(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】吊り下げ式介護支援スリングおよびそれを用いる介護支援方法
(51)【国際特許分類】
A61G 5/14 20060101AFI20241106BHJP
A61G 7/14 20060101ALI20241106BHJP
A61G 7/12 20060101ALI20241106BHJP
A61H 3/00 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
A61G5/14
A61G7/14
A61G7/12
A61H3/00 Z
(21)【出願番号】P 2021185309
(22)【出願日】2021-11-13
【審査請求日】2023-12-25
(31)【優先権主張番号】P 2020218867
(32)【優先日】2020-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】521001788
【氏名又は名称】間森 正広
(74)【代理人】
【識別番号】100091465
【氏名又は名称】石井 久夫
(72)【発明者】
【氏名】間森 正広
(72)【発明者】
【氏名】石井 久夫
【審査官】松江 雅人
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-019577(JP,A)
【文献】登録実用新案第3032280(JP,U)
【文献】特開2001-025492(JP,A)
【文献】特開2017-012585(JP,A)
【文献】米国特許第05123131(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61G 5/14,7/10
A61H 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吊り下げ方式で、前方上方に牽引され、身障者の身体を抱かかえるように支持するスリング20であって、身障者の身体に背後から脇下を通ってその前方に回すように身体に装着される、大略U字形をなすフレキシブルな背当て支持本体21と、該本体21の両端部に前記ホイストの牽引ロープ11を接続させる連結手段21aと、胸部前方で水平方向に延び
る胸当て支持枠22とからなり、該支持本体21をホイスト10で前方に牽引して吊り上げ時には、前記胸当て支持枠22により被介護者の前方への倒れ込みを防止しつつ、前記背当て支持本体21で背中に両手を回して抱き上げる状態を形成するとともに、前記胸当て支持枠22により両脇を通って胸部前方に延びる支持本体21からの前方吊り上げ力の内方に向かう、分力により両脇を締め付けることのないように支持することを特徴とする身障者自立支援スリング。
【請求項2】
さらに、前記スリング20が身障者の腰部に巻き回される支持ベルト30の両脇に接続する補助ベルト23を備え、被介護者の背部と臀部への同時牽引を可能する請求項1記載の身障者自立支援スリング。
【請求項3】
電動ホイストHを前後長手方向に走行させるレールRを四方形の枠体の天井部に、前後又は左右にスライド可能に設け、前記ホイストHを前後左右のいずれの位置にも移動可能にとするととも
に、支持フレームの走行レールに電動ホイストHを取り付け、請求項1に記載のスリング20は前記連結手段21aを介して取り付け準備する工程と、
ベッドの身障者は前記スリング20の胸当て支持枠22を取り外して背当て支持本体21を頭から被り、両脇下から背中に回して取り付け、胸当て支持枠22を元に戻してスリングを装着する工程と、を含み、前記電動ホイストHを操作して前記スリング20を吊り上げ(1)起き上がり、(2)端座し、(3)起立する一方、吊り上げ起立状態で転倒を防止しつつ方向転換した後、(4)吊り下げて便座又は車椅子に(5)着座させることを特徴とするスリングを用いる身障者自立支援方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者身体を介護者が前方から両手で抱かかえるように支持する形態を採用する吊り下げ式スリングであって、被介護者がベッドサイド又は車いすから自力で起立でき、起立状態から着座への動作が行えるようにする介護支援スリング及びそれを用いる介護支援方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高齢者等の要介護者の増大に伴い、高度な介護支援が可能となる介護支援用具の需要が高まりつつある。特に、身障者及び介護者にとって困るのは夜間における排便排尿作業である。これが身障者単独で不可能な場合、おしめをさせて排便排尿後に取り換えるというのが一般となるが、排便排尿後長く放置されると、身障者にとってとてもつらい時間となり、また、介護者にとっても便が周りに移動して身体陰部にこびり付くので、おしめ替えがとても大変となる。それだけでなく、このようなおしめ放置が続くと、身障者の体調改善につながらないという状態に至り、認知症の原因となる。そこで、極力身障者の自力だけで排便排尿が行えるようにする介護支援が要望されている。
【0003】
ところで、排便排尿の用事には、一般に
図2に示すように、被介護者にベッドの上で端座位を取らせ(1)、その上で介護者は患者の腰を持ち上げ、患者の膝が折れないように介護者は自分の膝で固定し(2)、介護者に寄りかかってもらうようにして下着を下ろし、患者に座る合図をして静かに腰掛けさせる(3)。排泄後はこの逆の動作(3)、(2)、(1)を行うことになるが、このような介護支援動作を見ても、支援用具として、各動作(1)、(2)、(3)別に、支援の態様が、大きく3態様に分かれる。第1は、ベッドに寝ている患者を如何にしてベッド端部に着座させるか、そして第2にベッド端部の着座位置から如何にして起立させるか、第3に起立した身障者を倒れず保持して歩行させるかである。
これらの3種類の動作を支援するものとして、多くの介護支援装置が提案されているが、軽症者には前方に介護支援台車を置き、これを使って起立し、または起立させ、歩行させる装置が種々提案されている。他方、中、重症者にはスリングシートにお尻から座らせて移動させる方法が採用されるため、スリングシートに関する提案もある。しかし、軽症者は支援台車を使って、着座から起立、起立から歩行、歩行から着座を行うことができるとしても、中、重症者にはこれを使うのは無理である場合が多い。また、中、重症者に対し、スリングシートを利用するようにすると、自力では着座から起立、起立から歩行、歩行から着座を行うことができない。そのため、夜間おしめから離脱するはできない。そこで、天井に設置した走行レールに沿ってホイストを走行させ、ホイストによって身体を吊り上げ、患者をベットで寝ている状態から起こし、ベッド端に着座させ、起立させた後、保持し、歩行まで支援する介護システムが提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、この吊り下げ方式では、頭部支持部5を有する胸部保持帯6にコ字形の吊り上げアーム4を連結し、これを持ち上げるようにするため、胸部保持帯6とそれに連結されるコ字形吊り上げアーム4は剛体の組み合わせとなって、その身体への取り外し取り付けが厄介で、身障者の自力支援装置としては適切でない。そこで、天井に設置した走行レールにおいてホイストを走行させ、そのホイストに吊り上げ機能を持たせ、身障者の自力による起立着座が行える機能を持たせることが身障者の介護支援装置には必要であると考える。そこで、本発明は身障者が独自で身体への着脱が可能であり、かつ容易で、身障者が自力で排便排尿するに必要な介護支援機能を有する装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、従来の床を走行させる介護台車装置は中、重症者の介護支援に不十分である一方、従来の吊り下げ式のスリング装置は中、重症者の自立支援には不向きであることに鑑み、鋭意研究した。その結果、中、重症者の介護支援には、起立時の転倒を防止するのが第1で、次いで、第2に被介護者が自力で起立着座を可能とすることが重要であることに気付いた。即ち、
図2の介護者による被介護者の介護支援の実態を見ると、介護者が胸を合わせ、倒れ込みを防止しつつ、被介護者の身体を前方から両手を背後に回して身体を支持するので、被介護者の転倒の防止を図りつつ、被介護者を起立着座させることができている。したがって、要介護者の起立着座動作を支援するためには、前方から介護者の両手の代わりをして両脇下から背中に両手を回し、身体を支持する一方、介護者が胸を合わせのように、立ち上がり時の前方への倒れ込みを防止する必要があることに気付いた。本発明は、かかる介護の実態に鑑みて工夫したもので、まず、上方から吊り下げ方式であり、身障者、すなわち、被介護者の起立着座時に前方から身体を抱かかえるように支持するとともに、起き上がり時の前方への倒れ込みを防止するスリング20を提供するものである。すなわち、本発明のスリング20は、上方からの吊り下げ式で、被介護者の身体を抱かかえるように支持するとともに、起立時の前方倒れ込みを防止しつつ、身体を牽引するスリングであって、前方から被介護者を抱かかえる介護者の両手の代わりをして被介護者の身体を保持するために、被介護者の身体を背後から被介護者の脇下を通ってその前方に回すように身体に装着される、大略U字形をなすフレキシブルな支持本体21と、該本体21の両端部に前記ホイストの牽引ロープ11を接続させる連結手段21aと、該支持本体21をホイスト10で前方に牽引して吊り上げる時、身体は前方にかがむので、両脇を通って胸部前方に延びる支持本体21に前方かがむ身体を支え、かつ吊り上げ力の内方に向かう、分力により両脇を締め付けることのないように該分力に抗し、胸部前方で水平方向に延びる支持枠22とからなることを特徴とする。本発明のスリングは、好ましくはさらに、前方にかがんだ身体の腰部又は臀部を牽引する支持ベルト30を備えるのがよく、それにより、該支持ベルト30の両脇又は背部を前記スリング20とともにホイスト10により、被介護者の背中上部と背中下方の臀部とを同時牽引を可能する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、大略U字形をなすフレキシブルな支持本体21を前方上方に吊り上げて使用すると、被介護者を介護者が両手で抱かかえるようにし、背中に両手を回して支持するように、スリングで身体を支持できる。また、前記身体を支持するU字形のスリング20が、被介護者の胸部近傍で支持本体21を水平方向に支える支持枠22を備えるので、身体両脇を通って前方に吊り上げるようにして用いる支持本体21を前方に吊り上げる時、介護者が胸を合わせのように、立ち上がり時の前方への倒れ込みを防止するように、身障者の前方への倒れ込みを防止することになる。しかも、両脇を通って胸部前方に延びる支持本体21は前方吊り上げ力の内方に向かう、分力により身障者の両脇を締め付けようとするが、支持枠22はこれに不可なく抗することができるので、身障者の脇を締め付けることがない。また、この支持枠は被介護者の胸部前方で支持本体21から着脱容易に装着されるように構成すると、前記スリング20の身体装着を容易にすることができる。さらに、前記スリングは腰部に巻き回される支持ベルト30を備えると、
図1に示す起立・着座動作をさらに容易にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】介1111護者の被介護者の起立着座支援動作の分解図(1)、(2)及び(3)である。
【
図2】本発明の大略U字形をなすスリングの好ましい構成図である。
【
図3】本発明の
図2の介護スリングを使ったベッドから排便動作に移る自立支援過程の第1例を示し、(1)ベッドからの起き上がり、(2)ベッドの端着座、(3)起立、(4)便器への着座途中、(5)便器への着座に至る動作を示す。
【
図5】本発明の
図2の介護スリングを使った起立から車いすへの着座動作に移る自立支援過程の第2例を示し、(1)起立状態から、(2)車いすへの腰かけ、(3)車いすへの着座に至る動作を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
3
図3は、本発明のスリングを組み込んだ起立着座支援装置の具体的使用例を示す概略図である。該装置は、上方から吊り下げ式で、被介護者の身体を抱かかえるように支持するためのスリング20と、該スリング20を被介護者の身体を抱かえつつ上方に上昇させ、又は下方に下降させる電動ホイスト10と、該電動ホイスト10を有線又は無線方式で作動させる図示しない手動式電動スイッチ及び/又は音声認識機能を備える電動スイッチを備える。
図3では、ベッドを囲むように、電動ホイスト10を吊り下げ、走行させるフレーム枠が以下のように構成される。ベッドを囲み、東西南北の四方に立脚する支柱F2で天井フレームF1に四角をなして架設される。その前後方向に延びる一対の天井フレームF1に左右に延びる横架フレームF3が前後にスライド可能に設けられる。該横架フレームF3に電動ホイスト10が左右方向に走行可能に取り付けられている.該電動ホイスト10には牽引ロープ11を介して身体吊り下げ用スリング20が取り付けられ、手動スイッチで昇降できるようになっている。
【0010】
図2は
図3で用いたスリング20の詳細図である。前記大略U字形のスリング20は、長手方向に延びる、帯状のフレキシブルな支持体からなり、中央部で折り返し、大略U字形に屈曲可能で、該U字形部を背後に当て、そこから脇下に回して装着し、身体背部を支持し、身体両脇を通って前方に吊り上げるようにして用いる支持本体21と、該本体21の両端部に前記ホイストの牽引ロープ11を接続させる連結手段21aと、支持本体21の胸部前方で水平方向に延びる支持枠22とからなる。この支持枠22は前記支持本体21をホイスト10で前方に牽引して吊り上げる時、身障者の前方への倒れ込みを防止するとともに、両脇を通って胸部前方に延びる支持本体21に前方吊り上げ力が働くと、支持本体の内方に向かう、両脇を締め付ける分力が働こうとするが、これに抗し、その分力を受ける。スリングの支持本体21と支持枠22は直径Φほぼ50cmのスリング径を形成するが、前記支持枠22は被介護者の胸部前方で支持本体21に着脱自在に装着されるようにすると、前記スリング20の身体装着を容易にする。
【0011】
図4は大略U字形をなすスリング20の変形例である。ここでは、スリング20の大略U字形をなす、支持本体は21は、
図2よりU字形の各脚部を前方に長く延ばし、身障者が両手で支持本体21の脚部先端を把持できるようにしている。これにより、起き上がり、起立、着座途中では手で把持することができ、動作が容易になる。前記スリング20が、前方から被介護者を抱かかえる介護者の両手の代わりをして被介護者の身体を保持するために、大略U字形の支持本体を備えるところは同じである。すなわち、被介護者の身体を背後から被介護者の脇下を通ってその前方に回すように身体に装着され、被介護者の身体をスリングで抱かかえるように上方から吊り下げ支持し、起立・着座時の身体転倒を防止する一方、前記U字形スリングは、牽引ロープ11を介して電動ホイスト10に牽引され、被介護者自身が手動式電動スイッチ又は音声認識機能を有する電動スイッチを介して有線又は無線方式で電動ホイスト10を作動させると、前記スリング20は前方上方に向け牽引上昇され、被介護者の身体転倒を防止しつつ、被介護者を着座位置から起立位置への身体位置の変換を支援可能であるとともに、前記スリング20は起立位置で身体転倒を防止しつつ、回転して前後身体位置を変換可能であり、さらに前記スリング20は前方から下方に向け牽引下降され、身体転倒を防止しつつ、被介護者を起立位置から着座位置への身体位置変換を支援可能である。また、腰部に巻き回される支持ベルト30を設け、該支持ベルト30の両脇をそこから下方に延びる補助ベルト23で前記スリング20に連結し、接続すると、被介護者の背部と臀部への同時牽引を可能するので着座から起立するのが容易となる。
【0012】
図3では本発明の
図2又は
図4の介護スリング20を使ったベッドから排便動作に移る自立支援過程の第1例を示し、(1)ベッドからの起き上がり時には身障者の背中を支持本体21のU字形部が上方に引き上げるので半身になりやすく、(2)支持本体の先端を手で把持してベッドの端に着座することができる。(3)ここから、両膝を締め、前方に屈みつつ、両手で支持本体の先端を掴むと、ホイストで支持本体20は吊り上げられるが、身障者の前方への倒れ込みが支持枠22で防止されるので、容易に起立することができる。(4)便器への着座途中では着座から起立する場合と同様に、腰つきが不安定になるので身障者は腰部に支持ベルト30を巻き付けて設け、該支持ベルト30の両脇とスリング20とを補助ベルト23で連結するのがよい。(5)最後は、便器のそばの支持フレーム40を握って便器へ安定して着座することができる。
【0013】
図4では、本発明の
図2の介護スリングを使った起立から車いすへの着座動作に移る自立支援過程の第2例を示す。(1)起立状態では、U字形支持本体21で背中から両脇を通って上方に吊り上げられるとともに胸元では支持枠22で倒れ込みが防止されているから、転倒が防止され、安全な体位を保持できる。(2)起立状態から車いすへの腰かけ時には、腰部に巻き回される支持ベルト30の両脇から補助ベルト23が延び、前記スリング20に連結し、背中と同時に支持されるので、着座時の腰のふらつきが防止できる。そのため、(3)車いすへ安全に着座することができる。
【0014】
、
以上、本発明は実施形態をもとに説明した。この実施形態は例示であり、それらの各構成要素あるいは各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした 変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解される。
【符号の説明】
【0015】
10・・・電動ホイスト
20・・・スリング