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特許7582743キャリア構造、セル接触システム、および製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】キャリア構造、セル接触システム、および製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 17/56 20060101AFI20241106BHJP
   H01B 3/44 20060101ALI20241106BHJP
   H01M 50/572 20210101ALI20241106BHJP
   H01M 50/50 20210101ALI20241106BHJP
【FI】
H01B17/56 D
H01B3/44 A
H01M50/572
H01M50/50
【請求項の数】 17
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020105716
(22)【出願日】2020-06-19
(65)【公開番号】P2021005552
(43)【公開日】2021-01-14
【審査請求日】2023-03-15
(31)【優先権主張番号】10 2019 209 252.7
(32)【優先日】2019-06-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】501090342
【氏名又は名称】ティーイー コネクティビティ ジャーマニー ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツンク
【氏名又は名称原語表記】TE Connectivity Germany GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100100077
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 充
(74)【代理人】
【識別番号】100136010
【弁理士】
【氏名又は名称】堀川 美夕紀
(74)【代理人】
【識別番号】100130030
【弁理士】
【氏名又は名称】大竹 夕香子
(74)【代理人】
【識別番号】100203046
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 聖子
(72)【発明者】
【氏名】ドレッセル,アンドレ マルティン
(72)【発明者】
【氏名】ケーニー,フランク
(72)【発明者】
【氏名】ブルメンシャイン,ルーディ
(72)【発明者】
【氏名】エーハイム,マニュエル
(72)【発明者】
【氏名】ハップ,ヨーナス ローラント
(72)【発明者】
【氏名】ベック,マティアス
【審査官】中嶋 久雄
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/159527(WO,A1)
【文献】特開2019-067581(JP,A)
【文献】特開2005-317459(JP,A)
【文献】特開2011-003294(JP,A)
【文献】特開平02-144845(JP,A)
【文献】特開2019-033000(JP,A)
【文献】特開2018-206605(JP,A)
【文献】特開2019-096410(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/572
H01B 17/56
H01B 3/44
H01M 50/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの第1の導電性部品(104、404)と少なくとも1つの第2の導電性部品(106)とを電気的に絶縁するためのキャリア構造(100、400)であって、
前記キャリア構造(100、400)は、
- 前記第1の導電性部品(104、404)を保持するための第1の保持構造および前記第2の導電性部品(106)を保持するための第2の保持構造を有する電気絶縁ベース本体(102、402)と、
- 前記第1の導電性部品と前記第2の導電性部品との間の分離領域(108)の少なくとも一部において前記電気絶縁ベース本体に埋め込まれている電気絶縁スペーサ(110、210、410)とを備え、
前記電気絶縁スペーサ(110、210、410)は膨張材料および/または無機高温耐熱フィラーを有するとともに、

前記第1の導電性部品(104、404)はバッテリ構成の電圧導電バーであり、かつ/または前記第2の導電性部品(106)は溶接ラグもしくは接地板である、

キャリア構造。
【請求項2】
前記電気絶縁スペーサ(110、210、410)は、架橋シアノアクリレート接着剤を有する、
請求項1に記載のキャリア構造。
【請求項3】
前記電気絶縁スペーサ(110、210、410)は、少なくとも部分的に膨張性のピストン要素(114)と耐熱シリンダ要素(116)とを有し、
前記ピストン要素は、熱の作用によって前記耐熱シリンダ要素内で膨張する、
請求項1または2に記載のキャリア構造。
【請求項4】
前記電気絶縁スペーサ(110、210、410)は、前記無機高温耐熱フィラーとしてガラス、石英、および/またはセラミックを有する、
請求項1から3のいずれか一項に記載のキャリア構造。
【請求項5】
前記電気絶縁スペーサ(110、210、410)は、前記無機高温耐熱フィラーとして中空ガラスビーズを有する、
請求項4に記載のキャリア構造。
【請求項6】
前記電気絶縁スペーサ(110、210、410)は、前記キャリア構造の格子構造の横方向支持要素として埋め込まれている、
請求項1から5のいずれか一項に記載のキャリア構造。
【請求項7】
前記電気絶縁スペーサは、前記分離領域(108、408)の50%未満を占める、
請求項1から6のいずれか一項に記載のキャリア構造。
【請求項8】
前記電気絶縁スペーサ(110、210、410)は、熱の作用によって前記第1の導電性部品と前記第2の導電性部品との間隔を広げるように形成されている、
請求項1から7のいずれか一項に記載のキャリア構造。
【請求項9】
前記第1の導電性部品(104、404)はバッテリ構成の電圧導電バーであり、かつ前記第2の導電性部品(106)は溶接ラグもしくは接地板である、
請求項1から8のいずれか一項に記載のキャリア構造。
【請求項10】
少なくとも1つの第1の導電性部品(104、404)と少なくとも1つの第2の導電性部品(106)とを電気的に絶縁するためのキャリア構造(100、400)であって、
前記キャリア構造(100、400)は、
- 前記第1の導電性部品(104、404)を保持するための第1の保持構造および前記第2の導電性部品(106)を保持するための第2の保持構造を有する電気絶縁ベース本体(102、402)と、
- 前記第1の導電性部品と前記第2の導電性部品との間の分離領域(108)の少なくとも一部において前記電気絶縁ベース本体に埋め込まれている電気絶縁スペーサ(110、210、410)とを備え、
前記電気絶縁スペーサ(110、210、410)は膨張材料および/または無機高温耐熱フィラーを有するとともに、

前記電気絶縁スペーサ(110、210、410)は、少なくとも部分的に膨張性のピストン要素(114)と耐熱シリンダ要素(116)とを有し、
前記ピストン要素は、熱の作用によって前記耐熱シリンダ要素内で膨張するように構成されている、
キャリア構造。
【請求項11】
気自動車またはハイブリッド車の自動車用バッテリモジュールのセル接触システムであって、
前記セル接触システムは、
請求項1から10のいずれか一項に記載のキャリア構造(100、400)と、
前記自動車用バッテリモジュールの2つの隣接するバッテリセルにそれぞれ接触するための、別々に形成された複数の第1のコンタクト要素と、を有し、前記複数の第1のコンタクト要素は、第1の列で互いに隣接して配置され、それぞれキャリア構造の一側に取り付けられており、さらに、
別々に形成された複数の第2のコンタクト要素であって、第2の列で互いに隣接して配置され、前記キャリア構造の前記第1の列と反対側に設けられている複数の第2のコンタクト要素を備え、前記自動車用バッテリモジュールの2つの隣接するバッテリセルにそれぞれ接触するためのコンタクト要素が、前記キャリア構造の両側に位置するようになっている、
セル接触システム。
【請求項12】
請求項1から10のいずれか一項に記載のキャリア構造の製造方法であって、
- 前記キャリア構造(100、400)の前記ベース本体(102、402)を設けるステップと、
- 膨張材料および/または無機高温耐熱フィラーを有する少なくとも1つの電気絶縁スペーサ(110、210、410)を前記キャリア構造の凹部に導入するステップと、を有する方法。
【請求項13】
前記電気絶縁スペーサ(110、210、410)は流動性前駆体として導入され、その後、前記電気絶縁スペーサの前記流動性前駆体は硬化される、
請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記流動性前駆体を硬化させるステップは、UV放射または超音波エネルギーの導入を含む、
請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記流動性前駆体はアクリレート系の一液型接着剤を有する、
請求項13または14に記載の方法。
【請求項16】
前記電気絶縁スペーサ(110、210、410)は、膨張性黒鉛、メラミン、またはこれらの混合物を含む群から選択された膨張物質を含み、かつ/または、前記電気絶縁スペーサは、石英、ガラス粒、ガラスビーズ、および中空ガラスビーズ、またはこれらの混合物を含む群から選択されたフィラーをさらに含む、
請求項14または15に記載の方法。
【請求項17】
自動車用バッテリモジュールのセル接触システムであって、
前記セル接触システムは、
請求項1から10のいずれか一項に記載のキャリア構造(100、400)と、
前記自動車用バッテリモジュールの2つの隣接するバッテリセルにそれぞれ接触するための、別々に形成された複数の第1のコンタクト要素と、を有し、前記複数の第1のコンタクト要素は、第1の列で互いに隣接して配置され、それぞれキャリア構造の一側に取り付けられており、さらに、
別々に形成された複数の第2のコンタクト要素であって、第2の列で互いに隣接して配置され、前記キャリア構造の前記第1の列と反対側に設けられている複数の第2のコンタクト要素を備え、前記自動車用バッテリモジュールの2つの隣接するバッテリセルにそれぞれ接触するためのコンタクト要素が、前記キャリア構造の両側に位置するようになっている、
セル接触システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車のバッテリの接触システムにおいて使用可能なキャリア構造に関する。本発明はさらに、そのようなキャリア構造を有するセル接触システム、および製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気絶縁キャリア構造に保持される導電性バスバーが、通常、バッテリの電気接触のために使用される。これらのキャリア構造は、そのようなバスバーを、さらなる導電性要素、例えば、他のバスバーおよびコンタクト、金属アタッチメント、ならびに接地ラグおよび導電性接地板から絶縁する。異常な温度上昇時(例えば、短絡のあるとき)に、バスバーを他の導電性部品から分離する電気絶縁領域は、十分に安定せず、破損することが多いことがわかっている。これにより、バスバーと他の導電性部品との間隔が不十分になり、さらなる短絡およびバッテリ構成全体の熱暴走さえ生じ得る。壁厚を増加させることは、設置空間が限られるため、また故障があるときに熱負荷が大きくなるため、多くの場合、実行可能な解決策ではない。
さらに、故障があるときの要求によるほとんどのプラスチックから形成された比較的厚い絶縁体は、従来のプラスチックの融点が220℃~最高280℃であるため、溶融することになる。しかしながら、バッテリの適用における安全な電気絶縁のためには、例えば、最高500℃の安定性を保証しなければならない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
したがって、高温でも導電性部品間を安全かつ確実に絶縁し、それにもかかわらず安価で小型に製造可能なキャリア構造が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0004】
この課題は、独立請求項の主題によって解決される。本発明の有利な実施形態は、従属請求項の主題である。
【0005】
この場合、本発明は、導電性部品間の重なり領域の少なくとも一部に、膨張材料または無機高温耐熱フィラーを有する電気絶縁スペーサを設けるという考えに基づく。設置空間に応じて、膨張スペーサと充填絶縁スペーサとの組合せも可能である。
【0006】
電気絶縁スペーサが膨張材料を有する場合、普通ならハウジング材料が軟化するため絶縁体が破損することになる温度上昇時に、膨張材料の体積が変化し、これにより、導電性部品間の間隔を同一に維持する、または間隔を広げる。その結果、故障時に、さらなる短絡が確実に生じないようにすることができる。電気絶縁スペーサに高温耐熱フィラー(ガラス、石英、セラミック材料など)を充填した場合、フィラーは故障時に寸法的に安定したままであり、導電性部品が許容できないほど互いに接近することを防ぐ。
【0007】
特に、少なくとも1つの第1の導電性部品と少なくとも1つの第2の導電性部品とを電気的に絶縁するためのキャリア構造は、導電性部品を保持するための第1の保持構造および第2の導電性部品に接触する第2の保持構造を有する電気絶縁ベース本体と、第1の導電性部品と第2の導電性部品との間の分離領域の少なくとも一部においてベース本体に埋め込まれている電気絶縁スペーサとを備え、スペーサは膨張材料および/または無機高温耐熱フィラーを有する。
【0008】
この場合、膨張スペーサ、無機高温耐熱材料が充填された絶縁スペーサ、またはこれらのスペーサの組合せを、第1の導電性部品と第2の導電性部品との間の分離領域の少なくとも一部においてベース本体に埋め込むことができる。
【0009】
膨張性黒鉛、抗触媒メラミン、またはリン酸メラミンなどの膨張物質が、膨張材料として適切である。
【0010】
したがって、第1の電気絶縁部分と第2の電気絶縁部分との間の重なり領域の壁厚をさらに増加させなくても、強い加熱時に、キャリア材料が降伏することによるさらなる短絡が確実に生じないようにすることができ、有利である。出火時には、膨張材料が膨張するが、燃焼することはない。さらに、膨張材料は故障時に空隙を閉じるため、電気絶縁体を非常に小さくすることができ、さらに酸素の欠乏によって火を消すという利点を有する。
【0011】
本発明の有利な実施形態によれば、膨張スペーサは、膨張材料が充填された架橋シアノアクリレート接着剤を有する。この場合、流体前駆体としてキャリア構造に注入された後に、UV放射、光、熱、および/または超音波によって硬化される市販の安価な接着剤を使用することができる。
【0012】
本発明のさらなる実施形態は、例えば、無機高温耐熱フィラーの添加によって電気絶縁ベース本体の十分に高い耐熱絶縁体を達成するために、架橋シアノアクリレート接着剤を利用する断熱性を有する電気絶縁スペーサ(thermally and electrically insulating spacer)を提供する。
【0013】
過度の熱が発生した場合に、重なり領域における第1の導電性部品と第2の導電性部品との間隔を目的の方法で広げるために、膨張スペーサ(アクリレート接着剤を添加しない)は、少なくとも部分的に膨張性のピストン要素と耐熱シリンダ要素とを有することができ、ピストン要素は、熱の作用によってシリンダ要素内で膨張する。シリンダ要素は、例えばセラミック材料を有することができ、導電性でないことが好ましい。このようにして、膨張スペーサは、2つの導電性部品を互いに離すアクチュエータとして機能する。
【0014】
本発明の有利な発展形態によれば、電気絶縁スペーサはフィラーとしてガラスを有する。これにより、電気絶縁スペーサは完全な状態のままであり、膨張材料をさらに含む限り、膨張状態で寸法的に安定したままとなる。ガラス粒またはガラスビーズが、断熱性を有する電気絶縁体をさらに形成し、酸素が膨張スペーサの可燃成分、例えば接着剤に到達することを防いで、接着剤の燃焼を防ぐまたは少なくとも遅らせる。すべての他の適切な無機電気絶縁および高温耐熱フィラー、例えば石英またはセラミックを同様に使用してもよいことが当業者には明らかである。
【0015】
特に有利な方法では、電気絶縁スペーサはフィラーとして中空ガラスビーズを有し、この中空ガラスビーズには、例えば空気が充填されるため、さらに良好な熱絶縁を提供する。
【0016】
例えば、スペーサをキャリア構造の格子構造の横方向支持要素に埋め込むことができる。特に、スペーサをバッテリコンタクトシステムの2つのバスバー間で横方向に配置することができるため、過熱時に、バスバー間の空隙および漏れ経路が維持および充填され、またはさらにはキャリア構造が機械的に安定する。
【0017】
膨張材料によってスペーサの体積が比較的強く膨張するため、非トリガ状態の膨張スペーサが重なり領域の50%未満を占めていれば、第1の導電性部品と第2の導電性部品とを確実に分離するのに十分であり得る。したがって、スペーサには小さい空間および少量の材料のみが必要である。
【0018】
本発明の有利な発展形態によれば、膨張スペーサは、熱の作用によって第1の導電性部品と第2の導電性部品との間隔を広げるように形成される。これにより、必要に応じて、ハウジング材料の絶縁特性の低下を補償することができ、いずれの場合にも第1の導電性部品と第2の導電性部品との短絡を回避することができる。
【0019】
しかしながら、通常は、電気絶縁スペーサによって短絡を防ぐために必要とされる安全な間隔を守れば十分であり得る。この場合、絶縁スペーサは、強い熱作用の後でも、電気絶縁および熱絶縁機能に関して完全な状態のままである。
【0020】
例示的な適用環境によれば、第1の導電性部品は、バッテリ構成の電圧導電バーである。本発明によるスペーサによって、そのようなバスバーは、例えば、溶接ラグまたは接地板などの接地導電性部品から分離されたままとなる。あるいは、さらなる電圧導電バスバーから分離することもできる。
【0021】
特に、本発明は、特に電気自動車またはハイブリッド車の自動車用バッテリモジュールのセル接触システムに関する。このセル接触システムは、本発明によるキャリア構造と、自動車用バッテリモジュールの2つの隣接するバッテリセルにそれぞれ接触するための、別々に形成された複数の第1のコンタクト要素と、別々に形成された複数の第2のコンタクト要素と、を備える。複数の第1のコンタクト要素は第1の列で互いに隣接して配置され、それぞれキャリア構造の一側に取り付けられており、複数の第2のコンタクト要素は第2の列で互いに隣接して配置され、キャリア構造の第1の列と反対側に設けられており、自動車用バッテリモジュールの2つの隣接するバッテリセルにそれぞれ接触するためのコンタクト要素が、キャリア構造の両側に位置するようになっている。
【0022】
本発明はさらに、本発明によるキャリア構造の製造方法であって、キャリア構造を設けるステップと、膨張材料および/または無機高温耐熱フィラーを有する電気絶縁スペーサをキャリア構造の凹部に導入するステップとを有する方法に関する。
【0023】
電気絶縁スペーサを流動性前駆体として導入した後に、電気絶縁スペーサの流動性前駆体を硬化させることによって、特に簡単な製造を実現することができる。
【0024】
例えば、流動性前駆体を硬化させるステップは、超音波エネルギーの導入を含む。この場合、超音波の使用は、アクセスしにくい場所、特にUV放射または光が届かない場所でも容易に硬化を行うことができるという利点を有する。さらに、流動性前駆体はチキソトロピー挙動を有し、処理プロセス中に流動性を短期間増加させるために超音波エネルギーを使用することもできる。
【0025】
流動性前駆体がアクリレート系の一液型接着剤を有する場合に、特に確立された材料が使用される。
【0026】
本発明の有利な発展形態によれば、電気絶縁スペーサは、膨張材料として、膨張性黒鉛、メラミン、またはこれらの混合物を含む群から選択された膨張物質を含むことができ、かつ/または、膨張スペーサは、石英粒子、ガラス粒、ガラスビーズ、および中空ガラスビーズ、またはこれらの混合物を含む群から選択されたフィラーをさらに含むことができる。
【0027】
本発明をより十分に理解するために、以下の図面に示す実施形態を用いて本発明をより詳細に説明する。この場合、同一の部品は同一の参照符号および同一の部品名で示す。さらに、図示し説明する様々な実施形態のいくつかの特徴または特徴の組合せは、それ自体、独立した解決策、発明的な解決策、または本発明による解決策を構成することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】第1の例示的な実施形態によるキャリア構造の概略断面図である。
図2】第2の例示的な実施形態によるキャリア構造の概略断面図である。
図3図2の詳細図である。
図4】さらなる例示的な実施形態によるキャリア構造の概略詳細図である。
図5】さらなる例示的な実施形態によるキャリア構造の概略斜視図である。
図6図5のキャリア構造の平面図である。
図7】セル接触システムのキャリア板の概略詳細図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下で、図面を参照しながら、特に最初に図1および図2の概略断面図を参照しながら、本発明についてより詳細に説明する。すべての図面において、サイズ比、特に層厚さの比は必ずしも縮尺通りに再現されたものではないことが指摘される。さらに、本発明による原理を、バッテリセル接触システムの文脈だけでなく、キャリア構造によって互いに絶縁される導電性部品を過熱時に互いに確実に分離すべきである他の分野の適用において使用してもよいことが、当業者には明らかである。
【0030】
図1は、セル接触システムの一部である、本発明によるキャリア構造100の概略断面図である。
【0031】
リチウムイオンバッテリ用のセル接触システムは、セルコネクタとセルホルダとを備え、頑強なレーザ溶接層構成としてコネクタがセルホルダに組み込まれている。あるいは、セルコネクタを、超音波溶接または電磁パルス溶接(EMPT溶接)によってリチウムイオンセルに取り付けることもできる。したがって、いわゆる「パウチセル」を使用してもよい。個々のバッテリセルは、セルコネクタを介して互いに直列かつ互いに平行に接続されている。これらのバッテリセルは、電流の伝導を処理し、セル力を吸収し、必要に応じてセンサを含む。システムは、通常、熱および電気をモニタリングする制御インターフェースをさらに備える。
【0032】
図1に概略的に示すように、キャリア構造100は、電気絶縁材料、例えばプラスチックから少なくとも部分的に製造されたベース本体102を備える。第1の導電性部品104は、例えば、電圧導電バスバーまたはバッテリセルコンタクトによって形成される。第2の導電性部品106は、導電性溶接タブ106Aおよび/またはより大きい面積にわたってベース本体102に接触する接地板106Bをさらに備える。
【0033】
図1には第2の導電性部品106の2つの変形例が示されているが、勿論、1つのみの第2の導電性部品または3つ以上の第2の導電性部品があってもよい。
【0034】
第1の導電性部品104と第2の導電性部品106とを互いに電気的に絶縁するために、ベース本体102は、第1の導電性部品104と第2の導電性部品106との間の重なり領域に配置された分離領域108を有する。しかしながら、耐火性に関する実験的調査から、500℃超の温度では、既存の分離領域108は、第1の導電性部品と第2の導電性部品との電気短絡を安全に防ぐように十分に安定したままにならないことがわかっている。分離領域108のプラスチックが、しばしば著しく燃焼または軟化するため、短絡が生じていた。
【0035】
この問題を解決するために、本発明は、第1の導電性部品104と第2の導電性部品106との間の重なり領域に、それぞれ追加の電気絶縁スペーサ110を設ける。本発明によれば、スペーサ110A、110Bは、高温耐熱絶縁材料または膨張材料、あるいは高温耐熱無機材料と膨張材料との組合せを含む。これらの材料は、熱の作用下で、電気的に絶縁したまま、かつ機械的に安定したままであるか、または膨張する。物理的な耐熱および電気絶縁効果を有するガラス状またはセラミック状フィラーが、高温耐熱無機絶縁材料として適切である。例えば、膨張性黒鉛およびメラミン(2,4,6-トリアミノ-1,3,5-トリアジン)およびその誘導体が、膨張フィラーとして適切である。一般に知られているように、膨張材料は、例えば火に晒されると発泡して、有機および/または無機材料から難燃性かつ耐熱の電気絶縁発泡体を形成する物質として理解される。
【0036】
本発明によれば、無機絶縁および/または膨張材料と混合されるアクリレート接着剤が、基材として使用される。Panacol-Elosol GmbHから商品名Vitralit(登録商標)DU 8050で入手できるような市販の一液型無溶媒イソシアネートアクリレート接着剤が、特に費用効率の高い実施形態であるとわかっている。このような接着剤は、UV照射によって、または湿気の影響下でより長期間にわたって硬化する。
【0037】
第1の導電性部品104と第2の導電性部品106とのさらに改良された分離を実現するために、シアノアクリレート接着剤を球形ガラス粒子、特にガス充填または真空充填中空ガラスビーズと混合することができる。例えば、質量が60~90体積パーセントのガラスビーズを含み得る。
【0038】
出火時に、ガラスビーズは熱絶縁体を形成し、ガラスビーズ内に封入されている接着剤に酸素が到達することを防ぐ。このようにして、この構成は、例えば、安全動作を500℃で15分間維持しなければならないという、中国における許可のために定められた試験を満たすことができる。
【0039】
図2および図3を参照して、本発明のさらに有利な実施形態について、以下で詳細に説明する。
【0040】
図2のキャリア構造100は、異なって構成された膨張スペーサ210により、図1に示す構成とは異なる。この代替実施形態によれば、膨張スペーサ210はアクチュエータ機能を有するため、出火時に、必要な距離が維持されるだけでなく、第1の導電性部品104と第2の導電性部品106Aとの間隔をさらに広げる。
【0041】
図3に詳細に見られるように、スペーサ210は往復ピストン状構造を有する。キャリア構造100のベース本体102に、シリンダ要素112が配置され、シリンダ要素112内にピストン要素114が位置する。ピストン要素114はベース本体102の分離領域108Aに支持され、それ自体が膨張性または絶縁性であり得る。過熱時に、ピストン要素114は膨張し、分離領域108Aを矢印118の方向に押して、第1の導電性部品104と第2の導電性部品106Aとの間隔が大きくなるようにする。
【0042】
あるいは、ピストン要素は、それ自体が膨張性である必要はなく、シリンダ要素112の床領域116に配置された膨張材料に置かれていてもよい。この場合、過熱が生じたら、領域116の膨張材料がピストン要素114を矢印118の方向に押す。次いで、これにより第1の導電性部品104と第2の導電性部品106Aとの間隔が大きくなり、第1の導電性部品104と第2の導電性部品106Aとの短絡を回避することができるようになっている。
【0043】
図4は、本発明によるキャリア構造400のさらに有利な構成の詳細図である。キャリア構造400のベース本体402は、床要素420とカバー要素422とを有する。第1の導電性部品404、すなわち、ここではバッテリコンタクトが、床要素420に着座している。カバー要素422はレセプタクル424を有し、このレセプタクル424に、この図には示されていない溶接ラグが第2の導電性部品として導入される。通常の動作中、溶接ラグとバッテリコンタクト404とは、分離領域408を介して互いに電気的に絶縁される。
【0044】
過熱および出火時でも、溶接ラグがバッテリコンタクト404に危険なほどに接近することが確実にできないようにするために、本発明によれば、絶縁スペーサ410Aに圧力が加えられた場合に分離領域408が溶接ラグをその位置に保持するように、絶縁スペーサ410Aが床要素420とカバー要素422との間に配置される。ここでは、矢印418の方向が、溶接ラグを介した力の有効な方向を示す。この場合、図4に示す絶縁スペーサ410をセラミック材料から構成してもよい。
【0045】
上記実施形態と同様に、膨張材料と混合されたアクリレート接着剤が、膨張スペーサ410Aの基材として使用される。Panacol-Elosol GmbHから商品名Vitralit(登録商標)DU 8050で入手できるような市販の一液型無溶媒イソシアネートアクリレート接着剤が、特に費用効率の高い実施形態であるとわかっている。
【0046】
第1の導電性部品104と第2の導電性部品106とのさらに改良された分離を実現するために、シアノアクリレート接着剤を球形ガラス粒子、特にガス充填または真空充填中空ガラスビーズと混合することができる。
【0047】
本実施形態においても(図1および図2の構成と同様に)、さらなる絶縁または膨張スペーサ410Bを、バッテリコンタクト404と床要素420に当接する第2の導電性部品(ここでは図示せず)との間に設けることができる。絶縁または膨張スペーサ410Bは、床要素420の凹部に収容され、出火時に、バッテリコンタクトと第2の導電性部品、例えば接地板との距離を安定させる。
【0048】
ここでも、絶縁または膨張スペーサ410Bを、ガラス状物質、または膨張性黒鉛もしくはメラミンなどの膨張物質、またはこれらの組合せが充填されたシアノアクリレート接着剤から製造することが好ましい。
【0049】
原則的に膨張スペーサの基材としてシアノアクリレート接着剤を使用することは、キャリア構造のプラスチック材料への接着性が非常に良好であり、極めて良好な耐振性を実現することができるという利点も有する。
【0050】
床要素420およびカバー要素422としてのベース本体402の第2の実施形態は、構成が完全に取り付けられる前に、シアノアクリレート接着剤をUV硬化のために利用できるという利点を有する。
【0051】
前述の図面を参照しながら、本発明によるキャリア構造100、400の製造について、以下でより詳細に説明する。第1のステップで、最初にベース本体102、402がプラスチックから、例えば射出成形部品として製造される。図4および図5に示すように、ベース本体は、床要素420およびカバー要素422としての2つの部品に形成されることが有利である。
【0052】
床要素420とカバー要素422とが接合される前に、絶縁または膨張スペーサ110、410の流動性前駆体が、例えば噴射ノズルを通して注入されることによって、対応する凹部に導入される。しかしながら、特にガラスビーズが充填されたシアノアクリレート接着剤を使用する場合、この注入を行うときに流動性がないという問題が生じ得る。噴射ノズル領域の流動性を高めるために、この場所に超音波エネルギーを加えることによって、シアノアクリレート接着剤のチキソトロピー(thixotropy)を利用することができる。
【0053】
次いで、凹部に注入された材料が、UV放射または超音波エネルギーによって硬化される。
【0054】
その後にのみ、導電性部品が取り付けられ、構成全体が組み立てられる。
【0055】
図6は、図5の床要素420の概略平面図である。電気絶縁スペーサ410Bは、床要素420の対応する平坦なレセプタクル424に保持される。前述の説明において、電気絶縁スペーサ410Bを流動性前駆体の形でレセプタクル424に導入した後に硬化させる方法を説明したが、例えば、スペーサ410Bを作製済み部品としてレセプタクル424に挿入し、圧入によって保持してもよい。
【0056】
図7は、本発明による電気絶縁スペーサのさらに可能な適用としての、自動車用バッテリのセル接触システム700の詳細を示す。セル接触システム700は、フレーム702として構成された電気絶縁ベース本体を有する。第1の導電性部品704および第2の導電性部品706、例えば2つのバスバーが、このフレームに1つの平面で互いに隣接して装着される。過熱時に第1の導電性部品704と第2の導電性部品706との間に短絡が形成されることを防ぐために、本発明によれば、電気絶縁スペーサ710が横方向に設けられる。本発明によれば、電気絶縁スペーサ710は、膨張材料および/または無機高温耐熱材料を備える。
【0057】
このようにして、過熱時に、分離領域708を確実に支持することができ、必要な電気絶縁を維持する。特に、膨張フィラーの場合、バスバー間の空隙および漏れ経路が保持され充填される。
【符号の説明】
【0058】
100、400 キャリア構造
102、402 ベース本体
104、404、704 第1の導電性部品
106、406、706 第2の導電性部品
108、408、708 分離領域
110、210 スペーサ
112 シリンダ要素
114 ピストン要素
116 シリンダ要素の床領域
118 方向矢印
420 床要素
422 カバー要素
424 レセプタクル
700 セル接触システム
702 フレーム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7