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  • 特許-樹脂組成物および電力ケーブル 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】樹脂組成物および電力ケーブル
(51)【国際特許分類】
   H01B 9/00 20060101AFI20241106BHJP
   C08L 23/02 20060101ALI20241106BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20241106BHJP
   C08L 23/10 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
H01B9/00 A
C08L23/02
C08L101/00
C08L23/10
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023563983
(86)(22)【出願日】2023-04-20
(86)【国際出願番号】 JP2023015740
(87)【国際公開番号】W WO2024042775
(87)【国際公開日】2024-02-29
【審査請求日】2023-10-18
(31)【優先権主張番号】P 2022134932
(32)【優先日】2022-08-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100187643
【弁理士】
【氏名又は名称】白鳥 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 智
【審査官】渡辺 陽子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-073678(JP,A)
【文献】特開昭62-179545(JP,A)
【文献】特表2001-511582(JP,A)
【文献】特表2018-514051(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
H01B7、9
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体と、
前記導体の外周に被覆され、樹脂組成物から形成される絶縁層と、を備え、
前記樹脂組成物は、
プロピレン系樹脂とゴム材料とエラストマと、を混合した状態で含み、
前記プロピレン系樹脂は、融点が160℃以上175℃以下のプロピレン単独重合体および融点が140℃以上150℃以下のプロピレンランダム重合体の少なくとも1つであり、
前記ゴム材料は、エチレン、プロピレン、ブテン、ヘキセンおよびオクテンのうち少なくともいずれか2つを共重合した共重合体であって、融点を持たず、
前記エラストマは、ハードセグメントとしてスチレンを、ソフトセグメントとして、エチレン、プロピレン、ブテンおよびイソプレンの少なくとも1つを含むスチレン系熱可塑性エラストマであって、融点を持たない、もしくは融点が100℃以下であり、
温度190℃、せん断速度100s-1における高せん断速度での粘度が200Pa・s以上5000Pa・s以下、温度190℃、せん断速度1s-1における低せん断速度での粘度が7000Pa・s以上50000Pa・s以下であり、
前記樹脂組成物の融点は、前記プロピレン系樹脂が前記プロピレン単独重合体である場合に158℃以上168℃以下であり、前記プロピレン系樹脂が前記プロピレンランダム重合体である場合に140℃以上150℃以下であり、
弾性率が150MPa以上700MPa以下である、
電力ケーブル。
【請求項2】
前記樹脂組成物の融解熱量は、60J/g以上100J/g以下である、
請求項1に記載の電力ケーブル。
【請求項3】
前記プロピレン系樹脂は、前記高せん断速度での粘度が100Pa・s以上6000Pa・s以下、前記低せん断速度での粘度が500Pa・s以上50000Pa・s以下である、
請求項1又は請求項2に記載の電力ケーブル。
【請求項4】
前記ゴム材料およびエラストマは、前記高せん断速度での粘度が300Pa・s以上7000Pa・s以下、前記低せん断速度での粘度が4000Pa・s以上80000Pa・s以下である、
請求項1又は請求項2に記載の電力ケーブル。
【請求項5】
長手方向に垂直な断面において、短径に対する長径の比率が1.3以下である、
請求項1又は請求項2に記載の電力ケーブル。
【請求項6】
長手方向に離間する2点の断面において、一方の点における短径に対するもう一方の点における長径の比率が1.3以下である、
請求項1又は請求項2に記載の電力ケーブル。
【請求項7】
前記絶縁層の厚さは4mm以上であって、前記導体の外径に対する前記電力ケーブルの外径の比率が4以下である、
請求項1又は請求項2に記載の電力ケーブル。
【請求項8】
前記プロピレン系樹脂が前記樹脂組成物の50質量%以上である、
請求項1又は請求項2に記載の電力ケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2022年8月26日出願の日本国出願「特願2022-134932」に基づく優先権を主張し、前記日本出願に記載された全ての記載内容を援用するものである。
【0002】
本開示は、樹脂組成物および電力ケーブルに関する。
【背景技術】
【0003】
架橋ポリエチレンは絶縁性に優れることから、電力ケーブルなどにおいて、絶縁層を構成する樹脂成分として広く用いられてきた(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭57-69611号公報
【発明の概要】
【0005】
本発明の一態様によれば、
プロピレン系樹脂と、
ゴム材料およびエラストマの少なくとも1つと、を含み、
前記ゴム材料およびエラストマは、エチレン、プロピレン、ブチレン、ヘキセン、イソプレン、オクテンおよびスチレンのうち少なくとも2つの単位を有し、
温度190℃、せん断速度100s-1における高せん断速度での粘度が200Pa・s以上5000Pa・s以下、温度190℃、せん断速度1s-1における低せん断速度での粘度が7000Pa・s以上50000Pa・s以下であり、
弾性率が150MPa以上700MPa以下である、
樹脂組成物である。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1図1は、本開示の一実施形態に係る直流電力ケーブルの軸方向に直交する模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
(本開示が解決しようとする課題)
経年劣化した架橋ポリエチレンは、リサイクルできず、焼却するしかなかった。このため、環境への影響が懸念されていた。
【0008】
そこで、近年では、絶縁層を構成する樹脂成分として、プロピレンを含む樹脂(以下、「プロピレン系樹脂」ともいう)が注目されている。プロピレン系樹脂は非架橋であっても、電力ケーブルとして求められる絶縁性を満たすことができる。すなわち、絶縁性とリサイクル性とを両立することができる。さらに、プロピレン系樹脂を用いることで、取り扱い性、加工性、および製造容易性を向上させることができる。
【0009】
ただし、発明者等は、絶縁層を構成する樹脂成分としてプロピレン系樹脂を用いた検討を行ったところ、絶縁層の外径が電力ケーブルの断面および長手方向で不均一となりやすいことが確認された。これは、溶融させた樹脂成分を絶縁層として押出し冷却させるまでの間に樹脂成分が自重により垂れてしまい、所望の形状を維持固定できないためである。
【0010】
本開示の目的は、プロピレン系樹脂を含む樹脂組成物を使用したときに電力ケーブルの外径の均一性を向上させる技術を提供することである。
【0011】
(本開示の効果)
本開示によれば、プロピレン系樹脂を含む樹脂組成物を使用したときに電力ケーブルの外径の均一性を向上させることができる。
【0012】
<本開示の実施形態の説明>
(発明者等の得た知見)
まず、発明者等の得た知見について概略を説明する。
【0013】
上述した樹脂成分の垂れによる外径の不均一さは、架橋ポリエチレンよりもプロピレン系樹脂の場合により顕著に生じる。
【0014】
絶縁層を架橋ポリエチレンで形成する場合、ポリエチレンおよび架橋剤を含む樹脂成分を絶縁層として押出した後、例えば架橋管にケーブルを導入し、高温環境下で樹脂成分を加熱させて架橋させる。架橋後、ケーブルを例えば冷却槽などに導入し絶縁層などを冷却させる。この場合、架橋過程で樹脂成分の粘度が高くなるため、絶縁層の形状が維持されやすく、冷却によりその形状を固定させることができる。つまり、架橋により、樹脂成分の垂れ、それに伴う電力ケーブルの外径変動を抑制することができる。
【0015】
これに対して、絶縁層をプロピレン系樹脂で形成する場合、架橋処理を行わないため、樹脂成分を押し出した後、冷却を行うことになる。このとき、絶縁層の表面側から内部へと徐々に冷却させることになる。そのため、絶縁層の表面側は冷却により形状が固定される一方で、内部が高温で溶融流動可能な状態が生じうる。しかも、架橋処理を行わないため樹脂成分の粘度を上昇させることができない。この結果、絶縁層の内部が冷却して形状が固定するまでの間に、絶縁層を構成する樹脂成分が自重によって垂れてしまうことがある。この垂れにともない、絶縁層は電力ケーブルの断面においてその外周方向で厚さが不均一となり、また電力ケーブルの長手方向でも厚さが不均一となることがある。例えば横型押出機で水平方向に電力ケーブルを搬送する場合であれば、電力ケーブルの断面で下側方向に樹脂成分が垂れやすく、縦型押出機で垂直方向に搬送する場合であれば、電力ケーブルの長手方向の下側に垂れやすいことがある。絶縁層の厚さが断面の外周方向や長手方向で不均一となると、絶縁性が局所的に低くなる箇所が生じ、所望の絶縁性を実現できないことがある。
【0016】
樹脂成分の垂れは、絶縁層の厚さが大きくなるほど、また導体の外径に対して絶縁層の厚さの比率が大きくなるほど、より顕著に生じるため、電力ケーブルの外径の均一性がより低下しやすくなる。
【0017】
本発明者等は上述した課題を解決すべく、プロピレン系樹脂を含む樹脂組成物について溶融させたときの粘度に着目し、検討を行った。
【0018】
一般的に、樹脂成分はせん断速度によって粘度が大きく変動し、高せん断速度では低粘度、低せん断速度では高粘度となる傾向がある。電力ケーブルの作製においては、樹脂組成物を溶融混練して押し出す段階ではせん断速度が高く、樹脂組成物の粘度は低くなる傾向がある。一方、樹脂組成物の押出後、冷却させるまでの段階ではせん断速度が低く、樹脂組成物の粘度が高くなる傾向がある。
【0019】
このことから、本発明者等は、樹脂組成物について高せん断速度および低せん断速度それぞれでの粘度を検討したところ、各粘度が所定範囲となるように樹脂組成物を構成することで、押出性と冷却して形状を固定するまでの間の垂れの抑制とを両立できることを見出した。このような樹脂組成物によれば、電力ケーブルの外径の均一性を向上できることを見出した。
【0020】
また、電力ケーブルには所定の絶縁性が要求され、これを満たす観点からは樹脂組成物において上述の各せん断速度での粘度とともに弾性率を所定範囲に調整するとよいことを見出した。
【0021】
本開示は、上記知見に基づいて成されたものである。
【0022】
(本開示の実施形態)
次に、本開示の実施態様を列記して説明する。
【0023】
[1]本開示の一態様に係る樹脂組成物は、
プロピレン系樹脂と、
ゴム材料およびエラストマの少なくとも1つと、を含み、
前記ゴム材料およびエラストマは、エチレン、プロピレン、ブチレン、ヘキセン、イソプレン、オクテンおよびスチレンのうち少なくとも2つの単位を有し、
温度190℃、せん断速度100s-1における高せん断速度での粘度が200Pa・s以上5000Pa・s以下、温度190℃、せん断速度1s-1における低せん断速度での粘度が7000Pa・s以上50000Pa・s以下であり、
弾性率が150MPa以上700MPa以下である。
この構成によれば、樹脂組成物を均一な厚さで安定して押し出せるとともに、溶融した状態での形状変形を抑制することができる。
【0024】
[2]本開示の他の態様に係る電力ケーブルは、
導体と、
前記導体の外周に被覆され、樹脂組成物から形成される絶縁層と、を備え、
前記樹脂組成物は、
プロピレン系樹脂と、
ゴム材料およびエラストマの少なくとも1つと、を含み、
前記ゴム材料およびエラストマは、エチレン、プロピレン、ブチレン、ヘキセン、イソプレン、オクテンおよびスチレンのうち少なくとも2つの単位を有し、
前記樹脂組成物の温度190℃、せん断速度100s-1における高せん断速度での粘度が200Pa・s以上5000Pa・s以下、温度190℃、せん断速度1s-1における低せん断速度での粘度が7000Pa・s以上50000Pa・s以下であり、
弾性率が150MPa以上700MPa以下である。
この構成によれば、電力ケーブルの断面の外周方向と長手方向のそれぞれでの外径変動を抑制することができる。
【0025】
[3]上記[2]に記載の電力ケーブルにおいて、
前記樹脂組成物の融解熱量は、60J/g以上100J/g以下である。
この構成によれば、外径変動をより確実に抑制することができる。
【0026】
[4]上記[2]または[3]に記載の電力ケーブルにおいて、
前記樹脂組成物の融点は、140℃以上150℃以下である。
この構成によれば、外径変動をより確実に抑制することができる。
【0027】
[5]上記[2]~[4]のいずれか1つに記載の電力ケーブルにおいて、
前記プロピレン系樹脂は、前記高せん断速度での粘度が100Pa・s以上6000Pa・s以下、前記低せん断速度での粘度が500Pa・s~50000Pa・s以下である。
この構成によれば、外径変動をより確実に抑制することができる。
【0028】
[6]上記[2]~[5]のいずれか1つに記載の電力ケーブルにおいて、
前記ゴム材料およびエラストマは、前記高せん断速度での粘度が300Pa・s以上7000Pa・s以下、前記低せん断速度での粘度が4000Pa・s以上80000Pa・s以下である。
この構成によれば、外径変動をより確実に抑制することができる。
【0029】
[7]上記[2]~[6]のいずれか1つに記載の電力ケーブルにおいて、
長手方向に垂直な断面において、短径に対する長径の比率が1.3以下である。
この構成によれば、外径変動をより確実に抑制することができる。
【0030】
[8]上記[2]~[7]のいずれか1つに記載の電力ケーブルにおいて、
長手方向に離間する2点の断面において、一方の点における短径に対するもう一方の点における長径の比率が1.3以下である。
この構成によれば、外径変動をより確実に抑制することができる。
【0031】
[9]上記[2]~[8]のいずれか1つに記載の電力ケーブルにおいて、
前記絶縁層の厚さは4mm以上であって、前記導体の外径に対する前記電力ケーブルの外径の比率が4以下である。
この構成によれば、絶縁層を厚く形成した場合であっても、外径変動をより確実に抑制することができる。
【0032】
(本開示の実施形態の詳細)
次に、本開示の一実施形態を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0033】
(本開示の一実施形態)
(1)樹脂組成物
本実施形態の樹脂組成物は、プロピレン系樹脂とゴム材料およびエラストマの少なくとも1つとを含み、これら成分の混合により樹脂組成物の高せん断速度および低せん断速度での粘度と弾性率とが所定範囲となるように調整されている。具体的には、樹脂組成物の粘度として、温度190℃、せん断速度100s-1における高せん断速度での粘度が200Pa・s以上5000Pa・s以下、温度190℃、せん断速度1s-1における低せん断速度での粘度が7000Pa・s以上50000Pa・s以下となるように構成されている。また、樹脂組成物の弾性率が150MPa以上700MPa以下となるように構成されている。
【0034】
以下、樹脂組成物の構成成分、その組成、および樹脂組成物の粘度や弾性率などの物性値について詳述する。
【0035】
(1-1)プロピレン系樹脂
プロピレン系樹脂は、樹脂組成物のベースポリマである。プロピレン系樹脂としては、例えば、プロピレン単独重合体(以下、ホモPPともいう)やプロピレンランダム重合体(以下、ランダムPPともいう)などが挙げられる。ホモPPはプロピレン単位を含み、ランダムPPはプロピレン単位とエチレン単位とを有する。絶縁層においてより高い絶縁性を得る観点からは、プロピレン系樹脂はランダムPPであってもよい。ランダムPPは、エチレン単位を含むため、ホモPPと比較して結晶量が低くなるものの、冷却の際に粗大結晶を生成しにくく、粗大結晶による割れに起因する絶縁性の低下を抑制することができる。つまり、ランダムPPは、ホモPPと比較して高い絶縁性を得ることができる。
【0036】
ランダムPPにおけるエチレン単位の含有量は、例えば、0.5質量%以上15質量%以下であるとよい。エチレン単位の含有量を0.5質量%以上とすることで、粗大結晶の生成を抑制しやすく、絶縁性を高く維持することができる。一方で、エチレン単位の含有量を15質量%以下とすることで、融点の低下を抑制し、非架橋または微架橋での使用を安定的に実現することができる。
【0037】
なお、プロピレン系樹脂の立体規則性としてはアイソタクチック、シンジオタクチックおよびアタクチックなどが挙げられる。立体規則性は特に限定されないが、アイソタクチックであってもよい。立体規則性がアイソタクチックであることにより、樹脂組成物において、融点の低下を抑制することができる。その結果、非架橋または微架橋での使用を安定的に実現することができる。
【0038】
プロピレン系樹脂の高せん断速度および低せん断速度での粘度は、特に限定されない。高せん断速度での粘度は100Pa・s以上6000Pa・s以下であってもよい。低せん断速度での粘度は500Pa・s以上50000Pa・s以下であってもよい。このような粘度を有することで、樹脂組成物において所定の粘度に調整しやすい。樹脂組成物のベースポリマであるプロピレン系樹脂の粘度を上記範囲とすることにより、エラストマなどと混合して樹脂組成物を調製したときに、樹脂組成物における各粘度を上記範囲により確実に調整することが可能となる。
【0039】
なお、プロピレン系樹脂としては、高せん断速度や低せん断速度での粘度が所定範囲となるものを1種単独で使用してもよく、粘度が異なる2種以上を併用してもよい。樹脂組成物での粘度を所定範囲に調整する観点からは2種以上を併用してもよい。
【0040】
また、プロピレン系樹脂の弾性率は、樹脂組成物の弾性率を所定範囲に調整する観点からは600MPa以上1200MPa以下であるとよい。ここで弾性率は、動的粘弾性測定(DMA:Dynamic Mechanical. Analysis)により測定される25℃での貯蔵弾性率を示す。具体的には、対象の樹脂試料に対して0.08%の伸縮を加えた状態(振幅が0.08%である伸縮振動を印加した状態)で、-50℃から100℃まで昇温させながら、樹脂試料の貯蔵弾性率を測定する。このとき、測定周波数を10Hzとする。また、昇温速度を10℃/minとする。そして、25℃での貯蔵弾性率を求める。
【0041】
また、後述するように、プロピレン系樹脂などの樹脂成分は、例えば融点や融解熱量、分子量などの物性値によって、取り得る粘度カーブが異なる。本実施形態において、樹脂組成物の粘度を所定範囲に調整する観点からは、プロピレン系樹脂の各物性値を以下のように設定することができる。
【0042】
プロピレン系樹脂の融点は特に限定されないが、プロピレン単独重合体(ホモPP)であれば160℃以上175℃以下であってもよく、プロピレンランダム重合体(ランダムPP)であれば140℃以上150℃以下であってもよい。このようなプロピレン系樹脂によれば、樹脂組成物の粘度を所定範囲に調整しやすい。しかも、樹脂組成物の融点を高くして、絶縁層の耐熱温度を向上することができる。これにより、絶縁層が非架橋の場合であっても、高温環境下で高い絶縁性を安定して維持することができる。
【0043】
プロピレン系樹脂の融解熱量は特に限定されないが、ホモPPであれば100J/g以上120J/g以下であってもよく、もしくはランダムPPであれば90J/g以上105J/g以下であってもよい。このようなプロピレン系樹脂によれば、樹脂組成物の粘度を所定範囲に調整しやすく、また絶縁層の耐熱温度を向上させて絶縁層の高温環境下での高い絶縁性を安定して維持させることができる。
【0044】
なお、本明細書において融点および融解熱量は以下のように測定される。
まず、試料について、例えばJIS-K-7121(1987年)に準拠して示差走査熱量測定(DSC:Differential Scanning Calorimetry)を行う。具体的には、DSC装置において、室温(常温、例えば27℃)から220℃まで10℃/分で昇温させる。これにより、温度に対する、単位時間当たりの吸熱量(熱流)をプロットすることで、DSC曲線が得られる。このとき、試料における単位時間当たりの吸熱量が極大(ピーク)になる温度を「融点(融解ピーク温度)」とする。また、このとき、試料の吸熱が全て樹脂成分によって行われると仮定し、室温から220℃までの試料の吸熱量(J)を試料中の樹脂成分全体の質量(g)で除した値(J/g)を「融解熱量」とする。なお、試料の融解熱量と完全結晶体の融解熱量の理論値とに基づいて、試料の結晶化度(%)を求めることができる。
【0045】
プロピレン系樹脂は所定の分子量分布を有しており、分子量分布の幅が広くなるほど、つまり、分子量分布における重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比率が大きくなるほど、高せん断速度での粘度と低せん断速度での粘度との差が大きくなる傾向がある。プロピレン系樹脂の各せん断速度での粘度を上記範囲内に満たす観点からは、Mw/Mnが3.0以上8.0以下であってもよく、もしくは3.5以上7.0以下であってもよい。また、数平均分子量Mnは例えば60000以上150000以下であってもよい。また、重量平均分子量Mwは例えば210000以上1000000以下であってもよい。
【0046】
(1-2)ゴム材料・エラストマ
ゴム材料やエラストマは、樹脂組成物においてプロピレン系樹脂の結晶成長を制御し、絶縁層に柔軟性を付与する。ゴム材料やエラストマは、プロピレン系樹脂との混合により樹脂組成物の各せん断速度での粘度を変動させるおそれがあるが、所定の粘度範囲となるように混合することで、絶縁層に所定の柔軟性を付与することができる。本実施形態のゴム材料又はエラストマは、エチレン、プロピレン、ブテン、ヘキセン、イソプレン、オクテンおよびスチレンのうち少なくとも2つを含む。
【0047】
ゴム材料やエラストマの高せん断速度および低せん断速度での粘度は、特に限定されない。高せん断速度での粘度は300Pa・s以上7000Pa・s以下であってもよい。また、低せん断速度での粘度は4000Pa・s以上80000Pa・s以下であってもよい。もしくは、ゴム材料について、高せん断速度での粘度は500Pa・s以上5000Pa・s以下であってもよく、低せん断速度での粘度は10000Pa・s以上70000Pa・s以下であってもよい。エラストマについて、高せん断速度での粘度は1000Pa・s以上6000Pa・s以下であってもよく、低せん断速度での粘度は5000Pa・s以上50000Pa・s以下であってもよい。このような粘度を有するゴム材料又はエラストマによれば、プロピレン系樹脂と混合したときに樹脂組成物の各粘度を所望の範囲に調整しやすくできる。
【0048】
ゴム材料やエラストマの融点は特に限定されない。ゴム材料は、一般的にDSC測定で吸熱量のピークが検出されないため、融点を持たない。エラストマは融点を持たなくてもよく、融点を持つとしても、その融点は100℃以下であってもよい。
【0049】
ゴム材料やエラストマの融解熱量は特に限定されない。ゴム材料の融解熱量は、融点を測定できないため、なしとなる。エラストマの融解熱量は、50J/g以下であってもよく、30J/g以下であってもよい。
【0050】
ゴム材料やエラストマの弾性率(25℃)は特に限定されないが、樹脂組成物の弾性率を所定範囲に調整する観点からは、1MPa以上200MPa以下であってもよい。なお、ゴム材料やエラストマは、スチレンの有無により弾性率が大きく変動することがある。具体的には、スチレンを含まない場合は分子量が高くなるほど弾性率が高くなる傾向があり、スチレンを含む場合は分子量が高くなるほど弾性率が低くなる傾向がある。
【0051】
ゴム材料やエラストマの分子量分布は、プロピレン系樹脂と同様、各せん断速度での粘度を変動させることがある。ゴム材料やエラストマにおいて各せん断速度での粘度範囲を満たす観点からはMw/Mnが1.0以上3.0以下であってもよく、もしくは1.0以上2.5以下であってもよい。また、数平均分子量Mnは例えば70000以上250000以下であってもよい。また、重量平均分子量Mwは例えば70000以上600000以下であってもよい。
【0052】
具体的には、ゴム材料としては、エチレン、プロピレン、ブテン、ヘキセンおよびオクテンのうち少なくともいずれか2つを共重合した共重合体を用いてもよい。
【0053】
ゴム材料は、プロピレン系樹脂との相溶性の観点から、プロピレンを含む共重合体であってもよい。プロピレンを含む共重合体としては、例えば、エチレンプロピレンゴム(EPR:Ethylene Propylene Rubber)を用いることができる。
【0054】
EPRのエチレン含有量は、例えば、20質量%以上であってもよく、40質量%以上であってもよく、55質量%以上であってもよい。エチレン含有量が20質量%未満であると、プロピレン系樹脂の結晶化を十分に制御できず、絶縁性が低下する可能性がある。これに対し、エチレン含有量を20質量%以上とすることで、EPRによる柔軟化効果を得つつ、EPRによるプロピレン系樹脂の結晶化を十分に制御することができる。その結果、絶縁性の低下を抑制することができる。さらに、エチレン含有量を40質量%以上としてもよく、55質量%以上としてもよい。これにより結晶化をより安定して制御することができ、絶縁性の低下を安定的に抑制することができる。
【0055】
一方、ゴム材料は、例えば、プロピレンを含まない共重合体であってもよい。プロピレンを含まない共重合体としては、例えば、容易入手性の観点から、超低密度ポリエチレン(VLDPE: Very Low Density Polyethylene)などを用いることができる。VLDPEとしては、例えば、エチレンおよび1-ブテンにより構成されるPE、エチレンおよび1-オクテンにより構成されるPEなどが挙げられる。プロピレンを含まない共重合体によれば、プロピレン系樹脂の結晶化を安定して制御することができる。なお、VLDPEの密度は、例えば、0.855g/cm以上0.890g/cm以下である。
【0056】
また、エラストマとしては、例えばハードセグメントとしてスチレンを、ソフトセグメントとして、エチレン、プロピレン、ブテンおよびイソプレンなどの少なくとも1つを含むスチレン系熱可塑性エラストマを用いることができる。スチレン系熱可塑性エラストマは、ゴム材料と同様、樹脂組成物に分散してプロピレン系樹脂の結晶成長を制御し絶縁層に柔軟性を付与したり、樹脂組成物の各粘度の調整に寄与したりする成分である。さらにスチレン系熱可塑性エラストマは、芳香環により電子をトラップして安定的な共鳴構造を形成したり、エラストマとして絶縁層における機械的なストレスクラックの発生を抑制したりすることで、絶縁層の水トリー耐性の向上にも寄与する。
【0057】
スチレン系熱可塑性エラストマとしては、例えば、スチレンブタジエンスチレンブロック共重合体(SBS)、水素化スチレンブタジエンスチレンブロック共重合体、スチレンイソプレンスチレン共重合体(SIS)、水素化スチレンイソプレンスチレン共重合体、水素化スチレンブタジエンラバー、水素化スチレンイソプレンラバー、スチレンエチレンブチレンオレフィン結晶ブロック共重合体などが挙げられる。これらのうち2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0058】
なお、ここでいう「水素化」とは、二重結合に水素を添加したことを意味する。例えば、「水素化スチレンブタジエンスチレンブロック共重合体」とは、スチレンブタジエンスチレンブロック共重合体の二重結合に水素を添加したポリマを意味する。なお、スチレンが有する芳香環の二重結合には水素が添加されていない。「水素化スチレンブタジエンスチレンブロック共重合体」は、スチレンエチレンブチレンスチレンブロック共重合体(SEBS)と言い換えることができる。
【0059】
スチレン系熱可塑性エラストマとしては、化学構造中に二重結合を含まない物であってもよい。二重結合を有する物を用いた場合、樹脂組成物の成形時などで樹脂成分が熱劣化することがあり、得られる絶縁層の特性を低下させることがある。この点、二重結合を含まない物によれば、熱劣化の耐性が高いので、絶縁層の特性をより高く維持することができる。
【0060】
スチレン系熱可塑性エラストマにおけるスチレン含量は、特に限定されないが、プロピレン系樹脂の結晶成長の制御、および絶縁層の柔軟化という観点からは、5質量%以上35質量%以下であってもよい。
【0061】
(1-3)その他の添加剤
樹脂組成物は、上述の樹脂成分のほかに、例えば、酸化防止剤、銅害防止剤、滑剤および着色剤を含んでいてもよい。
【0062】
ただし、樹脂組成物は、例えば、プロピレンの結晶を生成する核剤として機能する添加剤の含有量が少なくてもよく、このような添加剤を実質的に含まなくてもよい。具体的には、核剤として機能する添加剤の含有量は、例えば、プロピレン系樹脂と、ゴム材料およびエラストマの少なくとも1つとを含む樹脂成分の合計を100質量部としたときに、1質量部未満であってもよく、0質量部であってもよい。これにより、核剤を起因とした想定外の異常な結晶化の発生を抑制し、結晶量を容易に制御することができる。
【0063】
樹脂組成物は、無機充填剤を含んでもよいが、高せん断速度および低せん断速度での粘度を所定範囲に調整する観点からは添加量が少なくてもよく、無添加であってもよい。
【0064】
(1-4)樹脂組成物の粘度
樹脂組成物は、上述したプロピレン系樹脂とゴム材料およびエラストマの少なくとも1つとを混合して形成され、これら成分の混合により、樹脂組成物の温度190℃、せん断速度100s-1における高せん断速度での粘度が200Pa・s以上5000Pa・s以下、温度190℃、せん断速度1s-1における低せん断速度での粘度が7000Pa・s以上50000Pa・s以下となる。
【0065】
プロピレン系樹脂、ゴム材料およびエラストマはそれぞれ固有の粘度カーブを有する。粘度カーブとは、横軸がせん断速度、縦軸が粘度を示し、せん断速度が大きくなるにしたがい粘度が小さくなる右肩下がりのカーブである。この粘度カーブは、樹脂成分の分子量や分子量分布、融点、融解熱量などに応じてそれぞれ固有の形状となる。プロピレン系樹脂、ゴム材料およびエラストマなどの種類が異なる場合だけでなく、同じプロピレン系樹脂でも分子量分布や融点など物性値が異なる場合でも、粘度カーブも異なることになる。粘度カーブの違いから、粘度カーブの傾きや、高せん断速度や低せん断速度で取り得る粘度範囲などが異なる。本実施形態では、粘度カーブの異なるプロピレン系樹脂、ゴム材料およびエラストマを混合することで、樹脂組成物において各せん断速度での粘度が所定範囲となるように調整している。
【0066】
樹脂組成物において、高せん断速度での粘度が200Pa・s未満となると、溶融させた樹脂組成物を押出したときに形状を維持できず、絶縁層として成形できないことがある。一方、高せん断速度での粘度が5000Pa・sを超えると、樹脂組成物の押し出す際の圧力が高くなり、押出量が安定しないため、樹脂組成物を均一な厚さで押し出すことができないことがある。この点、高せん断速度での粘度を200Pa・s~5000Pa・sの範囲内に調整することで、溶融させた樹脂組成物を、形状を維持しつつ、また均一な厚さで押し出すことが可能となる。高せん断速度での粘度は、800Pa・s~3000Pa・sであってもよい。
【0067】
低せん断速度での粘度が7000Pa・s未満となると、押出した樹脂組成物が自重により垂れやすくなるため、絶縁層の厚さが不均一となり、電力ケーブルの外径も不均一となる。一方、低せん断速度での粘度が50000Pa・sを超えると、それにともない高せん断速度での粘度も高くなるため、上述したように樹脂組成物の押出量が不安定となり、絶縁層を均一な厚さで形成できないことがある。この点、低せん断速度での粘度を7000Pa・s~50000Pa・sの範囲内に調整することで、押出した樹脂組成物の垂れを抑制し、電力ケーブルの外径の均一性を高めることができる。低せん断速度での粘度は、10000Pa・s~30000Pa・sであってもよい。
【0068】
高せん断速度での粘度と低せん断速度での粘度との比率は、特に限定されないが、高せん断速度での粘度をA、低せん断速度での粘度をBとしたとき、B/Aは10以上250以下であってもよい。この比率が大きくなるほど、溶融した樹脂組成物をより低圧で押し出しすることができ、また押出後の樹脂組成物の形状をより維持させることができる。
【0069】
なお、高せん断速度および低せん断速度での粘度は、後述の実施例に示すような手順により測定した。
【0070】
(1-5)樹脂組成物の弾性率
樹脂組成物は、上述したプロピレン系樹脂とゴム材料およびエラストマの少なくとも1つとを混合して形成され、これら成分の混合により、樹脂組成物の弾性率が150MPa以上700MPa以下となるように構成されている。プロピレン系樹脂やゴム材料、エラストマは異なる弾性率を有し、これらの配合量に応じて樹脂組成物の弾性率が変化する。そのため、樹脂組成物の弾性率は、各成分の比率(組成)の指標となる。この点、樹脂組成物において、各せん断速度での粘度が上記範囲内となるとともに、弾性率が上記範囲内となることで、絶縁層において外径の均一性とともに絶縁性などのケーブルに要求される諸特性を満たすことができる。
【0071】
(1-6)樹脂組成物の融点および融解熱量
樹脂組成物の融点および融解熱量は、プロピレン系樹脂やゴム材料、エラストマの各配合量に応じて変化するため、各成分の比率(組成)の指標となるものである。
【0072】
プロピレン系樹脂は比較的融点が高い一方、ゴム材料やエラストマは融点を持たない、もしくは持つとしても融点が低い。また、プロピレン系樹脂は、結晶性が高く、その融解熱量は高い一方、ゴム材料やエラストマは結晶性が低い、もしくは非晶性であって、その融解熱量は低い。そのため、樹脂組成物の融点や融解熱量はそれぞれ、プロピレン系樹脂が本来有する融点や融解熱量よりも低くなる傾向がある。
【0073】
樹脂組成物の融点および融解熱量は特に限定されないが、各成分を適切な比率で混合し、高せん断速度および低せん断速度での粘度を所定範囲とする観点からは、それぞれ以下のような範囲であってもよい。
【0074】
具体的には、樹脂組成物の融点は、プロピレン系樹脂としてホモPPを含む場合であれば、158℃以上168℃以下であってもよい。また、プロピレン系樹脂としてランダムPPを含む場合であれば、140℃以上150℃以下であってもよい。
【0075】
また樹脂組成物の融解熱量は、プロピレン系樹脂としてホモPPを含む場合であれば、75J/g以上110J/g以下であってもよい。また、プロピレン系樹脂としてランダムPPを含む場合であれば、60J/g以上100J/g以下であってもよい。
【0076】
樹脂組成物の融点および融解熱量の少なくとも1つが上記範囲となるように、プロピレン系樹脂やゴム材料、エラストマを所定の比率で混合することにより、高せん断速度および低せん断速度での粘度と弾性率とを所定範囲に調整することが可能となる。
【0077】
(1-7)樹脂組成
樹脂組成物に含まれる各成分の比率(組成)は、樹脂組成物において高せん断速度および低せん断速度での粘度と弾性率とがそれぞれ所定範囲となるよう、プロピレン系樹脂、ゴム材料およびエラストマの種類に応じて適宜調整するとよい。例えば、樹脂組成物の融点および融解熱量が上述した範囲となるように、各成分を混合するとよい。具体的には、樹脂組成物において、プロピレン系樹脂の添加比率は50質量%以上であってもよい。また、プロピレン系樹脂は、粘度や融点、融解熱量、分子量分布が互いに異なる成分を2種以上併用してもよい。ゴム材料やエラストマについても、上記物性値が互いに異なる成分を2種以上併用してもよい。
【0078】
(2)電力ケーブル
次に、図1を用い、本実施形態の電力ケーブルについて説明する。図1は、本実施形態に係る電力ケーブルの軸方向に直交する断面図である。
【0079】
本実施形態の電力ケーブル10は、いわゆる固体絶縁電力ケーブルとして構成されている。また、本実施形態の電力ケーブル10は、例えば、陸上(管路内)、水中または水底に布設されるよう構成されている。なお、電力ケーブル10は、例えば、交流に用いられる。
【0080】
具体的には、電力ケーブル10は、例えば、導体110と、内部半導電層120と、絶縁層130と、外部半導電層140と、遮蔽層150と、シース160と、を有している。
【0081】
(導体(導電部))
導体110は、例えば、純銅、銅合金、アルミニウム、またはアルミニウム合金等を含む複数の導体芯線(導電芯線)を撚り合わせることにより構成されている。
【0082】
(内部半導電層)
内部半導電層120は、導体110の外周を覆うように設けられている。また、内部半導電層120は、半導電性を有し、導体110の表面側における電界集中を抑制するよう構成されている。内部半導電層120は、例えば、エチレン-エチルアクリレート共重合体、エチレン-メチルアクリレート共重合体、エチレン-ブチルアクリレート共重合体、およびエチレン-酢酸ビニル共重合体等のエチレン系共重合体、オレフィン系エラストマ、上述したゴム材料、プロピレン系樹脂などのうち少なくともいずれかと、導電性のカーボンブラックと、を含んでいる。
【0083】
(絶縁層)
絶縁層130は、内部半導電層120の外周を覆うように設けられ、上述した樹脂組成物から形成される。絶縁層130は、例えば、樹脂組成物を押出して成形されている。
【0084】
(外部半導電層)
外部半導電層140は、絶縁層130の外周を覆うように設けられている。また、外部半導電層140は、半導電性を有し、絶縁層130と遮蔽層150との間における電界集中を抑制するよう構成されている。外部半導電層140は、例えば、内部半導電層120と同様の材料により構成されている。
【0085】
(遮蔽層)
遮蔽層150は、外部半導電層140の外周を覆うように設けられている。遮蔽層150は、例えば、銅テープを巻回することにより構成されるか、或いは、複数の軟銅線等を巻回したワイヤシールドとして構成されている。なお、遮蔽層150の内側や外側に、ゴム引き布等を素材としたテープが巻回されていてもよい。
【0086】
(シース)
シース160は、遮蔽層150の外周を覆うように設けられている。シース160は、例えば、ポリ塩化ビニルまたはポリエチレンにより構成されている。
【0087】
なお、本実施形態の電力ケーブル10は、水中ケーブルまたは水底ケーブルであれば、遮蔽層150よりも外側に、いわゆるアルミ被などの金属製の遮水層や、鉄線鎧装を有していてもよい。一方で、本実施形態の電力ケーブル10は、上述の水トリー抑制効果を有していることで、例えば、遮蔽層150よりも外側に、いわゆるアルミ被などの金属製の遮水層を有していなくてもよい。つまり、本実施形態の電力ケーブル10は、非完全遮水構造により構成されていてもよい。
【0088】
(具体的寸法等)
電力ケーブル10における具体的な各寸法としては、特に限定されるものではないが、例えば、導体110の直径は5mm以上60mm以下であり、内部半導電層120の厚さは0.5mm以上3mm以下であり、絶縁層130の厚さは3mm以上35mm以下であり、外部半導電層140の厚さは0.5mm以上3mm以下であり、遮蔽層150の厚さは0.1mm以上5mm以下であり、シース160の厚さは1mm以上である。電力ケーブル10の外径は、例えば15mm以上170mm以下である。本実施形態の電力ケーブル10に適用される交流電圧は、例えば20kV以上である。
【0089】
上述したように、絶縁層130の厚さが大きいほど、特に導体110の外径に対して絶縁層130の厚さの比率が高くなるほど、絶縁層130が形状変形しやすくなる。この点、本実施形態の樹脂組成物によれば、絶縁層130の垂れを抑制し、その形状を維持させやすい。そのため、導体110の外径に対して絶縁層130を厚く形成し、電力ケーブル10の外径を大きくした場合であっても、絶縁層130の形状変形や外径変動を抑制することができる。例えば、絶縁層130の厚さが4mm以上であって、導体110の外径に対する電力ケーブル10の外径の比率が4以下であってもよい。外径変動を抑制する観点から、絶縁層130の厚さは13mm以下であってもよい。また、導体110の外径に対する電力ケーブル10の外径の比率は4以下であってもよい。また、導体110の外径は、導体110の断面積で8mm以上900mm以下となるような範囲であってもよい。
【0090】
(3)ケーブル諸特性
本実施形態では、絶縁層130を所定の樹脂組成物で形成することにより、以下のケーブル諸特性が確保されている。
【0091】
(外径の均一性)
本実施形態の電力ケーブル10は、絶縁層130の垂れが抑制されるため、断面および長手方向のそれぞれで外径の変動が少ない。
【0092】
断面での外径変動が少ないとは、電力ケーブル10の長手方向に垂直な断面において、その外周方向での外径の最大値と最小値との差が小さいことを示す。具体的には、断面における長径(外径の最大値)をA、短径(外径の最小値)をBとしたとき、短径に対する長径の比率(A/B)が1.3以下であってもよく、1.25以下であってもよい。なお、比率の下限値は1である。
【0093】
長手方向での外径変動が少ないとは、電力ケーブル10の長手方向に離間する2点の断面において、2点間での外径の差が小さいことを示す。具体的には、長手方向に5m離間した2点の外径を比較したとき、一方の点における短径をA、もう一方の点における長径をB(A<B)としたとき、一方の点における短径Aに対するもう一方の点における長径Bの比率(B/A)は1.3以下であってもよく、1.25以下であってもよい。なお、比率の下限値は1である。
【0094】
(絶縁性)
電力ケーブル10では、絶縁層130を所定の設計厚さで形成したときに、局所的に絶縁厚が薄くなることがあり、所定厚さでの絶縁性(見かけ上の絶縁破壊電圧)よりも小さくなることがある。この点、本実施形態では、電力ケーブル10の外径を均一に、特に絶縁層130の厚さを均一に形成することができるので、設計厚さでの絶縁性をより確実に確保することができる。具体的には、常温(例えば27℃)における絶縁層130の交流破壊電界強度は、例えば、60kV/mm以上である。より具体的には、常温において、絶縁層130から採取した0.2mm厚のサンプル試料に対して商用周波数(例えば60Hz)の交流電圧を10kVで10分課電した後、1kVごとに昇圧し10分課電することを繰り返す条件下で印加したときの、交流破壊電界は、60kV/mm以上である。
【0095】
(4)電力ケーブルの製造方法
次に、本実施形態の電力ケーブルの製造方法について説明する。以下、ステップを「S」と略す。
【0096】
(S100:樹脂組成物準備工程)
まず、絶縁層130を形成するための樹脂組成物を準備する。
【0097】
本実施形態では、プロピレン系樹脂と、ゴム材料およびエラストマの少なくとも1つと、必要に応じて、その他の添加剤(酸化防止剤等)と、を混合機により混合(混練)し、混合材を形成する。混合機としては、例えばオープンロール、バンバリーミキサ、加圧ニーダ、単軸混合機、多軸混合機等が挙げられる。
【0098】
このとき、樹脂組成物において、高せん断速度および低せん断速度での粘度がそれぞれ所定範囲となるように、プロピレン系樹脂やゴム材料、エラストマを所定の比率で混合する。例えば、樹脂組成物の融点や融解熱量などが所定範囲となるように各成分を混合するとよい。
【0099】
混合材を形成したら、当該混合材を押出機により造粒する。これにより、絶縁層130を構成することとなるペレット状の樹脂組成物が形成される。なお、混練作用の高い2軸型の押出機を用いて、混合から造粒までの工程を一括して行ってもよい。
【0100】
(S200:導体準備工程)
一方で、複数の導体芯線を撚り合わせることにより形成された導体110を準備する。
【0101】
(S300:ケーブルコア形成工程(押出工程、絶縁層形成工程))
樹脂組成物準備工程S100および導体準備工程S200が完了したら、上述の樹脂組成物を、導体110の外周を3mm以上の厚さで被覆するように押し出す。このとき、樹脂組成物の温度190℃、せん断速度100s-1における高せん断速度での粘度が200Pa・s以上5000Pa・s以下であるため、樹脂組成物を一定の厚さで安定して押し出すことができる。
【0102】
続いて、押出した樹脂組成物を冷却させることにより、絶縁層130を形成する。この冷却の際、樹脂組成物の温度190℃、せん断速度1s-1における低せん断速度での粘度が7000Pa・s以上50000Pa・s以下であるため、冷却により樹脂組成物の形状が固定されるまでの間に樹脂組成物が流動し垂れることを抑制することができる。つまり、押出した樹脂組成物の形状を維持したまま固定させることができる。その結果、絶縁層130を、断面の外周方向および電力ケーブル10の長手方向のそれぞれで均一に形成することができる。
【0103】
また、このとき、本実施形態では、例えば、3層同時押出機を用いて、内部半導電層120、絶縁層130および外部半導電層140を同時に形成する。
【0104】
具体的には、3層同時押出機のうち、内部半導電層120を形成する押出機Aに、例えば、内部半導電層用組成物を投入する。
【0105】
絶縁層130を形成する押出機Bに、上記したペレット状の樹脂組成物を投入する。なお、押出機Bの設定温度は、所望の融点よりも10℃以上50℃以下の温度だけ高い温度に設定する。線速および押出圧力に基づいて、設定温度を適宜調節してもよい。
【0106】
外部半導電層140を形成する押出機Cに、押出機Aに投入した内部半導電層用樹脂組成物と同様の材料を含む外部半導電層用組成物を投入する。
【0107】
次に、押出機A~Cからのそれぞれの押出物をコモンヘッドに導き、導体110の外周に、内側から外側に向けて、内部半導電層120、絶縁層130および外部半導電層140を同時に押出す。これにより、ケーブルコアとなる押出材が形成される。
【0108】
その後、押出材を、例えば、水により冷却する。
【0109】
以上のケーブルコア形成工程S300により、導体110、内部半導電層120、絶縁層130および外部半導電層140により構成されるケーブルコアが形成される。
【0110】
(S400:遮蔽層形成工程)
ケーブルコアを形成したら、外部半導電層140の外側に、例えば銅テープを巻回することにより遮蔽層150を形成する。
【0111】
(S500:シース形成工程)
遮蔽層150を形成したら、押出機に塩化ビニルを投入して押出すことにより、遮蔽層150の外周に、シース160を形成する。
【0112】
以上により、固体絶縁電力ケーブルとしての電力ケーブル10が製造される。
【0113】
(5)本実施形態のまとめ
本実施形態によれば、以下に示す1つ又は複数の効果を奏する。
【0114】
(a)本実施形態の樹脂組成物は、高せん断速度での粘度が200Pa・s~5000Pa・sである。これにより、樹脂組成物を溶融させて押し出す際に、押出形状を維持しつつ、均一な厚さで安定して押し出すことができる。また、低せん断速度での粘度が7000Pa・s~50000Pa・sである。これにより、押出した樹脂組成物を冷却してその形状を固定するまでの間に樹脂組成物の自重による垂れを抑制し、押出形状を維持しやすい。このように本実施形態の樹脂組成物は、押出成形性に優れながらも、溶融した状態で流動しにくく、形状変形しにくい。
【0115】
(b)本実施形態の樹脂組成物によれば、電力ケーブル10の絶縁層130を形成したときに、絶縁層130を、その断面の外周方向と電力ケーブル10の長手方向のそれぞれで均一な厚さに形成することができる。この結果、電力ケーブル10において断面および長手方向で外径の変動を小さくすることができる。具体的には、電力ケーブル10の断面において、その外周方向で外径の最小値(短径)に対する外径の最大値(長径)の比率を1.3以下とすることができる。また、電力ケーブル10の長手方向に離間する2点の断面において、一方の点における短径に対するもう一方の点における長径の比率を1.3以下とすることができる。
【0116】
(c)また、本実施形態の樹脂組成物によれば、弾性率が150MPa以上700MPa以下となるように構成されている。そのため、絶縁層130において、交流破壊電界強度を高く維持することができ、所定の絶縁性を確保することができる。具体的には、交流破壊電界強度を60kV/mm以上とすることができる。
【0117】
(d)樹脂組成物はプロピレン系樹脂とともにゴム材料およびエラストマの少なくとも一方を含むことで、溶融した状態から冷却させる過程でプロピレン系樹脂の過度な結晶成長を抑制することができる。これにより、絶縁層130において絶縁性および柔軟性を高い水準でバランスよく得ることができる。
【0118】
(e)また樹脂組成物における融点は、ランダムPPを含む場合であれば140℃~150℃、ホモPPを含む場合であれば158℃~168℃であってもよい。また、その融解熱量は、ランダムPPを含む場合であれば60J/g~100J/g、ホモPPを含む場合であれば75J/g~110J/gであってもよい。樹脂組成物において、融点および融解熱量の少なくとも1つが所定範囲を満たすことにより、プロピレン系樹脂、ゴム材料およびエラストマの添加比率を適切な範囲に設定することができ、高せん断速度および低せん断速度での粘度を上記範囲により確実に調整することができる。しかも、絶縁層130において絶縁性および柔軟性をより高い水準でバランスよく得ることができる。
【0119】
(f)また樹脂組成物によれば、絶縁層130の厚さを4mm以上、かつ導体110の外径に対して電力ケーブル10の外径の比率が4以下となるように、つまり導体110の外径に対して絶縁層130を厚くなるように形成した場合であっても、外径変動を小さく抑制することができる。
【0120】
(g)また樹脂組成物によれば、電力ケーブル10の作製の際、縦型押出機を用いた場合に特に生じやすい長手方向での外径変動や、横型押出機を用いた場合に特に生じやすい断面の外周方向での外径変動をそれぞれ抑制することができる。
【0121】
(h)また樹脂組成物によれば、電力ケーブル10の断面において長径と短径との比率を小さく、例えば1.3以下とすることで、外径の均一性を高くすることができるので、電力ケーブル10を接続処理するときの処理時間を短縮することができる。また電力ケーブル10を接続部材に接続したときに接続箇所での空隙を抑制し、より確実に接続を行うことができる。
【0122】
<本開示の他の実施形態>
以上、本開示の実施形態について具体的に説明したが、本開示は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々変更可能である。
【0123】
上述の実施形態では、絶縁層としての樹脂組成物成形体は、メカニカル的に混合され押出成形されたものである場合について説明したが、樹脂組成物成形体は、重合され押出成形されたものであってもよい。
【0124】
上述の実施形態では、電力ケーブル10が遮水層を有していなくてもよい場合について説明したが、本開示はこの場合に限られない。電力ケーブル10は、上述の顕著な水トリー抑制効果を有していることで、簡易的な遮水層を有していてもよい。具体的には、簡易的な遮水層は、例えば、金属ラミネートテープからなる。金属ラミネートテープは、例えば、アルミまたは銅等からなる金属層と、金属層の片面または両面に設けられる接着層と、を有している。金属ラミネートテープは、例えば、ケーブルコアの外周(外部半導電層よりも外周)を囲むように縦添えにより巻き付けられる。なお、当該遮水層は、遮蔽層よりも外側に設けられていてもよいし、遮蔽層を兼ねていてもよい。このような構成により、電力ケーブル10のコストを削減することができる。
【0125】
上述の実施形態では、電力ケーブル10が陸上、水中または水底に布設されるよう構成される場合について説明したが、本開示はこの場合に限られない。例えば、電力ケーブル10は、いわゆる架空電線(架空絶縁電線)として構成されていてもよい。
【0126】
上述の実施形態では、ケーブルコア形成工程S300において3層同時押出を行ったが、1層ずつ押出てもよい。
【実施例
【0127】
次に、本開示に係る実施例を説明する。これらの実施例は本開示の一例であって、本開示はこれらの実施例により限定されない。
【0128】
(1)材料
絶縁層を形成するための樹脂組成物として、以下の表1に示す材料A~材料Eを準備した。材料A~材料Eの調製には、各成分として以下を用いた。
【0129】
プロピレン系樹脂としては、高せん断速度での粘度が100Pa・s以上6000Pa・s以下、低せん断速度での粘度が500Pa・s以上50000Pa・s以下、融点が140℃以上145℃以下、融解熱量が90J/g以上105J/g以下、弾性率が600MPa以上1200MPa以下、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比率Mw/Mnが3.0以上8.0以下、Mnが60000~150000、Mwが210000~1000000の範囲内にあって互いに異なる複数種類のプロピレンランダム重合体を準備した。
【0130】
ゴム材料としては、高せん断速度での粘度が500Pa・s以上5000Pa・s以下、低せん断速度での粘度が10000Pa・s以上70000Pa・s以下、融点および融解熱量はなし、弾性率が1MPa~200MPa、Mw/Mnが1.0~3.0、Mnが70000~250000、Mwが70000~600000の範囲内にあって互いに異なる複数種類のEPRやVLDPEを準備した。
【0131】
エラストマとしては、高せん断速度での粘度が1000Pa・s以上6000Pa・s以下、低せん断速度での粘度が5000Pa・s以上50000Pa・s以下、融点が30℃以上80℃以下、融解熱量が5J/g以上50J/g以下、弾性率が1MPa~200MPa、Mw/Mnが1.0~3.0、Mnが70000~250000、Mwが70000~600000の範囲内にあって互いに異なる複数種類のスチレン系樹脂を準備した。
【0132】
本実施例では、プロピレン系樹脂として、各物性値が上記範囲内にあるものを1種単独、または2種以上を併用するとともに、ゴム材料やエラストマとして、各物性値が上記範囲内にあるものを1種または2種以上を用いた。そして、得られる樹脂組成物の各粘度が所定値となるように、各成分の比率を適宜変更し、表1に示す材料A~材料Eを調製した。ここでは、プロピレン系樹脂の添加比率を樹脂組成物の50質量%以上となるように調整した。なお、材料Eについては、樹脂成分100質量部に対して無機充填剤を5質量部さらに添加して調製した。
【0133】
【表1】
【0134】
なお、表1中、材料A~材料Eについての融点、融解熱量、高せん断速度での粘度、低せん断速度での粘度、および弾性率はそれぞれ以下のように測定した。
【0135】
(融点と融解熱量)
材料A~材料Eの融点および融解熱量は、DSC測定により求めた。DSC測定は、JIS-K-7121(1987年)に準拠して行った。具体的には、DSC装置としては、パーキンエルマー社製DSC8500(入力補償型)を用いた。基準試料は例えばα-アルミナとした。測定試料の質量は、8~10gとした。DSC装置において、室温(27℃)から220℃まで10℃/分で昇温させた。これにより、温度に対する、単位時間当たりの吸熱量(熱流)をプロットすることで、DSC曲線を得た。
【0136】
このとき、各測定試料における単位時間当たりの吸熱量が極大(最も高いピーク)になる温度を「融点」とした。また、このとき、DSC曲線において、融解ピークとベースラインとで囲まれた領域の面積を求めることにより、「融解熱量」を求めた。
【0137】
(粘度)
材料A~材料Eの各せん断速度での粘度は、回転式レオメーター(アントンパール社製の「MCR302」)を用い、治具PP-12を使用して190℃で、せん断速度0.001s-1から1000s-1までせん断速度を変えて測定した。
【0138】
(弾性率)
材料A~材料Eの弾性率は、動的粘弾性測定(DMA)により測定した。具体的には、まず、各材料から評価用のプレスシートを作製した。当該プレスシートに対して0.08%の伸縮を加えた状態で、-50℃から100℃まで昇温させながら、プレスシートの貯蔵弾性率を測定した。また、測定周波数を10Hzとした。また、昇温速度を10℃/minとした。測定の結果、25℃における貯蔵弾性率を求めた。
【0139】
(2)電力ケーブのサンプルの作製
本実施例では、絶縁層形成用の樹脂組成物として材料A~材料Eを用いて電力ケーブルを模したサンプルを作製した。
【0140】
(サンプル1)
具体的には、下記表2に示すように、まず、断面積が2500mm(導体径が約56.4mm)の導体を準備した。導体を準備したら、エチレン-エチルアクリレート共重合体を含む内部半導電層用樹脂組成物と、絶縁層形成用の樹脂組成物として上述の材料Aと、内部半導電層用樹脂組成物と同様の材料からなる外部半導電層樹脂組成物と、をそれぞれ押出機A~Cに投入した。押出機A~Cからのそれぞれの押出物をコモンヘッドに導き、導体の外周に、内側から外側に向けて、内部半導電層、絶縁層および外部半導電層を同時に押出した。このとき、内部半導電層、絶縁層および外部半導電層の厚さを、それぞれ、1.0mm、24mm、1.0mmとし、絶縁被覆厚を26mmとした。その結果、中心から外周に向けて、導体、内部半導電層、絶縁層および外部半導電層を有する電力ケーブルのサンプル1(ケーブル外径が108.4mm)を製造した。なお、導体径をX、電力ケーブルの外径(ケーブル外径)をYとしたときの、導体径に対するケーブル外径の比率(Y/X)は、1.9とした。
【0141】
また、絶縁層形成用の樹脂組成物を材料Aから材料Bに変更し、同様のケーブル構成にて電力ケーブルを作製した。
【0142】
(サンプル2~11)
サンプル2~11では、下記表2に示すように、絶縁層形成用の樹脂組成物として材料Aまたは材料Bを用いるとともに、導体径や絶縁被覆厚を変更した以外は、サンプル1と同様に電力ケーブルを作製し、サンプル2~11を得た。なお、各サンプルでは、内部半導電層および外部半導電層の厚さは同一とし、絶縁被覆厚は、絶縁層の厚さを調整することにより適宜変更した。
【0143】
【表2】
【0144】
(サンプル12~14)
また、サンプル12~14では、下記表3に示すように、絶縁層形成用の樹脂組成物として材料C~材料Eを使用するとともに、導体径や絶縁被覆厚を適宜変更した以外は、サンプル1と同様に電力ケーブルを作製した。
【0145】
【表3】
【0146】
(3)評価
電力ケーブルとして作製したサンプル1~14について、電力ケーブルの断面での外径の均一性、長手方向での外径の均一性、および絶縁性を評価した。
【0147】
断面での外径の均一性は以下により評価した。具体的には、電力ケーブルにおける長手方向の任意の1点を選択し、その断面における外周方向の外径を測定し、長径(最大値)と短径(最小値)とを求め、短径に対する長径の比率を算出した。この比率が小さいほど、断面における外径変動が少ないことを示す。
【0148】
長手方向での外径の均一性は以下により評価した。具体的には、電力ケーブルの長手方向に5m離間する2点を選択し、それぞれの点での長径および短径を測定し、一方の点における短径に対するもう一方の点における長径の比率を算出した。この比率が小さいほど、長手方向での外径変動が少ないことを示す。
【0149】
絶縁性の評価は、交流破壊試験により行った。具体的には、作製したサンプルの絶縁層から、0.2mm厚で測定試料を切り出した。その後、常温(27℃)において、0.2mm厚の測定試料に対して商用周波数(例えば60Hz)の交流電圧を10kVで10分課電した後、1kVごとに昇圧し10分課電することを繰り返す条件下で印加した。内側試料が絶縁破壊したときの電界強度を測定した。その結果、交流破壊強度が60kV/mm以上である場合を良好として評価した。
【0150】
(4)評価結果
評価結果を表2および表3にまとめる。
【0151】
表2に示すように、サンプル1~11では、絶縁層形成用の樹脂組成物として材料Aを用いた場合、材料Bを用いた場合と比較して、断面および長手方向のそれぞれで外径の変動が小さくなる傾向があることが確認された。これは、材料Bが材料Aと比較して垂れやすく、形状を維持できないためである。
【0152】
具体的には、表1に示すように、材料Bは、高せん断速度での粘度が1000Pa・sであって、200Pa・s~5000Pa・sの範囲内にあるため、樹脂組成物を一定の厚さで安定して押し出せることが確認された。一方、低せん断速度での粘度が5000Pa・sであって7000Pa・s未満であったため、材料Bは、押出後、冷却により形状が固定されるまでの間に流動して垂れやすい。そのため、材料Bを用いた場合、絶縁層は形状が固定されるまでに変形し、それにともなって電力ケーブルの外径が変動したものと推測される。材料Bでは、サンプル2や8に示すように、絶縁被覆厚が小さい、もしくは導体径Xに対するケーブル外形Yの比率(Y/X)が小さい場合であれば、外径変動を抑制できるものの、サンプル1、3~7、9~11に示すように、絶縁被覆厚が4mm以上となる、もしくはY/Xが大きくなると、外径変動がより大きくなることが確認された。
【0153】
これに対して、材料Aは、高せん断速度での粘度が小さく、押出成形性に優れるだけでなく、材料Bと比較して低せん断速度での粘度が大きく、溶融状態で流動しにくい。そのため、材料Aは、材料Bと比較して外径変動を抑制することができる。
【0154】
また、サンプル2、8、9に示すように、絶縁被覆厚の厚さを小さくした場合は外径変動が生じにくいことが確認された。サンプル7、10、11に示すように、導体径に対するケーブル外径の比率が過度に高くなるように電力ケーブルを作製した場合、外径変動が生じやすいことが確認された。さらに、サンプル1、3~6に示すように、材料Aによれば、絶縁層の厚さを4mm以上とし、導体径に対するケーブル外径の比率を4以下となるように構成すれば、外径変動を比率で1.3以下に抑制できることが確認された。
【0155】
また、サンプル12に示すように、材料Cは、高せん断速度での粘度が過度に大きいため、押出成形性が悪く、絶縁層として成形できないことが確認された。一方、サンプル13に示すように、材料Dは、高せん断速度および低せん断速度での粘度がともに小さすぎたため、形状を安定した状態で押し出せず、また押し出した形状を維持できないため、絶縁層として成形できないことが確認された。
【0156】
また、サンプル14に示すように、材料Eは、無機充填剤を含むことで、高せん断速度および低せん断速度での粘度がともに大きいため、樹脂組成物の押出性が安定せず、特に長手方向における外径変動が大きくなることが確認された。
【0157】
また、サンプル1~14のうち、断面および長手方向における外径の均一性が高く、外径変動の比率が1.3以下となる場合に、交流破壊強度が60kV/mm以上となり、高い絶縁性をより確実に得られることが確認された。
【0158】
<付記>
以下、本開示の態様を付記する。
【0159】
(付記1)
プロピレン系樹脂と、
ゴム材料およびエラストマの少なくとも1つと、を含み、
前記ゴム材料およびエラストマは、エチレン、プロピレン、ブチレン、ヘキセン、イソプレン、オクテンおよびスチレンのうち少なくとも2つの単位を有し、
温度190℃、せん断速度100s-1における高せん断速度での粘度が200Pa・s以上5000Pa・s以下、温度190℃、せん断速度1s-1における低せん断速度での粘度が7000Pa・s以上50000Pa・s以下であり、
弾性率が150MPa以上700MPa以下である、
樹脂組成物。
【0160】
(付記2)
導体と、
前記導体の外周に被覆され、樹脂組成物から形成される絶縁層と、を備え、
前記樹脂組成物は、
プロピレン系樹脂と、
ゴム材料およびエラストマの少なくとも1つと、を含み、
前記ゴム材料およびエラストマは、エチレン、プロピレン、ブチレン、ヘキセン、イソプレン、オクテンおよびスチレンのうち少なくとも2つの単位を有し、
前記樹脂組成物の温度190℃、せん断速度100s-1における高せん断速度での粘度が200Pa・s以上5000Pa・s以下、温度190℃、せん断速度1s-1における低せん断速度での粘度が7000Pa・s以上50000Pa・s以下であり、
弾性率が150MPa以上700MPa以下である、
電力ケーブル。
【0161】
(付記3)
前記樹脂組成物の融解熱量は、60J/g以上100J/g以下である、
付記2に記載の電力ケーブル。
【0162】
(付記4)
前記樹脂組成物の融点は、140℃以上150℃以下である、
付記2又は3に記載の電力ケーブル。
【0163】
(付記5)
長手方向に垂直な断面において、短径に対する長径の比率が1.3以下である、
付記2~4のいずれか1つに記載の電力ケーブル。
【0164】
(付記6)
長手方向に離間する2点の断面において、一方の点における短径に対するもう一方の点における長径の比率が1.3以下である、
付記2~5のいずれか1つに記載の電力ケーブル。
【0165】
(付記7)
前記絶縁層の厚さは4mm以上であって、前記導体の外径に対する前記電力ケーブルの外径の比率が4以下である、
付記2~6のいずれか1つに記載の電力ケーブル。
【0166】
(付記8)
前記プロピレン系樹脂は、弾性率が600MPa以上1200MPa以下である、
付記2~7のいずれか1つに記載の電力ケーブル。
【0167】
(付記9)
前記プロピレン系樹脂は、前記高せん断速度での粘度が100Pa・s以上6000Pa・s以下、前記低せん断速度での粘度が500Pa・s~50000Pa・s以下である、
付記2~8のいずれか1つに記載の電力ケーブル。
【0168】
(付記10)
前記プロピレン系樹脂は、融点が140℃以上150℃以下、融解熱量が90J/g以上105J/g以下である、
付記2~9のいずれか1つに記載の電力ケーブル。
【0169】
(付記11)
前記プロピレン系樹脂は、分子量分布における重量平均分子量をMw、数平均分子量をMnとしたとき、比率Mw/Mnが3.0以上8.0以下である、
付記2~10のいずれか1つに記載の電力ケーブル。
【0170】
(付記12)
前記ゴム材料およびエラストマは、前記高せん断速度での粘度が300Pa・s以上7000Pa・s以下、前記低せん断速度での粘度が4000Pa・s以上80000Pa・s以下である、
付記2~11のいずれか1つに記載の電力ケーブル。
【0171】
(付記13)
前記ゴム材料およびエラストマは、弾性率が1MPa以上200MPa以下である、
付記2~12のいずれか1つに記載の電力ケーブル。
【0172】
(付記14)
前記ゴム材料は融点を持たない、もしくは融点が100℃以下である、
付記2~13のいずれか1つに記載の電力ケーブル。
【0173】
(付記15)
前記ゴム材料は、融解熱量が50J/g以下である、
付記2~14のいずれか1つに記載の電力ケーブル。
【0174】
(付記16)
前記ゴム材料およびエラストマは、分子量分布における重量平均分子量をMw、数平均分子量をMnとしたとき、比率Mw/Mnが1.0以上3.0以下である、
付記2~15のいずれか1つに記載の電力ケーブル。
【符号の説明】
【0175】
10 電力ケーブル
110 導体
120 内部半導電層
130 絶縁層
140 外部半導電層
150 遮蔽層
160 シース
図1