(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】油中油型乳化化粧料
(51)【国際特許分類】
A61K 8/31 20060101AFI20241106BHJP
A61K 8/06 20060101ALI20241106BHJP
A61K 8/37 20060101ALI20241106BHJP
A61K 8/89 20060101ALI20241106BHJP
A61Q 1/04 20060101ALI20241106BHJP
A61K 8/25 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
A61K8/31
A61K8/06
A61K8/37
A61K8/89
A61Q1/04
A61K8/25
(21)【出願番号】P 2020026726
(22)【出願日】2020-02-20
【審査請求日】2022-12-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】100149294
【氏名又は名称】内田 直人
(72)【発明者】
【氏名】西海 友梨恵
(72)【発明者】
【氏名】金沢 美紗
(72)【発明者】
【氏名】千葉 桐子
【審査官】▲高▼ 美葉子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-114819(JP,A)
【文献】特開2014-122180(JP,A)
【文献】特開2011-111443(JP,A)
【文献】特開2014-129265(JP,A)
【文献】特表2015-520116(JP,A)
【文献】SASAKI Takayoshi,Characteristics of High Performance Micro-spherical Silica,"SUNSPHERE", and its Application for Cosmetics.,Res. Reports Asahi Glass Co.,LTD.,61(2011),p.37-41
【文献】True Shining Gloss ,ID 2222581,Mintel GNPD[online],2013年9月,[検索日2024.05.30],https://www.portal.mintel.com
【文献】Juicy Balm Gloss ,ID 6141433,Mintel GNPD[online],2018年11月,[検索日2024.05.30],https://www.portal.mintel.com
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)
非揮発性炭化水素油及び非揮発性エステル油を合計で5~80質量%;
(b)1~70質量%の非揮発性シリコーン油;及び
(c)3~13質量%の平均粒子径が1~10μmの粉末を含有し、
前記(b)非揮発性シリコーン油がジフェニルジメチコンであり、
前記(a)
非揮発性炭化水素油及び非揮発性エステル油と(b)非揮発性シリコーン油とが、25℃で混合したときに分離
し、
(a)非揮発性炭化水素油及び非揮発性エステル油と(b)非揮発性シリコーン油は、それらの配合比(質量比)が、(a)/[(a)+(b)]=0.4~0.8であることを特徴とする油中油型乳化化粧料。
【請求項2】
(d)揮発性炭化水素を更に含有することを特徴とする
請求項1に記載の油中油型化粧料。
【請求項3】
(e)色材を更に含有することを特徴とする
請求項1又は2に記載の化粧料。
【請求項4】
(f1)無水ケイ酸のナノ粒子を更に含有することを特徴とする
請求項1から3のいずれか一項に記載の化粧料。
【請求項5】
透明容器に収容された、
請求項1から4のいずれか一項に記載の化粧料。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の化粧料からなる口唇化粧料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は油中油型乳化化粧料に関し、より詳しくは、耐移り性に優れ、塗布時ののびが良好で、マット感があり、かつ外観安定性にも優れた油中油型乳化化粧料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
口紅等の口唇化粧料には、口唇に塗布した後、食べ物やカップなどの口唇に接触する物質に化粧料が転写されてしまうという二次付着の問題がある。また、塗布直後の美しい色彩が二次付着により失われたり、色彩が経時的に変化したりする場合もあり、二次付着しないことに加えて、メーキャップ効果を長時間持続させる化粧持ちに優れた口唇化粧料が望まれている。
【0003】
口唇化粧料において、二次付着を抑制する(耐移り性を向上させる)、あるいは化粧もちを向上させる為に、様々な技術が開発されている。典型例としては、口唇化粧料に環状シリコーン油等の揮発性油と、当該揮発性油に溶解させた皮膜形成剤(シリコーン系の樹脂)を配合し、口唇への塗布後、揮発性油の蒸発により形成される皮膜によって二次付着を防止する技術が挙げられる。しかしながら、口唇上に形成される皮膜により違和感(ツッパリ感)が生じるという問題があった。また、口紅を塗布した上にリップコートを重ね塗りして色移りや色落ちを防止する技術もあるが、二度塗りが必要で煩雑であった。
【0004】
特許文献1には、(a)非揮発性炭化水素系油を連続相、(b)非揮発性シリコーン系油を分散相とする油中油型化粧料であって、(a)非揮発性炭化水素系油及び(b)非揮発性シリコーン系油の配合量並びに配合量比率を特定範囲内に調整し、なおかつデキストリン脂肪酸エステルを配合した化粧料が記載されている。特許文献1の化粧料を口唇に塗布すると、非揮発性シリコーン系油が表層にしみ出して(ブリード現象)、非揮発性炭化水素系油の密着層を被覆するコート層を形成するので、耐移り性に優れ、なおかつ良好なツヤを与えるとされている。
【0005】
近年、塗布した時のツヤを抑制してマットな仕上がりとなる口唇化粧料の需要が増えてきている。口紅等に粉末成分を配合することによりマット感を付与できることが知られている。例えば、特許文献2には、特定の分子量を持つジメチルポリシロキサンを含有する油性固形化粧料に、カオリナイト(カオリン)と球状シリカを配合すると、マットな質感がありながら伸び広がりに優れた化粧料となることが記載されている。特許文献3には、揮発性油、不揮発性油、トリメチルシロキシケイ酸を含有する油性口唇化粧料において、平均粒子径の異なる2種以上の球状粉体を配合することにより、マットな仕上がりで化粧持ちに優れ、なおかつツッパリ感が少なくマット感の経時変化(ギャップ)を生じにくい化粧料が得られることが記載されている。
【0006】
しかしながら、口紅等の油性化粧料に粉末を配合すると、油によるツヤを抑制してマットな仕上がりとすることはできるが、温度変化により化粧料にクラック(ひび)が入ることがあった。昨今の化粧品市場では、製品の品質や効能のみならず、製品の外観も重視され、いわゆるSNS映えのする外観を好む消費者も増えている。このような嗜好を背景に、透明容器に収容して化粧料の色彩が見えるようにした口紅が好まれる傾向がある。その場合、クラックの発生は化粧料の外観を損なうものとして購買意欲の低下を招く可能性がある。
【0007】
【文献】特許第4766720号公報
【文献】特開2017-114819号公報
【文献】特開2019-65010号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明は、塗布後の耐移り性に優れ、塗布時ののびが良好で、マット感があり、かつクラック等を生じずに外観安定性にも優れた油中油型化粧料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意研究の結果、互いに相溶しない非揮発性炭化水素油(及び/又は非揮発性エステル油)と非揮発性シリコーン油とを含有する油中油型乳化化粧料に、所定範囲の平均粒子径を有する粉末を所定量配合することにより、塗布時にはのびが良好で、塗布後は耐移り性に優れたマットな仕上がりが得られるのみならず、外観が安定でクラック等を生じないことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明は、
(a)5~80質量%の非揮発性炭化水素油及び/又は非揮発性エステル油;
(b)1~70質量%の非揮発性シリコーン油;及び
(c)3~13質量%の平均粒子径が1~10μmの粉末を含有し、
前記(a)非揮発性炭化水素油及び/又は非揮発性エステル油と(b)非揮発性シリコーン油とが、25℃で混合したときに分離することを特徴とする油中油型乳化化粧料を提供する。
【0011】
本発明においては、(a)非揮発性炭化水素油及び/又は非揮発性エステル油と(b)非揮発性シリコーン油は、その配合比(質量比)が、(a)/[(a)+(b)]=0.4~0.8であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の油中油型乳化化粧料は、塗布後の耐移り性に優れ、塗布時ののびが良好で、マット感があり、なおかつクラック等を生じずに外観安定性にも優れたものである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の油中油型乳化化粧料(「油中油型化粧料」または単に「乳化化粧料」ともいう)は、(a)非揮発性炭化水素油及び/又は非揮発性エステル油、(b)非揮発性シリコーン油、及び(c)特定粒子径の粉末を必須成分として含有する。以下に詳細に説明する。
【0014】
(a)非揮発性炭化水素油及び/又は非揮発性エステル油
本発明で用いられる(a)非揮発性炭化水素油及び/又は非揮発性エステル油は、(a1)非揮発性炭化水素油及び(a2)非揮発性エステル油から選択される少なくとも1種の油からなる。なお、本明細書における「非揮発性油」とは、常温(25℃)かつ常圧で揮発性を示さない液状又はペースト状の油である。
【0015】
(a1)非揮発性炭化水素油
(a1)非揮発性炭化水素油としては、例えば、水添ポリイソブテン、ポリブテン、ポリイソブチレン、ポリイソプレン、流動パラフィン、スクワラン、水添ポリデセン、ワセリン等が挙げられる。このうち特にポリブテンが好ましく、さらには分子量1000~2650のポリブテンが好ましい。
【0016】
(a2)非揮発性エステル油
(a2)非揮発性エステル油としては、ヘキサヒドロキシステアリン酸ジペンタエリスリチル(商品名:コスモール168M)、(イソステアリン酸ポリグリセリル-2/ダイマージリノール酸)コポリマー(商品名:ハイルーセントISDA)、ダイマージリノール酸ダイマージリノレイル(商品名:LUSPLAN DD-DA7)、ダイマージリノール酸(フィトステリル/イソステアリル/セチル/ステアリル/ベヘニル)等のダイマージリノール酸エステル、ラウロイルグルタミン酸ジ(オクチルドデシル/フィトステリル/ベヘニル)、(ビス(ラウロイルグルタミン酸/ラウロイルサルコシン)ダイマージリノレイル)等のラウロイルグルタミン酸エステル等が挙げられる。これらの中で、特に、ヘキサヒドロキシステアリン酸ジペンタエリスリチル、(イソステアリン酸ポリグリセリル-2/ダイマージリノール酸)コポリマー等が好ましく用いられる。
【0017】
本発明の乳化化粧料における(a)非揮発性炭化水素油及び/又は非揮発性エステル油の配合量は、化粧料全量に対して5~80質量%であり、好ましくは10~70質量%であり、より好ましくは20~60質量%である。非揮発性炭化水素油及び/又は非揮発性エステル油の配合量が少なすぎると、しっとりさが欠ける。非揮発性炭化水素油及び/又は非揮発性エステル油の配合量が多すぎると、のびが重くなり、べたつきが増し、耐移り性も悪くなり、発色も悪くなる傾向がある。
【0018】
(b)非揮発性シリコーン油
(b)非揮発性シリコーン油としては非揮発性炭化水素油及び非揮発性エステル油と相溶しないものであればよく、同時に配合される非揮発性炭化水素油及び/又は非揮発性エステル油の種類によって油中油型となるように適宜選択される。かかる非揮発性シリコーン油としては、例えば、ジフェニルジメチコン(メチルフェニルポリシロキサンともいう)、ジメチコン、フッ素変性アルキルシリコーンなどが挙げられる。このうち特にジフェニルジメチコンが好ましく、さらには粘度が300~500csのジフェニルジメチコンが好ましい。
【0019】
本発明の乳化化粧料における(b)非揮発性シリコーン油の配合量は、化粧料全量に対して1~70質量%であり、好ましくは5~60質量%であり、より好ましくは10~50質量%である。非揮発性シリコーン油の配合量が少なすぎると、耐移り性が悪くなる傾向となる。非揮発性シリコーン油の配合量が多すぎると、つやは増すが、経時で剥がれやすくなる。
【0020】
本明細書における「分離する」又は「相溶しない」(25℃において)は、次のように定義する。
(a)非揮発性炭化水素油及び/又は非揮発性エステル油と(b)非揮発性シリコーン油を、(a):(b)=1:1(質量比)で用い、90℃に加温し、攪拌混合し、次いで静置し、混合物の温度が25℃になったときに、境界が均一な2層に分離したものを「分離する」又は「相溶しない」とし、半透明な状態または境界がなく透明な相溶した状態になったものを「分離しない」または「相溶する」とした。
【0021】
本発明の乳化化粧料においては、(a)非揮発性炭化水素油及び/又は非揮発性エステル油と(b)非揮発性シリコーン油は、それらの配合比(質量比)を、(a)/[(a)+(b)]=0.4~0.8とすることが好ましい。[(a)+(b)]成分に対する(a)成分の割合が大きすぎるとのびが重くなり、べたつきが増し、耐移り性が悪くなり、発色も悪くなる。(a)成分の割合が小さすぎると、(a)+(b)中の(b)成分の割合が増すことになり、しっとりさが欠ける傾向となる。
【0022】
(c)特定粒子径の粉末
本発明の乳化化粧料における(c)成分は、平均粒子径が1~10μmの粉末(「特定粒子径の粉末」という)である。平均粒子径は、より好ましくは2~8μm、更に好ましくは4~8μmである。平均粒子径が1μmに満たない粉末では十分なマット感が得られず、平均粒子径が10μmを超える粉末ではクラックを生じやすくなる。なお、本明細書における「平均粒子径」とは、当該粉末の複数について測定した粒子径の算術平均値(すなわち、粒度分布におけるD50の値)を意味する。
【0023】
本発明における(c)特定粒子径の粉末は、その形状や材質は特に限定されない。例えば、板状粉末、球状粉末、薄片状粉末等が使用でき、シリカ等の無機粉末、ポリメチルシルセスキオキサン等の無機あるいは有機の樹脂粉末が使用できる。また、粉末表面は疎水性でも親水性でもよく、表面処理がされていてもいなくてもよい。
本発明の乳化化粧料では、(c)特定粒子径の粉末を連続相(外相)に配合するのが好ましい。
【0024】
本発明の乳化化粧料における(c)特定粒子径の粉末の配合量は、化粧料全量に対して3~13質量%であり、好ましくは5~10質量%である。配合量が3質量%未満であると十分なマット感が得られず、13質量%を超えて配合するとクラックが生じ易くなる。
【0025】
本発明の乳化化粧料は、特許文献1に記載された化粧料と同様に、互いに相溶しない(a)非揮発性炭化水素油及び/又は非揮発性エステル油を連続相、(b)非揮発性シリコーン油を分散相とする油中油型乳化化粧料である。本発明の油中油型化粧料においては、酸化鉄等の色材は表面の濡れの関係から連続相油に分散すると考えられる。特許文献1においては、油性増粘剤であるデキストリン脂肪酸エステルを配合しないと乳化安定性が保てないことが示されているが、本発明においては、デキストリン脂肪酸エステルを配合しなくても、上記の特定粒子径の粉末を配合することにより粘度が上昇し、乳化安定性を維持できるとともに、外観も安定に保持できることは従来技術から予測できない有利な効果である。
【0026】
本発明の油中油型化粧料は、使用前の容器内では(b)非揮発性シリコーン油と(a)非揮発性の炭化水素油及び/又はエステル油は油中油型の安定乳化状態を保ち、クラック等の外観変化も生じない。一方、口唇等に塗布すると、塗布時にかかる外力により乳化破壊が起こり、(b)非揮発性シリコーン油が表層にしみ出して分離してコート層となり、それが(a)非揮発性炭化水素油及び/又は非揮発性エステル油の密着層を覆うため、耐移り性を有し、かつ良好なつやを与える。この非揮発性シリコーン油の分離は、塗布時に唇をこすり合わせて圧力を加えることでさらに促進される。
【0027】
すなわち、本発明の乳化化粧料を、例えば口紅として用いる場合には、口紅とリップコートのような2品使いにする手間がなく、1品でマットな色彩が落ち難くカップ等につきにくいという効果を発揮する。
【0028】
本発明の乳化化粧料には、上記の必須成分(a)、(b)及び(c)に加えて、メーキャップ化粧料、中でも口紅等の口唇化粧料に通常配合される他の成分を、本発明の効果を阻害しない範囲で配合することができる。以下に、配合可能な他の成分を例示する。
【0029】
(d)揮発性炭化水素
本発明の乳化化粧料に、イソドデカン等の揮発性炭化水素(油)を配合すると、塗布時ののびが更に改善される。配合する揮発性炭化水素としては、(a)非揮発性炭化水素油及び/又は非揮発性エステル油、及び(b)非揮発性シリコーン油のいずれにも可溶のものが好ましい。例えば、8~16の炭素原子を有する揮発性炭化水素及びそれらの混合物を例示することができる。特に、分枝状のC8-C16アルカン類、分枝状のC8-C16エステル類及びそれらの混合物から選択するのが好ましい。かかる揮発性炭化水素として好ましいのは、特に石油から得られるC8-C16イソパラフィンであり、市販品としては、「アイソパー(Isopar)」(イソパラフィン系溶剤、エクソン社製)や「パーメチル(Permethyl)99A、パーメチル(Permethyl)101A、」(EC Eldorchemie社製 日本光研工業社が販売)がある。化合物名を例示すれば、イソドデカン、イソヘキサデカン、ネオペンタン酸イソヘキシル及びそれらの混合物が好ましく、イソドデカンが特に好ましい。
【0030】
本発明の乳化化粧料に(d)揮発性炭化水素を配合する場合の好ましい配合量は、化粧料全量に対して、0.1~50質量%であり、好ましくは1~30質量%、より好ましくは2~20質量%である。
【0031】
(e)色材
本発明の乳化化粧料は、メーキャップ化粧料、中でも口紅等の口唇化粧料として用いるのに適している。従って、本発明の乳化化粧料に色材を配合するのが好ましい。
本発明で配合される(e)色材は、口紅等のメーキャップ化粧料に通常用いられる色材であればよく、顔料(粉末又はレーキ)及び染料を包含する。無機顔料、有機顔料、あるいはパール顔料のいずれも、シリコーン油に比較して炭化水素油及び/又はエステル油の方に濡れやすい傾向があるため、最終的には顔料は自発的に連続相である炭化水素油及び/又はエステル油に移行する。
【0032】
本発明の乳化化粧料における(e)色材の配合量は、化粧料全量に対して、通常は0.01~30質量%、好ましくは、0.1~20質量%である。
【0033】
(f)(c)成分以外の粉末
本発明の乳化化粧料は、前記の(c)特定粒子径の粉末以外に、(c)成分に該当しない粉末を更に含有していてもよい。
例えば、平均粒子径が10~50nmの無水ケイ酸(シリカ)を配合するのが好ましい。本明細書ではこれら平均粒子径がナノメートルオーダーの微粒子を「ナノ粒子」と呼ぶ(「(f1)成分」ともいう))。無水ケイ酸(シリカ)のナノ粒子として、アエロジル200、300、R972、R974、RY200(日本アエロジル社製)等の市販品を用いることができる。本発明に用いる無水ケイ酸(シリカ)は、表面が親水性のものでも、シリル化等の疎水化処理したものでもよい。無水ケイ酸(シリカ)ナノ粒子を配合する場合の好ましい配合量は、化粧料全量に対して10質量%以下とするのが好ましく、より好ましくは0.1~5質量%である。
【0034】
また、本発明の乳化化粧料では、上記の(c)特定粒子径の粉末を連続相(すなわち、(a)非揮発性炭化水素油及び/又は非揮発性エステル油)に配合した上で、さらに分散相(すなわち、(b)非揮発性シリコーン油)に(c)特定粒子径の粉末を配合してもよい。
また、分散相に配合する粉末は球状粉末とするのが好ましい。即ち、平均粒子径が1~10μmの球状粉末(以下、「特定粒子径の球状粉末」または「(f2)成分」という)を分散相に配合するのが好ましい。これにより、化粧持ちを更に改善することができる。ここで、球状粉末とは、短径の長さに対する長径の長さが2以下、好ましくは1.5以下の粉末であり、最も好ましくは真球形状の粉末である。
【0035】
(f2)特定粒子径の球状粉末は、その平均粒子径に基づいて(c)特定粒子径の粉末に包含される。しかし、本発明の乳化化粧料の分散相に(f2)特定粒子径の球状粉末を配合する場合には、当該(f2)成分は「(c)特定粒子径の粉末」には属さないものとし、その配合量は(c)特定粒子径の粉末(ただし分散相に配合される球状粉末を除く)の配合量とは別に計算する。そのときの(f2)成分の配合量は、化粧料全量に対して2~12質量%の範囲にするのが好ましい。
【0036】
(g)油性増粘剤
本発明の乳化化粧料には、油溶性で増粘作用を有する油性増粘剤を配合できる。中でも、デキストリン脂肪酸エステルが好ましい例として挙げられる。ただし、油性増粘剤は、通常は(a)非揮発性炭化水素油及び/又は非揮発性エステル油を含む連続相に配合されるので、クラック防止の観点からは、その配合量を抑制するのが好ましい。(g)油性増粘剤の配合量は、好ましくは化粧料全量に対して0.1~8質量%であり、より好ましくは0.5~6質量%であり、更に好ましくは1~5質量%である。なお、本発明の乳化化粧料は、デキストリン脂肪酸エステルを配合しなくても乳化安定性が保持されるのは上述した通りであるので、本発明は、デキストリン脂肪酸エステルを配合しない形態も包含する。
【0037】
(h)その他の配合成分
本発明の乳化化粧料に配合される他の成分としては、保湿剤、半固形油((a)成分以外)及び/又はマイクロクリスタリンワックス、香料、界面活性剤、酸化防止剤、防腐剤、美容成分等が挙げられるが、これらに限定されない。
保湿剤としては、グリセリン、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール等の多価アルコール系保湿剤が例示される。
なお、ワックス(マイクロクリスタリンワックス以外)や皮膜形成剤を多く配合しすぎると、ごわつき感を生じる場合があるので、これらの配合量は約5質量%以下に抑制するのが好ましく、本発明は、ワックス(マイクロクリスタリンワックス以外)及び皮膜形成剤を配合しない態様も含む。
【0038】
本発明の乳化化粧料は、例えば、(a)非揮発性炭化水素油及び/又は非揮発性エステル油及び(c)特定粒子径の粉末を含む連続相の構成成分を必要に応じて加熱しながら攪拌混合し、別途(b)非揮発性シリコーン油を含む分散相の構成成分を任意に加熱しながら攪拌混合し、連続相を攪拌しながら分散相を攪拌分散して製造できる。
【0039】
本発明の乳化化粧料は、口紅、リップグロス、下地用のリップベース、口紅オーバーコート、リップクリームなどに応用することができる。特に、色材を配合した口紅に用いた場合には、口紅としての発色効果と耐移り性、マットな仕上がりを併せ持つことができるので好適である。
また、本発明の乳化化粧料は、クラック等を生じず外観安定性に優れるので、透明容器に収容して提供するのに特に適している。
【実施例】
【0040】
本発明について以下に実施例を挙げてさらに詳述するが、本発明はこれらの例により何ら限定されるものではない。配合量は特記しない限り質量%で示す。
実施例の説明に先立ち本発明で用いた評価試験方法について説明する。
【0041】
(1)使用性の評価試験
10名の専門パネルによる実使用性試験を行った。使用性項目は、塗布時ののび、耐移り性、及びマット感であり、それぞれの評価項目について、下記の評価点基準に基づいて5段階官能評価(スコア)した。そのスコア平均値により、下記評価基準で判定した。
塗布時ののび、耐移り性、及びマット感の評価は、塗布時または塗布直後の評価である。塗布方法は、本発明の化粧料を唇に塗布した後、唇の上下をこすり合わせ5秒ほど圧力を加える方法にて行った。耐移り性の評価はカップへの移りのなさを評価し、マット感は目視により判定した。
【0042】
(スコア)
5点:非常に優れている。
4点:優れている。
3点:普通。
2点:劣る。
1点:非常に劣る。
【0043】
(評価基準)
S:評価値(平均値)4.5以上
A:評価値(平均値)4.0以上4.5点未満
B:評価値(平均値)3.0以上4.0点未満
C:評価値(平均値)2.0以上3.0点未満
D:評価値(平均値)2.0点未満
【0044】
(2)外観安定性の評価試験
使用容器内でのクラック発生の有無について、以下の方法で評価した。
(評価方法)
表記載の処方を常法により調製し、塗布具付ボトル容器に入れ、1週間後に目視観察により評価した。
【0045】
(評価基準)
○:クラック発生等の外観変化が認められなかった。
×:クラックが生じた。
【0046】
実施例1~9、比較例1~4
次の表1及び2に示す処方でグロス口紅を調製し、使用性(塗布時ののび、耐移り性、マット感)及び外観安定性について、上記した基準で評価した。その結果を併せて示す。なお、表中の粉末に付した(数値)は平均粒子径(μm)である。
【0047】
【0048】
【0049】
表1及び2に示した結果より、(c)特定粒子径の粉末を3~13質量%配合した実施例1~9は、クラックが生じずに外観安定性に優れ、塗布時ののび及び耐移り性が良好であり、マット感のある仕上がりが得られた。これらの結果は、(c)特定粒子径の粉末の材質を変化させても、(a)成分として非揮発性炭化水素油又は非揮発性エステル油の何れを用いても同様であった。一方、(c)特定粒子径の粉末を配合しない場合、及び配合量が3質量%未満である場合には、マット感が得られず、配合量が13質量%を超える場合及び粉末の粒子径が所定範囲を外れる場合にクラックを生じた。