(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】体積ホログラム、射出瞳拡張素子、頭部装着型表示装置
(51)【国際特許分類】
G02B 27/02 20060101AFI20241106BHJP
G02B 5/32 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
G02B27/02 Z
G02B5/32
(21)【出願番号】P 2024062038
(22)【出願日】2024-04-08
(62)【分割の表示】P 2020078028の分割
【原出願日】2020-04-27
【審査請求日】2024-04-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】林田 恵範
(72)【発明者】
【氏名】田崎 啓子
(72)【発明者】
【氏名】山内 豪
【審査官】磯崎 忠昭
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/084831(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0364486(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 27/01-27/02
G02B 5/32
G02B 5/18
H04N 5/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板状に構成され光を導波する導波部と、
前記導波部内へ光を入射する入射部と、
前記導波部上に配置、又は、前記導波部と一体に構成され、射出瞳を複数に分けて拡張する拡張部と、を備えた射出瞳拡張素子の前記入射部に配置される体積ホログラムであって、
分光分布曲線において半値幅が5nm以上であり、
当該体積ホログラムの膜厚をt(μm)、屈折率変調量をΔnとしたときに、
Δn≧6.31×10
-4×ln(t)+7.47×10
-2
の関係を満たす体積ホログラム。
【請求項2】
請求項1に記載の体積ホログラムにおいて、
当該体積ホログラムの膜厚をt(μm)、屈折率変調量をΔnとしたときに、
0.0200t
-1.00≦Δn≦0.395t
-1.25
の関係を満たすこと、
を特徴とする体積ホログラム。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の体積ホログラムにおいて、
当該体積ホログラムへ入射角θ
1で入射した光の回折角をθ
2としたときに、
-45°≦θ
1≦45°、かつ、45°≦θ
2≦135°の範囲内において、
θ
2≧-0.326θ
1+100
、かつ、
θ
2≦0.159θ
1+76.8
の双方の関係を満たすこと、
を特徴とする体積ホログラム。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれかに記載の体積ホログラムを入射部に含む、射出瞳拡張素子。
【請求項5】
請求項1から請求項3までのいずれかに記載の体積ホログラムを入射部に含み、シースルーの視界に表示を重ねて観察可能な頭部装着型表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体積ホログラム、射出瞳拡張素子、頭部装着型表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ヘッドマウントディスプレイのような近接ディスプレイでは、映像を表示する仕組みの一つとして射出瞳(射出瞳)の拡張が行なわれる(例えば、特許文献1)。この射出瞳の拡張に用いられる射出瞳拡張素子では、導波路と2種又は3種の回折光学素子とを備えて構成され、入射部の回折光学素子により映像等の光を回折させて一次回折光を導波路に入射させる。導波路内では、光が全反射により伝播し、出射部の回折光学素子では、光が一次回折して出射するとともに、ゼロ次回折反射伝播して、出射部の回折光学素子で一次回折出射とゼロ次回折反射伝播を繰り返すことで射出瞳を拡張する。
【0003】
このような射出瞳拡張素子では、特許文献1にあるようにレリーフ型の回折光学素子が用いられているが、特に光の入射部については、体積ホログラムを用いることができれば、光の利用効率を高めることが可能となる。
しかし、体積ホログラムは、波長選択性が高い傾向にあり、利用可能な光の帯域を適切に選択しないと、LED等の広帯域な光源を使用する場合は、回折されず利用されない光があるため、光の利用効率が下がる場合があった。
また、レーザー光源等を用いる場合であっても、体積ホログラムの波長選択性が高すぎると、温度変化によって、所望の回折効率が得られず、暗い映像しか観察できなかったり、観察される画像の色バランスがずれてしまったりすることがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、光の利用効率を高めることができる体積ホログラム、射出瞳拡張素子、頭部装着型表示装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下のような解決手段により、前記課題を解決する。なお、理解を容易にするために、本発明の実施形態に対応する符号を付して説明するが、これに限定されるものではない。
【0007】
第1の発明は、平板状に構成され光を導波する導波部(10a)と、前記導波部(10a)内へ光を入射する入射部(21、21B)と、前記導波部(10a)上に配置、又は、前記導波部(10a)と一体に構成され、射出瞳を複数に分けて拡張する拡張部(22)と、を備えた射出瞳拡張素子の前記入射部(21、21B)に配置される体積ホログラム(21、21B)であって、分光分布曲線において半値幅が5nm以上である体積ホログラム(21、21B)である。
【0008】
第2の発明は、第1の発明に記載の体積ホログラム(21、21B)において、当該体積ホログラム(21、21B)の膜厚をt(μm)、屈折率変調量をΔnとしたときに、
Δn≧5.87×10-3×ln(t)-1.29×10-2の関係を満たすこと、を特徴とする体積ホログラム(21、21B)である。
【0009】
第3の発明は、第1の発明又は第2の発明に記載の体積ホログラム(21、21B)において、当該体積ホログラム(21、21B)の膜厚をt(μm)、屈折率変調量をΔnとしたときに、0.0200t-1.00≦Δn≦0.395t-1.25の関係を満たすこと、を特徴とする体積ホログラム(21、21B)である。
【0010】
第4の発明は、第1の発明から第3の発明までのいずれかに記載の体積ホログラム(21、21B)において、当該体積ホログラム(21、21B)へ入射角θ1で入射した光の回折角をθ2としたときに、-45°≦θ1≦45°、かつ、45°≦θ2≦135°の範囲内において、θ2≧-0.326θ1+100、かつ、θ2≦0.159θ1+76.8の双方の関係を満たすこと、を特徴とする体積ホログラム(21、21B)である。
【0011】
第5の発明は、第1の発明から第4の発明までのいずれかに記載の体積ホログラム(21、21B)を入射部(21、21B)に含む、射出瞳拡張素子である。
【0012】
第6の発明は、第1の発明から第4の発明までのいずれかに記載の体積ホログラム(21、21B)を入射部(21、21B)に含み、シースルーの視界に表示を重ねて観察可能な頭部装着型表示装置である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、光の利用効率を高めることができる体積ホログラム、射出瞳拡張素子、頭部装着型表示装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明による体積ホログラムを用いた頭部装着型表示装置1の実施形態の概要を示す図である。
【
図2】本発明による射出瞳拡張素子40の平面である。
【
図3】射出瞳拡張素子40を
図2中の矢印A-Aの位置で切断した断面図である。
【
図4】2次元方向で射出瞳を拡張する構成とした射出瞳拡張素子40Bを示す図である。
【
図5】反射型の体積ホログラム21B(入射部21B)を配置した場合の射出瞳拡張素子40Cを
図3と同様に示した図である。
【
図6】光源の分光分布曲線と体積ホログラムの回折効率の分布例を体積ホログラムの効率の半値幅が4nmの場合について示す図である。
【
図7】光源の分光分布曲線と体積ホログラムの回折効率の分布例を体積ホログラムの効率の半値幅が10nmの場合について示す図である。
【
図8】温度変化によって体積ホログラムのピークがずれた例を体積ホログラムの効率の半値幅が4nmの場合について示す図である。
【
図9】温度変化によって体積ホログラムのピークがずれた例を体積ホログラムの効率の半値幅が10nmの場合について示す図である。
【
図10】体積ホログラム21の波長選択性が非常に高い場合の波長に対する回折効率の分布を示す図である。
【
図11】本実施形態の体積ホログラム21の20℃における回折効率の分布の例を示す図である。
【
図12】本実施形態の体積ホログラム21の40℃における回折効率の分布を示す図である。
【
図13】本実施形態の体積ホログラム21の0℃における回折効率の分布を示す図である。
【
図14】半値幅が5nm、10nm、20nmの回折効率の分布曲線を示す図である。
【
図16】膜厚tとΔnとを変化させて半値幅を求めたシミュレーションの結果をまとめた図である。
【
図17】半値幅から求めた膜厚tとΔnとの好ましい組み合わせ範囲を示す近似式のグラフである。
【
図18】膜厚tとΔnとを変化させて回折効率の最大値を求めたシミュレーションの結果をまとめた図である。
【
図19】回折効率の最大値から求めた膜厚tとΔnとの好ましい組み合わせ範囲を示す近似式のグラフである。
【
図20】入射角と出射角に着目したシミュレーション条件を示す図である。
【
図21】入射角θ
1と出射角θ
2とを変化させて半値幅を求めたシミュレーションの結果をまとめた図である。
【
図22】半値幅から求めた、入射角θ
1と出射角θ
2との好ましい組み合わせ範囲を示す近似式のグラフである。
【
図23】入射角θ
1と出射角θ
2とを変化させて回折効率の最大値を求めたシミュレーションの結果をまとめた図である。
【
図24】回折効率の最大値から求めた入射角θ
1と出射角θ
2との好ましい組み合わせ範囲を示す近似式のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための最良の形態について図面等を参照して説明する。
【0016】
(実施形態)
図1は、本発明による体積ホログラムを用いた頭部装着型表示装置1の実施形態の概要を示す図である。
なお、
図1を含め、以下に示す各図は、模式的に示した図であり、各部の大きさ、形状は、理解を容易にするために、適宜誇張又は省略して示している。
また、以下の説明では、具体的な数値、形状、材料等を示して説明を行うが、これらは、適宜変更することができる。
本明細書において、板、シート、フィルム等の言葉を使用しているが、これらは、一般的な使い方として、厚さの厚い順に、板、シート、フィルムの順で使用されており、本明細書中でもそれに倣って使用している。しかし、このような使い分けには、技術的な意味は無いので、これらの文言は、適宜置き換えることができるものとする。
本明細書中において、シート面とは、各シートにおいて、そのシート全体として見たときにおける、シートの平面方向となる面を示すものであるとする。
なお、本明細書及び特許請求の範囲において規定する具体的な数値には、一般的な誤差範囲は含むものとして扱うべきものである。すなわち、±10%程度の差異は、実質的には違いがないものであって、本件の数値範囲をわずかに超えた範囲に数値が設定されているものは、実質的には、本件発明の範囲内のものと解釈すべきである。
【0017】
頭部装着型表示装置1は、映像源50と、射出瞳拡張素子40とを備えており、映像源50からの映像光を射出瞳拡張素子40が射出瞳を複数に分けて拡張して観察者の眼Eへ出射する。頭部装着型表示装置1は、例えば、メガネ型やヘッドマウント型等の形態を採用して、頭部へ装着可能であるが、その詳細については省略する。
【0018】
映像源50は、映像光を射出瞳拡張素子40の入射部21へ照射する。映像源50には、例えば、マイクロディスプレイを用いることができる。映像源50の光源としては、レーザー光源のような帯域の狭い光源を用いてもよいし、LEDのような帯域の広い光源を用いてもよい。
【0019】
図2は、本発明による射出瞳拡張素子40の平面である。
図3は、射出瞳拡張素子40を
図2中の矢印A-Aの位置で切断した断面図である。
本実施形態の射出瞳拡張素子40は、射出瞳を複数に分けて拡張する光学的機能を備えたシート状の素子であり、基材層10と、賦型層20とが層状に重ねられた構成となっている。なお、射出瞳拡張素子40は、フィルム状、又は、板状に構成されていてもよい。
基材層10は、射出瞳拡張素子40を製造するときにベースとして用いられ、また、光が導波する導波部の主要な部分を構成する層である。
賦型層20は、基材層10の表面側に積層されている。賦型層20は、その表面に入射部21及び出射部22を備えている。
【0020】
基材層10及び賦型層20は、入射部21から入射された映像光等の光を出射部22側に向けて導波させるための導波部(コア)10aを構成する。したがって、基材層10及び賦型層20は、導波する光に対する屈折率が実質的に同一、又は、屈折率が非常に近い材料により構成される。また、入射部21と出射部22との間の領域は、光を導波(伝播)する領域であるので、導波部10aと呼ぶこととする。この導波部10aは、内部において反射を繰り返して光を導波する。
基材層10を構成する材料としては、例えば、PET、ポリカーボネート、アクリル系樹脂、ガラス等が挙げられる。また、賦型層20を構成する材料としては、例えば、アクリル系紫外線硬化樹脂等の紫外線硬化性樹脂材料等が挙げられる。基材層10を構成する材料及び賦型層20を構成する材料は、いずれも、導波する光に対して透明である。
【0021】
本実施形態において、基材層10及び賦型層20がコア(導波部10a)を構成し、その周囲に位置する空気(大気)がクラッドを構成することで、基材層10及び賦型層20を導波部10aとして光を導波することができる。したがって、基材層10及び賦型層20を構成する材料としては、クラッドを構成する空気(大気)よりも屈折率の大きい材料が用いられる。これにより、基材層10及び賦型層20により構成されるコアと空気(大気)により構成されるクラッドとの界面で反射しながら光を効率的に導波させることができる。
【0022】
入射部21は、体積ホログラムを基材層10上、又は、賦型層20上に貼り付けて構成されている。以下の説明では、入射部21を体積ホログラム21とも呼ぶこととする。
射出瞳拡張素子40のシート面に対して垂直に進み入射部21へ入射する光は、入射部21の体積ホログラム21によって回折した回折光が基材層10(導波部10a)内に進む。そして、この回折光の回折角が導波部10aの全反射条件を満たすように体積ホログラム21が構成されている。入射部21の体積ホログラム21の詳細については、後述する。
【0023】
導波部10a内を導波した光は、出射部22に到達する。ここで、
図3に示すように、出射部22には、レリーフ型の回折格子が構成されており、この出射部22の回折格子により、導波部10a内を導波してきた光は出射部22から出射する。
出射部22の回折格子は、例えば、3レベルの回折格子により構成されている。また、出射部22の回折格子は、一定のピッチPで繰り返し配列され、かつ、その配列の方向と直交する一方向に延在する高屈折率部221を有している。
【0024】
出射部22の回折格子は、回折効率が100%ではないので、出射部22の回折格子に最初に到達する光のうちの一部だけが出射し、残る光は、さらに全反射を続けて導波方向の下流側(入射部21から遠ざかる方向であり、
図3中の右側)へさらに進み、再び出射部22の回折格子に到達する。この再び出射部22の回折格子に到達する光も、一部だけが出射し、残る光は、さらに全反射を続ける。これを繰り返すことにより、射出瞳が複数形成されて、射出瞳の拡張作用を得ることができる。このように、本実施形態では、出射部22は、射出瞳を拡張する拡張部としての機能も兼ねている。射出瞳が拡張(複数に分割)されることにより、観察位置(目の位置)が移動しても、いずれかの射出瞳が観察可能となり、目の位置が特定の位置に限定されずに使い勝手を向上できる。なお、
図3では、3つの射出瞳に分けられるように簡素化して示しているが、実際にはより多くの射出瞳に拡張(分割)される。
【0025】
図4は、2次元方向で射出瞳を拡張する構成とした射出瞳拡張素子40Bを示す図である。
先に説明した射出瞳拡張素子40では、一方向(1次元方向:
図2中の射出瞳拡張素子40の長手方向)についてのみ射出瞳を拡張する形態の素子である。これに代えて、直交する2方向(2次元方向)で射出瞳を拡張する構成とした射出瞳拡張素子40Bを用いてもよい。
射出瞳拡張素子40Bは、先に説明した射出瞳拡張素子40と同様に、基材層10と、賦型層20とを備えている。射出瞳拡張素子40Bの賦型層20は、その表面に入射部21と、第2拡張部23と、出射部22Bを備えている。
【0026】
入射部21は、先に説明した射出瞳拡張素子40と同様に体積ホログラム21により構成されている。
第2拡張部23は、2レベルの回折格子により構成されており、入射部21から導波された光が進む向きに対して、45°傾いた向きに高屈折率部231が延在して配置されている。第2拡張部23は、入射部21から入射した光が進む向きを90°偏向させて出射部22Bへ進め、出射部22(第1拡張部)が光を拡張する向きと90°交差する向きに射出瞳を拡張する。なお、
図4では、射出瞳が3本に拡張されるように描いているが、実際は、第2拡張部23において反射を繰り返す数に応じた本数に射出瞳が分割されて拡張される。
【0027】
出射部22Bは、配置位置が異なる点と、高屈折率部221Bの配列方向が異なる点とが、先に説明した射出瞳拡張素子40の出射部22と異なっている。出射部22Bには、第2拡張部23によって偏向及び拡張された光が到達し、先に説明した射出瞳拡張素子40の出射部22と同様に、光を順次出射しながら射出瞳を分割して拡張する。出射部22Bが射出瞳を拡張する方向は、第2拡張部23が射出瞳を拡張する方向と直交する方向である。
【0028】
上述の例では、入射部21(体積ホログラム21)は、透過型の体積ホログラムを用いている例を示したが、反射型の体積ホログラムであっても、導波部内へ光を入射する入射部に用いることができる。
図5は、反射型の体積ホログラム21B(入射部21B)を配置した場合の射出瞳拡張素子40Cを
図3と同様に示した図である。
【0029】
本実施形態の頭部装着型表示装置1では、上述した射出瞳拡張素子40、射出瞳拡張素子40B、射出瞳拡張素子40Cのいずれを採用する場合であっても、入射部21、21Bには、体積ホログラム21、21Bを採用することとした。これは、体積ホログラム21、21Bは、レリーフ型の回折格子よりも回折効率を高くすることができるので、より多くの映像光を導波部10aへ取り入れることができることからである。以下、体積ホログラム21、21Bについて、より具体的に説明する。なお、以下の説明では、透過型の体積ホログラム21と反射型の体積ホログラム21Bとを区別せずに、単に体積ホログラム21とも呼称することとする。
【0030】
体積ホログラム21を形成するためのホログラム形成用感光材料としては、例えば、銀塩材料、重クロム酸ゼラチン乳剤、光重合性樹脂、光架橋性樹脂等の公知の体積ホログラム21用の感光材料を使用することができる。
【0031】
[ホログラム形成用感光材料]
本発明に係るホログラム形成用感光材料は、光重合性モノマーと、光重合開始剤と、前記光重合開始剤を増感せしめる増感色素と、バインダー樹脂と、を含有し、前記光重合性モノマーが少なくとも光ラジカル重合性モノマー及び光カチオン重合性モノマーを含む。
【0032】
<光重合性モノマー>
本発明における光重合性モノマーは、光照射によって重合又は二量化反応が進行し、かつ、ホログラム記録層中で拡散移動できる化合物である。
本発明における光重合性モノマーとしては、例えば、光ラジカル重合性モノマー、光カチオン重合性モノマー及び光二量化性化合物等を挙げることができるが、少なくとも光ラジカル重合性モノマー及び光カチオン重合性モノマーを含む。
以下、光ラジカル重合性モノマー及び光カチオン重合性モノマーについて説明する。
【0033】
(光ラジカル重合性モノマー)
本発明に用いられる光ラジカル重合性モノマーとしては、本発明のホログラム形成用感光材料を用いてホログラム記録層を形成する際に、例えばレーザー照射等によって、後述する光ラジカル重合開始剤から発生した活性ラジカルの作用により重合する化合物であれば、特に限定されるものではないが、分子中に少なくとも1つのエチレン性不飽和二重結合を持つ化合物を使用することが好ましい。例えば、不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸塩、不飽和カルボン酸と脂肪族多価アルコール化合物とのエステル、不飽和カルボン酸と脂肪族多価アミン化合物とのアミド結合物等を挙げることができる。
【0034】
上記光ラジカル重合性モノマーの例としては、メチルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、ラウリルアクリレート、N-アクリロイルモルホリン、2-エチルヘキシルカルビトールアクリレート、イソボニルアクリレート、メトキシプロピレングリコールアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、アクリルアミド、メタクリルアミド、スチレン、2-ブロモスチレン、フェニルアクリレート、2-フェノキシエチルアクリレート、2,3-ナフタレンジカルボン酸(アクリロキシエチル)モノエステル、メチルフェノキシエチルアクリレート、ノニルフェノキシエチルアクリレート、β-アクリロキシエチルハイドロゲンフタレート、フェノキシポリエチレングリコールアクリレート、2,4,6-トリブロモフェニルアクリレート、ジフェン酸(2-メタクリロキシエチル)モノエステル、ベンジルアクリレート、2,3-ジブロムプロピルアクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルアクリレート、2-ナフチルアクリレート、N-ビニルカルバゾール、2-(9-カルバゾリル)エチルアクリレート、トリフェニルメチルチオアクリレート、2-(トリシクロ[5,2,102・6]ジブロモデシルチオ)エチルアクリレート、S-(1-ナフチルメチル)チオアクリレート、ジシクロペンタニルアクリレート、メチレンビスアクリルアミド、ポリエチレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ジフェン酸(2-アクリロキシエチル)(3-アクリロキシプロピル-2-ヒドロキシ)ジエステル、2,3-ナフタリンジカルボン酸(2-アクリロキシエチル)(3-アクリロキシプロピル-2-ヒドロキシ)ジエステル、4,5-フェナントレンジカルボン酸(2-アクリロキシエチル)(3-アクリロキシプロピル-2-ヒドロキシ)ジエステル、ジブロムネオペンチルグリコールジアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、1,3-ビス[2-アクリロキシ-3-(2,4,6-トリブロモフェノキシ)プロポキシ]ベンゼン、ジエチレンジチオグリコールジアクリレート、2,2-ビス(4-アクリロキシエトキシフェニル)プロパン、ビス(4-アクリロキシジエトキシフェニル)メタン、ビス(4-アクリロキシエトキシ-3,5-ジブロモフェニル)メタン、2,2-ビス(4-アクリロキシエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-アクリロキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-アクリロキシエトキシ-3,5-ジブロモフェニル)プロパン、ビス(4-アクリロキシエトキシフェニル)スルホン、ビス(4-アクリロキシジエトキシフェニル)スルホン、ビス(4-アクリロキシプロポキシフェニル)スルホン、ビス(4-アクリロキシエトキシ-3,5-ジブロモフェニル)スルホン、及び上記におけるアクリレートをメタクリレートに変えた化合物、さらには、特開平2-247205号公報や特開平2-261808号公報に記載されているような分子内に少なくともS原子を2個以上含む、エチレン性不飽和二重結合含有化合物等が挙げられ、これらを1種、又は2種以上混合して用いることができる。
【0035】
また、光ラジカル重合性モノマーの平均屈折率は、後述する光カチオン重合性モノマーの平均屈折率より大きいことが好ましく、中でも0.02以上大きいことが好ましい。これは、光ラジカル重合性モノマーと光カチオン重合性モノマーとの平均屈折率の差が上記の値よりも小さいと、所望の屈折率変調量(Δn)が得られない可能性があるからである。
【0036】
(光カチオン重合性モノマー)
本発明に用いられる光カチオン重合性モノマーは、エネルギー照射を受け、後述する光カチオン重合開始剤の分解により発生したブレンステッド酸あるいはルイス酸によってカチオン重合する化合物である。例えば、エポキシ基やオキセタン基等の官能基を有する環状エーテル類、チオエーテル類、ビニルエーテル類等を挙げることができる。
また、光ラジカル重合性モノマーと光カチオン重合性モノマーとを併用する場合、上記光ラジカル重合性モノマーの重合が、比較的低粘度の組成物中で行われることが好ましいという点から、本発明における光カチオン重合性モノマーは、常温で液状であることが好ましい。
【0037】
上記光カチオン重合性モノマーとしては、例えば、ジグリセロールジエーテル、ペンタエリスリトールポリジグリシジルエーテル、1,4-ビス(2,3-エポキシプロポキシパーフルオロイソプロピル)シクロヘキサン、ソルビトールポリグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル等を挙げることができる。
【0038】
本発明においては、上述した光カチオン重合性モノマーの1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0039】
本発明のホログラム形成用感光材料における、光重合性モノマーの合計量の含有量は、ホログラム形成用感光材料の全固形分100質量部に対して8.5~85質量部であることが好ましく、8.5~70質量部であることがさらに好ましい。ここで、固形分とは溶媒以外の成分をいい、常温で液状のモノマーも固形分に含まれる。
光重合性モノマーの合計の含有量が上記範囲よりも少ないと、大きい屈折率変調量(Δn)を得ることができず、高輝度の体積ホログラム記録体を得ることができない可能性があるからである。一方、光重合性モノマーの含有量が上記範囲よりも大きいと、バインダー樹脂の含有量が相対的に減少し、ホログラム記録層を保持できない可能性があるからである。
【0040】
また、本発明のホログラム形成用感光材料における、光重合性モノマーにおいて、光ラジカル重合性モノマーと光カチオン重合性モノマーとの含有比は、光ラジカル重合性モノマー100質量部に対して、光カチオン重合性モノマーが30~90質量部の範囲内であることが好ましく、さらに、50~80質量部の範囲内であることがさらに好ましい。
【0041】
<光重合開始剤>
本発明のホログラム形成用感光材料を構成する光重合開始剤としては、光ラジカル重合開始剤、及び光カチオン重合開始剤を用いることができる。
【0042】
(光ラジカル重合開始剤)
本発明に用いられる光ラジカル重合開始剤としては、イミダゾール誘導体、ビスイミダゾール誘導体、N-アリールグリシン誘導体、有機アジド化合物、チタノセン類、アルミナート錯体、有機過酸化物、N-アルコキシピリジニウム塩、チオキサントン誘導体等が挙げられ、さらに具体的には、1,3-ジ(t-ブチルジオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3’,4,4’-テトラキス(t-ブチルジオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3-フェニル-5-イソオキサゾロン、2-メルカプトベンズイミダゾール、ビス(2,4,5-トリフェニル)イミダゾール、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン(商品名イルガキュア651、BASF社製)、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン(商品名イルガキュア184、BASF社製)、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン-1(商品名イルガキュア369、BASF社製)、ビス(η5-2,4-シクロペンタジエン-1-イル)-ビス(2,6-ジフルオロ-3-(1H-ピロール-1-イル)-フェニル)チタニウム(商品名イルガキュア784、BASF社製)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0043】
光カチオン重合開始剤としては、スルホン酸エステル、イミドスルホネート、ジアルキル-4-ヒドロキシスルホニウム塩、アリールスルホン酸-p-ニトロベンジルエステル、シラノール-アルミニウム錯体、(η6-ベンゼン)(η5-シクロペンタジエニル)鉄(II)等が例示され、さらに具体的には、ベンゾイントシレート、2,5-ジニトロベンジルトシレート、N-トシフタル酸イミド等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0044】
光ラジカル重合開始剤としても、光カチオン重合開始剤としても用いられるものとしては、芳香族ヨードニウム塩、芳香族スルホニウム塩、芳香族ジアゾニウム塩、芳香族ホスホニウム塩、トリアジン化合物、鉄アレーン錯体等が例示され、さらに具体的には、ジフェニルヨードニウム、ジトリルヨードニウム、ビス(p-tert-ブチルフェニル)ヨードニウム、ビス(p-クロロフェニル)ヨードニウム等のヨードニウムのクロリド、ブロミド、ホウフッ化塩、ヘキサフルオロホスフェート塩、ヘキサフルオロアンチモネート塩等のヨードニウム塩、トリフェニルスルホニウム、4-tert-ブチルトリフェニルスルホニウム、トリス(4-メチルフェニル)スルホニウム等のスルホニウムのクロリド、ブロミド、ホウフッ化塩、ヘキサフルオロホスフェート塩、ヘキサフルオロアンチモネート塩等のスルホニウム塩、2,4,6-トリス(トリクロロメチル)-1,3,5-トリアジン、2-フェニル-4,6-ビス(トリクロロメチル)-1,3,5-トリアジン、2-メチル-4,6-ビス(トリクロロメチル)-1,3,5-トリアジン等の2,4,6-置換-1,3,5-トリアジン化合物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0045】
光重合開始剤は、記録されたホログラムの安定化の観点から、ホログラム記録後に分解処理されるものであることが好ましい。
【0046】
本発明のホログラム形成用感光材料における光重合開始剤の含有量は、ホログラム形成用感光材料の全固形分100質量部に対して0.04~6.5質量部であることが好ましく、1.8~5.0質量部であることがさらに好ましい。
上記光重合開始剤の含有量が、上記範囲よりも少ない場合、上述した光重合性モノマーが十分に重合せず、所望の屈折率変調量(Δn)が得られない可能性があるからである。一方で上記範囲よりも多い場合、未反応の光重合開始剤がホログラム特性を悪化させる可能性があるからである。
【0047】
<増感色素>
本発明における増感色素は、一般的に光を吸収する成分であり、光重合開始剤の記録光に対する感度を増感させる働きを有する。ホログラム形成用感光材料は、増感色素を用いることによって可視光にも活性となり、可視レーザー光を用いてホログラムを記録することが可能となるからである。
【0048】
本発明に用いられる増感色素としては、チオピリリウム塩系色素、メロシアニン系色素、キノリン系色素、スチリルキノリン系色素、クマリン系色素、ケトクマリン系色素、チオキサンテン系色素、キサンテン系色素、オキソノール系色素、シアニン系色素、ローダミン染料、ピリリウムイオン系色素、シクロペンタノン系色素、シクロヘキサノン系色素、ジフェニルヨードニウムイオン系色素等を挙げることができる。シアニン系色素、メロシアニン系色素の具体例としては、3,3’-ジカルボキシエチル-2,2’-チオシアニンブロミド、1-カルボキシメチル-1’-カルボキシエチル-2,2’-キノシアニンブロミド、1,3’-ジエチル-2,2’-キノチアシアニンヨージド、3-エチル-5-[(3-エチル-2(3H)-ベンゾチアゾリリデン)エチリデン]-2-チオキソ-4-オキサゾリジン、3,9-ジエチル-3’-カルボキシメチル-2,2’-チアカルボシアニン・ヨウ素塩等が挙げられ、クマリン系色素、ケトクマリン系色素の具体例としては、3-(2’-ベンゾイミダゾール)-7-ジエチルアミノクマリン、3,3’-カルボニルビス(7-ジエチルアミノクマリン)、3,3’-カルボニルビスクマリン、3,3’-カルボニルビス(5,7-ジメトキシクマリン)、3,3’-カルボニルビス(7-アセトキシクマリン)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0049】
後述する体積ホログラム記録体において、高透明性が要求される場合は、干渉露光工程後の、加熱工程又は光照射工程時に、分解等により脱色しやすいものが好ましく、例えば、シアニン系色素のように一般的に光によって分解しやすい色素が好ましい。室内光や太陽光の下に数時間から数日放置することにより、体積ホログラム記録体中の色素が分解されて可視光域に吸収波長域を有しなくなり、透明度の高い体積ホログラム記録体を得ることができるからである。
【0050】
上記増感色素の含有量は、ホログラム形成用感光材料の全固形分100質量部に対して0.001~2.0質量部であることが好ましく、0.001~1.2質量部であることがさらに好ましい。
上記増感色素の含有量が上記範囲よりも多い場合、高透明性が要求される際に、光照射による色素の分解が十分になされず、着色されたホログラム記録層となる可能性があり、一方、上記範囲よりも少ない場合、光重合開始剤の感度を十分に増感させることができず、ホログラム形成用感光材料が可視光に不活性となる可能性があるからである。
【0051】
<バインダー樹脂>
バインダー樹脂は、ホログラム記録層の成膜性、膜厚の均一性を向上させ、光照射による重合で形成されたホログラムを安定化させる働きを有し、ホログラム記録層の屈折率変調量(Δn)の増加、耐熱性及び機械物性等の向上に寄与するものである。
本発明において用いられるバインダー樹脂としては、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂より選択される1種以上が好適に用いられる。中でも、少なくとも熱可塑性樹脂を用いることが好ましく、さらに、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂を併用することが屈折率変調量(Δn)の増加、耐熱性及び機械物性等の向上の点から好ましい。
【0052】
(熱可塑性樹脂)
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリビニルアセテート、ポリビニルブチラート、ポリビニルホルマール、ポリビニルカルバゾール、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルアクリレート、ポリブチルアクリレート、ポリメタクリロニトリル、ポリエチルメタクリレート、ポリブチルメタクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリ-1,2-ジクロロエチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、シンジオタクチック型ポリメチルメタクリレート、ポリ-α-ビニルナフタレート、ポリカーボネート、セルロースアセテート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートブチラート、ポリスチレン、ポリ-α-メチルスチレン、ポリ-o-メチルスチレン、ポリ-p-メチルスチレン、ポリ-p-フェニルスチレン、ポリ-2,5-ジクロロスチレン、ポリ-p-クロロスチレン、ポリ-2,5-ジクロロスチレン、ポリアリーレート、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、スチレン-アクリロニトリル共重合体、スチレン-ジビニルベンゼン共重合体、スチレン-ブタジエン共重合体、スチレン-無水マレイン酸共重合体、ABS樹脂、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリビニルピロリドン、ポリ塩化ビニリデン、水素化スチレン-ブタジエン-スチレン共重合体、透明ポリウレタン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、(メタ)アクリル酸環状脂肪族エステルとメチル(メタ)アクリレートとの共重合体等が挙げられる。
熱可塑性樹脂は、1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0053】
本発明のバインダー樹脂に用いられる熱可塑性樹脂としては、中でも、ポリアクリル酸エステルを含有することが、屈折率変調量(Δn)の増加の点から好ましい。
【0054】
本発明で用いられるポリアクリル酸エステルとしては、例えば、ポリメチルアクリレート、ポリエチルアクリレート、ポリn-プロピルアクリレート、ポリn-ブチルアクリレート、ポリベンジルアクリレート、ポリn-ヘキシルアクリレート、ポリイソプロピルアクリレート、ポリイソブチルアクリレート、ポリ-t-ブチルアクリレート、ポリシクロヘキシルアクリレート、ポリフェニルアクリレート、ポリ1-フェニルエチルアクリレート、ポリ2-フェニルエチルアクリレート、ポリフルフリルアクリレート、ポリジフェニルメチルアクリレート、ポリペンタクロルフェニルアクリレート、ポリナフチルアクリレート等が挙げられる。ポリ(メタ)アクリル酸エステルにさらにポリ(メタ)アクリル酸エステルの加水分解物が含まれていてもよい。本発明におけるバインダー樹脂に用いられる熱可塑性樹脂は、中でも、屈折率変調量(Δn)の増加の点、及び保存安定性の点から、ポリメチルメタクリレート、及びポリメチルメタクリレートとポリ(メタ)アクリル酸エステルの共重合体が好ましい。
【0055】
本発明におけるバインダー樹脂に用いられる、熱可塑性樹脂の重量平均分子量は、ホログラム記録時の光重合性モノマーの拡散移動能の点、及び、高温保存安定性の点からは、20000~150000の範囲内であることが好ましく、80000~150000の範囲内であることがより好ましく、120000~140000の範囲内であることがさらに好ましい。
なお、本発明における重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィ-(GPC)測定のポリスチレン換算値をいう。
【0056】
本発明におけるバインダー樹脂に用いられる、熱可塑性樹脂のガラス転移温度(Tg)は、60℃~150℃の範囲内であることが好ましく、70℃~120℃の範囲内であることがより好ましい。
ガラス転移温度(Tg)が上記範囲よりも高いと、光重合性モノマーの拡散移動能が劣り、所望の屈折率変調量(Δn)が得られず、輝度の高い体積ホログラム記録体が得られない可能性があるからである。一方、ガラス転移温度(Tg)が上記範囲よりも低いと、高温保存下にて、バインダー樹脂が軟化し、干渉縞が乱れるため、所望の屈折率変調量(Δn)が得られない可能性があるからである。
なお、ガラス転移温度(Tg)は、示差熱分析計(DSC)等を用いて測定することができる。
【0057】
(熱硬化性樹脂)
本発明におけるバインダー樹脂に熱硬化性樹脂を用いると、加熱工程において硬化されることにより、ホログラム記録層の強度を高め、体積ホログラム記録特性が向上し、安定した層構造を形成させることができる。また、上記熱硬化性樹脂の官能基の一部は、光照射により光重合性モノマーの官能基の一部との間で相互作用が起こり、化学結合を形成することができる。この場合、体積ホログラム記録後の光照射工程により、光重合性モノマーが固定されるため、体積ホログラム記録体の強度を高めることができる。
【0058】
本発明におけるバインダー樹脂に用いられる熱硬化性樹脂としては、特に限定されるものではなく、熱硬化性基を有するモノマー、オリゴマー、及びポリマーを好適に使用することができる。
上記熱硬化性樹脂としては、例えば、ヒドロキシル基、メルカプト基、カルボキシル基、アミノ基、エポキシ基、オキセタン基、イソシアネート基、カルボジイミド基、オキサジン基、及び金属アルコキサイド等を含有する化合物等を挙げることができる。本発明においては、中でも、エポキシ基及びオキセタン基を含有する化合物を用いることがより好ましく、エポキシ基含有化合物を用いることがさらに好ましい。本発明で用いられるエポキシ基含有化合物としては、一分子中にエポキシ基を1個以上含有する樹脂であれば特に限定されるものではない。
【0059】
上記のエポキシ基を有する化合物のうち、エポキシ基を1つ有する単官能エポキシ化合物としては、例えば、フェニルグリシジルエーテル、p-tert-ブチルフェニルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、1,2-ブチレンオキサイド、1,3-ブタジエンモノオキサイド、1,2-エポキシドデカン、エピクロロヒドリン、1,2-エポキシデカン、スチレンオキサイド、シクロヘキセンオキサイド、中でも重合性不飽和結合を含有するものとして、3-メタクリロイルオキシメチルシクロヘキセンオキサイド、3-アクリロイルオキシメチルシクロヘキセンオキサイド、3-ビニルシクロヘキセンオキサイド、グリシジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0060】
また、エポキシ基を2つ以上有する多官能エポキシ化合物としては、例えば、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、ビスフェノールSジグリシジルエーテル、臭素化ビスフェノールAジグリシジルエーテル、臭素化ビスフェノールFジグリシジルエーテル、臭素化ビスフェノールSジグリシジルエーテル、エポキシノボラック樹脂、水添ビスフェノールAジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールFジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールSジグリシジルエーテル、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3’,4’-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル-5,5-スピロ-3,4-エポキシ)シクロヘキサン-メタ-ジオキサン、ビス(3,4-エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、ビニルシクロヘキセンオキサイド、4-ビニルエポキシシクロヘキサン、ビス(3,4-エポキシ-6-メチルシクロヘキシルメチル)アジペート、3,4-エポキシ-6-メチルシクロヘキシル-3’,4’-エポキシ-6’-メチルシクロヘキサンカルボキシレート、メチレンビス(3,4-エポキシシクロヘキサン)、ジシクロペンタジエンジエポキサイド、エチレングリコールのジ(3,4-エポキシシクロヘキシルメチル)エーテル、エチレンビス(3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート)、エポキシヘキサヒドロフタル酸ジオクチル、エポキシヘキサヒドロフタル酸ジ-2-エチルヘキシル、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル類、1,1,3-テトラデカジエンジオキサイド、リモネンジオキサイド、1,2,7,8-ジエポキシオクタン、1,2,5,6-ジエポキシシクロオクタン等があげられる。
その他、エポキシ基含有ポリマーも好適に用いられる。エポキシ基含有ポリマーとしては、例えば、エポキシ基やグリシジル基を有する単量体を共重合成分として用いた共重合体等が挙げられる。上記エポキシ基やグリシジル基を有する単量体としては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、マレイン酸グリシジルエステル等のα,β-不飽和カルボン酸のグリシジルエステル等が挙げられる。
これらのエポキシ化合物は、1種のみを単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0061】
本発明におけるバインダー樹脂に用いられる熱硬化性樹脂の重量平均分子量は、5000~100000の範囲内であることが好ましく、10000~50000の範囲内であることが、屈折率変調量(Δn)を向上する点、及び、ホログラム記録層の膜強度の点から、より好ましい。
【0062】
バインダー樹脂として熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂を併用する場合の、熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂の配合比は、屈折率変調量(Δn)の向上と、体積ホログラム記録体の強度の点から、質量比で熱可塑性樹脂/熱硬化性樹脂=50/50~90/10の範囲内であることが好ましく、60/40~90/10の範囲内であることがより好ましく、70/30~80/20の範囲内であることがさらに好ましい。
【0063】
本発明のホログラム形成用感光材料における、バインダー樹脂の含有量は、屈折率変調量(Δn)の向上と、体積ホログラム記録体の強度の点から、ホログラム形成用感光材料の全固形分100質量部に対して、1~40質量部であることが好ましく、25~35質量部であることがより好ましい。
【0064】
<その他の成分>
本発明のホログラム形成用感光材料は、本発明の効果を損なわない限り、必要に応じて、微粒子、熱重合防止剤、シランカップリング剤、着色剤等を併用してよい。
例えば、良好な箔切れ性を付与したい場合には、微粒子が用いられることが好ましい。
微粒子としては、例えば、樹脂骨格として低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(メタ)アクリル等を含む有機微粒子、シリカ、マイカ、タルク、チタニア等の無機粒子等を用いることができ、これらの微粒子を1種、又は2種以上を混合して使用してもよい。上記の中でも、上記有機微粒子の樹脂中の骨格又は、側鎖の水素の一部又は全部をフッ素原子で置換した含フッ素系樹脂の微粒子であるフッ素系微粒子、又は、チタニア微粒子であることが好ましい。
【0065】
本発明のホログラム形成用感光材料は、塗工する際に必要に応じて溶媒を用いてもよい。ホログラム形成用感光材料のうち、常温で液状である成分が含有されている場合は、塗工溶媒が全く必要ない場合もある。
上記溶媒としては、例えばメチルエチルケトン、アセトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチレングリコールジアセテート等のエステル系溶媒、トルエン、キシレン等の芳香族系溶媒、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ等のセロソルブ系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール系溶媒、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒、ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン系溶媒、又はそれらの混合溶媒等が挙げられる。
【0066】
なお、上述した材料は、体積ホログラムを形成する材料として用いられる材料を例示したに過ぎず、これらに限定されるものではない。
また、このようなホログラム形成用感光材料を用いた体積ホログラム21の形成は、従来公知のホログラムの形成方法と同様とすることができる。
【0067】
映像源50は、光源として、例えば、LED光源やレーザー光源等が用いられる。
映像源50にLED光源を用いている場合、体積ホログラム21に到達する光の帯域は広い。ここで、光源の帯域と比較して体積ホログラム21の帯域が狭い場合は、回折されない波長の光は、有効に利用することができないので、効率が低くなる。
図6は、光源の分光分布曲線と体積ホログラムの回折効率の分布例を体積ホログラムの効率の半値幅が4nmの場合について示す図である。
図7は、光源の分光分布曲線と体積ホログラムの回折効率の分布例を体積ホログラムの効率の半値幅が10nmの場合について示す図である。
図6及び
図7のいずれについても、光源の光量のピークと回折効率のピークとが一致している場合を想定している。体積ホログラムの効率の半値幅が4nmでは、利用できる光量がかなり少なくなっており、これ以上、体積ホログラムの半値幅が小さくなってしまうことは望ましくない。よって、少なくとも、体積ホログラムの半値幅は、5nm以上とすることが望ましい。
【0068】
図8は、温度変化によって体積ホログラムのピークがずれた例を体積ホログラムの効率の半値幅が4nmの場合について示す図である。
図9は、温度変化によって体積ホログラムのピークがずれた例を体積ホログラムの効率の半値幅が10nmの場合について示す図である。
体積ホログラムの効率ピークは、温度変化によってずれる場合がある。例えば、温度が20℃変化すると、体積ホログラムの効率ピークは、2nm程度ずれる場合がある。この場合、利用可能な光の波長がずれるので、色度ずれが懸念される。
図8及び
図9に示すように体積ホログラムの効率の半値幅が広い方が、色度ずれに対しても有利であることがわかる。
【0069】
また、映像源50にレーザー光源を用いている場合、体積ホログラム21に到達する光の帯域は非常に狭い。レーザー光を用いる場合、温度変化によって回折効率の変化がより大きな問題となる。より具体的には、体積ホログラム21の波長選択性が高すぎると、温度変化によって、所望の回折効率が得られず、暗い映像しか観察できなかったり、観察される画像の色バランスがずれてしまったりすることがあった。
【0070】
図10は、体積ホログラム21の波長選択性が非常に高い場合の波長に対する回折効率の分布を示す図である。
図10の横軸は、波長を示し、縦軸は、体積ホログラム21の回折効率を示している。また、
図10中で、常温における回折効率の分布を実線で示し、高温時を破線で示し、低温時を一点鎖線で示した。
図10に実線で示すように波長選択性が非常に高い体積ホログラム21は、レーザー光の帯域以外の光を殆ど回折しないことから、一見、理想的に思われる。しかし、体積ホログラム21の温度が変化すると、選択的に回折する波長が変化する。
図10に示すように、高温時には、長波長側へ回折波長がシフトし、低温時には、短波長側へ回折波長がシフトする。これは、温度変化によって体積ホログラム21が膨張、又は、収縮することに起因すると考えられる。
図10に示すように、高温時、低温時のいずれにおいても、体積ホログラム21が回折する波長帯域は、レーザー光の帯域から大きくずれてしまい、十分な光量の回折光を得ることができない。
【0071】
そこで、本実施形態では、温度変化による影響が小さい体積ホログラム21を作成した。
図11は、本実施形態の体積ホログラム21の20℃における回折効率の分布の例を示す図である。
図11に例示した本実施形態の体積ホログラム21は、分光分布曲線において半値幅が5nmとなっている。本明細書において、分光分布曲線における半値幅とは、分光分布曲線におけるピーク値の半値となるときの曲線の幅(波長範囲であり、半値全幅とも呼ぶ)である。なお、分光分布曲線の縦軸は、光量そのものであってもよいし、回折効率であってもよい。本実施形態では、回折効率の分布曲線を分光分布曲線とした。
【0072】
なお、分光分布曲線については、実際に回折反射されたレーザー光を測定して求めてもよいし、体積ホログラム21によって回折反射されずにそのまま透過したレーザー光を測定して求めてもよい。また、分光光度計((株)島津製作所製「UV-3100PC」、JIS K 0115準拠品)等を使っても測定を行ってもよい。
【0073】
また、
図11中には、映像源50が出射するレーザー光の帯域も
図10と同様に併記した。本実施形態の映像源50が出射するレーザー光の帯域は、530nmを中心として波長幅が1nmである。
図11に示すように、20℃では、回折効率のピーク位置と映像源50が出射するレーザー光の帯域が略一致しており、効率よくレーザー光を回折反射できる。
【0074】
図12は、本実施形態の体積ホログラム21の40℃における回折効率の分布を示す図である。
40℃では、回折効率の分布曲線(分光分布曲線)が長波長側へ略2nmシフトするが、本実施形態の体積ホログラム21は、分光分布曲線において半値幅が5nmとなっていることから、回折効率の低下は略半分程度に抑えられており、映像の表示が十分に可能である。
【0075】
図13は、本実施形態の体積ホログラム21の0℃における回折効率の分布を示す図である。
0℃においても、回折効率の分布曲線(分光分布曲線)が短波長側へ略2nmシフトするが、本実施形態の体積ホログラム21は、分光分布曲線において半値幅が5nmとなっていることから、回折効率の低下は略半分程度に抑えられており、映像の表示が十分に可能である。
【0076】
よって、体積ホログラム21は、分光分布曲線において半値幅が5nm以上あることが望ましいといえる。
また、より好ましくは、体積ホログラム21は、分光分布曲線において半値幅が10nm以上あることが望ましい。
また、さらに好ましくは、体積ホログラム21は、分光分布曲線において半値幅が20nm以上あることが望ましい。
図14は、半値幅が5nm、10nm、20nmの回折効率の分布曲線を示す図である。
図14のように、半値幅が広くなるほど、温度変化の影響を受けにくくすることができる。
さらに、最大効率の90%の位置での波長幅が5nm以上が好ましく、10nm以上であるとさらに好ましい。中心波長がずれても効率が殆ど変わらないことから、温度変化の影響をさらに小さくすることができるからである。
【0077】
次に、上述したように分光分布曲線において半値幅が広い体積ホログラム21のより具体的な構成について説明する。
体積ホログラム21の回折光の半値幅は、その膜厚と屈折率変調量Δnとの影響を大きく受けることが考えられるので、先ず、これらの最適な範囲を規定する。
図15は、シミュレーション条件を示す図である。
図15(a)は、シミュレーション条件の一覧を示し、
図15(b)は、入射角と出射角の条件を示している。
ここでは、
図15に示す条件下で体積ホログラム21のシミュレーションを行い、半値幅への膜厚と屈折率変調量Δnとの影響を調べた。なお、屈折率変調量Δnについては、露光前の材料の選定、配合によって大きく変わるものであるが、露光条件によっても変化させることができるので、所望の値とすることが十分に可能である。なお、以下に示すシミュレーションの結果は、P偏光とS偏光の平均値を用いている。
【0078】
反射型ホログラムのシミュレーションは、KogelnikのCoupled Wave theory(The Bell System Technical Journal Vol.48,No.9,pp.2909-2947(Nov.1969))に基づいて行った。
反射型ホログラムの回折効率ηは、媒質での吸収が無視できる場合に、次式(A)で与えられる。
【0079】
η=1/[1+(1-ξ2/ν2)/sinh2{√(ν2-ξ2)}]・・・(A)
ここで、νとξは次式で与えられる。
【0080】
ν=πtΔn/{λ√(cosθR・cosθS)}
ξ=t/2×(kRz+Kz-kSz)
ただし、
t:感光材料の厚み
λ:真空中の波長
θR:入射光とホログラム面法線ベクトルのなす角
θS:回折光とホログラム面法線ベクトルのなす角
kRz:入射光の波数ベクトルのホログラム面法線方向の成分
kSz:回折光の波数ベクトルのホログラム面法線方向の成分
Kz:回折格子ベクトルのホログラム面法線方向の成分
Δn:ホログラム媒質の屈折率変調の振幅
n:ホログラム媒質の平均屈折率
である。
【0081】
ここで、光の波数ベクトルkは、|k|=2πn/λで与えられ、回折格子ベクトルKは、体積ホログラムの干渉縞面に垂直なベクトルで干渉縞の周期(格子間隔)をΛとすると、|K|=2π/Λで与えられる。
【0082】
(膜厚tとΔnとを変数とした半値幅シミュレーション)
図16は、膜厚tとΔnとを変化させて半値幅を求めたシミュレーションの結果をまとめた図である。
図16では、膜厚tを15種類、Δnを20種類、それぞれ組み合わせて、計300種類のシミュレーションを行った結果をまとめている。
図16を見ると、膜厚tは薄い方が望ましく、Δnは高い値が望ましいことは解るが、定量的に把握することが難しい。そこで、
図16に示した結果から、膜厚tとΔnとの組み合わせで好ましい範囲を数式化した。
具体的には、
図16に示した半値幅は、その数値範囲で複数領域に分けることが可能であるので、境界とする半値幅が得られる膜厚tとΔnとの組み合わせからなるデータ群を集めて、そのデータ群を表す近似式を求めた。境界としては、半値幅が5nm、10nm、15nm、20nm、30nmとなる境界を設定した。
【0083】
図17は、半値幅から求めた膜厚tとΔnとの好ましい組み合わせ範囲を示す近似式のグラフである。
上述した境界値となる半値幅5nm、10nm、15nm、20nm、30nm毎に多項式近似を行った結果を
図17中に併記した。
【0084】
半値幅5nmの近似結果から、
Δn≧5.87×10-3×ln(t)-1.29×10-2
の関係を満たすことが望ましいといえる。この関係を満たすことにより、半値幅を5nm以上とすることができる。
【0085】
より望ましくは、半値幅10nmの近似結果から、
Δn≧1.10×10-2×ln(t)-1.42×10-2
の関係を満たすことが望ましいといえる。この関係を満たすことにより、半値幅を10nm以上とすることができる。
【0086】
より望ましくは、半値幅15nmの近似結果から、
Δn≧4.60×10-3×ln(t)+2.26×10-2
の関係を満たすことが望ましいといえる。この関係を満たすことにより、半値幅を15nm以上とすることができる。
【0087】
より望ましくは、半値幅20nmの近似結果から、
Δn≧8.40×10-3×ln(t)+2.42×10-2
の関係を満たすことが望ましいといえる。この関係を満たすことにより、半値幅を20nm以上とすることができる。
【0088】
より望ましくは、半値幅30nmの近似結果から、
Δn≧6.31×10-4×ln(t)+7.47×10-2
の関係を満たすことが望ましいといえる。この関係を満たすことにより、半値幅を30nm以上とすることができる。
【0089】
(膜厚tとΔnとを変数とした回折効率シミュレーション)
膜厚t及びΔnが変わると、上述した半値幅のみならず、回折効率も影響を受ける。そこで、回折効率を考慮して、膜厚tとΔnとの適切な範囲をさらに限定する。
図18は、膜厚tとΔnとを変化させて回折効率の最大値を求めたシミュレーションの結果をまとめた図である。
図18についても、
図16の場合と同様に膜厚tを15種類、Δnを20種類、それぞれ組み合わせて、計300種類のシミュレーションを行った結果をまとめている。
図18を見ると、膜厚tは厚い方が望ましく、Δnは高い値が望ましいことは解るが、定量的に把握することが難しい。そこで、
図16の場合と同様に、
図18に示した結果から、膜厚tとΔnとの組み合わせで好ましい範囲を数式化した。
具体的には、境界としては、回折効率の最大値が0.02、0.05、0.1、0.4、0.6、0.8となる境界を設定した。
【0090】
図19は、回折効率の最大値から求めた膜厚tとΔnとの好ましい組み合わせ範囲を示す近似式のグラフである。
上述した境界値となる回折効率の最大値0.02、0.05、0.1、0.4、0.6、0.8毎に多項式近似を行った結果を
図19中に併記した。
【0091】
図19の結果から、
0.0200t
-1.00≦Δn≦0.395t
-1.25
の関係を満たすことが望ましいといえる。この関係を満たすことにより、回折効率の最大値を0.02から0.8の範囲に収めることができる。
【0092】
また、より望ましくは、
0.0374t-0.886≦Δn≦0.188t-1.13
の関係を満たすことが望ましいといえる。この関係を満たすことにより、回折効率の最大値を0.05から0.6の範囲に収めることができる。
【0093】
さらに、より望ましくは、
0.0517t-0.843≦Δn≦0.133t-1.10
の関係を満たすことが望ましいといえる。この関係を満たすことにより、回折効率の最大値を0.1から0.4の範囲に収めることができる。
【0094】
(入射角θ1と出射角θ2とを変数とした半値幅シミュレーション)
上述したシミュレーションは、入射角と出射角とをそれぞれ、0°と125°とに固定したものであった。この入射角0°及び出射角120°は、ヘッドマウント型の頭部装着型表示装置1を想定すると、最も好適な組み合わせのひとつである。しかし、当然ながら入射角と出射角との組み合わせは、これに限らず、適宜設計変更可能である。そこで、入射角及び出射角が変わった場合を想定してシミュレーションを行った。
【0095】
図20は、入射角と出射角に着目したシミュレーション条件を示す図である。
図20(a)は、シミュレーション条件の一覧を示し、
図20(b)は、透過型の体積ホログラム21の場合の入射角θ
1と出射角θ
2とを変化させる状態を示し、
図20(c)は、反射型の体積ホログラム21Bの場合の入射角θ
1と出射角θ
2とを変化させる状態を示している。
ここでは、
図20に示す条件下で体積ホログラム21(21B)のシミュレーションを行い、半値幅への入射角θ
1と出射角θ
2との影響を調べた。
【0096】
図21は、入射角θ
1と出射角θ
2とを変化させて半値幅を求めたシミュレーションの結果をまとめた図である。
図21では、入射角θ
1を-45°から45°まで19種類、出射角θ
2を45°から135°まで16種類、それぞれ組み合わせてシミュレーションを行った結果をまとめている。なお、出射角45°から80°は、透過型の体積ホログラムであり、出射角100°から135°は、反射型の体積ホログラムである。
図21を見ると、入射角θ
1は、大きい方が半値幅を広くでき、出射角θ
2は、90°から離れる方が半値幅を広くできることは解るが、定量的に把握することが難しい。そこで、
図21に示した結果から、入射角θ
1と出射角θ
2との組み合わせで好ましい範囲を先に説明した膜厚tとΔnとの場合と同様にして数式化した。境界としては、透過型と反射型のそれぞれについて半値幅が10nm、15nmとなる境界を設定した。
【0097】
図22は、半値幅から求めた、入射角θ
1と出射角θ
2との好ましい組み合わせ範囲を示す近似式のグラフである。
上述した境界値となる透過型10nm、反射型10nm、透過型15nm、反射型15nmのそれぞれに線形近似を行った結果を
図22中に併記した。
【0098】
透過型10nm、反射型10nmの結果から、-45°≦θ1≦45°、かつ、45°≦θ2≦135°の範囲内において、
θ2≧-0.326θ1+100
、かつ、
θ2≦0.159θ1+76.8
の双方の関係を満たすことが望ましいといえる。この関係を満たすことにより、半値幅を10nm以上とすることができる。
【0099】
透過型15nm、反射型15nmの結果から、-45°≦θ1≦45°、かつ、45°≦θ2≦135°の範囲内において、
θ2≧-θ1+147
、かつ、
θ2≦0.235θ1+70.3
の双方の関係を満たすことが望ましいといえる。この関係を満たすことにより、半値幅を15nm以上とすることができる。
【0100】
図23は、体積ホログラム21において複数回の回折が行われる状態を説明する図である。
体積ホログラム21の回折効率は、適切な範囲にあることが好ましい。例えば、
図23に示すように、体積ホログラム21で回折された光は、基材層10の主面で全反射された後、再度体積ホログラム21に入射することがある。再度体積ホログラム21に入射した光は、再度体積ホログラム21で回折され得る。再度体積ホログラム21で回折された光は、基材層10内には向かわず、体積ホログラム21から出射してしまう。このため、体積ホログラム21の回折効率が高すぎる場合、複数回にわたって体積ホログラム21で回折されると、最終的に入射部21から出射部22に導光される光が少なくなってしまう。本件発明者らが確認したところ、入射部21に入射して体積ホログラム21で回折された光は、基材層10の主面で全反射された後、1~5回程度、特には4回、再度体積ホログラム21に入射することが知見された。
【0101】
図23は、体積ホログラム21の回折効率と一度体積ホログラム21で回折された後に再度体積ホログラム21に入射する回数との関係において、最終的に入射部21から出射部22に導光される光の割合を示している表である。すなわち、入射部21に入射する光を100%とした場合の、入射部21から出射部22に導光される光の割合を示している。
図23から理解されるように、一度体積ホログラム21で回折された後に再度体積ホログラム21に入射する回数が1回以上の場合、体積ホログラム21の回折効率は、90%以下であることが好ましい。また、一度体積ホログラム21で回折された後に再度体積ホログラム21に入射する回数が3回以上の場合、回折格子の回折効率は、1%以上80%以下であることが好ましく(
図23中で下線を付した)、5%以上60%以下であることがより好ましい。さらに、一度体積ホログラム21で回折された後に再度体積ホログラム21に入射する回数が4回以上の場合、回折格子の回折効率は、10%以上40%以下であることが好ましい(
図23中で下線を付した)。
【0102】
本実施形態で用いる体積ホログラム21としては、上述した膜厚t及びΔnの好ましい範囲、及び、入射角θ1及び出射角θ2の好ましい範囲から、適宜組み合わせて使用条件に最適な体積ホログラム21を用いることができる。
なお、実際に作製された体積ホログラムについて、膜厚の測定を行うには、断面のSEM観察より測定するとよい。また、Δnの測定方法としては膜厚、回折角度、波長の測定結果を元にした回折効率のシミュレーション演算を行い、回折効率測定結果とのフィッティングからΔnを算出するとよい。
【0103】
以上説明したように、本実施形態の頭部装着型表示装置1は、体積ホログラム21を用いており、その回折光の半値幅が5nm以上となっているので、回折光を効率よく利用することが可能である。また、本実施形態の体積ホログラム21は、上述した膜厚t及びΔnの好ましい範囲、及び、入射角θ1及び出射角θ2の好ましい範囲にあるので、半値幅が広く、かつ、回折効率の良好な体積ホログラム21を実現できる。
【0104】
(変形形態)
以上説明した実施形態に限定されることなく、種々の変形や変更が可能であって、それらも本発明の範囲内である。
【0105】
(1)各実施形態において、単一の波長について説明を行ったが、例えば、RGBの3色に対応したレーザー光を用いる等、波長が複数ある場合にも、本発明を適用可能である。その場合、RGB各波長に対してホログラム層を別に形成し積層してもよいし、同一層にRGB各波長の干渉縞を形成してもよい。
【0106】
(2)各実施形態において、望ましい範囲と規定した各数値範囲については、体積ホログラムの全領域において満たさなくてもよい。例えば、体積ホログラムに対する入射角や出射角については、体積ホログラムの全領域において望ましい数値範囲を満たさなくてもよい。例えば、体積ホログラムの中心が今回規定している角度範囲の条件を満たすとよい。
【0107】
(3)各実施形態において、体積ホログラム30を頭部装着型表示装置に適用した例を挙げて説明した。これに限らず、例えば、頭部に装着しない表示装置に本発明の体積ホログラムを用いてもよい。
【0108】
(4)各実施形態において、出射部22、第2拡張部23及び出射部22Bには、微細な凹凸形状により構成された回折格子を設けた例を挙げて説明した。これに限らず、例えば、これらのうちの一つ、又は、全てを体積ホログラムにより構成してもよい。なお、全てを体積ホログラムにより構成する場合には、賦形層を省略することができる。
【0109】
なお、各実施形態及び変形形態は、適宜組み合わせて用いることもできるが、詳細な説明は省略する。また、本発明は以上説明した各実施形態によって限定されることはない。
【符号の説明】
【0110】
1 頭部装着型表示装置
10 基材層
10a 導波部
20 賦型層
21 体積ホログラム(入射部)
21B 体積ホログラム(入射部)
22 出射部
22B 出射部
23 第2拡張部
30 体積ホログラム
40 射出瞳拡張素子
40B 射出瞳拡張素子
40C 射出瞳拡張素子
50 映像源
221 高屈折率部
221B 高屈折率部
231 高屈折率部