(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】高周波増幅器
(51)【国際特許分類】
H03F 1/26 20060101AFI20241106BHJP
H03F 3/195 20060101ALI20241106BHJP
H03F 3/68 20060101ALI20241106BHJP
H03F 1/56 20060101ALI20241106BHJP
H03F 3/60 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
H03F1/26
H03F3/195
H03F3/68
H03F1/56
H03F3/60
(21)【出願番号】P 2022517059
(86)(22)【出願日】2021-04-20
(86)【国際出願番号】 JP2021016063
(87)【国際公開番号】W WO2021215443
(87)【国際公開日】2021-10-28
【審査請求日】2023-10-23
(31)【優先権主張番号】P 2020076598
(32)【優先日】2020-04-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000154325
【氏名又は名称】住友電工デバイス・イノベーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100136722
【氏名又は名称】▲高▼木 邦夫
(74)【代理人】
【識別番号】100174399
【氏名又は名称】寺澤 正太郎
(72)【発明者】
【氏名】木元 雄資
【審査官】福田 正悟
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-222836(JP,A)
【文献】特開2018-78487(JP,A)
【文献】特開2020-36153(JP,A)
【文献】特開2010-161348(JP,A)
【文献】国際公開第2019/155601(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03F 1/26
H03F 3/195
H03F 3/68
H03F 1/56
H03F 3/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1トランジスタ、前記第1トランジスタに対して第1方向に並ぶ第2トランジスタ、及び前記第2トランジスタに対して前記第1トランジスタとは反対において前記第1方向に並ぶ第3トランジスタと、
前記第1トランジスタのドレイン電極に電気的に接続される第1ドレインパッド、前記第2トランジスタのドレイン電極に電気的に接続される第2ドレインパッド、及び前記第3トランジスタのドレイン電極に電気的に接続される第3ドレインパッドと、
前記第1ドレインパッドに電気的に接続される第1伝送線路、前記第2ドレインパッドに電気的に接続される第2伝送線路、及び前記第3ドレインパッドに電気的に接続される第3伝送線路を有し、前記第1トランジスタ、前記第2トランジスタ及び前記第3トランジスタのそれぞれに対する高周波信号のインピーダンス整合を行うための整合回路パターンと、
前記第1伝送線路と前記第1ドレインパッドとを電気的に接続する第1ワイヤ、前記第2伝送線路と前記第2ドレインパッドとを電気的に接続する第2ワイヤ、及び前記第3伝送線路と前記第3ドレインパッドとを電気的に接続する第3ワイヤと、
前記第1伝送線路及び前記第1ワイヤを介して前記第1ドレインパッドに電気的に接続されるとともに、前記第2伝送線路及び前記第2ワイヤを介して前記第2ドレインパッドに電気的に接続される配線パターンと、
を備え、
前記第2ワイヤの実効的なインピーダンスは、前記第1ワイヤの実効的なインピーダンスよりも大きく、
前記第1伝送線路における前記第1ワイヤが接続された第1接続点と前記第2伝送線路における前記第2ワイヤが接続された第2接続点とを結ぶ第1仮想直線と直交し、前記第1接続点と前記第2接続点との中点を通る第2仮想直線に関して、前記整合回路パターンが非対称な外形を有しており、
前記第2伝送線路の電気長は、前記第1伝送線路の電気長よりも短い、
高周波増幅器。
【請求項2】
前記整合回路パターンは、第1角部を含む第1パッド、及び第2角部を含む第2パッドを有し、
前記第1伝送線路は、前記第1パッドにおける前記第1角部を含む部分によって構成され、
前記第2伝送線路は、前記第2パッドにおける
前記第2角部を含む部分によって構成され、
前記第2角部は、前記第1角部の面取り量よりも大きい面取り量によって面取りされている、
請求項1に記載の高周波増幅器。
【請求項3】
前記第1伝送線路は、前記第2伝送線路よりも細い、
請求項1又は請求項2に記載の高周波増幅器。
【請求項4】
前記第1トランジスタ、前記第2トランジスタ、及び前記第3トランジスタを含んで構成されるトランジスタ群が複数設けられる、
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の高周波増幅器。
【請求項5】
前記トランジスタ群の最外部に前記第1ワイヤが配置されるとともに、前記第3ワイヤと前記第1ワイヤとの間に前記第2ワイヤが配置されており、
前記第1ワイヤの長さは、前記第2ワイヤの長さと等しく、
前記第1ドレインパッドから前記配線パターンまでの実効的な電気長は、前記第2ドレインパッドから前記配線パターンまでの実効的な電気長と実質的に等しい、
請求項4に記載の高周波増幅器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、高周波増幅器に関する。
本出願は、2020年4月23日出願の日本出願第2020-076598号に基づく優先権を主張し、前記日本出願に記載された全ての記載内容を援用する。
【背景技術】
【0002】
高周波増幅器として、例えば特許文献1には、電界効果トランジスタ(FET;Field Effect Transistor)に関する技術が開示されている。この電界効果トランジスタは、高周波(RF;Radio Frequency)信号を増幅するための複数の増幅素子と、ボンディングワイヤを介して増幅素子の入力端とパッケージの入力端子とに接続され、インピーダンス変換を行う整合回路と、を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【0004】
本開示は、高周波増幅器を提供する。この高周波増幅器は、第1トランジスタ、第1トランジスタに対して第1方向に並ぶ第2トランジスタ、及び第2トランジスタに対して第1トランジスタとは反対において第1方向に並ぶ第3トランジスタと、第1トランジスタのドレイン電極に電気的に接続される第1ドレインパッド、第2トランジスタのドレイン電極に電気的に接続される第2ドレインパッド、及び第3トランジスタのドレイン電極に電気的に接続される第3ドレインパッドと、第1ドレインパッドに電気的に接続される第1伝送線路、第2ドレインパッドに電気的に接続される第2伝送線路、及び第3ドレインパッドに電気的に接続される第3伝送線路を有し、第1トランジスタ、第2トランジスタ及び第3トランジスタのそれぞれに対する高周波信号のインピーダンス整合を行うための整合回路パターンと、第1伝送線路と第1ドレインパッドとを電気的に接続する第1ワイヤ、第2伝送線路と第2ドレインパッドとを電気的に接続する第2ワイヤ、及び第3伝送線路と第3ドレインパッドとを電気的に接続する第3ワイヤと、第1伝送線路及び第1ワイヤを介して第1ドレインパッドに電気的に接続されるとともに、第2伝送線路及び第2ワイヤを介して第2ドレインパッドに電気的に接続される配線パターンと、を備える。第2ワイヤの実効的なインピーダンスは、第1ワイヤの実効的なインピーダンスよりも大きい。第1伝送線路における第1ワイヤが接続された第1接続点と第2伝送線路における第2ワイヤが接続された第2接続点とを結ぶ第1仮想直線と直交し、第1接続点と第2接続点との中点を通る第2仮想直線に関して、整合回路パターンが非対称な外形を有している。第2伝送線路の電気長は、第1伝送線路の電気長よりも短い。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係る高周波増幅器1A及び第2実施形態に係る高周波増幅器1Bの内部構成を示す平面図である。
【
図2】
図2は、増幅素子11及びマッチング回路50を示す平面図である。
【
図3】
図3は、
図2における1つの整合回路パターン52を拡大して示す平面図である。
【
図4】
図4は、ボンディングワイヤW41,W42,W43,W44,W45,W46,W47,W48の各電気長を説明するための斜視図である。
【
図5】
図5は、ボンディングワイヤW41,W42,W43,W44,W45,W46,W47,W48の各インピーダンスを示すスミスチャートである。
【
図6】
図6は、ボンディングワイヤW41,W42,W43,W44,W45,W46,W47,W48の各インピーダンスの虚部を示すグラフである。
【
図7】
図7は、電磁波が通る物理的な経路の長さと位相との関係を説明するための図である。
【
図8】
図8は、電磁波が通る物理的な経路の長さと位相との関係を説明するための図である。
【
図9】
図9は、マイクロ波における電流の分布状態を説明するための図である。
【
図10】
図10は、マイクロ波における電流の集中状態を示すシミュレーション図である。
【
図11】
図11は、マイクロ波における電界強度の分布状態を示すシミュレーション図である。
【
図12】
図12は、電磁波が通るパターン80Aの1つの参考例を示す平面図である。
【
図13】
図13は、電磁波が通るパターン80Bの別の参考例を示す平面図である。
【
図14】
図14は、パターン80A,80Bにおいて、経路DA,DBをそれぞれ通過した2つの電磁波間に生じる位相差を示すグラフである。
【
図17】
図17は、第2実施形態に係る高周波増幅器1Bのトランジスタ13A,13B,13C,13Dにおける各負荷インピーダンスを示すスミスチャートである。
【
図18】
図18は、第2実施形態における負荷インピーダンスの位相のばらつきと電力効率との関係を示す図である。
【
図19】
図19は、比較例に係る高周波増幅器のマッチング回路60Xを示す平面図である。
【
図20】
図20は、比較例に係る高周波増幅器のトランジスタ13A,13B,13C,13Dにおける各負荷インピーダンスを示すスミスチャートである。
【
図21】
図21は、比較例における負荷インピーダンスの位相のばらつきと電力効率との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
[本開示が解決しようとする課題]
特許文献1に開示される高周波増幅器において、増幅素子には、複数のトランジスタが並列に配置され、各トランジスタのそれぞれがボンディングワイヤ等のワイヤによって整合回路に接続される。このような場合、複数のワイヤのそれぞれの相互インダクタンス成分が、近接する別のワイヤから影響を受ける。これにより、複数のワイヤ間においては、別のワイヤから影響を受ける度合いに応じて、実効的なインピーダンスにばらつきが生じ得る。このとき、複数のワイヤ間においてRF信号の位相がばらつくので、複数のトランジスタ間においてもRF信号の位相にばらつきが生じてしまうおそれがある。高周波増幅器の電力効率を向上させるためには、このRF信号の位相のばらつきを低減することが望ましい。
【0007】
[本開示の効果]
本開示の一実施形態に係る高周波増幅器によれば、複数のトランジスタ間において、RF信号の位相のばらつきを低減可能となる。
【0008】
[本開示の実施形態の説明]
最初に、本開示の実施形態の内容を列記して説明する。一実施形態に係る高周波増幅器は、第1トランジスタ、第1トランジスタに対して第1方向に並ぶ第2トランジスタ、及び第2トランジスタに対して第1トランジスタとは反対において第1方向に並ぶ第3トランジスタと、第1トランジスタのドレイン電極に電気的に接続される第1ドレインパッド、第2トランジスタのドレイン電極に電気的に接続される第2ドレインパッド、及び第3トランジスタのドレイン電極に電気的に接続される第3ドレインパッドと、第1ドレインパッドに電気的に接続される第1伝送線路、第2ドレインパッドに電気的に接続される第2伝送線路、及び第3ドレインパッドに電気的に接続される第3伝送線路を有し、第1トランジスタ、第2トランジスタ及び第3トランジスタのそれぞれに対する高周波信号のインピーダンス整合を行うための整合回路パターンと、第1伝送線路と第1ドレインパッドとを電気的に接続する第1ワイヤ、第2伝送線路と第2ドレインパッドとを電気的に接続する第2ワイヤ、及び第3伝送線路と第3ドレインパッドとを電気的に接続する第3ワイヤと、第1伝送線路及び第1ワイヤを介して第1ドレインパッドに電気的に接続されるとともに、第2伝送線路及び第2ワイヤを介して第2ドレインパッドに電気的に接続される配線パターンと、を備える。第2ワイヤの実効的なインピーダンスは、第1ワイヤの実効的なインピーダンスよりも大きい。第1伝送線路における第1ワイヤが接続された第1接続点と第2伝送線路における第2ワイヤが接続された第2接続点とを結ぶ第1仮想直線と直交し、第1接続点と第2接続点との中点を通る第2仮想直線に関して、整合回路パターンが非対称な外形を有している。第2伝送線路の電気長は、第1伝送線路の電気長よりも短い。
【0009】
この高周波増幅器では、複数のトランジスタとしての第1トランジスタ、第2トランジスタ及び第3トランジスタが、複数のワイヤとしての第1ワイヤ、第2ワイヤ及び第3ワイヤによって整合回路パターンにそれぞれ接続されている。この構成では、複数のワイヤ間において、別のワイヤからの影響を受ける度合いに応じて、実効的なインピーダンスにばらつきが生じ得る。このような複数のワイヤ間における実効的なインピーダンスのばらつきは、当該複数のワイヤ間における電気長のばらつきとして現れる。ここで、この高周波増幅器においては、整合回路パターンが非対称な外形を有していることにより、第2伝送線路の電気長が第1伝送線路の電気長よりも短くなっている。これにより、第2ワイヤの電気長が第1ワイヤの電気長よりも長い構成において、ワイヤ間の電気長差が、伝送線路間の電気長差によって打ち消され得る。したがって、第1トランジスタから配線パターンまでの電気長と第2トランジスタから配線パターンまでの電気長との間のばらつきが低減される。複数のワイヤ間における電気長のばらつきが小さいほど、複数のワイヤ間における実効的なインピーダンスのばらつきが小さくなるので、この構成により、第1トランジスタ及び第2トランジスタ間において、位相のばらつきを低減できる。
【0010】
上記の高周波増幅器において、整合回路パターンは、第1角部を含む第1パッド、及び第2角部を含む第2パッドを有し、第1伝送線路は、第1パッドにおける第1角部を含む部分によって構成され、第2伝送線路は、第2パッドにおける第2角部を含む部分によって構成され、第2角部は、第1角部の面取り量よりも大きい面取り量によって面取りされていてもよい。本発明者の知見によれば、高周波において電流(電界)は、導体の外側縁に集中しやすい。このため、第1伝送線路においては、高周波信号が第1パッドにおける第1角部に沿って伝搬し、第2伝送線路においては、高周波信号が第2パッドにおける第2角部に沿って伝搬することとなる。ここでは、第2角部が第1角部の面取り量よりも大きい面取り量によって面取りされているので、第1角部を含む経路に対して第2角部を含む経路が短くなり、第2伝送線路の電気長が第1伝送線路の電気長よりも短い構成を実現し得る。また、この構成によれば、面取り量の調整により、第1トランジスタから配線パターンまでの電気長と第2トランジスタから配線パターンまでの電気長とを整合させやすい。したがって、第1トランジスタ及び第2トランジスタ間において、位相のばらつきをより確実に低減可能となる。
【0011】
上記の高周波増幅器において、第1伝送線路は、第2伝送線路よりも細くてもよい。この場合、第1伝送線路の単位長さあたりのインピーダンスを、第2伝送線路の単位長さあたりのインピーダンスに対して大きくできるので、第2伝送線路の電気長が第1伝送線路の電気長よりも短い構成を実現し得る。また、第1伝送線路を細くする程度により、第1トランジスタから配線パターンまでの電気長と第2トランジスタから配線パターンまでの電気長とを整合させやすい。したがって、第1トランジスタ及び第2トランジスタ間において、位相のばらつきをより確実に低減可能となる。
【0012】
上記の高周波増幅器においては、第1トランジスタ、第2トランジスタ、及び第3トランジスタを含んで構成されるトランジスタ群が複数設けられていてもよい。この場合、高出力の高周波増幅器を実現できる。
【0013】
上記の高周波増幅器では、トランジスタ群の最外部に第1ワイヤが配置されるとともに、第3ワイヤと第1ワイヤとの間に第2ワイヤが配置されており、第1ワイヤの長さは、第2ワイヤの長さと等しく、第1ドレインパッドから配線パターンまでの実効的な電気長は、第2ドレインパッドから配線パターンまでの実効的な電気長と実質的に等しくてもよい。この場合、第1トランジスタ及び第2トランジスタ間において、位相が実質的に一致するので、高周波増幅器の電力効率を向上させる観点から特に有利となる。
【0014】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示の一実施形態に係る高周波増幅器の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本開示はこれらの例示に限定されるものではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。以下の説明においては、同一要素または同一機能を有する要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する場合がある。説明に際しては、図面に示されたXYZ直交座標系を参照する場合がある。
【0015】
図1は、第1実施形態に係る高周波増幅器1A及び第2実施形態に係る高周波増幅器1Bの内部構成を示す平面図である。まず、第1実施形態に係る高周波増幅器1Aについて説明する。高周波増幅器1Aは、一つの入力端子2、一つの出力端子3、増幅素子部10、分岐回路基板20、合成回路基板30、マッチング回路40、及びマッチング回路50を備える。本実施形態において、高周波増幅器1Aは、一例としてマッチング回路40,50を2つずつ備える。また、増幅素子部10は2つの増幅素子11を含む。1つの増幅素子11あたりの出力は例えば30Wであり、増幅素子部10全体の出力は例えば60Wである。高周波増幅器1Aは、増幅素子部10、分岐回路基板20、合成回路基板30、及びマッチング回路40,50を収容するパッケージ4と、ボンディングワイヤW1,W2,W3,W4,W5,W6と、を備える。
【0016】
パッケージ4は金属製であり、基準電位に接続されている。パッケージ4の平面形状は略長方形状である。パッケージ4は、第1方向において向かい合う側壁4c,4dと、第2方向において向かい合う端壁4a,4bと、を有する。第1方向と第2方向とは互いに交差しており、一例では互いに直交する。本実施形態においては、第1方向がX軸方向であり、第2方向がY軸方向である。
【0017】
パッケージ4は、長方形状の平坦な底板4eを有する。底板4eは、Y軸方向及びX軸方向によって規定される平面に沿って延びている。端壁4a,4bは底板4eの一対の辺(X軸方向に沿って延びる辺)に沿って立設しており、側壁4c,4dは底板4eの別の一対の辺(Y軸方向に沿って延びる辺)に沿って立設している。なお、パッケージ4は、図示しない蓋部を更に有する。蓋部は、端壁4a,4b及び側壁4c,4dによって形成される上部開口を封止する。
【0018】
入力端子2は、金属製の配線パターンであって、高周波信号を高周波増幅器1Aの外部から入力する。高周波信号は、マルチキャリア伝送方式に基づく信号であって、キャリア信号の周波数が互いに異なる複数の信号を重畳してなる。キャリア信号の周波数帯域は、例えば500MHz以下である。入力端子2は、X軸方向における端壁4aの中央部に設けられており、パッケージ4の外部から内部へ延在している。
【0019】
出力端子3は、金属製の配線パターンであって、増幅後の高周波信号を高周波増幅器1Aの外部へ出力する。出力端子3は、X軸方向における端壁4bの中央部に設けられており、パッケージ4の内部から外部へ延在している。
【0020】
増幅素子部10は、パッケージ4の底板4e上であって、Y軸方向におけるパッケージ4の略中央部分に配置されている。増幅素子部10における2つの増幅素子11は、X軸方向に並んで配置されている。増幅素子11は、複数のトランジスタ13(
図2参照)を備える。複数のトランジスタ13は、例えば電界効果トランジスタ(FET)であり、一実施例では高電子移動度トランジスタ(HEMT;High Electron Mobility Transistor)である。複数のトランジスタ13は、それぞれ、ゲート電極、ソース電極、及びドレイン電極を有する。各トランジスタ13は、入力された高周波信号を増幅し、増幅後の高周波信号を出力する。なお、増幅素子11のより具体的な構成については後述する。
【0021】
分岐回路基板20は、パッケージ4の底板4e上に配置されている。分岐回路基板20は、Y軸方向に沿って入力端子2及び増幅素子部10と並んで配置され、入力端子2と増幅素子部10との間に位置する。分岐回路基板20は、セラミック製の基板21と、基板21の主面上に設けられた分岐回路22とを有する。基板21の平面形状は例えば長方形であり、一方の長辺21aは入力端子2と向かい合っており、他方の長辺21bはマッチング回路40を介して増幅素子部10と向かい合っている。基板21の裏面はパッケージ4の底板4eと向かい合っている。基板21の一方の短辺21cはパッケージ4の側壁4cの近傍に位置しており、基板21の他方の短辺21dはパッケージ4の側壁4dの近傍に位置している。すなわち、基板21は、X軸方向においてパッケージ4の一端近傍から他端近傍にわたって延在している。
【0022】
分岐回路22は、基板21の主面上に設けられた配線パターン23を含む。配線パターン23は、ボンディングワイヤW1を介して入力端子2と電気的に接続されている。高周波信号は、X軸方向における基板21の中央部から配線パターン23に入力される。配線パターン23は、Y軸方向に沿った基板21の中心線に関して線対称な形状を有する。配線パターン23は、ボンディングワイヤW1との接続点を起点として二分岐を繰り返し、最終的に8つの金属パッド23aに至る。8つの金属パッド23aは、長辺21bに沿って並んで配列されている。互いに隣り合う金属パッド23a同士は、膜抵抗を介して互いに接続されており、ウィルキンソン型カプラを構成する。これにより、増幅素子部10の複数のゲートパッド14(後述)間のアイソレーションを確保しつつ、入力端子2から見た、増幅素子部10の入力インピーダンスの整合を図っている。なお、図には、代表して1つの膜抵抗23bのみ図示している。8つの金属パッド23aは、ボンディングワイヤW2を介して、マッチング回路40と電気的に接続されている。
【0023】
マッチング回路40は、パッケージ4の底板4e上に配置され、Y軸方向において分岐回路基板20と増幅素子部10との間に配置されている。マッチング回路40は、例えばダイキャパシタであり、誘電体基板と、誘電体基板の主面上に設けられた回路パターン(不図示)を有する。回路パターンは、複数の金属パッド(不図示)を有する。金属パッドの数は、例えば金属パッド23aと同数とされる。複数の金属パッドは、X軸方向に沿って一列に配列されている。各金属パッドは、ボンディングワイヤW2を介して、対応する金属パッド23aと電気的に接続されるとともに、ボンディングワイヤW3を介して、増幅素子部10の対応するゲートパッド14と電気的に接続されている。
【0024】
マッチング回路40においては、ボンディングワイヤW2及びボンディングワイヤW3によるインダクタンス成分と、これらのインダクタンス成分の間のノードと基準電位(底板4e)との間に接続された、金属パッドのキャパシタンスとによって、T型フィルタ回路が構成される。マッチング回路40は、このT型フィルタ回路によってインピーダンス変換を行う。通常、増幅素子部10においてゲートパッド14からトランジスタ13内部を見込んだインピーダンスは、伝送線の特性インピーダンス(例えば50Ω)と異なる。マッチング回路40は、このインピーダンスを、T型フィルタ回路により入力端子2からパッケージ4内部を見込んだ50Ωに変換する。
【0025】
マッチング回路50は、パッケージ4の底板4e上に配置され、Y軸方向において増幅素子部10と合成回路基板30との間に配置されている。マッチング回路50は、マッチング回路40と同様に、例えば平行平板型キャパシタ(ダイキャパシタ)である。
図2に示されるように、各マッチング回路50は、誘電体基板51(
図2参照)と、誘電体基板51上に設けられた複数の整合回路パターン52(
図2参照)とを有する。誘電体基板51の平面形状は、X軸方向を長手方向とする長方形状である。誘電体基板51の厚み(ここでは、Z軸方向における寸法)は、例えば約200μmである。また、誘電体基板51の比誘電率(εr)は、例えばεr=150である。各整合回路パターン52は、複数の金属パッド53を有する。各金属パッド53は、ボンディングワイヤW4(ワイヤ)を介して、増幅素子部10の対応するドレインパッド15(後述)と電気的に接続されるとともに、ボンディングワイヤW5を介して、合成回路基板30の対応する金属パッド33a(後述)と電気的に接続されている。なお、マッチング回路50のより具体的な構成については後述する。
【0026】
マッチング回路50においても、ボンディングワイヤW4及びボンディングワイヤW5によるインダクタンス成分と、これらのインダクタンス成分の間のノードと基準電位(底板4e)との間に接続された、金属パッド53のキャパシタンスとによって、T型フィルタ回路(整合回路)が構成される。マッチング回路50は、このT型フィルタ回路によってインピーダンス変換を行うことにより増幅素子部10に対するインピーダンス整合を図っている。通常、増幅素子部10においてドレインパッド15からトランジスタ13内部を見込んだインピーダンスは、伝送線の特性インピーダンス(例えば50Ω)と異なり、大概は50Ωより小さい値である。マッチング回路50は、このインピーダンスを、T型フィルタ回路により出力端子3からパッケージ4内部を見込んだ50Ωに整合する。
【0027】
合成回路基板30は、パッケージ4の底板4e上に配置されている。合成回路基板30は、Y軸方向に沿って増幅素子部10及び出力端子3と並んで配置され、増幅素子部10と出力端子3との間に位置する。合成回路基板30は、セラミック製の基板31と、基板31の主面上に設けられた合成回路32とを有する。基板31の平面形状は例えば長方形であり、一方の長辺31aはマッチング回路50を介して増幅素子部10と向かい合っており、他方の長辺31bは出力端子3と向かい合っている。基板31の裏面はパッケージ4の底板4eと向かい合っている。基板31の一方の短辺31cはパッケージ4の側壁4cの近傍に位置しており、基板31の他方の短辺31dはパッケージ4の側壁4dの近傍に位置している。すなわち、基板31は、X軸方向においてパッケージ4の一端近傍から他端近傍にわたって延在している。
【0028】
合成回路32は、増幅素子部10の複数のドレインパッド15から出力される信号を合成して一の出力信号とする。合成回路32は、基板31の主面上に設けられた配線パターン33を含む。配線パターン33は、Y軸方向に沿った基板31の中心線に関して線対称な形状を有する。配線パターン33は、4つの金属パッド33aを含む。4つの金属パッド33aは、長辺31aに沿って並んで配列されている。互いに隣り合う金属パッド33a同士は、膜抵抗を介して互いに接続されており、ウィルキンソン型カプラを構成する。これにより、増幅素子部10の複数のドレインパッド15間のアイソレーションを確保しつつ、出力端子3から見た、増幅素子部10の出力インピーダンスの整合を図っている。各金属パッド33aは、ボンディングワイヤW5を介して、マッチング回路50の対応する2つの金属パッド53と電気的に接続されている。配線パターン33は、4つの金属パッド33aから結合を繰り返しつつ、最終的にボンディングワイヤW6との接続点に至る。配線パターン33は、ボンディングワイヤW6を介して、出力端子3と電気的に接続されている。増幅後の高周波信号は、X軸方向における基板31の中央部から出力端子3に出力される。
【0029】
次に、
図2を参照し、増幅素子11及びマッチング回路50についてより具体的に説明する。
図2は、
図1の増幅素子11及びマッチング回路50を示す平面図である。増幅素子11は、半導体基板12と、複数のトランジスタ13と、複数のゲートパッド14と、複数のドレインパッド15と、複数のソースパッド16と、を備える。半導体基板12の平面形状は、X軸方向を長手方向とする長方形状である。複数のトランジスタ13は、半導体基板12上において、X軸方向に並んで配置されている。ゲートパッド14、ドレインパッド15及びソースパッド16の数は、トランジスタ13とそれぞれ同数とされる。複数のゲートパッド14、複数のドレインパッド15、及び複数のソースパッド16のそれぞれは、半導体基板12の主面上に形成された金属膜(例えばAu膜)である。
【0030】
複数のゲートパッド14は、複数のトランジスタ13の各ゲート電極とそれぞれ電気的に接続されている。複数のゲートパッド14は、各増幅素子11の入力端子2側の端辺に沿って並んで配置されている。複数のドレインパッド15は、複数のトランジスタ13の各ドレイン電極とそれぞれ電気的に接続されている。複数のドレインパッド15は、各増幅素子11の出力端子3側の端辺に沿って並んで配置されている。複数のソースパッド16は、複数のトランジスタ13の各ソース電極とそれぞれ電気的に接続されている。複数のソースパッド16は、各増幅素子11の入力端子2側の端辺に沿ってゲートパッド14と交互に並んで配置されている。各ソースパッド16は、増幅素子11を厚さ方向(ここでは、Z軸方向)に貫通するビアホールを介してパッケージ4の底板4eと電気的に接続され、基準電位とされている。各トランジスタ13は、各ゲートパッド14に入力された高周波信号を増幅し、増幅後の高周波信号を各ドレインパッド15から出力する。
【0031】
図2には、1つの増幅素子11が示されている。本実施形態において、1つの増幅素子11は、8つのトランジスタ13によって構成されるトランジスタ群を有する。つまり、高周波増幅器1Aにおいて、パッケージ4の底板4e上には、トランジスタ群が複数(本実施形態では2つ)設けられている。8つのトランジスタ13は、X軸方向にこの順で並ぶトランジスタ13A,13B,13C,13D,13E,13F,13G,13Hを含む。言い換えると、トランジスタ13Dは、トランジスタ13Aに対してX軸方向に並び、トランジスタ13E,13F,13G,13Hは、トランジスタ13Dに対して、トランジスタ13Aとは反対においてX軸方向に並んでいる。トランジスタ13Aは、本実施形態における第1トランジスタの一例であり、トランジスタ13Dは、本実施形態における第2トランジスタの一例である。トランジスタ13E,13F,13G,13Hは、それぞれ、本実施形態における第3トランジスタの一例である。8つのトランジスタ13において、トランジスタ13A,13Hは、X軸方向における最外部にそれぞれ配置されている。トランジスタ13Bからトランジスタ13Gは、トランジスタ13A,13Hの間に配置されている。つまり、トランジスタ13A,13Hには、X軸方向の一方のみにおいて別のトランジスタ13が隣り合っている。また、トランジスタ13Bからトランジスタ13Gには、X軸方向の両方において別のトランジスタ13が隣り合っている。
【0032】
以下では、トランジスタ13Aからトランジスタ13Hの各ドレイン電極と電気的に接続されたドレインパッド15を、それぞれ、ドレインパッド15A,15B,15C,15D,15E,15F,15G,15Hと称する。ドレインパッド15Aは、本実施形態における第1ドレインパッドの一例であり、ドレインパッド15Dは、本実施形態における第2ドレインパッドの一例である。ドレインパッド15E,15F,15G,15Hは、それぞれ、本実施形態における第3ドレインパッドの一例である。
【0033】
また、以下では、ドレインパッド15Aからドレインパッド15Hに対応して、8つのボンディングワイヤW4を、それぞれ、ボンディングワイヤW41,W42,W43,W44,W45,W46,W47,W48と称する。ボンディングワイヤW41は、本実施形態における第1ワイヤの一例であり、ボンディングワイヤW44は、本実施形態における第2ワイヤの一例である。ボンディングワイヤW45,W46,W47,W48は、本実施形態における第3ワイヤの一例である。8つのボンディングワイヤW4の長さは互いに等しい。8つのボンディングワイヤW4においては、ボンディングワイヤW41,W48が、X軸方向における最外部にそれぞれ配置されている。また、ボンディングワイヤW42からボンディングワイヤW47は、ボンディングワイヤW41,W48の間に配置されている。
【0034】
本実施形態において、1つのマッチング回路50は2つの整合回路パターン52を有する。各整合回路パターン52は、複数の伝送線路54を有する。2つの整合回路パターン52において、複数の伝送線路54の数は、トランジスタ13と同数とされる。本実施形態において、1つの整合回路パターン52は、4つの伝送線路54を有する。4つの伝送線路54は、伝送線路54A,54B,54C,54Dを含む。
【0035】
2つの整合回路パターン52は、互いにX軸方向について反転した構成を有している。一方の整合回路パターン52では、伝送線路54A,54B,54C,54Dが、トランジスタ13A,13B,13C,13Dに対応してX軸方向にこの順で並んでいる。当該一方の整合回路パターン52における伝送線路54Aは、本実施形態における第1伝送線路の一例である。当該一方の整合回路パターン52における伝送線路54Dは、本実施形態における第2伝送線路の一例である。また、他方の整合回路パターン52では、伝送線路54D,54C,54B,54Aが、トランジスタ13E,13F,13G,13Hに対応してX軸方向にこの順で並んでいる。当該他方の整合回路パターン52における伝送線路54D,54C,54B,54Aは、本実施形態における第3伝送線路の一例である。8つの伝送線路54においては、2つの伝送線路54Aが、X軸方向における最外部にそれぞれ配置されている。また、各伝送線路54B,54C,54Dは、2つの伝送線路54Aの間に配置されている。
【0036】
伝送線路54A,54Bは、上述した金属パッド53としての金属パッド53A(第1パッド)によって構成されている。伝送線路54C,54Dは、上述した金属パッド53としての金属パッド53B(第2パッド)によって構成されている。金属パッド53Aは、本実施形態における第1パッドの一例である。金属パッド53Bは、本実施形態における第2パッドの一例である。金属パッド53Aと金属パッド53Bとは、膜抵抗55aを介して互いに接続されている。金属パッド53Aの幅(ここでは、X軸方向における最大寸法)と、金属パッド53Bの幅(ここでは、X軸方向における最大寸法)とは互いに等しい。また、金属パッド53Aの長さ(ここでは、Y軸方向における最大寸法)と、金属パッド53Bの長さ(ここでは、Y軸方向における最大寸法)とは互いに等しい。
【0037】
図3は、
図2における1つの整合回路パターン52を拡大して示す平面図である。金属パッド53AのY軸方向における一方の端部は、伝送線路54Aにおける入力端53aと、伝送線路54Bにおける入力端53bとに分岐されている。伝送線路54Aは、入力端53aにおける接続点P1(第1接続点)にてボンディングワイヤW41又はボンディングワイヤW48と接続されている。伝送線路54Bは、入力端53bにおける接続点P2にてボンディングワイヤW42又はボンディングワイヤW47と接続されている。入力端53aと入力端53bとは、膜抵抗55bを介して互いに接続されている。伝送線路54A及び伝送線路54Bは、金属パッド53AのY軸方向における他方の端部において接続点Q1にて結合され、ボンディングワイヤW5と接続されている。
【0038】
また、金属パッド53BのY軸方向における一方の端部は、伝送線路54Cにおける入力端53cと、伝送線路54Dにおける入力端53dとに分岐されている。伝送線路54Cは、入力端53cにおける接続点P3にてボンディングワイヤW43又はボンディングワイヤW46と接続されている。伝送線路54Dは、入力端53dにおける接続点P4(第2接続点)にてボンディングワイヤW44又はボンディングワイヤW45と接続されている。入力端53cと入力端53dとは、膜抵抗55cを介して互いに接続されている。伝送線路54C及び伝送線路54Dは、金属パッド53BのY軸方向における他方の端部において接続点Q2にて結合され、ボンディングワイヤW5と接続されている。
【0039】
接続点P1と接続点P4とを結ぶ仮想直線(第1仮想直線)と直交し、接続点P1と接続点P4との中点を通る仮想直線N1(第2仮想直線)に関して、金属パッド53Aの外形と金属パッド53Bの外形とは、互いに非対称である。換言すると、整合回路パターン52は、仮想直線N1に関して非対称な外形を有している。このような外形により、整合回路パターン52の外側縁のうち、仮想直線N1の一方側(ここでは、接続点P1を含む側)の部分の長さは、仮想直線N1の他方側(ここでは、接続点P4を含む側)の部分の長さよりも長い。具体的には、仮想直線N1の一方側の部分の長さとは、金属パッド53Aを含む整合回路パターン52の外側縁のうち、接続点P1からX軸方向に射影した位置を始点、接続点Q1からY軸方向に射影した位置を終点とする部分の長さである。また、仮想直線N1の他方側の部分の長さとは、金属パッド53Bを含む整合回路パターン52の外側縁のうち、接続点P4からX軸方向に射影した位置を始点、接続点Q2からY軸方向に射影した位置を終点とする部分の長さである。
【0040】
金属パッド53Aは、平面視において略長方形状を呈しており、4つの角部を有する。4つの角部は、面取りされた1つの角部C1(第1角部)を含む。なお、4つの角部のうち、角部C1を除く3つの角部は面取りされていない。金属パッド53Aは、一方の長辺53rにおいて金属パッド53Bと接続されている。角部C1は、金属パッド53Aにおける他方の長辺53sと、合成回路基板30(
図1参照)と向かい合う短辺53tとの交差部に位置している。伝送線路54Aは、金属パッド53Aにおける角部C1を含む部分によって構成されている。伝送線路54Bは、金属パッド53Aにおける角部C1を含まない部分によって構成されている。
【0041】
金属パッド53Bは、平面視において略長方形状を呈しており、4つの角部を有する。4つの角部は、面取りされた1つの角部C2(第2角部)を含む。角部C2は、角部C1の面取り量L1よりも大きい面取り量L2によって面取りされている。面取り量L2は、例えば面取り量L1の約3倍である。なお、4つの角部のうち角部C2を除く3つの角部は面取りされていない。金属パッド53Bは、一方の長辺53uにおいて金属パッド53Aと接続されている。角部C2は、金属パッド53Bにおける他方の長辺53vと、合成回路基板30(
図1参照)と向かい合う短辺53wとの交差部に位置している。伝送線路54Cは、金属パッド53Bにおける角部C2を含まない部分によって構成されている。伝送線路54Dは、金属パッド53Bにおける角部C2を含む部分によって構成されている。したがって、金属パッド53Bの外側縁のうち、伝送線路54Dを構成する部分の長さは、金属パッド53Aの外側縁のうち、伝送線路54Aを構成する部分の長さよりも短い。
【0042】
次に、増幅素子11から合成回路32に至るまでの構成における電気長について説明する。
図4は、ボンディングワイヤW41からボンディングワイヤW48の各電気長を説明するための斜視図である。
図4に示されるように、ボンディングワイヤW41は、主に、最も近接しているボンディングワイヤW42からの磁界結合の影響、及び、次に近接しているボンディングワイヤW43からの磁界結合の影響を受ける。これに対し、ボンディングワイヤW44は、主に、最も近接しているボンディングワイヤW43,W45のそれぞれからの磁界結合、及び、次に近接しているボンディングワイヤW42,W46のそれぞれからの磁界結合の影響を受ける。これにより、ボンディングワイヤW41の相互インダクタンス成分は、片側のみからの影響に応じて増加するのに対し、ボンディングワイヤW44の相互インダクタンス成分は、両側からの影響に応じて増加する。つまり、ボンディングワイヤW41からボンディングワイヤW48のそれぞれの相互インダクタンス成分は、近接している他のボンディングワイヤW4に応じて増加する。
【0043】
図5は、ボンディングワイヤW41からボンディングワイヤW48の各インピーダンスを示すスミスチャートである。
図5には、周波数10.700GHzから12.700GHzにおけるボンディングワイヤW41からボンディングワイヤW48のそれぞれのインピーダンスに対応する伝送線終端のSパラメータ(S11)が示されている。なお、ボンディングワイヤW41からボンディングワイヤW48のそれぞれのインピーダンスとは、ボンディングワイヤW41からボンディングワイヤW48のそれぞれの実効的なインピーダンスを意味する。実効的なインピーダンスとは、1つのボンディングワイヤW4における他のボンディングワイヤW4からの影響を加味したインピーダンスを意味する。
図5のスミスチャートにおいて、表示する範囲を反射係数Γ=0.3までとし、スミスチャート中心のインピーダンス50Ωを計算用ポートの特性インピーダンスZ
0=50Ωで規格化している。インダクタンスは、
図5における矢印の向きに大きい値となるので、
図5から、ボンディングワイヤW41,W48のインダクタンスよりもボンディングワイヤW44,W45のインダクタンスの方が大きいことがわかる。
【0044】
図6は、ボンディングワイヤW41からボンディングワイヤW48の各インダクタンスを示すグラフである。
図6のグラフにおいて、横軸は周波数であり、縦軸はインダクタンスの値である。
図6からも、ボンディングワイヤW41,W48のインダクタンスよりもボンディングワイヤW44,W45のインダクタンスの方が大きいことがわかる。このように、一列に並ぶ複数のボンディングワイヤW4においては、列の中央に近づくほどインダクタンスが大きく、列の端に近づくほどインダクタンスが小さい。したがって、ボンディングワイヤW41からボンディングワイヤW48の実効的な電気長は、列の中央に近いワイヤほど長く、列の端に近いワイヤほど短い。具体的には、ボンディングワイヤW44の実効的な電気長は、ボンディングワイヤW41の実効的な電気長よりも長い。なお、実効的な電気長とは、電磁波が通過する所定の経路の電気長であって、当該経路に含まれるボンディングワイヤW4とは別のボンディングワイヤW4からの相互インダクタンスの影響を加味した電気長を意味する。
【0045】
次に、伝送線路54A,54Dの電気長について説明する。高周波信号は、伝送線路54A,54Dを電磁波として伝搬するので、伝送線路54A,54Dの電気長は、伝送線路54A,54Dにおける電磁波が通る経路の長さに相当する。
【0046】
まず、
図7及び
図8を参照して、電磁波が通る物理的な経路の長さと位相との関係について説明する。
図7及び
図8は、電磁波が通る物理的な経路の長さと位相との関係を説明するための図である。
図7には、電磁波Eが通る経路D1が示されており、
図8には、電磁波Eが通る経路D2が示されている。経路D2は経路D1よりも長い。
図7及び
図8の例では、経路D2の長さは、経路D1の長さの約1.4倍である。これにより、経路D1を通過した電磁波Eと経路D2を通過した電磁波Eに位相差が生じることとなる。ここでは、経路D1の終端における電磁波Eの位相が0degであるのに対して、経路D2の終端における電磁波Eの位相が約90degであるため、約90degの位相差が生じている。
【0047】
ここで、電磁波としての高周波(マイクロ波)が通る経路について具体的に説明する。
図9は、マイクロ波における電流の分布状態を説明するための図である。
図9の(a)部は、誘電体基板90と、誘電体基板90上に設けられた金属導体80とを示す断面図であり、
図9の(b)部は、金属導体80をY軸方向に向かって流れる電流の大きさを示すグラフである。金属導体80は、例えば、マイクロストリップ導体である。
図9に示されるグラフにおいて、横軸は、金属導体80のX軸方向における中心を0としたX軸方向の位置であり、縦軸は、電流値Iである。
【0048】
図10は、マイクロ波における電流の集中状態を示すシミュレーション図である。
図10においては、色の濃い部分ほど、電流が集中した状態であることが示されている。
図10から、金属導体80のうちX軸方向の両端部において、電流が特に集中した状態であることがわかる。したがって、
図9に示されるように、マイクロ波においては、金属導体80を電流が流れる際、金属導体80のうちX軸方向における両端部において電流値Iが大きくなることがわかる。
【0049】
図11は、マイクロ波における電界強度の分布状態を示すシミュレーション図である。
図11においては、色の濃い部分ほど、電界強度が大きいことが示されている。
図11から、金属導体80のうちX軸方向の両端部において、電界強度が特に大きくなることがわかる。したがって、電磁波としてのマイクロ波は、主に、上記の金属導体80のようなパターンの外側縁を通ることがわかる。換言すると、電磁波が通る物理的な経路はパターンの外側縁に相当する。したがって、パターンの外側縁の長さを変化させることにより、電磁波が通る物理的な経路の長さが変化する。なお、パターンの外側縁の長さは、当該外側縁の形状を変化させることによって変化させることができる。
【0050】
図12は、電磁波が通るパターン80Aの1つの参考例を示す平面図であり、
図13は、電磁波が通るパターン80Bの別の参考例を示す平面図である。パターン80A,80Bは、ともに、並列した2つの入力ポート81,82と、1つの出力ポート83とを有する。パターン80A,80Bのそれぞれは、略長方形状を呈しており、長手方向における一端部にて、入力ポート81を構成する部分と入力ポート82を構成する部分とに二分岐されている。出力ポート83は、パターン80A,80Bの長手方向における他端部に位置している。入力ポート81から出力ポート83までの距離と入力ポート82から出力ポート83までの距離とは互いに等しい。
【0051】
ここで、入力ポート81,82を結ぶ仮想直線N81に直交し、入力ポート81,82の中点を通る仮想直線N82に対して、パターン80Aの外形は線対称である。これに対し、パターン80Bの外形は、仮想直線N82に関して非対称である。
図12及び
図13の例では、パターン80Aにおける4つの角部がすべて直角であるのに対し、パターン80Bにおける4つの角部は、直角である3つの角部と面取りされた1つの角部とを含んでいる。具体的には、パターン80Bの外形は、入力ポート81から出力ポート83に至る部分の一部において、直角であった角部をカットした形状を呈している。このため、パターン80Bの外側縁のうち、入力ポート81から出力ポート83までの長さは、入力ポート82から出力ポート83までの長さよりも短い。
【0052】
上述したように、電磁波としてのマイクロ波は、主に、パターン80A,80Bの外側縁を通るので、入力ポート81から出力ポート83までの経路DAは、入力ポート82から出力ポート83までの経路DBに対してショートカットされる。このように、経路DA,DB間に物理的な長さの差が生じると、上述したように、経路DAを通過した電磁波と経路DBを通過した電磁波との間に位相差が生じることとなる。
【0053】
図14は、パターン80A,80Bにおいて、経路DA,DBをそれぞれ通過した2つの電磁波の間に生じる位相差を示すグラフである。
図14のグラフにおいて、横軸は周波数を示し、縦軸は位相差を示している。
図14から、パターン80Aにおいては位相差が生じていないのに対し、パターン80Bにおいては位相差が生じていることがわかる。また、
図14において、パターン80Bにおいて生じる位相差の絶対値は
周波数が高いほど大きいことから、周波数が高いほど、経路DA,DBの物理的な長さを変化させたことによる位相差への影響が大きいことがわかる。
【0054】
以上を踏まえて再び
図3を参照し、本実施形態における伝送線路54A,54Dの電気長について説明する。上述したように、金属パッド53Bの外側縁のうち、伝送線路54Dを構成する部分の長さは、金属パッド53Aの外側縁のうち、伝送線路54Aを構成する部分の長さよりも短い。したがって、伝送線路54Dの電気長は、伝送線路54Aの電気長よりも短い。
【0055】
本実施形態において、伝送線路54A,54D間の電気長差の絶対値は、例えば、上述したボンディングワイヤW41,W44間の電気長差の絶対値と実質的に等しい。なお、本明細書において「実質的に等しい」とは、2つの値における差が無視できる程度に小さいことを意味する。これにより、ボンディングワイヤW41の実効的な電気長と伝送線路54Aの電気長とを合わせた電気長が、ボンディングワイヤW44の実効的な電気長と伝送線路54Dの電気長とを合わせた電気長と実質的に等しくなっている。換言すると、ドレインパッド15Aから配線パターン33までの実効的な電気長は、ドレインパッド15Dから配線パターン33までの実効的な電気長と実質的に等しい。本実施形態では、ボンディングワイヤW41,W44間に生じる実効的な電気長差と伝送線路54A,54D間に生じる電気長差とが互いに相殺されている。これにより、ドレインパッド15Aから配線パターン33に至る経路を通過した電磁波と、ドレインパッド15Dから配線パターン33に至る経路を通過した電磁波との間に位相差が生じない。
【0056】
以上説明した高周波増幅器1Aの作用効果について説明する。この高周波増幅器1Aでは、複数のトランジスタ13のそれぞれがボンディングワイヤW4によって整合回路パターン52に接続されている。この構成では、複数のボンディングワイヤW4間において、別のボンディングワイヤW4からの影響を受ける度合いに応じて、実効的なインピーダンスにばらつきが生じ得る。このような複数のボンディングワイヤW4間における実効的なインピーダンスのばらつきは、当該複数のボンディングワイヤW4間における実効的な電気長のばらつきとして現れる。具体的には、ボンディングワイヤW44の実効的な電気長がボンディングワイヤW41の実効的な電気長よりも長くなっている。ここで、この高周波増幅器1Aにおいては、整合回路パターン52が非対称な外形を有していることにより、伝送線路54Dの電気長が伝送線路54Aの電気長よりも短くなっている。これにより、ボンディングワイヤW44の実効的な電気長がボンディングワイヤW41の実効的な電気長よりも長い構成において、ボンディングワイヤW41,W44間の電気長差が、伝送線路54A,54D間の電気長差によって打ち消され得る。したがって、トランジスタ13A(より具体的には、ドレインパッド15A)から配線パターン33までの実効的な電気長とトランジスタ13D(より具体的には、ドレインパッド15D)から配線パターン33までの実効的な電気長との間のばらつきが低減される。複数のボンディングワイヤW4間における電気長のばらつきが小さいほど、複数のボンディングワイヤW4間における実効的なインピーダンスのばらつきが小さくなるので、この構成により、トランジスタ13A,13D間において、位相のばらつきを低減できる。なお、トランジスタ13E,13H間においても同様である。
【0057】
上記の高周波増幅器1Aにおいて、整合回路パターン52は、角部C1を含む金属パッド53A、及び角部C2を含む金属パッド53Bを有する。伝送線路54Aは、金属パッド53Aにおける角部C1を含む部分によって構成されている。伝送線路54Dは、金属パッド53Bにおける角部C2を含む部分によって構成されている。角部C2は、角部C1の面取り量L1よりも大きい面取り量L2によって面取りされている。本発明者らの知見によれば、上述したように、高周波における電流(電界)は、導体の外側縁に集中しやすい。このため、伝送線路54Aにおいては、高周波信号が金属パッド53Aにおける角部C1に沿って伝搬し、伝送線路54Dにおいては、高周波信号が金属パッド53Bにおける角部C2に沿って伝搬することとなる。ここでは、角部C2が角部C1の面取り量L1よりも大きい面取り量L2によって面取りされているので、角部C1を含む経路に対して角部C2を含む経路が短くなり、伝送線路54Dの電気長が伝送線路54Aの電気長よりも短い構成を実現し得る。また、この構成によれば、面取り量L1,L2の調整により、トランジスタ13Aから配線パターン33までの実効的な電気長とトランジスタ13Dから配線パターン33までの実効的な電気長とを整合させやすい。したがって、トランジスタ13A,13D間において、位相のばらつきをより確実に低減可能となる。なお、トランジスタ13E,13H間においても同様である。
【0058】
上記の高周波増幅器1Aにおいては、トランジスタ13A、トランジスタ13D、及びトランジスタ13E,13F,13G,13Hを含んで構成されるトランジスタ群が複数設けられている。この構成により、高出力の高周波増幅器1Aを実現できる。
【0059】
上記の高周波増幅器1Aでは、トランジスタ群の最外部にボンディングワイヤW41が配置されるとともに、ボンディングワイヤW41とボンディングワイヤW45,W46,W47,W48との間にボンディングワイヤW44が配置されている。ボンディングワイヤW41の長さは、ボンディングワイヤW44の長さと等しく、ドレインパッド15Aから配線パターン33までの実効的な電気長は、ドレインパッド15Dから配線パターンまで33の実効的な電気長と実質的に等しい。したがって、トランジスタ13A,13D間において、位相が実質的に一致する。なお、トランジスタ13E,13H間においても同様である。以上により、高周波増幅器1Aの電力効率を向上させる観点から特に有利となる。
【0060】
次に、第2実施形態に係る高周波増幅器1Bについて説明する。上述したように、
図1は、第1実施形態に係る高周波増幅器1A及び第2実施形態に係る高周波増幅器1Bの内部構成を示す平面図である。高周波増幅器1Bは、マッチング回路50に代えてマッチング回路60を備える点において高周波増幅器1Aと相違し、その他の点において高周波増幅器1Aと同様に構成されている。本実施形態において、高周波増幅器1Bは、一例としてマッチング回路60を2つ備える。以下、高周波増幅器1Aと相違している点について説明する。
【0061】
図15は、マッチング回路60を示す平面図である。マッチング回路60は、2つの整合回路パターン52に代えて2つの整合回路パターン62を備える点においてマッチング回路50と相違し、その他の点においてマッチング回路50と同様に構成されている。各整合回路パターン62は、複数の金属パッド63を有する。各金属パッド63は、金属パッド53と同様に、ボンディングワイヤW4を介して、増幅素子部10の対応するドレインパッド15と電気的に接続されるとともに、ボンディングワイヤW5を介して、合成回路基板30の対応する金属パッド33aと電気的に接続されている。
【0062】
また、整合回路パターン62は、複数の伝送線路64を有する。2つの整合回路パターン62において、複数の伝送線路64の数は、トランジスタ13(
図2参照)と同数とされる。1つの整合回路パターン62は、4つの伝送線路64を有する。4つの伝送線路64は、伝送線路64A,64B,64C,64Dを含む。
【0063】
2つの整合回路パターン62は、互いにX軸方向について反転した構成を有している。一方の整合回路パターン62では、伝送線路64A,64B,64C,64Dが、トランジスタ13A,13B,13C,13D(
図2参照)に対応してX軸方向にこの順で並んでいる。当該一方の整合回路パターン62における伝送線路64Aは、本実施形態における第1伝送線路の一例である。当該一方の整合回路パターン62における伝送線路64Dは、本実施形態における第2伝送線路の一例である。なお、当該一方の整合回路パターン62における伝送線路64B,64Cが、本実施形態における第2伝送線路の一例であってもよい。また、他方の整合回路パターン62では、伝送線路64D,64C,64B,64Aが、トランジスタ13E,13F,13G,13Hに対応してX軸方向にこの順で並んでいる。当該他方の整合回路パターン62における伝送線路64D,64C,64B,64Aは、本実施形態における第3伝送線路の一例である。8つの伝送線路64においては、2つの伝送線路64Aが、X軸方向における最外部にそれぞれ配置されている。また、各伝送線路64B,64C,64Dは、2つの伝送線路64Aの間に配置されている。
【0064】
伝送線路64A,64Bは、上述した金属パッド63としての金属パッド63Aによって構成されている。伝送線路64C,64Dは、金属パッド63としての金属パッド63Bによって構成されている。金属パッド63Aは、本実施形態における第1パッドの一例である。金属パッド63Bは、本実施形態における第2パッドの一例である。金属パッド63Aと金属パッド63Bとは、膜抵抗65aを介して互いに接続されている。金属パッド63Aの幅(ここでは、X軸方向における最大寸法)は、金属パッド63Bの幅(ここでは、X軸方向における最大寸法)よりも小さい。金属パッド63Aの長さ(ここでは、Y軸方向における最大寸法)と、金属パッド63Bの長さ(ここでは、Y軸方向における最大寸法)とは互いに等しい。
【0065】
図16は、
図15における1つの整合回路パターン62を拡大して示す平面図である。金属パッド63AのY軸方向における一方の端部は、伝送線路64Aにおける入力端63aと、伝送線路64Bにおける入力端63bとに分岐されている。伝送線路64Aは、入力端63aにおける接続点P5(第1接続点)にてボンディングワイヤW41又はボンディングワイヤW48と接続されている。伝送線路64Bは、入力端63bにおける接続点P6にてボンディングワイヤW42又はボンディングワイヤW47と接続されている。入力端63aと入力端63bとは、膜抵抗65bを介して互いに接続されている。伝送線路64A及び伝送線路64Bは、金属パッド63AのY軸方向における他方の端部において接続点Q3にて結合され、ボンディングワイヤW5と接続されている。
【0066】
また、金属パッド63BのY軸方向における一方の端部は、伝送線路64Cにおける入力端63cと、伝送線路64Dにおける入力端63dとに分岐されている。伝送線路64Cは、入力端63cにおける接続点P7にてボンディングワイヤW43又はボンディングワイヤW46と接続されている。伝送線路64Dは、入力端63dにおける接続点P8(第2接続点)にてボンディングワイヤW44又はボンディングワイヤW45と接続されている。入力端63cと入力端63dとは、膜抵抗65cを介して互いに接続されている。伝送線路64C及び伝送線路64Dは、金属パッド63BのY軸方向における他方の端部において接続点Q4にて結合され、ボンディングワイヤW5と接続されている。
【0067】
接続点P5と接続点P8とを結ぶ仮想直線(第1仮想直線)と直交し、接続点P5と接続点P8との中点を通る仮想直線N2(第2仮想直線)に関して、金属パッド63Aの外形と金属パッド63Bの外形とは、互いに非対称である。換言すると、整合回路パターン62は、仮想直線N2に関して非対称な外形を有している。このような外形により、整合回路パターン62の外側縁のうち、仮想直線N2の一方側(ここでは、接続点P5を含む側)の部分の長さは、仮想直線N2の他方側(ここでは、接続点P8を含む側)の部分の長さよりも長い。具体的には、仮想直線N2の一方側の部分の長さとは、金属パッド63Aを含む整合回路パターン62の外側縁のうち、接続点P5からX軸方向に射影した位置を始点、接続点Q3からY軸方向に射影した位置を終点とする部分の長さである。また、仮想直線N2の他方側の部分の長さとは、金属パッド63Bを含む整合回路パターン62の外側縁のうち、接続点P8からX軸方向に射影した位置を始点、接続点Q4からY軸方向に射影した位置を終点とする部分の長さである。
【0068】
金属パッド63Aは、金属パッド53Aと同様に、平面視において略長方形状を呈しており、1つの角部C1(第1角部)を含む4つの角部を有する。金属パッド63Aは、一方の長辺63rにおいて金属パッド63Bと接続されている。角部C1は、金属パッド
63Aにおける他方の長辺63sと、合成回路基板30(
図1参照)と向かい合う短辺63tとの交差部に位置している。伝送線路64Aは、金属パッド63Aにおける角部C1を含む部分によって構成されている。伝送線路64Bは、金属パッド63Aにおける角部C1を含まない部分によって構成されている。
【0069】
金属パッド63Bは、金属パッド53Bと同様に、平面視において略長方形状を呈しており、1つの角部C2(第2角部)を含む4つの角部を有する。金属パッド63Bは、一方の長辺63uにおいて金属パッド63Aと接続されている。角部C2は、金属パッド63Bにおける他方の長辺63vと、合成回路基板30(
図1参照)と向かい合う短辺63wとの交差部に位置している。伝送線路64Cは、金属パッド63Bにおける角部C2を含まない部分によって構成されている。伝送線路64Dは、金属パッド63Bにおける角部C2を含む部分によって構成されている。
【0070】
本実施形態においても、金属パッド63Bの外側縁のうち、伝送線路64Dを構成する部分の長さは、金属パッド63Aの外側縁のうち、伝送線路64Aを構成する部分の長さよりも短い。一例として、金属パッド63Aにおいて、長辺63sの長さL3は約485μmであり、短辺63tの長さL4は約325μmであり、角部C1における面取り部の長さL5は約78μmである。金属パッド63Aの外側縁のうち、伝送線路64Aを構成する部分の長さ(すなわち、長さL3,L4,L5の合計値)は、ここでは約888μmである。また、金属パッド63Bにおいて、長辺63vの長さL6は約360μmであり、短辺63wの長さL7は約255μmであり、角部C2における面取り部の長さL8は255μmである。金属パッド63Bの外側縁のうち、伝送線路64Dを構成する部分の長さ(すなわち、長さL6,L7,L8の合計値)は、ここでは約870μmである。
【0071】
さらに、金属パッド63Aは、接続点P5と接続点P6とを結ぶ仮想直線(第1仮想直線)と直交し、接続点P5と接続点P6との中点を通る仮想直線N3(第2仮想直線)に関して非対称な外形を有している。また、金属パッド63Bは、接続点P7と接続点P8とを結ぶ仮想直線(第1仮想直線)と直交し、接続点P7と接続点P8との中点を通る仮想直線N4(第2仮想直線)に関して非対称な外形を有している。具体的には、入力端63aの幅L11(ここでは、X軸方向における寸法)と入力端63bの幅L12(ここでは、X軸方向における寸法)とが互いに異なり、入力端63cの幅L13(ここでは、X軸方向における寸法)と入力端63dの幅L14(ここでは、X軸方向における寸法)とが互いに異なっている。幅L11は幅L12よりも小さい。すなわち、伝送線路64Aは伝送線路64Bよりも細い。また、幅L13は幅L14よりも小さい。すなわち、伝送線路64Cは伝送線路64Dよりも細い。
【0072】
本実施形態においては、伝送線路64A,64Bは伝送線路64C,64Dよりも細い。幅L11、L12,L13,L14は相互に異なり、この順で大きくなっている。換言すると、X軸方向に並ぶ複数の入力端において、誘電体基板51のX軸方向における中心に近い入力端ほど、大きい幅(ここでは、X軸方向における寸法)を有する。例えば、幅L11は幅L14の約0.6倍であり、幅L12は幅L14の約0.85倍であり、幅L13は幅L14の約0.9倍である。一例として、幅L11が約120μmであり、幅L12が約170μmであり、幅L13が約180μmであり、幅L14が約200μmである。この例においては、上述した誘電体基板51の厚み(具体的には、200μm)及び比誘電率(具体的には、εr=150)を考慮すると、周波数が11.7GHzである場合、伝送線路64Aにおける実効波長は123.4degとなり、伝送線路64Dにおける実効波長は120.9degとなる。
【0073】
伝送線路64A,64Dの電気長について説明する。上述したように、金属パッド63Bの外側縁のうち、伝送線路64Dを構成する部分の長さは、金属パッド63Aの外側縁のうち、伝送線路64Aを構成する部分の長さよりも短い。さらに、本実施形態においては、伝送線路64Aは伝送線路64Dよりも細いので、伝送線路64Aのインピーダンスは、伝送線路64Dのインピーダンスよりも大きい。したがって、伝送線路64Dの電気長は、伝送線路64Aの電気長よりも短い。
【0074】
本実施形態において、伝送線路64A,64D間の電気長差の絶対値は、例えば、上述したボンディングワイヤW41,W44の間の実効的な電気長差の絶対値と等しい。これにより、ボンディングワイヤW41の実効的な電気長と伝送線路64Aの電気長とを合わせた電気長が、ボンディングワイヤW44の実効的な電気長と伝送線路64Dの電気長とを合わせた電気長と実質的に等しくなっている。換言すると、ドレインパッド15Aから配線パターン33までの実効的な電気長は、ドレインパッド15Dから配線パターン33までの実効的な電気長と実質的に等しい。本実施形態では、ボンディングワイヤW41,W44の間に生じる実効的な電気長差と伝送線路64A,64D間に生じる電気長差とが互いに相殺されている。これにより、ドレインパッド15Aから配線パターン33に至る経路を通過した電磁波と、ドレインパッド15Dから配線パターン33に至る経路を通過した電磁波との間に位相差が生じていない。
【0075】
以上説明した高周波増幅器1Bの作用効果について説明する。まず、比較例について説明する。比較例に係る高周波増幅器は、マッチング回路60に代えて比較例に係るマッチング回路60Xを備える点において高周波増幅器1Bと相違する。
図19は、比較例に係る高周波増幅器のマッチング回路60Xを示す平面図である。マッチング回路60Xは、2つの整合回路パターン62に代えて2つの整合回路パターン62Xを備える点においてマッチング回路60と相違し、その他の点においてマッチング回路60と同様に構成されている。
【0076】
各整合回路パターン62Xは、金属パッド63A,63Bに代えて2つの金属パッド63Xを有する。金属パッド63Xは、面取りされた角部C1,C2を有しない点において金属パッド63A,63Bと相違している。金属パッド63Xにおいて4つの角部はすべて直角に構成されている。また、整合回路パターン62Xにおける2つの金属パッド63Xは、入力端63a,63b,63c,63dに代えて、4つの入力端63yを有する点において金属パッド63A,63Bと相違している。4つの入力端63yの幅(ここでは、X軸方向における寸法)は互いに等しい。金属パッド63Xは、その他の点において、金属パッド63A,63Bと同様に構成されている。つまり、比較例に係る整合回路パターン62Xの外形は、仮想直線N2に対して線対称である。
【0077】
図20は、比較例に係る高周波増幅器のトランジスタ13A,13B,13C,13Dにおける各負荷インピーダンスを示すスミスチャートである。
図20には、トランジスタ13A,13B,13C,13Dにおける各負荷インピーダンスが、周波数10.700GHzから12.700GHzの間において示されている。
図20から、トランジスタ13A,13B,13C,13D間において生じる位相のばらつきの範囲(ここでは、トランジスタ13A,13D間において生じる位相差ΔZ1)が大きくなるであることがわかる。
図20の例では、位相差ΔZ1は約9degである。
【0078】
なお、トランジスタ13H,13G,13F,13Eにおける各負荷インピーダンスは、トランジスタ13A,13B,13C,13Dにおける各負荷インピーダンスとそれぞれ同程度であると考えられる。以上により、比較例に係る高周波増幅器では、トランジスタ13Aからトランジスタ13H間において、位相に大きなばらつき(
図20の例では、約9degの範囲のばらつき)が生じることがわかる。
【0079】
図21は、比較例における負荷インピーダンスの位相のばらつきと電力効率との関係を示す図である。
図21のコンター図では、色の濃い部分ほど、電力効率が大きいことが示されている。また、
図21のスミスチャートには、周波数11.700GHzにおいて、最大の電力効率(ここでは、ηd=52.9%)が得られる負荷インピーダンスの位相のピーク点Z10が示されている。ピーク点Z10は、ここでは99degである。
図21から、ピーク点Z10に対して位相が約9degずれた点Z11(ここでは、108deg)においては、ピーク点Z10よりも低い電力効率(ここでは、ηd=50.0%程度)であることがわかる。したがって、マッチング回路60Xが用いられた場合には、ピーク点Z10よりも電力効率が約3%低下することがわかる。
【0080】
これに対し、本実施形態に係る高周波増幅器1Bによれば、上述した高周波増幅器1Aと同様の構成により、高周波増幅器1Aと同様の効果が得られる。さらに、高周波増幅器1Bにおいて、伝送線路64Aは、伝送線路64Dよりも細い。これにより、伝送線路64Aの単位長さあたりのインピーダンスを、伝送線路64Dの単位長さあたりのインピーダンスに対して大きくできるので、伝送線路64Dの電気長が伝送線路64Aの電気長よりも短い構成を実現し得る。また、伝送線路64Aを細くする程度により、トランジスタ13Aから配線パターン33までの実効的な電気長とトランジスタ13Dから配線パターン33までの実効的な電気長とを整合させやすい。したがって、トランジスタ13A及びトランジスタ13D間において、位相のばらつきをより確実に低減可能となる。同様の理由により、トランジスタ13Aからトランジスタ13H間において、位相のばらつきをより確実に低減可能となる。
【0081】
図17は、第2実施形態に係る高周波増幅器1Bのトランジスタ13A,13B,13C,13Dにおける各負荷インピーダンスを示すスミスチャートである。
図17には、トランジスタ13A,13B,13C,13Dにおける各負荷インピーダンスが、周波数10.700GHzから12.700GHzの間において示されている。
図17から、トランジスタ13A,13B,13C,13D間において生じる位相のばらつきの範囲(ここでは、トランジスタ13A,13D間において生じる位相差ΔZ2)が小さいことがわかる。
図17の例では、位相差ΔZ2は約4degである。
【0082】
なお、トランジスタ13H,13G,13F,13Eにおける各負荷インピーダンスは、トランジスタ13A,13B,13C,13Dにおける各負荷インピーダンスとそれぞれ同程度であると考えられる。以上により、高周波増幅器1Bによれば、トランジスタ13Aからトランジスタ13H間において、位相に小さいばらつき(
図17の例では、約4degの範囲のばらつき)しか生じていないことがわかる。このため、高周波増幅器1Bは、比較例に係る高周波増幅器よりも、トランジスタ13Aからトランジスタ13H間において生じる位相のばらつきを低減可能であることがわかる。
図17の例では、当該ばらつきの範囲を
図20の例よりも約5deg小さくすることが可能であることがわかる。
【0083】
図18は、第2実施形態における負荷インピーダンスの位相のばらつきと電力効率との関係を示す図である。
図18のコンター図では、色の濃い部分ほど、電力効率が大きいことが示されている。また、
図18には、
図21と同様に、ピーク点Z10が示されている。
図18から、ピーク点Z10に対して位相が約4degずれた点Z12(ここでは、103deg)においては、ピーク点Z10とほぼ同等の電力効率(ここでは、ηd=52.1%程度)であることがわかる。したがって、マッチング回路60を用いることにより、ピーク点Z10に対する電力効率の低下を1%未満に抑制可能となることがわかる。
【0084】
以上の実施形態は、本開示に係る高周波増幅器の一実施形態について説明したものである。本開示に係る高周波増幅器は、上述した各実施形態を任意に変更したものとすることができる。
【0085】
例えば、上記実施形態に係る高周波増幅器1Aは、マッチング回路40,50を2つずつ備え、増幅素子部10は、2つの増幅素子11を含んでいたが、この構成に限定されない。高周波増幅器1Aは、マッチング回路40,50を1つずつ備えていてもよく、マッチング回路40,50を3つ以上ずつ備えていてもよい。増幅素子部10は単一の増幅素子11を含んでもよく、3つ以上の増幅素子11を含んでもよい。高周波増幅器1Bについても同様である。また、高周波増幅器1A,1Bは、マッチング回路40に代えてマッチング回路50又はマッチング回路60をそれぞれ備えていてもよい。
【0086】
また、トランジスタ13の数、及びボンディングワイヤW4の数は任意であり、8つ未満であってもよく、9つ以上であってもよい。トランジスタ13の数、及びボンディングワイヤW4の数に対応して、整合回路パターン52,62の数、及び伝送線路54,64の個数も任意に変更されてよい。
【0087】
また、上記実施形態では、整合回路パターン52が2つの金属パッド53を備えていたが、この構成に限定されない。整合回路パターン52は、金属パッド53を1つのみ備えていてもよく、金属パッド53を3つ以上備えていてもよい。また、整合回路パターン52は、金属パッド53,63の両方を備えていてもよい。整合回路パターン62についても同様である。
【符号の説明】
【0088】
1A,1B…高周波増幅器
2…入力端子
3…出力端子
4…パッケージ
4a,4b…端壁
4c,4d…側壁
4e…底板
10…増幅素子部
11…増幅素子
12…半導体基板
13,13B,13C…トランジスタ
13A…トランジスタ(第1トランジスタ)
13D…トランジスタ(第2トランジスタ)
13E,13F,13G,13H…トランジスタ(第3トランジスタ)
14…ゲートパッド
15,15B,15C…ドレインパッド
15A…ドレインパッド(第1ドレインパッド)
15D…ドレインパッド(第2ドレインパッド)
15E,15F,15G,15H…ドレインパッド(第3ドレインパッド)
16…ソースパッド
20…分岐回路基板
21…基板
21a,21b…長辺
21c,21d…短辺
22…分岐回路
23…配線パターン
23a…金属パッド
23b…膜抵抗
30…合成回路基板
31…基板
31a,31b…長辺
31c,31d…短辺
32…合成回路
33…配線パターン
33a…金属パッド
40…マッチング回路
50…マッチング回路
51…誘電体基板
52…整合回路パターン
53…金属パッド
53A…金属パッド(第1パッド)
53B…金属パッド(第2パッド)
53a,53b,53c,53d…入力端
53r,53s,53u,53v…長辺
53t,53w…短辺
54,54B,54C…伝送線路
54A…伝送線路(第1伝送線路)
54D…伝送線路(第2伝送線路)
55a,55b,55c…膜抵抗
60,60X…マッチング回路
62,62X…整合回路パターン
63A…金属パッド(第1パッド)
63B…金属パッド(第2パッド)
63X…金属パッド
63a,63b,63c,63d,63y…入力端
63r,63s,63u,63v…長辺
63t,63w…短辺
64,64B,64C…伝送線路
64A…伝送線路(第1伝送線路)
64D…伝送線路(第2伝送線路)
65a,65b,65c…膜抵抗
80…金属導体
80A,80B…パターン
81,82…入力ポート
83…出力ポート
90…誘電体基板
C1…角部(第1角部)
C2…角部(第2角部)
E…電磁波
D1,D2…経路
I…電流値
L1,L2…面取り量
L11,L12,L13,L14…幅
N1,N2,N3,N4…仮想直線(第2仮想直線)
N81,N82…仮想直線
P1,P5…接続点(第1接続点)
P4,P8…接続点(第2接続点)
P2,P3,P6,P7…接続点
Q1,Q2,Q3,Q4…接続点
W1,W2,W3,W5,W6…ボンディングワイヤ
W4,W42,W43…ボンディングワイヤ(ワイヤ)
W41…ボンディングワイヤ(第1ワイヤ)
W44…ボンディングワイヤ(第2ワイヤ)
W45,W46,W47,W48…ボンディングワイヤ(第3ワイヤ)
Z10…ピーク点
Z11,Z12…点
ΔZ1,ΔZ2…位相差