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特許7582745吸着状態判別装置、吸着状態判別装置を備える吸着装置、吸着装置を備える無人飛行体またはロボット、吸着状態判別方法、吸着装置の制御方法、および、吸着状態判別プログラム
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  • 特許-吸着状態判別装置、吸着状態判別装置を備える吸着装置、吸着装置を備える無人飛行体またはロボット、吸着状態判別方法、吸着装置の制御方法、および、吸着状態判別プログラム 図1
  • 特許-吸着状態判別装置、吸着状態判別装置を備える吸着装置、吸着装置を備える無人飛行体またはロボット、吸着状態判別方法、吸着装置の制御方法、および、吸着状態判別プログラム 図2
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  • 特許-吸着状態判別装置、吸着状態判別装置を備える吸着装置、吸着装置を備える無人飛行体またはロボット、吸着状態判別方法、吸着装置の制御方法、および、吸着状態判別プログラム 図15
  • 特許-吸着状態判別装置、吸着状態判別装置を備える吸着装置、吸着装置を備える無人飛行体またはロボット、吸着状態判別方法、吸着装置の制御方法、および、吸着状態判別プログラム 図16
  • 特許-吸着状態判別装置、吸着状態判別装置を備える吸着装置、吸着装置を備える無人飛行体またはロボット、吸着状態判別方法、吸着装置の制御方法、および、吸着状態判別プログラム 図17
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  • 特許-吸着状態判別装置、吸着状態判別装置を備える吸着装置、吸着装置を備える無人飛行体またはロボット、吸着状態判別方法、吸着装置の制御方法、および、吸着状態判別プログラム 図21
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】吸着状態判別装置、吸着状態判別装置を備える吸着装置、吸着装置を備える無人飛行体またはロボット、吸着状態判別方法、吸着装置の制御方法、および、吸着状態判別プログラム
(51)【国際特許分類】
   H01F 7/02 20060101AFI20241106BHJP
   B25J 15/06 20060101ALI20241106BHJP
   H01F 7/20 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
H01F7/02 F
B25J15/06
H01F7/20 Z
H01F7/20 H
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020201561
(22)【出願日】2020-12-04
(65)【公開番号】P2022089281
(43)【公開日】2022-06-16
【審査請求日】2023-10-24
(73)【特許権者】
【識別番号】504255685
【氏名又は名称】国立大学法人京都工芸繊維大学
(73)【特許権者】
【識別番号】503420833
【氏名又は名称】学校法人常翔学園
(74)【代理人】
【識別番号】100137486
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 雅直
(72)【発明者】
【氏名】東 善之
(72)【発明者】
【氏名】山崎 健太
(72)【発明者】
【氏名】増田 新
(72)【発明者】
【氏名】三浦 奈々子
【審査官】右田 勝則
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-175575(JP,A)
【文献】国際公開第2020/086791(WO,A1)
【文献】特開2006-224261(JP,A)
【文献】特表2022-505655(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2022/0045594(US,A1)
【文献】国際公開第2019/165228(WO,A1)
【文献】特表2021-515391(JP,A)
【文献】特表2017-509144(JP,A)
【文献】特表2017-506818(JP,A)
【文献】実開昭61-188316(JP,U)
【文献】特開平08-316025(JP,A)
【文献】特開昭58-186910(JP,A)
【文献】特開昭56-033379(JP,A)
【文献】特開平01-242333(JP,A)
【文献】特開昭55-054151(JP,A)
【文献】特開2017-168562(JP,A)
【文献】特開平05-105385(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 7/02
B25J 15/06
H01F 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
永久磁石と少なくとも一つのヨークとを備え、前記ヨークに設定された吸着面を介して吸着対象物に吸着する吸着装置における吸着状態の良否を判別する吸着状態判別装置を備える吸着装置であって、
前記吸着状態判別装置は、
前記ヨークの所定位置に設けられて、磁束密度を検出するセンサと、
前記所定位置における磁束密度あるいは前記所定位置における磁束密度の非吸着状態からの変化量と、発揮される吸着力と、の関係を規定する関係式を用いて、前記センサが検出した磁束密度に基づいて吸着状態の良否を判別する判別部と、
を備えており、
コイルと、
前記コイルに電流を供給する電流供給部と、
前記センサが検出した磁束密度に基づいて、励磁状態にある前記吸着面が吸着対象物に接触したことを検知する接触検知部と、
を備え、
前記永久磁石が、第1保磁力を有する第1永久磁石と、前記第1保磁力より低い第2保磁力を有する第2永久磁石と、を含んで構成されており、
前記電流供給部が、前記コイルに第1電流を供給することで、前記第2永久磁石の磁化方向が前記第1永久磁石の磁化方向と同じ向きとなって、前記吸着面が前記吸着対象物に吸着可能な励磁状態に設定され、
前記電流供給部が、前記コイルに第2電流を供給することで、前記第2永久磁石の磁化方向が前記第1永久磁石の磁化方向と逆の向きとなって、前記吸着面が前記吸着対象物に吸着しない非励磁状態に設定され、
前記吸着対象物が前記吸着面に接触していない状態で、前記電流供給部が前記コイルに前記第1電流を供給して、前記吸着面を励磁状態に設定し、その後、前記接触検知部により前記吸着面が前記吸着対象物に接触したことが検知された場合に、前記電流供給部が前記コイルに前記第1電流を供給して、前記吸着面を再度励磁状態に設定する
ことを特徴とする、吸着装置。
【請求項2】
請求項1に記載の吸着装置において、
前記関係式が、前記所定位置における磁束密度あるいは前記所定位置における磁束密度の非吸着状態からの変化量と、発揮される吸着力と、の関係を定式化した線形関数である、ことを特徴とする、吸着装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の吸着装置において、
前記ヨークにおける前記永久磁石の磁化方向と平行な面に、前記センサが設けられる、ことを特徴とする、吸着状態判別装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の吸着装置において、
前記ヨークにおける前記吸着面と非平行な面を前記吸着面の法線方向に3等分割したときの前記吸着面に最も近い分割領域に、前記センサが設けられる、
ことを特徴とする、吸着装置
【請求項5】
請求項1から3のいずれかに記載の吸着装置において、
前記ヨークにおける前記吸着面と非平行な面を前記吸着面の法線方向に3等分割したときの中央の分割領域に、前記センサが設けられる、
ことを特徴とする、吸着装置
【請求項6】
請求項1から4のいずれかに記載の吸着装置において、
前記ヨークにおける前記永久磁石の磁化方向と平行な面が、前記吸着面とされる、
ことを特徴とする、吸着装置。
【請求項7】
請求項に記載の吸着装置において、
前記永久磁石の磁化方向について、前記永久磁石を挟んで一対のヨークが設けられる、
ことを特徴とする、吸着装置。
【請求項8】
請求項に記載の吸着装置を備えることを特徴とする、無人飛行体。
【請求項9】
請求項に記載の吸着装置を備えることを特徴とする、ロボット。
【請求項10】
永久磁石と少なくとも一つのヨークとを備え、前記ヨークに設定された吸着面を介して吸着対象物に吸着する吸着装置における吸着状態の良否を判別する吸着状態判別装置を備える吸着装置の制御方法であって、
前記吸着状態判別装置は、
前記ヨークの所定位置に設けられて、磁束密度を検出するセンサと、
前記所定位置における磁束密度あるいは前記所定位置における磁束密度の非吸着状態からの変化量と、発揮される吸着力と、の関係を規定する関係式を用いて、前記センサが検出した磁束密度に基づいて吸着状態の良否を判別する判別部と、
を備えており、
前記吸着装置が、
コイルと、
前記コイルに電流を供給する電流供給部と、を備え、
前記永久磁石が、第1保磁力を有する第1永久磁石と、前記第1保磁力より低い第2保磁力を有する第2永久磁石と、を含んで構成されており、
前記電流供給部が、前記コイルに第1電流を供給することで、前記第2永久磁石の磁化方向が前記第1永久磁石の磁化方向と同じ向きとなって、前記吸着面が前記吸着対象物に吸着可能な励磁状態に設定され、
前記電流供給部が、前記コイルに第2電流を供給することで、前記第2永久磁石の磁化方向が前記第1永久磁石の磁化方向と逆の向きとなって、前記吸着面が前記吸着対象物に吸着しない非励磁状態に設定される、ものであり、
前記吸着対象物が前記吸着面に接触していない状態で、前記電流供給部に前記コイルに前記第1電流を供給させて、前記吸着面を励磁状態に設定する非接触励磁工程と、
前記センサが検出した磁束密度に基づいて、励磁状態にある前記吸着面が吸着対象物に接触したことを検知する接触検知工程と、
前記接触検知工程において、前記吸着面が前記吸着対象物に接触したことが検知された場合に、前記電流供給部に前記コイルに前記第1電流を供給させて、前記吸着面を再度励磁状態に設定する再励磁工程と、
を備える、ことを特徴とする吸着装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、永久磁石とヨークを含んで構成される吸着装置に適用される技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ドローンと呼ばれる、プロペラ(回転翼)を有する無人飛行体(無人航空機)を利用して、人が直接に検査することが難しい構造物(例えば、橋梁)等の検査を行わせることが試みられている。これにあたって、無人飛行体に磁力を利用した吸着装置を搭載しておき、これを構造物に吸着させることで無人飛行体を構造物に対して固定して、その詳細な検査を行わせることが考えられている。こうすれば、検査が行われる間、無人飛行体のプロペラを回転させ続けて揚力を維持する必要がないため、長時間に亘る検査も難なく行うことが可能となる。
【0003】
ところで、橋梁等の構造物の多くは、鋼鉄材料で形成された基体部分の表面に、塗装が施されている。また、構造物の表面には、汚れが付着していたり、錆びが発生していたり、凹凸が存在していたりすることも多い。磁力を利用した吸着装置をこのような箇所に吸着させた場合、基体部分と磁石が十分に接近することができないために、十分な吸着力が発揮されない可能性がある。十分な吸着力が発揮されていない状態で、無人飛行体のプロペラが停止されてしまうと、最悪の場合、無人飛行体が墜落してしまう。
【0004】
このような事態を回避するためには、吸着装置で十分な吸着力が発揮されているか否か(すなわち、吸着状態の良否)を判別する技術が必要となる。
【0005】
これに関し、例えば特許文献1では、電磁石を利用した吸着装置(吊上電磁石)において、電磁石の吸着面に磁気感応素子を埋め込み、これで吸着面の磁束密度を検出して、下記の演算式を用いて、吸着力を算出することが提案されている。
F=BS/(2μ×9.8) [kg]
ただし、この演算式において、「B」は吸着面の磁束密度であり、「S」は吸着面の有効当たり面積であり、「μ」は透磁率である。
【0006】
また例えば特許文献2では、永久磁石とその磁力を打ち消す磁力を発生する電磁石とを組み合わせた吸着装置において、電磁石における電圧の時間変化に基づいて、吸着力を推定することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開昭56-33379号公報
【文献】特開2017-168562号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の技術は、電磁石の特性に基づく演算式で吸着力を算出するものである。したがって、当然のことながら、永久磁石を利用した吸着装置に特許文献1の技術を適用しても、実用に足る十分な精度で吸着力を推定することはできず、吸着状態の良否を正しく判別することが難しい。また、特許文献2の技術は、その適用範囲が、永久磁石とその磁力を打ち消す磁力を発生する電磁石とを組み合わせた吸着装置に限定されてしまう。このように、永久磁石を利用した吸着装置に幅広く適用されて吸着状態の良否を適切に判別できる汎用性を有する技術は、従来存在しなかった。
【0009】
永久磁石を利用した吸着装置と一言でいっても、その実態は様々である。最も基本的なものは、単独の永久磁石の磁力をそのまま利用する吸着装置であるが、特許文献2に記載されているように、永久磁石とその磁力を打ち消す磁力を発生する電磁石とを組み合わせた吸着装置もある。また、近年では、保磁力が高い第1永久磁石(例えばネオジム磁石)と、保磁力が低い第2永久磁石(例えばアルニコ磁石)を組み合わせて、これらに巻回されたコイルにパルス状の電流を与えて第2永久磁石の磁化方向を反転させることで、両永久磁石の磁化方向が同じ向きとなって吸着力が発揮される状態と、両永久磁石の磁化方向が逆の向きとなって吸着力が発揮されない状態とを切り換え可能とした吸着装置の実用化も進んでいる。
【0010】
また、永久磁石を利用した吸着装置では、吸着力を高めるために、永久磁石にヨークが組み合わされることも多い。ところが、ヨークが組み合わされる場合、永久磁石そのものの磁力と実際に発揮される吸着力との関係が複雑になるため、吸着状態の良否を判別することが特に難しくなる。
【0011】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、永久磁石とヨークを含んで構成される吸着装置における吸着状態の良否を適切に判別できる技術の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記の目的を達成するために、次のような手段を講じたものである。
【0013】
すなわち、本発明は、永久磁石と少なくとも一つのヨークとを備え、前記ヨークに設定された吸着面を介して吸着対象物に吸着する吸着装置における吸着状態の良否を判別する吸着状態判別装置を備える吸着装置であって、前記吸着状態判別装置は、前記ヨークの所定位置に設けられて、磁束密度を検出するセンサと、前記所定位置における磁束密度あるいは前記所定位置における磁束密度の非吸着状態からの変化量と、発揮される吸着力と、の関係を規定する関係式を用いて、前記センサが検出した磁束密度に基づいて吸着状態の良否を判別する判別部と、を備えており、コイルと、前記コイルに電流を供給する電流供給部と、前記センサが検出した磁束密度に基づいて、励磁状態にある前記吸着面が吸着対象物に接触したことを検知する接触検知部と、を備え、前記永久磁石が、第1保磁力を有する第1永久磁石と、前記第1保磁力より低い第2保磁力を有する第2永久磁石と、を含んで構成されており、前記電流供給部が、前記コイルに第1電流を供給することで、前記第2永久磁石の磁化方向が前記第1永久磁石の磁化方向と同じ向きとなって、前記吸着面が前記吸着対象物に吸着可能な励磁状態に設定され、前記電流供給部が、前記コイルに第2電流を供給することで、前記第2永久磁石の磁化方向が前記第1永久磁石の磁化方向と逆の向きとなって、前記吸着面が前記吸着対象物に吸着しない非励磁状態に設定され、前記吸着対象物が前記吸着面に接触していない状態で、前記電流供給部が前記コイルに前記第1電流を供給して、前記吸着面を励磁状態に設定し、その後、前記接触検知部により前記吸着面が前記吸着対象物に接触したことが検知された場合に、前記電流供給部が前記コイルに前記第1電流を供給して、前記吸着面を再度励磁状態に設定することを特徴とする。
【0014】
ただし、ここでいう「非吸着状態」とは、永久磁石の周囲に磁性体である吸着対象物が存在せず、永久磁石が吸着対象物の影響を受けていない状態を指す。
【0015】
永久磁石と少なくとも一つのヨークとを備える吸着装置においては、吸着面に吸着対象物が吸着されている状態と吸着されていない状態とで、ヨークから漏れ出る磁束の量が変化する。上記の構成は、この特性に着目してなされたものである。すなわち、上記の構成によると、ヨークに設けられたセンサでヨークから漏れ出る磁束密度を検出し、該検出された磁束密度に基づいて吸着状態の良否を判別することで、吸着状態の良否を適切に判別することができる。
また、吸着面を励磁状態あるいは非励磁状態に維持するために通電を継続させる必要がないため、消費電力を抑えることができる。
また、吸着対象物が吸着面に接触していない状態で吸着面を励磁状態に設定した後で、吸着面が吸着対象物に接触したときに、吸着面を再度励磁状態に設定することで、高い吸着力を発揮させることができる。特にここでは、吸着面が吸着対象物に接触したことの検知が、吸着状態判別装置が備えるセンサを利用してなされるので、接触したことを検知するためのセンサを別途設ける必要がない。したがって、装置構造が簡素化される。
【0016】
好ましくは、前記吸着状態判別装置において、前記関係式が、前記所定位置における磁束密度あるいは前記所定位置における磁束密度の非吸着状態からの変化量と、発揮される吸着力と、の関係を定式化した線形関数である、ことを特徴とする。
【0017】
この構成によると、吸着状態の良否を簡易に判別することができる。
【0018】
好ましくは、前記吸着状態判別装置において、前記ヨークにおける前記永久磁石の磁化方向と平行な面に、前記センサが設けられる、ことを特徴とする。
【0019】
ただし、ここでいう「磁化方向」とは、永久磁石の内部でS極からN極に向かう方向を指す。
【0020】
ヨークにおける永久磁石の磁化方向と平行な面は、例えば該磁化方向と垂直な面と比べて、漏れ出る磁束量の変化幅(変域)が広い傾向がある。したがって、磁化方向と平行な面にセンサが設けられる上記の構成によると、関係式における分解能が高くなり、吸着力の推定精度、ひいては、吸着状態の判別精度が良好なものとなる。
【0021】
好ましくは、前記吸着状態判別装置において、前記ヨークにおける前記吸着面と非平行な面を前記吸着面の法線方向に3等分割したときの前記吸着面に最も近い分割領域に、前記センサが設けられる、ことを特徴とする。
【0022】
ヨークにおける吸着面から遠い位置ほど、該位置から漏れ出る磁束密度の変域が広くなる傾向がある。したがって、吸着力の推定精度、ひいては、吸着状態の判別精度が高まるという点では、センサは吸着面から遠い位置に設けることが好ましい。ところが、こうすると、センサに求められる測定レンジが広くなり、使用可能なセンサが限定的になってしまう。また、センサが吸着面から比較的遠い位置に配置された場合、関係式に線形性が大きく崩れる領域が現れる可能性があり、一部の吸着状態において、吸着力の推定精度、ひいては、吸着状態の判別精度が損なわれる虞もある。上記の構成によると、センサが吸着面に十分に近い位置に設けられるので、磁束密度の変域が十分に狭くなる。したがって、センサに求められる測定レンジが十分に狭くなり、使用可能なセンサの種類が多くなる。また、センサが吸着面に十分に近い位置に設けられることで、関係式に線形性が大きく崩れる領域が現れにくくなる。したがって、幅広い吸着状態について、十分な精度で吸着状態を判別することができる。
【0023】
好ましくは、前記吸着状態判別装置において、前記ヨークにおける前記吸着面と非平行な面を前記吸着面の法線方向に3等分割したときの中央の分割領域に、前記センサが設けられる、ことを特徴とする。
【0024】
この構成によると、センサが吸着面に比較的近い位置に設けられるので、磁束密度の変域が過度に広くなることがない。したがって、センサに求められる測定レンジが過度に広くならず、使用可能なセンサの種類が多くなる。また、センサが吸着面に比較的近い位置に設けられることで、関係式に線形性が大きく崩れる領域が現れにくくなる。したがって、幅広い吸着状態について、十分な精度で吸着状態を判別することができる。
【0026】
好ましくは、前記吸着装置において、前記ヨークにおける前記永久磁石の磁化方向と平行な面が、前記吸着面とされる、ことを特徴とする。
【0027】
ヨークにおける永久磁石の磁化方向と平行な面が吸着面とされることで、例えばヨークにおける永久磁石の磁化方向と垂直な面に吸着面が設定される場合と比べて、高い吸着力を実現することができる。
【0028】
好ましくは、前記吸着装置において、前記永久磁石の磁化方向について、前記永久磁石を挟んで一対のヨークが設けられる、ことを特徴とする。
【0029】
この構成によると、永久磁石の磁力を安定的に高めて、十分な吸着力を実現することができる。
【0034】
本発明は、このような吸着装置を備える無人飛行体も対象としている。
【0035】
本発明は、このような吸着装置を備えるロボットも対象としている。
【0037】
本発明は、永久磁石と少なくとも一つのヨークとを備え、前記ヨークに設定された吸着面を介して吸着対象物に吸着する吸着装置における吸着状態の良否を判別する吸着状態判別装置を備える吸着装置の制御方法であって、前記吸着状態判別装置は、前記ヨークの所定位置に設けられて、磁束密度を検出するセンサと、前記所定位置における磁束密度あるいは前記所定位置における磁束密度の非吸着状態からの変化量と、発揮される吸着力と、の関係を規定する関係式を用いて、前記センサが検出した磁束密度に基づいて吸着状態の良否を判別する判別部と、を備えており、前記吸着装置が、コイルと、前記コイルに電流を供給する電流供給部と、を備え、前記永久磁石が、第1保磁力を有する第1永久磁石と、前記第1保磁力より低い第2保磁力を有する第2永久磁石と、を含んで構成されており、前記電流供給部が、前記コイルに第1電流を供給することで、前記第2永久磁石の磁化方向が前記第1永久磁石の磁化方向と同じ向きとなって、前記吸着面が前記吸着対象物に吸着可能な励磁状態に設定され、前記電流供給部が、前記コイルに第2電流を供給することで、前記第2永久磁石の磁化方向が前記第1永久磁石の磁化方向と逆の向きとなって、前記吸着面が前記吸着対象物に吸着しない非励磁状態に設定される、ものであり、前記吸着対象物が前記吸着面に接触していない状態で、前記電流供給部に前記コイルに前記第1電流を供給させて、前記吸着面を励磁状態に設定する非接触励磁工程と、前記センサが検出した磁束密度に基づいて、励磁状態にある前記吸着面が吸着対象物に接触したことを検知する接触検知工程と、前記接触検知工程において、前記吸着面が前記吸着対象物に接触したことが検知された場合に、前記電流供給部に前記コイルに前記第1電流を供給させて、前記吸着面を再度励磁状態に設定する再励磁工程と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0039】
本発明によると、永久磁石とヨークを含んで構成される吸着装置における吸着状態の良否を適切に判別することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1】吸着装置および吸着状態判別装置を模式的に示す図。
図2】吸着状態判別装置が備える制御部の機能構成を示すブロック図。
図3】吸着装置および吸着状態判別装置が搭載された無人飛行体を示す模式図。
図4】吸着装置が非吸着状態にあるときにヨークから漏れ出る磁束の流れを模式的に示す図。
図5】吸着装置が第1吸着状態にあるときにヨークから漏れ出る磁束の流れを模式的に示す図。
図6】吸着装置が第2吸着状態にあるときにヨークから漏れ出る磁束の流れを模式的に示す図。
図7】実験1を説明するための図。
図8】実験2を説明するための図。
図9】実験から導出された磁束密度変化量と吸着力との関係、および、これから導かれる関係式を示す図。
図10】吸着状態判別装置で実行される処理の流れを示す図。
図11】第2実施形態に係る吸着装置および吸着状態判別装置を説明するための図。
図12】第3実施形態に係る吸着装置および吸着状態判別装置を説明するための図。
図13】第4実施形態に係る吸着装置および吸着状態判別装置を説明するための図。
図14】第4実施形態に係る吸着装置および吸着状態判別装置を説明するための図。
図15】第4実施形態に係る吸着装置および吸着状態判別装置を説明するための図。
図16】第5実施形態に係る吸着装置および吸着状態判別装置を模式的に示す図。
図17】励磁状態と非励磁状態を説明するための図。
図18】吸着装置が備える制御部の機能構成を示すブロック図。
図19】吸着装置の吸着面を吸着対象物に近づけていった場合に、センサで取得される磁束密度の経時変化の態様を模式的に示す図。
図20】吸着装置で実行される処理の流れを示す図。
図21】吸着状態判別装置の機能部を実現する別の態様を示すブロック図。
図22】吸着装置および吸着状態判別装置が搭載されたロボットを示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照しつつ説明する。
【0042】
<1.第1実施形態>
<1-1.装置構成>
第1実施形態に係る吸着状態判別装置、および、該吸着状態判別装置が設けられる吸着装置の各構成について、図1図2を参照しながら説明する。図1は、吸着装置1および吸着状態判別装置2を模式的に示す図である。図2は、吸着状態判別装置2が備える制御部22の機能構成を示すブロック図である。
【0043】
(吸着装置1)
吸着装置1は、永久磁石の磁力を利用して、磁性体(強磁性体)である吸着対象物9に吸着する装置であり、永久磁石11と、一対のヨーク12,12と、を備える。
【0044】
永久磁石11は、略直方体であり、例えばネオジム磁石により構成される。以下において、説明の便宜上、永久磁石11の磁化方向(永久磁石11の内部でS極からN極に向かう方向)をX方向とよぶ。
【0045】
一対のヨーク12,12は、互いに平行に配置された板状部材であり、磁性材料で形成されている。一対のヨーク12,12は、永久磁石11を、磁化方向(X方向)についての両側から挟持する。すなわち、各ヨーク12は、永久磁石11の磁極面に配置される。
【0046】
各ヨーク12のいずれかの面は、吸着対象物9を吸着するための吸着面D1とされる。すなわち、吸着装置1は、各ヨーク12に設定された吸着面D1を介して吸着対象物9に吸着する。ここでは、各ヨーク12における、永久磁石11の磁化方向(X方向)と平行な面121が、吸着面D1とされる。以下において、磁化方向(X方向)と直交し、かつ、吸着面D1が設定される面121と平行な方向をY方向とよぶ。一対のヨーク12,12は、吸着面D1以外の端面において、非磁性体で形成される支持部材(図示省略)を介して互いに接続されて、一体的に支持されている。
【0047】
(吸着状態判別装置2)
吸着状態判別装置2は、吸着装置1に設けられて、吸着状態の良否(すなわち、十分な吸着力が発揮されているか否か)を判別する装置であり、センサ21と、制御部22と、を備える。
【0048】
センサ21は、磁束密度を検出するための磁気センサであり、具体的には例えば、ホールセンサ、サーチコイル、等から構成される。センサ21は、いずれか一方のヨーク12に設けられて、ヨーク12から漏れ出る磁束(漏出磁束)の磁束密度を検出する。すなわち、ヨーク12のいずれかの面が、センサ21が設置されるセンサ設置面D2として選択され、センサ21は該センサ設置面D2に設置される。この実施形態では、ヨーク12における、永久磁石11の磁化方向(X方向)と平行な面であって、吸着面D1と直交する面122が、センサ設置面D2とされる。さらに、センサ21は、センサ設置面D2を、吸着面D1の法線方向(Z方向)に3等分割したときの吸着面D1に最も近い分割領域D21に、設けられる。
【0049】
制御部22は、磁束密度取得部221と、判別部222と、を備える。制御部22の実体は、例えばマイクロコンピュータ、つまりは、各種のモジュールが実装されたプリント基板であり、該プリント基板に、中央演算処理装置であるCPU、RAM等から構成されるメモリ、EEPROM等から構成される記憶部220、センサ21との通信を行う通信インターフェイス、等が実装された構成を備えている。そして、CPUが、記憶部220に格納されたプログラム(吸着状態判別プログラム)Pをメモリに読み出して実行することによって、これらの各機能部221,222が実現される。もっとも、これら各機能部221,222の一部あるいは全部は、該機能を実現するための回路モジュールが実装されることにより実現されてもよい。
【0050】
なお、制御部22が備える機能の一部あるいは全部が、無人飛行体100の制御部を実現するマイクロコンピュータなどにおいて実現されてもよい。すなわち、吸着状態判別装置2の制御部22と、無人飛行体100の制御部とが、共通のマイクロコンピュータなどにより実現されてもよい。
【0051】
磁束密度取得部221は、センサ21からの磁束密度の測定値を取得する。具体的には磁束密度取得部221は、吸着装置1が、吸着対象物9に吸着して吸着状態の良否を判別するべき状態(対象状態)Tになったときに、センサ21が検出した磁束密度を取得する。また、磁束密度取得部221は、吸着装置1が、後述する非吸着状態Qとなったときに、センサ21が検出した磁束密度を取得する。以下において、対象状態Tのときにセンサ21が検出した磁束密度を「対象磁束密度Bt」といい、非吸着状態Qのときにセンサ21が検出した磁束密度を「非吸着磁束密度Bq」という。
【0052】
判別部222は、磁束密度取得部221が取得した対象磁束密度Btに基づいて、対象状態Tにおける吸着状態の良否を判別する。ここでは、センサ21が設置されている位置における磁束密度の非吸着状態Qからの変化量(磁束密度変化量)ΔBと、発揮される吸着力Fとの関係を規定する関係式K(図9参照)が、予め記憶部220に格納されており、判別部222は、この関係式Kを用いて、吸着状態の良否を判別する。具体的には、判別部222は、対象磁束密度Btから非吸着磁束密度Bqを差し引いて磁束密度変化量ΔBtを算出し、これを関係式Kに代入することで、対象状態Tで発揮されている吸着力Ftを推定する。そして、推定された吸着力Ftを、予め記憶部220に格納されている閾値W1と比較することによって、吸着状態の良否を判別する。関係式Kについては後に詳細に説明する。
【0053】
以上の構成を備える吸着装置1および吸着状態判別装置2は、例えば、無人飛行体100に搭載される。図3には、吸着装置1および吸着状態判別装置2が搭載された無人飛行体100が模式的に示されている。ここに示されるように、無人飛行体100は、複数のプロペラ(回転翼)101の回転により飛行可能に構成された装置であり、ドローン等とも呼ばれる。無人飛行体100は、例えば、人が直接に検査することが難しい構造物(例えば、橋梁)等の検査に用いられる。この場合、無人飛行体100には、検査に必要な各種の装置(例えば、振動を測定するための加速度センサ、カメラ、等)が搭載される。
【0054】
<1-2.関係式K>
上記の通り、吸着状態の良否の判別には、センサ21が設置されている位置における磁束密度変化量ΔBと、発揮される吸着力Fとの関係を規定する関係式Kが用いられる。この関係式Kについて具体的に説明する。
【0055】
図4図6には、吸着装置1をX方向、Y方向、Z方向からそれぞれ見たときに、吸着装置1の周囲に形成される磁束の流れ(すなわち、ヨーク12から漏れ出る磁束の流れ)を説明するための模式図である。ただし、図4には、吸着装置1が非吸着状態Qにあるときの磁束の流れが、図5には、吸着装置1が第1吸着状態Paにあるときの磁束の流れが、図6には、吸着装置1が第2吸着状態Pbにあるときの磁束の流れが、それぞれ示されている。
【0056】
ここで、「非吸着状態Q」とは、吸着装置1の周囲に磁性体(強磁性体)である吸着対象物9が存在せず、吸着装置1が吸着対象物9の影響を受けていない状態である。すなわち、非吸着状態Qにおいて、吸着装置1は吸着対象物9に吸着しておらず、吸着装置1の周囲に他の磁性体も存在していない。一方、「第1吸着状態Pa」および「第2吸着状態Pb」は、いずれも、吸着装置1の吸着面D1が吸着対象物9に吸着している状態である。ただし、第1吸着状態Paは、吸着面D1が吸着対象物9との間に微小な隙間を設けて近接しつつ吸着している状態であり、第2吸着状態Pbは、この隙間がない状態、すなわち、吸着面D1が吸着対象物9に密着しつつ吸着している状態(完全吸着状態)である。
【0057】
非吸着状態Q、第1吸着状態Pa、および、第2吸着状態Pbでは、形成される磁束の流れが異なるものとなる。
【0058】
すなわち、非吸着状態Qでは、磁束がヨーク12の外部に拡散して磁束の流れが広範囲に広がっているのに対し、第1吸着状態Paあるいは第2吸着状態Pbでは、非吸着状態Qと比べると、磁束の流れが、ヨーク12を通って吸着対象物9に向かう方向に指向している。すなわち、外部に拡散せずにヨーク12の内部を通って吸着対象物9に向かう磁束が増え、磁束の流れが狭い範囲に閉じて密になっている。
【0059】
特に、第2吸着状態Pbでは、ヨーク12の内部を通って吸着対象物9に向かう磁束が、第1吸着状態Paと比べてさら多くなっており、ヨーク12から漏れ出る磁束は極めて少なくなる。図においては、ヨーク12から漏れ出る磁束の向きを示すために該磁束が強調して表されているが、実際は、第2吸着状態Pbではヨーク12から漏れ出る磁束はゼロに近く、ほとんどの磁束がヨーク12内を通過して吸着対象物9に流れている。
【0060】
そこで、本件の発明者達は、ヨーク12から漏れ出る磁束の量(磁束密度)に基づいて、吸着状態の良否を判別することを考えた。このために、発明者達は、以下に説明する実験1および実験2を行って、ヨーク12から漏れ出る磁束の磁束密度変化量ΔB(すなわち、非吸着状態Qからの磁束密度の変化量)と吸着力Fとの関係を導出した。
【0061】
(実験1)
まず、互いに異なる複数の吸着状態Pi(i=0,1,2,・・・,11)を、サンプル吸着状態として規定した。具体的には、図7に示されるように、吸着装置1とその吸着面D1に対向配置された吸着対象物9との間に、隙間が設けられない状態(すなわち、完全吸着状態)P0と、両者の間に互いに異なる寸法の隙間Gi(i=1,2,・・・,11)がそれぞれ設けられた状態Pi(i=1,2,・・・,11)とを、サンプル吸着状態Pi(i=0,1,2,・・・,11)として規定した。そして、これら複数のサンプル吸着状態Pi(i=0,1,2,・・・,11)の各々において、ヨーク12から漏れ出る磁束の磁束密度Bpi(i=0,1,2,・・・,11)をセンサ21で測定した。
【0062】
具体的な測定条件は次の通りである。吸着対象物9としては、幅100mm、奥行き100mm、厚さ20mmのSS400(一般構造用圧延鋼材)を用いた。隙間Giは、吸着面D1と吸着対象物9の間に、厚みが0.052mmのプラスチック板6を挟むことにより形成し、挟み込むプラスチック板6の枚数を変えることで、隙間Giの寸法を0~0.572mmの範囲において0.052mm刻みで変化させた(したがって、各サンプル吸着状態Piにおける隙間Giの寸法は、「0.052×i」で規定されることになる)。
【0063】
センサ21には、GaAs(低ドリフト)ホール素子(旭化成エレクトロニクス株式会社製、品番HG-372A)を用いた。センサ21からの出力は、アナログ通信を介して、アナログデジタル変換回路(ADC)に入力されてデジタル信号に変換され、IC(Inter-Integrated Circuit)を介して、Arduinoボードに転送され、シリアル通信でパーソナルコンピュータに入力されるように構成した。
【0064】
また、非吸着状態Qにおいて、ヨーク12から漏れ出る磁束の磁束密度Bqをセンサ21で測定した。この測定は、吸着対象物9を吸着装置1から十分に離間させた以外は、サンプル吸着状態Piの磁束密度Bpiの測定と同じ条件で行った。
【0065】
そして、複数のサンプル吸着状態Pi(i=0,1,2,・・・,11)の各々について測定された各磁束密度Bpi(i=0,1,2,・・・,11)から、非吸着状態Qについて測定された磁束密度Bqを差し引いて、各サンプル吸着状態Piについての磁束密度変化量ΔBiを算出した(すなわち、ΔBi=Bpi-Bq)。
【0066】
(実験2)
続いて、発明者達は、実験1と同じ複数のサンプル吸着状態Pi(i=0,1,2,・・・,11)を規定し、各サンプル吸着状態Piにおいて発揮されている吸着力Fi(i=0,1,2,・・・,11)を測定した。
【0067】
具体的な測定条件について、図8を参照して説明する。吸着装置1、吸着対象物9、および、隙間Giを形成するためのプラスチック板6には、実験1と同じものを用いた。また、ここでは、吸着対象物9を載置台81に対してネジ止めにより固定した。一方、吸着装置1における吸着面D1と反対側の位置に、非磁性体のリング部材82を接着した。そして、このリング部材82にフォースゲージ83(株式会社イマダ製、品番Z2-500N)のフックを引っ掛けて、該フックにかかる力、すなわち、吸着装置1で発揮されている吸着力Fiを測定した。
【0068】
以上の実験1および実験2に基づいて、磁束密度変化量ΔBと吸着力Fとの関係が導出される。すなわち、実験1から、隙間Giの大きさと磁束密度変化量ΔBiとの関係が求められ、実験2から、隙間Giの大きさと発揮される吸着力Fiとの関係が求められるので、実験1と実験2からそれぞれ得られたデータを、隙間Giの大きさ毎(すなわち、サンプル吸着状態Pi毎)に対応付けることで、磁束密度変化量ΔBと吸着力Fとの関係が導出される。
【0069】
図9には、このようにして導出された磁束密度変化量ΔBと吸着力Fとの関係が示されている。ここに示されるように、磁束密度変化量ΔBが小さくなるにつれて(すなわち、絶対値が大きくなるにつれて)、吸着力Fが大きくなるという関係があることがわかった。
【0070】
磁束密度変化量ΔBと吸着力Fとの関係は、センサ21を設置する位置によっても変わってくる。この実施形態のように、ヨーク12における、磁化方向と平行な面122をセンサ設置面D2とし、これを吸着面D1の法線方向に3等分割したときの吸着面D1に最も近い分割領域D21に、センサ21が設けられる場合、図9に示されるように、実験1,2から導出される磁束密度変化量ΔBと吸着力Fとの関係は、十分に高い線形性を有する。そこで、ここでは、実験1,2から導出される関係を定式化した線形関数を、関係式Kとして用いる。具体的には、例えば、実験1,2から導出される関係を、最小二乗法などによって直線近似した線形関数(一次関数)を算出し(すなわち、「F=aΔB+b」で表される一次関数に含まれる係数aおよび係数bを特定し)、得られた線形関数を、関係式Kとして用いる。
【0071】
なお、理論上、非吸着状態Qにおける磁束密度変化量ΔBと吸着力Fとはいずれもゼロであり、実際に、この実験1,2から導出される磁束密度変化量ΔBと吸着力Fとの関係から得られる線形関数は、原点あるいはこれに近い位置を通るものとなる。したがって、関係式Kは、原点を通るものとして(すなわち、係数bをゼロとして)規定してもよい。
【0072】
<1-3.動作の流れ>
次に、無人飛行体100に搭載された吸着状態判別装置2で実行される処理の流れについて、図1図9に加え、図10を参照しながら説明する。図10は、該処理の流れを示す図である。
【0073】
以下においては、吸着装置1および吸着状態判別装置2が搭載された無人飛行体100を用いて、人が直接に検査することが難しい構造物(例えば、橋梁)等の検査が行われる場合を例にとって説明する。
【0074】
この場合、オペレータは、手元の操作盤等を操作して遠隔操作により無人飛行体100を制御して、これを吸着対象物(ここでは、検査対象となる構造物、あるいは、該構造物に予め設けられた、磁性体から成る設置部)9の近傍まで飛行させる。そして、無人飛行体100が吸着対象物9の近傍に到達すると、オペレータは、無人飛行体100を、ここに搭載されている吸着装置1の吸着面D1が、吸着対象物9と対向するような姿勢とし(図3(a))、該姿勢のまま無人飛行体100を吸着対象物9に接近させて、吸着装置1を吸着対象物9に吸着させる(図3(b))。ただし、オペレータは、この段階では、まだプロペラ101の回転を停止させず、無人飛行体100の揚力を維持し続ける。
【0075】
ステップS1:吸着状態判別装置2では、吸着装置1が吸着対象物9に吸着して対象状態Tが形成されるのに先だって、磁束密度取得部221が非吸着磁束密度Bqを取得している。すなわち、磁束密度取得部221は、吸着装置1が非吸着状態Qとなっている任意のタイミングにおいてセンサ21が検出した磁束密度を、非吸着磁束密度Bqとして取得する。もっとも、非吸着磁束密度Bqは予め記憶部220に格納されていてもよく、この場合、磁束密度取得部221は、記憶部220から読み出すことで非吸着磁束密度Bqを取得する。
【0076】
ステップS2:吸着装置1が吸着対象物9に吸着して対象状態Tが形成されると、磁束密度取得部221は、対象状態Tにおいてセンサ21が検出した磁束密度を、対象磁束密度Btとして取得する(磁束密度取得工程)。
【0077】
ステップS3:続いて、判別部222が、関係式Kを用いて、ステップS2で取得された対象磁束密度Btに基づいて、対象状態Tにおける吸着状態の良否を判別する(判別工程)。
【0078】
具体的には、判別部222は、まず、ステップS2で取得された対象磁束密度Btから、ステップS1で取得された非吸着磁束密度Bqを差し引いて、磁束密度変化量ΔBtを算出する(ステップS31)。
【0079】
続いて、判別部222は、記憶部220から関係式Kを読み出し、ステップS31で算出された磁束密度変化量ΔBtをこの関係式Kに代入することで、対象状態Tで発揮されている吸着力Ftを推定する(ステップS32)。
【0080】
続いて、判別部222は、記憶部220から閾値W1を読み出し、ステップS32で推定された吸着力Ftを閾値W1と比較することによって、吸着状態の良否を判断する。すなわち、判別部222は、吸着力Ftが閾値W1よりも大きい場合は(ステップS33でYES)、吸着状態が良好である(すなわち、十分な吸着力が発揮されている)と判断する(ステップS34)。一方、吸着力Ftが閾値W1以下である場合は(ステップS33でNO)、吸着状態が不良である(すなわち、十分な吸着力が発揮されていない)と判断する(ステップS35)。
【0081】
ただし、吸着状態の判別に用いる閾値W1の値は、オペレータなどが任意に設定できるものとする。例えば、無人飛行体100の重量などを加味して必要な吸着力を算出し、該必要な吸着力に基づいて閾値W1の値を設定すればよい。この際、関係式Kから得られる吸着力Fの推定値に含まれる誤差を加味して、求められる吸着量に対して閾値W1を大きく見積もっておくことも好ましい。これによって、十分な安全性を担保することができる。
【0082】
ステップS4:続いて、判別部222は、所定の報知処理を行って、ステップS3で得られた判別結果を、オペレータに報知する。報知処理は、例えば、所定の信号をオペレータの手元にある操作盤に送信することにより行われてもよいし、アラーム音の鳴動、ランプの点灯、等によって行われてもよい。
【0083】
無人飛行体100のオペレータは、吸着状態が良好である旨の報知を受けた場合、プロペラ101の回転を停止させて、無人飛行体100に吸着対象物9を検査させる。プロペラ101の回転が停止されると、無人飛行体100は、吸着装置1の吸着力だけで吸着対象物9に固定された状態になるところ、このような状態においては姿勢維持のために動力源をほとんど消費しなくてすむので、長時間の検査も難なく行うことができる。また、吸着状態が良好であるとき、無人飛行体100は吸着対象物9に対して強固に固定されるため、無人飛行体100は風の影響等をほとんど受けずに検査を行うことができる。
【0084】
一方、吸着状態が良好でない旨の報知を受けた場合、オペレータは、プロペラ101の回転を停止させずに(すなわち、無人飛行体100の揚力を維持したまま)、無人飛行体100を別の場所に移動させた上で、再び吸着装置1を吸着対象物9に吸着させる。そして、吸着状態判別装置2に上記の一連の処理ステップS1~ステップS4をもう一度行わせる。このように、吸着状態が良好である旨の報知を受けた場合に限って、プロペラ101の回転を停止させるようにすることで、十分な吸着力が発揮されていない状態でプロペラ101の回転が停止されてしまって無人飛行体100が落下してしまう、といった危険を回避することができる。
【0085】
<1-4.効果>
このように、第1実施形態に係る吸着状態判別装置2は、永久磁石11と少なくとも一つのヨーク12とを備え、ヨーク12に設定された吸着面D1を介して吸着対象物9に吸着する吸着装置1における吸着状態の良否を判別する。この吸着状態判別装置2は、ヨーク12の所定位置に設けられて、磁束密度を検出するセンサ21と、該所定位置における磁束密度の非吸着状態Qからの変化量ΔBと発揮される吸着力Fとの関係を規定する関係式Kを用いて、センサ21が検出した磁束密度に基づいて吸着状態の良否を判別する判別部222と、を備える。
【0086】
永久磁石11と少なくとも一つのヨーク12とを備える吸着装置1においては、吸着面D1に吸着対象物9が吸着されている状態と吸着されていない状態とで、ヨーク12から漏れ出る磁束の量が変化する。上記の構成は、この特性に着目してなされたものである。すなわち、上記の構成によると、ヨーク12に設けられたセンサ21でヨーク12から漏れ出る磁束密度を検出し、該検出された磁束密度に基づいて吸着状態の良否を判別することで、吸着状態の良否を適切に判別することができる。
【0087】
また、上記の実施形態に係る吸着状態判別装置2において、関係式Kは、センサ21が設けられている所定位置における磁束密度の非吸着状態Qからの変化量ΔBと発揮される吸着力Fとの関係を定式化した線形関数である。
【0088】
この構成によると、吸着状態の良否を簡易に判別することができる。
【0089】
また、上記の実施形態に係る吸着状態判別装置2においては、ヨーク12における永久磁石11の磁化方向と平行な面に、センサ21が設けられる。
【0090】
後述するように、ヨーク12における永久磁石11の磁化方向と平行な面は、例えば該磁化方向と垂直な面と比べて、非吸着状態Qから完全吸着状態Pbに至るまでの、漏れ出る磁束量の変化幅(変域)Uが広い傾向がある。したがって、磁化方向と平行な面にセンサ21が設けられる上記の構成によると、関係式Kにおける分解能が高くなり、吸着力Fの推定精度、ひいては、吸着状態の判別精度が良好なものとなる。
【0091】
また、上記の実施形態に係る吸着状態判別装置2においては、ヨーク12における吸着面D1と非平行な面122を吸着面D1の法線方向に3等分割したときの吸着面D1に最も近い分割領域D21に、センサ21が設けられる。
【0092】
後述するように、ヨーク12における吸着面D1から遠い位置ほど、該位置から漏れ出る磁束密度の変域Uが広くなる傾向がある。したがって、吸着力Fの推定精度、ひいては、吸着状態の判別精度が高まるという点では、センサ21は吸着面D1から遠い位置に設けることが好ましい。ところが、こうすると、センサ21に求められる測定レンジが広くなり、使用可能なセンサが限定的になってしまう。また、後述するように、センサ21が吸着面D1から比較的遠い位置に配置された場合、実験1,2を行うことで導出される磁束密度変化量ΔBと吸着力Fとの関係(ひいては、関係式K)において、線形性が大きく崩れる領域Aが現れる可能性があり、一部の吸着状態において、吸着力Fの推定精度、ひいては、吸着状態の判別精度が損なわれる虞もある。上記の構成によると、センサ21が吸着面D1に十分に近い位置に設けられるので、磁束密度の変域Uが十分に狭くなる。したがって、センサ21に求められる測定レンジが十分に狭くなり、使用可能なセンサの種類が多くなる。また、センサ21が吸着面D1に十分に近い位置に設けられることで、関係式Kに線形性が大きく崩れる領域Aが現れにくくなる。したがって、幅広い吸着状態について、十分な精度で吸着状態を判別することができる。
【0093】
また、上記の実施形態に係る吸着装置1は、ヨーク12における永久磁石11の磁化方向と平行な面121が、吸着面D1とされる。
【0094】
ヨーク12における永久磁石11の磁化方向と平行な面121が吸着面D1とされることで、例えばヨーク12における永久磁石11の磁化方向と垂直な面に吸着面が設定される場合と比べて、高い吸着力を実現することができる。
【0095】
また、上記の実施形態に係る吸着装置1は、永久磁石11の磁化方向について、永久磁石11を挟んで一対のヨーク12,12が設けられる。
【0096】
この構成によると、永久磁石11の磁力を安定的に高めて、十分な吸着力を実現することができる。
【0097】
<2.第2実施形態>
第1実施形態に係る吸着状態判別装置2においては、ヨーク12における、磁化方向と平行な面122をセンサ設置面D2とし、これを吸着面D1の法線方向に3等分割して得られる3個の分割領域D21,D22,D23のうち、吸着面D1に最も近い分割領域(第1分割領域)D21にセンサ21が設けられる。これに対し、第2実施形態に係る吸着状態判別装置2aでは、図11(a)に示されるように、該3個の分割領域D21,D22,D23のうち、中央の分割領域(第2分割領域)D22にセンサ21が設けられる。なお、以下においては、第1実施形態と相違する点を説明し、第1実施形態で説明した要素については説明を省略するとともに同じ符号で表すものとする。
【0098】
図11(b)には、第2分割領域D22にセンサ21を設けて、第1実施形態と同様の実験1および実験2を行うことで導出された、磁束密度変化量ΔBと吸着力Fとの関係が示されている。
【0099】
図11(b)を図9と比較するとわかるように、センサ21を第1分割領域D21に設けた場合と、第2分割領域D22に設けた場合とでは、磁束密度変化量ΔBと吸着力Fとの関係は、完全一致はしないものの、似た傾向を示すものとなる。すなわち、第2実施形態においても、第1実施形態と同様、磁束密度変化量ΔBと吸着力Fとの関係は、十分に高い線形性を有する。そこで、ここでも、実験から導出される関係を、最小二乗法などによって直線近似した線形関数を算出し、得られた線形関数を、関係式Kとして用いる。
【0100】
このように、第2実施形態に係る吸着状態判別装置2aは、ヨーク12における吸着面D1と非平行な面122を吸着面D1の法線方向に3等分割したときの中央の分割領域D22に、センサ21が設けられる。
【0101】
この構成によると、センサ21が吸着面D1に比較的近い位置に設けられるので、磁束密度の変域Uが過度に広くなることがない。したがって、センサ21に求められる測定レンジが過度に広くならず、使用可能なセンサの種類が多くなる。また、センサ21が吸着面D1に比較的近い位置に設けられることで、関係式Kに線形性が大きく崩れる領域が現れにくくなる。したがって、幅広い吸着状態について、十分な精度で吸着状態を判別することができる。
【0102】
<3.第3実施形態>
第1実施形態に係る吸着状態判別装置2においては、ヨーク12における、磁化方向と平行な面122をセンサ設置面D2とし、これを吸着面D1の法線方向に3等分割して得られる3個の分割領域D21,D22,D23のうち、吸着面D1に最も近い第1分割領域D21にセンサ21が設けられるものとした。これに対し、第3実施形態に係る吸着状態判別装置2bでは、図12(a)に示されるように、該3個の分割領域D21,D22,D23のうち、吸着面D1から最も遠い分割領域(第3分割領域)D23にセンサ21が設けられる。
【0103】
図12(b)には、第3分割領域D23にセンサ21を設けて、第1実施形態と同様の実験1および実験2を行うことで導出された、磁束密度変化量ΔBと吸着力Fとの関係が示されている。ただし、図12(b)に示されるグラフにおいて、サンプル状態P5~P11では、センサ21がサチュレーションを生じたために磁束密度Bpi(i=5~11)が正しく計測できず、正しい磁束密度変化量ΔBiが取得できていない。センサ21がサチュレーションを起こさなかったとすると、図中の仮想線で示されるような推移を辿るものと推定される。
【0104】
図12(b)を、図9あるいは図11(b)と比較するとわかるように、センサ21を第3分割領域D22に設けた場合と、第1あるいは第2分割領域D21,D22に設けた場合とでは、磁束密度変化量ΔBと吸着力Fとの関係が、異なる傾向を示す。
【0105】
すなわち、センサ21が第3分割領域D23に設けられる場合、センサ21が第1あるいは第2分割領域D21,D22に設けられる場合と比べて、非吸着状態Qから完全吸着状態Pbに至るまでの、漏れ出る磁束量の変化幅(すなわち、磁束密度変化量ΔBの変域)Uが広い傾向がある。これは、各吸着状態Piにおける磁束密度変化量ΔBがプラス方向にシフトしていることが原因とみられる。つまり、同じ吸着状態であっても、吸着面D1から遠い位置ほどヨーク12から漏れ出る磁束が多いために、全体としての変域Uが広くなるものと考えられる。
【0106】
漏れ出る磁束密度の変域Uが広いほど、関係式Kにおける分解能が高くなり、吸着力Fの推定精度、ひいては、吸着状態の判別精度が高まる。すなわち、第3実施形態に係る吸着状態判別装置2bによると、吸着面D1から最も遠い分割領域D23にセンサ21が設けられることによって、吸着状態の判別精度を十分に高いものとすることができる。
【0107】
その一方で、センサ21が第3分割領域D23に設けられる場合、吸着面D1が吸着対象物9と比較的大きな隙間Giを設けつつ吸着しているような吸着状態Pi(i=5~11)において、実験1,2を行うことで導出される磁束密度変化量ΔBと吸着力Fとの関係において、線形性が大きく崩れる領域Aが現れる。
【0108】
このような領域Aが現れる理由は次のように考えられる。すなわち、吸着面D1との離間距離が比較的遠い位置においては、非吸着状態Qから完全吸着状態Pbに至るまでの間に、磁束の向きが大きく変化する(図4(b)~図6(b)参照)。このため、隙間Giが比較的大きい吸着状態において、ヨーク12における吸着面D1から比較的遠い位置には、ヨーク12を垂直に通過する磁束線R(図5(b))が存在し、センサ21がこのような磁束線Rをそれ以外の磁束線(すなわち、センサ21を非垂直に通過する磁束線)に比べて強く検出してしまう。このために、吸着面D1が吸着対象物9と比較的大きな隙間Giを設けつつ吸着しているような吸着状態Piと対応する領域に、線形性が大きく崩れる領域Aが現れるものと考えられる。
【0109】
このような領域Aが現れると、例えば実験1,2を行うことで導出される関係を直線近似した線形関数を関係式として用いた場合に、一部の吸着状態における吸着力Fが正確に推定されず、吸着状態の判別精度が損なわれる虞がある。そこで、実験1,2を行うことで導出される磁束密度変化量ΔBと吸着力Fとの関係に線形性が大きく崩れる領域Aが現れた場合、線形性が保たれている部分(図の例の場合、例えばサンプル状態P0~P4から導出される部分)だけを直線近似した線形関数を関係式Kとし、閾値W1を該関係式Kの値域の範囲内に規定すればよい。この場合、吸着力が比較的低い吸着状態は一律に吸着状態が不良であると判別されてしまうものの、吸着力が比較的高い吸着状態における吸着状態の判別を十分な精度で行うことができる。したがって、例えば、閾値W1が比較的高い値に規定されるような実施態様(すなわち、比較的吸着力が低い吸着状態は、その吸着力Fを正確に推定するまでもなく吸着不良であると判断することができるような実施態様)の場合は、吸着面D1から最も遠い第3分割領域D23にセンサ21を設ける構成が好適である。
【0110】
<4.第4実施形態>
第1~第3の実施形態においては、ヨーク12における、磁化方向と平行な面(平行面)122がセンサ設置面D2とされていた。これに対し、第4実施形態に係る吸着状態判別装置2c,2d,2eでは、図13(a)、図14(a)、図15(a)にそれぞれ示されるように、ヨーク12における、磁化方向(X方向)と直交する面(直交面)123がセンサ設置面D2とされる。
【0111】
ただし、図13(a)に示される吸着状態判別装置2cでは、直交面123に規定されるセンサ設置面D2を、吸着面D1の法線方向に3等分割して得られる3個の分割領域D21,D22,D23のうち、吸着面D1に最も近い第1分割領域D21にセンサ21が設けられる。また、図14(a)に示される吸着状態判別装置2dでは、該3個の分割領域D21,D22,D23のうち、中央の第2分割領域D22にセンサ21が設けられる。また、図15(a)に示される吸着状態判別装置2eでは、該3個の分割領域D21,D22,D23のうち、吸着面D1から最も遠い第3分割領域D23にセンサ21が設けられる。
【0112】
図13(b)、図14(b)、図15(b)には、直交面123に規定されるセンサ設置面D2の各分割領域D21,D22,D23にセンサ21を設けて、第1実施形態と同様の実験1および実験2を行うことで導出された、磁束密度変化量ΔBと吸着力Fとの関係が示されている。
【0113】
例えば、図13(b)を図9と比較するとわかるように、直交面123をセンサ設置面D2とした場合、平行面122をセンサ設置面D2とした場合と比べて、非吸着状態Qから完全吸着状態Pbに至るまでの、漏れ出る磁束量の変化幅(すなわち、磁束密度変化量ΔBの変域)Uが狭い傾向がある。これは、非吸着状態Qにおいて、ヨーク12の直交面123から漏れ出る磁束が、ヨーク12の平行面121から漏れ出る磁束よりも少ないために、全体としての変域Uが狭くなるためと考えられる。
【0114】
漏れ出る磁束密度の変域Uが狭いほど、関係式Kにおける分解能が低くなるものの、センサ21に求められる測定レンジが狭い範囲におさまる。したがって、センサ21に求められる測定レンジが十分に狭くなり、使用可能なセンサの種類が多くなる。すなわち、第4実施形態に係る吸着状態判別装置2c,2d,2eによると、直交面123がセンサ設置面D2とされることによって、使用可能なセンサの種類を多くすることができる。
【0115】
なお、図13(b)と図14(b)を比較するとわかるように、センサ設置面D2が直交面123とされた場合も、センサ設置面D2が平行面122とされた場合と同様、センサ21を第1分割領域D21に設けた場合と、第2分割領域D22に設けた場合とでは、磁束密度変化量ΔBと吸着力Fとの関係は、完全一致はしないものの、似た傾向を示すものとなる。また、図13(b)あるいは図14(b)と、図15(b)を比較するとわかるように、センサ設置面D2が直交面123とされた場合も、センサ設置面D2が平行面122とされた場合と同様、センサ21が第3分割領域D23に設けられる場合、漏れ出る磁束量の変化幅Uが広い傾向があり、実験1,2を行うことで導出される磁束密度変化量ΔBと吸着力Fとの関係において線形性が大きく崩れる領域Aが現れる。したがって、求められる判別精度やセンサ21の測定レンジなどを考慮して、センサ21をどの分割領域D21,D22,D23に設置するかを規定することが好ましい。
【0116】
<5.第5実施形態>
<5-1.装置構成>
第5実施形態は、吸着装置1の構成において第1実施形態と相違する。ここでも、第1実施形態と相違する点を説明し、第1実施形態で説明した要素については説明を省略するとともに同じ符号で表すものとする。
【0117】
第5実施形態に係る吸着装置の構成について、図16図18を参照しながら説明する。図16は、吸着装置1aおよびここに設けられる吸着状態判別装置2を模式的に示す図である。図17は、励磁状態と非励磁状態を説明するための図である。図18は、吸着装置1aが備える制御部14の機能構成を示すブロック図である。
【0118】
(吸着装置1a)
吸着装置1aは、永久磁石の磁力を利用して、吸着対象物9に吸着する装置である点は、第1実施形態に係る吸着装置1と同様である。しかしながら、この吸着装置1aは、複数の永久磁石を含んで永電磁石が構成されている点において、吸着装置1と相違する。すなわち、吸着装置1aは、一対の永久磁石11a,11bと、一対のヨーク12,12と、コイル13と、制御部14と、を備える。
【0119】
一対の永久磁石11a,11bは、いずれも略直方体であり、略同一形状を有している。一方の永久磁石(第1永久磁石)11aは、例えばネオジム磁石により構成され、第1保磁力を有する。他方の永久磁石(第2永久磁石)11bは、例えばアルニコ磁石により構成され、第1保磁力よりも低い第2保磁力を有する。第1永久磁石11aは、その保磁力が比較的大きいため、外部磁場により磁化方向が容易に反転しない。これに対し、第2永久磁石11bは、その保磁力が比較的小さいため、外部磁場により磁化方向が容易に反転する。
【0120】
一対の永久磁石11a,11bは、磁化方向を互いに平行としつつ、磁化方向と直交する方向に並置される。以下において、説明の便宜上、各永久磁石11a,11bの磁化方向をX方向とよび、各永久磁石11a,11bが並置される方向をY方向とよぶ。
【0121】
一対のヨーク12,12は、互いに平行に配置された板状部材であり、磁性材料で形成されている。一対のヨーク12,12は、一対の永久磁石11a,11bを、磁化方向(X方向)についての両側から挟持する。すなわち、各ヨーク12は、永久磁石11a,11bの各磁極面に配置される。
【0122】
各ヨーク12,12のいずれかの端面は、吸着対象物9を吸着するための吸着面D1とされる。ここでは、各ヨーク12における、各永久磁石11a,11bの磁化方向(X方向)と平行、かつ、一対の永久磁石11a,11bの並置方向(Y方向)とも平行な面124が、吸着面D1とされる。一対のヨーク12,12は、吸着面D1以外の端面において、非磁性体で形成される支持部材(図示省略)を介して互いに接続されて、一体的に支持されている。
【0123】
コイル13は、一対の永久磁石11a,11bの周囲に巻回されている。コイル13にパルス状の電流(電流パルス)が供給されると、一対の永久磁石11a,11bのうち、相対的に保磁力が低い第2永久磁石11bの磁化方向が反転する。
【0124】
図17(a)に示されるように、一対の永久磁石11a,11bの磁化方向が互いに平行かつ逆向きである状態において、第1永久磁石11aからの磁束と第2永久磁石11bからの磁束はいずれも外部へ漏れ出されなくなり、吸着面D1は、吸着対象物9に吸着しない状態となる(以下「非励磁状態」ともいう)。
【0125】
吸着面D1が非励磁状態となっているときに、コイル13に第1方向の電流パルス(第1電流)が供給されると、第2永久磁石11bの磁化方向が反転し、図17(b)に示されるように、一対の永久磁石11a,11bの磁化方向が互いに平行かつ同じ向きとなる。この状態になると、第1永久磁石11aからの磁束と第2永久磁石11bからの磁束はいずれも外部へ漏れ出して、吸着面D1が吸着対象物9に吸着可能な状態となる(以下「励磁状態」ともいう)。一対の永久磁石11a,11bの磁化方向が互いに平行かつ同じ向きとなっているとき、一対の永久磁石11a,11bは1個の永久磁石と同等である。すなわち、吸着面D1が励磁状態となっているとき、吸着装置1aは、第1実施形態に係る吸着装置1と同じような挙動を示す。
【0126】
一方、吸着面D1が励磁状態となっているときに、コイル13に第1方向とは逆方向の第2方向の電流パルス(第2電流)が供給されると、第2永久磁石11bの磁化方向が反転し、一対の永久磁石11a,11bの磁化方向が互いに平行かつ逆向きとなり、吸着装置1aの吸着面D1が非励磁状態となる。
【0127】
なお、コイル13への電流パルスの供給が終了した後でも、第2永久磁石11bの磁化方向は維持される。したがって、第1電流の供給が終了した後、第2電流が供給されない限り、吸着面D1は励磁状態に維持される。また、第2電流の供給が終了した後、第1電流が供給されない限り、吸着面D1は非励磁状態に維持される。
【0128】
制御部14は、電流供給部141と、接触検知部142と、を備える。制御部14の実体は、例えばマイクロコンピュータ、つまりは、各種のモジュールが実装されたプリント基板であり、該プリント基板に、中央演算処理装置であるCPU、RAM等から構成されるメモリ、EEPROM等から構成される記憶部140、吸着状態判別装置2のセンサ21との通信を行う通信インターフェイス、等が実装された構成を備えている。そして、CPUが、記憶部140に格納されたプログラム(吸着力制御プログラム)P’をメモリに読み出して実行することによって、これらの各機能部141,142が実現される。もっとも、これら各機能部141,142の一部あるいは全部は、該機能を実現するための回路モジュールが実装されることにより実現されてもよい。
【0129】
なお、制御部14が備える機能の一部あるいは全部が、吸着状態判別装置2の制御部22を実現するマイクロコンピュータにおいて実現されてもよい。すなわち、吸着装置1aの制御部14と吸着状態判別装置2の制御部22が、共通のマイクロコンピュータにより実現されてもよい。また、制御部14が備える機能の一部あるいは全部が、無人飛行体100の制御部を実現するマイクロコンピュータなどにおいて実現されてもよい。すなわち、吸着装置1aの制御部14と無人飛行体100の制御部が、共通のマイクロコンピュータなどにより実現されてもよい。
【0130】
電流供給部141は、コイル13に電流を供給する要素であり、電池やバッテリなどの電源装置を含んで構成される。コイル13に供給される電流パルスの振幅(電流値)、該電流パルスの方向(すなわち、第1電流と第2電流のいずれを供給するかの選択)、および、該電流パルスの供給タイミング(すなわち、第1電流あるいは第2電流の供給タイミング)、などが、この電流供給部141によって制御される。
【0131】
電流供給部141がコイル13に第1電流を供給すると、第2永久磁石11bの磁化方向が第1永久磁石11aの磁化方向と同じ向きとなって、吸着面D1は吸着対象物9に吸着可能な励磁状態に設定される。一方、電流供給部141がコイル13に第2電流を供給すると、第2永久磁石11bの磁化方向が第1永久磁石11aの磁化方向と逆の向きとなって、吸着面D1が吸着対象物9に吸着しない非励磁状態に設定される。このようにして、電流供給部141がコイル13に供給する電流パルスを制御することで、吸着面D1の状態、ひいては、吸着面D1に対する吸着対象物9の脱着が制御される。
【0132】
接触検知部142は、吸着状態判別装置2のセンサ21と直接的に、あるいは、磁束密度取得部221を介して間接的に、接続されており、該センサ21が検出した磁束密度に基づいて、吸着面D1が吸着対象物9に接触したことを検知する。具体的には、接触検知部142は、センサ21が検出した磁束密度が急激に低下したときに、吸着面D1が吸着対象物9に接触したと判断する。
【0133】
<5-2.再励磁>
吸着装置1aにおいては、電流供給部141が、吸着面D1が吸着対象物9に接触していない状態で、コイル13に第1電流を供給して、吸着面D1を励磁状態に設定し、さらに、励磁状態にある吸着面D1が吸着対象物9に接触した状態で(すなわち、接触検知部142によって、吸着面D1が吸着対象物9に接触したことが検知された場合に)、コイル13にもう一度第1電流を供給して、吸着面D1を、再度、励磁状態に設定する(再励磁)。つまり、吸着面D1と吸着対象物9とが接触していない非接触状態での励磁(非接触磁化)の後に、吸着面D1と吸着対象物9とが接触している接触状態での励磁(接触磁化)が行われる。これによって、高い吸着力Fを得ることが可能となる。
【0134】
この点について、図19を参照しながら説明する。図19には、吸着装置1aの吸着面D1を一定速度で吸着対象物9に近づけていった場合に、センサ21で取得される磁束密度の経時変化が模式的に示されている。
【0135】
タイムカウントの前において、電流供給部141は、吸着対象物9が吸着面D1に接触していない状態で、第1電流をコイル13に供給している。すなわち、吸着面D1は予め励磁状態に設定されている。これにより、吸着装置1aは、非吸着状態Qにある吸着装置1(図4参照)と同等の状態となる。すなわち、磁束がヨーク12の外部に拡散して磁束の流れが広範囲に広がった状態となる。この状態において、センサ21で検出される磁束密度が、非吸着磁束密度Bqとなる。
【0136】
この状態から、吸着装置1aの吸着面D1を一定速度で吸着対象物9に近づけていくと、吸着面D1が吸着対象物9に接触したときに、センサ21で検出される磁束密度が急激に減少する(時刻Tc)。ただし、ここでいう「接触」とは、吸着面D1と吸着対象物9の間に隙間が設けられない状態だけでなく、吸着面D1と吸着対象物9の間に僅かな隙間が設けられている状態(すなわち、吸着面D1と吸着対象物9が近接している状態)も含まれる。つまり、ここでいう「接触」とは、別の見方をすると、吸着面D1が吸着対象物9との間に吸着状態が形成されることといえる。
【0137】
吸着面D1が吸着対象物9に接触したときに、センサ21で検出される磁束密度が急激に減少する理由は、上記の通り、吸着面D1が吸着対象物9に接触して吸着状態となると、ヨーク12の内部を通って吸着対象物9に向かう磁束が急激に増加し、ヨーク12から漏れ出る磁束が急激に減少するためと考えられる。なお、実際に測定された磁束密度は、時刻Tcの直後に、非吸着状態Qの磁束密度を超えないピークが現れ、その後、該ピークよりも低い磁束密度で安定する、という推移をたどるものであったが、図19では、説明をわかりやすくするために、磁束密度の推移を極めて単純化して模式的に示している。
【0138】
ここで、吸着面D1が吸着対象物9に接触した時刻Tcに、コイル13にもう一度第1電流を供給して、吸着面D1を再度励磁状態に設定した場合、その後の磁束密度は十分に低い値(第1磁束密度)B1となった。一方、時刻Tcに第1電流の供給を行なわなかった場合、その後の磁束密度は、第1磁束密度B1よりも高い値(第2磁束密度)B2となった。すなわち、時刻Tcに再度の励磁を行なった場合の磁束密度変化量ΔB1(=B1-Bq)は、これを行なわなかった場合の磁束密度の変化量ΔB2(=B2-Bq)と比べて、大きな値を示す。これは、時刻Tcに再度の励磁を行なうことによって、得られる吸着力Fが高まることを意味している。
【0139】
<5-3.動作の流れ>
次に、無人飛行体100に搭載された吸着装置1aで実行される処理の流れについて、図16図19に加え、図20を参照しながら説明する。図20は、該処理の流れを示す図である。
【0140】
ここでも、吸着装置1aおよび吸着状態判別装置2が搭載された無人飛行体100を用いて、人が直接に検査することが難しい構造物(例えば、橋梁)等の検査が行われる場合を例にとって説明する。
【0141】
この場合、オペレータは、手元の操作盤等を操作して遠隔操作により無人飛行体100を制御して、これを吸着対象物9の近傍まで飛行させる。そして、無人飛行体100が吸着対象物9の近傍に到達すると、オペレータは、無人飛行体100を、ここに搭載されている吸着装置1aの吸着面D1が、吸着対象物9と対向するような姿勢とし(図3(a))、該姿勢のまま無人飛行体100を吸着対象物9に接近させる。
【0142】
ステップS11:吸着装置1aでは、無人飛行体100が吸着対象物9に接近する前に(すなわち、吸着対象物9が吸着面D1に接触していない状態で)、電流供給部141が、第1電流をコイル13に供給して、吸着面D1を励磁状態に設定する(非接触励磁工程)。
【0143】
ステップS12:その後、無人飛行体100が吸着対象物9にさらに接近し、どこかのタイミングで吸着面D1が吸着対象物9に接触するところ、ここでは、接触検知部142が、センサ21が検出する磁束密度に基づいて、吸着面D1が吸着対象物9に接触したことを検知する(接触検知工程)。
【0144】
具体的には、接触検知部142は、センサ21が検出する磁束密度を監視しており、センサ21が検出した磁束密度が急激に低下したときに(ステップS121でYES)、吸着面D1が吸着対象物9に接触したと判断する(ステップS122)。ステップS121の判断の具体的な態様は、どのようなものであってもよい。例えば、センサ21が測定した磁束密度の所定時間あたりの変化量が、予め設定された閾値W2より大きくなった場合に、吸着面D1が吸着対象物9に接触したと判断することができる。また例えば、センサ21が検出した磁束密度が所定の閾値(すなわち、非吸着磁束密度Bqよりも十分に小さく、かつ、吸着状態における磁束密度B1,B2によりも十分に大きな値に設定された閾値)よりも小さくなった場合に、吸着面D1が吸着対象物9に接触したと判断してもよい。
【0145】
ステップS13:ステップS12で、吸着面D1が吸着対象物9に接触したことが検知されると、接触検知部142はその旨を電流供給部141に通知する。該通知を受けると、電流供給部141は、もう一度、コイル13に第1電流を供給して、吸着面D1を、再度、励磁状態に設定する(再励磁工程)。このように、吸着面D1が吸着対象物9接触した状態で再励磁(再磁化)が行われることで、これが行われない場合に比べて、高い吸着力Fが得られる。
【0146】
このようにして、吸着装置1aが吸着対象物9に吸着される(図3(b))。ただし、オペレータは、この段階では、まだプロペラ101の回転を停止させず、無人飛行体100の揚力を維持し続ける。そして、吸着状態判別装置2に上記の一連の処理ステップS1~ステップS4を一度行わせて、吸着状態が良好である旨の報知を受けた場合に、プロペラ101の回転を停止させる。
【0147】
ただし、吸着状態判別装置2が吸着装置1aに搭載される場合、磁束密度取得部221は、非接触励磁工程(ステップS11)と接触検知工程(ステップS12)との間のタイミングにおいて、センサ21が検出した磁束密度を、非吸着磁束密度Bqとして取得する(ステップS1)。また、磁束密度取得部221は、再励磁工程(ステップS13)が行われた後に、センサ21が検出した磁束密度を、対象磁束密度Btとして取得する。取得された磁束密度Bq,Btに基づいて判別部222が吸着状態の良否を判別する態様は、第1実施形態において説明した通りである。
【0148】
<5-4.効果>
このように、第5実施形態に係る吸着装置1aは、コイル13と、コイル13に電流を供給する電流供給部141と、を備え、第1保磁力を有する第1永久磁石11aと、第1保磁力より低い第2保磁力を有する第2永久磁石11bと、を含んで構成されている。そして、電流供給部141が、コイル13に第1電流を供給することで、第2永久磁石11bの磁化方向が第1永久磁石11aの磁化方向と同じ向きとなって、吸着面D1が吸着対象物9に吸着可能な励磁状態に設定され、電流供給部141が、コイル13に第2電流を供給することで、第2永久磁石11bの磁化方向が第1永久磁石11aの磁化方向と逆の向きとなって、吸着面D1が吸着対象物9に吸着しない非励磁状態に設定される。
【0149】
この構成によると、吸着面D1を励磁状態あるいは非励磁状態に維持するために通電を継続させる必要がないため、消費電力を抑えることができる。また、電流供給部141、ひいては、吸着装置1aの小型化および軽量化が実現される。
【0150】
また、第5実施形態に係る吸着装置1aは、センサ21が検出した磁束密度に基づいて、励磁状態にある吸着面D1が吸着対象物9に接触したことを検知する接触検知部142、を備え、接触検知部142により吸着面D1が吸着対象物9に接触したことが検知された場合に、電流供給部141がコイル13に第1電流を供給して、吸着面D1を再度励磁状態に設定する。
【0151】
この構成によると、吸着面D1が吸着対象物9に接触したときに、吸着面D1を再度励磁状態に設定することで、高い吸着力を発揮させることができる。特にここでは、吸着面D1が吸着対象物9に接触したことの検知が、吸着状態判別装置2が備えるセンサ21を利用してなされるので、接触したことを検知するためのセンサ21を別途設ける必要がない。したがって、装置構造が簡素化される。
【0152】
<6.変形例>
上記の各実施形態に係る吸着状態判別装置2,2a~2eでは、記憶部220に格納された関係式Kを用いて吸着状態の良否を判別するものとし、この関係式Kは、非吸着状態Qからの磁束密度の変化量である磁束密度変化量ΔBと吸着力Fとの関係を規定するものであったが、関係式は、磁束密度と吸着力Fとの関係を規定するものであってもよい。具体的には例えば、実験1,2から磁束密度と吸着力Fとの関係を導出し、これを定式化した線形関数を、関係式として用いてもよい。磁束密度と吸着力Fとの関係を規定する関係式は、磁束密度変化量ΔBと吸着力Fとの関係を規定する関係式Kを、非吸着磁束密度Bqの値分だけ+X方向にスライドさせたものとなる。磁束密度と吸着力Fとの関係を規定する関係式が用いられる場合、判別部222は、対象磁束密度Btから磁束密度変化量ΔBtを算出する処理を行うことなく、対象磁束密度Btをそのまま関係式に代入することによって、発揮されている吸着力Ftの推定値を算出する。
【0153】
上記の各実施形態に係る吸着状態判別装置2,2a~2eでは、関係式Kは、実験1,2から導出される磁束密度変化量ΔBと吸着力Fとの関係を定式化した線形関数であったが、関係式は必ずしもこのような線形関数でなくともよい。例えば、実験1,2から導出される磁束密度変化量ΔBと吸着力Fとの関係を、各種の近似法で近似して得られた非線形な関数を、関係式として用いてもよい。また例えば、実験1,2から導出される磁束密度変化量ΔBと吸着力Fとの関係をテーブル化したデータを、関係式として用いてもよい。
【0154】
上記の各実施形態に係る吸着状態判別装置2,2a~2eでは、複数の複数のサンプル吸着状態Piを規定して実験1および実験2を行って、磁束密度変化量ΔBと吸着力Fとの関係を導出していたが、例えば、完全吸着状態P0のみについて実験1および実験2を行って、完全吸着状態P0の磁束密度変化量ΔBp0と吸着力F0だけを特定し、これがプロットされる一点と原点とを結ぶ線形関数を、関係式Kとして用いてもよい。あるいは、完全吸着状態P0の磁束密度変化量ΔBp0と吸着力F0を理論計算などによって特定し、これがプロットされる一点と原点とを結ぶ線形関数を、関係式Kとして用いてもよい。例えば、ヨーク12における、磁化方向と平行な面122をセンサ設置面D2とし、その第1分割領域D21あるいは第2分割領域D22にセンサ21を設ける場合、磁束密度変化量ΔBと吸着力Fとの関係は、十分に高い線形性を有することが確認されている。したがって、センサ21がこのような位置に設けられる場合には、この変形例に係る態様で関係式Kを取得しても、吸着状態の判別精度を十分に良好なものとすることができる。
【0155】
上記の各実施形態に係る吸着状態判別装置2,2a~2eにおいて、温度センサをさらに設けてもよい。すなわち、吸着装置1の所定位置(好ましくは、センサ21の近傍)に、温度センサを設けておき、磁束密度取得部221が、センサ21が検出した磁束密度を、温度センサが検出した温度に基づいて適宜に補正するものとしてもよい。この構成によると、温度の影響を排除した磁束密度を用いて吸着力の判別を行うことができるので、吸着状態の判別精度を向上させることができる。
【0156】
上記の各実施形態に係る吸着状態判別装置2,2a~2eでは、ヨーク12における、吸着面D1と連なってこれと直交する面122がセンサ設置面D2とされていたが、吸着面D1と平行な面がセンサ設置面D2とされてもよいし、吸着面D1がセンサ設置面D2とされてもよい。後者の場合、吸着面D1と吸着対象物9との密着が妨げられないように、吸着面D1に凹部などを設けて、この凹部内にセンサ21を設置することも好ましい。
【0157】
上記の各実施形態に係る吸着状態判定装置2,2a~2eの制御部22は、磁束密度取得部221と、判別部222と、を備えるものとしたが、その少なくとも一部が、無人飛行体100の制御部において実現されてもよい。例えば、無人飛行体100が、オペレータが手元で操作する操作盤等に設けられた制御部102を含んで構成され、この制御部102から無人飛行体100の本体部に送出される信号に応じて該本体部が制御される構成である場合に、図21に示されるように、判別部222がこの制御部102において実現されてもよい。この場合、例えば無人飛行体100の本体部に搭載されている制御部22にて実現されている磁束密度取得部221が取得した磁束密度の値が、無人飛行体100の本体部から送出されて、制御部102にて受信され、該制御部102において実現される判別部222が、該受信された磁束密度の値に基づいて、制御部102の記憶部1021に記憶されている関係式Kおよび閾値W1を用いて、吸着状態の良否を判別することになる。このような構成によると、オペレータが操作盤等を操作しながら、状況に応じて適宜に閾値W1を変更することなども容易である。このような構成において、磁束密度取得部221も制御部102において実現されるものとし、無人飛行体100の本体部に搭載されているセンサ21が検出した磁束密度の値が、無人飛行体100の本体部から送出されて、制御部102で実現される磁束密度取得部221にて取得されるものとしてもよい。
【0158】
上記の各実施形態に係る吸着装置1,1aは、一対のヨーク12,12を備えるものとしたが、ヨークの個数は2個に限られるものではない。例えば、一方のヨーク12を省略して、1個のヨーク12のみを備える構成としてもよい。また、上記の各実施形態に係る吸着装置1,1aにおいて、一対のヨーク12,12と永久磁石11(11a,11b)との位置関係を、適宜に変更してもよい。
【0159】
上記の各実施形態に係る吸着装置1,1aにおいて、各ヨーク12,12は直方体状であるとしたが、ヨークの形状はこれに限られるものではない。例えば、上記の各実施形態に係るヨーク12において、磁化方向と直交する面121が、磁化方向に対して90度ではない角度をなして交差する面であってもよい。また、磁化方向と平行なする面122~124が、互いに90度ではない角度をなして交差するものであってもよい。
【0160】
第1実施形態に係る吸着装置1において、永久磁石11の磁力を打ち消す磁力を発生する電磁石をさらに設けてもよい。この場合、電磁石対する通電を停止すると、永久磁石11の吸着力が発揮される状態となり、電磁石に対する通電を行っている間は、該吸着力が発揮されない状態となる。
【0161】
第1実施形態に係る吸着装置1は、永久磁石11としてネオジム磁石を使用したが、永久磁石11の種類はこれに限られるものではなく、その他の各種の磁石(例えば、アルニコ磁石)を使用してもよい。
【0162】
上記の各実施形態に係る吸着装置1,1aにおいては、ヨーク12における、各永久磁石11(11a,11b)の磁化方向と平行な面が吸着面D1とされていたが、磁化方向と交差する面が吸着面D1とされてもよい。
【0163】
第5実施形態に係る吸着装置1aにおいては、ヨーク12における、各永久磁石11a,11bの磁化方向と平行、かつ、一対の永久磁石11a,11bの並置方向とも平行な面124が、吸着面D1とされていたが、例えば、ヨーク12における、各永久磁石11a,11bの磁化方向と平行、かつ、一対の永久磁石11a,11bの並置方向と垂直な面が、吸着面D1とされてもよい。また、そのような面のうち、第2永久磁石11bに近い側の面が、吸着面D1とされることも好ましい。
【0164】
第5実施形態に係る吸着装置1aは、第1永久磁石11aとしてネオジム磁石を使用し、第2永久磁石11bとしてアルニコ磁石を使用するものとしたが、各永久磁石11a,11bの種類はこれに限られるものではなく、互いに異なる保磁力を有する各種の永久磁石を組み合わせて用いることができる。また、吸着装置1aは、保磁力が異なる3個以上の永久磁石を含んで構成されてもよい。
【0165】
第5実施形態に係る吸着装置1aにおいて、再励磁を行うことは必須の要件ではない。例えば、吸着装置1aにおいて、吸着面D1を非励磁状態としたまま吸着対象物9に接近させて、所定のタイミングで、電流供給部141が、第1電流をコイル13に供給して、吸着面D1を非励磁状態から励磁状態に切り換えるものとしてもよい。
【0166】
第5実施形態に係る吸着装置1aにおいて、コイル13は、永久磁石11a,11bに巻回されていたが、コイル13の配置はこれに限られるものではない。
【0167】
上記の各実施形態に係る吸着装置1,1aは、無人飛行体100に搭載されたものであったが、吸着装置1,1aが搭載される対象は無人飛行体100に限られるものではなく、各種の荷役装置などに搭載されてもよい。例えば、吸着装置1,1aは、水平面や傾斜面等を走行可能に構成された移動体に搭載されてもよい。また例えば、吸着装置1,1aは、図22に示されるように、ロボット(マニピュレータ)100aのハンド101aに搭載されてもよい。この場合、ハンド101aに設けられた吸着装置1,1aが、ヨーク12に設定された吸着面D1を介して吸着対象物9に吸着することで、ハンド101aで吸着対象物9を保持することができる。例えば、吸着装置1,1aが吸着対象物9に吸着した状態で、吸着状態判別装置2,2a~2eがその吸着状態が良好か否かを判別し、吸着状態が良好であると判別された場合に限って、ハンド101aを動かすようにすることで、ロボット100aが吸着対象物9を落としてしまうといった事故の発生を未然に防止することができる。
【0168】
上記の各実施形態に係る無人飛行体100には、一組の吸着装置1,1aが搭載されるものとしたが、複数の吸着装置1,1aが搭載されてもよい。この場合、複数の吸着装置1,1aの各々に吸着状態判別装置2,2a~2eが設けられてもよいし、一部の吸着装置1,1aにのみ吸着状態判別装置2,2a~2eが設けられてもよい。
【0169】
いうまでもなく、上記の各実施形態および各変形例は、互いに組み合わせることができる。例えば、第5実施形態に係る吸着装置1aに設けられる吸着状態判別装置2において、ヨーク12における、永久磁石11a,11bの磁化方向と平行な面がセンサ設置面D2とされてもよく、ヨーク12における、永久磁石11a,11bの磁化方向と垂直な面がセンサ設置面D2とされてもよい。また、センサ設置面D2を、吸着面D1の法線方向に3等分割したときの3個の分割領域D21,D22,S23のいずれにセンサ21が設けられてもよい。
【0170】
その他の構成も、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0171】
1 吸着装置
11 永久磁石
12 ヨーク
1a 吸着装置
11a,11b 永久磁石
12 ヨーク
13 コイル
14 制御部
141 電流供給部
142 接触検知部
2,2a~2e 吸着状態判別装置
21 センサ
22 制御部
221 磁束密度取得部
222 判別部
D1 吸着面
D2 センサ設置面
D21 第1分割領域
D22 第2分割領域
D23 第3分割領域
K 関係式
P 吸着状態判別プログラム
P’ 吸着力制御プログラム
100 無人飛行体
100a ロボット
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図10
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