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  • 特許-広幅フィルター基材の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】広幅フィルター基材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 39/16 20060101AFI20241106BHJP
   D01F 8/14 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
B01D39/16 A
D01F8/14 B
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020199314
(22)【出願日】2020-12-01
(65)【公開番号】P2022087399
(43)【公開日】2022-06-13
【審査請求日】2023-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089152
【弁理士】
【氏名又は名称】奥村 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】森岡 辰太
(72)【発明者】
【氏名】山田 恵
【審査官】伊藤 真明
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-273063(JP,A)
【文献】特開2005-105434(JP,A)
【文献】特開2000-017558(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 24/00-51/10
D01F 8/00- 8/18
D04H 1/00-18/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯成分がポリエチレンテレフタレートよりなり、
鞘成分が該ポリエチレンテレフタレートよりも融点の低い220℃~240℃の融点を持ち、かつ、相対粘度ηR1.35~1.42であって、酸成分中にイソフタル酸が6~12モル%共重合されてなるイソフタル酸共重合ポリエステルよりなり、
その横断面が六葉芯鞘型である芯鞘型複合長繊維で構成された、その幅が4~5mでその目付が120g/m 2 ~350g/m 2 のシート状繊維フリースを、軸方向の長さが4~5mである一対の加熱ロール間に通し、該芯鞘型複合長繊維の鞘成分を軟化又は溶融させて、該芯鞘型複合長繊維相互間を融着固定させることを特徴とするフィルター基材の製造方法。
【請求項2】
一対の加熱ロールの一方が凹凸ロールであり、他方が平滑ロールである請求項1記載のフィルター基材の製造方法。
【請求項3】
請求項1記載の方法で得られたフィルター基材を、折り畳むことによりプリーツを形成するプリーツフィルターの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面が毛羽立ちにくいフィルター基材の製造方法に関し、特に広幅でフィルター基材を製造した際に、幅方向における毛羽立ちにくさが同等であるフィルター基材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、産業用の粉塵捕集機用フィルター等に用いるフィルター用基材として、比較的高目付のスパンボンド不織布が用いられている。具体的には、芯成分が高融点のポリエチレンテレフタレートよりなり、鞘成分が低融点の共重合ポリエステルよりなる芯鞘型複合長繊維を構成繊維とし、構成繊維相互間が共重合ポリエステルの軟化又は溶融により、部分的に圧着されてなるスパンボンド不織布が用いられている(特許文献1)。
【0003】
粉塵捕集機用フィルターは、使用中にフィルター表面に粉塵が堆積し、圧力損失が所定値以上になったとき、パルスジェットや圧縮エアーで粉塵を払い落とすことが行われている。しかるに、フィルター表面が毛羽立っていると、粉塵が毛羽に絡んで、払い落としにくいということがあった。したがって、粉塵捕集機用フィルター等に用いるフィルター用基材は、表面が毛羽立ちにくいものが求められている。
【0004】
特許文献1記載の技術では、繊維フリースを一対の加熱ロール間に通し、表層部を構成している芯鞘型複合長繊維を融着固定させてスパンボンド不織布を得ることにより、表面の毛羽立ちを防止することが提案されている。かかる方法も、シングル幅(約1m幅)又はダブル幅(約2m幅)の繊維フリースであれば有効であるが、ダブル幅を超える広幅(約4m以上)の繊維フリースであると、得られた広幅のスパンボンド不織布の幅方向において表面の毛羽立ち性が均一でなくなるということがあった。すなわち、広幅の繊維フリースを一対の加熱ロール間に通す場合、加熱ロールは軸方向に4m以上の長いものを用いなければならず、特に得られたスパンボンド不織布の中央部において表面の毛羽立ちが悪くなるということがあった。これは、加熱ロールの軸方向の長さが長いと、軸方向に均一な圧力を繊維フリースに負荷しにくくなり、特に加熱ロールの中央部で負荷が掛けにくくなるからである。
【0005】
【文献】特開2005-7268号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、広幅の繊維フリースを一対の加熱ロール間に通して、スパンボンド不織布よりなる広幅のフィルター基材を得ても、幅方向に亙って毛羽立ち性が比較的均一であるフィルター基材を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の構成要件を採用することにより、上記課題を解決したものである。すなわち、本発明は、芯成分がポリエチレンテレフタレートよりなり、鞘成分が該ポリエチレンテレフタレートよりも融点の低い220℃~240℃の融点を持ち、かつ、相対粘度ηR1.35~1.42であって、酸成分中にイソフタル酸が6~12モル%共重合されてなるイソフタル酸共重合ポリエステルよりなり、その横断面が六葉芯鞘型である芯鞘型複合長繊維で構成された、その幅が4~5mでその目付が120g/m 2 ~350g/m 2 のシート状繊維フリースを、軸方向の長さが4~5mである一対の加熱ロール間に通し、該芯鞘型複合長繊維の鞘成分を軟化又は溶融させて、該芯鞘型複合長繊維相互間を融着固定させることを特徴とするフィルター基材の製造方法に関するものである。
【0008】
本発明で用いる芯鞘型複合長繊維は、芯成分がポリエチレンテレフタレートで形成されている。ポリエチレンテレフタレートは、融点が約256℃で相対粘度ηRが約1.38のものである。ここで、融点は、パーキンエルマー社製示差走査型熱量計DSC-2型を用い、昇温速度20℃/分の条件で測定し、得られた融解吸熱曲線において極値を与える温度のことである。また、相対粘度ηRは、フェノールと四塩化エタンの等量混合溶液を溶媒とし、この溶媒100cm3に試料であるポリエチレンテレフタレートを0.5gを溶解し、温度20℃の条件で測定したものである。
【0009】
本発明で用いる芯鞘型複合長繊維の鞘成分は、その融点が芯成分を形成しているポリエチレンテレフタレートの融点よりも低い共重合ポリエステルで形成されている。鞘成分の融点を芯成分の融点よりも低くすることにより、鞘成分のみを溶融又は軟化させて、すなわち、芯成分は当初の繊維形態を維持したまま、芯鞘型複合長繊維相互間を融着固定するためである。鞘成分の融点は、具体的には220℃~240℃である。また、鞘成分の相対粘度ηRは、1.35~1.42である。相対粘度ηRが1.42を超えると、鞘成分を軟化又は溶融させたときの流動性が低下するので好ましくない。相対粘度ηRが1.35未満であると、鞘成分を軟化又は溶融させたときの流動性が高くなり過ぎて、加熱ロールに共重合ポリエステルが付着しやすくなるため、好ましくない。すなわち、鞘成分を軟化又は溶融させたとき、鞘成分が適切な流動性を持つ相対粘度ηRが1.35~1.42であるということである。
【0010】
共重合ポリエステルは、酸成分として第三成分を添加して重合することにより得られる。この第三成分としては、イソフタル酸を用いる。また、第三成分の添加量は、酸成分中に6~12モル%である。第三成分の添加量及び共重合ポリエステルの分子量を調整することにより、相対粘度ηR1.35~1.42の共重合ポリエステルを得ることができる。
【0011】
芯鞘型複合長繊維は、図1に示す如き横断面を持つ六葉芯鞘型である。すなわち、略円柱状の芯成分の軸方向と平行に、芯成分の周面に等間隔で六本の楕円柱よりなる鞘成分が配置されてなるものである。なお、芯成分は中央の白色部であり、鞘成分は濃墨部である。芯鞘型複合長繊維の繊度は、1.5~5.0デシテックス程度である。
【0012】
芯鞘型複合長繊維をシート状に集積して、繊維フリースを得る。この繊維フリースの幅は4~5mであって広幅である。繊維フリースを広幅とすることにより、広幅のスパンボンド不織布よりなるフィルター基材を得ることができ、生産効率が向上する。繊維フリースの目付は120~350g/m2であり、得られるスパンボンド不織布よりなるフィルター基材の目付も120~350g/m2である。目付が120g/m2未満であると、フィルター基材の剛性が低下する傾向が生じ、フィルターに堆積した粉塵を払い落としにくくなる。目付が350g/m2を超えると、加熱ロール間を通したときに、内部に熱が伝導しにくくなり、折り畳んでプリーツフィルターを製造する際に、層間剥離しやすくなる傾向が生じる。
【0013】
広幅の繊維フリースを得た後、これを軸方向の長さが4~5mである一対の加熱ロール間に通す。加熱ロールの長さを4~5mとするのは、繊維フリースの幅全体に亙って熱及び圧力を与えるためである。一対の加熱ロールとしては、一対の加熱平滑ロール、一対の加熱凹凸ロール又は一方が加熱凹凸ロールで他方が加熱平滑ロールであるものが用いられる。加熱ロールの表面温度は、芯鞘型複合長繊維の鞘成分のみが軟化又は溶融する温度とする。具体的には、線圧にも依存するが、加熱ロールの表面温度は210℃~220℃程度である。なお、線圧は400~700N/cm程度である。
【0014】
凹凸ロールは、周面に凸部と凹部を持つものである。凸部の形態は任意であり、たとえば、螺旋状、ストライプ状又は点状の凸部を持つ凹凸ロールが用いられる。特に、凹凸ロールと平滑ロールの組み合わせて一対の加熱ロールとする場合、凹凸ロールは、点状の凸部がロール表面に均一に配置されているものを用いるのが好ましい。点状の凸部の先端面(繊維フリースと当接する面)の面積は、0.1~1.0mm2程度であるのが好ましい。また、点状の凸部の密度は4~80個/cm2程度であるのが好ましい。凸部の先端面の総面積は、ロール周面の面積に対して、5~40%であるのが好ましく、特に10~30%であるのがより好ましい。
【0015】
繊維フリースを一対の加熱ロール間に通す。これにより、繊維フリースは加熱及び加圧され、芯鞘型複合長繊維の鞘成分が軟化又は溶融する。そして、芯鞘型複合長繊維相互間が融着固定されて、フィルター基材が得られるのである。特に、凹凸ロールと平滑ロールを組み合わせて一対の加熱ロールを用いた場合、凸部に当接した繊維フリース中の芯鞘型複合長繊維の鞘成分が軟化又は溶融し、長繊維相互間が融着固定された領域を部分的に持つフィルター基材を得ることができる。
【0016】
得られたフィルター基材は、種々の加工を行ってフィルターとする。たとえば、所定の大きさに切断し、支持体を装着してフィルターとすることがことできる。また、折り畳むことによりプリーツを形成せしめ、プリーツフィルターとして用いることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る製造方法によれば、幅方向に毛羽立ち性が同等である広幅のスパンボンド不織布よりなるフィルター基材を得ることができる。したがって、フィルター基材の生産効率が向上するという効果を奏する。
【実施例
【0018】
実施例1
芯成分として、融点256℃で相対粘度ηR1.38のポリエチレンテレフタレートを準備した。一方、鞘成分として、融点230℃で相対粘度ηR1.37の共重合ポリエステルを準備した。この芯成分と鞘成分を、芯成分:鞘成分=6:4(質量比)となるように複合溶融紡糸装置に供給し、紡糸温度290℃で複合溶融紡糸を行い、図1に示す如き横断面を持つ六葉芯鞘型複合長繊維を紡出した。紡出した長繊維群を、エアーサッカーにより約5000m/分の速度で牽引した後開繊させ、移動する捕集コンベア上に長繊維群を集積させて、幅が4.3mの繊維フリースを得た。この繊維フリースの目付は260g/m2であり、長繊維の繊度は3.0デシテックスであった。
【0019】
この繊維フリースを、軸方向の長さが4.5mである加熱凹凸ロールと加熱平滑ロールの組み合わせよりなる一対の加熱ロール間に通した。加熱凹凸ロールは、点状の凸部がロール全体に均一に配置されてなるものであり、凸部の先端面面積が0.5mm2、凸部の密度が25個/cm2及び凸部の先端面総面積がロール周面積に対して13%のものを用いた。また、凹凸ロール及び平滑ロールの表面温度を210℃に加熱し、繊維フリースに掛かる線圧を590N/cmとした。以上の方法で、目付260g/m2で幅が約4mのフィルター基材を得た。
【0020】
実施例2 鞘成分として、融点230℃で相対粘度ηR1.37の共重合ポリエステルに代えて、融点230℃で相対粘度ηR1.40の共重合ポリエステルを用いる他は、実施例1と同一の方法でフィルター基材を得た。
【0021】
比較例1
鞘成分として、融点230℃で相対粘度ηR1.37の共重合ポリエステルに代えて、融点230℃で相対粘度ηR1.44の共重合ポリエステルを用いる他は、実施例1と同一の方法でフィルター基材を得た。
【0022】
比較例2
凹凸ロール及び平滑ロールの表面温度を215℃に変更する他は、比較例1と同一の方法でフィルター基材を得た。
【0023】
比較例3
凹凸ロール及び平滑ロールの表面温度を220℃に変更する他は、比較例1と同一の方法でフィルター基材を得た。しかしながら、凹凸ロール表面に共重合ポリエステルや繊維片等が付着し、連続生産を行うことができなかった。したがって、後記の毛羽立ち性の評価は行わなかった。
【0024】
[毛羽立ち性の評価]
実施例1及び2並びに比較例1及び2で得られた幅約4mのフィルター基材から、幅方向に亙って、図2に示したa,b,c,d,e,fの箇所から直径13cmの円形片を採取した。そして、円形片の中央部に直径約6mmの孔を開け、試験片を作成した。この試験片を用いて、JIS L 1913 6.6.2 テーバ形法 に準じて毛羽立ち性を評価した。試験片を試料ホルダに取り付ける際、平滑ロールが当接した面を摩耗輪によって摩擦されるように、取り付けた。摩耗輪はNo.CS-10を用い、掛ける荷重は500gとし、摩擦回数は100回とした。そして、毛羽立ちの最も激しいものを1級として、毛羽立ちの殆どないものを5級とし、5段階評価で毛羽立ち性を評価した。この結果を表1に示した。
【0025】
[表1]
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
毛 羽 立 ち 性 (級)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
a b c d e f
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実施例1 4.5 4.5 3.5 4.0 4.5 4.5
実施例2 4.0 3.0 3.0 3.0 3.5 4.0
比較例1 4.0 1.5 1.0 1.0 2.0 4.0
比較例2 4.5 4.5 2.0 2.0 3.5 4.5
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【0026】
実施例1及び2と比較例1及び2とを対比すれば明らかなとおり、実施例1及び2に係る方法で得られたフィルター基材は、比較例1及び2に係る方法で得られたフィルター基材に比べて、広幅のフィルター基材の幅方向に亙って、毛羽立ち性の変化が少ないものであることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明で用いる芯鞘型複合長繊維の横断面の一例を示した模式図である。
図2】実施例及び比較例において、毛羽立ち性を評価するため、広幅のフィルター基材から試験片を採取する場所を示した一部平面図である。
図1
図2