(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-11-05
(45)【発行日】2024-11-13
(54)【発明の名称】パーキンソン病様症状緩和剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/706 20060101AFI20241106BHJP
A61P 25/16 20060101ALI20241106BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241106BHJP
A23L 33/13 20160101ALI20241106BHJP
A23K 20/153 20160101ALI20241106BHJP
A23K 20/174 20160101ALI20241106BHJP
【FI】
A61K31/706
A61P25/16
A61P43/00 105
A23L33/13
A23K20/153
A23K20/174
(21)【出願番号】P 2020203345
(22)【出願日】2020-12-08
【審査請求日】2023-05-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000103840
【氏名又は名称】オリエンタル酵母工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100126882
【氏名又は名称】五十嵐 光永
(72)【発明者】
【氏名】新井 秀夫
(72)【発明者】
【氏名】小野 孝太
(72)【発明者】
【氏名】野嶋 純
(72)【発明者】
【氏名】表 和範
【審査官】井上 政志
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0080011(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第111759876(CN,A)
【文献】特表2008-501343(JP,A)
【文献】Nicotinamide mononucleotide improves energy activity and survivalrate in an in vitro model of Parkinson's disease,Exp Ther Med,2014年,8(3),943-950,https://doi.org/10.3892/etm.2014.1842
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K31/00-31/327
A61K31/33-31/80
A61K33/00-33/44
A61K 47/00-47/69
A61K 9/00- 9/72
A61P 1/00-43/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
β-ニコチンアミドモノヌクレオチド、その薬理学的に許容される塩、及びそれらの溶媒和物から選ばれる1種を有効成分とすることを特徴とする、
血球中NAD含量の低下を伴うパーキンソン病様症状
の緩和剤。
【請求項2】
経口投与される、請求項1に記載の症状
の緩和剤。
【請求項3】
ミトコンドリアの機能低下に起因するパーキンソン病様運動機能障害を緩和する、請求項1又は2に記載の症状
の緩和剤。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の症状
の緩和剤を含有する、パーキンソン病様症状を緩和するための健康補助食品。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか一項に記載の症状
の緩和剤を含有する、パーキンソン病様症状を緩和させるための飼料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安全に摂取することができ、パーキンソン病の症状を緩和することができる素材、及び当該素材を有効成分とするパーキンソン病様症状緩和剤に関する。
【背景技術】
【0002】
パーキンソン病は脳に異常により運動機能障害が起きる、進行性の神経変性疾患である。主な病態としては、黒質にあるドーパミンニューロンが減少し、ドーパミンが不足することである。ドーパミンニューロンが減少する理由としては、異常タンパク質の蓄積、酸化ストレス、ミトコンドリア機能不全、炎症やアポトーシス等が報告されている。
【0003】
農薬や殺虫剤として使用されているロテノンという化学物質は、ミトコンドリア中の電子伝達系を阻害する効果を有する。このロテノンをラット等の実験動物に投与すると、パーキンソン病様の運動機能障害や脳病態を誘導することができることから、ミトコンドリアの異常によってパーキンソン病が発症するということが報告されている。
【0004】
β-ニコチンアミドモノヌクレオチド(以下、「β-NMN」と称することがある。)は、補酵素NAD+の生合成中間代謝産物である。近年、β-NMNは、老化マウスにおけるインスリン分泌能の改善効果、高脂肪食や老化によってひき起こされる2型糖尿病のマウスモデルにおいてインスリン感受性や分泌を劇的に改善する効果を有すること(例えば、特許文献1参照)、サーカディアンリズムの制御に関与していること(例えば、特許文献2参照)、老化した筋肉のミトコンドリア機能を顕著に高める効果を有すること等が報告されている。さらに、β-NMNの投与により、肥満、血中脂質濃度の上昇、インシュリン感受性の低下、記憶力低下、及び黄斑変性症等の眼機能劣化といった加齢に伴う各種疾患の症状の改善や予防に有用であることも報告されている(例えば、特許文献3参照)。さらに、β-NMNの投与は、生体中のNAD+量を高め、サーチュイン遺伝子を活性化することより、生体の加齢に伴う身体機能の低下を抑制及び遅延させ、抗老化の効果が期待されている(例えば、特許文献4参照)。最近、NMNをヒトに経口投与する臨床試験が行われ、安全性に問題がないことも確認されている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許第7737158号明細書
【文献】米国特許出願公開第2011/123510号明細書
【文献】国際公開第2014/146044号
【文献】国際公開第2017/200050号
【非特許文献】
【0006】
【文献】Irie J et al., “Effect of oral administration of nicotinamide mononucleotide on clinical parameters and nicotinamide metabolite levels in healthy Japanese men.”, Endocr J, Vol. 67, No. 2, pp. 153-160, 2020.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、安全に摂取することができ、パーキンソン病様症状を緩和させる作用を有する素材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、β-NMNがパーキンソン病様症状を緩和させる作用を有することを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明は、以下のパーキンソン病様症状緩和剤、健康補助食品、及び飼料を提供するものである。
[1] β-NMN、その薬理学的に許容される塩、及びそれらの溶媒和物から選ばれる1種を有効成分とすることを特徴とする、パーキンソン病様症状緩和剤。
[2] 経口投与される、前記[1]の症状緩和剤。
[3] ミトコンドリアの機能低下に起因するパーキンソン病様運動機能障害を緩和する、前記[1]又は[2]の症状緩和剤。
[4] [1]~[3]のいずれかの症状緩和剤を含有する、パーキンソン病様症状を緩和するための健康補助食品。
[5] [1]~[3]のいずれかの症状緩和剤を含有する、パーキンソン病様症状を緩和させるための飼料。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るパーキンソン病様症状緩和剤は、元々生体内に存在するβ-NMNを有効成分とし、パーキンソン病様運動機能障害を緩和させることができる。このため、本発明に係るパーキンソン病様症状緩和剤は、副作用を起こすことなく安全に摂取することができ、脳内のミトコンドリアの機能低下により引き起こされる疾患の予防や緩和に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例1において、ロテノン添加条件でのβ-NMN添加群(5、50、500μmol/L(μM))、及びβ-NMN非添加群の生存率を示したグラフである。
【
図2】実施例2において、6-ヒドロキシドーパミン(6-OHDA)添加条件でのβ-NMN添加群、β-NMN非添加群の生存率を示したグラフである。
【
図3】実施例3において、非添加群、ロテノン添加群、ロテノン及びエダラボン添加群、ロテノン、エダラボン及びβ-NMN添加群の生存率を示したグラフである。
【
図4】実施例4において、水のみを投与した群(非投与群)、ロテノンを投与した群、ロテノン及びβ-NMNを投与した群(ロテノン+NMN投与群)の各ラットの血球中NAD濃度含量(pmol/mg血球g)を示したグラフである。
【
図5】実施例4において、水のみを投与した群(非投与群)、ロテノンを投与した群(ロテノン投与群)、ロテノン及びβ-NMNを投与した群(ロテノン+NMN投与群)の各ラットの協調運動の測定結果(sec)を示したグラフである。
【
図6】実施例4において、ロテノン投与条件下での血球中NAD含量と協調運動試験結果の相関関係を示した結果である。
【
図7】実施例4において、水のみを投与した群(非投与群)、ロテノンを投与した群(ロテノン投与群)、ロテノン及びβ-NMNを投与した群(ロテノン+NMN投与群)の各ラット血漿中のクレアチンキナーゼの測定結果(U/L)を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係るパーキンソン病様症状緩和剤(以下、「本発明に係る症状緩和剤」ということがある。)は、NMN(化学式:C11H15N2O8P)を有効成分とし、パーキンソン病様運動機能障害を緩和させるという効果を有する。このため、本発明に係る症状緩和剤は、パーキンソン病により引き起こされる症状に対する予防又は緩和のための経口用組成物又は外用組成物の有効成分として好適である。なお、ここでいうパーキンソン病様運動機能障害とは、例えば、静止時振戦、無動、筋固縮、姿勢反射障害、歩行障害、すくみ足、嚥下障害、姿勢異常等が挙げられる。後述する実施例に示すように、ロテノン黒質内注入パーキンソン病モデル動物に、NMNを経口投与することにより、運動機能障害が改善され、かつ、血中クレアチンキナーゼ濃度の上昇も抑制される。この結果が示すように、本発明に係る症状緩和剤は、特に、ミトコンドリア機能低下に起因するパーキンソン病様運動機能障害を緩和できる。加えて、本発明に係る症状緩和剤は、ミトコンドリア機能低下に起因する血中クレアチンキナーゼ量の上昇抑制剤としても有用である。
【0013】
NMNには、光学異性体としてα、βの2種類が存在するが、本発明に係る症状緩和剤の有効成分となるNMNは、β-NMN(CAS番号:1094-61-7)である。β-NMNの構造を下記に示す。
【0014】
【0015】
有効成分とするβ-NMNとしては、いずれの方法で調製されたものであってもよい。例えば、化学合成法、酵素法、発酵法等により、人工的に合成したβ-NMNを精製したものを、有効成分として用いることができる。また、β-NMNは広く生体に存在する成分であるため、動物、植物、微生物等の天然原料から抽出・精製することによって得られたβ-NMNを有効成分として用いることもできる。また、市販されている精製されたβ-NMNを使用してもよい。
【0016】
β-NMNを合成する化学合成法としては、例えば、NAMとL-リボーステトラアセテートとを反応させ、得られたニコチンアミドモノヌクレオシドをリン酸化することによりβ-NMNを製造できる。また、酵素法としては、例えば、NAMと5’-ホスホリボシル-1’-ピロリン酸(PRPP)から、ニコチンアミドホスホリボシルトランスフェラーゼ(NAMPT)によりβ-NMNを製造できる。発酵法としては、例えば、NAMPTを発現している微生物の代謝系を利用して、NAMからβ-NMNを製造できる。
【0017】
本発明に係る症状緩和剤の有効成分としては、β-NMNの薬理学的に許容される塩であってもよい。β-NMNの薬理学的に許容される塩としては、無機酸塩であってもよく、アミンのような塩基性部位を有する有機酸塩であってもよい。このような酸塩を構成する酸としては、例えば、酢酸、ベンゼンスルホン酸、安息香酸、カンファースルホン酸、クエン酸、エテンスルホン酸、フマル酸、グルコン酸、グルタミン酸、臭化水素酸、塩酸、イセチオン酸、乳酸、マレイン酸、リンゴ酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、ムチン酸、硝酸、パモ酸、パントテン酸、リン酸、コハク酸、硫酸、酒石酸、p-トルエンスルホン酸等が挙げられる。また、β-NMNの薬理学的に許容される塩としては、アルカリ塩であってもよく、カルボン酸のような酸性部位を有する有機塩であってもよい。このような酸塩を構成する塩基としては、例えば、アルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩であって、水素化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム、水酸化リチウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、アンモニア、トリメチルアンモニア、トリエチルアンモニア、エチレンジアミン、リジン、アルギニン、オルニチン、コリン、N,N’-ジベンジルエチレンジアミン、クロロプロカイン、プロカイン、ジエタノールアミン、N-ベンジルフェネチルアミン、ジエチルアミン、ピペラジン、トリス(ヒドロキシメチル)-アミノメタン、水酸化テトラメチルアンモニウム等の塩基から誘導されるものが挙げられる。
【0018】
本発明に係る症状緩和剤の有効成分としては、遊離のβ-NMNの溶媒和物、又はβ-NMNの薬理学的に許容される塩の溶媒和物であってもよい。当該溶媒和物を形成する溶媒としては、水、エタノール等が挙げられる。
【0019】
本発明に係る症状緩和剤は、β-NMNに加えてその他の有効成分を含有していてもよい。当該他の有効成分としては、β-NMNによるパーキンソン病様症状の緩和効果を損なわないものであれば特に限定されるものではない。当該他の有効成分としては、例えば、β-NMN以外の公知のパーキンソン病様症状の緩和効果を有する機能性素材等が挙げられる。公知のパーキンソン病様症状の緩和効果を有する機能性素材としては、例えば、フェニルアラニン、チロシン等のアミノ酸、ビタミンD等が挙げられる。
【0020】
本発明に係る症状緩和剤は、有効成分のみからなるものであってもよく、その他の成分を含むものであってもよい。例えば、本発明に係る症状緩和剤は、有効成分を医薬用無毒担体と組み合わせて、製剤上の常套手段により様々な剤型に製剤化することができる。本発明に係る症状緩和剤の剤型のうち、経口投与剤としては、例えば、錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤、ソフトカプセル剤等の固形剤;溶液剤、懸濁剤、乳剤等の液剤;凍結乾燥製剤等が挙げられる。非経口投与剤としては、注射剤のほか、坐剤、噴霧剤、経皮吸収剤等が挙げられる。
【0021】
製剤化に使用する医薬用無毒担体としては、例えば、グルコース、乳糖、ショ糖、果糖、還元麦芽糖等の糖類;デンプン、ヒドロキシエチルデンプン、デキストリン、β-シクロデキストリン、結晶セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等の炭水化物;マンニトール、エリスリトール、ソルビトール、キシリトール等の糖アルコール;脂肪酸グリセリド、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等のエステル類;ポリエチレングリコール、エチレングリコール、アミノ酸、アルブミン、カゼイン、二酸化珪素、水、生理食塩水等が挙げられる。また、本発明に係る症状緩和剤の製剤化においては、製剤上の必要に応じて、安定化剤、滑剤、湿潤剤、乳化剤、懸濁化剤、結合剤、崩壊剤、溶剤、溶解補助剤、緩衝剤、等張化剤、防腐剤、矯味矯臭剤、着色剤等の慣用の添加剤を適宜添加することができる。
【0022】
本発明に係る症状緩和剤は、ヒトやヒト以外の動物に投与されることが好ましい。ヒト以外の動物としては、例えば、ウシ、ブタ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ロバ、サル、イヌ、ネコ、ウサギ、マウス、ラット、ハムスター、モルモット等の哺乳動物が挙げられる。本発明に係る症状緩和剤としては、ヒト、家畜、実験動物、ペットに投与又は摂取されるものであることが好ましく、ヒトに投与又は摂取されるものであることがさらに好ましい。
【0023】
本発明に係る症状緩和剤の投与量又は摂取量は、投与される動物の生物種、年齢(月齢)、体重、症状、疾患の程度、投与スケジュール、製剤形態等により、適宜選択及び決定される。例えば、成人1人あたりの1日量を、β-NMN量として、0.1mg~10g、好ましくは0.5mg~7g、より好ましくは10mg~5g、さらに好ましくは100mg~2gを、1回又は数回に分けて投与することができる。
【0024】
β-NMNは、生体構成成分であり、かつ食品中にも含まれている成分であることから、安全性が高いと考えられる。そこで、本発明に係る症状緩和剤は、パーキンソン病様症状を緩和するために摂取される、健康補助食品の有効成分として用いることができる。健康補助食品は、健康状態の維持又は改善を目的として栄養を補助するための飲食品であり、特定保健用食品、栄養機能食品、及び健康食品も含む。本発明に係る症状緩和剤は、安全性が高く、長期間の継続的摂取に適していることから、当該症状緩和剤を含む健康補助食品は、優れたパーキンソン病の予防及び改善作用が期待される。
【0025】
また、本発明に係る症状緩和剤は、パーキンソン病様症状を緩和するために動物に摂取させる飼料の有効成分として用いることができる。当該飼料を家畜、ペット、実験動物等に与えることにより、摂取させた動物の脳内及び筋細胞内のミトコンドリアの機能が向上される結果、パーキンソン病の予防や病態の改善が期待できる。
【0026】
本発明に係る健康補助食品及び飼料は、β-NMN等に適当な助剤を添加した後、慣用の手段を用いて、食用に適した形態、例えば、粉末状、顆粒状、粒状、錠剤、カプセル剤、ソフトカプセル剤、ペースト状等に形成することによって製造できる。本発明に係る健康補助食品は、そのまま食用に供してもよく、種々の食品や飲料に混合させた状態で食用に供してもよい。例えば、粉末状の健康補助食品を、水、酒類、果汁、牛乳、清涼飲料水等の飲料に溶解又は分散させた状態で摂取させることができる。本発明に係る飼料も、そのまま動物に摂取させてもよく、他の固形飼料や飲料水に混合させた状態で動物に摂取させてもよい。
【0027】
本発明に係る健康補助食品及び飼料は、その他の食品素材や種々の添加剤を含有することができる。食品素材としては、ビタミン類、糖質、蛋白質、脂質、食物繊維、果汁等が挙げられる。具体的には、例えば、ビタミンB1誘導体、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンB13、ビオチン、パントテン酸、ニコチン酸、葉酸等のビタミンB群;ビタミンE、ビタミンD又はその誘導体、ビタミンK1、ビタミンK2、βカロチン等の脂溶性ビタミン;カルシウム、カリウム、鉄、亜鉛等のミネラル;酵母、L-カルニチン、クレアチン、α-リポ酸、グルタチオン、グルクロン酸、タウリン、コラーゲン、大豆イソフラボン、レシチン、ペプチド、アミノ酸、γ-アミノ酪酸、ジアシルグリセロール、DHA、EPA、カプサイシン、コンドロイチン硫酸、アガリクス茸エキス、ニンジンエキス、ニンニクエキス、青汁、レシチン、ローヤルゼリー、プロポリス、オクタコサノール、フラバンジェノール、ピクノジェノール、マカ、キトサン、ガルシニアエキス、コンドロイチン、グルコサミン等が挙げられる。添加剤としては、甘味料、有機酸等の酸味料、安定剤、香料、着色料等が挙げられる。
【実施例】
【0028】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0029】
[実施例1]
ヒト神経芽細胞腫由来のSH-SY5Y細胞を分化させた後に、培養液中の濃度がそれぞれ100μmol/L及び0、5、50又は500μmol/Lとなるように、ロテノン及びβ-NMNを添加し、2日後にATP測定試薬にて生存率を評価した。測定結果を
図1に示す。濃度依存的に生存率が上昇していることから、β-NMN添加によってロテノンによる細胞死を抑制されることが確認できた。
【0030】
[実施例2]
ヒト神経芽細胞腫由来のSH-SY5Y細胞を分化させた後に、培養液中の濃度がそれぞれ0又は100μmol/L及び0、0.063、0.125、0.25、0.5mmol/Lとなるように、神経毒である6-ヒドロキシドーパミン(6-OHDA)及びβ-NMNを添加し、2日後にWST-1試薬により生存率を評価した。測定結果を
図2に示す。実施例1で確認できた濃度依存的に生存率が上昇するような結果が見えないことから、β-NMNはミトコンドリアの機能阻害によって起こる細胞死を抑制していると推察された。
【0031】
[実施例3]
ヒト神経芽細胞腫由来のSH-SY5Y細胞を分化させた後に、培養液中の濃度がそれぞれ0又は50μmol/L、0又は50μmol/L、及び0又は0.5mmol/Lとなるように、ロテノン、陽性コントロールとしてエダラボン、及びβ-NMNを添加し、2日後にWST-1試薬により生存率を評価した。測定結果を
図3に示す。エダラボン添加群において細胞死を抑制できたが、β-NMN添加群ではさらに細胞死を抑制することができたことから、β-NMNによりエダラボンの効果をより高めたと推察された。
【0032】
[実施例4]
以下に示す要領で、パーキンソン病モデルラットを用いたβ-NMN投与試験を実施した。
【0033】
(ラット)
以降の実験で用いたCrl:CD(SD)ラットは、全実験期間中を通して、SPF環境下で飼育した。全実験期間中、固型飼料(CRF-1、オリエンタル酵母工業株式会社)と飲料水は、自由摂取させた。
【0034】
(経口投与)
経口投与は、β-NMN(オリエンタル酵母工業社製)を注射用水(大塚製薬工場社製)に溶解させた溶液を、ラット用ディスポーザブル経口ゾンデ(有限会社フチガミ器械)を取り付けたポリプロピレン製ディスポーザブル注射筒(テルモ株式会社)を用いて強制的に投与した。
【0035】
(ロテノン黒質内注入パーキンソン病モデルラットの作製)
ラットを麻酔後、片側黒質内にロテノン1μL(12μg/1μL)をマイクロシリンジポンプで注入した(偽手術群はDMSOを1μL注入)。注入後は、頭皮を縫合した。
【0036】
(協調運動試験)
協調運動試験には、ロータロッド(MED ASSOCIATES INC.)を用い、試験は訓練試行と測定試行に分けて行った。
訓練試行は、馴化開始日から1日2回、3日間行った。さらに投与12~13日及び投与26~27日については、1日2回、2日間行った。一定速度(16rpm)で回転するロータに動物を3分間乗せ、歩行させた。
測定試行は、馴化期間中の訓練試行終了日から2日後と投与14日及び投与28日に行った。1回の測定は2試行とした。4~40rpmに加速するロータに動物を乗せ、ロータ上から動物が落下するまでの時間(落下時間:秒)を測定した。測定時間は最長5分間とした。
また、測定試行日ごとに落下時間の平均値を算出した。その算出した落下時間の平均値を協調運動の指標とした。なお、平均値は小数点以下第2位を四捨五入して小数点以下第1位で表示した。
【0037】
(血液検査)
ラットから採取した血液を遠心し、血球と血漿中に分離した。その血球を用いてNAD濃度を、血漿を用いて、クレアチンキナーゼを測定した。
【0038】
パーキンソン病モデルラットは、水のみを投与した群(非投与群)、ロテノンを投与した群(ロテノン投与群)、ロテノン及びβ-NMNを投与した群(ロテノン+NMN投与群)の3群に分け、各8匹ずつとした(表1)。NMN群は、β-NMNを1日1回、計28日間経口投与した。
【0039】
【0040】
(血球中NAD含量の測定結果)
各ラットについて、投与開始から28日間の血球中ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)含量を測定した。測定結果を
図4に示す。ロテノン投与群では血球中NAD濃度が減少するが、ロテノン+NMN投与群では、NAD濃度が増加することがわかった。当該結果から、ロテノン処理によって減少した血球中NAD量は、β-NMN投与によって回復することが確認できた。
【0041】
(協調運動の測定結果)
各ラットに対して、投与開始12~13日及び投与26~27日に、協調運動試験(訓練試行)を行い、投与14日及び28日に、協調運動試験(測定試行)を行った。測定結果を
図5に示す。ロテノン投与群では、ロータから落下する時間が早く、脳の機能に何らかの障害があり、体の動きをうまくコントロールできていないことがわかった。ロテノン+NMN投与群では、ロータから落下する時間が偽手術群と同程度であり、β-NMNの投与により、脳機能障害が緩和していることが確認できた。
【0042】
(血球中NAD含量と協調運動測定結果の相関関係)
ロテノン投与条件下での血球中NAD含量と協調運動試験結果の相関関係を見た結果を
図6に示す。相関係数が0.709とかなり強い相関があり、血球中NAD含量が高いほど、協調運動試験結果が良好になることが明らかとなった。
【0043】
(血中クレアチンキナーゼ量の測定結果)
ロテノン処理により引き起こされた脳内ミトコンドリアの機能低下は、パーキンソン病様の運動機能障害と共に、血中クレアチン量の上昇も引き起こす。そこで、投与終了後のラットから採血し、血漿中に含まれるクレアチンキナーゼ量を測定した。測定結果を
図7に示す。血漿中クレアチンキナーゼ量は、ロテノン投与群では上昇していたが、ロテイン+NMN投与群では、非投与群と同程度まで減少していた。これらの結果から、β-NMNを投与することによって、血中クレアチンキナーゼ量が改善していることが確認できた。
【0044】
これらの結果から、ロテノン処理により引き起こされたミトコンドリアの機能低下が、β-NMN投与により改善されることが確認された。すなわち、β-NMNは、パーキンソン病様症状のうち、特にミトコンドリアの機能低下に起因するパーキンソン病様運動機能障害の緩和に有効であることが示された。