(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】強誘電性膜の製造方法、強誘電性膜、及びその用途
(51)【国際特許分類】
C23C 14/34 20060101AFI20241106BHJP
C23C 14/08 20060101ALI20241106BHJP
C23C 14/58 20060101ALI20241106BHJP
H01G 4/33 20060101ALI20241106BHJP
H01G 4/30 20060101ALI20241106BHJP
H10B 53/00 20230101ALI20241106BHJP
H10N 15/10 20230101ALI20241106BHJP
H10N 30/20 20230101ALI20241106BHJP
H10N 30/30 20230101ALI20241106BHJP
H10N 30/853 20230101ALI20241106BHJP
H03H 9/17 20060101ALI20241106BHJP
H03H 9/25 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
C23C14/34 K
C23C14/08 K
C23C14/08 F
C23C14/58 Z
H01G4/33 102
H01G4/30 544
H01G4/30 541
H01G4/30 547
H10B53/00
H10N15/10
H10N30/20
H10N30/30
H10N30/853
H03H9/17 F
H03H9/25 C
(21)【出願番号】P 2021516331
(86)(22)【出願日】2020-04-27
(86)【国際出願番号】 JP2020018031
(87)【国際公開番号】W WO2020218617
(87)【国際公開日】2020-10-29
【審査請求日】2023-02-28
(31)【優先権主張番号】P 2019086836
(32)【優先日】2019-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019086840
(32)【優先日】2019-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ウェブサイトのアドレス https://confit.atlas.jp/guide/event-img/ssdm2019/H-2-01/public/pdf_archive?type=in 掲載日:令和1年9月2日 [刊行物等] SSDM 2019(2019 International Conference on Solid State Devices and Materials) 発表日:令和1年9月3日 [刊行物等] ウェブサイトのアドレス: https://confit.atlas.jp/guide/event/jsap2019a/top https://confit.atlas.jp/guide/event-img/jsap2019a/20a-C309-6/public/pdf?type=in 掲載日:令和1年9月4日 [刊行物等] 2019年第80回応用物理学会秋季学術講演会 発表日:令和1年9月20日 [刊行物等] ウェブサイトのアドレス: https://confit.atlas.jp/guide/event/jsap2019a/top https://confit.atlas.jp/guide/event-img/jsap2019a/20a-C309-5/public/pdf?type=in 掲載日:令和1年9月4日 [刊行物等] 2019年第80回応用物理学会秋季学術講演会 発表日:令和1年9月20日 [刊行物等] 第39回電子材料研究討論会 講演予稿集 公益社団法人日本セラミックス協会 発行日:令和1年11月28日 [刊行物等] 第39回電子材料研究討論会 発表日:令和1年11月28日 [刊行物等] 第58回セラミックス基礎科学討論会 講演要旨集 第58回セラミックス基礎科学討論会実行委員会 実行委員長 藤 正督 発行日:令和2年1月9日 [刊行物等] 第58回セラミックス基礎科学討論会 発表日:令和2年1月10日 [刊行物等] ウェブサイトのアドレス: https://confit.atlas.jp/guide/event/jsap2020s/top https://confit.atlas.jp/guide/event-img/jsap2020s/14p-A303-5/public/pdf?type=in 掲載日:令和2年2月28日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 [刊行物等] ウェブサイトのアドレス:http://hashi.shinshu-u.ac.jp/emnano/prog-abs.html http://hashi.shinshu-u.ac.jp/emnano/abstracts/abstracts.html 掲載日:令和1年5月31日 [刊行物等] EM-NANO 2019(The 7th International Symposium on Organic and Inorganic Electronic Materials and Related Nanotechnologies) 発表日:令和1年6月22日 [刊行物等] アジア太平洋PFM 2019(Asia-Pacific PFM 2019:2019 Asia-Pacific Workshop on Piezoresponse Force-Microscopy and Nanoscale Electromechanics of Functional Materials and Electrochemical Systems) 発表日:令和1年8月12日 [刊行物等] ウェブサイトのアドレス:https://mrm2019.jmru.org/program/symposium/d2.html https://abstract.mrm2019.jmru.org/signin 掲載日:令和1年12月1日 [刊行物等] MRM2019(Materials Research Meeting 2019) 発表日:令和1年12月12日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、文部科学省、科学技術試験研究委託事業、東工大元素戦略拠点(TIES)、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京科学大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【氏名又は名称】村上 智史
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【氏名又は名称】古賀 哲次
(72)【発明者】
【氏名】舟窪 浩
(72)【発明者】
【氏名】清水 荘雄
(72)【発明者】
【氏名】三村 和仙
(72)【発明者】
【氏名】中村 美子
(72)【発明者】
【氏名】志村 礼司郎
(72)【発明者】
【氏名】田代 裕貴
【審査官】安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-146421(JP,A)
【文献】国際公開第2016/031986(WO,A1)
【文献】特表2013-505189(JP,A)
【文献】特開2011-086819(JP,A)
【文献】特開2009-238842(JP,A)
【文献】特開2004-096050(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00-14/58
H01G 4/33
H01G 4/30
H10B 53/00
H10N 30/20
H10N 30/30
H10N 30/853
H10N 15/10
H03H 9/17
H03H 9/25
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スパッタ法で、基体温度を300℃未満とし、ターゲットをスパッタして、前記基体上に直方晶相の蛍石型構造を有することが可能な金属酸化物の膜を堆積し、その後の前記膜の熱履歴が300℃未満であるか、または、前記堆積後又は前記熱履歴後に前記膜に電界印加することにより、直方晶相の蛍石型構造を有する結晶性の金属酸化物を含む強誘電性膜を製造すること
、前記金属酸化物の金属が、ハフニウム(Hf)及びジルコニウム(Zr)の1方又は双方を含むか、あるいは、ハフニウム(Hf)及びジルコニウム(Zr)の1方又は双方と、アルミニウム(Al),ケイ素(Si)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)及び希土類元素(Sc,Y,La,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm.Yb,Lu)から選ばれた少なくとも1種の追加元素とを含み、前記追加元素のモル数は、前記追加元素を含む前記金属酸化物全体の金属同士の合計を100モル%として15モル%以下であることを特徴とする強誘電性膜の製造方法。
【請求項2】
前記スパッタを、酸素分圧が1%未満の不活性雰囲気中で行うことを特徴とする請求項
1に記載の強誘電性膜の製造方法。
【請求項3】
前記基体が、300℃未満のガラス転移点を有するガラスを含む基体、高分子有機物層を含む基体、300℃未満の軟化温度を有する金属層を含む基体、半導体デバイスの内部のいずれかであることを特徴とする請求項
1又は2に記載の強誘電性膜の製造方法。
【請求項4】
300℃未満のガラス転移点を有するガラスを含む基体、高分子有機物層を含む基体、300℃未満の軟化温度を有する金属層を含む基体のいずれかの基体上に設けられた、直方晶相の蛍石型構造を有する結晶性の金属酸化物
を含む強誘電性膜であって、前記金属酸化物の金属が、ハフニウム(Hf)及びジルコニウム(Zr)の1方又は双方を含むか、あるいは、ハフニウム(Hf)及びジルコニウム(Zr)の1方又は双方と、アルミニウム(Al),ケイ素(Si)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)及び希土類元素(Sc,Y,La,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm.Yb,Lu)から選ばれた少なくとも1種の追加元素とを含み、前記追加元素のモル数は、前記追加元素を含む前記金属酸化物全体の金属同士の合計を100モル%として15モル%以下であることを特徴とする、強誘電性膜。
【請求項5】
前記基体と前記強誘電性膜の間に導電性の膜層を有することを特徴とする請求項
4に記載の強誘電性膜。
【請求項6】
請求項
4又は5に記載の強誘電性膜と、一対の電極を含むことを特徴とする強誘電性機能素子。
【請求項7】
前記強誘電性機能素子が、キャパシタ、電気光学素子、メモリ素子、トランジスタ、強誘電体データストレージ、圧電素子、焦電素子から選ばれるものであることを特徴とする請求項
6に記載の強誘電性機能素子。
【請求項8】
前記強誘電性機能素子が、アクチュエータ、インクジェットヘッド、ジャオロセンサー、振動発電素子、弾性表面波共振器、膜バルク波共振器、圧電ミラー、圧電センサーのいずれかであることを特徴とする請求項
6に記載の圧電性機能性素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強誘電性膜の製造方法、得られる強誘電性膜、及びその強誘電性膜を用いたキャパシタ、電気光学素子、メモリ素子、トランジスタ、焦電素子、圧電素子などの用途に関する。
【背景技術】
【0002】
強誘電体材料として、従来、チタン酸バリウムBaTiO3,チタン酸ジルコン酸鉛Pb(Zr,Ti)O3,(Pb,La)(Zr,Ti)O3,BiFeO3などが知られている。強誘電体は、誘電体の一種で、外部に電場がなくても電気双極子が整列しておりかつ双極子の方向が電場によって変化できる物質を示す。強誘電体は強誘電性のほか、焦電性、圧電性なども有する誘電体であるので、キャパシタ、電気光学素子、メモリ素子、トランジスタ、焦電素子、圧電素子などとしても利用される。また、強誘電体である圧電体は、物質に圧力を加えると、圧力に比例した分極が現れ、逆に電界を印加すると物質が変形する物質である。圧電体は、点火器、ソナー、スピーカー等に圧電素子として広く用いられている
【0003】
直方晶相の蛍石型構造を有する金属酸化物であるHfO2系固溶体材料を用いた膜において強誘電体特性が報告されている(非特許文献1,2等)。従来の強誘電体材料はペロブスカイト基構造の複合酸化物であり、構成元素の数が多く(4種以上)、組成や結晶構造の揺らぎが大きいほか、構成元素に毒性のあるものが含まれる、蒸気圧が高く、揮発による組成制御が難しいなどの問題があるのに対して、ZrO2,HfO2系固溶体材料は蛍石構造であり、単純酸化物であるので、構成元素の数も少なく、組成や結晶構造の揺らぎが小さく再現性に優れ、構成元素に毒性のあるものを使わなくてもよい、さらに膜化できる可能性があるなどの特長があり、蛍石構造の材料の強誘電体膜の利用可能性は高いと考えられる。
【0004】
無機強誘電体膜の製膜方法としては、スパッタ法、ゾルゲル法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法、PLD(Pulsed Laser Deposition)法、ALD(Atomic Layer Deposition)法、水熱合成法などが知られている(例えば、特許文献1、特許文献2)。これらの公知の方法のうち、水熱合成法以外の方法では、300℃以上の高温で堆積するか、堆積後に300℃以上の高温でアニールしなければ、無機強誘電体膜を得ることができていない。そのため、生産性やコストの問題のほかに、用いることが可能な基体に耐熱性が要求され、有機基体などを用いることができないという欠点があった。一方、水熱合成法は、300℃以下の温度で無機強誘電体を得ることができるが、湿式ゆえに用途によっては使用できないなどの問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】再表2016-031986号公報
【文献】特開2012-106902号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】U. Schroeder et al, SCS, J. Solid State Sci.Technol.2013, Volume 1, Issue 2, Pages N69-N71
【文献】U. Schroeder et al, Japanese Journal of Applied Physics 53, 08LE01 (2014)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、300℃未満の低い温度で直方晶相の蛍石型構造を有する金属酸化物の強誘電体膜を製膜する方法、得られる強誘電体膜、及び強誘電体膜を用いた機能素子又は装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記目的を達成するために、少なくとも下記の態様を提供する。
(態様1)
膜スパッタ法で、基体温度を300℃未満とし、ターゲットをスパッタして、前記基体上に直方晶相の蛍石型構造を有することが可能な金属酸化物の膜を堆積し、その後の膜の熱履歴が300℃未満であるか、または、前記堆積後又は前記熱履歴後に前記膜に電界印加することにより、直方晶相の蛍石型構造を有する結晶性の金属酸化物を含む強誘電性膜を製造することを特徴とする強誘電性膜の製造方法。
(態様2)
前記金属酸化物の金属が、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、セリウム(Ce)又はこれらの2つ以上を含むか、又は、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、セリウム(Ce)又はこれらの2つ以上と、アルミニウム(Al),ケイ素(Si)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)及び希土類元素(Sc,Y,La,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm.Yb,Lu)から選ばれた少なくとも1種の金属元素とを含むことを特徴とする態様1に記載の強誘電性膜の製造方法。
(態様3)
前記スパッタを、酸素分圧が1%未満の不活性雰囲気中で行うことを特徴とする態様1又は2に記載の強誘電性膜の製造方法。
(態様4)
前記基体が、300℃未満のガラス転移点を有するガラスを含む基体、高分子有機物層を含む基体、300℃未満の軟化温度を有する金属層を含む基体、半導体デバイス内部のいずれかであることを特徴とする態様1~3のいずれか一項に記載の強誘電性膜の製造方法。
(態様5)
態様1~4のいずれか一項に記載の製造方法で得られる強誘電性膜。
(態様6)
300℃以下のガラス転移点を有するガラスを含む基体、高分子有機物層を含む基体、300℃未満の軟化温度を有する金属層を含む基体のいずれかの基体上に設けられた、直方晶相の蛍石型構造を有する結晶性の金属酸化物を含む強誘電性膜。
(態様7)
前記金属酸化物の金属が、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、セリウム(Ce)又はこれらの2つ以上を含むか、又はハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、セリウム(Ce)又はこれらの2つ以上と、アルミニウム(Al),ケイ素(Si)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)及び希土類元素(Sc,Y,La,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm.Yb,Lu)から選ばれた少なくとも1種の金属元素を含むことを特徴とする態様5又は6に記載の強誘電性膜。
(態様8)
前記基体と前記強誘電性膜の間に導電性の膜を有することを特徴とする態様5~7のいずれか一項に記載の強誘電性膜。
(態様9)
態様5~8のいずれか一項に記載の強誘電性膜と、一対の電極を含むことを特徴とする強誘電性機能素子。
(態様10)
前記強誘電性機能素子が、キャパシタ、電気光学素子、メモリ素子、トランジスタ、強誘電体データストレージ、焦電素子、圧電素子から選ばれるものであることを特徴とする態様9に記載の強誘電性機能素子。
(態様11)
前記強誘電性機能素子が、アクチュエータ、インクジェットヘッド、ジャイロセンサー、振動発電素子、弾性表面波共振器、膜バルク波共振器、圧電ミラー、圧電センサーのいずれかから選ばれるものであることを特徴とする態様9に記載の強誘電性機能素子。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、300℃未満の低い温度で、直方晶相の蛍石型構造を有する結晶性の金属酸化物を含む強誘電性膜を製膜する方法が提供される。また、300℃以上の熱処理が不要なので、生産性やコストを改善できるとともに、耐熱性が低い有機材料やソーダガラスなどを基体として用いることも可能にし、さらに、これらの強誘電性膜や基体を用いた従来にない強誘電性機能素子又は装置を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、蛍石型構造の単位胞を表す模式斜視図である。
【
図3】
図3は、強誘電性機能素子における強誘電性膜を含む積層構造の例を示す断面図である。
【
図6】
図6は、強誘電体を含む電界効果型トランジスタの構成例を示す。
【
図8】
図8は、電気光学素子の例として強誘電体を用いた光偏向器の例を示す。
【
図9】
図9は、圧電素子の積層構造の例を示す断面図である。
【
図10】
図10は、インクジェットヘッドの例を断面図で示す。
【
図11】
図11は、ハードディスクドライブの例を示す模式図である。
【
図12】
図12は、ジャイロセンサーの例を示す模式図である。
【
図14】
図14は、弾性表面波(SAW)共振器の例を示す模式図である。
【
図15】
図15は、膜バルク波共振器(FBAR)の例を示す模式図である。
【
図16-1】
図16-1は、圧電ミラーの例を示す模式図である。
【
図16-2】
図16-2は、圧電ミラーの例を示す模式図(続き)である。
【
図17】
図17は、実施例1~4で得られた7%YO
1.5-93%HfO
2膜のX線回折分析チャートである。
【
図18】
図18は、実施例1~4で得られた7%YO
1.5-93%HfO
2膜の分極ヒステリシス測定結果(分極―電界の関係)を示すチャートである。
【
図19】
図19は、実施例5で得られた7%YO
1.5-93%HfO
2膜のX線回折分析チャート及び分極ヒステリシス測定結果(分極―電界の関係)を示すチャートである。
【
図20-1】
図20-1は、実施例6で得られた7%YO
1.5-93%HfO
2膜のX線回折分析チャート及び分極ヒステリシス測定結果(分極―電界の関係)を示すチャートである。
【
図20-2】
図20-2は、実施例6で得られた7%YO
1.5-93%HfO
2膜について、PUND(Positive-up-negative-down)による分極測定結果を示す。
【
図21-1】
図21-1は、実施例7で得られた7%YO
1.5-93%HfO
2膜のX線回折分析チャート及び分極ヒステリシス測定結果(分極―電界の関係)を示すチャートである。
【
図21-2】
図21-2(a)は、実施例7で得られたITO/PET上の7%YO
1.5-93%HfO
2膜の透過型電子顕微鏡の明視野像、
図21-2(b)は7%YO
1.5-93%HfO
2膜の制限視野電子回折像、
図21-2(c)は
図21-2(b)の222回折を用いて結像した透過型電子顕微鏡の暗視野像を示す。
【
図22】
図22は、実施例8で得られた7%YO
1.5-93%HfO
2膜のX線回折分析チャート及び分極ヒステリシス測定結果(分極―電界の関係)を示すチャートである。
【
図23-1】
図23-1は、実施例9で一部の基板(Pt/Si)上に得られた7%YO
1.5-93%HfO
2膜分極ヒステリシス測定結果(分極―電界の関係)及びX線回折分析チャートである。
【
図23-2】
図23-2は、Pt/Si基板上の7%YO
1.5-93%HfO
2膜について、PUND(Positive-up-negative-down)による分極測定結果を示す。
【
図24】
図24は、実施例9で一部の基板(ITO/Al
2O
3(c面)、SRO/STO)上に得られた7%YO
1.5-93%HfO
2膜の分極ヒステリシス測定結果(分極―電界の関係)及びX線回折分析チャートである。
【
図25】
図25は、実施例10で得られた7%YO
1.5-93%HfO
2膜のX線回折分析チャートである。
【
図26】
図26は、実施例11で得られた7%YO
1.5-93%HfO
2膜(ITO/ポリイミド基板)の分極ヒステリシス測定結果(分極‐電界の関係)である。
【
図27】
図27(a)は、実施例12で得られた7%YO
1.5-93%HfO
2膜の透過型電子顕微鏡の明視野像、
図27(b)は7%YO
1.5-93%HfO
2膜の制限視野電子回折像を、
図27(c)はITO電極およびYSZ100基板の制限視野電子回折像を示す。
【
図28】
図28は、実施例14で得られた膜厚20nmの7%YO
1.5-93%HfO
2膜の分極ヒステリシス曲線(分極-電界の関係)を示す。
【
図29】
図29は、実施例15で得られた膜厚900nmの7%YO
1.5-93%HfO
2膜のX線回折分析チャート及び分極ヒステリシス測定結果(分極-電界の関係)を示す。
【
図30】
図30は、実施例16で得られた7%YO
1.5-93%HfO
2膜及び5%YO
1.5-95%HfO
2膜のX線回折分析チャートを示す。
図30(a)はITO/(111)YSZ板上に室温で堆積させた7%YO
1.5-93%HfO
2膜における110超格子回折付近の2Theta-Psiマップである。
図30(b)はITO/(111)YSZ基板上に室温で堆積させた5%YO
1.5-95%HfO
2膜における110超格子回折付近の2Theta-Psiマップである
【
図31】
図31は、実施例16で得られた7%YO
1.5-93%HfO
2膜及び5%YO
1.5-95%HfO
2膜の分極ヒステリシス測定結果(分極‐電界の関係)を
図31に示す。
図31(a)は7%YO
1.5-93%HfO
2膜を分極ヒステリシス測定(分極―電界の関係)した結果を示す。
図31(b)は5%YO
1.5-95%HfO
2膜を分極ヒステリシス測定(分極―電界の関係)した結果を示す。
図31(c)および(d)は7%YO
1.5-93%HfO
2膜および5%YO
1.5-95%HfO
2膜の残留分極値Prおよび抗電界Ecの印加電圧依存を示す。
【
図32】
図32は、実施例17で得られた7%YO
1.5-93%HfO
2膜のアニール前後の膜について、分極ヒステリシス測定(分極‐電界の関係)をした結果を示す。
【
図33】
図33(a)(b)は、実施例18で得られた5%YO
1.5-95%Hf
0.75Zr
0.25O
2膜の分極ヒステリシス測定結果(分極‐電界の関係)を示す。
【
図34】
図34(a)は実施例19で得られたITO/YSZ111基板上の5%YO
1.5-95%Hf
0.75Zr
0.25O
2膜の分極ヒステリシス測定結果を、
図34(b)は実施例19で得られたITO/YSZ100基板上の5%YO
1.5-95%Hf
0.75Zr
0.25O
2膜の分極ヒステリシス測定結果(分極‐電界の関係)を示す。
図34(c)は実施例20で得られたITO/YSZ111基板上の5%YO1.5-95%Hf0.50Zr0.50O2膜の分極ヒステリシス測定結果(分極‐電界の関係)を、
図34(d)は実施例20で得られたITO/YSZ100基板上の5%YO
1.5-95%Hf
0.75Zr
0.25O
2膜の分極ヒステリシス測定結果(分極‐電界の関係)を示す。
【
図35】
図35は、実施例21で得られた基板としてITO/YSZに代えてPtの製膜温度が異なるPt/Si基板上の5%YO
1.5-95%Hf
0.50Zr
0.50O
2膜の分極ヒステリシス測定結果(分極‐電界の関係)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(強誘電性膜の製造方法)
本発明は、第一の側面において、膜スパッタ法で、基体温度を300℃未満とし、ターゲットをスパッタして、前記基体上に直方晶相の蛍石型構造を有することが可能な金属酸化物の膜を堆積し、その後の前記膜の熱履歴が300℃未満であるか、または、前記堆積後又は前記熱履歴後に前記膜に電界印加することにより、直方晶相の蛍石型構造を有する結晶性の金属酸化物を含む強誘電性膜を製造することを特徴とする強誘電性膜の製造方法を提供する。
【0012】
従来、直方晶相の蛍石型構造を有する金属酸化物を含む強誘電性膜をPLD法などで製膜する場合、300℃以上の高温で堆積するか、あるいは金属酸化物膜を堆積した後に300℃以上の高温でアニールして、強誘電性膜を得ていた。300℃未満、室温での堆積では単斜晶相が得られる。しかしながら、本発明者らは、意外にも、直方晶相の蛍石型構造を有することが可能な原料組成を有するターゲットを用いて、300℃未満の基体温度で、スパッタ法で堆積すれば、その後に、300℃以上の高温でアニールしなくても、または、堆積後又は熱履歴後に膜に電界印加することにより、直方晶相の蛍石型構造を有する結晶の金属酸化物を含む強誘電性膜を製膜できること、加えて、耐熱温度が300℃未満の基体上でも上記のような強誘電性膜を製膜することができることを見出した。
【0013】
(強誘電性膜)
本発明の強誘電性膜の製造方法において、製膜される強誘電性膜は、直方晶(斜方晶)相の蛍石型構造を有する結晶の金属酸化物を含む強誘電性膜である。
【0014】
蛍石型構造及び直方晶(斜方晶)相は、結晶学において広く知られている。
図1に蛍石型構造の単位胞を示す。蛍石型構造の結晶は、立方晶、正方晶、直方晶に加えて単斜晶の計4個の結晶構造を取ることができ、立方晶、正方晶、直方晶は結晶軸が垂直方向で交わり、直角四角形の面格子を有するが、立方晶は3軸とも同じ長さ、正方晶は2軸が同じ長さで1軸の長さが異なり、直方晶は3軸とも長さが異なる。それに対して単斜晶は結晶軸のうち2軸が垂直方向で交わらずかつ3軸とも長さが異なる。本発明の強誘電性膜は、直方晶相の蛍石型構造である。直方晶相の蛍石型構造でないと、強誘電性膜は得られない。従来、基体上に直方晶相の蛍石型構造の金属酸化物の強誘電性膜を300℃未満の温度で、後アニールなしで、製膜した報告はない。なお、直方晶相と斜方晶相は表現が違うだけで、結晶学的に同一の結晶相である。
【0015】
本発明の強誘電性膜が直方晶相の蛍石型構造であることは、X線回折法(広域逆格子マッピング測定おける超格子反射の存在)により確認してよい。ただし、本発明の強誘電性膜は、X線回折分析により直方晶相及び/又は正方晶相であることは容易に確認できるが、金属酸化物の種類によっては、直方晶相及び/又は正方晶相の軸の長さの差が微小であるために、X線回折装置の種類や測定精度に依存して、直方晶相と正方晶相との間で識別できない場合がある。そのような場合には、分極ヒステリシス特性を調べて強誘電性を示すか否かを調べることで、直方晶相の存在を確認してよい。この分極ヒステリシス測定の結果として分極ヒステリシス特性が確認される場合、分極ヒステリシス測定では電界印加がなされるので、測定前の膜が既に直方晶相である場合と、測定前の膜は正方晶相であるが測定のための電界印加によって直方晶相に電界誘起相転移された場合の両方があり得るが、本発明においてはいずれの場合であっても、結果として強誘電性を示し、直方晶相であればよい。本発明の強誘電性膜は、さらに、製膜後の膜は正方晶であると確認できる場合であっても、電界印加することによって直方晶相に相変化が誘起されて、強誘電性を示すものであってもよい。強誘電性を示すものは、直方晶相であり、本発明の強誘電性膜に含まれる。
【0016】
X線回折装置の種類や測定精度に依存して、直方晶相と正方晶相との間で識別できない場合には、より分析精度の高いX線回折法(例えば、SPring 8など)によって結晶相を解析してよい。そのほかに、印加電界を少しずつ増大させながら、その後印加電界を少しずつ減少させながら、それぞれ分極特性(ヒステリシス特性)を調べて、その間の分極特性(ヒステリシス特性、特に残留分極値、抗電界値)の変化を調べることで、製膜後、ヒステリシス特性測定前の膜が直方晶相であることを確認できる可能性がある。電界印加以前から直方晶相である場合(特に配向した膜)と、電界印加によって相変化が誘起される場合では、現れる分極特性値の変化が異なってよい。前者(特に配向した膜)では残留分極値を得るための印加電界が低くてよいのに対して、後者では残留分極値を得るための印加電界が高い(正方晶から直方晶相への電界誘起が必要である)可能性がある。電界印加(ヒステリシス特性測定)以前から直方晶相である膜では、印加電界を増大させるときと、減少させるときとでは、同じ残留分極値及び抗電界値を示す印加電界が同じかあまり変わらないが、電界印加(ヒステリシス特性測定)以前は正方晶相である膜では、同じ残留分極値及び抗電界値を示す印加電界が印加電界を増大させるとき高く、減少させるとき低く、その間に有意な差が観測される可能性がある(実施例 、
図32参照)。ただし、電界印加(ヒステリシス特性測定)以前は直方晶相である膜でも配向性が低い膜では、配向(分極)させるために印加電界が必要で、低い印加電界では分極ヒステリシス特性を示さない場合があるので、この測定方法で直方晶相であることを確認できなくても、製膜後の膜が直方晶相である可能性はある。
【0017】
また、本発明の膜は直方晶相の蛍石型構造であり、かつ強誘電性を示す膜であるが、強誘電性は分極ヒステリシス測定(分極―電界の関係)によって確認することができる。分極ヒステリシス測定(分極―電界の関係)の方法は公知である。強誘電性を示す膜は、必ず圧電性を示すが、圧電性は、試験片に電圧を印加して伸縮を観察して確認することもできる。
【0018】
本発明の膜は、直方晶(斜方晶)相の蛍石型構造を有する結晶を含み、かつ強誘電性を示す金属酸化物を含む強誘電性膜である。このような金属酸化物としては、ハフニウム(Hf)酸化物、ジルコニウム(Zr)酸化物、セリウム(Ce)酸化物の1種を含む金属酸化物又は2種以上を含む金属酸化物の固溶体であるか、又は、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、セリウム(Ce)のうち1種以上を含む金属と、アルミニウム(Al),ケイ素(Si)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、さらには希土類元素(Sc,Y,La,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Luなど)などの添加又は置換元素を含む金属酸化物であることが好ましい。蛍石構造をとることができ、直方晶(斜方晶)相及び強誘電性を示すことができる金属酸化物として、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、セリウム(Ce)のうち1種以上を含む金属酸化物、又は、それに上記のような添加又は置換元素を含む金属酸化物は、知られており、また、これらの3種の金属、特にHfとZrを含む金属酸化物は相互に完全固溶でき、結晶構造の類似性の高い金属酸化物として知られている。(文献:例えば、J. Amer. Ceram Soc., 37(10) 458 (1954) が参照される)
【0019】
これらのHf、Zr、Ceの1種以上を含む金属酸化物は、お互いに類似する金属酸化物であり、相互に固溶体を形成することばできるが、酸素欠陥を含むことで、直方晶相の蛍石型構造を有し、強誘電性を示すことが可能であることも知られている。
【0020】
また、好ましくは、金属酸化物としてHf、Zr、Ceの1種以上の金属を含み、元素添加又は置換した金属酸化物を用いることができる。置換又は添加元素(以下、単に置換元素ともいう。)として用いることができる元素の例としては、上記の金属酸化物に固溶する元素であればよく、たとえば、アルミニウム(Al),ケイ素(Si)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、さらには希土類元素(Sc,Y,La,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Luなど)などを挙げることができる。
【0021】
これらの置換元素の量は、元素置換される金属酸化物や置換元素の種類に依存するが、直方晶相の蛍石型構造が形成される量であればよく、一般的には、置換元素(金属元素)のモル数が、元素置換された金属酸化物全体の金属同士の合計を100モル%として、15モル%以下の0.1~10%が好ましく、4~9モル%でもよい。元素置換量が上記より少ないと、単斜晶相を持つ蛍石型構造が安定化するおそれがある。元素置換量が上記より多いと正方晶相もしくは立方晶相を持つ蛍石型構造が安定化するおそれがある。
【0022】
上記において元素置換される金属酸化物は、ハフニウム酸化物、ジルコニウム酸化物、セリウム酸化物のような単純酸化物のほか、これらの金属酸化物の間の固溶体でも蛍石構造をとるものであればよい。金属酸化物の間の固溶体の場合、その金属酸化物の固溶体に対して、アルミニウム,ケイ素、希土類元素などを元素置換することで本発明の直方晶相の蛍石型構造を有する強誘電性膜を得ることができる。その元素置換の量は上記と同様に元素置換した金属酸化物の固溶体全体の金属の合計を100モル%にして、10モル%以下の0.1~10%が好ましく、より好ましくは4~9モル%である。
【0023】
1つの好ましい態様において、金属酸化物が、ハフニウム(Hf)とジルコニウム(Zr)のうち少なくとも1方を含み、かつアルミニウム(Al),ケイ素(Si)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、さらには希土類元素などの置換元素を含む金属酸化物が好ましく用いられる。ハフニウム(Hf)酸化物とジルコニウム(Zr)酸化物は相互に完全固溶できるが、ジルコニウム(Zr)酸化物単独の場合、置換元素(金属元素)のモル数が、元素置換された金属酸化物全体の金属同士の合計を100モル%として、0.5~5モル%、さらに1~3モル又は1~2モル%が特に好ましく、ハフニウム(Hf)酸化物単独の場合、置換元素(金属元素)のモル数が、元素置換された金属酸化物全体の金属同士の合計を100モル%として、3~12モル%、さらに4~9%又は4~8モル%が特に好ましく、ハフニウム(Hf)酸化物とジルコニウム(Zr)酸化物の固溶体では、ハフニウム(Hf)酸化物単独とジルコニウム(Zr)酸化物単独の場合の置換元素の上記の量(範囲)を基準にして、HfとZrの固溶割合に応じて加重加算された置換量(範囲)であることが好ましい。これらの範囲であれば、スパッタ法で、直方晶相の蛍石型構造を有する強誘電性膜をより容易に製造できる。ZrとHfのモル比をr=Zr/(Zr+Hf)とすると、ZrとHfの合計を100モル%として、〔0.5+(3-0.5)r〕~〔5+(12-5)r〕、さらに〔1+(4-1)r〕~〔3+(9-3)r〕、〔1+(4-1)r〕~〔2+(8-2)r〕の範囲のモル数は好ましい。
【0024】
本発明の強誘電性膜は、直方晶相の蛍石型構造を有するとともに強誘電性を示すものでなければならない。強誘電性は直方晶相の蛍石型構造を有することの結果でもあると考えられるが、本発明の強誘電性膜は、直方晶相の蛍石型構造を有するだけではなく、強誘電性を示すものである。
【0025】
本発明の製造方法によって製膜される強誘電性膜は、強誘電性を発現する直方晶相の蛍石型構造を有する結晶であるが、多結晶のほか、一軸配向性結晶でもよく、さらにはエピタキシャル結晶であってもよい。ある結晶基体の上に他の結晶膜が成長する場合に、成長する結晶と結晶基体とで結晶の一つの結晶軸がほぼ合致して成長していることを一軸配向結晶、結晶の二つの結晶軸がほぼ合致して成長していることをエピタキシャル結晶という。結晶粒ごとにエピタキシャル成長した”ローカルエピタキシャル成長“をさせた一軸配向結晶や、エピタキシャル成長した結晶粒が実質的な大きさを有する単結晶のエピタキシャル結晶も形成可能である。また、一軸配向性結晶は、本来、結晶基体との関係で結晶の配向を指称するものであるが、得られた一軸配向性結晶の特有の結晶配向に基づいて、結晶基体から分離された結晶膜単独における結晶配向性についても一軸配向性と指称されることがある。
【0026】
本発明の製造方法によって製膜される強誘電性膜の膜厚は、強誘電性膜の最終用途に応じて、好適な膜厚が採用されるので、特には制約されないが、例えば、1nm以上や20nm以上、100nm以上であってよいが、特に圧電体では、好ましくは、300nm以上、500nm以上、1μm以上であってよい。さらに5nm以上、10nm以上であってよい。また、上限も制約されないが、例えば、10μm以下、5μm以下、3μm以下、1μm以下であってよい。1つの好ましい態様において、強誘電性膜の膜厚は、5nm~1000nm、より好ましくは10nm~500nmである。また別の1つの好ましい態様において、強誘電性膜の膜厚は、500nm~5μm、より好ましくは1μm~3μmである。
【0027】
(スパッタ法)
本発明は、スパッタ法を用いることを特徴とする。スパッタ法以外の、ゾルゲル法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法、PLD(Pulsed Laser Deposition)法、ALD(Atomic Layer Deposition)法などの他の製膜法(堆積法)では、水熱法を除いて、蛍石型構造を有する金属酸化物の膜を堆積しても、基体温度が300℃以上にするか、又は堆積後に300℃以上の温度でアニールしなければ、直方晶相、さらには正方晶の蛍石型構造は得られず、強誘電性を示さない膜になってしまう。本発明者らは、従来の知見とは異なり、全く予想外にも、スパッタ法を用いることで、基体温度が300℃未満であっても、堆積後に高温アニールの必要なしで、直方晶相の蛍石型構造を有し、かつ強誘電性を示す金属酸化物膜を製膜することができることを見出した。本発明の製造方法によれば、300℃未満の基体温度で堆積し、その後の熱履歴が300℃未満であっても、場合によって電界印加することによって、直方晶相の蛍石型構造を有する結晶の金属酸化物を含む強誘電性膜を製造することが可能であり、これは従来にない新規な技術である。
【0028】
スパッタ法は、真空チャンバー内に膜として堆積したい金属酸化物の原料となる金属酸化物や金属などの材料をターゲットとして設置し、イオンや電子などの粒子、例えば、高電圧をかけてイオン化させたガス、例えば、窒素ガスや希ガス(代表的にはアルゴン)などを、ターゲットに衝突させることで、高いエネルギーでターゲット表面の膜原料をはじき飛ばし、高いエネルギーを持ってはじき飛ばされた原料が基体に到達して製膜される堆積方法である。気相堆積法には、膜原料を加熱蒸発させる蒸着法や、膜原料にパルスレーザービームを照射して膜原料を蒸発させるパルスレーザー堆積法(PLD)など主に熱を利用して原料を気化させる方法があるが、低温で単斜晶相が安定である組成の膜では、高いエネルギーを有する加速した粒子をターゲットに衝突させるスパッタ法でなければ、本発明の効果(低温で直方晶相又は正方晶の蛍石型構造を有する結晶の金属酸化物を含む強誘電性膜)は得られない。蒸着法やPLD法では、原料の気化にターゲットを粒子で衝突するのではなく、熱を用いているので、堆積時のエネルギーが低いために、本発明の目的とする強誘電性膜を製膜することができないと考えられる。
【0029】
図2にスパッタ装置10の代表的な例を模式的に示す。このスパッタ装置10は、真空チャンバー1、真空チャンバー1内に配置した基体2及びターゲット3、基体2及びターゲット3の間に電圧を印加するための電源4、真空チャンバー1の雰囲気ガスの導入系5、基体3を加熱するヒーター(図示せず)、基体2の温度を測定する温度計(図示せず)を具備する。スパッタ装置10は、任意にターゲット3にマグネトロン発生装置を有して、マグネトロンスパッタ装置を構成することもできる。通常、基体2とターゲット3の間に直流又は交流の高電圧をかけて、真空チャンバー1内の不活性ガスをイオン化させるとともに、基体2がターゲット3より高い電位にバイアスされることで、不活性ガスイオンはターゲットに衝突して、ターゲット表面の原料をはじき飛ばし、そのはじき飛ばされた原料が基体に到達することで、ターゲットの材料が基体表面に熱的蒸着法と比べて高いエネルギー状態で堆積される。本発明のスパッタ法は、ターゲットからスパッタされた原料とガスとが化学反応して生成する反応生成物を製膜する反応性スパッタ法を含む。反応性スパッタ法においても、高いエネルギーでターゲットから飛び出した原料が、雰囲気中の気体と化学反応しても基体上に高いエネルギーで堆積するので、低温では安定相でない直方晶相又は正方晶の蛍石型構造を有する結晶の金属酸化物を含む強誘電性膜を得ることを可能にする。また、化学反応を伴わない狭義のスパッタ法(非反応性スパッタ法)の場合、不活性雰囲気を用いるものであり、雰囲気中には原料と反応性の気体を含まないが、雰囲気ガス中に少量の酸素ガスを含んで、製膜される金属酸化物の組成を安定化する等のことは許容される。
【0030】
本発明の強誘電性膜の製造方法において用いるスパッタ法の条件としては、上記のスパッタ法であればよい。本発明で用いるスパッタ法は、熱ではなく、イオンや電子などの粒子を用いてターゲットをスパッタする方法であればよく、電界をかけてプラズマを発生させる通常のスパッタ法のほか、イオンビームスパッタ法、電子ビームスパッタ法などを含む。スパッタ法であれば、直流スパッタ法、交流スパッタ法、高周波スパッタ法、マグネトロンスパッタ法、交流マグネトロンスパッタ法、イオンビームスパッタ法、ECRスパッタ法などのいずれでもよい。スパッタ法の1つの好ましい態様は、直流スパッタ法か交流マグネトロンスパッタ法である。
【0031】
(ターゲット)
本発明において製膜される膜は、上記のように、直方晶相の蛍石型構造を有し、かつ強誘電性を示す金属酸化物を含む。本発明において用いるターゲットは、このような金属酸化物(直方晶相の蛍石型構造を有し、かつ強誘電性を示す)を形成可能な金属酸化物及び/又は金属である。非反応性スパッタ法において、ターゲットは、好ましくは上記のような金属酸化物と同じ組成の金属酸化物自体であるが、複数の金属酸化物の組合せからなり、その平均組成が上記の金属酸化物と同じ組成を有するものであってもよい。また、反応性スパッタ法の場合はターゲットとして金属を用いることができるが、非反応性スパッタにおいてもターゲットの一部として金属を用いてもよい。スパッタ法で製膜される金属酸化物は、基本的にターゲットと同一の組成になるが、スパッタされてターゲットから飛翔して基体上に堆積した膜の組成が、ターゲットの金属酸化物の組成(平均組成)と僅かに変化することは許容される。本発明のスパッタ法では、通常は、ターゲットと得られる膜との間の目的物質の組成の変化はわずかであり、無視できる程度である。各金属元素及び酸素のモル数として、2~3%以下、通常1%以下、0.5%以下、さらには0.02%以下であると考えられる。
【0032】
本発明の強誘電性膜の製造方法において、ターゲットを構成する金属酸化物としては、たとえば、ハフニウム酸化物、ジルコニウム酸化物、セリウム酸化物、およびこれらの固溶体などの金属酸化物、又はこれらの金属酸化物に元素置換した材料を好ましく用いることができる。置換元素として用いることできる元素の例としては、上記の金属酸化物に固溶する元素であればよく、たとえば、アルミニウム(Al),ケイ素(Si)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)及び希土類元素(Sc,Y,La,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu)などを挙げることができる。非反応性スパッタでは、ターゲットは、このような組成を有する金属酸化物自体であることが好ましいが、平均組成が上記の金属酸化物の組成と一致する複数の金属酸化物の複合体であってもよい。特に置換元素は他の金属酸化物と一体又は単独の金属酸化物であるほか、金属であってもよい。
【0033】
(スパッタ条件)
本発明の強誘電性膜の製造方法において、スパッタ時の基体温度は、300℃未満である。基体は加熱することなく、室温でよいが、300℃未満であれば加熱しても、従来の300℃以上の温度で製膜又はアニールする方法と比べて、低温化の利益が得られる。1つの好ましい態様は室温(例えば、25℃)である。他の好ましい態様は300℃未満の温度に加熱すること、例えば、50℃以上、100℃以上、また300℃未満、250℃以下、150℃以下の温度に加熱することである。熱処理による弊害を避けるためにはより低温であることが好ましいが、製膜する膜の結晶性を向上させるためにはある程度の温度に昇温することが望ましい場合がある。
【0034】
本発明の強誘電性膜の製造方法において、非反応性スパッタでは、真空チャンバー内の雰囲気は、ターゲットから飛び出すターゲット材料(原料)と反応しない不活性雰囲気、例えば、アルゴン、キセノン、クリプトン、ヘリウムなどの希ガスや窒素であり、好ましくは希ガス、特にアルゴンであることがより好ましい。ターゲット及び製膜が金属酸化物であるから金属酸化物の組成を安定化するために、少量の酸素を含んでよい。不活性雰囲気中に含まれる酸素ガスの含有量は、雰囲気中の分圧で、10%以下、5%以下、1%以下、0.1%以下であってよい。しかし、本発明の1つの態様では、不活性ガス雰囲気だけからなり、雰囲気中に酸素ガスを含まないことが最も好ましい。非反応性スパッタでは、雰囲気中に酸素ガスが含まれるとしても、酸素ガスは不活性ガス中の分圧が1%未満、0.05%以下、0.01%以下であることが好ましい。
【0035】
反応性スパッタでは、真空チャンバー内の雰囲気は、酸素含有雰囲気である。酸素のほか、上記の不活性ガス、例えば、アルゴン、キセノン、クリプトン、ヘリウムなどの希ガスや窒素、好ましくは希ガス、特にアルゴンを含むことができる。不活性ガスと酸素との割合は、限定されないが、モル比で100:0~100:1、さらに100:0~100:0.5、100:0~100:0.1、100:0~100:0.01であってよい。
【0036】
本発明の強誘電性膜の製造方法において、真空チャンバー内の雰囲気圧力は、減圧する。圧力としては、例えば、10~200mTorrであってよい。
【0037】
本発明の強誘電性膜の製造方法において、基体とターゲットの間に印加する電界は例えばDCあるいはRF等であってよい。アルゴンなどの雰囲気ガスをイオン化するための電界としては直流あるいは高周波等であってよい。
【0038】
本発明の強誘電性膜の製造方法において、スパッタの電力は、ターゲットの面積を基準にして、例えば、0.06~2.47W/cm2、さらに0.12~1.85W/cm2、0.12~1.23W/cm2、0.12~0.617W/cm2であってよい。スパッタの電力が大きいほど製膜の効率はよい(単位時間当たりの膜厚を大きくできる)が、得られる膜の結晶性が低下する可能性がある。
【0039】
本発明の強誘電性膜の製造方法において、スパッタの時間は、製膜速度と望まれる膜厚に依存するので一概ではないが、例えば1min~300minであってよい。
【0040】
(堆積後の熱履歴)
本発明の製造方法では、300℃未満の基体温度においてスパッタすることで、強誘電性膜が得られるので、製膜後の熱履歴も300℃未満であってよい。製膜時及び成膜後の熱履歴が300℃未満であることで、耐熱性が300℃未満である基体を損傷することなく、本発明の金属酸化物の強誘電性膜を基体上に製膜することができる。1つの好ましい態様においては、スパッタ後にアニールは不要であるが、別の1つの好ましい態様において、スパッタ後に300℃未満の温度、例えば、50℃以上、100℃以上の温度、また300℃未満、250℃以下又は150℃以下の温度でアニールしてもよい。
【0041】
(堆積後の電界印加)
本発明の1つの態様の製造方法では、300℃未満の基体温度において、スパッタして直方晶相の蛍石型構造を有することが可能な金属酸化物の膜を製膜し、300℃未満の熱履歴において、その製膜又は熱履歴の後にさらに電界印加することで、直方晶相の蛍石型構造を有する結晶性の金属酸化物を含む強誘電性膜を得てもよい。この態様では、堆積後の膜は正方晶であり、電界印加によって正方晶から直方晶相に相変化が誘起されている。
【0042】
スパッタ法でなければ、300℃未満の低温製膜及び低温熱履歴において、電界印加によって、正方晶相から直方晶相(低温で安定相でない)に相変化が誘起されることが可能な蛍石構造の金属酸化物の膜を製膜することはできない。
【0043】
印加電界は、膜の結晶構造、結晶状態、膜厚などに依存するので、一概ではないが、一般的には1MV/cm以上、3MV/cm以上、4MV/cm以上、さらに5MV/cm以上が好ましい。また3MV/cm以下であってもよい。印加電界は、交流であることが好ましく、周波数は1~100kHz、印加時間(サイクル数)は1cycle以上であってよい。
【0044】
電界印加は室温で行ってよいが、300℃未満の温度、特に堆積温度及び堆積後のアニール温度のいずれよりも高くない温度の昇温下であってもよい。
【0045】
この電界印加の態様及び条件は、膜によって、強誘電体のヒステリシス分析あるいは分極処理に用いられる態様及び条件と同様であるか、ヒステリシス分析あるいは分極処理に用いられる条件より高いエネルギー条件であるか、ヒステリシス分析あるいは分極処理に用いられる条件より低いエネルギー条件であってよい。
【0046】
また、本発明で製造される強誘電性膜は、強誘電性素子又は強誘電性機能素子として使用される際に、好ましくは分極処理が行われる。
【0047】
1つの態様において、この分極処理が、正方晶から直方晶相への相変化を誘起する電界印加処理であってもよい。
【0048】
(基体)
本発明の強誘電性膜の製造方法において、強誘電性膜が堆積される基体は特に制約されず、従来から本発明の強誘電性膜と同様の強誘電性膜の製膜基体として用いられている基体のいずれも用いることができる。例えば、セラミック、半導体、金属、有機物の基体を用いることができる。セラミックは導電性でも、絶縁性でもよい。
【0049】
本発明の製造方法においては、基体は、製膜する強誘電性膜の結晶性を高めるために、強誘電性膜と小さい結晶格子不整合を有する結晶基体が好ましく用いられる。好ましい結晶基体としては、例えば、立方晶蛍石型構造、ビクスバイト構造、パイロクロア構造、ダイアモンド構造、閃亜鉛型構造、ペロブスカイト構造の結晶基体を挙げることができる。
【0050】
立方晶蛍石型構造の結晶基体の例としては、イットリア安定化ジルコニア(格子定数a=約5.15Å)、セリウム酸化物(格子定数a=約5.41Å)、フッ化カルシウム(格子定数a=約5.466Å)がある。
【0051】
ビクスバイト構造の結晶基体の例としては、インジウム酸化物(格子定数a=約10.125Å)、インジウム錫酸化物(格子定数a=約10.125Å)、スカンジウム酸化物(格子定数a=約9.845Å)、イットリウム酸化物(格子定数a=約10.604Å)、エルビウム酸化物(格子定数a=約10.545Å)、ツリウム酸化物(格子定数a=約10.49Å)、イッテルビウム酸化物(格子定数a=約10.434Å)、ルテチウム酸化物(格子定数a=約10.363Å)がある。直方晶系蛍石型構造の強誘電体と結晶基体の格子定数は倍数関係でもよい。
【0052】
パイロクロア構造の結晶基体の例としては、Bi2Ru2O7(格子定数a=約10.293Å)、希土類ルテニウム酸化物R2Ru2O7(Rは希土類元素)、Bi2Ir2O7(格子定数a=約10.323Å)、希土類イリジウム酸化物R2Ir2O7(Rは希土類元素)などがある。
【0053】
また、半導体の中にも、結晶基体として利用できるものがある。特に格子定数が適合していれば好適に使用でき、たとえば、ダイアモンド構造の半導体の例としてシリコン(格子定数a=約5.43Å)、ゲルマニウム(格子定数a=約5.6575Å)がある。また、閃亜鉛型構造の化合物半導体の例として、III-V族化合物半導体であるガリウムヒ素(格子定数a=約5.6532Å)、アルミニウムヒ素(格子定数a=約5.656Å)、ガリウムリン(格子定数a=約5.450Å)、アルミニウムリン(格子定数a=約5.451Å)など、II-IV族化合物半導体であるベータ硫化亜鉛(格子定数a=約5.4109Å)、セレン化亜鉛(格子定数a=約5.451Å)などを挙げることができる。
【0054】
また、本発明の強誘電性膜では、上記の結晶基体は、イットリア安定化ジルコニア基板、単結晶シリコン基板などの基体上に形成した膜であることができる。
【0055】
また、上記の結晶基体を半導体、特に単結晶シリコン基体の上に形成し、結晶基体と単結晶シリコン基板などの半導体基体の間にさらに立方晶蛍石型もしくはビクスバイト型エピタキシャル結晶膜などをバッファー層として有するものであることができる。
【0056】
本発明の強誘電性エピタキシャル膜を形成する結晶基体は、導電性を有する電極層であることができる。本発明の強誘電性膜を形成でき導電性を有する結晶基体としては、Bi2Ru2O7、R2Ru2O7(Rは希土類元素)、Bi2Ir2O7、希土類イリジウム酸化物R2Ir2O7(Rは希土類元素)などのパイクロア構造物などがある。またインジウム錫酸化物(ITO)なども導電性で、その上に本発明の強誘電性膜を形成することができる。これらの導電性パイクロア構造物、ITOなどの導電性結晶基体は、イットリア安定化ジルコニア基板、単結晶シリコン基板などの基体上に形成したものであることができる。
【0057】
特に、シリコンなどの半導体基板上に本発明の強誘電性膜を形成する構造として、半導体をS,強誘電性エピタキシャル膜をF、金属をM、絶縁体をIで表すと、MFS構造(たとえば、M/F/Si)、MFIS構造(たとえば、M/F/蛍石構造/Si、M/F/ビクスバイト構造/Si)、MFM(IS)構造(たとえば、M/F/ITO/(蛍石構造又はビクスバイト構造)/Si、M/F/導電性パイクロア構造/(蛍石構造又はビクスバイト構造)/Si)などの構造を用いることができる。ここで(蛍石構造又はビクスバイト構造)として記載した部分はバッファー層であり、省略できる。
図3に、強誘電性膜を利用する強誘電性素子又は強誘電性機能素子の例として、メモリ、抵抗変化メモリ、トランジスタ、キャパシタ、冷却装置、焦電装置における、上記のような強誘電性膜を含む積層構造の例を示す。強誘電性素子は、一般的に、強誘電性膜と一対の電極を含み、一対の電極のそれぞれは強誘電性膜の両面のそれぞれと直接又は間接的に接触して強誘電性膜と電気的に接続されている。
【0058】
半導体の例として、ダイアモンド構造の半導体であるダイアモンド(格子定数a=約3.567Å)、シリコン(格子定数a=約5.43Å)、ゲルマニウム(格子定数a=約5.6575Å)、閃亜鉛型構造の化合物半導体である、ベータ炭化シリコン(格子定数a=約4.3596Å)、III-V族化合物半導体であるガリウムヒ素(格子定数a=約5.6532Å)、アルミニウムヒ素(格子定数a=約5.656Å)、ガリウムリン(格子定数a=約5.450Å)、アルミニウムリン(格子定数a=約5.451Å)、II-IV族化合物半導体であるベータ硫化亜鉛(格子定数a=約5.4109Å)、セレン化亜鉛(格子定数a=約5.451Å)などがある。
【0059】
本発明の製造方法においては、300℃未満の低温で強誘電性膜を製膜できる利点を有効利用する観点から、耐熱温度が300℃未満の基体に好ましく製膜することができる。耐熱温度が300℃未満の基体の例としては、有機樹脂、特にガラス転移温度が300℃未満の有機樹脂、ガラス転移温度が300℃未満の無機ガラス、例えば、ソーダガラス、軟化温度が300℃未満の金属、例えば、アルミニウム配線層、銅箔、金箔等を挙げることができる。これらの低耐熱性基体上に、本発明の低温製膜法で強誘電性膜を製膜すれば、基体を損傷することなく、低耐熱性基体上に強誘電性膜を製膜できるので好ましい。また、ガラス転移温度が300℃未満の有機樹脂の基体は、可撓性を有することができるので、可撓性を有する強誘電性膜を得ることができ、新しい特有の用途への応用が期待される。
【0060】
本発明の好ましい態様において、基体は、金属などの導電性基体のほか、半導体や絶縁体であってもよい。本発明の製造方法によれば、様々な材質の基体上に強誘電性膜を製膜することが可能である。
【0061】
本発明の好ましい態様において、基体と強誘電性膜の間には、導電性の膜を有してよい。導電性の膜は強誘電性膜に対する電極層として機能することができるので好ましい。このような導電性の膜の例としては、ITO(インジウム錫酸化物)、白金Pt,Ir、Al、Agどの金属、TiN、IrO2、RuO2、SrRuO3、LaNiO3やLaSrCoO3などの導電性セラミックなどを挙げることができる。
【0062】
導電性の膜の膜厚も制約はないが、例えば、好ましくは1nm~100nm、より好ましくは10nm~100nmであってよい。このときの導電性の膜を有する基体としては、特に制約がなく、前述した300℃未満の低耐熱性の基体であってよい。基体と強誘電性膜の間に導電性の膜を有する場合、導電性の膜を表面に有する基体は、その全体を本発明の製膜方法における基体(複合基体)と考えることもできる。
【0063】
本発明の好ましい態様において、基体と強誘電性膜の間に、金属などの導電性基体のほか、半導体や絶縁体の膜を有してよい。このような膜を表面に有する基体も、その全体を本発明の製膜方法における基体(複合基体)と考えることもできる。
【0064】
(強誘電性膜-2)
本発明の第二の側面では、第一の側面の製造方法によって製造された強誘電性膜が提供される。この強誘電性膜は、直方晶相の蛍石型構造を有する結晶の金属酸化物を含む強誘電性膜であり、上記において製膜すべき強誘電性膜として説明した膜である。蛍石型構造、直方晶相、結晶性、強誘電性膜についても説明されている。
【0065】
強誘電性膜の金属酸化物は、上記の製造方法によって基体上に製膜される金属酸化物である。この金属酸化物は、直方晶相の蛍石型構造を有する結晶の強誘電性膜である。また、この金属酸化物は、非反応性スパッタ法では、上記の製造方法においてターゲットとして用いた金属酸化物の組成、あるいは金属酸化物の組合せの平均組成と一致してよい。本発明の強誘電性膜の製造方法においては、得られる膜の組成は基本的にターゲットの組成と一致する。しかし、この金属酸化物は、上記の製造方法においてターゲットして用いた金属酸化物の組成、あるいは金属酸化物の組合せの平均組成と完全同一でなくてもよい。スパッタされる際に得られる膜の組成がターゲットの組成から僅かに変化しても、得られた膜が直方晶相の蛍石型構造を有する結晶の金属酸化物の強誘電性膜であればよい。
【0066】
本発明の好ましい態様において、得られる強誘電性膜の金属酸化物は、前述した金属酸化物である。
【0067】
本発明の好ましい態様において、得られる強誘電性膜は基体上にあり、その基体に特に制約はないが、さらに好ましくはその基体は前述した耐熱性が300℃未満の低耐熱性の基体、例えば、有機樹脂、特にガラス転移温度が300℃未満の有機樹脂、耐熱性が低い無機ガラス又はガラス転移温度が300℃未満の無機ガラス、例えば、ソーダガラス、耐熱性が低い金属又は軟化温度が300℃未満の金属、例えば、アルミニウム配線層、銅箔、金箔等である。また、基体は半導体デバイスの内部であってよい。半導体デバイスの内部に強誘電性膜を低温で製膜できれば、半導体デバイスの高温に弱い部材又は要素(例えば、不純物拡散領域、アルミ配線など)に影響がないので好ましい。
【0068】
本発明の好ましい態様において、基体と強誘電性膜の間には、電極層として機能することができる導電性の膜を有してよい。このような導電性の膜の例としては、ITO(インジウム錫酸化物)やアルミニウム、銀などを挙げることができる。導電性の膜の膜厚も制約はないが、例えば、好ましくは1nm~100nm、より好ましくは10nm~100nmであってよい。基体と強誘電性膜の間に導電性の膜を有する場合、この導電性の膜を基体と考えてもよいし、あるいは導電性の膜を表面に有する基体の全体を本発明の製膜方法における基体(複合基体)と考えることもできる。
【0069】
本発明の好ましい態様において、基体と強誘電性膜の間に、金属などの導電性基体のほか、半導体や絶縁体の膜を有してよい。基体と強誘電性膜の間にある膜は、好ましくはスパッタ法、PLD法、CVD法などで堆積される膜である。このような膜を表面に有する基体も、その全体を本発明の製膜方法における基体(複合基体)と考えることもできる。
【0070】
本発明の強誘電性膜は、その膜上に電極層を有することができる。強誘電性膜上の電極層は導電性があればよいが、たとえば、ITO、Pt、Irなどがある。
【0071】
本発明の好ましい態様において、強誘電性膜は、メモリ、トランジスタ、キャパシタ、圧電素子、冷却装置、焦電装置などの各種の強誘電性機能素子又は装置の内部にあってよい。
【0072】
(強誘電素子、強誘電性機能素子又は装置)
本発明により提供される強誘電性膜は、強誘電性膜の強誘電性を利用して、キャパシタ、電気光学素子、メモリ素子、トランジスタ、圧電体、焦電素子などの各種の強誘電素子、強誘電性機能素子又は装置に応用できる。
【0073】
強誘電性を利用する基本素子としては、強誘電性膜の強誘電特性を発現させ、強誘電特性のオン・オフを利用するために、強誘電性膜と一対の電極層を具備する強誘電性発現素子として構成される。
【0074】
(膜キャパシタ)
図4に膜キャパシタの例を示す。本発明による膜キャパシタは通常の誘電体に代わる強誘電体14と強誘電体の一方の主面に配置された第一内部電極13と強誘電体の他方の主面に配置された第二内部電極15とからなるMIM構造体を少なくとも1層と、第一内部電極13と第一外部電極(図示せず)とを電気的に接続するための第一中間電極17aと、第二内部電極15と第二外部電極(図示せず)とを電気的に接続するための第二中間電極17bとを含む。
図4ではMIM構造体が1層の場合を示したが、複数のMIM構造体を積層しても良い。複数のMIM構造体を積層する場合、一方のMIM構造体の内部電極が他方のMIM構造体の内部電極を兼ねることができる。また、膜キャパシタはさらにMIM構造体を覆うように配置された保護膜12、16を含み、保護膜12、16はMIM構造体を覆うように配置され、中間電極17a、17bが貫通している。
図4は支持基板19上に剥離層11を介して当該膜キャパシタが形成され、その第一保護膜16上に接合用樹脂18が形成されている。中間電極17a、17bは第一保護膜16を貫通し当該第一保護膜16と接合用樹脂18との界面に達し、この界面に沿って膜キャパシタの一方の端面の方向に延びる。中間電極17a、17bは第一保護膜16を貫通した後、異なる接合用樹脂18との界面に達してもよいが、同一の接合用樹脂18との界面に達してもよい。この時、必ず露出していなければならないわけではない。中間電極17a、17bは保護膜の端面へ露出することが望ましい。支持基板19上に作製した膜キャパシタを複数個準備しておき、接合技術を用いて膜キャパシタ同士を接合させ、一方の支持基板19から剥離させ、接合・剥離工程を必要な回数繰り返し、所望の積層数を有する積層膜キャパシタを作製することができる。
【0075】
(強誘電体メモリ)
図5に強誘電体メモリの例を示す。この強誘電体メモリは、強誘電体キャパシタ(C)とメモリセル選択用のMOS(金属酸化物半導体)FET(T)を組み合わせる1T1C型(キャパシタ型)である。これをベースにして2つのキャパシタを逆向きに分極させることでデータの信頼性を高めている2C2T型もある。さらにゲート絶縁膜が強誘電体からなるMFS-FET又はMFMIS-FETを用いる1T型(トランジスタ型)も存在するが、これは特にFFTAMと呼ばれて区別されている。
【0076】
図5を参照すると、強誘電体膜21は上下を導電性膜からなる下部電極22と上部電極23とで挟まれてキャパシタを構成している。一方、MOSFETは、半導体層24中の高濃度不純物領域からなるソース25、ドレイン26の間の低濃度不純物領域の半導体領域上に絶縁体膜からなるゲート絶縁膜27を介してゲート電極層28を有する。キャパシタの一方の電極(上部電極23)とMOSFETのソース、ドレインの一方(例えば、ドレイン26)とはビア充填29及び配線層30で電気的に接続されて、1T1C型メモリセルを形成している。半導体基板には縦横に格子状にビット線31とワード線32が走っており、その交点にメモリセルが配置されている。
図5の例では、キャパシタの下部電極22どうしはアース33に接続され、MOSFETのソース、ドレインの他方(ソース25)がビット線31に接続され、MOSFETのゲート電極層28がワード線32に接続されている。
【0077】
(トランジスタ)
図6に、強誘電体を含む電界効果型トランジスタの構成例を示す。
図6(a)は、半導体層41の高濃度不純物領域からなるソース42とドレイン43の間において、半導体層41上に強誘電体44を介して金属層のゲート電極45を有するMFS型トランジスタを模式的に示す。
図6(b)は、半導体層41の高濃度不純物領域からなるソース42とドレイン43の間において、半導体層41上に誘電体層46を有し、MOSFETを構成すするが、誘電体層46上に金属層の導電層47、強誘電体44-2、ゲート電極45が積層されてキャパシタが構成されたMFMIS型トランジスタを模式的に示す。
図6(b)のMFMIS型トランジスタは、MOSFETとキャパシタがお互いに積層一体であるが、
図6(c)は、MOSFETとキャパシタとが積層一体型ではなく、分離されているFCG型トランジスタである。
図6(c)において、キャパシタは、導電層48、強誘電体44-2及びゲート電極45の積層体からなり、配線49を介してMOSFETの導電層47と電気的に接続されている。
【0078】
通常のMOSFETのゲート絶縁膜を強誘電体膜で置き換えることで、強誘電体で生じる負性容量を利用して表面ポテンシャルを増大させ、サブスレッショルド特性を急峻にすることができる負性容量トランジスタ(NCFET)を構成することができる。ゲート絶縁膜である強誘電体層の分極反転により、サブスレッショルド特性を急峻にすることができると考えられている。
【0079】
また、
図6(b)(c)に示すトランジスタにおいて、誘電体層46を強誘電体膜とすることにより、優れた強誘電体トンネル接合型(FJT)メモリを実現できることが知られている。強誘電体トンネル接合型(FJT)メモリを構成するFJTトランジスタは、ソースとドレインの間の半導体領域とゲートとの接合部に強誘電体膜によってトンネル接合を形成したものであるが、FJTは、通常、電極で挟み込んだMFM構造か、絶縁体を加えたMFIM構造あるいはその変形のMIFIM構造やMFIFM構造が多く用いられている。さらに電極のM相に磁性体を用いた構造のMFTJも用いられている。ここで、Fは強誘電体、Mは金属、Iは絶縁体、Tはトンネル、Jは接合を表す。
【0080】
(強誘電体データストレージ)
強磁性体を用いたハードディスクと同様に、強誘電体を用いてハードディスク型の記憶媒体(強誘電体データストレージ)を構成することが可能である。強誘電体データストレージは、強磁性体を用いたハードディスク(1Tbit/inch2程度が限界といわれる)と比べて記憶密度をそれ以上に向上させることが可能であるとして注目されている。特にHfO2などの直方晶相の蛍石構造を有する結晶は膜厚が薄くても高い強誘電性を示すので、強誘電体データストレージの材料として有望である。強誘電体データストレージは、例えば、基板上に共通の電極層を介して強誘電体膜を積層した構造を有し、強誘電体データストレージの上方からプローブ(反対電極)を用いて電圧を印加することで、上向き又は下向きの分極を有するドメインを形成することで、情報を記録される。
【0081】
(焦電素子)
図7に、焦電発電装置50の例を模式的に示す。焦電素子51は強誘電体52を電極53の間に挟持してなる。この焦電素子51に時間変化する熱源54が作用すると、温度変化に対応して強誘電体52に変動する電圧が発生して発電が行われる。
【0082】
また、強誘電体の焦電効果(物質の温度変化に対応してその表面に電荷を発生する現象)を利用して赤外線センサーを構成することが可能である。強誘電体を用いた赤外線センサーは、赤外線を熱エネルギーに変換して測定する熱型センサーの一種で、冷却不要で長波長帯(遠赤外線領域:5~1000μm)にも感度があり、他のサーミスタや熱電対などを用いた熱型センサーと比較して、感度、S/N、応答性の点で優れている。
【0083】
(電気光学素子)
図8に、電気光学素子の例として強誘電体を用いた光偏向器の例を示す。光偏向器は、強誘電体61の対向する面に、平行平板である正極62と負極63とが形成されている。正極62と負極63との間に直流電圧を印加することにより、入射光を、電界の印加方向に偏向させ、出射光として出力することができる。
【0084】
(その他の強誘電性機能素子又は装置)
本発明の強誘電性膜の強誘電性を利用する強誘電性機能素子又は装置は、上記のキャパシタ、電気光学素子、メモリ素子、トランジスタ、強誘電体データストレージ、焦電素子の例に限らず、その他の各種の強誘電性機能素子又は装置、並びにその各種の態様に、広く応用できることは明らかである。
【0085】
また、本発明により提供される強誘電性膜は圧電体であり、圧電体特性を利用した圧電素子及び圧電体を用いた機能素子又は装置に応用できる。
【0086】
(圧電素子)
圧電素子は、強誘電特性の圧電特性を発現させ、圧電特性のオン・オフを利用するために、圧電体を導電性層からなる電極層によって挟持したて構造を有する。
図9に圧電素子10積層構造の例を示すが、圧電素子70において、基体71は下部電極72を有し、その上に圧電体73、さらに上部電極74を有するが、基体71と下部電極72との間には必要に応じてバッファー層75を有してもよい。
【0087】
(圧電センサー)
圧電素子は、構造的にそのまま、圧電センサーであり得る。圧電素子では、電極間に挟持された圧電体に電圧を印加すると、圧電体が伸縮するが、逆に、圧電センサーでは、圧電体が伸縮すると圧電体を挟持する電極間に電圧が発生するので、その電圧から圧電センサーにかかる圧力を検知することができる。
【0088】
(アクチュエータ)
アクチュエータは、圧電素子に電圧を印加することにより圧電体自身を変位させ(逆圧電効果)、機械的な力を発生させる装置である。本発明の強誘電体膜は、有機基体上に形成することができることから、可撓性を有するアクチュエータとして有望である。
【0089】
(インクジェットヘッド)
図10(a)に、インクジェットヘッド80の例を断面図で示す。インクジェットヘッド80は、インク室(図示せず)に流体連結されているインク加圧室81の壁面に圧電素子82を有する。圧電素子82は、上部電極層82-1、強誘電体膜82-2、下部電極層82-3が積層して構成され、かつインク加圧室81の壁面の一部をなす弾性体層82-4に積層されている。したがって、
図10(b)に示すように、圧電素子82が駆動されて、圧電素子82とともに弾性体層82-4が加圧室83の内側に向かって変形されることで、加圧室83内のインクが加圧されて、インクはノズル84から噴出される。
【0090】
(ハードディスクドライブヘッド)
図11(a)を参照すると、ハードディスクドライブ91は、ハードディスク90を回転可能に搭載した本体92と、ハードディスク91の情報を読み書きするハードディスクドライブヘッド93とを具備する。
図11(b)はハードディスクドライブヘッド93のサスペンション部分の裏側の拡大図であり、サスペンション94の先端に磁気ヘッド35を有し、圧電マイクロアクチュエータ96とスライダー97を具備する。
図11(c)は磁気ヘッド95の拡大図であり、磁気ヘッド95及びスライダー97を挟むように、両側に2つの圧電マイクロアクチュエータ96がある。
図11(d)に圧電マイクロアクチュエータ96の詳細を示すが、セラミック薄板98と圧電素子99からなり、圧電素子99が伸縮することでセラミック薄板98が回転運動をし、スライダー97も回転運動をする。
図11に示したハードディスクドライブヘッドでは、サスペンションの先端で磁気ヘッドは圧電マイクロアクチュエータによって水平方向に回転運動するタイプであるが、圧電マイクロアクチュエータが上下方向に回転運動して、磁気ヘッドを上下方向に回転運動させるタイプもある。
【0091】
(ジャイロセンサー)
図12は、ジャイロセンサー100の例である。
図12(a)の斜視図に見られるように、ジャイロセンサー100は、基部101と基部101から延長する一対のアーム102からなり、音叉構造になっている。一対のアーム102を先端方向から見た端面図を
図12(b)に示すが、シリコンからなるアーム102の主面には、それぞれ一対の圧電素子103、104が形成されている。アーム102どうしを結ぶ方向に振動している状態において、アーム102どうしを結ぶ方向に垂直な方向の振動を検出することで、回転の角速度が求められる。
【0092】
(振動発電装置)
図13は、振動発電の原理を説明する図である。振動発電装置110は、躯体111に圧電素子112の一端を振動可能な形態で固定し、圧電素子112の先端部に錘113を設置して圧電素子112が振動し易くされている。圧電素子112が振動することで、圧電素子112に電圧が生ずることを利用して、発電する。本発明の強誘電体膜は可撓性を有する有機基体上に形成できるので、振動子として有望である。
【0093】
(SAW共振器)
図14に弾性表面波(SAW)共振器(Surface acoustic Wave resonator)の例を示す。
図14のSAW共振器120は圧電性基板121の主面の中央に2ポート122,123、すなわち、入力用と出力用の櫛形電極(IDT/Inter Digital Transducer)を配置し、それを挟んで両端部側に反射器124が設置されている。圧電性基板121の両側は反射器124ではなく、吸音材料でもよい。あるいは、圧電性基板121の主面の中央には1ポートの櫛形電極(IDT)だけでもよい。この場合には、櫛形電極(IDT)の一方の電極125が入力用であり、他方の電極126が出力用である。入力IDTに電気信号が加わると、そこに弾性表面波が発生し、弾性表面波は基板表面に沿って伝播し、出力IDTに到達し、そこで再び電気信号に変換される。共鳴周波数(通常数十MHz~数GHz)は櫛形電極(IDT)の形状によって決まる。反射器124は弾性表面波を反射する。
【0094】
(FBAR)
膜バルク波共振器(FBAR/Film Bulk Acoustic Resonator)130の例を
図15に示す。シリコン基体131には空洞132が設けられて、シリコン基体131の主面の空洞132が開口している部分に、下部電極133、圧電体134、上部電極135からなる圧電素子が形成されて、圧電素子はバルク、すなわち、積層方向(図の上下方向)に振動し、開口部の寸法と圧電体134の厚さによって共振周波数が決まる。SAW共振器も膜バルク波共振器も、弾性体に伝播する波動の速度が空間中における伝播速度と比較して桁違いに遅い性質を利用して、高い周波数(通常数十MHz~数GHz)の共振器を形成するものである。
【0095】
(圧電ミラー)
圧電ミラーの例を
図16-1及び
図16-2に示す。
図16-1(a)を参照すると、圧電ミラー素子140は、ミラー141を回転可能に保持するトーションバー142を介して第一の支持体143に連結している。
図16-1(b)に拡大して示すように、第一の支持体143は、トーションバー142の両側に圧電素子144,145を有し、第一及び第二の圧電素子144,145に共振周波数の電圧を印加すると、
図16-1(c)に示すように、第一の支持体143に対して、第一及び第二の圧電素子144,145の伸縮に伴うトーションバー142の捻じれによってトーションバー142を軸としてミラー141が回転する。再び
図16-1(a)を参照すると、第一の支持体143は交互に第三の圧電素子146と第四の圧電素子147とを交互にジグザグ状に連結して有し、それ自体は最も外側の第三及び第四の圧電素子146、147が第二の支持体148に連結されている。
図16-2(d)に、ジグザグ状に連結された第三の圧電素子144と第四の圧電素子145を駆動したときの圧電素子の変形を模式的に示すが、この第三及び第四の圧電素子146、147の変形により、第一の支持体143は第二の支持体148に対して、連結部を軸として回転する。第三及び第四の圧電素子145によるミラー141の回転は、第一及び第二の圧電素子144,145によるトーションバー142を軸とする回転と、軸方向が直交している。したがって、この圧電ミラー素子140によれば、ミラー141は上下方向及び左右方向の両方に回転運動が可能であり、その結果、ミラー141の反射方向も上下方向及び左右方向の両方に変化させることができるので、
図16-2(e)に示すように、ミラー141に光源146入射する光線147を画面148上の上下及び左右の両方向、すなわち、全画面に走査することが可能である。
【0096】
(その他の圧電体を用いた機能素子又は装置)
本発明の圧電体を用いた機能素子又は装置は、上記の例に限らず、圧電体を用いる各種の装置及びその各種の実施形態にも適用できることは明らかである。例えば、超音波プローブ、超音波トランスミッタ、超音波センサーなどにも適用できる。
【実施例】
【0097】
以下、実施例を参照して本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
(強誘電性の測定)
以下の実施例において、膜の分極ヒステリシス測定(強誘電性の測定)は強誘電体テスター(東陽テクニカ製FCE-1A型)を用いて行い、堆積した膜に対して、上部電極はPtで、電子線蒸着で作製し、膜厚20~100nm、直径50~100μmとした。
【0098】
(実施例1)
図2に模式的に示したようなスパッタ装置を用いて製膜を実施した。このスパッタ装置は、真空チャンバー内にヒーター加熱可能な基板保持手段と、ターゲット設置手段と、温度計と、ガス供給口と、減圧のための排気口と、基板とターゲットの間に電圧を印加する電源を有し、真空チャンバー内を減圧し、基板とターゲットの間に電圧を印加してイオン化されたガスがターゲットをスパッタすることで、基板上に成膜する。
【0099】
基板は、厚さ500μmの(111)配向のイットリア安定化ジルコニア(Y10%-YSZ111)上にITO膜を約50nm製膜したITO/YSZ111基板を用い、ターゲットとして93モル%のハフニア(HfO2)に対して7モル%のイットリア(YO1.5)を混合したターゲット(7%YO1.5-93%HfO2)を用いた。基板温度を50℃とし、チャンバー内の雰囲気は最初にアルゴン置換して真空引きした後に、アルゴン流量100sccm、酸素0sccm、圧力10mTorrの雰囲気にした。スパッタの電力は10~50Wとした。
【0100】
ITO/YSZ111基板上に7%YO
1.5-93%HfO
2の膜を厚さ160nmに堆積した。得られた7%YO
1.5-93%HfO
2膜をX線回折分析して得られたチャートを
図17(a)に示す。
図17(a)から、7%YO
1.5-93%HfO
2膜(図中、この組成の結晶をYHO7と表記、他の図で同じ)が多結晶であること、一部にエピタキシャル相(単結晶層)を含むこと、及び直方晶相又は正方晶相の蛍石構造であることが、それぞれ確認された。
【0101】
この7%YO
1.5-93%HfO
2多結晶性膜を分極ヒステリシス測定した結果(分極―電界の関係)を、
図18(a)に示す。
図18(a)から7%YO
1.5-93%HfO
2結晶性膜が強誘電性を示すことを確認した。ヒステリシス測定(電界印加)後、7%YO
1.5-93%HfO
2多結晶性膜は、強誘電性を示すことから、直方晶相であることが確認された。
【0102】
(実施例2:ソーダガラス基板)
基板をITO/YSZ111からITO/ソーダガラス(soda glass)に変えた以外、実施例1と同様にして、実施例2の製膜を実施した。ITO/soda glass基板は、厚さ1100μmのソーダガラス上にITO膜を150nm製膜した基板である。
【0103】
ITO/soda glass基板上に堆積して得られた7%YO
1.5-93%HfO
2膜をX線回折分析して得られたチャートを
図17(b)に示す。
図17(b)から、7%YO
1.5-93%HfO
2膜が多結晶であること、及び直方晶相又は正方晶相の蛍石構造であることが、それぞれ確認された。
【0104】
この7%YO
1.5-93%HfO
2多結晶性膜を分極ヒステリシス測定(分極―電界の関係)した結果を、
図18(b)に示す。
図18(b)から7%YO
1.5-93%HfO
2結晶性膜が強誘電性を示すことを確認した。ヒステリシス測定後、7%YO
1.5-93%HfO
2多結晶性膜は、強誘電性を示すことから、直方晶相であることが確認された。
【0105】
(実施例3:アルカリフリーガラス基板)
基板をITO/YSZ111からITO/アルカリフリーガラス(ITO/alkali free-glass)に変えた以外、実施例1と同様にして、実施例3の製膜を実施した。ITO/alkali-free glaas基板は、厚さ700μmのアルカリフリーガラス上にITO膜を150nm製膜した基板である。
【0106】
ITO/alkali-free基板上に堆積して得られた7%YO
1.5-93%HfO
2膜をX線回折分析して得られたチャートを
図17(c)に示す。
図17(c)から、7%YO
1.5-93%HfO
2膜が多結晶であること、及び直方晶相又は正方晶相の蛍石構造であることが、それぞれ確認された。
【0107】
この7%YO
1.5-93%HfO
2多結晶性膜を分極ヒステリシス測定(分極―電界の関係)した結果を、
図18(c)に示す。
図18(c)から7%YO
1.5-93%HfO
2多結晶性膜が強誘電性を示すことを確認した。ヒステリシス測定後、7%YO
1.5-93%HfO
2多結晶性膜は、強誘電性を示すことから、直方晶相であることが確認された。
【0108】
(実施例4;PET基板)
基板をITO/YSZ111からITO/ポリエチレンテレフタレート(ITO/PET)に変えた以外、実施例1と同様にして、実施例4の製膜を実施した。ITO/PET基板は、厚さ150μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(耐熱温度200℃)上にITO膜を150nm製膜した基板である。
【0109】
ITO/PET基板上に堆積して得られた7%YO
1.5-93%HfO
2膜をX線回折分析して得られたチャートを
図17(d)に示す。
図17(d)から、7%YO
1.5-93%HfO
2膜が多結晶であること、及び直方晶相又は正方晶相の蛍石構造であることが、それぞれ確認された。
【0110】
この7%YO
1.5-93%HfO
2多結晶性膜を分極ヒステリシス測定(分極―電界の関係)した結果を、
図18(d)に示す。
図18(d)から7%YO
1.5-93%HfO
2多結晶性膜が強誘電性を示すことを確認した。ヒステリシス測定後、7%YO
1.5-93%HfO
2多結晶性膜は、強誘電性を示すことから、直方晶相であることが確認された。
【0111】
(実施例5:室温及び100℃)
スパッタ時の基板温度を、50℃から室温(非加熱)及び100℃に変更したこと、7%YO1.5-93%HfO2膜の膜厚を室温堆積のとき50nm、100℃堆積のとき170nmとした以外、実施例1と同様にして、実施例5の製膜を実施した。
【0112】
基板温度を室温にして得られた7%YO
1.5-93%HfO
2膜をX線回折分析して得られたチャートを
図19(a)に示す。
図19(a)から、7%YO
1.5-93%HfO
2膜が直方晶相又は正方晶相(図中O/Tと表記、以下同じ)の蛍石構造であることが、それぞれ確認された。
【0113】
基板温度を室温にして得られた7%YO
1.5-93%HfO
2多結晶性膜を分極ヒステリシス測定(分極―電界の関係)した結果を、
図19(b)に示す。
図19(b)から7%YO
1.5-93%HfO
2多結晶性膜が強誘電性を示すことを確認した。ヒステリシス測定後、7%YO
1.5-93%HfO
2多結晶性膜は、強誘電性を示すことから、直方晶相であることも確認された。
【0114】
基板温度を100℃にして得られた7%YO
1.5-93%HfO
2膜をX線回折分析して得られたチャートを
図19(c)に示す。
図19(c)から、7%YO
1.5-93%HfO
2膜が直方晶相又は正方晶相の蛍石構造であることが、それぞれ確認された。
【0115】
基板温度を100℃に設定して得られた7%YO
1.5-93%HfO
2膜を分極ヒステリシス測定(分極―電界の関係)した結果を、
図19(d)に示す。
図19(d)から、ヒステリシス測定後、7%YO
1.5-93%HfO
2多結晶性膜が強誘電性を示すことを確認した。
【0116】
(実施例6:室温、150nm)
スパッタ時の基板温度を、50℃から室温(非加熱)に変更したこと、7%YO1.5-93%HfO2膜の膜厚を150nmとした以外、実施例2と同様にして、実施例6の製膜を実施した。
【0117】
得られた7%YO
1.5-93%HfO
2膜をX線回折分析して得られたチャートを
図20-1(a)に示す。
図20-1(a)から、7%YO
1.5-93%HfO
2膜が多結晶であること、及び直方晶相又は正方晶相の蛍石構造であることが、それぞれ確認された。
【0118】
得られた7%YO
1.5-93%HfO
2膜を分極ヒステリシス測定(分極―電界の関係)した結果を、
図20-1(b)に示す。
図20-2に、ITO/soda glass基板上の7%YO
1.5-93%HfO
2膜について、PUND(Positive-up-negative-down)の分極測定結果を示す。これらの結果から強誘電性を示すことが確認された。
【0119】
(実施例7:室温、210nm)
スパッタ時の基板温度を、50℃から室温(非加熱)に変更したこと、7%YO1.5-93%HfO2膜の膜厚を210nmとした以外、実施例4と同様にして、実施例7の製膜を実施した。
【0120】
得られた7%YO
1.5-93%HfO
2膜をX線回折分析して得られたチャートを
図21-1(a)に示す。
図21-1(a)から、7%YO
1.5-93%HfO
2膜が多結晶であること、及び直方晶相又は正方晶相の蛍石構造であることが、それぞれ確認された。
【0121】
この7%YO
1.5-93%HfO
2膜を分極ヒステリシス測定(分極―電界の関係)した結果を、
図21-1(b)に示す。
図21-1(b)から、ヒステリシス測定後、7%YO
1.5-93%HfO
2多結晶性膜が強誘電性を示すことを確認した。
【0122】
得られた7%YO
1.5-93%HfO
2膜及びITO/PET基板の透過型電子顕微鏡の明視野像を
図21-2(a)に示し、7%YO
1.5-93%HfO
2膜の制限視野電子回折像を
図21-2(b)に示す。
図21-2(b)の回折像がランダムなスポットを示すことから、7%YO
1.5-93%HfO
2膜が多結晶膜であることが確認された。
図21-2(c)は
図21-2(b)の222回折を用いて結像した透過型電子顕微鏡の暗視野像を示す。7%YO
1.5-93%HfO
2膜は約50nm幅の柱状粒から構成され、柱状の粒を形成していることが確認された。
【0123】
(実施例8:YSZ100基板)
基板を(111)ITO/(111)YSZから(100)ITO/(100)YSZに変えたこと、7%YO1.5-93%HfO2膜の膜厚を16nm及び50nmとした以外、実施例1と同様にして、実施例8の製膜を実施した。(100)ITO/(100)YSZ基板は、(100)配向したYSZを用いて(100)ITO上に(100)ITO膜を製膜した基板である。
【0124】
(100)ITO/(100)YSZ基板上に堆積して得られた膜厚16nmの7%YO
1.5-93%HfO
2膜をX線回折分析して得られたチャートを
図22(a)に示す。
図22(a)から、7%YO
1.5-93%HfO
2膜が多結晶であること、及び直方晶相又は正方晶相の蛍石構造であることが、それぞれ確認された。
【0125】
この7%YO
1.5-93%HfO
2多結晶性膜を分極ヒステリシス測定(分極―電界の関係)した結果を、
図22(b)に示す。
図22(b)から7%YO
1.5-93%HfO
2多結晶性膜が強誘電性を示すことを確認した。ヒステリシス測定後、7%YO
1.5-93%HfO
2多結晶性膜は、強誘電性を示すことから、直方晶相であることも確認された。
【0126】
(100)ITO/(100)YSZ基板上に堆積して得られた膜厚50nmの7%YO
1.5-93%HfO
2膜をX線回折分析して得られたチャートを
図22(c)に示す。
図22(c)から、7%YO
1.5-93%HfO
2膜が多結晶であること、及び直方晶相又は正方晶相の蛍石構造であることが、それぞれ確認された。
【0127】
この7%YO
1.5-93%HfO
2多結晶性膜を分極ヒステリシス測定(分極―電界の関係)した結果を、
図22(d)に示す。
図22(d)から7%YO
1.5-93%HfO
2多結晶性膜が強誘電性を示すことを確認した。7%YO
1.5-93%HfO
2多結晶性膜は、強誘電性を示すことから、直方晶相であることも確認された。
【0128】
(実施例9:ステンレス鋼、Al2O3(c面)、SRO/STO基板)
基板を(111)ITO/(111)YSZから、それぞれ、ステンレス鋼(SUS304),Pt/Si,ITO/Al2O3(c面)、SRO/STOに変更し、7%YO1.5-93%HfO2膜は様々とした以外、実施例5の基板温度を室温とした場合と同様にして、実施例9の製膜を実施した。Pt/Si基板は、(001)Si基板上に膜厚110nmの(111)Ptを堆積した基板、ITO/Al2O3(c面)はAl2O3(c面)基板上に膜50nmの(111)ITOを堆積した基板、SRO/STOは(111)SrTiO3上に導電性の(111)SrRuO3を堆積した基板、(111)YSZは(111)配向のY10%-YSZ基板である。
【0129】
特に
図23-1~
図24が参照されるが、得られた7%YO
1.5-93%HfO
2膜は、いずれも分極ヒステリシス測定(分極―電界の関係)で強誘電性を示すことが確認された。また、Pt/Si,ITO/AlO
3(c面)上で得られた7%YO
1.5-93%HfO
2膜では、X線回折分析により7%YO
1.5-93%HfO
2膜が直方晶相又は正方晶相の蛍石構造の多結晶であることが確認され、したがってヒステリシス測定後は強誘電性を示すことから直方晶相であることも確認された。SUS304基板上に製膜した7%YO
1.5-93%HfO
2膜を分極ヒステリシス測定(分極―電界の関係)して強誘電性を示すことが確認された。
【0130】
図23-1(a)に、Pt/Si基板上に膜厚150nmに製膜した7%YO
1.5-93%HfO
2膜のX線回折分析チャートを示す。7%YO
1.5-93%HfO
2膜が直方晶相又は正方晶相の蛍石構造の多結晶であることが確認された。
図23-1(b)(c)に、Pt/Si基板上に膜厚150nmに製膜した7%YO
1.5-93%HfO
2膜の分極ヒステリシス測定(分極―電界の関係)の結果を示す。
図23-2に、Pt/Si基板上の7%YO
1.5-93%HfO
2膜について、PUND(Positive-up-negative-down)の分極測定結果を示す。これらの結果から強誘電性を示すことが確認された。
【0131】
図24(a)(b)に、ITO/Al
2O
3(c面)基板上に膜厚50nmに製膜した7%YO
1.5-93%HfO
2膜のX線回折分析チャート及び分極ヒステリシス測定(分極―電界の関係)結果を示す。7%YO
1.5-93%HfO
2膜が直方晶相又は正方晶相の蛍石構造であること、及びヒステリシス測定による強誘電性を示すことが確認された。
図24(c)に、SRO/STO基板上に膜厚50nmに製膜した7%YO
1.5-93%HfO
2膜の分極ヒステリシス測定(分極―電界の関係)の結果を示す。強誘電性を示すことが確認された。
【0132】
(実施例10:電力10W)
スパッタの電力を50Wから10Wに変更した以外、実施例1と同様にして、実施例10を実施した。得られた7%YO
1.5-93%HfO
2をX線回折分析して、7%YO
1.5-93%HfO
2が直方晶相又は正方晶相の蛍石構造であること、及び分極ヒステリシス測定(分極―電界の関係)で強誘電性を示すことが確認され、したがって直方相であることも確認された。
図25に7%YO
1.5-93%HfO
2のX線回折分析チャートを示す。
【0133】
(比較例1:PLD)
パルスレーザー堆積装置を用いて製膜を実施した。このパルスレーザー堆積装置は、真空チャンバー内にヒーター加熱可能な基板保持手段と、ターゲット設置手段と、温度計と、ガス供給口を有し、レーザー発光器から取り出したパルスレーザー光を、レンズを通してターゲットに照射することで、基板上に成膜する。
【0134】
基板としては(111)配向のイットリア安定化ジルコニア(Y10%-YSZ)を用い、ターゲットとしてハフニア(HfO2)に対して7モル%のイットイウム(Y)を混合したターゲットを用いた。基板温度は、室温に設定した。チャンバー内の雰囲気は、最初にアルゴン置換して真空引きした後に、供給ガスをアルゴン0sccm、酸素0.5sccmとして、酸素20mTorrの雰囲気にした。レーザー光は、3J/cm2のKrFレーザー光を5Hzのパルス光としてターゲットに照射した。
【0135】
イットリア安定化ジルコニア基板上に7%YO1.5-93%HfO2の膜を厚さ約20nmに堆積した。得られた7%YO1.5-93%HfO2膜をX線回折分析すると、蛍石型構造を有する結晶であったが、単斜晶相(monoclinic crystal phase)であり、常誘電性相であった。
【0136】
(比較例2:PLD)
チャンバー内の雰囲気を、最初にアルゴン置換して真空引きした後に、供給ガスをアルゴン0.5sccm、酸素0sccmとして、アルゴン20mTorrの雰囲気にしたことを除き、比較例1と同様にして、比較例1の製膜を実施した。
【0137】
Y10%-YSZ基板上に製膜された7%YO1.5-93%HfO2の膜をX線回折分析すると、蛍石型構造を有する結晶であったが、単斜晶相(monoclinic crystal phase)であり、常誘電性相であった。
【0138】
(比較例3:PLD)
基板をY10%-YSZからITO/Glassに変更した以外は比較例1及び比較例2と同様にして、比較例3の製膜を実施した。
【0139】
Y10%-YSZ基板上に製膜された7%YO1.5-93%HfO2の膜をX線回折分析すると、7%YO1.5-93%HfO2のピークを確認できず、膜は結晶化していなかった。
【0140】
(実施例11:ポリイミド基板)
基板をITO/YSZ111から、ITO/ポリイミドに変更し、膜厚23nmの7%YO1.5-93%HfO2膜は様々とした以外、実施例5の基板温度を室温(非加熱)とした場合と同様にして、実施例11の製膜を実施した。ITO/ポリイミドはポリイミド基板上に膜15nmの(111)ITOを堆積した基板である。
【0141】
得られた7%YO
1.5-93%HfO
2膜は、
図26に示すように、分極ヒステリシス測定(分極―電界の関係)で強誘電性を示すことが確認された。また、7%YO
1.5-93%HfO
2膜では、X線回折分析により7%YO
1.5-93%HfO
2膜が直方晶相又は正方晶相の蛍石構造の多結晶であることが確認され、したがってヒステリシス測定後は強誘電性を示すことから直方晶相であることも確認された。
【0142】
(実施例12:エピタキシャル膜)
基板をITO/YSZ111からYSZ100に変更し、室温で膜厚16nmの7%YO1.5-93%HfO2膜を製膜する以外、実施例1と同様にして実施例12を実施した。
【0143】
得られた7%YO
1.5-93%HfO
2/ITO/YSZ100の透過型電子顕微鏡の明視野像を
図27(a)、7%YO
1.5-93%HfO
2膜の制限視野電子回折像を
図27(b)、ITO電極およびYSZ100基板の制限視野電子回折像を
図27(c)に示す。
図27(a)の格子像から7%YO
1.5-93%HfO
2膜がITO直上から結晶化していることが確認された。
図27(b)および
図27(c)では、7%YO
1.5-93%HfO
2膜の原子配列がITO/YSZ100基板の原子配列と一致していることから7%YO
1.5-93%HfO
2膜がITOに対して格子整合したエピタキシャル膜であることが確認された。
【0144】
(実施例13:膜厚20nm)
室温(非加熱)で、膜厚20nmの7%YO1.5-93%HfO2膜を製膜した以外、実施例5と同様にして、実施例13の製膜を実施した。
【0145】
X線回折分析チャートから、7%YO
1.5-93%HfO
2膜がエピタキシャル膜であること、及び正方晶相の蛍石構造であることが、それぞれ確認された。膜を分極ヒステリシス測定した結果を、
図28に示すが、7%YO
1.5-93%HfO
2膜が強誘電性を示すこと、直方晶相であることが確認された。
【0146】
(実施例14:膜厚900nm)
室温(非加熱)で、スパッタ電力を100Wとして、膜厚900nmの7%YO1.5-93%HfO2膜を製膜した以外、実施例5と同様にして、実施例14の製膜を実施した。
【0147】
得られた膜のX線回折分析チャート及び分極ヒステリシス測定結果を
図29に示すが、直方晶相を含むこと、強誘電性を示すことが確認された。
【0148】
(実施例15:5%YO1.5-95%HfO2膜)
ターゲットの組成を7%YO1.5-93%HfO2及び5%YO1.5-95%HfO2とし、室温(非加熱)で、スパッタ電力を50Wとして、膜厚16nmの7%YO1.5-93%HfO2膜及び14nmの5%YO1.5-95%HfO2膜を製膜した以外、実施例5と同様にして、実施例15の製膜を実施した。
【0149】
得られた7%YO
1.5-93%HfO
2膜及び5%YO
1.5-95%HfO
2膜のX線回折分析チャートを
図30に、分極ヒステリシス測定結果を
図31に示す。
図30(a)はITO/(111)YSZ板上に室温で堆積させた7%YO
1.5-93%HfO
2膜における110超格子回折付近の2Theta-Psiマップである。直方晶相由来の110超格子回折が観察されないことから、この膜は正方晶相であることが確認された。
【0150】
一方、
図30(b)はITO/(111)YSZ基板上に室温で堆積させた5%YO
1.5-95%HfO
2膜における110超格子回折付近の2Theta-Psiマップである。直方晶相由来の110超格子回折が観察されたことから、この膜は直方晶相であることが確認された。
【0151】
図31(a)はITO/(111)YSZ基板上に室温で堆積させた16nm7%YO
1.5-93%HfO
2膜を分極ヒステリシス測定(分極―電界の関係)した結果を示す。
図31(a)から7%YO
1.5-93%HfO
2膜が強誘電性を示すことを確認した。また、結晶構造解析で室温成膜後は正方晶相であったにも関わらず強誘電性を示したことから正方晶相から直方晶相への電界誘起相転移が確認された。
【0152】
図31(b)はITO/(111)YSZ基板上に室温で堆積させた14nm5%YO
1.5-95%HfO
2膜を分極ヒステリシス測定(分極―電界の関係)した結果を示す。
図31(b)から5%YO
1.5-95%HfO
2膜が強誘電性を示すことを確認した。
【0153】
図31(c)および(d)は7%YO
1.5-93%HfO
2膜および5%YO
1.5-95%HfO
2膜の残留分極値Prおよび抗電界Ecの印加電圧依存を示す。7%YO
1.5-93%HfO
2膜では約5000kV/cmの電圧をかけることで残留分極値が得られるのに対し、5%YO
1.5-95%HfO
2膜では約3000kV/cmの電圧をかけることで残留分極値が得られる。7%YO
1.5-93%HfO
2膜では強誘電性を示すために、正方晶相から直方晶相への電界誘起相転移が必要であるため、残留分極値を得るための電界が5%YO
1.5-95%HfO
2膜よりもより高い可能性が考えられる。
【0154】
また、
図31(d)では印加電圧を増大させた際(up)と減少させた際(dоwn)の残留分極値Prおよび抗電界Ecに違いが殆どないので、電界印加前から直方晶相であったことが示唆されるが、
図31(c)では印加電圧を増大させた際(up)と減少させた際(dоwn)の残留分極値Prおよび抗電界Ecの違いが顕著であり、正方晶相から直方晶相に電界誘起変換されたことを示している。
【0155】
(実施例16:1000℃アニール)
実施例6において、膜厚16nmの7%YO
1.5-93%HfO
2膜をITO/YSZ111基板上に製膜してから、不活性雰囲気中、1000℃で10秒間アニールした。
製膜後のアニール前後の膜について、分極ヒステリシス測定をした結果を
図32に示す。室温製膜後正方晶相であったが、アニール前後とも電界印加後には、どちらも直方晶相であることが確認される。
図32によれば、アニール前後において、分極ヒステリシスに有意な差はなく、室温製膜において1000℃アニール膜と同等の強誘電性膜が得られている。
【0156】
(実施例17:Hf0,75Zr0.25O2膜)
実施例1と同様であるが、ターゲットとしてハフニア(HfO2)とジルコニア(ZrO2)を75:25のモル比で含み、95モル%のHf0.75Zr0.25O2と5モル%のイットリア(YO1.5)を混合したターゲット(5%YO1.5-95%Hf0.75Zr0.25O2)を用い、室温(基板加熱なし)で、膜厚27nm及び13.7nmの5%YO1.5-95%Hf0.75Zr0.25O2膜を製膜した。
【0157】
得られた27nm5%YO
1.5-95%Hf
0.75Zr
0.25O
2膜の分極ヒステリシス測定結果を
図33(a)に示す。蛍石構造の直方晶相の強誘電性膜が得られていることが確認された。
【0158】
得られた13.7nm5%YO
1.5-95%Hf
0.75Zr
0.25O
2膜の分極ヒステリシス測定結果は
図33(b)に示すとおりであり、蛍石構造の直方晶相の強誘電性膜が得られていることが確認された。
【0159】
(実施例18:5%YO1.5-95%Hf0.75Zr0.25O2膜、ITO/YSZ100基板)
実施例18では、実施例17と同様であるが、基板としてITO/YSZ111に代えてITO/YSZ100を用いて、膜厚27nmの5%YO1.5-95%Hf0.75Zr0.25O2膜を製膜した。
【0160】
得られた27nm5%YO1.5-95%Hf0.75Zr0.25O2膜は、X線解析チャートと分極ヒステリシス測定結果から蛍石構造の直方晶相の強誘電性膜が得られていることが確認された。
【0161】
図34(a)にITO/YSZ111基板上の5%YO
1.5-95%Hf
0.75Zr
0.25O
2膜の分極ヒステリシス測定結果を、
図34(b)にITO/YSZ100基板上の5%YO
1.5-95%Hf
0.75Zr
0.25O
2膜の分極ヒステリシス測定結果を示す。
【0162】
(実施例19:5%YO1.5-95%Hf0.50Zr0.50O2膜、ITO/YSZ基板)
実施例19では、実施例17と同様であるが、基板としてITO/YSZ111及びITO/YSZ100を用い、ターゲットとしてハフニア(HfO2)とジルコニア(ZrO2)を50:50のモル比で含み、ハフニア(HfO2)とジルコニア(ZrO2)の合計95モル%に対して5モル%のイットリア(YO1.5)を混合したターゲット(5%YO1.5-95%Hf0.50Zr0.50O2)を用い、室温(基板加熱なし)で、膜厚33nmの5%YO1.5-95%Hf0.50Zr0.50O2膜を製膜した。
【0163】
得られた33nm5%YO1.5-95%Hf0.50Zr0.50O2膜は、ITO/YSZ111及びITO/YSZ100のいずれの基板においても、X線解析チャートと分極ヒステリシス測定結果から蛍石構造の直方晶相の強誘電性膜が得られていることが確認された。
【0164】
図34(c)にITO/YSZ111基板上の5%YO
1.5-95%Hf
0.50Zr
0.50O
2膜の分極ヒステリシス測定結果を、
図34(d)にITO/YSZ100基板上の5%YO
1.5-95%Hf
0.75Zr
0.25O
2膜の分極ヒステリシス測定結果を示す。
【0165】
(実施例20:5%YO1.5-95%Hf0.50Zr0.50O2膜、Pt/Si)
実施例20では、実施例19と同様であるが、基板としてITO/YSZに代えてPtの製膜温度が異なるPt/Si基板を用いて、膜厚33nmの5%YO1.5-95%Hf0.50Zr0.50O2膜を製膜した。
【0166】
得られた33nm5%YO1.5-95%Hf0.50Zr0.50O2膜は、いずれのPt/Si基板においても、X線解析チャートと分極ヒステリシス測定結果から蛍石構造の直方晶相の強誘電性膜が得られていることが確認された。
【0167】
基板としてITO/YSZに代えてPtの製膜温度が異なるPt/Si基板上の5%YO
1.5-95%Hf
0.50Zr
0.50O
2膜の分極ヒステリシス測定結果を、それぞれ
図35(a)(b)に示す。
【符号の説明】
【0168】
1 真空チャンバー
2 基体
3 ターゲット
4 電源
5 ガス導入系
10 スパッタ装置