(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】換気システム
(51)【国際特許分類】
F24F 7/007 20060101AFI20241106BHJP
F24F 7/10 20060101ALI20241106BHJP
F24F 9/00 20060101ALI20241106BHJP
F24F 11/46 20180101ALI20241106BHJP
F24F 11/74 20180101ALI20241106BHJP
F24F 11/77 20180101ALI20241106BHJP
F24F 110/70 20180101ALN20241106BHJP
F24F 120/12 20180101ALN20241106BHJP
【FI】
F24F7/007 B
F24F7/10 A
F24F9/00 A
F24F7/007 101
F24F11/46
F24F11/74
F24F11/77
F24F110:70
F24F120:12
(21)【出願番号】P 2020185794
(22)【出願日】2020-11-06
【審査請求日】2023-10-25
(31)【優先権主張番号】P 2020181590
(32)【優先日】2020-10-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100139114
【氏名又は名称】田中 貞嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100139103
【氏名又は名称】小山 卓志
(74)【代理人】
【識別番号】100214260
【氏名又は名称】相羽 昌孝
(74)【代理人】
【氏名又は名称】片寄 武彦
(72)【発明者】
【氏名】川村 聡宏
(72)【発明者】
【氏名】山本 ミゲイル
(72)【発明者】
【氏名】長谷部 弥
(72)【発明者】
【氏名】三浦 靖弘
【審査官】奈須 リサ
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/229878(WO,A1)
【文献】特開2003-279090(JP,A)
【文献】特開2014-202417(JP,A)
【文献】特開2020-148456(JP,A)
【文献】特開2016-042018(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0011558(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2005-0019584(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24F 1/00-13/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の空間の換気を行う換気システムであって、
前記空間の複数箇所に設けられ、それぞれの箇所で空気を吹き出す給気口と、
それぞれの給気口で、吹き出す空気の流量を制御する給気流量制御部と、
前記空間におけるCO
2の濃度分布を取得するCO
2濃度分布取得部と、
前記空間における人の位置情報を取得する位置情報取得部と、
前記位置情報取得部で取得された人の位置情報に基づいて人密度を算出し、
前記CO
2濃度分布取得部で取得されたCO
2の濃度分布と、
算出された人密度と、CO
2
濃度及び人密度に応じた流量を規定したテーブルとに基づいて、前記給気流量制御部がそれぞれの給気口で吹き出す空気の流量の制御を行うように前記給気流量制御部に対して指令を発する主制御部と、を有することを特徴とする換気システム。
【請求項2】
前記空間には複数のゾーンが規定されており、
前記ゾーン毎に給気口が設けられることを特徴とする請求項1に記載の換気システム。
【請求項3】
前記空間の複数箇所に設けられ、それぞれの箇所で空気を吸い込む排気口と、
それぞれの排気口で、吸い込む空気の流量を制御する排気流量制御部と、を有し、
前記主制御部が、前記CO
2濃度分布取得部で取得されたCO
2の濃度分布と、前記位置情報取得部で取得された人の位置情報とに基づいて、前記排気流量制御部がそれぞれの排気口で吸い込む空気の流量の制御を行うように前記排気流量制御部に対して指令を発することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の換気システム。
【請求項4】
前記空間には複数のゾーンが規定されており、
前記ゾーン毎に排気口が設けられることを特徴とする請求項3に記載の換気システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オフィスなどにおいて、人から発せられる飛沫・呼気等を発散させて、感染症の伝染リスクを低減する換気システムに関する。
【背景技術】
【0002】
新型コロナウイルスの感染が広まる中、オフィスなどの空間において、感染症のリスクを低減させる対策の一つとしては、換気によって外気導入量を増やすことを挙げることができる。例えば、導入した外気により人と人との間にエアカーテンを形成するような気流制御を行うことは、感染リスク予防に有効であることが予想される。
【0003】
ただし、外気導入量を増やすことは、感染リスク低減に有効であるが、空間内の温調に大きなエネルギーを費やすこととなり、省エネルギーとは相反する建物の運用となることが問題であった。
【0004】
また、人が決まった場所に滞在し続ける場合では、人の滞在場所が予測できるため、人と人との間に気流を生じさせる制気口を設けてエアカーテンを形成することができるが、人が自由に移動できる場合には、建物に固定的に設けられた制気口では適正な気流制御を行うことに限界があり、感染リスクを低減させることは難しい、という問題があった。
【0005】
そこで、このような問題を解決するために、室内に存在する人の位置を検知するセンサを設けて、センサによる検知結果に応じて気流制御を行う技術が提案されている。例えば、特許文献1(特開2019-219154号公報)には、室内の上方に設置され、前記室内の天井面に沿って空気を送風する送風機器と、前記天井面または前記天井面から所定距離離れた位置、かつ、前記送風機器と離間した位置に、それぞれ離間して設置され、前記送風機器により送風される空気の流れである気流の向きを制御する複数の気流制御板と、前記複数の気流制御板のうち、前記室内に存在する2人の間の位置に対応する第1気流制御板を選定することで、前記2人の間に気流が流れるように制御する制御部と、前記室内に存在する人の位置を検知するセンサ部とを備え、前記制御部は、前記センサ部が検知した前記人の位置を用いて、前記室内に存在する2人の間の位置を算出する気流制御システムが記載されている。
【文献】特開2019-219154号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、多くの人が働いているオフィスなどの空間に、引用文献1記載の従来技術を適用すると、複数の気流制御板が同時に稼働してしまい、目指す気流環境が実現できない、という課題が発生してしまう。
【0007】
また、引用文献1記載の従来技術のように、気流制御板などの動く造作物を天井面に配置することはメンテナンスの面で好ましくない、という課題もあった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、上記課題を解決するものであって、本発明に係る換気システムは、所定の空間の換気を行う換気システムであって、前記空間の複数箇所に設けられ、それぞれの箇所で空気を吹き出す給気口と、それぞれの給気口で、吹き出す空気の流量を制御する給気流量制御部と、前記空間におけるCO2の濃度分布を取得するCO2濃度分布取得部と、前記空間における人の位置情報を取得する位置情報取得部と、前記位置情報取得部で取得された人の位置情報に基づいて人密度を算出し、前記CO2濃度分布取得部で取得されたCO2の濃度分布と、算出された人密度と、CO
2
濃度及び人密度に応じた流量を規定したテーブルとに基づいて、前記給気流量制御部がそれぞれの給気口で吹き出す空気の流量の制御を行うように前記給気流量制御部に対して指令を発する主制御部と、を有することを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る換気システムは、前記空間には複数のゾーンが規定されており、前記ゾーン毎に給気口が設けられることを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る換気システムは、前記空間の複数箇所に設けられ、それぞれの箇所で空気を吸い込む排気口と、それぞれの排気口で、吸い込む空気の流量を制御する排気流量制御部と、を有し、前記主制御部が、前記CO2濃度分布取得部で取得されたCO2の濃度分布と、前記位置情報取得部で取得された人の位置情報とに基づいて、前記排気流量制御部がそれぞれの排気口で吸い込む空気の流量の制御を行うように前記排気流量制御部に対して指令を発することを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る換気システムは、前記空間には複数のゾーンが規定されており、前記ゾーン毎に排気口が設けられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る換気システムは、CO2濃度分布取得部で取得されたCO2の濃度分布と、位置情報取得部で取得された人の位置情報とに基づいて、給気流量制御部が、空間の複数箇所に設けられた給気口で吹き出す空気の流量の制御を行うので、このような本発明に係る換気システムによれば、外気を導入した場合でも、必要最低限の流量の空気が導入されるだけであり、空間内の空調に大きな影響を及ぼすことなく、エネルギーロスを最低限とすることができる。
【0014】
また、本発明に係る換気システムにおいては、複数箇所に設けられた給気口から吹き出された空気は、基本的に干渉し合うようなことはない。複数の気流制御板を用いた場合には、ある気流制御板が、他の気流制御板の気流制御を邪魔することが発生するが、本発明に係る換気システムによれば、そのようなことは発生しない。
【0015】
また、本発明に係る換気システムにおいては、従来技術のように、気流制御板などの動く造作物を天井に配置する必要がなく、メンテナンス性が良好となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る換気システム1が適用された空間Rの模式的側面図である。
【
図2】本発明の第1実施形態に係る換気システム1が適用された空間Rの模式的平面図である。
【
図3】本発明の第1実施形態に係る換気システム1のブロック図である。
【
図4】本発明の第1実施形態に係る換気システム1の制御処理のフローチャートを示す図である。
【
図5】本発明の第1実施形態に係る換気システム1で用いるテーブルを示す図である。
【
図6】本発明の第1実施形態に係る換気システム1の動作例を示す図である。
【
図7】本発明に係る換気システム1の効果を説明する図である。
【
図8】本発明の第2実施形態に係る換気システム1が適用された空間Rの模式的側面図である。
【
図9】本発明の第2実施形態に係る換気システム1のブロック図である。
【
図10】本発明の第3実施形態に係る換気システム1が適用された空間Rの模式的側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。
図1は本発明の第1実施形態に係る換気システム1が適用された空間Rの模式的側面図である。また、
図2は本発明の第1実施形態に係る換気システム1が適用された空間Rの模式的平面図である。また、
図3は本発明の第1実施形態に係る換気システム1のブロック図である。
【0018】
本発明に係る換気システム1は、オフィスなどの空間Rにおいて、人と人とが近接している際に、人周囲の空気を置換するような気流を生成する構成とされている。このような気流を形成することで、人から発せられる飛沫・呼気等を発散させて、感染症の伝染リスクを低減するものである。ここで、このような気流を形成する空気を、本明細書では「換気空気」と称することがある。
【0019】
上記のような気流を形成するための換気空気は、全て外気であってもよいし、或いは、全て空調機(不図示)で温湿度調整された空気であってもよいし、或いは、外気と温湿度調整された空気とを混合した空気であってもよい。気流形成のための空気に外気のみを用いる場合には、本発明に係る換気システム1を、空調機の系統と独立して構成することができる。また、気流形成のための空気に温湿度調整された空気を含める場合には、本発明に係る換気システム1を、空調機の系統の一部として構成することができる。以下で説明する実施形態においては、空調機系統の構成の説明については省略している。
【0020】
建物内の空間Rは、例えばオフィスなどが想定されるが、本発明に係る換気システム1が適用されるのは、特段オフィスに限定されるわけではない。空間Rの周囲は壁面が設けられると共に、空間Rの下部は床部10が配され、上部は天井部30が配されることで空間Rは区画がなされている。
【0021】
本実施形態では、当該空間Rに対して床部10から常時空気を吹き出す空調システム(詳細は不図示)に、本発明に係る換気システム1を適用する例に基づいて説明をする。本実施形態では、当該空調システムによって床部10から常時吹き出されている空気を、換気システム1で用いる換気空気としても流用するようにしている。しかしながら、換気システム1で用いる換気空気を、空調システムで利用する空気とは別に建物外部から直接調達するようにしてもよい。
【0022】
床部10の下方には、床下空間12が設けられており、この床下空間12に対して、ダクト3を介して、給気ファン6によって送風された空気が、給気ダクト口4から供給されている。床下空間12に供給された空気は、床部10の複数箇所に設けられている床吹き出し口13から、空間Rに対して吹き出される。
【0023】
天井部30の上方には、天井上空間32が設けられている。天井上空間32の複数箇所には排気口35が設けられており、この排気口35の直上部には排気ダクト口5が配されている。排気ダクト口5にはダクト3を介して排気ファン7が接続されており、排気ファン7による吸引力の作用により、排気口35から排気口35近傍の空気が吸い込まれる。
【0024】
上記のように空間Rにおいては、平時、床部10の吹き出し口13から空気が吹き出され、排気口35から空気が吸い込まれることにより、空間R内の空気が循環し、快適な環境を実現することが可能となっている。
【0025】
空間Rには、
図2に示すように複数のゾーン(
図2の例では、第1ゾーンから第20ゾーンまでの20ゾーン)が仮想的に規定されており、それぞれのゾーンに対応して給気口15が床部10に設けられている。それぞれの給気口15の直下部には、給気ファン115が設けられており、それぞれの給気ファン115は、
図3のブロックにおける給気流量制御部110により、オン・オフ制御、回転速度制御されるように構成されている。
【0026】
本発明に係る換気システム1においては、それぞれのゾーンの給気ファン115が独立的に動作することにより、それぞれの給気口15で換気空気を吹き出すことができるようになっている。給気口15から吹き出された換気空気は、人から発せられる飛沫・呼気等を発散させて、感染症の伝染リスクを低減する。
【0027】
なお、本実施形態係る換気システム1では、換気空気を床部10から導入するようにしているが、換気空気を導入する箇所は床部10に限らず、天井や壁を利用するようにしてもよい。また、本実施形態では、換気空気の導入を促進させる給気ファン115は独立した制御機構を持っていることを想定しているが、空間Rに換気空気を導入するために、ダクティングされた末端に可変風量制御装置(VAV:Variable Air Volume)を設け、これにより風量制御するようにしてもよい。
【0028】
本発明に係る換気システム1では、それぞれのゾーンにおいて給気ファン115を動作させて、給気口15から換気空気を吹き出すタイミングを決定するために、当該ゾーンにおけるCO2の濃度の情報と人の存否に係る情報とを利用する。より具体的には、本発明に係る換気システム1は室内のCO2濃度分布と人の位置情報の関係から、感染リスクを算定し、感染リスクの高いエリアへ優先的に換気空気の導入量を増やすことで感染リスクを低減させるものである。
【0029】
本発明に係る換気システム1では、まず、CO2が高いゾーンは人の呼気の影響を受けて濃CO2度が上昇しており、感染リスクの高いエリアであると判断する。しかし、一人が個人ブースのような空間で作業をしている場合はCO2濃度が高くとも、他人と近接することが少ないため感染リスクは低いと考えられる。CO2濃度のみで感染リスクを評価してしまうと、感染リスクが低いエリアにも過剰に換気空気を供給することに繋がるため、これを防ぐために、本発明に係る換気システム1では、人の位置情報も含めて換気空気導入量を制御するようにしている。
【0030】
本発明は、各ゾーンへの換気空気の導入量を調整できる給気ファン115を備えた換気システム1であり、換気空気の導入量を必要以上に増加させることがないために、例え換気空気の全量が外気によるものであったとしても、空間Rにおける温湿度に与える影響は限定的であり、建物の省エネルギー化運用に逆行するようなものではない。
【0031】
図3のブロック図に示されているCO
2濃度分布取得部120は、空間R内におけるCO
2濃度分布を検知するための構成である。このようなCO
2濃度分布取得部120は
図1、
図2に示されていないが、例えば、空間R内の適切な箇所にCO
2を検出するセンサを複数設けることにより、これを実現することができる。このようなセンサとしては、非分散型赤外線(NDIR:Non Dispersive Infrared)吸収法方式のものを用いることができる。また、このような光学式の検出方式のものではなくとも、CO
2センサとしては、電気化学式のもの、或いは、半導体式のものも用いることができる。
【0032】
上記のようにCO2の濃度を検出するセンサは、あらかじめ建物における空間R内の適切な箇所に固定的に設置するようにしてもよいし、或いは、スマートフォンのような人が持ち歩くデバイスに設けるようにしてもよい。
【0033】
CO
2濃度を検出する各センサで取得したデータは主制御部100に送信され、主制御部100において、複数箇所のCO
2濃度データに基づいて空間RにおけるCO
2濃度分布が算出・取得される。換気システム1における主制御部100は、例えば、CPUとCPU上で動作するプログラムを保持するROMとCPUのワークエリアであるRAMなどからなる汎用のマイクロコンピューターなどの情報処理装置を用いることができる。このような主制御部100は、
図3で接続される各構成とデータ通信を行い、各構成から所定のデータを受信して演算を行ったり、所定のデータを指令などとして出力したりすることができるようになっている。
【0034】
次に、本発明に係る換気システム1において、空間R内で人を検出する構成について説明する。
図3のブロック図に示されている位置情報取得部130は、空間R内における人の位置情報を検知するための構成である。
【0035】
位置情報取得部130は、例えば、Wi-Fi技術を利用した測位を行うものであり、このために位置情報取得部130は、複数のアクセスポイント(1351~1353)からのデータを収集する。複数のアクセスポイント(1351~1353)は、空間Rの適切に箇所に設けられている。本実施形態ではアクセスポイント数は3つであるが、アクセスポイント数がこれに限定されるものではなく、3つ以上であればいくつでも構わない。
【0036】
オフィスなどの空間R内に滞在する人には、タグ50が配布され、各人はこのタグ50を装着することが想定されている。複数のアクセスポイント(1351~1353)からは、測定電波がタグ50に送られる。これを受け取ったタグ50は当該タグ50が有する唯一無二の固有の信号と共に、測定電波を複数のアクセスポイント(1351~1353)に対して送り返すようになっている。
【0037】
位置情報取得部130は、複数のアクセスポイント(1351~1353)からタグ50に対して、送った測定電波が帰ってくるまでの所要時間から、タグ50側の処理時間を引くことで、往復の所要時間を算出する。次に、位置情報取得部130は、この往復の所要時間から、複数のアクセスポイント(1351~1353)それぞれからタグ50までの距離を算出し、それぞれの距離からタグ50の位置を算出する。
【0038】
位置情報取得部130で取得された各タグ50の位置情報は、主制御部100に対して送信される。主制御部100側は、このような位置情報を取得すると、これに基づいて、人の密度を算出する。
【0039】
なお、位置情報取得部130は、上記のように、測定電波のTOF(Time of Flight)に基づいて、各タグ50の位置情報を求めるようにしているが、位置情報取得部130が人の位置情報を取得する方法がこれに限定されるわけではない。例えば、UWB(Ultra Wide Band)技術を用いて、人の位置情報を取得するようにしてもよいし、空間Rの動画像を取得して、この動画像から画像解析処理によって人の位置情報を取得するようにしてもよい。
【0040】
主制御部100に対しては、CO2濃度分布取得部120で取得されたCO2の濃度分布データと、位置情報取得部130で取得された人の位置情報データとがインプットされる。主制御部100は、これらのデータに基づいて、どのゾーンの給気ファン115をどの程度動作させるかを決定し、この決定に基づいて、給気流量制御部110に対して指令を発する。給気流量制御部110は、この指令を受け、給気ファン115のオン・オフ制御、回転速度制御を行い、それぞれのゾーンの給気口15で吹き出す空気の流量の制御を行う。
【0041】
次に、以上のように構成される本発明に係る換気システム1の動作について説明する。
図4は本発明の第1実施形態に係る換気システム1の制御処理のフローチャートを示す図である。このようなフローチャートによる制御処理は、本発明に係る換気システム1を動作させるためのアルゴリズムの一例である。また、このようなフローチャートは、汎用のマイクロコンピューターである主制御部100によって実行されるが、このようなフローチャートを専用のハードウエアで実行させるようにしてもよい。
【0042】
図4において、ステップS100で換気システム1の制御処理が開始されると、続いて、ステップS101に進み、CO
2濃度分布取得部120によって、各ゾーンにおけるCO
2の濃度分布を取得する。
【0043】
続いて、ステップS102において、位置情報取得部130によって、空間R内の人の位置情報を取得して、ステップS103で、この人の位置情報に基づいて、各ゾーンにおける人密度を算出する。
【0044】
次に、CO2濃度分布取得部120、位置情報取得部130から取得した情報を基に、第Nゾーンの給気ファン115Nの制御を行う。まず、ステップS104では、Nに1がセットされる。
【0045】
続いて、ステップS105では、テーブルを参照し、このテーブルに応じて給気ファン115
Nを制御する。ここで、このような制御の際に参照する前記のテーブルについて説明する。
図5は本発明の第1実施形態に係る換気システム1で用いるテーブルを示す図である。
【0046】
それぞれのゾーンの給気ファン115は、給気流量制御部110によって、「低速回転」、「中速回転」、「高速回転」の3段階の回転速度でされるようになっている。なお、本実施形態では、給気ファン115の回転速度は3段階で設定されているが、給気ファン115の回転速度の段数については任意とすることができる。
【0047】
図5に示すテーブルでは、CO
2濃度分布取得部120に基づいて取得されるCO
2濃度[ppm]と、位置情報取得部130から算出される人密度[人/m
2]とに応じて、当該給気ファン115
Nを3段階の回転速度「低速回転」、「中速回転」、「高速回転」のうちから、どの回転速度で制御するかが設定されている。なお、CO
2濃度[ppm]と人密度[人/m
2]とがテーブルの範囲外であるときには、給気ファン115はオフとされる。
【0048】
このように本発明に係る換気システム1は、テーブルに基づいて、適切な流量の換気空気を導入するようにしているため、必要量以上の換気空気が流入することなく、空間Rにおける温湿度に与える影響が少ない。
【0049】
ステップS105に続くステップS106では、規定されている全てのゾーンについて、給気ファン115の制御が行われたかが判定される。このステップにおける判定がNOであれば、ステップS107に進み、Nが1インクリメントされ、ステップS105に進む。
【0050】
一方、当該判定がYESとなると(本例では、N=20の場合)、ステップS108に進み、所定時間ウエイトしてから、ステップS101に戻り、ループする。
【0051】
上記のようなフローチャートに基づいて換気システム1を動作させ、例えば第2ゾーンにおいて、CO
2濃度[ppm]と人密度[人/m
2]とがテーブル内の値を取ると、
図6に示すように、給気ファン115
2が適切な速度で回転して、人から発せられる飛沫・呼気等を発散させて、感染症の伝染リスクを低減することができる。
【0052】
以上のような本発明に係る換気システム1で、換気空気を導入することによる感染リスクの低減効果について説明する。空間R(室内)における感染リスクの低減効果については、下式(1)のWells-Rileyの感染確率モデルを用いて検討する。当該モデルによれば、感染確率Pは、
【0053】
【数1】
で表すことができる。
ここで、
I:感染者数[人]
q: 感染性粒子発生量[quanta/h]
p: 呼吸量[m
3/h]
t: 滞在時間(総曝露時間)[h]
Q: 換気量[m
3/h]
である。
【0054】
上記の式(1)では、結核などの感染症の空気感染が定常状態の室内環境で生じることを想定していることに加え、感染症粒子がどこで発生したかに関わらず、建物の空間内のどこにでも同様の確率で存在しうることを仮定している。換気空間の容積の大小の影響が加味されていないことに対応するため、RudnickとMilton1)によって提案された修正Wells-Rileyモデル(下式(2))を用いて、本発明の効果について試算した。
【0055】
【数2】
ここで、
V:換気された空間の容積[m
3]
θ:空間が占有されてからの経過時間[h]
θは毎週オフィスで1日8時間など継続的に利用された室内であればtと同等として扱っても良いとされているため、θ=tとして効果を算定した。
【0056】
図7に感染リスク低減制御の効果について算定した結果を示す。算定例は面積50m
2、天井高2.5mの室内にインフルエンザ感染者が1名いると想定し、一般的な空調制御は人員密度0.2[人/m
2]×床面積[m
2]×20m
3/人・h、本発明に基づく換気制御では人員密度0.2[人/m
2]×床面積[m
2]×40m
3/hの換気空気導入量があるとして算定した。感染性粒子発生量qはBrent Stephensら
2)の研究成果を参考に決定した。
【0057】
一般的なオフィスビルの外気導入量は4-6m3/m2h程度で計画されていることが多いため、感染リスクを低減させるために換気空気導入量を増加させるには限界がある。本発明のように、感染リスクが高いエリアを優先して換気空気の導入量を増やすことで設備機器容量が小さくても一定の効果をあげることができると期待できる。
【0058】
以上のように、本発明に係る換気システム1は、CO2濃度分布取得部120で取得されたCO2の濃度分布と、位置情報取得部13で取得された人の位置情報とに基づいて、給気流量制御部110が、空間の複数箇所に設けられた給気口15で吹き出す空気の流量の制御を行うので、このような本発明に係る換気システム1によれば、外気を導入した場合でも、必要最低限の流量の空気が導入されるだけであり、空間内の空調に大きな影響を及ぼすことなく、エネルギーロスを最低限とすることができる。
【0059】
また、本発明に係る換気システム1においては、複数箇所に設けられた給気口15から吹き出された空気は、基本的に干渉し合うようなことはない。複数の気流制御板を用いた場合には、ある気流制御板が、他の気流制御板の気流制御を邪魔することが発生するが、本発明に係る換気システム1によれば、そのようなことは発生しない。
【0060】
また、本発明に係る換気システム1においては、従来技術のように、気流制御板などの動く造作物を天井に配置する必要がなく、メンテナンス性が良好となる。
【0061】
次に、本発明の他の実施形態について説明する。
図8は本発明の第2実施形態に係る換気システム1が適用された空間Rの模式的側面図である。また、
図9は本発明の第2実施形態に係る換気システム1のブロック図である。
【0062】
先の第1実施形態では、第Nゾーンの給気ファン115Nによって、空間Rに対して換気空気を導入するのみであったが、第2実施形態では、換気空気が導入される際、空間Rから空気を排気する構成が付加されている。
【0063】
図8において、第Nゾーンの排気口35の上方に配されている排気ダクト口5の直下には、排気ファン155
Nが設けられている。これら排気ファン155
Nは、
図9に示すように排気流量制御部150によって制御される。この排気流量制御部150は主制御部100からの指令に基づいて、各排気ファン155
Nを制御するように構成されている。
【0064】
第1実施形態で説明したように給気ファン115Nが3段階の回転速度で制御される構成であれば、排気ファン155Nも3段階の回転速度で制御され、給気される換気空気と同量の空気を排気ファン155Nで排気するように構成されることが好ましい。また、第Nゾーンの給気ファン115Nが動作すると、同じく第Nゾーンの排気ファン155Nが動作するように設定されている。
【0065】
また、第2実施形態に係る換気システム1においても、第1実施形態同様、給気ファン115N、排気ファン155Nの制御は、CO2濃度分布取得部120で取得されるCO2濃度[ppm]と、位置情報取得部130から取得される人密度[人/m2]と基づいて行われる。
【0066】
以上のように構成される第2実施形態に係る換気システム1は、給気ファン115によって導入された換気空気により、人から発せられる飛沫・呼気等を発散させ、さらに、動作した給気ファン115の上の天井部30に設けられた排気ファン155で導入された換気空気と同量の空気を排気する構成とされているので、このような第2実施形態に係る換気システム1によれば、感染症の伝染リスクを大幅に低減することができる。
【0067】
また、第2実施形態に係る換気システム1によっても、先の実施形態と同様の効果も享受することができる。
【0068】
次に、本発明の他の実施形態について説明する。
図10は本発明の第3実施形態に係る換気システム1が適用された空間Rの模式的側面図である。
【0069】
これまで説明した各実施形態では、換気空気を床部10から導入するようにしていた。これに対して、第3実施形態に係る換気システム1は、換気空気の導入を天井部30側から行うように構成されている。以下、このような相違を中心に説明し、これまでと同様の参照番号が付された構成については同様のものであるので説明を省略する。
【0070】
これまでの実施形態と異なり、第3実施形態に係る換気システム1においては、床下空間12には排気ダクト口5が配されている。この排気ダクト口5にはダクト3を介して排気ファン7が接続され、排気ファン7による吸引力の作用により、床部10に設けられた複数の床吸い込み口14から、空間Rにおける床吸い込み口14近傍の空気が吸い込まれる。
【0071】
また、第3実施形態に係る換気システム1においては、天井上空間32側に給気ファン6が設けられている。天井上空間32の複数箇所には給気口15が設けられており、この給気口15の直上部には給気ダクト口4が配されている。複数の給気ダクト口4にはダクト3を介して給気ファン6が接続されている。各給気ダクト口4の上流(気流の方向でみて)側には、第Nゾーンボリュームダンパ(VD;Volume Damper)165Nが配されている。これら第Nゾーンボリュームダンパ165Nは風量調節用のダンパであり、電動アクチュエーター(不図示)などによって風量調節がなされるようになっている。
【0072】
ブロック図については図示しないが、第Nゾーンボリュームダンパ165Nにおける上記電動アクチュエーター(不図示)は、給気流量制御部110により駆動制御されるように構成されている。
【0073】
先の実施形態と同様、本実施形態においても、主制御部100に対しては、CO2濃度分布取得部120で取得されたCO2の濃度分布データと、位置情報取得部130で取得された人の位置情報データとがインプットされる。主制御部100は、これらのデータに基づいて、どのゾーンの第Nゾーンボリュームダンパ165Nをどの程度の開度とするかを決定し、この決定に基づいて、給気流量制御部110に対して指令を発する。給気流量制御部110は、この指令を受け、第Nゾーンボリュームダンパ165Nにおける上記電動アクチュエーター(不図示)の制御を行い、それぞれのゾーンの給気口15で吹き出す空気の流量の制御を行う。
【0074】
以上のように構成される第3実施形態に係る換気システム1によっても、これまで説明した実施形態と同様の効果も享受することができる。
[参考文献]
1) Rudnick, S.N., Milton, D.K., Risk of indoor airborne infection transmission estimated from carbon dioxide concentration. Indoor Air 13(3), 237-245., 2003
2) Brent Stephens: HVAC filtration and the Wells-Riley approach to assessing risks of infectious airborne diseases, Final Report, 2012
(https://www.nafahq.org/wp-content/uploads/WellsRileyReport.pdf)
【符号の説明】
【0075】
1・・・換気システム
3・・・ダクト
4・・・給気ダクト口
5・・・排気ダクト口
6・・・給気ファン
7・・・排気ファン
10・・・床部
12・・・床下空間
13・・・床吹き出し口
14・・・床吸い込み口
15・・・給気口
30・・・天井部
32・・・天井上空間
35・・・排気口
50・・・タグ
70・・・パーティション
100・・・主制御部
110・・・給気流量制御部
115N・・・第Nゾーン給気ファン
120・・・CO2濃度分布取得部
130・・・位置情報取得部
135n・・・第nアクセスポイント
150・・・排気流量制御部
155N・・・第Nゾーン排気ファン
165N・・・第Nゾーンボリュームダンパ
R・・・空間