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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】無線送信方法
(51)【国際特許分類】
   H04J 1/08 20060101AFI20241106BHJP
   H04L 27/26 20060101ALI20241106BHJP
   H04L 7/04 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
H04J1/08
H04L27/26 114
H04L7/04 100
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2020214452
(22)【出願日】2020-12-24
(62)【分割の表示】P 2020552929の分割
【原出願日】2020-05-30
(65)【公開番号】P2021190987
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2023-03-02
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、茅野市、「IoT通信技術を活用した課題解決型新技術・新製品等研究開発及び人材育成推進委託業務」委託事業、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】518212241
【氏名又は名称】公立大学法人公立諏訪東京理科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002697
【氏名又は名称】めぶき弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100104709
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 誠剛
(72)【発明者】
【氏名】小林 誠司
【審査官】吉江 一明
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/212810(WO,A1)
【文献】特表2005-510947(JP,A)
【文献】特開2017-201781(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0324442(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04J 1/08
H04L 27/26
H04L 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線送信方法であって、
伝送データ及びシンボルクロックから変調信号を作成する変調信号作成ステップと、
時間軸で見たときにフレーム全期間にわたってかつ連続して存在する狭帯域同期信号を作成する狭帯域同期信号作成ステップと、
前記変調信号前記狭帯域同期信号、及び、時間とともに周波数が直線的に変化するキャリア信号を用いて送信信号を作成する送信信号作成ステップと、
前記送信信号を送信する送信ステップとを含むことを特徴とする無線送信方法。
【請求項2】
前記送信信号作成ステップは、前記変調信号及び前記狭帯域同期信号を複素信号空間においてそれぞれ異なる2軸に割り当てることにより前記変調信号及び前記狭帯域同期信号を合成する合成ステップを含むことを特徴とする請求項1に記載の無線送信方法。
【請求項3】
伝送データ及びシンボルクロックから作成された変調信号時間軸で見たときにフレーム全期間にわたってかつ連続して存在する狭帯域同期信号、及び、時間とともに周波数が直線的に変化するキャリア信号を用いて作成され送信された送信信号を受信信号として受信する無線受信方法であって、
前記受信信号からキャリア信号を分離除去することにより変調信号及び狭帯域同期信号を含むIQ信号(IQB (t))を作成するIQ信号作成ステップと、
前記IQ信号(IQB (t))から伝送路チャネルのチャネル位相特性θ(t)を抽出し、当該チャネル位相特性θ(t)に応じて前記IQ信号(IQB (t))に位相回転補正を施すことにより位相回転補正後のIQ信号(IQc (t))を作成するIQ信号補正ステップと、
前記位相回転補正後のIQ信号(IQc (t))から伝送データを復号する伝送データ復号ステップとを含むことを特徴とする無線受信方法。
【請求項4】
前記IQ信号補正ステップにおいては、狭帯域フィルタにより前記IQ信号(IQB(t))から前記狭帯域同期信号を分離し、当該狭帯域同期信号を用いて前記伝送路チャネルのチャネル位相特性θ(t)を抽出することを特徴とする請求項3に記載の無線受信方法。
【請求項5】
前記IQ信号作成ステップにおいては、時間とともに周波数が直線的に変化するチャープ特性を補正するデチャープ信号を用いてデチャープ補正が施された前記IQ信号(IQB (t))を作成することを特徴とする請求項3に記載の無線受信方法。
【請求項6】
前記IQ信号補正ステップにおいては、前記デチャープ補正が施された前記IQ信号(IQB (t))から周波数ピークを検出し、前記検出された周波数ピークから前記IQ信号(IQB(t))に含まれる周波数オフセットを補正することを特徴とする請求項5に記載の無線受信方法。
【請求項7】
無線通信方法であって、
請求項1に記載の無線送信方法からなる無線送信ステップと、
請求項3に記載の無線受信方法からなる無線受信ステップとを含むことを特徴とする無線通信方法。
【請求項8】
送信信号として、変調信号から作成された主キャリア信号と、時間軸で見たときにフレーム全期間にわたってかつ連続して存在する狭帯域同期信号から作成された副キャリア信号とが含まれている送信信号を用いて無線通信を行う無線通信方法であって、
前記副キャリア信号は、時間とともに周波数が直線的に変化する副キャリア信号であることを特徴とする無線通信方法。
【請求項9】
無線送信装置であって、
伝送データ及びシンボルクロックから変調信号を作成する変調信号作成部と、
時間軸で見たときにフレーム全期間にわたってかつ連続して存在する狭帯域同期信号を作成する狭帯域同期信号作成部と、
前記変調信号前記狭帯域同期信号、及び、時間とともに周波数が直線的に変化するキャリア信号を用いて送信信号を作成する送信信号作成部と、
前記送信信号を送信する送信部とを備えることを特徴とする無線送信装置。
【請求項10】
伝送データ及びシンボルクロックから作成された変調信号、時間軸で見たときにフレーム全期間にわたってかつ連続して存在する狭帯域同期信号、及び、時間とともに周波数が直線的に変化するキャリア信号を用いて作成され送信された送信信号を受信信号として受信する無線受信装置であって、
前記受信信号からキャリア信号を分離除去することにより変調信号及び狭帯域同期信号を含むIQ信号(IQB (t))を作成するIQ信号作成部と、
伝送路チャネルのチャネル位相特性θ(t)に応じて前記IQ信号(IQB (t))に位相回転補正を施すことにより伝送路チャネルにおける位相変化を補正したIQ信号(IQc (t))に補正するIQ信号補正部と、
前記IQ信号(IQc (t))から伝送データを復号する伝送データ復号部とを備えることを特徴とする無線受信装置。
【請求項11】
IQ信号補正部は、IQ信号作成部からの前記IQ信号(IQB (t))から伝送路チャネルのチャネル位相特性θ(t)を抽出するチャネル位相特性抽出部と、前記チャネル位相特性抽出部で抽出されたチャネル位相特性θtに応じて前記IQ信号(IQB (t))に位相回転補正を施す位相回転補正部とを有し、前記IQ信号(IQB (t))を、前記伝送路チャネルにおける位相変化を補正したIQ信号(IQc (t))に補正することを特徴とする請求項10に記載の無線受信装置。
【請求項12】
前記IQ信号補正部は、前記IQ信号(IQB (t))を、位相回転補正後の変調信号及び位相回転補正後の狭帯域同期信号をIQ軸のそれぞれに含むIQ信号(IQc (t))に補正することを特徴とする請求項11に記載の無線受信装置。
【請求項13】
前記IQ信号作成部は、時間とともに周波数が直線的に変化するチャープ特性を補正するデチャープ信号を用いてデチャープ補正を施して前記IQ信号(IQB (t))を作成することを特徴とする請求項10に記載の無線受信装置。
【請求項14】
前記IQ信号補正部は、前記デチャープ補正が施された前記IQ信号(IQB (t))から周波数ピークを検出し、前記検出された周波数ピークから前記IQ信号(IQB (t))に含まれる周波数オフセットを補正することを特徴とする請求項13に記載の無線受信装置。
【請求項15】
無線通信システムであって、
請求項9に記載の無線送信装置と、
請求項10に記載の無線受信装置とを備えることを特徴とする無線通信システム。
【請求項16】
送信信号として、変調信号から作成された主キャリア信号と、時間軸で見たときにフレーム全期間にわたってかつ連続して存在する狭帯域同期信号から作成された副キャリア信号とが含まれている送信信号を用いて無線通信を行う無線通信システムであって、
前記副キャリア信号は、時間とともに周波数が直線的に変化する副キャリア信号であることを特徴とする無線通信システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、雑音や混信がある状態においても安定な無線通信を行うことのできる無線送信方法、無線送信装置、無線受信方法、無線受信装置、無線通信方法及び無線通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信において、伝送データを所定の塊に分割して送信する方式が一般的である。 このような伝送データの塊は、ブロック、パケット、またはフレームなど様々な用語で呼ばれている。 本発明では伝送データの塊を、「フレーム」という言葉を用いて説明する。
【0003】
上記したように伝送データの塊であるフレームを送信機から送信した場合、受信機でフレームが存在するかどうかを判断することが必要となる。 さらにフレーム毎に異なるタイミング、周波数オフセットそして搬送波位相を受信機が調整しなければならない。 このためフレームの先頭あるいはフレームの途中に同期信号を挿入するのが一般的である。 「同期信号」は、「プリアンブル」、「基準信号」、「フレームシンク」など、状況によって異なる名称が使われるが、送受信でタイミングを合わせるための信号である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-21634号公報
【文献】特開2016-46618号公報
【0005】
図1は、従来の無線送信フォーマットのコンセプトを示す図である。図1(A)はフレームの先頭に「プリアンブル」が付加された一般的な無線送信フォーマットのコンセプトを示す図であり、図1(B)は疑似乱数で生成した「基準信号」がフレームに均等分散された無線送信フォーマットのコンセプトを示す図である。
図1(A)に示す無線送信フォーマットでは、プリアンブル10に続いて伝送データが送信される。伝送データは、フレームの先頭を示すフレームシンク11、そしてデータ12で構成されている。 煩雑になることを防ぐため図示していないが、データ12にはヘッダー、誤り訂正、誤り検出符号などが含まれる。
【0006】
プリアンブル10を使った従来例として、特許文献1(特開2016-21634号公報)には、伝送データを単位ブロックに分割し、各ブロックにプリアンブル(同期信号)とCRC(誤り検出符号)を挿入した通信方法が開示されている。
【0007】
プリアンブル10は、予め設定されている同期信号、すなわち受信装置が予め知っている同期信号であり、受信装置はプリアンブル10が到来するのを待ち受けるように構成される。 受信装置の負担を減らすためにプリアンブル10はシンプルな固定パターンから構成されている場合が多い。 このプリアンブル10から、搬送波のオフセットや搬送波位相を検出するように構成される。
【0008】
別の無線送信機から送信された別のフレームが混信として受信機に到来すると、二つのフレームが衝突し、プリアンブルが乱され、フレームを受信できない場合が生じる。 プリアンブルが時間的に集中しているのが問題である。
【0009】
そこで特許文献2(特開2016-46618号公報)には、図1(B)に示すようにプリアンブルの代わりに疑似乱数で生成した同期信号(基準信号)をフレームに均等分散させた無線送信フォーマットが開示されている。
【0010】
このような同期信号を用いることにより混信に強くなり、またタイミングを正確に合わせることができるようになる。 しかし、次に説明するようなパラドックスが生じる。 即ち、同期をとる(搬送波の周波数オフセットや時間ずれなどを知る)ためには同期信号を復号しなければならない。 ここで同期信号を復号するためには、搬送波の周波数オフセットやタイミングずれなどを受信装置側が予め知っていることが必要なのである。 このパラドックスを解くために、受信装置は複雑になる欠点があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで本発明では、簡単な受信装置構成で同期を実現することが可能であり、なおかつ混信などの影響を受けにくい無線送信方法、無線送信装置、無線受信方法、無線受信装置、無線通信方法及び無線通信システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の発明者は、上記した課題を解決するために鋭意努力を重ねた結果、同期信号として、「時間軸で見たときにフレーム全期間にわたってかつ連続して存在する狭帯域同期信号」を用いれば上記した課題を解決することができることに思い至り本発明を完成させるに至った。
【0013】
本発明の無線送信方法は、伝送データ及びシンボルクロックから変調信号を作成する変調信号作成ステップと、前記シンボルクロックから、時間軸で見たときにフレーム全期間にわたってかつ連続して存在する狭帯域同期信号を作成する狭帯域同期信号作成ステップと、前記変調信号及び前記狭帯域同期信号にキャリア信号を重畳して送信信号を作成する送信信号作成ステップと、前記送信信号を送信する送信ステップとを含む無線送信方法である。
【0014】
本発明において、「全期間」は「実質的に全期間」のことを意味し、発明の目的を損ねない限りにおいて、フレームの一部に同期信号が存在しない(同期信号を欠落させた)狭帯域同期信号であっても、本発明に記載された狭帯域同期信号に含まれるものとする。また、本発明において、「連続して」は「実質的に連続して」のことを意味し、発明の目的を損ねない限りにおいて、フレームの一部に連続しない(連続させない)同期信号を含む狭帯域同期信号であっても、本発明に記載された狭帯域同期信号に含まれるものとする。
【0015】
本発明の無線受信方法は、「伝送データ及びシンボルクロックから作成された変調信号」及び「前記シンボルクロックから作成され、時間軸で見たときにフレーム全期間にわたってかつ連続して存在する狭帯域同期信号」にキャリア信号を重畳して作成され送信された送信信号を受信信号として受信する無線受信方法であって、前記受信信号からキャリア信号を分離除去することにより変調信号成分及び狭帯域同期信号成分を含むIQ信号(IQB (t))を作成するIQ信号作成ステップと、前記IQ信号(IQB (t))から伝送路チャネルのチャネル位相特性θ(t)を抽出し、当該チャネル位相特性θ(t)に応じて前記IQ信号(IQB (t))に位相回転補正を施すことにより位相回転補正後のIQ信号(IQc (t))を作成するIQ信号補正ステップと、前記位相回転補正後のIQ信号(IQc (t))から伝送データを複号する伝送データ複号ステップとを含む無線受信方法である。
【0016】
本発明の無線通信方法は、本発明の無線送信方法からなる無線送信ステップと、本発明の無線受信方法からなる無線受信ステップとを含む無線通信方法である。
【0017】
本発明の無線通信方法は、「伝送データ及びシンボルクロックから作成された変調信号」及び「前記シンボルクロックから作成され、時間軸で見たときにフレーム全期間にわたってかつ連続して存在する狭帯域同期信号」にキャリア信号を重畳して作成した送信信号を用いて無線通信を行う無線通信方法である。
【0018】
本発明の無線送信装置は、伝送データ及びシンボルクロックから変調信号を作成する変調信号作成部19と、前記シンボルクロックから、時間軸で見たときにフレーム全期間にわたってかつ連続して存在する狭帯域同期信号を作成する狭帯域同期信号作成部20と、前記変調信号及び前記狭帯域同期信号にキャリア信号を重畳して送信信号を作成する送信信号作成部29と、前記送信信号を送信する送信部200,201とを備える無線送信装置である。
【0019】
本発明の無線受信装置は、「伝送データ及びシンボルクロックから作成された変調信号」及び「前記シンボルクロックから作成され、時間軸で見たときにフレーム全期間にわたってかつ連続して存在する狭帯域同期信号」にキャリア信号を重畳して作成され送信された送信信号を受信信号として受信する無線受信装置3であって、前記受信信号からキャリア信号を分離除去することにより変調信号成分及び狭帯域同期信号成分を含むIQ信号(IQB (t))を作成するIQ信号作成部(フロントエンド回路)30と、伝送路チャネルのチャネル位相特性θ(t)に応じて前記IQ信号(IQB (t))に位相回転補正を施すことにより伝送路チャネルにおける位相変化を補正したIQ信号(IQc (t))に補正するIQ信号補正部34と、前記IQ信号(IQc (t))から伝送データを複号する伝送データ複号部42とを備える無線受信装置である。
【0020】
本発明の無線通信システムは、本発明の無線送信装置と、本発明の無線受信装置とを備える無線送信システムである。
【0021】
本発明の無線通信システムは、「伝送データ及びシンボルクロックから作成された変調信号」及び「前記シンボルクロックから作成され、時間軸で見たときにフレーム全期間にわたってかつ連続して存在する狭帯域同期信号」にキャリア信号を重畳して作成した送信信号を用いて無線通信を行う無線通信システムである。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、簡単な受信装置構成で同期を実現することが可能であり、なおかつ混信などの影響を受けにくい無線送信方法、無線送信装置、無線受信方法、無線受信装置、無線通信方法及び無線通信システムを提供することが可能となる。 また、本発明によれば、狭帯域同期信号の検出を高効率のFFT(高速フーリエ変換))を使って実現できるので低消費電力で安定な通信を実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】従来の無線送信フォーマットのコンセプトを示す図である。
図2】実施形態1の無線通信フォーマットのコンセプトを示す図である。
図3】実施形態1に係る無線送信装置2のブロック図である。
図4】無線送信装置2における変調パルス作成部21のブロック図である。
図5】無線送信装置2における狭帯域同期パルス作成部23のブロック図である。
図6】無線送信装置2におけるミキサ25のブロック図である。
図7】無線送信装置2における各種信号の波形を模式的に示す図である。
図8】無線送信装置2における各種信号の波形を模式的に示す図である。
図9】送信信号TX(t)のスペクトルを模式的に表した図である。
図10】実施形態1に係る無線受信装置3のブロック図である。
図11】無線受信装置3におけるチャネル特性検出部31のブロック図である。
図12】無線受信装置3における各種信号の波形を模式的に示す図である。
図13】実施例1における実験結果を示す図である。
図14】実施形態2の無線通信フォーマットのコンセプトを示す図である。
図15】実施形態2に係る無線送信装置5のブロック図である。
図16】実施形態2に係る無線受信装置6のブロック図である。
図17】無線受信装置6におけるデチャープ回路60のブロック図である。
図18】デチャープ回路60の動作を模式的に表した図である。
図19】実施例2における実験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図に示す本発明の実施形態を用いて本発明を詳細に説明する。
【0025】
[実施形態1]
<無線送信方法>
実施形態1に係る無線送信方法は、無線送信方法であって、伝送データ及びシンボルクロックから変調信号を作成する変調信号作成ステップと、シンボルクロックから、時間軸で見たときにフレーム全期間にわたってかつ連続して存在する狭帯域同期信号を作成する狭帯域同期信号作成ステップと、変調信号及び狭帯域同期信号にキャリア信号を重畳して送信信号を作成する送信信号作成ステップと、送信信号を送信する送信ステップとを含むものである(後述する図2図7及び図8参照。)。
【0026】
実施形態1に係る無線送信方法において、狭帯域同期信号は、変調信号の帯域幅の1/100以下の帯域幅を有するものである(後述する図2及び図9参照。)。
【0027】
実施形態1に係る無線送信方法において、狭帯域同期信号は、複素関数exp(j2πft)から構成されているものである。但し、「j」は虚数単位を示し、「f」はシンボル周波数fb又はこれに同期する周波数を示す(後述する図7参照。)。
【0028】
実施形態1に係る無線送信方法において、狭帯域同期信号の周波数は、シンボル周波数fbの2分の1であり、狭帯域同期信号の位相は、変調信号のシンボル点において0又はπである(後述する図7参照。)。
【0029】
実施形態1に係る無線送信方法において、狭帯域同期信号は、キャリア周波数fcよりも所定のオフセット周波数fsだけ高い周波数fc+fsを有する第1狭帯域同期信号、及び、キャリア周波数fcよりも所定のオフセット周波数fsだけ低い周波数fc-fsを有する第2狭帯域同期信号の2つの狭帯域同期信号成分を含む(後述する図2及び図9参照。)。
【0030】
実施形態1に係る無線送信方法においては、伝送データ及びシンボルクロックから両極性の変調パルスを作成し、当該変調パルスから両極性の変調信号を作成することとしている(後述する図7参照)。
【0031】
実施形態1に係る無線送信方法において、送信信号作成ステップは、変調信号及び狭帯域同期信号を複素信号空間においてそれぞれ異なる2軸に割り当てることにより変調信号及び狭帯域同期信号を合成する合成ステップを含むものである(後述する図3図6及び図8参照)。
【0032】
<無線受信方法>
実施形態1に係る無線受信方法は、「伝送データ及びシンボルクロックから作成された変調信号」及び「前記シンボルクロックから作成され、時間軸で見たときにフレーム全期間にわたってかつ連続して存在する狭帯域同期信号」にキャリア信号を重畳して作成され送信された送信信号を受信信号として受信する無線受信方法であって、
前記受信信号からキャリア信号を分離除去することにより変調信号及び狭帯域同期信号を含むIQ信号(IQB (t))を作成するIQ信号作成ステップと、
前記IQ信号(IQB (t))から伝送路チャネルのチャネル位相特性θ(t)を抽出し、当該チャネル位相特性θ(t)に応じて前記IQ信号(IQB (t))に位相回転補正を施すことにより位相回転補正後のIQ信号(IQc (t))を作成するIQ信号補正ステップと、
前記位相回転補正後のIQ信号(IQc (t))から伝送データを複号する伝送データ複号ステップとを含むものである(後述する図2及び図12参照。)。
【0033】
実施形態1に係る無線送信方法において、IQ信号補正ステップにおいては、狭帯域フィルタによりIQ信号(IQB(t))から狭帯域同期信号を分離し、当該狭帯域同期信号を用いて伝送路チャネルのチャネル位相特性θ(t)を抽出することとしている(後述する図2及び図12参照。)。
【0034】
<無線通信方法>
実施形態1に係る無線通信方法は、実施形態に係る無線送信方法からなる無線送信ステップと、実施形態1に係る無線受信方法からなる無線受信ステップとを含むものである。(後述する図2図7図8及び図12参照。)。
【0035】
以下に示す実施形態1においては、シンボルレート100kspsのBPSK(Binary Phase Shift Keying、位相偏移変調)を変調方式として用いる。シンボル周波数fbはシンボルレートと等しく100kHzである。 また、フレーム長T=1秒、キャリア周波数(搬送波周波数)fc=920MHzで無線伝送する場合について説明する。 本発明はこれに限定されることなく、様々な実施形態で実現できることは言うまでもない。
【0036】
図2は、実施形態1の無線通信フォーマットのコンセプトを示す図である。図2においては、縦軸に周波数、横軸に時間を取って無線通信フォーマットのコンセプトを示している。 ここでデータ12には、ヘッダー情報や誤り訂正符号が含まれている。 またデータ12は、キャリア周波数fcを中心としてデータ12が占有する占有周波数帯域幅(Mod Bw)で分布している。 シンボル周波数fbが100kHzの場合、占有周波数帯域幅(Mod Bw)はおよそ150kHz程度になる。
【0037】
図2において、伝送データは、フレームの開始タイミングを表すフレームシンク11とデータ12とから構成される。 フレームシンク11の変調方式はデータ12と同一であるから、フレームシンク11が占有する占有周波数帯域幅はデータ12が占有する占有周波数帯域幅(Mod Bw)と同じである。
【0038】
従来法では、フレームの先頭付近の時間にプリアンブルと呼ばれる同期信号を送っていた(図1(A)参照。)。 このためフレームの先頭付近を妨害波等による混信で失うと、同期を実現することができずに伝送エラーを引き起こす問題があった。 そこで実施形態1の無線送信フォーマットでは、狭帯域の同期信号(狭帯域同期信号、サイドキャリア信号14ということもある。)をフレームの全期間において伝送することとしている(図2参照。)。
【0039】
実施形態1においては、図2に示すように、サイドキャリア信号14として2本のサイドキャリア信号14A及び14Bを用いている。 サイドキャリア信号14Aはキャリア周波数fcに対して所定のサイドキャリア周波数fsだけ周波数が高い信号であり、サイドキャリア信号14Bはキャリア周波数fcに対して所定のサイドキャリア周波数fsだけ周波数が低い信号である。サイドキャリア信号14AをSC1(t)とし、サイドキャリア信号14BをSC2(t)とすると、SC1(t)及びSC2(t)はそれぞれ以下の式1および式2で表される。
【数1】
【数2】
式1及び式2中、「T」はフレーム長(1秒)であり、「rect(t)」は矩形関数であり、「j」は虚数単位である。
【0040】
複素関数exp(j2πft))をフーリエ変換したものはデルタ関数δ(f)であるから、サイドキャリア信号14のスペクトルは特定の周波数に集中する。 例えばフレーム長Tが1秒であれば、サイドキャリア信号14は10Hz程度の占有周波数帯域幅に収まる。本発明では、フーリエ変換によりサイドキャリア信号14を検出することを容易にするため、このようにサイドキャリア信号14を複素関数exp(j2πft)で構成して、サイドキャリア信号14のスペクトルを特定の周波数に集中させることとしている。
【0041】
以降は、サイドキャリア周波数fsをシンボル周波数fbの2分の1とした場合について説明する。 シンボル周波数fbとして100kHzを想定した本実施形態では、サイドキャリア周波数fsは50kHzとなる。
【0042】
サイドキャリア信号14A及び14Bは、図2に示すように、フレームの全期間に広がっているので、例えば妨害波からの混信により、フレームの一部分が欠落した場合においても、無線受信装置において補間して検出することが可能となる。
【0043】
<無線送信装置>
図3は、実施形態1に係る無線送信装置2のブロック図である。図4は、無線送信装置2における変調パルス作成部21のブロック図である。図5は、無線送信装置2における狭帯域同期パルス作成部23のブロック図である。図6は、無線送信装置2におけるミキサ25のブロック図である。
【0044】
実施形態1に係る無線送信装置2は、図3図6に示すように、伝送データ及びシンボルクロックから変調信号を作成する変調信号作成部19と、シンボルクロックから、時間軸で見たときにフレーム全期間にわたってかつ連続して存在する狭帯域同期信号を作成する狭帯域同期信号作成部20と、変調信号及び狭帯域同期信号にキャリア信号を重畳して送信信号を作成する送信信号作成部29と、送信信号を送信する送信部200,201とを備えるものである。
【0045】
実施形態1に係る無線送信装置2において、狭帯域同期信号作成部20は、変調信号のシンボル点において狭帯域同期信号の位相が0またはπになるようにタイミングを調整する機能を有するものである。
【0046】
図7及び図8は、無線送信装置2における各種信号の波形を模式的に示す図である。図7(A)は伝送データの波形(0/1の切り替わりタイミング)を示し、図7(B)はシンボルクロック(syclk)の波形を示し、図7(C)は変調パルス(Mod Pulse)の波形を示し、図7(D)は変調信号(mod(t))の波形を示し、図7(E)は半周波数クロック(2divClk)の波形を示し、図7(F)は同期パルス(Sync Pulse)の波形を示し、図7(G)は狭帯域同期信号(サイドキャリア信号14、Sync(t))の波形を示す。図8(A)は変調信号(mod(t))の波形を示し、図8(B)は乗算器251の出力Cm(t)の波形を示し、図8(C)は狭帯域同期信号(サイドキャリア信号14、α・sync(t))の波形を示し、図8(D)は乗算器252の出力Cs(t)の波形を示し、図8(E)は送信信号TX(t)の波形を示す。
【0047】
無線送信装置2では、図3に示すように、伝送データ「101101...」及びシンボルクロック(syclk)から送信信号TX(t)が作成され、アンテナ201より電波として送信される。
【0048】
伝送データ及びシンボルクロックは、図3及び図4に示すように、変調パルス作成部21に入力され、シンボル毎に1発の変調パルス(Mod Pulse)に変換される(図7(A)~図7(C)参照。)。 変調パルス(Mod Pulse)は、伝送データに応じて極性が変化する両極性のパルス列である。
【0049】
ローパスフィルタ(LPF)22は、変調パルス(Mod Pulse)を低域濾過することにより変調信号(mod(t))を作成する(図7(D参照。)。 ローパスフィルタ22の特性としては、符号間干渉を抑圧できるRRC(Root Raised Cosine)特性を用いることができる。 この場合、ローパスフィルタ22の通過帯域幅を占有周波数帯域幅(Mod Bw)と等しくする。 すなわち、本実施形態ではローパスフィルタ22の通過帯域幅= 150kHzとして説明する。
【0050】
シンボルクロック(syclk)は、図3及び図5に示すように、同期パルス作成部23にも入力される。 同期パルス作成部23は、シンボル毎に極性が反転する同期パルス(Sync Pulse)を作成し(図7(F)参照。)、バンドパスフィルタ(BPF)24に供給する。 バンドパスフィルタ24は、中心周波数がサイドキャリア周波数fsであり、通過帯域幅(SyBw)が極めて狭いフィルタである。 SyBw=10Hzと狭く設定することにより、バンドパスフィルタ24を通過した狭帯域同期信号(サイドキャリア信号14、sync(t))は、きれいな正弦波となる(図7(G)参照。)。
【0051】
送信信号作成部29においては、図2に示すように、変調信号(mod(t))をミキサ25のI軸に、そしてサイドキャリア信号14(sync(t))の振幅をアンプ28によりα倍した信号をQ軸に入力することにより、2つの異なる搬送波位相(IとQ)を有する送信信号TX(t)を合成する。
【0052】
ミキサ25においては、図6に示すように、局部発振器(LO)27より供給されるキャリア信号(キャリア周波数fc)が位相シフタ253によって位相が90度シフトした信号が作成される。 乗算器251によって変調信号(mod(t))にキャリア信号が乗算される。 乗算器252によって、サイドキャリア信号14(α・sync(t))に位相シフタ253の出力が乗算される。加算器254によって二つの乗算器(251、252)の出力が加算(合成)されることにより、送信信号TX(t)が生成される。
【0053】
ミキサ25の出力が変調、増幅された後に送信信号TX(t)がアンテナ201より電波として送信される。
【0054】
2つの異なる搬送波位相を使うことにより、無線受信装置において変調信号(mod(t))と狭帯域同期信号(サイドキャリア信号14、sync(t))との分離をより高精度で行うことができる。 しかし簡便に実現する場合には、変調信号(mod(t))と狭帯域同期信号(サイドキャリア信号14、sync(t))を加算してからミキサ25の同じ位相(例えばI相)に入力するように構成することもできる。
【0055】
キャリア周波数fcは、例えば920Mzとすることができる。 もちろん他の周波数を用いても構わない。 バンドパスフィルタ(BPF)26は、ミキサ25からの合成信号に含まれる不要成分を除去する。 バンドパスフィルタ26の出力はアンプ(AMP)200により増幅され、アンテナ201から送信信号TX(t)を含む電波として送信される。
上記について、図4図8を用いて詳細に説明する。
【0056】
<変調パルス>
伝送データは、シンボルクロック(syclk)毎に入力され、図4に示すマッパー(Mapper)210により両極性の信号に変換される(図7(A)、図7(B)及び図4参照。)。 即ち、伝送データが「1」であれば「+1」に、伝送データが「0」であれば「-1」に変換される(図7(C)参照。)。
【0057】
立ち上がり検出回路211により、シンボルクロック(syclk)の立ち上がりエッジにおいて立ち上がりエッジパルスが生成される。 立ち上がり検出回路211は、16倍のPLL回路213、Dフリップフロップ214、NOTゲート215そしてANDゲート216で構成され、シンボルクロック(syclk)が論理「0」から論理「1」になったタイミングで、立ち上がりエッジパルスを発生させる。 立ち上がりエッジパルスは乗算器212によってマッパー210の出力と乗算され、シンボル毎に1発の両極性の変調パルス(Mod Pulse)として出力される。
【0058】
このようにして生成される変調パルス(Mod Pulse)は、図7(C)に示すように、伝送データに応じた両極性のインパルス列である。 また 変調パルス(Mod Pulse)は、シンボルクロック(syclk)の立ち上がりに同期しているので、1つのシンボルを伝送する時間(Ts)の中央部で変化するように構成されている。
【0059】
<同期パルス>
シンボルクロック(syclk)は、図5に示すように、2分の1分周器230に入力され、周波数が半分になる(図7(E)参照。)。 2分の1の周波数になった半周波数クロック(2divClk)は、エッジパルス生成回路231に供給される。 エッジパルス生成回路231は、16倍のPLL回路232、Dフリップフロップ233及び237、NOTゲート234及び238、ANDゲート235及び239、反転アンプ240及び加算器241で構成され、半周波数クロック(2divClk)が「0」から「1」に切り替わるタイミングで正極性の同期パルス(Sync Pulse)を生成し、「1」から「0」に切り替わるタイミングで負極性の同期パルス(Sync Pulse)を生成する(図7(F)参照。)。
【0060】
同期パルス(Sync Pulse)はシンボル毎に極性が反転するので、その基本周波数成分はシンボル周波数fbの2分の1となる。 また、図7(E)及び図7(F)に示すように、同期パルス(Sync Pulse)を生成するタイミングは、変調信号(mod(t))がゼロになるタイミングに合致している。
【0061】
<変調信号及び狭帯域同期信号>
以上のようにして変調パルス(Mod Pulse)と同期パルス(Sync Pulse)が作成され(図3参照。)、それがローパスフィルタ22とバンドパスフィルタ24を通過することにより、図7(D)に示す変調信号(mod(t))と、図7(G)に示す狭帯域同期信号(サイドキャリア信号14、sync(t))が生成される。 ここでサイドキャリア信号14(sync(t))がゼロを交差するタイミングが、変調信号(mod(t))の変調信号をサンプリングするタイミングに合致している。 狭帯域同期信号(サイドキャリア信号14、sync(t))の周波数帯域幅 SyBwは10Hzであり、変調信号の占有周波数帯幅(Mod Bw=150kHz)に比較して100分の1以下となっている。
【0062】
後述する無線受信装置3では、受信した電波に含まれる送信信号(TX(t))から変調信号(mod(t))とサイドキャリア信号14(sync(t))、同期信号(sync(t))を復元し、サイドキャリア信号14(sync(t))がゼロを交差したタイミングで変調信号(mod(t))をサンプリングするように構成することでシンボル同期を実現する。
【0063】
<送信信号>
上記した送信信号 TX(t)を数式で表現すると以下の式3で表わすことができる。
【数3】
式3中、ΔTXは無線送信装置2で生じる送信周波数の偏差であり、αは同期信号の強さを定める定数である。 他システムからの干渉があり同期が乱されるような場合はαの値として高い値を採用して同期性能を上げることができる。 後述する実験では、α=0.2とした。なお、式3中、虚数単位jは90度位相シフトを表現している。
【0064】
式3において、狭帯域同期信号(サイドキャリア信号14、sync(t))はシンボルクロック(syclk)に同期した正弦波であるから、送信信号 TX(t)を以下の式4のように書き換えることができる、
【数4】
式4中、fsはサイドキャリア周波数(本実施形態では50kHz)である。 サイドキャリア信号14は2つの複素関数(複素関数exp(j2πfst)及びexp(-j2πfst))で表現される2つのサイドキャリア信号(14A及び14B)として変調信号(mod(t))とともに送信信号TX(t)に合成される。
【0065】
送信信号TX(t)の合成は、上記したように図3に示す送信信号作成部29で行う。まず、図6に示すミキサ25において、乗算器251からは、変調信号(図8(A)参照。)にキャリア信号が重畳された出力信号Cm(t)が出力され((図8(B)参照。)、乗算器252からは、狭帯域同期信号をα倍した信号α・sync(t)(図8(C)参照。)にシフタ253により位相が90°シフトされたキャリア信号が重畳された出力信号Cs(t)が出力され(図8(D)参照。)る。その後、ミキサ25後段のバンドパスフィルタ26により不要周波数成分が除去され、送信信号TX(t)が作成される(図8(E)参照。)。
【0066】
図9は、送信信号TX(t)のスペクトルを模式的に表した図である。 伝送データ(フレームシンク11とデータ12)は、図9に示すように、キャリア周波数fcを中心として約100kHzのフラットな周波数特性を持つBPSK変調信号である。 これに対してサイドキャリア信号14は狭帯域であるので、そのスペクトルはδ関数のようにピークを生じる。このため、本実施形態においては、キャリア周波数fcを挟んで両側にサイドキャリア信号14Aおよび14Bが「角」(ツノ)のように飛び出して観測される。 このようなスペクトルは、送信信号TX(t)にFFT(高速フーリエ変換)を施すことにより簡単に観測できる。 このように、送信信号TX(t)のスペクトルの「角」を検出することにより、サイドキャリア信号14Aおよび14Bを容易に抽出できる。後述する無線受信装置3においては、サイドキャリア信号14Aおよび14Bを検出することにより、フレームが存在するか否かの判断を行う。
【0067】
<無線受信装置>
図10は、実施形態1に係る無線受信装置3のブロック図である。図11は、無線受信装置3におけるチャネル特性検出部31のブロック図である。図12は、無線受信装置3における各種信号の波形を模式的に示す図である。図12(A)は受信信号RX(t)の波形を示し、図12(B)はIQ信号(IQ B(t))のI軸に現れる波形を示し、図12(C)はIQ信号(IQ B(t))のQ軸に現れる波形を示し、図12(D)はIQ信号(IQ C(t))のI軸に現れる変調信号(mod(t))の波形を示し、図12(E)はIQ信号(IQ C(t))のQ軸に現れるサイドキャリア信号14(sync(t))の波形を示し、図12(F)はサンプリングパルスSpを示し、図12(G)はコンスタレーションScを示し、図12(H)は複号された伝送データを示す。なお、図12においては、種信号の波形を模式的に示す図である。この図において、無線通信において加わる雑音や時間シフトはゼロであるとして簡略化している。
【0068】
実施形態1に係る無線受信装置3は、実施形態1に係る無線受信装置3から送信された送信信号を受信信号として受信する無線受信装置であって、図10に示すように、受信信号からキャリア信号を分離除去することにより変調信号及び狭帯域同期信号を含むIQ信号(IQB (t))を作成するIQ信号作成部(フロントエンド)30と、伝送路チャネルのチャネル位相特性θ(t)に応じてIQ信号(IQB (t))に位相回転補正を施すことにより伝送路チャネルにおける位相変化を補正したIQ信号(IQc (t))に補正するIQ信号補正部34と、IQ信号(IQc (t))から伝送データを複号する伝送データ複号部42とを備える。
【0069】
実施形態1に係る無線受信装置3において、IQ信号補正部34は、IQ信号作成部30からのIQ信号(IQB (t))から伝送路チャネルのチャネル位相特性θ(t)を抽出するチャネル位相特性抽出部31と、チャネル位相特性抽出部31で抽出されたチャネル位相特性θtに応じてIQ信号(IQB (t))に位相回転補正を施す位相回転補正部33とを有し、IQ信号(IQB (t))を、伝送路チャネルにおける位相変化を補正したIQ信号(IQc (t))に補正するものである。
【0070】
実施形態1に係る無線受信装置3において、IQ信号補正部34は、IQ信号(IQB (t))を、位相回転補正後の変調信号及び位相回転補正後の狭帯域同期信号をIQ軸のそれぞれに含むIQ信号(IQc (t))に補正するものである。
【0071】
まず、無線受信装置3において、アンテナ301で受信された受信信号RX(t)(図12(A)参照。)は、以下の式5で表現される。
【数5】
ここでφc(t) は無線伝搬で発生する位相回転であり、多くの場合その周波数成分は数Hz程度の緩やかな変化である。またδは無線通信で生じる時間遅れを表している。
【0072】
<IQ信号作成部>
フロントエンド30は、図10に示すように、アンプ(AMP)302、バンドパスフィルタ(BPF)303、局部発振器(LO)304及びミキサ(Mixer)305で構成され、受信信号(RX(t))からキャリア信号を分離除去して、以下の式6で表されるIQ信号(IQ B(t))を作成する(図12(B)及び図12(C)参照。)。フロントエンド30は、IQ信号作成部ともいう。
【数6】
ここで総合周波数偏差(Δf)は、無線送信装置2による周波数偏差ΔTXと、無線受信装置3に搭載された局部発振器304の周波数偏差ΔRXとを加えた値であり、送信と受信を総合した周波数偏差となっている。
【0073】
<IQ信号補正部>
チャネル特性抽出部31は、IQ信号(IQ B(t))からサイドキャリア信号14A及び14Bが検出されたか否かを判断し、サイドキャリア信号検出信号(Peak Detect信号)を出力する。 また、IQ信号(IQ B(t))に加わった周波数偏差や位相変化(チャネル特性)を抽出し、位相回転信号(θ(t))として出力する。 後述するように位相回転信号(θ(t))は、以下の式7で表わされる。
【数7】
ここで最終項の「±π」は、位相が+πであるか-πであるのか定まらない(不確定)ことを表している。位相の不確定は、後述するようにフレーム単位で発生する。 すなわち、あるフレームで検出されたIQ信号の極性は正しいが、次に受信されたフレームにおけるIQ信号の極性は全て反転している、というように、フレーム単位での位相不確定が発生する。
【0074】
サイドキャリア信号14A及び14Bが正常に検出されたとき、IQ信号(IQ B(t))には本方式の無線信号が正常に含まれていると考えられる。 そこで、Peak Detect信号=1となり、処理開始スイッチ32がONとなって、後段各回路(33~41)の復号処理が実行される。 サイドキャリア信号14A及び14Bが正常に検出されない場合は、Peak Detect信号=0となって後段各回路の複合処理は実行されない。 チャネル特性検出部31はサイドキャリア信号14が検出されることを待ち続ける。
【0075】
位相回転ブロック33は、位相回転信号θ(t)を用いて周波数偏差や位相変化を補正し、以下の式8のように位相補正済みのIQ信号(IQ C(t))を出力する(図12(D)及び図12(E)参照。)。
【数8】
【0076】
上記の式8を書き直すと、以下の式9が得られる。
【数9】
【0077】
式9の第1項は変調信号(mod(t))の時間シフトを表す項である。 また式9の第2項はサイドキャリア信号14(sync(t))の時間シフトを表す項である。 無線送信装置2においてミキサ25に送り込んだIQ信号が無線受信装置3で復元されることが解る。 但し、式7中、「±π」の項があるために、フレーム毎に極性が不確定になっている。
【0078】
<伝送データ複号部>
IQ信号(IQ C(t))の虚部(Q軸)はバンドパスフィルタ(BPF)34に送り込まれる。 バンドパスフィルタ35は、周波数中心をfs、通過帯域幅を10Hz程度に狭めた狭帯域のバンドパスフィルタである。 虚部を取り出したこと、および、狭帯域フィルタの雑音低減効果により、バンドパスフィルタ34の出力にはサイドキャリア信号14(sync(t))が抽出される。
【0079】
変調信号(mod(t))の復号タイミングは、サイドキャリア信号14(sync(t))がゼロをよぎる瞬間である(図7(D)及び図7(G)参照。)。 そこでゼロクロス検出回路36は、サイドキャリア信号14がゼロをよぎる瞬間にサンプリングパルスSpを発生させる(図12(F)参照。)。 サンプリングパルスSpは、以下の式10で定まるシンボルタイミングtsで生じるインパルスである。 サンプラー37は、I軸の信号(すなわち変調信号(mod(t)))を、サンプリングパルスSpでサンプリングすることにより、コンスタレーションScを得て、シンボル同期を実現する(図12(G)参照。)。
【数10】
ここでnは整数(n=1,2,3,・jである。
【0080】
サンプラー37でサンプリングされたコンスタレーションScは、フレーム単位で極性が不定である。 またシンボル周期(Ts)(図7(A)参照。)の整数倍でタイミングも不定である。 そこでフレームシンク相関演算器38は、サンプラー37の出力と、フレームシンク11との相互相関を演算する。 フレームシンク11は無線受信装置3が予め知っているデータである。 フレームシンク11との相関の絶対値が最大となるタイミングを「M」(整数)、その時の相関値の極性を極性信号(Pol)として出力する。
【0081】
極性反転回路39は、フレームに毎に極性信号(Pol)を求め、極性信号(Pol)
に応じてコンスタレーションScの極性を反転させることにより極性を確定させる。 また遅延回路40は、サンプラー37の出力をMクロックだけ遅延することによりタイミングを合致させる。
【0082】
デマッパー(deMap)41は、シンボル毎に極性を判別することにより、データ12の「1」または「0」を復号して出力する(図12(H)参照。)。 より進化した構成としては、無線送信装置2において畳み込み符号や誤り訂正符号を付加し、符号化変調を適用して最尤復号することも可能である。
【0083】
<チャネル特性抽出部>
IQ信号補正部34におけるチャネル特性抽出部31を詳細に説明する。
図11を参照して、ピーク検出回路310及び311は、図示しないFFT演算器とピークサーチ回路で構成される。 IQ信号(IQ B(t))を高速フーリエ変換して周波数-fs付近、もしくは+fs付近のピークを探し、ピークとなる周波数をそれぞれピーク周波数fp1及びfp2として出力する。またピークのレベルを、それぞれピークレベルLv1及びLv2として出力する。 加算回路312は、2つのピークレベル(Lv1及びLv2)を加算し、コンパレータ313が所定の閾値Thを超えたかどうかを判定する。 この判定により、サイドキャリア信号14A及び14Bが充分なレベルで信号中に含まれているか否かが判断され、その結果がサイドキャリア信号検出信号(Peak Detect信号)として出力される。
【0084】
バンドパスフィルタ(BPF)314は、周波数fp1を中心とする狭帯域のバンドパスフィルタである。 式6に示したIQ信号(IQ B(t))の第2項成分を抽出し、Sub1(t)とする。 サイドキャリア信号14(sync(t))の占有周波数帯域幅は、変調信号(mod(t))のそれに比較して極めて小さく(100分の1よりも小さく)なっているので、バンドパスフィルタ314は狭帯域にすることができる。 この結果、バンドパスフィルタ314を通過する変調信号(mod(t))の成分は、極めて小さいレベルに低下(100分の1以下に低下)させることができる。 同様にしてバンドパスフィルタ(BPF)315は周波数fp2を中心とする狭帯域のバンドパスフィルタであり、式4の第三項成分をSub2(t)として抽出する。 即ち、バンドパスフィルタ314及び315は、以下の式11及び式12に示すSub1(t)及びSub2(t)を抽出する。
【数11】
【数12】
【0085】
逆正接演算器316及び317は、逆正接演算(Arc tangentの演算)を行って位相成分を抽出する。ここで 逆正接演算は、その演算結果が常に±πの範囲に折り畳まれてしまう。 そこで位相連続回路318及び319が、急激な位相変化を検出して2πの整数倍を加えていくことにより、位相の折り畳みを補正する。 すなわち、式13及び式14によりθ1(t)及びθ2(t)を求める。
【数13】
【数14】
式13および式14中、N1及びN2は位相の折り畳みが発生する毎に、その数値を「1」だけ増加するように構成された整数である。N1及びN2の初期値がフレーム毎にリセットされるので、θ1(t)及びθ2(t)は2πの整数倍で不確定である。
【0086】
加算器320及び2分の1除算器321により、θ1(t)、θ2(t)を加えた後に2分の1の演算が施され、位相回転信号θ(t)を式7で説明したように求めることができる。ここで2分の1の演算が施されるので、θ(t)の位相はπの整数倍で不確定となる。すなわち、フレーム毎にN1及びN2の初期値がリセットされるので、フレーム毎にπだけ位相反転したり、しなかったり、ということが発生する。 位相回転信号θ(t)は、送受信において発生した周波数偏差と位相回転を反映しているので、位相回転ブロック33により位相回転を補正することは、既に述べた通りである。
【0087】
以上説明したように、変調信号(mod(t))の占有周波数帯域幅に比較してサイドキャリア信号14の占有周波数帯域幅が極めて小さい(100分の1以下)ことを使って、チャンネル特性抽出部31は、周波数偏差や位相変化をサイドキャリア信号14から抽出する。 これを使って周波数偏差や位相回転を補正することができる。
【0088】
[実施例1]
実施例1においては、実施形態1に係る無線送信装置2及び実施形態1に係る無線受信装置3を備える無線通信システム(実施形態1に係る無線通信システム)を用いて送受信の実験を行った。図13は、実施例1における実験結果を示す図である。図13(A)は、信号処理前のIQ信号(IQ B(t))に関して実部と虚部をプロットした結果を示す図であり、図13(B)はIQ信号(IQ B(t))を高速フーリエ変換して得られたスペクトルを示す図であり、図13(C)は信号処理後のIQ信号(IQ C(t))の実部と虚部をプロットした結果を示す図であり、図13(D)はIQ信号(IQ C(t))をシンボルタイミングtsでサンプリングして2次元平面にプロットしたコンスタレーションを示す図である。
【0089】
図13(A)からは、無線送受信で生じた位相回転や周波数偏差により、I軸の信号とQ軸の信号が時間と共に入れ替わっていることが分かった。また、図13(B)からは、変調信号(mod(t))のスペクトルが100kHzの幅でほぼフラットに存在し、二つのサイドキャリア信号14(±50kHz)が20dB以上の「角」となって観測されていることが分かった。
【0090】
また、図13(C)からは、信号処理(すなわちサイドキャリア信号14Aと14Bを検出し、位相分を求めて位相回転補正を行うこと)により、虚部のサイドキャリア信号14(sync(t))と実部の変調信号(mod(t))がそれぞれ分離されているのが分かった。また、図13(D)からは、BPSKの変調により、2つの情報点が綺麗に分離して検出されていることが分かった。また図示していないが、図13(D)の情報点に含まれている位相の不確定性を補正して復号した結果、伝送データが正しく受信できていることを実験確認した(図12(H)参照。))。
【0091】
[実施形態2]
以上説明したように、実施形態1に係る方法・装置・システムによれば、サイドキャリア信号14によりチャネルで生じる周波数誤差や位相回転を補正して伝送データを正しく復号することができることが分かった。 しかしながら、上記した実施形態1の方法・装置・システムでは、サイドキャリア信号14が特定の2つの周波数に存在していることから、妨害波が特定の周波数に集中している場合に、妨害波をサイドキャリア信号14と誤認してしまう恐れがあるという課題が残る。 また送受信の時刻ずれδを検出するには、フレームシンク相関演算器の相関演算に頼ることになり演算量が多くなるという課題もあった。
【0092】
そこで実施形態2においては、実施形態1の場合と同様に2本のサイドキャリア信号14Aおよび14Bを変調信号(mod(t))に付加するのに加えて、さらにフレームの経過時間とともにこれらの中心周波数を直線的に変化させる。すなわちチャープ変調を施すことにしている。図14は、実施形態2の無線通信フォーマットのコンセプトを示す図である。周波数変化率(チャープレート)βは、図14の例では200kHz/sとしている。 実施形態1の場合と同様に1秒間のフレームを用いた場合、フレーム先頭部分が中心周波数(fc)からマイナス100kHz、フレームの後端ではプラス100kHzシフトすることになる。
【0093】
<無線送信方法>
実施形態2に係る無線送信方法は、実施形態1に係る無線送信方法が有する特徴に加えて、以下の特徴を有する。
すなわち、実施形態2に係る無線送信方法は、送信信号作成ステップにおいては、キャリア信号として、時間とともに周波数が直線的に変化するチャープ信号を用いるという特徴を有する。
【0094】
<無線受信方法>
また、実施形態2に係る無線受信方法は、実施形態1に係る無線受信方法が有する特徴に加えて、以下の特徴を有する。
すなわち、実施形態2に係る無線受信方法は、IQ信号作成ステップにおいては、時間とともに周波数が直線的に変化するチャープ特性を補正するデチャープ信号を用いてデチャープ補正が施されたIQ信号(IQB (t))を作成するという特徴を有する。
また、実施形態2に係る無線受信方法は、IQ信号補正ステップにおいては、デチャープ補正が施されたIQ信号(IQB (t))から周波数ピークを検出し、検出された周波数ピークからIQ信号(IQB(t))に含まれる周波数オフセットを補正するという特徴も有する。
【0095】
<無線送信装置>
実施形態2に係る無線送信装置5は 実施形態1に係る無線送信装置2が有する特徴に加えて、以下の特徴を有する。
すなわち、実施形態2に係る無線送信装置5は、送信信号作成部29は、時間とともにキャリア周波数を直線的に変化させるチャープ変調部50を有するという特徴を有する。
【0096】
図15は、実施形態2に係る無線送信装置5のブロック図である。 図15中、図3に示す無線送信装置2(実施形態1)の場合と同一の機能を実現する部分は説明を省略する。
【0097】
図15に示す鋸歯状波発生回路50は、図示しない発振器とカウンタなどで作られ、時間とともに直線的に変化する信号(鋸歯状波)を生成して、これを局部発振器(LO)27に供給する。 実施形態2において、鋸歯状波発生の周期は1秒間である。 また鋸歯状波の出力振幅は、チャープレートβが所望の値(200kHz/s)となるように調整される。
【0098】
チャープ変調によりキャリア周波数が直線的(傾きβ)に変化するので、送信信号 TX(t)は以下の式15で示される。
【数15】
【0099】
<無線受信装置>
また、実施形態2に係る無線送信装置6は 実施形態1に係る無線受信装置3が有する特徴に加えて、以下の特徴を有する。
すなわち、実施形態2に係る無線送信装置5は、IQ信号作成部30は、時間とともに周波数が直線的に変化するチャープ特性を補正するデチャープ信号を用いてデチャープ補正を施してIQ信号(IQB (t))を作成するという特徴を有する。
また、IQ信号補正部34は、デチャープ補正が施されたIQ信号(IQB (t))から周波数ピークを検出し、検出された周波数ピークからIQ信号(IQB (t))に含まれる周波数オフセットを補正する特徴を有する。
【0100】
図16は、実施形態2に係る無線受信装置6のブロック図である。 図16中、図10に示す無線受信装置3(実施形態1)の場合と同一の機能を実現する部分は説明を省略する。フロントエンド30は実施形態1の場合と同様に受信信号RX(t)を周波数変換して以下の式16に示すIQ信号(IQ A(t))に変換する。
【数16】
【0101】
デチャープ回路60は、後述するようにチャープ変調による周波数変化を逆補正してIQ信号(IQ A(t))をIQ信号(IQ B(t))に変換する。 この後は、実施形態1の場合と同様に位相回転と周波数回転を補正し伝送データを復号する。
【0102】
図17は、無線受信装置6におけるデチャープ回路60のブロック図である。 フロントエンド30から供給されるIQ信号(IQ A(t))は、ローパスフィルタ(LPF)61により帯域制限されて不要な高周波成分が除去される。 ここで通過帯域幅 Chirp Bwは、変調信号(mod(t))が元々持っていた帯域(150kHz)に、チャープ変調による帯域拡大(200kHz)を加味して決定する。 そこで本実施形態では、通過帯域幅(Chirp Bw)を350kHzに設定した。
【0103】
リサンプルブロック(Re Sample)62は、ローパスフィルタ61の出力をサンプリング周波数fxでサンプリングすることにより、サンプリングレートを変換する。 ここでサンプリング周波数fxは、通過帯域幅(Chirp Bw)を上回るように設定する。 本実施形態では例えば fx=400kHzを選択した。
【0104】
発振器(OSC)66は、周波数fxのクロック信号を供給する発振器である。 カウンタ67とアンプ68は、クロックfx をカウントしてその振幅をK倍することにより、鋸歯状波を発生して位相回転器63に供給する。アンプ68の倍率Kは、鋸歯状波の傾きがチャープレートβに一致するように定める。位相回転器63は、鋸歯状波に応じた位相回転を逆方向に与えることで、以下の式17のようにチャープ変調により生じた位相回転を補正する。
【数17】
式17中、δ’は、鋸歯状波をスタートさせるタイミングの遅れを表している。
【0105】
鋸歯状波をスタートさせるタイミングδ’が受信信号RX(t)のタイミングδと異なっていると周波数偏差が生じる。 そこでタイミング誤差δd(=δ―δ’)を周波数偏差Δfに反映させることにより、IQ信号(IQ M(t))を以下の式18のように整理する。
【数18】
このとき周波数偏差Δfは鋸歯状波のタイミング誤差δdを含めて以下の式19になる。
【数19】
【0106】
ここでΔTXとΔRXは、それぞれ送信機と受信機における周波数偏差であるから、一般に数10ppmと小さな値である。 ΔTXとΔRXが充分に小さいと仮定して無視すれば、式19周波数シフトΔfとタイミング誤差δdがチャープレートβを介して関連付けられていることが解る。
【0107】
図18は、デチャープ回路60の動作を模式的に表した図である。図18(A)はデチャープ回路60に入力される前のIQ信号(IQ A(t))を縦軸周波数、横軸時間で表示した図であり、図18(B)は位相回転器63から出力された後のIQ信号(IQ M(t))を示す図である。チャープレートβで定まる傾きにより、周波数シフトΔfとタイミング誤差δdが関連していることが理解される。
【0108】
図18(A)には3つのフレーム信号(第1~第3フレーム信号)が示されている。 これらに対して鋸歯状波は傾きβで示された斜線である。 フレーム信号と鋸歯状波のタイミングは一致しないので、タイミング誤差δd(δd(1)、δd(2)、δd(3))の時間ずれがある。 このため、図18(B)に示す位相回転器63から出力された後のIQ信号(IQ M(t))は、大きく周波数偏差が生じている。 例えば第2フレーム信号は、図18(A)において時間ずれがδd(2)と大きく、図18(B)において大きな周波数誤差Δf(2)を生じている。
【0109】
そこで周波数偏差検出ブロック69は、サイドキャリア信号14から得られる二つのピークを検出し、それらの平均を求めることにより、周波数偏差Δfを求める。 周波数補正ブロック64は、Δfに応じた周波数シフトを与えることにより、周波数偏差を補正する。遅延時間演算回路70は、Δfをチャープレートβで除することにより、鋸歯状波とフレーム信号との時間差であるタイミング誤差δdを求める。 遅延補正ブロック65は可変長のメモリで構成され、時間差δdをキャンセルするように時間補正する。 以上述べたようにサイドキャリア信号14により、周波数と時間のずれを大まかに補正できる。遅延補正ブロック65から得られる信号は、式6に示したIQ信号(IQ B(t))と同じ特性である。
【0110】
[実施例2]
実施例2においては、実施形態2に係る無線送信装置5及び実施形態2に係る無線受信装置6を備える無線通信システム(実施形態2に係る無線通信システム)を用いて送受信の実験を行った。 図19は、実施例2における実験結果を示す図である。図19(A)はIQ信号(IQ A(t))を高速フーリエ変換して得られたスペクトルを示す図であり、図19(B)はIQ信号(IQ A(t))をシンボルタイミングtsでサンプリングして2次元平面にプロットしたコンスタレーションを示す図であり、図19(C)はIQ信号(IQ M(t))を高速フーリエ変換して得られたスペクトルを示す図であり、図19(D)はIQ信号(IQ C(t))をシンボルタイミングtsでサンプリングして2次元平面にプロットしたコンスタレーションを示す図である。
【0111】
図19(A)からは、チャープ変調による周波数拡大により、デチャープ部60に入力される前のIQ信号(IQ A(t))のスペクトルは、300kHz以上に広がっていることが分かった。またサイドキャリア信号14によるピーク(角)も観測されず、フラットな周波数特性となっていることが分かった。 また、図19(B)からは、このようなIQ信号(IQ A(t))を用いてコンスタレーションをプロットした場合、周波数偏差により位相回転が激しくて伝送データの復号ができないことが分かった。
【0112】
また、図19(C)からは、デチャープ部60により位相補正を行って得られたIQ信号(IQ M(t))は、実施形態1の場合と同様に占有周波数帯域幅が150kHz程度まで減少し、またスペクトル中に二つの「角」としてサイドキャリア信号14が観測されることが分かった。また、サイドキャリア信号14の周波数シフトΔfが観測されることが分かった。 また、図19(D)からは、全ての補正がなされたIQ信号(IQ C(t))用いた場合、チャープ変調の悪影響がなく綺麗なコンスタレーションが再現されていることが分かった。 また図示していないが、コンスタレーションに含まれる位相不確定と時間遅延を補正して復号することにより、伝送データが正しく復号できていることを確認した。
【0113】
なお、本発明は上述の実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変形実施可能となるものである。たとえば、下記に示すような変形実施も可能である。
【0114】
(1)上記各実施形態においては、「伝送データ及びシンボルクロックから作成された変調信号」及び「シンボルクロックから作成され、時間軸で見たときにフレーム全期間にわたってかつ連続して存在する狭帯域同期信号」にキャリア信号を重畳して作成され送信された送信信号を用いた、無線送信方法、無線送信装置、無線受信方法、無線受信装置、無線通信方法及び無線通信システムを例にとって本発明を説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0115】
「同期信号として、「時間軸で見たときにフレーム全期間にわたってかつ連続して存在する狭帯域同期信号」を用いて無線通信を行う無線通信方法及び無線通信システムも本発明に含まれるものである。また、「送信信号として、「時間軸で見たときにフレーム全期間にわたってかつ連続して存在する狭帯域同期信号」及び「変調信号」に「時間とともに周波数が直線的に変化するチャープ信号からなるキャリア信号」を重畳させて得られる送信信号を用いて無線通信を行う無線通信方法及び無線通信システムも本発明に含まれるものである。これらの無線通信方法及び無線通信システムによっても、簡単な受信装置構成で同期を実現することが可能であり、なおかつ混信などの影響を受けにくい無線通信方法及び無線通信システムを提供できるという本発明の効果が得られる。
【0116】
(2)上記各実施形態においては、各機能を発揮するものとしてハードウェア(回路、素子など)を用いたが、本発明はこれに限定されるものではない。各機能を発揮するものとしてソフトウェアを用いることもできる。
【符号の説明】
【0117】
2 無線送信装置、3 無線受信装置、5 無線送信装置、6 無線送信装置、10 プリアンブル、11 フレームシンク、12 データ(、13 基準信号、14 サイドキャリア信号、18 シンボルクロック作成部、19 変調信号作成部、20 狭帯域同期信号作成部、21 変調パルス作成部、 22 ローパスフィルタ、23 同期パルス作成部、24 バンドパスフィルタ、25 ミキサ、 26 バンドパスフィルタ、27 局部発振器、28 アンプ、29 送信信号作成部、30 フロントエンド(IQ信号作成部)、31 チャネル特性抽出部、32 処理開始スイッチ、33 位相回転ブロック、34 IQ信号補正部、35 バンドパスフィルタ、36 ゼロクロス回路、37 サンプラー、38 フレームシンク相関演算器、39 極性反転回路、40 遅延回路、41 デマッパー、42 伝送データ複号部、50 鋸歯状波発生回路、60 デチャープ部、61 ローパスフィルタ、62 リサンプルブロック、63 位相回転器、64 周波数補正ブロック、65 遅延補正ブロック、66 発振器、67 カウンタ、68 アンプ、69 周波数偏差検出ブロック、70 遅延時間演算ブロック、200 アンプ、201 アンテナ、210 マッパー、211 立ち上がり検出回路、212 乗算器、213 PLL回路、 214 Dフリップフロップ、215 NOTゲート、216 ANDゲート、230 2分の1分周器、231 エッジパルス生成回路、232 PLL回路、233 Dフリップフロップ、234 NOTゲート、235 ANDゲート、237 Dフリップフロップ、238 NOTゲート、239 ANDゲート、240 反転アンプ、241 加算器、251 乗算器、252 乗算器、253 位相シフタ、254 加算器、301 アンテナ、302 アンプ、303 バンドパスフィルタ、304 局部発振器、305 ミキサ、310 ピーク検出回路、311 ピーク検出回路、312 加算回路、313 コンパレータ、314 バンドパスフィルタ、315 バンドパスフィルタ、316 逆正接演算器、317 逆正接演算器、318 位相連続回路、319 位相連続回路、320 加算器、321 除算器
図1
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図6
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