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特許7582674牛白血病ウイルスを検出するためのキット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】牛白血病ウイルスを検出するためのキット
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/686 20180101AFI20241106BHJP
   C12Q 1/6888 20180101ALI20241106BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
C12Q1/686 Z ZNA
C12Q1/6888 Z
G01N33/50 P
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021558375
(86)(22)【出願日】2020-11-16
(86)【国際出願番号】 JP2020042669
(87)【国際公開番号】W WO2021100668
(87)【国際公開日】2021-05-27
【審査請求日】2023-09-04
(31)【優先権主張番号】P 2019208480
(32)【優先日】2019-11-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】510215536
【氏名又は名称】株式会社ケーナインラボ
(74)【代理人】
【識別番号】100116850
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 隆行
(74)【代理人】
【識別番号】100165847
【弁理士】
【氏名又は名称】関 大祐
(72)【発明者】
【氏名】水谷 哲也
(72)【発明者】
【氏名】布村 由香
(72)【発明者】
【氏名】山口 智宏
【審査官】西澤 龍彦
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第109182602(CN,A)
【文献】SOMURA, Y et al.,Comparison of the copy numbers of bovine leukemia virus in the lymph nodes of cattle with enzootic bovine leukosis and cattle with latent infection,Archives of Virology,2014年06月12日,Vol. 159,pp. 2693-2697
【文献】JIMBA, M et al.,BLV-CoCoMo-qPCR: a useful tool for evaluating bovine leukemia virus infection status,BMC Veterinary Research,2012年,8:167,pp. 1-12
【文献】JIMBA, M et al.,BLV-CoCoMo-qPCR: Quantitation of bovine leukemia virus proviral load using the CoCoMo algorithm,Retrovirology,2010年,7:91,pp. 1-19
【文献】MARSOLAIS, G et al.,Importance of primer selection in the application of PCR technology to the diagnosis of bovine leukemia virus,Journal of Veterinary Diagnostic Investigation,1994年,Vol. 6,pp. 297-301
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
C12Q
G01N
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フォワードプライマーが配列番号1又は4で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドでありリバースプライマーが配列番号2又は5で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドであるプライマーセットを含む
牛白血病ウイルスを検出するためのキット。
配列番号1:ACCATGGACTTTCACTTCTGG
配列番号2:GGCCAAGACAAGGGGAAC
配列番号4:CTCCCCAACTTCCCCTTTC
配列番号5:ACGAGGGTCTCAGGAGAAG
【請求項2】
請求項1に記載のキットであって
配列番号3又は6で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドであるプローブをさらに含むキット。
配列番号3:CCGGGTGGACATGAGGTGGG
配列番号6:TCGAGTTAGCGGCACCAGAAGC
【請求項3】
請求項1に記載のキットであって
フォワードプライマーが配列番号1で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドでありリバースプライマーが配列番号2で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドであるプライマーセットを含む
牛白血病ウイルスを検出するためのキット。
【請求項4】
請求項1に記載のキットであって
フォワードプライマーが配列番号4で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドでありリバースプライマーが配列番号5で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドであるプライマーセットを含む
牛白血病ウイルスを検出するためのキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は,牛白血病ウイルスを検出するためのプライマーセットを含むキットに関する。
【背景技術】
【0002】
牛白血病は白血球の増加や全身性の悪性リンパ肉腫を主徴とする疾患で,その発生原因はウイルス性と非ウイルス性に大別される。非ウイルス性の牛白血病は散発型と呼ばれ原因不明の疾患であり,症状から子牛型,胸腺型,皮膚型の3つに分けられる。ウイルス性の牛白血病は地方病型と呼ばれ,牛白血病ウイルス(Bovine leukemia virus:BLV)を原因とし,牛白血病のほとんどを占める。
【0003】
BLV感染牛のほとんどは無症候性感染であり,感染牛の20~30%がポリクローナルなB細胞の異常増殖を呈する持続性リンパ球増多症を引き起こす。さらに感染牛のうち2~3%はB細胞性の白血病である地方病型牛白血病を発症し,リンパ節に悪性リンパ肉腫が形成され予後不良で死に至る。
【0004】
BLVは牛白血病の発症による経済的損失以外に,泌乳量低下による経済的損失がしばしば問題となる。USDAのNational Animal Health Monitoring Systemによる調査では,牛群内のBLV感染牛が10%増加するごとに,牛一頭当たり年間95kgの牛乳が失われることが判明している。
【0005】
BLVはレトロウイルス科,オルソレトロウイルス亜科,デルタレトロウイルスに属する。ゲノムは8714ヌクレオチドから構成され,その両端には2つの同一の長い末端反復配列(LTR)が存在する(N Sagata, T Yasunaga, J Tsuzuku-Kawamura, K Ohishi, Y Ogawa, Y Ikawa. (1985). Complete nucleotide sequence of the genome of bovine leukemia virus: its evolutionary relationship to other retroviruses. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America. 82: 677-681)。 構造タンパク質及び酵素をコードする遺伝子であるgag,pro,pol,およびenvはウイルスのライフサイクル,感染性の保持,感染性ビリオンの産生に必要不可欠な機能を担っている(Sagata et al.など)。
【0006】
BLVのゲノム構造の概略図を図1に示す。
BLVは種々の末梢単核球に感染し,プロウイルスとして宿主のゲノムに組み込まれ,BLVのプロウイルスは病態進行のあらゆる段階で宿主ゲノムに存在する。BLV検査には血清学的診断としてELISA,プロウイルスの検出を行うリアルタイムPCRなどが用いられている(Schoepf KC, Kapaga AM, Msami HM, Hyera JM. (1997). Serological evidence of the occurrence of enzootic bovine leukosis (EBL) virus infection in cattle in Tanzania. Tropical Animal Health and Production. 29:15-9,Y Somura, E Sugiyama, H Fujikawa, K Murakami. (2014). Comparison of the copy numbers of bovine leukemia virus in the lymph nodes of cattle with enzootic bovine leukosis and cattle with latent infection. Archives of virology. 159:2693-7)。
【0007】
リアルタイムPCRで診断を行う利点としては様々なサンプルを利用できる,高感度,迅速,プロウイルスの定量が可能などの点があげられる。欠点としては手順が煩雑,高価な機材が必要,変異株に対しては新たにプライマーの設計が必要になることなどがあげられる。BLVは非常に多くの変異株がNCBIに登録されており,今後も未知の配列を持つ変異株が出現することが予想されるため変異の少ない配列をターゲットにしたPCR法の開発が非常に重要となる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【文献】Schoepf KC, Kapaga AM, Msami HM, Hyera JM. (1997). Serological evidence of the occurrence of enzootic bovine leukosis (EBL) virus infection in cattle in Tanzania. Tropical Animal Health and Production. 29:15-9
【文献】Y Somura, E Sugiyama, H Fujikawa, K Murakami. (2014). Comparison of the copy numbers of bovine leukemia virus in the lymph nodes of cattle with enzootic bovine leukosis and cattle with latent infection. Archives of virology. 159:2693-7
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来検出されなかった牛白血病ウイルスに罹患した対象をも高い感度で検出できるプライマーセットを含む牛白血病ウイルスを検出するためのキットが望まれた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題は,あるプライマーセットを用いたキットを用いることで,従来検出されなかった牛白血病ウイルスに罹患した対象をも高い感度で検出できるという実施例による知見に基づく。
【0011】
この明細書に記載された発明のひとつは,プライマーセットを含む牛白血病ウイルスを検出するためのキットに関する。このキットは,プライマーセットを含むものであればよい。
そして,プライマーセットは, フォワードプライマーとリバースプライマーを含む。
フォワードプライマーは,配列番号1又は4で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドである。
リバースプライマーは,配列番号2又は5で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドである。
配列番号1:ACCATGGACTTTCACTTCTGG
配列番号2:GGCCAAGACAAGGGGAAC
配列番号4:CTCCCCAACTTCCCCTTTC
配列番号5:ACGAGGGTCTCAGGAGAAG
プライマーを構成する塩基は,適宜修飾されていてもよい。
【0012】
上記のキットの好ましい例は,配列番号3又は6で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドであるプローブをさらに含む。
配列番号3:CCGGGTGGACATGAGGTGGG
配列番号6:TCGAGTTAGCGGCACCAGAAGC
プローブを構成する塩基は,適宜修飾されていてもよい。具体的に説明すると,例えば,蛍光色素,クエンチャーや,消光剤,ダーククエンチャーにより修飾されていてもよい。特に5’末端や3’末端は,これらの修飾を有するものであってもよい。また,内部クエンチャーにより修飾されてもよい。
特に,5’末端及び3’末端がクエンチャー及びダーククエンチャーにより修飾されるものが好ましく,さらに内部クエンチャーにより5’末端及び3’末端の間にある塩基が修飾されたものであってもよい。
修飾を有するプローブの例は,配列番号3のものについては,
56-FAM/CCGGGTGGACATGAGGTGGG/3IABkFQ,又は
56-FAM/CCGGGTGGA/ZEN/CATGAGGTGGG/3IABkFQである。
修飾を有するプローブの例は,配列番号6のものについては,
56-FAM/TCGAGTTAGCGGCACCAGAAGC/3IABkFQ,又は
56-FAM/TCGAGTTAG/ZEM/CGGCACCAGAAGC/3IABkFQである。
56-FAMは,フルオレセインのアイソマーの1つであり,一般的に使用されている蛍光色素である。
ZENは,ZENクエンチャーを意味し,通常5’末端の蛍光色素から9塩基~10塩基の間に位置し,3’末端のクエンチャーと協働して消光を行う内部クエンチャーである。
3IABkFQは,ダーククエンチャーである。3IABkFQは,5’末端に修飾することもできる。
【0013】
プライマーセットの例は,フォワードプライマーが配列番号1で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドであり.リバースプライマーが配列番号2で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドである。この例において,好ましいプローブは,配列番号3で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドである。
【0014】
プライマーセットの別の例は,フォワードプライマーが配列番号4で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドであり.リバースプライマーが配列番号5で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドである。この例において,好ましいプローブは,配列番号6で示される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドである。
【0015】
この明細書は,上記のプライマーセット又は上記のキットを用いたPCR法や,牛白血病ウイルスに罹患した対象の検出方法をも提供する。対象から血液などの試料を得て,上記のプライマーセット又はキットを用いて,標的核酸を増幅し,検出する。このようにして,対象が,牛白血病ウイルスに罹患しているか否かについて,従来に比べて高い感度で検出できる。
【発明の効果】
【0016】
この明細書に記載された発明によれば,従来検出されなかった牛白血病ウイルスに罹患した対象をも高い感度で検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は,牛白血病ウイルス(BLV)のゲノム構造の概略図を示す図である。
図2図2は,保存領域の存在箇所を示す図である。
図3図3は,合成DNAのリアルタイムPCRの結果を示す図面に代わるグラフ及び表である。
図4図4は,合成DNAのリアルタイムPCRの結果を示す図面に代わるグラフ及び表である。
図5-1】図5-1は,BLV陰性のウシ全血由来抽出DNAのリアルタイムPCRの結果を示す図面に代わるグラフ及び表である。
図5-2】図5-2は,BLV陰性のウシ全血由来抽出DNAのリアルタイムPCRの結果を示す図面に代わるグラフ及び表である。
図6図6は,電気泳動の結果を示す図面に代わる写真である。
図7図7は,スパイクテストの結果を示す図面に代わるグラフ及び表である。
図8図8は,スパイクテストの結果を示す図面に代わるグラフ及び表である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下,図面を用いて本発明を実施するための形態について説明する。本発明は,以下に説明する形態に限定されるものではなく,以下の形態から当業者が自明な範囲で適宜修正したものも含む。
【0019】
本明細書中で用いる「増幅」,「増幅方法」または「増幅反応」は本明細書において互換的に用いられ,試験サンプル中の特異的核酸(全てのタイプのDNAまたはRNA)配列(例えば,標的配列または標的核酸)の集団の呈示量を増加させるための方法またはプロセスを意味する。本発明において用いられうる増幅方法の具体例には,PCR,リアルタイムPCR,RT-PCR,競合RT-PCR,LCR,ギャップLCR,SDA,NASBA,及びTMAが含まれる。
【0020】
本明細書中で用いる「増幅条件」なる語は,プライマー配列のアニーリングおよび/または伸長を促進する条件を意味する。そのような条件は当業者によく知られており,選択される増幅方法に左右される。例えば,PCR増幅条件は,一般に,サーマルサイクリング(加熱サイクル循環),例えば,2以上の温度の間の反応混合物のサイクリングを含む。等温増幅反応においては,反応を開始させるために初期温度上昇が必要かもしれないが,増幅は,サーマルサイクリングを伴わずに生じる。増幅条件は,温度および温度サイクリング,バッファー,塩,イオン強度,pHなど(これらに限定されるものではない。)を含む全ての反応条件を含む。
【0021】
本明細書中で用いる「増幅試薬」なる語は,増幅反応において使用される試薬を意味し,バッファー,試薬,逆転写および/またはポリメラーゼ活性またはエキソヌクレアーゼ活性を有する酵素;酵素補因子,例えばマグネシウムまたはマンガン,塩;ならびにデオキシヌクレオチド三リン酸(dNTP),例えばデオキシアデノシン三リン酸(dATP),デオキシグアノシン三リン酸(dGTP),デオキシシチジン三リン酸(dCTP),デオキシチミジン三リン酸(dTTP)およびデオキシウリジン三リン酸(dUTP)(これらに限定されるものではない。)を含みうる。増幅試薬は,用いられる増幅方法に応じて当業者により容易に選択されうる。
【0022】
本明細書中で検出可能標識または検出可能部分に関して用いられる場合の「直接的に検出可能」なる語は,該検出可能標識または検出可能部分が,検出可能となるために更なる反応または操作を要しないことを意味する。例えば,蛍光部分は蛍光分光法により直接的に検出可能である。これに対して,本明細書中で検出可能標識または検出可能部分に関して用いられる場合の「間接的に検出可能」なる語は,該検出可能標識または検出可能部分が,更なる反応または操作の後で検出可能となることを意味する。例えば,ハプテンは,蛍光色素のようなレポーターに結合した適当な抗体との反応の後で検出可能となる。
【0023】
「発蛍光団」,「蛍光部分」,「蛍光標識」および「蛍光色素」なる語は本明細書においては互換的に用いられ,1つの波長の電磁放射の量子を吸収し,それに応答して異なる波長,典型的にはより長い波長の1以上の光子を放出する分子を意味する。多種多様な構造および特徴の多数の蛍光色素が本発明の実施における使用に適している。核酸分子を蛍光標識するための方法および物質は公知である(R.P.Haugland,“Molecular Probes:Handbook of Fluorescent Probes and Research Chemicals 1992-1994”,5th Ed.,1994,Molecular Probes,Inc.を参照されたい。)。好ましくは,蛍光標識または部分は高い効率で光を吸収し放出し(例えば,用いられる励起波長における高いモル吸収係数および高い蛍光量子収率を示し),光安定性を示す(例えば,分析を行うのに必要な時間内に光励起に際して有意な分解を受けない。)。それ自体が直接的に検出可能である代わりに,幾つかの蛍光色素は,蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)と称される過程において,エネルギーを別の蛍光色素に転移し,その第2の色素が検出シグナルを生成する。そのようなFRET蛍光色素ペアも「蛍光部分」なる語に含まれる。物理的に連結された蛍光レポーター/消光剤部分も本発明の範囲内である。これらの態様においては,該蛍光レポーターおよび消光剤部分が,例えばプローブの末端において,接近して維持されている場合,該消光剤部分は該レポーター部分からの蛍光シグナルの検出を妨げる。それらの2つの部分が,例えばDNAポリメラーゼによる切断の後に,物理的に分離されると,該レポーター部分からの蛍光シグナルが検出可能となる。
【0024】
本明細書中で用いる「ハイブリダイゼーション」なる語は,ワトソン-クリック塩基対形成または非カノニカル塩基対形成により複合体を形成するのに十分な程度に相補的である核酸配列の間の複合体の形成を意味する。例えば,プライマーが標的配列(鋳型)に「ハイブリダイズ」する場合,そのような複合体(またはハイブリッド)は,DNA合成を開始するために例えばDNAポリメラーゼにより要求されるプライミング機能を発揮するのに十分な程度に安定である。ハイブリダイズする配列は,安定なハイブリッドを形成するために完全な相補性を有する必要はない,と当業者に理解されるであろう。多くの場合,塩基の約10%未満がミスマッチ状態である場合に,安定なハイブリッドが生じるであろう。したがって,本明細書中で用いる「相補的」なる語は,アッセイ条件下,対応相補体と安定な二重鎖を形成するオリゴヌクレオチドに関するものであり,一般に約80%,約81%,約82%,約83%,約84%,約85%,約86%,約87%,約88%,約89%,約90%,約91%,約92%,約93%,約94%,約95%,約96%,約97%,約98%または約99%以上の相同性が存在する場合を意味する。少なくとも所望のレベルの相補性を有する配列が安定にハイブリダイズする一方で,より低い相補性を有する配列は安定にハイブリダイズしないような,ハイブリダイゼーション条件のストリンジェンシーを推定し調節する方法は,当業者に理解されている。ハイブリダイゼーション条件およびパラメーターの具体例は,例えばSambrookら,“Molecular Cloning:A Laboratory Manual”,1989,Second Edition,Cold Spring Harbor Press:Plainview,NY;F.M.Ausubel,“Current Protocols in Molecular Biology”,1994,John Wiley&Sons:Secaucus,NJに見出されうる。
【0025】
本明細書中で用いる「標識(された)」および「検出可能標識(または物質もしくは部分)で標識(された)」なる語は本明細書において互換的に用いられ,物体(例えば,プライマーまたはプローブ)が,例えば別の物体(例えば,増幅産物またはアンプリコン)への結合の後で,可視化されうることを意味する。好ましくは,該検出可能標識は,測定されうるシグナルをそれが生成するように,そしてその強度が結合物体の量に関連づけられる(例えば,比例する)ように選択される。核酸分子(例えば,プライマーおよびプローブ)を標識および/または検出するための多種多様な系が当技術分野でよく知られている。標識核酸は,分光的,光化学的,生化学的,免疫化学的,電気的,光学的,化学的な又はその他の手段により直接的または間接的に検出可能である標識の取り込み又は該標識への結合により調製されうる。適当な検出可能物質には,放射性核種,発蛍光団,化学発光物質,微粒子,酵素,比色標識,磁気標識,ハプテン,モレキュラービーコン(Molecular Beacon),アプタマービーコンなどが含まれるが,これらに限定さ
れるものではない。
【0026】
「プライマー」なる語は,ヌクレオチドおよび核酸重合のための物質(例えば,DNA依存性またはRNA依存性ポリメラーゼ)の存在下,適当な増幅条件(例えば,バッファー,塩,温度およびpH)下に配置された場合に,核酸(全てのタイプのDNAまたはRNA)の相補鎖であるプライマー伸長産物の合成の開始点として作用しうるオリゴヌクレオチドを意味する。該プライマーは一本鎖または二本鎖でありうる。二本鎖の場合,該プライマーを,伸長産物を調製するために使用する前に,まず,その鎖の分離を可能にするために処理する(例えば,変性させる)ことが可能である。そのような変性工程は,典型的には,熱を用いて行われるが,別法として,アルカリの使用およびそれに続く中和により行われうる。本発明のプライマーは,約15~50ヌクレオチド長,好ましくは約20~約40ヌクレオチド長,最も好ましくは約22~30ヌクレオチド長の長さを有する。本発明のプライマーは,本明細書に更に詳しく記載されているものに加えて,追加的なヌクレオチドを含有しうる。例えば,SDAにおいて使用されるプライマーは,標的結合配列の5’側に制限エンドヌクレアーゼ認識部位を含むことが可能であり(米国特許第5,270,184号および第5,455,166号を参照されたい。),NASBAおよびTMAプライマーは,該プライマーの標的結合配列に連結されたRNAポリメラーゼプロモーターを含むことが可能である。そのような特殊化配列を,選択される増幅反応において使用される標的結合配列に連結するための方法は,当業者によく知られている。また,ある場合には,プライマーは検出可能標識で標識されうる。
【0027】
「フォワードプライマー」なる語は,標的配列(例えば,鋳型鎖)にハイブリダイズ(またはアニール)するプライマーを意味する。「リバースプライマー」なる語は,標的配列の相補鎖にハイブリダイズ(またはアニール)するプライマーを意味する。フォワードプライマーは,リバースプライマーに対して5’側で,標的配列にハイブリダイズする。
【0028】
本明細書中で用いる「セット」又は「プライマーセット」なる語は,関心のある標的配列または標的核酸(例えば,ウシ白血病ウイルス内の標的配列)の増幅を,一緒になってプライミングしうる2以上のプライマーを意味する。ある実施形態においては,「プライマーセット」なる語は,増幅すべき標的配列または標的核酸の5’末端にハイブリダイズする5’(上流)プライマー(またはフォワードプライマー)と,増幅すべき標的配列または標的核酸の相補体にハイブリダイズする3’(下流)プライマー(またはリバースプライマー)とを含む,プライマーのペアを意味する。そのようなプライマーセットまたはプライマーペアはPCR増幅反応において特に有用である。
【0029】
本明細書中で用いる「プローブ」なる語は,適当な増幅条件下の標的配列の少なくとも一部(例えば,増幅された標的配列の一部)に選択的にハイブリダイズしうるオリゴヌクレオチドを意味する。一般に,プローブ配列は,「相補的」(すなわち,コードまたはセンス鎖(+)に相補的)または「逆相補的」(すなわち,アンチセンス鎖(-)に相補的)のいずれかであると認められる。ある場合には,プローブは検出可能標識で標識されうる。
【0030】
本明細書中で用いる「プライマーおよびプローブセット」なる語は,標的配列または標的核酸の増幅を一緒になってプライミングしうる2以上のプライマーと,標的配列または標的核酸を検出しうる少なくとも1つのプローブとを含む組合せを意味する。該プローブ
は,一般に,増幅産物の鎖にハイブリダイズして,増幅産物/プローブハイブリッドを形成し,これは,当業者に公知の通常の技術を用いて検出されうる。
【0031】
「標的配列」および「標的核酸」なる語は本明細書において互換的に用いられ,その存在または非存在の検出が望まれるものを意味する。本発明の文脈においては,標的配列は,好ましくは,1以上のプライマーが複合体を形成する核酸配列を含む。該標的配列は,適当な増幅条件下でプローブが安定なハイブリッドを形成する,プローブにハイブリダイズする領域をも含みうる。当業者に認識されるとおり,標的配列は一本鎖または二本鎖でありうる。
【0032】
本明細書中で用いる「試験サンプル」なる語は,一般に,関心のある標的核酸を含有することが疑われる及び/又は試験される生物学的物質を意味する
【0033】
本発明のプライマーおよびプローブは,当技術分野で公知の種々の方法のいずれかにより製造されうる(例えば,Sambrookら,“Molecular Cloning.A Laboratory Manual”,1989,2.Supp.Ed.,Cold Spring Harbour Laboratory Press:New York,NY;“PCR Protocols.A Guide to Methods and Applications”,1990,M.A.Innis(編),Academic Press:New York,NY;P.Tijssen“Hybridization with Nucleic Acid Probes-Laboratory Techniques in Biochemistry and Molecular Biology(Parts I and II)”,1993,Elsevier Science;“PCR Strategies”,1995,M.A.Innis(編),Academic Press:New York,NY;および“Short Protocols in Molecular Biology”,2002,F.M.Ausubel(編),5.Supp.Ed.,John Wiley & Sons:Secaucus, NJを参照されたい。)。例えば,本明細書に記載のプライマーおよびプローブは,化学合成,および鋳型に基づく重合(例えば,Narangら,Meth.Enzymol.,.1979,68:90-98;Brownら,Meth.Enzymol.,1979,68:109-151およびBelousovら,Nucleic Acids Res.,1997,25:3440-3444に記載されているとおり)により製造されうる。
【0034】
該プライマーおよびプローブの配列は,化学分解(Maxamら,Methods of Enzymology,1980,65:499-560を参照されたい。),マト
リックス支援レーザー脱着イオン化飛行時間(MALDI-TOF)質量分析(Pielesら,Nucleic Acids Res.,1993,21:3191-3196を参照されたい。)(これらに限定されるものではない。),アルカリホスファターゼおよびエキソヌクレアーゼ消化の組合せの後の質量分析(Wuら.Anal.Biochem.,2001,290:347-352)などを含む当技術分野で公知のいずれかの適当な配列決定方法を用いて確認されうる。
【0035】
前記で既に記載したとおり,修飾プライマーおよびプローブは,当技術分野で公知の幾つかの手段のいずれかを用いて製造されうる。そのような修飾の非限定的な具体例には,メチル化,「キャップ(cap)」,類似体による天然ヌクレオチドの1以上の置換,およびヌクレオチド間修飾,例えば非荷電連結を有するもの(例えば,メチルホスホナート,ホスホトリエステル,ホスホロアミダート,カルバマートなど)または荷電連結(例えば,ホスホロチオアート,ホスホロジチオアートなど)が含まれる。プライマーおよびプローブは,1以上の追加的な共有結合部分,例えばタンパク質(例えば,ヌクレアーゼ,毒素,抗体,シグナルペプチド,ポリ-L-リシンなど),インターカレーター(例えば,アクリジン,プソラレンなど),キレーター(例えば,金属,放射性金属,酸化性金属などをキレート化するためのもの)およびアルキレーターを含有しうる。プライマーおよびプローブは,メチルもしくはエチルホスホトリエステルまたはアルキルホスホルアミダート連結の形成により誘導体化されうる。さらに,本発明のプライマー,プローブまたはプライマーおよびプローブは検出可能標識によっても修飾されうる。
【0036】
前記で言及されているとおり,本発明のある実施形態においては,該プライマー,プローブまたは該プライマーおよびプローブの両方は,増幅/検出方法において使用される前に,検出可能標識または部分により標識されうる。好ましくは,本明細書に記載の方法において使用する場合,1以上のプローブが検出可能標識または部分により標識される。検出可能標識の役割は増幅標的配列の可視化および検出を可能にすることである。好ましくは,該検出可能標識は,測定されうるシグナルをそれが生成するように,そしてその強度が,分析される試験サンプル中の増幅産物の量に関連づけられる(例えば,比例する)ように選択される。
【0037】
1以上のプローブと検出可能標識との間の結合は共有結合または非共有結合でありうる。標識プローブは,検出可能部分の取り込み,または検出可能部分への結合により製造されうる。標識は核酸配列に直接的または(例えば,リンカーを介して)間接的に結合されうる。種々の長さのリンカーまたはスペーサーアームが当技術分野で公知であり,商業的に入手可能であり,立体障害を軽減するように又は生じる標識分子に他の有用な若しくは所望の特性を付与するように選択されうる(例えば,Mansfieldら,Mol.Cell.Probes,1995,9:145-156を参照されたい。)。
【0038】
プローブのようなオリゴヌクレオチドを標識するための方法は当業者に公知である。標識プロトコールおよび標識検出技術の総説は例えばL.J.Kricka,Ann.Clin.Biochem.,2002,39:114-129;van Gijlswijkら,Expert Rev.Mol.Diagn.,2001,1:81-91;およびJoosら,J Biotechnol,1994,35:135-153に見出されうる。標準的な核酸標識方法には,放射性物質の取り込み,蛍光色素(Smithら,Nucl.Acids Res.,1985,13:2399-2412を参照されたい。)または酵素(Connolyら,Nucl.Acids.Res.,1985,13:4485-4502を参照されたい。)の直接的結合;核酸分子を免疫化学的に又は他のアフィニティー反応により検出可能にする該核酸分子の化学的修飾(Brokerら,Nucl.Acids Res.,1978,5:363-384;Bayerら,Methods of Biochem.Analysis,1980,26:1-45;Langerら,Proc.Natl.Acad.Sci USA,1981,78:6633-6637;Richardsonら,Nucl.Acids Res.,1983,11:6167-6184;Brigatiら,Virol.,1983,126:32-50;Tchenら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,1984,81:3466-3470;Landegentら,Exp.Cell Res.,1984,15:61-72;およびA.H.Hopmanら,Exp.Cell Res.,1987,169:357-368を参照されたい。);酵素媒介標識方法,例えばランダムプライミング,ニックトランスレーション,PCRおよびターミナルトランスフェラーゼによるテーリング(酵素標識に関する総説は,例えばTemsamaniら,Mol.Biotechnol.,1996,5:223-232を参照されたい。)が含まれる。
【0039】
多種多様な検出可能標識のいずれかが本発明において使用されうる。適当な検出可能標識には,種々のリガンド,放射性核種(例えば,32P,35S,3H,14C,125I,131Iなど);蛍光色素;化学発光物質(例えば,アクリジニウムエステル,安定化ジオキセタンなど);分光的に分離可能な無機蛍光半導体ナノ結晶(例えば,量子ドット),金属ナノ粒子(例えば,金,銀,銅および白金)またはナノクラスター;酵素(例えば,ホースラディッシュペルオキシダーゼ,ベータ-ガラクトシダーゼ,ルシフェラーゼ,アルカリホスファターゼ);比色標識(例えば,色素,コロイド金など);磁気標識(例えば,Dynabeads(商標));ならびにビオチン,ジオキシゲニンまたは他のハプテンが含まれ(これらに限定されるものではない。),抗血清またはモノクローナル抗体のためのタンパク質が利用可能である。
【0040】
ある実施形態においては,本発明の検出プローブは蛍光標識される。多種多様な化学構造および物理特性の多数の公知蛍光標識部分が本発明の実施における使用に適している。適当な蛍光色素には,Biosearch Technologies,Novato,CAから入手可能なQuasar(登録商標)色素,フルオレセインおよびフルオレセイン色素,例えばフルオレセインイソチオシアニンまたはFITC,ナフトフルオレセイン,4’,5’-ジクロロ-2’,7’-ジメトキシ-フルオレセイン,6-カルボキシフルオレセイン(例えば,FAM),VIC,NED,カルボシアニン,メロシアニン,シチリル色素,オキソノール色素,フコエリトリン,エリトロシン,エオシン,ローダミン色素(例えば,カルボキシテトラメチルローダミンまたはTAMRA,カルボキシローダミン6G,カルボキシ-X-ローダミン(ROX),リッサミンローダミンB,ローダミン6G,ローダミングリーン,ローダミンレッド,テトラメチルローダミンまたはTMR),クマリンおよびクマリン色素(例えば,メトキシクマリン,ジアルキルアミノクマリン,ヒドロキシクマリンおよびアミノメチルクマリンまたはAMCA),オレゴングリーン色素(例えば,オレゴングリーン488,オレゴングリーン500,オレゴングリーン514),テキサスレッド,テキサスレッド-X,Spectrum Red(商標),Spectrum Green(商標),シアニン色素(例えば,Cy-3(商標),Cy-5(商標),Cy-3.5(商標),Cy-5.5(商標)),Alexa Fluor(アレクサフラウアー)色素(例えば,Alexa Fluor 350,Alexa Fluor 488,Alexa Fluor 532,Alexa Fluor 546,Alexa Fluor 568,Alexa Fluor 594,Alexa Fluor 633,Alexa Fluor 660およびAlexa Fluor 680),BODIPY色素(例えば,BODIPY FL,BODIPY R6G,BODIPY TMR,BODIPY TR,BODIPY 530/550,BODIPY 558/568,BODIPY 564/570,BODIPY 576/589,BODIPY 581/591,BODIPY 630/650,BODIPY 650/665),IRDyes(例えば,IRD 40,IRD 700,IRD 800)などが含まれるが,これらに限定されるものではない。使用されうる他の適当な蛍光色素,およびプローブのようなオリゴヌクレオチドに蛍光色素を連結または取り込むための方法の具体例は,RP Haugland,“The Handbook of Fluorescent Probes and ResearchChemicals”,Publisher,Molecular Probes,Inc.,Eugene,Oreg.(1992年6月)に見出されうる。蛍光色素および標識キットは例えばAmersham Biosciences,Inc.(Piscataway,N.J.),Molecular Probes Inc.(Eugene,OR)およびNew England Biolabs Inc.(Beverly,MA)から商業的に入手可能である。
【0041】
幾つかの蛍光基(ドナー)は,それ自体が直接的に検出可能である代わりに,蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)の過程において別の蛍光基(アクセプター)にエネルギーを転移し,その第2の基が検出可能な蛍光シグナルを生成する。これらの実施形態においては,該プローブは,例えば,増幅された標的配列にハイブリダイズした場合に検出可能となりうる。本発明における使用に適したFRETアクセプター/ドナーペアの具体例には,例えば,フルオレセイン/テトラメチルローダミン,IAEDANS/FITC,IAEDANS/5-(ヨードアセトミド)フルオレセイン,B-フィコエリトリン/Cy-5およびEDANS/Dabcylが含まれるが,これらに限定されるものではない。
【0042】
物理的に連結された蛍光レポーター/消光分子の使用も本発明の範囲内である。TaqMan(登録商標)アッセイにおける(例えば,米国特許第5,210,015号,第5,804,375号,第5,487,792号および第6,214,979号に記載されているとおり)またはモレキュラービーコンズ(Molecular Beacons)としての(例えば,Tyagiら,Nature Biotechnol.,1996,14:303-308;Tyagiら,Nature Biotechnol.,1998,16:49-53;Kostrikisら,Science,1998,279:1228-1229;Sokolら,Proc.Natl.Acad.Sci USA,1998,95:11538-11543;Marrasら,Genet.Anal,1999,14:151-156;ならびに米国特許第5,846,726号,第5,925,517号,第6,277,581号および第6,235,504号に記載されているとおり)そのような系の使用は当業者によく知られている。TaqMan(登録商標)アッセイ形態では,該増幅反応の産物は,それが「リアルタイム」様態で形成されるにつれて検出されうる。その結果,該反応混合物が増幅条件下にある間に,増幅産物/プローブハイブリッドが形成され,検出される。
【0043】
本発明の幾つかの実施形態においては,該PCR検出プローブは,5’末端において蛍光部分で,そして3’末端において消光部分で標識されたTaqMan(登録商標)様プローブである。TaqMan(登録商標)様プローブで使用される適当な発蛍光団および消光剤は米国特許第5,210,015号,第5,804,375号,第5,487,792号および第6,214,979号ならびにWO 01/86001(それらのそれぞれを参照により本明細書に組み入れることとする。)に開示されている。消光剤の具体例には,DABCYL(例えば,4-(4’-ジメチルアミノフェニルアゾ)安息香酸)スクシンイミジルエステル,ジアリールローダミンカルボン酸,スクシンイミジルエステル(またはQSY-7)および4’,5’-ジニトロフルオレセインカルボン酸,スクシンイミジルエステル(またはQSY-33)(それらの全てはMolecular Probes(これはInvitrogen,Carlsbad,CAの一部である。)から入手可能である。),クエンチャー1(Q1;Epoch Biosciences,Bothell,WAから入手可能),または「ブラックホールクエンチャー(Black hole quencher」BHQ-1,BHQ-2およびBHQ-3(BioSearch Technologies,Inc.,Novato,CAから入手可能)が含
まれるが,これらに限定されるものではない。ある実施形態においては,該PCR検出プローブは,5’末端においてFAMで,そして3’末端においてBlack Hole Quencher(登録商標)またはBlack Hole Quencher(登録商標)plus(共にBiosearch Technologies,Novato,CAから入手可能)で標識されたTaqMan(登録商標)様プローブである。
【0044】
また,通常の又は修飾されたヌクレオチドの「尾部(tail)」が検出目的でプローブに付加されうる。該尾部に相補的であり1以上の検出可能標識(例えば,発蛍光団,酵素,または放射能標識された塩基)を含有する核酸との第2のハイブリダイゼーションは該アンプリコン/プローブハイブリッドの可視化を可能にする。
【0045】
個々の標識技術の選択は状況に左右され,例えば標識方法の容易さ及びコスト,使用される異なる検出可能標識の間のスペクトル間隔,所望のサンプル標識の質,ハイブリダイゼーション反応に対する(例えば,ハイブリダイゼーション過程の速度および/または効率に対する)検出可能部分の効果,用いられる増幅方法の性質,検出系の性質,検出可能標識により生成されるシグナルの性質および強度などのような幾つかの要因によって決まるであろう。
【0046】
本発明のプライマーまたはプライマーセットの使用は,いずれかの特定の核酸増幅技術またはそのいずれかの特定の変法に限定されるものではない。実際,本発明のプライマーおよびプライマーセットは,当技術分野で公知の種々の核酸増幅方法(例えば,Kimmelら,Methods Enzymol.,1987,152:307-316;Sambrookら,“Molecular Cloning.A Laboratory Manual”,1989,2.Supp.Ed.,Cold Spring Harbour Laboratory Press:New York,NY;“Short Protocols in Molecular Biology”,F.M.Ausubel(編),2002,5.Supp.Ed.,John Wiley & Sons:Secaucus,NJを参照されたい。)のいずれかにおいて使用されうる。
【0047】
そのような核酸増幅方法には,ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)が含まれるが,これらに限定されるものではない。PCRは,“PCR Protocols:A Guide to Methods and Applications”,M.A.Innis(編),1990,Academic Press:New York;“PCR Strategies”,M.A.Innis(編),1995,Academic Press:New York;“Polymerase chain reaction:basic principles and automation in PCR.A Practical Approach”,McPhersonら(編),1991,IRL Press:Oxford;Saikiら,Nature,1986,324:163;ならびに米国特許第4,683,195号,第4,683,202号および第4,889,818号(これらに限定されるものではない。)(それらのそれぞれの全体を参照により本明細書に組み入れることとする。)のような多数の参考文献に記載されている。TaqMan(登録商標)に基づくアッセイ(Hollandら,Proc.Natl.Acad.Sci,1991,88:7276-7280を参照されたい。)および逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(またはRT-PCR;例えば米国特許第5,322,770号および第5,310,652号(それらのそれぞれを参照により本明細書に組み入れることとする。)に記載されている。)を含むPCRの変法も含まれる。
【0048】
一般に,PCRにおいては,プライマーのペアを,対象から得た試験サンプルに過剰に加えて(したがって該試験サンプルと接触させて),該標的核酸の相補鎖にハイブリダイズさせる。該プライマーのそれぞれを,該標的配列を鋳型として使用して,DNAポリメラーゼにより伸長させる。該伸長産物は,元の標的鎖からの解離(変性)の後,標的自体となる。ついで新たなプライマーをハイブリダイズさせ,該ポリメラーゼにより伸長させ,該サイクルを繰返して,アンプリコンのコピーの数を指数関数的に増加させる。PCR反応においてプライマー伸長産物を産生しうるDNAポリメラーゼの具体例には,大腸菌(E.coli)DNAポリメラーゼI,DNAポリメラーゼIのクレノウフラグメント,T4 DNAポリメラーゼ,種々の入手元(例えば,Perkin Elmer,Waltham,MA)から入手可能な,テルムス・アクアティクス(Thermus aquaticus)(Taq)から単離された熱安定性DNAポリメラーゼ,テルムス・サーモフィラス(Thermus thermophilus)(USB Corporation,Cleveland,OH),バシラス・ステレオサーモフィラス(Bacillus stereothermophilus)(Bio-Rad Laboratories,Hercules,CA),AmpliTaq Gold(登録商標)Enzyme(Applied Biosystems,Foster City,CA),組換えテルムス・サーモフィラス(Thermus thermophilus)(rTth)DNAポリメラーゼ(Applied Biosystems,Foster City,CA)またはテルモコッカス・リトラリス(Thermococcus litoralis)(「Vent」ポリメラーゼ,New England Biolabs,Ipswich,MA)が含まれるが,これらに限定されるものではない。RNA標的配列は,mRNAをcDNAへ逆転写(RT)し次いでPCR(RT-PCR)を行うこと(前記のとおり)により増幅されうる。あるいは,米国特許第5,322,770号(これを参照により本明細書に組み入れることとする。)に記載されているとおり,両方の工程に単一酵素が使用されうる。
【0049】
鎖置換増幅は,制限エンドヌクレアーゼがその標的DNAの未修飾鎖に切れ目を入れる能力と,該切れ目における3’末端を伸長させ該下流DNA鎖を一定温度で除去するエキソヌクレアーゼ欠損DNAポリメラーゼの作用とを併せ持つ(Walkerら,Proc
.Natl.Acad.Sci.USA,1992を参照されたい。)。SDAにおいて使用されるプライマーは,標的結合配列の5’側の部位における制限エンドヌクレアーゼ認識を含む(米国特許第5,270,184号および第5,344,166号(それらのそれぞれを参照により本明細書に組み入れることとする。)を参照されたい。)。
【0050】
核酸配列に基づく増幅(Nucleic Acid Sequence Based Amplification)(NASBA)は,低い等温度,一般には41℃で協同的に作用する3種の酵素(例えば,RNアーゼH,ニワトリ骨髄芽球症ウイルス(AMV)逆転写酵素およびT7 RNAポリメラーゼ)を利用する(Compton,Nature,1991,350:91-92;Chanら,Rev.Med.Microbiol,1999,10:185-196を参照されたい。)。NASBA反応の産物は主として一本鎖RNAである。
【0051】
本発明のある実施形態においては,本明細書に記載のプローブは,該増幅反応により生じた増幅産物を検出するために使用される。本明細書に記載のプローブは,よく知られた種々の均一または不均一法を用いて使用されうる。
【0052】
均一検出方法には,該プローブに結合しており標的配列の存在下でシグナルを放出するFRET標識,モレキュラービーコンズ(Molecular Beacons)(Tyagiら,Nature Biotechnol.,1996,14:303-308;Tyagiら,Nature Biotechnol,1998,16:49-53;Kostrikisら,Science,1998,279:1228-1229;Sokolら,Proc.Natl.Acad.Sci USA,1998,95:11538-11543;Marrasら,Genet.Anal.,1999,14:151-156;ならびに米国特許第5,846,726号,第5,925,517号,第6,277,581号および第6,235,504号を参照されたい。)およびTaqMan(登録商標)アッセイ(米国特許第5,210,015号,第5,804,375号,第5,
487,792号および第6,214,979号ならびにWO 01/86001を参照されたい。)の使用が含まれるが,これらに限定されるものではない。これらの検出技術を用いて,該増幅反応の産物は,それが形成されるにつれて,すなわち,リアルタイム様態で検出されうる。その結果,該反応混合物が増幅条件下にある間に,増幅産物/プローブハイブリッドが形成され,検出される。
【0053】
ある実施形態においては,本発明のプローブはTaqMan(登録商標)アッセイにおいて使用される。TaqMan(登録商標)アッセイにおいては,蛍光シグナルの生成をモニターすることにより,加熱サイクリングと共に,分析を行う。該アッセイ系は,標的コピー数の決定を可能にする定量的データを生成する能力を有する。例えば,1以上のウシ白血病ウイルス型またはヒトベータグロビン配列の予め定量された懸濁液の系列希釈を用いて,標準曲線が作成可能であり,それに対して,未知サンプルが比較可能である。TaqMan(登録商標)アッセイは,前記のとおり,蛍光レポーター色素と消光部分との両方で標識されたプローブを消化するために,例えば,内因性5’ヌクレアーゼ活性を有するAmpliTaqGold(商標)DNAポリメラーゼを使用して,簡便に行われる。該プローブが消化されるにつれて増幅サイクル中に生じる蛍光の変化を測定し,蛍光部分と消光部分とを分離し,標的配列の増幅に比例する蛍光シグナルの増加を引き起こさせることにより,アッセイ結果を得る。
【0054】
均一検出方法の他の具体例には,ハイブリダイゼーション保護アッセイ(HPA)が含まれる。そのようなアッセイにおいては,非ヌクレオチド系リンカーアーム化学(米国特許第5,585,481号および第5,185,439号を参照されたい。)を用いて,高化学発光性分子であるアクリジニウムエステル(AE)(Weeksら,Clin.Chem.,1983,29:1474-1479;Berryら,Clin.Chem.,1988,34:2087-2090を参照されたい。)で該プローブを標識する。化学発光はアルカリ性過酸化水素でのAEの加水分解により誘発される。この場合,該加水分解は,励起されたN-メチルアクリドンを与え,ついでこれは光の放出と共に不活性化される。標的配列の非存在下では,AEの加水分解は迅速である。しかし,該プローブが標的配列に結合している場合には,AEの加水分解の速度は著しく低下する。したがって,ハイブリダイズしたAE標識プローブおよびハイブリダイズしていないAE標識プローブが,物理的分離を要することなく,溶液中で直接的に検出可能である。
【0055】
不均一検出系も当技術分野でよく知られており,一般には,増幅された配列を反応混合物中の他の物質から分離するために捕捉物質を使用する。捕捉物質は,典型的には,1以上の特異的結合配列でコーティングされた固体支持物質(例えば,マイクロタイターウェル,ビーズ,チップなど)を含む。結合配列は,本発明のオリゴヌクレオチドプローブに付加された尾部配列に相補的でありうる。あるいは,結合配列は捕捉オリゴヌクレオチドの配列に相補的であることが可能であり,それ自体が,プローブの尾部配列に相補的な配列を含みうる。該捕捉物質に結合した増幅産物/プローブハイブリッドを残りの反応混合物から分離した後,該増幅産物/プローブハイブリッドはいずれかの検出方法(例えば,本明細書に記載されているもの)を用いて検出されうる。
【0056】
典型的には,本発明の方法は,まず,試験サンプルを被験者(対象)から得ることを含む。試験サンプルが得られうる被験者はいずれかの哺乳動物である。好ましくは,哺乳動物には,ウシが含まれる。ウシの例は,和牛,アンガス牛,及びホルスタインである。
【0057】
試験サンプルを被験者から得た後,本明細書に開示されているプライマーセットまたはプライマーおよびプローブセットの少なくとも1つからのプライマー(および場合によっては1以上のプローブ)と該試験サンプルを接触させて,反応混合物を形成させる。ついで該反応混合物を増幅条件下に配置する。該プライマーは該試験サンプル中のいずれかの標的核酸にハイブリダイズする。該サンプル中に存在する標的核酸を増幅させ,少なくとも1つの増幅産物(すなわち,少なくとも1つの標的配列)を得る。
【0058】
少なくとも1つの増幅産物と本発明のプローブの少なくとも1つ(例えば,本明細書に記載のプライマーおよびプローブセットからの1以上のプローブ)との間のハイブリダイゼーションを検出することにより,少なくとも1つの増幅産物を検出する。
【0059】
方法に応じて,キットは更に,洗浄バッファー,ハイブリダイゼーションバッファー,標識バッファー,検出手段および他の試薬の1以上を含みうる。該バッファーおよび/または試薬は,好ましくは,該キットが意図する個々の増幅/検出技術に最適化される。該方法の種々の工程を行うためのこれらのバッファーおよび試薬を使用するためのプロトコールも該キットに含まれうる。
【0060】
さらに,キットは,増幅効率に関する検査基準としての,該増幅の失敗による偽陰性試験結果の発生を防ぐための,細胞妥当性,サンプル抽出を確認するなどのための内部対照を備えていることが可能である。最適な内部対照配列は,それが増幅反応における標的核酸配列と競合しないように選択される。
【0061】
キットは,核酸抽出前の増幅前の試験サンプルからの核酸の単離のための試薬をも含有しうる。
【0062】
該試薬は固体(例えば,凍結乾燥体)または液体形態で供給されうる。本発明のキットは,場合によっては,それぞれの個々のバッファーおよび/または試薬のための種々の容器(例えば,バイアル,アンプル,試験管,フラスコまたはボトル)を含みうる。各成分は,一般に,そのそれぞれの容器内にアリコート化されるものが,または濃縮形態で提供されるものが好適であろう。増幅/検出アッセイのある工程を行うのに適した他の容器も提供されうる。個々の容器は,好ましくは,市販用に密閉されて維持される。
【0063】
キットは,本明細書に記載の増幅試薬およびプライマーセットまたはプライマーおよびプローブを使用するための説明,試験サンプルを加工し,核酸分子を抽出し,および/または試験を行うための説明,ならびに得られた結果を解釈するための説明,ならびに政府機関により規定された形態の注意書きをも含みうる。そのような説明は,場合によっては,印刷された形態,またはCD,DVDもしくは記録媒体の他のフォーマットでありうる。
【0064】
限定的でない例示として,本開示の具体例を以下に示す。
【0065】
[試験例]
実験材料および方法
BLVゲノムのアラインメント及びプライマー,プローブの設計・調整
NCBIに登録されているBLVの塩基配列を195種類選出し,CLC Genomic Workbench 12.0を用いてアラインメントを行った。アラインメントの結果から5つの保存領域を選出した。選出した保存領域の塩基配列は表1に示し,概要を図2に示す。選出した保存領域をもとにIDTのプライマー設計ツールを用いてプライマーとTaqManプローブを設計した。設計したプライマー,プローブを表2に示す。
【0066】
【表1】
【0067】
【表2】
【0068】
合成DNAの設計・調整
選出した保存領域の配列を含む500bpの合成DNAを設計し,IDT(Integrated DNA Technologies, Inc. Coralville,IA)より購入した。設計した合成DNAの配列を表3に示す。この際,保存領域の配列は合成DNAのちょうど中心部に位置するように設計した。購入した合成DNAをIDTの指示書に従いTEに溶解し,4℃で一晩静置した。一晩静置後,濃度が5×10{コピー数/μl}となるようにTEで希釈し,使用するまで―30℃で保存した。
【0069】
【表3】
【0070】
牛全血からのDNA抽出
牛全血200μlからHigh Pure Viral Nucleic Acid Kit(Roche)を用いてDNAを抽出した(最終容量は50μl)。抽出液に含まれるDNA量をQubit2.0 Fluorometer(Invitrogen)で計測した。また,抽出DNAは使用するまでー30℃で保存した。
【0071】
リアルタイムPCR
この研究では基本的にLightCycler Nano(Roche)を用いてBLVを検出するためにリアルタイムPCRを行った。反応液はPremix Ex Taq (Perfect Real Time) (タカラバイオ) 10μl,PrimeTime qPCR Assay(IDT) 2μl,Nuclease-Free Water 6μl,サンプル 2μlの計20μlとした。反応条件は45℃ 5分,95℃ 30秒の後,95℃ 10秒,55℃ 20秒,72℃ 20秒を40サイクル行った。検量線は合成DNAの濃度が10,10,10,10,10,10,10,及び0の8点で描き,サンプルに含まれるコピー数を定量した。
【0072】
上記の条件とは別にBLVを検出するためにApplied Biosystems 7300 Real-Time PCR System(Applied Biosystems)を用いたリアルタイムPCRを行った。反応液はPremix Ex Taq (Perfect Real Time)(タカラバイオ) 10μl,ROX Reference Dye(タカラバイオ) 0.4μl,PrimeTime qPCR Assay(IDT) 2μl,Nuclease-Free Water 5.6μl,サンプル 2μlの計20μlとした。反応条件は45℃ 5分,95℃ 30秒の後,95℃ 10秒,55℃ 30秒,72℃ 20秒を40サイクル行った。
【0073】
スパイクテスト
合成DNAの濃度が10,10,10,10,10,10,10,及び0 (コピー数/2μl)となるようにBLV陰性牛由来の抽出DNAで希釈し,LightCycler Nano(Roche),Applied Biosystems 7300 Real-Time PCR System(Applied Biosystems)でリアルタイムPCRを行った。
【0074】
アガロースゲル電気泳動
LightCycler Nano(Roche)でリアルタイムPCRを行った際のPCR産物を4%アガロースゲル及びTris-borate-EDTAバッファーを用いて30分間電気泳動し,エチジウムブロマイドで染色後,UVトランスイルミネーターで目的サイズのPCR産物及び非特異増幅産物の有無を確認した。
【0075】
設計したプライマー,プローブを用いたリアルタイムPCRによるBLV検出
A大学より分与されたリアルタイムPCRにより陽性と判定された牛全血由来抽出DNA24検体と陰性と判定された検体5検体の計29検体に対し,本試験で設計したリアルタイムPCRをLightCycler Nano(Roche)により行った。
また,B大学より分与されたリアルタイムPCR陰性,ELISA陽性の検体30検体,リアルタイムPCR陰性,ELISA陰性の検体5検体,リアルタイムPCR陽性の検体5検体の計40検体に対し,本試験で設計したリアルタイムPCRをLightCycler Nano(Roche)により行った。
【0076】
結果
合成DNAのリアルタイムPCR
LightCycler Nano(Roche)による結果を図3に示す。5つのプライマーセットすべてで合成DNAの増幅がみられた。10-10コピーまで10倍段階希釈した合成DNAを用いてリアルタイムPCRを行った結果,10コピーまで検出可能であった。本実験は2回実施し,2回とも10コピーまで検出されたが,コピー数が少ないサンプルほどCq値が安定せず,またプライマー1,2,3,4において10コピーと10コピーでCq値の近似がみられた。
Applied Biosystems 7300 Real-Time PCR Systemを用いた合成DNAのリアルタイムPCRの結果を図4に示した。プライマーセット1,3,5を用いて行い,3つ全てで10コピーまで検出することが可能だった。
【0077】
BLV陰性の牛全血由来抽出DNAのリアルタイムPCR
BLV陰性と判断された牛由来の抽出DNA2種をサンプルとしてリアルタイムPCRをLightCycler Nanoで行い,偽陽性の有無を調べた。結果を図5図5-1,及び図5-2)に示す。プライマー2,4を用いたリアルタイムPCRで陽性が出たためこれらのプライマーセットを用いてもう一度リアルタイムPCRを行った。2度目のリアルタイムPCRでは偽陽性が出なかったが,アガロースゲル電気泳動を行った結果プライマー4を用いたリアルタイムPCRの産物で目的領域の長さとは別の長さのPCR産物が確認された。これらの結果は図6に示す。
【0078】
スパイクテスト
LightCycler Nanoでのスパイクテストのテストの結果を図7に示す。プライマーセット1,3,5で10コピーまで検出が可能であった。
Applied Biosystems 7300 Real-Time PCR Systemでのスパイクテストの結果を図8に示す。プライマーセット1,3,5で10コピーまで検出することができた。
【0079】
A大学のサンプルを用いたBLV検出
A大学から分与された牛全血由来の抽出DNAをサンプルとしたリアルタイムPCRをLightCycler Nanoで行い,その結果を表4(表4-1~表4-3)に示す。プライマーセット1,3,5において,事前の検査で陽性であった24検体すべてで陽性,事前の検査で陰性であった5検体すべてで陰性であった。
【0080】
【表4-1】
【0081】
【表4-2】
【0082】
【表4-3】
【0083】
B大学のサンプルを用いたBLV検出
B大学から分与された牛全血由来の抽出DNAをサンプルとしたリアルタイムPCRをLightCycler Nanoで行い,その結果を表5(表5-1~表5-3)に示す。事前の検査でELISA陽性,リアルタイムPCR陰性の30検体において,プライマーセット1で陽性が12検体,プライマーセット3で陽性が6検体,プライマーセット5で陽性が13検体であった。事前の検査でELISA陰性,リアルタイムPCR陰性の5検体に対してはプライマーセット1,5ですべて陰性 (プライマーセット3で未実施)であった。事前の検査でリアルタイムPCR陽性の5検体に対してはプライマーセット1,5ですべて陽性(プライマーセット3で未実施)であった。
【0084】
【表5-1】
【0085】
【表5-2】
【0086】
【表5-3】
【0087】
考察
本試験では既存のBLV配列から保存性の高い配列を選出し,その配列に対して設計したリアルタイムPCRが有用であることを示すことを目指した。まずLightCycler Nanoで行った合成DNAのリアルタイムPCRではすべてのプライマーセットで10コピーまで検出することができたが,10コピーと10コピーのサンプルでのCq値が非常に近く,このコピー数の間での定量性は低いと考えられる。ただし,10コピーを下限とした場合は十分に信頼性のある診断系であると思われる。次にBLV陰性牛由来の抽出DNAを用いたリアルタイムPCRではプライマーセット2,4において偽陽性の出る疑いがみられたため候補から除外し,検討を終了した。LightCycler Nanoを用いたスパイクテストでは10コピーまで検出でき,牛由来DNA存在下での十分な検出感度を有していると判断した。Applied Biosystems 7300 Real-Time PCR Systemによる合成DNAのリアルタイムPCRとスパイクテストでは共に10コピーまで検出することが可能であった。検量線も問題なく,こちらの検出システムでも十分な感度を有していると判断した。Applied Biosystems 7300 Real-Time PCR SystemはLightCycler Nanoと比較し,若干感度が低いとされているが,一度に多検体を扱うことができる。現場ではこのような機材の利用が想定されるため本試験では異なるリアルタイムPCR装置でのテストを行った。A大学から分与されたサンプルを用いたリアルタイムPCRでは,既存のリアルタイムPCR検出系と比較して本試験で開発した系での検出感度が劣らないことを確認した。また事前診断で陰性であったサンプルに関してはすべて陰性であり,特異度も高いことを確認した。B大学から分与されたサンプルを用いたリアルタイムPCRでは,既存のリアルタイムPCR検出系で検出できないBLVの検出を試みた。結果としては,すべてではないものの既存のリアルタイムPCRでは検出できなかったBLVの検出に成功した。この際,プライマーセット1,5に対してプライマーセット3は感度が低いと判断したため候補から外し,以降の検討には使用しなかった。事前診断でリアルタイムPCR陽性であった5検体は問題なく陽性であり,事前診断でELISA,リアルタイムPCR共に陰性の5検体はすべて陰性であり,特異度にも問題はなかった。以上の結果を踏まえ,本試験で開発したプライマーセット1,5は既存のリアルタイムPCR検出系より感度が高く,特異度にも問題がないため新たな検出系として有用であると判断した。
【0088】
従来のBLVに対するリアルタイムPCRにはTax遺伝子を標的とした,TaKaRa cycleave PCRやLTRを標的としたBLV-CoCoMo-qPCRなどがある[M Jimba et al. 2012]。 それに対して本試験で最終的に採用したプライマーはgag遺伝子とLTRを標的としている。LTRはBLVゲノムに2か所存在するため,1つのプロウイルスにつき2コピー検出される。そのため検出感度が高いという報告がなされている[M Jimba et al. 2010]。 BLV-CoCoMo-qPCRでは縮重プライマーを採用しているため原理的にはターゲット配列内のどの塩基が置換しても検出可能であるという利点があるが,それぞれのプライマー濃度が薄くなってしまう欠点がある。本試験で用いたプライマーは縮重プライマーでないためプライマー濃度は高く設定することができ,より少ない量のBLVを検出できる可能性がある。また,従来標的にされていた遺伝子とは別の保存領域をgag遺伝子に発見し,実用化したことは今後も継続的にBLVの検査を行っていく現場にとって非常に意義が大きいといえる。
【0089】
結論
本試験で開発した新規リアルタイムPCR検出系は従来のリアルタイムPCRにくらべ検出感度が高く,特異度にも問題がないためBLV診断に有用であると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0090】
この明細書に記載された発明は,獣医学や畜産業において利用され得る。
【0091】
配列表フリーテキスト
配列番号1:プライマー
配列番号2:プライマー
配列番号3:プローブ
配列番号4:プライマー
配列番号5:プライマー
配列番号6:プローブ
図1
図2
図3
図4
図5-1】
図5-2】
図6
図7
図8
【配列表】
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