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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】共培養装置及び共培養方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 3/00 20060101AFI20241106BHJP
   C12N 5/071 20100101ALI20241106BHJP
   C12Q 1/00 20060101ALN20241106BHJP
   C12Q 1/06 20060101ALN20241106BHJP
【FI】
C12M3/00 A
C12N5/071
C12Q1/00 C
C12Q1/06
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019209694
(22)【出願日】2019-11-20
(65)【公開番号】P2021078446
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-10-25
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京科学大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤山 陽一
(72)【発明者】
【氏名】後藤 洋臣
(72)【発明者】
【氏名】叶井 正樹
(72)【発明者】
【氏名】田川 陽一
【審査官】手島 理
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/079793(WO,A1)
【文献】特表2017-514524(JP,A)
【文献】特許第3788988(JP,B2)
【文献】特表2003-521877(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0197905(US,A1)
【文献】特表2013-518289(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞を培養するための第1主面及び前記第1主面と反対側の第2主面を含む第1メンブレンと、前記第1主面により一部が画成され、第1培地が流れる第1流路と、前記第2主面により一部が画成され、前記第1培地よりも溶存酸素濃度が高い第2培地が流れる第2流路とを有する第1本体部と、
前記第1流路に供給される前記第1培地の溶存酸素濃度を調整するための酸素濃度調整部とを備え、
前記酸素濃度調整部は、細胞を培養するための第3主面及び前記第3主面と反対側の第4主面とを含む第2メンブレンと、前記第3主面により一部が画成され、前記第1流路に供給される前記第1培地が流れる第3流路と、前記第4主面により一部が画成され、前記第3流路を流れる前記第1培地よりも溶存酸素濃度が高い第3培地が流れる第4流路とを有する第2本体部である、共培養装置。
【請求項2】
第1接続口と、第2接続口と、セプタムが接続可能な第3接続口とを有する三方コネクタをさらに備え、
前記第3流路を流れた前記第1培地は、前記第1接続口から前記三方コネクタへと流入するとともに、前記第2接続口から流出して前記第1流路に供給される、請求項1に記載の共培養装置。
【請求項3】
前記第1本体部及び前記第2本体部が浸漬される液体が貯留されている容器をさらに備える、請求項1に記載の共培養装置。
【請求項4】
前記液体を保温するヒータをさらに備える、請求項に記載の共培養装置。
【請求項5】
前記液体中の酸素を脱気する脱気装置をさらに備える、請求項又は請求項に記載の共培養装置。
【請求項6】
前記第1本体部は、前記第1流路と前記第2流路との間の電位差を測定可能な電極をさらに有する、請求項1~請求項のいずれか1項に記載の共培養装置。
【請求項7】
第1培地の溶存酸素濃度を調整する工程と、
細胞が培養された第1メンブレンの第1主面により一部が画成された第1流路に溶存酸素濃度が調整された前記第1培地を流す工程と、
前記第1主面とは反対側にある前記第1メンブレンの第2主面により一部が画成された
第2流路に前記第1培地よりも溶存酸素濃度が高い第2培地を流すとともに、前記第2培地から前記第1メンブレンを介して前記第1流路側へと酸素を供給する工程とを備え、
前記第1培地の溶存酸素濃度を調整する工程は、
細胞が培養された第2メンブレンの第3主面により一部が画成された第3流路に前記第1培地を流す工程と、
前記第3主面とは反対側にある前記第2メンブレンの第4主面により一部が画成された第4流路に前記第1培地よりも溶存酸素濃度が高い第3培地を流すとともに、前記第3培地から前記第2メンブレンを介して前記第3流路側へと酸素を供給する工程とを有する、共培養方法。
【請求項8】
前記第3流路を流れた後であって、前記第1流路を流れる前の前記第1培地に菌を加える工程をさらに含む、請求項に記載の共培養方法。
【請求項9】
前記第3流路を流れた後であって、前記第1流路を流れる前の前記第1培地の一部を採取する工程をさらに備える、請求項に記載の共培養方法。
【請求項10】
前記第1流路を流れた前記第1培地及び前記第2流路を流れた前記第2培地のうちの少なくとも一方を質量分析する工程をさらに備える、請求項~請求項のいずれか1項に記載の共培養方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共培養装置及び共培養方法に関する。
【背景技術】
【0002】
薬物動態、薬物代謝等を調べることを目的として、腸内環境等を模擬したデバイスの開発が進められている。特許文献1(国際公開第2018/079793号)には、腸管上皮細胞を多孔質膜上に播種したデバイスを嫌気チャンバ内に配置し、腸内環境を模擬するシステムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2018/079793号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、薬物動態、薬物代謝等を調べる上で、例えば小腸内であっても大腸に近い側と大腸から遠い側とで酸素濃度が異なる。特許文献1を含む従来の技術では、1つのシステムで酸素濃度が異なる環境を模擬することが想定されていない。
【0005】
本発明は、酸素濃度が異なる環境を模擬することが可能な共培養装置及び共培養方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の共培養装置は、細胞を培養するための第1主面及び第1主面と反対側の第2主面を含む第1メンブレンと、第1主面により一部が画成され、第1培地が流れる第1流路と、第2主面により一部が画成され、第1培地よりも溶存酸素濃度が高い第2培地が流れる第2流路とを有する第1本体部と、第1流路に供給される第1培地の溶存酸素濃度を調整するための酸素濃度調整部とを備えている。
【0007】
本発明の共培養方法は、第1培地の溶存酸素濃度を調整する工程と、細胞が培養された第1メンブレンの第1主面により一部が画成された第1流路に溶存酸素濃度が調整された第1培地を流す工程と、第1主面とは反対側にある第1メンブレンの第2主面により一部が画成された第2流路に第1培地よりも溶存酸素濃度が高い第2培地を流すとともに、第2培地から第1メンブレンを介して第1流路側へと酸素を供給する工程とを備えている。
【発明の効果】
【0008】
本発明の共培養装置及び共培養方法によると、酸素濃度が異なる環境を模擬することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】共培養装置100の模式的な断面図である。
図2】第1本体部10の分解斜視図である。
図3】第1実施形態に係る共培養方法の工程図である。
図4】共培養装置200の模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施形態の詳細を、図面を参酌しながら説明する。以下の図面においては、同一又は相当する部分に同一の参照符号を付し、重複する説明は繰り返さないものとする。
【0011】
(第1実施形態)
以下に、第1実施形態に係る共培養装置(以下「共培養装置100」とする)の構成を説明する。
【0012】
図1は、共培養装置100の模式的な断面図である。図1に示されるように、共培養装置100は、第1本体部10と、酸素濃度調整部20とを有している。
【0013】
第1本体部10は、その内部に、第1流路11と、第2流路12と、第1メンブレン13とを有している。第1流路11には、第1培地が流れる。第2流路12には、第2培地が流れる。
【0014】
第1メンブレン13は、第1主面13aと、第2主面13bとを有している。第1主面13aには、細胞が培養される。この細胞は、例えば第1主面13aにおいてタイトジャンクション(密着結合)を形成する腸管上皮細胞である。この細胞の具体例は、Caco-2細胞である。第1メンブレン13は、例えばポリカーボネート製のトラックエッチ膜である。第1メンブレン13は、例えばコラーゲンビトリゲル膜であってもよい。第1メンブレン13は、第1主面13aにおいて細胞培養が可能であり、かつ酸素を透過させるものであれば、特に限定されない。第2主面13bは、第1主面13aの反対側にある。
【0015】
第1流路11は、一部が第1主面13aにより画成されている。第2流路12は、一部が第2主面13bにより画成されている。
【0016】
第1培地は、菌を含んでいてもよい。第1培地に含まれる菌は、例えば大腸菌等の腸内菌である。但し、第1培地に含まれる菌は、これに限られるものではない。第1培地は、菌に代えて菌以外の成分を含んでいてもよく、菌とともに菌以外の成分を含んでいてもよい。第2培地の溶存酸素濃度は、第1培地の溶存酸素濃度よりも高い。
【0017】
図2は、第1本体部10の分解斜視図である。図2に示されるように、第1本体部10は、例えば、第1シート14a及び第2シート14bと、第1ガラス板15a及び第2ガラス板15bと、第1メンブレン13とにより構成されている。
【0018】
第1シート14a及び第2シート14bは、互いに貼り合わされている。第1シート14aには、溝14aaと孔14abとが形成されている。溝14aaは、第1シート14aの第2シート14bに貼り合わされている面とは反対側の面に形成されている。孔14abは、第1シート14aを厚さ方向に貫通している。溝14aaは、孔14abに接続されている。
【0019】
第2シート14bには、溝14baと孔14bbとが形成されている。溝14baは、第2シート14bの第1シート14aに貼り合わされている面とは反対側の面に形成されている。孔14bbは、第2シート14bを厚さ方向に貫通している。孔14bbは、孔14abと重なる位置に形成されている。溝14baは、孔14bbに接続されている。第1メンブレン13は、第1シート14aと第2シート14bとに挟み込まれている。
【0020】
互いに貼り合わされた第1シート14a及び第2シート14bは、第1ガラス板15aと第2ガラス板15bとにより挟み込まれている。第1ガラス板15aは、第1シート14aの第2シート14bに貼り合わされている面とは反対側の面に貼り合わされている。第2ガラス板15bは、第2シート14bの第1シート14aに貼り合わされている面とは反対側の面に貼り合わされている。
【0021】
第1シート14aと第2シート14bとの貼り合わせ、第1シート14aと第1ガラス板15aとの貼り合わせ及び第2シート14bと第2ガラス板15bとの貼り合わせは、例えば、表面を酸素プラズマで活性させた状態で圧着することにより行われる。
【0022】
第1メンブレン13、溝14aa、孔14ab及び第1ガラス板15aで画された空間が第1流路11になっており、第1メンブレン13、溝14ba、孔14bb及び第2ガラス板15bで画された空間が第2流路12になっている。
【0023】
第1ガラス板15aには、第1ガラス板15aを厚さ方向に貫通して第1流路11に連通している孔15aa及び孔15abが形成されている。孔15aaは、第1流路11の入口になっている。孔15abは、第1流路11の出口になっている。第2ガラス板15bには、第2ガラス板15bを厚さ方向に貫通して第2流路12に連通している孔15ba及び孔15bbが形成されている。孔15baは、第2流路12の入口になっている。孔15bbは、第2流路12の出口になっている。
【0024】
第1シート14a及び第2シート14bは、ガス透過性の低い材料により形成されている。第1シート14a及び第2シート14bは、例えば、シリコーンゴムにより形成されている。第1ガラス板15a及び第2ガラス板15bのガス透過性も低いため、第1本体部10の外部から第1流路11内および第2流路12内に、酸素が侵入しがたい。
【0025】
図1に示されるように、第1本体部10は、電極16a及び電極16bをさらに有していてもよい。電極16aは第1ガラス板15aに形成されており、電極16bは第2ガラス板15bに形成されている。電極16a及び電極16bは、例えば、白金(Pt)により形成されている。電極16a及び電極16bの形成は、例えば、スパッタリングにより行うことができる。
【0026】
電極16a及び電極16bに電圧を印加することにより、第1流路11と第2流路12との間の電気抵抗値を測定することができる。第1主面13aにおいて培養されている細胞がタイトジャンクションを形成している場合、この電気抵抗値が大きくなり、タイトジャンクションが形成されていない場合、この電気抵抗値が小さくなる。そのため、この電気抵抗値を測定することにより、第1主面13aにおいて培養される細胞がタイトジャンクションを形成しているか否か(細胞にダメージが生じているか否か)を判定することができる。なお、この電気抵抗値の測定は、例えば、四端子法により行われる。
【0027】
酸素濃度調整部20は、例えば、第2本体部30である。第2本体部30は、第1本体部10と同様の構成になっている。すなわち、第2本体部30は、第3流路31と、第4流路32と、第2メンブレン33とを有している。
【0028】
第3流路31には、第1培地が流れる。第4流路32には、第3培地が流れる。第3培地の溶存酸素濃度は、第1培地の溶存酸素濃度よりも高い。第3培地は、例えば、第2培地と同一の培地である。
【0029】
第2メンブレン33は、第3主面33aと、第4主面33bとを有している。第3主面33aには、細胞が培養される。第3主面33aにおいて培養される細胞は、第1主面13aにおいて培養される細胞と同一であってもよく、第1主面13aにおいて培養される細胞と異なっていてもよい。第2メンブレン33は、第3主面33aにおいて細胞培養が可能であり、かつ酸素を透過させるものであればよい。第2メンブレン33は、第1メンブレン13と同一の膜であってもよく、第1メンブレン13と異なる膜であってもよい。
【0030】
第3流路31は、一部が第3主面33aにより画成されている。第4流路32は、一部が第4主面33bにより画成されている。
【0031】
第2本体部30は、第3流路31と第4流路32との間の電気抵抗値を測定するための電極36a及び電極36bをさらに有していてもよい。
【0032】
共培養装置100は、三方コネクタ40と、チューブ41a~チューブ41hと、ポンプ42と、ポンプ43a及び43bと、酸素センサ44a及び酸素センサ44bとをさらに有している。
【0033】
三方コネクタ40は、第1接続口40aと、第2接続口40bと、第3接続口40cとを有している。図示されていないが、第3接続口40cには、セプタムが接続される。チューブ41a~チューブ41hは、ガス透過性の低い材料により形成されている。チューブ41a~チューブ41hは、例えば、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)樹脂により形成されている。ポンプ42、ポンプ43a及びポンプ43bは、例えば、シリンジポンプである。
【0034】
チューブ41aは、第3流路31の入口に接続されている。チューブ41bは、第3流路31の出口と第1接続口40aとを接続している。チューブ41cは、第2接続口40bと第1流路11の入口とを接続している。チューブ41dは、第1流路11の出口に接続されている。
【0035】
チューブ41eは、第4流路32の入口に接続されている。チューブ41fは、第4流路32の出口に接続されている。チューブ41gは、第2流路12の入口に接続されている。チューブ41hは、第2流路12の出口に接続されている。酸素センサ44a及び酸素センサ44bは、それぞれチューブ41b及びチューブ41dに取り付けられている。これにより、第3流路31及び第1流路11を流れた第1培地の溶存酸素濃度がモニタリングされる。
【0036】
ポンプ42を駆動させることにより、第1培地は、チューブ41aを通って第3流路31に供給される。第1培地が第3流路31を流れている間に、第1培地に含まれている酸素が第1培地中の菌及び第3主面33aにおいて培養されている細胞により消費される。そのため、第1培地の溶存酸素濃度は、第3流路31を通過することにより低下する。
【0037】
第3流路31を流れた第1培地は、チューブ41bを介して第1接続口40aから三方コネクタ40に流入するとともに、第2接続口40bから流出する。第2接続口40bから流出した第1培地は、チューブ41cを介して第1流路11に供給される。そのため、第2本体部30(酸素濃度調整部20)により、第1流路11に供給される第1培地の溶存酸素濃度が調整される。第3流路31を流れた第1培地の一部は、セプタムにより採取されてもよい。第3流路31を流れた第1培地は、第1流路11に供給される前に、セプタムから菌が加えられてもよい。
【0038】
ポンプ43aを駆動させることにより、第2培地は、チューブ41eを通って第4流路32に供給される。ポンプ43bを駆動させることにより、チューブ41gを通って第2流路12に供給される。
【0039】
第2培地が第2流路12を通っている間に、第2培地中の酸素が第1メンブレン13を介して第1主面13aにおいて培養されている細胞に供給される。第3培地が第4流路32を通っている間に、第3培地中の酸素が第2メンブレン33を介して第3主面33aにおいて培養されている細胞に供給される。そのため、第1主面13aにおいて培養される細胞は、第1培地の溶存酸素濃度に関わらず維持され、第3主面33aにおいて培養されている細胞は、第3培地の溶存酸素濃度に関わらず維持される。
【0040】
共培養装置100は、容器50と、ヒータ51と、脱気装置52とをさらに有していてもよい。容器50には液体が貯留されている。この液体は、例えば、フロリナート(登録商標)である。この液体には、第1本体部10及び第2本体部30が浸漬されている。
【0041】
ヒータ51は、容器50中に貯留されている液体を加熱することにより、容器50に貯留されている液体の温度を保つ。脱気装置52は、容器50に貯留されている液体に含まれる酸素を脱気する。
【0042】
脱気装置52は、例えば、チャンバと、チャンバの内部に配置されているチューブと、第1ポンプ及び第2ポンプとを有している。容器50に貯留されている液体は、第1ポンプを駆動することにより、脱気装置52との間で循環する。容器50に貯留されている液体が循環している際、チューブを通る。チャンバの内部は、第2ポンプを駆動することにより、真空状態になっている。チューブは、ガス透過性の材料により形成されている。これにより、容器50に貯留されている液体は、チューブを通る際に脱気される。
【0043】
上記の例においては、第1本体部10の数が1である場合について説明を行ったが、第1本体部10の数は、2以上であってもよい。第1本体部10の数が2以上である場合、第2本体部30に接続されている第1本体部10以外の第1本体部10は、直列に接続される。ある第1本体部10の上流側に接続されている別の第1本体部10は、当該別の第1本体部10の下流側に接続されている第1本体部10にとっての酸素濃度調整部20として機能する。
【0044】
以下に、第1実施形態に係る共培養方法を説明する。
【0045】
図3は、第1実施形態に係る共培養方法の工程図である。図3に示されるように、第1実施形態に係る共培養方法は、酸素濃度調整工程S1と、培地処理工程S2とを有している。第1実施形態に係る共培養方法は、培地採取工程S3aと、培地分析工程S4とをさらに有していてもよい。第1実施形態に係る共培養方法は、培地採取工程S3aに代えて菌添加工程S3bを有していてもよい。
【0046】
酸素濃度調整工程S1においては、第1流路11に供給される第1培地の溶存酸素濃度の調整が行われる。より具体的には、酸素濃度調整工程S1は、第3流路31に第1培地を流すとともに、第4流路32に第3培地を流すことにより行われる。第1培地が第3流路31を流れる際に第1培地中の菌及び第3主面33aにおいて培養されている細胞が酸素を消費するため、第3流路31を流れた第1培地(すなわち、第1流路11に供給される第1培地)の溶存酸素濃度が調整される。酸素濃度調整工程S1においては、第3培地が第4流路32を流れる際に、第3培地中の酸素が第2メンブレン33を介して第3流路31側に供給されている。第4流路32を流れた第3培地は、培地分析工程S4に供される。
【0047】
培地処理工程S2においては、第1流路11に供給された第1培地及び第2流路12に供給された第2培地の処理が行われる。より具体的には、培地処理工程S2は、第1流路11に第1培地を流すとともに、第2流路に第2培地を流すことにより行われる。培地処理工程S2においては、第2培地が第2流路12を流れる際に、第2培地中の酸素が第1メンブレン13を介して第1流路11側に供給されている。第1流路11を流れた第1培地は、培地分析工程S4に供される。
【0048】
培地採取工程S3aにおいては、第3流路31を流れた第1培地の一部が、第1流路11に供給される前に、採取される。この採取は、三方コネクタ40の第3接続口40cに接続されているセプタムにより行われる。培地採取工程S3aにおいて採取された第1培地の一部は、培地分析工程S4に供される。
【0049】
菌添加工程S3bにおいては、第3流路31を流れた第1培地に対して、第1流路11に供給される前に、菌が加えられる。菌添加工程S3bにおいて添加される菌は、第3流路31を流れる第1培地に含まれる菌と同一であってもよく、第3流路31を流れる第1培地に含まれる菌と異なっていてもよい。
【0050】
培地分析工程S4においては、第1流路11を流れた第1培地、第2流路12を流れた第2培地及び第4流路32を流れた第3培地に対する質量分析が行われる。この質量分析は、例えば、液体クロマトグラフィー質量分析法により行われる。この質量分析に先立って、第1流路11を流れた第1培地、第2流路12を流れた第2培地及び第4流路32を流れた第3培地に対して、所望の前処理が行われてもよい。
【0051】
なお、培地分析工程S4は、第1流路11を流れた第1培地、第2流路12を流れた第2培地及び第4流路32を流れた第3培地のうちの少なくともいずれかに対して行われればよい。培地分析工程S4は、培地採取工程S3aにおいて採取された第1培地に対して行われてもよい。
【0052】
以下に、共培養装置100及び第1実施形態に係る共培養方法の効果を説明する。
【0053】
共培養装置100においては、酸素濃度調整部20(第2本体部30)により、第1流路11に供給される第1培地の溶存酸素濃度を調整することができる。そのため、共培養装置100によると、小腸から大腸に向かう状況のように酸素濃度が異なる環境を模擬することができる。
【0054】
共培養装置100において第1本体部10及び第2本体部30が容器50に貯留されている液体中に浸漬されている場合、酸素が共培養装置100の内部を流れる培地に混入することを抑制できる。共培養装置100が脱気装置52を有している場合、酸素が共培養装置100の内部を流れる培地に混入することを、さらに抑制できる。共培養装置100がヒータ51を有している場合、共培養装置100の外部の温度が共培養装置100における培地処理に影響することを抑制することができる。
【0055】
共培養装置100が三方コネクタ40を有している場合、第3流路31を流れた第1培地に菌を加えることが可能であるため、酸素濃度のみならず、菌の種類及び/又は菌の存在量が異なる環境を模擬することが可能である。また、共培養装置100が三方コネクタ40を有している場合、第3流路31を流れた第1培地の一部を第1流路11に供給される前に採取することができるため、変化していく環境の途中過程をモニタリングすることが可能となる。
【0056】
第1主面13aにおいて培養されている細胞の状態(タイトジャンクションが損なわれているか否か等)は、第1流路11と第2流路12との間の電気抵抗値の変化に顕れるため、第1本体部10が電極16a及び電極16bを有している場合、第1主面13aにおいて培養されている細胞の状態をモニタリングすることができる。
【0057】
第1実施形態に係る共培養方法によると、第1流路11に供給される第1培地の溶存酸素濃度が調整されるため、酸素濃度が異なる環境を模擬することができる。
【0058】
第1実施形態に係る共培養方法において第3流路31を流れた第1培地の一部が第1流路11に供給される前に採取される場合、変化していく環境の途中過程をモニタリングすることが可能となる。第1実施形態に係る処理方法において第3流路31を流れた第1培地に対して第1流路11に供給される前に菌が添加される場合、酸素濃度のみならず、菌の種類及び/又は菌の存在量が異なる環境を模擬することが可能である。
【0059】
第1実施形態に係る共培養方法において、第1流路11を流れた第1培地、第2流路を流れた第2培地、第3流路を流れた第1培地及び第4流路を流れた第3培地の質量分析を行う場合、例えば、第1培地に含まれる菌の活動状況、第1培地に含まれる菌からの代謝物の細胞への吸収等を分析することができる。
【0060】
(第2実施形態)
以下に、第2実施形態に係る共培養装置(以下「共培養装置200」とする)の構成を説明する。ここでは、共培養装置100の構成と異なる点を主に説明し、重複する説明は繰り返さない。
【0061】
図4は、共培養装置200の模式的な断面図である。図4に示されるように、共培養装置200は、第1本体部10と、酸素濃度調整部20とを有している。共培養装置200において、第1流路11に供給される第1培地の溶存酸素濃度は、酸素濃度調整部20により調整される。これらの点に関し、共培養装置200の構成は、共培養装置100の構成と共通している。
【0062】
しかし、共培養装置200は、酸素濃度調整部20の構成に関し、共培養装置100の構成と異なっている。共培養装置200において、酸素濃度調整部20は、ガス交換器60及び脱気装置70である。共培養装置200において、酸素濃度調整部20は、ガス交換器60のみ又は脱気装置70のみで構成されていてもよい。
【0063】
ガス交換器60は、例えば、チューブ61と、チャンバ62とを有している。チューブ61の出口は、第1流路11に接続されているチューブ41iに接続されている。チューブ61は、ガス透過性の高い材料により形成されている。チューブ61は、チャンバ62の内部に配置されている。チューブ61の入口は、チューブ41jに接続されている。ポンプ42を駆動させることにより、チューブ41jを通って第1培地がチューブ61に流れる。
【0064】
チャンバ62は、ガス入口62aと、ガス出口62bとを有している。ガス入口62a及びガス出口62bは、チャンバ62の内部と連通している。ガス入口62aからは、チャンバ62の内部に雰囲気ガスが供給される。この雰囲気ガスは、酸素を含まないガスである。例えば、5体積パーセントの二酸化炭素と残部を構成している窒素とからなるガスである。
【0065】
ガス入口62aからチャンバ62の内部に供給された雰囲気ガスは、チューブ61を流れる第1培地との間で、ガス交換を行う。これにより、チューブ61を流れる第1培地の溶存酸素濃度は低下する。その結果、第1流路11には、溶存酸素濃度の調整された第1培地が供給されることになる。チューブ61を流れる第1培地との間でガス交換を行った雰囲気ガスは、ガス出口62bを通ってチャンバ62の内部から排出される。
【0066】
脱気装置70は、例えば、チューブ71と、チャンバ72と、ポンプ73とを有している。チューブ71は、ガス透過性の高い材料により形成されている。チューブ71の出口は、チューブ41jに接続されている。チューブ71の入口は、チューブ41kに接続されている。ポンプ42を駆動させることにより、チューブ41kを通って第1培地がチューブ71に供給される。チューブ71は、チャンバ72の内部に配置されている。
【0067】
チャンバ72の内部は、ポンプ73を駆動させることにより、真空状態とされる。そのため、チューブ71を流れる第1培地中の酸素は、チューブ71を通ってチャンバ72中へと放出され、チューブ71を流れる第1培地は、脱気される。この脱気によっても、第1流路11に供給される第1培地の溶存酸素濃度が調整される。
【0068】
なお、チューブ41i、チューブ41j及びチューブ41kは、ガス透過性の低い材料(例えば、PEEK樹脂)により形成されている。
【0069】
上記の例においては、第1本体部10の数が1である場合について説明を行ったが、第1本体部10の数は、2以上であってもよい。第1本体部10の数が2以上である場合、第2本体部30に接続されている第1本体部10以外の第1本体部10は、直列に接続される。ある第1本体部10の上流側に接続されている別の第1本体部10は、当該別の第1本体部10の下流側に接続されている第1本体部10にとっての酸素濃度調整部20として機能する。
【0070】
以下に、第2実施形態に係る共培養方法を説明する。ここでは、第1実施形態に係る共培養方法と異なる点を主に説明し、重複する説明は繰り返さない。
【0071】
第2実施形態に係る共培養方法は、第1実施形態に係る共培養方法と同様に、酸素濃度調整工程S1と、培地処理工程S2と、培地分析工程S4とを有している。しかし、第2実施形態に係る共培養方法は、酸素濃度調整工程S1が第1流路11に供給される第1培地に対するガス交換により行われる点に関し、第1実施形態に係る酸素濃度調整工程S1と異なっている。第2実施形態に係る共培養方法における酸素濃度調整工程S1は、第1流路11に供給される第1培地に対する脱気により行われてもよい。
【0072】
以下に、共培養装置200及び第2実施形態に係る共培養方法の効果を説明する。ここでは、共培養装置100及び第1実施形態に係る共培養方法の効果と異なる点を主に説明し、重複する説明は繰り返さない。
【0073】
共培養装置200においては、酸素濃度調整部20としてのガス交換器60及び/又は脱気装置70により、第1流路11に供給される第1培地の溶存酸素濃度を調整することができる。そのため、共培養装置200によると、小腸から大腸に向かう状況のように酸素濃度が異なる環境を模擬することができる。
【0074】
第2実施形態に係る共培養方法によると、第1実施形態に係る共培養方法と同様に第1流路11に供給される第1培地の溶存酸素濃度が調整されるため、酸素濃度が異なる環境を模擬することができる。
【0075】
以上のように本発明の実施形態について説明を行ったが、上述の実施形態を様々に変形することも可能である。また、本発明の範囲は、上述の実施形態に限定されるものではない。本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更を含むことが意図される。
【符号の説明】
【0076】
10 第1本体部、11 第1流路、12 第2流路、13 第1メンブレン、13a 第1主面、13b 第2主面、14a 第1シート、14b 第2シート、14aa,14ba 溝、14ab,14bb 孔、15a 第1ガラス板、15aa,15ab 孔、15b 第2ガラス板、15ba,15bb 孔、16a,16b 電極、20 酸素濃度調整部、30 第2本体部、31 第3流路、32 第4流路、33 第2メンブレン、33a 第3主面、33b 第4主面、36a,36b 電極、40 三方コネクタ、40a 第1接続口、40b 第2接続口、40c 第3接続口、41a,41b,41c,41d,41e,41f,41g,41h,41i,41j,41k チューブ、42,43a,43b ポンプ、44a 酸素センサ、44b 酸素センサ、50 容器、51 ヒータ、52 脱気装置、60 ガス交換器、61 チューブ、62 チャンバ、62a ガス入口、62b ガス出口、70 脱気装置、71 チューブ、72 チャンバ、73 ポンプ、100,200 共培養装置、S1 酸素濃度調整工程、S2 培地処理工程、S3b 菌添加工程、S3a 培地採取工程、S4 培地分析工程。
図1
図2
図3
図4