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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】光学フィルター及び撮影レンズユニット
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/02 20060101AFI20241106BHJP
【FI】
G02B5/02 B
G02B5/02 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021513501
(86)(22)【出願日】2020-02-13
(86)【国際出願番号】 JP2020005542
(87)【国際公開番号】W WO2020208935
(87)【国際公開日】2020-10-15
【審査請求日】2022-11-11
(31)【優先権主張番号】P 2019075347
(32)【優先日】2019-04-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000227364
【氏名又は名称】株式会社nittoh
(74)【代理人】
【識別番号】110002697
【氏名又は名称】めぶき弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100104709
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 誠剛
(72)【発明者】
【氏名】望月 恵一
【審査官】池田 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-168464(JP,A)
【文献】国際公開第2018/074527(WO,A1)
【文献】特開2000-111714(JP,A)
【文献】国際公開第2016/195015(WO,A1)
【文献】特開2013-033208(JP,A)
【文献】特開2011-150790(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0333617(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材と、
前記母材に混合された複数の光散乱粒子と、を有する光学フィルターであって、
当該光学フィルターは、撮像レンズユニットの光軸上に配置され、ソフトフォーカス用に使用されるものであり、
複数の前記光散乱粒子は、
入射光の進行方向と同一の方向を0°としたときに、0°から10°の範囲の散乱角度で、
波長633nmの散乱光強度分布、波長546nmの散乱光強度分布及び波長486nmの散乱光強度分布が互いに異なる曲線を描く散乱光強度の波長依存特性を有し、散乱光強度の前記波長依存特性によって、波長633nm、波長546nm及び波長486nmの3つの波長について散乱光強度分布を重ねると、散乱角度が変わるにつれ散乱光強度が優勢な波長が入れ替わり、強調される色が変わる虹彩現象を生ずる散乱光強度分布を現す、光散乱粒子が、粒径を異にして複数含まれるように構成され、
粒径を異にする複数の前記光散乱粒子は、可視光の波長よりも大きな径の球形状の粒子で、前記径の異なる複数種類の粒子がそれぞれ等量ずつ混合されるように構成され、
複数の前記光散乱粒子によって、前記3つの波長の散乱光強度分布が相殺されて均され、前記虹彩現象が解消されるように構成されている、
ことを特徴とする光学フィルター。
【請求項2】
母材と、
前記母材に混合された複数の光散乱粒子と、を有する光学フィルターであって、
当該光学フィルターは、撮像レンズユニットの光軸上に配置され、ソフトフォーカス用に使用されるものであり、
複数の前記光散乱粒子は、
可視光の波長よりも大きな径の粒子で、
入射光の進行方向と同一の方向を0°としたときに、0°から10°の範囲の散乱角度で、
波長633nmの散乱光強度分布、波長546nmの散乱光強度分布及び波長486nmの散乱光強度分布が互いに異なる曲線を描く散乱光強度の波長依存特性を有し、散乱光強度の前記波長依存特性によって、波長633nm、波長546nm及び波長486nmの3つの波長について散乱光強度分布を重ねると、散乱角度が変わるにつれ散乱光強度が優勢な波長が入れ替わり、強調される色が変わる虹彩現象を生ずる散乱光強度分布を現す、光散乱粒子が、複数含まれるように構成され、
前記複数の光散乱粒子のそれぞれは、球形粒子の表面に複数の小突起部を有する粒子からなるように構成され、
前記複数の光散乱粒子は、個々の前記光散乱粒子を見たときに、前記球形粒子の表面及び前記小突起部によって、可視光の波長よりも大きな異なる曲率半径の部位を有し、複数の前記光散乱粒子によって、前記3つの波長の散乱光強度分布が相殺されて均され、前記虹彩現象が解消されるように構成されている、
ことを特徴とする光学フィルター。
【請求項3】
母材と、
前記母材に混合された複数の光散乱粒子と、を有する光学フィルターであって、
当該光学フィルターは、撮像レンズユニットの光軸上に配置され、ソフトフォーカス用に使用されるものであり、
複数の前記光散乱粒子は、
可視光の波長よりも大きな径の粒子で、
入射光の進行方向と同一の方向を0°としたときに、0°から10°の範囲の散乱角度で、
波長633nmの散乱光強度分布、波長546nmの散乱光強度分布及び波長486nmの散乱光強度分布が互いに異なる曲線を描く散乱光強度の波長依存特性を有し、散乱光強度の前記波長依存特性によって、波長633nm、波長546nm及び波長486nmの3つの波長について散乱光強度分布を重ねると、散乱角度が変わるにつれ散乱光強度が優勢な波長が入れ替わり、強調される色が変わる虹彩現象を生ずる散乱光強度分布を現す、光散乱粒子が、粒径を異にして複数含まれるように構成され、
粒径を異にする複数の前記光散乱粒子は、当該光学フィルターに含まれ球形状の粒子の平均粒子径をΦとし前記球形状の粒子の合計個数をNsとしたとき、
平均粒子径が0.4Φ以上かつ0.6Φ以下の範囲内にある粒子が0.1Ns個以上含まれており、且つ、平均粒子径が1.3Φ以上かつ1.8Φ以下の範囲内にある粒子が0.1Ns個以上含まれ、平均粒子径が0.9Φ以上かつ1.1Φ以下の範囲内にある前記球形状の粒子が0.5Ns個以上含まれ、前記母材に混合される前記球形状の複数の粒子は、粒子径において少なくとも8μm以上の差異を有しているように構成され、
複数の前記光散乱粒子によって、前記3つの波長の散乱光強度分布が相殺されて均され、前記虹彩現象が解消されるように構成されている
ことを特徴とする光学フィルター。
【請求項4】
撮影レンズと、請求項1~のいずれかに記載の光学フィルターと、を備えた撮影レンズユニットであって、
前記光学フィルターのパワー0(ゼロ)である、
ことを特徴とする撮影レンズユニット。
【請求項5】
撮影レンズと、請求項1~のいずれかに記載の光学フィルターと、を備えた撮影レンズユニットであって、
前記光学フィルターは負のパワーを有している、
ことを特徴とする撮影レンズユニット。
【請求項6】
撮影レンズと、請求項1~のいずれかに記載の光学フィルターと、を備えた撮影レンズユニットであって、
負のパワーを有する前記光学フィルターと、
前記光学フィルターの前記母材と同一の材料からなり、前記光学フィルターの凹面で接続されて前記光学フィルターと一体化された透明部材と、
を具備し、
一体化された前記光学フィルター及び前記透明部材によるパワーが0(ゼロ)となるように構成されている、
ことを特徴とする撮影レンズユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学フィルター及び当該光学フィルターを用いた撮影レンズユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
撮影者は、撮影する映像・写真にぼかし感を効かせた柔らかい出来栄えを与えるために、ソフトフォーカス用の光学フィルターを用いることがある。なお、「ぼかし(す)」とは、「軟焦点化あるいはソフトフォーカス化」とも言われる処理あるいは状態のことである。したがって、以下の記載において、「ぼかし」のことを「ソフトフォーカス」と記載することがある。
【0003】
従来、ソフトフォーカス用の光学フィルターを得るためにフィルターの表面を荒らしたりフィルターの表面に凹凸を設けたりする技術が広く知られている。しかし、従来のソフトフォーカス用の光学フィルターは、フィルター表面に設けられた傷、凹凸等が陰影として写り込んでしまうという課題がある(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
一方、光学フィルターではないが、ディスプレイ用の光拡散板を得るため母材に光散乱用粒子を混合する技術も提案されている(例えば、特許文献1参照)。
この技術を転用してソフトフォーカス用の光学フィルターを構成することも検討できる。今般、本発明の発明者はこのような着想の下で研究開発を行い、光学フィルター(比較例の光学フィルター)を作成した。
図15は、比較例の光学フィルター9を説明するために示す図である。
図15(a)は、比較例の光学フィルター9を評価する際の評価系の配置を示す図である。まず、比較例の光学フィルター9として、母材(図示を省略)に平均粒径4μmのシリコーン粒子を混合させたものを準備した。光学フィルター9は平板状とし、光学フィルター9の光学上のパワーは0(焦点距離無限大)とした。撮影対象物としての物体OB(ここではスポットライト)を暗室内に置き、レンズ系LSSを挟んで物体OBが置かれている側と反対の側に光学フィルター9を配置した。符号IPは結像面を示している。
図15(b)は、比較例の光学フィルター9を用いながら結像面IPにおける像を撮影した実写真である。比較例の光学フィルター9によれば、当該実写真においてスポットライト(写真中央のやや左寄りの位置)の輪郭の周囲が柔らかくぼかされ、また、スポットライトから発せられた光に基づいて右方向にハロを生じる。
しかしながら、比較例の光学フィルター9による実写真には、ぼかされた部分やハロに虹彩が生じてしまっている。なお、図15(b)はモノクロ画像であるため虹彩現象を確認しづらいが、図15(b)の元となるカラー画像では、スポットライトから右方向に順に色が分離して虹彩現象が発生している様子(符号IRの矢印の先を参照)が明らかとなっている。
ソフトフォーカス用の光学フィルターにおいては、フィルター表面の凹凸等が陰影として写り込まないこと、また、ソフトフォーカスされた結像に虹彩を生じないことが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】佐藤治夫、「ニッコール千夜一夜物語-第五十一夜 Nikon SoftFocus Filter Soft1、Soft2」、[online]、[平成31年1月17日検索]、株式会社ニコンHP インターネット(URL:https://www.nikon-image.com/enjoy/life/historynikkor/0051/index.html)
【文献】特開平5-257002号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は上記した事情に鑑みてなされたものであり、表面を荒らす方式によらない光学フィルターであって、虹彩現象の発生を抑制することができるソフトフォーカス用の光学フィルターを提供することを目的とする。また、虹彩現象の発生を抑制できるレンズユニットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の発明者は、波長毎の散乱光強度分布(パターン)が互いに異なる散乱体を複数種類とり揃え、これら種類の異なる散乱体をブレンドして光学フィルターに混合することで散乱光強度の波長依存を解消し、虹彩現象の発生を抑制できることを見出した。本発明は以下の要素からなる。
【0008】
[1]本発明の光学フィルターは、母材と、前記母材に混合された複数の光散乱粒子と、を有し、前記複数の光散乱粒子には、「波長別の散乱光強度分布」の現れ方が互いに異なる複数の散乱体が含まれている、ことを特徴とする。
なお、ここでの「波長別の散乱光強度分布」は、その詳しい定義を[発明を実施するための形態]で後述するが、大まかにいうと散乱角度に応じた散乱光強度に関するパターンをいう。
【0009】
[2]本発明の光学フィルターにおいては、前記複数の光散乱粒子は、互いに径の異なる球形状の複数の粒子からなる、ことが好ましい。
【0010】
[3]本発明の光学フィルターにおいては、前記複数の光散乱粒子は、互いに形状の異なる複数の粒子からなる、こと好ましい。
【0011】
[4]本発明の光学フィルターにおいては、前記複数の光散乱粒子のそれぞれは、球形粒子の表面に複数の小突起部を有する粒子からなる、ことが好ましい。
【0012】
[5]上記[2]に記載の光学フィルターにおいては、当該光学フィルターに含まれる前記球形状の粒子の平均粒子径をΦとし前記球形状の粒子の合計個数をNsとしたとき、 平均粒子径が0.4Φ以上かつ0.6Φ以下の範囲内にある粒子が0.1Ns個以上含まれており、且つ、平均粒子径が1.3Φ以上かつ1.8Φ以下の範囲内にある粒子が0.1Ns個以上含まれている、ことが好ましい。
換言すると、上記[2]に記載の光学フィルターにおいては、Φに対して40%以上かつ60%以下の平均粒子径を有する粒子と、Φに対して130%以上かつ180%以下の平均粒子径を有する粒子とを、それぞれ少なくとも10%以上含むことが好ましい。
【0013】
[6]上記[5]に記載の光学フィルターにおいては、平均粒子径が0.9Φ以上かつ1.1Φ以下の範囲内にある前記球形状の粒子が0.5Ns個以上含まれている、ことが好ましい。換言すると、Φに対して±10%の平均粒子径を有する球形状の粒子を50%以上含むことが好ましい。
【0014】
[7]上記[5]又は[6]に記載の光学フィルターにおいて、前記母材に混合される前記球形状の複数の粒子は、粒子径において少なくとも8μm以上の差異を有している、ことが好ましい。
【0015】
[8]本発明の撮影レンズユニットは、撮影レンズと、上記[1]~[7]のいずれかに記載の光学フィルターと、を備えた撮影レンズユニットであって、前記光学フィルターのパワーが実質的に0(ゼロ)である、ことを特徴とする。
なお、ここでいう「パワー」とは、当該光学フィルターがレンズとして光を曲げる強さをいい、焦点距離の逆数に対応する。「パワーが実質的に0(ゼロ)」の光学フィルターとは、例えば所与の光学系に当該光学フィルターを挿入する以前と、挿入した後とでは、焦点距離の長さの変化が実質的に無いような光学フィルターをいう。つまり、「パワーが0(ゼロ)」とは、焦点距離が無限大であることをいう。
【0016】
[9]本発明の撮影レンズユニットは、撮影レンズと、上記[1]~[7]のいずれかに記載の光学フィルターと、を備えた撮影レンズユニットであって、前記光学フィルターは負のパワーを有している、ことを特徴とする。
なお、ここでいう「負のパワー」とは、通過した光を発散させる(焦点位置を光の入射側に位置させる)光学作用をいう。
【0017】
[10]本発明の撮影レンズユニットは、撮影レンズと、上記[1]~[7]のいずれかに記載の光学フィルターと、を備えた撮影レンズユニットであって、負のパワーを有する前記光学フィルターと、前記光学フィルターの前記母材と同一の材料からなり、前記光学フィルターの凹面で接続されて前記光学フィルターと一体化された透明部材と、を具備し、一体化された前記光学フィルター及び前記透明部材によるパワーが実質的に0(ゼロ)となるように構成されている、ことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施形態1に係る光学フィルター1を説明するために示す図である。
図2】単一の真球粒子に光が当たった場合の散乱角度に応じた散乱光強度の分布について説明するために示す図である。
図3】球形状の粒子の径によって「波長別の散乱光強度」の現れ方が異なることを説明するために示す図である。
図4】散乱光強度分布の波長依存の解消の例を説明するために示す図である。
図5】実施形態2に係る光学フィルター2を説明するために示す図である。
図6】実施形態2に係る光学フィルター2の作用・効果を説明するために示す図である。
図7】実施形態3に係る光学フィルター3を説明するために示す図である。
図8】実施形態3に係る光学フィルター3の作用・効果を説明するために示す図である。
図9】実施形態4に係る光学フィルター4を説明するために示す図である。
図10】実施形態5に係る光学フィルター5を説明するために示す図である。
図11】実施形態6に係る撮影レンズユニット10A,10B,10Cを説明するために示す図である。
図12】実施形態7に係る撮影レンズユニット20A,20B,20Cを説明するために示す図である。
図13】実施形態8に係る撮影レンズユニット30A,30B,30Cを説明するために示す図である。
図14】比較例の光学フィルター9と実施例に係る光学フィルターとを比較説明するために示す図である。
図15】比較例の光学フィルター9を説明するために示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の光学フィルター及び撮影レンズユニットについて、図に示す実施形態に基づいて説明する。なお、各図面は模式図であり、必ずしも実際の寸法を厳密に反映したものではない。
【0020】
[実施形態1]
1.実施形態1に係る光学フィルター1の構成
図1は、実施形態1に係る光学フィルター1を説明するために示す図である。図1(a)は、光学フィルター1の第1主面1aを正面とし第2主面1bを背面としたときに、光学フィルター1を右側から視たときの右側面図である。符号AXは光軸を示す。図1(b)は、図1(a)の破線Aで囲まれた部分を拡大した要部拡大断面図である。
なお、巨視的に言えば、後述する実施形態2に係る光学フィルター2及び実施形態3に係る光学フィルター3の外観は光学フィルター1の外観と基本的に変わりが無い。よって、図1(a)においては、共通的に同一の平板状のフィルターを図示しながら実施形態1~3に係る光学フィルター1,2,3として符号を付している。また、光学フィルターの構成要素である第1主面1a,2a,3a、第2主面1b,2b,3b、複数の光散乱粒子200A,200B,200C、複数の散乱体210A,210B,210C等についても、共通的に同一の各構成要件を図示しながら、これら実施形態1~3に係る光学フィルター1,2,3の各構成要件の符号を同列に付している。
【0021】
(1)光学フィルター1の基本構成
光学フィルター1は、いわゆるソフトフォーカス用の光学フィルターである。
図1(a)に示すように、光学フィルター1は第1主面1a及び第2主面1bを有する「平板状」となっている。光学フィルター1は均質な母材100(後述)をベースとしており、第1主面1a及び第2主面1bは互いに略平行の関係にある。このため、光学フィルター1のパワーは実質的に0(ゼロ)となっている。
光学フィルター1を光軸AXに沿って視たときに、光学フィルター1は、全体として略円形のものであってもよい。光学フィルター1の一部は、鏡筒(後述)の内径又は外径と整合して嵌め込めるような形状であってもよい。また、光学フィルター1の全体は、略矩形の形状とし撮影レンズユニットの前側(被写体側)に配置されたりそこから跳ね上げられ撮影レンズユニットの光路から退避させられるものであってもよい。このように光学フィルター1の平面的形状は適宜の形状を採用することができる。
【0022】
光学フィルター1は、母材100と、母材100に混合された複数の光散乱粒子200Aと、を有している。
複数の光散乱粒子200Aは、母材100内に単位体積当たりの粒子の存在数が概ね同じとなるよう混合されている。つまり、光が通過する場所による散乱ムラを低減し、虹彩現象の抑制ムラを低減するため、光散乱粒子200Aは概ね均一の濃度で母材100内に散在している。
【0023】
(2)母材100
母材100は、一定程度の透明性を確保できるものであれば如何なる部材であってもよい。実施形態1では、母材100としてアクリル樹脂を用いる。より具体的にはポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)を用いる。
【0024】
(3)光散乱粒子200A
光散乱粒子200Aは、母材100に混合して母材100の内部に配置可能なものであり、且つ、母材100に入射した光がこれに当たることにより光散乱させることができるものであれば如何なる部材からなっていてもよい。実施形態1では重合体(ポリマー)の粒子を用いる。より具体的にはシリコーン樹脂を用いる。
【0025】
(4)母材100及び光散乱粒子200Aの屈折率における関係
母材100の屈折率と光散乱粒子200Aの屈折率との間の差は概ね0.05程度であることが好ましい。なお、これらの屈折率の差は厳密に0.05である必要はなく、実施形態1の作用・効果を奏する実用の範囲内(以下、単に「実用の範囲内」ということがある)で、0.05に対し上下した値であってもよい。
例えば上記した部材を採用した場合、母材100を構成するPMMAの屈折率はd線(587.56nm)に対して約1.4918である。一方、光散乱粒子200Aを構成するシリコーン樹脂の屈折率はd線に対して約1.4401である。よって上記の場合、母材100の屈折率と光散乱粒子200Aの屈折率との間の差は0.0517となっており、好適な屈折率の差となっている。
【0026】
(5)互いに径の異なる球形状の粒子211
実施形態1に係る光学フィルター1において「複数の光散乱粒子200A」は、互いに径(直径)の異なる球形状の複数の粒子211(211a,211b,211c・・・)からなっている。
【0027】
図1(b)に示すように、具体的には「複数の光散乱粒子200A」は、径(直径)d1の第1真球粒子211a、径(直径)d2の第2真球粒子211b、径(直径)d3の第3真球粒子211c・・・といった「径の異なる真球粒子群」によって構成されている(但し、d1,d2,d3・・は互いに異なる値である)。例えば、径(直径)がそれぞれ3μm,4μm,5μm,6μm,7μm,8μm,9μmとなっている複数種類の真球粒子をそれぞれ同量ずつ準備したものをもって、「複数の光散乱粒子200A」としてもよい。
【0028】
ここでの「球形状」とは真球形状をいうものとする。しかし、厳密な意味で真球形状である必要はない。例えば、楕円体状の粒子も実用の範囲内で「球形状」の光散乱粒子に含まれるものとする。
ただ、光散乱粒子の形状は概ね真球形状であることが好ましい。真球形状の光散乱粒子は入手が比較的容易であり、且つ、後述する波長別の散乱光強度の偏りを均すに当たって制御がし易いからである。
【0029】
(6)単一の真球粒子による散乱
次に図2を用いながら、実施形態1における「散乱体」の概念について説明する。
図2は、単一の真球粒子に光が当たった場合の散乱角度に応じた散乱光強度の分布について説明するために示す図である。図2(a)は、単一の真球粒子(球形状の粒子211)に光が当たって光が散乱する様子を模式的に示した図である。図において、矢印の方向は光の進行方向を模式的に例示し、矢印の長さは光の強度を模式的に例示している。
図2(a)の模式図のように、一般に散乱体に光が当たると光が散乱する。様々なものが散乱体となりうる。真球粒子(球形状の粒子211)も散乱体を構成する。
実施形態1では可視光の波長よりも大きな径の真球粒子を散乱体としているため、かかる散乱体(真球粒子)による光散乱はレイリー散乱よりもミー散乱の方が卓越することとなる。
一般に、ミー散乱では散乱角度によって散乱光強度が変わることが知られている。
本明細書において、散乱角度と散乱光強度と間の関係を分布として表したものを、散乱角度に応じた散乱光強度の分布(以下、単に「散乱光強度分布」ということがある)というものとする。
【0030】
(7)波長別の散乱光強度分布
図2(b)は、所定の粒径(ここでは6.8μm)の単一の真球粒子に光が当たり光散乱したときの散乱角度に応じた散乱光強度の分布(散乱光強度分布)を表すグラフである。このグラフは、入射光に対する散乱光の強度を360°又は180°に亘ってプロットしたいわゆる「放射強度パターン」について、その一部を直交的に表現したものと同等のグラフでもある。グラフの横軸は、真球粒子(粒子211)に光を当てた方向(入射光の進行方向)と同一の方向を0°と定義したときの散乱角度を表している。グラフの縦軸は、散乱角度0°における散乱光の強度を1としたときの各角度における散乱光の相対的な強度を表している。散乱光は現実には様々な波長(色)を含んでいるが、このグラフでは、代表例として633nm(赤)、546nm(緑)及び486nm(青)の3つの波長についての散乱光強度分布を重ねるようにして図示している。
【0031】
散乱角度に応じた散乱光強度の分布(散乱光強度分布)は、光の波長(色)によって変わる。
図2(b)に示すように、例えば633nm(赤)の散乱光強度分布、546nm(緑)の散乱光強度分布及び486nm(青)の散乱光強度分布は互いに異なる曲線を描いている(散乱光強度の波長依存)。
同じ散乱角度であれば、各波長(色)の散乱光強度が互いに同じというわけではない。同じ散乱角度であっても波長(色)によって散乱光強度は異なっている(グラフが交差する角度は除く)。
当該散乱角度において散乱光強度が強い波長(色)は、散乱光強度が弱い波長(色)を相対的に抑制し、結果的に散乱光強度が強い波長(色)が強調されることとなる(色の分離)。散乱角度が変わるにつれ散乱光強度が相対的に強い(優勢な)波長は順次入れ替わり、その結果、散乱角度が変わるにつれ強調される色も移り変わっていくこととなる(虹彩現象)。
図2(b)の例によれば、散乱角度0°から4°手前辺りまでは633nm(赤)が優勢となり、それ以降は角度が約1°増すごとに486nm(青)、546nm(緑)及び633nm(赤)が順に入れ替わるようにして優勢となるような「波長別の散乱光強度分布」の現れ方となっている。
【0032】
図2(c)は、所定の粒径(ここでは6.8μm)の単一の真球粒子に入射光が当たって散乱したとき、入射光進行方向に垂直な面(入射光を当てた側とは粒子211を挟んで反対側における面)で捉えた像をシミュレーションにより表した図である。
図2(c)はモノクロ画像であるため確認しづらいが、図2(c)の元となるカラー画像では、散乱角度が変わるにつれて赤、青、緑、赤・・というように優勢となる色が順次入れ替わる虹彩現象を明らかに確認することができる。
【0033】
(8)粒子径による「波長別の散乱光強度」の現れ方の違い
今回、球形状の粒子の径が異なると(すなわち散乱体の種類が異なると)、これに対応するように「波長別の散乱光強度」の現れ方が異なることが確認された。
図3は、球形状の粒子の径によって「波長別の散乱光強度」の現れ方が異なることを説明するために示す図である。図3(a)~図3(c)はそれぞれ図2(b)に対応するものであるため、グラフが示す意味、横軸、縦軸の詳細等の説明は図2(b)の説明を援用する。図3(a)は粒径4μmの単一の真球粒子(仮に第1散乱体とする)を母材100に混合した場合の「散乱光強度分布」を表すグラフである。同様に、図3(b)は粒径7μmの単一の真球粒子(仮に第2散乱体とする)を母材100に混合した場合の「散乱光強度分布」を表すグラフであり、図3(c)は粒径9μmの単一の真球粒子(仮に第3散乱体とする)を母材100に混合した場合の「散乱光強度分布」を表すグラフである。
【0034】
第1散乱体においては、図3(a)に示すように、0~7°辺りまでは633nm(赤)が優勢となり、7°以降は486nm(青)及び546nm(緑)が順に優勢となるような散乱光強度分布の現れ方(第1パターン)となっている。
また、第2散乱体においては、図3(b)に示すように、0~4°辺りまでは633nm(赤)が優勢となり、それ以降は角度が約1°増すごとに486nm(青)、546nm(緑)及び633nm(赤)が順に入れ替わるようにして優勢となるような散乱光強度分布の現れ方(第2パターン)となっている。
さらに、第3散乱体においては、図3(c)に示すように、0~3°辺りまでは633nm(赤)が優勢となり、それ以降は角度が約0.7°増すごとに486nm(青)、546nm(緑)及び633nm(赤)が順に入れ替わるようにして優勢となるような散乱光強度分布の現れ方(第3パターン)となっている。
このように、同じ球形状の粒子(真球粒子)であったとしても、粒子の径が異なれば「波長別の散乱光強度」の現れ方(パターン)も異なってくることが確認された。
以上のような知見を踏まえ、実施形態1に係る光学フィルター1を次のように構成するものとした。
【0035】
(9)散乱体を構成する「径の異なる真球粒子群」
実施形態1に係る光学フィルター1において、複数の光散乱粒子200Aには、「波長別の散乱光強度分布」の現れ方が互いに異なる複数の散乱体210Aが含まれている。
【0036】
上記したように、径d1の第1真球粒子211a(第1散乱体)、径d2の第2真球粒子211b(第2散乱体)、径d3の第3真球粒子211c(第3散乱体)・・・は、波長別の散乱光強度分布の現れ方が互いに異なっている。いうなれば散乱特性が互いに異なっている。つまり、実施形態1においては、第1真球粒子211a(第1散乱体)、第2真球粒子211b(第2散乱体)、第3真球粒子211c(第3散乱体)・・・は、互いに特性の異なる別々の散乱体と定義される。
よって、実施形態1において、「波長別の散乱光強度分布の現れ方が互いに異なる複数の散乱体210A」は、互いに径の異なる球形状の複数の粒子211(211a,211b,211c・・・)(径の異なる真球粒子群)によって構成する。
【0037】
2.実施形態1に係る光学フィルター1の作用・効果
(1)互いに特性の異なる散乱体のブレンド
実施形態1に係る光学フィルター1は、母材100と、母材100に混合された複数の光散乱粒子200Aと、を有し、複数の光散乱粒子200Aには「波長別の散乱光強度分布」の現れ方が互いに異なる複数の散乱体210A(211a,211b,211c・・・)が含まれている。
したがって、「波長別の散乱光強度分布」の現れ方が互いに異なる散乱体(いうなれば互いに散乱特性の異なる散乱体)を適宜ブレンドすることにより、波長によって異なっていた散乱光強度の強弱パターン(波長別の散乱光強度分布)が相殺されるようにして均されることとなり、全体としてみると散乱光強度分布の波長依存を解消することができる(相殺による散乱光強度分布の波長依存の解消)。
【0038】
図4は、散乱光強度分布の波長依存の解消の例を説明するために示す図である。図4図2(b)に対応するものであるため、グラフが示す意味、横軸、縦軸の詳細等の説明は図2(b)の説明を援用する。図4は、粒径として3μm,4μm,5μm,6μm,7μm,8μm,9μmをそれぞれ有する真球粒子(光散乱粒子200A/散乱体210A)を等量ずつブレンドし、ブレンドした真球粒子群を母材100に混合した場合の「散乱光強度分布」を表すグラフである。
【0039】
図4に示すように、633nm(赤)、546nm(緑)及び486nm(青)の3つの波長の散乱光強度分布を重ねてみると、0°~10°の間のどの散乱角度においても、特定波長(特定色)のみ優勢となってはおらず、概ね3波長の散乱光強度は同程度のレベルになっており、散乱光強度分布の波長依存が解消されている。つまり、上記のように、「波長別の散乱光強度分布」の現れ方が互いに異なる複数の散乱体210A(211a,211b,211c・・・)を母材に混合する(ブレンドする)ことにより、その結果、虹彩現象の発生を抑制することができる。この虹彩現象の発生の抑制により結像の輪郭に見える収差による色のにじみを抑えることもできる。
【0040】
また、実施形態1に係る光学フィルター1は、母材100に混合された複数の光散乱粒子200A(散乱体の一部を構成する)により入射光を散乱させて、散乱光を光学フィルター1の外部に出射するよう構成されている。換言すると、実施形態1に係る光学フィルター1は、フィルターの表面を荒らしたりフィルターの表面に凹凸を設けたりする技術(表面を荒らす方式)に依らずともソフトフォーカス効果を発揮させることができる。
【0041】
以上より、実施形態1によれば、表面を荒らす方式によらない光学フィルターであって、虹彩現象の発生を抑制することができるソフトフォーカス用の光学フィルターを提供することができる。
【0042】
(2)球形状の粒子
実施形態1に係る光学フィルター1において、複数の光散乱粒子200Aは、互いに径の異なる球形状の複数の粒子211からなっている。具体的には互いに径の異なる真球粒子からなっている。
球形状の光散乱粒子は一般に製造し易く入手し易いため、このような光散乱粒子を導入することにより、比較的簡便に実施形態1に係る光学フィルター1の効果を享受することができる。
【0043】
(3)球形状の粒子のブレンド比率(粒子径分布)
上記したように図1に対応する光学フィルター1は、粒径がそれぞれ3μm,4μm,5μm,6μm,7μm,8μm,9μmの真球粒子(散乱体210A)を、それぞれ同量ずつブレンドして「複数の光散乱粒子200A」を構成した。つまり、3μから9μmまで均等間隔に径を変えて真球粒子を選定し、それらを同量ずつブレンドした。
しかし、このようなブレンド比率(粒子径分布)に限定されるものではない。意図に応じ、互いに径の異なる真球粒子を適宜のブレンド比でブレンドしてもよい。
【0044】
(3-1)実施形態1に係る光学フィルター1において、光学フィルター1に含まれる球形状の粒子211の平均粒子径をΦとし球形状の粒子の合計個数をNsとしたとき、平均粒子径が0.4Φ以上かつ0.6Φ以下の範囲内にある粒子が0.1Ns個以上含まれており、且つ、平均粒子径が1.3Φ以上かつ1.8Φ以下の範囲内にある粒子が0.1Ns個以上含まれていることが好ましい。換言すると、光学フィルター1において、Φに対して40%以上かつ60%以下の平均粒子径の粒子が全体の10%以上含まれ、且つ、Φに対して130%以上かつ180%以下の平均粒子径の粒子が全体の10%以上含まれていることが好ましい。
ここでいう「平均粒子径」とは、いわゆるコールター原理を用いたコールター法(電気的検知帯法)により測定した平均粒子径をいうものとする。なお、以下の説明において「平均粒子径」を単に「平均粒径」ということがある。
【0045】
平均粒子径が0.4Φ以上かつ0.6Φ以下の範囲内にある粒子(平均よりも小さめの径を有する粒子)が10%よりも少ない場合や、平均粒子径が1.3Φ以上かつ1.8Φ以下の範囲内にある粒子(平均よりも大きめ径を有する粒子)が10%よりも少ない場合においては、単一粒径のみの光散乱粒子を混合した比較例の光学フィルター9に近いものとなってしまい、上記した相殺による散乱光強度分布の波長依存の解消についての効果が薄れ、虹彩現象を十分に抑制することができない場合がある。
こうしたことから、光学フィルター1には、平均粒子径が0.4Φ以上かつ0.6Φ以下の範囲内にある粒子が0.1Ns個以上含まれており、且つ、平均粒子径が1.3Φ以上かつ1.8Φ以下の範囲内にある粒子が0.1Ns個以上含まれているので、上記した相殺による散乱光強度分布の波長依存の解消についての効果を十分に奏することができる。
【0046】
(3-2)また、実施形態1に係る光学フィルター1において、平均粒子径が0.9Φ以上かつ1.1Φ以下の範囲内にある粒子が0.5Ns個以上含まれていることがより好ましい。換言すると、Φに対して±10%の平均粒子径を有する粒子が、全体の50%以上含まれていることがより好ましい。
【0047】
ミー散乱理論によれば、一般に散乱体の平均粒径が大きくなりすぎると、後方散乱が強くなる場合があり、被写体側からの光がロスして暗い映像・写真になってしまう可能性がある。また、散乱体の平均粒径が大きくなりすぎると波長に対する散乱光強度分布の依存性が小さくなる。したがって、Φ付近(±10%)の平均粒子径の粒子は波長に対する散乱光強度分布の依存性が強く、散乱光強度の強弱パターンを発現しやすいとも言え、相殺するのには却って好都合な場合がある。したがって、光学フィルター1にΦ付近(±10%)の平均粒子径の粒子を多く含ませることにより、光散乱粒子を過剰に混合することもなく、相殺による散乱光強度分布の波長依存の解消を効率的に図ることができ、虹彩現象を抑制することができる。
【0048】
(3-3)さらに、実施形態1に係る光学フィルター1において、母材100に混合される球形状の複数の粒子は、粒子径において少なくとも8μm以上の差異を有していることがより一層好ましい。
【0049】
混合される球形状の粒子の粒径が、平均粒径Φ付近にのみ偏っている場合には、上記した相殺による散乱光強度分布の波長依存の解消についての効果が薄れてしまい、虹彩現象を十分に抑制することができない場合がある。
したがって、粒子径において少なくとも8μm以上の差異を有する態様で複数の球形状の粒子を混合することにより、相殺による散乱光強度分布の波長依存の解消についての効果を十分に奏することができ、虹彩現象を抑制することができる。
【0050】
(4)光散乱粒子200A(球形状の粒子211/散乱体210A)の濃度
上記において、散乱特性の異なる散乱体をブレンドすることで波長別の散乱光強度分布が相殺されるようにして均されることを説明した。この考えからすると、ブレンドする散乱体の種類を多くし、母材100に対する球形状の粒子211(散乱体210A)の混合量を多くすればするほど分布が均されて、虹彩現象の発生を抑制した良好な光学フィルターが得られるようにも思える。
しかし、球形状の粒子211の混合量が多すぎると、光学フィルター1内で過剰に光散乱するようになり、その結果、映像・写真の画面全体が白み掛かることになりソフトフォーカス用の光学フィルターとしての実用性が低下してしまう。このようなことから、母材100への球形状の粒子211の混合量は適切な範囲で設定する必要がある。
【0051】
(4-1)母材100の板厚をtとし、d線に対する平均自由工程をMdとし、d線に対する単一散乱で光散乱強度が入射時の光強度に対して50%以下になる角度をθとしたとき(いずれも図示は省略)、下記(式1)に従うようにして球形状の粒子211が母材100に混合されていることが好ましい。
0 <( θ×t/Md)≦2 ・・・(式1)
つまり、母材100に対する球形状の粒子211の混合濃度が、(式1)に従うように球形状の粒子の混合量を設定することが好ましい。
【0052】
式1における、( θ×t/Md)が0(ゼロ)のときは、実質的に光学フィルター1における光散乱が無い場合と同じであるため、ソフトフォーカス効果を得ることができない。また、( θ×t/Md)が2を超えると光散乱が強くなり、ソフトフォーカス効果(ぼかし)が過剰となり、結果、映像・写真における解像度が大きく低下してしまう。
したがって、( θ×t/Md)が0(ゼロ)より大きく2以下の範囲内とするように球形状の粒子211の混合量を設定することにより、適度なソフトフォーカス効果を得ることができる。
【0053】
(4-2)また、下記(式2)に従うようにして球形状の粒子211が母材100に混合されていることがより好ましい。
0.1 ≦(θ×t/Md) ≦ 1.5 ・・・(式2)
(式2)に従うようにして球形状の粒子211の混合量を設定することにより、ソフトフォーカス効果が良好になる。また、解像とソフトフォーカス効果のバランスが良好になる。
【0054】
(4-3)さらに、下記(式3)に従うようにして球形状の粒子211が母材100に混合されていることがより好ましい。
0.2 ≦ (θ×t/Md) ≦ 1.0 ・・・(式3)
(式3)に従うようにして球形状の粒子211の混合量を設定することにより、ソフトフォーカス効果が一層良好になる。また、解像とソフトフォーカス効果のバランスが一層良好になる。
【0055】
(5)母材100及び光散乱粒子200Aの屈折率
母材100の屈折率と光散乱粒子200Aの屈折率との間の差は概ね0.05程度であることが好ましい。
【0056】
これらの屈折率の差が0.05よりも遥かに小さい場合には、光散乱を生じさせづらくなりソフトフォーカス効果を十分に得られない。これらの屈折率の差が0.05よりも遥かに大きい場合には、光散乱が過剰に生じやすくなり、状況によっては後方散乱が優位となるため、結像面に届く光の量が少なくなりソフトフォーカス用の光学フィルターとしては使いづらいものとなってしまう。
こうしたことから、これらの屈折率の差が0,05程度であれば適度な光散乱を生じさせることができ、使用者に好まれるソフトフォーカス効果を得ることができる。
【0057】
[実施形態2]
1.実施形態2に係る光学フィルター2の構成
図5は、実施形態2に係る光学フィルター2を説明するために示す図である。図5は、実施形態1に係る光学フィルター1を説明した図1(b)に対応する図面であり、図1(a)の破線Aで囲まれた部分を拡大した場合の要部拡大断面図である。図5において、実施形態1と同じ構成要素については、実施形態1と同じ符号を付し、よって、実施形態1と同じ構成要素については、実施形態1と同じ符号を付し、それらの詳しい説明は実施形態1における説明を援用する。
【0058】
実施形態2に係る光学フィルター2は、基本的には実施形態1に係る光学フィルター1と同様の構成を有するが、光散乱粒子の態様(ひいては散乱体の態様)において実施形態1に係る光学フィルター1とは異なる。
すなわち、実施形態2に係る光学フィルター2においては、図5に示すように、複数の光散乱粒子200Bは、互いに形状の異なる複数の粒子212(212a,212b,212c,212d,212e,212f,212g,212h,212i・・・)からなっている。
図5は一例を模式的に描いたものであるが、それぞれの粒子の大きさ・形状はまちまちであり(不定形の粒子)、姿勢もランダムな状態で母材100の内部に配置されている。
【0059】
図6は、実施形態2に係る光学フィルター2の作用・効果を説明するために示す図である。図6(a)は比較的大きな不定形粒子212uに光が当たったときの光散乱の様子を模式的に示した図である。図6(b)は中程度の大きさの不定形粒子212vに光が当たったときの光散乱の様子を模式的に示した図である。なお、矢印の説明は図2(a)における説明を援用する。
【0060】
不定形粒子の輪郭を構成している各部位を微視的に視ると、各部位の曲率半径は様々なものとなっている。例えば、光が当たったとする第1ポイントP1付近では比較的大きな曲率半径となっており、別の光が当たったとする第2ポイントP2付近では比較的小さな曲率半径となっている《図6(a)参照》。また、更に別の光が当たったとする第3ポイントP3付近では中程度の大きさの曲率半径となっている《図6(b)参照》。
これら第1ポイントP1,第2ポイントP2,第3ポイントP3に光が当たると、P1,P2,P3の曲率半径が互いに異なっているため、局所的にみると、径が互いに異なる仮想的な真球粒子VS1,VS2,VS3にそれぞれ光が当たって散乱したのと同様の効果が得られるものと考えられる。
つまり、比較的大きな曲率半径となっているP1付近では仮想的な真球粒子VS1に対応した「第1散乱体」を構成し、比較的小さな曲率半径となっているP2付近では仮想的な真球粒子VS2に対応した「第2散乱体」を構成し、中程度の大きさの曲率半径となっているP3付近では仮想的な真球粒子VS3に対応した「第3散乱体」を構成している。
したがって、光学フィルター全体としてみると、様々な径を有する仮想的な真球粒子がランダムに分布している光学フィルターと等価となる。
なお、各ポイント及び各ポイントに対応した散乱体は、説明のための例示でありこれに限定されるものではない。
【0061】
参考までに、一の粒子内において互いに形状の異なる各部位(互いに曲率半径が異なる各部位)は「波長別の散乱光強度分布の現れ方が互いに異なる複数の散乱体」を構成している。
また、粒子全体の形状が異なれば「波長別の散乱光強度分布」の現れ方が当然に異なる。このため、実施形態2においては、「互いに形状の異なる複数の粒子212」もまた「波長別の散乱光強度分布の現れ方が互いに異なる複数の散乱体」を構成している。
さらに、同じ一の粒子でも、その姿勢の在り方や光が入射する方向によって「波長別の散乱光強度分布」の現れ方が異なる。このため、実施形態2においては、母材100内における粒子の姿勢の在り方が互いに異なる粒子もまた「波長別の散乱光強度分布の現れ方が互いに異なる複数の散乱体」を構成している。
【0062】
2.実施形態2に係る光学フィルター2の効果
ところで、実施形態1に係る光学フィルター1は、真球粒子(球形状の粒子211)を用いた光学フィルターである。このため、光学フィルターの部位によらず虹彩現象の発生を抑えるために、同一径の粒子毎に、母材100内に粒子が満遍なく分布するように粒子を母材100に混合させる必要がある。つまり、各径の粒子毎に母材100内の分布管理をしなければならない。
一方、実施形態2に係る光学フィルター2では、複数の光散乱粒子200Bは、互いに形状の異なる複数の粒子からなっている。上記したように、複数の光散乱粒子200Bは、それぞれの粒子の大きさ・形状はまちまちであり(不定形の粒子)、姿勢もランダムである。したがって、いたるところに様々な径の仮想的な真球粒子が存在しているのと同様の効果を得ることができる。
よって、実施形態2に係る光学フィルター2によれば、不定形粒子の分布ムラに留意しながら母材100に混合すれば足り、実施形態1に係る光学フィルター1の如く各径の粒子毎に母材100内の分布管理をする必要がないため、比較的簡便に光学フィルターを得ることができる。
また、実施形態2の不定形粒子は、いたるところに様々な径の仮想的な真球粒子が存在しているのと同様の効果を得ることができる。このため、実施形態2に係る光学フィルター2は、相殺による散乱光強度分布の波長依存の解消を図るために実施形態1のように多くの径の異なる球形状の粒子を混合する必要もない。したがって、光散乱粒子の濃度が高すぎるために画面全体が白み掛かることもなく良好にソフトフォーカス効果を得ることができる。
【0063】
なお、実施形態2に係る光学フィルター2は、光散乱粒子の態様(ひいては散乱体の態様)以外の構成においては、実施形態1に係る光学フィルター1と基本的に同様の構成を有する。そのため、実施形態1に係る光学フィルター1が有する効果のうち該当する効果を同様に有する。
【0064】
[実施形態3]
図7は、実施形態3に係る光学フィルター3を説明するために示す図である。図7(a)は、実施形態1に係る光学フィルター1を説明した図1(b)に対応する図面であり、図1(a)の破線Aで囲まれた部分を拡大した場合の要部拡大断面図である。図7(b)は光学フィルター3に含まれる金平糖状の粒子213を拡大した拡大斜視図である。図7において、実施形態1と同じ構成要素については、実施形態1と同じ符号を付し、それらの詳しい説明は実施形態1における説明を援用する。
【0065】
実施形態3に係る光学フィルター3は、基本的には実施形態1に係る光学フィルター1及び実施形態2に係る光学フィルター2と同様の構成を有するが、光散乱粒子の態様(ひいては散乱体の態様)において実施形態1に係る光学フィルター1及び実施形態2に係る光学フィルター2とは異なる。
すなわち、実施形態3に係る光学フィルター3においては、図7(a)に示すように、複数の光散乱粒子200Cのそれぞれは、球形粒子の表面に複数の小突起部213bを有する金平糖状の粒子213からなっている。
図7(b)に示すように、金平糖の粒子213は、球形粒子の大球部分213a及び小突起部213bを含んでいる。なお、複数の金平糖状の粒子213の球形粒子の大球部分213aの径は、互いにほぼ同等であることが好ましい。
【0066】
図8は、実施形態3に係る光学フィルター3の作用・効果を説明するために示す図である。具体的には、光学フィルター3に含まれる金平糖状の粒子213に光が当たったときの光散乱の様子について模式的に示す図である。矢印についての説明は図2(a)における説明を援用する。
【0067】
金平糖状の粒子213における光散乱についての考え方は、実施形態2の不定形粒子における光散乱の考え方と基本的に同じである。
金平糖状の粒子213の輪郭を構成している各部位を微視的に視ると、各部位の曲率半径は様々なものとなっている。例えば、光が当たったとする第4ポイントP4付近(大球部分213aの一部)では比較的大きな曲率半径となっており、別の光が当たったとする第5ポイントP5付近(小突起部213bの一部)では比較的小さな曲率半径となっている(図8参照)。
これら第4ポイントP4,第5ポイントP5に光が当たると、P4,P5の曲率半径が互いに異なっているため、局所的にみると、径が互いに異なる仮想的な真球粒子VS4,VS5それぞれ光が当たって散乱したのと同様の効果が得られるものと考えられる。
つまり、比較的大きな曲率半径となっているP4付近では仮想的な真球粒子VS4に対応した「第4散乱体」を構成し、比較的小さな曲率半径となっているP5付近では仮想的な真球粒子VS5に対応した「第5散乱体」を構成している。
したがって、光学フィルター全体としてみると、様々な径を有する仮想的な真球粒子がランダムに分布している光学フィルターと等価となる。
なお、各ポイント及び各ポイントに対応した散乱体は、説明のための例示でありこれに限定されるものではない。
【0068】
参考までに、「球形粒子の表面に複数の小突起部213bを有する金平糖状の粒子213」は「波長別の散乱光強度分布の現れ方が互いに異なる複数の散乱体」を構成する。
ここで、球形粒子の大球部分213aは一の散乱体を構成しており、球形粒子の表面に多数付設されている各小突起部213bもまた、それぞれ別個の散乱体を構成している。
なお、大球部分213aおよび小突起部213bは球形でなくてもよい。例えば、大球部分213aについては多面体であってもよく、小突起部213bについては円錐形や不定形の突起であってもよい。また、大球部分213aおよび小突起部213bの各径(大きさ)は不揃いであってもよい。また、大球部分213aの表面に小突起部213bに加えて、あるいは小突起部213bに変えて凹部を形成してもよい。
【0069】
なお、実施形態3に係る光学フィルター3は、光散乱粒子の態様(ひいては散乱体の態様)以外の構成においては、実施形態1に係る光学フィルター1及び実施形態2に係る光学フィルター2と基本的に同様の構成を有する。そのため、実施形態1に係る光学フィルター1及び実施形態2に係る光学フィルター2が有する効果のうち該当する効果を同様に有する。
【0070】
[実施形態4]
図9は、実施形態4に係る光学フィルター4を説明するために示す図である。図9は、実施形態1~3に係る光学フィルター1,2,3を説明した図1(a)に対応する図面である。よって、実施形態1と同じ構成要素については、実施形態1と同じ符号を付し、それらの詳しい説明は実施形態1における説明を援用する。
【0071】
実施形態4に係る光学フィルター4は、基本的には実施形態1~3に係る光学フィルター1,2,3と同様の構成を有するが、レンズとしてのパワーにおいて実施形態1~3に係る光学フィルター1,2,3とは異なる。
【0072】
実施形態1~3に係る光学フィルター1,2,3は、互いに略平行の関係にある第1主面1a及び第2主面1bを有する「平板状」となっており、レンズとしてのパワーは実質的に0(ゼロ)となっている《図1(a)参照》。
その一方で、実施形態4に係る光学フィルター4は、図9に示すように、第1主面4a及びは第2主面4bが内側に入り込んだ凹状となっており、その結果、光軸AX付近の厚みよりも、光軸AXから遠い周辺寄りの領域の厚みの方が厚くなっている。つまり、光学フィルター4は、光学フィルターとしての機能を備えながら、凹レンズ(負レンズ)としての機能も兼ね備えており、負のパワーを有している。
このような光学フィルター4によれば、中心(光軸AX)から周辺に向かうほど領域の板厚が厚くなる。そのため、光軸AXから遠くなるほど光学フィルター4内を通る光の光路長が長くなる。そのため、その光が光散乱粒子(200A,200B,200Cのいずれか。以下の実施形態の説明では符号付記を省略する。)に当たり散乱する確率を高くすることができる。つまり、光軸AXから遠い周辺寄りの領域の光をより積極的に散乱させることができる。これにより、実施形態1~3に係る光学フィルター1,2,3と同様に虹彩現象の発生を抑制しながらソフトフォーカス効果を得られることに加えて、中心よりも周辺に向かうほど、ソフトフォーカス(ぼかし)の程度を強くした結像を得ることができる。
実施形態4に係る光学フィルター4の形状は、両凹の負レンズの形状である。光の入射面あるいは出射面のいずれか一方を平面、他方を凹面とした負レンズの形状としてもよい。また、負パワーのメニスカスレンズの形状としてもよい。この場合、光の入射側あるいは出射側のいずれに凸の形状であってもよい。
なお、光学フィルター4を凹レンズの形状とすることによる上記の効果を得られないが、光学フィルター4を正レンズの形状としてもよい。正レンズの形状には、両凸レンズの形状の他、正パワーのメニスカスレンズの形状であってもよい。光学フィルター4をこのような形状にした場合には、光軸AXに近いほどほど光学フィルター4内を通る光の光路長が長くなる。
レンズ形状である光学フィルター4の凹面および凸面は、球面の他、放物面あるいは楕円面などの所定の非球面式で表現される曲面である。
【0073】
なお、図9の破線Bで囲まれた部分については、図1(a)の破線Aで囲まれた部分に関する図示《図1(b)、図5図7等》及び説明をそのまま援用する。実施形態4に係る光学フィルター4は、レンズとしてのパワー以外の点においては、実施形態1~3に係る光学フィルター1,2,3と基本的に同様の構成を有する。そのため、実施形態1~3に係る光学フィルター1,2,3が有する効果のうち該当する効果を同様に有する。
【0074】
[実施形態5]
図10は、実施形態5に係る光学フィルター5を説明するために示す図である。図10は、実施形態1~3に係る光学フィルター1,2,3を説明した図1(a)に対応する図面である。よって、実施形態1と同じ構成要素については、実施形態1と同じ符号を付し、それらの詳しい説明は実施形態1における説明を援用する。
【0075】
実施形態5に係る光学フィルター5は、基本的には実施形態1~3に係る光学フィルター1,2,3と同様の構成を有するが、光散乱粒子(符号の付記を省略。以下同様。)の分布のさせ方において実施形態1~3に係る光学フィルター1,2,3とは異なる。
【0076】
実施形態1~3に係る光学フィルター1,2,3においては、母材100の主面におけるどの領域においても厚み方向全体に亘って光散乱粒子が分布している《図1(a)参照》。
その一方で、図10に示すように、実施形態5に係る光学フィルター5においては、光学フィルター5の厚み方向(光軸AXに沿う方向)に沿って光散乱粒子が分布している範囲を見たとき、光軸AX付近の領域に比べて、光軸AXから遠い領域程、光散乱粒子の分布している範囲が厚く(広く)なっている。
【0077】
具体的な構造としては、光学フィルター5は、サブ光学フィルター5Aと、透明部材50とを具備する。
サブ光学フィルター5Aは、略平面の第1主面5aと内側に入り込んだ凹状となっている第2主面5bとを有しており、全体として負のパワーを有する。サブ光学フィルター5Aは、基本的に実施形態4に係る光学フィルター4と同様の造りとなっており、母材100の内部に複数の光散乱粒子が混合されている。
透明部材50は、サブ光学フィルター5Aの母材100と同一の材料からなる。透明部材50は、凸面状の第1主面50aと略平面の第2主面50bとを有する。透明部材50は、凸面状の第1主面50aがサブ光学フィルター5Aの凹面(第2主面5b)で貼り合されてサブ光学フィルター5Aと一体化されている。
サブ光学フィルター5Aの母材および透明部材50は同一の材料であるため双方の屈折率は同一であり、加えて、サブ光学フィルター5Aの第1主面5aと透明部材50の第2主面50bとは略平行となっている。つまり、光学フィルター5は、全体としてレンズとしてのパワーが実質的に0(ゼロ)となるように構成されている。
なお、光学フィルター5は、サブ光学フィルター5A及び透明部材50を別個に形成したうえで、母材100と同質の接着剤(バルサム剤)によって双方を貼り合せるようにして製作することができる。また、接着剤を用いずに適宜の方法で連続的に一体成型してもよい(図示を省略)。
【0078】
このような光学フィルター5によれば、光軸AXから遠い周辺寄りの領域では光散乱粒子200A,200B,200Cが比較的厚く分布しているため、周辺寄りの領域に入射した光については光散乱粒子200A,200B,200Cに当たり散乱する確率を高くすることができる。つまり、光軸AXから遠い周辺寄りの領域の光をより積極的に散乱させることができる。これにより、実施形態1~3に係る光学フィルター1,2,3と同様に虹彩現象の発生を抑制しながらソフトフォーカス効果を得られることに加えて、中心よりも周辺に向かうほど、ソフトフォーカス(ぼかし)の程度を強くした結像を得ることができる。
【0079】
また、光学フィルター5はパワーが実質的に0(ゼロ)となるように構成されているため、一旦、光学設計を終えている既存の光学系(例えば撮影レンズユニット)に対して、特段の光学設計の変更を加えることなく(特段の考慮をする必要もなく)、当該光学フィルター5を追加配置することができる。
実施形態5に係るサブ光学フィルター5Aの形状は、光の入射面が平面であり、出射側が凹の負レンズの形状である。これに対して、光の入射面および出射面の両面を凹面とした負レンズの形状としてもよい。また、負パワーのメニスカスレンズの形状としてもよい。この場合、光の入射面あるいは出射面のいずれを凸の形状にしてもよい。
これらの形状を採用した場合には、サブ光学フィルター5Aの曲面となっている入射面あるいは出射面に、光学フィルター5のパワーが実質的に0(ゼロ)になる形状の透明部材50を貼り合せる。
なお、サブ光学フィルター5Aを凹レンズの形状とすることによる上記の効果を得られなくなるが、サブ光学フィルター5Aを正レンズの形状としてもよい。正レンズの形状には、両凸レンズの形状の他、正パワーのメニスカスレンズの形状であってもよい。サブ光学フィルター5Aをこのような形状にした場合には、光軸AXに近いほどほど光学フィルター5内を通る光の光路長が長くなる。
レンズ形状であるサブ光学フィルター5Aの凹面および凸面は、球面の他、放物面あるいは楕円面などの所定の非球面式で表現される曲面である。
透明部材50が貼り合されるサブ光学フィルター5Aの曲面は、球面および上記の非球面以外の曲面あるいは凹凸面であってもよい。透明部材50が貼り合されるため、面の形状は光学フィルター5のパワーに影響しない。一方で、サブ光学フィルター5Aの面の形状に応じたソフトフォーカス効果(ぼかし感)を得ることができる。
凹凸面の一例としては、フライアイレンズ、あるいはフレネルレンズの形状がある。
【0080】
なお、図10の破線Cで囲まれた部分については、図1(a)の破線Aで囲まれた部分に関する図示《図1(b)、図5図7等》及び説明をそのまま援用する。実施形態5に係る光学フィルター5は、光散乱粒子の分布のさせ方以外の点においては、実施形態1~3に係る光学フィルター1,2,3と基本的に同様の構成を有する。そのため、実施形態1~3に係る光学フィルター1,2,3が有する効果のうち該当する効果を同様に有する。
【0081】
[実施形態6]
図11は、実施形態6に係る撮影レンズユニット10A,10B,10Cを説明するために示す図である。図11(a)~図11(c)は、鏡筒300を含む撮影レンズユニット10A,10B,10Cを、それぞれ光軸AXを含む平面で切断したときの模式的な断面図である。
【0082】
図11に示すように、実施形態6に係る撮影レンズユニット10A,10B,10Cは、少なくとも、撮影レンズ420と、実施形態1~3のいずれかに係る光学フィルター1,2,3と、を備える。光学フィルター1,2,3のパワー(レンズとしてのパワー)は実質的に0(ゼロ)となっている。
撮影レンズユニット10A,10B,10Cは、上記の他に鏡筒300及び絞り装置350を備える。なお、撮影レンズ420は、光散乱粒子200A,200B,200Cが混合されていない光不拡散レンズである。撮影レンズ420は、凹レンズ又は凸レンズでありレンズとしてのパワーを有する。複数の撮影レンズ420により全体として撮影レンズ群400を構成している。なお、図11は撮影レンズユニットの一例を模式的に示したものであって、撮影レンズ420が配置される位置、撮影レンズ420の枚数等は何らこれに限定されるものではない。
【0083】
図11(a)に示す撮影レンズユニット10Aにおいては、光学フィルター1,2,3が絞り装置350の近隣に配置されている。さらに、光学フィルター1,2,3は、複数の撮影レンズ420のいずれのレンズよりも絞り装置350に近い位置に配置されていることが好ましい。「絞り装置350に近い位置」は、絞り装置350の被写体側(前側)あるいは、結像面側(後側)いずれであってもよい。
被写体側(物体OB側)から光の主光線は、絞り装置350の開口中心(光軸AX)を通過する。このため、絞り装置350の近隣に光学フィルター1,2,3を配置することで、撮影に資する光線(撮影光線)の全般に対し均一なソフトフォーカス効果を及ぼすことができ、結像面IPに形成される結像に中央付近から周辺寄りの領域に亘って全体的に均一にソフトフォーカス効果を与えることができる。
【0084】
図11(b)に示す撮影レンズユニット10Bにおいては、光学フィルター1,2,3が、結像面(撮影レンズユニット10Bを挟んで物体OBの反対側)に近い位置に配置されている。さらに、光学フィルター1,2,3は、複数の撮影レンズ420のいずれのレンズよりも結像面に近い位置に配置されていることが好ましい。
光学フィルター1,2,3をこのような位置に配置することにより、撮影レンズ群400による所定の光学的な補正が行われた撮影光線を光学フィルター1,2,3に通過させることができる。撮影レンズ群400により光学補正された撮影光線に対してソフトフォーカス効果を与えることで、収差を抑えた状態でソフトフォーカス効果を与えられた結像を得ることができる。
【0085】
図11(c)に示す撮影レンズユニット10Cにおいては、光学フィルター1,2,3が、被写体(物体OB)に近い位置に配置されている。さらに、光学フィルター1,2,3は、複数の撮影レンズ420のいずれのレンズよりも被写体(物体OB)に近い位置に配置されていることが好ましい。
光学フィルター1,2,3をこのような位置(撮影レンズ群400の先頭)に配置することにより、撮影レンズ群400による屈折作用を受ける前の撮影光線に対してソフトフォーカス効果を与えることができる。撮影レンズ420を通過する(撮影レンズ群400内を通過する)撮影光線の光軸AXに対する角度は、撮影画角(撮影レンズ群400の先頭に配置される撮影レンズ420に入射する撮影光線の光軸AXに対する角度)に比べて小さくなる。光学フィルター1,2,3を撮影レンズ群400の先頭に配置することで、光軸AXに対する角度が小さくなる前の撮影光線が光学フィルター1,2,3に入射する。そのため、撮影光線の撮影レンズ群400への入射角度や位置の違いをソフトフォーカス効果に反映させ易い。また、光学フィルター1,2,3の後側に撮影レンズ群400を配置することにより、ソフトフォーカス効果を与えられた後の撮影光線に対して、撮影レンズ420による屈折作用が与えられる。そのため、結像にソフトフォーカス効果を与えながら、撮影レンズ420の設計思想を活かすことができる。撮影レンズ420は、結像に味わいや趣きを持たせるため、あえて収差を持たせることがある。光学フィルター1,2,3を、撮影レンズ群400の被写体(物体OB)側に配置することで、あえて持たせた収差を活かした(設計思想を活かした)結像を得ることができる。なお、撮影レンズユニット10A,撮影レンズユニット10Bに比べて、バックフォーカスへの影響は少ない。
【0086】
なお、実施形態6においては実施形態1~3に係る光学フィルター1,2,3をそのまま備えるため、実施形態6に係る撮影レンズユニット10A,10B,10Cは、実施形態1~3に係る光学フィルター1,2,3が有する効果のうち該当する効果を同様に有する。
【0087】
[実施形態7]
図12は、実施形態7に係る撮影レンズユニット20A,20B,20Cを説明するために示す図である。図12(a)~図12(c)は、鏡筒300を含む撮影レンズユニット20A,20B,20Cを、それぞれ光軸AXを含む平面で切断したときの模式的な断面図である。
【0088】
実施形態7に係る撮影レンズユニット20A,20B,20Cは、基本的には実施形態6に係る撮影レンズユニット10A,10B,10Cと同様の構成を有するが、光学フィルターが負のパワーを有する点において実施形態6に係る撮影レンズユニット10A,10B,10Cとは異なる。そこで、実施形態6との相違点を中心に説明するものとし、実施形態6と共通する他の部分についての説明は省略する。
【0089】
図12に示すように、実施形態7に係る撮影レンズユニット20A,20B,20Cは、少なくとも、撮影レンズ420と、実施形態4に係る光学フィルター4と、を備える。光学フィルター4は負のパワーを有している。
【0090】
図12(a)に示す撮影レンズユニット20Aにおいては、光学フィルター4が絞り装置350の近隣に配置されている。さらに、光学フィルター4は、複数の撮影レンズ420のいずれのレンズよりも絞り装置350に近い位置に配置されていることが好ましい。
被写体側(物体OB側)から光の主光線は、絞り装置350の開口中心(光軸AX)を通過する。このため、絞り装置350の近隣に光学フィルター4を配置することで、撮影に資する光線(撮影光線)の全般に対し均一なソフトフォーカス効果を及ぼすことができる。
また、光学フィルター4の光軸AXから遠い周辺寄りの領域では板厚が厚いため、この領域に入射した光については光路長が長くなり光散乱粒子に当たり散乱する確率が高く、より多くの回数で散乱することとなる。これにより、周辺をよりソフトフォーカス効果(ぼかし感)を強くして描写することができる(実施形態4の説明を併せて参照)。
【0091】
図12(b)に示す撮影レンズユニット20Bにおいては、光学フィルター4が、結像面に近い位置に配置されている。さらに、光学フィルター4は、複数の撮影レンズ420のいずれのレンズよりも結像面に近い位置に配置されていることが好ましい。
光学フィルター4をこのような位置に配置することにより、実施形態6に係る撮影レンズユニット10Bに対応した効果、及び、実施形態4に係る光学フィルター4に対応した効果を双方享受することができる。
【0092】
図12(c)に示す撮影レンズユニット20Cにおいては、光学フィルター4が、被写体(物体OB)に近い位置に配置されている。さらに、光学フィルター4は、複数の撮影レンズ420のいずれのレンズよりも被写体(物体OB)に近い位置に配置されていることが好ましい。
光学フィルター4をこのような位置に配置することにより、実施形態6に係る撮影レンズユニット10Cに対応した効果、及び、実施形態4に係る光学フィルター4に対応した効果を双方享受することができる。
【0093】
なお、実施形態7においては実施形態4に係る光学フィルター4をそのまま備えるため、撮影レンズユニット20A,20B,20Cは、実施形態4に係る光学フィルター4が有する効果のうち該当する効果を同様に有する。また、実施形態7に係る撮影レンズユニット20A,20B,20Cは、光学フィルターが負のパワーを有する点以外は、実施形態6に係る撮影レンズユニット10A,10B,10Cと基本的に同様の構成を有する。そのため、実施形態6に係る撮影レンズユニット10A,10B,10Cが有する効果のうち該当する効果を同様に有する。
【0094】
[実施形態8]
図13は、実施形態8に係る撮影レンズユニット30A,30B,30Cを説明するために示す図である。図13(a)~図13(c)は、鏡筒300を含む撮影レンズユニット30A,30B,30Cを、それぞれ光軸AXを含む平面で切断したときの模式的な断面図である。
【0095】
実施形態8に係る撮影レンズユニット30A,30B,30Cは、基本的には実施形態6に係る撮影レンズユニット10A,10B,10Cと同様の構成を有するが、光学フィルターにおける光散乱粒子の分布のさせ方において実施形態6に係る撮影レンズユニット10A,10B,10Cとは異なる。そこで、実施形態6との相違点を中心に説明するものとし、実施形態6と共通する他の部分についての説明は省略する。
【0096】
図13に示すように、実施形態8に係る撮影レンズユニット30A,30B,30Cは、少なくとも、撮影レンズ420と、実施形態5に係る光学フィルター5と、を備える。光学フィルター5は、負のパワーを有する光学フィルター(サブ光学フィルター5A)と、サブ光学フィルター5Aの母材(図13における図示を省略)と同一の材料からなり、サブ光学フィルターの凹面で接続されてサブ光学フィルターと一体化された透明部材50と、を具備する。このように一体化されたサブ光学フィルター5A及び透明部材50は全体として光学フィルター5を構成し、光学フィルター5によるパワーが実質的に0(ゼロ)となるように構成されている。
ここでの光学フィルター5は、実施形態5に係る光学フィルター5と同様のものである。
【0097】
図13(a)に示す撮影レンズユニット30Aにおいては、光学フィルター5が絞り装置350の近隣に配置されている。さらに、光学フィルター5は、複数の撮影レンズ420のいずれのレンズよりも絞り装置350に近い位置に配置されていることが好ましい。
光学フィルター5をこのような位置に配置することにより、実施形態6に係る撮影レンズユニット10Aに対応した効果、及び、実施形態5に係る光学フィルター5に対応した効果を双方享受することができる。
【0098】
図13(b)に示す撮影レンズユニット30Bにおいては、光学フィルター5が、結像面に近い位置に配置されている。さらに、光学フィルター5は、複数の撮影レンズ420のいずれのレンズよりも結像面に近い位置に配置されていることが好ましい。
光学フィルター5をこのような位置に配置することにより、実施形態6に係る撮影レンズユニット10Bに対応した効果、及び、実施形態5に係る光学フィルター5に対応した効果を双方享受することができる。
【0099】
図13(c)に示す撮影レンズユニット30Cにおいては、光学フィルター5が、被写体(物体OB)に近い位置に配置されている。さらに、光学フィルター5は、複数の撮影レンズ420のいずれのレンズよりも被写体(物体OB)に近い位置に配置されていることが好ましい。
光学フィルター5をこのような位置に配置することにより、実施形態6に係る撮影レンズユニット10Cに対応した効果、及び、実施形態5に係る光学フィルター5に対応した効果を双方享受することができる。
【0100】
なお、実施形態8においては実施形態5に係る光学フィルター5をそのまま備えるため、撮影レンズユニット30A,30B,30Cは、実施形態5に係る光学フィルター5が有する効果のうち該当する効果を同様に有する。また、実施形態8に係る撮影レンズユニット30A,30B,30Cは、光学フィルターにおける光散乱粒子の分布のさせ方以外は、実施形態6に係る撮影レンズユニット10A,10B,10Cと基本的に同様の構成を有する。そのため、実施形態6に係る撮影レンズユニット10A,10B,10Cが有する効果のうち該当する効果を同様に有する。
【0101】
[実験例]
実験による評価の結果、本発明によれば、表面を荒らす方式によらない光学フィルターでありながら、虹彩現象の発生を抑制することができるソフトフォーカス用の光学フィルターを得られることを確認したので、以下説明する。
【0102】
1.試料
径(平均粒径)が4μmの真球粒子を所定の濃度で母材に混合して平板状の光学フィルターを製作し、これを「比較例の光学フィルター9」とした。
一方、球形粒子の大球部分の径が4μmの金平糖状の粒子を所定の濃度で母材に混合して平板状の光学フィルターを製作し(実施形態3に係る光学フィルター3と同等なものである)、これを「実施例の光学フィルター」とした。
【0103】
2.比較例に係る光学フィルター9と実施例に係る光学フィルターとの比較結果
図14は、比較例の光学フィルター9と実施例に係る光学フィルターとを比較説明するために示す図である。図14(a)は、比較例の光学フィルター9を用いながら結像面における像を撮影した実写真であり、図15(b)と同様の写真である。図14(b)は、実施例に係る光学フィルターを用いながら結像面IPにおける像を撮影した実写真である。撮影は、図15(a)で示した評価系と同様の評価系によって行った。
【0104】
図14(a)に示すように、比較例の光学フィルター9を用いて撮影をすると、映像・写真に写った強い光(ライトLTa)の周囲には「虹彩現象」が発生していた(符号IR参照)。
これに対し、金平糖状の粒子(図7参照)を「光散乱粒子」として製作した実施例の光学フィルターによれば、図14(b)に示すように、映像・写真に写った強い光(ライトLTb)の周囲においては、全体に白み掛かった柔らかなハロが形成されており、「虹彩現象」の発生が抑制されていることが確認された。
【0105】
以上の実験例により、本発明の光学フィルターによれば、表面を荒らす方式によらない光学フィルターであって、虹彩現象の発生を抑制することができるソフトフォーカス用の光学フィルターとなることが確認された。
【0106】
以上、本発明を上記の実施形態に基づいて説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではない。その趣旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能である。例えば、上記実施形態において記載した構成要素の数、材質、形状、位置、大きさ等は例示であり、本発明の効果を損なわない範囲において変更することが可能である。
【符号の説明】
【0107】
1,2,3,4,5,9…光学フィルター、1a…(光学フィルター1の)第1主面、1b…(光学フィルター1の)第2主面、2a…(光学フィルター2の)第1主面、2b…(光学フィルター2の)第2主面、3a…(光学フィルター3の)第1主面、3b…(光学フィルター3の)第2主面、4a…(光学フィルター4の)第1主面、4b…(光学フィルター4の)第2主面、5A…サブ光学フィルター、5a…(光学フィルター5の)第1主面、5b…(光学フィルター5の)第2主面、10A,10B,10C,20A,20B,20C,30A,30B,30C…撮影レンズユニット、50…透明部材、50a…(透明部材の)第1主面、50b…(透明部材の)第2主面、100…母材、200A,200B,200C…光散乱粒子、210A,210B,210C…散乱体、211…球形状の粒子、211a…第1真球粒子、211b…第2真球粒子、211c…第3真球粒子、212…互いに形状の異なる粒子、212u,212v…不定形粒子、213…金平糖状の粒子、213a…(金平糖状の粒子の)球形粒子の大球部分、213b…(金平糖状の粒子の)小突起部、300…鏡筒、350…絞り装置、400…撮影レンズ群、420…撮影レンズ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15