(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】床面養生構造、床面養生方法、および床面養生パネル
(51)【国際特許分類】
E04G 21/24 20060101AFI20241106BHJP
E04G 23/02 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
E04G21/24 Z
E04G23/02 Z
(21)【出願番号】P 2020150952
(22)【出願日】2020-09-09
【審査請求日】2023-06-06
(73)【特許権者】
【識別番号】513155448
【氏名又は名称】日本トリート株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100166051
【氏名又は名称】駒津 啓佑
(72)【発明者】
【氏名】臼井 淳一郎
【審査官】菅原 奈津子
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-013750(JP,A)
【文献】特開平10-088812(JP,A)
【文献】特開2015-057538(JP,A)
【文献】特開2019-023382(JP,A)
【文献】特開2019-019622(JP,A)
【文献】特開2018-162638(JP,A)
【文献】特開2004-060153(JP,A)
【文献】実開平06-056365(JP,U)
【文献】実開昭51-146717(JP,U)
【文献】実開昭62-059246(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2005/0109470(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 21/24-21/32
E04G 23/00-23/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建造物の解体や、前記建造物の内外装材の除去作業における作業区域を隔離密閉するために、前記作業区域内の床部に敷設される床面養生構造において、
前記床部の不陸を平面化する平面化材からなり、前記床部の上面に敷設される平面化層と、
前記平面化層の上面に粘着層を介して接着される防水シート層と、
を備え、
前記平面化材は、
木製の板部材であ
って、
前記防水シート層は、
前記平面化層の周面よりも外側にはみ出るように形成された拡大部を備え、
前記拡大部は、
隣接して敷設された平面化層との接合部を覆って配置されること、
を特徴とする床面養生構造。
【請求項2】
前記粘着層は、
前記平面化層または前記防水シート層から剥離可能な粘着力であること、
を特徴とする請求項1記載の床面養生構造。
【請求項3】
前記防水シート層は、
合成高分子系ルーフィングシート、または建築用塗膜防水材であること、
を特徴とする請求項1記載の床面養生構造。
【請求項4】
前記合成高分子系ルーフィングシートは、
日本工業規格で規定されたA6008であること、
を特徴とする請求項
3記載の床面養生構造。
【請求項5】
前記建築用塗膜防水材は、
日本工業規格で規定されたA6021であること、
を特徴とする請求項
3記載の床面養生構造。
【請求項6】
建造物の解体や、前記建造物の内外装材の除去作業における作業区域を隔離密閉するために、前記作業区域内の床部に敷設される床面養生構造において、
前記床部の不陸を平面化する平面化材からなり、前記床部の上面に敷設される平面化層と、
前記平面化層の上面に粘着層を介して接着される防水シート層と、
を備え、
前記平面化材は、
木製の板部材であ
って、
前記防水シート層は、
前記平面化層の周面よりも外側にはみ出るように形成された拡大部を備え、
前記拡大部は、
隣接して敷設された平面化層に接着された前記防水シート層に重ねて接着されること、
を特徴とする床面養生構造。
【請求項7】
前記粘着層は、
前記平面化層または前記防水シート層から剥離可能な粘着力であること、
を特徴とする請求項
6記載の床面養生構造。
【請求項8】
前記防水シート層は、
合成高分子系ルーフィングシート、または建築用塗膜防水材であること、
を特徴とする請求項
6記載の床面養生構造。
【請求項9】
前記合成高分子系ルーフィングシートは、
日本工業規格で規定されたA6008であること、
を特徴とする請求項
8記載の床面養生構造。
【請求項10】
前記建築用塗膜防水材は、
日本工業規格で規定されたA6021であること、
を特徴とする請求項
8記載の床面養生構造。
【請求項11】
建造物の解体や、前記建造物の内外装材の除去作業における作業区域を隔離密閉するために、前記作業区域内の床部に敷設される床面養生構造において、
前記床部の不陸を平面化する平面化材からなり、前記床部の上面に敷設される平面化層と、
前記平面化層の上面に粘着層を介して接着される防水シート層と、
を備え、
前記平面化材は、
木製の板部材であ
って、
前記防水シート層は、
前記平面化層の周面よりも外側にはみ出るように形成された拡大部を備え、
前記拡大部は、
前記作業区域の内側の構造物、または前記作業区域を区切るように設置された区切材の壁体部分に接着されること、
を特徴とする床面養生構造。
【請求項12】
前記粘着層は、
前記平面化層または前記防水シート層から剥離可能な粘着力であること、
を特徴とする請求項
11記載の床面養生構造。
【請求項13】
前記防水シート層は、
合成高分子系ルーフィングシート、または建築用塗膜防水材であること、
を特徴とする請求項
11記載の床面養生構造。
【請求項14】
前記合成高分子系ルーフィングシートは、
日本工業規格で規定されたA6008であること、
を特徴とする請求項
13記載の床面養生構造。
【請求項15】
前記建築用塗膜防水材は、
日本工業規格で規定されたA6021であること、
を特徴とする請求項
13記載の床面養生構造。
【請求項16】
建造物の解体や、前記建造物の内外装材の除去作業における作業区域を隔離密閉するために、前記作業区域内の床部に敷設される床面養生方法において、
前記床部の不陸を平面化する平面化材からなる平面化層が、前記床部の上面に敷設される工程と、
前記平面化層の上面に粘着層を介して防水シート層が接着される工程と、
を備え、
前記平面化材は、
木製の板部材であ
って、
前記防水シート層は、
前記平面化層の周面よりも外側にはみ出るように形成された拡大部を備え、
前記拡大部は、
隣接して敷設された平面化層との接合部を覆って配置されること、
を特徴とする床面養生方法。
【請求項17】
建造物の解体や、前記建造物の内外装材の除去作業における作業区域を隔離密閉するために、前記作業区域内の床部に敷設される床面養生方法において、
前記床部の不陸を平面化する平面化材からなる平面化層が、前記床部の上面に敷設される工程と、
前記平面化層の上面に粘着層を介して防水シート層が接着される工程と、
を備え、
前記平面化材は、
木製の板部材であ
って、
前記防水シート層は、
前記平面化層の周面よりも外側にはみ出るように形成された拡大部を備え、
前記拡大部は、
隣接して敷設された平面化層に接着された前記防水シート層に重ねて接着されること、
を特徴とする床面養生方法。
【請求項18】
建造物の解体や、前記建造物の内外装材の除去作業における作業区域を隔離密閉するために、前記作業区域内の床部に敷設される床面養生方法において、
前記床部の不陸を平面化する平面化材からなる平面化層が、前記床部の上面に敷設される工程と、
前記平面化層の上面に粘着層を介して防水シート層が接着される工程と、
を備え、
前記平面化材は、
木製の板部材であ
って、
前記防水シート層は、
前記平面化層の周面よりも外側にはみ出るように形成された拡大部を備え、
前記拡大部は、
前記作業区域の内側の構造物、または前記作業区域を区切るように設置された区切材の壁体部分に接着されること、
を特徴とする床面養生方法。
【請求項19】
建造物の解体や、前記建造物の内外装材の除去作業における作業区域を隔離密閉するために、前記作業区域内の床部に敷設される床面養生パネルにおいて、
前記床部の不陸を平面化する平面化材からなり、前記床部の上面に敷設される平面化層と、
前記平面化層の上面に粘着層を介して接着される防水シート層と、
を備え、
前記平面化材は、
木製の板部材であ
って、
前記防水シート層は、
前記平面化層の周面よりも外側にはみ出るように形成された拡大部を備え、
前記拡大部は、
隣接して敷設された平面化層との接合部を覆って配置されること、
を特徴とする床面養生構造。
【請求項20】
建造物の解体や、前記建造物の内外装材の除去作業における作業区域を隔離密閉するために、前記作業区域内の床部に敷設される床面養生パネルにおいて、
前記床部の不陸を平面化する平面化材からなり、前記床部の上面に敷設される平面化層と、
前記平面化層の上面に粘着層を介して接着される防水シート層と、
を備え、
前記平面化材は、
木製の板部材であ
って、
前記防水シート層は、
前記平面化層の周面よりも外側にはみ出るように形成された拡大部を備え、
前記拡大部は、
隣接して敷設された平面化層に接着された前記防水シート層に重ねて接着されること、
を特徴とする床面養生構造。
【請求項21】
建造物の解体や、前記建造物の内外装材の除去作業における作業区域を隔離密閉するために、前記作業区域内の床部に敷設される床面養生パネルにおいて、
前記床部の不陸を平面化する平面化材からなり、前記床部の上面に敷設される平面化層と、
前記平面化層の上面に粘着層を介して接着される防水シート層と、
を備え、
前記平面化材は、
木製の板部材であ
って、
前記防水シート層は、
前記平面化層の周面よりも外側にはみ出るように形成された拡大部を備え、
前記拡大部は、
前記作業区域の内側の構造物、または前記作業区域を区切るように設置された区切材の壁体部分に接着されること、
を特徴とする床面養生構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、床面養生構造、床面養生方法、および床面養生パネルに関し、特に有害物質を含む塗装材の除去作業における作業区域を隔離密閉するために、床部に敷設される床面養生構造、床面養生方法、および床面養生パネルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から建造物の資材にはアスベストが使われてきた。一般にアスベストと呼ばれる石綿は、天然にできた極めて細い鉱物繊維であり、耐久性、耐熱性、耐薬品性、電気絶縁性などの特性を備えており、1960年頃から1990年頃にかけて建設資材、摩擦材、シール材、断熱材など様々な用途に大量に使用されていた。
【0003】
しかし、極めて細い鉱物繊維のアスベストが粉塵となって気道から吸入されると、胸膜や気管支に障害を起こし、やがて肺ガンや中皮腫などのガンを発生させてしまう発ガン性が問題となっている。このため、現在では、アスベストの製造や使用が完全に禁止されている。
【0004】
アスベストは、現在では製造や使用が完全に禁止されているものの、長年にわたって建設資材など大量に使用されてきた。長年にわたって一般的な住宅から学校などの公共施設まで、多様な建造物に幅広く使用されていた。このため、現存する多くの建物にも、アスベストを含有する建設資材が残っている。
【0005】
このように建設資材に多く使用されてきたアスベストは、露出したアスベストが粉塵となって飛散するだけではない。たとえば地震などの災害時に建造物が倒壊すると、建設資材に使用されたアスベストが大量に飛散する恐れもある。このため、アスベストを含有した建設資材を除去する対策が行われている。
【0006】
ところで、このアスベストは、建設資材、摩擦材、シール材、断熱材だけでなく、仕上塗装材や下地調整塗装材にも用いられていた。しかし、これらの塗装材ではアスベストの添加量が少なく、セメントや合成樹脂などで固着させて使用するため、アスベストが飛散することは少ないと考えられていた。
【0007】
たとえば、アスベストを含む塗装材が使用された建造物を解体する場合、アスベストを含まない建造物と同じように解体してしまうと、アスベストが飛散してしまう危険性がある。
【0008】
また、このアスベストを含む塗装材による塗膜を破断することなく建造物を解体することは非常に困難である。さらに、アスベストを含有した外壁だと知らずに壁を破断してしまうと、アスベストが飛散してしまう危険性がある。
【0009】
アスベストを含んだ塗装材が飛散する可能性は建造物の解体だけでなく、アスベストを含む塗装材が使用された建造物の塗り替え塗装を行う場合に、塗装材の剥離処理を間違えるとアスベストが飛散してしまう危険性もある。
【0010】
そこで、建造物の解体や、建造物の内外装材などの除去を行う際には、アスベストの粉塵などの有害物質が作業区域外に飛散してしまうことを防止する方法が行われている。
たとえば、塗装材の除去作業を行う作業区域をプラスチックなどの隔離シートで囲い、作業区域内部を負圧状態に維持した負圧作業区域内で塗装材の除去作業をする方法が開発されている。
【0011】
この作業区域を区分するプラスチックなどの隔離シート、特に床面上に敷設された隔離シートは、作業中に、作業員がアスベストに混じった砂ごみやコンクリート破片を踏みつけた場合、工具を落下させた場合などの作業員の挙動等により床面の隔離シートを破損させることがあった。
【0012】
通常、建造物の解体や、アスベストを含む建造物の内外装材などの除去を行う際には、アスベストの粉塵が飛散しないように水を散布している。また水の圧力で塗装材の除去作業を行うウォータージェット工法なども行われている。
【0013】
このようにアスベストを含む建造物の内外装材などの除去作業では水が使用されるため、前述のように隔離シートを破損させてしまうと、アスベストを含んだ汚染水が、作業区域から漏出してしまう問題がある。
【0014】
そこで、このようなアスベストを含んだ汚染水の漏出を防ぐために、アスベスト処理における床面の養生材の破損を確実に防止できる防水材をアスベスト処理の床面養生材に使用する方法が開発されている(たとえば、特許文献1参照)。
【0015】
具体的に特許文献1で開示された養生材の破損を確実に防止できる防水材をアスベスト処理の床面養生材に使用する方法は、合成高分子系ルーフィングシートJISA6008、又は建築用塗膜防水材JISA6021の防水材を、アスベスト処理の作業区域の床面に接着せずに敷き床面を養生するものである。
【0016】
特許文献1で開示された方法で使用される防水材は、合成高分子系ルーフィングシートJISA6008、又は建築用塗膜防水材JISA6021であり、優れた耐久性を有しているので下地の挙動に追従することができる。
【0017】
このため、たとえば作業員がアスベストに混じった砂ごみやコンクリート破片を踏みつけた場合や、工具を落下させた場合などの作業員の挙動に対して、床面に接着されない防水材が追従する。防水材が挙動に対して追従することで、防水材の破損を防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
しかし、特許文献1の方法では、防水材が床面に接着されていないため、防水材の端部が床面から剥がれてしまう問題があった。防水材が床面から剥がれてしまうと、アスベストを含む汚染水が漏洩してしまうため非常に危険である。
【0020】
そこで防水材を床面に接着することで、防水材が床面から剥がれなくすることが考えられる。ところが、床面には砂ごみやコンクリート破片が存在しているため、その床面に防水材を接着してしまうと、砂ごみやコンクリート破片の上に防水材が接着されることになる。
【0021】
このため、砂ごみやコンクリート破片に対して防水材が追従することができなくなる。つまり、砂ごみやコンクリート破片などにより不陸が生じた面の上に接着された防水材の上を作業員が歩いてしまうと、防水材が破損してしまう問題があった。
【0022】
また特許文献1の方法では、防水材が床面に接着されていないため、防水材が床面上で撓んでしまうことが考えられる。この防水材の撓んだ部分に作業員の足が引っかかると、作業員の転倒、足場からの落下などを引き起こす恐れがあるため非常に危険である。
【0023】
本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、床面に生じた不陸に対応でき、かつ防水材が床面から剥離してしまうことを防止する床面養生構造、床面養生方法、および床面養生パネルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明では上記問題を解決するために、建造物の解体や、前記建造物の内外装材の除去作業における作業区域を隔離密閉するために、前記作業区域内の床部に敷設される床面養生構造において、前記床部の不陸を平面化する平面化材からなり、前記床部の上面に敷設される平面化層と、前記平面化層の上面に粘着層を介して接着される防水シート層と、
を備えることを特徴とする床面養生構造が提供される。
これにより、床部の不陸を平面化する平面化材からなる平面化層が、床部の上面に敷設され、平面化層の上面に粘着層を介して防水シート層が接着される。
【0025】
また、本発明では、建造物の解体や、前記建造物の内外装材の除去作業における作業区域を隔離密閉するために、前記作業区域内の床部に敷設される床面養生方法において、前記床部の不陸を平面化する平面化材からなる平面化層が、前記床部の上面に敷設される工程と、前記平面化層の上面に粘着層を介して防水シート層が接着される工程とを備えることを特徴とする床面養生方法が提供される。
これにより、床部の不陸を平面化する平面化材からなる平面化層が、床部の上面に敷設され、平面化層の上面に粘着層を介して防水シート層が接着される。
【0026】
また、本発明では、建造物の解体や、前記建造物の内外装材の除去作業における作業区域を隔離密閉するために、前記作業区域内の床部に敷設される床面養生パネルにおいて、前記床部の不陸を平面化する平面化材からなり、前記床部の上面に敷設される平面化層と、前記平面化層の上面に粘着層を介して接着される防水シート層とを備えることを特徴とする床面養生パネルが提供される。
これにより、床部の不陸を平面化する平面化材からなる平面化層が、床部の上面に敷設され、平面化層の上面に粘着層を介して防水シート層が接着される。
【発明の効果】
【0027】
本発明の床面養生構造、床面養生方法、および床面養生パネルによれば、床部の不陸を平面化する平面化材からなる平面化層が、床部の上面に敷設され、平面化層の上面に粘着層を介して防水シート層が接着されるので、砂ごみやコンクリート破片など不陸面の上に防水シート層が敷設されることがない。このため、砂ごみやコンクリート破片の上を作業員が歩くことがないので、防水シート層が破損することがない。
【0028】
また、砂ごみやコンクリート破片がなく、平面化材の重量によって床面の上面に安定的に敷設された平面化層の上面に防水シート層が接着されるので、平面化層から防水シート層が剥がれてしまうことがない。また防水シート層が接着された平面化層も平面化材の重量によって床面の上面から剥がれることがない。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本実施の形態に係る床面養生パネルを示す断面図である。
【
図2】本実施の形態に係る複数の床面養生パネルを連結して接合した状態を示す断面図である。
【
図3】本実施の形態に係る複数の床面養生パネルを連結して他の方法で接合した状態を示す断面図である。
【
図4】本実施の形態に係る複数の床面養生パネルにおける防水シート層を平面化層から剥離する様子を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本実施の形態に係る床面養生パネルを示す断面図である。
本実施の形態の床面養生パネル100は、建造物の解体や、建造物の内外装材、有害物質を含む塗装材などの除去を行う際に、アスベストの粉塵などの有害物質が所定の区域から外側に飛散しないために設けられた作業区域内において、ここでは図示しない床部200からアスベストの粉塵などの有害物質が漏洩することを防止するための床面の養生材である。
【0031】
図1に示すように床面養生パネル100は、平面化層110、粘着層120、および防水シート層130を備えている。
平面化層110は、小石やコンクリートの破片、地面に埋まった岩や金属などが突出した不陸が生じた面、すなわち、ここでは図示しない床部200の上面に敷設される矩形の板状体である。
【0032】
平面化層110を矩形で形成することで、平面化層110を組み合わせて床部200に隙間なく敷設することができる。なお、床部200の端部が矩形の平面化層110が敷設できない場合には、任意の形状に変形することができる。また、床部200を隙間なく敷設できるのであれば、平面化層110を任意の形状で形成することもできる。
【0033】
床部200の具体的な例としては、コンクリートスラブ面、アスファルト面、土壌、砂利面、足場、または、作業板など作業員が足を踏み入れることが可能な場所が挙げられる。
【0034】
平面化層110は、床部200の不陸を平面化する平面化材からなる。平面化材は、たとえばベニア板のような硬質な板部材が例として挙げられる。また平面化材は、平面化材の重量によって床部200の上面に安定的に敷設されるものが好ましい。
【0035】
この硬質な板部材である平面化層110を、不陸が生じた床部200の上に敷設する。これにより床部200に小石やコンクリートの破片、地面に埋まった岩や金属などが突出した不陸があったとしても平面化される。
【0036】
また平面化層110は、床部200の不陸を吸収して平面化する不陸吸収材から形成されてもよい。不陸吸収材は適当な弾性を有するものがよい。さらに耐水性能を備えているとよい。
【0037】
具体的な不陸吸収材の材料としては、ポリエチレンやポリプロピレンといった樹脂が挙げられる。この場合も、床部200の上面に安定的に敷設されるものが好ましい。不陸吸収材が軽量の場合には、不陸吸収材とは別に平面化層110の重量を加算する重石などの重量増加手段を付加することもできる。
【0038】
粘着層120は、平面化層110の上面に積層されて、防水シート層130を接着するための接着剤である。粘着層120は、平面化層110の上面に防水シート層130を接着できればよく、平面化層110の上面の全面に粘着層120を積層することもできるが、平面化層110の上面の任意の場所の一部に粘着層120を積層することで平面化層110と防水シート層130とを接着することもできる。
【0039】
防水シート層130は、作業区域内の床部200から、アスベストの粉塵などの有害物質を含んだ水分が漏洩することを防止するために、防水性や耐水性を備えた防水材からなるものである。また、作業員が工具などを落下させてしまった場合にでも、その衝撃に追従できる耐久性および柔軟性を備えている。
【0040】
防水シート層130を構成する具体的な防水材の例としては、合成高分子系ルーフィングシート(日本工業規格A6008)、または建築用塗膜防水材(日本工業規格A6021)が挙げられる。
【0041】
防水シート層130は厚さによって、耐久性や柔軟性が変化するが、作業員が床面養生パネル100に乗って歩いたり、作業したりする頻度や、床面養生パネル100の設置場所によって変化させることができる。
【0042】
防水シート層130の周囲は、平面化層110および粘着層120の領域よりも大きく、つまり平面化層110の周面よりも外側にはみ出るように拡大された拡大部131が形成される。
床面養生パネル100を床部200に敷設する場合、複数の床面養生パネル100を構成する平面化層110が隙間なく敷設される。
【0043】
このとき、隙間なく敷設された床面養生パネル100のうち、一の床面養生パネル100が有する拡大部131は、平面化層110の周面よりも外側にはみ出るように拡大されているため、隣接して敷設された他の平面化層110に重なることになる。
【0044】
これにより、隣接して敷設された平面化層110の接合部を越えるように上から拡大部131が覆うので、隣接して敷設された平面化層110の接合部から床面養生パネル100の上側で発生するアスベストの粉塵などの有害物質を含んだ水分の漏洩を防止することができる。
【0045】
また、隣接して敷設された平面化層110の接合部を越えるように覆う拡大部131を、隣接して敷設された床面養生パネル100が有する防水シート層130に重ねて接着することで、隣接して敷設された床面養生パネル100が有する防水シート層130の接合部が接着によって閉塞される。これにより、床面養生パネル100の上側で発生するアスベストの粉塵などの有害物質を含んだ水分の漏洩を防止することができる。
【0046】
以上のように、床部200の不陸を平面化する平面化材からなる平面化層110が、平面化材の重量によって床面の上面に安定的に敷設され、平面化層110の上面に粘着層120を介して防水シート層130が接着されるので、床面の不陸に対応し、防水材が床面から剥離してしまうことを防止する床面養生構造を形成することができる。
【0047】
具体的には、砂ごみやコンクリート破片など不陸面の上に防水シート層130が敷設されることがない。このため、砂ごみやコンクリート破片の上を作業員が歩くことがないので、防水シート層130が破損することがない。
【0048】
また、砂ごみやコンクリート破片がなく、平面化材の重量によって床面の上面に安定的に敷設された平面化層110の上面に防水シート層130が接着されるので、平面化層110から防水シート層130が剥がれてしまうことがない。また防水シート層130が接着された平面化層110も平面化材の重量によって床面の上面から剥がれることがない。
【0049】
また、建造物の解体や、建造物の内外装材などの除去作業の完了後には、養生材を撤去する必要がある。このとき有害物質が付着した防水シート層130だけを撤去できれば、養生材の撤去作業が安全かつ短時間で行うことができる。
【0050】
そこで、平面化層110から防水シート層130を剥離しやすいように、粘着層120の粘着力を調整しておくとよい。平面化層110から防水シート層130を剥離する場合、粘着層120が防水シート層130に接着したまま平面化層110から剥離されてもよく、また粘着層120が平面化層110に接着したまま防水シート層130が剥離されてもよい。
【0051】
なお、本実施の形態では、床部200の不陸を平面化する平面化材からなる平面化層110が、平面化材の重量によって床面の上面に安定的に敷設される例で示したが、より安定的に平面化層110を敷設するために、杭や鋲によって床部200と平面化層110とを固定してもよい。また粘着剤を介在させて床部200と平面化層110とを剥離可能に接着することもできる。
【0052】
また、本実施の形態では、平面化層110、粘着層120、および防水シート層130が一体化された床面養生パネル100を、床部200に敷設することで床面養生構造を形成する例で示したが、まず床部200の上に平面化材を敷設することで平面化層110を施工現場で形成し、その形成された平面化層110の上に粘着層120を積層し、積層された粘着層120の上に防水シート層130を積層することで、床面養生構造を形成することもできる。
【0053】
図2は、本実施の形態に係る複数の床面養生パネルを連結して接合した状態を示す断面図である。
図2に示すように、床部200に床面養生パネル100を敷設する場合、複数の床面養生パネル100を隙間なく敷設することができる。
【0054】
このとき、隣接する床面養生パネル100が有する拡大部131を重ね合わせるように接着することで、床面養生パネル100の上側で発生するアスベストの粉塵などの有害物質を含んだ水分の漏洩を防止することができる。
【0055】
具体的には、防水シート層130の周囲には、平面化層110および粘着層120の周面よりも外側にはみ出るように拡大部131が形成されている。この拡大部131を、隣接する床面養生パネル100の防水シート層130に設けられた拡大部131の上から重なるように積層する。
なお、積層した部分は、接着剤などで接着するとよい。また、拡大部131と防水シート層130とが重なる部分の上から、粘着テープなどで連結して接着することもできる。
【0056】
この上から積層される側の拡大部131は、たとえば平面化層110および粘着層120の端部を覆うようにして、平面化層110の底面側に織り込むとよい。これにより、隣接する床面養生パネル100との間に隙間が生じないので、床面養生パネル100の上側で発生するアスベストの粉塵などの有害物質を含んだ水分の漏洩を防止することができる。
【0057】
また拡大部131は、たとえば作業区域内の構造物300の壁体部分に相当する壁体310に接着することもできる。これにより、床部200と構造物300の壁体310との接合部分を拡大部131で覆うことができるので、床面養生パネル100の上側で発生するアスベストの粉塵などの有害物質を含んだ水分の漏洩を防止することができる。
【0058】
また拡大部131は、たとえば作業区域を区切るように設置された区切材、具体的には、鉛直方向に設けられた防水材などの壁体部分に相当する壁体310に接着することもできる。
【0059】
これにより、床部200と鉛直方向に設けられた防水材などの壁体310との接合部分を拡大部131で覆うことができるので、床面養生パネル100の上側で発生するアスベストの粉塵などの有害物質を含んだ水分の漏洩を防止することができる。
【0060】
図3は、本実施の形態に係る複数の床面養生パネルを連結して他の方法で接合した状態を示す断面図である。
図3に示すように、床部200に床面養生パネル100を敷設する場合、複数の床面養生パネル100を隙間なく敷設することができる。
【0061】
たとえば、床面養生パネル100の周面に、平面化層110と防水シート層130とが粘着層120によって接着されない部分、つまり粘着層120を介在させない無接着領域Nを設け、その無接着領域Nを覆うようにして拡大部131を形成する。
【0062】
複数の床面養生パネル100を連結して接合する際、一方の床面養生パネル100Aに設けられた拡大部131Aを、他方の床面養生パネル100Bに設けられた無接着領域Nである平面化層110Bと拡大部131Bとの間に介在させる。
【0063】
積層された拡大部131Aおよび拡大部131Bが重なる部分は、接着剤などで接着するとよい。また、拡大部131Aおよび拡大部131Bが重なる部分の上から、粘着テープなどで連結して接着することもできる。
【0064】
これにより、隣接する床面養生パネル100との間に隙間が生じないので、床面養生パネル100の上側で発生するアスベストの粉塵などの有害物質を含んだ水分の漏洩を防止することができる。
【0065】
図4は、本実施の形態に係る複数の床面養生パネルにおける防水シート層を平面化層から剥離する様子を示す断面図である。
本実施の形態の床面養生パネル100は、平面化層110から防水シート層130を剥離しやすいように、粘着層120を平面化層110から防水シート層130を剥離可能な粘着力にすることができる。
【0066】
図4に示すように、平面化層110から防水シート層130を剥離する場合、粘着層120が平面化層110に残った状態で、防水シート層130を平面化層110から剥離することができる。また、粘着層120が防水シート層130に残る状態で、防水シート層130および粘着層120を平面化層110から剥離させてもよい。
【0067】
このように、平面化層110から防水シート層130を剥離することで、建造物の解体や、建造物の内外装材などの除去作業の完了後に、有害物質が付着した防水シート層130だけを撤去することができ、養生材の撤去作業が安全かつ短時間で行うことができる。
【符号の説明】
【0068】
100 床面養生パネル
110 平面化層
120 粘着層
130 防水シート層
131 拡大部
200 床部
300 構造物
310 壁体
N 無接着領域