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特許7582564軸受の溝径測定方法及び溝径測定装置、並びに転がり軸受の製造方法、機械の製造方法、及び車両の製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】軸受の溝径測定方法及び溝径測定装置、並びに転がり軸受の製造方法、機械の製造方法、及び車両の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01B 5/12 20060101AFI20241106BHJP
   G01B 5/08 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
G01B5/12
G01B5/08
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2024533209
(86)(22)【出願日】2024-01-22
(86)【国際出願番号】 JP2024001570
【審査請求日】2024-06-04
(31)【優先権主張番号】P 2023088045
(32)【優先日】2023-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100140718
【弁理士】
【氏名又は名称】仁内 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100207789
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 良平
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 貴弘
【審査官】櫻井 仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-047060(JP,A)
【文献】特開2006-242676(JP,A)
【文献】特開2021-120652(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 5/12
G01B 5/08
G01B 21/14
G01B 21/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面又は外周面に軌道溝が形成されたリング状部材を用意する工程と、
支持部材を用いて前記リング状部材を支持する工程であり、前記リング状部材の中心軸が横向きに配され、前記支持部材が前記軌道溝の溝底面に接触して前記リング状部材を支持する、前記工程と、
可動測定子が前記溝底面上に載せられた状態で、前記可動測定子の高さ位置を測定する工程と、
前記可動測定子の前記高さ位置の測定結果に基づいて、前記軌道溝の溝径を算出する工程と、
を備え、
前記高さ位置を測定する工程は、
第1部分と第2部分と中間部分とを有するアームを用意する工程であり、前記可動測定子が前記第1部分に設けられ、前記アームの長手方向における前記第1部分と前記第2部分との間に前記中間部分が配され、前記中間部分の回転中心位置が回転支持部によって回転自在に支持されて前記アームが傾斜動作する、前記工程と、
前記アームの前記第2部分の高さ位置をセンサによって検出した結果に基づいて前記可動測定子の前記高さ位置を得る工程と、
を有する、
軸受の溝径測定方法。
【請求項2】
前記支持部材は、水平方向において互いに離間して配される2つの凸部を有し、
前記2つの凸部は、各々が上向きに凸の輪郭を有する、
請求項1に記載の測定方法。
【請求項3】
前記リング状部材は、前記軌道溝が内周面に形成された外輪であり、
前記可動測定子は、前記軌道溝の最下部において前記溝底面に接触する、請求項1又は2に記載の測定方法。
【請求項4】
前記リング状部材は、前記軌道溝が外周面に形成された内輪であり、
前記可動測定子は、前記軌道溝の最上部において前記溝底面に接触する、請求項1又は2に記載の測定方法。
【請求項5】
前記リング状部材を支持する工程は、
中心軸が鉛直方向に沿って配された状態で前記リング状部材を把持部に搭載する工程と、
前記把持部によって前記リング状部材を把持する工程と、前記把持部に把持された前記リング状部材を起立させる工程と、
前記支持部材を用いて前記リング状部材を支持するとともに、前記把持部による前記リング状部材の把持を解除する工程と、
を有する、請求項1又は2に記載の測定方法。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の測定方法を用いる転がり軸受の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の転がり軸受の製造方法を用いる機械の製造方法。
【請求項8】
請求項6に記載の転がり軸受の製造方法を用いる車両の製造方法。
【請求項9】
内周面又は外周面に軌道溝が形成されたリング状部材を支持する支持部材であり、前記リング状部材の中心軸が横向きに配され、前記軌道溝の溝底面に接触して前記リング状部材を支持する、前記支持部材と、
可動自在に配置される可動測定子であり、前記支持部材に支持された前記リング状部材における前記溝底面上に載せられる、前記可動測定子と、
第1部分と第2部分と中間部分とを有するアームであり、前記可動測定子が前記第1部分に設けられ、前記アームの長手方向における前記第1部分と前記第2部分との間に前記中間部分が配され、前記中間部分の回転中心位置が回転支持部によって回転自在に支持されて前記アームが傾斜動作する、前記アームと、
前記可動測定子が前記溝底面上に載せられた状態で、前記アームの前記第2部分の高さ位置を測定するセンサと、
前記高さ位置の測定結果に基づいて、前記軌道溝の溝径を算出する演算部と、
を備える、軸受の溝径測定装置。
【請求項10】
前記支持部材は、水平方向において互いに離間して配される2つの凸部を有し、
前記2つの凸部は、各々が上向きに凸の輪郭を有する、
請求項9に記載の測定装置。
【請求項11】
前記リング状部材は、前記軌道溝が内周面に形成された外輪であり、
前記可動測定子は、前記軌道溝の最下部において前記溝底面に接触する、請求項9又は10に記載の測定装置。
【請求項12】
前記リング状部材は、前記軌道溝が外周面に形成された内輪であり、
前記可動測定子は、前記軌道溝の最上部において前記溝底面に接触する、請求項9又は10に記載の測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸受の溝径測定方法及び溝径測定装置、並びに転がり軸受の製造方法、機械及び車両の製造方法に関する。
本願は、2023年5月29日に出願された特願2023-088045号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
転がり軸受の生産(組立)工程の一つとして、軸受用軌道輪(外輪、内輪、リング状部材)の溝底に複数の測定子を接触させ、測定子の変位量から溝径の寸法を測定する工程がある。従来より、この溝径の測定においては、軸受用軌道輪の回転軸が上下方向(重力方向、鉛直方向)に沿って配された状態で溝径を測定していた(例えば、特許文献1参照。)。これは、転がり軸受を水平搬送する設備において、軸受用軌道輪が溝径の測定位置に搬送されてきた姿勢のままで測定でき、転がり軸受を生産する上で軸受用軌道輪の取扱いが容易なためである。この方法では、軸受用軌道輪に測定子を接触させる測定力によって軌道輪の軸中心を定めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-185836号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、回転軸が重力方向に沿って配された状態で軸受用軌道輪の溝径を測定する場合、測定子が溝底からずれる方向に軸受用軌道輪の自重が作用するため、溝径の測定値が不安定になりやすい。そこで、特許文献1の構成では、軸受用軌道輪の自重をキャンセルするための機構を軸受用軌道輪の下方に設け、測定値を安定化させている。しかし、その場合でも、測定環境によっては軌道面と測定子との間の摩擦状態の変化が生じるおそれがあり、測定値を安定させるための最適な条件出しに手間がかかるという問題があった。また、測定力によって軸受用軌道輪の軸中心を定めるため、測定子と軌道面間に擦り動作が生じることがあり、これが測定子の摩耗に繋がって測定精度を低下させるおそれがあった。
【0005】
本発明は、軸受用軌道輪の自重により測定子が軌道溝の溝底からずれることを防止し、且つ、測定子の摩耗を抑制して溝径の測定精度を向上させることができる、軸受の溝径測定方法及び溝径測定装置、並びに転がり軸受の製造方法、機械及び車両の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る軸受の溝径測定方法は、内周面又は外周面に軌道溝が形成されたリング状部材を用意する工程と、支持部材を用いて前記リング状部材を支持する工程であり、前記リング状部材の中心軸が横向きに配され、前記支持部材が前記軌道溝の溝底面に接触して前記リング状部材の重力を支持する、前記工程と、可動測定子が前記溝底面上に載せられた状態で、前記可動測定子の高さ位置を測定する工程と、前記可動測定子の前記高さ位置の測定結果に基づいて、前記軌道溝の溝径を算出する工程と、を備える。
【0007】
本発明の一態様に係る転がり軸受の製造方法は、上記の測定方法を用いる。
【0008】
本発明の一態様に係る機械の製造方法は、上記の転がり軸受の製造方法を用いる。
【0009】
本発明の一態様に係る車両の製造方法は、上記の転がり軸受の製造方法を用いる。
【0010】
本発明の一態様に係る軸受の溝径測定装置は、内周面又は外周面に軌道溝が形成されたリング状部材を支持する支持部材であり、前記リング状部材の中心軸が横向きに配され、前記軌道溝の溝底面に接触して前記リング状部材の重力を支持する、前記支持部材と、可動自在に配置される可動測定子であり、前記支持部材に支持された前記リング状部材における前記溝底面上に載せられる、前記可動測定子と、前記可動測定子が前記溝底面上に載せられた状態で、前記可動測定子の高さ位置を測定するセンサと、前記高さ位置の測定結果に基づいて、前記軌道溝の溝径を算出する演算部と、を備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、軸受用軌道輪の自重により測定子が軌道溝の溝底からずれることを防止し、且つ、測定子の摩耗を抑制して溝径の測定精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、溝径測定装置の全体構成図である。
図2図2は、把持部の概略斜視図である。
図3図3は、図2に示す軸受用軌道輪と把持部をIII-III線で切断した断面図である。
図4図4は、溝径測定方法の手順を示すフローチャートである。
図5A図5Aは、搬送路上の軸受用軌道輪を測定位置に配置するまでの工程説明図である。
図5B図5Bは、搬送路上の軸受用軌道輪を測定位置に配置するまでの工程説明図である。
図5C図5Cは、搬送路上の軸受用軌道輪を測定位置に配置するまでの工程説明図である。
図6A図6Aは、把持部に把持された軸受用軌道輪を測定位置に移送した様子を一部断面で示す説明図である。
図6B図6Bは、図6AをV方向から見た概略側面図である。
図7A図7Aは、把持部の把持を解除した様子を一部断面で示す説明図である。
図7B図7Bは、図7AをV方向から見た概略側面図である。
図8A図8Aは、可動測定子が軸受用軌道輪の軌道溝に接触した様子を示す概略断面図である。
図8B図8Bは、図8Aの矢印V方向から見た概略側面図である。
図9図9は、溝径測定装置の要部構成図である。
図10図10は、把持部の概略斜視図である。
図11図11は、図10に示す軸受用軌道輪と把持部をXI-XI線で切断した断面図である。
図12図12は、可動測定子と一対の測定子とを軸受用軌道輪の軸方向から見た概略側面図である。
図13A図13Aは、把持部に把持された軸受用軌道輪を測定位置に移送した様子を一部断面で示す説明図である。
図13B図13Bは、図13AのV方向から見た概略側面図である。
図14A図14Aは、測定子に軸受用軌道輪の軌道溝が接触した様子を一部断面で示す説明図である。
図14B図14Bは、図14AをV方向から見た概略側面図である。
図15A図15Aは、可動測定子が軸受用軌道輪の軌道溝に接触した様子を示す概略断面図である。
図15B図15Bは、図15Aの矢印V方向から見た概略側面図である。
図16A図16Aは、軸受用軌道輪の把持部による把持が解除された様子を示す概略断面図である。
図16B図16Bは、図16Aの矢印V方向から見た概略側面図である。
図17図17は、転がり軸受の一部断面斜視図である。
図18図18は、転がり軸受により回転軸を支持したモータの概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。ここで示す軸受の溝径測定方法(軸受用軌道輪の溝径測定方法、リング状部材の溝径測定方法)は、例えば、転がり軸受の製造工程に好適に用いられる。
【0014】
<第1実施形態>
図1は、溝径測定装置100の全体構成図である。測定装置(以下、溝径測定装置ともいう。)100は、測定部11と制御部13とを有する。測定部11は、把持部15と、旋回部17と、移送部19と、作動機構21と、位置センサ23と、を備える。本実施形態において、軸受用軌道輪(リング状部材)は、転がり軸受の外輪25である。以下の説明では、共通する部材、部位については同一の符号を付与することで、その説明を簡単化又は省略する。
【0015】
図2は、外輪25が把持された把持部15の概略斜視図である。図3は、図2に示す外輪25と把持部15をIII-III線で切断した断面図である。把持部15は、第1支持部15aと、突き当て部15bと、第2支持部15cとを有する。
【0016】
第1支持部15aは、外輪25の一方の端面25aに当接する平坦面PL1(図3参照)を有する。突き当て部15bは、第1支持部15aと一体に形成され、第1支持部15aの平坦面PL1から垂直に突出して、外輪25の外周面25cが突き当たる。第2支持部15cは、第1支持部15aに対面して配置され、外輪25の他方の端面25bに当接する平坦面PL2を有する。第1支持部15a及び突き当て部15bと、第2支持部15cとは、不図示の駆動機構によって、それぞれ矢印SL1、SL2方向に変位が可能となっている。これにより、第1支持部15aの平坦面PL1と第2支持部15cの平坦面PL2同士を互いに接近又は離反させることで、外輪25の把持と把持解除とを実施できる。
【0017】
図1に示すように、旋回部17は、旋回駆動される旋回テーブル17aを備える。旋回テーブル17aには把持部15が、例えばリニアガイド(直動案内機構)を介して支持される。旋回部17は、旋回テーブル17aを矢印R1方向に旋回動作させることで、把持部15に把持された外輪25の軸方向を、重力方向(鉛直方向、縦向き)と水平方向(横向き)との間で任意の方向に変更する。
【0018】
移送部19には、把持部15を支持した旋回部17が搭載される。移送部19は、図示しない駆動源を備え、把持部15及び旋回部17を直交3軸方向の任意の方向(矢印SL3方向)へ移動可能になっている。また、移送部19は、上記した直交3軸の各軸回りの回転方向に移動する機能を有していてもよい。上記構成の移送部19は、外輪25を測定部11の規定の測定位置に移送する。なお、移送部19の駆動源として、微小距離の制御が可能となるサーボモータを用いることで、外輪25の高精度な位置決めが可能となる。
【0019】
作動機構21は、測定対象である軸受用軌道輪(リング状部材)が外輪か内輪かによって構成が異なる。本実施形態において、軸受用軌道輪(リング状部材)が外輪25であり、作動機構21は、上側アーム(支持部材)31と、下側アーム33と、回転支持部35とを含んで構成される。上側アーム31は不図示の支持体に固定される。回転支持部35は、支持台37に搭載されたモータ等の電動アクチュエータ等を含んで構成される。回転支持部35は、下側アーム33の長手方向中間部を回転自在に支持し、下側アーム33の矢印R2方向の傾斜動作を可能にする。これにより、下側アーム33の一端部33aが上下方向に移動自在となる。
【0020】
上側アーム(支持部材)31は、長尺状の部材からなる。上側アーム31の長手方向の一端部31aは、測定位置で把持部15に把持された外輪25の内周面よりも径方向内側となる領域の上側領域に配置される。上側アーム31の一端部31aには、外輪25の上側の軌道溝25dの溝底に接触する一対の測定子(固定側測定子、支持体、接触部、凸部)41A,41Bが設けられている。上側アーム31は、各々が上向きに凸の輪郭を有する2つの測定子41A,41Bを有する。2つの測定子41A,41Bは、水平方向において互いに離間して配される。測定子41A,41Bの2つの頂点が、同一水平直線上に配される。測定子41A,41Bの各々は、凸面を有する。凸面は、球面及び/又は曲面を有することができる。測定子41Aの頂面は、第1湾曲を有する。測定子41Bの頂面は、第2湾曲を有する。第1湾曲及び第2湾曲は、1つの水平直線に対する2つの垂直面にそれぞれ含まれる。一例において、外輪25の軌道溝25dは、凹形状の輪郭を有する。軌道溝25dの溝形状(溝湾曲)の曲率半径をR1、測定子41A,41Bの頂面の曲率半径をR2とするとき、R1/R2は、約1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0、2.1、2.2、2.3、2.4、又は2.5以上に設定できる。例えば、R1/R2は、1.0以上かつ1.8以下に設定される。上記数値は一例でありこれに限定されない。凸形状の適切な設定により、2つの測定子41A,41B上に外輪25(リング状部材)が支持された際に、外輪25の位置及び姿勢が適切に調整される。後述する内輪に関しても同様である。上側アーム31の一端部31aの反対側の他端部31bには、位置センサ23が固定されている。位置センサ23は、変位センサであってもよく、接触式又は非接触式のセンサが使用できる。位置センサ23として、例えば、渦電流式、光学式、電気抵抗式、超音波式、レーザ方式等の各種の方式のセンサが使用可能である。なお、位置センサ23の固定は、上側アーム31に固定することに限らず、他の部材に固定してもよい。
【0021】
下側アーム33は、長尺状の部材からなる。下側アーム33の長手方向の一端部33aは、上側アーム31の一端部31aの下方、即ち、測定位置で把持部15に把持された外輪25の内周面より径方向内側となる領域の下方領域に配置される。下側アーム33の一端部35aには、外輪25の下側(最下部)の軌道溝25dの溝底に接触する可動測定子(可動側測定子)43が設けられている。可動測定子43は、軌道溝25dの最下部において溝底面に接触する。下側アーム33の一端部33aの反対側の他端部33bは、上側アーム31に設けられた位置センサ23によってその高さ位置が検出される。下側アーム33の位置センサ23による高さ検出位置から、下側アーム33の回転中心位置(回転支持部35)までの距離は既知であり、また、回転中心位置から可動測定子43までの距離も既知である。そのため、位置センサ23からの他端部33bの高さ検出値から、可動測定子43と軌道溝25dとが接触する高さ位置を幾何学計算によって算出可能となっている。なお、上記した高さ位置の検出は、簡略化することもでき、予め定めた基準となる高さとの差を求めることであってもよい。一例において、2つの測定子41A,41Bは、互いに同じ形状の凸面を有し、同じ高さ位置に配される。可動測定子43は、測定子41A,41Bと異なる高さ位置に配される凸面を有する。2つの測定子41A,41Bの中間位置を通る鉛直線上に可動測定子43の凸面(凸面の頂面、凸面の頂点、凸面の曲率中心)が配置される。例えば、測定子41A,41Bの2つの凸面の各々は、所定の中心位置に対する円の一部である湾曲形状の輪郭を有する頂面を含み、2つの円の中心位置は同じ高さ位置である。可動測定子43の凸面は、所定の中心位置に対する円の一部である湾曲形状の輪郭を有する頂面を含む。可動測定子43の凸面に対する円の中心位置は、測定子41A,41Bの凸面に対する2つの円の中心位置の水平方向の中点を通る鉛直線上に配置される。位置センサ23による可動測定子43の高さ位置の測定結果に基づいて、軌道溝25dの溝径が算出される。後述する内輪に関しても同様である。一例において、下側アーム33の位置センサ23による高さ検出位置から、下側アーム33の回転中心位置(回転支持部35)までの距離は、その回転中心位置から可動測定子43までの距離に比べて、小さく、等しく、又は大きく設定される。距離の比に基づき、可動測定子43の高さ位置の値が拡大又は縮小されて位置センサ23で測定され得る。後述する内輪に関しても同様である。
【0022】
一例において、上記した測定子41A,41B、可動測定子43のそれぞれは、測定する外輪25に使用される転動体(玉)と同じか略等しい大きさの球体、又は軌道溝25dの曲率半径よりも小さい曲率半径を有する球体であることが好ましい。また、測定子41A,41B、可動測定子43は、球体に限らず、その一部の表面が、上記した大きさの球体を構成する球面を有して形成されたものであってもよい。測定子41A,41Bと可動測定子43の表面が球面であることで、軌道溝25dと点接触で位置決めされ、測定精度を向上できる。
【0023】
制御部13は、旋回駆動部51と、把持駆動部53と、位置決め駆動部55と、傾斜駆動部57と、位置信号検出部59と、演算部61とを備え、上記した各部を駆動して、位置センサ23からの検出信号の情報等から、外輪25の軌道溝25dの溝径を算出する。この場合の溝径は、図3に示すように、起動溝25dの最も深い点同士の径Dinである。そして、制御部13は、求めた溝径の情報を出力する。
【0024】
把持駆動部53は、図2図3に示す把持部15の第1支持部15aをSL1方向に駆動し、第2支持部15cをSL2方向に駆動して、外輪25の把持と把持解除を行うための駆動信号を出力する。
【0025】
旋回駆動部51は、図1に示す旋回部17の旋回テーブル17aをR1方向に旋回させるための駆動信号を出力する。位置決め駆動部55は、移送部19を退避位置と測定位置との間でSL3方向に移送するための駆動信号を出力する。傾斜駆動部57は、回転支持部35に下側アーム33をR2方向に傾斜させるための駆動信号を出力する。位置信号検出部59は、所定のタイミングで位置センサ23から出力される位置検出信号を演算部61に出力する。
【0026】
演算部61は、位置信号検出部59からの検出信号から幾何計算して求めた可動測定子43の位置情報、及び既知である測定子41A,41Bの位置情報に基づき、外輪25の軌道溝25dの溝径を演算により求め、求めた溝径の情報を溝径出力信号として出力する。なお、演算部61は、詳細を後述するように、測定された位置情報と、予め定めた基準値とを比較した比例計算によって簡略的に溝径を求めてもよい。
【0027】
このように、制御部13の位置信号検出部59及び演算部61と、位置センサ23とは、可動測定子39と軌道溝25dとの接触位置を測定する位置測定部として機能する。
【0028】
次に、上記構成の溝径測定装置100による溝径測定方法の具体的な手順について詳細に説明する。図4は、溝径測定方法の手順を示すフローチャートである。ここでは、転がり軸受の製造工程の一部において、搬送路上を搬送されてくる外輪の溝径を測定する場合を想定して説明するが、これに限らず、溝径測定は任意のタイミングで行ってもよい。
【0029】
以下、図1も適宜参照しながら説明する。まず、搬送路上で搬送されてくる外輪25を把持部15により把持する(S1)。図5A図5Cは、搬送路27上の外輪25を測定位置に配置するまでの工程説明図である。図5Aに示すように、搬送路27上の破線で示す外輪25は、その端面を鉛直方向(重力方向)となる向きにされている。
【0030】
図1に示す制御部13の旋回駆動部41は、図5Aに示す旋回部17の旋回テーブル17aを、把持部15の第1支持部15aの平坦面PL1及び第2支持部15cの平坦面PL2をそれぞれ水平にするよう回転させる。また、把持駆動部53は、平坦面PL1が搬送路27と同じ高さ位置になるように、また、平坦面PL1,PL2同士の間隔が外輪25の幅よりも広くなるように、第1支持部15a、第2支持部15cの位置を調整する。
【0031】
そして、外輪25は搬送路27から把持部15の平坦面PL1に乗り移り、外周面25cが突き当て部15bに突き当たる。すると、把持駆動部53は、第1支持部15aと第2支持部15cを駆動して、外輪25を平坦面PL1,PL2同士の間に挟み込む。これにより、外輪25が把持部15に把持される。
【0032】
次に、図5Bに示すように、旋回駆動部51(図1)は旋回テーブル17aを90°旋回させて、外輪25の軸方向Axを水平方向にする。つまり、外輪25を重力方向に起立させる(S2)。
【0033】
そして、図5Cに示すように、位置決め駆動部55(図1)は、移送部19を駆動して、外輪25を規定の測定位置に移送する(S3)。この移送動作は、移送部19の駆動源としてサーボモータを用いることで、外輪25を、より高精度に規定の測定位置へ位置決めできる。
【0034】
図6Aは、把持部15に把持された外輪25を測定位置に移送した様子を一部断面で示す説明図である。図6Bは、図6AをV方向から見た概略側面図である。図6Bに示すように、一対の測定子41A,41Bは同一の高さ位置に配置され、図6Bの側面視で、可動測定子43の下側の頂点(最下位置)を通る鉛直線Lct2から、それぞれ等しい距離(LM1=LM2)に配置されている。
【0035】
ここで、前述した外輪25を配置する規定の測定位置とは、外輪25の幅方向に関しては、図6Aに示すように、測定子41A,41Bの球面の上方の頂点(最上点)を通る鉛直線Lct1が、外輪25の軌道溝25dの幅方向における中点Pctと一致する位置である。また、外輪25の軸方向から見た水平方向に関しては、図6Bに示すように、前述した鉛直線Lct2が、外輪25の側面視において、水平方向の中点を通る位置が規定の測定位置となる。一例において、外輪25を測定位置に位置決めする位置精度は、幅方向に関しては、鉛直線Lct1の溝底からのずれ量を0.1mm以下にするのが好ましい。一方、軸方向から見た水平方向の位置精度は、幅方向の位置の精度よりも低くても構わない。これは、一対の測定子41A,41Bが軌道溝25dと接触した際、外輪25が重力により自動的に一対の測定子41A,41B同士の中間位置に移動するためである。上記数値は一例であり、これに限定されない。
【0036】
次に、外輪25の測定位置への移送を完了すると、把持駆動部53は、把持部15による外輪25の把持を解除させる。図7Aは、把持部15の把持を解除した様子を一部断面で示す説明図である。図7Bは、図7AをV方向から見た概略側面図である。位置決め駆動部55(図1)は、図7Aに示すように、移送部19を駆動して、把持部15により把持された外輪25を、測定子41A,41Bに軌道溝25dが接触する位置へ高い精度で移動させる。そして、測定子41A,41Bに軌道溝25dを係止させた後、把持駆動部53(図1)は、把持部15の第1支持部15aを矢印SL1の方向に移動させ、第2支持部15cを矢印SL2の方向に移動させて、外輪25の把持を解除する。すると、外輪25が、上側アーム(支持部材)31に設けられた測定子41A,41Bによって支持される。このように、外輪25を移送部19により測定位置に位置決めしてから把持を解除することで、外輪25を起立させた状態で、測定位置にて高精度で位置決めできる。こうして、外輪25の自重が一対の測定子41A,41Bに支持された状態になる(S4)。外輪25の中心軸が横向きに配され、上側アーム(支持部材)の測定子41A,42Bが軌道溝25dの溝底面に接触して外輪25の重力を支持する。
【0037】
このとき、外輪25の中心位置は、図7Bに示すように、一対の測定子41A,41Bによって鉛直線LCT2と自動的に一致する。なお、可動測定子43は、図1に示す下側アーム33が回転支持部35を中心に反時計方向に傾斜した状態であるため、外輪25の軌道溝25dとは離れている。
【0038】
次に、傾斜駆動部57(図1)は、回転支持部35を駆動させ、下側アーム33を、回転支持部35を中心に時計方向へ傾斜させ、可動測定子43を外輪25の軌道溝25dに接触させる(S5)。
【0039】
図8Aは、可動測定子43が外輪25の軌道溝25dに接触した様子を示す概略断面図である。図8Bは、図8Aの矢印V方向から見た概略側面図である。図8A図8Bに示すように、可動測定子43が外輪25の軌道溝25dに接触すると、外輪25は、一対の測定子41A,41Bと可動測定子43との3点で支持されて、その位置及び姿勢が規制される。鉛直方向において、下側アーム(支持部材)33と軌道溝25dの溝底面との接触位置と、可動測定子43と軌道溝25dの溝底面との接触位置との間に外輪25の中心軸が配される。
【0040】
この状態で、位置信号検出部59(図1)は、位置センサ23から出力される検出信号から、下側アーム33の他端部33bの高さを検出する。可動測定子43が外輪25の溝底面上に載せられた状態で、可動測定子43の高さ位置が測定される。この検出された高さ情報は、演算部61に送られる。演算部61は、可動測定子43と軌道溝25dとが接触する高さ位置の情報に変換する(S6)。つまり、演算部61は、位置が既知である位置センサ23と下側アーム33の他端部33bとの接触点(位置計測点)と、下側アーム33の一端部33aにおける可動測定子43と軌道溝25dとの接触点と、回転支持部35の回転中心との位置関係に基づく幾何学的な演算により、可動測定子43と軌道溝25dとの接触位置の高さを求める。
【0041】
そして、演算部61は、図8Bに示す規定の位置に配置された一対の測定子41A,41Bの軌道溝25dとの接触点P1,P2における高さ情報と、位置センサ23からの検出信号から演算により求めた可動測定子43と軌道溝25dとの接触点P3の高さ情報とから、外輪25の軌道溝25dの溝径を算出する。そして、演算部61は、算出した溝径の情報を出力する(S7)。上記した接触点P3の高さ位置、軌道溝25dの溝径は、周知の幾何的な演算により求めることができる。可動測定子43の高さ位置の測定結果に基づいて、軌道溝25dの溝径が算出される。
【0042】
なお、演算部61は、簡略的に溝径を求める場合には、位置センサ23からの出力信号を可動測定子43の位置情報として取り込み、取り込んだ可動測定子43の位置情報を、予め定めた基準と比較して溝径を求める。
【0043】
上記した溝径測定方法では、把持部15によって把持された外輪25を、旋回部17によって、外輪25の回転軸を重力方向に向けた状態から90°回転させた水平方向の向きに変更した状態、即ち、外輪25を重力方向に起立させた状態で溝径を測定する。これによれば、測定子41A,41Bに係止される外輪25が、その自重によって自然に軌道溝25dの溝底に落ち着くようになるため、測定子41A,41B及び可動測定子43と軌道溝25dとの接触位置の変動が生じにくく、溝径測定の精度を向上できる。また、外輪25の測定値までの搬送にサーボモータ等の高精度のアクチュエータを用いることで、測定子41A,41B及び可動測定子43が、正確に外輪25の軌道溝25dの溝底と接触する位置に配置できる。
【0044】
このときの測定子41A,41B及び可動測定子43と、軌道溝25dの溝底との軸方向に関するずれ量を、0.1mm以下に収めることで、各測定子と軌道溝25dとの間の擦り動作を低減でき、測定子の摩耗が抑制される。その結果、安定的に溝径を測定できる各測定子の寿命を向上できる。また、各測定子を溝底に案内するために必要な測定力(測定子41A,41Bと可動測定子43とを外輪25の径方向に開く力)を小さくでき、そのことも各測定子の損耗の低減に寄与できる。
【0045】
<第2実施形態>
図9は、溝径測定装置200の要部構成図である。本実施形態において、軸受用軌道輪(リング状部材)は、転がり軸受の内輪26である。溝径測定装置200は、内輪計測用にするために、把持部16、上側アーム32及び下側アーム34の構成を変更し、センサ支持アーム36を設けた以外は、前述した溝径測定装置100と同様の構成である。つまり、本構成の溝径測定装置200の作動機構21Aでは、位置センサ23を支持するセンサ支持アーム36と、下側アーム34とが支持台37にそれぞれ固定され、上側アーム32が傾斜自在となって支持台37に支持されている。
【0046】
具体的には、上側アーム32は、長手方向の一端部32aが、測定位置で把持部16に把持された内輪26の外周面の最上部よりも上側に配置され、その一端部32aに軌道溝26dの溝底と接触する可動測定子44が設けられている。下側アーム34は、長手方向の一端部34aが、測定位置で把持部16に把持された内輪26の外周面の最下部よりも下側に配置され、その一端部34aに軌道溝26dの溝底と接触する一対の測定子42A,42Bが設けられている。センサ支持アーム36は、その基端部が支持台37に固定され、上側アーム32に沿って延びた先端の一端部32aには、位置センサ23が設けられている。
【0047】
上側アーム32は、その長手方向中間部が回転支持部35の回転軸に支持されて、矢印R2方向の傾斜動作が可能となっている。これにより、上側アーム32の一端部32aが上下方向に移動自在となる。上側アーム32の長手方向の他端部32bは、センサ支持アーム36の一端部36aに設けた位置センサ23によってその高さ位置が検出される。
【0048】
上側アーム32の位置センサ23による高さ検出位置から、上側アーム32の回転中心位置(回転支持部35)までの距離、また、上側アーム32の回転中心位置から可動測定子44までの距離は既知である。よって、この場合においても他端部32bの高さ検出値から、可動測定子44が軌道溝25dに接触した高さ位置を幾何学計算によって算出可能となっている。
【0049】
図10は、内輪26が把持された把持部16の概略斜視図である。図11は、図10に示す内輪26と把持部16をXI-XI線で切断した断面図である。この場合の溝径は、図11に示すように、起動溝26dの最も深い点同士の径Doutである。把持部16は、第1支持部16aと、突き当て部16bと、第2支持部16cとを有する。
【0050】
第1支持部16aは、内輪26の一方の端面26aと外周面の一部に当接する平坦面PL1(図11参照)を有する。突き当て部16bは、第1支持部16aと一体に形成され、第1支持部16aの平坦面PL1から垂直に突出して、内輪26の外周面26cに突き当てられる。第2支持部16cは、第1支持部16aに対面して配置され、内輪26の他方の端面26bに当接する平坦面PL2を有する。第1支持部16a及び突き当て部16bと、第2支持部16cとは、不図示の駆動機構によって、それぞれ矢印SL1、SL2方向に変位可能となっており、第1支持部16aの平坦面PL1と第2支持部16cの平坦面PL2同士を互いに接近又は離反させることで、内輪26の把持と把持解除とを実施できる。
【0051】
図12は、可動測定子44と一対の測定子42A,42Bとを軸受用軌道輪の軸方向から見た概略側面図である。本構成の可動測定子44は、円柱形状のころにより形成されている。これによれば、回転軸を水平方向に起立させた内輪26の軌道溝26dに、その上方から可動測定子44を接触させる際、内輪26の軌道溝26dに可動測定子44が線接触する。これにより、内輪26が規定の測定位置から位置ずれを生じていても、安定して接触状態を維持でき、溝径の測定精度を向上できる。なお、可動測定子44はころに限らず、外表面の一部が円柱形状の外表面を有するものであってもよく、玉であってもよい。一対の測定子42A,42Bは、同一の高さ位置に配置され、図12の側面視で、可動測定子44の円柱形状の最下位置における軸方向中央を通る鉛直線Lct3から、それぞれ等しい距離(LN1=LN2)に配置されている。
【0052】
次に、上記構成の溝径測定装置200による溝径測定方法の具体的な手順について、前述した図4に示すフローチャートを参照しながら説明する。内輪26を把持してから(S1)、起立させ(S2)、測定位置に移送する(S3)までの各手順は、前述した第1構成例の場合と同様である。
【0053】
図13Aは、把持部16に把持された内輪26を測定位置に移送した様子を一部断面で示す説明図である。図13Bは、図13AのV方向から見た概略側面図である。この場合、内輪26を配置する規定の測定位置とは、内輪26の幅方向に関しては、図13Aに示すように、測定子42A,42Bの球面の上方の頂点(最上点)を通る鉛直線Lct4が、内輪26の軌道溝26dの幅方向における中点Pctと一致する位置である。また、内輪26の軸方向から見た水平方向に関しては、図13Bに示すように、前述した鉛直線Lct3が、内輪26の側面視において、水平方向の中点を通る位置が規定の測定位置となる。一例において、内輪26を測定位置に位置決めする位置精度は、幅方向に関しては、鉛直線Lct4の溝底からのずれ量を0.1mm以下にするのが好ましい。一方、軸方向から見た水平方向の位置精度は、幅方向の位置の精度よりも低くても構わない。上記数値は一例であり、これに限定されない。
【0054】
次に、位置決め駆動部55(図1)は、移送部19を駆動して、把持部16による内輪26の把持を継続させたまま、内輪26を鉛直方向下方に移動させて、測定子42A,42Bに軌道溝26dを接触させる。
【0055】
図14Aは、測定子42A,42Bに内輪26の軌道溝26dが接触した様子を一部断面で示す説明図である。図14Bは、図14AをV方向から見た概略側面図である。図14A図14Bに示すように、内輪26は、把持部16に把持されたまま、測定子42A,42Bに軌道溝26dが支持される(S4)。このような動作(矢印SL3)は、移送部19の駆動源としてサーボモータを用いることで高精度に実現できる。
【0056】
次に、傾斜駆動部57(図1)は回転支持部35を駆動して、上側アーム32を、回転支持部35を中心に時計回りに傾斜させ、可動測定子44を内輪26の軌道溝26dに接触させる(S5)。
【0057】
図15Aは、可動測定子44が内輪26の軌道溝26dに接触した様子を示す概略断面図である。図15Bは、図15Aの矢印V方向から見た概略側面図である。図15A図15Bに示すように、可動測定子44が内輪26の軌道溝26dに接触すると、内輪26は、一対の測定子42A,42Bと可動測定子44との3点で支持されるため姿勢が安定する。可動測定子44は、軌道溝26dの最上部において内輪26の溝底面に接触する。
【0058】
この状態で、把持駆動部53(図1)は、把持部16に内輪26の把持を解除させる。
図16Aは、内輪26の把持部16による把持が解除された様子を示す概略断面図である。図16Bは、図16Aの矢印V方向から見た概略側面図である。内輪26は、把持が解除されても一対の測定子42A,42Bと可動測定子44により支持されているため、姿勢が崩れることがない。
【0059】
次に、位置信号検出部59(図1)は、図9に示す位置センサ23から出力される検出信号から、上側アーム32の他端部32bの高さを検出する。この高さ情報は演算部61に入力され、演算部61は、入力された情報を、位置が既知である位置センサ23と上側アーム32の他端部32bとの接触点と、上側アーム32の一端部32aにおける可動測定子44と軌道溝26dとの接触点と、回転支持部35の回転中心との位置関係に基づいて、可動測定子44と軌道溝26dとが接触する高さ位置の情報に変換する(S6)。なお、この場合の高さ位置の検出も簡略化することができ、予め定めた基準となる高さとの差を求めることであってもよい。
【0060】
そして、演算部61は、規定の位置に配置された一対の測定子42A,42Bの軌道溝26dとの接触点P1,P2における高さ情報と、位置センサ23からの検出信号から演算により求めた可動測定子44と軌道溝26dとの接触点P3の高さ情報とから、内輪26の軌道溝26dの溝径を算出する。そして演算部61は、算出した溝径の情報を出力する(S7)。なお、演算部61は、詳細を後述するように、測定された位置情報と、予め定めた基準値とを比較した比例計算によって簡略的に溝径を求めてもよい。
【0061】
上記した溝径測定方法では、第1構成例による外輪の溝径測定の場合と同様に、内輪の溝径測定を高精度に実施できる。特に、内輪は外輪と比較して小径であるため、測定子42A,42Bと接触させて支持する際、起立させた姿勢が崩れやすくなる傾向がある。その点、本方法の手順では、内輪26を測定子42A,42Bと可動測定子44に支持させた後に、把持部16による把持を解除するため、内輪26を常に安定して起立状態に維持できる。
【0062】
また、上記の溝径測定方法では、いずれも溝径の絶対値を算出しているが、これに限らず簡略的な測定にしてもよい。具体的には、溝径寸法の上限限界、下限限界として予め作製したダミー軌道輪を用意しておき、これらダミー軌道輪の溝径測定結果と、実際の軸受用軌道輪の溝径測定結果とを比較して、実際の軸受用軌道輪の良否判定を実施してもよい。また、溝径が既知である軌道輪の測定結果との比較から、溝径を求めることでもよい。
例えば、溝径が0μmである軌道輪Aを測定したとき、位置センサによる測定値が1000μmであり、溝径が100μmである軌道輪Bを測定したとき、位置センサによる測定値が1200μmであったとする。そして、測定対象の軌道輪Cを測定したところ、位置センサによる測定値が1100μmであった場合、その軌道輪Cの溝径は、比例計算によって50μmであることがわかる。上記数値は一例であり、これに限定されない。さらに、上記した溝径寸法をノミナル値に対する差として求める場合には、本溝径測定方法を製造ライン等に適用した際に、溝径の管理がより簡便に行える。また、上記のような簡略的な測定の場合、予め用意する溝径演算用の種々の寸法値は、不要又は必ずしも正確でなくてもよいため、測定の工数を削減でき、タクトタイムの短縮に寄与できる。
【0063】
以上説明した軸受用軌道輪の溝径測定方法は、転がり軸受の製造工程に好適に適用できる。図17は、転がり軸受71の一部断面斜視図である。転がり軸受71は、前述した軸受用軌道輪である内輪73と、同じく前述した軸受用軌道輪である外輪75と、内輪73と外輪75との間に設けられる複数の転動体(玉)77と、転動体77を転動自在に保持する保持器79と、を備える。内輪73は、外周面に転動体77を案内する軌道溝73aを有する鋼材等の金属製の円環状体である。外輪75は、内周面に転動体77を案内する軌道溝75aを有する鋼材等の金属製の円環状体である。
【0064】
上記の転がり軸受71の内輪73と外輪75とを組み合わせる際、内輪73と外輪75の溝径を測定することで、内輪73と外輪75の溝径寸法と転動体77の径寸法から狙いのラジアルすきまとなる組み合わせを選定できる。つまり、溝径寸法が高精度に測定できるほど、ラジアルすきまを高精度に設定でき、高品質な転がり軸受71を生産できる。
【0065】
また、上記した転がり軸受の製造方法は、転がり軸受を備える各種の機械(器械等の動力が手動であるものを含む)の製造にも適用可能である。例えば、レール、スライダー等の直動案内装置、ねじ軸、ナット等のボールねじ装置やねじ装置、直動案内軸受とボールねじとを組み合わせた装置やXYテーブル等のアクチュエータ、等の直動装置への適用が可能である。また、ステアリングコラム、自在継手、中間ギア、ラックアンドピニオン、電動パワーステアリング装置、ウォーム減速機、トルクセンサ等の操舵装置の回転部分に使用される転がり軸受への適用も可能である。そして、上記機械、操舵装置等を含む車両、工作機械、住宅機器等、広く適用することができる。これにより得られた機械、車両等によれば、従来よりも低コストで、且つ、高品位な構成にできる。
【0066】
さらに、上記した転がり軸受の製造方法により得られる転がり軸受は、モータの回転軸を支持する転がり軸受にも適用できる。図18は、転がり軸受71A,71Bにより回転軸83を支持したモータ81の概略断面図である。このモータ81は、ブラシレスモータであって、円筒形のセンタハウジング85と、このセンタハウジング85の一方の開口端部を閉塞する略円板状のフロントハウジング87とを有する。センタハウジング85の内側には、その軸心に沿って、フロントハウジング87及びセンタハウジング85の内部に配置された転がり軸受71A,71Bを介して、回転自在な回転軸83が支持される。回転軸83の周囲にはモータ駆動用のロータ89が設けられ、センタハウジング85の内周面にはステータ91が固定される。上記した構成のモータ81は、一般に、機械や車両に搭載され、転がり軸受71A,71Bにより支持された回転軸83を回転駆動する。
【0067】
上記例は一例であって、軸受の適用例としては、相対回転する箇所であれば、本構成の軸受を好適に適用でき、製品品質の向上につなげることができる。
【0068】
このように、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせることや、明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
【0069】
例えば、上記した例では、固定側測定子が規定された2つの周位置に設けられているが、このような線対称な一対の位置に限らず、1点で軌道輪を支持する形態であってもよい。
【0070】
本開示は、以下のような組み合わせを含む。
(1)一実施形態において、軸受の溝径測定方法は、内周面又は外周面に軌道溝が形成されたリング状部材を用意する工程と、支持部材を用いて前記リング状部材を支持する工程であり、前記リング状部材の中心軸が横向きに配され、前記支持部材が前記軌道溝の溝底面に接触して前記リング状部材の重力を支持する、前記工程と、可動測定子が前記溝底面上に載せられた状態で、前記可動測定子の高さ位置を測定する工程と、前記可動測定子の前記高さ位置の測定結果に基づいて、前記軌道溝の溝径を算出する工程と、を備える。
(2)上記(1)に記載の測定方法において、前記支持部材は、水平方向において互いに離間して配される2つの凸部を有し、前記2つの凸部は、各々が上向きに凸の輪郭を有する。
(3)上記(1)又は(2)に記載の測定方法において、前記リング状部材は、前記軌道溝が内周面に形成された外輪であり、前記可動測定子は、前記軌道溝の最下部において前記溝底面に接触する。
(4)上記(1)又は(2)に記載の測定方法において、前記リング状部材は、前記リング状部材は、前記軌道溝が外周面に形成された内輪であり、前記可動測定子は、前記軌道溝の最上部において前記溝底面に接触する。
(5)一実施形態において、転がり軸受の製造方法は、上記(1)から(4)のいずれかに記載の測定方法を用いる。
(6)一実施形態において、機械の製造方法は、上記(5)に記載の測定方法を用いる。
(7)一実施形態において、車両の製造方法は、上記(5)に記載の測定方法を用いる。
(8)一実施形態において、軸受の溝径測定装置は、内周面又は外周面に軌道溝が形成されたリング状部材を支持する支持部材であり、前記リング状部材の中心軸が横向きに配され、前記軌道溝の溝底面に接触して前記リング状部材の重力を支持する、前記支持部材と、可動自在に配置される可動測定子であり、前記支持部材に支持された前記リング状部材における前記溝底面上に載せられる、前記可動測定子と、前記可動測定子が前記溝底面上に載せられた状態で、前記可動測定子の高さ位置を測定するセンサと、前記高さ位置の測定結果に基づいて、前記軌道溝の溝径を算出する演算部と、を備える。
(9)上記(8)に記載の測定装置において、前記支持部材は、水平方向において互いに離間して配される2つの凸部を有し、前記2つの凸部は、各々が上向きに凸の輪郭を有する。
(10)上記(8)又は(9)に記載の測定装置において、前記リング状部材は、前記軌道溝が内周面に形成された外輪であり、前記可動測定子は、前記軌道溝の最下部において前記溝底面に接触する。
(11)上記(8)又は(9)に記載の測定装置において、前記リング状部材は、前記軌道溝が外周面に形成された内輪であり、前記可動測定子は、前記軌道溝の最上部において前記溝底面に接触する。
【0071】
また、本開示は、以下のような組み合わせを含む。
(21) 内周面又は外周面に軌道溝が形成された軸受用軌道輪を把持し、
前記軸受用軌道輪をその軸方向が水平方向になるように起立させて測定位置に搬送し、
前記測定位置において、起立した前記軸受用軌道輪の上側又は下側の軌道溝のいずれか一方における規定された周位置の溝底に固定側測定子を接触させるとともに、前記軸受用軌道輪の把持を解除して前記軸受用軌道輪の自重を前記固定側測定子に支持させた状態にし、
可動測定子を前記軸受用軌道輪の上側又は下側の軌道溝のいずれか他方における溝底に、前記軌道溝と接触するまで鉛直方向に移動させ、
前記可動測定子が前記軌道溝と接触した際の前記可動測定子と前記軌道溝との接触位置を測定し、
前記接触位置の測定結果と前記固定側測定子の規定位置との関係から、前記軸受用軌道輪の溝径を算出する、軸受用軌道輪の溝径測定方法。
この軸受用軌道輪の溝径測定方法によれば、軸受用軌道輪を把持した状態で、軸受用軌道輪の回転軸を重力方向に向けた状態から90°回転させた水平方向の向きに変更した状態、即ち、軸受用軌道輪の回転軸を重力方向と直交にした状態で溝径を測定する。これによれば、固定側測定子に係止される軸受用軌道輪が、その自重によって自然に軌道溝の溝底に落ち着くようになるため、固定側測定子及び可動測定子と軌道溝との接触位置の変動が生じにくく、溝径測定の精度を向上できる。
【0072】
(22) 前記軸受用軌道輪は、前記軌道溝が内周面に形成された外輪であって、
起立した前記軸受用軌道輪の前記軌道溝の最上部を中心に前記軌道溝の互いに異なる周位置に一対の前記固定側測定子を配置し、
起立した前記軸受用軌道輪の前記軌道溝の最下部に接触するように前記可動測定子を配置する、(21)に記載の軸受用軌道輪の溝径測定方法。
この軸受用軌道輪の溝径測定方法によれば、一対の固定側測定子が軌道溝と接触した際、軸受用軌道輪が重力により自動的に一対の固定側測定子同士の中間位置に移動するため、軸受用軌道輪を規定の測定位置に高精度に位置決めできる。
【0073】
(23) 前記軸受用軌道輪の把持を解除した後に、前記一対の固定側測定子が前記軌道溝に接触して、前記軸受用軌道輪が前記一対の固定側測定子に支持される、(22)に記載の軸受用軌道輪の溝径測定方法。
この軸受用軌道輪の溝径測定方法によれば、軸受用軌道輪をアクチュエータ等により機械的に位置決めする場合と比較して位置ずれが生じにくくなり、軸受用軌道輪の位置決め精度を向上できる。
【0074】
(24) 前記軸受用軌道輪は、前記軌道溝が外周面に形成された内輪であって、
起立した前記軸受用軌道輪の前記軌道溝の最下部を中心に前記軌道溝の互いに異なる周位置に一対の前記固定側測定子を配置し、
起立した前記軸受用軌道輪の前記軌道溝の最上部に接触するように前記可動測定子を配置する、(21)から(23)のいずれか1つに記載の軸受用軌道輪の溝径測定方法。
この軸受用軌道輪の溝径測定方法によれば、一対の固定側測定子が軌道溝と接触した際、軸受用軌道輪が重力により自動的に一対の固定側測定子同士の中間位置に移動するため、軸受用軌道輪を規定の測定位置に高精度に位置決めできる。
【0075】
(25) 前記軸受用軌道輪の前記軌道溝を前記一対の固定側測定子に接触させ、前記軸受用軌道輪を前記一対の固定側測定子に支持させた後に、前記軸受用軌道輪の把持を解除する、(24)に記載の軸受用軌道輪の溝径測定方法。
この軸受用軌道輪の溝径測定方法によれば、軸受用軌道輪が起立した姿勢を安定して維持できる。
【0076】
(26) 前記軸受用軌道輪を前記測定位置に移送する際、前記固定側測定子を前記軸受用軌道輪の前記周位置の溝底からのずれ量が0.1mm以下にする、(21)から(25)のいずれか1つに記載の軸受用軌道輪の溝径測定方法。
この軸受用軌道輪の溝径測定方法によれば、軸受用軌道輪を高精度に位置決めできる。
【0077】
(27) 回転軸を重力方向に向けて配置され内周面又は外周面に軌道溝が形成された軸受用軌道輪を把持する把持部と、
把持された前記軸受用軌道輪の軸方向が水平方向になるように前記軸受用軌道輪を起立させる軌道輪旋回部と、
起立した前記軸受用軌道輪を測定位置に移送する移送部と、
前記測定位置において、起立した前記軸受用軌道輪の上側又は下側の軌道溝のいずれか一方における規定された周位置の溝底に固定側測定子を接触させ、前記軸受用軌道輪の自重を前記固定側測定子に支持させた状態にし、可動測定子を前記軸受用軌道輪の上側又は下側の軌道溝のいずれか他方における溝底に、前記軌道溝と接触するまで鉛直方向に移動させる測定子作動機構と、
前記可動測定子が前記軌道溝と接触した際の前記可動測定子と前記軌道溝との接触位置を測定する位置測定部と、
前記接触位置の測定結果と前記固定側測定子の規定位置との関係から、前記軸受用軌道輪の溝径を算出する演算部と、を備える軸受用軌道輪の溝径測定装置。
この軸受用軌道輪の溝径測定装置によれば、軸受用軌道輪を把持した状態で、軸受用軌道輪の回転軸を重力方向に向けた状態から90°回転させた水平方向の向きに変更した状態、即ち、軸受用軌道輪の回転軸を重力方向と直交にした状態で溝径を測定する。これによれば、固定側測定子に係止される軸受用軌道輪が、その自重によって自然に軌道溝の溝底に落ち着くようになるため、固定側測定子及び可動測定子と軌道溝との接触位置の変動が生じにくく、溝径測定の精度を向上できる。
【0078】
(28) 前記軸受用軌道輪は、前記軌道溝が内周面に形成された外輪であって、
前記測定子作動機構は、
長手方向の一端部が前記把持部に把持された前記軸受用軌道輪の内周面よりも径方向内側となる領域の上側領域に配置され、当該一端部に前記軌道溝の上側の溝底に接触する前記固定側測定子が設けられた長尺状の上側アームと、
長手方向の一端部が前記把持部に把持された前記軸受用軌道輪の内周面より径方向内側となる領域の下側領域に配置され、当該一端部に前記軌道溝の下側の溝底に接触する前記可動測定子が設けられた長尺状の下側アームと、
前記下側アームの長手方向中間部を回転自在に支持し、前記下側アームの一端部を上下方向に変位させる回転支持部と、を備え、
前記位置測定部は、前記上側アームの一端部とは反対側の他端部に設けられ、前記下側アームに設けた前記可動測定子が前記溝底に接触したときの、前記下側アームの一端部とは反対側の他端部の高さ位置を測定する、(27)に記載の軸受用軌道輪の溝径測定装置。
この軸受用軌道輪の溝径測定装置によれば、上側アームに設けた固定側測定子に、軸方向を水平方向にして起立させた軸受用軌道輪を支持させ、この状態で、下側アームに設けた可動測定子を軌道溝に接触させることにより、軸受用軌道輪の軌道溝を固定側測定子と可動測定子とに擦り動作を生じさせずに接触させることができる。これにより、位置測定部が測定した高さ位置の情報を用いて軸受用軌道輪の溝径を安定して正確に求めることができる。
【0079】
(29) 起立した前記軸受用軌道輪の前記軌道溝の最上部を中心に前記軌道溝の互いに異なる周位置に一対の前記固定側測定子を配置し、
起立した前記軸受用軌道輪の前記軌道溝の最下部に接触するように前記可動測定子を配置する、(28)に記載の軸受用軌道輪の溝径測定装置。
この軸受用軌道輪の溝径測定装置によれば、一対の固定側測定子が軌道溝と接触した際、軸受用軌道輪が重力により自動的に一対の固定側測定子同士の中間位置に移動するため、軸受用軌道輪を規定の測定位置に高精度に位置決めできる。
【0080】
(30) 前記固定側測定子と前記可動測定子の表面は、それぞれ球面を有する、(29)に記載の軸受用軌道輪の溝径測定装置。
この軸受用軌道輪の溝径測定装置によれば、固定側測定子及び可動測定子と、軌道溝とが点接触で位置決めされるため、溝径の測定精度を向上できる。
【0081】
(31) 前記軸受用軌道輪は、前記軌道溝が外周面に形成された内輪であって、
前記測定子作動機構は、
長手方向の一端部が、前記把持部に把持された前記軸受用軌道輪の外周面の最上部よりも上側に配置され、当該一端部に前記軌道溝の溝底と接触する前記可動測定子が設けられた長尺状の上側アームと、
長手方向の一端部が前記把持部に把持された前記軸受用軌道輪の外周面の最下部よりも下側に配置され、当該一端部に前記軌道溝の溝底と接触する前記固定側測定子が設けられた長尺状の下側アームと、
前記上側アームの長手方向中間部を回転自在に支持し、前記上側アームの一端部を上下方向に変位させる回転支持部と、を備え、
前記位置測定部は、前記下側アームの一端部とは反対側の他端部に設けられ、前記上側アームに設けた前記可動測定子が前記溝底に接触したときの、前記上側アームの一端部とは反対側の他端部の高さ位置を測定する、(27)に記載の軸受用軌道輪の溝径測定装置。
この軸受用軌道輪の溝径測定装置によれば、下側アームに設けた固定側測定子に、軸方向を水平方向にして起立させた軸受用軌道輪を支持させ、この状態で、上側アームに設けた可動測定子を軌道溝に接触させることにより、軸受用軌道輪の軌道溝を固定側測定子と可動測定子とに、擦り動作を生じさせずに接触させることができる。これにより、位置測定部が測定した高さ位置の情報を用いて軸受用軌道輪の溝径を安定して正確に求めることができる。
【0082】
(32) 起立した前記軸受用軌道輪の前記軌道溝の最下部を中心に前記軌道溝の互いに異なる周位置に一対の前記固定側測定子を配置し、
起立した前記軸受用軌道輪の前記軌道溝の最上部に接触するように前記可動測定子を配置する、(31)に記載の軸受用軌道輪の溝径測定装置。
この軸受用軌道輪の溝径測定装置によれば、一対の固定側測定子が軌道溝と接触した際、軸受用軌道輪が重力により自動的に一対の固定側測定子同士の中間位置に移動するため、軸受用軌道輪を規定の測定位置に高精度に位置決めできる。
【0083】
(23) 前記可動測定子の表面は、前記軸受用軌道輪の軸方向に直交する面に軸線が含まれる円柱体の外周面を有し、
前記固定側測定子の表面は、それぞれ球面を有する、(32)に記載の軸受用軌道輪の溝径測定装置。
この軸受用軌道輪の溝径測定装置によれば、回転軸を水平方向に起立させた軸受用軌道輪の軌道溝に、その上方から可動測定子を接触させる際、軸受用軌道輪の軌道溝に可動測定子が線接触する。これにより、軸受用軌道輪が規定の測定位置から位置ずれを生じていても、安定して接触状態を維持でき、溝径の測定精度を向上できる。
【0084】
(34) 前記移送部は、サーボモータを駆動源にして前記軸受用軌道輪を移送する、(27)から(33)のいずれか1つに記載の軸受用軌道輪の溝径測定装置。
この軸受用軌道輪の溝径測定装置によれば、軸受用軌道輪を規定の測定位置へ高精度に移動できる。
【0085】
(35) (21)から(26)のいずれか1つに記載の軸受用軌道輪の溝径測定方法を用いる転がり軸受の製造方法。
この転がり軸受の製造方法によれば、例えば、転がり軸受の内輪と外輪とを組み合わせる際、内輪と外輪の溝径を測定することで、内輪と外輪の溝径寸法と転動体の径寸法から狙いのラジアルすきまとなる組み合わせを選定できる。
【0086】
(36) (35)に記載の転がり軸受の製造方法を用いる機械の製造方法。
この機械の製造方法によれば、従来よりも低コストで、且つ、高品位な構成にできる。
【0087】
(37) (35)に記載の転がり軸受の製造方法を用いる車両の製造方法。
この車両の製造方法によれば、従来よりも低コストで、且つ、高品位な構成にできる。
【符号の説明】
【0088】
11 測定部
13 制御部
15,16 把持部
15a,16a 第1支持部
15b,16b 突き当て部
15c,16c 第2支持部
17 旋回部
17a 旋回テーブル
19 移送部
21,21A 作動機構
23 位置センサ(センサ)
25,26 軸受用軌道輪
25a,25b,26a,26b 端面
25c,26c 外周面
25d,26d 軌道溝
27 搬送路
31,32 上側アーム(支持部材)
31a,32a 一端部
31b,32b 他端部
33,34 下側アーム(支持部材)
33a,34a 一端部
33b,34b 他端部
35 回転支持部
37 支持台
41A,41B,42A,42B 測定子
43,44 可動測定子
51 旋回駆動部
53 把持駆動部
55 位置決め駆動部
57 傾斜駆動部
59 位置信号検出部
61 演算部
71,71A,71B 転がり軸受
73 内輪(軸受用軌道輪)
75 外輪(軸受用軌道輪)
77 転動体
79 保持器
81 モータ
83 回転軸
85 センタハウジング
87 フロントハウジング
89 ロータ
91 ステータ
100 溝径測定装置
Ax 軸方向
PL1,PL2 平坦面
【要約】
内周面又は外周面に軌道溝(25d)が形成されたリング状部材(25)が用意される。支持部材(33)を用いてリング状部材(25)が支持される。リング状部材(25)の中心軸が横向きに配され、支持部材(25)が軌道溝(25d)の溝底面に接触してリング状部材(25)の重力を支持する。可動測定子(43)が溝底面上に載せられた状態で、可動測定子(43)の高さ位置が測定される。可動測定子(43)の高さ位置の測定結果に基づいて、軌道溝(25d)の溝径が算出される。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B
図7A
図7B
図8A
図8B
図9
図10
図11
図12
図13A
図13B
図14A
図14B
図15A
図15B
図16A
図16B
図17
図18