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特許7582767電源装置とこの電源装置を備える電動車両及び蓄電装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】電源装置とこの電源装置を備える電動車両及び蓄電装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/289 20210101AFI20241106BHJP
   H01M 50/249 20210101ALI20241106BHJP
   H01M 50/103 20210101ALI20241106BHJP
   H01M 50/293 20210101ALI20241106BHJP
   H01M 50/251 20210101ALI20241106BHJP
   H01M 50/121 20210101ALI20241106BHJP
   H01M 50/124 20210101ALI20241106BHJP
   H01M 50/131 20210101ALI20241106BHJP
【FI】
H01M50/289
H01M50/249
H01M50/103
H01M50/293
H01M50/251
H01M50/121
H01M50/124
H01M50/131
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021528230
(86)(22)【出願日】2020-06-15
(86)【国際出願番号】 JP2020023449
(87)【国際公開番号】W WO2020262085
(87)【国際公開日】2020-12-30
【審査請求日】2023-03-02
(31)【優先権主張番号】P 2019122486
(32)【優先日】2019-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001889
【氏名又は名称】三洋電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003225
【氏名又は名称】弁理士法人豊栖特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原塚 和博
(72)【発明者】
【氏名】山城 豪
【審査官】井原 純
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/123903(WO,A1)
【文献】特開2013-225420(JP,A)
【文献】特開2012-181971(JP,A)
【文献】特開2002-245998(JP,A)
【文献】特開2015-187913(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/20-50/298
H01M 50/10-50/198
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外装缶を角形とし、対向する主面を有する複数の電池セルと、
前記複数の電池セルをそれぞれ被覆する絶縁性の熱収縮性フィルムと、
前記複数の電池セル同士の間に介在される複数のセパレータと、
前記複数の電池セルを前記セパレータを介して積層してなる電池積層体と、
前記電池積層体の両端面に配置された一対のエンドプレートと、
前記電池積層体の対向する側面にそれぞれ配置されて、前記エンドプレート同士を締結する複数のバインドバーと、
を備える電源装置であって、
前記熱収縮性フィルムは、熱収縮された状態での最大伸び量が、前記電池セルの膨張時における前記外装缶の主面の最大伸び量よりも大きくなる伸縮性を有しており、
前記セパレータと、該セパレータと対向する前記熱収縮性フィルムとの間に接着層を備えており、
前記接着層を介して、前記セパレータが前記熱収縮性フィルムに接着されてなることを特徴とする電源装置。
【請求項2】
請求項に記載される電源装置であって、
前記接着層は、前記熱収縮性フィルムの変形に伴う最大伸び量が、前記電池セルの膨張時における前記外装缶の主面の最大伸び量よりも大きくなる伸縮性を有することを特徴とする電源装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載される電源装置であって、
前記セパレータが、前記電池セルを被覆する前記熱収縮性フィルムの外側に配置されてなる電源装置。
【請求項4】
請求項1ないしのいずれかに記載される電源装置であって、
前記セパレータが、
無機粉末と繊維強化材とのハイブリッド素材であることを特徴とする電源装置。
【請求項5】
請求項に記載される電源装置であって、
前記無機粉末がシリカエアロゲルであることを特徴とする電源装置。
【請求項6】
請求項1ないしのいずれかに記載される電源装置であって、
前記熱収縮性フィルムが、ポリエチレン製のフィルムである電源装置。
【請求項7】
請求項1ないしのいずれかに記載の電源装置を備える電動車両であって、
前記電源装置と、
該電源装置から電力供給される走行用のモータと、
前記電源装置及び前記モータを搭載してなる車両本体と、
前記モータで駆動されて前記車両本体を走行させる車輪と
を備えることを特徴とする電動車両。
【請求項8】
請求項1ないしのいずれかに記載の電源装置を備える蓄電装置であって、
前記電源装置と、
該電源装置への充放電を制御する電源コントローラと
を備え、
前記電源コントローラでもって、外部からの電力により前記池セルへの充電を可能とすると共に、該池セルに対し充電を行うよう制御することを特徴とする蓄電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多数の電池セルを積層している電源装置と、この電源装置を備える電動車両及び蓄電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
多数の電池セルを積層している電源装置は、電動車両の駆動用の電源装置や蓄電用の電源装置等に利用されている。このような電源装置は、充放電可能な複数の電池セルを複数枚積層し、電池セル同士の間には絶縁性のセパレータを介在させている。また、電池セルの表面を絶縁するため、電極端子を設けた上面を残してその表面を薄い熱収縮性フィルムで覆う構成が知られている(例えば特許文献1)。
【0003】
電池セルは、充放電によって膨張する。近年の電池セルの高容量化の要求に伴い、セルあたりの膨張量も増す傾向にある。このような膨張、収縮によって、薄い熱収縮性フィルムに過大な応力が印加されることになる。このように、膨張、収縮を繰り返す電池セルの変形により、熱収縮性フィルムが破断されるおそれがある。とくに、熱収縮された熱収縮性フィルムは、破断されることなく伸長される最大伸び量が低下しているので、膨張と収縮を繰り返す電池セルの変形によって破断されやすくなっている。
【0004】
一方で、電源装置の高出力化、高容量化のため、電池セルの積層数が増えつつあり、電池セルが発熱しても他の電池セルに影響を与えないよう、セパレータの断熱性能も高性能化が求められている。断熱性を高めたセパレータとして、無機粉末と繊維基材とからなる断熱材を使用するセパレータが開発されている。このようなセパレータとして、例えば、熱伝導率が0.02W/m・Kと極めて低いシリカエアロゲルを繊維シートの隙間に充填したものが採用されており、優れた断熱特性を実現している。
【0005】
この断熱材は、断熱性には優れているが、伸縮性がないため、電池セルの膨張、収縮による変化に対して追随することはない。このため、電池セルが膨張、収縮を繰り返すことで熱収縮性フィルムが破断されると、熱収縮性フィルムに接着された断熱材にも破断方向に応力が作用する。とくに、図10に示すように、熱収縮性フィルム5が破断された状態で、さらに、電池セル101が膨張、伸縮を繰り返すことで、熱収縮性フィルム105の破断部が次第に広がっていく結果、破断された熱収縮性フィルム105に接着された断熱材102に、より大きな応力が作用してひび割れや破断が生じるおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2011-222198号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的の一は、電池セルが膨張と収縮を繰り返す状態で使用されても、電池セルを被覆する熱収縮性フィルムを保護することができる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のある態様に係る電源装置は、外装缶11を角形とし、対向する主面1Aを有する複数の電池セル1と、複数の電池セル1をそれぞれ被覆する絶縁性の熱収縮性フィルム5と、複数の電池セル1同士の間に介在される複数のセパレータ2と、複数の電池セル1をセパレータ2を介して積層してなる電池積層体10と、電池積層体10の両端面に配置された一対のエンドプレート3と、電池積層体10の対向する側面にそれぞれ配置されて、エンドプレート3同士を締結する複数のバインドバー4とを備える電源装置であって、熱収縮性フィルム5は、熱収縮された状態での最大伸び量が、電池セル1の膨張時における外装缶11の主面1Aの最大伸び量よりも大きくなる伸縮性を有している。
【0009】
本発明のある態様に係る電動車両は、上記電源装置100と、電源装置100から電力供給される走行用のモータ93と、電源装置100及びモータ93を搭載してなる車両本体91と、モータ93で駆動されて車両本体91を走行させる車輪97とを備えている。
【0010】
本発明のある態様に係る蓄電装置は、上記電源装置100と、電源装置100への充放電を制御する電源コントローラ88と備えて、電源コントローラ88でもって、外部からの電力により電池セル1への充電を可能とすると共に、電池セル1に対し充電を行うよう制御している。
【発明の効果】
【0011】
以上の電源装置は、電池セルが膨張と収縮を繰り返す状態で使用されても、電池セルを被覆する熱収縮性フィルムを保護することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態に係る電源装置の斜視図である。
図2図1に示す電源装置の垂直断面図である。
図3図1に示す電源装置の水平断面図である。
図4】電池セルとセパレータの積層状態を示す分解斜視図である。
図5】電池セルとセパレータの積層状態を示す模式断面図である。
図6図5において電池セルが膨張した状態を示す模式断面図である。
図7】エンジンとモータで走行するハイブリッド車に電源装置を搭載する例を示すブロック図である。
図8】モータのみで走行する電気自動車に電源装置を搭載する例を示すブロック図である。
図9】蓄電用の電源装置に適用する例を示すブロック図である。
図10】従来のセパレータと電池セルの積層状態を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の第1の実施形態に係る電源装置は、外装缶を角形とし、対向する主面を有する複数の電池セルと、複数の電池セルをそれぞれ被覆する絶縁性の熱収縮性フィルムと、複数の電池セル同士の間に介在される複数のセパレータと、複数の電池セルをセパレータを介して積層してなる電池積層体の両端面に配置された一対のエンドプレートと、電池積層体の対向する側面にそれぞれ配置されて、エンドプレート同士を締結する複数のバインドバーとを備える電源装置であって、熱収縮性フィルムは、熱収縮された状態での最大伸び量が、電池セルの膨張時における外装缶の主面の最大伸び量よりも大きくなる伸縮性を有している。
【0014】
上記構成により、電池セルが膨張した状態で、熱収縮性フィルムは、熱収縮された状態での最大伸び量が電池セルの膨張時における外装缶の主面の最大伸び量よりも大きくなる伸縮性を有しているので、電池セルが膨張や収縮を繰り返す状態においても、熱収縮された熱収縮性フィルムが破断するのを有効に防止できる。
【0015】
本発明の第2の実施形態に係る電源装置は、さらに、セパレータと、セパレータと対向する熱収縮フィルムとの間に接着層を備えており、接着層を介して、セパレータを熱収縮性フィルムに接着している。
【0016】
上記構成によると、接着層を介してセパレータを熱収縮フィルムの定位置に固定しながら、電池セルの変形に熱収縮性フィルムの変形が追随することで、熱収縮性フィルムの破断を阻止して、熱収縮性フィルムに接着されるセパレータが損傷を受けるのを有効に防止できる。
【0017】
本発明の第3の実施形態に係る電源装置は、接着層が、熱収縮性フィルムの変形に伴う最大伸び量が、電池セルの膨張時における外装缶の主面の最大伸び量よりも大きくなる伸縮性を有している。
【0018】
上記構成によると、収縮性フィルムの変形に伴う接着層の最大伸び量が、電池セルの膨張時における外装缶の主面の最大伸び量よりも大きくなる伸縮性を接着層が有しているので、電池セルが膨張や収縮を繰り返す状態においても、接着層が破断するのを防止でき、電池セルの変形に対して熱収縮性フィルムと接着層の変形を追随させて、セパレータが損傷を受けるのを有効に防止できる。
【0019】
本発明の第4の実施形態に係る電源装置は、セパレータを、電池セルを被覆する熱収縮性フィルムの外側に配置している。
【0020】
以上の電源装置は、電池セルの膨張時における応力が作用しやすい外側にセパレータを配置しながら、熱収縮性フィルムの破断やセパレータの損傷を有効に防止できる。
【0021】
本発明の第5の実施形態に係る電源装置は、セパレータを、無機粉末と繊維強化材とのハイブリッド素材としている。さらに、本発明の第6の実施形態に係る電源装置は、無機粉末をシリカエアロゲルとしている。以上の電源装置は、セパレータの熱伝導率を小さくして断熱特性を向上できる。
【0022】
本発明の第7の実施形態に係る電源装置は、熱収縮性フィルムを、ポリエチレン製のフィルムとしている。
【0023】
以下、図面に基づいて本発明を詳細に説明する。なお、以下の説明では、必要に応じて特定の方向や位置を示す用語(例えば、「上」、「下」、及びそれらの用語を含む別の用語)を用いるが、それらの用語の使用は図面を参照した発明の理解を容易にするためであって、それらの用語の意味によって本発明の技術的範囲が制限されるものではない。また、複数の図面に表れる同一符号の部分は同一もしくは同等の部分又は部材を示す。
さらに以下に示す実施形態は、本発明の技術思想の具体例を示すものであって、本発明を以下に限定するものではない。また、以下に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、特定的な記載がない限り、本発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、例示することを意図したものである。また、一の実施の形態、実施例において説明する内容は、他の実施の形態、実施例にも適用可能である。また、図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため、誇張していることがある。
【0024】
[実施形態1]
本発明の実施形態1に係る電源装置100の斜視図を図1に、垂直断面図を図2に、水平断面図を図3にそれぞれ示す。これらの図に示す電源装置100は、外装缶11を角形とし、対向する主面1Aを有する複数の電池セル1と、複数の電池セル1をそれぞれ被覆する絶縁性フィルム5と、複数の電池セル1同士の間に介在される複数のセパレータ2と、複数の電池セル1をセパレータ2を介して積層してなる電池積層体10の両端面に配置された一対のエンドプレート3と、電池積層体10の対向する側面にそれぞれ配置されて、エンドプレート3同士を締結する複数のバインドバー4とを備えている。
【0025】
(電池セル1)
電池セル1は、図4に示すように、幅広面である主面1Aの外形を四角形とする角形電池であって、幅よりも厚さを薄くしている。電池セル1は、リチウムイオン二次電池などの非水系電解液二次電池である。電池セル1をリチウムイオン二次電池とする電源装置100は、容積と重量に対する充放電容量を大きくできる。ただし、電池セルは、リチウムイオン二次電池には特定されず、充電できる全ての電池、たとえばニッケル水素電池なども使用できる。
【0026】
電池セル1は、正負の電極板を積層した電極体を外装缶11に収納して、電解液を充填して気密に密閉している。外装缶11は、外形を角形として、一対の主面1Aを有すると共に、底を閉塞する四角い筒状に成形しており、この上方の開口部を金属板の封口板12で気密に閉塞している。外装缶11は、アルミニウムやアルミニウム合金などの金属板を深絞り加工して製作される。封口板12は、外装缶11と同じように、アルミニウムやアルミニウム合金などの金属板で製作される。封口板12は、外装缶11の開口部に挿入され、封口板12の外周と外装缶11の内周との境界にレーザ光を照射して、封口板12を外装缶11にレーザ溶接して気密に固定している。
【0027】
電池セル1は、図において上面である封口板12を端子面1Xとして、この端子面1Xの両端部に正負の電極端子13を固定している。電極端子13は、突出部を円柱状としている。ただ、突出部は、必ずしも円柱状とする必要はなく、多角柱状又は楕円柱状とすることもできる。さらに、封口板12は、正負の電極端子13の間に、安全弁14の開口部15を設けている。安全弁14は、電池セル1の内圧が設定値よりも高くなると開弁して内部のガスを放出し、電池セル1の内圧上昇を防止すると共に、外装缶11や封口板12の破損を防止する。
【0028】
(熱収縮性フィルム5)
図4及び図5に示す電池セル1は、外周面を絶縁性の熱収縮性フィルム5で被覆して絶縁している。熱収縮性フィルム5は、電池セル1の周囲を覆う状態で、加熱されて熱収縮することで、電池セル1の表面に密着状態で固定される。図4図5に示す熱収縮性フィルム5は、電池セル1の上面である端子面1Xを除く面を被覆して絶縁している。具体的には、電池セル1の上面を除く面であって、好ましくは、主面1Aと側面1Bと底面1Cの全面を被覆する。ただし、熱収縮性フィルムは、底面の全面と、主面及び側面の上部を除く部分を被覆することもできる。上面は、電極端子13を電気接続のために表出させる必要があることから熱収縮性フィルム5で被覆しない。
【0029】
熱収縮性フィルム5は、加熱処理することで収縮する特性を有するプラスチックフィルムが使用できる。さらに、熱収縮性フィルム5は、熱収縮された状態での最大伸び量が、電池セル1の膨張時における外装缶11の主面1Aの最大伸び量よりも大きくなる伸縮性を有している。本明細書において、熱収縮性フィルム5の熱収縮された状態での最大伸び量とは、熱収縮された熱収縮性フィルム5が破断されることなく伸長される最大伸び量のことであり、外装缶11の主面1Aの最大伸び量とは、電池セル1が膨張する際に主面1Aが伸びる最大量のことを意味している。したがって、熱収縮性フィルム5は、熱収縮された状態で、破断されることなく伸びる最大量が、電池セル1が膨張する際に主面1Aが伸びる最大量よりも大きくなるような伸縮性を有している。
【0030】
角形電池セルを被覆して絶縁する従来の熱収縮性フィルムには、ポリエチレンテレフタレート(PET)製のフィルムを使用している。PET製の熱収縮性フィルムは、耐熱性、耐久性に優れ、安価である上、熱溶着で簡単に接着できるので汎用的に使用されてきた。ただ、PET製の熱収縮性フィルムは、熱収縮された状態で伸縮性が低下する欠点がある。PET製の熱収縮性フィルムは、熱収縮された状態での最大伸び量が、外装缶をアルミニウムとする電池セルの主面の最大伸び量以下となる。このため、PET製の熱収縮性フィルムでは、電池セルが膨張と収縮を繰り返す状態においては、熱収縮された熱収縮性フィルムの伸びが最大伸び量に達して破断するおそれがあった。
【0031】
そこで、本実施形態に係る電源装置においては、熱収縮性フィルム5として、熱収縮された状態での最大伸び量が、外装缶11の主面1Aの最大伸び量よりも大きくなる伸縮性を有する材質のプラスチックフィルムを使用する。このようなプラスチックフィルムとして、例えば、ポリエチレン(PE)製のフィルムが使用できる。
【0032】
(セパレータ2)
セパレータ2は、互いに積層される電池セル1同士の間に配置されて、隣接する電池セル1を絶縁し、さらに電池セル1間における熱伝導を遮断する。セパレータ2は、全体を無機粉末と繊維強化材とのハイブリッド素材2Xとしている。無機粉末は好ましくはシリカエアロゲルである。このハイブリッド素材2Xは、繊維の微細な隙間に、熱伝導率の低い微細なシリカエアロゲルを充填している。シリカエアロゲルは担持されて繊維強化材の隙間に配置される。このハイブリッド素材2Xは、繊維強化材の繊維シートと、ナノサイズの多孔質構造を有するシリカエアロゲルとからなり、シリカエアロゲルのゲル原料を、繊維に含浸して製造される。シリカエアロゲルを繊維シートに含浸した後、繊維を積層し、ゲル原料を反応させて湿潤ゲルを形成し、さらに湿潤ゲル表面を疎水化、熱風乾燥して製造される。繊維シートの繊維は、ポリエチレンテレフタレート(PET)である。ただ、繊維シートの繊維は、難燃処理を施した酸化アクリル繊維やグラスウールなどの無機繊維も使用できる。
【0033】
繊維強化材は、好ましくは繊維径を0.1~30μmとする。繊維強化材は、繊維径を30μmより細くし、繊維による熱伝導を小さくして、ハイブリッド素材2Xの断熱特性を向上できる。シリカエアロゲルは、90%~98%を空気で構成している無機質の微粒子で、ナノオーダの球状体が結合したクラスタで形成される骨格間に微細孔があって、三次元的な微細な多孔性構造をしている。
【0034】
シリカエアロゲルと繊維強化材とのハイブリッド素材2Xは、薄くて優れた断熱特性を示す。このハイブリッド素材2Xからなるセパレータ2は、電池セル1が熱暴走して発熱するエネルギーを考慮して、電池セル1の熱暴走の誘発を阻止できる厚さに設定する。電池セル1が熱暴走して発熱するエネルギーは、電池セル1の充電容量が大きくなると大きくなる。したがって、セパレータ2の厚さは、電池セル1の充電容量を考慮して最適値に設定される。たとえば、充電容量を5Ah~20Ahとするリチウムイオン二次電池を電池セル1とする電源装置は、ハイブリッド素材2Xの厚さを0.5mm~3mm、最適には約1mm~2.5mmとする。ただし、本発明はハイブリッド素材2Xの厚さを以上の範囲に特定するものでなく、ハイブリッド素材2Xの厚さは、繊維シートとシリカエアロゲルからなる熱暴走の断熱特性と、電池セルの熱暴走の誘発を防止するために要求される断熱特性を考慮して最適値に設定される。
【0035】
さらに、ハイブリッド素材2Xであるセパレータ2は、繊維強化材に充填されるシリカエアロゲルの充填密度で硬度を調整できる。ハイブリッド素材2Xは、シリカエアロゲルの充填密度を高くして高剛性にでき、シリカエアロゲルの充填密度を低くして低剛性にできる。セパレータ2として使用されるハイブリッド素材2Xは、柔軟性を持たせるために、好ましくは、シリカエアロゲルの充填密度を低くして低剛性にする。このように、ハイブリッド素材2Xの剛性を低下させることで、セパレータ2を柔軟にして、膨張時の電池セル1の変形に追随させて、セパレータ2の損傷を回避ないし抑制できる。
【0036】
図4に示すセパレータ2は、ハイブリッド素材2Xを電池セル1の主面1Aの外形に沿う形状であって、主面1Aの外周縁部を除く中央領域をカバーする大きさの四角形状としている。ただ、セパレータは、主面全体をカバーする大きさと形状とすることもでき、あるいは、外周縁部の一部を除く部分をカバーする大きさと形状とすることもできる。
【0037】
全体の外形を四角形状とするセパレータ2は、四隅のコーナー部を湾曲面2aとしている。このように、コーナー部を角張った形状とすることなく、湾曲面2aとすることで、熱収縮性フィルム5がコーナー部と接触する状態で損傷を受けるのを抑制している。ここで、コーナー部に設ける湾曲面2aの曲率半径(R)は、好ましくは、電池セル1の外装缶11のコーナー部に形成されるR面の曲率半径よりも大きくする。これにより、セパレータのコーナー部が電池セル1の主面1Aのコーナー部と対向して配置される場合においても、セパレータのコーナー部が電池セルのコーナー部よりも内側に配置されることで、熱収縮性フィルムに与える応力を低減できる。
【0038】
さらに、セパレータは、端縁においてエッジ部を面取りして面取り部を設けてもよい。このセパレータは、外周面である端面と積層平面との境界となる隅角部を面取りして面取り部を設けることができる。無機粉末であるシリカエアロゲルを含有するハイブリッド素材は、端縁において、切断面のエッジ部が鋭利になり、あるいは、含有する無機粉末が表出する状態となると、この部分が熱収縮性フィルムに接触して破断させる虞がある。したがって、ハイブリッド素材は、端縁のエッジ部を面取りすることで、熱収縮性フィルムと接触する場合における損傷を抑制して、熱収縮性フィルムが破断するのを有効に防止できる。
【0039】
(接着層7)
以上のセパレータ2は、接着層7を介して熱収縮性フィルム5で被覆された電池セル1の主面1Aに接着される。接着層7は、電池セル1の表面に密着された熱収縮性フィルム5にセパレータ2を接着するための部材であって、接着剤や粘着剤が使用できる。すなわち、本明細書において、接着とは粘着を含む広い意味で使用する。
【0040】
接着層7には、セパレータ2よりも伸縮性のある部材が使用される。好ましくは、接着層7は、熱収縮性フィルム5の変形に伴う最大伸び量が、電池セル1の膨張時における外装缶11の主面1Aの最大伸び量よりも大きくなる伸縮性を有するものを使用する。このように、接着層7が、その最大伸び量が主面1Aの最大伸び量よりも大きくなる伸縮性を有することで、電池セル1が膨張や収縮を繰り返す状態においても、接着層7が破断するのを防止できる。また、電池セル1の変形に対して、熱収縮性フィルム5と接着層7の両方を追随させることができるので、熱収縮性フィルム5に固定されるセパレータ2が損傷を受けるのを有効に防止できる。
【0041】
接着層7には、ウレタン系やシリコン系の接着剤が使用できる。図4は、接着層7として両面テープ7Aを介してセパレータ2を電池セル1の主面1Aに接着する状態を示している。両面テープ7Aは、基材シートの両面に前述の接着剤や粘着剤が塗布されたものが使用できる。
【0042】
(電池積層体10)
熱収縮性フィルム5で被覆された複数の電池セル1を、隣接する電池セル1同士の間にセパレータ2が介在されるように積層して電池積層体10を形成する。互いに隣接する電池セル1の間に挟まれるセパレータ2は、図5に示すように、一方の積層平面2Aが接着層7を介して電池セル1を被覆する熱収縮性フィルム5に接着され、他方の積層平面2Aが電池セル1を被覆する熱収縮性フィルム5に面接触する状態で積層されて電池積層体10が形成される。
【0043】
以上のように、複数の電池セル1とセパレータ2とが積層される電池積層体10は、図6に示すように、電池セル1が膨張する状態では、主面1Aが電池セル1の積層方向に膨らんで伸長されるが、熱収縮された熱収縮性フィルム5の最大伸び量が主面1Aの最大伸び量よりも大きくなる伸縮性を熱収縮性フィルム5が有しているので、熱収縮性フィルムは破断されることなく、伸長された状態に保持される。このため、破断されない熱収縮性フィルム5に接着されたセパレータ2も熱収縮性フィルム5から受ける破断方向の応力が低減されて、破断等の損傷を受けない状態に保持される。とくに、接着層7として、熱収縮性フィルム5の変形に伴う最大伸び量が、主面1Aの最大伸び量よりも大きくなる伸縮性を有するものを使用することで、セパレータ2にはたらく破断方向の応力がさらに緩和されて、破断等の損傷を受けるのをより確実に防止できる。
【0044】
電池積層体10は、正負の電極端子13を設けている端子面1X、図1においては封口板12が同一平面となるように、複数の電池セル1を積層している。電池積層体10は、隣接する電池セル1の正負の電極端子13に金属製のバスバー(図示せず)が接続されて、バスバーでもって複数の電池セル1を直列又は並列に、あるいは直列と並列に接続される。直列に接続される電池セルは、外装缶に電位差が発生するので、間に介在されるセパレータで絶縁する。並列に接続される電池セルは、外装缶に電位差は発生しないが、熱暴走の誘発を防止するために、間に介在されるセパレータで断熱する。図に示す電池積層体10は、12個の電池セル1を直列に接続している。ただ、本発明は、電池積層体10を構成する電池セル1の個数とその接続状態を特定しない。
【0045】
(エンドプレート3)
エンドプレート3は、図1図3に示すように、電池積層体10の両端に配置されて、電池積層体10を両端から挟着している。エンドプレート3は、電池セル1の外形とほぼ等しい形状と寸法の四角形で、全体を金属で製作している。金属製のエンドプレート3は、優れた強度と耐久性を実現できる。電池積層体10の両端に配置される一対のエンドプレート3は、電池積層体10の両側面に沿って配置される複数のバインドバー4を介して締結される。
【0046】
(バインドバー4)
バインドバー4は、電池積層体10の対向する両側面に配置されて、電池積層体10の両端面に配置された一対のエンドプレート3を締結している。バインドバー4は、図1図2に示すように、電池積層体10の積層方向に延長されており、一対のエンドプレート3を所定の寸法に固定して、その間に積層される電池セル1を所定の加圧状態に固定している。バインドバー4は、電池積層体10の側面に沿う所定の幅と所定の厚さを有する金属板である。バインドバー4は、強い引張力に耐える金属板が使用される。図のバインドバー4は、電池積層体10の側面を被覆する上下幅の金属板としている。金属板からなるバインドバー4は、プレス成形等により折曲加工されて所定の形状に形成される。図に示すバインドバー4は、上下の端縁部を折曲加工して、折曲部4aを形成している。上下の折曲部4aは、電池積層体10の左右の両側面において、電池積層体10の上下面を隅部から覆う形状としている。図に示すバインドバー4は、複数の固定ピン6を介してエンドプレート3の両側面に固定している。
【0047】
以上の電源装置は、電動車両を走行させるモータに電力を供給する車両用の電源として利用できる。電源装置を搭載する電動車両としては、エンジンとモータの両方で走行するハイブリッド自動車やプラグインハイブリッド自動車、あるいはモータのみで走行する電気自動車等の電動車両が利用でき、これらの車両の電源として使用される。なお、車両を駆動する電力を得るために、上述した電源装置を直列や並列に多数接続して、さらに必要な制御回路を付加した大容量、高出力の電源装置100を構築した例として説明する。
【0048】
(ハイブリッド車用電源装置)
図7は、エンジンとモータの両方で走行するハイブリッド自動車に電源装置を搭載する例を示す。この図に示す電源装置を搭載した車両HVは、車両本体91と、この車両本体91を走行させるエンジン96及び走行用のモータ93と、これらのエンジン96及び走行用のモータ93で駆動される車輪97と、モータ93に電力を供給する電源装置100と、電源装置100の電池を充電する発電機94とを備えている。電源装置100は、DC/ACインバータ95を介してモータ93と発電機94に接続している。車両HVは、電源装置100の電池を充放電しながらモータ93とエンジン96の両方で走行する。モータ93は、エンジン効率の悪い領域、例えば加速時や低速走行時に駆動されて車両を走行させる。モータ93は、電源装置100から電力が供給されて駆動する。発電機94は、エンジン96で駆動され、あるいは車両にブレーキをかけるときの回生制動で駆動されて、電源装置100の電池を充電する。なお、車両HVは、図7に示すように、電源装置100を充電するための充電プラグ98を備えてもよい。この充電プラグ98を外部電源と接続することで、電源装置100を充電できる。
【0049】
(電気自動車用電源装置)
また、図8は、モータのみで走行する電気自動車に電源装置を搭載する例を示す。この図に示す電源装置を搭載した車両EVは、車両本体91と、この車両本体91を走行させる走行用のモータ93と、このモータ93で駆動される車輪97と、このモータ93に電力を供給する電源装置100と、この電源装置100の電池を充電する発電機94とを備えている。電源装置100は、DC/ACインバータ95を介してモータ93と発電機94に接続している。モータ93は、電源装置100から電力が供給されて駆動する。発電機94は、車両EVを回生制動する時のエネルギーで駆動されて、電源装置100の電池を充電する。また車両EVは充電プラグ98を備えており、この充電プラグ98を外部電源と接続して電源装置100を充電できる。
【0050】
(蓄電装置用の電源装置)
さらに、本発明は、電源装置の用途を、車両を走行させるモータの電源には特定しない。実施形態に係る電源装置は、太陽光発電や風力発電等で発電された電力で電池を充電して蓄電する蓄電装置の電源として使用することもできる。図9は、電源装置100の電池を太陽電池82で充電して蓄電する蓄電装置を示す。
【0051】
図9に示す蓄電装置は、家屋や工場等の建物81の屋根や屋上等に配置された太陽電池82で発電される電力で電源装置100の電池を充電する。この蓄電装置は、太陽電池82を充電用電源として充電回路83で電源装置100の電池を充電した後、DC/ACインバータ85を介して負荷86に電力を供給する。このため、この蓄電装置は、充電モードと放電モードを備えている。図に示す蓄電装置は、DC/ACインバータ85と充電回路83を、それぞれ放電スイッチ87と充電スイッチ84を介して電源装置100と接続している。放電スイッチ87と充電スイッチ84のON/OFFは、蓄電装置の電源コントローラ88によって切り替えられる。充電モードにおいては、電源コントローラ88は充電スイッチ84をONに、放電スイッチ87をOFFに切り替えて、充電回路83から電源装置100への充電を許可する。また、充電が完了し満充電になると、あるいは所定値以上の容量が充電された状態で、電源コントローラ88は充電スイッチ84をOFFに、放電スイッチ87をONにして放電モードに切り替え、電源装置100から負荷86への放電を許可する。また、必要に応じて、充電スイッチ84をONに、放電スイッチ87をONにして、負荷86への電力供給と、電源装置100への充電を同時に行うこともできる。
【0052】
さらに、電源装置は、図示しないが、夜間の深夜電力を利用して電池を充電して蓄電する蓄電装置の電源として使用することもできる。深夜電力で充電される電源装置は、発電所の余剰電力である深夜電力で充電して、電力負荷の大きくなる昼間に電力を出力して、昼間のピーク電力を小さく制限することができる。さらに、電源装置は、太陽電池の出力と深夜電力の両方で充電する電源としても使用できる。この電源装置は、太陽電池で発電される電力と深夜電力の両方を有効に利用して、天候や消費電力を考慮しながら効率よく蓄電できる。
【0053】
以上のような蓄電装置は、コンピュータサーバのラックに搭載可能なバックアップ電源装置、携帯電話等の無線基地局用のバックアップ電源装置、家庭内用または工場用の蓄電用電源、街路灯の電源等、太陽電池と組み合わせた蓄電装置、信号機や道路用の交通表示器などのバックアップ電源用などの用途に好適に利用できる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明に係る電源装置は、ハイブリッド自動車、燃料電池自動車、電気自動車、電動オートバイ等の電動車両を駆動するモータの電源用等に使用される大電流用の電源として好適に利用できる。例えばEV走行モードとHEV走行モードとを切り替え可能なプラグイン式ハイブリッド電気自動車やハイブリッド式電気自動車、電気自動車等の電源装置が挙げられる。またコンピュータサーバのラックに搭載可能なバックアップ電源装置、携帯電話等の無線基地局用のバックアップ電源装置、家庭内用、工場用の蓄電用電源、街路灯の電源等、太陽電池と組み合わせた蓄電装置、信号機等のバックアップ電源用等の用途にも適宜利用できる。
【符号の説明】
【0055】
100…電源装置1…電池セル1X…端子面、1A…主面、1B…側面、1C…底面、2…セパレータ、2X…ハイブリッド素材、2A…積層平面、2a…湾曲面、3…エンドプレート、4…バインドバー、4a…折曲部、5…熱収縮性フィルム、6…固定ピン、7…接着層、7A…両面テープ、10…電池積層体、11…外装缶、12…封口板、13…電極端子、14…安全弁、15…開口部、81…建物、82…太陽電池、83…充電回路、84…充電スイッチ、85…DC/ACインバータ、86…負荷、87…放電スイッチ、88…電源コントローラ、91…車両本体、93…モータ、94…発電機、95…DC/ACインバータ、96…エンジン、97…車輪、98…充電プラグ、HV、EV…車両、101…電池セル、102…セパレータ、105…熱収縮性フィルム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10