IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日産自動車株式会社の特許一覧 ▶ ルノー エス.ア.エス.の特許一覧

<>
  • 特許-走行支援方法及び走行支援装置 図1
  • 特許-走行支援方法及び走行支援装置 図2A
  • 特許-走行支援方法及び走行支援装置 図2B
  • 特許-走行支援方法及び走行支援装置 図3
  • 特許-走行支援方法及び走行支援装置 図4
  • 特許-走行支援方法及び走行支援装置 図5
  • 特許-走行支援方法及び走行支援装置 図6
  • 特許-走行支援方法及び走行支援装置 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】走行支援方法及び走行支援装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 30/045 20120101AFI20241106BHJP
【FI】
B60W30/045
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021004139
(22)【出願日】2021-01-14
(65)【公開番号】P2022108912
(43)【公開日】2022-07-27
【審査請求日】2023-11-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100114177
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】小田 貴嗣
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 雄哉
【審査官】吉村 俊厚
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-147791(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00 - 60/00
G08G 1/00 - 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のアンダーステア挙動が発生したか否かを判定し、
前記車両にアンダーステア挙動が発生したと判定した場合に、前記アンダーステア挙動を抑制するための復元ヨーモーメントを設定し、
前記車両のアクセル操作量又は前記車両の目標車速に基づいて、前記後輪に生じる前後方向の駆動力の目標値である基本後輪前後力を設定し、
前記車両に発生させるヨーモーメントと横力の目標値である目標ヨーモーメントと目標横力とに基づいて、前記後輪に生じる横力の目標値である基本後輪横力を設定し、
前記復元ヨーモーメントに基づいて、前記後輪に生じる前後方向の駆動力の補正量である補正前後力と、前記後輪に生じる横力の補正量である補正横力と、を設定し、
前記基本後輪前後力と前記補正前後力の和と前記基本後輪横力と前記補正横力の和とに基づいて、前記後輪の駆動力と転舵角とを設定することによって、前記車両の後輪の駆動力を増加させ前記後輪に生じる横力を減少させる、
ことを特徴とする走行支援方法。
【請求項2】
前記復元ヨーモーメントと、前記基本後輪横力と、前記目標ヨーモーメントとに基づいて、前記補正横力を算出し、
前記補正横力と、前記基本後輪横力と、前記基本後輪前後力と、前記後輪の摩擦円の径の大きさとに基づいて、前記補正前後力を算出する、
ことを特徴とする請求項に記載の走行支援方法。
【請求項3】
前記車両にアンダーステア挙動が発生したと判定した場合に、前記車両の前輪の駆動力を減少させることにより前記前輪に生じる横力を増加させる、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の走行支援方法。
【請求項4】
車両の車両挙動を検出するセンサと、
前記車両の後輪に駆動力を発生させる駆動源と、
前記センサの検出結果に基づいてアンダーステア挙動が発生したか否かを判定し、前記車両にアンダーステア挙動が発生したと判定した場合に、前記アンダーステア挙動を抑制するための復元ヨーモーメントを設定し、前記車両のアクセル操作量又は前記車両の目標車速に基づいて、前記後輪に生じる前後方向の駆動力の目標値である基本後輪前後力を設定し、前記車両に発生させるヨーモーメントと横力の目標値である目標ヨーモーメントと目標横力とに基づいて、前記後輪に生じる横力の目標値である基本後輪横力を設定し、前記復元ヨーモーメントに基づいて、前記後輪に生じる前後方向の駆動力の補正量である補正前後力と、前記後輪に生じる横力の補正量である補正横力と、を設定し、前記基本後輪前後力と前記補正前後力の和と前記基本後輪横力と前記補正横力の和とに基づいて、前記後輪の駆動力と転舵角とを設定することによって、前記駆動源により前記車両の後輪に発生させる駆動力を増加させ前記後輪に生じる横力を減少させるコントローラと、
を備えることを特徴とする走行支援援置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行支援方法及び走行支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、車両のオーバーステア挙動又はアンダーステア挙動を抑制するのに必要なヨーモーメントを、左右輪の制動力で発生させる技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012‐51456号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、自車両のアンダーステア挙動が発生した場合に、ブレーキによってアンダーステア挙動を抑制すると自車両の速度が低下する。
本発明は、自車両のアンダーステア挙動を抑制する際の自車両の減速を軽減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様による走行支援方法では、車両のアンダーステア挙動が発生したか否かを判定し、車両にアンダーステア挙動が発生したと判定した場合に、車両の後輪の駆動力を増加させることにより後輪に生じる横力を減少させる。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、自車両のアンダーステア挙動を抑制する際の自車両の減速を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施形態の走行支援装置の概略構成図である。
図2A】アンダーステア挙動が発生した状態の説明図である。
図2B】実施形態の走行支援方法によるアンダーステア挙動抑制の一例の説明図である。
図3図1に示すコントローラの機能構成の一例を示すブロック図である。
図4】第1実施形態の車輪力制御部の機能構成の一例を示すブロック図である。
図5】補正後輪前後力と補正後輪横力の演算方法の一例の説明図である。
図6】第1実施形態の走行支援方法の一例のフローチャートである。
図7】第2実施形態の車輪力制御部の機能構成の一例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、各図面は模式的なものであって、現実のものとは異なる場合がある。また、以下に示す本発明の実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の構造、配置等を下記のものに特定するものではない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0009】
(第1実施形態)
(構成)
図1を参照する。自車両1は、自車両1の走行支援を行う走行支援装置10を備える。走行支援装置10による走行支援には、自車両1の周辺の走行環境に基づいて、運転者が関与せずに自車両1を自動で運転する自動運転制御や、運転者による自車両1の運転を支援する運転支援制御を含んでよい。
運転支援制御には、自車両1の操舵装置、駆動装置、制動装置の少なくとも一つを自動的に制御する走行制御を含んでよい。
【0010】
走行支援装置10は、操舵角センサ11と、転舵角センサ12と、車速センサ13と、ヨーレイトセンサ14と、アクセルセンサ15と、ブレーキセンサ16と、コントローラ17と、アクチュエータ18と、動力コントローラ19と、駆動源20を備える。
操舵角センサ11は、自車両1のステアリングホイールの操舵角θsを検出する。
転舵角センサ12は、自車両1の操向輪の実転舵角を検出する。例えば、自車両1が前輪操舵車両である場合には、転舵角センサ12は、右前輪2FR及び左前輪2FLの実転舵角を検出する。また例えば、自車両1が四輪操舵車両である場合には、転舵角センサ12は、右前輪2FR及び左前輪2FLの実転舵角と、右後輪2RR及び左後輪2RLの実転舵角をそれぞれ検出する。
以下、転舵角センサ12により検出された実転舵角を総称して「実転舵角θt」と表記することがある。また、右前輪2FR及び左前輪2FLと、右後輪2RR及び左後輪2RLとを、それぞれ総称して「前輪2F」及び「後輪2R」と表記することがある。
【0011】
車速センサ13は、自車両1の車速Vを検出する。
ヨーレイトセンサ14は、自車両1のヨーレイトγを検出する。
アクセルセンサ15は、運転者による加減速ペダル(アクセルペダル)の操作量(踏み込み操作量)Acを検出する。
ブレーキセンサ16は、運転者による制動用ペダルの操作量Brを検出する。
コントローラ17は、自車両1の走行支援制御を行う電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)である。コントローラ17は、プロセッサ21と、記憶装置22等を含む。プロセッサ21は、例えばCPU(Central Processing Unit)、やMPU(Micro-Processing Unit)であってよい。記憶装置22は、半導体記憶装置、磁気記憶装置及び光学記憶装置を備えてよい。記憶装置22は、レジスタ、キャッシュメモリ、主記憶装置として使用されるメモリを含んでよい。
【0012】
以下に説明するコントローラ17による情報処理は、例えば、記憶装置22に格納されたコンピュータプログラムを、プロセッサ21が実行することによって実現されてよい。また、以下に説明するコントローラ17による情報処理を、汎用の半導体集積回路中に設定される機能的な論理回路で実行してもよい。例えば、コントローラ17はフィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ等のプログラマブル・ロジック・デバイス等を有していてもよい。コントローラ17による走行支援制御については後述する。
【0013】
アクチュエータ18は、コントローラ17からの制御信号に応じて、自車両1の操舵装置と、駆動装置と制動装置を操作して、自車両1の車両挙動を発生させる。アクチュエータ18は、転舵アクチュエータとブレーキ制御アクチュエータを備える。
転舵アクチュエータは、自車両1の実転舵角θtを制御する。転舵アクチュエータは、例えば、電動パワーステアリングシステムにおいて操舵補助力を付与する操舵補助モータであってもよく、ステアリングホイールと操向輪とが機械的に分離されたステアリングバイワイヤシステムにおいて操向輪を操舵する転舵モータであってもよい。
ブレーキ制御アクチュエータは、自車両1の制動装置の制動動作を制御する。
【0014】
動力コントローラ19は、コントローラ17からの制御信号に応じて、自車両1の駆動力を発生させる駆動源20(例えばエンジン、電動機)により発生させる駆動トルクを制御する。
また、動力コントローラ19は、コントローラ17からの制御信号に応じて、駆動源20から前輪2F及び後輪2Rへ伝達する駆動トルクを制御する。コントローラ17からの制御信号は、前輪2Fの駆動トルクTrf及び後輪2Rの駆動トルクTrrを含む。
コントローラ17は、運転者によるステアリングホイール、加減速ペダル及び制動用ペダルの操作入力である手動運転入力と、自動運転制御からの自動運転入力とを仲裁して、アクチュエータ18及び動力コントローラ19に制御信号を出力する。
【0015】
次に、コントローラ17による走行支援制御の概要を説明する。コントローラ17は、自車両1のアンダーステア挙動が発生すると、アンダーステア挙動を抑制して自車両1の車両挙動を安定させることにより自車両1の走行を支援する。
図2Aは、アンダーステア挙動が発生した状態の説明図である。簡単のため、二輪モデルを用いて自車両1を表現している(図2Bも同様)。矢印Fyfは、前輪2Fにて発生する横力である前輪横力を示し、矢印Fyrは、後輪2Rにて発生する横力である後輪横力を示す。円Cfは、前輪2Fの摩擦円である前輪摩擦円を示し、円Crは、後輪2Rの摩擦円である後輪摩擦円を示す。摩擦円は、タイヤの摩擦力の限界となる前後力及び横力の大きさを表現する。
【0016】
図2Aの例では、自車両1の目標ヨーモーメントに比べて実際のヨーモーメントMzAが過小となりアンダーステア挙動が発生している。
ここで、例えば制動により後輪横力Fyrを減らしてアンダーステア挙動を抑制しようとすると、自車両1の減速を伴う。
そこで、コントローラ17は、自車両1にアンダーステア挙動が発生したと判定した場合に、後輪2Rの駆動力(駆動トルクTrr)を増加させることにより後輪横力Fyrを減少させて、アンダーステア挙動を抑制するための復元ヨーモーメントMzResを発生させる。
【0017】
図2Bを参照する。矢印Fxrは、後輪2Rに生じる前後方向の駆動力である後輪前後力を示す。後輪2Rの駆動力を増加させることにより後輪前後力Fxrは増加する。矢印Frは、後輪横力Fyrと後輪前後力Fxrの合力ベクトルを示す。
後輪2Rの駆動力を増加させて、合力ベクトルFrの大きさを後輪摩擦円Crで制限することにより、後輪横力Fyrを減少させることができる。
以上のように、実施形態の走行支援制御によれば、後輪2Rの駆動力を増加させることによって後輪横力Fyrを減少させることができるので、制動することによって速度が低下することなくアンダーステア挙動を抑制できる。これにより、自車両1のアンダーステア挙動を抑制する際の自車両1の減速を軽減できる。
【0018】
図3は、コントローラ17の機能構成の一例を示すブロック図である。コントローラ17は、目標前後力設定部30と、目標横力設定部31と、目標ヨーモーメント設定部32と、復元ヨーモーメント設定部33と、目標ヨーモーメント修正部34と、車輪力制御部35と、前輪制御量設定部36と、後輪制御量設定部37を備える。
目標前後力設定部30は、運転者による加減速ペダルの操作量Acに基づいて、自車両1に発生させる前後方向の駆動力の目標値である目標前後力FxReqを設定する。
目標横力設定部31と目標ヨーモーメント設定部32は、操舵角θsと車速Vに基づいて、自車両1に発生させる横力の目標値である目標横力FyReqと、自車両1に発生させるヨーモーメントの目標値である第1目標ヨーモーメントMzReq1と、をそれぞれ設定する。なお、目標前後力設定部30は、加減速ペダルの操作量Acに代えて、自動運転制御や運転支援制御によって目標前後力FxReqを設定してもよい。例えば目標前後力設定部30は、自動運転制御や運転支援制御により設定された目標車速に応じて、目標前後力FxReqを設定してもよい。
目標横力設定部31と目標ヨーモーメント設定部32は、操舵角θsと車速Vに代えて、自動運転制御や運転支援制御によって目標横力FyReqと第1目標ヨーモーメントMzReq1とを設定してもよい。目標横力設定部31と目標ヨーモーメント設定部32は、自動運転制御や運転支援制御によって設定された目標走行軌道や目標車両姿勢に応じて、目標横力FyReqと第1目標ヨーモーメントMzReq1とを設定してもよい。
【0019】
復元ヨーモーメント設定部33は、自車両1に発生している実際のヨーレイトγと実転舵角θtに基づいて、自車両1のアンダーステア挙動が発生したか否かを判定する。例えば、実転舵角θtに応じた理想的なヨーレイトに比べて実際のヨーレイトγが過小である場合に、自車両1のアンダーステア挙動が発生したと判定してよい。また、実際のヨーレイトγと実転舵角θtとから、それぞれ実際のヨーモーメントと理想的なヨーモーメントを演算し、理想的なヨーモーメントに比べて実際のヨーモーメントが過小である場合に、自車両1のアンダーステア挙動が発生したと判定してよい。
アンダーステア挙動が発生したと判定した場合、復元ヨーモーメント設定部33は、アンダーステア挙動を抑制するための復元ヨーモーメントMzResを設定する。例えば、理想的なヨーモーメントから実際のヨーモーメントを減算して得られる偏差を、復元ヨーモーメントMzResとして演算してよい。
【0020】
目標ヨーモーメント修正部34は、目標ヨーモーメント設定部32が演算した第1目標ヨーモーメントMzReq1を、復元ヨーモーメントMzResによって補正することによって得られる第2目標ヨーモーメントMzReq2を演算する。第2目標ヨーモーメントMzReq2は、自車両1に発生させるヨーモーメントの最終的な目標値である。例えば、目標ヨーモーメント修正部34は、第1目標ヨーモーメントMzReq1と復元ヨーモーメントMzResとの和を、第2目標ヨーモーメントMzReq2として演算してよい。
車輪力制御部35は、目標前後力FxReqと、目標横力FyReqと、第1目標ヨーモーメントMzReq1と、第2目標ヨーモーメントMzReq2に基づいて、目標前輪前後力Fxfと、目標後輪前後力Fxrと、目標前輪横力Fyfと、目標後輪横力Fyrを演算する。
【0021】
目標前輪前後力Fxfは、前輪2Fに生じる前後方向の駆動力の目標値であり、目標後輪前後力Fxrは、後輪2Rに生じる前後方向の駆動力の目標値である。目標前輪横力Fyfは前輪2Fに生じる横力の目標値であり、目標後輪横力Fyrは後輪2Rに生じる横力の目標値である。
車輪力制御部35の詳細は後述する。
前輪制御量設定部36は、目標前輪前後力Fxfと目標前輪横力Fyfとに基づいて、前輪2Fの駆動トルクTrfと転舵角Stfを設定する。
また、後輪制御量設定部37は、目標後輪前後力Fxrと目標後輪横力Fyrとに基づいて、後輪2Rの駆動トルクTrrと転舵角Strを設定する。
図1に示す動力コントローラ19は、前輪制御量設定部36と後輪制御量設定部37が設定した駆動トルクTrf、Trrをそれぞれ前輪2Fと後輪2Rとに伝達する。アクチュエータ18は、前輪制御量設定部36と後輪制御量設定部37が設定した転舵角Stf、Strに基づいて、前輪2Fと後輪2Rを転舵する。
【0022】
図4は、第1実施形態の車輪力制御部35の機能構成の一例を示すブロック図である。車輪力制御部35は、前後力分配部40と、目標車輪横力演算部41と、横力補正量演算部42と、補正車輪力演算部43と、加算器44及び45を備える。
前後力分配部40は、目標前後力設定部30が設定した目標前後力FxReqを、前輪2Fにて発生させる前後方向の駆動力の目標値である目標前輪前後力Fxfと、後輪2Rにて発生させる前後方向の駆動力の目標値である基本後輪前後力Fxr0に分配する。
目標車輪横力演算部41は、目標横力FyReqと第1目標ヨーモーメントMzReq1とに基づいて、前輪2Fにて発生させる横力の目標値である目標前輪横力Fyfと、後輪2Rにて発生させる横力の目標値である基本後輪横力Fyr0とを演算する。
例えば目標車輪横力演算部41は、次式(1)及び(2)に基づいて目標前輪横力Fyfと基本後輪横力Fyr0とを演算してよい。
【0023】
【数1】
【0024】
式中、lf、lrはそれぞれ自車両1の車体の重心から前輪車軸及び後輪車軸までの距離を示し、lは、前輪車軸と後輪車軸との間の距離を示す。
横力補正量演算部42は、目標横力FyReqと、第1目標ヨーモーメントMzReq1と、第2目標ヨーモーメントMzReq2とに基づいて、後輪2Rの駆動力の増加によって後輪2Rの横力を減少させる補正量である後輪横力補正量Cyrを演算する。横力補正量演算部42は、後輪2Rの駆動力の増加により減少した後の最終的な後輪横力Fyrに対する基本後輪横力Fyr0の偏差を、後輪横力補正量Cyrとして演算する。
例えば、横力補正量演算部42は、次式(3)に基づいて後輪横力補正量Cyrを演算してよい。
【0025】
【数2】
【0026】
補正車輪力演算部43は、基本後輪前後力Fxr0と、基本後輪横力Fyr0と、後輪横力補正量Cyrとに基づいて、後輪2Rに生じる前後方向の駆動力の補正量である補正後輪前後力ΔFxrと、後輪2Rに生じる横力の補正量である補正後輪横力ΔFyrと、を演算する。
図5は、補正後輪横力ΔFyrと補正後輪前後力ΔFxrの演算方法の一例の説明図である。
まず、後輪横力補正量Cyrは、補正後の後輪横力Fyrに対する基本後輪横力Fyr0の偏差であるので、後輪横力補正量Cyrの符号を反転して補正後輪横力ΔFyrを得る(次式(4))。
【0027】
【数3】
【0028】
次に、基本後輪横力Fyr0に補正後輪横力ΔFyrを加えて(すなわち基本後輪横力Fyr0から後輪横力補正量Cyrを減じて)得られる目標後輪横力Fyrと、基本後輪前後力Fxr0に補正後輪前後力ΔFxrを加えて得られる目標後輪前後力Fxrとの合力ベクトルFrの大きさを、後輪2Rの摩擦円Crの径に基づいて設定し、合力ベクトルFrと目標後輪横力Fyrと基本後輪前後力Fxr0に基づいて補正後輪前後力ΔFxrを演算する。例えば、合力ベクトルFrの大きさが後輪2Rの摩擦円Crの径(例えば半径)と等しくなるように、補正後輪前後力ΔFxrを演算してよい。
摩擦円Crの前後方向の最大値と横方向の最大値を、それぞれFxMaxとFyMaxとすると、補正車輪力演算部43は、例えば次式(5)に基づいて補正後輪前後力ΔFxrを演算してよい。
なお、補正車輪力演算部43は、各車輪の荷重に応じて最大値FxMax及びFyMaxを演算してよい。各車輪の荷重は、例えばサスペンションのストロークなど公知の手法によって検出できる。
【0029】
【数4】
【0030】
加算器44及び45は、基本後輪前後力Fxr0と基本後輪横力Fyr0とに、補正後輪前後力ΔFxrと補正後輪横力ΔFyrとをそれぞれ加算して、目標後輪前後力Fxrと目標後輪横力Fyrを演算する。
なお、前輪2F及び後輪2Rの両方が転舵できる四輪操舵車両の例について説明したが、自車両1は、前輪2Fのみが転舵できる前輪操舵車両であってもよい。後述の第2実施形態及び第3実施形態においても同様である。前輪操舵車両であっても、後輪2Rの駆動力を増加させることによって後輪横力Fyrを減少させてアンダーステア挙動を抑制する効果を奏する。
【0031】
また、前輪2F及び後輪2Rの両方で駆動力を発生する四輪駆動車両の例について説明したが、第1実施形態の自車両1は、後輪2Rにて駆動力を発生できる車両であれば足りる。したがって、第1実施形態の自車両1は後輪駆動車両であってもよい。
また、右後輪2RRと左後輪2RLの駆動力Trrが互いに等しい例について説明したが、右後輪2RRと左後輪2RLとで異なる駆動力を発生させる構成であっても、右後輪2RRと左後輪2RLの駆動力を増加させることによって、後輪2Rの横力を減少することができる。
【0032】
(動作)
図6は、第1実施形態の走行支援方法の一例のフローチャートである。
ステップS1において目標ヨーモーメント設定部32と目標横力設定部31とは、第1目標ヨーモーメントMzReq1と目標横力FyReqとをそれぞれ設定する。
ステップS2において前後力分配部40は、目標前輪前後力Fxfと基本後輪前後力Fxr0とを設定する。
ステップS3において目標車輪横力演算部41は、目標前輪横力Fyfと基本後輪横力Fyr0とを設定する。
ステップS4において復元ヨーモーメント設定部33は、自車両1のアンダーステア挙動が発生したか否かを判定する。アンダーステア挙動が発生した場合(S4:Y)に処理はステップS5へ進む。アンダーステア挙動が発生しない場合(S4:N)に、処理はステップS11へ進む。この場合、基本後輪前後力Fxr0と基本後輪横力Fyr0とが目標後輪前後力Fxrと目標後輪横力Fyrとして用いられる。
【0033】
ステップS5において復元ヨーモーメント設定部33は、復元ヨーモーメントMzResを設定する。
ステップS6において目標ヨーモーメント修正部34は、第2目標ヨーモーメントMzReq2を設定する。
ステップS7において横力補正量演算部42は、後輪横力補正量Cyrを演算する。
ステップS8において補正車輪力演算部43は、補正後輪横力ΔFyrを演算する。
ステップS9において補正車輪力演算部43は、補正後輪前後力ΔFxrを演算する。
ステップS10において加算器44及び45は、目標後輪前後力Fxrと目標後輪横力Fyrを演算する。
ステップS11において前輪制御量設定部36と後輪制御量設定部37は、前輪2Fの駆動トルクTrf及び転舵角Stfと、後輪2Rの駆動トルクTrrと転舵角Strと、をそれぞれ設定する。
その後に処理は終了する。
【0034】
(第1実施形態の効果)
(1)第1実施形態の走行支援方法では、自車両1のアンダーステア挙動が発生したか否かを判定し、自車両1にアンダーステア挙動が発生したと判定した場合に、後輪2Rの駆動力を増加させることにより後輪2Rに生じる横力Fyrを減少させる。
これにより、後輪2Rの駆動力を増加させることによって後輪横力Fyrを減少させることができるので、制動することによって速度が低下することなく、アンダーステア挙動を抑制できる。これにより、自車両1のアンダーステア挙動を抑制する際の自車両1の減速を軽減できる。
【0035】
(2)自車両1にアンダーステア挙動が発生したと判定した場合に、アンダーステア挙動を抑制するための復元ヨーモーメントMzResを設定し、復元ヨーモーメントMzResに基づいて後輪2Rの駆動力を増加させてもよい。
これにより、設定した復元ヨーモーメントMzResを発生させてアンダーステア挙動を抑制できる。
【0036】
(3)自車両1のアクセル操作量Ac又は自車両1の目標車速に基づいて、後輪2Rに生じる前後方向の駆動力の目標値である基本後輪前後力Fxr0を設定し、自車両1に発生させるヨーモーメントと横力の目標値である第1目標ヨーモーメントMzReq1と目標横力FyReqとに基づいて、後輪2Rに生じる横力の目標値である基本後輪横力Fyr0を設定し、復元ヨーモーメントMzResに基づいて、後輪2Rに生じる前後方向の駆動力の補正量である補正後輪前後力ΔFxrと、後輪2Rに生じる横力の補正量である補正後輪横力ΔFyrとを設定し、基本後輪前後力Fxr0と補正後輪前後力ΔFxrの和と基本後輪横力Fyr0と補正後輪横力ΔFyrの和とに基づいて、後輪2Fの駆動トルクTrrと転舵角Strとを設定してもよい。
これにより、設定した復元ヨーモーメントMzResに応じて、後輪2Rに発生させる前後力と横力を補正できる。
【0037】
(4)復元ヨーモーメントMzResと、基本後輪横力Fyr0と、第1目標ヨーモーメントMzReq1とに基づいて、補正後輪横力ΔFyrを算出し、補正後輪横力ΔFyrと、基本後輪横力Fyr0と、基本後輪前後力Fxr0と、後輪2Rの摩擦円Crの径の大きさFxMax、FyMaxとに基づいて、補正後輪前後力ΔFxrを算出してもよい。
これにより、後輪2Rの摩擦円Crを利用して、後輪2Rの横力Fyrが減少するように後輪2Rの駆動力を増加できる。
【0038】
(第2実施形態)
第2実施形態の車輪力制御部35は、前輪2Fの駆動力が発生している状態で自車両1のアンダーステア挙動が発生した場合に、前輪2Fの駆動力を減少させることにより前輪2Fに生じる横力を増加させる。前輪2Fに生じる横力が増加することによって、アンダーステア挙動を抑制することができる。
図7は、第2実施形態の車輪力制御部の機能構成の一例を示すブロック図である。図4の構成に、加算器46及び47が加えられている。
前後力分配部40は、目標前後力設定部30が設定した目標前後力FxReqを、前輪2Fにて発生させる前後方向の駆動力の目標値である基本前輪前後力Fxf0と、上記の基本後輪前後力Fxr0とに分配する。前後力分配部40は、第1実施形態の目標前輪前後力Fxfと同じ値を基本前輪前後力Fxf0として出力してもよい。
目標車輪横力演算部41は、目標横力FyReqと第1目標ヨーモーメントMzReq1とに基づいて、前輪2Rにて発生させる横力の目標値である基本前輪横力Fyf0と、上記の基本後輪横力Fyr0とを演算する。目標車輪横力演算部41は、第1実施形態の目標前輪横力Fyfと同じ値を基本前輪横力Fyf0として出力してもよい。
【0039】
横力補正量演算部42は、上記の後輪横力補正量Cyrを演算するとともに、前輪2Fの駆動力の減少によって前輪2Fの横力を増加させる補正量である前輪横力補正量Cyfを、目標横力FyReqと、第1目標ヨーモーメントMzReq1と、第2目標ヨーモーメントMzReq2とに基づいて演算する。横力補正量演算部42は、前輪2Fの駆動力の減少により増加した後の最終的な前輪横力Fyfに対する基本前輪横力Fyf0の偏差を、前輪横力補正量Cyfとして演算する。
例えば、横力補正量演算部42は、次式(6)に基づいて前輪横力補正量Cyfを演算してよい。
【0040】
【数5】
【0041】
補正車輪力演算部43は、上記の補正後輪前後力ΔFxrと補正後輪横力ΔFyrを演算するとともに、前輪2Fに生じる前後方向の駆動力の補正量である補正前輪前後力ΔFxfと、前輪2Fに生じる横力の補正量である補正前輪横力ΔFyfと、を基本前輪前後力Fxf0と、基本前輪横力Fyf0と、前輪横力補正量Cyfとに基づいて演算する。
まず、前輪横力補正量Cyfは、補正後の前輪横力Fyfに対する基本前輪横力Fyf0の偏差であるので、前輪横力補正量Cyfの符号を反転して補正前輪横力ΔFyfを得る(次式(7))。
【0042】
【数6】
【0043】
次に、基本前輪横力Fyf0に補正前輪横力ΔFyfを加えて(すなわち基本前輪横力Fyf0から前輪横力補正量Cyfを減じて)得られる目標前輪横力Fyfと、基本前輪前後力Fxf0に補正前輪前後力ΔFxfを加えて得られる目標前輪前後力Fxfとの合力ベクトルの大きさを、前輪2Fの摩擦円Cfの径に基づいて設定し、合力ベクトルと目標前輪横力Fyfと基本前輪前後力Fxf0に基づいて補正前輪前後力ΔFxfを演算する。例えば、合力ベクトルの大きさと摩擦円Cfの径(例えば半径)と等しくなるように、補正前輪前後力ΔFxfを演算してよい。
補正車輪力演算部43は、例えば次式(8)に基づいて補正前輪前後力ΔFxfを演算してよい。
【0044】
【数7】
【0045】
加算器46及び47は、基本前輪前後力Fxf0と基本前輪横力Fyf0とに、補正前輪前後力ΔFxfと補正前輪横力ΔFyfとをそれぞれ加算して、目標前輪前後力Fxfと目標前輪横力Fyfを演算する。
同様に、加算器44及び45は、基本後輪前後力Fxr0と基本後輪横力Fyr0とに、補正後輪前後力ΔFxrと補正後輪横力ΔFyrとをそれぞれ加算して、目標後輪前後力Fxrと目標後輪横力Fyrを演算する。
なお、補正車輪力演算部43は、アンダーステア挙動を抑制するために前輪2Fの駆動力を減少する際に、前輪2Fの駆動力の減少により自車両1が減速しないように、補正前輪前後力ΔFxfを制限してもよい。例えば、補正後輪前後力ΔFxrの絶対値を超えないように、補正前輪前後力ΔFxfの絶対値を制限してもよい。
また、右前輪2FRと左前輪2FLの駆動力Trfが互いに等しい例について説明したが、右前輪2FRと左前輪2FLとで異なる駆動力を発生させる構成であっても、右前輪2FRと左前輪2FLの駆動力を減少させることによって、前輪2Fの横力を増加することができる。
【0046】
(第2実施形態の効果)
第2実施形態の走行支援方法では、自車両1にアンダーステア挙動が発生したと判定した場合に、前輪2Fの駆動力を減少させることにより前輪2Fに生じる横力を増加させる。これにより、自車両1のアンダーステア挙動を更に効果的に抑制できる。
【符号の説明】
【0047】
1…自車両、2FL…左前輪、2FR…右前輪、2RL…左後輪、2RR…右後輪、10…走行支援装置、11…操舵角センサ、12…転舵角センサ、13…車速センサ、14…ヨーレイトセンサ、15…アクセルセンサ、16…ブレーキセンサ、17…コントローラ、18…アクチュエータ、19…動力コントローラ、20…駆動源、21…プロセッサ、22…記憶装置、30…目標前後力設定部、31…目標横力設定部、32…目標ヨーモーメント設定部、33…復元ヨーモーメント設定部、34…目標ヨーモーメント修正部、35…車輪力制御部、36…前輪制御量設定部、37…後輪制御量設定部、40…前後力分配部、41…目標車輪横力演算部、42…横力補正量演算部、43…補正車輪力演算部、44~47…加算器
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7