(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】エレベータシステム
(51)【国際特許分類】
B66B 13/14 20060101AFI20241106BHJP
【FI】
B66B13/14 Z
B66B13/14 K
(21)【出願番号】P 2024071825
(22)【出願日】2024-04-25
【審査請求日】2024-04-25
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000236056
【氏名又は名称】三菱電機ビルソリューションズ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】濱田 朗充
(72)【発明者】
【氏名】大塚 康司
【審査官】太田 義典
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-141564(JP,A)
【文献】特開2011-152973(JP,A)
【文献】特開2005-170652(JP,A)
【文献】特開2019-048697(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 13/00-13/30
B66B 5/00- 5/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレベータのドアを開閉駆動する永久磁石同期電動機と、
前記ドアを開閉するために前記永久磁石同期電動機の回転を制御するドア制御部と、
前記エレベータのかごの昇降運動を制御するエレベータ制御部と、
を備え、
前記ドア制御部は、前記エレベータ制御部から前記かごの階床情報を受け取って記憶し、前記かごの昇降運動によって前記階床情報が変化すると、前記永久磁石同期電動機の磁極位置を学習し記憶することを特徴とするエレベータシステム。
【請求項2】
前記ドア制御部は、前記永久磁石同期電動機の磁極位置の学習を、前記ドアが全閉状態であるときに実施する請求項1に記載のエレベータシステム。
【請求項3】
前記ドア制御部は、前記階床情報ごとの前記磁極位置の学習結果を記憶する請求項1または請求項2に記載のエレベータシステム。
【請求項4】
前記永久磁石同期電動機の回転角を検出する回転角センサを備え、
前記ドア制御部は、前記磁極位置の学習時に、前記回転角センサの検出結果に応じて学習の成否を判定する請求項1または請求項2に記載のエレベータシステム。
【請求項5】
前記ドア制御部は、前記磁極位置の学習が複数の階床で成功したとき、成功した階床における前記磁極位置の学習結果を平均化した値を用いて前記永久磁石同期電動機の制御を行う請求項4に記載のエレベータシステム。
【請求項6】
前記ドア制御部は、特定の階床において前記ドアを開閉するために前記永久磁石同期電動機を制御するとき、前記階床情報が変化せず学習を実施しない場合、および、前記磁極位置の学習に失敗した場合、の少なくとも一方において、他の階床において学習した前記磁極位置の情報を用いて前記永久磁石同期電動機の制御を行う請求項4に記載のエレベータシステム。
【請求項7】
前記ドア制御部は、前記磁極位置の基準値を予め記憶しており、前記階床情報が変化せず学習を実施しない場合、または、前記磁極位置の学習に失敗した場合、前記基準値を用いて前記永久磁石同期電動機の制御を行う請求項4に記載のエレベータシステム。
【請求項8】
前記ドア制御部は、前記エレベータの据付け作業時に前記磁極位置の学習を行う請求項1または請求項2に記載のエレベータシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、エレベータシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に、エレベータのドアを駆動する永久磁石同期電動機の磁極位置の認識を更新するための磁極位置推定制御を実施するエレベータ制御システムが記載されている。このエレベータ制御システムは、エレベータが給電されていない状態から給電されている状態に切換ったと検出した場合、戸開指令を出してもドアが全開位置にならないと検出した場合、あるいは、戸閉指令を出してもドアが全閉位置にならないと検出した場合に、磁極位置推定制御を実施するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
エレベータのドアの状態は、階床によって異なる。特許文献1に記載されているような従来技術においては、階床によるドアの状態が十分に考慮できておらず、磁極位置の推定の誤差が発生し得る。
【0005】
本開示は、上記のような課題を解決するためのものである。本開示の目的は、エレベータのドアを駆動する永久磁石同期電動機の磁極位置の正確な推定を支援することができるエレベータシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係るエレベータシステムは、エレベータのドアを開閉駆動する永久磁石同期電動機と、前記ドアを開閉するために前記永久磁石同期電動機の回転を制御するドア制御部と、前記エレベータのかごの昇降運動を制御するエレベータ制御部と、を備える。前記ドア制御部は、前記エレベータ制御部から前記かごの階床情報を受け取って記憶し、前記かごの昇降運動によって前記階床情報が変化すると、前記永久磁石同期電動機の磁極位置を学習し記憶する。
【発明の効果】
【0007】
本開示に係るエレベータシステムによれば、エレベータのドアを駆動する永久磁石同期電動機の磁極位置の正確な推定を支援することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施の形態1に係るエレベータシステムの構成を示す図である。
【
図2】実施の形態1のドア制御部による磁極位置学習の処理例を示すフローチャートである。
【
図3】実施の形態1のドア制御部による磁極位置学習の成否判定の処理例を示すフローチャートである。
【
図4】実施の形態1において磁極位置記憶部が開閉制御部に対して出力する処理例を示すフローチャートである。
【
図5】実施の形態1において、複数の階床において磁極位置の学習が成功したときの処理例を示すフローチャートである。
【
図6】実施の形態1において磁極位置の学習に失敗した時における
図4とは別の処理例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施の形態について、添付の図面を参照しながら説明する。各図において、同一または相当する部分には同一の符号を付している。本開示において、重複する説明は、適宜に簡略化または省略する。以下の説明においては便宜上、図示の状態を基準に各構造の位置関係を表現することがある。なお、本開示は、以下に示す実施の形態およびその変形例に限定されることはない。以下の実施の形態およびその変形例で説明する任意の構成要素は、本開示の趣旨を逸脱しない範囲において、自由な組み合わせ、変形または省略が可能である。
【0010】
実施の形態1.
図1は実施の形態1に係るエレベータシステムの構成を示す図である。本実施の形態に係るエレベータシステムは、永久磁石同期電動機であるドアモータ1を備える。ドアモータ1は、エレベータのドア3を開閉駆動する。ドアモータ1は、回転することによって、エレベータのドア3を開閉するための駆動力を発生させる。
【0011】
ドアモータ1には、当該ドアモータ1の回転角を検出する回転角センサ2が取り付けられている。ドアモータ1の回転は、回転角センサ2の検出情報に基づいて制御される。
【0012】
ドア3は、エレベータへの乗客の乗降のために開閉する。ドア3は、ベルトを介してドアモータ1に接続される。ドアモータ1が発生させた駆動力は、ベルトを介してドア3へ伝達される。
【0013】
ドアモータ1およびドア3は、エレベータのかご4に設けられている。また、ドア3には、かご4だけではなく、建物側の乗場に設置される乗場ドアも含まれる。かごに設けられたドア3と乗場ドアとは、かご4に設けられたドアモータ1によってドア3が動作すると、かご4のドア3に取り付けられた係合装置によって乗場ドアが把持されることで、一体となって開閉する。
【0014】
かご4のドア3に取り付けられた係合装置は、乗場ドアを把持するという機能以外に、当該ドア3が全閉位置付近の状態において、閉まる方向に機械的な戸閉力を発生させる機能も有する。これにより、かご4のドア3が自然に開かないようになっている。かご4のドア3を開くときには、係合装置の機械的な戸閉力に抗うように、ドアモータ1がトルクを発生させる。
【0015】
また、建物側の乗場ドアも、機械的な戸閉力が作用するような構造になっている。エレベータのドア3には、常に閉まる方向に機械的な力が作用している。これにより、ドア3が意図せずに自然に開いてしまうことが防止され、戸開走行の防止、エレベータの緊急停止の防止、乗客の安全確保などの効果が得られる。
【0016】
また、ドア3には、当該ドア3の開閉状態を検出するセンサが取り付けられている。例えば、全開位置と全閉位置とにセンサが設けられ、ドア3の状態が全開であるか全閉であるかを判定できるようになっている。なお、ドア3の開閉状態は、回転角センサ2が検出する情報から判定してもよい。
【0017】
エレベータのかご4は、巻上機5が動作することによって昇降運動する。巻上機5は、かご4を昇降運動させて目的階へ移動させるための駆動力を発生させる。一般的に、エレベータのかご4は、巻上機5を介して、釣合い錘6とつるべ式に連結されている。かご4と釣合い錘6との重量差分のトルクを巻上機5が発生させればよくなることで、巻上機5を小容量化することができる。
【0018】
図1に示すように、本実施の形態に係るエレベータシステムは、エレベータ制御部7およびドア制御部8を備える。巻上機5は、エレベータ制御部7によって駆動される。エレベータ制御部7は、巻上機5の駆動を制御することで、エレベータのかご4の昇降運動を制御する。エレベータ制御部7は、乗場に設置される呼びボタンあるいはかご4内に設置される行先ボタンによって目的階が決定されると、決定された目的階に向かってかご4が走行するように巻上機5を制御する。
【0019】
また、エレベータ制御部7は、エレベータのかご4が停止している階床の情報である階床情報を保有している。この階床情報とは、例えば、1Fあるいは2Fといったような情報である。エレベータ制御部7は、この階床情報を、ドア制御部8に対して出力する。
【0020】
ドア制御部8は、エレベータのドア3を開閉するためにドアモータ1の回転を制御する。また、ドア制御部8は、ドアモータ1の初期状態における磁極位置を学習する機能を有している。
【0021】
ドア制御部8は、エレベータ制御部7から、階床情報を受け取って記憶する。また、ドア制御部8は、ドア3から当該ドア3の状態の情報を受け取ってもよい。上述の通り、ドア制御部8は、ドアモータ1の磁極位置の学習を行う。ドア制御部8は、磁極位置の学習完了後、ドア3を開閉するための制御を行う。ドア制御部8は、一例として、
図1に示すように、磁極位置学習指令部9、磁極位置学習部10、磁極位置記憶部11、学習成否判定部12および開閉制御部13を有する。
【0022】
磁極位置学習指令部9は、エレベータ制御部7から階床情報を受け取る。また、磁極位置学習指令部9は、ドア3から当該ドア3の状態の情報を受け取ってもよい。磁極位置学習指令部9は、受け取った情報に応じて、磁極位置学習部10へ学習指令を出力する。
【0023】
磁極位置学習指令部9は、エレベータ制御部7から取得した階床情報を記憶している。エレベータのかご4の昇降運動によって階床情報が変化すると、磁極位置の学習を行うための学習指令を磁極位置学習部10へ出力する。また、磁極位置学習指令部9は、例えば、ドア3が全閉状態であるという情報を取得すると、磁極位置の学習指令を磁極位置学習部10へ出力してもよい。
【0024】
磁極位置学習部10は、磁極位置学習指令部9から学習指令を受け取ると、ドアモータ1に対して、磁極位置学習用の電圧を印可する。また、電圧を印可した結果として、ドアモータ1から電流値の情報を受け取る。より具体的に説明すると、ドアモータ1の電流値を検出する図示しない電流センサから、電流値の情報を受け取る。磁極位置学習部10は、ドアモータ1から得られた電流値から、磁極位置を学習する演算を行う。
【0025】
なお、本開示において磁極位置学習部10が学習する磁極位置とは、ドアモータ1の電気的な基準位置を意味する。上記の通り、ドアモータ1は永久磁石同期電動機である。永久磁石同期電動機の制御においては、3相交流を2相直流に変換する手法が一般的な制御手法として用いられる。この変換においては、磁極位置の情報が必要である。そこで、磁極位置学習部10によって磁極位置を学習する。
【0026】
なお、磁極位置学習部10によって学習した磁極位置は、学習した時点における基準位置を示すものである。この基準位置からの変化量は、回転角センサ2によって検出することができる。あるいは、センサレス制御のように、推定した回転情報を用いて、基準位置からの変化量の検出を行ってもよい。
【0027】
磁極位置記憶部11は、磁極位置学習部10から、学習した磁極位置の情報を受け取る。また、磁極位置記憶部11は、エレベータ制御部7から、階床情報を受け取ってもよい磁極位置記憶部11は、磁極位置学習部10で学習した磁極位置を、階床情報ごとに記憶してもよい。例えば、「1Fの磁極位置学習値=X」「2Fの磁極位置学習値=Y」のように、階床情報と磁極位置の学習結果とを合わせて記憶してもよい。磁極位置を階床情報と合わせて記憶することで、どの階床で学習が成功したのか、どの階床ではこれ以上学習する必要がないのか、等を判定することが可能となる。
【0028】
学習成否判定部12は、磁極位置学習部10の学習が成功したか失敗したかを、回転角センサ2から受信する回転角の情報を示す信号を用いて判定する。学習の成否の情報は、磁極位置学習部10に送られる。磁極位置学習部10は、学習の成否に応じて、磁極位置記憶部11に出力する磁極位置の情報を選択する。例えば、磁極位置学習部10は、磁極位置の学習が成功した場合には学習した磁極位置の情報を出力する。例えば、磁極位置学習部10は、磁極位置の学習が成功失敗した場合には、失敗を示す別の値を出力する。
【0029】
開閉制御部13は、磁極位置記憶部11から、磁極位置の情報を受け取る。開閉制御部13は、受け取った磁極位置の情報を用いて、ドア3を開閉するためのドアモータ1の制御を行う。
【0030】
ここで、磁極位置学習部10による学習動作についてより詳細に説明する。なお、磁極位置学習部10による磁極位置の学習方法は以下の例に限定されるものではない。磁極位置学習部10による磁極位置の学習方法としては、例えば、パルス電圧を印加したときの応答である電流値から磁極位置を学習するというものが挙げられる。
【0031】
パルス電圧を印加すると、ドアモータ1の回転子の磁極の位相と印加電圧の位相とが同じ向きの場合、印加電圧によって生じる電流による磁束の向きと回転子の磁石の磁束の向きとが同じとなる。このとき、磁束合算値が大きくなることで、電動機鉄芯に磁気飽和が生じる。磁気飽和時には、ドアモータ1の巻線インダクタンスが小さくなり、ドアモータ1に流れる電流振幅が大きくなる。
【0032】
一方、回転子の磁極の位相と印加電圧の位相が逆向きの場合、パルス電圧を印加すると、印加電圧で生じる電流による磁束の向きと回転子の磁石磁束の向きとが逆になる。このとき、磁束合算値が小さくなり、電動機鉄芯には磁気飽和が生じない。磁気飽和が生じていないときには、ドアモータ1の巻線インダクタンスが大きくなり、ドアモータ1に流れる電流振幅は小さくなる。
【0033】
このように、回転子の磁極の位相と印加電圧の位相との関係によって、電動機鉄芯の磁気飽和の度合いが変化し、ドアモータ1に流れる電流の振幅が変化する。この性質を利用して、磁極位置を学習することができる
【0034】
磁極位置学習部10は、例えば、αβ軸で位相を断続的に変化させながら電圧を印可し、磁気飽和が発生している位相を求めることで、磁極位置を学習する。永久磁石同期電動機では、磁極位置を用いて交流を直流に変化する際、dq変換が行われる。このとき、d軸の電流はトルクに関係しない電流であり、q軸の電流はトルクに関係する電流となる。
【0035】
磁極位置が不明のとき、位相をずらしたパルス電圧を印加すると、q軸にも通電されることで瞬間的にトルクが発生する。磁極位置の学習中にトルクの方向を制御することはできないため、ドア3が開く方向にも閉じる方向にもトルクが作用する。磁極学習中にドアモータ1が回転すると、磁極位置が変化していることになってしまい、磁極位置の学習結果に誤差が発生してしまう。
【0036】
ドア3が全閉状態であるときには、上述の通り、ドア3が閉まる方向に機械的な力が作用している。また、ドア3の自重によって静止摩擦力が作用している。このため、磁極学習のための電圧印加によってドア3が開く方向へのトルクが発生したとしても、ドア3は開かず、ドアモータ1は回転しない。また、全閉状態であるドア3が閉まる方向にトルクが発生しても、ドア3はそれ以上動かず、ドアモータ1は回転しない。このように、ドア3が全閉状態であるときに磁極位置の学習を実施することで、学習結果の精度を向上することができる。
【0037】
磁極位置の学習中に発生するトルクが、ドア3に閉まる方向に作用する機械的な力および自重による静止摩擦力を越えた場合には、ドアモータ1が回転してしまう可能性がある。エレベータの乗場のドア3は、階床ごとに自重が異なることがある。このため、乗場によってはドア3が軽く自重による静止摩擦力が低いため、磁極位置の学習中にドアモータ1が回転することがあり得る。この場合、学習結果の精度が低いと考えられるため、他の階床において学習をすることが望ましい。
【0038】
本実施の形態において、磁極位置学習指令部9は、階床情報が変化したときに、磁極位置学習部10に対して学習指令を出力する。さらに、学習成否判定部12は、磁極位置の学習中、ドアモータ1の回転を回転角センサ2の検出値によって監視する。例えば、磁極位置の学習時に、ドアモータ1が基準値以上の回転をしたことが検出された場合、学習失敗と判定してもよい。この基準値は、例えば、1mmである。なお、学習の成否の判定は、このように回転角センサ2の検出結果を用いて行ってもよいし、その他の方法で行ってもよい。
【0039】
図2は、実施の形態1のドア制御部8による磁極位置学習の処理例を示すフローチャートである。磁極位置学習が開始すると、まず、磁極位置学習指令部9は、階床情報が変化したか判定する(ステップS201)。階床情報が変化していない場合、磁極位置学習を実施せずに(ステップS205)、処理を終了する。本実施の形態では、階床情報が変化したきに磁極位置を学習する。すなわち、階床の変化に応じて乗場のドア3の状態が変化したときに磁極位置を学習する。これにより、学習に失敗する条件を回避して、学習精度を向上することができる。
【0040】
ステップS201において階床情報が変化したときには、磁極位置学習指令部9は、ドア3が全閉状態であるか判定する(ステップS202)。ドア3が全閉状態でない場合とは、全閉位置から全開位置のどこかでドア3が止まっている場合である。通常のエレベータの運行においては、このような状況にはなり得ないが、据付時あるいは保守時にはこのような状況になり得る。このときに磁極位置を学習するための電圧を印可すると、上述の通り、ドア3は閉まる方にも開く方にも動く可能性がある。ドア3が全閉状態でない状態は、磁極位置の学習には適さない状態である。そこで、ドア3が全閉状態でない場合には磁極位置学習を実施せずに(ステップS205)、処理を終了する。
【0041】
ステップS202でドア3が全閉状態であると判定された場合には、磁極位置学習指令部9から磁極位置学習部10に学習指令が送られ、磁極位置の学習を実施する(ステップS203)。学習が終わると、学習した磁極位置の情報を磁極位置記憶部11へ送り、階床情報と合わせて保存する(ステップS204)。
【0042】
図3は、実施の形態1のドア制御部8による磁極位置学習の成否判定の処理例を示すフローチャートである。学習成否判定部12は、磁極位置学習指令部9の学習指令による磁極位置の学習中であるかを判定する(ステップS301)。磁極位置の学習中でない場合には、学習の成否を判定する必要がないため、処理を終了する。
【0043】
磁極位置の学習中の場合、磁極位置の学習中にドアモータ1の回転角の変化があるかを判定する(ステップS302)。ここで、「回転角の変化」とは、予め定めた角度以上の回転角の変化あるいは予め定めた移動量以上のドアモータ1の回転などを意味する。例えば、回転角が基準値以上変化したか判定する。この基準値は、例えば、10°である。「回転角の変化」があった場合には、学習は失敗したと判定する(ステップS303)。
【0044】
磁極位置の学習に失敗した場合、磁極位置記憶部11が学習結果を保存しないように処理を行う(ステップS304)。あるいは、磁極位置学習部10に対して、磁極位置の学習に失敗したことを示す値を出力してもよい。
【0045】
磁極位置の学習中に回転角の変化がない場合には、学習は成功したと判定する(ステップS305)。磁極位置の学習に成功した場合、磁極位置記憶部11は、学習結果を階床情報と合わせて保存する(ステップS306)。
【0046】
図4は、実施の形態1において磁極位置記憶部11が開閉制御部13に対して出力する処理例を示すフローチャートである。本実施の形態において、開閉制御部13は、磁極位置記憶部11に記憶された磁極位置の情報に基づいて、特定の階床においてドア3を開閉するためにドアモータ1を制御する。このとき開閉制御部13が使用する磁極位置の情報は、例えば、
図4に示すフローによって決定する。
【0047】
上述の通り、磁極位置学習部10が磁極位置を学習し、学習成否判定部12が磁極位置の学習に成功したか否かを判定する。学習成否判定部12が学習成功と判定した場合(ステップS401)、磁極位置記憶部11は、開閉制御部13に対して学習した磁極位置の情報を出力する(ステップS402)。
【0048】
学習成否判定部12が学習失敗と判定した場合(ステップS401)、学習を失敗した特定の階床においてドア3の開閉が要求されるとき、磁極位置記憶部11は、他の階床における学習結果が保存されているか判定する(ステップS403)。他の階床の学習結果が保存されている場合、磁極位置記憶部11は。開閉制御部13に対し他の階床の学習結果を出力する(ステップS404)。開閉制御部13は、他の階床の学習結果を用いてドアモータ1を制御する。なお、特定の階床においてドア3を開閉するためにドアモータ1を制御するとき、例えば、階床情報が変化せず学習を実施しない場合においても、同様に、他の階床の学習結果を用いてドアモータ1を制御してもよい。
【0049】
ステップS403において、他の階床の学習結果が保存されていない場合、開閉制御部13は、エレベータ制御部7に対し、かご4の階床移動を指令する(ステップS405)。これにより他の階床で、学習結果を得ることができる。あるいは、ステップS403において、他の階床の学習結果が保存されていない場合には、オープンループ制御、すなわち、ドアモータ1に対して120°の位相差をもった正弦波の電圧を印可して駆動する制御を実施してもよい。
【0050】
ドアモータ1の磁極位置の学習は、例えば、エレベータの据付け作業時に実施するとよい。すなわち、エレベータの据付けが完了し、運行を開始する前に、作業員によって階床移動を行って磁極位置の学習を行うとよい。これにより、例えば、学習が失敗する階床があったとしても、作業員が階床移動を繰り返し行うことで、磁極位置の学習を完了させることができる。あるいは、据付け作業時に、エレベータ制御部7に対して全階床に着床するように指令をすることで、全階床での磁極位置の学習を行わせてもよい。磁極位置を据付け作業時に学習しておくことで、エレベータが運行状態となった時には、開閉制御部13は予め学習した結果に基づいてドア3を開閉させることができる。また、磁極位置の学習は、保守作業時にも実施するとよい。定期的な保守作業のタイミングで学習を実施することで、据付け作業時の学習結果からの変化を確認することができる。これにより、例えば、ドアモータ1の異常を検出することができる。
【0051】
また、磁極位置記憶部11は、階床を変えながら磁極位置の学習を行った結果、基準以上の複数回成功した場合、それ以上の学習をする必要がないと判定して、複数の学習結果を平均化した値を磁極位置の学習値として保存してもよい。この平均化した値をドア3の開閉制御に用いてもよい、
【0052】
図5は、実施の形態1において、複数の階床において磁極位置の学習が成功したときの処理例を示すフローチャートである。磁極位置記憶部11は、基準以上の数の学習結果が保存されているか判定する(ステップS501)。基準以上の数の学習結果が保存されていない場合には、各階床で学習した磁極位置のいずれかを選択する(ステップS504)。基準以上の数の学習結果が保存されている場合には、学習結果を平均化する(ステップS502)。そして、平均化した値を、磁極位置として保存する(ステップS503)。平均値が保存された後のドア3の開閉動作では、開閉制御部13は、この平均値を用いてドアモータ1の回転を制御する。
【0053】
上述の通り、据付け作業時に全階床での学習を行えば、自動的に学習結果の平均値が保存され、開閉制御部13はこの平均値によってドアモータ1の制御を行うことができる。
【0054】
以上のように、本実施の形態に係るエレベータシステムでは、エレベータの階床移動時にドアモータ1の磁極位置を学習することで、乗場ドアの状態に応じて磁極位置の学習をすることができる。これにより、学習精度を向上することができる。本実施の形態に係るエレベータシステムであれば、エレベータのドアを駆動する永久磁石同期電動機の磁極位置の正確な推定を支援することができる。
【0055】
また、磁極位置の学習中に回転角センサ2の検出結果を監視し、学習中にドアモータ1の回転が検出された場合には学習失敗と判定して他の階床での学習をすることで、学習精度を向上することができる。特定の階床での学習に失敗した場合には、他の階床において成功した学習結果を用いてドアモータ1の制御を行うことで、ドア3を正しく開閉することができる。複数の学習結果が保存されている場合には、それらの結果を平均化することで、ドア3の開閉制御に使用することができる。
【0056】
図4のフローチャートに示す処理においては、特定の階床において磁極位置の学習に失敗した場合、他の階床での学習結果を用いてドアモータ1を制御する。例えば、磁極位置の学習に失敗した場合、予め記憶されている磁極位置の基準値を用いてドアモータ1の制御を行ってもよい。
【0057】
上述の通り、磁極位置とは、ドアモータ1の電気的な基準位置を示すものである。基準位置からの変化量は、回転角センサ2によって検出される。回転角センサ2には、一般的に、インクリメンタル式のエンコーダが用いられることが多い。インクリメンタル式では、移動量を計測することはできるが、絶対的な位置を検出することはできない。そのため、磁極位置を予め学習しておき、この磁極位置からの移動量を回転角センサ2で検出するようにする。
【0058】
一方で、回転角センサ2が絶対的な位置を検出できる場合には、回転角センサ2の検出した絶対位置に対応する磁極位置を記憶することができる。絶対的な位置を検出できるセンサには、例えば、アブソリュート式のエンコーダなどが該当する。
【0059】
ドアモータ1の回転子の磁極の位相に対して、絶対位置を検出できる回転角センサ2を、常に同じ関係となるように設置するとする。例えば、ドアモータ1の製造時に回転角センサ2の設置位置が同じになるように回転子を設計すれば、この状態を実現することができる。このとき、回転角センサ2の検出する絶対位置に対する磁極の位置は、どのドアモータ1でも同様になる。例えば、ドア制御部8は、回転角センサ2に対する磁極の位置を磁極位置の基準値として予め記憶しておく。階床情報が変化せず学習を実施しない場合、磁極位置の学習が完了するまでの間、および、磁極位置の学習に失敗したとき、などの少なくとも1つの状態において、ドア制御部8に予め記憶した磁極位置の基準値を用いてドアモータ1の制御を行ってもよい。このように回転角センサ2を構成することで、磁極位置の学習をしなくても、ある程度の性能が担保された状態でドアモータ1を駆動することが可能となる。
【0060】
上記の例において、磁極位置記憶部11は、予め磁極位置の基準値を記憶している。この基準値は階床情報と関連することなく、何れの階床でも使用可能な値として記憶される。
図6は、実施の形態1において磁極位置の学習に失敗した時における
図4とは別の処理例を示すフローチャートである。上述の通り、開閉制御部13は、磁極位置記憶部11に記憶された磁極位置の情報に基づいてドアモータ1の回転を制御する。このとき、開閉制御部13が使用する磁極位置の情報は、
図6のフローによって決定してもよい。
【0061】
まず、磁極位置記憶部11は、着床している階床で磁極位置を学習したかを判定する(ステップS601)。この判定は、磁極位置学習部10から学習結果が送られてきているか否かを判定することで実現できる。
【0062】
着床している階床で磁極位置を学習していないと判定した場合には、予め記憶しておいた磁極位置の基準値を開閉制御部13へ出力し(ステップS604)、処理を完了する。
【0063】
着床している階床での磁極位置の学習を実施した場合には、学習成否判定部12によって、磁極位置の学習に成功したか否かを判定する(ステップS602)。学習が成功している場合には、磁極位置記憶部11は、開閉制御部13に対し学習した磁極位置の情報を出力し(ステップS603)、処理を完了する。一方で、学習に失敗した場合、学習を失敗した階床においてドア3の開閉が要求されると、磁極位置記憶部11は記憶している基準値を開閉制御部13に対して出力し(ステップS604)、処理を完了する。磁極位置の基準値を予め記憶しておくことで、階床移動をしなくてもドア3を開閉することができる。
【0064】
以上のように、ドア制御部8が磁極位置の基準値を記憶しておくことで、階床移動が発生せずに磁極位置の学習を実施しないとき、あるいは、学習に失敗して且つ他の階床での学習結果が保存されていないときにおいても、ドアモータ1によるドア3の開閉を行うことができる。また、例えば、据付け作業時に階床移動をさせなくてもよくなり、据付け作業の時間を短縮できる。
【0065】
以下、本開示の諸態様を付記としてまとめて記載する。
【0066】
(付記1)
エレベータのドアを開閉駆動する永久磁石同期電動機と、
前記ドアを開閉するために前記永久磁石同期電動機の回転を制御するドア制御部と、
前記エレベータのかごの昇降運動を制御するエレベータ制御部と、
を備え、
前記ドア制御部は、前記エレベータ制御部から前記かごの階床情報を受け取って記憶し、前記かごの昇降運動によって前記階床情報が変化すると、前記永久磁石同期電動機の磁極位置を学習し記憶することを特徴とするエレベータシステム。
(付記2)
前記ドア制御部は、前記永久磁石同期電動機の磁極位置の学習を、前記ドアが全閉状態であるときに実施する付記1に記載のエレベータシステム。
(付記3)
前記ドア制御部は、前記階床情報ごとに前記磁極位置を記憶する付記1または付記2に記載のエレベータシステム。
(付記4)
前記永久磁石同期電動機の回転角を検出する回転角センサを備え、
前記ドア制御部は、前記磁極位置の学習時に、前記回転角センサの検出結果に応じて学習の成否を判定する付記1から付記3の何れか1項に記載のエレベータシステム。
(付記5)
前記ドア制御部は、前記磁極位置の学習が複数の階床で成功したとき、成功した階床における前記磁極位置の学習結果を平均化した値を用いて前記永久磁石同期電動機の制御を行う請求項4に記載のエレベータシステム。
(付記6)
前記ドア制御部は、特定の階床において前記ドアを開閉するために前記永久磁石同期電動機を制御するとき、前記階床情報が変化せず学習を実施しない場合、および、前記磁極位置の学習に失敗した場合、の少なくとも一方において、他の階床において学習した前記磁極位置の情報を用いて前記永久磁石同期電動機の制御を行う付記4に記載のエレベータシステム。
(付記7)
前記ドア制御部は、前記磁極位置の基準値を予め記憶しており、前記階床情報が変化せず学習を実施しない場合、または、前記磁極位置の学習に失敗した場合、前記基準値を用いて前記永久磁石同期電動機の制御を行う付記4に記載のエレベータシステム。
(付記8)
前記ドア制御部は、前記エレベータの据付け作業時に前記磁極位置の学習を行う付記1から付記7の何れか1項に記載のエレベータシステム。
【符号の説明】
【0067】
1 ドアモータ、 2 回転角センサ、 3 ドア、 4 かご、 5 巻上機、 6 釣合い錘、 7 エレベータ制御部、 8 ドア制御部、 9 磁極位置学習指令部、 10 磁極位置学習部、 11 磁極位置記憶部、 12 学習成否判定部、 13 開閉制御部
【要約】
【課題】エレベータのドアを駆動する永久磁石同期電動機の磁極位置の正確な推定を支援する。
【解決手段】エレベータシステムは、エレベータのドアを開閉駆動する永久磁石同期電動機と、前記ドアを開閉するために前記永久磁石同期電動機の回転を制御するドア制御部と、前記エレベータのかごの昇降運動を制御するエレベータ制御部と、を備える。前記ドア制御部は、前記エレベータ制御部から前記かごの階床情報を受け取って記憶し、前記かごの昇降運動によって前記階床情報が変化すると、前記永久磁石同期電動機の磁極位置を学習し記憶する。
【選択図】
図2