(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】セラミックス基複合材料とその製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 35/80 20060101AFI20241106BHJP
C04B 35/84 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
C04B35/80
C04B35/84
(21)【出願番号】P 2022567007
(86)(22)【出願日】2021-12-03
(86)【国際出願番号】 JP2021044514
(87)【国際公開番号】W WO2022118963
(87)【国際公開日】2022-06-09
【審査請求日】2023-04-07
(31)【優先権主張番号】P 2020201595
(32)【優先日】2020-12-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】500302552
【氏名又は名称】株式会社IHIエアロスペース
(73)【特許権者】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】100097515
【氏名又は名称】堀田 実
(74)【代理人】
【識別番号】100136700
【氏名又は名称】野村 俊博
(72)【発明者】
【氏名】久保田 勇希
(72)【発明者】
【氏名】宇田 道正
(72)【発明者】
【氏名】添田 晴彦
(72)【発明者】
【氏名】青木 卓哉
【審査官】浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-347837(JP,A)
【文献】国際公開第2018/168400(WO,A1)
【文献】特表2004-513053(JP,A)
【文献】特開2010-255174(JP,A)
【文献】山内 宏ほか,高速緻密化可能な膜沸騰(FB)法による低コストC/CおよびCMCの開発,IHI技報,2017年,Vol.57, No.2,PP.53-63,ISSN:1882-3041, 特にPP.53-56, 2.FB法
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/80-35/84
C04B 41/85
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マトリックスと、前記マトリックス内に設けられた強化繊維とを備えるセラミックス基複合材料の製造方法であって、
(A)強化繊維により構成された繊維体に、前記マトリックスの一部となるセラミックス材料の粉末を含浸させ
ることにより、前記繊維体内の気孔を細分化し、
(B)前記粉末が含浸させられた前記繊維体を前記マトリックスの液体原料内に配置し、
(C)この状態で前記繊維体を加熱することにより、前記液体原料を膜沸騰状態にして、前記液体原料に由来するセラミックスを
、前記繊維体内において前記(A)で細分化された前記気孔内に、前記マトリックスの一部として生じさせる、セラミックス基複合材料の製造方法。
【請求項2】
前記(C)では、
(C1)前記繊維体を加熱することにより、前記液体原料を前記膜沸騰状態にして、前記セラミックスを前記繊維体内に生じさせ、
(C2)前記繊維体を前記液体原料の沸点より低い温度まで冷却し、
前記(C1)と前記(C2)を繰り返す、請求項1に記載のセラミックス基複合材料の製造方法。
【請求項3】
前記(C1)と前記(C2)を繰り返す過程で、前記(C1)において前記繊維体の温度が高温側の目標温度以上になったら、前記繊維体の加熱を停止することにより前記(C2)を行う、請求項2に記載のセラミックス基複合材料の製造方法。
【請求項4】
前記(A)では、
(A1)前記粉末を液体と混合することによりスラリーを生成し、
(A2)スラリー容器内で前記スラリー内に前記繊維体が埋まった状態にし、
(A3)前記スラリー容器の内部を真空引きして、前記粉末を含有する前記スラリーを前記繊維体の内部に含浸させる、請求項
1~3のいずれか一項に記載のセラミックス基複合材料の製造方法。
【請求項5】
前記(A)で用いる前記粉末のメディアン径は、1μm以上20μm以下である、請求項1~
4のいずれか一項に記載のセラミックス基複合材料の製造方法。
【請求項6】
前記(A)で用いる前記粉末は、メディアン径が5μmの粉末と、メディアン径が17μmの粉末との混合粉末である、請求項1~
5のいずれか一項に記載のセラミックス基複合材料の製造方法。
【請求項7】
前記(
B)では、前記液体原料を保持する処理容器の内部において、前記繊維体と加熱体を配置し、
前記(C)では、前記加熱体を誘導加熱することにより、前記繊維体を加熱する、請求項1~
6のいずれか一項に記載のセラミックス基複合材料の製造方法。
【請求項8】
前記(C)では、前記処理容器の外部に配置したコイルに交流電流を流すことで当該コイルが発生する交流磁場により、前記加熱体を誘導加熱し、誘導加熱された前記加熱体により前記繊維体を加熱し、
前記処理容器は、非導電性材料により形成されている、請求項
7に記載のセラミックス基複合材料の製造方法。
【請求項9】
マトリックスと、前記マトリックス内に設けられた強化繊維とを備えるセラミックス基複合材料の製造方法であって、
(A)強化繊維により構成された繊維体に、前記マトリックスの一部となるセラミックス材料の粉末を含浸させ、
(B)前記粉末が含浸させられた前記繊維体を前記マトリックスの液体原料内に配置し、
(C)この状態で前記繊維体を加熱することにより、前記液体原料を膜沸騰状態にして、前記液体原料に由来するセラミックスを前記マトリックスの一部として前記繊維体内に生じさせ、
前記(B)では、前記液体原料を保持する処理容器の内部において、前記繊維体と加熱体を配置し、
前記(C)では、前記加熱体を誘導加熱することにより、前記繊維体を加熱し、
前記(C)では、取付具により、前記繊維体は前記加熱体に取り付けられており、前記取付具と前記繊維体と前記加熱体が、前記処理容器の内面に接触しないように吊り下げられている
、セラミックス基複合材料の製造方法。
【請求項10】
請求項1~
9のいずれか一項に記載のセラミックス基複合材料の製造方法により製造されたセラミックス基複合材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックス基複合材料とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックス基複合材料は、炭化ケイ素などのセラミックスをマトリックスとし、マトリックス内に強化繊維を設けた材料である。セラミックス基複合材料は、ロケットのエンジンや航空機のジェットエンジンなどにおいて高温構造部材として使用される。
【0003】
強化繊維(例えば強化繊維の織物又は編み物である繊維体)に対して、化学気相含浸(CVI:Chemical Vapor Infiltration)法、ポリマー含浸焼成(PIP:Polymer Impregnation of Pyrolysis)法、金属溶融含浸(MI:Melt Infiltration)法などによりマトリックスを形成する。なお、上記繊維体はプリフォームともいわれる。
【0004】
CVI法では、反応性ガスを加熱された繊維体に流し、繊維体内の気孔に反応性ガスの反応物をマトリックスとして析出させる。PIP法では、ポリカルボシラン等のポリマーを繊維体に含浸させ、含浸したポリマーを焼成することによりマトリックスを形成する。MI法では、粉末材料(例えば炭化ケイ素や炭素の粉末)を内部に混入させた繊維体に、金属成分(例えば金属ケイ素)を溶融して流し込むことによりマトリックス(例えば炭化ケイ素と金属ケイ素のマトリックス)を形成する。
【0005】
なお、特許文献1と非特許文献1、2には、本願の実施形態などの一部に関する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-1912号公報
【文献】中国特許公開公報CN102795871A
【非特許文献】
【0007】
【文献】C. Besnarda et al. 「Synthesis of hexacelsian barium aluminosilicate by film boiling chemical vapour process」,Journal of the European Ceramic Society 40 (2020) 3494-3497
【文献】Masanori SHIMIZU et al. 「Crystallization Behavior and Change in Surface Area of Alkoxide-Derived Mullite Precursor Powders with Different Compositions」,Journal of the Ceramic Society of Japan 105 [2] 131-135 (1997)
【文献】中村 武志 他、「CMCノズルの開発」、IHI技報 Vol.48 No.3 (2008-9)
【文献】Min Mei et al. 「Preparation of C/SiC composites by pulse chemical liquid-vapor deposition process」,Materials Letters 82 (2012) 36-38
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のPIP法、CVI法、MI法には、それぞれに課題がある。PIP法やCVI法では高密度なマトリックスを形成するのに長い時間が必要となり、コスト増の要因となっている。MI法では、比較的短時間で高密度マトリックスの形成が可能だが、金属が残存し、その金属が耐熱性および耐酸化性の低下要因となる。
【0009】
そこで、各手法の組み合わせ技術が提案されている。例えば、CVI法とPIP法の組み合わせ、さらにCVI法と粉末含浸とPIP法の組み合わせとすることで、工程期間を1/3に短縮している。(非特許文献3)
【0010】
また、CVI単体の工程に対して50倍以上速い速度でマトリックス形成が可能な膜沸騰法が提案されているが(特許文献2と非特許文献4)、マトリックスの形成速度は速いものの、高密度化が不十分であった。
【0011】
そこで、本発明の目的は、膜沸騰法の効果を最大化させることに着目し、セラミックス基複合材料の製造方法において、膜沸騰法を用いて短時間で高密度のマトリックスを形成できる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述の目的を達成するため、本発明による製造方法は、マトリックスと、前記マトリックス内に設けられた強化繊維とを備えるセラミックス基複合材料の製造方法であって、
(A)強化繊維により構成された繊維体に、前記マトリックスの一部となるセラミックス材料の粉末を含浸させ、
(B)前記粉末が含浸させられた前記繊維体を前記マトリックスの液体原料内に配置し、
(C)この状態で前記繊維体を加熱することにより、前記液体原料を膜沸騰状態にして、前記液体原料に由来するセラミックスを前記マトリックスの一部として前記繊維体内に生じさせる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、膜沸騰法を用いる場合に、粉末含浸を組み合わせることで、膜沸騰法の効果を最大化し、短時間で高密度化を実現した。膜沸騰法では、同等の気孔率でも、その気孔サイズが大きいとマトリックスを充填しきれず、密度低下の要因として気孔が残存してしまう。一方で、サイズの小さな気孔であれば短時間でマトリックスの充填が可能であることが、本願の発明者によって見い出された。そこで、繊維体にセラミックス材料の粉末をあらかじめ含浸させることで、気孔サイズを細分化して、その上で、膜沸騰法でマトリックスを形成することにより、短時間で高密度化を実現した。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の第実施形態による、セラミックス基複合材料の製造方法を示すフローチャートである。
【
図2A】本発明の実施形態による製造方法で使用可能な取付具の一例を示す。
【
図3】本発明の実施形態による製造方法の膜沸騰法の実施に使用可能な構成例を示す。
【
図4】本発明の実施例により得られたセラミックス基複合材料の断面の、走査電子顕微鏡による画像である。
【
図5】
図4において破線で囲んだ部分の拡大図である。
【
図6】
図5において破線で囲んだ部分の拡大図である。
【
図7】参考例により得られたセラミックス基複合材料の断面の、走査電子顕微鏡による画像である。
【
図8】条件を変えて製造方法を実施した場合の各結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0016】
本発明の実施形態による製造方法は、強化繊維(強化繊維で形成された繊維体)とマトリックスを備えるセラミックス基複合材料の製造方法であって、繊維体において、粉末含浸により大きな気孔を小さな気孔に分散させることで、膜沸騰法において高速で高密度なマトリックスを得る方法である。セラミックス基複合材料は、マトリックス内に補強材として多数本の強化繊維が設けられたものである。セラミックス基複合材料は、ロケットのエンジンや航空機のジェットエンジンなどにおいて高温構造部材として使用されるものであってよい。
【0017】
マトリックスは、セラミックスにより形成されるものであってよい。例えば、マトリックスは、炭化ケイ素により形成されるものであってよいが、他の材料(例えばムライト)で形成されるものであってもよい。
【0018】
強化繊維は、炭化ケイ素又は炭素を主成分とする繊維であってよい。例えば、強化繊維は、炭化ケイ素繊維または炭素繊維である。ただし、本発明によると、強化繊維は、これらに限定されず、例えば、アルミナ繊維、ムライト繊維、ジルコニア繊維などの耐熱性酸化物繊維であってもよい。また、強化繊維は、多数本の強化繊維により形成された繊維体としてマトリックス内に設けられていてよい。この繊維体は、強化繊維の織物又は編み物であってよい。さらには、この繊維体はCVI法やPIP法などによって部分的にマトリックスが形成されているものの、依然として多数の気孔が残されている状態であってもよい。
【0019】
図1は、本発明の実施形態による、セラミックス基複合材料の製造方法を示すフローチャートである。
【0020】
ステップS1において、多数本の強化繊維により形成された上述の繊維体に、セラミックス材料の粉末(以下で単に粉末ともいう)を含浸させる。この粉末は、焼成されたものであってよく、一例では、炭化ケイ素の粉末(SiC粉末)であるが、後述するように他の材料の粉末であってもよい。また、ステップS1で用いる繊維体は、上述のように、CVI法やPIP法などによって部分的にマトリックスが形成されているものであってもよい。この場合、この繊維体の内部と表面の一方または両方において、部分的にマトリックスが形成されていてよい。ステップS1は、ステップS11~S13を有していてよい。
【0021】
ステップS1で用いる粉末のメディアン径(累積高さ50%の粒子径)が1μm以上であって20μm以下であってよい。この場合、ステップS1で用いる粉末は、一例では、メディアン径が5μmの粉末と、メディアン径が17μmの粉末との混合粉末であってよい。この場合、一例では、ステップS1で用いる粉末全体に対する、メディアン径が5μmの粉末の体積分率(=重量分率)は、35%である。
あるいは、ステップS1で用いる粉末を構成する粒子の粒径(粉末全体の70%以上、80%、又は90%以上の粒子の粒径)は、1μm以上であって20μm以下であってよい。また、ステップS1で用いる粉末は、1種類の粒径の粒子からなるものであってもよいし、複数種類の粒径の粒子からなるものであってもよい。前者の場合、ステップS1で用いる粉末は、主に(粉末全体の70%以上、80%、又は90%以上が)、粒径が5μm程度(例えば3μm以上7μm以下)の粒子からなっていてよい。後者の場合、ステップS1で用いる粉末は、主に(粉末全体の70%以上、80%、又は90%以上が)、粒径が5μm程度(例えば3μm以上7μm以下)の粒子と、粒径が17μm程度(15μm以上19μm以下)の粒子とからなっていてよい。また、後者の場合、粒径が5μm程度の粒子と、粒径が17μm程度の粒子の各々は、ステップS1で用いる粉末の40%以上を占めていてよい。
なお、各粒子の粒径(さしわたし)は、当該粒子の最大寸法(各方向の寸法のうちの最大値)を意味してよい。
【0022】
ステップS11では、セラミックス材料の粉末を水等の液体(分散媒)と混合することによりスラリーを生成する。
【0023】
ステップS12では、ステップS11で生成したスラリーが内部に保持されているスラリー容器(図示せず)内に繊維体を入れる。この時、繊維体の全体がスラリー内に埋まった状態にする。ステップS12では、スラリー容器(容器の内部の気相部分)に接続された吸気管を通してスラリー容器の内部を真空引きする。これにより、繊維体内の気孔へスラリーが充填されることを促進する。
【0024】
ステップS13では、ステップS12でスラリーを含浸させた繊維体を上記スラリー容器から取り出して、当該繊維体を適宜の加熱装置で加熱して、繊維体内のスラリーから液体を蒸発させる。これにより、スラリーから液体のみを蒸発させる。これにより、繊維体内に粉末を留める。
【0025】
ステップS13の後、再び上述のステップS11を開始してステップS11~S13を繰り返してよい。ステップS11~S13を所定回数繰り返したら、ステップS2へ進む。この所定回数は、2回以上10回以下(例えば5回)であってよい。例えば、この所定回数は、2回であり、1回目のステップS13では、繊維体を80℃で30分加熱し、2回目のステップS13では、繊維体を130℃で30分から60分加熱する。なお、ステップS11~S13は、繰り返さなくてもよく、この場合、ステップS11~S13を1回行ったら、ステップS2へ進む。
【0026】
ステップS2において、ステップS1でセラミックス材料の粉末が含浸させられた繊維体(粉末が内部に保持された繊維体)をマトリックスの液体原料内に配置する。ステップS2で用いる液体原料は、セラミックス基複合材料のマトリックスとしての後述のセラミックスの原料である。この液体原料は、例えば、炭化ケイ素の液体原料であるポリカルボシラン(LPCS:Liquid Polycarbosilane)であってよい。ただし、液体原料は、後述するように、これに限定されない。
【0027】
ステップS2では、上述の繊維体を取付具により加熱体に取り付け、繊維体を加熱体と共にマトリックスの液体原料内に配置する。取付具により繊維体を加熱体に取り付けた状態で、繊維体は、加熱体に接触していてもよいし、加熱体に接触していなくてもよい。
【0028】
ステップS2は、ステップS21とステップS22を有する。ステップS21では、上述の繊維体を、取付具により加熱体に取り付ける。これにより、繊維体と加熱体とが、互いに一体化された状態となってよい。なお、このように加熱体に取り付ける繊維体の数は、1つであっても複数(後述の
図2Aの例では2つ)であってもよい。
【0029】
図2Aは、ステップS21で使用可能な取付具の一例を示す。ただし、取付具は、
図2Aの構成例に限定されず、繊維体を加熱体に取り付けた状態を維持するものであればよい。
【0030】
図2Aの場合、ステップS21において、取付具20により、上述の繊維体10を加熱体1に取り付ける。
図2Bは、
図2Aの2B-2B矢視図である。
図2Aは、取付具20により、ステップS1の処理後の2つの繊維体10を加熱体1の上面と下面にそれぞれ接触するように加熱体1に取り付けた状態(以下で単に取付状態ともいう)を示す。取付具20は、1対の断熱板2と、多孔体3と、作用機構4と、断熱材5と、吊り下げ部7を備える。
【0031】
加熱体1は、誘導加熱される材料(例えばグラファイト)で形成されており、1対の断熱板2の間に配置される。各断熱板2は、断熱性能を有する材料(例えばアルミナ)で形成されている。各断熱板2と加熱体1は、断熱板2の厚み方向から見た場合、例えば同程度の半径を有する円形であってよい。多孔体3は、上述の取付状態で、加熱体1と各断熱板2との間に配置されている。各多孔体3は、流体が通過できる多数の孔が形成されたものであり、例えば複数枚の金網を積み重ねたものであってよい。
【0032】
作用機構4は、ボルト4aとナット4bを有する。ボルト4aは、2枚の断熱板2および加熱体1を隙間をもって貫通しており、各ボルト4aの両端部には、ナット4bが螺合している。取付状態で、2枚の断熱板2を互いに近づける方向に、ボルト4aに対してナット4bを締め付けることにより、1対の断熱板2の間に各多孔体3と加熱体1と各繊維体10が保持される。このような作用機構4が複数(
図2Aの例では2つ)設けられてよい。
【0033】
断熱材5は、取付状態で、加熱体1と2つの繊維体10の外周を覆う。すなわち、加熱体1と各繊維体10は、それぞれ、断熱板2の厚み方向を向く中心軸を囲む外周1a,10aを有し、これらの外周1a,10aが
図2Bのように断熱材5に覆われる。
図2Aでは、断熱材5のうち、加熱体1と各繊維体10の両側(この図の左右両側)に位置する部分のみ二点鎖線で図示している。断熱材5は、断熱性能を有する材料で形成されている。例えば、断熱材5は、ガラス製の断熱クロス(織物)であってよい。なお、断熱材5を加熱体1に対して固定するために、
図2Aと
図2Bの例では、断熱材5には、その外周側から針金6が巻き付けられていてよいが、他の手段で、断熱材5を固定してもよい。
【0034】
また、取付状態で、各多孔体3は、外周側に開放されている。すなわち、各多孔体3は、断熱板2の厚み方向を向く中心軸を囲む外周3aを有し、外周3aが、当該中心軸に対する径方向外側に外部に開放されている。
【0035】
吊り下げ部7は、後述のステップ22で、繊維体10と加熱体1を吊り下げるためのものである。
図2Cは、
図2Aの2C-2C矢視図である。吊り下げ部7は、板状部材7aと棒状部材7bとを有する。板状部材7aは、上側の断熱板2の上面に沿って、
図2Aと
図2Cの左右方向に、細長く延びている。板状部材7aの両端部にボルト4aが隙間をもって貫通している。板状部材7aの両端部は、それぞれ、上側の断熱板2と上側のナット4bとの間に挟持されている。板状部材7aの中央部には、結合部7a1が設けられている。この結合部7a1には、棒状部材7bが結合されている。棒状部材7bは、結合部7a1から上方へ延びている。なお、図示を省略するが、例えば、結合部7a1の上面にボルトとしての突出部があり、棒状部材7bの下端面にボルト穴が形成されており、当該ボルトとボルト穴とが螺合することにより、結合部7a1と棒状部材7bとが結合されてもよい。
【0036】
ステップS22では、
図3のように、取付具20により加熱体1に取り付けられた繊維体10を、処理容器8内の液体原料9内に配置する。この時、繊維体10を液体原料9内に配置するとともに、取付具20と加熱体1と繊維体10が、処理容器8の内面(底面と内周面)に接触しないように、繊維体10と加熱体1を吊り下げ部7により吊り下げる。また、この時、吊り下げ部7の棒状部材7bは、処理容器8の上面の開口を塞ぐ蓋部材8aの貫通穴8a1を貫通するように配置され、棒状部材7bの上端側部分は図示しない構造物に適宜の手段により結合されて支持されてよい。
【0037】
なお、ステップS22において、吊り下げ部は、取付具と加熱体と繊維体が処理容器の内面に接触しないように(すなわち、処理容器の内面から離間するように)繊維体と加熱体を吊り下げることができれば、
図2Aと
図2C等に示す構成例に限定されない。
【0038】
処理容器8は、誘導加熱されない非導電性材料(例えばガラス)で形成されている。処理容器8には、後述のステップS3の時に処理容器8内の気相部分に窒素ガスを導入するガス導入穴8bや、ステップS3の時に処理容器8内の気相部分からガスを排出するガス排出穴8a2が形成されていてよい。
【0039】
ステップS22により、液体原料内に繊維体の全体が位置する。その結果、ステップS1で粉末が含浸された繊維体における各気孔(繊維体の外部へ開口している各気孔)内に液体原料が進入(浸透)する。ステップS22を終えたら、ステップS3へ移行する。
【0040】
ステップS3では、膜沸騰法により繊維体に対してマトリックスを形成することで、セラミックス基複合材料を得る。ステップS3は、ステップS31とステップS32を有する。
【0041】
ステップS31では、強化繊維(繊維体)の温度が高温側の目標温度以上になるまで、強化繊維を加熱することにより、液体原料に由来するセラミックスを、粉末を含浸させた繊維体内の気孔に生じさせる。これにより、当該セラミックスと当該粉末とが一体化されたマトリックスが生成される。
【0042】
ステップS31のセラミックスの生成について、より詳しく説明する。ステップS31において、液体原料は、加熱された繊維体及び当該繊維体内の上記粉末により加熱されることで、当該繊維体又は上記粉末(繊維体内の気孔の内面)と液体原料との界面において膜沸騰ガスとなり(すなわち、膜沸騰状態となり)、この膜沸騰ガスにより、気孔においてセラミックス(すなわちセラミックスとしての熱分解析出物)が生じて堆積する。このセラミックスは、次の(i)と(ii)の一方又は両方の方法により生じてよい。
【0043】
(i)膜沸騰ガスが、気孔の内面に衝突することにより、さらに熱エネルギーを受け取ることで、熱分解および無機化が進行して固体のセラミックスとして気孔の内面に析出する。
【0044】
(ii)膜沸騰ガスの一部に含まれるガスが既に熱分解された熱分解ガスとなっており、この熱分解ガスが、加熱された気孔の内面に衝突することで、無機化が進行して固体のセラミックスとして気孔の内面に析出する。
【0045】
なお、ステップS31において、繊維体の外面と液体原料との界面においても、上記セラミックスが析出してよい。
【0046】
ステップS31の上記加熱は、加熱体を誘導加熱することにより行われてよい。例えば、
図3のように、コイル11に交流電流を流すことでコイル11が発生する交流磁場により、加熱体1を誘導加熱する。加熱された加熱体が発生する熱により繊維体と液体原料を加熱する。ステップS31で、繊維体(強化繊維)の温度が高温側の目標温度以上になったら、ステップS32へ移行する。例えば、加熱体の表面に取り付けた温度センサの計測温度が、上記目標温度以上になったら、ステップS32へ移行する。高温側の目標温度は、液体原料の沸点よりも高い温度である。ステップS31での繊維体(又は加熱体)の昇温速度は、3000℃/hour以下、2000℃/hour以下、又は1500℃/hour以下が望ましい。この場合、当該昇温速度は、500℃/hour以上であってよい。また、この場合、当該昇温速度は、1000℃/hour程度又は1000℃/hour以下がより望ましい。ただし、当該昇温速度は、これに限定されない。例えば、当該昇温速度は、500℃/hourよりも低くてもよい(この場合、当該昇温速度は、例えば100℃/hour以上であってよい)。
【0047】
ステップS31において、上述のように加熱体を誘導加熱する場合、非導電性材料で形成された処理容器8は誘導加熱されない。この時、
図3のように、加熱体1と繊維体10と取付具20は、吊り下げ部7により、処理容器8の内面に接触しないように吊り下げられているので、処理容器8が、高温の加熱体1と繊維体10と取付具20に接触することにより破損することが防止される。
【0048】
ステップS32では、繊維体を液体原料の沸点より低い目標温度まで冷却する。これにより、上述の膜沸騰ガスの生成を停止させる。その結果、沸騰現象を停止して、新たな膜沸騰ガスが生成されなくなった状態で、既に生成されていた膜沸騰ガスと液体原料とが入れ替わることで、液体原料が、繊維体においてセラミックス(セラミックスで完全に埋められていない各気孔に再び進入(浸透)する。例えば、ステップS31により一部がセラミックスで埋められた気孔に、ステップS32により液体原料が再び進入する。ステップS32における加熱体(繊維体)の降温速度は、例えば、後述のように、自然に冷却される速度であってもよいし、積極的な冷却による速度であってもよい。
【0049】
なお、ステップS32での上記冷却は、繊維体の加熱を停止し、この停止の状態を維持することにより行われる自然冷却であってよい。あるいは、ステップS32において、繊維体の加熱の停止に加えて、液体原料を積極的に冷却してもよい。例えば、
図3において、処理容器8内の液体原料9の一部を処理容器8の外部へ流し、当該液体原料9を熱交換器により冷却し、その後、冷却された液体原料9を処理容器8内に戻すように、液体原料9を循環させてもよい。この場合、このように液体原料9を循環させる配管やポンプ(図示せず)が設けられてよい。
【0050】
ステップS32の繊維体が、液体原料の沸点より低い上記目標温度まで冷却されたら、再びステップS31を開始する。例えば、上述の温度センサが計測した温度を繊維体の温度として、当該計測温度が、当該目標温度以下になったら、再びステップS31を開始する。なお、当該目標温度は、おおよその基準であってもよい。すなわち、当該目標温度となったタイミングで再びステップS31を開始するのが困難な場合があるので、ステップS31を再び開始するタイミングは、繊維体の温度が当該目標温度となった時でもよいし、繊維体の温度が当該目標温度をある程度下回った時であってもよい。
【0051】
また、ステップS32の後、ステップS31を再び開始する前に、処理容器内の液体原料において繊維体から気泡が発生していないことを確認し、この確認がなされたら、ステップS31を開始する。この確認は、例えば透明なガラス製の処理容器を外部から視認することによりなされてよい。気泡が発生していないことから、液体原料が繊維体の内部へ浸透しきったと判断することができる。
【0052】
このように再びステップS31を開始し、ステップS31とステップS32を繰り返す。これにより、マトリックスにおける各気孔に生じるセラミックスが増えていき、これらの気孔にセラミックスが充填される。各気孔にセラミックスが十分に(例えば完全に)充填されるまで、ステップS31とステップS32を繰り返す。この繰り返し回数は、例えば10回以上20回以内であってよいが、これに限定されない。
【0053】
また、ステップS31とステップS32の繰り返しにおいて、後の段階で行われるステップS31での上記目標温度を、先の段階に行われたステップS31での上記目標温度よりも高くしてもよい。この場合、ステップS31での上記目標温度は、上記繰り返しにおいて複数段階(例えば3段階以上)上昇させてよい。例えば、上記繰り返しにおいて、最初の段階(例えば1回目から3回目まで)のステップS31では上記目標温度が1000℃であり、中間の段階(例えば4回目から6回目まで)のステップS31では上記目標温度が1100℃であり、最後の段階(例えば7回目から12回目まで)のステップS31では上記目標温度が1200℃であってよい。
【0054】
液体原料が、上述のLPCSである場合には、上述のセラミックスは炭化ケイ素となる。この場合、LPCSは、ステップS31とステップS32の繰り返し過程において、高分子化が進むことで、その沸点が、およそ180℃から250℃程度まで上昇する。また、この場合、ステップS31により到達する繊維体の最高温度は、例えば800℃以上であり、望ましくは1000℃以上1400℃以下である。最高温度が、1000℃以上であることにより、セラミックスの無機化の十分な進行を期待でき、最高温度が、1400℃以下であることにより、セラミックスの析出速度が高くなり過ぎることや、セラミックスが堆積しない程度に激しい熱分解が生じてしまうことを防止できる。これにより、繊維体内の気孔へセラミックスが充填され易くなると期待できる。
【0055】
(実施例1)
本実施形態の実施例1では、繊維体を、強化繊維としてのSiC繊維(炭化ケイ素繊維)で形成されたものとし、液体原料を上述のLPCSとした。また、
図2A~
図2Cと
図3に示す構成を用いて、上述の
図1のフローチャートに示す処理を行った。
【0056】
図4は、このような実施例1により得られたセラミックス基複合材料の断面の、走査電子顕微鏡による画像である。
図5は、
図4において破線で囲んだ部分の拡大図である。
図6は、
図5において破線で囲んだ部分の拡大図である。
図6において、符号Pは、上述のステップS1で用いたセラミックス材料の粉末を示し、符号Fは、上述のステップS3の膜沸騰法で形成されたセラミックスを示す。
【0057】
図7は、参考例により得られたセラミックス基複合材料の断面の、走査電子顕微鏡による画像である。この参考例では、上述のステップS1を行わずに上述のステップS2とステップS3を行った。参考例の他の点は、実施例1と同じである。なお、
図7の画像は、
図4と同じ倍率の画像である。
【0058】
参考例では、
図7に示すように、セラミックス基複合材料の内部においてマトリックスが充填されていない大きな気孔(数百μmの気孔)が残ったままとなっている(なお、参考例では、大きな気孔を埋めるために上述のステップS31とS32の回数を増やすことが望ましい)。これに対し、実施例1では、
図4~
図6に示すように、セラミックス基複合材料の内部には、
図7に示すような比較的大きな気孔は残っておらず、セラミックス基複合材料の内部におけるマトリックスの充填率が高くなっている。
【0059】
また、実施例1では、
図6に示すように、粉末P同士の微小な(数μmの)気孔に、上述のステップS31で生じたセラミックスFが充填されている。したがって、本実施形態により、繊維体の内部に高い充填率で、粉末PとセラミックスFとからなるマトリックスが形成されることが分かる。
【0060】
(実施例2)
実施例2では、ステップS1で用いるセラミックス材料の粉末の粒径を複数の値に変えて、
図1に示すフローチャートに示す処理を行った。
図8は、実施例2の結果を示す表である。
【0061】
図8において、(1)は、上述のステップS1を行わずに上述のステップS2とステップS3を行った参考例の場合を示す。参考例の他の点は、実施例2と同じである。
図8において、(2)~(7)は、実施例2の場合を示す。なお、(3)と(4)は、それぞれ
図3において加熱体1の下側と上側で同時に得られたセラミックス基複合材料の場合を示し、(5)と(6)は、それぞれ
図3において加熱体1の下側と上側で同時に得られたセラミックス基複合材料の場合を示す。
【0062】
図8において、「粉末粒径」は、ステップS1で用いた粉末を構成する粒子の粒径を示し、ここでは、累積高さ50%の粒子径(メディアン径)として記載されている。(7)は、粒径が5.5μmである粒子から構成される粉末と、粒径が17.0μmである粒子から構成される粉末との混合粉末をステップS1の粉末として用いた場合を示す。
【0063】
また、
図8において、「処理条件」は、上述のステップS31とステップS32の繰り返しにおいて繊維体を各温度まで何回加熱したかを示す。例えば(2)では、最初の1回目から3回目までのステップS31で1000℃まで繊維体を加熱し、4回目から6回目までのステップS31で1100℃まで繊維体を加熱し、7回目から12回目までのステップS31で1200℃まで繊維体を加熱したことを示す。
【0064】
図8において、「FB処理後密度」は、
図1の処理を終えて製造されたセラミックス基複合材料の密度を示し、「密度上昇量」は、繊維体の密度に対する当該セラミックス基複合材料の密度の上昇量を示し、「粉末効果」は、(1)の場合の密度上昇量を1とした場合に対する各場合の密度上昇量の比率を示す。
【0065】
図8から分かるように、繊維体に粉末を含浸させなかった(1)の場合と比べて、繊維体に粉末を含浸させた(2)~(7)の各場合では、密度が上昇している。また、1種類の粒径の粒子からなる粉末を用いた(2)~(6)の各場合のうち、粒径が5.5μmである(2)の場合では「粉末効果」が最も高かった。
【0066】
また、粒径が5.5μmの粉末と、粒径が17.0μmの粉末との混合粉末を用いた(7)の場合は、(2)の場合よりも「粉末効果」が更に高かった。すなわち、5μm程度の粒径の粉末と、17.0μm程度の粉末との混合粉末を用いることで、最大の粉末効果が得られた。
【0067】
本発明は上述した実施の形態に限定されず、本発明の技術的思想の範囲内で種々変更を加え得ることは勿論である。例えば、以下の変更例1~4のいずれかを、採用してもよいし、変更例1~4の2つ以上を任意に組み合わせて採用してもよい。この場合、他の点は上述と同じであってよい。
【0068】
(変更例1)
上述のステップS1で用いた粉末は、炭化ケイ素の粉末であったが他のセラミックス材料の粉末であってもよい。
【0069】
粉末は、セラミックスであるボロンナイトライド(BN)の粉末であってもよい。ボロンナイトライドは、炭化ケイ素との接着性が低い。したがって、上述のステップS31で液体原料から生成したセラミックスが炭化ケイ素である場合、又は、強化繊維が炭化ケイ素繊維である場合には、マトリックスにおいてボロンナイトライドの部分と炭化ケイ素の部分との界面で、き裂の伝播を抑制することができる。
【0070】
また、粉末は、炭素粉末であってもよい。この場合、炭素粉末により、上述のボロンナイトライドの粉末の場合と同様に、き裂の伝播を抑制する機能を有する。
【0071】
粉末は、炭化ケイ素よりも安価な二酸化ケイ素(SiO2)又はアルミナ(Al2O3)の粉末であってもよい。
【0072】
粉末は、アルミナよりも耐熱性が高く炭化ケイ素よりも安価なムライト(Al2O3-SiO2)の粉末であってもよい。
【0073】
粉末は、ジルコニア(ZrO2)の粉末であってもよい。ジルコニアは、炭化ケイ素よりも融点が高いセラミックスであるので、超高温環境でも、溶けずにマトリックスの一部として機能する。
【0074】
粉末は、炭化ジルコニウム(ZrC)、ハフニア(HfO2)、炭化ハフニウム(HfC)、ホウ化ジルコニウム(ZrB2)、又はホウ化ハフニウム(HfB2)の粉末であってもよい。これらの粉末は、ジルコニアの粉末と同様の機能を有する。
【0075】
粉末は、アルミナの粉末と酸化マンガン(MnO)の粉末との混合粉末であってもよい。この場合、マトリックスに生じたき裂に酸素が進入すると、マトリックスにおける炭化ケイ素(ステップS3の膜沸騰法でセラミックスとして生じた炭化ケイ素)と反応して二酸化ケイ素が生成される。この二酸化ケイ素が、アルミナと反応してき裂を充填する。また、酸化マンガンは、このようなき裂の充填を活性化する。
【0076】
(変更例2)
【0077】
上述のステップS3で用いる液体原料は、上述のLPCS以外の液体原料であってもよい。例えば、この液体原料は、ボラジン、メチルトリクロロシラン、シクロヘキサン、ケイ素アルコキシド溶液、アルミニウムアルコキシド溶液、ケイ素アルコキシド溶液とアルミニウムアルコキシド溶液の混合液、又は、ジルコニウムアルコキシド溶液であってもよい。
【0078】
液体原料がボラジンの場合、上述のステップS31の加熱により生成されるセラミックスは、セラミックスであるボロンナイトライド(BN)となる。このボロンナイトライドの機能は、変更例1で説明した場合と同様である。
【0079】
液体原料がメチルトリクロロシランの場合、上述のステップS31の加熱により生成されるセラミックスは、液体原料がポリカルボシラン(LPCS)の場合と同様に、セラミックスである炭化ケイ素(SiC)となる。
【0080】
液体原料がシクロヘキサンの場合、上述のステップS31の加熱により生成されるセラミックスは、炭素となる。この炭素は、ボロンナイトライドの場合と同様の機能を有する。
【0081】
液体原料がケイ素アルコキシド溶液の場合、上述のステップS31の加熱により生成されるセラミックスは、二酸化ケイ素となる。ケイ素アルコキシド溶液は、LPCSよりも安価である。
【0082】
液体原料がアルミニウムアルコキシド溶液の場合、上述のステップS31の加熱により生成されるセラミックスは、アルミナとなる。アルミニウムアルコキシド溶液は、LPCSよりも安価である。
【0083】
液体原料がケイ素アルコキシド溶液とアルミニウムアルコキシド溶液の混合液の場合、上述のステップS31の加熱により生成されるセラミックスは、ムライトとなる。
【0084】
液体原料がジルコニウムアルコキシド溶液の場合、上述のステップS31の加熱により生成されるセラミックスは、ジルコニアとなる。このジルコニアの機能は、変更例1で説明した場合と同様である。
【0085】
なお、本発明によると、ステップS3で用いる液体原料は、上述の具体例に限定されず、他の液体原料であってもよい。例えば、他の金属アルコキシド溶液を、ステップS3で用いる液体原料としてもよい。この場合、上述のステップ31の加熱により生成されるセラミックスは、酸化物セラミックスであってよい。この場合、ステップS31で生成されるセラミックスがbarium aluminosilicate (BaAl2Si2O8)となるように、ステップS3で用いる液体原料は、例えば、非特許文献1に記載されているように、3つのアルコキシド溶液(alkoxydes)の混合液であってもよい。
【0086】
なお、ステップS31の加熱により生成されるセラミックスがムライトである場合、ステップS3で用いる液体原料は、上記の非特許文献2に記載されているような、複数のアルコキシド溶液(alkoxydes)の混合液であってよい。
【0087】
(変更例3)
上述のステップS3において、ステップS32を行わずに、ステップS31を行ってもよい。この場合、ステップS31において、繊維体の温度が高温側の目標温度以上になるまで、繊維体を加熱し、所定時間、繊維体の温度を当該目標温度以上に保つ。この所定時間は、例えば、6時間以上20時間以内であってよい。
【0088】
(変更例4)
上述において、加熱体1を省略して、ステップS31では、熱容量(体積)が十分に大きい、粉末が含浸させられた繊維体(例えば炭素繊維又は炭化ケイ素繊維により形成された繊維体)を誘導加熱することにより、上述の膜沸騰ガスを発生させて、上記(i)と(ii)の一方又は両方により、セラミックス基複合材料のマトリックスの気孔においてセラミックスを堆積させてもよい。この場合、例えば、
図2Aと
図3において、加熱体1が省略され、セラミックス基複合材料10の数が1つになり、1つのセラミックス基複合材料10が上方と下方から多孔体3に接触し、断熱材5は、セラミックス基複合材料10の外周10aを覆い、他の点は、上述と同じであってよい。また、加熱体1の省略に加えて、又は加熱体1の省略の代わりに、断熱板2を省略してもよい。
【符号の説明】
【0089】
1 加熱体、1a 外周、2 断熱板、3 多孔体、3a 外周4 作用機構、4a ボルト、4b ナット、5 断熱材、6 針金、7 吊り下げ部、7a 板状部材、7a1 結合部、7b 棒状部材、8 処理容器、8a 蓋部材、8a1 貫通穴、8a2 ガス排出穴、8b ガス導入穴、9 液体原料、10 繊維体、10a 外周、11 コイル、20 取付具