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特許7582638プレスフィットピン、及びプレスフィットピンの製造方法
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  • 特許-プレスフィットピン、及びプレスフィットピンの製造方法 図1
  • 特許-プレスフィットピン、及びプレスフィットピンの製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】プレスフィットピン、及びプレスフィットピンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 7/00 20060101AFI20241106BHJP
   C25D 5/12 20060101ALI20241106BHJP
   C25D 5/50 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
C25D7/00 H
C25D5/12
C25D5/50
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2019033519
(22)【出願日】2019-02-27
(65)【公開番号】P2020139177
(43)【公開日】2020-09-03
【審査請求日】2022-02-18
【審判番号】
【審判請求日】2023-06-08
(73)【特許権者】
【識別番号】598166249
【氏名又は名称】株式会社カワイ
(74)【代理人】
【識別番号】100124419
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 敬也
(74)【代理人】
【識別番号】100162293
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷 久生
(72)【発明者】
【氏名】川合 延洋
【合議体】
【審判長】粟野 正明
【審判官】土屋 知久
【審判官】池渕 立
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-21935(JP,A)
【文献】特開2014-139345(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D5/12
C25D5/50
C25D7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレスフィットピンのベース体に二回メッキ処理を行うことによりメッキ層を形成した後、所定の熱処理を行うことにより得られるプレスフィットピンの製造方法であって、
プレスフィットピンのベース体にNi層をメッキする工程と、
前記Ni層の上にSn層をメッキする工程と、
被膜温度232℃~350℃で、酸素が存在する雰囲気にて熱処理する工程を備え
前記熱処理後に前記Sn層の膜厚が0.03μm~5μmとなることを特徴とするプレスフィットピンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、挿入部にバネ性を持たせることによりハンダ付けを行わなくてもIC基板等に対して高い保持力を備えたプレスフィット端子の1形態であるプレスフィットピンに関する。さらに言えば、ベース体表面に多層メッキ層を形成すること、及び熱処理を行うことにより耐摩耗性、及び電気伝導率、抵抗値等の電気的特性に優れたプレスフィットピン、及びプレスフィットピンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、基板を用いた装置の組立工程では、無ハンダ方式の圧入型の「プレスフィット端子」を採用するケースが増加している。プレスフィット端子では圧入による簡便な方法で搭載することができ、工程の簡素化を図ることができる。ハンダ実装工程が無くなることにより、製造コストの大幅な低減を実現することができるし、ハンダに含まれる鉛等の有害物質を低減することで、環境にも優しい実装方法であると言える。
【0003】
プレスフィット端子の一つの形態であるプレスフィットピンは、その一部に塑性加工により圧入嵌合領域を設けたものであり、該圧入嵌合領域にバネ性(断面形状がN型、M型、H型、その他)をもたせる加工を施すことにより、IC基板のスルーホールに圧入するだけで、ハンダ付けを行わなくても基板に対して高い保持力を持つことのできる端子である。プレスフィットピンの耐摩耗性や電気的特性等を向上させる(或いは付加させる)ために、銅系、鉄系、アルミ等のプレスフィットピンを形成するベース材料にSnメッキ等を施している。
【0004】
特許文献1には、「外部応力が加わった場合でもウイスカが発生しにくいめっき層を安定して形成することが可能であり、半田付け性に優れる、Pbを含まないSnめっき銅基板を提供する(特許文献1:課題)。」ことを課題として「本発明のSnめっき銅基板1は、純銅板、銅合金板、又は銅めっきされた金属板のいずれかの金属基板2上に、中間Snめっき層3ILとCuめっき層4とを、この順に積層してなるめっき膜層5を1.5μm以上の層厚で少なくとも1膜層以上備えるとともに、このめっき膜層5上に、0.2~1.5μmの層厚の最外Snめっき層3OLをめっき膜層5との総厚が3μm以上で備え、少なくとも中間Snめっき層3IL及び最外Snめっき層3OLの粒界3g及び粒内3cのいずれかに、Cuめっき層4及び金属基板2の少なくとも一方に由来するCuを拡散させてなるSn-Cu合金相6を有する(特許文献1:解決手段)。」Snめっき銅基板、Snめっき銅基板の製造方法、およびこれを用いたリードフレームおよびコネクタ端子(発明の名称)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2009-144210号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に係るSnめっき銅基板、Snめっき銅基板の製造方法、およびこれを用いたリードフレームおよびコネクタ端子(特許文献1:発明の名称)は、半導体のリードフレームや電子部品のコネクタ端子に使用されるSnメッキ銅基板に関する技術である。具体的には銅合金板等の金属基板上にSnメッキ層とCuメッキ層を、この順に積層し、さらに最外層にSnメッキ層を積層する技術である。特許文献1の図1から解るようにメッキ表面が凸凹状になっており、局部的にばらつきがあるため、使用用途が端子であることを鑑みるに、接点表面に凸凹があることで、接点部分のみに集中的に接触抵抗が生じてしまうことになり精密な電子部品としての使用を考慮すると電気的特性が安定しないし、最外層にSnメッキ層が形成されており金属である以上、耐摩耗性において材料特性による限界があるため(耐摩耗性において)十分であるとは言えないものである。
【0007】
本発明の目的は、表面がフラットであることより電気的特性が安定しており(接点表面に凸凹があると接点部分のみに集中的に接触抵抗が生じてしまう)さらに、耐摩耗性を有することで寸法安定性(寸法再現性を含めて)を備えたプレスフィットピンを提供することにある。さらに言えば、リフロー炉内に窒素等を流すことなく熱処理することができるため、生産コストを抑えることができるプレスフィットピンを提供することになる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、請求項1に記載された発明は、プレスフィットピンのベース体に二回メッキ処理を行うことによりメッキ層を形成した後、所定の熱処理を行うことにより得られるプレスフィットピンの製造方法であって、プレスフィットピンのベース体にNi層をメッキする工程と、前記Ni層の上にSn層をメッキする工程と、被膜温度232℃~350℃で、酸素が存在する雰囲気にて熱処理する工程を備え、前記熱処理後に前記Sn層の膜厚が0.03μm~5μmとなるプレスフィットピンの製造方法であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るプレスフィットピンは、プレスフィットピンのベース体に多層メッキを施した後、所定の熱処理することにより得られるプレスフィットピンである。第1層としてNiメッキ層、第2層としてNi-Sn拡散層、第3層としてSn層、第4層としてSnO被膜層を備えている。本発明に係るプレスフィットピンは、特許文献1に係るSnめっき銅基板、Snめっき銅基板の製造方法、及びこれを用いたリードフレームおよびコネクタ端子とは異なり表面がフラットなので、局部的な形状のバラツキ(凸凹)が無いので電気的特性が安定している。
【0013】
さらに、第4層としてSnO層を備えていることより耐摩耗性を有し、寸法安定性に優れている。Oリフロー炉にて熱処理をすることで得られるため、Ar,N等の還元性雰囲気での熱処理との比較において安価な熱処理を行うことができると共に、表面が酸化されることにより第4層がSnO層になることより(Sn層よりも)耐摩耗性に優れている。プレスフィットピンは、使用時に抜き差しするので、耐摩耗性については特に必要とされるのであるが、度重なる使用によりプレスフィットピンの表面が摩耗したとしても、再度の熱処理により新たにSnO層を形成することができるので、プレスフィットピンとしての使用用途を考慮して、接触抵抗値に直接関連する特性である寸法安定性における再現性に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明に係るプレスフィットピン、及びプレスフィットピンの表面における部分断面拡大図(メッキ層構造)である。
図2】プレスフィットピンの製造工程を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<プレスフィットピンの表面メッキ層構造>
以下、本発明に係るプレスフィットピンの一実施形態について、図1図2に基づいて詳細に説明する。図1は、本発明に係るプレスフィットピン、及びプレスフィットピンの表面における部分断面拡大図(メッキ層構造)である。
【0016】
本発明に係るプレスフィットピン10は、プレスフィットピン10のベース体20にメッキ処理を行った後、所定の熱処理を行うことにより形成されている。プレスフィットピン10は、図1(部分断面拡大図)に記載したように、ベース体20上に第1層としてNiメッキ層30、第2層としてNi-Sn拡散層40、第3層としてSnメッキ層50、第4層としてSnO被膜層60を備えている。尚、本明細書において第1層、第2層、第3層、第4層とは、プレスフィットピンのベース体20に直接接する側から数えて第1層、第2層、第3層、第4層と定義している。
【0017】
第1層であるNiメッキ層30の膜厚は0.03μm~5μmであり、第3層であるSnメッキ層50の膜厚は0.03μm~5μmであることが望ましい。そして、第2層であるNi-Sn拡散層40については、存在していれば足り、第4層であるSnO被膜層60の膜厚は、8Å(オングストローム)以上であることが望ましい。
【0018】
<プレスフィットピンの製造工程(メッキ工程、熱処理工程)>
図2は、本発明に係るプレスフィットピン10の製造工程を説明するための図である。図2に記載したように、プレスフィットピン10の製造工程は、メッキ工程と熱処理工程からなる。メッキ工程に使用されるメッキ方法は、プレスフィットピン10が端子として使用される部品であることより、電解メッキ(電気メッキ)が一般的であるが、無電解メッキ(化学メッキ)であっても良い。さらに言えば、本発明に係るプレスフィットピン10におけるメッキ方法については、他の如何なるメッキ方法を使用しても良いし、メッキ方法に準ずる方法(例えば、蒸着、スパッタリング等)を使用しても良いことは言うまでも無い。
【0019】
本発明に係るプレスフィットピン10のメッキ工程は、銅合金等を素材とするプレスフィットピン10(ベース体20)に対してメッキ前下地処理を行った後、Niメッキ処理を行うことで第1層を形成し、その上からSnメッキ処理を行う。このSnメッキ処理層が熱処理後に第3層となる(図2参照)。
【0020】
本発明に係るプレスフィットピン10の熱処理工程は、窒素等を流すこと無く(還元性雰囲気中で行うこと無く)、酸素存在下にて熱処理を行うことが特徴である。即ち、コストの掛からないOリフロー炉(ArやN存在下にて熱処理をするとその分コストが掛かる)で熱処理を行うことが特徴である。尚、熱処理条件は、酸素存在下にて行うものとし、被膜(メッキ処理層:Niメッキ層30、及びSnメッキ層50)温度が232℃~350℃となる設定温度で行うものとする。
【0021】
熱処理時に形成される第2層であるNi-Sn拡散層40は、Snの融点(232℃)以上の被膜(メッキ処理層:Niメッキ層30、及びSnメッキ層50)温度になる設定温度で熱処理することにより、Sn成分が第1層であるNiメッキ層30(Niの融点は1455℃)に拡散していくことにより形成されることになる。第4層であるSnO被膜60層は、酸素が十分に存在する雰囲気にて熱処理するので、第3層であるSnメッキ層50の表面が酸化することにより形成されることになる(図2参照)。
<プレスフィットピンの効果>
【0022】
メッキ処理の目的は、装飾、防蝕、表面硬化、機能性付与(機械的・電気的・磁気的・光学的特性)等がある。本発明に係るプレスフィットピン10は、端子部品であり接点部品におけるメッキ被膜として要求される事項として、長期にわたり接触抵抗値が小さく安定していることが必要である。
【0023】
具体的には、接点表面に凹凸ができ、接触部分のみに集中的に接触抵抗が生じないように、メッキ処理された表面が平滑で均一に形成されていること、要するに、メッキ皮膜にピンホールやクラック等が存在すること無く、素地金属(本発明におけるベース体20)を腐食することで抵抗値を変化させないこと、抜き差し等使用頻度が多くなることで表面が磨耗して接触する面積が変化することに伴い接触抵抗が変化しない硬度、即ち、耐磨耗性が必要であること等である。
【0024】
本発明に係るプレスフィットピン10は、プレスフィットピン10のベース体20に多層メッキを施した後、所定の熱処理することにより得られるプレスフィットピン10である。第1層としてNiメッキ層30、第2層としてNi-Sn拡散層40、第3層としてSnメッキ層50、第4層としてSnO被膜層60を備えている。プレスフィットピン10は、表面がフラット(メッキ処理された表面が平滑で均一に形成されている)なので、局部的なバラツキが無く電気的特性が安定している。
【0025】
プレスフィットピン10は、第4層としてSnO被膜層60を備えている。SnO酸化膜は金属であるSnよりも固いため耐摩耗性を有しており、繰り返し刺したり抜いたりする使用による摩耗が少なく寸法安定性に優れている。即ち、表面が酸化されることにより第4層がSnO被膜層60になることより、金属との比較において耐摩耗性に優れている。そして、度重なる使用によりプレスフィットピン10の表面が摩耗したとしても、再度の熱処理により新たにSnO層60を形成することができるので、抵抗値に直接関連する特性である寸法安定性における再現性に優れている。さらに、プレスフィットピン10は、酸素が存在する雰囲気にて熱処理を行う(Oリフロー炉にて熱処理)ことで得られるため、Ar,N等の還元性雰囲気での熱処理との比較において安価な熱処理を行うことができる。
【0026】
メッキ被膜の導電性については、長期にわたり接触抵抗値が小さく安定していることが求められるのであるが、本発明に係るプレスフィットピン10は、敢えて、第4層としてSnO被膜層60を形成していることに特徴がある。一般的に酸化膜、硫化膜、有機膜等の影響により、メッキ被膜の接触抵抗が大きくなってしまうことは、寧ろ好ましく無いことであると言える。プレスフィットピン10は第4層としてSnO被膜層60を形成することにより、接触抵抗が大きくなる方向に傾くように思われるからである。
【0027】
しかしながら、本発明に係るプレスフィットピン10は、接触抵抗が大きくなる方向に傾くダメージ分よりもSnO被膜層60を形成したことによる耐摩耗性の向上と寸法安定性、さらに言えば寸法再現性(度重なる使用によりプレスフィットピンの表面が摩耗したとしても、再度の熱処理により新たにSnO層を形成することができる)を考慮することにより、より良い性能を獲得できるとの思想の上に成り立っている。要するに、耐摩耗性を向上させることで(抜き差し等使用頻度が多くなることで)表面が磨耗して接触する面積が変化することに伴い接触抵抗が変化しないことを重視しており、電気的安定性に関して絶妙なバランスを取っていると言える。
【0028】
本発明に係るプレスフィットピン10は、各メッキ皮膜(第1層から第4層)を均一(クラック、ピンホール、凸凹等が無い)で、製造条件をコントロールすることで正確に各メッキ被膜の厚みをコントロールできることにも特徴がある。この特徴により、硬度が高く耐磨耗性耐食性、さらに、電気的特性にも優れたプレスフィットピン10を実現することができるようになった。さらに言えば、プレスフィットピンが、本発明におけるベース体としての材料が銅合金以外の材料であっても、及びメッキ層の種類が異なっていたとしても(要するに、Ni,Sn以外のメッキ層によって構成されていたとしても)、製造条件をコントロールすることで耐磨耗性耐食性、さらに、電気的特性にも優れたプレスフィットピンを実現することができるようになった。
【0029】
<プレスフィットピンの変更例>
本発明に係るプレスフィットピンは、上記した各実施形態の態様に何ら限定されるものではなく、ベース体、Niメッキ層、Ni-Sn拡散層、Snメッキ層、SnO被膜層等
の構成や熱処理条件等を、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、必要に応じて適宜変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明に係るプレスフィットピンは、上記の如く優れた効果を奏するものであるので、挿入部にバネ性を持たせることによりハンダ付けを行わなくてもIC基板等に対して高い保持力を備えたプレスフィット端子の1形態であるプレスフィットピンとして好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0031】
10・・プレスフィットピン
20・・ベース体
30・・Niメッキ層
40・・Ni-Sn拡散層
50・・Snメッキ層
60・・SnO被膜層
図1
図2