。
【0061】
(実施例5)
導電性フィラーとして、球形AgコートCu粉末(三井金属製:1300Y)の代わりに、AgコートCuNi合金粉末を使用した以外は実施例1と同じ方法により試験用基板1Aを作製した。
【0062】
実施例5では、完成品におけるマイグレーションが抑制されるため、ショート不良を抑制することができる。
【0063】
(比較例1)
硬質エポキシ樹脂であるjER 1009を100重量部、柔軟エポキシ樹脂であるjER YX7400Nを0重量部に変更した以外は実施例1と同じ方法により試験用基板1Aを作製した。比較例1では、導電性ペーストの硬化物である層間接続導体30の貯蔵弾性率E’30が実施例1および実施例2よりも高くなる。
【0064】
(比較例2)
硬質エポキシ樹脂であるjER 1009を50重量部、柔軟エポキシ樹脂であるjER YX7400Nを50重量部に変更した以外は実施例1と同じ方法により試験用基板1Aを作製した。比較例2では、導電性ペーストの硬化物である層間接続導体30の貯蔵弾性率E’30が実施例1および実施例2よりも高くなる。
【0065】
(比較例3)
導電性フィラーである球形AgコートCu粉末(三井金属製:1300Y)を、硬化後の導電性ペースト中の割合が30体積%となる量を加える以外は実施例1と同じ方法により試験用基板1Aを作製した。比較例3では、実施例1よりも導電性フィラーの配合比率が小さいため、導電性ペーストの硬化物である層間接続導体30の熱膨張係数αZ30が実施例1よりも大きくなる。
【0066】
以上のようにして作製した試験用基板1Aを用いて、-40℃への冷却(保持時間30分間)と85℃への加熱(保持時間30分間)を繰り返すヒートサイクル試験を行った。その結果を表1に示す。表1には、ヒートサイクル試験の回数と、試験後の抵抗値が初期の抵抗値の2倍以上になった測定点の比率を示した。表1に示す測定点の比率は、合計100個の測定点で抵抗値を測定したときの比率である。なお、1個の測定点における抵抗値は、合計16個の層間接続導体で接続された回路の抵抗値を、2端子法で測定した値であり、層間接続導体(導電性ペーストの硬化物)の抵抗、導体層(回路)の抵抗、層間接続導体と導体層との接触抵抗、および導体層と端子との接触抵抗の合計である。
【0067】
【0068】
図7は、実施例1、実施例2、比較例1および比較例2における層間接続導体ならびに絶縁層の貯蔵弾性率E’を示すグラフである。
【0069】
図7に示すように、ヒートサイクル試験の温度範囲である-40℃から85℃までのすべての温度領域で、実施例1および実施例2における層間接続導体30(導電性ペーストの硬化物)の貯蔵弾性率E’
30は、絶縁層10(LCP)の貯蔵弾性率E’
10より低かった。なお、
図7には示していないが、実施例3~5における層間接続導体30(導電性ペーストの硬化物)の貯蔵弾性率E’
30も同様に、-40℃から85℃までのすべての温度領域で絶縁層10(LCP)の貯蔵弾性率E’
10より低かった。
【0070】
実施例1~5のように柔軟エポキシ樹脂の比率が高い導電性ペーストを用いることにより、上記の温度領域で硬化後においても柔軟な状態を維持できるために、層間接続導体30と導体層20との電気的接合が維持される。その結果、表1に示すように、抵抗値の変化が生じにくい。
【0071】
一方、比較例1および比較例2における層間接続導体30(導電性ペーストの硬化物)の貯蔵弾性率E’
30は、
図7に示すように、-40℃から室温付近までの温度領域において、絶縁層10(LCP)の貯蔵弾性率E’
10よりも高かった。これにより、絶縁層10の変形に対して層間接続導体30が柔軟に追従することができないため、上記の温度領域で層間接続導体30と導体層20との界面に大きな応力が発生して剥離が生じやすくなる。その結果、表1に示すように、抵抗値が増大すると考えられる。
【0072】
図8は、実施例1および比較例3における層間接続導体ならびに絶縁層の積層方向の熱膨張係数αを示すグラフである。
【0073】
図8に示すように、ヒートサイクル試験の温度範囲である-40℃から85℃までのすべての温度領域で、実施例1における層間接続導体30(導電性ペーストの硬化物)の積層方向の熱膨張係数α
Z30は、絶縁層10(LCP)の積層方向の熱膨張係数α
Z10より低かった。
【0074】
一方、比較例3における層間接続導体30(導電性ペーストの硬化物)の積層方向の熱膨張係数αZ30は、-40℃から85℃までのすべての温度領域で、絶縁層10(LCP)の積層方向の熱膨張係数αZ10より高かった。比較例3では、室温から-40℃に降温する際、層間接続導体30が絶縁層10よりも収縮しやすいため、層間接続導体30と導体層20との界面に剥離方向の大きな応力が発生する。その結果、表1に示すように、抵抗値が増大すると考えられる。
【0075】
以下、実施例1における試験用基板の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察した。
【0076】
図9は、実施例1における層間接続導体と導体層との界面付近を示すSEM写真である。
図10は、実施例1における層間接続導体に含有される導電性フィラーを示すSEM写真である。
【0077】
図9中、破線で囲まれた層間接続導体30と導体層20との界面において、矢印で示した箇所のように、層間接続導体30に含有される一部の導電性フィラー33と導体層20とが金属結合しているか、または、
図10中、矢印で示した箇所のように、層間接続導体30に含有される一部の導電性フィラー33同士が金属結合していることが好ましい。金属結合により、層間接続導体30の抵抗値が安定化する。
【0078】
層間接続導体30に含有される一部の導電性フィラー33と導体層20とが金属結合しているか、または、層間接続導体30に含有される一部の導電性フィラー33同士が金属結合している場合、導電性フィラー33は、表面の少なくとも一部が金属で被覆された銅または銅合金の粉末からなることが好ましく、表面の少なくとも一部が銀で被覆された銅または銅合金の粉末からなることがより好ましい。導電性ペーストの硬化工程では最高270℃で10MPa程度の加熱圧着が行われるため、導電性フィラー33の表面が金属で被覆されていると、金属結合が促進されると推測される。
【0079】
図11は、実施例1における層間接続導体の形状を示すSEM写真である。
【0080】
図11に示すように、層間接続導体30と導体層20との界面において、導体層20の凹み25に層間接続導体30が配置されていることが好ましい。この場合、低温時の剪断応力による層間接続導体30の剥離を抑制することができる。導体層20の凹み25は、例えばエッチング等により形成することができる。
【0081】
導体層20の凹み25がエッチング等により形成される場合、層間接続導体30と導体層20との界面の少なくとも一部に防錆層が設けられていないことが好ましい。防錆層が設けられていない箇所では、層間接続導体30と導体層20との電気的接続性が向上する。その場合、層間接続導体30と導体層20との界面の全体に防錆層が設けられていなくてもよく、層間接続導体30と導体層20との界面の一部に防錆層が設けられていなくてもよい。
【0082】
一方、絶縁層10と導体層20との界面には、防錆層が設けられていてもよく、防錆層が設けられていなくてもよい。
【0083】
防錆層は、例えば、ニッケル、亜鉛、錫、コバルト、モリブデン、銅、タングステン、リン、ヒ素、クロム、バナジウム、チタン、アルミニウム、金、銀、白金族元素、鉄およびタンタルからなる群より選ばれる1種以上の元素を含む層であってもよく、ニッケル、亜鉛、錫、コバルト、モリブデン、銅、タングステン、リン、ヒ素、クロム、バナジウム、チタン、アルミニウム、金、銀、白金族元素、鉄およびタンタルからなる群より選ばれる1種以上の元素からなる金属層または合金層であってもよい。また、防錆層は、ニッケル、亜鉛、錫、コバルト、モリブデン、銅、タングステン、リン、ヒ素、クロム、バナジウム、チタン、アルミニウム、金、銀、白金族元素、鉄およびタンタルからなる群より選ばれる1種以上の元素を含む酸化物、窒化物、珪化物を含んでもよい。
【0084】
絶縁層10に接する部分の導体層20の表面粗さは、層間接続導体30に接する部分の導体層20の表面粗さよりも大きいことが好ましい。これにより、絶縁層10と導体層20との接着性が向上する。
【0085】
図12は、実施例1における別の層間接続導体の形状を示すSEM写真である。
【0086】
図12に示すように、導体層20が第1導体層21と第2導体層22とを含む場合、層間接続導体30は、第1導体層21側の端部に、第1導体層21に向かって導体幅が広がる傾斜面35を有し、層間接続導体30の第1導体層21側の端部が、第1導体層21と絶縁層10とで挟まれていることが好ましい。層間接続導体30の端部にすそ野のように広がりを持たせ、その部分を第1導体層21と絶縁層10とで挟み込むことで、層間接続導体30と導体層20とを強固に接続させることができる。
【0087】
図11と同様に、層間接続導体30と第2導体層22との界面において、第2導体層22の凹み25に層間接続導体30が配置されていることが好ましい。
【0088】
層間接続導体30と第2導体層22との界面の少なくとも一部に防錆層が設けられていないことが好ましい。その場合、層間接続導体30と第2導体層22との界面の全体に防錆層が設けられていなくてもよく、層間接続導体30と第2導体層22との界面の一部に防錆層が設けられていなくてもよい。一方、絶縁層10と第2導体層22との界面には、防錆層が設けられていてもよく、防錆層が設けられていなくてもよい。
【0089】
絶縁層10に接する部分の第2導体層22の表面粗さは、層間接続導体30に接する部分の第2導体層22の表面粗さよりも大きいことが好ましい。
【0090】
本発明の配線基板は、上記実施形態に限定されるものではなく、配線基板の構成、製造条件等に関し、本発明の範囲内において、種々の応用、変形を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0091】
1 配線基板
1A 試験用基板
10 絶縁層
20 導体層
21 第1導体層
22 第2導体層
25 導体層の凹み
30 層間接続導体
33 導電性フィラー
35 層間接続導体の傾斜面
100 銅張積層板
110 樹脂層
120 金属箔
130 樹脂シート
140 ビアホール
150 導電性ペースト
160 導電性ペースト付きシート
MP 測定箇所