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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】臭気変調剤及び臭気変調方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 9/01 20060101AFI20241106BHJP
   C02F 1/00 20230101ALI20241106BHJP
   C02F 11/00 20060101ALI20241106BHJP
   C11B 9/00 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
A61L9/01 H
A61L9/01 J
A61L9/01 V
C02F1/00 F
C02F11/00 F
C11B9/00 D
C11B9/00 G
C11B9/00 J
C11B9/00 K
C11B9/00 L
C11B9/00 T
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018112176
(22)【出願日】2018-06-12
(65)【公開番号】P2019213676
(43)【公開日】2019-12-19
【審査請求日】2021-05-18
【審判番号】
【審判請求日】2023-05-22
(73)【特許権者】
【識別番号】598118776
【氏名又は名称】山本香料株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000238234
【氏名又は名称】シキボウ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】包 旭旭
(72)【発明者】
【氏名】辻本 裕
(72)【発明者】
【氏名】山本 芳邦
(72)【発明者】
【氏名】肥下 隆一
【合議体】
【審判長】三崎 仁
【審判官】原 賢一
【審判官】増山 淳子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-6694(JP,A)
【文献】特開2018-16256(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L9/00-9/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
死体、銀杏、堆肥、嘔吐物、汚水、汚泥、ペット、体表の腫瘍、介護又は切削油の臭い の変調用臭気変調剤であって、
エステル類、アルデヒド類、アルコール類、ピラン類、及びラクトン類を含有し、
前記エステル類は、アリルヘキサノエート、アリルシクロヘキシルプロピオネート、オクタン酸エステル、cis-3-ヘキセニルアセテート、酢酸エステル、酪酸エステル、イソ酪酸エステル及びアントラニル酸エステルからなる群より選択される少なくとも一種であり、
前記アルデヒド類は、芳香族アルデヒド及びジメチル-3-シクロヘキセニルカルバルデヒドからなる群より選択される少なくとも一種であり、
前記アルコール類は、cis-3-ヘキセノール、モノテルペンアルコール及び芳香族アルコールからなる群より選択される少なくとも一種であり、
前記ピラン類は、エチルマルトール及びマルトールからなる群より選択される少なくとも一種であり、
前記ラクトン類は、γ-デカラクトン及びγ-ウンデカラクトンからなる群より選択される少なくとも一種であり、
前記エステル類の含有量は、臭気変調剤を100質量%として18~75質量%であり、
前記アルデヒド類の含有量は、臭気変調剤を100質量%として0.1~25質量%であり、
前記アルコール類の含有量は、臭気変調剤を100質量%として0.1~25質量%であり、
前記ピラン類の含有量は、臭気変調剤を100質量%として0.1~10質量%であり、
前記ラクトン類の含有量は、臭気変調剤を100質量%として1~5質量%である、ことを特徴とする臭気変調剤。
【請求項2】
前記エステル類は、アリルヘキサノエート、アリルシクロヘキシルプロピオネート、オクタン酸エステル、cis-3-ヘキセニルアセテート、酪酸エステル、イソ酪酸エステル及びアントラニル酸エステルからなる群より選択される少なくとも一種を含む、請求項1に記載の臭気変調剤。
【請求項3】
更に、ケトン類を含有する、請求項1又は2に記載の臭気変調剤。
【請求項4】
更に、天然香料を含有する、請求項1~のいずれかに記載の臭気変調剤。
【請求項5】
液体である、請求項1~のいずれかに記載の臭気変調剤。
【請求項6】
請求項1~のいずれかに記載の臭気変調剤を含む、カプセル又はゲル。
【請求項7】
請求項1~のいずれかに記載の臭気変調剤を含む物品。
【請求項8】
エステル類、アルデヒド類、アルコール類、ピラン類、及びラクトン類を含有し、
前記エステル類は、アリルヘキサノエート、アリルシクロヘキシルプロピオネート、オクタン酸エステル、cis-3-ヘキセニルアセテート、酢酸エステル、酪酸エステル、イソ酪酸エステル及びアントラニル酸エステルからなる群より選択される少なくとも一種であり、
前記アルデヒド類は、芳香族アルデヒド及びジメチル-3-シクロヘキセニルカルバルデヒドからなる群より選択される少なくとも一種であり、
前記アルコール類は、cis-3-ヘキセノール、モノテルペンアルコール及び芳香族アルコールからなる群より選択される少なくとも一種であり、
前記ピラン類は、エチルマルトール及びマルトールからなる群より選択される少なくとも一種であり、
前記ラクトン類は、γ-デカラクトン及びγ-ウンデカラクトンからなる群より選択される少なくとも一種であり、
前記エステル類の含有量は、臭気変調剤を100質量%として18~75質量%であり、
前記アルデヒド類の含有量は、臭気変調剤を100質量%として0.1~25質量%であり、
前記アルコール類の含有量は、臭気変調剤を100質量%として0.1~25質量%であり、
前記ピラン類の含有量は、臭気変調剤を100質量%として0.1~10質量%であり、
前記ラクトン類の含有量は、臭気変調剤を100質量%として1~5質量%である臭気変調剤を、
死体、銀杏、堆肥、嘔吐物、汚水、汚泥、ペット、体表の腫瘍、介護又は切削油の臭いの原因物質に用い、及び/又は、それらの臭いのする場所において用いることを特徴とする、臭気変調方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、臭気変調剤及び臭気変調方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、日常生活等の様々な分野において発生する悪臭が問題となっている。
【0003】
このような悪臭には、死体、銀杏、堆肥、嘔吐物、汚水、汚泥、ペット、体表の腫瘍、介護又は切削油の臭いが含まれ、これらの臭気の害を解消することが望まれている。
【0004】
これらの臭気を改善する手段として、ポリフェノールを、アルカリ性を示す溶媒中、酸素分子共存下、反応時のpH値が6.5以上で反応させて得られる有色の化合物を有効成分として含有することを特徴とする消臭剤組成物が開示されており、当該消臭剤組成物を悪臭の消臭に用いることが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
しかしながら、上述の臭気は消え難く、上述のような臭気を消すことにより消臭を図る消臭剤を用いても、十分に消臭することができないという問題がある。
【0006】
従って、死体、銀杏、堆肥、嘔吐物、汚水、汚泥、ペット、体表の腫瘍、介護又は切削油の臭いによる問題を解決できる手段の開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2004-167218号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、死体、銀杏、堆肥、嘔吐物、汚水、汚泥、ペット、体表の腫瘍、介護又は切削油の臭いを異なる臭気に変調して、これらの臭いによる害を容易に解決することができる臭気変調剤、及び臭気変調方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、死体、銀杏、堆肥、嘔吐物、汚水、汚泥、ペット、体表の腫瘍、介護又は切削油の悪臭を、異なる臭気に変調して他の不快でない臭いに感じさせる臭気変調剤によれば、上記悪臭による不快感を十分に低減することができることを見出した。また、本発明者は、特定の成分を含有する臭気変調剤を上述の死体等に散布することで、これらの悪臭を他の臭いに変調することができ、不快感を容易に低減でき、上記目的を達成することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、下記の臭気変調剤及び臭気変調方法に関する。
1.死体、銀杏、堆肥、嘔吐物、汚水、汚泥、ペット、体表の腫瘍、介護又は切削油の臭いの変調用臭気変調剤であって、
エステル類、アルデヒド類、アルコール類、及びピラン類を含有することを特徴とする臭気変調剤。
2.前記エステル類は、ヘキサン酸エステル、プロピオン酸エステル、オクタン酸エステル、酢酸エステル、酪酸エステル、イソ酪酸エステル及びアントラニル酸エステルからなる群より選択される少なくとも一種である、項1に記載の臭気変調剤。
3.前記エステル類の含有量は、臭気変調剤を100質量%として18~75質量%である、項1又は2に記載の臭気変調剤。
4.前記アルデヒド類は、芳香族アルデヒド及び脂肪族アルデヒドから選択される少なくとも一種である、項1~3のいずれかに記載の臭気変調剤。
5.前記アルデヒド類の含有量は、臭気変調剤を100質量%として0.1~25質量%である、項1~4のいずれかに記載の臭気変調剤。
6.前記アルコール類は、脂肪族アルコール、モノテルペンアルコール及び芳香族アルコールからなる群より選択される少なくとも一種である、項1~5のいずれかに記載の臭気変調剤。
7.前記アルコール類の含有量は、臭気変調剤を100質量%として0.1~25質量%である、項1~6のいずれかに記載の臭気変調剤。
8.前記ピラン類は、エチルマルトール及びマルトールから選択される少なくとも一種である、項1~7のいずれかに記載の臭気変調剤。
9.前記ピラン類の含有量は、臭気変調剤を100質量%として0.1~10質量%である、項1~8のいずれかに記載の臭気変調剤。
10.更に、ラクトン類を含有する、項1~9のいずれかに記載の臭気変調剤。
11.更に、ケトン類を含有する、項1~10のいずれかに記載の臭気変調剤。
12.更に、天然香料を含有する、項1~11のいずれかに記載の臭気変調剤。
13.液体である、項1~12のいずれかに記載の臭気変調剤。
14.項1~13のいずれかに記載の臭気変調剤を含む、カプセル又はゲル。
15.項1~13のいずれかに記載の臭気変調剤を含む物品。
16.エステル類、アルデヒド類、アルコール類、及びピラン類を含有する臭気変調剤を、死体、銀杏、堆肥、嘔吐物、汚水、汚泥、ペット、体表の腫瘍、介護又は切削油の臭いの原因物質に用い、及び/又は、それらの臭いのする場所において用いることを特徴とする、臭気変調方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の臭気変調剤によれば、死体、銀杏、堆肥、嘔吐物、汚水、汚泥、ペット、体表の腫瘍、介護又は切削油の悪臭を、異なる臭気に変調して他の不快でない臭いに感じさせるように変調することができ、これらの悪臭による不快感を低減することができる。また、本発明の臭気変調方法によれば、上記臭気変調剤を死体、銀杏、堆肥、嘔吐物、汚水、汚泥、ペット、体表の腫瘍、介護又は切削油の臭いの原因物質に用い、及び/又は、臭いのする場所において用いることで、これらの臭いを他の臭いに変調することができ、これらの悪臭による不快感を容易に低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の臭気変調剤及び臭気変調方法について詳細に説明する。
【0013】
1.死体、銀杏、堆肥、嘔吐物、汚水、汚泥、ペット、体表の腫瘍、介護又は切削油の臭いの変調用臭気変調剤
本発明の死体、銀杏、堆肥、嘔吐物、汚水、汚泥、ペット、体表の腫瘍、介護又は切削油の臭いの変調用臭気変調剤(本明細書において、単に「臭気変調剤」とも示すことがある。)は、エステル類、アルデヒド類、アルコール類、及びピラン類を含有する。本発明の臭気変調剤は、死体、銀杏、堆肥、嘔吐物、汚水、汚泥、ペット、体表の腫瘍、介護又は切削油の臭いの変調用に用いられる。
【0014】
死体としては、人、イノシシ、鳥、牛等の動物の死体が挙げられる。本発明の臭気変調剤は、これらの動物の死体の腐敗により発生した臭いに有用である。
【0015】
銀杏は、イチョウの木の種子であり、街路樹等として植生するイチョウから街路上に落下し、臭いを発生する。本発明の臭気変調剤は、銀杏特有の臭い、又は、銀杏の腐敗により発生した臭気に有用である。
【0016】
堆肥としては、糞便堆肥、植物系堆肥が挙げられ、本発明の臭気変調剤は、糞便臭、糞便が発酵した後の臭い、または植物の腐敗により発生した臭いに有用である。本発明の臭気変調剤は、これらの中でも植物系堆肥の臭気を変調するのに特に適している。
【0017】
嘔吐物としては、人、家畜、ペット等の嘔吐物が挙げられる。
【0018】
汚水としては、下水道や汚水処理場等の汚水が挙げられる。
【0019】
汚泥としては、下水道や汚水処理場等の汚泥が挙げられる。
【0020】
ペットの臭いとしては、ペットの排泄物臭、ペットの体臭、又は、排泄物臭と体臭との臭いが混合された臭いが挙げられる。
【0021】
体表の腫瘍の臭いとしては、病気により人や動物の体表に生じた腫瘍の腐敗臭が挙げられる。
【0022】
介護の臭いとしては、介護施設で発生する、糞便臭、人間の体臭が挙げられる。
【0023】
切削油の臭いとしては、切削油自体の臭い、金属切削加工時に発生する金属の昇華及び切削油の蒸発による臭いが挙げられる。
【0024】
(エステル類)
エステル類は、分子中にエステル結合を有する化合物であれば特に限定されない。エステル類としては、例えば、ヘキサン酸エステル、プロピオン酸エステル、オクタン酸エステル、酢酸エステル、酪酸エステル、イソ酪酸エステル、アントラニル酸エステル、蟻酸エステル、ペンタン酸エステル、ヘプタン酸エステル等が挙げられる。これらの中でも、ヘキサン酸エステル、プロピオン酸エステル、酢酸エステルが好ましい。また、上記エステル類としては、具体的には、アリルヘキサノエート、アリルシクロヘキシルプロピオネート、cis-3-ヘキセニルアセテートを好適に用いることができる。
【0025】
上記エステル類は、一種単独で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。
【0026】
エステル類の含有量は、臭気変調剤を100質量%として18~75質量%が好ましく、40~60質量%がより好ましく、40~50質量%が更に好ましい。エステル類の含有量を上記範囲とすることにより、臭気変調剤が死体、銀杏、堆肥、嘔吐物、汚水、汚泥、ペット、体表の腫瘍、介護又は切削油の悪臭を異なる臭気に変調し易くなり、これらの臭気による不快感を十分に低減することができる。
【0027】
(アルデヒド類)
アルデヒド類は、分子中にアルデヒド基を有する化合物であれば特に限定されない。アルデヒド類としては、例えば、芳香族アルデヒド、脂肪族アルデヒド等を好適に用いることができる。上記脂肪族アルデヒドとしては、ジメチル-3-シクロヘキセニルカルバルデヒドが挙げられる。上記アルデヒド類としては、ジメチル-3-シクロヘキセニルカルバルデヒドがより好ましい。
【0028】
上記アルデヒド類は、一種単独で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。
【0029】
アルデヒド類の含有量は、臭気変調剤を100質量%として0.1~25質量%が好ましく、0.1~15質量%がより好ましく、1~10質量%が更に好ましい。アルデヒド類の含有量を上記範囲とすることにより、臭気変調剤が死体、銀杏、堆肥、嘔吐物、汚水、汚泥、ペット、体表の腫瘍、介護又は切削油の悪臭を異なる臭気に変調し易くなり、これらの臭気による不快感を十分に低減することができる。
【0030】
(アルコール類)
アルコール類としては特に限定されず、例えば、脂肪族アルコール、モノテルペンアルコール、芳香族アルコール等が挙げられる。上記脂肪族アルコールとしては、cis-3-ヘキセノールが挙げられる上記アルコール類としては、cis-3-ヘキセノールがより好ましい。
【0031】
上記アルコール類は、一種単独で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。
【0032】
アルコール類の含有量は、臭気変調剤を100質量%として0.1~25質量%が好ましく、1~15質量%がより好ましく、5~10質量%が更に好ましい。アルデヒド類の含有量を上記範囲とすることにより、臭気変調剤が死体、銀杏、堆肥、嘔吐物、汚水、汚泥、ペット、体表の腫瘍、介護又は切削油の悪臭を異なる臭気に変調し易くなり、これらの臭気による不快感を十分に低減することができる。
【0033】
(ピラン類)
ピラン類は、含酸素複素環式化合物であり、5個の炭素原子と1個の酸素原子により形成される6員環のエーテル化合物を骨格とするピラン骨格を有しており、上記ラクトン類以外の化合物であれば特に限定されない。ピラン類としては、例えば、マルトール、エチルマルトール、その他のピラン骨格を有するピラン化合物が挙げられる。これらの中でも、マルトール、エチルマルトールが好ましい。
【0034】
上記ピラン類は、一種単独で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。
【0035】
ピラン類の含有量は、臭気変調剤を100質量%として0.1~10質量%が好ましく、0.1~5質量%がより好ましく、1~5質量%が更に好ましい。ピラン類の含有量を上記範囲とすることにより、臭気変調剤が死体、銀杏、堆肥、嘔吐物、汚水、汚泥、ペット、体表の腫瘍、介護又は切削油の悪臭を異なる臭気に変調し易くなり、これらの臭気による不快感を十分に低減することができる。
【0036】
(ラクトン類)
本発明の生ゴミ用臭気変調剤は、ラクトン類を含有することが好ましい。ラクトン類は、同一分子内のヒドロキシル基とカルボキシル基とが脱水縮合して生成する環状エステルであれば特に限定されない。ラクトン類としては、例えば、γ-デカラクトン、γ-ウンデカラクトン、γ-ノナラクトン、γ-ブチロラクトン、δ-ノナラクトン、δ-ウンデカラクトン、δ-デカラクトン、δ-ドデカラクトン、γ-ドデカラクトン、γ-ヘプタラクトン、ε-デカラクトン、ε-ドデカラクトン、δ-ヘプタラクトン、δ-ヘキサデカラクトン、δ-ヘキサラクトン、γ-ヘキサラクトン、δ-オクタデカラクトン、δ-オクタラクトン、γ-オクタラクトン、δ-テトラデカラクトン、δ-トリデカラクトン、δ-バレロラクトン、γ-バレロラクトン等が挙げられる。これらの中でも、γ-デカラクトン、γ-ウンデカラクトンが好ましい。
【0037】
上記ラクトン類は、一種単独で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。
【0038】
ラクトン類の含有量は、臭気変調剤を100質量%として0.1~25質量%が好ましく、1~10質量%がより好ましく、1~5質量%が更に好ましい。ラクトン類の含有量を上記範囲とすることにより、臭気変調剤が死体、銀杏、堆肥、嘔吐物、汚水、汚泥、ペット、体表の腫瘍、介護又は切削油の悪臭を異なる臭気に変調し易くなり、これらの臭気による不快感を十分に低減することができる。
【0039】
(ケトン類)
本発明の臭気変調剤は、ケトン類を含有することが好ましい。ケトン類は、分子中にアルデヒド基を有する化合物であれば特に限定されない。ケトン類としては、例えば、テルペンケトン、脂肪族ケトン、芳香族ケトン等が挙げられる。これらの中でも、テルペンケトンが好ましい。
【0040】
上記ケトン類は、一種単独で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。
【0041】
ケトン類の含有量は、臭気変調剤を100質量%として0.1~25質量%が好ましく、0.1~10質量%がより好ましく、0.1~5質量%が更に好ましい。ケトン類の含有量を上記範囲とすることにより、臭気変調剤が死体、銀杏、堆肥、嘔吐物、汚水、汚泥、ペット、体表の腫瘍、介護又は切削油の悪臭を異なる臭気に変調し易くなり、これらの臭気による不快感を十分に低減することができる。
【0042】
(天然香料)
本発明の臭気変調剤は、天然香料を含有することが好ましい。天然香料は、天然物から抽出される香料であれば特に限定されない。天然香料は、精油、コールドプレスオイル、エキス、エッセンス等の形態で使用することができる。
【0043】
上記天然香料は、一種単独で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。
【0044】
天然香料の含有量は、臭気変調剤を100質量%として0.1~25質量%が好ましく、1~10質量%がより好ましく、1~5質量%が更に好ましい。天然香料の含有量を上記範囲とすることにより、臭気変調剤が死体、銀杏、堆肥、嘔吐物、汚水、汚泥、ペット、体表の腫瘍、介護又は切削油の悪臭を異なる臭気に変調し易くなり、これらの臭気による不快感を十分に低減することができる。
【0045】
(臭気変調剤の形態)
本発明の臭気変調剤の使用形態は特に限定されず、液体、カプセル、ゲル、固体への練り込み等の種々の形態で用いることができる。
【0046】
本発明の臭気変調剤において、上記各成分は、溶媒中に分散している液体であることが好ましい。各成分が溶媒中に分散していることにより、臭気変調剤中に各成分が均一に分散することができ、本発明の臭気変調剤が液安定性に優れ、臭気変調効果をより効果的に発揮することができる。また、上記各成分が溶媒中に分散していることにより、死体、銀杏、堆肥、嘔吐物、汚水、汚泥、ペット、体表の腫瘍、介護又は切削油の臭いの原因物質に用い、及び/又は、それらの臭いのする場所において用いることがより一層容易となり、これらの臭気による不快感を十分に低減することができる。
【0047】
溶媒としては水、有機溶媒を用いることができる。溶媒として水を用いる場合は、スプレー噴霧型、超音波霧化型、自然蒸散型、泡型の臭気変調剤として用いることができる。
【0048】
溶媒として有機溶媒を用いる場合は、自然蒸散型、熱蒸散型、エアゾルスプレー型の臭気変調剤として用いることができる。
【0049】
溶媒としては、各成分との相溶性に優れる点で、有機溶媒が好ましい。有機溶媒としては、上記各成分以外の有機溶媒であれば特に限定されず、アルコール等を用いることができる。上記アルコールとしては特に限定されず、モノアルコール、又は、ジオール、トリオール等のポリオールが挙げられる。また、上記アルコールとしては、炭素数2~4のアルコールを好適に用いることができる。上記アルコールの炭素数は、2~3がより好ましい。
【0050】
上記有機溶媒の具体例としては、例えば、ジプロピレングリコール、2-(2エトキシエトキシ)エタノール、ベンジルベンソエート、プロピレングリコール、トリアセチン、1,3-ブチレングリコール、エタノール、クエン酸トリエチル等が挙げられ、上記各成分との相溶性に優れ、有害性が低い点で、ジプロピレングリコール、2-(2エトキシエトキシ)エタノール、ベンジルベンソエートが好ましい。
【0051】
上記溶媒は、一種単独で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。
【0052】
溶媒の含有量は、臭気変調剤を100質量%として1~60質量%が好ましく、20~40質量%がより好ましい。溶媒の含有量を上記範囲とすることにより、臭気変調剤中に各成分が均一に分散することができ、本発明の臭気変調剤が液安定性に優れ、臭気変調効果をより効果的に発揮することができる。また、溶媒の含有量を上記範囲とすることにより、死体、銀杏、堆肥、嘔吐物、汚水、汚泥、ペット、体表の腫瘍、介護又は切削油の臭いの原因物質に用い、及び/又は、それらの臭いのする場所において用いることがより一層容易となり、これらの臭気による不快感を十分に低減することができる。
【0053】
本発明の臭気変調剤は、カプセル(多孔物質に充填ないしは含浸したものも含む)に含まれて用いられてもよい。カプセルとしては特に限定されず、臭気変調剤を皮膜で被包成型したカプセルや、顆粒状多孔物質に臭気変調剤を充填したカプセル等を用いることができ、水溶型、徐放型、崩壊型のカプセルが挙げられる。臭いの原因物質が嘔吐物である場合、嘔吐物中の水分を利用して香料を放出できるため、水溶型のカプセルが好ましい。また、臭いの原因物質が死体である場合、長く臭気変調効果を発揮できる点で、徐放型のカプセルが好ましい。
【0054】
本発明の臭気変調剤は、ゲルに含まれて用いられてもよい。ゲルに含まれて用いられることにより、本発明の臭気変調剤が、より一層長く臭気変調効果を発揮することができ、即ち、より一層優れた耐久性を示すことができる。
【0055】
本発明の臭気変調剤は、物品に含まれていてもよい。このような、上記臭気変調剤を含む物品も本発明の一つである。当該物品としては、固体に上記臭気変調剤が練り込まれた物品が挙げられる。具体的には、臭気変調剤が練り込まれた繊維、フィルム等が挙げられる。これらの物品は、水溶型、又は徐放型の臭気変調物品として用いることができる。
【0056】
本発明の臭気変調剤を固体へ練り込む形態で用いる場合、石鹸に練り込むことも可能である。
【0057】
本発明の臭気変調剤は、臭いの原因物質に練り込んで用いてもよい。臭いの原因物質に練り込んで用いることにより、臭気変調剤が死体、銀杏、堆肥、嘔吐物、汚水、汚泥、ペット、体表の腫瘍、介護又は切削油の悪臭を異なる臭気により一層変調し易くなり、これらの臭気による不快感をより一層十分に低減することができる。
【0058】
2.臭気変調方法
本発明は、また、エステル類、アルデヒド類、アルコール類、及びピラン類を含有する臭気変調剤を、死体、銀杏、堆肥、嘔吐物、汚水、汚泥、ペット、体表の腫瘍、介護又は切削油の臭いの原因物質に用い、及び/又は、それらの臭いのする場所において用いることを特徴とする臭気変調方法でもある。
【0059】
本発明の臭気変調方法において用いる臭気変調剤は、上述の死体、銀杏、堆肥、嘔吐物、汚水、汚泥、ペット、体表の腫瘍、介護又は切削油の臭いの変調用臭気変調剤を用いることができる。
【0060】
上記臭いの原因物質に用いる方法としては、臭いの原因物質に散布、又は混合する方法が挙げられる。臭いの原因物質に塗布する方法としては特に限定されず、臭気変調剤を臭いの原因物質にかける方法が挙げられる。また、臭いの原因物質に混合する方法としては、臭いの原因物質に臭気変調剤を練り込む方法が挙げられる。
【0061】
臭気変調剤は、臭いの原因物質に用いてもよいし、臭いのする場所において用いてもよいし、両方に用いてもよい。
【0062】
上記臭いのする場所において用いる方法としては、臭気変調剤を霧状にして空気中に噴霧する方法、臭気変調剤を液滴状にして散布する方法等が挙げられる。臭気変調剤を霧状にして空気中に噴霧する方法としては、例えば、スプレー噴霧による方法、マニアスプレッダにより堆肥と同時に噴霧する方法、霧状の臭気変調剤を風により飛散させる方法等の噴霧方法が挙げられる。また、液滴状の臭気変調剤を散布する方法としては、液状の臭気変調剤をノズルから吐出して散布する方法等の散布方法が挙げられる。
【0063】
臭気変調剤を用いる際の臭気変調剤の温度は特に限定されず、10~25℃が好ましく、15~20℃がより好ましい。上記温度範囲で臭気変調剤を用いることにより、臭気変調効果をより一層向上させることができる。
【0064】
臭気変調剤をスプレー又はノズルから噴霧又は散布する場合、噴霧又は散布する際の圧力は、0.2~0.6MPaが好ましく、0.3~0.5MPaがより好ましい。上記範囲の圧力で臭気変調剤を噴霧又は散布することにより、臭気変調剤をより広い範囲に効果的に噴霧又は散布することができる。
【0065】
臭気変調剤を噴霧又は散布する場所としては特に限定されず、死体の臭いのする化製場、肉製品の加工場、自然環境に暴露されている動物死体及びその周辺、銀杏の臭いがする街路上、堆肥の臭いがする農場、若しくは嘔吐物が嘔吐された病院、駅等の施設場等において空気中に噴霧することができる。これらの場所において臭気変調剤を空気中に噴霧することで、悪臭を他の臭いに変調することができ、不快感を容易に低減できる。
【実施例
【0066】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明する。但し、本発明は実施例に限定されない。
【0067】
(臭気変調剤の調製)
表1に示す配合の原料を、混合槽に投入して混合、撹拌し、臭気変調剤を調製した。具体的には、加熱装置を備えた混合槽に、表1に示す配合により溶剤を投入し、次いで他の原料を順次添加して、20℃の条件下で30分間撹拌して、実施例及び比較例の臭気変調剤を調製した。
【0068】
(評価)
上記のようにして調製した実施例及び比較例の臭気変調剤を用いて、以下の評価を行った。すなわち、菌検査用滅菌シャーレにろ紙を敷き、臭いの原因物質を当該ろ紙の上に置いた。次いで、上記のようにして調製した実施例及び比較例の臭気変調剤を用い、当該実施例及び比較例の臭気変調剤の0.1質量%エタノール溶液を調製した。次いで、滴下した汚水の周りに、このエタノール溶液を0.1g滴下して、試料を調製した。臭いの原因物質は、表2に示すように、腐敗したイノシシの肉、銀杏、植物系堆肥、人間の嘔吐物、汚泥、汚水及び切削油を用いた。
【0069】
次いで、試料にシャーレで蓋をして、室温下(20℃)で10分間静置した。静置後蓋を開けて、被験者がシャーレの中央の上10cmから臭いを嗅ぎ、下記評価基準に従って官能評価を行った。被験者5人で上記試験を行い、評価値の平均を四捨五入して得られた値により評価した。
【0070】
また、ペット臭、体表の腫瘍による臭い、介護臭の試験について、それぞれの臭いのする動物病院やペットショップ、体表の腫瘍患者の病室及び老人介護施設の寝室の空間に臭気変調剤を噴霧することで試験を実施し、被験者5人で上記試験を行い、評価値の平均を四捨五入して得られた値により評価した。
【0071】
5:原因物質の臭いを全く感じず、非常によい匂いだと感じた
4:原因物質の臭いを殆ど感じず、よい匂いだと感じた
3:原因物質の臭いを若干感じたが、不快でないと感じた
2:原因物質の臭いを感じ、よい匂いだと感じなかった
1:原因物質の臭いを強く感じ、不快な臭いだと感じた
【0072】
結果を表2に示す。
【0073】
【表1】
【0074】
【表2】