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特許7582569送電線路評価システムおよび送電線路評価方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】送電線路評価システムおよび送電線路評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/12 20200101AFI20241106BHJP
   G01R 31/58 20200101ALI20241106BHJP
【FI】
G01R31/12 B
G01R31/58
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2024551544
(86)(22)【出願日】2024-04-22
(86)【国際出願番号】 JP2024015669
【審査請求日】2024-08-29
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100187643
【弁理士】
【氏名又は名称】白鳥 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】小野田 貴亮
(72)【発明者】
【氏名】芦辺 祐一
(72)【発明者】
【氏名】三田 雅樹
(72)【発明者】
【氏名】森村 皓之
【審査官】青木 洋平
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-116789(JP,A)
【文献】特開2007-046908(JP,A)
【文献】特開2002-340970(JP,A)
【文献】特開2015-001461(JP,A)
【文献】特開2020-165922(JP,A)
【文献】実開昭62-055179(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/12
G01R 31/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体、絶縁層および遮蔽層を前記導体の径方向にこの順で有する電力ケーブルを含む送電線路に接続され、前記導体および前記遮蔽層の間に電圧を印加可能な電源と、
前記電源と前記送電線路との間に直列接続され、前記送電線路の前記導体および前記遮蔽層の間に流れる電流の積分値である電荷量を測定する電荷量測定部と、
前記電荷量測定部に接続され、前記電荷量測定部により測定した電荷量データを無線により外部に送信可能な無線部と、
前記電荷量測定部、および前記無線部の一部を収容し、前記電荷量測定部および前記無線部に対して共通の基準電位として接続される筐体と、
を備え
前記電源は、
前記送電線路の前記導体に接続される正極と、
前記送電線路の前記遮蔽層とともにアースに接地される負極と、
を有し、
前記電荷量測定部は、前記電源の前記正極と前記送電線路の前記導体との間に直列接続され、
前記筐体は、前記電源の前記正極と前記電荷量測定部との間に接続され、前記電源の前記正極と等電位となるよう構成されている
送電線路評価システム。
【請求項2】
前記電源は、10kV以上の直流電圧または矩形波電圧を前記送電線路の前記導体および前記遮蔽層の間に印加可能に構成されている
請求項1に記載の送電線路評価システム。
【請求項3】
前記無線部は、
前記筐体内で前記電荷量測定部に接続され、前記電荷量データを含むデータ信号を生成するとともに、外部からの信号を処理する信号処理部と、
前記信号処理部に接続され、前記データ信号を外部に送信するとともに、外部からの前記信号を受信するアンテナと、
前記基準電位として前記筐体に接続され、且つ、前記信号処理部および前記アンテナに並列接続されるコイルと、
を有する
請求項1または請求項2に記載の送電線路評価システム。
【請求項4】
導体、絶縁層および遮蔽層を前記導体の径方向にこの順で有する電力ケーブルを含む送電線路を準備する工程と、
前記送電線路に接続された電源と、前記電源と前記送電線路との間に直列接続された電荷量測定部と、前記電荷量測定部に接続され、前記電荷量測定部により測定した電荷量データを無線により外部に送信可能な無線部と、前記電荷量測定部、および前記無線部の一部を収容し、前記電荷量測定部および前記無線部に対して共通の基準電位として接続される筐体と、を備える送電線路評価システムを構築する工程と、
記電源を用い、前記導体および前記遮蔽層の間に電圧を印加する工程と、
記電荷量測定部を用い、前記送電線路の前記導体および前記遮蔽層の間に流れる電流の積分値である電荷量を測定する工程と、
を備え
前記送電線路評価システムを構築する工程では、
前記送電線路の前記導体に接続される正極と、前記送電線路の前記遮蔽層とともにアースに接地される負極と、を有するように前記電源を構成し、
前記電荷量測定部を、前記電源の前記正極と前記送電線路の前記導体との間に直列接続し、
前記筐体を、前記電源の前記正極と前記電荷量測定部との間に接続し、前記電源の前記正極と等電位となるよう構成する
送電線路評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、送電線路評価システムおよび送電線路評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電力ケーブルの絶縁層を評価する方法として、様々な方法が開示されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-29450号公報
【発明の概要】
【0004】
本開示の一態様によれば、導体、絶縁層および遮蔽層を前記導体の径方向にこの順で有する電力ケーブルを含む送電線路に接続され、前記導体および前記遮蔽層の間に電圧を印加可能な電源と、前記電源と前記送電線路との間に直列接続され、前記送電線路の前記導体および前記遮蔽層の間に流れる電流の積分値である電荷量を測定する電荷量測定部と、を備える送電線路評価システムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0005】
図1図1は、本開示の一実施形態に係る送電線路評価システムを示す概略構成図である。
図2図2は、図1の送電線路付近の構成を拡大した概略図である。
図3図3は、図1の無線部付近の構成を拡大した概略図である。
図4図4は、管理センタを示すブロック図である。
図5図5は、本開示の一実施形態に係る送電線路評価方法を示すフローチャートである。
図6図6は、電圧印加工程および電荷量測定工程のシーケンスを示す図である。
図7図7は、これまでの絶縁材料評価システムを示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
[本開示が解決しようとする課題]
本開示の目的は、送電線路の電荷量特性に基づいて、送電線路の状態を評価することである。
【0007】
[本開示の効果]
本開示によれば、送電線路の電荷量特性に基づいて、送電線路の状態を評価することができる。
【0008】
[本開示の実施形態の説明]
<発明者等の得た知見>
まず、発明者の得た知見について説明する。
【0009】
発明者等は、いわゆる電流積分電荷法(Q(t)法とも呼ばれる)により、電力ケーブルの絶縁層に含まれる絶縁材料などを評価する方法を開発してきた。
【0010】
発明者等によるこれまでの検討では、例えば、図7に示すような絶縁材料評価システム90を用いていた。具体的には、絶縁材料評価システム90は、例えば、電源920と、スイッチ922と、スイッチ924と、コンデンサ932およびスイッチ934を含む電荷量測定部930と、を備えていた。
【0011】
評価対象は、絶縁材料を含むシート910としていた。シート910の表面および裏面には、それぞれ、第1電極912および第2電極914を設けた。さらに、シート910の裏面には、第2電極914の外周を囲むようにガード電極916を設け、当該ガード電極916を接地していた。
【0012】
これまでの絶縁材料評価方法では、例えば、電源920、スイッチ922、スイッチ924およびスイッチ934を用い、第1電極912および第2電極914の間に矩形波電圧を印加することで、絶縁材料を含むシート910の厚さ方向に流れる電荷をコンデンサ932に蓄積させた。これにより、コンデンサ932に蓄積される電荷量を測定していた。なお、評価対象に流れる電流の積分値である電荷量を測定することで得られる特性を、以下において「電荷量特性」ともいう。
【0013】
これまでの絶縁材料評価方法では、上述のような測定により得られた絶縁材料の電荷量特性に基づいて、絶縁材料の誘電率、空間電荷特性、電気伝導度などのうち少なくともいずれか1つを含む絶縁材料の特性を評価していた。
【0014】
しかしながら、これまでの絶縁材料評価システム90では、評価対象が薄いシート910に限られており、電源920の印加可能な電圧が低かった。このため、絶縁材料評価システム90では、実際に現場で布設される電力ケーブルを含む送電線路がどのような電荷量特性を示すかを評価することができなかった。
【0015】
そこで、発明者等は、鋭意検討した結果、実際に現場で布設される送電線路に対して直接的に電圧を印加して送電線路の電荷量特性を評価することが可能な送電線路評価システムを開発した。
【0016】
しかしながら、上述の送電線路評価システムでは、回路の構成などに起因して、以下のような新規課題が生じることが分かった。
【0017】
(i)上述のこれまでの絶縁材料評価システム90では、評価対象としてのシート910よりもアースに近い位置に、電荷量測定部930を配置していた。これにより、電荷量測定部930として、コンデンサ932を含む測定系に対して、測定用のコンピュータを直接的に接続していた。このような構成を有する絶縁材料評価システム90は、実験室等のように、アースからのノイズの発生レベルを制御し易い環境下に設けられていた。このため、測定用のコンピュータに不具合は無かった。
【0018】
しかしながら、送電線路に対して超高電圧を印加する送電線路評価システムでは、屋内外の様々な環境下で試験が実施されていた。このため、送電線路評価システムよりも外側における工場などのアースからのノイズレベルが高くなる傾向にあった。特に工場の各種電源(インバータ制御電源など)が送電線路の近くに配置されている場合では、ノイズレベルが高くなり易かった。このような場合において、評価対象としての送電線路よりもアースに近い位置に電荷量測定部を配置した場合では、アースからノイズが生じ易く、当該ノイズが電荷量測定部の測定精度に影響するおそれがあった。
【0019】
また、送電線路よりもアースに近い位置に電荷量測定部を配置した送電線路評価システムでは、送電線路の基準電位が電荷量測定部を介して浮遊状態となっていた。このため、送電線路における接地が不安定となるおそれがあった。
【0020】
さらに、送電線路よりもアースに近い位置に電荷量測定部を配置した送電線路評価システムにおいて、電荷量測定部に電気的不具合が生じた場合には、送電線路に対する接地系統が変化する可能性があった。そのため、送電線路に対して、想定外の電流が流れたり、想定外の電圧が印加されたりするおそれがあった。その結果、高電圧が印加される送電線路評価システム全体にわたって、電気的不具合の影響が及ぶおそれがあった。
【0021】
(ii)上述の(i)の影響を回避するため、発明者等は、電荷量測定部を、電源の正極に近く高電位となる位置に配置する構成を検討した。この場合、電荷量測定部が高い電位となるため、電荷量測定部として、コンデンサを含む測定系に対して、測定用のコンピュータを直接的に接続することができなかった。そこで、送電線路評価システムにおいて、電荷量測定部により測定した電荷量データを無線により送信する無線部を設けた。
【0022】
しかしながら、電源から送電線路に対して印加する電圧を徐々に上昇させたところ、例えば、印加電圧が400kV超となったときに、送電線路評価システムの無線部からの通信が途絶えてしまった。
【0023】
発明者等が原因を調査したところ、電荷量測定部および無線部を収容する筐体が、基準電位として、電源の正極と等しい高電位となっていた。一方で、例えば、同軸構造を有する無線部のアンテナにおいて、電気的に遮蔽する第2導体は筐体と等電位となるが、アンテナの中心に位置する第1導体は筐体と直接電気的に接続されていなかった。このため、当該アンテナの第1導体において、意図しない過剰な電荷が蓄積していた。その結果、無線部における通信障害が発生したと考えられる。したがって、(ii)のような配置であっても、電荷量データを安定的に取得することが困難となっていた。
【0024】
発明者等は、上述した新規課題(i)および(ii)を解決するため、さらに鋭意検討した結果、送電線路の状態を安定的に評価することができる送電線路評価システムの構成を見出した。
【0025】
本開示は、発明者等が見出した上記知見に基づくものである。
【0026】
<本開示の実施態様>
次に、本開示の実施態様を列記して説明する。
【0027】
[1]本開示の一態様に係る送電線路評価システムは、
導体、絶縁層および遮蔽層を前記導体の径方向にこの順で有する電力ケーブルを含む送電線路に接続され、前記導体および前記遮蔽層の間に電圧を印加可能な電源と、
前記電源と前記送電線路との間に直列接続され、前記送電線路の前記導体および前記遮蔽層の間に流れる電流の積分値である電荷量を測定する電荷量測定部と、
を備える。
この構成によれば、送電線路の電荷量特性に基づいて、送電線路の状態を評価することができる。
【0028】
[2]上記[1]に記載の送電線路評価システムにおいて、
前記電源は、10kV以上の直流電圧または矩形波電圧を前記送電線路の前記導体および前記遮蔽層の間に印加可能に構成されている。
この構成によれば、実際の送電線路の運転時に近い状況下において、送電線路の電荷量を測定することができる。
【0029】
[3]上記[1]または[2]に記載の送電線路評価システムにおいて、
前記電源は、
前記送電線路の前記導体に接続される正極と、
前記送電線路の前記遮蔽層とともにアースに接地される負極と、
を有し、
前記電荷量測定部は、前記電源の前記正極と前記送電線路の前記導体との間に直列接続される。
この構成によれば、送電線路の状態を安定的に評価することができる。
【0030】
[4]上記[3]に記載の送電線路評価システムにおいて、
前記電荷量測定部に接続され、前記電荷量測定部により測定した電荷量データを無線により外部に送信可能な無線部をさらに備える。
この構成によれば、電荷量データを無線により安定的かつ安全に取得することができる。
【0031】
[5]上記[4]に記載の送電線路評価システムにおいて、
前記電荷量測定部、および前記無線部の一部を収容し、前記電荷量測定部および前記無線部に対して共通の基準電位として接続される筐体をさらに備え、
前記筐体は、前記電源の前記正極と前記電荷量測定部との間に接続され、前記電源の前記正極と等電位となるよう構成されている。
この構成によれば、電荷量測定部により、送電線路の導体と遮蔽層との間の電荷量を精度よく測定することができる。
【0032】
[6]上記[5]に記載の送電線路評価システムにおいて、
前記無線部は、
前記筐体内で前記電荷量測定部に接続され、前記電荷量データを含むデータ信号を生成するとともに、外部からの信号を処理する信号処理部と、
前記信号処理部に接続され、前記データ信号を外部に送信するとともに、外部からの前記信号を受信するアンテナと、
前記基準電位として前記筐体に接続され、且つ、前記信号処理部および前記アンテナに並列接続されるコイルと、
を有する。
この構成によれば、送電線路の状態を安定的に評価することができる。
【0033】
[7]本開示の他の態様に係る送電線路評価方法は、
導体、絶縁層および遮蔽層を前記導体の径方向にこの順で有する電力ケーブルを含む送電線路を準備する工程と、
前記送電線路に接続された電源を用い、前記導体および前記遮蔽層の間に電圧を印加する工程と、
前記電源と前記送電線路との間に直列接続された電荷量測定部を用い、前記送電線路の前記導体および前記遮蔽層の間に流れる電流の積分値である電荷量を測定する工程と、
を備える。
この構成によれば、送電線路の電荷量特性に基づいて、送電線路の状態を評価することができる。
【0034】
[本開示の実施形態の詳細]
次に、本開示の一実施形態を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本開示はこれらの例示に限定されるものではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。以下に記載する実施形態の少なくとも一部を任意に組み合わせてもよい。
【0035】
<本開示の一実施形態>
(1)送電線路評価システム
図1図4を参照し、本開示の一実施形態に係る送電線路評価システム20の概略について説明する。図1において、電源200および電荷量測定部300のスイッチング系統、低圧部シールドリング194は省略されている。図1において、送電線路10の屈曲部が省略され、送電線路10が直線状に示されている。図2の送電線路10を構成する一部は、断面が示されている。
【0036】
図1図4に示すように、本実施形態の送電線路評価システム20は、例えば、電流積分電荷法により、実際に布設された送電線路10の電荷量に基づいて、送電線路10の状態を評価するよう構成されている。
【0037】
具体的には、本実施形態の送電線路評価システム20は、例えば、電源200と、電荷量測定部300と、無線部400と、筐体500と、管理センタ60と、を備えている。
【0038】
(送電線路)
図1および図2に示すように、本実施形態において、評価対象となる送電線路10は、例えば、少なくとも電力ケーブル100を含んでいる。電力ケーブル100は、例えば、導体101と、内部半導電層(不図示)と、絶縁層103と、外部半導電層(不図示)と、遮蔽層(金属遮蔽層)105と、シース(符号不図示)と、を導体101の中心軸から導体101の径方向の外側に向けてこの順で有している。
【0039】
電力ケーブル100は、直流用に構成されていてもよいし、或いは交流用に構成されていてもよい。なお、電力ケーブル100が交流用に構成されていても、送電線路評価システム20の電源200から、電力ケーブル100を含む送電線路10に対して、直流電圧または矩形波電圧が印加されることとなる。
【0040】
本実施形態では、送電線路10は、例えば、終端接続部120および中間接続部140のうち少なくともいずれかをさらに含んでいてもよい。
【0041】
中間接続部140は、例えば、送電線路10において一対の電力ケーブル100が接続される部分を構成している。具体的な中間接続部140としては、例えば、常温収縮型のゴム製の絶縁ユニットを含む中間接続部、工場内で絶縁性テープを巻き付けることにより形成された工場ジョイント(FJ:Factory Joint)などが挙げられる。中間接続部140は、例えば、一対の電力ケーブル100の導体101を接続する金属スリーブと、金属スリーブの外周を囲む絶縁ユニットと、電力ケーブル100の遮蔽層105に接続されるシールド部材と、を備えている。
【0042】
終端接続部120は、例えば、送電線路10において電力ケーブル100が架空送電線または所定の機器に接続される部分を構成している。具体的な終端接続部120としては、例えば、気中終端接続部が挙げられる。以下では、例えば、終端接続部120が気中終端接続部として構成される場合について説明する。
【0043】
終端接続部120において、電力ケーブル100は、導体101の軸方向の先端から反対側に向けて段階的に剥がされている。すなわち、電力ケーブル100の導体101、絶縁層103、外部半導電層、遮蔽層105、およびシースは、導体110の先端側から反対側に向けてこの順で露出している。電力ケーブル100の露出した外部半導電層の周囲には、絶縁ゴムユニットが設けられていてもよい。
【0044】
終端接続部120は、例えば、碍管122と、下部金具124と、を有している。
【0045】
碍管122は、筒状の絶縁部材として構成され、電力ケーブル100の外周を囲むように設けられている。碍管122は、段階的に剥がされた電力ケーブル100の周辺の絶縁性を確保するように構成されている。
【0046】
碍管122は、鉛直方向に沿って立設されている。碍管122内には、段階的に剥がされた電力ケーブル100が挿入されている。碍管122の上部には、電力ケーブル100の導体101が固定されている。電力ケーブル100を除く碍管122内には、絶縁油または絶縁ガスの絶縁媒体(符号不図示)が充填されている。
【0047】
碍管122は、当該碍管122の外周において、碍管122の外側に向けて拡径した複数の鍔部(ひだ部、符号不図示)を有している。これにより、導体101とアースとの間の絶縁距離が確保されている。
【0048】
下部金具124は、碍管122の軸方向の下部に設けられ、碍管122の軸方向の下部における開口を塞いでいる。下部金具124は、電力ケーブル100の遮蔽層105に接続され、遮蔽層105とともにアースに接地されている。これにより、送電線路10の全体における遮蔽層105が接地されている。
【0049】
送電線路10は、導体101の軸方向(送電線路10の布設方向)の第1端10aと、第1端10aと反対の第2端10bと、を有している。送電線路10の第1端10付近aと第2端10b付近とには、それぞれ、上述の終端接続部120が設けられている。
【0050】
送電線路10の第1端10aと第2端10bとのそれぞれには、導体101の先端を囲むように、高圧部シールドリング192が設けられている。送電線路10の第1端10aと第2端10bとのそれぞれにおいて、2つの高圧部シールドリング192が設けられていてもよい。これにより、測定時に、導体101の先端付近における電界集中を抑制することができる。
【0051】
さらに、送電線路10の一対の終端接続部120のそれぞれには、下部金具124を囲むように、低圧部シールドリング194が設けられていてもよい。これにより、測定時に、下部金具124付近における電界集中を抑制することができる。
【0052】
本実施形態の送電線路評価システム20では、送電線路10の導体101の軸方向の第1端10aは、後述のように、電荷量測定部300を介して、電源200の正極202に接続される。これにより、送電線路10の導体101には、電源200により高い電圧が印加されることとなる。
【0053】
一方で、送電線路10の導体101の軸方向の第2端10bは、オープンとなっている。
【0054】
本開示では、上述した終端接続部120および中間接続部140においても、電力ケーブル100の導体101に接続される金属部材と、電力ケーブル100の絶縁層103と同様に絶縁性を有する絶縁部材と、電力ケーブル100の遮蔽層105に接続されるシールド部材とを、電力ケーブル100と同様に、それぞれ、「導体101」、「絶縁層103」および「遮蔽層105」として記載する。
【0055】
(電源)
電源200は、例えば、上述の送電線路10に接続され、送電線路10の導体101および遮蔽層105の間に電圧を印加可能に構成されている。
【0056】
具体的には、電源200は、例えば、正極(+極、高電圧電極)202と、負極(-極、接地電極)204と、を有している。電源200の正極202は、例えば、送電線路10の導体101に(後述の電荷量測定部300を介して)接続されている。正極202は、例えば、送電線路10の第1端10aに近い位置において、導体101に対して接続されている。一方で、電源200の負極204は、例えば、送電線路10の遮蔽層105とともにアースに接地されている。このような構成により、電源200は、送電線路10の導体101と遮蔽層105との間に電圧を印加可能に構成されている。
【0057】
電源200は、例えば、実際の送電線路10の運転時に送電線路10に印加される電圧と同等の電圧を、評価対象の送電線路10の導体101および遮蔽層105の間に印加可能に構成されている。具体的には、電源200は、例えば、10kV以上、或いは100kV以上、或いは400kV以上の直流電圧または矩形波電圧を送電線路10の導体101および遮蔽層105の間に印加可能に構成されている。ここでいう「矩形波電圧」とは、例えば、0V以上の第1電圧と、第1電圧よりも高い正電圧である第2電圧と、を有する矩形波状の電圧のことを意味する。さらに、電源200は、例えば、0Vから上述の印加可能な上限電圧まで徐々に電圧を上昇させることが可能に構成されている。
【0058】
(電荷量測定部)
電荷量測定部(Q(t)メータ)300は、例えば、電源200と送電線路10との間に直列接続されている。電荷量測定部300は、例えば、送電線路10の導体101および遮蔽層105の間(すなわち、送電線路10が正常である場合には送電線路10の絶縁層103)に流れる電流I(t)の積分値である電荷量Q(t)を測定するよう構成されている。
【0059】
具体的には、電荷量測定部300は、例えば、コンデンサ320と、電圧計(不図示)と、を備えている。コンデンサ320は、例えば、電源200と送電線路10との間に直列接続され、送電線路10の導体101および遮蔽層105の間に流れる電荷を蓄積するよう構成されている。電圧計は、例えば、バッファ回路から伝達されたコンデンサ320の両電極間の電圧を(所定の時間間隔で連続的に)測定するよう構成されている。なお、コンデンサ320の両極間の電圧を電圧計に伝達するオペアンプ(不図示)が、コンデンサ320と電圧計との間に設けられていてもよい。上述のコンデンサ320の既知の静電容量をCとし、電圧計の測定により求められるコンデンサ320の両電極間の電圧をVとしたときに、コンデンサ320は、Q(t)=CVを満たす。当該式により、送電線路10の導体101および遮蔽層105の間に流れる電流I(t)の積分値である電荷量Q(t)を求めることができる。
【0060】
以下、電荷量測定部300において求められる電荷量Q(t)に関する情報を「電荷量データ」ともいう。
【0061】
本実施形態では、電荷量測定部300は、例えば、電源200の正極202と送電線路10の導体101との間に直列接続されている。すなわち、電荷量測定部300は、送電線路評価システム20において、送電線路10よりも電源200の正極202に近い位置であって、高電位となる位置に配置されている。
【0062】
(無線部)
無線部400は、各種信号を無線により送受信可能に構成されている。
【0063】
本実施形態では、無線部400は、例えば、電荷量測定部300に接続され、電荷量測定部300により測定した電荷量データを無線により外部に送信可能に構成されている。これにより、電荷量測定部300が電源200の正極202に近く高電位となる位置に配置されていても、電荷量測定部300からの電荷量データを、無線部400の無線通信により後述の管理センタ60において安定的に取得することができる。
【0064】
具体的な無線部400による無線通信の方式は、特に限定されるものではない。しかしながら、無線部400による無線通信の方式は、例えば、ZigBee(登録商標)規格の近距離無線方式であってもよい。無線部400による無線の周波数帯は、例えば、2.4GHz帯であってもよい。
【0065】
無線部400については詳細を後述する。
【0066】
(その他)
電荷量測定部300付近には、その他、電荷量測定部300および無線部400を駆動する電池(不図示)と、電荷量データを保存する記録部(不図示)とが設けられていてもよい。
【0067】
(筐体)
筐体500は、例えば、金属製の収容体として構成され、電荷量測定部300、および無線部400の一部を収容している。筐体500は、例えば、電荷量測定部300および無線部400に対して共通の基準電位(フレームグランド)として接続されている。
【0068】
筐体500は、例えば、電源200の正極202と電荷量測定部300との間に接続され、電源200の正極202と等電位となっている。一方で、筐体500は、電荷量測定部300と、評価対象としての送電線路10の導体101との間には接続されていない。このような構成により、電荷量測定部300により測定される電荷量の測定結果において、筐体500とアースとの間に生じる浮遊静電容量に基づく電荷量成分が重畳されることを抑制することができる。
【0069】
(管理センタ)
図1および図4に示すように、管理センタ60は、例えば、送電線路10から離れた位置に設けられ、送電線路評価システム20の各部および評価対象の送電線路10を管理するよう構成されている。本実施形態では、管理センタ60は、例えば、電源200の近くに設けられていてもよい。
【0070】
管理センタ60は、例えば、電源200を制御するとともに、無線部400との無線通信により、電荷量測定部300および無線部400を制御するよう構成されている。
【0071】
さらに、管理センタ60は、例えば、無線部400からのデータ信号を受信し、データ信号から得られる電荷量データに基づいて、送電線路10の状態を評価するよう構成されている。
【0072】
具体的には、図4に示すように、管理センタ60は、例えば、制御部620と、センタ無線部640と、を有している。
【0073】
制御部620は、汎用のコンピュータとして構成され、例えば、CPU(Central Processing Unit)622と、RAM(Random Access Memory)624と、記憶装置626と、I/Oポート628と、を有している。RAM624、記憶装置626、およびI/Oポート628は、CPU622とデータ交換可能に構成されている。I/Oポート628は、例えば、センタ無線部640および電源200に(配線により)接続されている。
【0074】
記憶装置626は、例えば、送電線路評価プログラム、電荷量データなどを記憶するよう構成されている。記憶装置626は、例えば、HDD(Hard disk drive)またはSSD(Solid State Drive)などである。
【0075】
RAM624は、CPU622によって記憶装置626から読み出されるプログラムおよび情報等が一時的に保持されるよう構成されている。
【0076】
CPU622は、記憶装置626に格納された所定のプログラムを実行することで、例えば、後述する送電線路評価方法における各処理を実行するように構成されている。送電線路評価方法については、詳細を後述する。
【0077】
上述の制御部620による各処理を実行するための所定プログラムは、例えば、制御部620により構成されるコンピュータにインストールして用いられる。プログラムは、例えば、そのインストールに先立ち、非一時的なコンピュータで読み取り可能な記憶媒体に格納されて提供されるものであってもよい。或いは、プログラムは、例えば、センタ無線部640を通じて当該コンピュータへ提供されるものであってもよい。
【0078】
センタ無線部640は、例えば、無線部400の無線通信の方式に合わせた無線通信により、無線部400と自身との間で所定の情報または信号を送受信するよう構成されている。具体的には、制御部620からの各種信号をセンタ無線部640により無線部400に向けて無線で送信することで、電荷量測定部300および無線部400を制御することができる。また、無線部400からの電荷量データを含むデータ信号をセンタ無線部640により無線で受信することで、電荷量データを得ることができる。
【0079】
(2)無線部の構成
図1および図3を参照し、本実施形態の無線部400の構成について説明する。図3では、アンテナ440の断面図が示されている。
【0080】
図1および図3に示すように、本実施形態の無線部400は、例えば、信号処理部420と、アンテナ440と、コイル460と、を有している。
【0081】
(信号処理部)
信号処理部420は、例えば、筐体500内で電荷量測定部300に接続されている。信号処理部420は、例えば、電荷量測定部300により得られた電荷量データを含むデータ信号を生成し、当該データ信号を後述のアンテナ440に供給するよう構成されている。
【0082】
一方で、信号処理部420は、例えば、外部からの信号を処理するよう構成されている。具体的には、信号処理部420は、例えば、後述のアンテナ440により管理センタ60からの信号を受信したときに、管理センタ60からの信号を電荷量測定部300に伝送したり、管理センタ60からの信号に基づいて所定の処理を実行したりするよう構成されている。
【0083】
(アンテナ)
アンテナ440は、例えば、信号処理部420に接続され、信号処理部420により生成されたデータ信号を外部に送信するとともに、外部からの信号を受信するよう構成されている。
【0084】
本実施形態では、アンテナ440は、例えば、いわゆるスリーブアンテナとして構成されている。具体的には、アンテナ440は、例えば、第1導体(中心導体)441と、アンテナ絶縁層442と、第2導体(外部導体)443と、アンテナシース(保護層)444と、有している。
【0085】
第1導体441は、例えば、金属線として構成され、信号処理部420に接続されている。アンテナ絶縁層442は、例えば、絶縁材料を含み、第1導体441の外周を囲むように設けられている。第2導体443は、例えば、金属メッシュなどの金属層として構成され、アンテナ絶縁層442を介して第1導体441から離間し、アンテナ絶縁層442の外周を囲むように設けられている。第2導体443は、例えば、基準電位となる筐体500に接続されている。アンテナシース444は、例えば、絶縁材料を含み、第2導体443の一部の外周を囲むように設けられている。
【0086】
ここで、第1導体441の一部は、例えば、第1導体441の軸方向のアンテナシース444の端部から外側に露出している。一方で、第2導体443は、第1導体441の軸方向のアンテナシース444の端部において折り返されている。これにより、第2導体443の一部は、アンテナシース444の外側で露出している。アンテナシース444からの第1導体441の露出長は、信号処理部420により生成される信号の波長をλとしたときに、例えば、λ/4である。
【0087】
以上の構成を有するアンテナ440の第1導体441および第2導体443により、信号処理部420により生成されたデータ信号を外部に送信することができる。
【0088】
(コイル)
本実施形態の無線部400は、例えば、コイル(インダクタ、リアクタ)460をさらに有している。
【0089】
ここで、本実施形態の送電線路評価システム20では、上述のように、電荷量測定部300および無線部400を収容する筐体500が、基準電位として、電源200の正極202と等電位となっている。
【0090】
この状況下において、電荷量測定部300は、コンデンサ320の電荷の蓄積により生じる両電極間の電圧(電位差)を測定する。このため、コンデンサ320の一方の電極が筐体500とともに高電位となっていても、コンデンサ320の両電極間の電位差は電源200の印加電圧よりも小さいため、コンデンサ320に蓄積される電荷量の測定自体には支障がない。
【0091】
一方で、無線部400のアンテナ440は、上述のように、第1導体441および第2導体443を有することで、コンデンサのように動作する。当該アンテナ440では、筐体500に接続される第2導体443が基準電位として高電位となる一方で、第1導体441は電位が定まらない浮遊状態となりうる。その結果、アンテナ440の第1導体441および第2導体443において、意図しない過剰な電荷が蓄積する可能性がある。
【0092】
そこで、本実施形態では、コイル460が、基準電位として筐体500に接続され、且つ、信号処理部420およびアンテナ440に並列接続されている。すなわち、コイル460は、信号処理部420に接続されるアンテナ440の第1導体441と、筐体500に接続されるアンテナ440の第2導体443と、に接続されている。
【0093】
電源200からの直流電圧または矩形波電圧の印加時においては、周波数が0または小さいため、コイル460におけるインピーダンスが低くなる。これにより、アンテナ440の第1導体441と第2導体443との間に電位差が生じない。その結果、アンテナ440の第1導体441および第2導体443において、意図しない過剰な電荷の蓄積を抑制することができる。
【0094】
一方で、アンテナ440による信号の送受信時においては、無線通信規格に従って周波数が高いため、コイル460におけるインピーダンスが高くなる。これにより、アンテナ440の第1導体441と第2導体443とが電気的に絶縁されているとみなすことができる。その結果、アンテナ440により信号の送受信を安定的に行うことができる。
【0095】
(3)送電線路評価方法
次に、図1図6を参照し、本実施形態の送電線路評価方法について説明する。
【0096】
図5に示すように、本実施形態の送電線路評価方法は、例えば、送電線路準備工程S100と、システム構築工程S200と、電圧印加工程S300と、電荷量測定工程S400と、データ通信工程S500と、評価工程S600と、を有している。本実施形態の送電線路評価方法は、電荷量測定装置(Q(t)メータ)の使用方法と考えてもよい。以下、送電線路評価システム20の各部の動作は、管理センタ60の制御部620により制御される。
【0097】
(S100:送電線路準備工程)
まず、電力ケーブル100を含む送電線路10を準備する。このとき、送電線路10を、例えば、実際に現場で布設される状態、またはそれに近い状態で準備してもよい。
【0098】
(S200:システム構築工程)
送電線路10を準備したら、電源200、電荷量測定部300、無線部400および筐体500を備える送電線路評価システム20を構築する。
【0099】
このとき、本実施形態では、電荷量測定部300を、電源200の正極202と送電線路10の導体101との間に直列接続する。
【0100】
このとき、本実施形態では、筐体500内に、電荷量測定部300、および無線部400の一部を収容する。当該筐体500を電荷量測定部300および無線部400に対して共通の基準電位として接続する。さらに、筐体500を電源200の正極202と電荷量測定部300との間に接続し、筐体500を電源200の正極202と等電位とする。
【0101】
さらに、このとき、本実施形態では、無線部400のコイル460を、基準電位として筐体500に接続し、且つ、信号処理部420およびアンテナ440に並列接続する。
【0102】
(S300およびS400:電圧印加工程および電荷量測定工程)
システム構築工程S200が完了したら、電圧印加工程S300および電荷量測定工程S400を同時または連続的に行う。
【0103】
管理センタ60により電源200を制御することで、送電線路10に接続された電源200を用い、送電線路10の導体101および遮蔽層105の間に電圧V(t)を印加する。
【0104】
電源200による電圧印加を開始したと同時に、またはその直後に、管理センタ60から無線部400に向けて、電荷量測定部300を制御する制御信号を送信する。これにより、電源200と送電線路10との間に直列接続された電荷量測定部300を用い、送電線路10の導体101および遮蔽層105の間に流れる電流I(t)の積分値である電荷量Q(t)を測定する。
【0105】
ここで、図6を参照し、電荷量Q(t)を測定する例について説明する。
【0106】
図6に示すように、送電線路10の導体101および遮蔽層105の間において、例えば、矩形波電圧V(t)を印加する。
【0107】
矩形波電圧V(t)の印加により、送電線路10の導体101および遮蔽層105の間には、以下の式(1)で求められる電流I(t)が流れる。
I(t)=Idisp(t)+Iabs(t)+Icond(t) ・・・(1)
ここで、
Idisp(t)は、矩形波電圧V(t)印加直後の瞬時充電電流である。
Iabs(t)は、送電線路10の導体101および遮蔽層105の間における空間電荷の蓄積および移動に伴う吸収電流である。
Icond(t)は、送電線路10の導体101および遮蔽層105の間に流れる伝導電流(漏れ電流)である。
【0108】
電荷量測定部300では、コンデンサ320により、送電線路10の導体101および遮蔽層105の間に流れる電荷を蓄積する。電荷量測定部300の電圧計により、バッファ回路から伝達されたコンデンサ320の両電極間の電圧を測定する。これにより、送電線路10の導体101および遮蔽層105の間に流れる電流I(t)の積分値である電荷量Q(t)が、以下の式(2)により求められる。
【0109】
【数1】
【0110】
ここで、
Qdisp(t)は、瞬時充電電流による電荷量(電極電荷量)であり、t=0のときの電荷量Q(0)として求められる
Qabs(t)およびQcond(t)は、それぞれ、吸収電荷量および伝導電荷量である。
【0111】
このように、電荷量測定部300により、矩形波電圧V(t)の立ち上がり以降の電流I(t)を積分した積分値である電荷量Q(t)を求めることができる。さらに、電荷量測定部300により所定の時間間隔で連続的に電荷量Q(t)を測定することで、電荷量Q(t)の経時的変化の情報を得ることができる。当該電荷量Q(t)に関する情報である電荷量データは、後述の評価工程S600で用いられる。
【0112】
以上のようにして電荷量データが得られたら、電源200による電圧印加、および電荷量測定部300による電荷量の測定を終了させる。
【0113】
(S500:データ通信工程)
管理センタ60において電荷量データが必要となったタイミングにおいて、データ通信工程S500が行われる。例えば、電圧印加工程S300および電荷量測定工程S400が完了した後に、データ通信工程S500を行ってもよい。或いは、例えば、電圧印加工程S300および電荷量測定工程S400が行われる間に、リアルタイムでデータ通信工程S500を行ってもよい。
【0114】
本実施形態のデータ通信工程S500は、例えば、リクエスト信号送受信工程S520と、データ送受信工程S540と、を有している。
【0115】
(S520:リクエスト信号送受信工程)
管理センタ60は、電荷量データが必要となったタイミングで、無線部400に向けてリクエスト信号を送信する。無線部400は、管理センタ60からのリクエスト信号をアンテナ440により受信する。
【0116】
(S540:データ送受信工程)
無線部400が管理センタ60からアンテナ440を介してリクエスト信号を受信したときに、無線部400の信号処理部420は、電荷量測定部300により測定した電荷量データを含むデータ信号を生成する。データ信号を生成したら、無線部400のアンテナ440により、データ信号を管理センタ60に向けて送信する。
【0117】
管理センタ60は、無線部400からのデータ信号をセンタ無線部640により受信する。これにより、電荷量データを含むデータ信号が管理センタ60により取得される。
【0118】
(S600:評価工程)
管理センタ60が無線部400からのデータ信号を受信したら、管理センタ60では、データ信号から得られる電荷量データに基づいて、送電線路10の状態を評価する。
【0119】
このとき、図6に示すように、本実施形態では、矩形波電圧V(t)の印加開始時(t=0)の電荷量Qdisp(t)=Q(0)を求める。このように、電流積分電荷法では、電荷量Q(t)の初期値としてQ(0)を明確に求めることができる。
【0120】
このとき、本実施形態では、矩形波電圧V(t)の印加開始t=0から時間tm経過後の電荷量Q(tm)を求める。さらに、初期値としての電荷量Q(0)に対する、時間tm経過後の電荷量Q(tm)の電荷量比率Rc(=Q(tm)/Q(0))を求める。当該電荷量比率Rcにより、電荷量Q(t)の経時的変化を定量的に評価することができる。
【0121】
管理センタ60は、上述のようにして求められた、電荷量の初期値Q(0)、時間tm経過後の電荷量Q(tm)、電荷量比率Rcのうち少なくともいずれか1つに基づいて、送電線路10の状態を評価する。
【0122】
以上により、本実施形態の送電線路10の評価を終了する。
【0123】
(4)本実施形態のまとめ
本実施形態によれば、以下に示す1つ又は複数の効果を奏する。
【0124】
(a)本実施形態の送電線路評価システム20では、送電線路10に接続された電源200が、送電線路10の導体101および遮蔽層105の間に電圧を印加可能に構成されている。さらに、電荷量測定部300は、電源200および送電線路10との間に直列に接続され、送電線路10の導体101および遮蔽層105の間に流れる電流I(t)の積分値である電荷量Q(t)を測定するよう構成されている。このような送電線路評価システム20により、実際に現場で布設される電力ケーブル100を含む送電線路10がどのような電荷量特性を示すかを評価することができる。これにより、当該送電線路10の電荷量特性に基づいて、送電線路10の状態を評価することが可能となる。
【0125】
(b)本実施形態では、電源は、10kV以上の直流電圧または矩形波電圧を送電線路10の導体101および遮蔽層105の間に印加可能に構成されている。これにより、実際の送電線路10の運転時に近い状況下において、送電線路10の電荷量Q(t)を測定することができる。その結果、送電線路10の運転時に発生する可能性がある送電線路10の不具合を、送電線路10の電荷量Q(t)に基づいて事前に発見することが可能となる。
【0126】
(c)本実施形態では、電荷量測定部300は、電源200の正極202と送電線路10の導体101との間に直列接続されている。すなわち、電荷量測定部300は、評価対象としての送電線路10よりもアースに近い位置に配置されているのではなく、送電線路10よりも電源200の正極202に近く、高電位となる位置に配置されている。
【0127】
上述の電荷量測定部300の配置により、送電線路評価システム20よりも外側における工場などのアースからのノイズレベルが高い状況下であっても、アースからのノイズが電荷量測定部300に伝播することを抑制することができる。これにより、アースからのノイズに起因した電荷量測定部300の測定精度の低下を抑制することができる。
【0128】
上述の電荷量測定部300の配置により、送電線路10の遮蔽層105を確実にアースに接地させることができる。これにより、送電線路10の基準電位が浮遊状態となることを抑制することができる。すなわち、送電線路10における接地を安定させることが可能となる。
【0129】
さらに、上述の電荷量測定部300の配置により、たとえ電荷量測定部300に電気的不具合が生じた場合であっても、送電線路10に対する接地系統の変化を抑制することができる。これにより、送電線路10に対して、想定外の電流が流れたり、想定外の電圧が印加されたりすることを抑制することができる。その結果、送電線路評価システム20全体にわたって電気的不具合の影響が及ぶことを抑制することができる。
【0130】
このように、送電線路評価システム20により、送電線路10の状態を安定的に評価することが可能となる。
【0131】
(d)本実施形態では、送電線路評価システム20は、電荷量測定部300により測定した電荷量データを無線により外部に送信可能な無線部400をさらに備えている。これにより、電荷量測定部300が電源200の正極202に近く高電位となる位置に配置されていても、電荷量データを無線により安定的かつ安全に取得することができる。
【0132】
(e)本実施形態では、電荷量測定部300、および無線部400の一部を収容した筐体500は、電源200の正極202と電荷量測定部300との間に接続され、電源200の正極202と等電位となっている。
【0133】
ここで、金属製の筐体500がアースに接地されていない状況下では、当該筐体500とアースとの間には、浮遊静電容量が生じうる。例えば、筐体500が電荷量測定部300と送電線路10の導体101との間に接続されている場合では、評価対象としての送電線路10の導体101よび遮蔽層105により形成されるコンデンサと、筐体500およびアースにより形成される浮遊コンデンサとが、電荷量測定部300よりもアースに近い位置で、並列された状態となる。このため、電荷量測定部300による測定結果には、評価対象としての送電線路10の導体101と遮蔽層105との間に生じる静電容量に基づく電荷量成分だけでなく、筐体500とアースとの間に生じる浮遊静電容量に基づく電荷量成分も重畳されることになる。その結果、電荷量測定部300による送電線路10の電荷量の測定精度が低下する可能性がある。
【0134】
これに対し、本実施形態では、筐体500が電源200の正極202と電荷量測定部300との間に接続されていることで、電荷量測定部300よりもアースに近い位置においては、評価対象としての送電線路10の導体101よび遮蔽層105により形成されるコンデンサのみが配置された状態にすることができる。これにより、電荷量測定部300により測定される電荷量の測定結果において、筐体500とアースとの間に生じる浮遊静電容量に基づく電荷量成分が重畳されることを抑制することができる。その結果、電荷量測定部300による送電線路10の電荷量の測定精度の低下を抑制することが可能となる。
【0135】
(f)本実施形態では、電荷量測定部300、および無線部400の一部を収容した筐体500が、共通の基準電位として、電源200の正極202と等電位となっている。このような状況下において、無線部400のコイル460は、基準電位として筐体500に接続され、且つ、信号処理部420およびアンテナ440に並列接続されている。
【0136】
電源200からの直流電圧または矩形波電圧の印加時においては、上述のように、コイル460におけるインピーダンスが低くなる。これにより、アンテナ440において、意図しない過剰な電荷の蓄積を抑制することができる。その結果、無線部400のアンテナ440における電荷蓄積に起因した無線通信障害の発生を抑制することが可能となる。
【0137】
一方で、アンテナ440による信号の送受信時においては、上述のように、コイル460におけるインピーダンスが高くなる。これにより、無線部400のアンテナ440と管理センタ60との間において、信号の送受信を安定的に行うことができる。
【0138】
このように、コイル460を有する無線部400により無線通信を安定的に行うことで、送電線路10の状態を安定的に評価することが可能となる。
【0139】
<本開示の他の実施形態>
以上、本開示の実施形態について具体的に説明したが、本開示は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0140】
上述の実施形態では、管理センタ60が、I/Oポート628から電源200に配線により接続され、電源200を制御するよう構成されている場合について説明したが、本開示はこの場合に限られない。管理センタ60は、センタ無線部640による無線通信により、電源200を制御するよう構成されていてもよい。
【0141】
上述の実施形態では、管理センタ60が、電源200を制御するとともに、無線部400との無線通信により、電荷量測定部300および無線部400を制御するよう構成されている場合について説明したが、本開示はこの場合に限られない。管理センタ60は、例えば、電源200を制御する電源制御部と、無線部400との無線通信により電荷量測定部300および無線部400を制御する測定系制御部と、を別々に有していてもよい。
【0142】
上述の実施形態では、アンテナ440がスリーブアンテナとして構成されている場合について説明したが、本開示はこの場合に限られない。アンテナ440は、例えば、ダイポールアンテナとして構成されていてもよい。
【0143】
上述の実施形態では、電圧印加工程S300および電荷量測定工程S400において、送電線路10に対して矩形波電圧を印加して送電線路10の電荷量を測定する場合について説明したが、本開示はこの場合に限られない。電圧印加工程S300および電荷量測定工程S400では、送電線路10に対して印加する直流電圧を階段状に上昇させながら、送電線路10の電荷量を測定してもよい。
【0144】
<付記>
以下、本開示の態様を付記する。下記付記が従属する[]内の番号で参照された態様は、<本開示の実施態様>で記載した態様に対応している。
【0145】
[8]
前記アンテナは、前記信号処理部に接続された第1導体と、前記第1導体から離間し前記基準電位となる前記筐体に接続された第2導体と、を有し、
前記コイルは、前記アンテナの前記第1導体と前記第2導体とに接続されている
[6]に記載の送電線路評価システム。
【0146】
[9]
前記無線部からの前記データ信号を受信し、前記データ信号から得られる前記電荷量データに基づいて、前記送電線路の状態を評価する管理センタをさらに備える
[4]、[5]、[6]、[8]のいずれか1つに記載の送電線路評価システム。
【0147】
[10]
前記管理センタは、前記電源を制御するとともに、前記無線部との無線通信により、前記電荷量測定装置および前記無線部を制御するよう構成されている
[9]に記載の送電線路評価システム。
【0148】
[11]
前記管理センタは、前記無線部に向けてリクエスト信号を送信するよう構成され、
前記無線部は、前記管理センタから前記アンテナを介して前記リクエスト信号を受信したときに、前記電荷量データを含む前記データ信号を前記管理センタに向けて送信するよう構成されている
[9]または[10]に記載の送電線路評価システム。
【符号の説明】
【0149】
10 送電線路
10a 第1端
10b 第2端
20 送電線路評価システム
60 管理センタ
90 絶縁材料評価システム
100 電力ケーブル
101 導体
103 絶縁層
105 遮蔽層
120 終端接続部
122 碍管
124 下部金具
140 中間接続部
192 高圧部シールドリング
194 低圧部シールドリング
200 電源
202 正極
204 負極
300 電荷量測定部
320 コンデンサ
400 無線部
420 信号処理部
440 アンテナ
441 第1導体
442 アンテナ絶縁層
443 第2導体
444 アンテナシース
460 コイル
500 筐体
620 制御部
622 CPU
624 RAM
626 記憶装置
628 I/Oポート
640 センタ無線部
910 シート
912 第1電極
914 第2電極
916 ガード電極
920 電源
922 スイッチ
924 スイッチ
930 電荷量測定部
932 コンデンサ
934 スイッチ
【要約】
送電線路評価システムは、導体、絶縁層および遮蔽層を導体の径方向にこの順で有する電力ケーブルを含む送電線路に接続され、導体および遮蔽層の間に電圧を印加可能な電源と、電源と送電線路との間に直列接続され、送電線路の導体および遮蔽層の間に流れる電流の積分値である電荷量を測定する電荷量測定部と、を備える。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7