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特許7582734投原管詰まりの検知方法、投原管詰まりの解消方法、及び、熔融設備
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】投原管詰まりの検知方法、投原管詰まりの解消方法、及び、熔融設備
(51)【国際特許分類】
   F27D 21/00 20060101AFI20241106BHJP
   C22C 33/04 20060101ALI20241106BHJP
   C22B 23/02 20060101ALI20241106BHJP
   C22B 5/02 20060101ALI20241106BHJP
   F27D 3/10 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
F27D21/00 A
C22C33/04 H
C22B23/02
C22B5/02
F27D3/10
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021012867
(22)【出願日】2021-01-29
(65)【公開番号】P2021131222
(43)【公開日】2021-09-09
【審査請求日】2023-07-27
(31)【優先権主張番号】P 2020026168
(32)【優先日】2020-02-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】593213342
【氏名又は名称】株式会社日向製錬所
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】森 晶宣
(72)【発明者】
【氏名】韓 準兌
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 修司
(72)【発明者】
【氏名】小森 慎太郎
【審査官】岩見 勤
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-210389(JP,A)
【文献】特開2016-098401(JP,A)
【文献】特開2017-155997(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F27D 21/00
C22C 33/04
C22B 23/02
C22B 5/02
F27D 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熔融炉の上方に原料を投入する投原管が設置されている金属製錬用の熔融設備における投原管詰まりの検知方法であって、
前記投原管は、下向き傾斜部分を含んで構成されている円筒状の管であって、
前記投原管の下向き傾斜部分の内部には、温度計が設置されていて、
前記温度計で測定される投原管内の温度の変動に基づいて、投原管の詰まりを検知し、
前記温度計は、前記下向き傾斜部分の内部を流動する原料の単位時間当たりの流動量が所定の標準流動量である場合に前記原料からなる流動体に接触し、前記流動量が所定量以下となった場合には、前記流動体と接触しなくなる位置に設置されている
投原管詰まりの検知方法。
【請求項2】
前記温度計で測定される投原管内の温度が所定値よりも低下した場合に、投原管が詰まったものと判断する、
請求項に記載の投原管詰まりの検知方法。
【請求項3】
前記温度計で測定される投原管内の温度の低下が所定時間以上継続した場合に、投原管が詰まったものと判断する、
請求項に記載の投原管詰まりの検知方法。
【請求項4】
前記熔融炉が電気炉であって、前記金属製錬用の熔融設備は、フェロニッケルの製造設備の一部である、
請求項1から3の何れかに記載の投原管詰まりの検知方法。
【請求項5】
請求項1から4の何れかに記載の投原管詰まりの検知方法によって検知された投原管の詰まりを解消する、投原管詰まりの解消方法であって、
前記投原管の外部には、前記温度計が設けられる位置よりも上流側に、前記投原管に機械的衝撃を与える衝撃付加装置が設置されていて、
前記投原管詰まりの検知方法によって前記投原管内の詰まり検知されたときに、前記衝撃付加装置を作動させて前記投原管内の詰まりを解消する、
投原管詰まりの解消方法。
【請求項6】
熔融炉の上方に原料を投入する投原管が設置されている金属製錬用の熔融設備であって、
前記投原管は、下向き傾斜部分を含んで構成されている円筒状の管であって、
前記投原管の下向き傾斜部分の内部には、温度計が設置され
前記温度計は、前記下向き傾斜部分の内部を流動する原料の単位時間当たりの流動量が所定の標準流動量である場合に前記原料からなる流動体に接触し、前記流動量が所定量以下となった場合には、前記流動体と接触しなくなる位置に設置されている
熔融設備。
【請求項7】
前記投原管の外部には、前記温度計が設置されている位置よりも上流側に、前記投原管に機械的衝撃を与える衝撃付加装置が設置されている、
請求項に記載の熔融設備。
【請求項8】
前記熔融炉が電気炉であって、前記金属製錬用の熔融設備は、フェロニッケルの製造設備の一部である、
請求項6または7に記載の熔融設備。
【請求項9】
請求項に記載の熔融設備を用いて原料の熔融を行う、フェロニッケルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属製錬を行う熔融設備において、熔融炉に原料を投入する投原管の詰まりを検知する方法、投原管の詰まりを解消する方法、及び、投原管の詰まりを検知することができる金属製錬用の熔融設備に関する。
【背景技術】
【0002】
フェロニッケル製錬等の多くの金属製錬プロセスにおいて、例えば図1に示すように、電気炉1等の熔融炉の中に投原管3を通じて連続的に高温の原料を供給する処理が行われている。このような原料投入処理の際に、投入される原料の性状によっては、上記の投原管内に原料が詰まって円滑な原料投入が妨げられる状態となる場合がある。
【0003】
例えば、図1に示すような電気炉1に設置されている投原管3において、上記のような原料の詰まりが生じると、図4に示すように、投原管3の直下の炉内に積層形成される山状の積層物61Aが縮小する現象が発生する。こうなると、その下側の層(スラグ層5)からの輻射熱等による炉内温度の不要な上昇が誘発され、電気炉1を含む生産設備の生産性や安全性が低下する場合がある。
【0004】
投原管の詰まりは、例えば、図1に示す投原管3の上部に設けられたバッチャービン2の焼鉱6の残量(貯鉱量)の増減によっても検知することができる。しかし、通常バッチャービンは2~4本の複数の投原管(図1においては図示を省略)を有しているため、上記の検知手段によっては、複数の投原管のうちのどの管が詰まっているのかを知ることはできなかった。
【0005】
複数の投原管のうちのどの管が詰まっているのかを検知するためには、電気炉1の炉蓋上に設けられた点検口から炉内を確認し、上述した山状の積層物の縮小の程度を視認するしかなかった。しかしながら、炉上に設けられた点検口の視野は狭く死角が多い場合も多く、視認による詰まりの発生箇所の特定が困難な場合もあり、又、点検作業者の安全性についても問題がある場合が多かった。この場合は、詰まっている可能性のある全ての投原管に、順次に外力を加えていくことによって詰まりの解消を図るしかなかった。
【0006】
上記の投原管の詰まりに対して、全ての管に順次外力を与えていく手段については、詰まりが生じている管の特定と詰まりの解消に長時間を要する場合があり、炉上及び排ガスの不要な温度上昇によるエネルギーのロスによる経済性の悪化を余儀なくされる場合があり、対応の迅速性の点で必ずしも好ましい手段とは言えなかった。
【0007】
上記のような投原管の詰まりを検知する手段として、特許文献1には、耐火物を施工しない投原管(シュート)の外側表面の温度を測定することで、管内部の詰まりを検知する方法が提案されている。しかしながら、投原管の内部に耐火物を施工しない部分があると、投原管からの放散熱が増加し、エネルギーロスが増加する。又、熱によって投原管の寿命も短くなる。又、詰まりの検知後にこれを解消するためには投原管に外部から衝撃を与える必要があるが、この衝撃によって、投原管の外部に設置した温度計と投原管の接触不良が起こりやすい点も問題となる。
【0008】
又、特許文献2には、投原管と電極との間に変位センサを設置して電極の変位量を算出し、当該変位量が閾値を超える場合に投原管の詰まりを推定する方法が提案されている。しかしながら、この方法では変位センサに付着したダストによるトラブルや、工場建屋内の振動、原料の詰まり以外を原因とする電極の変位による誤作動が生じやすいという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2016-098401号公報
【文献】特開2014-105940号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、金属製錬を行う熔融設備において、熔融炉に原料を投入する投原管の詰まりを、迅速且つ正確に検知することにより、当該設備の生産性及び安全性を良好に維持することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の問題を解決するために鋭意研究を重ね、投原管の内部の適切な特定の位置に温度計を設置することによって、投原管の詰まりを早期に発見し、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。本発明は、具体的には、以下のものを提供する。
【0012】
(1) 熔融炉の上方に原料を投入する投原管が設置されている金属製錬用の熔融設備における投原管詰まりの検知方法であって、前記投原管は、下向き傾斜部分を含んで構成されている円筒状の管であって、前記投原管の下向き傾斜部分の内部には、該下向き傾斜部分の内壁底面から離間した位置に、温度計が設置されていて、前記温度計で測定される投原管内の温度の変動に基づいて、投原管の詰まりを検知する、投原管詰まりの検知方法。
【0013】
(1)の「投原管詰まりの検知方法」によれば、熔融設備の熔融炉に原料を投入する投原管内の適切な位置に温度計を設置することにより、投原管の詰まりを、迅速且つ正確に検知することができる。これにより、熔融炉の炉蓋温度や排ガス温度の不要な上昇を未然に防ぎ、当該熔融炉を含む熔融設備の生産性及び安全性を良好に維持することができる。本発明により、より具体的には、上述の山状の積層物の縮小前の段階で速やかに投原管の詰まりを検知して対応することにより、排ガス及び炉蓋温度の上昇に伴う放散熱の上昇を未然に防ぐことができ、熔融設備のエネルギー原単位を好転させることができる。又、煙道や炉蓋温度の上昇を未然に防ぐことによって設備寿命の延長を図ることもできる。又、作業者が炉内を直接目視することによる確認作業を行う必要がなくなるため、作業者の作業負荷を軽減し安全性を向上させることもできる。
【0014】
(2) 前記温度計は、前記下向き傾斜部分の内部を流動する原料の単位時間当たりの流動量が所定の標準流動量である場合に前記原料からなる流動体に接触し、前記流動量が所定量以下となった場合には、前記流動体と接触しなくなる位置に設置されている、(1)に記載の投原管詰まりの検知方法。
【0015】
(2)の「投原管詰まりの検知方法」においては、(1)の検知方法における温度計の設置位置を、使用対象とする個々の投原管における実際の原料の流動量の変動態様に合せて最適化することとした。これにより、個々の投原管における検知精度を、より高めることができる。
【0016】
(3) 前記温度計で測定される投原管内の温度が所定値よりも低下した場合に、投原管が詰まったものと判断する、(1)又は(2)に記載の投原管詰まりの検知方法。
【0017】
(3)の「投原管詰まりの検知方法」によれば、(1)又は(2)に記載の方法を、設定容易な基準に基づき簡便に且つ十分に高い精度で実施することができる。又、上記所定値を適切に設定することで、炉内の山状の積層物が縮小して下側の層からの輻射熱等による炉内温度の不要な上昇が誘発される前に、高い精度で投原管詰まりを検知することができる。
【0018】
(4) 前記温度計で測定される投原管内の温度の低下が所定時間以上継続した場合に、投原管が詰まったものと判断する、(1)又は(2)に記載の投原管詰まりの検知方法。
【0019】
(4)の「投原管詰まりの検知方法」によれば、(1)又は(2)に記載の方法を、設定容易な基準に基づき簡便に且つ十分に高い精度で実施することができる。又、上記所定時間を適切に設定することで、炉内の山状の積層物が縮小して下側の層からの輻射熱等による炉内温度の不要な上昇が誘発される前に、高い精度で投原管詰まりを検知することができる。
【0020】
(5) 前記熔融炉が電気炉であって、前記金属製錬用の熔融設備は、フェロニッケルの製造設備の一部である、(1)から(4)の何れかに記載の投原管詰まりの検知方法。
【0021】
(5)の「投原管詰まりの検知方法」によれば、投原管詰まりに対する対策が必須となる場合が多いフェロニッケルの製造設備において、(1)から(3)の何れかに記載の投原管詰まりの検知方法の奏する上記効果を享受して、フェロニッケルの製造設備の生産性及び安全性を良好に維持することができる。
【0022】
(6) (1)から(5)の何れかに記載の投原管詰まりの検知方法によって検知された投原管の詰まりを解消する、投原管詰まりの解消方法であって、前記投原管の外部には、前記温度計が設けられる位置よりも上流側に、前記投原管に機械的衝撃を与える衝撃付加装置が設置されていて、前記投原管詰まりの検知方法によって前記投原管内の詰まり検知されたときに、前記衝撃付加装置を作動させて前記投原管内の詰まりを解消する、投原管詰まりの解消方法。
【0023】
(6)の「投原管詰まりの解消方法」によれば、(1)から(5)の何れかに記載の投原管詰まりの検知方法の奏する上記各効果を享受しながら、投原管の詰まりを、自動的に回避、若しくは、速やかに解消することができる。又、手作業による打撃は不要となるため、投原管の保守管理作業の水準を維持又は向上させつつ、作業員の作業負担や作業に伴う危険性を大幅に減らすことができる。
【0024】
(7) 熔融炉の上方に原料を投入する投原管が設置されている金属製錬用の熔融設備であって、前記投原管は、下向き傾斜部分を含んで構成されている円筒状の管であって、前記投原管の下向き傾斜部分の内部には、該下向き傾斜部分の内壁底面から離間した位置に、温度計が設置されている、熔融設備。
【0025】
(7)の「熔融設備」によれば、熔融設備の熔融炉に原料を投入する投原管内の適切な位置に温度計を設置することにより、投原管の詰まりを、迅速且つ正確に検知することができる。これにより、熔融炉の炉蓋温度や排ガス温度の不要な上昇を未然に防ぎ、当該熔融炉を含む熔融設備の生産性及び安全性を良好に維持することができる。
【0026】
(8) 前記温度計は、前記下向き傾斜部分の内部を流動する原料の単位時間当たりの流動量が所定の標準流動量である場合に前記原料からなる流動体に接触し、前記流動量が所定量以下となった場合には、前記流動体と接触しなくなる位置に設置されている、(7)に記載の熔融設備。
【0027】
(8)の「熔融設備」においては、(7)の熔融設備における温度計の設置位置を、個々の投原管における実際の原料の流動量の変動態様に合せて最適化したものとした。これにより、個々の投原管における検知精度を、より高めることができる。
【0028】
(9) 前記投原管の外部には、前記温度計が設置されている位置よりも上流側に、前記投原管に機械的衝撃を与える衝撃付加装置が設置されている、(7)又は(8)に記載の熔融設備。
【0029】
(9)の「熔融設備」においては、(7)又は(8)に記載の熔融設備の奏する上記各効果を享受しながら、投原管の詰まりを、回避、若しくは、速やかに解消することができる。又、手作業による打撃は不要となるため、投原管の保守管理作業の水準を維持又は向上させつつ、作業員の作業負担や作業に伴う危険性を大幅に減らすことができる。
【0030】
(10) 前記熔融炉が電気炉であって、前記金属製錬用の熔融設備は、フェロニッケルの製造設備の一部である、(7)から(9)の何れかに記載の熔融設備。
【0031】
(10)の「熔融設備」によれば、投原管詰まりに対する対策が必須となりやすいフェロニッケルの製造設備において、(7)から(9)の何れかに記載の熔融設備の奏する上記効果を享受して、フェロニッケルの製造設備の生産性及び安全性を良好に維持することができる。
【0032】
(11) (10)に記載の熔融設備を用いて原料の熔融を行う、フェロニッケルの製造方法。
【0033】
(11)の「フェロニッケルの製造方法」によれば、(10)に記載の熔融設備の奏する上記効果を享受して、良好な生産性及び安全性の下でフェロニッケルを製造することができる。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、金属製錬を行う熔融設備において、熔融炉に原料を投入する投原管の詰まりを、迅速且つ正確に検知することにより、当該設備の生産性及び安全性を良好に維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】本発明の「投原管詰まりの検知方法」を適用することができる熔融設備の構成の一例を示す模式図である。
図2】上記の熔融設備に設置されている投原管の断面図である。
図3図2の投原管において耐火物に損傷が発生した状態を示す模式図である。
図4図1の熔融設備において投原管の詰まりが発生した場合における炉内の山状の積層物の状態を示す模式図である。
図5】本発明の「熔融設備」における投原管内への温度計の設置態様の一例を示す模式図である。
図6図5の「熔融設備」において投原管の詰まりが発生した場合における投原管内の原料の流れの状態を示す模式図である。
図7】電気炉上部に位置するバッチャービン下部から投原管が枝分かれした状態の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明に係る投原管詰まりの検知方法及び熔融設備の具体的な実施形態について説明する。尚、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で下記以外の実施形態での実施が可能である。
【0037】
<熔融設備及び投原管詰まりの検知方法>
本発明の「投原管詰まりの検知方法」は、例えば、図1に示す熔融設備10のように、熔融炉(電気炉1)の上方に原料(焼鉱6)を投入する投原管3が設置されている金属製錬用の熔融設備10において、投原管内の原料(焼鉱)の詰まりの発生を検知する方法である。本発明の「投原管詰まりの検知方法」を適用可能な金属製錬用の熔融設備の代表的な具体例としては、フェロニッケルの製造設備を挙げることができる。勿論、本発明の実施は、フェロニッケルの製造設備への適用に限定されるものではなく、様々な熔融設備において実施することができる。
【0038】
又、本発明の「投原管詰まりの検知方法」を好適に適用することができる熔融炉の具体例として、特許文献2に開示されている「三相交流電極式円形電気炉」を挙げることができる。本発明の実施形態としての熔融設備及び熔融炉は、必ずしも上記のフェロニッケルの製造設備及び電気炉に限定されるものではなく、本発明は、上述の通り、熔融炉の上方に原料を投入する投原管が設置されている熔融設備全般に広く適用することが可能な技術である。但し、以下においては、本発明について、実施対象となる熔融設備がフェロニッケルの製造設備及びそれを構成する電気炉である場合の実施形態について、その詳細を説明する。
【0039】
[熔融設備]
本発明の熔融設備10は、図2に示すように、電気炉1への原料(焼鉱6)の投入管である投原管3の下向き傾斜部分31の内部に、温度計34が設置されていることを特徴とする。
【0040】
温度計34の設置位置は、下向き傾斜部分31の内壁底面との間に所定間隔で離間した位置であればよい。電気炉1等の熔融炉の上方に原料を投入する投原管が設置されている金属製錬用の熔融設備であって、下向き傾斜部分31を含んで構成されている円筒状の管である投原管の内部の上記位置に温度計34が設置されている熔融設備は本発明の技術的範囲に属するものである。そして、そのような熔融設備において、本発明の「投原管詰まりの検知方法」を実施することができる。
【0041】
フェロニッケルの製造設備である熔融設備10は、電極11、12が設置されている電気炉1に焼鉱6を投入する投原管3を有する。投原管3は、金属製等の外殻部である金属シェル32の内壁の略全面にキャスタブル等の耐火物33が設置されてなる円筒状の管である。又、この投原管3は、図1に示すように、バッチャービン2に保管された焼鉱6を、バッチャービン2の直下から水平方向に離間した適切な位置に落下させる必要があるため、図1及び図2に示すように、下向き傾斜部分31(図2参照)を含んで構成される。本発明の「投原管詰まりの検知方法」は、図5及び図6に示すように、投原管3の下向き傾斜部分31の内部の適切な位置、予め温度計34を設置しておくことにより、様々な熔融設備において実施することができる。
【0042】
又、本発明の「投原管詰まりの検知方法」は、一つの電気炉(熔融炉)1に対して複数の投原管3、好ましくは多数(一例として3本以上)の投原管3が設置されている熔融設備においても原料(焼鉱)の詰まりの発生位置を速やかに検知できるので、そのような多数の投原管3が設置されている熔融設備において、とりわけ好ましい効果を発揮する。
【0043】
又、本発明の「投原管詰まりの検知方法」を実施するための投原管3内への温度計34の設置位置は、図5に示すように、上記の下向き傾斜部分31の内部であって、当該下向き傾斜部分の内壁底面との間に所定間隔で離間した位置とする。図6は、図5の「熔融設備」において投原管3に焼鉱6の詰まりが発生した場合における投原管内の焼鉱6の流れの状態を示す模式図である。例えば、温度計34を、図5及び図6に示す位置、即ち、詰まりの発生の有無によって、温度計34と流動する焼鉱6の接触態様に変動が生じる位置に設置することにより、本発明の「投原管詰まりの検知方法」を実施することができる。
【0044】
上述の「温度計と流動する焼鉱の接触態様に変動が生じる位置」とは、より詳細には、下向き傾斜部分31の内部を流動する原料の単位時間当たりの流動量が所定の標準流動量である場合には、原料からなる流動体に接触し、上記流動量が所定量以下となった場合には、上記流動体と接触しなくなる位置である。
【0045】
又、より具体的には、温度計34は、図5及び図6に示すように、通常の操業時は焼鉱6と接触し、投原管3の内部で焼鉱6の詰まりが発生した場合には、焼鉱6と接触しなくなるか少なくとも接触量が減少するような位置に設置されていればよい。そして、この設置位置は、下向き傾斜部分31の下端の近傍部分とすることがより好ましい。下向き傾斜部分31の下端の近傍部分に温度計34を設置することにより、投原管3の内部の略全域における焼鉱6の詰まりの発生をより確実に検知することができる。
【0046】
上述したように、温度計34の設置位置を、使用対象とする個々の投原管における実際の原料の流動量の変動態様に合せて最適化することにより、温度計34の感知する温度の変動に基づいて、投原管3内における焼鉱6の詰まりの発生の有無をより高い精度で検知することができる。温度計34の種類に関しては特に限定されないが、熱電対を好ましく用いることができる。
【0047】
又、熔融設備10には、投原管3の外部に、投原管3に機械的衝撃を与える衝撃付加装置35が設置されていることが好ましい。衝撃付加装置35は、詰まりが生じて閉塞状態となった投原管3に機械的衝撃を与える装置である。衝撃付加装置35の設置位置は、投原管3の外部の、温度計34が設けられる位置よりも上流側とする。
【0048】
衝撃付加装置35の設置位置は、温度計34の設置位置よりも上流側の位置であればよいが、例えば、図2に示すように、衝撃付加装置35は投原管3の温度計34よりも上流側に配置されるエルボー部に設けることが好ましい。エルボー部とは図2に示されるように投原管3の屈曲部或いはその近接域を指し、流動する焼鉱6の流動方向が変わる箇所である。エルボー部は、投原管において、相対的に詰まりが発生しやすい箇所でもある。このエルボー部に衝撃付加装置35を設けることにより、エルボー部において比較的高頻度に発生する投原管詰まりを人手によらずに解消することができ、その分、作業者がハンマー等で打撃を加える等の危険を伴う手作業を減らすことができる。
【0049】
衝撃付加装置35は、上記のエルボー部に限られず、操業経験上、投原管詰まりが生じる懸念がある箇所に適宜設けることが好ましい。例えば、下向き傾斜部分の傾斜が緩くなる向きに変動する箇所は投原管詰まりが生じる懸念がある箇所であるといえる。投原管詰まりが生じる懸念がある箇所に衝撃付加装置35を適宜設けることにより、作業者が行う手作業をより効率的に減らすことができる。
【0050】
又、衝撃付加装置35は、投原管3内で閉塞状態となった原料(本例では焼鉱6)を払い落とせるものであればよく、例えば、空気圧で駆動するエアーバイブレーターや、エアーノッカーを好適に用いることができる。
【0051】
又、温度計34と、衝撃付加装置35は、制御部(図示せず)と、電気的に接続されており、温度計34から送信される投原管3内の温度情報は制御部で受信され、制御部は詰まりが発生したと判断すると、制御部は衝撃付加装置35に対して、投原管3に対する衝撃の付加を実行させる構成とすることが好ましい。
【0052】
[投原管詰まりの検知方法]
上述の態様で温度計34が設置されている投原管3を有する電気炉1において、投原管3の内部で焼鉱6の詰まりが発生した場合、投原管3内の温度計34が感知する温度は次第に低下することとなる。本発明の「投原管詰まりの検知方法」を行う作業者は、温度計34が感知する温度の低下を確認した場合に、投原管3に振動を与える等の外力を加えることで投原管3の詰まりを解消し、電気炉1の炉蓋温度や排ガス温度の上昇を未然に防ぐことができる。又、電気炉1に投原管3が複数設置されている場合であっても、詰まっている投原管を特定することができる。
【0053】
温度計34の感知する温度の変動による投原管3の詰まりの有無の判断基準は、上記温度が、所定値、即ち、操業条件に応じて予め規定した閾値以下となったことをもって投原管3の詰まりが発生したと判断することができる。或いは、10分~30分程度、所定時間以上継続して上記温度が低下し続けたことをもって投原管3の詰まりが発生したと判断することとしてもよい。
【0054】
上記の温度毎の判断基準は、例えば、後述の実施例に示すように、温度計34が測定する温度変動を、電気炉1の炉蓋上に設けられた点検口から観察される投原管3の直下に積層形成される山状の積層物61Aの縮小状況、或いは、バッチャービン2の焼鉱6の残量(貯鉱量)の増減状況を温度計34が測定する温度変化に対応させるための試験を予め実施しておく等の方法により、具体的に定めることができる。
【0055】
又、上記の何れかの方法等又はその他の温度変動に係る所定の基準に基づく判断により、投原管3の詰まりを検知した際には、例えば警報を鳴らすことで作業者に周知し、作業者が投原管3の外部から投原管3に何らかの外力を加えることで詰まりを解消することができる。外力を与える手段は特に限定されない。作業員が手作業によりハンマー等で打撃を加えてもよいし、打撃を加える簡易な装置を追加的に設置してもよい。
【0056】
尚、投原管3の詰まりは、図3に示したような投原管3の内部の耐火物33の損傷(損傷箇所33A)によっても発生する。投原管3の詰まり箇所がわからず、不必要に投原管を叩くことで投原管内の耐火物の損傷(損傷箇所33A)は進行するが、投原管3に温度計34を設置して、本発明を実施して詰まり箇所を正確に知ることで、投原管3の外部からの不要な衝撃を減らして、結果として投原管3内の耐火物33の損傷箇所33Aにおける損傷の進行を抑えて、投原管3の詰まりの発生を減少させることができる。
【0057】
<投原管詰まりの解消方法>
又、本発明は、上述した通り、投原管3の所定位置に、衝撃付加装置35を設置しておくことによって、独自の態様からなる「投原管詰まりの解消方法」として実施することができる。本願発明の一実施態様である「投原管詰まりの解消方法」においては、上述した本発明の「投原管詰まりの検知方法」によって検知された投原管の詰まりを、自動的に回避、若しくは、速やかに解消することができる。具体的には、上述の制御部が、温度計34が感知する温度の低下を検知して、詰まりが発生したと判断した場合に、衝撃付加装置35を作動させて投原管内の詰まりを解消させる動作を行うことによって、投原管の詰まりを、回避、若しくは、速やかに解消することができる。
【0058】
「投原管詰まりの解消方法」においては、投原管3内に詰まりが発生した場合に、温度計34が設けられる位置よりも投原管3の上流側に設置されている衝撃付加装置35を作動させて詰まりを解消することができる。この場合、詰まりが発生したと判断した時点を起点として、衝撃付加装置35を1回だけ作動させることにより、1回のみの衝撃を投原管に与えるようにしてもよいし、或いは、所定の間隔(例えば、1分間隔)で作動させることにより、複数回の衝撃を投原管3に与えるようにしてもよい。
【0059】
<フェロニッケルの製造への適用>
フェロニッケルの製造に用いる主な原料はニッケル酸化鉱である。このニッケル酸化鉱は、先ず、鉱石に含まれる水分を低減し乾燥された鉱石である乾燥鉱石と称される状態とされる。この乾燥鉱石を、ロータリーキルン等を用いて焼成及び部分還元する。本明細書では、ロータリーキルンから排出される焼成及び部分還元処理を経たこの高温の材料を焼鉱と称する。
【0060】
フェロニッケルの製造において、焼鉱6は電気炉1の上部に備え付けられたバッチャービン2に一時的に保管される。バッチャービン2に保管される焼鉱は、一般的に500℃~800℃程度の温度である。そして、バッチャービン2に保管された焼鉱6は、投原管3を通って電気炉1に供給される。焼鉱6は炉内にて熔融・還元され、メタルとスラグに比重分離する。メタルと比較し、スラグは比重が小さいため、図1に示すようにメタル層4の上方にスラグ層5が形成される。
【0061】
電気炉1に供給された焼鉱6は、スラグ上に投原管3の下部近傍位置を頂部として、積層形成される山状の積層物61Aを形成する。スラグ層5の上に形成された積層物61Aは、順次下部から熔融するため次第に縮小する。しかし、投原管3の下部からは積層物61Aの縮小に伴って絶えず焼鉱6が供給されるため、投原管3から投入された焼鉱6は炉内にて山状の積層物61Aの形状を維持することができる。
【0062】
そして、電気炉1に保有されたメタル及びスラグは、それぞれ高さの異なるホールから断続的に出銑・出滓される。スラグは主に鉄鋼製錬の成分調整に用いられ、メタルは次工程にて硫黄分を取り除いたのちに鋳造し、主にステンレスの原料として用いられる。
【0063】
ここで、焼鉱6の温度は、投原管内における温度で、一般的に500℃~800℃程度である。バッチャービン2及び投原管3の内部はキャスタブル等の耐火物33が設置されており、投原管3自体を保護すると共に、投原管3の外部への熱の放散を抑制している。しかし、図3に示すように、耐火物33の一部が摩耗等により損傷した場合、損傷箇所33Aを起点として投原管内にて焼鉱が詰まることがある。又、投原管3の内壁を被覆している耐火物33が健全な状態であったとしても、焼鉱6の性状によっては投原管3内部で詰まりが発生する場合がある。
【0064】
上記の何れかの原因等により、投原管3が詰まった状態のまま長時間放置すると、山状の積層物61Aは、下部から絶えず熔融し次第に縮小する。そして縮小が一定以上に進行すると、図4に示すように、スラグ層5の表面(湯面)が、山状の積層物61Aの山裾の部分5Aにおいて露出する状態となる。図4に示すように、通常は、焼鉱によって覆われている湯面が露出すると、スラグの輻射熱や、スラグとその上部の気体との間の熱交換によって、電気炉1の炉蓋温度及び排ガス温度が加速度的に上昇する。
【0065】
上記の望ましくない温度上昇に対して、本発明の「投原管詰まりの検知方法」及び、本発明の「熔融設備」をフェロニッケルの製造方法、製造設備に適用することにより、投原管3の詰まりの発生と、その発生位置を、迅速且つ正確に検知して、フェロニッケル製造の生産性及び安全性を良好に維持することができる。
【実施例
【0066】
以下、試験操業による実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0067】
図7に示したような電極11A、12A、13Aを有する電気炉1Aにおいて、電気炉1Aの炉上に設置されたバッチャービン2Aの下部から枝分かれした3本の投原管3A、3B、3Cにおいて、下向き傾斜部分の傾斜が最も緩やかであり、炉の中心部に近い投原管3Aに温度計(熱電対)を設置した。温度計の設置箇所は、下向き傾斜部分の下端近傍部とした。当初、この温度計で計測される温度は500℃~800℃の間を推移していたが、2時間経過後、1時間以上の間、温度の低下が継続されること状態が確認された。この時点において、電気炉1Aの炉内を確認したところ、温度計を設置した投原管3Aの内部に焼鉱が詰まっていることが確認された。
【0068】
この投原管に対して、上述のエルボー部において、外部から衝撃を与えたところ、詰まりが解消されて焼鉱の適切な供給が再開された。又、この時点の後、温度計の値は、速やかに元の500℃~800℃の間を推移するように回復した。
【0069】
その1時間後、再び温度の低下が継続されることが確認され、この時、炉内を確認することにより投原管が詰まっていることが確認されたが、炉蓋及び排ガスの温度上昇は確認されなかったため、外力は加えずに温度測定を継続した。その結果、2時間後に投原管に設置した温度が400℃~500℃を推移するように温度の変動が確認され、その際に、炉蓋及び排ガス煙道の温度上昇もが確認されたため、この時点で投原管に上記同様に外力を加えて詰まりの解消を行った。この作業後、温度計の値は、速やかに元の500℃~800℃の間を推移するように回復した。
【0070】
続いて、以降の操業では、投原管のエルボー部に、衝撃付加装置としてエアーノッカー(セイシン製SK-60LPS)を設置して操業を継続した。この操業においては、温度計の10分平均の移動平均値が継続して1時間低下した場合及び10分間の平均値が500℃を下回った場合に投原管が詰まった可能性があるものと判断することとし、当該判断がなされた場合に、上述した制御機構によって衝撃付加装置を自動的に作動させるようにしたところ、投原管の詰まりに起因する炉蓋温度及び排ガス温度の上昇以前に投原管の詰まりに対処することが可能となることが確認された。
【符号の説明】
【0071】
1、1A 電気炉(熔融炉)
11、12、11A、12A、13A 電極
2、2A バッチャービン
3、3A、3B、3C 投原管
31 下向き傾斜部分
32 金属シェル
33 耐火物
34 温度計
35 衝撃付加装置
4 メタル層
5 スラグ層
6 焼鉱(原料)
61 積層物(焼鉱)
10 熔融設備
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7