IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ トヨタ モーター エンジニアリング アンド マニュファクチャリング ノース アメリカ,インコーポレイティドの特許一覧 ▶ ユニバーシティ オブ メリーランド, カレッジ パークの特許一覧

特許7582823Li超イオン伝導体としてのリチウムカリウム元素酸化物化合物、固体電解質、ならびにリチウム金属電池およびリチウムイオン電池のための被覆層
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】Li超イオン伝導体としてのリチウムカリウム元素酸化物化合物、固体電解質、ならびにリチウム金属電池およびリチウムイオン電池のための被覆層
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/06 20060101AFI20241106BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20241106BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20241106BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20241106BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20241106BHJP
   H01B 1/08 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
H01B1/06 A
H01M10/0562
H01M10/052
H01M4/62 Z
H01M4/13
H01B1/08
【請求項の数】 15
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020153091
(22)【出願日】2020-09-11
(65)【公開番号】P2021048127
(43)【公開日】2021-03-25
【審査請求日】2022-07-22
(31)【優先権主張番号】16/570,888
(32)【優先日】2019-09-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507342261
【氏名又は名称】トヨタ モーター エンジニアリング アンド マニュファクチャリング ノース アメリカ,インコーポレイティド
(73)【特許権者】
【識別番号】520159592
【氏名又は名称】ユニバーシティ オブ メリーランド, カレッジ パーク
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ムォ・イーフェイ
(72)【発明者】
【氏名】バイ・チィアン
(72)【発明者】
【氏名】ホー・シンフェン
(72)【発明者】
【氏名】リン・チェン
【審査官】北嶋 賢二
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/137224(WO,A1)
【文献】BAI, Qiang,First Principles Computational Design of Solid Ionic Conductors through Ion Substitution,Digital Repositry at the University of Maryland,2019年01月01日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/06
H01M 10/0562
H01M 10/052
H01M 4/62
H01M 4/13
H01B 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体リチウムイオン電解質であって、
式(III):
LiKM1-x3(M3)x312 (III)
式中、MはSb、I、Nb、およびWからなる群より選択され、x3は0より大きく1より小さい数であり、yは前記式の電荷中性が得られるような値であり、M3は、Mの異原子価置換物であり、かつ、第1族~第13族の元素から選択される、Mとは異なる少なくとも1種の元素であSn又はZrである、
の化合物からなる材料を含み、
前記固体リチウムイオン電解質のリチウムイオン(Li)伝導率は、300Kにおいて10-3~22mS/cmである、固体リチウムイオン電解質。
【請求項2】
固体リチウムイオン電解質であって、
式(IVa):
LiKIrO (IVa)
の化合物からなる材料を含み、前記材料について波長1.54184ÅのCu-Kα放射に基づいて得られるX線回折分析は、以下:
【表1】

の最大ピークの強度100に対して相対強度10以上のピークを含む、固体リチウムイオン電解質。
【請求項3】
固体リチウムイオン電解質であって、
式(IVb):
LiKNbO (IVb)
の化合物からなる材料を含み、前記材料について波長1.54184ÅのCu-Kα放射に基づいて得られるX線回折分析は、以下:
【表2】

の最大ピークの強度100に対して相対強度10以上のピークを含む、固体リチウムイオン電解質。
【請求項4】
固体リチウムイオン電解質であって、
式(IVc):
LiKSbO (IVc)
の化合物からなる材料を含み、前記材料について波長1.54184ÅのCu-Kα放射に基づいて得られるX線回折分析は、以下:
【表3】

の最大ピークの強度100に対して相対強度10以上のピークを含む、固体リチウムイオン電解質。
【請求項5】
固体リチウムイオン電解質であって、
式(IVd):
LiKIO (IVd)
の化合物からなる材料を含み、前記材料について波長1.54184ÅのCu-Kα放射に基づいて得られるX線回折分析は、以下:
【表4】

の最大ピークの強度100に対して相対強度10以上のピークを含む、請求項1に記載の固体リチウムイオン電解質。
【請求項6】
固体リチウムイオン電解質であって、
式(IVe):
LiKWO (IVe)
の化合物からなる材料を含み、前記材料について波長1.54184ÅのCu-Kα放射に基づいて得られるX線回折分析は、以下:
【表5】

の最大ピークの強度100に対して相対強度10以上のピークを含む、固体リチウムイオン電解質。
【請求項7】
前記固体リチウムイオン電解質のリチウムイオン(Li)伝導率は、300Kにおいて10-3~22mS/cmである、請求項2~6のいずれか1項に記載の固体リチウムイオン電解質。
【請求項8】
前記材料の活性化エネルギーは0.15~0.50eVである、請求項1~6のいずれか1項に記載の固体リチウムイオン電解質。
【請求項9】
前記材料は三方晶系構造を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の固体リチウムイオン電解質。
【請求項10】
固体リチウム電池であって、
アノードと、
カソードと、
前記アノードと前記カソードとの間に位置する固体リチウムイオン電解質とを含み、
前記固体リチウムイオン電解質は、請求項1~6のいずれか1項に記載の固体リチウムイオン電解質である、固体リチウム電池。
【請求項11】
前記固体リチウム電池は、リチウム金属電池またはリチウムイオン電池である、請求項10に係る固体リチウム電池。
【請求項12】
固体リチウム電池のための電極であって、
集電体と、
前記集電体上に電極活性層とを含み、
前記電極活性層は、請求項1~6のいずれか1項に記載の固体リチウムイオン電解質を含む、電極。
【請求項13】
固体リチウム電池のための電極であって、
集電体と、
前記集電体上に電極活性層と、
前記電極活性層上に被覆層とを含み、
前記電極活性層上の被覆層は、請求項1~6のいずれか1項に記載の固体リチウムイオン電解質を含む、電極。
【請求項14】
請求項12に記載の電極を含む固体リチウム電池であって、前記固体リチウム電池は、リチウムイオン電池またはリチウム金属電池である、固体リチウム電池。
【請求項15】
請求項13に記載の電極を含む固体リチウム電池であって、前記固体リチウム電池は、リチウムイオン電池またはリチウム金属電池である、固体リチウム電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
共同研究契約の当事者の名称
本明細書中の開示内容は、トヨタ モーター エンジニアリング アンド マニュファクチャリング ノース アメリカ株式会社(住所:6565 Headquarters Drive W1-3C,Plano,Texas,75024)とメリーランド大学カレッジパーク校(住所:2130 Mitchell Bldg.7999 Regents Dr.College Park,Maryland,20742)との間の共同研究契約のもとで実施された共同研究の結果である。
【0002】
本開示の分野
本開示は、Li超イオン伝導体として有用な新規のリチウムカリウム元素酸化物化合物と、当該新規のリチウムカリウム元素酸化物化合物を含む固体電解質と、当該新規のリチウムカリウム元素酸化物化合物を含む、Li金属電池およびLiイオン電池のための電極被覆層とに関する。当該元素は、Ir、Sb、I、Nb、およびWから選択される1種以上であってよい。
【背景技術】
【0003】
背景
Liイオン電池は、従来から、携帯電子機器市場を席巻している。しかしながら、従来のLiイオン電池は、電解質の成分として引火性の有機溶媒を含み、この引火性を根拠とする安全性リスクが懸念されていて、そのために大規模エネルギー貯蔵用途におけるLiイオン電池の使用が制限または妨げられかねない。
【0004】
引火性の有機液体電解質を固体のLi伝導相で置き換えることによって、この安全性の問題が軽減され、力学的安定性および熱安定性の改善などのさらなる利点が実現され得る。固体のLi伝導相は、通常は固体Liイオン伝導体または固体電解質とよばれ、その主な機能は、電池内部で電子が電極間を直接移動することを遮断しながら、Liイオンを、放電中はアノード側からカソード側に、充電中はカソード側からアノード側に伝導することである。
【0005】
また、非水性の電解質を用いて構築されるリチウム電池においては、充放電サイクルが繰り返される間に、デンドライト状のリチウム金属構造体がアノードからカソードへと突き出すように形成されることが知られている。このようなデンドライト状構造体がカソードへと突き出して電池を短絡させた場合には、エネルギーが急速に放出されて、有機溶媒の発火が生じ得る。
【0006】
したがって、全固体リチウム電池につながり得る新たな固体のLiイオン伝導材料の発見に大きな関心が寄せられており、多大な努力が費やされている。過去数十年間の研究においては、たとえば、LISICON(Li14ZnGe16)、NASICON(Li1.3Al0.3Ti1.7(PO)、ペロブスカイト(たとえば、La0.5Li0.5TiO)、ガーネット(LiLaZr12)、LiPON(たとえば、Li2.88PO3.730.14)、ならびに、たとえばLiPS、Li11、およびLGPS(Li10GeP12)などの硫化物といったイオン伝導性酸化物に主に焦点が当てられていた。
【0007】
最近の進展により、固体Liイオン伝導体の伝導率は1~10mS/cmのレベルに達しており、このレベルは液相電解質の伝導率と同等であるため、新たなLiイオン固体伝導体の発見に大きな関心が寄せられている。
【0008】
有効なリチウムイオン固体伝導体は、室温において高いLi伝導率を有し得る。一般的に、このLi伝導率は10-6S/cm以上であるべきである。さらに、環境中で生じ得る広域の動作温度において使用するためには、こうした伝導体におけるLiマイグレーションの活性化エネルギーは低くなくてはならない。さらに、この材料は、化学的、電気化学的、および熱的な分解に対する安定性が良好であるべきである。固体伝導体材料は、従来使用されている多くの非水溶媒とは異なり、アノードおよびカソードの化学組成との電気化学的分解反応性の点で安定であるべきである。この材料は、全固体電池において使用するためには、低い粒界抵抗を有するべきである。理想的には、この材料は合成が容易であるべきであり、そのコストは高くてはならない。残念なことに、現在知られているリチウムイオン固体電解質の中で、これらをすべて満たすものは存在しない。たとえば、Li10GeP12は、最高技術水準のLi伝導率を有するが、電気化学的安定性の要件を満たさず、Geを含有するために高コストである。電池の製造方法と構造とのためには、高いLi伝導率と低い活性化エネルギーを有する環境安定型の複合材料が求められていると考えられる。
【0009】
Li/Li+の標準酸化還元電位は-3.04Vであり、したがって、リチウム金属は、入手可能な最も強い還元剤の1つである。よって、Li金属は、周知されるカチオン種のほとんどを還元して、その酸化状態を低減することができる。アノードのリチウム金属は、このように強い還元力をもつために、リチウムイオンとは異なるカチオン成分を含有する固体Li伝導体と接触すると、リチウムがこのカチオン種を還元してその酸化状態を低減し、固体伝導体を劣化させる。
【0010】
たとえば、式:
LiPS
の伝導体は、式中にP5+があるため、Liに続く第2のカチオンである。Li金属と接触すると、下記等式に従って還元が生じる(非特許文献1)。
【0011】
LiPS+5Li → P+4Li
P+3Li → Li
同様に、Li10GeP12がリチウム金属に接触すると下記等式に従って分解を受けることも、既に報告されている(非特許文献1)。
【0012】
Li10GeP12+10Li → 2P+8LiS+LiGeS
P+3Li → Li
4LiGeS+31Li → 16LiS+Li15Ge
Li10GeP12はGe4+およびP5+を含み、それぞれ、上述されるように還元される。
【0013】
別の一例において、第2のカチオンLa3+およびZr4+を含むLiLaZr12は、リチウム金属と接触すると、下記化学式に従って化学分解を受ける(非特許文献1)。
【0014】
6LiLaZr12+40Li → 4ZrO+41LiO+9La
ZrO+2Li → LiO+3Zr
La+6Li → 2La+3Li
このように、多くの現在および従来知られている固体のLiイオン伝導体は、Li金属アノードと接触した場合に、安定性の問題を有する。
【0015】
本願の発明者らは、固体Li+伝導体として将来使用できるリチウム化合物について研究しており、当該研究の以前の結果が、2017年6月19日提出の特許文献1、2017年11月7日提出の特許文献2、2018年6月20日提出の特許文献3、2018年8月28日提出の特許文献4、2018年9月26日提出の特許文献5、2018年9月27日提出の特許文献6、2018年10月10日提出の特許文献7、2018年10月9日提出の特許文献8、および2019年1月31日提出の特許文献9中に開示される。しかしながら、効率が最大で、安定性が高く、コストが低く、取り扱いおよび製造の容易なさらなる材料を発見するために、研究を継続している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【文献】米国出願第15/626,696号
【文献】米国第15/805,672号
【文献】米国出願第16/013,495号
【文献】米国出願第16/114,946号
【文献】米国出願第16/142,217号
【文献】米国出願第16/144,157号
【文献】米国出願第16/153,335号
【文献】米国出願第16/155,349号
【文献】米国出願第16/264,294号
【文献】米国出願第15/597,651号
【文献】Weppnerら(US8092941)
【非特許文献】
【0017】
【文献】J.Mater.Chem.A,2016,4,3253-3266
【文献】Cederら,Nature Materials,14,2015,1026-1031
【文献】Nature Materials,14,2015,2016
【文献】Moら,First Principles Study on Electrochemical and Chemical Stability of the Solid Electrolyte-Electrode Interfaces in All-Solid-State Li-ion Batteries(Journal of Materials Chemistry Aにおいて出版予定)
【文献】Hautierら,Inorg.Chem.2011,50,656-663
【文献】Baiら,ACS Appl.Energy Mater.2018,1,1626-1634
【文献】Heら,Phys.Chem.Chem.Phys.,2015.17,18035
【文献】Monatshefte fuer Chemie,100,295-303,1969
【文献】Journal of Solid State Chemistry,128,1997,241
【文献】Zeitschrift fuer Naturforschung B,50,1995,1061
【文献】Journal of Solid State Chemistry 130,1997,90
【文献】Journal of Alloys and Compounds,645,2015,S174
【文献】Z.Naturforsch.51b,199652 5
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
したがって、本願の目的は、リチウムイオン電池のための固体電解質として好適な、および/または保護被覆層もしくは電極活物質の成分として好適な、Liイオン伝導率が高く電子伝導率の低い様々なさらなる材料を特定することである。
【0019】
本願のさらなる目的は、当該材料を含有する固体Liイオン電解質膜および/または電極を含む固体リチウムイオン電池および/またはリチウム金属電池の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0020】
実施形態の概要
これらのおよび他の目的は本出願の実施形態によって提供され、第1の実施形態は、固体リチウムイオン電解質であって、式(I)、(II)、(III)、および(IV):
Li(M1)x1KMO (I)
式中、MはIr、Sb、I、Nb、およびWからなる群より選択され、x1は0より大きく6より小さい数であり、yは上記式の電荷中性が得られるような値であり、M1は、第1族、第2族、第13族、および遷移金属の元素から選択される、Liとは異なる少なくとも1種の元素である;
Li1-x2(M2)x2MO (II)
式中、x2は0より大きく1より小さい数であり、yは上記複合体式の電荷中性が得られるような値であり、M2は、第1族、第2族、第3族、第4族、第5族、第6族、第7族、第8族、第9族、第10族、第11族、第12族、および第13族の元素から選択される、Kとは異なる少なくとも1種の元素である;
LiKM1-x3(M3)x3 (III)
式中、x3は0より大きく1より小さい数であり、yは上記式の電荷中性が得られるような値であり、M3は、第1族~第13族の元素から選択される、Mとは異なる少なくとも1種の元素である;ならびに
LiKMO (V)
の化合物からなる材料の群より選択される少なくとも1種の材料を含む、固体リチウムイオン電解質を含む。
【0021】
第1の実施形態の一態様において、式(I)~(IV)の固体リチウムイオン電解質のリチウムイオン(Li)伝導率は、300Kにおいて10-3~22mS/cmである。
【0022】
第1の実施形態の別の一態様において、式(I)~(IV)の化合物の活性化エネルギーは0.15~0.50eVである。
【0023】
第2の実施形態には、固体リチウム電池が含まれる。当該固体リチウム電池は、アノードと、カソードと、アノードとカソードとの間に位置する固体リチウムイオン電解質とを含み、固体リチウムイオン電解質は、第1の実施形態およびその態様に係る少なくとも1種の材料を含む。
【0024】
第2の実施形態の特別な態様において、固体リチウム電池は、リチウム金属電池またはリチウムイオン電池であってよい。
【0025】
第3の実施形態において、集電体と、電極活物質と、上述される実施形態およびその態様中に記載される式(I)~(IV)のうち任意のものに係る材料でできた被覆層と、を有する電極が提供される。
【0026】
第4の実施形態において、集電体と、電極活物質ならびに上述される実施形態およびその態様中に記載される式(I)~(IV)のうち任意のものに係る材料を含む活性層と、を有する電極が提供される。
【0027】
第5の実施形態には、上述される実施形態に係る固体電解質および/または電極のうち任意のものを含むリチウム電池が含まれる。
【0028】
上述される説明は、特記しない限り、本開示の一般的な序論および概要を提供するものであり、本開示の開示内容を限定するものではない。本開示による好ましい実施形態と、さらなる利点とは、以下の詳細な説明と添付の図面とを参照することによって最もよく理解され得る。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】LiKIrOの結晶構造である。
図2】LiKIrOについての、波長1.54184ÅのCu-Kα放射に基づいて得られる計算されたXRD分析である。
図3図2のXRD分析について、主要なピークおよび相対強度を示す表である。
図4】LiKNbOの結晶構造である。
図5】LiKNbOについての、波長1.54184ÅのCu-Kα放射に基づいて得られる計算されたXRD分析である。
図6図5のXRD分析について、主要なピークおよび相対強度を示す表である。
図7】LiKSbOの結晶構造である。
図8】LiKSbOについての、波長1.54184ÅのCu-Kα放射に基づいて得られる計算されたXRD分析である。
図9図8のXRD分析について、主要なピークおよび相対強度を示す表である。
図10】LiKIOの結晶構造である。
図11】LiKIOについての、波長1.54184ÅのCu-Kα放射に基づいて得られる計算されたXRD分析である。
図12図11のXRD分析について、主要なピークおよび相対強度を示す表である。
図13】LiKWOの結晶構造である。
図14】LiKWOについての、波長1.54184ÅのCu-Kα放射に基づいて得られる計算されたXRD分析である。
図15図14のXRD分析について、主要なピークおよび相対強度を示す表である。
図16】AIMDシミュレーションによるLiIrOのアレニウスプロットである。
図17】AIMDシミュレーションによるLi7.33Sn0.33Ir0.67のアレニウスプロットである。
図18】AIMDシミュレーションによるLi6.17KNb0.83Zr0.17O12のアレニウスプロットである。
図19】AIMDシミュレーションによるLi6.33KNb0.67Sn0.33O12のアレニウスプロットである。
図20】AIMDシミュレーションによるLi6.5KNb0.5Zr0.5O12のアレニウスプロットである。
図21】AIMDシミュレーションによるLi6.67KNb0.33Zr0.6712のアレニウスプロットである。
図22】AIMDシミュレーションによるLi6.33KSb0.67Sn0.3312のアレニウスプロットである。
図23】AIMDシミュレーションによるLi6.33KI0.67Sn0.3312のアレニウスプロットである。
図24】AIMDシミュレーションによるLi6.33KW0.67Sn0.3312のアレニウスプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
好ましい実施形態の説明
当該説明の全体を通して、用語「電気化学セル」および「電池」は、当該説明の文脈が電気化学セルと電池とを明瞭に区別している場合を除き、区別なく使用され得る。さらに、用語「固体電解質」および「固体イオン伝導体」は、両者が明白に区別されている場合を除き、区別なく使用され得る。
【0031】
提供される化学式中、用語「より小さい」は、示された数そのもの(full value)よりも小さいことを示す。したがって、「より小さい」は、表された数に0.9を掛けた値を上限とする値を意味してもよい。たとえば、示された数が3である場合、3より小さい数は2.7であってよい。用語「0より大きい」」は、存在する正の値を意味してもよく、このような値は0.01のような小さな値であってもよい。
【0032】
有効なLi伝導性結晶格子の構造的特徴が、Cederら(非特許文献2)によって、周知のLiイオン伝導体であるLi10GeP12およびLi11に関して記載されており、この記載において、これら2種の材料の硫黄の部分格子(sublattice)がbcc格子構造と非常によく一致していることが示されている。さらに、隣接し合う四面体配位Li格子位置の間におけるLiイオンホッピングによって、最も低い活性化エネルギーを有する経路が得られることも示されている。
【0033】
本発明者らは、固体リチウム電池において固体電解質として働き得る特性を有する材料を特定するために、新たなリチウム複合化合物について研究を進めている。この進行中の研究および取組みにおいて、本発明者らは、本発明者らがリチウムイオン伝導率の指標とした化学的および構造的特性を有しておりかつリチウムイオン電池用の固体電解質とするのに好適である複合材料を特定する方法論を開発、実施した。
【0034】
実用途における固体電解質として適格であるためには、材料はいくつかの特定の基準を満たさなければならない。第一に、室温で通常10-6S/cm以上という、望ましいLiイオン伝導率を呈するべきである。第二に、当該材料は、化学的、電気化学的、および熱的な分解に対する安定性が良好であるべきである。第三に、当該材料は、全固体電池において使用するためには、低い粒界抵抗を有するべきである。第四に、当該材料は合成が容易であるべきであり、そのコストは高くてはならない。
【0035】
この方法論の基準を満たして、実用途で固体電解質として適格とみなされるためには、当該材料は、室温で通常10-6S/cm以上という望ましいLiイオン伝導率を呈することが要求される。そのため、第一原理分子動力学シミュレーション研究を適用して、選択されたタンタル酸リチウムカリウム材料の格子構造中におけるLiイオンの拡散率を計算した。シミュレーションの迅速化のために、計算を高温で行ない、余剰LiまたはLi空孔の効果を考慮した。余剰LiまたはLi空孔を創出するために、カチオンまたはアニオンの異原子価置換を評価してもよい。よって、たとえばKまたはTaを異原子価カチオン種で部分置換することにより、Li空孔を創出し、同時にLi空孔または余剰Liで電荷中性を補った。
【0036】
300Kにおける拡散率を、等式(I)によって求めた。
D=Dexp(-E/kT) 等式(I)
式中、D、E、およびkはそれぞれ、頻度因子、活性化エネルギー、およびボルツマン定数である。伝導率は、等式(II)に従う計算された拡散率に関連する。
【0037】
σ=D300ρe/kT 等式(II)
式中、ρはLiイオンの体積密度であり、eは単位電荷である。
【0038】
Liイオン伝導体のアニオン格子は、特定の格子型と一致することが示されている(非特許文献3を参照)。したがって、見込みのあるLiイオン伝導体のアニオン格子が、高い伝導率を有することが知られるLiイオン伝導体のアニオン格子と比較される。
【0039】
よって、選択されたリチウムカリウムイリジウム酸化物化合物を、無機結晶構造データベース(FIZ Karlsruhe ICSD-https://icsd.fiz-karlsruhe.de)中に報告されているLi含有化合物と比較し、かつ、本発明者らがこの目的のために開発した2017年5月17日提出の同時係属中の特許文献10中に記載されるアニオン格子照合法を用いた比較評価によって、これらの化合物の格子を周知のLiイオン伝導体と照合した。
【0040】
同時係属中の特許文献10中に記載されるアニオン格子照合法を用いて、化合物の格子構造の原子座標組がアニオン格子のみの座標組に変換されてもよい。この格子のアニオンが比較材料のアニオンで置換され、得られる単位胞が再スケーリング(rescaled)される。変換されたアニオンのみの格子のX線回折データがシミュレートされて、シミュレートされた回折データからn×2マトリックスが作成されてもよい。このn×2マトリックスから、量的な構造相似の値が得られ得る。
【0041】
アニオン格子照合の目的は、高いLi伝導率を呈する見込みが最も大きい化合物をさらに特定することである。この研究により、以降の実施形態中に記載される化合物が固体Li伝導体として好適であるという見込みが得られた。
【0042】
次いで、第一原理分子動力学(AIMD)シミュレーションを適用して、対象であるタンタル酸リチウムカリウムの伝導率を予測した。初期構造を静的に緩和し、初期温度100Kに設定した。次いで、速度スケーリングにより一定速度にて2psにわたり当該構造を加熱して、目標温度(750~1150K)とした。AIMDシミュレーションの総時間は200~400psの範囲であった。750~1150Kの範囲内における異なる温度でのLi拡散率は、アレニウス型の関係に従う。
【0043】
本発明者らは、研究において、LiKIrOの異原子価置換に基づく化合物が、リチウムイオン伝導体として大きな関心が持たれる特性を有することを見いだした。関心が持たれる当該化学組成に関し、pymatgen計算パッケージを使用して構築した組成相図を分析して当該研究対象組成の所与の相の相平衡を評価することに基づいて、構造安定性についてさらに評価した。所与の固体電解質の相平衡は、組成相図内におけるすべての関連する相のエネルギーの凸包を構築することによって求めた。エネルギー最小Eeq(C)に対応する組成Cにおける相平衡を、その組成空間内におけるすべての関連する相のエネルギーを比較することによって特定した。調べた相の相安定性を、等式IIIに従って、所与の相の分解エネルギーΔEとその相平衡を使用して評価した。
【0044】
ΔE(相)=Eeq(C)-E(相) (等式III)
ΔEは、包よりも上のエネルギー値を示す負数である。化合物のΔEが-50以下であれば、AIMD計算による研究を正当とするのに十分な安定性を有すると考えた。この分析の方法は、Moら(非特許文献4)によって記載されており、その開示内容を引用により本明細書に援用する。
【0045】
異原子価置換に好適な元素を、Hautierら(非特許文献5)が記載する方法によって求められるイオン置換確率を用いて選択してよく、当該方法においては、周知されるすべての無機結晶材料のデータマイニングに基づいて構築されるイオン置換確率モデルによって、候補ドーパントを選択し得る。特定の材料の中において空孔または隙間を創出できると見込まれるドーパントを含めた。エネルギー的に有利でないドーパントを有する構造は、相安定性計算の間に選別および除外し得る。部分格子、ドーパント、および空孔または隙間の構成を、本明細書中に記載される計算方法によって求めた。このような方法は、たとえば以下の報告:
・非特許文献6
・非特許文献7
に記載されている。
【0046】
上述される等式(I)を適用することによって300Kにおける拡散率を求め、次いで、等式(II)の伝導率と拡散率との関係を使用して伝導率を求めることができる。表1に、研究対象である一連の化合物について求めた活性化エネルギーおよび室温での伝導率を示す。これらの各材料についてのLi拡散率のアレニウスプロットが、図4~20中に示される。これらの材料について求めた活性化エネルギーおよびリチウムイオン伝導率から、これらの材料が本開示に係る固体電解質およびLiイオン伝導体として好適な材料であることが確認される。
【0047】
【表1】
【0048】
よって、一実施形態において、本開示は、固体リチウムイオン電解質であって、式(I)、(II)、および(III):
Li(M1)x1KMO (I)
式中、MはIr、Sb、I、Nb、およびWからなる群より選択され、x1は0より大きく6より小さい数であり、yは上記式の電荷中性が得られるような値であり、M1は、第1族、第2族、第13族、および遷移金属の元素から選択される、Liとは異なる少なくとも1種の元素である;
Li1-x2(M2)x2MO (II)
式中、x2は0より大きく1より小さい数であり、yは上記複合体式の電荷中性が得られるような値であり、M2は、第1族、第2族、第3族、第4族、第5族、第6族、第7族、第8族、第9族、第10族、第11族、第12族、および第13族の元素から選択される、Kとは異なる少なくとも1種の元素である;
LiKM1-x3(M3)x3 (III)
式中、x3は0より大きく1より小さい数であり、yは上記式の電荷中性が得られるような値であり、M3は、第1~13族の元素から選択される、Mとは異なる少なくとも1種の元素である;
の化合物からなる材料の群より選択される少なくとも1種の材料を含む、固体リチウムイオン電解質を提供する。
【0049】
式(I)~(III)の化合物は、一般式(IV):
LiKMO (IV)
式中、Li、K、およびMの少なくとも1つが上述されるように異原子価置換されている
の化合物にドープした材料である。式(IV)の化合物ならびに式(I)、(II)、および(III)の材料は、三方晶系構造を有する結晶格子を含む。
【0050】
LiKIrOの結晶構造が、図1中に示される。LiKIrOについての、波長1.54184ÅのCu-Kα放射に基づいて得られる計算されたX線回折分析が、図2中に示され、主要なピーク位置(2θ)を示す表が図3中に示される。
【0051】
LiKNbOの結晶構造が、図4中に示される。LiKNbOについての、波長1.54184ÅのCu-Kα放射に基づいて得られる計算されたX線回折分析が、図5中に示され、主要なピーク位置(2θ)を示す表が図6中に示される。
【0052】
LiKSbOの結晶構造が、図7中に示される。LiKSbOについての、波長1.54184ÅのCu-Kα放射に基づいて得られる計算されたX線回折分析が、図8中に示され、主要なピーク位置(2θ)を示す表が図9中に示される。
【0053】
LiKIOの結晶構造が、図10中に示される。LiKIOについての、波長1.54184ÅのCu-Kα放射に基づいて得られる計算されたX線回折分析が、図11中に示され、主要なピーク位置(2θ)を示す表が図12中に示される。
【0054】
LiKWOの結晶構造が、図13中に示される。LiKWOについての、波長1.54184ÅのCu-Kα放射に基づいて得られる計算されたX線回折分析が、図14中に示され、主要なピーク位置(2θ)を示す表が図15中に示される。
【0055】
本発明者らは、得られた式(I)~(I-III)に係るドープ材料が、基本となる化合物(I-IV)の結晶構造を保持しており、当該基本となる化合物に関連する活性化エネルギーおよび伝導率を有することを見出した。上述される測定方法に基づいて、式(I)、(II)、(III)、および(IV)の複合材料のリチウムイオン(Li)伝導率は、300Kにおいて10-3~22mS/cm、好ましくは300Kにおいて0.1~22.0mS/cm、最も好ましくは300Kにおいて1.0~22mS/cmであってよい。式(I)、(II)、(III)、および(IV)の材料の活性化エネルギーは、0.15~0.50eV、好ましくは0.25eV~0.40eVであってよい。
【0056】
上述される実施形態に係る化合物の合成は、選択された前駆体材料(化学量論量)同士の固相反応によって行なうことができる。固相合成方法の例は、たとえば以下の論文の各々に記載される:i)非特許文献8、ii)非特許文献9、iii)非特許文献10、iv)非特許文献11、v)非特許文献12、vi)非特許文献13、およびvii)特許文献11。本明細書中に開示される実施形態に係る複合化合物の調製にあたってこうした方法を用いることは、当技術分野において通常の知識を有する者であれば十分に可能である。
【0057】
さらなる実施形態において、本出願は、上述される固体電解質を含む固体リチウムイオン電池を含む。金属-金属固体電池を含む、これらの実施形態に係る固体電池は、従来の電池よりも高い充放電レート能力および電力密度を有する可能性があり、かつ、高い出力およびエネルギー密度を実現できる見込みがある。
【0058】
よって、さらなる実施形態において、アノードと、カソードと、アノードとカソードとの間に上述される実施形態に係る固体リチウムイオン電解質とを含む固体電池が提供される。
【0059】
アノードは、リチウムイオン電池に従来から使用される任意のアノード構造であってよい。一般的に、このような材料は、Liイオンを挿入および引抜くことができる。アノード活物質の例は、黒鉛、ハードカーボン、チタン酸リチウム(LTO)、スズ/コバルト合金、およびケイ素/炭素複合体を含み得る。一態様において、アノードは、集電体と、集電体上にリチウムイオン活物質の被覆とを含んでよい。標準的な集電体材料は、アルミニウム、銅、ニッケル、ステンレス鋼、炭素、カーボン紙、およびカーボン布を含むが、これらに限定されない。有利にも第1の実施形態および第2の実施形態中に記載される固体リチウムイオン伝導性材料を伴う一態様において、アノードはリチウム金属またはリチウム金属合金であってよく、任意には、集電体上に被覆されていてよい。一態様において、アノードは、活物質および集電体の両方として働くリチウム金属のシートであってよい。
【0060】
カソード構造は、リチウムイオン電池において従来使用される任意のものであってよく、たとえば酸化リチウムコバルト(LiCoO)、酸化リチウムマンガン(LiMn)、リン酸鉄リチウム(LiFePO)、およびリチウムニッケルマンガンコバルト酸化物などの複合体リチウム金属酸化物を含むが、これらに限定されない。他の活性カソード材料は、硫黄単体および金属硫化物複合体を含んでもよい。カソードは、銅、アルミニウム、およびステンレス鋼などの集電体を含んでもよい。
【0061】
一態様において、活性カソード材料は、遷移金属、好ましくは銀または銅であってもよい。このような遷移金属に基づくカソードは、集電体を含まなくてもよい。
【0062】
さらなる一連の実施形態において、式(I)~(IV)の固体電解質材料を含有する電極も開示される。よって、この電極の調製において、上述される活物質が集電体への塗布前に固体電解質材料と物理的に混合されてもよい、または、塗布された活物質の上に固体電解質材料が被覆層として塗布されてもよい。いずれの実施形態においても、電極構造上または電極構造内にリチウムイオン超伝導体が存在することによって電極の性能が向上する可能性があり、特に被覆層として塗布された場合には、従来の固体電解質を保護する役目を果たし得る。
【0063】
よって、本開示の一実施形態は、集電体と、集電体に塗布されたカソード活物質の層とを含み、かつ以下の事項のうち少なくとも1つがあてはまるような、カソードを含む:i)集電体に塗布されたカソード活物質が、上述される式(I)~(IV)の固体電解質材料のうち少なくとも1種を含有する物理的混合物である;ii)集電体に塗布されたカソード活物質の層が、式(I)~(IV)の固体電解質材料のうち少なくとも1種を含む層で被覆されている。要素i)およびii)の両方があてはまるカソードもまた、本開示中に含まれる。
【0064】
関連する実施形態において、本開示は、集電体と、集電体に塗布されたアノード活物質の層とを含み、かつ以下の事項のうち少なくとも1つがあてはまるような、アノードを含む:i)集電体に塗布されたアノード活物質が、上述される式(I)~(IV)の固体電解質材料のうち少なくとも1種を含有する物理的混合物である;ii)集電体に塗布されたアノード活物質の層が、式(I)~(IV)の固体電解質材料のうち少なくとも1種を含む層で被覆されている。
【0065】
上述される実施形態中に記載されるカソード、上述される実施形態中に記載されるアノードを含む、または上述される実施形態に係るアノードおよびカソードの両方を含む電池もまた、本開示の実施形態である。
【0066】
以上の記載は、当業者による本発明の実施および使用を可能とするために提示されるものであり、特定の用途およびその要件の文脈において提供される。好ましい実施形態に対する様々な変更が当業者には明らかであり、本明細書中に定義される一般的原理は、本発明の思想および範囲から逸脱することなく、他の実施形態および用途に適用し得る。よって、本発明は、記載された実施形態に限定されるものではなく、本明細書中に開示された原理および特徴と一致するような最も広い範囲が与えられるものである。この点において、本発明の範囲内における特定の実施形態は、広く考えた場合の本発明のすべての利益を示していない可能性がある。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24