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特許7582800ポリイソシアネート組成物および変性体組成物
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  • 特許-ポリイソシアネート組成物および変性体組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】ポリイソシアネート組成物および変性体組成物
(51)【国際特許分類】
   C08G 18/76 20060101AFI20241106BHJP
   C08G 18/73 20060101ALI20241106BHJP
   C07C 275/58 20060101ALI20241106BHJP
   C07C 265/14 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
C08G18/76 014
C08G18/73
C07C275/58
C07C265/14
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020104298
(22)【出願日】2020-06-17
(65)【公開番号】P2021195347
(43)【公開日】2021-12-27
【審査請求日】2023-03-08
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003812
【氏名又は名称】弁理士法人いくみ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂本 拡之
(72)【発明者】
【氏名】矢木 徹
(72)【発明者】
【氏名】高松 孝二
(72)【発明者】
【氏名】三尾 茂
(72)【発明者】
【氏名】清野 真二
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 潤
(72)【発明者】
【氏名】吉瀬 正之
(72)【発明者】
【氏名】宮嶋 敦浩
(72)【発明者】
【氏名】中川 俊彦
【審査官】小森 潔
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-510789(JP,A)
【文献】国際公開第2018/190290(WO,A1)
【文献】特開2019-059823(JP,A)
【文献】特開2019-218521(JP,A)
【文献】特開2011-201863(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
C08G
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
キシリレンジイソシアネートおよび/またはペンタメチレンジイソシアネートと、
アルファモイルクロライド構造含有化合物と
を含むポリイソシアネート組成物であり、
前記アルファモイルクロライド構造含有化合物に由来する加水分解性塩素の濃度が、前記ポリイソシアネート組成物の総量に対して、15.0ppm以上80ppm以下である
ことを特徴とする、ポリイソシアネート組成物。
【請求項2】
請求項1に記載のポリイソシアネート組成物が変性された変性体組成物であり、
下記(a)~(i)の官能基を少なくとも1種含有する
ことを特徴とする、変性体組成物。
(a)イソシアヌレート基、
(b)アロファネート基、
(c)ビウレット基、
(d)ウレタン基、
(e)ウレア基、
(f)イミノオキサジアジンジオン基、
(g)ウレトジオン基、
(h)ウレトンイミン基、
(i)カルボジイミド基
【請求項3】
(a)イソシアヌレート基および/または(b)アロファネート基を含有することを特徴とする、請求項2に記載の変性体組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイソシアネート組成物および変性体組成物に関し、詳しくは、ポリイソシアネート組成物、および、そのポリイソシアネート組成物を変性した変性体組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリウレタン樹脂は、通常、ポリイソシアネートと活性水素基含有化合物との反応により製造されており、例えば、塗料、接着剤、エラストマーなどとして、各種産業分野において広範に使用されている。
【0003】
ポリイソシアネートとしては、ポリイソシアネート単量体およびポリイソシアネート変性体が知られている。
【0004】
より具体的には、例えば、ポリイソシアネート単量体としては、キシリレンジイソシアネートが知られており、また、ポリイソシアネート変性体としては、例えば、キシリレンジイソシアネートを、イソシアヌレート化触媒の存在下においてイソシアヌレート化反応させて得られるポリイソシアヌレート組成物が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
また、例えば、ポリイソシアネート単量体としては、ペンタメチレンジイソシアネートも知られており、また、ポリイソシアネート変性体としては、例えば、ペンタメチレンジイソシアネートを、イソシアヌレート化触媒の存在下においてイソシアヌレート化反応させて得られるポリイソシアヌレート組成物が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開WO2015/133493号
【文献】国際公開WO2012/121291号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一方、工業的には、ポリイソシアネートには、貯蔵安定性が要求されている。
【0008】
さらに、上記のイソシアヌレート化反応のように、ポリイソシアネート変性体を調製する場合には、得られる変性体の着色を抑制することが要求される。
【0009】
本発明は、貯蔵安定性に優れ、変性体の着色を抑制できるポリイソシアネート組成物、および、そのポリイソシアネート組成物を変性した変性体組成物である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明[1]は、キシリレンジイソシアネートおよび/またはペンタメチレンジイソシアネートと、アルファモイルクロライド構造含有化合物とを含むポリイソシアネート組成物であり、アルファモイルクロライド構造含有化合物に由来する加水分解性塩素の濃度が、前記ポリイソシアネート組成物の総量に対して、0.1ppm以上1000ppm以下である、ポリイソシアネート組成物を含んでいる。
【0011】
本発明[2]は、上記[1]に記載のポリイソシアネート組成物が変性された変性体組成物であり、下記(a)~(i)の官能基を少なくとも1種含有する、変性体組成物を含んでいる。
(a)イソシアヌレート基、
(b)アロファネート基、
(c)ビウレット基、
(d)ウレタン基、
(e)ウレア基、
(f)イミノオキサジアジンジオン基、
(g)ウレトジオン基、
(h)ウレトンイミン基、
(i)カルボジイミド基
本発明[3]は、(a)イソシアヌレート基および/または(b)アロファネート基を含有する、上記[2]に記載の変性体組成物を含んでいる。
【発明の効果】
【0012】
本発明のポリイソシアネート組成物は、キシリレンジイソシアネートおよび/またはペンタメチレンジイソシアネートと、特定のアルファモイルクロライド構造含有化合物とを含み、そのアルファモイルクロライド構造含有化合物に由来する加水分解性塩素の濃度が、所定範囲に調整されている。
【0013】
そのため、本発明のポリイソシアネート組成物は、貯蔵安定性に優れ、変性体の着色を抑制できる。
【0014】
また、本発明の変性体組成物は、上記のポリイソシアネート組成物の変性により得られるため、着色を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、合成例1で得られたアルファモイルクロライド構造含有化合物のH-NMR分析チャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のポリイソシアネート組成物は、ポリイソシアネート化合物と、アルファモイルクロライド構造含有化合物とを含む。
【0017】
ポリイソシアネート化合物は、キシリレンジイソシアネート(ビス(イソシアナトメチル)ベンゼン)および/またはペンタメチレンジイソシアネート(ペンタンジイソシアネート)を含む。
【0018】
ポリイソシアネート化合物は、好ましくは、キシリレンジイソシアネート(ビス(イソシアナトメチル)ベンゼン)および/またはペンタメチレンジイソシアネート(ペンタンジイソシアネート)からなる。
【0019】
キシリレンジイソシアネート(ビス(イソシアナトメチル)ベンゼン)としては、1,2-キシリレンジイソシアネート(o-キシリレンジイソシアネート(o-XDI))、1,3-キシリレンジイソシアネート(m-キシリレンジイソシアネート(m-XDI))、1,4-キシリレンジイソシアネート(p-キシリレンジイソシアネート(p-XDI))などのキシリレンジイソシアネート単量体が挙げられる。
【0020】
これらキシリレンジイソシアネートは、単独または2種類以上含まれていてもよい。
【0021】
キシリレンジイソシアネートとして、好ましくは、1,3-キシリレンジイソシアネート、1,4-キシリレンジイソシアネート、より好ましくは、1,3-キシリレンジイソシアネートが挙げられる。
【0022】
ペンタメチレンジイソシアネート(ペンタンジイソシアネート)としては、1,2-ペンタメチレンジイソシアネート(1,2-ペンタンジイソシアネート)、1,3-ペンタメチレンジイソシアネート(1,3-ペンタンジイソシアネート)、1,4-ペンタメチレンジイソシアネート(1,4-ペンタンジイソシアネート)、1,5-ペンタメチレンジイソシアネート(1,5-ペンタンジイソシアネート)などのペンタメチレンジイソシアネート単量体が挙げられる。
【0023】
これらペンタメチレンジイソシアネートは、単独または2種類以上含まれていてもよい。
【0024】
ペンタメチレンジイソシアネートとして、好ましくは、1,5-ペンタメチレンジイソシアネート(1,5-ペンタンジイソシアネート)が挙げられる。
【0025】
ポリイソシアネート化合物は、キシリレンジイソシアネートおよびペンタメチレンジイソシアネートを併有することもできるが、好ましくは、キシリレンジイソシアネートを単独で含有するか、または、ペンタメチレンジイソシアネートを単独で含有する。
【0026】
ポリイソシアネート組成物の総量に対して、ポリイソシアネート化合物の含有割合(純度)は、例えば、99.90質量%以上、好ましくは、99.95質量%以上であり、例えば、99.999質量%以下、好ましくは、99.990質量%以下である。
【0027】
アルファモイルクロライド構造含有化合物は、下記式(1)で示されるアルファモイルクロライド構造(アルファモイルクロライド骨格、アルファモイルクロライド基)を含有する化合物であれば、特に制限されない。
【0028】
【化1】
【0029】
アルファモイルクロライド構造含有化合物として、より具体的には、下記式(2)で示される化合物が挙げられる。
【0030】
【化2】
【0031】
(式中、RおよびR’は、同一または互いに相異なって、有機基を示す。)
上記式(2)において、RおよびR’で示される有機基としては、好ましくは、イソシアネート基を有する炭化水素基(イソシアナトアルキル基、イソシアナトアリール基など)が挙げられる。
【0032】
このような場合、アルファモイルクロライド構造含有化合物として、より具体的には、下記式(3)で示される化合物が挙げられる。
【0033】
【化3】
【0034】
(式中、RおよびR’は、同一または互いに相異なって、2価の炭化水素基を示す。)
上記式(3)において、RおよびR’で示される2価の炭化水素基として、好ましくは、キシリレンジイソシアネートおよび/またはペンタメチレンジイソシアネートからイソシアネート基を除いた残基が挙げられ、より具体的には、ペンタメチレン基および/またはキシリレン基が挙げられる。
【0035】
アルファモイルクロライド構造含有化合物が、上記式(3)で示される化合物である場合、詳しくは後述するように、アルファモイルクロライド構造含有化合物は、上記のポリイソシアネート化合物と、ポリイソシアネート化合物の製造時に副生する塩素化合物(カルバモイルクロライドなど)とを含有する1次組成物(後述)を、所定温度で所定時間保持することによって、生成する。
【0036】
また、上記式(2)において、RおよびR’で示される有機基としては、例えば、1価の炭化水素基なども挙げられる。
【0037】
1価の炭化水素基としては、例えば、芳香族炭化水素基、脂肪族炭化水素基などが挙げられる。芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル基、ナフタレン基などの炭素数6~18のアリール基などが挙げられる。脂肪族炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、ブチル基、ヘキシル基、デシル基などの炭素数1~20のアルキル基などが挙げられる。これら炭化水素基は、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0038】
このようなアルファモイルクロライド構造含有化合物は、例えば、Angewandte Chemie.Vol.9 No.5(Wiley-VCH社 1970年発行)p.372-373の記載に準拠し、公知のイソシアネート化合物(例えば、フェニルイソシアネート)と、三塩化ホウ素との反応により、得ることができる。
【0039】
ポリイソシアネート組成物の総量に対して、アルファモイルクロライド構造含有化合物の含有割合は、アルファモイルクロライド構造含有化合物に由来する加水分解性塩素が、後述する範囲となるように、適宜調整される。
【0040】
より具体的には、ポリイソシアネート組成物の総量に対して、アルファモイルクロライド構造含有化合物の含有割合は、例えば、0.5ppm以上、好ましくは、1.0ppm以上、より好ましくは、10ppm以上、さらに好ましくは、50ppm以上、とりわけ好ましくは、100ppm以上であり、例えば、8000ppm以下、好ましくは、5000ppm以下、より好ましくは、3000ppm以下、さらに好ましくは、2000ppm以下、さらに好ましくは、1000ppm以下、とりわけ好ましくは、500ppm以下である。
【0041】
ポリイソシアネート組成物の総量に対して、アルファモイルクロライド構造含有化合物に由来する加水分解性塩素の含有割合は、質量基準で、0.1ppm以上、好ましくは、0.5ppm以上、より好ましくは、1.0ppm以上、さらに好ましくは、5.0ppm以上、とりわけ好ましくは、10.0ppm以上であり、1000ppm以下、好ましくは、800ppm以下、より好ましくは、600ppm以下、さらに好ましくは、400ppm以下、さらに好ましくは、200ppm以下、とりわけ好ましくは、100ppm以下である。
【0042】
加水分解性塩素の含有割合は、JIS K 1603-3(2007年)に準拠して、測定することができる。
【0043】
アルファモイルクロライド構造含有化合物に由来する加水分解性塩素の含有割合が上記下限を上回っていれば、ポリイソシアネート化合物の自己重合を抑制できるため、優れた貯蔵安定性を得ることができる。
【0044】
また、アルファモイルクロライド構造含有化合物に由来する加水分解性塩素の含有割合が上記上限を下回っていれば、ポリイソシアネート化合物の変性体(後述)を得る場合において、反応効率の向上を図ることができ、反応時間および熱履歴を低減できるため、良好に変成体(後述)の着色を抑制することができる。
【0045】
貯蔵安定性の向上を図る観点から、ポリイソシアネート組成物の総量に対して、アルファモイルクロライド構造含有化合物に由来する加水分解性塩素の含有割合は、好ましくは、15.0ppm以上、より好ましくは、20.0ppm以上、さらに好ましくは、25.0ppm以上、とりわけ好ましくは、30.0ppm以上であり、1000ppm以下である。
【0046】
また、変成体(後述)の着色を抑制する観点から、ポリイソシアネート組成物の総量に対して、アルファモイルクロライド構造含有化合物に由来する加水分解性塩素の含有割合は、0.1ppm以上であり、好ましくは、80ppm以下、より好ましくは、70ppm以下、さらに好ましくは、60ppm以下、とりわけ好ましくは、50ppm以下である。
【0047】
なお、ポリイソシアネート組成物において、加水分解性塩素は、アルファモイルクロライド構造含有化合物に由来する加水分解性塩素と、アルファモイルクロライド構造含有化合物に由来せず、カルバモイルクロライドなどに由来する加水分解性塩素とを含む。
【0048】
そして、アルファモイルクロライド構造含有化合物に由来しない加水分解性塩素は、比較的不安定であり、分解し易いため、貯蔵安定性および変成体(後述)の着色の抑制において、効果を発現しない。
【0049】
一方、アルファモイルクロライド構造含有化合物に由来する加水分解性塩素は、比較的安定であるため、貯蔵安定性および変成体(後述)の着色の抑制において、効果を発現する。
【0050】
そして、ポリイソシアネート組成物は、例えば、公知のホスゲン化法などにより、塩素化合物(カルバモイルクロライドなど)とポリイソシアネート化合物とを含む1次組成物を得た後、得られた1次組成物を所定時間保持し、ポリイソシアネート化合物と塩素化合物とを反応させることにより、2次組成物として得ることができる。
【0051】
ポリイソシアネート組成物を2次組成物として得る場合には、まず、ポリイソシアネート化合物の原料であるジアミン(以下、原料ジアミンと称する。)を、ホスゲン化法によりイソシアネート化する。
【0052】
原料ジアミンは、ポリイソシアネート化合物の種類に応じて選択される。
【0053】
例えば、ポリイソシアネート化合物が、キシリレンジイソシアネートである場合には、原料ジアミンとしては、キシリレンジアミンが挙げられる。
【0054】
キシリレンジアミンとしては、例えば、1,2-キシリレンジアミン(o-キシリレンジアミン(o-XDA))、1,3-キシリレンジアミン(m-キシリレンジアミン(m-XDA))、1,4-キシリレンジアミン(p-キシリレンジアミン(p-XDA))などが挙げられる。これらは、単独使用または2種類以上併用することができる。キシリレンジアミンとして、好ましくは、1,3-キシリレンジアミン(m-キシリレンジアミン(m-XDA))が挙げられる。
【0055】
また、ポリイソシアネート化合物が、ペンタメチレンジイソシアネートである場合には、原料ジアミンとしては、ペンタメチレンジアミンが挙げられる。
【0056】
ペンタメチレンジアミンとしては、例えば、1,2-ペンタメチレンジアミン(1,2-ペンタンジアミン)、1,3-ペンタメチレンジアミン(1,3-ペンタンジアミン)、1,4-ペンタメチレンジアミン(1,4-ペンタンジアミン)、1,5-ペンタメチレンジアミン(1,5-ペンタンジアミン)などが挙げられる。これらは、単独使用または2種類以上併用することができる。ペンタメチレンジアミンとして、好ましくは、1,5-ペンタメチレンジアミン(1,5-ペンタンジアミン)が挙げられる。
【0057】
ホスゲン化法としては、例えば、原料ジアミンを直接ホスゲンと反応させる方法(以下、冷熱二段ホスゲン化法と称する場合がある。)や、原料ジアミンを塩酸(塩化水素)と反応させた塩酸塩とホスゲンとを不活性溶媒中において反応させる方法(以下、アミン塩酸塩のホスゲン化法と称する場合がある。)などが挙げられ、好ましくは、アミン塩酸塩のホスゲン化法が挙げられる。
【0058】
冷熱二段ホスゲン化法は、冷ホスゲン化反応と熱ホスゲン化反応とからなり、冷ホスゲン化反応の主反応はカルバモイルクロライドおよびアミン塩酸塩の生成であり、熱ホスゲン化反応の主反応はカルバモイルクロライドからイソシアネートへの熱分解とアミン塩酸塩のイソシアネートへのホスゲン化である。
【0059】
冷ホスゲン化反応では、反応器に不活性溶媒を装入し、反応器内の圧力を、例えば、常圧以上、例えば、1.0MPa(ゲージ圧)以下、好ましくは、0.5MPa(ゲージ圧)以下とし、温度を、例えば、0℃以上、例えば、80℃以下、好ましくは、60℃以下に冷却し、ホスゲンを上記の原料ジアミンの化学量論の、例えば、1倍以上、例えば、10倍以下、好ましくは、6倍以下導入し、不活性溶媒に溶解した上記の原料ジアミンを添加する。この間反応液を、例えば、0℃以上、例えば、80℃以下、好ましくは、60℃以下の範囲に保ち発生する塩化水素を、還流冷却器を通じて反応器外に放出する。
【0060】
不活性溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの芳香族炭化水素類、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸アミルなどの脂肪酸エステル類、例えば、サリチル酸メチル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジブチル、安息香酸メチルなどの芳香族カルボン酸エステル類、例えば、モノクロロベンゼン、オルトジクロロベンゼン、パラジクロロベンゼン、トリクロロベンゼンなどの塩素化芳香族炭化水素類、例えば、クロロホルム、四塩化炭素などの塩素化炭化水素類などが挙げられる。
【0061】
これら不活性溶媒は、単独使用または2種類以上併用することができる。さらに、これらの不活性溶媒は、ホスゲンとの反応後、回収、例えば、蒸留などにより、精製し、再利用することができる。
【0062】
不活性溶媒として、好ましくは、塩素化芳香族炭化水素類、より好ましくは、オルトジクロロベンゼンが挙げられる。
【0063】
不活性溶媒の配合量(総量)は、原料ジアミン100質量部に対して、例えば、400質量部以上、好ましくは、500質量部以上であり、例えば、3000質量部以下、好ましくは、2000質量部以下である。
【0064】
次に、熱ホスゲン化反応では、反応器内の圧力を、例えば、常圧以上、好ましくは、0.05MPa(ゲージ圧)以上、例えば、1.0MPa(ゲージ圧)以下、好ましくは、0.5MPa(ゲージ圧)以下とし、例えば、30分以上、例えば、5時間以下で、例えば、80℃以上、例えば、180℃以下の温度範囲に昇温する。昇温後、例えば、30分以上、例えば、8時間以下反応を続けて、反応液(スラリー状)が完全に溶解すれば反応を終了とする。なお、昇温時および高温反応時には溶解ホスゲンが気化して還流冷却器を通じて反応器外に放出されるため、還流冷却器からの還流量が確認できるまでホスゲンを適宜導入する。熱ホスゲン化反応終了後、反応器内に、例えば、80℃以上、例えば、180℃以下の範囲で、窒素ガス等の不活性ガスを導入し、溶解している過剰のホスゲンおよび塩化水素をパージする。
【0065】
これにより、原料ジアミンがイソシアネート化され、ポリイソシアネート化合物と、その副生成物である塩素化合物(熱分解されずに残存するカルバモイルクロライド)とを含有する1次組成物が得られる。
【0066】
アミン塩酸塩のホスゲン化法では、まず、原料ジアミンの塩酸塩を合成する。
【0067】
具体的には、例えば、撹拌可能とされ、かつ、塩化水素ガス導入管、ホスゲン導入管を備えた反応器に、不活性溶媒と原料ジアミンとを装入し、反応器内の圧力を、例えば、常圧以上、例えば、1MPa(ゲージ圧)以下、好ましくは、0.5MPa(ゲージ圧)以下とし、また、温度を、例えば、0℃以上、例えば、150℃以下、好ましくは、120℃以下とする。
【0068】
不活性溶媒としては、上記した不活性溶媒が挙げられ、好ましくは、塩素化芳香族炭化水素類、より好ましくは、オルトジクロロベンゼンが挙げられる。
【0069】
不活性溶媒の配合量(総量)は、原料ジアミン100質量部に対して、例えば、400質量部以上、好ましくは、500質量部以上であり、例えば、3000質量部以下、好ましくは、2000質量部以下である。
【0070】
次いで、塩化水素ガスを、原料ジアミンのアミノ基1モルに対して、例えば、1倍モル以上、例えば、5倍モル以下、好ましくは、3倍モル以下導入する。これにより、原料ジアミンの塩酸塩が合成される。このときに使用された過剰の塩化水素は、必要に応じて精製し、塩酸塩の調製工程に再利用することができる。
【0071】
原料ジアミンのアミン転化率は、例えば、99.00モル%以上、好ましくは、99.50モル%以上であり、例えば、99.99モル%以下、好ましくは、99.90モル%以下である。
【0072】
次いで、この方法では、反応温度を、例えば、80℃以上、好ましくは、90℃以上、例えば、180℃以下、好ましくは、160℃以下、反応圧力を、例えば、常圧以上、好ましくは、0.05MPa(ゲージ圧)以上、例えば、1.0MPa(ゲージ圧)以下、好ましくは、0.5MPa(ゲージ圧)以下に維持し、ホスゲンを1時間以上10時間以下かけて、ホスゲン総量が化学量論の1倍以上10倍以下になるように導入し、原料ジアミンの塩酸塩とホスゲンとを反応させる。
【0073】
これにより、原料ジアミンがイソシアネート化され、イソシアネート化合物と、その副生成物である塩素化合物(カルバモイルクロライド)とを含有する1次組成物が得られる。
【0074】
また、この方法では、必要により、1次組成物を蒸留および精製することによって、カルバモイルクロライドの含有割合を調整することができる。精製の方法は、特に限定されるものではなく、工業的な分離技術、例えば蒸留や晶析などで実施することができる。
【0075】
なお、蒸留にて精製する場合、蒸留塔は棚段塔でもよいし充填塔でもよい。蒸留条件は、後述する2次組成物に必要なアルファモイルクロライド構造含有化合物の量に応じて、適宜設定することができる。
【0076】
その後、この方法では、得られた1次生成物を、保持する。
【0077】
保持条件は、得られるポリイソシアネート組成物中のアルファモイルクロライド構造含有化合物に由来する加水分解性塩素の含有割合が、上記所定範囲となるように、調整される。
【0078】
例えば、保持温度が、例えば、0℃以上、好ましくは、10℃以上であり、例えば、40℃以下、好ましくは、30℃以下である。また、保持時間が、例えば、10日以上、好ましくは、100日以上であり、例えば、500日以下、好ましくは、400日以下である。
【0079】
これにより、ポリイソシアネート化合物とカルバモイルクロライドとの反応生成物として、上記のアルファモイルクロライド構造含有化合物を得ることができる。その結果、2次組成物として、ポリイソシアネート化合物およびアルファモイルクロライド構造含有化合物を含有するポリイソシアネート組成物を得ることができる。
【0080】
また、ポリイソシアネート組成物は、上記の方法の他、例えば、キシリレンジイソシアネートおよび/またはペンタメチレンジイソシアネートを含むポリイソシアネート化合物と、上記アルファモイルクロライド構造含有化合物とを個別に準備し、それらを上記の割合で配合することによって、得ることもできる。
【0081】
このような場合、ポリイソシアネート化合物とアルファモイルクロライド構造含有化合物との配合割合は、得られるポリイソシアネート組成物中のアルファモイルクロライド構造含有化合物に由来する加水分解性塩素の含有割合が、上記所定範囲となるように、調整される。
【0082】
また、ポリイソシアネート組成物には、例えば、安定剤などを添加することができる。
【0083】
安定剤としては、例えば、酸化防止剤、酸性化合物、スルホンアミド基を含有する化合物、有機亜リン酸エステルなどが挙げられる。
【0084】
安定剤として、好ましくは、酸化防止剤、酸性化合物、スルホンアミド基を含有する化合物が挙げられる。
【0085】
なお、安定剤の配合割合は、特に制限されず、必要および用途に応じて、適宜設定される。
【0086】
そして、上記のポリイソシアネート組成物は、ポリイソシアネート化合物として、キシリレンジイソシアネートおよび/またはペンタメチレンジイソシアネートを含み、さらに、特定のアルファモイルクロライド構造含有化合物とを含み、そのアルファモイルクロライド構造含有化合物に由来する加水分解性塩素の濃度が、所定範囲に調整されている。
【0087】
そのため、上記のポリイソシアネート組成物は、貯蔵安定性に優れ、変性体(後述)の着色を抑制できる。
【0088】
より具体的には、ポリイソシアネート化合物がキシリレンジイソシアネートおよび/またはペンタメチレンジイソシアネートである場合には、ポリイソシアネート化合物がその他の工業的に使用されるポリイソシアネート(例えば、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートなど)である場合に比べて、アルファモイルクロライド構造含有化合物が貯蔵安定性および変成体(後述)の着色に与える影響が、著しく大きい。
【0089】
その理由は、以下の通りと推察される。
【0090】
すなわち、ポリイソシアネート化合物が、キシリレンジイソシアネートおよび/またはペンタメチレンジイソシアネートである場合、分子構造上、自己重合によりポリアミド化し易い。すなわち、ポリアミド化合物を副生し易い。
【0091】
そして、副生するポリアミド化合物は、アルファモイルクロライド構造含有化合物と反応し易い。
【0092】
そのため、ポリイソシアネート組成物中において、アルファモイルクロライド構造化合物が過剰に存在すると、アルファモイルクロライド構造化合物と、ポリアミド化合物とが反応し、その反応生成物に由来して、変性体(後述)の変色が生じやすくなる。一方、アルファモイルクロライド構造化合物の割合が上記上限を下回っていれば、アルファモイルクロライド構造化合物と、ポリアミド化合物との過度の反応を抑制でき、変性体(後述)の変色を抑制できる。
【0093】
しかし、アルファモイルクロライド構造化合物が過度に少ない場合、ポリアミド化合物がアルファモイルクロライド構造化合物により消費されないため、ポリイソシアネート組成物中に、ポリアミド化合物が過剰に存在し、貯蔵安定性が低下する。一方、アルファモイルクロライド構造化合物の割合が上記下限を上回っていれば、ポリアミド化合物を適度に消費でき、貯蔵安定性の向上を図ることができる。
【0094】
これらに対して、ポリイソシアネート化合物が、例えば、キシリレンジイソシアネートおよび/またはペンタメチレンジイソシアネートを含まず、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートなどを含む場合、分子構造上、自己重合によるポリアミド化合物が生成し難い。その、ポリアミド化合物に由来する貯蔵安定性の低下が生じ難い。つまり、アルファモイルクロライド構造含有化合物による影響が比較的小さい。
【0095】
また、アルファモイルクロライド構造含有化合物が存在しても、ポリアミド化合物が低減されているため、それらの反応が生じ難く、反応生成物に由来する変性体(後述)の着色が生じ難い。
【0096】
つまり、ポリイソシアネート化合物が、トリレンジイソシアネートおよび/またはヘキサメチレンジイソシアネートである場合には、アルファモイルクロライド構造含有化合物が、貯蔵安定性および変成体(後述)の着色に与える影響が、比較的小さい。
【0097】
換言すると、ポリイソシアネート化合物がキシリレンジイソシアネートおよび/またはペンタメチレンジイソシアネートである場合には、上記の通り、アルファモイルクロライド構造含有化合物に由来する加水分解性塩素の含有割合を所定範囲に調整することによって、効果的に貯蔵安定性の向上を図ることができ、また、変成体(後述)の着色を効果的に抑制できる。
【0098】
さらに、上記のポリイソシアネート組成物は、アルファモイルクロライド構造含有化合物に由来する加水分解性塩素の濃度が、所定範囲に調整されているため、変性体の合成における反応性にも優れている。
【0099】
そのため、上記のポリイソシアネート組成物は、変成体組成物の製造において、好適に用いられる。
【0100】
変成体組成物は、下記(a)~(i)の官能基を少なくとも1種含有するように、上記のポリイソシアネート組成物を変性することによって、得られる。
(a)イソシアヌレート基、
(b)アロファネート基、
(c)ビウレット基、
(d)ウレタン基、
(e)ウレア基、
(f)イミノオキサジアジンジオン基、
(g)ウレトジオン基、
(h)ウレトンイミン基、
(i)カルボジイミド基
すなわち、変成体組成物は、ポリイソシアネート化合物(キシリレンジイソシアネートおよび/またはペンタメチレンジイソシアネートを含むポリイソシアネート化合物)が変成体化されたイソシアネート変成体と、上記アルファモイルクロライド構造含有化合物および/またはその変性体とを含有する。
【0101】
より具体的には、上記(a)の官能基(イソシアヌレート基)を含有する変性体組成物は、ポリイソシアネート化合物のトリマーを含有している。このような変成体組成物は、例えば、ポリイソシアネート組成物を、公知のイソシアヌレート化触媒の存在下において反応させ、ポリイソシアネート化合物をイソシアヌレート化(例えば三量化)することにより、得ることができる。
【0102】
上記(b)の官能基(アロファネート基)を含有する変性体組成物は、ポリイソシアネート化合物のアロファネート変性体を含有しており、例えば、ポリイソシアネート組成物とアルコール(1価アルコールおよび/または2価アルコール)とを反応させた後、公知のアロファネート化触媒の存在下でさらに反応させることにより、得ることができる。
【0103】
上記(c)の官能基(ビウレット基)を含有する変性体組成物は、ポリイソシアネート化合物のビウレット変性体を含有しており、例えば、ポリイソシアネート組成物と、例えば、水、第三級アルコール(例えば、t-ブチルアルコールなど)、第二級アミン(例えば、ジメチルアミン、ジエチルアミンなど)などとを反応させた後、公知のビウレット化触媒の存在下でさらに反応させることにより、得ることができる。
【0104】
上記(d)の官能基(ウレタン基)を含有する変性体組成物は、ポリイソシアネート化合物のポリオール変性体を含有しており、例えば、ポリイソシアネート組成物とポリオール(3価アルコール、例えば、トリメチロールプロパンなど)との反応により、得ることができる。
【0105】
上記(e)の官能基(ウレア基)を含有する変性体組成物は、ポリイソシアネート化合物のポリアミン変性体を含有しており、例えば、ポリイソシアネート組成物と、水および/またはポリアミン成分などとの反応により、得ることができる。
【0106】
上記(f)の官能基(イミノオキサジアジンジオン基)を含有する変性体組成物は、ポリイソシアネート化合物のイミノオキサジアジンジオン変性体(非対称性トリマー)を含有しており、例えば、ポリイソシアネート組成物を公知のイミノオキサジアジンジオン化触媒の存在下において反応させ、ポリイソシアネート化合物をイミノオキサジアジンジオン化(例えば三量化)することにより、得ることができる。
【0107】
上記(g)の官能基(ウレトジオン基)を含有する変性体組成物は、ポリイソシアネート化合物のウレトジオン変性体を含有しており、例えば、ポリイソシアネート組成物を90℃~200℃程度で熱を印加し、および/または、公知のウレトジオン化触媒の存在下において反応させ、ポリイソシアネート化合物をウレトジオン化(例えば、二量化)することにより、得ることができる。
【0108】
上記(h)の官能基(ウレトンイミン基)を含有する変性体組成物は、ポリイソシアネート化合物のウレトンイミン変性体を含有しており、例えば、ポリイソシアネート組成物を公知のカルボジイミド化触媒の存在下において反応させ、カルボジイミド基を形成した後、そのカルボジイミド基にポリイソシアネート化合物を付加させることにより、得ることができる。
【0109】
上記(i)の官能基(カルボジイミド基)を含有する変性体組成物は、ポリイソシアネート化合物のカルボジイミド変性体を含有しており、例えば、ポリイソシアネート組成物を公知のカルボジイミド化触媒の存在下において反応させることにより、得ることができる。
【0110】
なお、変性体組成物は、上記(a)~(i)の官能基を少なくとも1種含有していればよく、2種以上含有することもできる。そのような変性体組成物は、上記の反応を適宜併用することにより、生成される。また、変性体組成物は、単独使用または2種以上併用することができる。
【0111】
また、変性体組成物は、上記の変性の工程を経て得られる組成物であれば、特に制限されない。つまり、変性体組成物において、アルファモイルクロライド構造含有化合物は、ポリイソシアネート化合物と同様に変性されていてもよく、また、変性されていなくともよい。
【0112】
すなわち、変性体組成物は、ポリイソシアネート化合物の変性体を含有し、また、アルファモイルクロライド構造含有化合物(未変性体)および/またはアルファモイルクロライド構造含有化合物の変性体を含有する。
【0113】
そして、上記の変性体組成物は、上記のポリイソシアネート組成物の変性により得られるため、着色を抑制できる。
【0114】
とりわけ、上記のポリイソシアネート組成物を変性する場合、イソシアヌレート化およびアロファネート化における着色を、良好に抑制できる。
【0115】
そのため、変成体組成物は、好ましくは、(a)イソシアヌレート基および/または(b)アロファネート基を含有する。換言すれば、変成体組成物は、好ましくは、ポリイソシアネート化合物のイソシアヌレート変成体、および/または、ポリイソシアネート化合物のアロファネート変成体を、含有する。
【0116】
そして、変性体組成物は、例えば、硬化剤(架橋剤)として好適に用いられる。とりわけ、変性体組成物は、2液タイプのポリウレタン樹脂組成物(例えば、塗料、接着剤など)における硬化剤として、好適に用いられる。
【0117】
さらに、変成体組成物は、例えば、ブロックイソシアネートの製造において、好適に用いられる。
【0118】
ブロックイソシアネートは、例えば、ポリイソシアネート組成物および/または変成体組成物と、公知のブロック化剤とを反応させることにより、得ることができる。
【0119】
また、ポリイソシアネート組成物および/または変成体組成物(さらに、ブロックイソシアネート(以下同様))は、ポリウレタン樹脂の製造において、好適に用いられる。
【0120】
ポリウレタン樹脂は、ポリイソシアネート組成物および/または変成体組成物と、活性水素化合物とを反応させることにより、得ることができる。
【0121】
活性水素化合物は、例えば、水酸基、メルカプト基、アミノ基などの活性水素基を分子中に1つ以上有する有機化合物であって、例えば、モノオール成分、ポリオール成分、モノチオール成分、ポリチオール成分、モノアミン成分、ポリアミン成分などの公知の活性水素化合物が挙げられ、好ましくは、ポリオール成分が挙げられる。
【0122】
ポリイソシアネート組成物および/または変成体組成物と、活性水素化合物との反応では、例えば、バルク重合や溶液重合などの公知の方法を採用することができ、また、工業的には、ワンショット法およびプレポリマー法などの公知の方法を採用することができる。
【0123】
なお、ポリウレタン樹脂を製造する場合においては、必要に応じて、さらに、公知の添加剤、例えば、可塑剤、ブロッキング防止剤、耐熱安定剤、耐光安定剤、酸化防止剤、離型剤、触媒、さらには、顔料、染料、滑剤、フィラー、加水分解防止剤などを、適宜の割合で配合することができる。これら添加剤は、ポリウレタン樹脂の原料成分の合成時に添加してもよく、あるいは、原料成分の混合時に添加してもよく、さらには、原料成分の混合物に添加してもよい。
【0124】
そして、上記のポリウレタン樹脂は、例えば、塗料、接着剤、熱可塑性ポリウレタン樹脂(TPU)、熱硬化性ポリウレタン樹脂、粘着剤、水性樹脂、光学用樹脂(レンズなど)、活性エネルギー硬化性樹脂、フォーム用樹脂(軟質フォーム、硬質フォームなど)各種マイクロカプセル、プラスチックレンズ、人工および合成皮革、RIM成形品、スラッシュパウダー、弾性成形品(スパンデックス)、柔軟ゲル、ロボット材料、モビリティー材料、ヘルスケア材料、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)の基材樹脂など、各種産業分野において、好適に用いられる。
【実施例
【0125】
次に、本発明を、製造例、実施例および比較例に基づいて説明するが、本発明は、下記の実施例によって限定されるものではない。なお、「部」および「%」は、特に言及がない限り、質量基準である。また、以下の記載において用いられる配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなどの具体的数値は、上記の「発明を実施するための形態」において記載されている、それらに対応する配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなど該当記載の上限値(「以下」、「未満」として定義されている数値)または下限値(「以上」、「超過」として定義されている数値)に代替することができる。
【0126】
1.アルファモイルクロライド構造含有化合物の合成
以下の合成例に従って、アルファモイルクロライド構造含有化合物を合成した。
【0127】
合成例1(アルファモイルクロライド構造含有化合物)
スターラーチップ、ジムロート、窒素導入三方コック(ジムロート上部)、内温測定温度計、および、セプタムを備え付けた四口丸底フラスコを、真空ポンプで減圧し、ヒートガンで加熱および乾燥させた。
【0128】
乾燥後、室温付近まで冷却したフラスコに、窒素ガスをゆっくりと導入し、フラスコ内を常圧に戻した。
【0129】
次いで、窒素雰囲気下のフラスコに、フェニルイソシアネート100質量部、および、脱水トルエン2599質量部を、セプタムを通して加え、撹拌した。
【0130】
次いで、ドライアイスおよびメタノールを入れたデュワー瓶に、フラスコを浸し、内温を約-60℃に維持した。
【0131】
次いで、フラスコの内温を約-60℃に保ちながら、三塩化ホウ素のトルエン溶液(1mol/L)734質量部を、セプタムを通して加えた。
【0132】
その後、デュワー瓶をフラスコから外し、内温を徐々に約0℃まで昇温し、約0℃で4時間撹拌した。
【0133】
4時間撹拌後、内温を約0℃に保ちながら、フラスコに氷水104質量部を加え、1時間撹拌した。
【0134】
1時間撹拌後、室温まで徐々に昇温し、その後、濾過(メンブレンフィルター、PTFEタイプ、孔径1μm、仕様:T100A047A、アドバンテック社製)し、分液して、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。
【0135】
乾燥後、有機層を濾過し、エバポレーターで濃縮することにより、固形物を得た。
【0136】
得られた固形物を、真空ポンプでポンプアップし、カラムクロマトグラフ精製した(Wakogel(登録商標) C-200:300cc、展開液:30vol% 酢酸エチル/n-ヘキサン溶液)。
【0137】
カラムクロマトグラフ精製で得られた溶液を、エバポレーターで濃縮し、得られた固体を、50℃で減圧乾燥した。
【0138】
そして、得られた固体を、H-NMR装置により、以下の条件で分析した。
条件:
・装置:日本電子製EX270型核磁気共鳴装置
・測定核:H(270MHz)
・測定モード:シングルパルス
・パルス幅:45°
・ポイント数:16k
・繰り返し時間:5.5秒
なお、得られた分析チャートを、図1に示す。
【0139】
上記の結果、フェニル基由来(C-H):7.0~7.6ppm付近、アルファモイルクロライド基由来(N-H):9.0ppm付近にピークが確認でき、得られた固体が、上記式(2)においてRおよびR’がフェニル基であるアルファモイルクロライド構造含有化合物であると、同定された。
【0140】
なお、収率は、18.5質量%であった。
【0141】
2.未精製ポリイソシアネート
以下の準備例に従って、未精製のポリイソシアネートを準備した。
【0142】
準備例1(未精製キシリレンジイソシアネート)
アミン塩酸塩のホスゲン化法に従って製造した直後の未精製のキシリレンジイソシアネートを準備し、加水分解性塩素の含有割合を、JIS K 1603-3(2007年)に準拠して測定した。その結果、加水分解性塩素の含有割合は、340ppmであった。
【0143】
なお、未精製のキシリレンジイソシアネートに含まれるカルバモイルクロライドは、アルコールと反応して、塩化水素を生じる。一方、アルファモイルクロライドは、アルコールと反応せず、塩化水素を生じない。
【0144】
そのため、未精製のキシリレンジイソシアネートの酸度を測定し、酸度と、加水分解性塩素の含有割合とを対比することにより、カルバモイルクロライド由来であるか、アルファモイルクロライド由来であるかを確認可能である。
【0145】
そこで、未精製のキシリレンジイソシアネートの酸度を、JIS K 1603-2(2007年)に準拠して測定した。その結果、酸度は、340ppmであった。
【0146】
また、上記加水分解性塩素の含有割合と、上記酸度との質量比から、未精製のキシリレンジイソシアネートに含まれる加水分解性塩素は、全て、カルバモイルクロライド由来であり、アルファモイルクロライド構造含有化合物由来ではないことが確認された。
【0147】
準備例2(未精製ペンタメチレンジイソシアネート)
アミン塩酸塩のホスゲン化法に従って製造した直後の未精製のペンタメチレンジイソシアネートを準備し、加水分解性塩素の含有割合を、JIS K 1603-3(2007年)に準拠して測定した。その結果、加水分解性塩素の含有割合は、100ppmであった。
【0148】
また、未精製のペンタメチレンジイソシアネートの酸度を、上記の方法で測定した。その結果、酸度は、100ppmであった。
【0149】
また、上記加水分解性塩素の含有割合と、上記カルバモイルクロライドの含有割合との質量比から、未精製のペンタメチレンジイソシアネートに含まれる加水分解性塩素は、全て、カルバモイルクロライド由来であり、アルファモイルクロライド構造含有化合物由来ではないことが確認された。
【0150】
準備例3(未精製トリレンジイソシアネート)
冷熱二段ホスゲン化法に従って製造した直後の未精製のトリレンジイソシアネートを準備し、加水分解性塩素の含有割合を、JIS K 1603-3(2007年)に準拠して測定した。その結果、加水分解性塩素の含有割合は、60ppmであった。
【0151】
また、未精製のトリレンジイソシアネートの酸度を、上記の方法で測定した。その結果、酸度は、60ppmであった。
【0152】
また、上記加水分解性塩素の含有割合と、上記カルバモイルクロライドの含有割合との質量比から、未精製のトリレンジイソシアネートに含まれる加水分解性塩素は、全て、カルバモイルクロライド由来であり、アルファモイルクロライド構造含有化合物由来ではないことが確認された。
【0153】
準備例4(未精製ヘキサメチレンジイソシアネート)
アミン塩酸塩のホスゲン化法に従って製造した直後の未精製のヘキサメチレンジイソシアネートを準備し、加水分解性塩素の含有割合を、JIS K 1603-3(2007年)に準拠して測定した。その結果、加水分解性塩素の含有割合は、100ppmであった。
【0154】
また、未精製のヘキサメチレンジイソシアネートの酸度を、上記の方法で測定した。その結果、酸度は、100ppmであった。
【0155】
また、上記加水分解性塩素の含有割合と、上記カルバモイルクロライドの含有割合との質量比から、未精製のヘキサメチレンジイソシアネートに含まれる加水分解性塩素は、全て、カルバモイルクロライド由来であり、アルファモイルクロライド構造含有化合物由来ではないことが確認された。
【0156】
3.ポリイソシアネート化合物の調製
以下の調製例に従って、ポリイソシアネート化合物を調製した。
【0157】
調製例1(キシリレンジイソシアネート)
撹拌機、温度計、精留塔(スルザーラボパッキン 4エレメント充填)、自動還流装置、冷却管、および、ナス型フラスコを備えた4つ口フラスコに、未精製のキシリレンジイソシアネート(加水分解性塩素:340ppm)を2000g仕込み、真空度10torr、温度180℃にて、全還流状態で安定化させた。
【0158】
次いで、キシリレンジイソシアネートを、還流比10にて、留出液の加水分解性塩素が検出限界(0.05ppm)以下になるまで、蒸留した(初留)。なお、初留の留出量は460gであった。
【0159】
次いで、キシリレンジイソシアネートを、還流比1にて、釜残が500gとなるように蒸留した(主留)。なお、主留は、1040gであった。また、主留の加水分解性塩素は、検出限界(0.05ppm(以下同様))以下であった。
【0160】
これにより、ポリイソシアネート化合物としての精製キシリレンジイソシアネート(加水分解性塩素:検出限界以下)を得た。
【0161】
調製例2(ペンタメチレンジイソシアネート)
撹拌機、温度計、精留塔(スルザーラボパッキン 4エレメント充填)、自動還流装置、冷却管、および、ナス型フラスコを備えた4つ口フラスコに、未精製のペンタメチレンジイソシアネート(加水分解性塩素:100ppm)を2000g仕込み、真空度10torr、温度150℃にて、全還流状態で安定化させた。
【0162】
次いで、ペンタメチレンジイソシアネートを、還流比10にて、留出液の加水分解性塩素が検出限界以下になるまで、蒸留した(初留)。なお、初留の留出量は330gであった。
【0163】
次いで、ペンタメチレンジイソシアネートを、還流比1にて、釜残が500gとなるように蒸留した(主留)。なお、主留は、1170gであった。また、主留の加水分解性塩素は、検出限界以下であった。
【0164】
これにより、ポリイソシアネート化合物としての精製ペンタメチレンジイソシアネート(加水分解性塩素:検出限界以下)を得た。
【0165】
調製例3(トリレンジイソシアネート)
撹拌機、温度計、精留塔(スルザーラボパッキン 4エレメント充填)、自動還流装置、冷却管、および、ナス型フラスコを備えた4つ口フラスコに、未精製のトリレンジイソシアネート(加水分解性塩素:60ppm)を2000g仕込み、真空度10torr、温度180℃にて、全還流状態で安定化させた。
【0166】
次いで、トリレンジイソシアネートを、還流比10にて、留出液の加水分解性塩素が検出限界以下になるまで、蒸留した(初留)。なお、初留の留出量は300gであった。
【0167】
次いで、トリレンジイソシアネートを、還流比1にて、釜残が500gとなるように蒸留した(主留)。なお、主留は、1200gであった。また、主留の加水分解性塩素は、検出限界以下であった。
【0168】
これにより、精製トリレンジイソシアネート(加水分解性塩素:検出限界以下)を得た。
【0169】
調製例4(ヘキサメチレンジイソシアネート)
撹拌機、温度計、精留塔(スルザーラボパッキン 4エレメント充填)、自動還流装置、冷却管、および、ナス型フラスコを備えた4つ口フラスコに、未精製のヘキサメチレンジイソシアネート(加水分解性塩素:100ppm)を2000g仕込み、真空度10torr、温度160℃にて、全還流状態で安定化させた。
【0170】
次いで、ヘキサメチレンジイソシアネートを、還流比10にて、留出液の加水分解性塩素が検出限界以下になるまで、蒸留した(初留)。なお、初留の留出量は330gであった。
【0171】
次いで、ヘキサメチレンジイソシアネートを、還流比1にて、釜残が500gとなるように蒸留した(主留)。なお、主留は、1170gであった。また、主留の加水分解性塩素は、検出限界以下であった。
【0172】
これにより、精製ヘキサメチレンジイソシアネート(加水分解性塩素:検出限界以下)を得た。
【0173】
4.ポリイソシアネート組成物および変成体組成物の製造
以下の実施例、参考実施例、比較例および参考例に従って、表1~表4に記載の処方で、ポリイソシアネート組成物および変成体組成物を製造した。
【0174】
(1)キシリレンジイソシアネート
実施例1、参考実施例2~3および比較例2~3
精製キシリレンジイソシアネートに対して、合成例1のアルファモイルクロライド構造含有化合物を表1に記載の処方で添加し、常温で30分撹拌した。これにより、ポリイソシアネート組成物を得た。
【0175】
また、得られたポリイソシアネート組成物を、温度計、撹拌装置、冷却管および窒素導入管が装備された反応器に、窒素雰囲気下で100質量部装入し、さらに、オクタデシル3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナート(ヒンダードフェノール系酸化防止剤、商品名:イルガノックス1076、チバ・ジャパン社製)0.021質量部(0.02phr)を添加して、60℃~65℃で混合した。
【0176】
次いで、その混合物に、1,3-ブチレングリコール 2質量部を、70℃~75℃において添加して混合し、3時間ウレタン化反応させた。
【0177】
次いで、得られたウレタン反応液に、テトラブチルアンモニウムのハイドロオキサイド(イソシアヌレート化触媒、TBAOH(37%メタノール溶液))のプロピレングリコールメチルエーテルアセテート溶液(固形分濃度3.7質量%)を添加した。添加量は、ウレタン反応液に対して、TBAOH(37%メタノール溶液)が0.11質量部(有効成分として0.04質量部)となるように、調整した。
【0178】
次いで、ウレタン反応液を混合しながら、70℃~75℃において、イソシアネートのイソシアヌレート転化率が20%に到達した時点で、o-トルエンスルホンアミドを0.01質量部添加して反応を停止させた。
【0179】
これにより、イソシアヌレート基を含む変成体組成物を得た。
【0180】
比較例1
精製キシリレンジイソシアネート(加水分解性塩素:検出限界以下)と、製造直後の未精製のキシリレンジイソシアネート(加水分解性塩素340ppm)とを混合し、加水分解性塩素を10ppmに調整した。これにより、ポリイソシアネート組成物を得た。
【0181】
なお、この加水分解性塩素は、アルファモイルクロライド構造含有化合物由来ではなく、カルバモイルクロライド由来である。
【0182】
また、実施例1と同じ方法で、イソシアヌレート基を含む変成体組成物を得た。
【0183】
参考実施例
精製キシリレンジイソシアネートに対して、合成例1のアルファモイルクロライド構造含有化合物を添加し、さらに、製造直後の未精製のキシリレンジイソシアネート(加水分解性塩素340ppm)を添加して、加水分解性塩素を10ppmに調整した。これにより、ポリイソシアネート組成物を得た。
【0184】
また、実施例1と同じ方法で、イソシアヌレート基を含む変成体組成物を得た。
【0185】
参考実施例
比較例1で得られたポリイソシアネート組成物(すなわち、アルファモイルクロライド構造含有化合物由来の加水分解性塩素を含まず、カルバモイルクロライド由来の加水分解性塩素を含むポリイソシアネート組成物)を、20℃で365日保存した。
【0186】
また、保存後のポリイソシアネート組成物を用いて、実施例1と同じ方法で、イソシアヌレート基を含む変成体組成物を得た。
【0187】
比較例4
精製キシリレンジイソシアネート(加水分解性塩素:検出限界以下)を、ポリイソシアネート組成物として用いた。
【0188】
また、実施例1と同じ方法で、イソシアヌレート基を含む変成体組成物を得た。
【0189】
(2)ペンタメチレンジイソシアネート
実施例6、参考実施例7~8および比較例6~7
精製ペンタメチレンジイソシアネートに対して、合成例1のアルファモイルクロライド構造含有化合物を添加し、常温で30分撹拌した。これにより、ポリイソシアネート組成物を得た。
【0190】
また、実施例1と同じ方法で、イソシアヌレート基を含む変成体組成物を得た。
【0191】
比較例5
精製ペンタメチレンジイソシアネート(加水分解性塩素:検出限界以下)と、製造直後の未精製のペンタメチレンジイソシアネート(加水分解性塩素100ppm)とを混合し、加水分解性塩素を10ppmに調整した。これにより、ポリイソシアネート組成物を得た。
【0192】
なお、この加水分解性塩素は、アルファモイルクロライド構造含有化合物由来ではなく、カルバモイルクロライド由来である。
【0193】
また、実施例1と同じ方法で、イソシアヌレート基を含む変成体組成物を得た。
【0194】
参考実施例
精製ペンタメチレンジイソシアネートに対して、合成例1のアルファモイルクロライド構造含有化合物を添加し、さらに、製造直後の未精製のペンタメチレンジイソシアネート(加水分解性塩素100ppm)を添加して、加水分解性塩素を10ppmに調整した。これにより、ポリイソシアネート組成物を得た。
【0195】
また、実施例1と同じ方法で、イソシアヌレート基を含む変成体組成物を得た。
【0196】
参考実施例10
比較例5で得られたポリイソシアネート組成物(すなわち、アルファモイルクロライド構造含有化合物由来の加水分解性塩素を含まず、カルバモイルクロライド由来の加水分解性塩素を含むポリイソシアネート組成物)を、20℃で365日保存した。
【0197】
また、保存後のポリイソシアネート組成物を用いて、実施例1と同じ方法で、イソシアヌレート基を含む変成体組成物を得た。
【0198】
比較例8
精製ペンタメチレンジイソシアネート(加水分解性塩素:検出限界以下)を、ポリイソシアネート組成物として用いた。
【0199】
また、実施例1と同じ方法で、イソシアヌレート基を含む変成体組成物を得た。
【0200】
(3)トリレンジイソシアネート
参考例1~3
精製トリレンジイソシアネートに対して、合成例1のアルファモイルクロライド構造含有化合物を添加し、常温で30分撹拌した。これにより、ポリイソシアネート組成物を得た。
【0201】
また、実施例1と同じ方法で、イソシアヌレート基を含む変成体組成物を得た。
【0202】
(3)ヘキサメチレンジイソシアネート
参考例4~6
精製ヘキサメチレンジイソシアネートに対して、合成例1のアルファモイルクロライド構造含有化合物を添加し、常温で30分撹拌した。これにより、ポリイソシアネート組成物を得た。
【0203】
また、実施例1と同じ方法で、イソシアヌレート基を含む変成体組成物を得た。
【0204】
5.評価
(1)貯蔵安定性
ポリイソシアネート組成物を、100ccガラス瓶に窒素封入し、40℃で3ヶ月貯蔵した。その後、ポリイソシアネート組成物の透明性を、目視で評価した。
【0205】
評価の基準を、下記する。
【0206】
〇:無色透明である。
【0207】
△:わずかに曇りがある。
【0208】
×:曇りがあるか、または、白濁している。
【0209】
(2)反応性
変成体組成物の製造時において、イソシアヌレート化触媒を添加してから、イソシアヌレート転化率が20%に達する時点までの時間を測定し、評価した。
【0210】
評価の基準を、下記する。
【0211】
〇:2時間未満である。
【0212】
△:2時間以上10時間未満である。
【0213】
×:10時間以上または反応不進行である。
【0214】
(3)着色抑制
変成体組成物を、100ccガラス瓶に入れ、JIS K 0071-1(2017年)に準拠して、着色を評価した。
【0215】
評価の基準を、下記する。
【0216】
〇:APHA30以下である。
【0217】
△:APHA30を超過し、60未満である。
【0218】
×:APHA60以上である。
【0219】
【表1】
【0220】
【表2】
【0221】
【表3】
【0222】
【表4】
【0223】
なお、表中の略号の詳細を下記する。
【0224】
XDI:キシリレンジイソシアネート
PDI:ペンタメチレンジイソシアネート
TDI:トリレンジイソシアネート
HDI:ヘキサメチレンジイソシアネート
N.D.:検出限界以下
<考察1>
実施例1~8および比較例1~6に示されるように、ポリイソシアネート化合物がキシリレンジイソシアネートおよび/またはペンタメチレンジイソシアネートであれば、参考例1~6に示されるように、ポリイソシアネート化合物が、トリレンジイソシアネートまたはヘキサメチレンジイソシアネートである場合に比べて、アルファモイルクロライド構造含有化合物が貯蔵安定性および変成体(後述)の着色に与える影響が、著しく大きいことが確認された。
【0225】
その理由は、以下の通りと推察される。
【0226】
すなわち、ポリイソシアネート化合物が、キシリレンジイソシアネートおよび/またはペンタメチレンジイソシアネートである場合、分子構造上、自己重合によりポリアミド化し易い。すなわち、ポリアミド化合物を副生し易い。
【0227】
そして、副生するポリアミド化合物は、アルファモイルクロライド構造含有化合物と反応し易い。
【0228】
そのため、ポリイソシアネート組成物中において、アルファモイルクロライド構造化合物が過剰に存在すると、アルファモイルクロライド構造化合物と、ポリアミド化合物とが反応し、その反応生成物に由来して、変性体(後述)の変色が生じやすくなる。一方、アルファモイルクロライド構造化合物の割合が上記上限を下回っていれば、アルファモイルクロライド構造化合物と、ポリアミド化合物との過度の反応を抑制でき、変性体(後述)の変色を抑制できる。
【0229】
しかし、アルファモイルクロライド構造化合物が過度に少ない場合、ポリアミド化合物がアルファモイルクロライド構造化合物により消費されないため、ポリイソシアネート組成物中に、ポリアミド化合物が過剰に存在し、貯蔵安定性が低下する。一方、アルファモイルクロライド構造化合物の割合が上記下限を上回っていれば、ポリアミド化合物を適度に消費でき、貯蔵安定性の向上を図ることができる。
【0230】
これらに対して、ポリイソシアネート化合物が、例えば、キシリレンジイソシアネートおよび/またはペンタメチレンジイソシアネートを含まず、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートなどを含む場合、分子構造上、自己重合によるポリアミド化合物が生成し難い。その、ポリアミド化合物に由来する貯蔵安定性の低下が生じ難い。つまり、アルファモイルクロライド構造含有化合物による影響が比較的小さい。
【0231】
また、アルファモイルクロライド構造含有化合物が存在しても、ポリアミド化合物が低減されているため、それらの反応が生じ難く、反応生成物に由来する変性体(後述)の着色が生じ難い。
【0232】
つまり、ポリイソシアネート化合物が、トリレンジイソシアネートおよび/またはヘキサメチレンジイソシアネートである場合には、アルファモイルクロライド構造含有化合物が、貯蔵安定性および変成体(後述)の着色に与える影響が、比較的小さい。
【0233】
そのため、ポリイソシアネート化合物がキシリレンジイソシアネートおよび/またはペンタメチレンジイソシアネートである場合には、上記の通り、アルファモイルクロライド構造含有化合物に由来する加水分解性塩素の含有割合を所定範囲に調整することによって、効果的に貯蔵安定性の向上を図ることができ、また、変成体の着色を効果的に抑制できたと推察された。
【0234】
<考察2>
実施例5は、アルファモイルクロライド構造含有化合物由来の加水分解性塩素を含まず、カルバモイルクロライド由来の加水分解性塩素を含む比較例1のポリイソシアネート組成物を、保存したポリイソシアネート組成物である。この実施例5において、貯蔵安定性、反応性および着色抑制の評価は、実施例4と同程度であった。
【0235】
また、実施例10は、アルファモイルクロライド構造含有化合物由来の加水分解性塩素を含まず、カルバモイルクロライド由来の加水分解性塩素を含む比較例5のポリイソシアネート組成物を、保存したポリイソシアネート組成物である。この実施例10において、貯蔵安定性、反応性および着色抑制の評価は、実施例9と同程度であった。
【0236】
そのため、実施例5および実施例10のように、ポリイソシアネート組成物を保存することにより、カルバモイルクロライドが、アルファモイルクロライド構造含有化合物に変化し、その結果、加水分解性塩素が、アルファモイルクロライド構造含有化合物由来の加水分解性塩素となったものと推察された。
図1