(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】カラーサーモクロミック材料の非接触型サーマル印刷
(51)【国際特許分類】
B41J 2/32 20060101AFI20241106BHJP
B05C 9/14 20060101ALI20241106BHJP
B41M 5/28 20060101ALI20241106BHJP
【FI】
B41J2/32 Z
B05C9/14
B41J2/32 J
B41M5/28 230
(21)【出願番号】P 2020191674
(22)【出願日】2020-11-18
【審査請求日】2023-11-10
(32)【優先日】2019-12-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】504407000
【氏名又は名称】パロ アルト リサーチ センター,エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100086771
【氏名又は名称】西島 孝喜
(74)【代理人】
【氏名又は名称】上杉 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120525
【氏名又は名称】近藤 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100139712
【氏名又は名称】那須 威夫
(74)【代理人】
【識別番号】100167911
【氏名又は名称】豊島 匠二
(72)【発明者】
【氏名】アシシュ・パテッカー
(72)【発明者】
【氏名】パルグハット・エス.・ラメッシュ
(72)【発明者】
【氏名】アントニーノ・ウィリアムス
(72)【発明者】
【氏名】ジョージ・マルティーニ
【審査官】大浜 登世子
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-313642(JP,A)
【文献】特開平06-198925(JP,A)
【文献】特開平06-198924(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0207952(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2015-0082833(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/32
B05C 9/14
B41M 5/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に配置された
、サーモクロミック材料が色変化を起こす閾値温度を有するサーモクロミックコーティングを、第1の温度まで予熱するように構成されてい
るパターン化されていないヒータと、
前記サーモクロミックコーティングの選択された画素を、所定のパターンに従って、前記閾値温度以上の温度まで加熱するように構成されている複数の加熱素子を備えるパターン化されたヒータと、
前記パターン化されたヒータが、前記サーモクロミック材料を加熱している間、前記複数の加熱素子と前記サーモクロミック材料との間に維持されたエアギャップと、を備え、前記エアギャップ内の空気が、第2の温度まで加熱される、システム。
【請求項2】
前記複数の加熱素子に対して、前記基材上に配置された前記サーモクロミック材料を有する前記基材を移動させるように構成されている移動機構を更に備える、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記
エアギャップが、約5μm~20μmである、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記空気が、前記パターン化されていないヒータによって加熱される、請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記パターン化されていないヒータが、回転する加熱されたドラム、赤外線ヒータ、及び抵抗ヒータのうちの1つ以上を含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
前記エアギャップ内の前記空気を、第2の温度まで加熱するように構成されているエアギャップヒータを更に備える、請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
前記エアギャップヒータが、赤外線ヒータ、及び強制エアヒータのうちの1つ以上を含む、請求項
6に記載のシステム。
【請求項8】
前記基材が、細長いフィルムを含み、
前記パターン化されていないヒータが、前記細長いフィルムと接触する回転するドラムを備える、請求項1に記載のシステム。
【請求項9】
前記サーモクロミック材料が、フルオランロイコ染料を含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項10】
前記パターン化されたヒータの前記複数の加熱素子が、抵抗加熱素子である、請求項1に記載のシステム。
【請求項11】
基材上に配置された
、サーモクロミック材料が色変化を起こす閾値温度を有するサーモクロミックコーティングを有する前記基材を、第1の温度ま
で予熱することと、
前記サーモクロミックコーティングとパターン化されたヒータとの間のエアギャップを、第2の温度まで加熱することと、
前記パターン化されたヒータを操作して、予熱された前記サーモクロミックコーティングを、所定のパターンに従って、前記閾値温度超に加熱することと、を含む、方法。
【請求項12】
前記基材を予熱することが、前記基材を加熱された回転しているドラムに近付ける、又は加熱された回転しているドラムと接触させることを含む、請求項
11に記載の方法。
【請求項13】
前記エアギャップが、予熱された前記基材からの熱伝達によって加熱される、請求項
11に記載の方法。
【請求項14】
前記エアギャップが、強制エアヒータ及び赤外線ヒータのうちの少なくとも1つによって加熱される、請求項
11に記載の方法。
【請求項15】
前記エアギャップが、5μm~20μmである、請求項
11に記載の方法。
【請求項16】
前記第1の温度及び前記第2の温
度が、前記閾値温度未満である、請求項
11に記載の方法。
【請求項17】
前記パターン化されたヒータが、複数の抵抗加熱素子を備える、請求項
11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連特許文献)
本出願は、2019年4月12日に出願された米国特許出願第16/382,884号の一部継続出願であり、当該米国特許出願は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
(発明の分野)
本開示は、サーモクロミック材料を処理するためのシステム及び方法に関する。
【背景技術】
【0003】
サーモクロミック材料は、温度への曝露に応答して色が変化する。サーモクロミックインクは、リソグラフィ、フレキソ印刷、グラビア印刷、スクリーン印刷、及びフィルムアプリケータでの展延などの多数の印刷又はコーティングプロセスによって、基材上の比較的大きな領域に塗布され得る。サーモクロミック材料でより大きな領域をコーティング又は印刷した後、その領域を熱及び/又は光に曝露させて、正確に制御された区域に色変化を生じさせる。
【0004】
販売時点(POS)レシートプリンタなどの、サーマルペーパー上の印刷に使用され得る、サーモクロミック材料/コーティングを印刷するための最先端のサーマル印刷システムは、接触に基づく手法の使用に依存している。この手法では、所望のテキスト/パターンを作成するために、サーマル印刷ヘッドのヒータ素子の配列を使用して、基材上の個々の「画素」を接触により局所的に加熱する。
【0005】
接触に基づくサーマル印刷は、関連する保守要件に起因して、特定の大量生産用途において望ましくない場合がある。印刷媒体との一定の摩擦を受ける接触型サーマル印刷ヘッドの摩耗、周期的な洗浄、及び全体的な保守の必要性は、大量用途環境において許容できない休止時間及びコストをもたらし得る。これらの用途では、ヒータ素子と基材との間の小さなギャップを維持すること、及び所望の画像を印刷するためにギャップを通して熱エネルギーの伝導/対流に依存することによって、印刷ヘッドヒータ素子配列とサーモクロミック材料がコーティングされた基材との間の一定の擦過作用を回避する、非接触手法が好ましい場合がある。より少量用途では、非接触手法はまた、印刷ヘッドの寿命を延長し、したがって保守コストを改善するため望ましい。
【発明の概要】
【0006】
いくつかの実施形態によれば、システムは、基材上に配置されたサーモクロミックコーティングを、第1の温度まで予熱するように構成されているパターン化されていないヒータを含む。サーモクロミックコーティングは、サーモクロミック材料が色変化を起こす閾値温度を有する。システムはまた、サーモクロミックコーティングの選択された画素を、所定のパターンに従って、閾値温度以上の温度まで加熱するように構成されている複数の加熱素子を備えるパターン化されたヒータも含む。エアギャップは、パターン化されたヒータが、サーモクロミック材料を加熱している間、複数の加熱素子とサーモクロミック材料との間に維持される。エアギャップ内の空気は、第2の温度まで加熱される。
【0007】
いくつかの実施形態は、基材上に配置されたサーモクロミックコーティングを有する基材を、第1の温度まで予熱することを伴う方法に関する。サーモクロミックコーティングは、サーモクロミック材料が色変化を起こす閾値温度を有する。サーモクロミックコーティングとパターン化されたヒータとの間のエアギャップは、第2の温度まで加熱される。パターン化されたヒータは、予熱されたサーモクロミックコーティングを、所定のパターンに従って、閾値温度超に加熱するために操作される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】いくつかの実施形態による、サーモクロミック画像形成システムの概念的なブロック図である。
【
図2】いくつかの実施形態による、エアギャップヒータを含むサーモクロミック画像形成システムの概念的なブロック図である。
【
図3】いくつかの実施形態による、パターン化されたヒータの加熱素子の図である。
【
図4】いくつかの実施形態による、サーモクロミック画像形成方法のフローチャートである。
【
図5】本明細書に記載される実施形態による、システムのサーマル特性をモデル化するために使用される積層体の図である。 本明細書に記載される非接触型サーマル画像形成手法を使用して得られたエアギャップ距離に対するサーモクロミック材料の光学濃度のグラフである。
【
図6】第1の実施例による、スタックヒータが、94.54W/mm2の加熱速度(電力)を提供することができ、コーティングされた基材が、0.05m/秒の速度で移動している場合の、g=0.1μm、1μm、5μm、10μm、及び20μmのエアギャップ距離のサーモクロミックコーティングの温度(K)を示すグラフである。
【
図7】エアギャップ距離gの関数としての、彩度の尺度であるサーモクロミック材料の光学濃度を示すグラフである。
【
図8】スタックヒータが、94.54W/mm2の加熱速度(電力)を提供することができ、エアギャップ空気が77℃まで加熱された場合の、エアギャップgに対するサーモクロミック材料の光学濃度のグラフである。
【0009】
図面は、必ずしも縮尺どおりではない。図面に使用される同様の数字は、同様の構成要素を指す。しかしながら、所与の図の構成要素を指す数字の使用は、同じ数字でラベル付けされた別の図における構成要素を制限することを意図していないことが理解されるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0010】
非接触型印刷は、印刷媒体との一定の摩擦を受ける接触型サーマル印刷ヘッドの摩耗、周期的な洗浄、及び全体的な保守の必要性を回避することが望ましい。しかしながら、ヒータ素子と基材との間のエアギャップは、加熱有効性の急速な損失をもたらす。数マイクロメートルを超えるエアギャップを有する解像度及び印刷速度能力は、商業的に実行可能なレベル未満まで低下する。同時に、数マイクロメートル未満のエアギャップを維持することは、基材の粗さ及び環境中に存在し得る任意の他の微視的な埃/破片(例えば、レストラン環境におけるエアロゾル化された食品/油粒子)が、そのような正確で清潔なエアギャップを維持して、所望の非接触型サーマル印刷を可能にすることを困難にし得るため、実用的な観点から非常に困難である。
【0011】
本明細書に記載される手法は、最大20マイクロメートル、例えば、約5μm~約20μmの比較的大きなエアギャップを有する、信頼性の高い非接触型サーマル印刷を可能にする。開示された手法は、サーモクロミックコーティングが配置された基材を予熱することと、サーモクロミックコーティングと加熱素子との間のギャップ内の空気を加熱することと、を伴う。いくつかの実施形態では、基材加熱及びエアギャップ加熱は、サーモクロミック材料が、その閾値温度のすぐ下の温度に維持されるように実施される。
【0012】
印刷パターンが形成されるサーマル基材は、典型的には、温度変化に応じて色(又は明度/暗度)を変化させるサーモクロミック材料でコーティングされる。このようなコーティングの例は、染料と好適なマトリックスとの固体混合物、例えば、フルオランロイコ染料とオクタデシルホスホン酸との組み合わせである。コーティングが、その融点超に加熱される場合、染料は酸と反応し、その着色形態へとシフトし、次いで、マトリックスがすぐに固化すると、変化した形態は、準安定状態で保存される(サーモクロミズムとして既知のプロセス)。
【0013】
サーモクロミック材料が変色する温度は、その閾値温度と称される。閾値温度は、色変化が最初に検出可能な温度である。フルカラー彩度での色変化は、所定の時間にわたって、サーモクロミック材料をその閾値温度以上の温度に曝露することによって達成され得る。サーモクロミック材料の彩度レベルは、サーモクロミック材料をより短い時間、及び/又は閾値温度を上回る低温に曝露することによって調節され得る。いくつかのサーモクロミック材料の場合、閾値温度は、約80℃であり得る。
【0014】
本明細書に開示される実施形態に有用なサーモクロミック材料の種類は、例えば、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第5,149,617号に記載されるように、ジアセチレンエーテル及びそのホモポリマーを含む。いくつかの他の種類のサーモクロミック材料は、a)室温で固体の黄褐色灰色(白色)材料であり、60~62℃で橙色に変換する、銅(I)ヨウ化物;b)白色材料であり、150℃で茶色に変化し、次いで170℃で黒色に変化するメタバナジン酸アンモニウム;及びc)紫色材料で、一般的な紫色顔料であり、400℃で白色に変化するマンガンバイオレット(Mn(NH4)2P2O7)を含むことが好適であり得る。このことは、網羅的なリストではなく、開示された手法と併せて他の材料が使用され得ることに留意されたい。
【0015】
本明細書で開示される手法は、サーモクロミック材料に基づいた画像形成のためのシステム及び方法に関する。サーモクロミック材料は、最初に、閾値温度未満の温度まで予熱される。サーモクロミック材料をサブ閾値温度まで予熱した後、又はこれと同時に、サーモクロミック材料の領域は、パターン化されたエネルギードーズ量に曝露され、所定のパターン、例えば、テキスト、画像、又は他の2次元図柄に従って、閾値温度を超える局所的な加熱をもたらす。
【0016】
図1は、いくつかの実施形態による、画像形成システム100の概念的なブロック図である。画像形成システム100は、基材190を予熱するように構成されている加熱されたローラとして示されているパターン化されていないヒータ110を含み、これは、熱を、基材上に配置されたサーモクロミックコーティング195に伝達する。パターン化されていないヒータ110は、基材190にパターン化されていない熱エネルギー、例えば、基材の表面にわたって実質的に一定である熱エネルギーを供給する。
図1に加熱されたローラとして示されているが、パターン化されていないヒータは、放射ヒータ、抵抗ヒータ、赤外線ランプなどの、任意の種類の接触型又は非接触型ヒータを備え得る。第1のヒータ110の温度は、サーモクロミック材料の閾値温度未満であり得るか、又はいくつかの実施形態では、閾値温度を超え得る。サーモクロミックコーティングの温度が、その閾値温度未満のままであるように、パターン化されていないヒータ110からサーモクロミックコーティングへの全体的な熱伝達は、システムによって維持される。パターン化されていないヒータ110の加熱速度、加熱時間、及び/又は温度は、サーモクロミックコーティング195の適切な閾値未満温度が、画像形成システム100を通る基材190の所望の移動速度(「印刷速度」)で達成されるように設定された閉ループ制御システム(図示せず)を使用して制御され得る。
【0017】
サーモクロミックコーティング195の予熱後、又はこれと同時に、パターン化されていないヒータ110、パターン化されたヒータ130、例えば、1次元又は2次元空間的にパターン化された熱源は、選択された画素又は予熱されたサーモクロミックコーティングの領域を、所定のパターンに従って、エネルギードーズ量に曝露するように構成されている。サーモクロミックコーティング195は、複数の画素を含み得、所定のパターンは、個々の画素が曝露されるエネルギードーズ量を規定する。エネルギードーズ量は、選択された画素を、所定のパターンに従って、画素の色の変化を引き起こす所定の時間、サーモクロミック材料の閾値温度以上の所定の温度まで加熱することを伴う。例えば、サーモクロミックコーティングの非選択の組の画素は、閾値ドーズ量を上回るエネルギードーズ量に曝露されない可能性がある。サーモクロミックコーティングの第1の組の選択された画素は、第1の時間、閾値温度を上回る第1の温度を含む第1のエネルギードーズ量に曝露され得る。第2の組の選択された画素は、第2の時間、閾値温度を上回る第2の温度を含む第2のエネルギードーズ量に曝露され得る。いくつかの実施形態によれば、第1の温度及び第2の温度のうちの一方又は両方は、閾値温度の約25%以内である。
【0018】
パターン化された熱源からのエネルギードーズ量に曝露されない非選択の画素は、閾値温度を超えて温度上昇することなく、それにより無色のままである。第1のエネルギードーズ量は、第1の組の画素を、色変化させ、第1の彩度レベルを達成させる。第2のエネルギードーズ量は、第2の組の画素を、色変化させ、第2の彩度レベルを達成させる。本実施例は、第1及び第2のドーズ量に曝露される第1及び第2の組の選択された画素を参照に言及しているが、所定のパターンは、3つ以上の組の画素を含み、異なるエネルギードーズ量にそれぞれ曝露され、それにより閾値温度を超える3つ以上の異なる温度を達成し、3つ以上の結果として生じる彩度レベルをもたらしてもよいことが理解されるであろう。
【0019】
多くの実施形態では、パターン化されたヒータは、抵抗ヒータであり得、画素に対応する個々の加熱素子は、抵抗加熱素子を流れる電流によって加熱される。
【0020】
パターン化されたヒータ130の加熱素子は、サーモクロミックコーティング195の表面に接触しない。パターン化されたヒータ130が、サーモクロミック材料195を、閾値温度を上回る第2の温度まで加熱している間、エアギャップ150は、複数の加熱素子130a、130bと、サーモクロミック材料195との間維持される。エアギャップ150は、例えば、最大20μm、例えば約5μm~約20μmであり得る。
【0021】
図1に示すように、いくつかの実施形態では、基材190は、上にサーモクロミックコーティング195が配置された細長いウェブ又はフィルムを含む。モータ駆動ピンチローラとして
図1に例示される移動機構140は、細長い基材190をシステムを通って移動させる。例えば、移動機構140は、最大約4m/sの印刷速度で、細長い基材190を移動させることができる。これらの速度では、高速でパターン化された加熱要件に合わせるために、パターン化されたヒータ130に対して、かなりのエネルギーが要求される。パターン化されていないヒータ110を使用して、サーモクロミック材料を予熱し、エアギャップ150を加熱することによって、パターン化されたヒータ130のエネルギー要件が低減する。
【0022】
上述したように、パターン化されていないヒータ110は、少なくとも1つの回転する加熱されたローラ又はドラムを備えてもよく、これは移動機構140が矢印199によって示される方向に沿って細長いフィルム190を移動させると、細長いフィルム190と接触するか又は近接する。ローラ110は、加熱の効果が、閾値温度に近いが閾値温度未満であるサーモクロミックコーティング195の温度を達成する結果となる限り、任意の温度まで加熱され得る。例えば、ローラ110は、基材の加熱と併せてサーモクロミック材料の移動が、閾値温度未満、例えば、閾値温度より10℃、5℃、又は更には5℃未満低いサーモクロミックコーティングの温度を達成するように加熱され得る。例えば、いくつかの構成では、加熱されたローラ110は、サーモクロミックコーティング195の閾値温度よりも高い温度まで加熱され得る。しかしながら、加熱されたローラ110の上のサーモクロミックコーティング195の滞留時間は短く、したがってサーモクロミックコーティング195が閾値温度超に加熱されないように、フィルム190の移動が制御される。
【0023】
図2は、いくつかの実施形態による、画像形成システム200の別の実施形態を例示している。パターン化されていないヒータ110、パターン化されたヒータ130、及び上記の他の構成要素に加えて、画像形成システム200は、エアギャップ150内の空気を予熱するように構成されているギャップヒータ120を含む。エアギャップヒータ120は、強制エアヒータ、放射ヒータなどの、任意の種類の好適な種類のヒータを備え得る。
【0024】
いくつかの実施によれば、エアギャップヒータ120と併せてパターン化されていないヒータ110の操作は、コーティング195の閾値温度未満の温度までサーモクロミックコーティング195を予熱する。この実施では、サーモクロミックコーティング195は、パターン化されていないヒータ110及びエアギャップヒータ120によって供給される加熱効果から生じるサブ閾値温度に応じての色変化を示さない。
【0025】
パターン化されていないヒータ110及びエアギャップヒータ120は、異なる温度又は同じ温度に設定され得る。例えば、いくつかの実施形態では、パターン化されていないヒータ110は、第1の温度まで加熱されるようにサーモスタットで制御され得る。エアギャップヒータ120は、エアギャップ150内の空気の温度が、パターン化されていないヒータ110の温度とは異なる、例えば、より高い又は低い第2の温度に制御されるように、サーモスタットで制御され得る。いくつかの実施形態では、パターン化されていないヒータ110は、エアギャップヒータ120と同じ温度に設定され得る。様々な実施形態では、第1のヒータ110の加熱素子の温度、及び第2のヒータ120によって生成される空気温度のうちの一方又は両方は、サーモクロミックコーティング195の閾値温度の25%、20%、15%、10%、5%、又は更に1%以内であり得る。
【0026】
任意に、画像形成システム100、200のいずれかは、筐体122を含み得、これは、基材上に配置されたサーモクロミックコーティング195を有する細長い基材190が、筐体122に入り、筐体122から出ることを可能にする1つ以上の開口部を含む。筐体は、エアギャップ内の空気の温度をより均一に維持することを促進するために用いられてもよく、これによってサーモクロミックコーティング195の温度がより均一に維持される。入口開口部及び出口開口部は、参照により本明細書に組み込まれている、同一所有者の米国特許出願第S/N 16/382,884号に論じられているような空気制御機能を有し得る。
【0027】
いくつかの態様によれば、システム100、200は、パターン化されていないヒータ110、任意のエアギャップヒータ120、パターン化されたヒータ130、及び/又は移動機構140の操作を制御及び調整する制御器160を含み得る。
【0028】
いくつかの構成では、パターン化されたヒータ300は、複数の加熱素子310を備えてもよく、各加熱素子は、
図3に示されるように、たわみアーム302上に懸架された加熱ヘッド301を備える。
図3に示される実施では、加熱ヘッド301は、抵抗加熱素子303を含む。加熱素子310の各々は、浮動しているディスクドライブ読み取り/書き込みヘッドと類似の方法で浮動している可能性がある。各浮動している加熱ヘッドは、エアギャップ距離gを画定する浮動高さで基材上を浮動する。いくつかの実施形態では、浮動高さは、加熱ヘッド301と、基材上に配置されたサーモクロミックコーティングを有する基材392との間の距離であるエアギャップ距離gに等しくてもよい。加熱素子は、微細加工を使用して作製され得るたわみ部及び加熱ヘッドの線形配列を備え得る。サーモクロミック材料の閾値温度のすぐ下まで加熱される強制空気、又は閾値温度のすぐ下まで加熱される移動基材からの空気のいずれかが使用されて、ヒータと基材との間のエアギャップを維持し得る。
【0029】
図4は、
図1~3のシステムの操作を示すフローチャートである。本プロセスは、基材上に配置されたサーモクロミックコーティングを有する基材を、第1の温度まで予熱するためのパターン化されていないヒータを操作することであって、サーモクロミックコーティングが、サーモクロミック材料が色変化を起こす閾値温度を有する、操作すること(410)を伴う。サーモクロミックコーティングとパターン化されたヒータとの間のエアギャップは、第2の温度まで加熱される(420)。パターン化されたヒータは、予熱されたサーモクロミックコーティングを、所定のパターンに従って、閾値温度超に加熱するために操作される(430)。いくつかの実施形態によれば、パターン化されていないヒータは、基材に接触し得、パターン化されたヒータは、非接触型ヒータ、例えば抵抗ヒータであり得る。
【実施例1】
【0030】
開示された手法を使用して、最大20マイクロメートルのエアギャップにわたって非接触型サーマル印刷の実現可能性を決定するために、サーマル模擬実験を実施した。モデル設定で使用される積層体を
図5に示す。使用されるサーマルモデルは、ヒータ層内の金リードへの横方向の熱流を含む2次元モデルであった。この実験では、サイクル時間中に複数の画素を加熱した。各サイクル時間中、ヒータへの電圧をパルス化し、ヒータを次のサイクルの前に冷却させた。このプロセスによって、ヒータの温度は、次のサイクル(画素)のために顕色開始よりも低くなり得る。ヒータ温度及び基材への熱流は、サイクル中の構成(材料層、寸法)、及びヒータパルス幅の詳細に依存する。加えて、履歴制御が頻繁に使用され、それによって、過去のサイクルに基づいて調整されるサイクル中の加熱が可能となり、ヒータ温度をサイクルごとに維持する。サーマルサイクルT
サイクル=画素_サイズ/Uであり、画素_サイズは、μm
2の画素サイズであり、Uは、基材速度である。ヒータを駆動するパルス時間、パルス_時間=0.5×T
サイクル。ヒータは、オンになっている場合、約95W/mm
2の総加熱電力を提供するように設計されており、各加熱素子は、80ミクロン×40ミクロンのサイズであり、オン状態で0.304Wの1画素当たりの加熱電力が得られる。
【0031】
サーマルモデルは、0~20μmのエアギャップ502によって、加熱アセンブリ550から分離された基材501を備える積層体500を想定する。加熱アセンブリ550は、SiO2層503と、約1.5μmの厚さを有する抵抗加熱層504と、約45μmの厚さを有するガラスの層505と、熱伝導性ヒートシンク層506と、を備える。実施例1は、エアギャップヒータを有さないパターン化されていない加熱層をモデル化した。
図6は、スタックヒータがオンになり、0.05m/秒の速度で移動している場合の、g=0.1μm、1μm、5μm、10μm、及び20μmのエアギャップ距離のサーモクロミックコーティングの温度(K)を示すグラフである。
図6は、5μm、10μm、及び20μmのエアギャップ距離を有するサーモクロミックコーティングにおいて達成される温度が、典型的なサーモクロミック材料の80℃のサーモクロミック閾値温度未満であることを示している。
図7は、エアギャップ距離gの関数としての、彩度の尺度であるサーモクロミック材料の光学濃度を示している。
図7はまた、この実験において、光学濃度がg>1μmに関して実質的に減少していることも示している。この実施例では、エアギャップ内の室温空気で1μm超の任意のエアギャップが、基材表面における温度の急速な損失をもたらし、したがってサーモクロミックコーティングを使用する印刷/画像ができないことが実証された。
【実施例2】
【0032】
上述のような同じモデルを、ギャップ内の周囲空気を、典型的なサーモクロミック材料でコーティングされた基材に対して、80℃の閾値温度のすぐ下である、77℃(=350K)まで加熱した変形例で使用した。このシナリオでは、最大20マイクロメートルのエアギャップが可能であり、得られた印刷の印刷暗度(光学濃度)の損失が比較的小さいことが示された。
図8は、エアギャップgに対する光学濃度のグラフである。
図8は、
図7からのデータと、エアギャップ空気が、77℃まで加熱された実験から得られたデータを重ね合わせている。
【0033】
上述した実施形態の様々な修正及び変更は当業者には明らかであり、本開示は、本明細書に記載される例示的な実施形態に限定されないことを理解されたい。読み手は、開示された一実施形態の特徴が、別途記載のない限り、全ての他の開示された実施形態にも適用することができるものと仮定するべきである。本明細書で参照される全ての米国特許、特許出願、特許出願公開、並びに他の特許及び非特許文献は、それらが前述の開示と矛盾しない範囲で、参照により組み込まれることも理解されたい。