(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】半導電性組成物および電力ケーブル
(51)【国際特許分類】
H01B 1/24 20060101AFI20241106BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20241106BHJP
C08L 23/16 20060101ALI20241106BHJP
C08L 23/18 20060101ALI20241106BHJP
C08L 23/10 20060101ALI20241106BHJP
B32B 27/32 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
H01B1/24 E
C08K3/04
C08L23/16
C08L23/18
C08L23/10
B32B27/32
(21)【出願番号】P 2023563904
(86)(22)【出願日】2023-04-20
(86)【国際出願番号】 JP2023015741
(87)【国際公開番号】W WO2024042776
(87)【国際公開日】2024-02-29
【審査請求日】2023-10-17
(31)【優先権主張番号】P 2022134933
(32)【優先日】2022-08-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100187643
【氏名又は名称】白鳥 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 智
【審査官】渡辺 陽子
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-111061(JP,A)
【文献】特開2004-259579(JP,A)
【文献】特表2018-514051(JP,A)
【文献】特表2004-510299(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
H01B1-9
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体と、
前記導体の外周に被覆され、樹脂組成物から形成される絶縁層と、
前記絶縁層の外周に被覆され、半導電性組成物から形成される外部半導電層と、を備え、
前記半導電性組成物は、
プロピレン系樹脂と
ゴム材料とエラストマとを混合した状態で含む樹脂成分と、
カーボンブラックと、を含み、
前記プロピレン系樹脂は、融解熱量が100J/g以上120J/g以下のプロピレン単独重合体、および融解熱量が90J/g以上105J/g以下のプロピレンランダム重合体の少なくとも1つであり、
前記ゴム材料は、融解熱量がなく、エチレン、プロピレン、ブテン、ヘキセンおよびオクテンのうち少なくともいずれか2つを共重合した共重合体であり、
前記エラストマは、融解熱量が50J/g以下であって、ハードセグメントとしてスチレンを、ソフトセグメントとして、エチレン、プロピレン、ブテンおよび
イソプレンの少なくとも1つを含むスチレン系熱可塑性エラストマであり、
前記樹脂成分の融解熱量は、前記プロピレン系樹脂が前記プロピレン単独重合体を含む場合に75J/g以上110J/g以下、前記プロピレン系樹脂が前記プロピレンランダム重合体を含む場合に60J/g以上100J/g以下であり、
前記プロピレン系樹脂の添加比率が、前記樹脂成分の50質量%以上であり、
温度190℃、せん断速度100s
-1における高せん断速度での粘度が1000Pa・s以上5000Pa・s以下、温度190℃、せん断速度1s
-1における低せん断速度での粘度が100000Pa・s以上1000000Pa・s以下である、
電力ケーブル。
【請求項2】
前記カーボンブラックの含有量が、前記樹脂成分100質量部に対して10質量部以上100質量部以下である、
請求項1に記載の電力ケーブル。
【請求項3】
前記樹脂成分の融点は、140℃以上170℃以下である、
請求項1または請求項2に記載の電力ケーブル。
【請求項4】
長手方向に垂直な断面において、短径に対する長径の比率が1.3以下である、
請求項1または請求項2に記載の電力ケーブル。
【請求項5】
長手方向に離間する2点の断面において、一方の点における短径に対するもう一方の点における長径の比率が1.3以下である、
請求項1または請求項2に記載の電力ケーブル。
【請求項6】
前記外部半導電層の厚さは0.5mm以上であって、前記導体の外径に対する前記電力ケーブルの外径の比率が4以下である、
請求項1または請求項2に記載の電力ケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2022年8月26日出願の日本国出願「特願2022-134933」に基づく優先権を主張し、前記日本出願に記載された全ての記載内容を援用するものである。
【0002】
本開示は、半導電性組成物および電力ケーブルに関する。
【背景技術】
【0003】
架橋ポリエチレンは絶縁性に優れることから、電力ケーブルなどにおいて、絶縁層を構成する樹脂成分として広く用いられてきた(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【0005】
本開示の一態様によれば、
電力ケーブルにおける半導電層を形成するための半導電性組成物であって、
プロピレン系樹脂と、ゴム材料およびエラストマの少なくとも1つと、を含む樹脂成分と、
カーボンブラックと、を含み、
前記ゴム材料およびエラストマは、エチレン、プロピレン、ブチレン、ヘキセン、イソプレン、オクテンおよびスチレンのうち少なくとも2つの単位を有し、
温度190℃、せん断速度100s-1における高せん断速度での粘度が1000Pa・s以上5000Pa・s以下、温度190℃、せん断速度1s-1における低せん断速度での粘度が100000Pa・s以上1000000Pa・s以下である、
半導電性組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】本開示の一実施形態に係る直流電力ケーブルの軸方向に直交する模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
(発明が解決しようとする課題)
しかしながら、経年劣化した架橋ポリエチレンは、リサイクルできず、焼却するしかなかった。このため、環境への影響が懸念されていた。
【0008】
そこで、近年では、電力ケーブルにおける絶縁層を形成する樹脂成分として、プロピレンを含む樹脂(以下、「プロピレン系樹脂」ともいう)が注目されている。プロピレン系樹脂は非架橋であっても、電力ケーブルとして求められる絶縁性を満たすことができる。すなわち、絶縁性とリサイクル性とを両立することができる。さらに、プロピレン系樹脂を用いることで、取り扱い性、加工性、および製造容易性を向上させることができる。
【0009】
しかし、本発明者等の検討によると、プロピレン系樹脂を用いた場合、ポリエチレンを用いて架橋させる場合と比較して、電力ケーブルの外径が電力ケーブルの断面および長手方向で不均一となりやすいことが確認された。特に、導体に対して相対的に絶縁層を厚く形成し、電力ケーブルの外径を大きくする場合に、外径が不均一となりやすいことが確認された。
【0010】
本開示の目的は、樹脂成分としてプロピレン系樹脂を用いたときに電力ケーブルの外径の均一性を向上させる技術を提供することである。
【0011】
(本開示の効果)
本開示によれば、樹脂成分としてプロピレン系樹脂を用いたときに電力ケーブルの外径の均一性を向上させることができる。
【0012】
<本開示の実施形態の説明>
(本発明者等の得た知見)
まず、発明者等の得た知見について概略を説明する。
【0013】
上述したように、電力ケーブルの被覆材料としてプロピレン系樹脂を用いる場合、架橋を施さないため、架橋ポリエチレンと比較して、外径の変動が生じやすい。
【0014】
一般に、電力ケーブルの作製では、まず、導体の外周上に、内部半導電層を形成するための被覆材料、絶縁層を形成するための被覆材料、および外部半導電層を形成するための被覆材料を積層するように同時に押し出す。これらの被覆材料を架橋させる場合、例えばケーブルを架橋管に導入し、高温環境下で加熱させる。架橋後、ケーブルを例えば冷却槽などに導入し、内部半導電層、絶縁層および外部半導電層などの被覆材料を冷却させる。この場合、架橋過程で被覆材料の粘度が高くなるため、被覆材料を押し出した形状に維持しやすく、冷却によりその形状をそのまま固定することができる。つまり、架橋により、被覆材料の流動による垂れ、それにともなって電力ケーブルの外径変動を抑制することができる。
【0015】
これに対して、被覆材料にプロピレン系樹脂を用いる場合、架橋処理を行わないため、被覆材料を押し出した後、冷却を行うことになる。このとき、積層させた被覆材料の表面側から内部へと徐々に冷却させることになる。そのため、積層させた被覆材料の表面側は冷却により形状が固定される一方で、内部が高温で溶融流動可能な状態が生じうる。しかも、架橋処理を行わないため被覆材料の粘度を上昇させることができない。この結果、被覆材料の内部が冷却して形状が固定するまでの間に、被覆材料が自重によって垂れてしまうことがある。この垂れにともない、被覆層は電力ケーブルの断面においてその外周方向で厚さが不均一となり、また電力ケーブルの長手方向でも厚さが不均一となることがある。例えば横型押出機で水平方向に電力ケーブルを搬送する場合であれば、電力ケーブルの断面で下側方向に被覆材料が垂れたり、縦型押出機で垂直方向に搬送する場合であれば、電力ケーブルの長手方向の下側に垂れたりすることがある。絶縁被覆の厚さが断面の外周方向や長手方向で不均一となると、絶縁性が局所的に低くなる箇所が生じ、所望の絶縁性を実現できないことがある。
【0016】
被覆材料の垂れは厚く押出すほど生じやすく、絶縁層の厚さが大きくなるほど、また導体の外径に対して絶縁層の厚さの比率が大きくなるほど、より顕著に生じる。
【0017】
このことから、本発明者等は、内部半導電層、絶縁層および外部半導電層を含む被覆層のうち、特に外径変動に大きく影響を及ぼす絶縁層の垂れを抑制する方法について検討を行った。そして、外部半導電層を形成する半導電性組成物の粘度に着目した。半導電性組成物の粘度を高く設定することで、その内側に配置される絶縁層を形成する樹脂組成物の流動による垂れを抑制して形状を維持できるためである。一方で、半導電性組成物には押出成形性も求められ、一定の厚さで安定して押出できるような粘度が求められる。
【0018】
一般的に、樹脂はせん断速度によって粘度が大きく変動し、高せん断速度では低粘度、低せん断速度では高粘度となる傾向がある。電力ケーブルの作製において、半導電性組成物は、溶融混練して押し出す段階ではせん断速度が高く、粘度が低くなる傾向がある。一方、押出後、冷却させるまでの段階ではせん断速度が低く、その粘度が高くなる傾向がある。また、半導電性組成物では、さらにカーボンブラックを配合することで、高せん断速度および低せん断速度での粘度が全体的に高くなる傾向がある。
【0019】
このことから、本発明者等は、半導電性組成物について高せん断速度および低せん断速度それぞれでの粘度を検討したところ、各粘度が所定範囲となるように調整することで、その押出成形性と、冷却して形状を固定するまでの間の垂れの抑制とを両立できることを見出した。このような半導電性組成物によれば、電力ケーブルの外径の均一性を向上できることを見出した。
【0020】
本開示は、上記知見に基づいて成されたものである。
【0021】
(本開示の実施形態)
次に、本開示の実施態様を列記して説明する。
【0022】
[1]本開示の一態様に係る半導電性組成物は、
電力ケーブルにおける半導電層を形成するための半導電性組成物であって、
プロピレン系樹脂と、ゴム材料およびエラストマの少なくとも1つと、を含む樹脂成分と、
カーボンブラックと、を含み、
前記ゴム材料およびエラストマは、エチレン、プロピレン、ブチレン、ヘキセン、イソプレン、オクテンおよびスチレンのうち少なくとも2つの単位を有し、
温度190℃、せん断速度100s-1における高せん断速度での粘度が1000Pa・s以上5000Pa・s以下、温度190℃、せん断速度1s-1における低せん断速度での粘度が100000Pa・s以上1000000Pa・s以下である。
この構成によれば、電力ケーブルの外径の均一性を向上させることができる。
【0023】
[2]本開示の一態様に係る電力ケーブルは、
導体と、
前記導体の外周に被覆され、樹脂組成物から形成される絶縁層と、
前記絶縁層の外周に被覆され、半導電性組成物から形成される外部半導電層と、を備え、
前記半導電性組成物は、
プロピレン系樹脂と、ゴム材料およびエラストマの少なくとも1つと、を含む樹脂成分と、
カーボンブラックと、を含み、
前記ゴム材料およびエラストマは、エチレン、プロピレン、ブチレン、ヘキセン、イソプレン、オクテンおよびスチレンのうち少なくとも2つの単位を有し、
温度190℃、せん断速度100s-1における高せん断速度での粘度が1000Pa・s以上5000Pa・s以下、温度190℃、せん断速度1s-1における低せん断速度での粘度が100000Pa・s以上1000000Pa・s以下である。
この構成によれば、外径の均一性を向上させることができる。
【0024】
[3]上記[2]に記載の電力ケーブルは、
前記カーボンブラックの含有量が、前記樹脂成分100質量部に対して10質量部以上100質量部以下である。
この構成によれば、電力ケーブルにおいて外径の均一性をより向上させるとともに、電界をより均一化させることができる。
【0025】
[4]上記[2]または[3]に記載の電力ケーブルは、
前記樹脂成分の融解熱量は、55J/g以上90J/g以下である。
この構成によれば、外径の均一性をより確実に向上させることができる。
【0026】
[5]上記[2]または[3]に記載の電力ケーブルは、
前記樹脂成分の融点は、140℃以上170℃以下である。
この構成によれば、外径の均一性をより確実に向上させることができる。
【0027】
[6]上記[2]または[3]に記載の電力ケーブルは、
長手方向に垂直な断面において、短径に対する長径の比率が1.3以下である。
この構成によれば、電力ケーブルの断面での外周方向における外径の均一性を向上させることができる。
【0028】
[7]上記[2]または[3]に記載の電力ケーブルは、
長手方向に離間する2点の断面において、一方の点における短径に対するもう一方の点における長径の比率が1.3以下である。
この構成によれば、電力ケーブルの長手方向における外径の均一性を向上させることができる。
【0029】
[8]上記[2]または[3]に記載の電力ケーブルは、
前記外部半導電層の厚さは0.5mm以上であって、前記導体の外径に対する前記電力ケーブルの外径の比率が4以下である。
この構成によれば、導体の外径に対して絶縁層を相対的に厚く形成し電力ケーブルの外径を大きくした場合であっても、外径の均一性を維持することができる。
【0030】
(本開示の実施形態の詳細)
次に、本開示の一実施形態を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本開示はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0031】
(本開示の一実施形態)
(1)半導電性組成物
本実施形態の半導電性組成物は、電力ケーブルの半導電層を形成する材料として用いることができる。半導電層でも外部半導電層に用いてもよく、内部半導電層に用いてもよい。半導電性組成物は、プロピレン系樹脂とゴム材料およびエラストマの少なくとも1つとを含む樹脂成分と、カーボンブラックとを含み、これら成分の混合により高せん断速度および低せん断速度での粘度が所定範囲となるように調整されている。具体的には、半導電性組成物の粘度として、温度190℃、せん断速度100s-1における高せん断速度での粘度が1000Pa・s以上5000Pa・s以下、温度190℃、せん断速度1s-1における低せん断速度での粘度が100000Pa・s以上1000000Pa・s以下である。
【0032】
以下、半導電性組成物の構成成分、その組成、および樹脂組成物の粘度などの物性値について詳述する。
【0033】
(1-1)プロピレン系樹脂
プロピレン系樹脂は、半導電性組成物のベースポリマである。プロピレン系樹脂としては、例えば、プロピレン単独重合体(以下、ホモPPともいう)やプロピレンランダム重合体(以下、ランダムPPともいう)などが挙げられる。ホモPPはプロピレン単位を含み、ランダムPPはプロピレン単位とエチレン単位とを有する。半導電層においてより高い柔軟性を得る観点からは、プロピレン系樹脂はランダムPPであってもよい。ランダムPPは、エチレン単位を含み、ホモPPと比較して結晶量が低いため、冷却の際に粗大結晶を生成しにくく、半導電層の柔軟性をより向上させることができる。
【0034】
ランダムPPにおけるエチレン単位の含有量は、例えば、0.5質量%以上15質量%以下であってもよい。エチレン単位の含有量を0.5質量%以上とすることで、粗大結晶の生成を抑制しやすく、半導電層の柔軟性を高く維持することができる。一方で、エチレン単位の含有量を15質量%以下とすることで、融点の低下を抑制し、非架橋または微架橋での使用を安定的に実現することができる。
【0035】
なお、プロピレン系樹脂の立体規則性としてはアイソタクチック、シンジオタクチックおよびアタクチックなどが挙げられる。立体規則性は特に限定されないが、アイソタクチックであってもよい。立体規則性がアイソタクチックであることにより、半導電性組成物において、融点の低下を抑制することができる。その結果、非架橋または微架橋での使用を安定的に実現することができる。
【0036】
プロピレン系樹脂の高せん断速度および低せん断速度での粘度は、特に限定されない。高せん断速度での粘度は100Pa・s以上6000Pa・s以下であってもよい。低せん断速度での粘度は500Pa・s~50000Pa・s以下であってもよい。このような粘度を有することで、半導電性組成物において所定の粘度に調整しやすい。ベースポリマとなるプロピレン系樹脂の粘度を上記範囲とすることにより、エラストマなどと混合したときに、半導電性組成物における各せん断速度での粘度を上記範囲により確実に調整することが可能となる。
【0037】
なお、プロピレン系樹脂としては、高せん断速度や低せん断速度での粘度が所定範囲となるものを1種単独で使用してもよく、粘度が異なる2種以上を併用してもよい。樹脂組成物での粘度を所定範囲に調整する観点からは2種以上を併用してもよい。
【0038】
また、後述するように、プロピレン系樹脂などの樹脂成分は、例えば融点や融解熱量、分子量分布などの物性値によって、取り得る粘度カーブが異なる。本実施形態において、半導電性組成物の粘度を所定範囲に調整する観点からは、プロピレン系樹脂の各物性値を以下のように設定してもよい。
【0039】
プロピレン系樹脂の融点は特に限定されないが、プロピレン単独重合体(ホモPP)であれば160℃以上175℃以下であってもよく、プロピレンランダム重合体(ランダムPP)であれば140℃以上150℃以下であってもよい。このようなプロピレン系樹脂によれば、半導電性組成物の粘度を所定範囲に調整しやすい。しかも、半導電性組成物の融点を高くして、半導電層などの耐熱温度を向上することができる。これにより、半導電層が非架橋の場合であっても、高温環境下で高い性能を安定して維持することができる。
【0040】
プロピレン系樹脂の融解熱量は特に限定されないが、ホモPPであれば100J/g以上120J/g以下であってもよく、もしくはランダムPPであれば90J/g以上105J/g以下であってもよい。このようなプロピレン系樹脂によれば、半導電性組成物の粘度を所定範囲に調整しやすく、また半導電層の耐熱温度を向上させて高温環境下でも諸特性を安定して維持することができる。
【0041】
なお、本明細書において融点および融解熱量は以下のように測定される。
まず、試料について、例えばJIS-K-7121(1987年)に準拠して示差走査熱量測定(DSC:Differential Scanning Calorimetry)を行う。具体的には、DSC装置において、室温(常温、例えば27℃)から220℃まで10℃/分で昇温させる。これにより、温度に対する、単位時間当たりの吸熱量(熱流)をプロットすることで、DSC曲線が得られる。このとき、試料における単位時間当たりの吸熱量が極大(ピーク)になる温度を「融点(融解ピーク温度)」とする。また、このとき、試料の吸熱が全て樹脂成分によって行われると仮定し、室温から220℃までの試料の吸熱量(J)を試料中の樹脂成分全体の質量(g)で除した値(J/g)を「融解熱量」とする。なお、試料の融解熱量と完全結晶体の融解熱量の理論値とに基づいて、試料の結晶化度(%)を求めることができる。
【0042】
プロピレン系樹脂は所定の分子量分布を有しており、分子量分布の幅が広くなるほど、つまり、分子量分布における重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比率が大きくなるほど、高せん断速度での粘度と低せん断速度での粘度との差が大きくなる傾向がある。半導電性組成物において各せん断速度での粘度を上記範囲内に調整する観点からは、Mw/Mnが3.0以上8.0以下であってもよく、もしくは3.5以上7.0以下であってもよい。また、数平均分子量Mnは例えば60000以上150000以下であってもよい。また、重量平均分子量Mwは例えば210000以上1000000以下であってもよい。
【0043】
(1-2)ゴム材料・エラストマ
ゴム材料やエラストマは、半導電性組成物においてプロピレン系樹脂の結晶成長を制御し、半導電層に柔軟性を付与する。また、ゴム材料やエラストマは、プロピレン系樹脂との混合により半導電性組成物の各せん断速度での粘度を変動させるおそれがあるが、所定の粘度範囲となるように混合することで、半導電層に所定の柔軟性を付与することができる。本実施形態のゴム材料又はエラストマは、エチレン、プロピレン、ブテン、ヘキセン、イソプレン、オクテンおよびスチレンのうち少なくとも2つを含む。
【0044】
ゴム材料やエラストマの高せん断速度および低せん断速度での粘度は、特に限定されない。高せん断速度での粘度は300Pa・s以上7000Pa・s以下であってもよい。また、低せん断速度での粘度は4000Pa・s以上80000Pa・s以下であってもよい。もしくは、ゴム材料について、高せん断速度での粘度は500Pa・s以上5000Pa・s以下であってもよく、低せん断速度での粘度は10000Pa・s以上70000Pa・s以下であってもよい。エラストマについて、高せん断速度での粘度は1000Pa・s以上6000Pa・s以下であってもよく、低せん断速度での粘度は5000Pa・s以上50000Pa・s以下であってもよい。このような粘度を有するゴム材料又はエラストマによれば、プロピレン系樹脂と混合したときに半導電性組成物の各粘度を所望の範囲に調整しやすくできる。
【0045】
ゴム材料やエラストマの融点は特に限定されない。ゴム材料は、一般的にDSC測定で吸熱量のピークが検出されないため、融点を持たない。エラストマは、融点を持たなくてもよく、融点を持つとしても、その融点は100℃以下であってもよい。
【0046】
ゴム材料やエラストマの融解熱量は特に限定されない。ゴム材料の融解熱量は、融点を測定できないため、なしとなる。エラストマの融解熱量は、50J/g以下であってもよく、30J/g以下であってもよい。
【0047】
具体的には、ゴム材料としては、エチレン、プロピレン、ブテン、ヘキセンおよびオクテンのうち少なくともいずれか2つを共重合した共重合体を用いてもよい。
【0048】
ゴム材料は、プロピレン系樹脂との相溶性の観点から、プロピレンを含む共重合体であってもよい。プロピレンを含む共重合体としては、例えば、エチレンプロピレンゴム(EPR:Ethylene Propylene Rubber)を用いることができる。
【0049】
EPRのエチレン含有量は、例えば、20質量%以上であってもよく、40質量%以上であってもよく、55質量%以上であってもよい。エチレン含有量が20質量%未満であると、プロピレン系樹脂の結晶化を十分に制御できないことがある。これに対し、エチレン含有量を20質量%以上とすることで、EPRによる柔軟化効果を得つつ、EPRによるプロピレン系樹脂の結晶化を十分に制御することができる。さらに、エチレン含有量を40質量%以上、もしくは55質量%以上とすることで、結晶化をより安定して制御することができる。なお、VLDPEの密度は、例えば、0.855g/cm3以上0.890g/cm3以下である。
【0050】
一方、ゴム材料は、例えば、プロピレンを含まない共重合体であってもよい。プロピレンを含まない共重合体としては、例えば、容易入手性の観点から、超低密度ポリエチレン(VLDPE: Very Low Density Polyethylene)などを用いることができる。VLDPEとしては、例えば、エチレンおよび1-ブテンにより構成されるPE、エチレンおよび1-オクテンにより構成されるPEなどが挙げられる。プロピレンを含まない共重合体によれば、プロピレン系樹脂の結晶化を安定して制御することができる。
【0051】
また、エラストマとしては、例えばハードセグメントとしてスチレンを、ソフトセグメントとして、エチレン、プロピレン、ブテンおよびイソプレンなどの少なくとも1つを含むスチレン系熱可塑性エラストマを用いることができる。スチレン系熱可塑性エラストマは、ゴム材料と同様、半導電性組成物に分散してプロピレン系樹脂の結晶成長を制御し半導電層に柔軟性を付与したり、半導電性組成物の各粘度の調整に寄与したりする成分である。さらにスチレン系熱可塑性エラストマは、半導電層における機械的なストレスクラックの発生を抑制することで、半導電層の水トリー耐性の向上にも寄与する。
【0052】
スチレン系熱可塑性エラストマとしては、例えば、スチレンブタジエンスチレンブロック共重合体(SBS)、水素化スチレンブタジエンスチレンブロック共重合体、スチレンイソプレンスチレン共重合体(SIS)、水素化スチレンイソプレンスチレン共重合体、水素化スチレンブタジエンラバー、水素化スチレンイソプレンラバー、スチレンエチレンブチレンオレフィン結晶ブロック共重合体などが挙げられる。これらのうち2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0053】
なお、ここでいう「水素化」とは、二重結合に水素を添加したことを意味する。例えば、「水素化スチレンブタジエンスチレンブロック共重合体」とは、スチレンブタジエンスチレンブロック共重合体の二重結合に水素を添加したポリマを意味する。なお、スチレンが有する芳香環の二重結合には水素が添加されていない。「水素化スチレンブタジエンスチレンブロック共重合体」は、スチレンエチレンブチレンスチレンブロック共重合体(SEBS)と言い換えることができる。
【0054】
スチレン系熱可塑性エラストマとしては、化学構造中に二重結合を含まない物であってもよい。二重結合を有する物を用いた場合、半導電性組成物の成形時などで樹脂成分が熱劣化することがあり、得られる半導電層の特性を低下させることがある。この点、二重結合を含まない物によれば、熱劣化の耐性が高いので、半導電層の特性をより高く維持することができる。
【0055】
スチレン系熱可塑性エラストマにおけるスチレン含量は、特に限定されないが、プロピレン系樹脂の結晶成長の制御、および半導電層の柔軟化という観点からは、5質量%以上35質量%以下であってもよい。
【0056】
(1-3)カーボンブラック
カーボンブラックは、樹脂成分に添加混合することで、樹脂成分に導電性を付与するものである。カーボンブラックとしては、例えばファーネスカーボンブラックやアセチレンカーボンブラックを用いるとよい。ここで、ファーネスカーボンブラックとは、油等を燃焼させることで生成されたものを示す。アセチレンカーボンブラックとは、原料としてのアセチレンを熱分解させることで生成されたものを示す。
【0057】
カーボンブラックの平均粒子径は特に限定されず、半導電層において適度に分散させ、所定の導電性を得られるような範囲で適宜設定するとよい。例えば、平均粒子径は35nm以上100nm以下であってもよい。なお、ここで平均粒子径は。レーザ回折・散乱法による粒度測定によって求めた粒度分布における積算値50%での粒径を示す。
【0058】
(1-4)その他の添加剤
半導電性組成物は、上述の樹脂成分やカーボンブランクのほかに、例えば、酸化防止剤、銅害防止剤、滑剤および着色剤を含んでいてもよい。
【0059】
ただし、半導電性組成物は、例えば、プロピレンの結晶を生成する核剤として機能する添加剤の含有量が少なくてもよく、このような添加剤を実質的に含まなくてもよい。具体的には、核剤として機能する添加剤の含有量は、例えば、プロピレン系樹脂と、ゴム材料およびエラストマの少なくとも1つとを含む樹脂成分の合計を100質量部としたときに、1質量部未満であってもよく、0質量部であってもよい。これにより、核剤を起因とした想定外の異常な結晶化の発生を抑制し、結晶量を容易に制御することができる。
【0060】
半導電性組成物は、無機充填剤を含んでもよいが、高せん断速度および低せん断速度での粘度を所定範囲に調整する観点からは添加量が少なくてもよく、無添加であってもよい。
【0061】
(1-5)半導電性組成物の粘度
半導電性組成物は、プロピレン系樹脂と、ゴム材料およびエラストマの少なくとも1つと、カーボンブラックと、を混合して形成され、これら成分の混合により、半導電性組成物の温度190℃、せん断速度100s-1における高せん断速度での粘度が1000Pa・s以上5000Pa・s以下、温度190℃、せん断速度1s-1における低せん断速度での粘度が100000Pa・s以上1000000Pa・s以下となる。
【0062】
プロピレン系樹脂、ゴム材料およびエラストマはそれぞれ固有の粘度カーブを有する。粘度カーブとは、横軸がせん断速度、縦軸が粘度を示し、せん断速度が大きくなるにしたがい粘度が小さくなる右肩下がりのカーブである。この粘度カーブは、樹脂の分子量や分子量分布、融点、融解熱量などに応じてそれぞれ固有の形状となる。プロピレン系樹脂、ゴム材料およびエラストマなどの種類が異なる場合だけでなく、同じプロピレン系樹脂でも分子量分布や融点など物性値が異なる場合でも、粘度カーブも異なることになる。粘度カーブの違いから、粘度カーブの傾きや、高せん断速度や低せん断速度で取り得る粘度範囲などが異なる。本実施形態では、粘度カーブの異なるプロピレン系樹脂、ゴム材料およびエラストマを混合することで、各せん断速度での粘度を調整している。しかも、樹脂成分に対してカーボンブラックを添加することで、半導電性組成物の粘度カーブを制御し、各せん断速度での粘度を調整している。
【0063】
半導電性組成物において、高せん断速度での粘度が1000Pa・s未満となると、溶融させた半導電性組成物を形状を維持しつつ、均一な厚さで安定して押し出せないことがある。一方、高せん断速度での粘度が5000Pa・sを超えると、半導電性組成物の押し出す際の圧力が高くなり、押出量が安定しないため、半導電性組成物を均一な厚さで押し出せないことがある。この点、高せん断速度での粘度を1000Pa・s~5000Pa・sの範囲内に調整することで、半導電性組成物を均一な厚さで押し出しつつ、絶縁層形成用の被覆材料の流動を抑制してその形状を維持することができる。高せん断速度での粘度は、1000Pa・s~3000Pa・sであってもよい。
【0064】
低せん断速度での粘度が100000Pa・s未満となると、電力ケーブルの作製の際に絶縁層形成用の被覆材料の流動(垂れ)を抑制できず、外径変動が生じやすくなる。一方、低せん断速度での粘度が1000000Pa・sを超えると、それにともない高せん断速度での粘度も高くなるため、上述したように半導電性組成物の押出量が不安定となり、半導電層を均一な厚さで形成できないことがある。この点、低せん断速度での粘度を100000Pa・s~1000000Pa・sの範囲内に調整することで、押出した半導電性組成物の垂れを抑制し、電力ケーブルの外径の均一性を高めることができる。低せん断速度での粘度は、100000Pa・s~300000Pa・sであってもよい。
【0065】
高せん断速度での粘度と低せん断速度での粘度との比率は、特に限定されないが、高せん断速度での粘度をA、低せん断速度での粘度をBとしたとき、B/Aは30以上1000以下であってもよい。この比率が大きくなるほど、溶融した半導電性組成物をより低圧で押し出しすることができ、また電力ケーブルの作製の際に絶縁層の形成材料の垂れを抑制することができる。
【0066】
なお、高せん断速度および低せん断速度での粘度は、後述の実施例に示すような手順により測定した。
【0067】
(1-6)半導電性組成物の融点および融解熱量
半導電性組成物の融点および融解熱量は、樹脂成分として混合するプロピレン系樹脂やゴム材料、エラストマの各配合量に応じて変化する。つまり、融点などは各成分の比率(組成)の指標となるものである。なお、半導電性組成物の融点および融解熱量は、カーボンブラックを除く樹脂成分と実質的に同一となる。
【0068】
プロピレン系樹脂は比較的融点が高い一方、ゴム材料やエラストマは融点を持たない、もしくは持つとしても融点が低い。また、プロピレン系樹脂は、結晶性が高く、その融解熱量は高い一方、ゴム材料やエラストマは結晶性が低い、もしくは非晶性であって、その融解熱量は低い。そのため、半導電性組成物における樹脂成分の融点や融解熱量はそれぞれ、プロピレン系樹脂が本来有する融点や融解熱量よりも低くなる傾向がある。
【0069】
樹脂成分の融点および融解熱量は特に限定されないが、各成分を適切な比率で混合し、高せん断速度および低せん断速度での粘度を所定範囲とする観点からは、それぞれ以下のような範囲であってもよい。
【0070】
具体的には、樹脂成分の融点は、プロピレン系樹脂としてホモPPを含む場合であれば、158℃以上168℃以下であってもよい。また、プロピレン系樹脂としてランダムPPを含む場合であれば、140℃以上150℃以下であってもよい。
【0071】
また樹脂成分の融解熱量は、プロピレン系樹脂としてホモPPを含む場合であれば、75J/g以上110J/g以下であってもよい。また、プロピレン系樹脂としてランダムPPを含む場合であれば、60J/g以上100J/g以下であってもよい。
【0072】
樹脂成分の融点および融解熱量の少なくとも1つが上記範囲となるように、プロピレン系樹脂やゴム材料、エラストマを所定の比率で混合することにより、高せん断速度および低せん断速度での粘度を所定範囲に調整しやすくできる。
【0073】
(1-7)樹脂組成
半導電性組成物における各成分の比率(組成)は、高せん断速度および低せん断速度での粘度がそれぞれ所定範囲となるよう、プロピレン系樹脂やゴム材料、エラストマの種類に応じて適宜調整するとよい。粘度を所定範囲により確実に調整する観点からは、樹脂成分の融点および融解熱量が上述した範囲となるように、各成分を混合するとよい。具体的には、樹脂組成物において、プロピレン系樹脂の添加比率は50質量%以上であってもよい。また、プロピレン系樹脂は、粘度や融点、融解熱量が互いに異なる成分を2種以上併用してもよい。ゴム材料やエラストマについても、上記物性値が互いに異なる成分を2種以上併用してもよい。
【0074】
また、半導電性組成物におけるカーボンブラックの含有量は特に限定されない。カーボンブラックは、樹脂成分に混合することで各せん断速度での粘度を上昇させる要因となる。そのため、半導電層に要求される導電性を満たしつつ、各せん断速度での粘度が所定範囲となるように適宜変更することとよい。例えば、カーボンブラックの含有量は、樹脂成分100質量部に対して10質量部以上100質量部以下であってもよく、10質量部以上80質量部以下であってもよい。
【0075】
(2)電力ケーブル
次に、
図1を用い、本実施形態の電力ケーブルについて説明する。
図1は、本実施形態に係る電力ケーブルの軸方向に直交する断面図である。
【0076】
本実施形態の電力ケーブル10は、いわゆる固体絶縁電力ケーブルとして構成されている。また、本実施形態の電力ケーブル10は、例えば、陸上(管路内)、水中または水底に布設されるよう構成されている。なお、電力ケーブル10は、例えば、交流に用いられる。
【0077】
具体的には、電力ケーブル10は、例えば、導体110と、内部半導電層120と、絶縁層130と、外部半導電層140と、遮蔽層150と、シース160と、を有している。
【0078】
(導体(導電部))
導体110は、例えば、純銅、銅合金、アルミニウム、またはアルミニウム合金等を含む複数の導体芯線(導電芯線)を撚り合わせることにより構成されている。
【0079】
(内部半導電層)
内部半導電層120は、導体110の外周を覆うように設けられている。また、内部半導電層120は、半導電性を有し、導体110の表面側における電界集中を抑制するよう構成されている。内部半導電層120は、樹脂成分およびカーボンブラックを含む半導電性組成物から形成される。その樹脂成分としては、例えば、エチレン-エチルアクリレート共重合体、エチレン-メチルアクリレート共重合体、エチレン-ブチルアクリレート共重合体、およびエチレン-酢酸ビニル共重合体等のエチレン系共重合体、オレフィン系エラストマ、プロピレン系樹脂などのうち少なくともいずれかを用いることができる。また、上述した各せん断速度での粘度が所定範囲に調整された半導電性組成物を用いてもよい。
【0080】
(絶縁層)
絶縁層130は、内部半導電層120の外周を覆うように設けられる。絶縁層130の形成材料としては、非架橋とする観点からはプロピレン系樹脂を用いるとよい。また、絶縁層130において柔軟性を向上させる観点からは、上述したプロピレン系樹脂とゴム材料およびエラストマの少なくとも1つとを含む樹脂成分を用いてもよい。絶縁層130は、例えば樹脂成分を含む樹脂組成物を押出して成形されている。
【0081】
(外部半導電層)
外部半導電層140は、絶縁層130の外周を覆うように設けられている。また、外部半導電層140は、半導電性を有し、絶縁層130と遮蔽層150との間における電界集中を抑制するよう構成されている。外部半導電層140は、上述した各せん断速度での粘度が所定範囲に調整された半導電性組成物から形成される。
【0082】
(遮蔽層)
遮蔽層150は、外部半導電層140の外周を覆うように設けられている。遮蔽層150は、例えば、銅テープを巻回することにより構成されるか、或いは、複数の軟銅線等を巻回したワイヤシールドとして構成されている。なお、遮蔽層150の内側や外側に、ゴム引き布等を素材としたテープが巻回されていてもよい。
【0083】
(シース)
シース160は、遮蔽層150の外周を覆うように設けられている。シース160は、例えば、ポリ塩化ビニルまたはポリエチレンにより構成されている。
【0084】
なお、本実施形態の電力ケーブル10は、水中ケーブルまたは水底ケーブルであれば、遮蔽層150よりも外側に、いわゆるアルミ被などの金属製の遮水層や、鉄線鎧装を有していてもよい。一方で、本実施形態の電力ケーブル10は、上述の水トリー抑制効果を有していることで、例えば、遮蔽層150よりも外側に、いわゆるアルミ被などの金属製の遮水層を有していなくてもよい。つまり、本実施形態の電力ケーブル10は、非完全遮水構造により構成されていてもよい。
【0085】
(具体的寸法等)
電力ケーブル10における具体的な各寸法としては、特に限定されるものではないが、例えば、導体110の直径は5mm以上60mm以下であり、内部半導電層120の厚さは0.5mm以上3mm以下であり、絶縁層130の厚さは3mm以上35mm以下であり、外部半導電層140の厚さは0.5mm以上3mm以下であり、遮蔽層150の厚さは0.1mm以上5mm以下であり、シース160の厚さは1mm以上である。電力ケーブル10の外径は、例えば15mm以上170mm以下である。特に外部半導電層140の厚さは、外径変動をより抑制する観点からは0.5mm以上であってもよく、もしくは1mm以上であってもよい。本実施形態の電力ケーブル10に適用される交流電圧は、例えば20kV以上である。
【0086】
上述したように、絶縁層130の厚さが大きいほど、特に導体110の外径に対して絶縁層130の厚さの比率が高くなるほど、絶縁層130が形状変形しやすくなる。この点、本実施形態では、各せん断速度での粘度が所定範囲に調整された半導電性組成物を用いて外部半導電層140を形成しているので、絶縁層130の流動による垂れを抑制し、その形状を維持しやすい。そのため、導体110の外径に対して絶縁層130を厚く形成し、電力ケーブル10の外径を大きくした場合であっても、外径変動を抑制することができる。例えば、絶縁層130の厚さが4mm以上であって、導体110の外径に対する電力ケーブル10の外径の比率が4以下であっても、その外径変動を抑制することができる。外径変動をより確実に抑制する観点からは、絶縁層130の厚さは13mm以下であってもよい。また、導体110の外径に対する電力ケーブル10の外径の比率は4以下であってもよい。また、導体110の外径は、導体110の断面積で8mm2以上900mm2以下となるような範囲であってもよい。
【0087】
(3)ケーブル諸特性
本実施形態では、外部半導電層140を上述した半導電性組成物で形成することにより、以下のケーブル諸特性が確保されている。
【0088】
(外径の均一性)
本実施形態の電力ケーブル10は、絶縁層130の垂れが抑制されるため、断面および長手方向のそれぞれで外径の変動が少ない。
【0089】
断面での外径変動が少ないとは、電力ケーブル10の長手方向に垂直な断面において、その外周方向での外径の最大値と最小値との差が小さいことを示す。具体的には、断面における長径(外径の最大値)をA1、短径(外径の最小値)をB1としたとき、短径に対する長径の比率(A1/B1)が1.3以下であってもよく、1.25以下であってもよい。なお、比率の下限値は1である。
【0090】
長手方向での外径変動が少ないとは、電力ケーブル10の長手方向に離間する2点の断面において、2点間での外径の差が小さいことを示す。具体的には、長手方向に5m離間した2点の外径を比較したとき、一方の点における短径をA2、もう一方の点における長径をB2(A2<B2)としたとき、一方の点における短径A2に対するもう一方の点における長径B2の比率(B2/A2)は1.3以下であってもよく、1.25以下であってもよい。なお、比率の下限値は1である。
【0091】
(4)電力ケーブルの製造方法
次に、本実施形態の電力ケーブルの製造方法について説明する。以下、ステップを「S」と略す。
【0092】
(S100:被覆材料準備工程)
まず、内部半導電層120、絶縁層130および外部半導電層140を形成するための被覆材料を調製する。
【0093】
外部半導電層140を形成するための半導電性組成物は以下のように調製するとよい。
【0094】
まず、プロピレン系樹脂と、ゴム材料およびエラストマの少なくとも1つと、カーボンブラックと、必要に応じて、その他の添加剤(酸化防止剤等)と、を混合機により混合(混練)し、混合材を形成する。このとき、半導電性組成物において、高せん断速度および低せん断速度での粘度がそれぞれ所定範囲となるように、プロピレン系樹脂やゴム材料、エラストマ、カーボンブラックを所定の比率で混合する。あるいは、樹脂成分の融点や融解熱量が所定範囲となるようにプロピレン系樹脂やゴム材料、エラストマを混合するとともに、カーボンブラックの含有量を所望の半導電性を得られる範囲で適宜調整するとよい。なお、混合機としては、例えばオープンロール、バンバリーミキサ、加圧ニーダ、単軸混合機、多軸混合機等が挙げられる。
【0095】
混合材を形成したら、当該混合材を押出機により造粒する。これにより、外部半導電層140を形成することとなるペレット状の半導電性組成物が形成される。なお、混練作用の高い2軸型の押出機を用いて、混合から造粒までの工程を一括して行ってもよい。
【0096】
内部半導電層120を形成するための半導電性組成物は、従来公知のものを用いることができる。例えばプロピレン系樹脂とカーボンブラックとを含み、非架橋で使用できるものを用いることができる。また例えば、上述した外部半導電層140を形成するための半導電性組成物を用いてもよい。
【0097】
絶縁層130を形成するための樹脂組成物は特に限定されず、従来公知のものを用いることができる。例えば、プロピレン系樹脂を含むものを用いることができる。また例えば、上述したプロピレン系樹脂とゴム材料およびエラストマの少なくとも1つとを含むものを用いることができる。
【0098】
(S200:導体準備工程)
一方で、複数の導体芯線を撚り合わせることにより形成された導体110を準備する。
【0099】
(S300:ケーブルコア形成工程)
被覆材料準備工程S100および導体準備工程S200が完了したら、例えば、3層同時押出機を用いて、各被覆材料を、導体110の外周を所定の厚さで被覆するように押し出す。
【0100】
具体的には、3層同時押出機のうち、内部半導電層120を形成する押出機Aに、例えば、内部半導電層形成用の半導電性組成物を投入する。
【0101】
絶縁層130を形成する押出機Bに、絶縁層形成用の被覆材料として、ペレット状の樹脂組成物を投入する。なお、押出機Bの設定温度は、所望の融点よりも10℃以上50℃以下の温度だけ高い温度に設定する。線速および押出圧力に基づいて、設定温度を適宜調節してもよい。
【0102】
外部半導電層140を形成する押出機Cに、上述した半導電性組成物を投入する。
【0103】
次に、押出機A~Cからのそれぞれの押出物をコモンヘッドに導き、導体110の外周に、内側から外側に向けて、内部半導電層120、絶縁層130および外部半導電層140を同時に押出す。このとき、外部半導電層140を形成するための半導電性組成物は、高せん断速度での粘度が1000Pa・s以上5000Pa・s以下に調整されているので、均一な厚さで安定して押し出すことができる。これにより、ケーブルコアとなる押出材が形成される。
【0104】
その後、押出材を例えば水により冷却する。これにより、各被覆材料を固化させて、その形状を固定させる。
【0105】
本実施形態では、外部半導電層形成用の半導電性組成物は、低せん断速度での粘度が100000Pa・s以上1000000Pa・s以下に調整されているので、その内側に位置する絶縁層130を形成する被覆材料の流動(垂れ)を抑制することができる。そのため、各被覆材料を押し出した形状のまま固定させることができる。その結果、内部半導電層120、絶縁層130および外部半導電層140から形成される絶縁被覆の厚さを、押出材の断面の外手法鉱および長手方向のそれぞれで均一に形成することができる。
【0106】
以上のケーブルコア形成工程S300により、導体110、内部半導電層120、絶縁層130および外部半導電層140により構成されるケーブルコアが形成される。
【0107】
(S400:遮蔽層形成工程)
ケーブルコアを形成したら、外部半導電層140の外側に、例えば銅テープを巻回することにより遮蔽層150を形成する。
【0108】
(S500:シース形成工程)
遮蔽層150を形成したら、押出機に塩化ビニルを投入して押出すことにより、遮蔽層150の外周に、シース160を形成する。
【0109】
以上により、固体絶縁電力ケーブルとしての電力ケーブル10が製造される。
【0110】
(5)本実施形態のまとめ
本実施形態によれば、以下に示す1つ又は複数の効果を奏する。
【0111】
(a)本実施形態の半導電性組成物は、高せん断速度での粘度が1000Pa・s~5000Pa・sである。これにより、半導電性組成物を溶融させて押し出す際に、押出形状を維持しつつ、均一な厚さで安定して押し出すことができる。また、低せん断速度での粘度が100000Pa・s~1000000Pa・sである。これにより、絶縁層130を形成する被覆材料の外周上に半導電性組成物を押し出したときに、半導電性組成物で絶縁層130の被覆材料を押さえつけることができる。その結果、被覆材料の自重による垂れを抑制し、絶縁層130を押出形状に保持させることができる。つまり、絶縁層130を押し出した形状のまま固定させやすい。このように、本実施形態の半導電性組成物は、溶融させて押し出す際には適度な粘度を有することで、所望の押出成形性を得られる一方、押出後には比較的高い粘度を有することで、流動しにくく、押出形状を維持することができる。
【0112】
(b)本実施形態の電力ケーブル10において、上述した半導電性組成物を用いて外部半導電層140を形成することにより、電力ケーブル10の断面の外周方向とその長手方向のそれぞれで均一な外径とすることができる。つまり、電力ケーブル10において断面および長手方向で外径の変動を小さくすることができる。具体的には、電力ケーブル10の断面において、その外周方向で外径の最小値(短径)に対する外径の最大値(長径)の比率を1.3以下とすることができる。また、電力ケーブル10の長手方向に離間する2点の断面において、一方の点における短径に対するもう一方の点における長径の比率を1.3以下とすることができる。
【0113】
(c)半導電性組成物はプロピレン系樹脂とともにゴム材料およびエラストマの少なくとも一方を含むことで、溶融した状態から冷却させる過程でプロピレン系樹脂の過度な結晶成長を抑制することができる。これにより、外部半導電層140において、所望の導電性と柔軟性とを高い水準でバランスよく得ることができる。
【0114】
(d)半導電性組成物において、カーボンブラックの含有量は、樹脂成分100質量部に対して10質量部以上100質量部以下であってもよい。このような含有量とすることにより、半導電性組成物の各せん断速度での粘度を所定範囲により確実に調整しつつ、所定の半導電性を得ることができる。この結果、電力ケーブル10の外径変動をより確実に抑制できるとともに、電力ケーブル10において電界をより均一化させて部分放電を抑制することができる。
【0115】
(e)また半導電性組成物において、樹脂成分の融点は、ランダムPPを含む場合であれば140℃~150℃、ホモPPを含む場合であれば158℃~168℃であってもよい。また、樹脂成分の融解熱量は、ランダムPPを含む場合であれば60J/g~100J/g、ホモPPを含む場合であれば75J/g~110J/gであってもよい。半導電性組成物において、樹脂成分の融点および融解熱量の少なくとも1つが所定範囲を満たすことにより、プロピレン系樹脂、ゴム材料およびエラストマの添加比率を適切な範囲に設定することができ、高せん断速度および低せん断速度での粘度を上記範囲により確実に調整することができる。しかも、外部半導電層140において、より高い柔軟性を得ることができる。
【0116】
(f)また半導電性組成物によれば、低せん断速度での粘度が100000Pa・s以上であって比較的大きいため、導体110の外径に対して絶縁層130を厚く形成した場合であっても、絶縁層130の変形を抑制することができる。具体的には、外部半導電層140を厚さ0.5mm以上で形成することで、導体110の外径に対して電力ケーブル10の外径の比率が4以下となるように、導体110の外径に対して絶縁層130を厚く形成した場合であっても、外径変動を小さく抑制することができる。
【0117】
(g)また半導電性組成物によれば、電力ケーブル10の作製の際、縦型押出機を用いた場合に特に生じやすい長手方向での外径変動や、横型押出機を用いた場合に特に生じやすい断面の外周方向での外径変動をそれぞれ抑制することができる。
【0118】
(h)また電力ケーブル10において、半導電性組成物は低せん断速度での粘度が低いため、絶縁層130を形成する被覆材料の粘度が低くても、絶縁層130の形状を保持することができる。具体的には、絶縁層130を形成する被覆材料の低せん断速度での粘度が3000Pa・s以上の範囲であっても、絶縁層130の形状を保持することができる。
【0119】
<本開示の他の実施形態>
以上、本開示の実施形態について具体的に説明したが、本開示は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々変更可能である。
【0120】
上述の実施形態では、絶縁層としての樹脂組成物成形体は、メカニカル的に混合され押出成形されたものである場合について説明したが、樹脂組成物成形体は、重合され押出成形されたものであってもよい。
【0121】
上述の実施形態では、電力ケーブル10が遮水層を有していなくてもよい場合について説明したが、本開示はこの場合に限られない。電力ケーブル10は、上述の顕著な水トリー抑制効果を有していることで、簡易的な遮水層を有していてもよい。具体的には、簡易的な遮水層は、例えば、金属ラミネートテープからなる。金属ラミネートテープは、例えば、アルミまたは銅等からなる金属層と、金属層の片面または両面に設けられる接着層と、を有している。金属ラミネートテープは、例えば、ケーブルコアの外周(外部半導電層よりも外周)を囲むように縦添えにより巻き付けられる。なお、当該遮水層は、遮蔽層よりも外側に設けられていてもよいし、遮蔽層を兼ねていてもよい。このような構成により、電力ケーブル10のコストを削減することができる。
【0122】
上述の実施形態では、電力ケーブル10が陸上、水中または水底に布設されるよう構成される場合について説明したが、本開示はこの場合に限られない。例えば、電力ケーブル10は、いわゆる架空電線(架空絶縁電線)として構成されていてもよい。
【実施例】
【0123】
次に、本開示に係る実施例を説明する。これらの実施例は本開示の一例であって、本開示はこれらの実施例により限定されない。
【0124】
(1)材料
まず、半導電性組成物として、以下の表1に示す材料A~材料Dを準備した。材料A~材料Dの調製には、各成分として以下を用いた。
【0125】
プロピレン系樹脂としては、高せん断速度での粘度が100Pa・s以上6000Pa・s以下、低せん断速度での粘度が500Pa・s以上50000Pa・s以下、融点が140℃以上145℃以下、融解熱量が90J/g以上105J/g以下、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比率Mw/Mnが3.0以上8.0以下、Mnが60000~150000、Mwが210000~1000000の範囲内にあって互いに異なる複数種類のプロピレンランダム重合体を準備した。
【0126】
ゴム材料としては、高せん断速度での粘度が500Pa・s以上5000Pa・s以下、低せん断速度での粘度が10000Pa・s以上70000Pa・s以下、融点および融解熱量はなしであって互いに異なる複数種類のEPRやVLDPEを準備した。
【0127】
エラストマとしては、高せん断速度での粘度が1000Pa・s以上6000Pa・s以下、低せん断速度での粘度が5000Pa・s以上50000Pa・s以下、融点が30℃以上80℃以下、融解熱量が5J/g以上50J/g以下の範囲内にあって互いに異なる複数種類のスチレン系樹脂を準備した。
【0128】
カーボンブラックとしては、平均粒子径が10nmであるものを用いた。
【0129】
本実施例では、プロピレン系樹脂として、各物性値が上記範囲内にあるものを1種単独、または2種以上を併用するとともに、ゴム材料やエラストマとして、各物性値が上記範囲内にあるものを1種または2種以上を用いた。そして、各成分の比率を適宜変更するとともに、これら樹脂成分100質量部に対して、所定量のカーボンブラックを添加し、得られる半導電性組成物の各せん断速度での粘度が所定値となるように材料A~材料Dを調製した。ここでは、プロピレン系樹脂の添加比率を樹脂成分の50質量%以上となるように調整した。
【0130】
【0131】
なお、表1中、材料A~材料Dに含まれる樹脂成分の融点および融解熱量、材料A~材料Dの高せん断速度での粘度、および低せん断速度での粘度はそれぞれ以下のように測定した。
【0132】
(融点と融解熱量)
材料A~材料Dに含まれる樹脂成分の融点および融解熱量は、DSC測定により求めた。DSC測定は、JIS-K-7121(1987年)に準拠して行った。具体的には、DSC装置としては、パーキンエルマー社製DSC8500(入力補償型)を用いた。基準試料は例えばα-アルミナとした。測定試料の質量は、8~10gとした。DSC装置において、室温(27℃)から220℃まで10℃/分で昇温させた。これにより、温度に対する、単位時間当たりの吸熱量(熱流)をプロットすることで、DSC曲線を得た。
【0133】
このとき、各測定試料における単位時間当たりの吸熱量が極大(最も高いピーク)になる温度を「融点」とした。また、このとき、DSC曲線において、融解ピークとベースラインとで囲まれた領域の面積を求めることにより、「融解熱量」を求めた。
【0134】
(粘度)
材料A~材料Dの各せん断速度での粘度は、回転式レオメーター(アントンパール社製の「MCR302」)を用い、治具PP-12を使用して190℃で、せん断速度0.001s-1から1000s-1までせん断速度を変えて測定した。
【0135】
(2)電力ケーブのサンプルの作製
本実施例では、半導電性組成物としての材料A~材料Dとは別に、絶縁層形成用の樹脂組成物を別途調製した。具体的には、上述した半導電性組成物の調製に使用したプロピレン系樹脂、ゴム材料およびエラストマを適宜混合し、高せん断速度での粘度が1000Pa・s、低せん断速度での粘度が5000Pa・sの絶縁層形成用の組成物Aを調整した。また、各成分の混合比率を適宜変更し、高せん断速度での粘度が100Pa・s、低せん断速度での粘度が800Pa・sの絶縁層形成用の組成物Bを調整した。
【0136】
続いて、絶縁層形成用の組成物AおよびBと、半導電性組成物である材料A~材料Dを用いて電力ケーブルを模したサンプルを作製した。
【0137】
(サンプル1)
具体的には、下記表2に示すように、まず、断面積が200mm2(導体径が約16.0mm)の導体を準備した。導体を準備したら、内部半導電層形成用の被覆材料として上記で調製した材料Aと、絶縁層形成用の組成物Aと、外部半導電層形成用の被覆材料として上記で調製した材料Aと、をそれぞれ押出機A~Cに投入した。押出機A~Cからのそれぞれの押出物をコモンヘッドに導き、導体の外周に、内側から外側に向けて、内部半導電層、絶縁層および外部半導電層を同時に押出した。このとき、内部半導電層、絶縁層および外部半導電層の厚さを、それぞれ、0.5mm、9.0mm、0.5mmとし、絶縁被覆厚を10mmとした。その結果、中心から外周に向けて、導体、内部半導電層、絶縁層および外部半導電層を有する電力ケーブルのサンプル1(ケーブル外径が36mm)を製造した。なお、導体径をX、電力ケーブルの外径(ケーブル外径)をYとしたときの、導体径に対するケーブル外径の比率(Y/X)は、1.9とした。
【0138】
【0139】
(サンプル2~5)
サンプル2~5では、表2に示すように、半導電性組成物の種類を材料B~材料D、もしくは絶縁層形成用の組成物の種類を組成物Bに適宜変更した以外は、サンプル1と同様に電力ケーブルを作製し、サンプル2~5を得た。
【0140】
(3)評価
電力ケーブルとして作製したサンプル1~5について、電力ケーブルの断面での外径の均一性と長手方向での外径の均一性を評価した。
【0141】
断面での外径の均一性は以下により評価した。具体的には、電力ケーブルにおける長手方向の任意の1点を選択し、その断面における外周方向の外径を測定し、長径(最大値)と短径(最小値)とを求め、短径に対する長径の比率を算出した。この比率が小さいほど、断面における外径変動が少ないことを示す。
【0142】
長手方向での外径の均一性は以下により評価した。具体的には、電力ケーブルの長手方向に5m離間する2点を選択し、それぞれの点での長径および短径を測定し、一方の点における短径に対するもう一方の点における長径の比率を算出した。この比率が小さいほど、長手方向での外径変動が少ないことを示す。
【0143】
(4)評価結果
表2に示すように、サンプル1、2では、半導電性組成物として材料Aまたは材料Bを用いることで、断面および長手方向のそれぞれで外径の変動を小さくできることが確認された。これは、材料Aおよび材料Bにより絶縁層形成用の組成物Aの垂れを抑制でき、その形状を維持できたためと考えられる。
【0144】
また、サンプル3では、低せん断速度での粘度が過度に低い材料Cを用いたため、絶縁層形成用の組成物Aの垂れを抑制できず、電力ケーブルの外径変動を十分に抑制できないことが確認された。
【0145】
またサンプル4では、半導電性組成物として、高せん断速度での粘度が過度に高い材料Dを用いたため、押出成形性が悪く、半導電層として成形できないことが確認された。
【0146】
またサンプル5では、絶縁層形成用の組成物Aよりも低せん断速度での粘度が小さい組成物Bを用いたため、サンプル1と比較して電力ケーブルの外径変動が大きいことが確認された。
【0147】
<本開示の態様>
以下、本開示の態様を付記する。
【0148】
(付記1)
電力ケーブルにおける半導電層を形成するための半導電性組成物であって、
プロピレン系樹脂と、ゴム材料およびエラストマの少なくとも1つと、を含む樹脂成分と、
カーボンブラックと、を含み、
前記ゴム材料およびエラストマは、エチレン、プロピレン、ブチレン、ヘキセン、イソプレン、オクテンおよびスチレンのうち少なくとも2つの単位を有し、
温度190℃、せん断速度100s-1における高せん断速度での粘度が1000Pa・s以上5000Pa・s以下、温度190℃、せん断速度1s-1における低せん断速度での粘度が100000Pa・s以上1000000Pa・s以下である、
半導電性組成物。
【0149】
(付記2)
導体と、
前記導体の外周に被覆され、樹脂組成物から形成される絶縁層と、
前記絶縁層の外周に被覆され、半導電性組成物から形成される外部半導電層と、を備え、
前記半導電性組成物は、
プロピレン系樹脂と、ゴム材料およびエラストマの少なくとも1つと、を含む樹脂成分と、
カーボンブラックと、を含み、
前記ゴム材料およびエラストマは、エチレン、プロピレン、ブチレン、ヘキセン、イソプレン、オクテンおよびスチレンのうち少なくとも2つの単位を有し、
温度190℃、せん断速度100s-1における高せん断速度での粘度が1000Pa・s以上5000Pa・s以下、温度190℃、せん断速度1s-1における低せん断速度での粘度が100000Pa・s以上1000000Pa・s以下である、
電力ケーブル。
【0150】
(付記3)
前記カーボンブラックの含有量が、前記樹脂成分100質量部に対して10質量部以上100質量部以下である、
付記2に記載の電力ケーブル。
【0151】
(付記4)
前記樹脂成分の融解熱量は、55J/g以上90J/g以下である、
付記2または付記3に記載の電力ケーブル。
【0152】
(付記5)
前記樹脂成分の融点は、140℃以上170℃以下である、
付記2~4のいずれか1つに記載の電力ケーブル。
【0153】
(付記6)
長手方向に垂直な断面において、短径に対する長径の比率が1.3以下である、
付記2~5のいずれか1つに記載の電力ケーブル。
【0154】
(付記7)
長手方向に離間する2点の断面において、一方の点における短径に対するもう一方の点における長径の比率が1.3以下である、
付記2~6のいずれか1つに記載の電力ケーブル。
【0155】
(付記8)
前記外部半導電層の厚さは0.5mm以上であって、前記導体の外径に対する前記電力ケーブルの外径の比率が4以下である、
付記2~7のいずれか1つに記載の電力ケーブル。
【0156】
(付記9)
前記プロピレン系樹脂は、前記高せん断速度での粘度が100Pa・s以上6000Pa・s以下、前記低せん断速度での粘度が500Pa・s~50000Pa・s以下である、
付記2~8のいずれか1つに記載の電力ケーブル。
【0157】
(付記10)
前記プロピレン系樹脂は、融点が140℃以上150℃以下、融解熱量が90J/g以上105J/g以下である、
付記2~9のいずれか1つに記載の電力ケーブル。
【0158】
(付記11)
前記ゴム材料およびエラストマは、前記高せん断速度での粘度が300Pa・s以上7000Pa・s以下、前記低せん断速度での粘度が4000Pa・s以上80000Pa・s以下である、
付記2~10のいずれか1つに記載の電力ケーブル。
【0159】
(付記12)
前記ゴム材料は融点を持たない、もしくは融点が100℃以下である、
付記2~11のいずれか1つに記載の電力ケーブル。
【0160】
(付記13)
前記ゴム材料は、融解熱量が50J/g以下である、
付記2~12のいずれか1つに記載の電力ケーブル。
【符号の説明】
【0161】
10 電力ケーブル
110 導体
120 内部半導電層
130 絶縁層
140 外部半導電層
150 遮蔽層
160 シース