(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】車速制御方法及び走行制御装置
(51)【国際特許分類】
B60W 30/02 20120101AFI20241106BHJP
B60T 7/12 20060101ALI20241106BHJP
B60W 30/10 20060101ALI20241106BHJP
B60W 40/06 20120101ALI20241106BHJP
B60W 40/105 20120101ALI20241106BHJP
B60W 40/107 20120101ALI20241106BHJP
B60W 40/109 20120101ALI20241106BHJP
B60W 60/00 20200101ALI20241106BHJP
G08G 1/16 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
B60W30/02
B60T7/12 F
B60T7/12 Z
B60W30/10
B60W40/06
B60W40/105
B60W40/107
B60W40/109
B60W60/00
G08G1/16 D
(21)【出願番号】P 2021040363
(22)【出願日】2021-03-12
【審査請求日】2023-11-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100114177
【氏名又は名称】小林 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】島影 正康
(72)【発明者】
【氏名】小田 貴嗣
(72)【発明者】
【氏名】宮下 直樹
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 雄哉
【審査官】戸田 耕太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-310042(JP,A)
【文献】特開2003-191774(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0253793(US,A1)
【文献】特開2017-043171(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 30/02
B60T 7/12
B60W 30/10
B60W 40/06
B60W 40/105
B60W 40/107
B60W 40/109
B60W 60/00
G08G 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両の目標走行軌道を設定し、
前記目標走行軌道の曲率プロファイルと前記自車両の車速とに応じて求まる前記自車両の横加速度をayとし、路面の摩擦係数をμとし、前記自車両の質量をmとし、前記自車両の慣性モーメントをIzとし、前記自車両のヨー角速度をωとし、ホイールベース長をlとし、前記自車両の重心から前輪軸及び後輪軸までの長さをそれぞれlf及びlrとし、前輪及び後輪に掛かる荷重をそれぞれFzf及びFzrとし、前輪及び後輪の横力をそれぞれFyf及びFyrとし、前輪及び後輪の前後力をそれぞれFxf及びFxrとして、次式(1)~(4)により定義される制約条件を満たす車速のみからなるプロファイルを目標車速プロファイルとして生成し、
前記目標
車速プロファイルに基づいて、前記自車両の車速を制御する、
ことを特徴とする車速制御方法。
【数1】
【請求項2】
自車両の目標走行軌道を設定し、前記目標走行軌道の曲率プロファイルと前記自車両の車速とに応じて求まる前記自車両の横加速度をayとし、路面の摩擦係数をμとし、前記自車両の質量をmとし、前記自車両の慣性モーメントをIzとし、前記自車両のヨー角速度をωとし、ホイールベース長をlとし、前記自車両の重心から前輪軸及び後輪軸までの長さをそれぞれlf及びlrとし、前輪及び後輪に掛かる荷重をそれぞれFzf及びFzrとし、前輪及び後輪の横力をそれぞれFyf及びFyrとし、前輪及び後輪の前後力をそれぞれFxf及びFxrとして、次式(6)~(8)により定義される制約条件を満たす車速のみからなるプロファイルを目標車速プロファイルとして生成するコントローラと、
前記目標走行軌道に基づいて、前記自車両の転舵角を制御する転舵機構と、
前記目標車速プロファイルに基づいて、前記自車両の駆動力を制御する駆動装置と、
前記目標車速プロファイルに基づいて、前記自車両の制動力を制御する制動装置と、
を備えることを特徴とする走行制御装置。
【数2】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車速制御方法及び走行制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、前後加速度がゼロである場合の摩擦円を限界まで使用してカーブ路を曲がる最大速度に基づいて車速を制御する車速制御装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の車速制御装置は、車両の運動状態によらずに摩擦円を限界まで使用した場合の最大速度を算出することから、ヨーモーメントが車両に働く状況において実際の車輪の摩擦限界を超えてしまうおそれがある。
本発明は、自車両を目標走行軌道で走行させる際に、自車両に働くヨーモーメントによって車輪の摩擦限界を超えるのを抑制する目標車速プロファイルを設定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様による車速制御方法は、自車両の目標走行軌道を設定し、目標走行軌道の曲率プロファイルと自車両の車速とに応じて求まる自車両の横加速度をayとし、路面の摩擦係数をμとし、自車両の質量をmとし、自車両の慣性モーメントをIzとし、自車両のヨー角速度をωとし、ホイールベース長をlとし、自車両の重心から前輪軸及び後輪軸までの長さをそれぞれlf及びlrとし、前輪及び後輪に掛かる荷重をそれぞれFzf及びFzrとし、前輪及び後輪の横力をそれぞれFyf及びFyrとし、前輪及び後輪の前後力をそれぞれFxf及びFxrとして、後述の式(1)、(2)、(7)及び(8)により定義される制約条件を満たす車速のみからなるプロファイルを目標車速プロファイルとして生成し、目標車速プロファイルに基づいて、自車両の車速を制御する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、自車両を目標走行軌道で走行させる際に、自車両に働くヨーモーメントによって車輪の摩擦限界を超えるのを抑制する目標車速プロファイルを設定できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施形態の走行制御装置の一例の概略構成図である。
【
図2】前輪の摩擦限界に基づく前後加速度の制限と後輪の摩擦限界に基づく前後加速度の制限の一例を示す図である。
【
図3A】旋回方向と同一方向へヨーモーメントが発生する場合の前後加速度の制限の変化の一例を示す図である。
【
図3B】旋回方向と反対方向へヨーモーメントが発生する場合の前後加速度の制限の変化の一例を示す図である。
【
図4】実施形態の走行制御装置の機能構成の一例のブロック図である。
【
図5】摩擦円制約設定部と速度プロファイル設定部の機能構成の一例のブロック図である。
【
図6】実施形態の車速制御方法の一例のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、各図面は模式的なものであって、現実のものとは異なる場合がある。また、以下に示す本発明の実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の構造、配置等を下記のものに特定するものではない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0009】
図1を参照する。自車両1は、自車両1の走行制御を行う走行制御装置10を備える。走行制御装置10による走行制御には、自車両1の周辺の走行環境に基づいて、運転者が関与せずに自車両1を自動で運転する自動運転や、定速走行制御、車線維持制御、合流支援制御などの運転支援制御を含んでよい。
走行制御装置10は、物体センサ11と、車両センサ12と、測位装置13と、地図データベース(地
図DB)14と、コントローラ15と、アクチュエータ16、転舵装置17、駆動装置18、制動装置19とを備える。
【0010】
物体センサ11は、自車両1に搭載されたレーザレーダやミリ波レーダ、カメラ、LIDAR(Light Detection and Ranging、Laser Imaging Detection and Ranging)など、自車両1の周辺の物体を検出する複数の異なる種類の物体検出センサを備える。
車両センサ12は、自車両1に搭載され、自車両1から得られる様々な情報(車両信号)を検出する。車両センサ12には、例えば、自車両1の走行速度(車速)を検出する車速センサ、自車両1が備える各タイヤの回転速度を検出する車輪速センサ、自車両1の3軸方向の加速度(減速度を含む)を検出する3軸加速度センサ(Gセンサ)、操舵角(転舵角を含む)を検出する操舵角センサ、自車両1に生じる角速度を検出するジャイロセンサ、ヨーレイトを検出するヨーレイトセンサ、自車両1のアクセル開度を検出するアクセルセンサと、運転者によるブレーキ操作量を検出するブレーキセンサが含まれる。
【0011】
測位装置13は、全地球型測位システム(GNSS)受信機を備え、複数の航法衛星から電波を受信して自車両1の現在位置を測定する。GNSS受信機は、例えば地球測位システム(GPS)受信機等であってよい。測位装置13は、例えば慣性航法装置であってもよい。
地図データベース14は、自動運転用の地図として好適な高精度地図データ(以下、単に「高精度地図」という。)を記憶する記憶装置であってよい。高精度地図は、ナビゲーション用の地図データ(以下、単に「ナビ地図」という。)よりも高精度の地図データであり、道路単位の情報よりも詳細な車線単位の情報を含む。
【0012】
コントローラ15は、自車両1の走行支援制御を行う電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)である。コントローラ15は、プロセッサ20と、記憶装置21等の周辺部品とを含む。プロセッサ20は、例えばCPU(Central Processing Unit)やMPU(Micro-Processing Unit)であってよい。
記憶装置21は、半導体記憶装置や、磁気記憶装置、光学記憶装置等を備えてよい。記憶装置21は、レジスタ、キャッシュメモリ、主記憶装置として使用されるROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等のメモリを含んでよい。
以下に説明するコントローラ15の機能は、例えばプロセッサ20が、記憶装置21に格納されたコンピュータプログラムを実行することにより実現される。
なお、コントローラ15を、以下に説明する各情報処理を実行するための専用のハードウエアにより形成してもよい。
例えば、コントローラ15は、汎用の半導体集積回路中に設定される機能的な論理回路を備えてもよい。例えばコントローラ15はフィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(FPGA:Field-Programmable Gate Array)等のプログラマブル・ロジック・デバイス(PLD:Programmable Logic Device)等を有していてもよい。
【0013】
アクチュエータ16は、コントローラ15からの制御信号に応じて転舵装置17、駆動装置18及び制動装置19を作動させて、自車両1の車両挙動を発生させる。アクチュエータ16は、ステアリングアクチュエータと、アクセル開度アクチュエータと、ブレーキ制御アクチュエータを備える。
ステアリングアクチュエータは、転舵装置17を作動させて自車両1の操舵方向及び操舵量を制御する。アクセル開度アクチュエータは、エンジンや駆動モータである駆動装置18を作動させて自車両1の前後加速度を制御する。ブレーキ制御アクチュエータは、制動装置19を作動させて自車両1の前後減速度を制御する。
【0014】
次に、コントローラ15による走行制御の一例の概要を説明する。
コントローラ15は、自車両1を自動で運転する自動運転や、定速走行制御、車線維持制御、合流支援制御などの運転支援制御において、物体センサ11によって検出した自車両1の周囲環境の情報と、測位装置13が測定した自車両1の現在位置と、地図データベース14とに基づいて、自車両1を将来走行させる目標走行軌道を生成する。
さらにコントローラ15は、自車両1を目標走行軌道で走行させる車速のプロファイルである目標車速プロファイルを生成する。
【0015】
目標車速プロファイルを生成する際に、コントローラ15は、自車両1の前輪の摩擦限界に基づく前後力の制約条件と、後輪の摩擦限界に基づく前後力の制約条件との両方を満足する目標車速プロファイルを生成する。
例えばコントローラ15は、車輪の摩擦限界に関する以下の条件(A)を満たす目標車速プロファイルを生成してよい。
【0016】
(A)摩擦限界に関する制約条件
【数1】
上式(1)中のFyf、Fxfは、それぞれ前輪で発生する横力(前輪横力)及び前後力(前輪前後力)であり、Fzfは前輪に係る荷重(前輪荷重)である。上式(2)中のFyr、Fxrは、それぞれ後輪で発生する横力(後輪横力)及び前後力(後輪前後力)であり、Fzrは後輪に係る荷重(後輪荷重)である。μは路面の摩擦係数である。
上式(1)は前輪の摩擦限界に関する制約条件であり、前輪横力Fyfと前輪前後力Fxfの二乗和を、前輪荷重Fzfと摩擦係数μとの積の二乗値以下に制限する。すなわち、前輪横力Fyfと前輪前後力Fxfの合力の大きさを、前輪のタイヤの摩擦限界(摩擦円)以下に制限する。同様に、上式(2)は後輪の摩擦限界に関する制約条件である。
【0017】
このため、前輪荷重Fzfが大きく後輪荷重Fzrが小さい場合には、前輪荷重Fzfが小さく後輪荷重Fzrが大きい場合に比べて、前輪の前後力の大きさを制限する上限値を大きな値に設定し、後輪の前後力の大きさを制限する上限値を小さな値に設定できる。
また、後輪荷重Fzrが大きく前輪荷重Fzfが小さい場合には、後輪荷重Fzrが小さく前輪荷重Fzfが大きい場合に比べて、後輪の前後力の大きさを制限する上限値を大きな値に設定し、前輪の前後力の大きさを制限する上限値を小さな値に設定できる。
【0018】
ここで、車速が変化すると前輪荷重Fzf及び後輪荷重Fzrが変動するため、前輪横力Fyf、前輪前後力Fxf、後輪横力Fyr、後輪前後力Fxrが取り得る上限が変化する。そこでコントローラ15は、条件(A)に加えて、荷重移動に関する下記の付加条件(a1)を満たすように、目標車速プロファイルを生成する。
【0019】
付加条件(a1)
【数2】
上式(3)、(4)中のmは自車両1の質量であり、gは重力加速度であり、lはホイールベース長であり、lrは車両重心から後輪軸までの長さであり、lfは車両重心から前輪軸までの長さであり、hは車両重心の高さであり、axは自車両1の前後方向の加速度(前後加速度)である。
これにより、自車両1の加速度(ax>0)が大きい場合には小さい場合に比べて、前輪荷重Fzfが小さく設定され、自車両1の減速度(ax<0)が大きい場合には小さい場合に比べて、後輪荷重Fzrが小さく設定される。
【0020】
さらに、自車両1を制動するための前後力は、制動力配分比に応じて前輪前後力Fxf及び後輪前後力Fxrに配分される。また、自車両1が四輪駆動車両である場合に、自車両1を駆動するための前後力は、駆動力配分比に応じて前輪前後力Fxf及び後輪前後力Fxrに配分される。
そこでコントローラ15は、条件(A)及び(a1)に加えて、制動力配分比及び/又は駆動力配分比に関する下記の付加条件(a2)を満たすように、目標車速プロファイルを生成してよい。
【0021】
付加条件(a2)
【数3】
上式(5)、(6)中のRは、制動力配分比(減速時、すなわちax<0である時)又は駆動力配分比(加速時、すなわちax>0である時)である。
【0022】
また、直線路からカーブ路に進入する場合や、カーブ路から直線路へ抜けて加速する場合などヨーレイトが変化する状況では、ヨーモーメントMを発生させるために前輪横力Fyf及び後輪横力Fyrが使用される。このため、自車両1の加減速に使用できる前輪前後力Fxf及び後輪前後力Fxrが減少する。このため、前後加速度axはヨーモーメントMによって制限される。
そこでコントローラ15は、条件(A)(a1)及び(a2)に加えて、自車両1に働くヨーモーメントに関する下記の付加条件(a3)を満たすように、目標車速プロファイルを生成してよい。
【0023】
付加条件(a3)
【数4】
上式(7)及び(8)においてωはヨー角速度を示す。Izは自車両1の慣性モーメントである。
このように、前輪横力Fyf及び後輪横力Fyrは、自車両1の横加速度ayとヨー角加速度ω’=dω/dtに基づいて定まる変数となる。
ここで、横加速度ayは、演算対象である目標車速プロファイルによって定まる変数である。
【0024】
そこでコントローラ15は、横加速度ayの各値に対して、上式(1)、(3)、(5)及び(7)を満足する自車両1の前後加速度ax=Fxf/mのそれぞれの上限値及び下限値を前輪の摩擦限界に基づく前後加速度の制約条件として算出する。また、上式(2)、(4)、(6)及び(8)を満足する自車両1の前後加速度ax=Fxr/mのそれぞれの上限値及び下限値を、後輪の摩擦限界に基づく前後加速度の制約条件として算出する。
【0025】
具体的には、まず上式(7)からヨーモーメントM=m×ω’の影響を除外して得られる次式(9)と、上式(1)、(3)及び(5)を満足する自車両1の前後加速度ax=Fxf/mのそれぞれの上限値及び下限値を、前輪の摩擦限界に基づく前輪前後加速度制約Axf[ay]として算出する。
【数5】
【0026】
同様に、横加速度ayの各値に対して、次式(10)と上式(2)、(4)及び(6)を満足する自車両1の前後加速度ax=Fxr/mのそれぞれの上限値及び下限値を、後輪の摩擦限界に基づく後輪前後加速度制約Axr[ay]として算出する。
【数6】
図2は、前輪前後加速度制約Axf[ay]及び後輪前後加速度制約Axr[ay]の一例を示す図である。実線30が前輪前後加速度制約Axf[ay]を示し、一点鎖線31が後輪前後加速度制約Axr[ay]を示す。
また、X方向及びY方向は、自車両1の前後方向及び横方向を示し、左方向及び右方向をそれぞれ正及び負の方向とし、前方及び後方をそれぞれ正及び負の方向としている。
【0027】
次にコントローラ15は、ヨーモーメントM=m×ω’が自車両1に働いている場合の前後加速度の上限値及び下限値を、前輪前後加速度制約Axf[ay]と後輪前後加速度制約Axr[ay]から各々取得する。
具体的には、前輪前後加速度制約Axf[ay](実線30)を-Iz・ω’/(m・lr)だけY方向(横方向)に平行移動する。同様に、後輪前後加速度制約Axr[ay](一点鎖線31)をIz・ω’/(m・lf)だけY方向(横方向)に平行移動する。
すなわち、前輪前後加速度制約Axf[ay+Iz・ω’/(m・lr)]、後輪前後加速度制約Axr[ay-Iz・ω’/(m・lf)]を、横加速度がayである時の値として取得する。
【0028】
図3A及び
図3Bは、ヨーモーメントMの影響を反映した前輪前後加速度制約Axf[ay+Iz・ω’/(m・lr)]と、後輪前後加速度制約Axr[ay-Iz・ω’/(m・lf)]の一例を示す図である。
図3Aは、左旋回時に、自車両1が発生するヨーモーメントを旋回方向と同じ方向に増加させる場合の例を示している。これは例えば、直線路からカーブ路に進入してヨーレイトが増加する場合や、ステアリングホイールを切り増し側に操舵してヨーレイトが増加する場合に発生する。
この場合には、正のヨーモーメントが発生するため、前輪前後加速度制約Axf[ay+Iz・ω’/(m・lr)]は、Iz・ω’/(m・lr)だけ負の方向に平行移動する。反対に、後輪前後加速度制約Axr[ay-Iz・ω’/(m・lf)]は、Iz・ω’/(m・lf)だけ正の方向に平行移動する。
この結果、左旋回時(すなわち横加速度ay>0)に、前輪前後加速度制約Axf[ay+Iz・ω’/(m・lr)](実線30)が矢印32に示すように小さくなる。反対に、後輪前後加速度制約Axr[ay-Iz・ω’/(m・lf)](一点鎖線31)は矢印33に示すように大きくなる。
【0029】
図3Bは、左旋回時に、自車両1が発生するヨーモーメントを旋回方向と反対方向に増加させる場合の例を示している。これは例えば、カーブ路から直線路に抜けて加速するようなヨーレイトが減少する場合や、ステアリングホイールを切り戻し側に操舵してヨーレイトが減少する場合に発生する。
この場合には、負のヨーモーメントが発生するため、前輪前後加速度制約Axf[ay+Iz・ω’/(m・lr)]は、Iz・ω’/(m・lr)だけ正の方向に平行移動する。反対に、後輪前後加速度制約Axr[ay-Iz・ω’/(m・lf)]は、Iz・ω’/(m・lf)だけ負の方向に平行移動する。
【0030】
この結果、左旋回時(すなわち横加速度ay>0)に、前輪前後加速度制約Axf[ay+Iz・ω’/(m・lr)](実線30)が矢印32に示すように大きくなる。反対に、後輪前後加速度制約Axr[ay-Iz・ω’/(m・lf)](一点鎖線31)は矢印33に示すように小さくなる。
ヨーモーメントMの影響を反映した前輪前後加速度制約Axf[ay+Iz・ω’/(m・lr)]と、後輪前後加速度制約Axr[ay-Iz・ω’/(m・lf)]は、それぞれ特許請求の範囲に記載の「第1制約条件」及び「第2制約条件」の一例である。
【0031】
自車両1全体が発生させることができる横力及び前後力は、前輪前後加速度制約Axf[ay+Iz・ω’/(m・lr)]の上下限値と後輪前後加速度制約Axr[ay-Iz・ω’/(m・lf)]の上下限値の両者の範囲内の横力及び前後力である。
したがってコントローラ15は、前輪前後加速度制約Axf[ay+Iz・ω’/(m・lr)]を示す実線30の内側(原点側)の領域と、後輪前後加速度制約Axr[ay-Iz・ω’/(m・lf)]を示す一点鎖線31の内側(原点側)の領域と、が重複する領域34(
図3A及び
図3Bにてハッチングが施された領域)を自車両1の前後加速度axが超えないように目標車速プロファイルを生成する。
【0032】
例えばコントローラ15は、加速時(ax>0)の場合における前後加速度の上限値Axを、次式(11)に基づいて前輪前後加速度制約Axf[ay]及び後輪前後加速度制約Axr[ay]から選択してよい。
【数7】
また例えばコントローラ15は、減速時(ax<0)の場合の前後加速度の下限値(すなわち負の前後加速度の大きさの上限値)Axを、次式(12)に基づいて前輪前後加速度制約Axf[ay]及び後輪前後加速度制約Axr[ay]から選択してよい。
【数8】
【0033】
このように、前輪前後加速度制約Axf[ay]の上下限値と後輪前後加速度制約Axr[ay]の上下限値の両者の範囲内になるように選択された前後加速度の制限値Axを、以下の説明で「前後加速度制約」と表記することがある。前後加速度制約Axは、特許請求の範囲に記載の「第3制約条件」の一例である。
コントローラ15は、上記の制約条件(A)、(a1)、(a2)及び(a3)を満たしつつ目標走行軌道上の区間Sを通過する通過時間tが最短となる自車両1の車速vのプロファイルを目標車速プロファイルとして生成する。
【数9】
上式(13)中、S1及びS2は目標車速プロファイルを生成する区間Sの始点区間及び終点区間である。
【0034】
このときコントローラ15は、目標車速プロファイルの車速vと曲率プロファイルρとに応じて、横加速度ayとヨーモーメントM=m×ω’を演算する。コントローラ15は、横加速度ayとヨー角加速度ω’に基づいて、前輪前後加速度制約Axf[ay+Iz・ω’/(m・lr)]と後輪前後加速度制約Axr[ay-Iz・ω’/(m・lf)]を取得する。そして、上式(11)及び(12)に基づいて前後加速度制約Axを設定する。
コントローラ15は、目標車速プロファイルの車速vが、上記の制約条件(A)、(a1)、(a2)及び(a3)を満たしているか否かを前後加速度制約Axに基づいて判定する。コントローラ15は、制約条件(A)、(a1)、(a2)及び(a3)を満たす車速vのみからなるプロファイルを目標車速プロファイルとして生成する。
なお、コントローラ15は、摩擦限界に関する制約条件(A)、(a1)、(a2)及び(a3)に加えて、走行路の曲率から求まる限界速度の制約条件(B)、前後ジャークjxの制約条件(C)及び/又は横ジャークjyの制約条件(D)を満たすように、目標車速プロファイルを生成してもよい。
【0035】
(B)走行路の曲率から求まる限界速度の制約条件
【数10】
(C)前後ジャークjxの制約条件
|jx|≦jxmax …(15)
上式(15)中、jxmaxはピッチングによって車両挙動を不安定にさせない前後ジャークの大きさの上限値である。
(D)横ジャークjyの制約条件
|jy|≦jymax…(16)
上式(16)中、jymaxは自車両1のヨー角変化及び横運動が追従できる横ジャークの大きさの上限値である。
コントローラ15は、生成した目標車速プロファイルに従う速度で自車両1が目標走行軌道を走行するように、アクチュエータ16を駆動する。
【0036】
図4は、実施形態の走行制御装置の一例であるコントローラ15の機能構成の一例のブロック図である。
図5は、
図4に示す摩擦円制約設定部42と速度プロファイル設定部43の機能構成の一例のブロック図である。
図6は、実施形態の車速制御方法の一例のフローチャートである。
コントローラ15は、軌道生成部40と、摩擦係数推定部41と、摩擦円制約設定部42と、速度プロファイル設定部43を備える。
軌道生成部40は、物体センサ11によって検出した自車両1の周囲環境の情報と、測位装置13が測定した自車両1の現在位置と、地図データベース14とに基づいて、自車両1を将来走行させる目標走行軌道を生成する(ステップS1)。
摩擦係数推定部41は、自車両1が走行する路面の摩擦係数μを推定する(ステップS2)。例えば、摩擦係数推定部41は、自車両1の前後加速度ax及び車輪速度に応じて、路面の摩擦係数μを推定してよい。
【0037】
摩擦円制約設定部42は、前輪摩擦円制約設定部44と後輪摩擦円制約設定部45を備える。速度プロファイル設定部43は、摩擦円制約補正部46と、速度プロファイル最適化部47と、ヨーモーメント/横加速度演算部48を備える。
前輪摩擦円制約設定部44は、上式(1)、(3)、(5)、(9)に基づいて、横加速度ayの各値に対して、前輪前後加速度制約Axf[ay]をそれぞれ設定する(ステップS3)。
後輪摩擦円制約設定部45は、上式(2)、(4)、(6)、(10)に基づいて、横加速度ayの各値に対して、後輪前後加速度制約Axr[ay]をそれぞれ設定する(ステップS4)。
ヨーモーメント/横加速度演算部48は、目標車速プロファイルの車速vと曲率プロファイルρとに応じて、横加速度ayとヨーモーメントM=m×ω’を演算する(ステップS5)。
【0038】
摩擦円制約補正部46は、横加速度ayとヨー角加速度ω’に基づいて、ステップS3及びS4で設定した前輪前後加速度制約Axf[ay]と後輪前後加速度制約Axr[ay]から、前輪前後加速度制約Axf[ay+Iz・ω’/(m・lr)]と後輪前後加速度制約Axr[ay-Iz・ω’/(m・lf)]を取得する。そして、上式(11)及び(12)に基づいて前後加速度制約Axを設定する(ステップS6)。
速度プロファイル最適化部47は、前後加速度制約Axと、走行路の曲率から求まる限界速度の制約条件(B)と、前後ジャークjxの制約条件(C)と、横ジャークjyの制約条件(D)とを満たすように、目標車速プロファイルを生成する(ステップS7)。
アクチュエータ16は、目標車速プロファイルに従う速度で自車両1が目標走行軌道を走行するように、転舵装置17、駆動装置18及び制動装置19を制御する(ステップS8)。その後に処理は終了する。
【0039】
(実施形態の効果)
(1)コントローラ15は、自車両1の目標走行軌道を設定し、自車両1に働く横力とヨーモーメントとに応じて制限される、自車両1の前輪の前後力の制約条件である第1制約条件と後輪の前後力の制約条件である第2制約条件とを、これら前輪及び後輪の摩擦限界に基づいて設定し、第1制約条件と第2制約条件のうち前後力の大きさをより小さい値に制限する方を、第3制約条件として設定し、目標走行軌道の曲率プロファイルに基づいて、第3制約条件に従って目標走行軌道を走行する目標速度プロファイルを生成し、目標速度プロファイルに基づいて、自車両1の車速を制御する。
これにより、車輪に生じさせることができる前後力を、ヨーモーメントのために使用される横力によって制限できる。この結果、自車両1を目標走行軌道で走行させる際に、自車両1に働くヨーモーメントによって車輪の摩擦限界を超えるのを抑制する目標車速プロファイルを設定できる。
【0040】
(2)自車両1の旋回方向と同一方向へヨーモーメントが発生する場合には、ヨーモーメントが増加しない場合と比べて第1制約条件が制限する前後力の大きさの上限値を小さくし、第2制約条件が制限する前後力の大きさの上限値を大きくしてよい。
その際に、ヨーモーメントが大きい場合に小さい場合と比べて第1制約条件が制限する前後力の大きさの上限値を小さくしてよい。
これにより、自車両1の旋回方向と同一方向へ発生するヨーモーメントによって前輪及び後輪で生じる前後力を制限できる。
【0041】
(3)自車両1の旋回方向と反対方向へヨーモーメントが発生する場合には、ヨーモーメントが増加しない場合と比べて第1制約条件が制限する前後力の大きさの上限値を大きくし、第2制約条件が制限する前後力の大きさの上限値を小さくしてよい。
その際に、ヨーモーメントが大きい場合に小さい場合と比べて第2制約条件が制限する前後力の大きさの上限値を小さくしてよい。
これにより、自車両1の旋回方向と反対方向へ発生するヨーモーメントによって前輪及び後輪で生じる前後力を制限できる。
【符号の説明】
【0042】
1…自車両、10…走行制御装置、11…物体センサ、12…車両センサ、13…測位装置、14…地図データベース、15…コントローラ、16…アクチュエータ、17…転舵装置、18…駆動装置、19…制動装置、20…プロセッサ、21…記憶装置、40…軌道生成部、41…摩擦係数推定部、42…摩擦円制約設定部、43…速度プロファイル設定部、44…前輪摩擦円制約設定部、45…後輪摩擦円制約設定部、46…摩擦円制約補正部、47…速度プロファイル最適化部、48…ヨーモーメント/横加速度演算部